説明

過給機の制御装置

【課題】過給機の制御装置に関し、コンプレッサーの回転速度を精度よく推定する。
【解決手段】内燃機関10の吸気系に搭載された過給機9の制御装置において、過給機9のコンプレッサー9aに吸入される空気流量を検出する流量検出手段13を備える。また、コンプレッサー9aの入口圧力に対する出口圧力の比を給気圧力比として算出する圧力比算出手段4を備える。さらに、流量検出手段13で検出された空気流量及び圧力比算出手段4で算出された給気圧力比に基づき、コンプレッサー9aの回転速度を推定する推定手段5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された過給機を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの吸気系に過給機を搭載し、その過給機で圧縮された吸気をシリンダーに圧送することで機関出力を向上させる技術が知られている。例えば、排気圧力を利用して過給を行うターボチャージャーでは、吸気通路内のコンプレッサーの回転軸が排気通路内のタービンの回転軸に接続され、タービンの回転力がコンプレッサーの駆動力として利用される。また、エンジンの駆動力を利用して過給を行うスーパーチャージャーでは、クランク軸の回転が機械的にコンプレッサーに伝達されて吸気が圧送される。
【0003】
近年では、所定の駆動力に対するコンプレッサーの回転効率や回転数を可変とした過給機も開発されている。例えば、排気圧力が一定の状態でコンプレッサーの回転速度を変更可能とした可変ターボチャージャーや、電動モータを用いてコンプレッサーの回転をアシストする電動過給機等である。このようなコンプレッサーの回転速度が可変制御される過給機には、制御性や応答性を高めるべく、回転速度センサーが設けられたものが存在する。
【0004】
例えば、特許文献1には、ターボチャージャーに内蔵された誘導電動機に回転速度検出センサーを設け、誘導電動機の実速度に応じた時間間隔で出力されるピックアップ信号に基づいてコンプレッサーの回転速度を把握するものが記載されている。
しかし、ターボチャージャーは排気熱を受けて高温になりやすく、その内部に設けられるセンサーも耐熱性や耐久性の高いものを使用する必要がある。また、高温の環境下であっても正確にコンプレッサーの回転速度を検出するものでなければならず、高度な信頼性が要求されることから、センサーのコストダウンが困難であるという課題がある。
【0005】
このような課題に対し、回転速度センサーや角速度センサーを用いることなくコンプレッサーの回転速度を推定する技術が提案されている。例えば、特許文献2には、コンプレッサーの入口圧力と出口圧力との圧力比に基づいてターボチャージャーのシャフト回転速度を推定演算する手法が記載されている。この技術では、圧力比とシャフト回転速度との関係をマップとして予め記憶させておき、このマップと圧力比の推定値とに基づいてシャフト回転速度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−42684号公報
【特許文献2】特開2007−321687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際のコンプレッサーの回転速度は、コンプレッサーの入口圧力と出口圧力との圧力比のみをパラメーターとした関数として表現することはできない。例えば、入口圧力を徐々に減少させた場合、圧力比を一定に保つためには、コンプレッサーの回転数を増加させ、空気流量を増加させる必要がある。また、吸入する空気の温度が上昇した場合、圧力比を一定に保つためには、コンプレッサーの回転数をさらに増加させる必要がある。したがって、圧力比のみをパラメーターとした関数では、回転速度を正確に推定することができない。
【0008】
このように、従来の推定演算では、圧力比以外の本来検討すべきパラメーターの影響が度外視されているため、演算結果として得られる回転速度は、おおまかな近似値として丸められた不正確な値となる。したがって、仮に入口圧力や出口圧力の検出精度,演算精度を向上させたとしても、最終的に得られる回転速度の推定精度を向上させることができないという課題がある。
【0009】
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたもので、コンプレッサーの回転速度を精度よく推定することができるようにした過給機の制御装置を提供することを目的とする。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)ここで開示する過給機の制御装置は、内燃機関の吸気系に搭載された過給機の制御装置であって、前記過給機のコンプレッサーに吸入される空気流量を検出する流量検出手段と、前記コンプレッサーの入口圧力に対する出口圧力の比を給気圧力比として算出する圧力比算出手段と、前記流量検出手段で検出された前記空気流量及び前記圧力比算出手段で算出された前記給気圧力比に基づき、前記コンプレッサーの回転速度を推定する推定手段とを備える。
【0011】
前記コンプレッサーは、前記吸気通路上に設けられ、前記内燃機関に導入される吸気を圧送するものである。また、前記入口圧力とは前記コンプレッサーに流入する空気の圧力(すなわち上流圧力)であり、前記出口圧力とは前記コンプレッサーを通過した後の空気の圧力(すなわち下流圧力)である。
【0012】
(2)また、前記コンプレッサーの入口温度を取得する入口温度取得手段を備え、前記推定手段が、前記入口温度取得手段で取得された前記入口温度に基づき、前記コンプレッサーの回転速度を補正することが好ましい。
