説明

運転操作を診断するための方法及び装置

【課題】燃費に対する苦情や不満に対して、通常の車両故障診断と同様に整備工場等で診断して、その診断結果を運転操作の評価および裏付けのデータとともにユーザに提示して、ユーザに適した運転操作を認識させる。
【解決手段】車両の運転サイクルごとに、運転操作に応じた該車両の燃費状態を示す運転データを保存する記憶装置を備えた車両から、複数の運転サイクルにわたる前記運転データを読み出す手段と、読み出された運転データに基づいて運転サイクルごとに運転操作ごとの燃費状態を表すチャートを作成する手段と、前記チャートを前記運転サイクルごとの比較結果として表示装置上またはプリンタに出力する手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃費向上を実現するための車両の運転操作について、通常の車両故障診断と同様に車両販売店や整備工場等で診断するための手法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、燃費に関するユーザの意識は高まってきており、より低燃費な運転を嗜好する傾向があり、車両を購入したユーザから、燃費が期待値よりも低いので故障ではないかと持ち込まれる苦情、不満も増加傾向にある。
【0003】
燃費は、燃料消費の単位量あたりの車両の走行距離で表される。特許文献1には、現在の燃費と、予め設定された目標燃費とを比較し、現在の燃費の良否判定を行い、該判定結果を乗員に通知する手法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、燃費の状態に応じて、燃費を表示する輝度および色調の少なくとも一方を変更する手法が開示されている。たとえば、燃費が所定値だけ低下するたびに、輝度や色調を変更する。
【0005】
さらに、特許文献3には、カーナビゲーション装置から車両の挙動データを受信し、この挙動データから車両の走行属性を判断し、加速度分布を統計処理して安全診断を行うことが記載されている。挙動データから燃料消費量を求め、省燃費運転を診断する。この手法では、カーナビゲーション装置を用いて車両の挙動データを運転診断サーバに送信するので、カーナビゲーション装置の負担が大きくなるばかりでなく、この手法を採用するためにはカーナビゲーション装置自体を設計変更する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−42000号公報
【特許文献2】特開2007−256158号公報
【特許文献3】特開2006−243856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の手法は、運転者に、燃費が良好か否かを知らせたり、輝度や色調を用いて燃費が低下しているか向上しているかを知らせている。このような「知らせ」は、運転中の操作について、あるいはその時々の状況について燃費の良否を通知するにとどまり、どのような運転習性があるのかとか、どのような運転操作が燃費を低下させるのか、また、運転操作をどのように改善すべきかについての情報は提供されない。
【0008】
したがって、燃費に対する苦情や不満に対して、通常の車両故障診断と同様に整備工場等で診断することができ、その診断結果を運転操作の評価およびアドバイスが裏付けのデータとともにユーザに提示して、どのような運転操作を行えば、より燃費を向上させる運転となるかどうかについて、運転者に助言することができる手法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の診断装置は、車両運転サイクルごとに、運転操作に応じた該車両の燃費状態を示す運転データを保存する不揮発性メモリを備えた電子制御装置から、複数の運転サイクルにわたる前記運転データを読み出す手段と、読み出された前記運転データに基づいて前記運転サイクルごとに運転者による運転操作ごとの燃費状態を表すチャートを作成する手段と、前記チャートを前記運転サイクルごとの比較結果として表示装置上またはプリンタに出力する手段と、を備える。
【0010】
この発明によれば、燃費に対する苦情や不満に対して、通常の車両故障診断と同様に整備工場等で診断することができ、その診断結果を運転操作の評価およびアドバイスが裏付けのデータとともにユーザに提示することができるので、よりよい燃費を得るにはどのような運転操作をすればよいのかをユーザに認識させることができる。
【0011】
この発明の一形態では、運転サイクルは、車両のイグニションをオンにしたときからオフにするまでの運転期間であり、電子制御装置は、走行速度および走行距離の少なくとも一方が所定値に達しない場合、またはエンジン始動後所定時間継続してエンジンが回転していないときは、この運転サイクルの運転データの前記不揮発性メモリへの記録を禁止する構成されている。
【0012】
この発明のもう一つの形態では、運転データは、車両の燃費の状態について燃費に影響する運転操作項目ごとに電子制御装置が算出する評価スコア、および燃費状態に関してユーザに提示するためのアドバイスメッセージを含み、診断装置は、電子制御装置から読み出した複数の前記アドバイスメッセージのうち、前記評価スコアが低い運転操作項目に対応するアドバイスメッセージを選択して可視的に出力する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】車載のシステムとサービスショップに置かれた診断装置との関係を示すブロック図。
【図2】車載システムの制御部40の機能ブロック図。
【図3】アクセル操作に応じたアクセルスコアを求める手法を説明するための図。
【図4】アクセル操作に応じたアクセルスコアを求める手法を説明するための図。
【図5】ブレーキ操作に応じたブレーキスコアを求める手法を説明するための図。
【図6】ブレーキ操作に応じたブレーキスコアを求める手法を説明するための図。
【図7】(A)は、アイドリング運転に応じたスコアを求める手法を説明するための図、(B)は総合スコアを生涯スコアを計算するための値に換算するマップの一例を示す図。
【図8】運転操作に応じた各スコアの積算の一例を示す図。
【図9】総合スコアを算出するプロセスを示すフローチャート。
【図10】車速と燃費との関係を示すチャート。
【図11】アドバイスメッセージの一例を示す図。
【図12】診断装置により表示される運転診断結果を示す画面の一例を示す図。
【図13】診断装置により表示される運転診断結果を示す画面のもう一つの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、車両に搭
載されている電子制御装置(ECU)とこの発明の診断装置との全体的な関係を示すブロック図である。電子制御装置14は、車両の燃料噴射、空燃比などを制御するコンピュータであり、CPU14A、CPUに作業領域を提供しプログラムおよびデータを一時記憶するRAM14B、コンピュータ・プログラムを保存する読み取り専用メモリであるROM14C、車両の電源がオフにされた後も記憶を維持する書き換え可能の不揮発性メモリ14D、入力インターフェイス14F、および出力インターフェイス14Gを備える。
