説明

過入力保護回路

【課題】本発明は、受信波に所定の処理を施す回路を保護する入力保護回路に関し、受信性能が劣化することなく受信性能を高め、かつ安定に維持できることを目的とする。
【解決手段】空中線系に到来した受信波または外乱と、前記空中線系で発生した送信波の反射波との減衰に供され得る減衰手段と、前記空中線系が送信に供される送信期間に前記反射波または前記外乱を前記特定の回路に代えて前記減衰手段に導き、前記空中線系が受信に供される受信期間には、前記受信波のレベルが所定の閾値を下回る場合と反対に上回る場合とに前記受信波をそれぞれ前記特定の回路と前記減衰手段とに導く制御手段と、前記受信期間に、前記特定の回路または前記減衰手段を介して与えられた受信波を受信処理の対象とする受信対象選択手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる期間に行われる送信と受信とに共用される空中線系に到来した受信波に所定の処理を施す回路を有する無線装置において、その回路に入力される受信波のレベルを制限する過入力保護回路に関する。
【背景技術】
【0002】
TDD方式無線システムでは、1つのアンテナから同じ周波数を用いて送受信を行うために、無線装置には、送信系と受信系とを分離するデュプレクサ回路が広く用いられている。さらに、移動通信系のように基地局と端末との距離が広範に変化し得るシステムには、受信波の過大なレベルに起因して受信用の低雑音増幅器の故障や劣化の回避のために、過入力保護回路が備えられている。
【0003】
図3は、TDD方式の無線装置の第一の構成例を示す図である。
図において、送信用のパワーアンプ(PA)30には送信RF信号が入力され、そのパワーアンプ30の出力はサーキュレータ41の第一の開口に接続される。サーキュレータの第二の開口はバンドパスフィルタ(BPF)42を介してアンテナ43の給電点に接続される。サーキュレータ41の第三の開口はRFスイッチ51の共通接点に接続され、そのRFスイッチ51のブレーク接点は終端抵抗器52を介して接地される。RFスイッチ51のメーク接点は過入力保護回路60の入力に接続され、その過入力保護回路60には後述する過入力保護の対象となる低雑音増幅器(LNA)70の入力および出力が接続される。さらに、過入力保護回路60の出力には受信RF信号が出力され、上記パワーアンプ30の制御端子とRFスイッチ51の制御端子とには後述する送信期間信号が入力される。
【0004】
過入力保護回路60は、以下の要素から構成される。
(1)
RFスイッチ51のメーク接点に接続された共通接点と、上記低雑音増幅器70の入力に接続されたメーク接点とを有するRFスイッチ61
【0005】
(2)
低雑音増幅器70の出力に接続されたメーク接点と、上記RFスイッチ61のブレーク接点に接続されたブレーク接点とに併せて、図示されない後段に対する既述の受信RF信号の引き渡しに供される共通接点を有するRFスイッチ62
【0006】
(3)
そのRFスイッチ62の共通接点と、既述のRFスイッチ62、63の制御端子との間に縦続接続されたパワー検出器63および制御回路64
【0007】
このような構成の無線装置では、送信期間信号が送信期間を示す状態では、パワーアンプ30は、送信RF信号を増幅してサーキュレータ41に与える。このようにして与えられた送信RF信号は、サーキュレータ41の第二の開口からバンドパスフィルタ42を介してアンテナ43に引き渡され、そのアンテナ43から送信波として送信される。また、このような送信期間には、RFスイッチ51は、終端抵抗器52を介してサーキュレータ41の第三の開口を接地する。
【0008】
すなわち、送信期間には、送信RF信号は、パワーアンプ30、サーキュレータ41およびバンドパスフィルタ42を介してアンテナ43に引き渡されるが、そのサーキュレータ41の第三の開口がRFスイッチ51および終端抵抗器52を介して終端されるために、過入力保護回路60および低雑音増幅器70に対する引き渡しが阻止される。
【0009】
また、送信期間信号が受信期間を示す状態では、パワーアンプ30が送信RF信号を増幅を見合わせるため、サーキュレータ41およびバンドパスフィルタ42を介してアンテナ43に対するその送信RF信号の引き渡しは行われない。さらに、このような受信期間には、RFスイッチ51は、サーキュレータ41の第三の開口を過入力保護回路の入力に接続する。