前記入口温度とは、前記コンプレッサーに吸入される空気の温度であって、例えば前記コンプレッサーの直上流側の吸気通路内の温度であり、あるいはこれに相関する温度である。
前記入口温度を前記コンプレッサーの上流側の吸気通路内で直接取得しない場合には、外気温度を検出する外気温度検出手段を備えることが好ましい。前記外気温度に基づき、前記コンプレッサーの回転速度を補正することが好ましい。
【0013】
(3)また、前記流量検出手段が、前記空気流量を質量流量として検出し、前記推定手段が、前記入口温度と前記入口圧力とに基づいて前記質量流量を体積流量に換算するとともに、前記体積流量を用いて前記コンプレッサーの回転速度を推定することが好ましい。
(4)前記コンプレッサーの入口圧力を吸気通路内の直上流で直接検出しない場合には、大気圧力を検出する大気圧力検出手段と、前記大気圧力検出手段で検出された前記大気圧力及び前記流量検出手段で検出された前記空気流量に基づき、前記入口圧力を推定する入口圧力推定手段とを備えることが好ましい。
【0014】
(5)また、前記入口圧力推定手段が、前記空気流量に基づいて前記コンプレッサーよりも上流側の吸気系の圧力損失である第一圧力損失を推定するとともに、前記大気圧力から前記第一圧力損失を減じたものを前記入口圧力として推定することが好ましい。
ここでいう第一圧力損失とは、前記吸気通路の入口から前記コンプレッサーの入口までの間の圧力損失である。
【0015】
(6)また、前記入口圧力推定手段が、吸気系の構造が異なる車種毎に予め設定された、前記大気圧力,前記空気流量及び前記第一圧力損失の相関関係を用いて前記入口圧力を推定することが好ましい。
(7)前記コンプレッサーの出口圧力を吸気通路内の直下流で直接検出しない場合には、前記内燃機関のインマニ圧力を検出するインマニ圧力検出手段と、前記インマニ圧力検出手段で検出された前記インマニ圧力及び前記流量検出手段で検出された前記空気流量に基づき、前記コンプレッサーの出口圧力を推定する出口圧力推定手段とを備えることが好ましい。
【0016】
(8)また、前記出口圧力推定手段が、前記空気流量に基づいて前記コンプレッサーよりも下流側の吸気系の圧力損失である第二圧力損失を推定するとともに、前記第二圧力損失と前記インマニ圧力との加算値を前記出口圧力として推定することが好ましい。
ここでいう第二圧力損失とは、前記コンプレッサーの出口から前記インマニまでの間の圧力損失である。
【0017】
(9)また、前記内燃機関のインマニ温度を検出するインマニ温度検出手段を備え、前記出口圧力推定手段が、前記インマニ温度検出手段で検出された前記インマニ温度に基づき、前記出口圧力の推定値を補正することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
(1)ここで開示する過給機の制御装置によれば、給気圧力比と空気流量とを用いることで、給気圧力比のみを用いる演算と比較してコンプレッサーの回転速度を精度よく推定することができる。
これにより、例えばコンプレッサーの回転速度センサーや角速度センサーを廃止することができ、コストを削減することができる。また、これらのセンサーによる回転速度の検出と本制御装置による回転速度の推定とを併用することで、上記各センサーの検出精度判定や故障判定を行うことができる。あるいは、回転速度の推定演算を上記各センサーのバックアップとして用いることで、制御の信頼性を向上させることができる。
【0019】
(2)また、入口温度を用いた補正により、コンプレッサーに流入する空気の体積変化を補正演算に反映させることができ、コンプレッサーの回転速度の推定精度を向上させることができる。
なお、吸気通路の入口からコンプレッサーの入口までの吸気通路内で空気の温度変化が微小である(ほとんど生じない)場合には、吸気通路の外部で検出された外気温度を入口温度の代わりに用いることができる。外気温度を用いた補正であっても、コンプレッサーの回転速度の推定精度を向上させることができる。
【0020】
(3)また、空気の質量流量を体積流量に換算することで、コンプレッサーの回転速度の推定精度をより向上させることができる。
(4)コンプレッサーの入口圧力を吸気通路内の直上流で直接検出しない場合には、大気圧力及び空気流量を用いることで、入口圧力の推定精度を向上させることができ、延いてはコンプレッサーの回転速度の推定精度を向上させることができる。
【0021】
(5)さらに、コンプレッサーよりも上流側の吸気系での第一圧力損失を推定した上で、大気圧力から第一圧力損失を減算する演算構成とした場合には、入口圧力の正確な値を把握することができ、コンプレッサーの回転速度の推定精度を向上させることができる。
(6)なお、予め車種毎に大気圧力,空気流量及び第一圧力損失の相関関係を設定しておくことで、制御構成を変更することなくあらゆる車種に容易に適用することができ、コストを削減することができる。
【0022】
(7)コンプレッサーの出口圧力を吸気通路内の直下流で直接検出しない場合には、インマニ圧力とコンプレッサーの出口圧力との相関関係を利用することで、出口圧力の推定精度を向上させることができ、延いてはコンプレッサーの回転速度の推定精度を向上させることができる。
(8)さらに、コンプレッサーよりも下流側の吸気系の第二圧力損失を空気流量に基づいて推定した上で、インマニ圧力と第二圧力損失とを加算する演算構成とした場合には、コンプレッサーの出口圧力を精度よく推定することができる。また、ここで推定される第二圧力損失はEGR開度などの外乱の影響を受けないため、出口圧力の推定精度を向上させることができ、コンプレッサーの回転速度の推定精度を向上させることができる。
【0023】