ECU14は、車載ネットワーク11を介して車両の各部に設けられたセンサから出力信号を受けとる。センサには、車速を検知する車速センサ11A、アクセルの踏み込み量を検知するアクセル開度センサ11B、ブレーキの踏み込み量を検知するブレーキセンサ11C、スロットルの開き角度を検知するスロットル開度センサ11E、各種の制御のタイミングの基礎となるクランク角を検知するクランク角センサ11Fなどがある。
【0015】
サービスショップ16は、車両のメインテナンス・サービスを提供するディーラの店であり、車両内ECUに保存された運転中の記録データを車外に読み出して診断を行なう診断システム(HDS)16Aを備えている。サービスショップ16では、通常の故障診断と同様に、燃費の診断サービスを受けに持ち込まれた車両のECU14に、データリンクコネクタ(Data Link Connector、以下DLCと呼ぶ。)を介してHDS 16Aのタブレット端末装置を接続し、不揮発性メモリ14Dに保存されたデータを読み取る。HDS 16Aのタブレット端末装置は、診断システム専用に開発されたタブレット式の携帯端末であり、DLCを介して車両のECUに接続されてECUに保存されたデータを読みとる。HDS 16Aのタブレット端末装置はドッキングステーションに結合することにより、サービスショップ16の通信ネットワークに接続し、HDSと一体となって診断装置を構成するサービスショップのパソコン16Bに接続されて、ECU14から読みとったデータをパソコン16Bに提供する。
【0016】
HDS 16Aのタブレット端末装置は、読みとったデータをxmlファイルに変換する。パソコン16Bは、HDS 16Aから受けとったデータをビューワー・プログラムで編集処理し、液晶モニター、CRTなどの表示装置16Dに表示し、またはプリンタ16Eに印刷出力する。
【0017】
なお、パソコン16Bはノート型のパソコンを使用することにより携帯型の診断装置を構成することができ、また、パソコン16Bを独立して設けずに、タブレット端末装置とパソコン機能とモニター機能(表示装置)を一体型に構成して、モニター機能つきのタブレット型診断装置とすることもできる。
【0018】
さらに、HDS16Aは、通常の故障診断機能と、本発明の燃費診断機能を同じハードウエアを兼用して実行することが可能である。
【0019】
ECU14の不揮発性メモリ14Dに保存され、HDS 16Aタブレット端末装置によって読み出される燃費に関するデータは、最新の5つの運転サイクル(D/C)にわたる履歴データと、最新の運転サイクルの終わりにおけるデータとがある。5つの運転サイクルにわたる履歴データのデータ項目例を表1に示す。履歴データは運転サイクルが終了するごとに最新の運転サイクルでのデータが追加記憶され、順次一番古い運転サイクルでのデータ(5回前のデータ)が消去されるようになっており、最新データを含む過去5運転サイクルのデータが保存されている。
【0020】
また、最新の一つの運転サイクルの終わりごとに保存されるデータの例を表2に示す。不揮発性メモリに保存される対象となる運転サイクルは、車速が8km/h以上となってから200メートル以上走行しており、エンジン始動から3分間以上継続してエンジンの回転が継続した運転サイクルである。これらの条件を満たさない運転サイクルは、燃費を評価するという観点では十分なデータをえることができず、運転操作の評価対象として不適当であるからである。したがって、本発明による電子制御装置は、走行速度および走行距離の少なくとも一方が所定値に達しない場合、またはエンジン始動後所定時間継続してエンジンが回転していないときは、この運転サイクルについて表1、2、に記載されるような運転データの前記不揮発性メモリへの記録を禁止する。これによって、評価に関連する運転データのみが選別されて順次5回分だけ不揮発メモリへ蓄積される。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
次に、表1、2、に記載されている各データの内容について説明する。
【0024】
図2は、車両に搭載され、ユーザによる運転操作に応じた運転データ生成を行う制御装置40のブロック図である。制御装置40は、図1を参照して説明した電子制御装置(ECU)14で構成される。
【0025】
運転状態検出部41は、車両のアクセル操作が行われたかどうか、および、車両のブレーキ操作が行われたかどうかを検出する。車両には、各種センサ65が搭載されている。センサの例は図1に示した。運転状態検出部41は、センサ65から出力に基づいて、運転操作を検出する。
【0026】
運転状態検出部41は、アクセル操作が行われたことを検出したならば、該アクセル操作に応じた車両の運転状態を、エンジン回転数およびスロットルバルブの開度に基づいて判断する。エンジン回転数は、車両に設けられたクランク角センサ11Fに基づいて算出することができる。スロットルバルブは、車両のエンジンへの吸入通路に設けられており、スロットル開度センサ11Eによってその開度を検出することができる。
【0027】
運転状態検出部41は、ブレーキ操作が行われたことを検出したならば、該ブレーキ操作に応じた車両の運転状態を、車速および負の加速度で判断する。車速および加速度は、車両に設けられた車速センサ11Aにより検出することができる。加速度センサを設け、該加速度センサにより、車両の加速度を検出してもよい。
【0028】
アクセル採点データ
アクセル採点部43は、アクセル操作に応じて検出された運転状態に基づいて、燃費の観点から該アクセル操作を評価することにより、該アクセル操作に対する採点(スコア)を算出する。
【0029】
図3(a)には、制御装置40のROM14Cに予め記憶されたマップの一例が示されている。該マップの横軸はエンジン回転数(rpm)を示し、縦軸はスロットル開度(deg)を示す。太い実線で表される線111は、正味燃料消費率と呼ばれるBSFC(Brake Specific Fuel Consumption、単位は[g/kWh])の所定の最適値、すなわち最も良好な燃費として設定される値を実現するための運転状態を表す線であり、これは、車両のエンジンの特性により、エンジンの回転数およびスロットル開度ごとに予め決められている。たとえば、エンジン回転数が3000rpmであるとき、符号112の点で示されるように、スロットル開度が約40degであれば、最適な正味燃料消費率を実現することができる、ということを表している。
【0030】
図3では、エンジン回転数が約800rpmより小さい領域について示されていないが、これは、エンジンがアイドリング運転状態にある領域であり、アイドリング運転状態にあるときの制御については後に述べる。
