説明

運搬カートのトレーガタつき防止構造

【課題】 簡素な構造で作製することができ、カートが振動したり緊急運搬時の移動慣性や遠心力がかかっても、トレーのガタつきや飛び出しを確実に防止することができる運搬カートのトレーガタつき防止構造を提供すること。
【解決手段】 トレー1の開口部周縁にはフランジ部11を成形して、かつ、このフランジ部11をカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレール2の下側ガイド部材21上に摺動自在に支持する一方、前記ガイドレール2の下側ガイド部材21の両端部には、前記フランジ部11の各端部が衝止可能なストッパー突起21aをそれぞれ形成して、かつ、このガイドレール2の側壁面には、U字形状に折り返されたスリット溝22を形成して、このスリット溝22に囲まれた内側面には側方に突出する凸部23aが設けられた板バネ部23を形成するという技術的手段を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療現場などに用いる運搬カートの改良、更に詳しくは、簡素な構造で作製することができ、カートが振動したり緊急運搬時の移動慣性や遠心力がかかっても、トレーのガタつきや飛び出しを確実に防止することができる運搬カートのトレーガタつき防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、病院などの医療現場では、薬剤などを運搬するために、複数のトレーが配設された運搬カートが用いられており、緊急運搬時の移動慣性や方向変換の際に作用する遠心力や振動によって、トレーがガタついて騒音を出したり、あるいは抜け出してしまうおそれがあった。
【0003】
そこで、従来、トレーの収容されるレール部分に、屈曲成形した板バネ部品を固定し、トレーの一部に対し付勢することによりスライドを規制し、振動による騒音や抜け出しを防止する構造が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、かかる構造にあっては、反発力を付与するために、板バネが屈曲成形されているため、プレス成形や圧延などの別工程を経て付勢部品を成形しなければならず、加工コストがかかってしまうという問題があった。
【0005】
また、かかる板バネ状のストッパー部材は、金属材料を用いて作製されているため、剛性が大きいために、トレーにおける摺動部分が摩耗し易く、更にまた、このストッパー部材を本体にネジ止めなどして取り付ける工程の必要があるために組立て作業が面倒であるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−214966号公報(第3−5頁、図7−9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の運搬カートに上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、簡素な構造で作製することができ、カートが振動したり緊急運搬時の移動慣性や遠心力がかかっても、トレーのガタつきや飛び出しを確実に防止することができる運搬カートのトレーガタつき防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0009】
即ち、本発明は、物品を収容可能なトレー1が出し入れ自在に配置される運搬カートにおいて、
前記トレー1の開口部周縁にはフランジ部11を成形して、かつ、このフランジ部11をカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレール2の下側ガイド部材21上に摺動自在に支持する一方、
前記ガイドレール2の下側ガイド部材21の両端部には、前記フランジ部11の各端部が衝止可能なストッパー突起21aをそれぞれ形成して、かつ、このガイドレール2の側壁面には、U字形状に折り返されたスリット溝22を形成して、このスリット溝22に囲まれた内側面には側方に突出する凸部23aが設けられた板バネ部23を形成して、
トレー1を引き出してフランジ部11が前記ストッパー突起21aの上方にあるときは、フランジ部11の側縁部が前記凸部23aを押圧して板バネ部23を外側に撓曲せしめる一方、
前記トレー1がガイドレール2内に格納されたときは、フランジ部11の各端部が前記ストッパー突起21a・21aの内側に収容されるとともに、前記ガイドレール2の板バネ部23が平面復帰することによって凸部23aが前記フランジ部11上部において突出して、フランジ部11の浮き上がりを防止して運搬時のガタつきを抑えるという技術的手段を採用したことによって、運搬カートのトレーガタつき防止構造を完成させた。
【0010】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガイドレール2の板バネ部23の凸部23aの下面に付勢斜面23bを形成して、この付勢斜面23bをフランジ部11の端部に当接することによってフランジ部11を鉛直方向に付勢可能にするという技術的手段を採用した。