(9)また、インマニ温度に基づく出口圧力の補正を行った場合には、空気の密度が出口圧力に与える影響を加味した推定演算を実施することができ、出口圧力の推定精度を向上させることができる。これにより、コンプレッサーの回転速度の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一実施形態に係る過給機の制御装置が適用されたエンジンの構成を例示する図である。
【図2】本制御装置で用いられる制御マップを例示したものである。
【図3】本制御装置で実施される制御内容を例示するフローチャートである。
【図4】本制御装置のブロック構成例を示す図である。
【図5】変形例に係る制御装置のブロック構成の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本過給機の制御装置に係る実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下に示す実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。すなわち、本実施形態をその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形(実施形態及び各変形例を組み合わせる等)して実施することができる。
【0026】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態の過給機の制御装置は、図1に示す車載のエンジン10に適用されたターボチャージャー9を制御するものである。ここでは、多気筒のディーゼルエンジン10に設けられた複数の気筒のうちの一つを示し、これをシリンダー20と呼ぶ。シリンダー20内を往復摺動するピストン21は、コネクティングロッドを介してクランクシャフトに接続される。
【0027】
シリンダー20の天井面には、吸気ポート22及び排気ポート23が接続される。シリンダー20内の空間と吸気ポート22との間には吸気弁24が設けられ、排気ポート23との間には排気弁25が設けられる。吸気弁24,排気弁25の開閉動作によって吸気ポート22,排気ポート23とシリンダー20とが連通,閉鎖され、燃焼サイクルに従って空気が吸入,排出される。
【0028】
[1−2.吸排気系]
各シリンダー20の吸気ポート22の上流側には、インテークマニホールド26(吸気集合管,以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ26は、各シリンダー20の吸気ポート22に向かって分岐するように形成される。
【0029】
インマニ26の上流側には電子制御式のスロットルバルブ28が設けられ、さらにその上流側に吸気通路8が接続される。吸気通路8側からスロットルバルブ28を通過してインマニ26側へと流通する空気量は、スロットルバルブ28の開度(スロットル開度)に応じて変化する。スロットル開度は、後述するエンジン制御装置1で制御される。また、吸気通路8の上流端には、エアクリーナーが介装される。これにより、エアクリーナーで濾過された新気が吸気通路8及びインマニ26を介して、エンジン10のそれぞれのシリンダー20に供給される。
【0030】
一方、排気ポート23の下流側には、エキゾーストマニホールド30(排気集合管,以下、エキマニと呼ぶ),排気後処理装置31及び排気通路32が設けられる。エキマニ30は各シリンダー20からの排気を合流させる形状に形成され、その下流側の排気通路32に接続される。また、排気後処理装置31は、排気通路32上に介装された後処理装置であって、排気ガス中に含まれるPM(Particulate Matter,粒子状物質)や窒素酸化物(NOx),炭化水素(HC)等の成分を浄化するように機能する。
【0031】
また、このエンジン10の吸排気系には、排気圧力を利用してシリンダー20内に吸気を過給するターボチャージャー9が設けられる。ターボチャージャー9は、吸気通路8と排気通路32との両方に跨がるように介装された過給機であり、吸気通路8内に配置されたコンプレッサー9aの回転軸と排気通路32内に配置されたタービン9bの回転軸とを接続してなる。
【0032】
タービン9bは、排気通路32内を流通する排気ガスの圧力を受けて回転し、その回転力をコンプレッサー9aに伝達する。また、コンプレッサー9aは吸気通路8内の空気を圧縮して下流側へと送出する圧縮機であり、ここで加圧された空気が各シリンダー20へと過給される。なお、コンプレッサー9aよりも吸気通路8の下流側にはインタークーラー33が配置され、圧縮された空気が冷却されている。
【0033】
以下、コンプレッサー9aが設けられた位置よりも上流側の吸気通路8を上流吸気通路8aと呼び、コンプレッサー9aよりも下流側の吸気通路8を下流吸気通路8bと呼ぶ。上流吸気通路8aは、吸気通路8の入口からコンプレッサー9aの入口までの部位であり、下流吸気通路8bは、コンプレッサー9aの出口からインマニ26、又は吸気ポート22までの部位である。
【0034】
[1−3.排気再循環系]
下流吸気通路8bと排気通路32との間は還流路34で接続され、還流路34の中途には冷却器35及び還流弁36が設けられる。還流路34は、いわゆるEGR(Exhaust Gas Recirculation)通路であり、排気通路32側へ排出される排気ガスの一部を吸気通路8側へと再循環させるものである。還流路34の一端は、スロットルバルブ28よりも下流側(シリンダー20側)に接続されている。図1の例では、還流路34の両端部がそれぞれエキマニ30,インマニ26に対して接続されている。以下、還流路34を通って再び吸気側に導入される排気ガスのことを、還流ガスとも呼ぶ。