【0031】
図3において、回転数が同じであるとき、スロットル開度が高くなるほど燃費は低下する。そこで、この例では、良好状態、非良好状態、および良好と非良好の間の状態からなる3つの燃費状態を設定するため、運転領域が、縦軸方向に3つの領域に分けられる。具体的には、BSFCの線111近傍の領域と、該領域よりも下の領域と、該領域よりも上の領域とに分けられており、これらの領域が、線113および115により区切られている。線113よりも下を第1領域、線113から線115までの領域を第2領域、線115よりも上を第3領域とする。第1領域は、燃費が良好な領域、第3領域は、燃費が非良好な領域、第2の領域は、その中間で非良好には至っていない領域として設定される。
【0032】
なお、第3領域は、急加速をもたらすアクセル操作が行なわれたり、車速が高すぎるアクセル操作が行われる運転領域に相当する。第2領域は、穏やかな加速をもたらすアクセル操作の運転領域に相当し、第1領域は、クルーズ走行を行うようなアクセル操作が行われる運転領域に相当する。
【0033】
アクセル採点部43は、アクセル操作に応じて検出されたエンジン回転数(NE)および検出されたスロットル開度(TH)に基づいてこのマップを参照し、前述したバー39の長さおよび背景色33を決定する。検出されたエンジン回転数NEが2000rpmであるとする。2000rpmの回転数を示す線117が、縦軸方向に示されている。線117と線113の交点C1に対応するスロットル開度をTH1、線117と線115の交点C2に対応するスロットル開度をTH2、スロットル開度の最大値(90度)をTH3とする。
【0034】
他方、図3(b)は、アクセル領域Arを示しており、アクセル領域Arの横軸方向の位置は、基準位置Rに対して表される。非ハッチング領域は燃費の良好なアクセル操作の状態を表し、ハッチング領域は燃費の非良好なアクセル操作の状態を表す。
【0035】
図3(b)で、基準位置Rから第1位置PA1までの範囲が図3(a)のマップの第1領域に対応し、第1位置PA1から第2位置PA2までの範囲が第2領域に対応し、第2位置PA2から第3位置PA3までの範囲が第3領域に対応する。基準位置から第1〜第3位置PA1〜PA3までの距離を、それぞれ、LA1、LA2およびLA3で表す。したがって、回転数NEが2000rpmであるとき、スロットル開度がゼロからTH1の範囲は、位置Rから位置PA1の範囲に割り振られ、スロットル開度がTH1からTH2の範囲は、位置PA1から位置PA2の範囲に割り振られ、スロットル開度がTH2からTH3の範囲は、位置PA2から位置PA3の範囲に割り振られる。
【0036】
アクセル採点部43は、検出されたエンジン回転数NEおよびスロットル開度THで表される運転状態が、図3のマップのどの領域に存在するかを比例計算により算出する。第1領域に存在するならば、LA1×TH/(TH1−0)により、バー39の長さを算出する。第2領域に存在するならば、LA1+(LA2―LA1)×(TH―TH1)/(TH2−TH1)により、バー39の長さを算出し、第3領域に存在するならば、LA2+(LA3−LA2)×(TH―TH2)/(TH3−TH2)により、バー39の長さを算出する。
【0037】
なお、バー39はアクセル操作量あるいはブレーキ操作量をリアルタイムで図中での右方向あるいは左方向への長さの伸縮で第2表示部15に表示する指標であるが、この表示は車内での表示にかかわるもので本発明に直接関係しないのでバーによる表示の説明は省略する。
【0038】
アクセル採点部43は、さらに、算出されたバー39の長さに基づいて、図4のマップ121を参照し、今回のアクセル操作に対する採点(スコア)を求める。該マップは、制御装置40のROM14Cに予め記憶されている。この例では、スコアの取りうる範囲はゼロから100点であり、100点は基準位置Rに対応し、ゼロ点は、基準位置Rから長さLA3の箇所に対応する。図4の例では、バー39の長さに応じたスコアは90点である。図4に示されるように、バー39の長さが短いほど、すなわち燃費が良好なアクセル操作を行うほど、より高いスコアが得られる。
【0039】
なお、この例では、スコアは整数で表される。したがって、バー39の長さに応じたスコアが小数点であるときには、たとえば四捨五入によって整数に丸められる。
【0040】
こうして、アクセル操作中、所定の時間間隔でアクセル採点部43により、アクセル操作を燃費の観点から評価したスコアが算出される。このスコアを、アクセルスコア(アクセル採点)と呼ぶ。アクセルスコアは、車両の運転サイクル中、所定の時間間隔で逐次計算されてRAM14Bに記憶され、総合スコアの算出およびアクセルスコアの平均値の算出に使われる。
【0041】
ブレーキ採点
次に、図2のブレーキ採点部44について説明する。ブレーキ採点部44は、ブレーキ操作に応じて検出された運転状態に基づいて、燃費の観点から該ブレーキ操作を評価することにより、該ブレーキ操作に対する採点(スコア)を算出する。
【0042】
図5を参照すると、(a)には、制御装置40のメモリに予め記憶されたマップの一例が示されている。該マップの横軸は車速(km/h)を示し、縦軸は加速度(m/sec)を示し、減速であるので負の値を持つ。太い実線で表される線131は、通常走行しているとき(この例では、車速が約15km/hより大きいとき)に、所定の急ブレーキ操作が行われたときの加速度を表す値であり、これは、シミュレーション等を介して予め決定される。この例では、−6m/secに設定されているが、これは一例であり、この値に限定されるものではない。
【0043】
図5において、車速が同じであるとき、加速度の絶対値が大きいほど燃費は低下する。そこで、この実施例では、アクセル操作の場合と同様に、良好状態、非良好状態、良好と非良好の間の状態からなる3つの燃費状態を設定するため、運転領域が、縦軸方向に3つの領域に分けられる。具体的には、燃費が非良好な領域として、線131を含む第3領域が、線133より下に設定され、第3領域は、急減速をもたらすブレーキ操作が行われる運転領域に相当する。また、燃費が良好な領域として、第1領域が、線135より上に設定され、これは、車間距離を十分取っていれば車両を停止させることのできる強さのブレーキ操作が行われる運転領域に相当する。燃費が比較的良好であり、非良好には至っていない領域として、線133と線135の間に第2領域が設定される。第1領域および第2領域は、さらに、これらの領域でのブレーキ操作であれば、低μ路(静止摩擦係数μの低い路面)において、スリップをより確実に避けることのできる運転領域であるよう設定される。このように、第1および第2領域は、急減速が行われない運転領域であり、安全性の高い運転領域と考えることができる。第1から第3領域を区切る線133および135は、シミュレーション等を介して予め決定される。
【0044】