【0011】
また、本発明は、物品を収容可能なトレー1が出し入れ自在に配置される運搬カートにおいて、
前記トレー1の開口部周縁にはフランジ部11を成形して、かつ、このフランジ部11をカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレール2の下側ガイド部材21上に摺動自在に支持する一方、
前記ガイドレール2の下側ガイド部材21の両端部には、前記フランジ部11の各端部が衝止可能なストッパー突起21aをそれぞれ形成して、かつ、このガイドレール2の側壁面には、U字形状に折り返されたスリット溝22を形成して、このスリット溝22に囲まれた内側面には側方に突出する凸部23aが設けられた板バネ部23を形成して、
前記トレー1がガイドレール2内に格納されたときは、フランジ部11の各端部が前記ストッパー突起21a・21aの内側に収容されるとともに、前記ガイドレール2の板バネ部23の凸部23aが前記フランジ部11の側縁部を押圧付勢して、フランジ部11の浮き上がりを防止して運搬時のガタつきを抑えるという技術的手段を採用したことによって、運搬カートのトレーガタつき防止構造を完成させることもできる。
【0012】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、トレー1のフランジ部11の隅角部における上面にそれぞれ抜止め突起11aを形成して、この抜止め突起11aが、ガイドレール2の上側ガイド部材24の端部に形成された抜止め突起24aに掛止することによって、トレー1の飛び出しを防止するという技術的手段を採用した。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガイドレール2のスリット溝22の形状を、ヘアピンカーブ状に折り返して、板バネ部23の幅よりも基端部の幅を小さく形成するという技術的手段を採用した。
【0014】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガイドレール2を熱可塑性弾性プラスチック材料で作製するという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、トレーの開口部周縁にはフランジ部を成形して、かつ、このフランジ部をカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレールの下側ガイド部材上に摺動自在に支持する一方、前記ガイドレールの下側ガイド部材の両端部には、前記フランジ部の各端部が衝止可能なストッパー突起をそれぞれ形成しており、かつ、このガイドレールの側壁面には、U字形状に折り返されたスリット溝を形成して、このスリット溝に囲まれた内側面には側方に突出する凸部を設けた板バネ部を形成したことによって、
トレーを引き出してフランジ部が前記ストッパー突起の上方にあるときは、フランジ部の側縁部が前記凸部を押圧して板バネ部を外側に撓曲せしめる一方、前記トレーがガイドレール内に格納されたときは、フランジ部の各端部が前記ストッパー突起の内側に収容されるとともに、前記ガイドレールの板バネ部が平面復帰することによってが前記フランジ部上部において突出して、フランジ部の浮き上がりを防止することができ、運搬時のガタつきを抑えることができる。
【0016】
したがって、本発明のガタつき防止構造によれば、簡素な構造で作製することができ、カートが振動したり緊急運搬時の移動慣性や遠心力がかかっても、トレーのガタつきや飛び出しを確実に防止することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがあると云える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態のカートを表わす全体斜視図である。
【図2】本発明の実施形態のガイドレールを表わす部分斜視図である。
【図3】本発明の実施形態の構造の使用状態を表わす説明側面図である。
【図4】本発明の実施形態の構造の使用状態を表わす説明上面図である。
【図5】本発明の実施形態の構造の使用状態を表わす説明側面図である。
【図6】本発明の実施形態の構造の使用状態を表わす説明上面図である。
【図7】本発明の実施形態の構造の使用状態の変形例を表わす説明側面図である。
【図8】本発明の実施形態の構造の使用状態の変形例を表わす説明上面図である。
【図9】本発明の実施形態の構造の使用状態の変形例を表わす説明側面図である。
【図10】本発明の実施形態の構造の使用状態の変形例を表わす説明正面図である。
【図11】本発明の実施形態の構造の使用状態の変形例を表わす説明正面図である。
【図12】本発明の実施形態のガイドレールの変形例を表わす説明側面図である。