【0035】
冷却器35は、高温の排気ガスを冷却するための熱交換器(放熱器)である。また、還流弁36は、還流ガスの流量や還流ガスを吸気通路8側に導入するタイミングを調節する制御弁である。還流弁36の開度や開度を変更するタイミングは、エンジン制御装置1で制御される。なお、還流ガスの流量は、排気圧力と吸気圧力との圧力差や温度等に応じた大きさとなる。
【0036】
[1−4.制御系]
車両の任意の位置には、大気圧力PATMを検出する大気圧力センサー11(大気圧力検出手段)と、外気温度THAを検出する外気温度センサー12(入口温度取得手段)とが設けられる。また、コンプレッサー9aよりも吸気通路8の上流側には、コンプレッサー9aに吸入される空気流量AFSREALを検出するエアフローセンサー13(流量検出手段)が設けられる。エアフローセンサー13は、コンプレッサー9aに導入される新気の質量流量を検出する。
【0037】
さらに、インマニ26には、インマニ26内の気体の圧力をインマニ圧力PIMとして検出するインマニ圧力センサー14(インマニ圧力検出手段)と、インマニ26内の気体の温度をインマニ温度TIMとして検出するインマニ温度センサー15(インマニ温度検出手段)とが設けられる。上記の各種センサー11〜15で検出されたそれぞれの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0038】
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する燃料系,吸排気系,動弁系といった広汎なシステムを制御する電子制御装置である。このエンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車内通信網や専用通信ラインを介して他の車載電子制御装置や上記の各種センサー11〜15等と接続される。
【0039】
エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、インジェクターから噴射される燃料量や噴射時期,スロットルバルブ28の開度,還流弁36の開度,ターボチャージャー9の動作などが挙げられる。本実施形態では、コンプレッサー9aの回転速度を推定する制御について詳述する。
【0040】
[2.制御構成]
エンジン制御装置1には、コンプレッサー9aの回転速度を推定する制御を実現するためのソフトウェア又はハードウェアとして、入口圧力推定部2,出口圧力推定部3,圧力比算出部4,回転速度推定部5及び温度補正部6が設けられる。また、エンジン制御装置1には、各種センサー11〜15からの入力情報として、大気圧力PATM,インマニ圧力PIM,外気温度THA,インマニ温度TIM,空気流量AFSREALの各情報が入力される。エンジン制御装置1はこれらの情報に基づいてコンプレッサー9aの回転速度を推定する。
【0041】
入口圧力推定部2(入口圧力推定手段)は、コンプレッサー9aの入口圧力Paを推定するものである。この入口圧力Paは、上流吸気通路8aにおける圧力損失分の圧力低下量(第一圧力損失)を大気圧力PATMから減算した値となる。また、この圧力損失による圧力低下量は、コンプレッサー9aに吸入される空気流量AFSREALと相関がある。そこで、入口圧力推定部2は、大気圧力PATMと空気流量AFSREALとに基づいて入口圧力Paの推定値を演算する。
【0042】
例えば、圧力損失による圧力低下量と空気流量AFSREALとの関係を予め数式やマップとして記憶しておき、エアフローセンサー13で検出された空気流量AFSREALから圧力低下量を演算する。この圧力低下量を大気圧力センサー11で検出された大気圧力PATMから減じることで、入口圧力Paの推定値が演算される。ここで推定された入口圧力Paの情報は、圧力比算出部4及び回転速度推定部5に伝達される。
【0043】
なお、圧力損失による圧力低下量を空気流量AFSREALの関数f1として、入口圧力Paを以下の式1のように表現することができる。式1中のf1(AFSREAL)の値は、上流吸気通路8aの圧力損失による圧力低下量に相当し、負の値で与えられる。
【0044】
【数1】

【0045】
なお、車種による吸気系の違い(例えば、上流吸気通路8aの形状等)に応じて、空気流量AFSREALと圧力損失による圧力低下量との関係は相違する。したがって、空気流量AFSREALに関する数式やマップを車種毎に用意しておき、車種に応じた適切な数式やマップを選択したうえで、空気流量AFSREALから圧力低下量を演算してもよい。
【0046】
出口圧力推定部3(出口圧力推定手段)は、コンプレッサー9aの出口圧力Pciを推定するものである。コンプレッサー9aの出口とインマニ26との間の圧力差は、下流吸気通路8bにおける圧力損失(第二圧力損失)である。そのため、下流吸気通路8bを流通する空気流量の関数として表現され、還流ガス量などの外乱の影響を受けない。
【0047】
また、コンプレッサー9aを単位時間あたりに通過する空気の質量はその上下流で変化しないことから、コンプレッサー9aの出口とインマニ26との間の質量流量は、エアフローセンサー13で検出された質量流量である空気流量AFSREALに一致する。そこで、出口圧力推定部3は、インマニ圧力PIMと空気流量AFSREALとに基づいて出口圧力Pciの推定値を演算する。
【0048】
例えば、以下の式2を用いて出口圧力Pciを演算する。ここで演算された出口圧力Pciは、圧力比算出部4に伝達される。式2中のf2(AFSREAL)の値は、コンプレッサー9aの出口とインマニ26との間の圧力損失に相当し、正の値で与えられる。
【0049】
【数2】

【0050】
