説明

過負荷保護装置

【課題】回転の伝達が遮断された状態を保持するとともに、押圧力を伝達する経路に起因する振動や騒音を防止し、作動トルクを正確に設定することができ、保持機構も確実に動作する過負荷保護装置を提供すること。
【解決手段】センタフランジ110とハブフランジ131と鋼球120を押圧して回転伝達する押圧プレート140を備えた過負荷保護装置において、過負荷時の遮断を保持する保持機構165が、押圧プレート140のセンタフランジ110側に設けられたトリップリング146と、センタフランジ110の内周側に配置された保持ボール145から構成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転トルクの伝達機構において過負荷が生じた場合に回転の伝達を遮断する過負荷保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転トルクの伝達機構において過負荷が生じた場合に回転の伝達を遮断する過負荷保護装置として、回転軸方向に設けられた複数の貫通孔にトルク伝達素子を保持するセンタフランジと、該センタフランジと軸方向対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子と係合する凹部を有するハブフランジと、該ハブフランジと軸方向反対側で前記センタフランジと対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子を前記ハブフランジ方向に押圧する押圧プレートを備えた過負荷保護装置が知られている。
【0003】
これらの過負荷保護装置500は、図7に示すように、センタフランジ510には回転軸方向に設けられた複数の貫通孔511が設けられており、該貫通孔511内にトルク伝達素子である鋼球520が遊嵌されている。
そして、ハブ530にはセンタフランジ510と回転軸方向に対向してハブフランジ531が設けられ、該ハブフランジ531には鋼球520が収納される円錐状の凹部であるVポケット532が設けられている。
【0004】
一方、ハブフランジ531と回転軸方向反対側でセンタフランジ510と対向して押圧プレート540が設けられており、押圧プレート540はバネ550によってセンタフランジ510方向に押圧されている。
なお、バネ550は抑え部材560に設けられた調整ネジ561よってその押圧が調整可能に構成されている。
また、押圧プレート540には鋼球520に直接接触する押圧輪541がベアリング542を介して回転可能に取り付けられており、過負荷時に押圧プレート540と鋼球520が相対回転した時の摩擦を軽減している。
【0005】
このように構成された従来の過負荷保護装置500の動作を説明すると、通常の回転伝達時には、鋼球520が、押圧プレート540、ベアリング542及び押圧輪541を介してバネ550によりハブフランジ531方向に押圧されているため、ハブ530の回転がハブフランジ531のVポケット532から鋼球520に伝達され、さらに、鋼球520から貫通孔511を介してセンタフランジ510に伝達される。
【0006】
過負荷時には、図8に示すように、Vポケット532から鋼球520に伝達される回転トルクの回転軸方向の分力がバネ550の押圧力より大きくなり、鋼球520が押圧輪541をバネ550方向に押圧しながら移動してVポケット532より離脱し、ハブフランジ531からセンタフランジ510への回転の伝達が遮断されることにより、過大な負荷が伝達されることを防止している。(例えば、特許文献1、図8参照)
【0007】
しかしながら、このような従来の過負荷防止装置500は、回転の伝達が遮断された後も鋼球520は常にバネ550から押圧された状態であるため、入力回転が継続している場合、鋼球520がハブフランジ531のVポケット532と合致する(最低1回転に1度)毎に鋼球520がVポケット532に収納され再度回転が伝達されることとなるが、この時に、過負荷が解消していなければ再び上述したように回転の伝達が遮断され、大きな振動や騒音が発生し、過負荷保護装置の各構成部材の摩耗が進行するとともに破損の危険性も増大するという問題があった。
【0008】
このような問題に対処するため、過負荷時に押圧プレートが押圧力に抗して後退した状態を保持する保持機構を備えた過負荷保護装置が知られている。
この過負荷保護装置600は、図9に示すように、センタフランジ610には回転軸方向に設けられた複数の貫通孔611が設けられており、該貫通孔611内にトルク伝達素子である鋼球620が遊嵌されている。
そして、ハブ630にはセンタフランジ610と回転軸方向に対向してハブフランジ631が設けられ、該ハブフランジ631には鋼球620が収納される円錐状の凹部であるVポケット632が設けられている。
【0009】
一方、ハブフランジ631と回転軸方向反対側でセンタフランジ610と対向して押圧プレート640が設けられており、押圧プレート640は保持機構670を介してバネ650によってセンタフランジ610方向に押圧されている。
なお、バネ650は抑え部材660に設けられた調整部材(図示せず)よってその押圧が調整可能に構成されている。
【0010】
保持機構665は、バネ650に直接押圧される押圧スリーブ643、押圧スリーブ643に設けられた保持孔644に回転半径方向に出没自在に収納された保持ボール645及びハブ630の周方向に設けられ保持ボール645を収納可能な保持溝633から構成されている。
【0011】
このように構成された過負荷保護装置600の動作を説明すると、通常の回転伝達時には、保持機構665の保持ボール645は保持溝633に収納されない位置にあり、押圧スリーブ643の保持孔644の外周側に突出した状態になっており、鋼球620が、押圧スリーブ643、保持ボール645及び押圧プレート640を介してバネ650から伝達された押圧力によってハブフランジ631方向に押圧されているため、ハブ630の回転がハブフランジ631のVポケット632から鋼球620に伝達され、さらに、鋼球620から貫通孔611を介してセンタフランジ610に伝達される。
【0012】