【図13】本発明の実施形態のガイドレールの変形例を表わす部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて、更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0019】
本発明の実施形態を図1から図12に基づいて説明する。図1中、符号1で指示するものはトレーであり、このトレー1はプラスチック材料(本実施形態では、ABSやポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂)を射出成形して作製し、薬品や医療器具などの物品を収容可能な有底の容器であり、開口部周縁にはフランジ部11を成形する。
【0020】
また、符号2で指示するものはガイドレールであり、このガイドレール2は、カート本体の側面部に配設可能な長手棒状のトレー支持部材である。本実施形態では、カート本体の側面部が枠体になっており、これらの支柱の間にガイドレール2を掛架しているが、側面部に板を貼り付けて、その板にガイドレール2を固定しても良い。
【0021】
しかして、本発明におけるトレーガタつき防止構造は、前記トレー1を出し入れ自在に配置した運搬カートにおいて、このトレー1の移動時などにおけるガタつきや遠心力による飛び出しを防止するための構造であって、以下のように構成する。
【0022】
まず、トレー1の開口部周縁にフランジ部11を成形して、このフランジ部11をカート本体の側面部にそれぞれ配設した左右一対のプラスチック製のガイドレール2の下側ガイド部材21上に摺動自在に支持する。
【0023】
本実施形態では、前記ガイドレール2の下側ガイド部材21の両端部に、前記フランジ部11の各端部を衝止可能なストッパー突起21aをそれぞれ形成する。更に、下側ガイド部材21に加えて上側ガイド部材24を水平方向に平行に並列配置して、これら下側ガイド部材21および上側ガイド部材24をプレート材から突設させて熱可塑性弾性プラスチック材料(本実施形態ではポリアミド(PA))を射出成形して一体に成形する。
【0024】
そして、図2に示すように、ガイドレール2の側壁面には、U字形状に折り返されたスリット溝22を形成して、このスリット溝22に囲まれた内側面には側方に突出する凸部23aが設けられた板バネ部23を形成する。
【0025】
本実施形態では、ガイドレール2のスリット溝22の形状を、ヘアピンカーブ状に折り返した形状にして、板バネ部23の幅よりも基端部の幅を小さく形成することによって、この板バネ部23の弾性によるバネ反発力を適度に弱めることができる。
【0026】
このように構成したことにより、トレー1を引き出してフランジ部11が前記ストッパー突起21aの上方にあるときは、フランジ部11の側縁部が前記凸部23aを押圧して板バネ部23を弾性変形せしめて外側に撓曲する(図3および図4参照)。
【0027】
また、前記トレー1をガイドレール2内に格納するときは、フランジ部11の各端部が前記ストッパー突起21a・21aの内側に収容されるとともに、前記ガイドレール2の板バネ部23が元の位置に平面復帰することによって凸部23aが前記フランジ部11上部において突出して、フランジ部11の浮き上がりを防止することができる(図5および図6参照)。このようにしてトレイ全体を安定ならしめて、運搬時におけるトレーのガタつきを抑えることができるのである。
【0028】
なお、本実施形態では、トレー1のフランジ部11の隅角部における上面にそれぞれ抜止め突起11aを形成することができ、この抜止め突起11aが、ガイドレール2の上側ガイド部材24の端部に形成された抜止め突起24aに掛止することによって、トレー1の飛び出しを防止することもできる(図7参照)。
【0029】
逆に、トレー1のフランジ部11に抜止め突起11aを形成しない場合には、図8および図9に示すように、凸部23aの形状を小さくするかあるいはこの凸部23aを板バネ部23の下方に形成することによって、フランジ部11の上面レベルに位置を合わせることができる。
【0030】
本実施形態では、図10に示すように、ガイドレール2の板バネ部23の凸部23aの下面に付勢斜面23bを形成することができ、この付勢斜面23bをフランジ部11の端部に当接せしめることによってフランジ部11を鉛直方向に付勢することができ、より安定ならしめることができる。
【0031】
また、本発明の実施形態では、図11に示すように、トレー1をガイドレール2内に格納したときに、フランジ部11の各端部が前記ストッパー突起21a・21aの内側に収容されるとともに、前記ガイドレール2の板バネ部23の凸部23aが前記フランジ部11の側縁部を押圧付勢して、フランジ部11の浮き上がりを防止することもできる。
【0032】
このような構成にすることによっても、前記同様に、フランジ部11の浮き上がりを防止することができ、運搬時のガタつきを抑えることができる。
【0033】