なお、入口圧力推定部2と同様に、上記の関数f(AFSREAL)を車種毎に複数個用意しておき、車種に応じた適切な関数を選択したうえで、空気流量AFSREALから出口圧力Pci演算してもよい。
【0051】
圧力比算出部4(圧力比算出手段)は、入口圧力推定部2で得られた入口圧力Paに対する出口圧力推定部3で得られた出口圧力Pciの比を給気圧力比PRとして算出するものである。給気圧力比PRは、以下の式3で与えられる。ここで算出された給気圧力比PRは、回転速度推定部5に伝達される。
【0052】
【数3】

【0053】
回転速度推定部5(推定手段)は、空気流量AFSREALと給気圧力比PRとに基づき、コンプレッサー9aの回転速度を推定するものである。ここではまず、コンプレッサー9aを通過した空気の体積流量QREALが演算される。体積流量QREALは、空気流量AFSREALと外気温度THAと入口圧力推定部2で推定された入口圧力Paとに基づいて演算される。例えば、外気温度THA及び入口圧力Paから、コンプレッサー9aの入口における空気の密度ρが演算され、質量流量である空気流量AFSREALが密度ρの空気の体積流量QREALに換算される。
【0054】
コンプレッサー9aに流入する空気の温度が一定であるとき、回転速度Ntrtは給気圧力比PRの値だけでなく、体積流量QREALの値にも応じて変動する。そこで、回転速度推定部5は、給気圧力比PRと体積流量QREALとに基づいて、基準温度Trtでのコンプレッサー9aの回転速度Ntrtを演算する。
【0055】
例えば、図2に示すように、基準温度Trtでの給気圧力比PR,体積流量QREAL及び回転速度Ntrtの三者の相関関係をマップ化して記憶しておき、給気圧力比PR及び体積流量QREALに基づいてこれらに対応する回転速度Ntrtを演算する。基準温度Trtの具体的な値は任意であり、通常のターボチャージャー9の使用時に導入される空気の温度帯を考慮して、例えば20[℃]程度に設定することが考えられる。
【0056】
図2中に示すグラフは、コンプレッサー9aの入口温度(吸気温度)を基準温度Trtで一定としたまま、給気圧力比PRと体積流量QREALとをそれぞれ変動させたときに、回転速度Ntrtが同一となる点を繋いだ等回転速度を示し、三本の太実線のラインはそれぞれ、回転速度がNt1,Nt2,Nt3(Nt1<Nt2<Nt3)の状態に対応する。また、一点鎖線のラインは、回転速度がターボチャージャー9の許容上限回転数NtMAXである場合に対応する。なお、破線で囲まれた領域は、図1に記載されたエンジン10を搭載した車両の走行試験時に実測された給気圧力比PR及び体積流量QREALの変動範囲を例示するものであって、ターボチャージャー9の通常使用状態(典型的な作動状態)に相当する領域である。
【0057】
回転速度Nt2の実線グラフ上に位置する点Aは、給気圧力比PRがPRAであり、体積流量QREALがQREALAであり、回転速度がNt2であるターボチャージャー9の過給状態に対応する。この状態から給気圧力比PRを一定に保ったまま体積流量QREALのみを増加させると、過給状態が点Bに移動する。点Bは回転速度Nt2の実線グラフよりも下方に位置するため、このときの回転速度NtrtはNt2未満となる。
さらに、点Bから給気圧力比PRを一定に保ったまま体積流量QREALのみを増加させると、過給状態が太実線のグラフを横断して点Cに移動する。点Cは回転速度Nt2の実線グラフよりも上方に位置するため、このときの回転速度NtrtはNt2以上となる。
【0058】
上述のように、コンプレッサー9aの回転速度Ntrtは、給気圧力比PR又は体積流量QREALの何れか一方のみでは定まらないだけでなく、体積流量QREALが増加したときに回転速度Ntrtも一緒に増加するのか、それとも減少するのかといった変化傾向も定まらない。一方、回転速度推定部5では空気流量AFSREALと給気圧力比PRとの両方の値を用いているため、回転速度Ntrtの値が一意に特定される。
【0059】
温度補正部6は、回転速度推定部5で得られた回転速度Ntrtに温度補正を加えるものである。すなわち、図2に示される実線グラフは、コンプレッサー9aの入口温度が基準温度Trtであるときの特性を示すものであり、入口温度が異なれば回転速度Ntrtも変化する。そこで温度補正部6は、入口温度に相当する外気温度THAに基づいて回転速度Ntrtの補正するための補正係数kを演算し、この補正係数kを回転速度Ntrtに乗じた値を最終的なターボチャージャー回転数Ntとして求める。なお、ここでは外気温度THAとコンプレッサー9aの入口温度との相関に着目して、入口温度の代わりに外気温度THAを用いて補正係数kを演算している。
【0060】
本実施形態では、補正係数kが、回転速度推定部5における回転速度Ntrtの推定に係る基準温度Trtに対する外気温度THAの絶対温度の比の平方根として与えられる。したがって、ターボチャージャー回転数Ntは、以下の式4で与えられる。
【0061】
【数4】

【0062】
[3.フローチャート]
エンジン制御装置1で実施されるコンプレッサー9aの回転速度を推定する演算を実施するためのフローチャートを図3に例示し、この演算内容を図式化したブロック図を図4に例示する。図3のフローは、エンジン制御装置1内で所定の周期で繰り返し実施される。
【0063】
ステップA10では、入口圧力推定部2において入口圧力Paが推定される。入口圧力推定部2には、例えば図4中に示すように、車種に応じてエアフローセンサー13の出力特性が異なる場合があることを考慮して、エアフローセンサー13の出力特性に応じた複数の圧力低下量マップを車種毎に設定しておく。それぞれの圧力低下量マップには、空気流量AFSREALが増大するほど圧力低下量f1(AFSREAL)が負の範囲で減少するように、空気流量AFSREALと圧力低下量f1(AFSREAL)との相関関係が記述される。