こうして、3つの領域が予め設定されてメモリに記憶されたマップを、ブレーキ採点部44は、ブレーキ操作に応じて検出された車速(VP)および検出された加速度(DR)に基づいて参照し、前述したバー39の長さを決定する。
【0045】
検出された車速VPが70km/hであるとする。70km/hの車速を示す線137が、縦軸方向に示されている。線137と線131の交点D3に対応する加速度をDR3、線137と線133の交点D2に対応する加速度をDR2、線137と線135の交点D1に対応する加速度をDR1とする。
【0046】
図5(b)には、ブレーキ領域が示されており、ブレーキ領域の横軸方向の位置は、基準位置Rに対して表される。非ハッチング領域は燃費の良好なブレーキ操作の状態を表し、ハッチング領域は燃費の非良好なブレーキ操作の状態を表す。図5(a)の第1領域の端DR1に対応する位置に第1位置PB1を設定する。図5(a)の第2領域の端DR2に対応する位置に第2位置PB2を設定し、ハッチング領域の左端の位置を第3位置PB3に設定する。基準位置から第1〜第3位置PB1〜PB3までの距離を、それぞれ、LB1、LB2およびLB3で表す。
【0047】
たとえば、検出された車速VPが70km/hであるとき、加速度がゼロからDR1の範囲は、位置Rから位置PB1の範囲に割り振られ、加速度がDR1からDR2の範囲は、位置PB1から位置PB2の範囲に割り振られ、加速度がDR2からDR3の範囲は、位置PB2から位置PB3の範囲に割り振られる。
【0048】
ブレーキ採点部44は、検出された車速VPおよび検出された加速度DRで表される運転状態が、マップのどの領域に存在するかを判断する。第1領域に存在するならば、比例計算、LB1×|DR|/|DR1| により、バー39の長さを算出する。ここで、||は絶対値を表している。また、加速度DRが第2領域に存在するならば、LB1+(LB2―LB1)×(|DR|―|DR1|)/(|DR2|−|DR1|)により、バー39の長さを算出し、加速度DRが第3領域に存在するならば、LB2+(LB3−LB2)×(|DR|―|DR2|)/(|DR3|−|DR2|)により、バー39の長さを算出する。
【0049】
ブレーキ採点部44は、さらに、算出されたバー39の長さに基づいて、図6のマップ141を参照して、今回のブレーキ操作に対する採点(スコア)を求める。該マップは、制御装置40のROM14Cに予め保存されている。この例では、スコアの取りうる範囲はゼロから100点であり、100点は基準位置Rに対応し、ゼロ点は、基準位置Rから長さLB3の所に対応する。図6の例では、バー39の長さに応じたスコアは70点である。図6に示されるように、燃費が良好なブレーキ操作を行うほど、より高いスコアが得られる。
【0050】
この例では、スコアは整数で表される。したがって、バー39の長さに応じたスコアが小数点であるときには、たとえば四捨五入によって整数に丸められる。
【0051】
こうして、ブレーキ操作中、ブレーキ採点部44により、ブレーキ操作を燃費の観点から評価したスコアが算出される。このスコアを、ブレーキスコア(ブレーキ採点)と呼ぶ。ブレーキスコアは、車両の運転サイクル中、所定の時間間隔で逐次計算されてRAM14Bに記憶され、総合スコアの算出およびブレーキスコアの平均値の算出に使われる。
【0052】
アイドル採点
図2に戻り、運転状態検出部41は、車両のアイドリング運転状態を検出する。1運転サイクルにおいてアイドリング運転が最初に開始されたとき、アイドル運転採点部45は、アイドルスコアに初期値を設定する。また、アイドル運転採点部45は、アイドリング運転が検出されるたびに、該アイドリング運転の経過時間を計測するためのタイマ(図示せず)を始動させ、アイドリング運転が開始されてから所定時間が経過した後、アイドルスコアを、所定の時間間隔で所定値だけ減点していく。
【0053】
ここで、図7(A)を参照して、アイドルスコアの減点手法を説明する。時点t0において運転サイクルが開始されると共に、アイドリング運転が開始する。アイドルスコアには初期値(この実施例では、100点)が設定される。アイドリング運転が開始してから所定時間(たとえば、1分)が経過した時点t1から、アイドリング運転が終了する時点t2まで、所定の時間間隔でアイドルスコアを所定値だけデクリメントしていく。ここで、所定時間は、車両の一時停止や信号待ち等において必要とされるアイドリング運転の持続時間に相当するよう設定されるのが好ましく、シミュレーションや経験値等に基づいて設定されることができる。こうして、車両の一時停止や信号待ち等における通常の持続時間を有するアイドリング運転については、アイドルスコアを減点しないようにすることができる。所定時間以上の持続時間のアイドリング運転は、たとえば、何らかの所用のための駐車等が考えられるので、アイドリング運転の持続時間が長くなるほど、アイドルスコアの値は減らされる。
【0054】
アイドリング運転が終了した時点t2におけるアイドルスコアの値は、たとえば制御装置40のメモリに記憶されて維持される。再び、時点t3においてアイドリング運転が開始すると、該開始から上記所定時間が経過した時点t4で、メモリに維持されていたアイドルスコアの値(すなわち、時点t2におけるアイドルスコア値)を読み出し、アイドリング運転が終了する時点t5まで、所定の時間間隔で、該アイドルスコアを所定値だけデクリメントしていく。こうして、1運転サイクル中、アイドリング運転の持続時間に従って、アイドルスコアは小さくされる。
【0055】
こうして、アイドリングが行われるたびに、アイドル操作採点部45により、該アイドル操作を燃費の観点から評価したアイドルスコアが算出される。アイドルスコアは、車両の運転中(運転サイクル中)、所定の時間間隔で逐次計算されてRAM14Bに記憶され、総合スコアの算出およびアイドルスコアの平均値の算出に使われる。
【0056】
平均スコアの算出
図2に戻り、積算部47は、上述のようにして算出されたアクセルスコア、ブレーキスコア、アイドルスコアを、所定の時間間隔で積算していく。積算は、この例では、車両のエンジンの始動から停止(すなわち、イグニションのオンからオフ)までの1運転サイクルごとに行われる。
【0057】
平均スコア算出部48は、積算部47によって積算された上記3つのスコアそれぞれのスコア積算値を、それぞれ対応する操作の経過時間によって除算して3つのスコアそれぞれの平均値を逐次算出する。これと、同時にこれらの3つのスコアの和を同様にして積算し、経過時間によって除算して総合スコアを逐次算出する。こうして時間の経過に沿って逐次算出される3つの個別スコアの平均値および総合スコアは、RAM14Bに記憶される。イグニションキーがオフにされて運転サイクルが終了したとき、RAM14Bに記憶されている3つの個別スコアの平均値および総合スコアがこの運転サイクルを代表するアクセルスコア、ブレーキスコア、アイドルスコアおよび総合スコアとして不揮発性メモリ14Dに保存される。