【0010】
したがって、受信期間にアンテナ43に到来した受信波は、バンドパスフィルタ42、サーキュレータ41およびRFスイッチ51を介して過入力保護回路60に引き渡される。
一方、過入力保護回路60では、RFスイッチ61、62は、後述する制御信号の論理値に応じて並行してそれぞれの共通接点をブレーク接点とメーク接点との何れかに接続する。サーキュレータ41からRFスイッチ51を介して入力された受信波は、以下の2通りの形態の何れかにより後述する受信RF信号として後段に引き渡す。
(1)
低雑音増幅器70によって増幅が行われる。
(2)
このような増幅が行われない。
【0011】
パワー検出器63は、このようにして後段に引き渡される受信RF信号の電力を計測する。制御回路64は、その電力が既定の閾値を下回る場合に限って、RFスイッチ61、62の共通接点をメーク接点に接続することにより、受信RF信号のレベルを上記閾値以上に保つ。なお、このような閾値は、所定のヒステリシス特性を実現するための2通りの値として与えられてもよい。
【0012】
したがって、低雑音増幅器70は、送信期間におけるパワーアンプ30の出力からサーキュレータ41およびバンドパスフィルタ42を介してアンテナ43の給電点に至る区間とのアイソレーションが十分に確保されない場合(アンテナ43とその給電路とのインピーダンスが整合しない場合を含む。)と、受信期間にアンテナ43に到来した受信波のレベルが過大である場合との何れにも、低雑音増幅器70が非線形領域で作動することによる受信性能の劣化だけではなく、過大なレベルで既述の送信RF信号や受信波が入力されることによる低雑音増幅器70の故障や特性の劣化が回避される。
【0013】
図4は、TDD方式の無線装置の第二の構成例を示す図である。
図において、図3に示すものと機能および構成が同じものについては、同じ符号を付与して示し、ここでは、その説明を省略する。
【0014】
図4に示す無線装置の構成は、図3に示す無線装置の構成と以下の点で異なる。
(1)
過入力保護回路60に代えて過入力保護回路80が備えられる。
(2)
その過入力保護回路80の構成は、図3に示す過入力保護回路60の構成と、以下の点で異なる。
【0015】
(2-1)
RFスイッチ61に代えて可変減衰器81が備えられる。
(2-2)
RFスイッチ62が備えられず、既述の後段には、低雑音増幅器70の出力が直接接続される。
(2-3)
制御回路64に代えて制御回路82が備えられ、その制御回路82の出力が上記可変減衰器81の制御端子に接続される。
【0016】
このような構成の無線装置では、制御回路82は、パワー検出器63によって計測された受信RF信号の電力に応じて、その電力の単調減少関数または単調非増加関数として与えられる値に可変減衰器81の減衰量を設定する。
したがって、図3に示す無線装置と同様に、低雑音増幅器70が非線形領域で動作することに起因する受信性能の劣化と、過大なレベルで既述の送信RF信号や受信波が入力されることによる低雑音増幅器70の故障や特性の劣化とが回避される。
【0017】
なお、本発明に関連した先行技術としては、例えば、図3および図4に示す無線装置にそれぞれ該当する特許文献1および特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許4436387号公報
【特許文献2】特開2004−104277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、上述した従来例では、受信期間には、低雑音増幅器70の前段に配置されたバンドパスフィルタ42、サーキュレータ41、RFスイッチ51およびRFスイッチ61(または可変減衰器81)に固有の損失がある。また、RFスイッチ61、62は、一般に、ON状態においても0.5dB程度の損失があり、かつ可変減衰器81に関しては、その減衰量を最小に設定されたとしても1.0dB程度の損失が残留する。
【0020】
さらに、このような低雑音増幅器70の前段の損失を十分に回避することは困難であるために、雑音指数が総合的に大きくなり、微弱な電波を受信する性能を十分に得ることは容易ではなかった。