【0064】
入口圧力推定部2は、例えば車種毎に予め設定された特性番号(AFS特性No.)に基づいて、適切な圧力低下量マップを選択する。また、この圧力低下量マップとエアフローセンサー13から伝達される空気流量AFSREALの値とから圧力低下量f1(AFSREAL)の値を演算し、これに大気圧力PATMを加えたものを入口圧力Paとして算出する。
【0065】
ステップA20では、出口圧力推定部3において出口圧力Pciが推定される。出口圧力推定部3には、例えば図4中に示すように、エアフローセンサー13の出力特性に応じた複数の圧力差マップを設定しておく。それぞれの圧力差マップには、空気流量AFSREALが増大するほど圧力差f2(AFSREAL)が増大するように、空気流量AFSREALと圧力差f2(AFSREAL)との相関関係が記述される。
【0066】
出口圧力推定部3は、車種毎に予め設定された特性番号(AFS特性No.)に基づいて適切な圧力差マップを選択し、この圧力差マップと空気流量AFSREALの値とから圧力差f2(AFSREAL)の値を演算し、これにインマニ圧力PIMを加えたものを出口圧力Pciとして算出する。
【0067】
ステップA30では、圧力比算出部4において給気圧力比PRが算出される。ここでは、例えば上記の式3に従って、出口圧力Pciを入口圧力Paで除した値が給気圧力比PRとして算出される。
【0068】
ステップA40では、回転速度推定部5において、エアフローセンサー13で検出された質量流量AFSREALが体積流量QREALに変換される。回転速度推定部5には、例えば図4中に示すように、空気の圧力と温度と密度ρとの関係が記述された空気密度マップを設定しておく。回転速度推定部5はこの空気密度マップを用いて、入口圧力推定部2で推定された入口圧力Paと外気温度センサー12で検出された外気温度THAとに基づき、コンプレッサー9aに流入した空気の密度ρを算出し、空気流量AFSREALを密度ρで除算して体積流量QREALを算出する。
【0069】
ステップA50では、回転速度推定部5において、コンプレッサー9aの回転速度Ntrtが推定される。回転速度推定部5には、図4中に示すように、給気圧力比PRと体積流量QREALと回転速度Ntrtとの関係が記述された回転数マップを設定しておく。回転速度推定部5はこの回転数マップを用いて、圧力比算出部4で算出された給気圧力比PRと上記の体積流量QREALとに基づき、コンプレッサー9aの回転速度Ntrtを推定する。
【0070】
ステップA60では、温度補正部6において、上記の回転速度Ntrtの推定値が補正される。温度補正部6には、例えば図4中に示すように、外気温度THAと補正係数kとの関係が記述された補正係数マップを設定しておく。温度補正部6は、この温度補正マップを用いて補正係数kを演算し、補正係数kと回転速度Ntrtとの乗算値をターボチャージャー回転数Nt(T/C回転数)として算出する。なお、温度補正マップを用いる代わりに、上記の式4を用いてターボチャージャー回転数Ntを算出する構成としてもよい。
【0071】
[4.作用,効果]
(1)このように、上記のエンジン制御装置1では、図2に示すような特性を利用して、給気圧力比PRと空気の体積流量QREALとから、コンプレッサー9aの回転速度Ntrtが推定される。給気圧力比PRと空気の体積流量QREALとの二つのパラメーターを用いて回転速度Ntrtを推定することにより、給気圧力比PRのみを用いた推定手法と比較して、コンプレッサー9aの回転速度を精度よく求めることができる。
【0072】
例えば、図2に示すように、給気圧力比PRが一定値PRAであったとしても、体積流量QREALが異なれば実際の回転速度Ntrtの値は変動する。このような変動を、従来の手法では把握することができないのに対して、上記のエンジン制御装置1では正確に把握することができる。したがって、ターボチャージャー9の制御性を向上させることができ、延いては、ターボチャージャー回転速度Ntを参照する他の制御(例えば、エンジンの出力制御や排気還流制御,排気浄化制御等)の制御の精度を高めることができる。
【0073】
また、上記の制御はコンプレッサー9aの回転速度Ntrtを把握するための新たな手法であり、例えば回転速度センサーや角速度センサーといった従来のセンサー類を廃止することができる。したがって、ターボチャージャー9の制御に係るコストやこれを搭載した車両の製造コストを削減することができ、生産性を向上させることができる。
【0074】
一方、これらの従来のセンサー類を併用することも可能である。すなわち、各センサーでの回転速度の検出値を本制御装置による回転速度の推定値と比較することで、各センサーの検出精度判定や故障判定を行うことができる。また、本制御装置による回転速度の推定演算を各センサーのバックアップとして用いることも可能であるだけでなく、各センサーを本制御装置のバックアップとして機能させることも可能である。
このように、回転速度Ntを取得するためのプロセスが異なる二種類の手法を併用することで、それぞれの制御の信頼性をともに向上させることができる。
【0075】
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、コンプレッサー9aに流入する空気の温度による体積変化が回転数の補正演算に反映されている。すなわち、外気温度センサー12で外気温度THAを検出し、これをコンプレッサー9aの入口温度に相当する温度とみなしてコンプレッサー9aの回転速度Ntrtを補正している。このような補正演算により、ターボチャージャー回転速度Ntの推定精度を向上させることができる。