【0058】
ここで、図8を参照すると、時点t0において、イグニションがオンにされて運転サイクルが開始する。運転サイクルの開始と共に、アイドリング運転が開始する。アイドルスコアには、初期値(たとえば、100点)が設定される。図7(A)を参照して説明したように、アイドリング運転が開始してから所定時間経過後、時間の経過に従ってアイドルスコアはデクリメントされる。時点t1においてアイドリング運転が終了し、アクセルペダルが踏み込まれると車速が上昇する。アクセル操作が行われている間、前述したように、アクセルスコアが所定時間間隔で算出される。時点t2において、アクセル操作が終了し、ブレーキペダルの踏み込みが開始される。ブレーキ操作が行われている間、ブレーキスコアが所定の時間間隔で算出される。時点t3でブレーキ操作が終了し、車速がゼロになって車両は停止し、アイドリング運転が再び始まる。所定時間経過後に、アイドルスコアの前回値からのデクリメントが開始される。時点t4において、再びアクセル操作が開始される。
【0059】
運転サイクルの開始時点t0において、積算値はゼロである。時点t0から、運転サイクルが終了する時点t11まで、アクセルスコア、ブレーキスコアおよびアイドルスコアが各時点で算出されるが、これらのスコアが算出されるたびに、該スコアが前回の積算値に加算されて、今回の積算値が算出される。図の積算値は、この積算処理をイメージで表しており、時間t0〜t1においてはアイドルスコアが積算され、これが面積S1によって表されている。時間t1〜t2においてはアクセルスコアが積算され、これが面積S2によって表されている。時点t2における積算スコアは、S1+S2である。時間t2〜t3においてはブレーキスコアが積算され、これが面積S3によって表されている。時点t3における積算スコアは、S1+S2+S3である。
【0060】
積算処理が行われるたびに、運転サイクルの開始t0から現時点までの経過時間で除算することにより、総合スコアが算出される。たとえば、時点t2における総合スコアは、(S1+S2)/(t2―t0)により算出される。
【0061】
1運転サイクルが終了したときの総合スコアは、該運転サイクルで積算された総合スコアを、運転サイクルの時間長Tdcで除算することにより算出される。図8の例では、(S1+S2+.....+S11)/Tdcにより算出される。運転サイクル終了時の総合スコアは、この運転サイクルにおける平均の燃費状態を表している。運転サイクル終了時の総合スコアは、制御装置40の不揮発性メモリ14Dに記憶される。
【0062】
平均スコア算出部48は、総合スコアの算出と同じタイミングで、3つの個別スコアのそれぞれについて平均スコアを算出する。すなわち、アクセルスコアについての積算値を算出し、これを、アクセル操作時間で除算することにより、平均値を算出する。たとえば、図8のような運転が行われている場合、時間t5におけるアクセルスコアの平均値は、(S2+S5)/((t2−t1)+(t5−t4))によって算出される。ブレーキ操作およびアイドリング運転についても同様の算出が行われ、平均ブレーキスコアおよび平均アイドルスコアをそれぞれ算出する。平均アイドルスコアについては、図7を参照して説明した所定時間を含めて算出してもよいし(たとえば、図8の例では、時点t1における平均アイドルスコアは、S1/t1により算出される)、該所定時間を含めないよう算出してもよい(たとえば、図8の例では、時点t1における平均アイドルスコアは、S1/(t1−所定時間)により算出される)。これらの個別平均スコアも、総合スコアと共にRAM14Bに記憶される。
【0063】
平均スコアの算出は、比較的長い時間間隔(インターバル)、たとえば1分間隔でエンジン制御のための演算のバックグラウンドで実行することができる。ECUの負荷を軽減させるためである。
【0064】
総合スコア算出フロー
図9は、制御部40により実行される、総合スコア算出プロセスのフローの一例である。積算(S12)までのプロセスは、所定の時間間隔(たとえば、100ミリ秒)で実行される。
【0065】
ステップS1においてイグニションスイッチがオンであれば、このプロセスが実行される。ステップS2において、アクセル操作、ブレーキ操作、またはアイドリング運転のいずれかの状態にあることを検出する。
【0066】
アクセル操作が検出されると、図3のマップを選択し(S3)、このマップを検出されたエンジン回転数NEおよび検出されたスロットル開度THに基づいて参照し、バーの長さを決定する(S4)。次いで、図6のマップを参照してアクセルスコアを求める(S5)。
【0067】
ステップS2においてブレーキ操作が検出されると、図5のマップを選択し(S6)、このマップを、検出された車速VPおよび検出された加速度DRに基づいて参照し、バーの長さを決定する(S7)。次いで、図6のマップを参照してブレーキスコアを求める(S8)。
【0068】
ステップS2においてアイドリング運転が検出されたならば、今回のアイドリング運転開始から所定時間が経過したかどうかを判断する(S9)。経過していなければ、ステップS10において、前回のアイドリング運転状態の終了時のアイドリングスコアの値をそのまま維持する。経過していれば、ステップS11において、アイドリングスコアを、所定値だけデクリメント(減算)する。運転サイクルの開始時のアイドリングスコアには、初期値が設定される。
【0069】
ステップS12において、前回の積算値に、今回算出されたアクセルスコア、ブレーキスコアまたはアイドリングスコアを加算し、今回の積算値を算出する。ステップS13において、該今回の積算値を、運転サイクル開始からの経過時間で除算することにより総合スコアを算出する。
【0070】
こうして、運転サイクルの期間にわたり、総合スコアは所定の時間間隔で算出されて表示される。運転サイクルの最後に算出された平均スコアは、総合スコアとしてRAM14Bに記憶され、この総合スコアに基づいて、生涯スコアが算出される。
【0071】
アクセルスコア等の算出の時間間隔と総合スコアの算出の時間間隔とは同じでもよく、後者を前者よりも長くしてもよい、たとえば、前者を100ミリ秒とし、後者を5分としてもよい。
【0072】
生涯スコアの算出
総合スコアは、運転サイクル中の平均の燃費状態を表す。生涯スコアは、複数の運転サイクルにわたる総合スコアの積算値であり、燃費に関する運転操作の技術レベルを表している。
【0073】
図2の生涯スコア算出部49は、各運転サイクルを終えるたびに、今回の運転サイクルの総合スコアを、図7(B)のマップを参照して総合スコア換算値に換算する。このマップは、制御装置40のROM14Cに予め格納されている。50点以上の総合スコアは、燃費に関する運転操作が良好であるので、正の値を持つ総合スコア換算値に換算される。50点より低い総合スコアは、燃費に関する運転操作がまだ良好とはいえないので、負の値を持つ総合スコア換算値に換算される。