【0021】
本発明は、構成が大幅に複雑化することなく受信性能を高めかつ安定に維持できる過入力保護回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
請求項1に記載の過入力保護回路は、異なる期間に送信と受信とに共用される空中線系に到来した受信波に所定の処理を施す特定の回路を有する無線装置において、前記受信波のレベルを制限して受信処理の対象とする過入力保護回路である。減衰手段は、前記空中線系に到来した受信波または外乱と、前記空中線系で発生した送信波の反射波との減衰に供され得る。制御手段は、前記空中線系が送信に供される送信期間に前記反射波または前記外乱を前記減衰手段に導き、前記空中線系が受信に供される受信期間には、前記受信波のレベルが所定の閾値を下回る場合と反対に上回る場合とに前記受信波をそれぞれ前記特定の回路と前記減衰手段とに導く。受信対象選択手段は、前記受信期間に、前記特定の回路または前記減衰手段を介して与えられた受信波を前記受信処理の対象とする。
【0023】
すなわち、特定の回路には、既述の反射波と外乱との何れもが入力されず、かつ受信波は、レベルが閾値を上回る場合には入力されず、その特定の回路に代わる減衰手段に入力される。
したがって、このような受信波は、レベルが過大となることなく、これらの特定の回路と減衰手段との何れかを介して受信処理の対象となる。
【0024】
請求項2に記載の過入力保護回路は、異なる期間に送信と受信とに共用される空中線系に到来した受信波を増幅して受信処理の対象とする特定の回路を有する無線装置において、前記受信波のレベルを制限する過入力保護回路である。減衰手段は、前記空中線系に到来した受信波または外乱と、前記空中線系で発生した送信波の反射波との減衰に供され得る。制御手段は、前記空中線系が送信に供される送信期間に前記特定の回路の動作および性能の正常性が担保される減衰量L1を前記減衰手段に設定し、前記空中線系が受信に供される受信期間には、前記レベルが所定の閾値を下回る場合に所定の減衰量L2(<L1)を、前記受信波のレベルが前記閾値を上回る場合に前記正常性の維持が可能な減衰量L3をそれぞれ前記減衰手段に設定する。
【0025】
すなわち、特定の回路には、反射波、外乱および受信の何れもが入力され得るが、これらが入力されるレベルは、減衰手段に既述の減衰量L1、L2、L3の何れかが設定されることにより、過大となることなく入力されて受信処理の対象となる。なお、受信波のレベルが過大ではない場合に減衰手段に設定されるべき減衰量については、一般に、上記減衰量L3未満のなるべく小さな値に設定することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、空中線系に到来する受信波や外乱だけではなく、その空中線系で送信波に応じて発生した反射波のレベルが過大となることに起因して特定の回路の性能が劣化し、あるいはその特定の回路に障害が発生することが回避される。
【0027】
また、本発明では、特定の回路の前段に配置され得る回路(請求項2に記載の発明における減衰手段がこれに該当する。)の損失(挿入損失を含む。)は、従来例に比べて、構成が簡略化されることにより減少する。
【0028】
したがって、本発明が適用された無線装置や無線システムでは、総合的な雑音指数の無用な減少が回避され、かつ受信系の性能および総合的な信頼性が安価に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の第二の実施形態を示す図である。
【図3】TDD方式の無線装置の第一の構成例を示す図である。
【図4】TDD方式の無線装置の第二の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、本発明の第一の実施形態を示す図である。
図において、図3に示す従来例の要素と構成が同じ要素については、同じ符号を付与し、ここでは、その説明を省略する。
【0031】
本実施形態と図3に示す従来例との構成の相違点は、過入力保護回路60と以下の点で構成が異なる過入力保護回路10がその過入力保護回路60に代えて備えられた点にある。
(1)
RFスイッチ51および終端抵抗器52が備えられない。
(2)