【0076】
(3)また、上記のエンジン制御装置1では、回転速度推定部5において、質量流量として検出された空気流量AFSREALが体積流量QREALに変換されている。すなわち、コンプレッサー9aの入口圧力Paや出口圧力Pciの推定では質量流量を用いた推定を実施し、回転速度Ntrtの推定では体積流量を用いた推定が実施される。このように、推定対象に応じて質量流量と体積流量とを変換することにより、ターボチャージャー回転速度Ntの推定精度を向上させることができる。
【0077】
(4)また、上記のエンジン制御装置1では、大気圧力センサー11で検出された大気圧力PATMを基準とし、コンプレッサー9aよりも吸気通路8の上流側に配置されたエアフローセンサー13で検出された空気流量AFSREALを用いてコンプレッサー9aの上流圧力Paを推定している。このような演算により、コンプレッサー9aに流入する空気の圧力を精度よく求めることができ、延いては、ターボチャージャー回転速度Ntの推定精度を向上させることができる。
【0078】
(5)さらに、上記のエンジン制御装置1では、空気流量AFSREALに基づいてコンプレッサーよりも上流側の吸気系の圧力損失(第一圧力損失)を推定している。このような推定演算により、例えば吸気通路8の形状やエアクリーナー等による給気の圧力損失の大小に関わらず、コンプレッサー9aに流入する空気の圧力を正確に精度よく求めることができる。特に、大気圧力PATMをそのまま入口圧力Paとして使用するような従来の手法と比較すると、格段に入口圧力Paの推定精度を高めることができ、ターボチャージャー回転速度Ntの推定精度を向上させることができる。
【0079】
(6)また、上記のエンジン制御装置1では、エアフローセンサー13の出力特性に応じた複数の圧力低下量マップが車種毎に設定されている。これにより、異なる車種に対して同一のデータセットを適用することが容易となり、コストを削減することができる。
【0080】
(7)また、上記のエンジン制御装置1では、エンジン10のインマニ圧力PIMを基準とし、空気流量AFSREALを用いてコンプレッサー9aの出口圧力Pciを推定している。この空気流量AFSREALの値には、例えば還流路34を流れるEGRガスの流量変化による影響や外乱の影響が反映されており、すなわち、空気流量AFSREALはコンプレッサー9aから実際に吐出された空気の圧力と密接に関連して変化する。したがって、空気流量AFSREALを用いた演算を実施することで、コンプレッサー9aの出口圧力Pciを正確に精度よく求めることができ、ターボチャージャー回転速度Ntの推定精度を向上させることができる。
【0081】
(8)さらに、上記のエンジン制御装置1では、コンプレッサー9aよりも下流側の吸気系の圧力損失(第二圧力損失)と空気流量AFSREALとの相関関係を利用して、コンプレッサー9aの出口圧力Pciを推定している。この第二圧力損失は、コンプレッサー9aよりも下流側の空気流量AFSREALに基づいて演算されるため、EGRガスの流量や外乱の有無に依らない正確な値となる。したがって、コンプレッサー9aの出口圧力Pciを正確に精度よく求めることができ、ターボチャージャー回転速度Ntの推定精度を向上させることができる。
【0082】
[5.変形例]
上述の実施形態では、コンプレッサー9aの出口とインマニ26との間で生じる第二圧力損失と空気流量との相関を利用して出口圧力Pciを推定するものを例示したが、出口圧力Pciの推定手法はこれに限定されない。例えば、ターボチャージャー9のブースト圧力(過給圧力)とインマニ圧力PIMとの関係を予め数式やマップとして記憶しておき、インマニ圧力センサー14で検出されたインマニ圧力PIMから出口圧力Pciの推定値を演算してもよい。あるいは、インマニ温度センサー15で検出されたインマニ温度TIMを加味して出口圧力Pciの推定値を演算してもよい。
【0083】
この場合、図5に示すように、出口圧力推定部3にはインマニ圧力PIM及びインマニ温度TIMと出口圧力Pciとの関係を記述した出口圧力マップを設定しておく。この出口圧力マップでは、例えばインマニ圧力PIMが増大するほど出口圧力Pciも増大し、インマニ温度TIMが上昇するほど出口圧力Pciも増大するような相関関係が記述される。このような出口圧力マップを用いて、出口圧力推定部3は、インマニ圧力PIM及びインマニ温度TIMに基づき、出口圧力Pciを推定する構成とすることが考えられる。
【0084】
このような構成においても、上述の実施形態と同様に、コンプレッサー9aの出口圧力Pciを正確に精度よく求めることができ、ターボチャージャー9の回転速度Ntの推定精度を向上させることができる。また、推定される出口圧力Pciの値には、コンプレッサー9aよりも下流側の吸気系の温度が反映され、すなわち空気の密度が出口圧力Pciに与える影響が考慮されている。したがって、精度の高い出口圧力Pciを取得することができる。
【0085】
また、上述の実施形態では、コンプレッサー9aの入口圧力Pa及び出口圧力Pciのそれぞれの推定値を演算するものを例示したが、コンプレッサー9aの上流側及び下流側のそれぞれに圧力センサーを設けて、入口圧力Pa,出口圧力Pciを検出する構成としてもよい。すなわち、コンプレッサー9aの入口圧力Paや出口圧力Pciを吸気通路8内の直上流,直下流で直接検出する構成とする。この場合、より正確な給気圧力比PRを算出することができ、ターボチャージャー回転速度Ntの推定精度を向上させることができる。