【0074】
この例では、該マップは、総合スコアのゼロ近傍、50点近傍、および100点近傍において、対応する総合スコア換算値の変化が小さくなっている。こうすることにより、燃費に関する運転操作の技術レベルをより正確に反映した総合スコア換算値に総合スコアを変換することができる。総合スコアの変化に対して総合スコア換算値を線形に変化させるようにしてもよい。
【0075】
この例では、総合スコア換算値の最大値(この例では、+5)の絶対値と最小値(この例では、−5)の絶対値とが同じであるが、両者を異なる大きさに設定してもよい。たとえば、最小値の絶対値を最大値の絶対値より大きくすることができ(たとえば、―10と+5)、生涯スコアの減点の度合いを加点の度合いよりも大きくして、厳しい評価得点とすることができる。
【0076】
この例では、総合スコア換算値は整数で表される。したがって、総合スコアに対応する総合スコア換算値が小数点で求められるときには、たとえば四捨五入によって整数に丸められる。総合スコアを10点単位にするときは、0,10,20,・・・100点の総合スコアに対応する整数値の総合スコア換算値をテーブルに規定しておけばよい。
【0077】
生涯スコア算出部49は、こうして求めた総合スコア換算値に、今回の運転サイクルの走行距離を乗算することによって補正値を算出する。走行距離が長いほど、運転の経験量が多いことを示す。走行距離を乗算することにより、補正値を、経験を反映した値とすることができる。今回の運転サイクルの総合スコア換算値に基づく補正値は、図7(B)のマップで得られた総合スコア換算値に今回の運転サイクルの走行距離(km)をかけることによって算出される。
【0078】
1回の運転サイクルごとに算出される総合スコア換算値に基づく補正値に、上限値を設けるのが好ましい。この例では、走行距離で総合スコア換算値に基づく補正値の上限値として、200点を設定している。
【0079】
生涯スコア算出部49は、今回の運転サイクルで算出された上記補正値を生涯スコアの前回値に加算することにより、生涯スコアの今回値を算出する。生涯スコアの初期値はゼロであり、運転サイクルごとに生涯スコアが更新される。燃費に関する運転操作の技術レベルが向上するにつれ、生涯スコアの値は大きくなる。算出された生涯スコアは、不揮発性メモリ14Dに保存される。
【0080】
アドバイスメッセージ
図2に戻り、第3表示制御部53によるアドバイスメッセージの生成について説明する。この例では、制御装置40は、総合スコアを算出するのと同じタイミングで燃費(これを、瞬間燃費と呼ぶ)を計算する。総合スコアは、所定の時間間隔で算出されるので、瞬間燃費は、該時間間隔あたりの燃費を表す。他方、制御装置40は、今回の運転サイクルの開始から現時刻までの瞬間燃費の積算値を、該開始から現時刻までの時間長で除算することにより、該運転サイクルの平均燃費を計算する。平均燃費は、平均スコアと対になって、制御装置40のRAM14Bに記憶される。
【0081】
さらに、制御装置40は、5分単位に、上記の4つのスコアおよび燃費の平均値を算出する。具体的には、5分の時間間隔で、図9を参照して説明したように、アクセルスコア、ブレーキスコアまたはアイドルスコアを積算し、該積算値を該5分という時間長で除算して、5分単位のスコア平均値を算出する。同様に、5分の時間間隔で、瞬間燃費を積算し、該積算値を該5分という時間長で除算して、5分単位の燃費平均値を算出する。ここで、「5分」は一例であり、他の時間間隔でもよい。これら5分単位の平均値は、たとえばRAM14Bに記憶される。
【0082】
車速の観点からも、燃費向上のための助言を運転者に行うため、車速の状態が判定される。この例では、運転状態検出部41は、各運転サイクルにおいて、所定の時間間隔(前述した、アクセルスコア等を算出するタイミングと同じでよい)で車速を検出する。車速は、各種センサ65(図2)として車速センサ11Aを用いて検出されることができる。車速状態判定部54は、車速が所定範囲内にある走行時間の割合に基づいて車速の状態を判定する。
【0083】
ここで、図10(a)を参照すると、シミュレーションまたは実験により得られた、車速に応じた燃費が示されている。高すぎる車速は燃費を低下させるおそれがあり、低すぎる車速も、中程度の車速に比較すると燃費を低下させる。このような高すぎる車速の走行時間または低すぎる車速の走行時間が長いほど、燃費状態が悪化し、平均アクセルスコアを悪化させる。
【0084】
アクセル操作に応じた燃費は、アクセルペダルの踏み込み量が一定でも車速が高すぎれば低下し、アクセルペダルの踏み込み量が急に増えて急加速が行われた場合にも低下する。高すぎる車速の走行が行われた場合には、これを運転者に知らせるのが好ましい。また、図10(a)に示すように、低すぎる車速の走行は燃費を低下させる傾向があるので、より燃費を向上させるためには、このような走行についても運転者に注意を喚起するのが好ましい。
【0085】
そこで、この例では、低しきい値以下の車速での走行時間および高しきい値以上の車速での走行時間が長い場合を検出し、該検出に応じて、そのような走行を抑制するよう運転者にアドバイスを行う。これにより、運転者は、車速に起因して燃費が低下するおそれがあることを認識することができる。
【0086】
上記のようなアドバイスを行うため、まず、車速状態判定部54は、車速が検出されるたびに、検出された車速が低しきい値以下であるか、または高しきい値以上であるかを判断する。低すぎる車速での走行時間および高すぎる車速での走行時間の、1運転サイクルの開始時点からの経過時間に対する割合(比率)を調べるため、車速状態判定部54は、該運転サイクルにわたって、低しきい値より低い車速が検出された頻度、および高しきい値より高い車速が検出された頻度をそれぞれカウントする。そして、該運転サイクルの開始から現時刻までの車速検出の頻度に対し、低しきい値より低い車速が検出された頻度の割合(パーセンテージで表される)、および、高しきい値より高い車速が検出された頻度の割合(パーセンテージで表される)を算出する。この算出は、前述した総合スコアの算出と同じタイミングで行うことができる。ここで、前者を低車速比率と呼び、後者を高車速比率と呼ぶ。これらの比率の値は、総合スコアに対応づけて、RAM14Bに記憶され、運転サイクルが終了するとき、不揮発性メモリ14Dに保存される。
【0087】
車速状態判定部54は、図10(b)のようなマップを、算出された低車速比率および高車速比率に基づいて参照し、車速状態を判定する。このマップは、制御装置40のROM14Cに記憶されている。1運転サイクルの開始から現時刻までの経過時間のうちの7割が高しきい値以上の高速走行である場合には、車速状態が「高」状態であると判定される。
【0088】
1運転サイクルの開始から現時刻までの経過時間のうちの7割が低しきい値以下の低速走行の場合には、車速状態が「低」状態であると判定される。