サーキュレータ41の第三の開口がRFスイッチ61の共通接点に直接接続される。
(3)
RFスイッチ62のブレーク接点には、RFスイッチ61のブレーク接点ではなく、低雑音増幅器70の出力に直接接続される。
【0032】
(4)
RFスイッチ61のブレーク接点は、固定減衰器11を介してRFスイッチ62のメーク接点に接続される。
(5)
制御回路64に代えて制御回路12が備えられる。
【0033】
(6)
制御回路12の第一の入力にはパワー検出器63の出力が接続され、その制御回路12の第二の入力には既述の送信期間信号が入力される。
(7)
RFスイッチ62の制御端子には、制御回路12の第一の出力が接続される。
(8)
RFスイッチ61の制御端子には、制御回路12の第二の出力が接続される。
【0034】
本実施形態の特徴は、図3に示す従来例との対比においては、制御回路12の主導の下でRFスイッチ61、62および固定減衰器11が下記の通りに連係する点にある。
【0035】
制御回路12は、送信期間信号が送信期間を示す状態では、RFスイッチ61の共通接点をブレーク接点に接続し、かつRFスイッチ62の共通接点をブレーク接点に接続して待機する。
【0036】
このような状態では、サーキュレータ41からバンドパスフィルタ42を介してアンテナ43の給電点に至る給電路のインピーダンス不整合に起因する送信RF信号の反射波は、そのレベルが過大であっても、サーキュレータ41の第三の開口からRFスイッチ61を介して固定減衰器11に導かれ、その固定減衰器11によって吸収される。
【0037】
また、このような送信期間には、アンテナ43に過大なレベルで到来した受信波(外乱を含む。)は、同様に固定減衰器11に導かれることによって減衰する。
【0038】
すなわち、上述した過大なレベルの信号が減衰することなくサーキュレータ41を介してパワーアンプ30の出力端に再度注入されることが回避されるため、そのパワーアンプ30の破損の防止が図られる。
【0039】
一方、送信期間信号が受信期間を示す状態では、パワー検出器63は、後述するように低雑音増幅器70と固定減衰器11との何れかと、RFスイッチ61、62とを介して与えられる受信RF信号の電力Pを計測する。制御回路12は、その電力Pと既定の閾値thとの大小関係に応じて、以下の何れかの形態でRFスイッチ61、62の共通接点が接続されるべき接点を設定する。
【0040】
(1)
上記電力Pが閾値th未満である状態(以下、「適正レベル状態」という。)では、RFスイッチ61の共通接点をメーク接点に接続し、かつRFスイッチ62の共通接点をブレーク接点に接続する。
【0041】
(2)
上記電力Pが閾値thを超える状態(以下、「過大レベル状態」という。)では、RFスイッチ61の共通接点をブレーク接点に接続し、かつRFスイッチ62の共通接点をメーク接点に接続する。
【0042】
すなわち、適正レベル状態では、閾値th未満のレベルの受信RF信号は、低雑音増幅器70を介して後段に引き渡されるが、過大レベル状態では、閾値thを超える過大なレベルの受信RF信号は、固定減衰器11を介して減衰した後に後段に引き渡される。
【0043】
なお、上記閾値thについては、制御回路12は、上述したようにRFスイッチ61、62と、低雑音増幅器70または固定減衰器11の何れか一方とを介してパワー検出器63の入力に至る区間の利得の格差が補正(圧縮)される値に適宜設定する。
【0044】
また、このような閾値thについては、サーキュレータ41の第三の開口からパワー検出器63の入力に至る区間に低雑音増幅器70と固定減衰器11とがそれぞれ介在する2通りの状態に適した2通りの値に設定されることによって、ヒステリシス特性が実現されてもよい。
【0045】
したがって、受信期間には、低雑音増幅器70の直線性が確保できない程度に高いレベルの受信RF信号は、固定減衰器11を介して減衰した後に、復調、信号判定、復号化その他の受信処理が施される。
【0046】
このように本実施形態によれば、従来例に比べて構成が大幅に複雑化することなく、送信期間におけるパワーアンプ30の破損の防止と、送信期間および受信期間における低雑音増幅器70の破損の防止とに併せて、受信期間において上記受信処理の対象となる受信RF信号のレベルが過大となることの回避が図られ、受信性能が高められる。