本発明は概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、スリット溝22の形状は、横にU字形状に設けたものに限らず、図12に示すように、縦にU字形状に設けてバネ板部23を形成して弾性を付与することもできる。
【0034】
更にまた、図13に示すように、スリット溝22を、下側ガイド部材21にかけて設けることによって、適宜、バネ板部23および凸部23aの位置を調節することもでき、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0035】
1 トレー
11 フランジ部
11a 抜止め突起
2 ガイドレール
21 下側ガイド部材
21a ストッパー突起
22 スリット溝
23 板バネ部
23a 凸部
23b 付勢斜面
24 上側ガイド部材
24a 抜止め突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を収容可能なトレー1が出し入れ自在に配置される運搬カートにおいて、
前記トレー1の開口部周縁にはフランジ部11が成形され、かつ、このフランジ部11がカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレール2の下側ガイド部材21上に摺動自在に支持されている一方、
前記ガイドレール2の下側ガイド部材21の両端部には、前記フランジ部11の各端部が衝止可能なストッパー突起21aがそれぞれ形成されており、かつ、このガイドレール2の側壁面には、U字形状に折り返されたスリット溝22が形成され、このスリット溝22に囲まれた内側面には側方に突出する凸部23aが設けられた板バネ部23が形成されており、
トレー1を引き出してフランジ部11が前記ストッパー突起21aの上方にあるときは、フランジ部11の側縁部が前記凸部23aを押圧して板バネ部23を外側に撓曲せしめる一方、
前記トレー1がガイドレール2内に格納されたときは、フランジ部11の各端部が前記ストッパー突起21a・21aの内側に収容されるとともに、前記ガイドレール2の板バネ部23が平面復帰することによって凸部23aが前記フランジ部11上部において突出して、フランジ部11の浮き上がりを防止して運搬時のガタつきを抑えることを特徴とする運搬カートのトレーガタつき防止構造。
【請求項2】
ガイドレール2の板バネ部23の凸部23aの下面に付勢斜面23bが形成されており、この付勢斜面23bがフランジ部11の端部に当接することによってフランジ部11を鉛直方向に付勢可能であることを特徴とする請求項1記載の運搬カートのトレーガタつき防止構造。
【請求項3】
物品を収容可能なトレー1が出し入れ自在に配置される運搬カートにおいて、
前記トレー1の開口部周縁にはフランジ部11が成形され、かつ、このフランジ部11がカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレール2の下側ガイド部材21上に摺動自在に支持されている一方、
前記ガイドレール2の下側ガイド部材21の両端部には、前記フランジ部11の各端部が衝止可能なストッパー突起21aがそれぞれ形成されており、かつ、このガイドレール2の側壁面には、U字形状に折り返されたスリット溝22が形成され、このスリット溝22に囲まれた内側面には側方に突出する凸部23aが設けられた板バネ部23が形成されており、
前記トレー1がガイドレール2内に格納されたときは、フランジ部11の各端部が前記ストッパー突起21a・21aの内側に収容されるとともに、前記ガイドレール2の板バネ部23の凸部23aが前記フランジ部11の側縁部を押圧付勢して、フランジ部11の浮き上がりを防止して運搬時のガタつきを抑えることを特徴とする運搬カートのトレーガタつき防止構造。
【請求項4】
トレー1のフランジ部11の隅角部における上面にそれぞれ抜止め突起11aが形成されており、この抜止め突起11aが、ガイドレール2の上側ガイド部材24の端部に形成された抜止め突起24aに掛止することによって、トレー1の飛び出しが防止されることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の運搬カートのトレーガタつき防止構造。
【請求項5】
ガイドレール2のスリット溝22の形状が、ヘアピンカーブ状に折り返されており、板バネ部23の幅よりも基端部の幅が小さく形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の運搬カートのトレーガタつき防止構造。
【請求項6】
ガイドレール2が熱可塑性弾性プラスチック材料で作製されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の運搬カートのトレーガタつき防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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