【0089】
図11は、制御装置40のROM14Cに保存されているメッセージテーブル55の構成を示す。メッセージテーブル55は、運転操作ごとに、個別の運転操作スコアの値に応じたアドバイスメッセージを記憶している。アドバイスメッセージは、運転操作に対する燃費の観点からの助言を運転者に知らせるためのメッセージである。
【0090】
アクセル操作については、(a)に示すように、車速の状態と平均アクセルスコアの値に応じて、アドバイスメッセージを記憶している。この実施例では、平均アクセルスコアの値について3つの範囲が設定されており、ゼロ点から29点の低スコア範囲、30点から69点の中スコア範囲、および70点から100点の高スコア範囲が設定されている。それぞれの範囲について、前述した「良」「低」および「高」状態の3つの車速状態が存在する。したがって、予め記憶されるアドバイスメッセージとして、少なくともMA1〜MA9で表されるような9種類のメッセージがある。
【0091】
ブレーキ操作については、図11(b)に示すように、平均ブレーキスコアの値に応じてアドバイスメッセージを記憶しており、平均ブレーキスコアの値について低スコア範囲、中スコア範囲および高スコア範囲が設定されている。したがって、予め記憶されるアドバイスメッセージとして、少なくともMB1〜MB3で表されるような3種類のメッセージがある。
【0092】
アイドリング運転については、図11(c)に示すように、平均アイドルスコアの値に応じてアドバイスメッセージを記憶しており、この例では、ゼロ点から49点の低スコア範囲と、50点から100点の高スコア範囲の2つの範囲が設定されている。したがって、予め記憶されるアドバイスメッセージとして、少なくともMI1およびMI2で表されるように、2種類のメッセージがある。
【0093】
なお、第3表示制御部53は、ナビゲーション装置を備える車両に対しては、上記のスコア等の情報および運転操作に対する助言(アドバイス)を、ナビゲーション装置の表示装置17上に表示する。
【0094】
そのほかのデータ
制御装置40は、以上に説明したデータのほかに、次の項目について計算を行い、運転サイクルの終了時に不揮発性メモリ14Dに保存する。不揮発性メモリ14Dは、以上に説明した諸々のデータおよび次の1)および2)のデータを最新の5つの運転サイクルについて保存する。すなわち、不揮発性メモリ14Dは、これらのデータをFIFO(first-in-first-out)方式で記憶し、5運転サイクルを超えると、古いデータは押し出されて削除される。
【0095】
1) 市街地走行時の燃料消費量および走行距離
72km/h以下で走行した時間における燃料消費量(cc)および走行距離(m)である。車速センサ11Aが72km/hを示すとき、ECU14がインジェクタ(燃料噴射装置)を作動させる時間の合計から燃料噴射量を算出する。同時に車速72km/h以下で走行した距離の合計を算出する。逐次算出される値は、RAM14Bに記憶され、運転サイクルの終了時における値が不揮発性メモリ14Dに保存される。
【0096】
2) 高速道路走行時の燃料消費量および走行距離
72km/hを超える速度で走行した時間における燃料消費量(cc)および走行距離(m)である。1)の燃料消費量および走行距離の算出と同様の演算により算出される。逐次算出される値は、RAM14Bに記憶され、運転サイクルの終了時における値が不揮発性メモリ14Dに保存される。なお、72km/hは、高速走行と中低速走行を区別するために便宜上設定した閾値である。
【0097】
3) ECONスイッチ
運転席に設けられる、エコドライブ・モードを選択するECONスイッチ15Aの使用頻度およびECONスイッチを押したエコモードで走行した時間を1運転サイクル分だけ不揮発性メモリ14Dに保存し、運転サイクルの終了ごとに上書きして更新する。したがって、診断装置には、最新のデータだけが提供される。
【0098】
なお、エコドライブ・モードでは、アイドルストップ時間が延長され、エアコンディショナーが省エネ制御され、エンジンの出力や回転が抑えられ、燃費を優先する形態で車両の制御が行われる。
【0099】
4) 車両の生涯スコア
上述の生涯スコアが不揮発性メモリ14Dに保存される。
【0100】
5) 車両のエコクラス
生涯スコアのステージを車両のエコクラスとする。
【0101】
次に、上記のようにして保存されている運転データを使用しての診断について図1に戻って説明する。診断対象となる車両がサービスショップ16に持ち込まれると、サービス担当者がタブレット端末装置を車両のところに持ってきて、データリンクコネクタ(DLC)を車両のECU14に接続して不揮発性メモリ14Dに保存されているデータをタブレット端末装置のメモリに読み込み、み、接続されるパソコン16Bにデータを供給する。ユーザによる運転操作の評価をするために読み込むデータは、前述の表1および表2のデータである。
【0102】
なお、HDSは、車両の故障を診断する機能も備えており、車両に不具合があるときは、車両の不具合を診断するのに必要なデータも読み込んで通常の故障診断を行う。
【0103】
サービスショップ16のパソコン16Bは、インターネット接続を介してユーザのパソコンと通信し、運転操作の評価結果をユーザのパソコンで閲覧することができるように構成することもできる。
【0104】
パソコン16Bには、運転操作に関するデータを表示用に編集し、LCDなどのディスプレイ装置16Dに表示し、またはプリンタ16Eに出力するコンピュータ・プログラムがインストールされている。図12および図13は、この編集プログラムによって編集された表示装置16Dのスクリーンに表示されるチャートの一例を示す。
【0105】
図12のチャートの区分241は、n(n≦5の整数)運転サイクルの平均燃費が、燃料1リットル当たりの走行距離である燃費(km/l)、走向距離および平均速度を表示する。区分243は、n運転サイクルでの72km/h以下の速度で走行したときの平均燃費(km/l)および走行距離(km)と、72km/hを超える速度で走行したときの平均燃費および走行距離とを表示する。
【0106】
区分245は、n運転サイクルにおける総合スコア、アクセルスコア、ブレーキスコアおよびアイドルスコアの平均値を表示する。スコアは、葉っぱの数で示す。区分245の隣の区分246は、n運転サイクルの評価の中で最も出現頻度の高い改善ポイントのメッセージを表示する。
【0107】
この例では、ECUから出力されるアクセルメッセージID、ブレーキメッセージID、アイドルメッセージIDのうち、n運転サイクル(nは5以下の整数)で最も出現頻度の高いメッセージIDのメッセージを表示する。出現頻度が同率のときは、アクセル、アイドリング、ブレーキの順で、「悪いメッセージ」を優先して表示する。メッセージは、図11の例では、「ECONをオンにすることでアイドルストップしやすい状態になります。」というメッセージが表示されている。