【0047】
なお、本実施形態では、RFスイッチ61、62のブレーク接点およびメーク接点の接続先は、制御回路12の主導の下で既述の動作が実現されるならば、図1に示されるものと反対に設定されてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、低雑音増幅器70および固定減衰器11の前段および後段にRFスイッチ61、62がそれぞれ配置されている。
【0049】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、低雑音増幅器70と固定減衰器11とが制御回路12の制御下で、入力信号の取り込みおよびその入力信号に対する応答とを択一的に行う回路を有する場合には、これらの回路によってRFスイッチ61が代替されてもよい。
【0050】
さらに、本実施形態では、RFスイッチ62の共通接点は、送信期間には、メーク接点とブレーク接点との何れにも接続されなくてもよい。
【0051】
[第二の実施形態]
図2は、本発明の第二の実施形態を示す図である。
図において、図4に示す従来例の要素と構成が同じ要素については、同じ符号を付与し、ここでは、その説明を省略する。
【0052】
本実施形態と図4に示す従来例との構成の相違点は、RFスイッチ51および終端抵抗器52が備えられず、かつ以下の点で過入力保護回路80と構成が異なる過入力保護回路20がその過入力保護回路80に代えて備えられた点にある。
(1)
可変減衰器81に代えて可変減衰器21が備えられる。
(2)
その可変減衰器21の入力にサーキュレータ41の第三の開口が直接接続される。
【0053】
(3)
制御回路82に代えて制御回路22が備えられる。
(4)
制御回路22の第一の入力にパワー検出器63の出力が接続され、その制御回路22の第二の入力に既述の送信期間信号が入力される。
【0054】
本実施形態の特徴は、図4に示す従来例との対比においては、制御回路22の主導の下で可変減衰器21が下記の通りに連係する点にある。
制御回路22は、送信期間信号が送信期間を示す状態では、可変減衰器21の減衰量を以下の何れかに設定する。
【0055】
(1)
可変減衰器21に設定可能な減衰量の最大値
(2)
サーキュレータ41からバンドパスフィルタ42を介してアンテナ43に至る給電系のインピーダンス不整合に起因して発生し、そのサーキュレータ41の第三の開口から可変減衰器21を介して低雑音増幅器70に入力され得る反射波のレベルが規定の上限値以下に制限される減衰量
【0056】
なお、上記上限値は、低雑音増幅器70が破壊されない値として予め与えられる。
したがって、送信RF信号の反射波は、レベルが過大であっても、サーキュレータ41の第三の開口から可変減衰器21に導かれて減衰する。
また、このような送信期間には、アンテナ43に過大なレベルで到来した受信波(外乱を含む。)は、同様に可変減衰器21に導かれることによって減衰する。
【0057】
すなわち、上述した過大なレベルの反射波が減衰することなくサーキュレータ41を介してパワーアンプ30の出力端に再び注入されることが回避されるため、そのパワーアンプ30の破損の防止が図られる。
【0058】
一方、送信期間信号が受信期間を示す状態では、パワー検出器63は、既述の第一の実施形態と同様に、受信RF信号の電力Pを計測する。制御回路22は、その電力Pと既定の閾値thとの大小関係に応じて、可変減衰器21の減衰量を以下の通りに設定する。
【0059】
(1)
上記電力Pが閾値th未満である「適正レベル状態」では、可変減衰器21の減衰量を最小の値Lmin に設定する。
(2)
上記電力Pが閾値thを超える「過大レベル状態」では、可変減衰器21の減衰量をその電力Pの好適な値pに対する偏差e(=P−p)に設定する。
【0060】
なお、このような好適な値pは、可変減衰器21の減衰量のダイナミックレンジの最適な活用が可能な減衰量として予め設定される。
【0061】
したがって、低雑音増幅器70に入力される受信RF信号のレベルは、その低雑音増幅器70が線形領域で飽和することなく作動可能な値に維持される。
【0062】
なお、上記閾値thについては、制御回路22は、上述したように可変減衰器21および低雑音増幅器70を介してパワー検出器63の入力に至る区間の利得の格差が補正される値に適宜設定する。