【0086】
また、上述の実施形態では、外気温度THAを用いて体積流量QREALや補正係数kを演算するものを例示したが、外気温度THAの代わりにコンプレッサー9aに流入する吸気の温度(入口温度)を用いて体積流量QREALや補正係数kを演算してもよい。つまり、コンプレッサー9aの入口温度を直接取得する入口温度センサーを上流吸気通路8a内に設けてもよい。このような構成により、入口圧力Paの推定精度をさらに向上させることができる。
【0087】
また、上述の実施形態では、排気圧力を利用して過給するターボチャージャー9のコンプレッサー9aの回転速度を算出するものを例示したが、本件の適用対象となる過給機の種類はターボチャージャーに限定されない。例えば、スーパーチャージャーや電動過給機等への適用も可能である。少なくとも、コンプレッサー9aに相当する圧縮機を有する過給機であれば、上記のエンジン制御装置1を適用することで、精度よく回転速度を推定することができる。
【0088】
また、上述の実施形態では、多気筒のディーゼルエンジン10に適用されたターボチャージャー9を制御する制御装置を例示したが、本制御装置の制御対象となる過給機の適用対象はエンジン10の燃焼形式や気筒数に限定されない。例えば、ガソリンエンジンに適用されたターボチャージャー9の制御装置に対して、上述の実施形態の制御を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 エンジン制御装置
2 入口圧力推定部(入口圧力推定手段)
3 出口圧力推定部(出口圧力推定手段)
4 圧力比算出部(圧力比算出手段)
5 回転速度推定部(推定手段)
6 温度補正部
8 吸気通路
8a 上流吸気通路
8b 下流吸気通路
9 ターボチャージャー(過給機)
9a コンプレッサー
9b タービン
11 大気圧力センサー(大気圧力検出手段)
12 外気温度センサー(入口温度取得手段)
13 エアフローセンサー(流量検出手段)
14 インマニ圧力センサー(インマニ圧力検出手段)
15 インマニ温度センサー(インマニ温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気系に搭載された過給機の制御装置において、
前記過給機のコンプレッサーに吸入される空気流量を検出する流量検出手段と、
前記コンプレッサーの入口圧力に対する出口圧力の比を給気圧力比として算出する圧力比算出手段と、
前記流量検出手段で検出された前記空気流量及び前記圧力比算出手段で算出された前記給気圧力比に基づき、前記コンプレッサーの回転速度を推定する推定手段と
を備えたことを特徴とする、過給機の制御装置。
【請求項2】
前記コンプレッサーの入口温度を取得する入口温度取得手段を備え、
前記推定手段が、前記入口温度取得手段で取得された前記入口温度に基づき、前記コンプレッサーの回転速度を補正する
ことを特徴とする、請求項1記載の過給機の制御装置。
【請求項3】
前記流量検出手段が、前記空気流量を質量流量として検出し、
前記推定手段が、前記入口温度と前記入口圧力とに基づいて前記質量流量を体積流量に換算するとともに、前記体積流量を用いて前記コンプレッサーの回転速度を推定する
ことを特徴とする、請求項2記載の過給機の制御装置。
【請求項4】
大気圧力を検出する大気圧力検出手段と、
前記大気圧力検出手段で検出された前記大気圧力及び前記流量検出手段で検出された前記空気流量に基づき、前記入口圧力を推定する入口圧力推定手段とを備えた
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の過給機の制御装置。
【請求項5】
前記入口圧力推定手段が、前記空気流量に基づいて前記コンプレッサーよりも上流側の吸気系の圧力損失である第一圧力損失を推定するとともに、前記大気圧力から前記第一圧力損失を減じたものを前記入口圧力として推定する
ことを特徴とする、請求項4記載の過給機の制御装置。
【請求項6】
前記入口圧力推定手段が、吸気系の構造が異なる車種毎に予め設定された、前記大気圧力,前記空気流量及び前記第一圧力損失の相関関係を用いて前記入口圧力を推定する
ことを特徴とする、請求項4又は5記載の過給機の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関のインマニ圧力を検出するインマニ圧力検出手段と、
前記インマニ圧力検出手段で検出された前記インマニ圧力及び前記流量検出手段で検出された前記空気流量に基づき、前記コンプレッサーの出口圧力を推定する出口圧力推定手段とを備えた
ことを特徴とする。請求項1〜6の何れか1項に記載の過給機の制御装置。
【請求項8】
前記出口圧力推定手段が、前記空気流量に基づいて前記コンプレッサーよりも下流側の吸気系の圧力損失である第二圧力損失を推定するとともに、前記第二圧力損失と前記インマニ圧力との加算値を前記出口圧力として推定する
ことを特徴とする、請求項7記載の過給機の制御装置。
【請求項9】
前記内燃機関のインマニ温度を検出するインマニ温度検出手段を備え、
前記出口圧力推定手段が、前記インマニ温度検出手段で検出された前記インマニ温度に基づき、前記出口圧力の推定値を補正する
ことを特徴とする、請求項7又は8記載の過給機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53546(P2013−53546A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191727(P2011−191727)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】