【0108】
このように低スコアのメッセージを優先して表示することにより、よくなかった運転操作についてのアドバイスを表示して、運転者に対して運転の癖や改善についての気づきを与えることができる。
【0109】
ただし本実施例では、例えば、1度だけしかなかった低スコアのメッセージを表示するのでなく、まず出現頻度の高いメッセージを優先して表示するようにし、同率の場合は燃費に影響の大きい操作箇所を優先し、同じ操作箇所のときに低スコアのメッセージを表示するようにして、運転操作が良好な運転者に対して「重箱の隅をつつく」様なアドバイス表示とならないように設定がされている。
【0110】
区分247には、エコステージとして、生涯スコアを得点別に3つのステージに分けて省燃費に関しての運転技術の上達の程度がのステージが葉っぱのイラストで表示されている。区分247の隣の区分248は、ECONスイッチ15Aを押すことによって切り替えることができるエコモードがどの程度使われたかを円グラフで示す。
【0111】
区分249は、n運転サイクルにわたって運転サイクルごとの燃費が変化する様子を折れ線グラフで示す。同時に、運転サイクルごとの走向距離で塗りつぶしのカラー(図ではハッチング)で示す。左の縦軸が燃費を示し、右の縦軸が走行距離を示す。
【0112】
区分251は、区分243で示した速度と燃費に関するデータをより詳細にグラフで示す。薄いハッチングの棒グラフは、中低速で走行したときの燃費を、運転サイクルごとに示す。濃いハッチングの棒グラフは、高速で走行したときの燃費を、運転サイクルごとに示す。
【0113】
区分253は、n回の運転サイクルでの合計の走行時間、合計のアイドリング時間および合計のアイドリングによる燃料消費量を表示する。区分255は、オートアイドルストップ機能が付いた車両について、アイドルストップが使用された割合を棒グラフで示す。
【0114】
図13は、図12のデータの詳細を具体的な数値で示すチャートである。ユーザのパソコン上で選択することにより図16のチャートが表示される。区分257は、図12の区分249のデータを数値で表示する。区分259は、図12の区分251のデータを具体的な数値で表示する。区分261は、図12の区分245および区分253のデータを運転サイクルごとに並べて比較しやすいようにして詳細にブレークダウンして表示する。
【0115】
ユーザは、診断画面に表示された図12および図13のチャートから、自分の最新の過去数回(最大5回)の運転ごとの運転サイクルでの運転操作と燃費との関係の表示を並べて提示されることで、気づかなかった運転習性や傾向をデータとして認識することができ、よりよい燃費を得るためにはどうすればよいかを認識することができる。
【0116】
また、サービスショップでは、燃費に関して診断に訪れた顧客に対して、車両に故障がないことの確認診断を行なうだけでなく、サービスマンが運転操作に関して、顧客の各回の運転状態のデータを並べて顧客に提示しながら、運転操作の運転習性や傾向に対して説得力あるアドバイスや改善指導を行なうことが可能になる。
【0117】
また、運転操作の評価がデータとして表示あるいは印刷され、何度か診断を受けるごとにその成長をデータ記録として知覚することができるから、ゲーム的な感覚で燃費のよい運転操作を目指す動機付けが行われる。
【0118】
以上に、この発明の特定の実施形態について説明したが、本願発明は、これら実施形態に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転サイクルごとにユーザの運転操作に応じた該車両の燃費状態を示す運転データを保存する不揮発性メモリを備えた車両の電子制御装置から、複数の運転サイクルにわたる前記運転データを読み出す手段と、
読み出された前記運転データに基づいて前記運転サイクルごとにユーザによる運転操作ごとの燃費状態を示すチャートを作成する手段と、
前記チャートを前記運転サイクルごとの比較結果として可視的に出力する手段と、
を備える、車両外部に設けられた、運転操作の診断装置。
【請求項2】
前記運転サイクルは、前記車両のイグニションをオンにしたときからオフにするまでの運転期間であり、前記電子制御装置は、走行速度および走行距離の少なくとも一方が所定値に達しない場合、またはエンジン始動後所定時間継続してエンジンが回転していないときは、この運転サイクルの運転データの前記不揮発性メモリへの記録を禁止するよう構成されている、請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記運転データは、前記車両の燃費の状態について燃費に影響する運転操作項目ごとに前記電子制御装置が算出する評価スコア、および燃費状態に関してユーザに提示するためのアドバイスメッセージを含み、
前記診断装置は、前記電子制御装置から読み出した複数の前記アドバイスメッセージのうち、前記評価スコアが低い運転操作項目に対応するアドバイスメッセージを選択して可視的に出力するよう構成されている、請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
車両の運転サイクルごとにユーザの運転操作に応じた該車両の燃費状態を示す運転データを保存する不揮発性メモリを備えた電子制御装置から、複数の運転サイクルにわたる前記運転データを車両外部に読み出し、
読み出された前記運転データに基づいて前記運転サイクルごとにユーザによる運転操作ごとの燃費状態を示すチャートを作成し、
前記チャートを前記運転サイクルごとの比較結果として車両外部で可視的に出力することを含む、運転操作の診断方法。
【請求項5】
前記運転サイクルは、前記車両のイグニションをオンにしたときからオフにするまでの運転期間であり、前記電子制御装置は、走行速度および走行距離の少なくとも一方が所定値に達しない場合、またはエンジン始動後所定時間継続してエンジンが回転していないときは、この運転サイクルの運転データの前記不揮発性メモリへの記録を禁止する、請求項4に記載の診断方法。
【請求項6】
前記運転データは、前記車両の燃費の状態について燃費に影響する運転操作項目ごとに前記電子制御装置が算出する評価スコア、および燃費状態に関してユーザに提示するためのアドバイスメッセージを含み、
前記電子制御装置から車両外部に読み出した複数の前記アドバイスメッセージのうち、前記評価スコアが低い運転操作項目に対応するアドバイスメッセージを選択して可視的に出力する、請求項5に記載の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−223607(P2010−223607A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68294(P2009−68294)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】