【0063】
さらに、このような閾値thについては、例えば、可変減衰器21の減衰量が増加すべき期間と、反対に減少すべき期間とで異なる2通りの値に設定されることによって、ヒステリシス特性の実現が図られてもよい。
【0064】
すなわち、受信期間には、受信RF信号は、そのレベルが過大となり、あるいは既定の標準的な値を下回っても、低雑音増幅器70の線形領域で安定に作動するほぼ一定のレベルで復調、信号判定、復号化その他の受信処理の対象となる。
【0065】
したがって、本実施形態によれば、既述の第一の実施形態に比べて、受信性能が高く安定に維持され、しかも、その第一の実施形態と同様に、従来例より構成が大幅に複雑化することなく、送信期間におけるパワーアンプ30の破損の防止と、送信期間および受信期間における低雑音増幅器70の破損の防止との何れもが図られる。
【0066】
なお、本実施形態では、制御回路22が行う処理の下で、パワー検出器63によって計測される電力Pが一定となる負帰還制御が行われてもよい。
【0067】
なお、上述した各実施形態では、パワー検出器63は、低雑音増幅器70(固定減衰器11)を介して与えられる受信波(並びに反射波および外乱)のレベルを計測することによって、制御回路12(22)が行うフィードバック制御に供されている。
【0068】
しかし、このようなパワー検出器63は、例えば、第一の実施形態ではRFスイッチ61の共通接点、第二の実施形態では可変減衰器21の入力にそれぞれ入力される受信波(並びに反射波および外乱)のレベルを計測することによって、制御回路12(22)がフィードバック制御に代わるフィードフォワード制御を行うために用いられてもよい。
【0069】
また、上述した各実施形態では、本発明は、TDD方式の無線通信系に対するアクセスを実現する無線装置に適用されている。
【0070】
しかし、本発明は、このようなTDD方式に限定されず、異なる期間に行われる送信と受信とに空中線系が共用される多様な無線通信系や無線伝送系において、送信系や受信系と該当する空中線系との間に介挿され、これらの送信系や受信系に過大なレベルで入力される信号に起因して生じる障害や劣化の回避のするために適用可能である。
【0071】
さらに、上述した各実施形態では、RFスイッチ61の共通接点(可変減衰器21の入力)は、サーキュレータ41の第三の開口を介してアンテナ43の給電系に接続されている。
【0072】
しかし、このようなアンテナ43の給電系は、そのアンテナ43に到来する受信波を適切な結合度で上記RFスイッチ61の共通接点(可変減衰器81の入力)に導くことができるならば、例えば、サーキュレータ41に代えて方向性結合器が備えられることにより構成されてもよい。
【0073】
また、上述した各実施形態では、過大な入力に起因する故障や特性の劣化を回避する過入力保護の対象が低雑音増幅器70となっている。
しかし、このような過入力保護の対象は、単なる増幅器その他の如何なる回路であってもよい。
【0074】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0075】
以下、本願に開示された発明の内、特許請求の範囲に記載しなかった発明の構成、作用および効果を「特許請求の範囲」、「課題を解決するための手段」および「発明の効果」の欄に準じた様式により列記する。
【0076】
[請求項3] 請求項1に記載の過入力保護回路において、
前記受信対象選択手段は、
前記送信期間に、前記減衰手段を介して与えられる反射波および外乱を前記受信処理の対象外とする
ことを特徴とする過入力保護回路。
【0077】
このような構成の過入力保護回路では、請求項1に記載の過入力保護回路において、前記受信対象選択手段は、前記送信期間に、前記減衰手段を介して与えられる反射波および外乱を前記受信処理の対象外とする。
【0078】
すなわち、上記反射波および外乱が受信処理の対象となることに起因して無用に電力が消費され、あるいはその受信処理に混乱を来すことが回避される。
したがって、本発明が適用された無線装置は、請求項1に記載の発明のみが適用された場合に比べて、総合的なランニングコストに併せて受信系の信頼性がさらに高められる。
【0079】
[請求項4] 請求項1または請求項3に記載の過入力保護回路において、
前記レベル計測手段は、
前記特定の回路と前記減衰手段との何れを介して与えられる受信波も前記レベルの計測の対象とする
ことを特徴とする過入力保護回路。
【0080】
このような構成の過入力保護回路では、請求項1または請求項3に記載の過入力保護回路において、前記レベル計測手段は、前記特定の回路と前記減衰手段との何れを介して与えられる受信波も前記レベルの計測の対象とする。
【0081】
すなわち、特定の回路に入力される受信波のレベルが過大となることを防止するために制御手段の配下で行われる処理は、特定の回路や減衰手段の後段で計測されるレベルに基づくフィードバック制御として実現される。
したがって、特定の回路や減衰手段の特性や利得の変化に柔軟に追従しつつその特定の回路の過入力保護が図られる。
【0082】
[請求項5] 請求項2に記載の過入力保護回路において、
前記減衰量L1は、
前記減衰手段に設定可能な最大の減衰量である
ことを特徴とする過入力保護回路。
【0083】
このような構成の過入力保護回路では、請求項2に記載の過入力保護回路において、前記減衰量L1は、前記減衰手段に設定可能な最大の減衰量である。
【0084】
すなわち、送信期間における特定の回路の動作および性能の正常性の担保は、減衰手段に対する最大の減衰量の設定という簡便な処理によって実現される。
したがって、制御手段によって行われる処理の簡略化と、その処理の応答性の向上とが図られる。
【0085】
[請求項6] 請求項2または請求項5に記載の過入力保護回路において、
前記減衰量L3は、
前記減衰手段に設定可能な最小の減衰量である
ことを特徴とする過入力保護回路。
【0086】
このような構成の過入力保護回路では、請求項2または請求項5に記載の過入力保護回路において、前記減衰量L3は、前記減衰手段に設定可能な最小の減衰量である。
すなわち、前記レベルが前記閾値を上回る場合における特定の回路の動作および性能の正常性の維持は、減衰手段に対する最小の減衰量の設定という簡便な処理によって実現される。
したがって、制御手段によって行われる処理の簡略化と、その処理の応答性の向上とが図られる。
【0087】
[請求項7] 請求項2、5、6の何れか1項に記載の過入力保護回路において、
前記制御手段は、
前記レベルが大きいほど大きな値に前記所定の減衰量L2を設定する
ことを特徴とする過入力保護回路。
【0088】
このような構成の過入力保護回路では、請求項2、5、6の何れか1項に記載の過入力保護回路において、前記制御手段は、前記レベルが大きいほど大きな値に前記所定の減衰量L2を設定する。
【0089】
すなわち、受信波は、空中線系に到来する受信波のレベルが広範に変化しても、レベルが大幅に変動することなく受信処理の対象となる。
したがって、無線伝送路の特性が多様にあるいは広範に変化する無線伝送系や無線通信系に対する柔軟な適応が可能となる。
【0090】
[請求項8] 請求項2、5、6、7の何れか1項に記載の過入力保護回路において、
前記レベル計測手段は、
前記特定の回路と前記減衰手段とを介して与えられる受信波、反射波および外乱も前記レベルの計測の対象とする
ことを特徴とする過入力保護回路。
【0091】
このような構成の過入力保護回路では、請求項2、5、6、7の何れか1項に記載の過入力保護回路において、前記レベル計測手段は、前記特定の回路と前記減衰手段とを介して与えられる受信波、反射波および外乱も前記レベルの計測の対象とする。
【0092】
すなわち、送信と受信とに共用される空中線系の構成に柔軟に適応し、かつ送信期間に好ましくない過大なレベルで到来した外乱と反射波との何れにも起因する受信系の障害や劣化の回避が図られる。
したがって、本発明が適用された無線装置は、信頼性が向上し、かつ安定に維持される。
【0093】
[請求項9] 請求項8に記載の過入力保護回路において、
前記制御手段は、
レベル計測手段によって計測されたレベルが一定に保たれる値に、前記所定の減衰量L2を設定する
ことを特徴とする過入力保護回路。
【0094】
このような構成の過入力保護回路では、請求項8に記載の過入力保護回路において、前記制御手段は、レベル計測手段によって計測されたレベルが一定に保たれる値に、前記所定の減衰量L2を設定する。
【0095】
すなわち、受信波は、空中線系に到来したレベルが広範に変化しても、一定のレベルで受信処理の対象となる。
したがって、無線伝送路の特性が多様にあるいは広範に変化する無線伝送系や無線通信系に対する柔軟な適応が可能となり、これらの無線伝送系や無線通信系の性能および信頼性が高められる。
【0096】
[請求項10] 請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の過入力保護回路において、
前記制御手段は、
前記受信波が前記特定の回路に導かれている状態における第一の値に比べて、前記受信波が前記減衰手段に導かれている状態における第二の値より大きな値に前記閾値を設定する
ことを特徴とする過入力保護回路。
【0097】
このような構成の過入力保護回路では、請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の過入力保護回路において、前記制御手段は、前記受信波が前記特定の回路に導かれている状態における第一の値に比べて、前記受信波が前記減衰手段に導かれている状態における第二の値より大きな値に前記閾値を設定する。
【0098】
すなわち、受信期間に空中線系に到来する受信波のレベルが頻繁に変化する状態であっても、その受信波が導かれる先が同様に頻繁に変化することに起因する受信波処理の安定性や精度の低下が回避される。
【0099】
したがって、無線伝送路の特性が多様にあるいは広範に変化する無線伝送系や無線通信系に対する柔軟な適応が可能となり、これらの無線伝送系や無線通信系の性能および信頼性が高められる。
【符号の説明】
【0100】
10,20,60,80 過入力保護回路
11 固定減衰器
12,22,64,82 制御回路
21,81 可変減衰器
30 パワーアンプ(PA)
41 サーキュレータ
42 バンドパスフィルタ(BPF)
43 アンテナ
51,61,62 RFスイッチ
52 終端抵抗
63 パワー検出器
70 低雑音増幅器(LNA)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる期間に行われる送信と受信とに共用される空中線系に到来した受信波に所定の処理を施す特定の回路を有する無線装置において、前記受信波のレベルを制限して受信処理の対象とする過入力保護回路であって、
前記空中線系に到来した受信波または外乱と、前記空中線系で発生した送信波の反射波との減衰に供され得る減衰手段と、
前記空中線系が送信に供される送信期間に前記反射波または前記外乱を前記特定の回路に代えて前記減衰手段に導き、前記空中線系が受信に供される受信期間には、前記受信波のレベルが所定の閾値を下回る場合と反対に上回る場合とに前記受信波をそれぞれ前記特定の回路と前記減衰手段とに導く制御手段と、
前記受信期間に、前記特定の回路または前記減衰手段を介して与えられた受信波を前記受信処理の対象とする受信対象選択手段と
を備えたことを特徴とする過入力保護回路。
【請求項2】
異なる期間に行われる送信と受信とに共用される空中線系に到来した受信波に所定の処理を施して受信処理の対象とする特定の回路を有する無線装置において、前記受信波のレベルを制限する過入力保護回路であって、
前記空中線系に到来した受信波または外乱と、前記空中線系で発生した送信波の反射波との減衰に供され得る減衰手段と、
前記空中線系が送信に供される送信期間に前記特定の回路の動作および性能の正常性が担保される減衰量L1を前記減衰手段に設定し、前記空中線系が受信に供される受信期間には、前記受信波のレベルが所定の閾値を下回る場合に所定の減衰量L2(<L1)を、前記レベルが前記閾値を上回る場合に前記正常性の維持が可能な減衰量L3をそれぞれ前記減衰手段に設定する制御手段と
を備えたことを特徴とする過入力保護回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−156878(P2012−156878A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15527(P2011−15527)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】