過負荷時には、図10に示すように、Vポケット632から鋼球620に伝達される回転トルクの回転軸方向の分力がバネ650の押圧力より大きくなり、鋼球620が押圧プレート640をバネ650方向に押圧しながら移動してVポケット632より離脱し、ハブフランジ631からセンタフランジ610への回転の伝達が遮断されることにより、過大な負荷が伝達されることを防止している。
【0013】
この時、保持ボール645が保持溝633内に収納されることにより、保持スリーブ643の保持孔644外周側への突出がなくなり、押圧プレート640は保持孔644上に移動して保持ボール645からの押圧力もなくなる。
そして、バネ650の押圧力により保持スリーブ643が押圧されるが保持ボール645が保持溝633に係止され、保持ボール645は保持孔644上に移動した押圧プレート640により外周側に離脱不能となっているため、自動的に通常の回転伝達時の状態に復帰することはなく、回転が遮断された状態を保持することができる。(例えば、特許文献1、図8参照)
【特許文献1】特公平7−3253号公報(第2頁、第3頁、図1、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このような過負荷保護装置は、鋼球に対して伝達される押圧力が、バネから押圧スリーブ、保持ボール及び押圧プレートを介するものであり、多数の構成部材を経由しているため、振動や騒音を発生する原因となるという問題があった。
また、伝達経路中の構成部材が多く力の分散個所も多くなるため、強度、寸法精度、組立精度のばらつきや振動等による押圧力の変動が不可避となり、過負荷保護装置の作動トルクを正確に設定することが困難であり、また、保持機構自体の作動不良も発生しやすいという問題があった。
【0015】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、回転の伝達が遮断された状態を保持することにより大きな振動や騒音を防止し、各構成部材の摩耗や破損を防止するとともに、押圧力を伝達する経路に起因する振動や騒音を防止し、作動トルクを正確に設定することができ、保持機構も確実に動作する過負荷保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本請求項1に係る発明は、回転軸方向に設けられた複数の貫通孔にトルク伝達素子を保持するセンタフランジと、該センタフランジと回転軸方向に対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子と係合する凹部を有するハブフランジと、該ハブフランジと回転軸方向反対側で前記センタフランジと対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子を前記ハブフランジ方向に押圧する押圧プレートと、過負荷時に前記押圧プレートが押圧力に抗して後退した状態を保持する保持機構を備えた過負荷保護装置において、前記保持機構が、前記押圧プレートの前記センタフランジ側に設けられたトリップリングと、前記センタフランジの内周側に配置された保持ボールからなることにより、前記課題を解決するものである。
【0017】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載された過負荷保護装置の構成に加えて、前記ハブフランジが、前記保持ボールを回転軸の半径方向に摺動可能に案内するように構成され、前記センタフランジが、その内周面を円周に沿って波型に形成され、過負荷時に前記保持ボールを前記ハブフランジと前記トリップリングとの空間に押圧挿入するように構成されていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0018】
本請求項3に係る発明は、請求項2に記載された過負荷保護装置の構成に加えて、前記トリップリングが、前記押圧プレートから離れる方向に押圧されるとともに前記ハブフランジとの空間に押圧挿入された前記保持ボールを内周方向に押圧するテーパ形状の接触面を有することにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0019】
本請求項4に係る発明は、請求項2または請求項3に記載された過負荷保護装置の構成に加えて、前記保持ボールが、前記ハブフランジと前記トリップリングとの空間の内周側に設けられた保持ボール押圧手段により外周側に押圧されることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0020】
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載された過負荷保護装置の構成に加えて、前記ハブフランジが、前記保持ボールを移動範囲の外周側に保持する凹部を有し、前記トリップリングが、通常負荷時に前記保持ボールを前記ハブフランジ方向に押圧することにより前記保持ボールが保持されることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の過負荷保護装置は、回転軸方向に設けられた複数の貫通孔にトルク伝達素子を保持するセンタフランジと、該センタフランジと回転軸方向に対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子と係合する凹部を有するハブフランジと、該ハブフランジと回転軸方向反対側で前記センタフランジと対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子を前記ハブフランジ方向に押圧する押圧プレートと、過負荷時に前記押圧プレートが押圧力に抗して後退した状態を保持する保持機構を備えたことにより、回転の伝達が遮断された状態を保持することができ、伝達、遮断を繰り返すことによる大きな振動や騒音を防止し、各構成部材の摩耗や破損を防止するとともに、以下のような格別の効果を奏することができる。
【0022】
すなわち、本請求項1に係る発明の過負荷保護装置は、前記保持機構が、前記押圧プレートの前記センタフランジ側に設けられたトリップリングと、前記センタフランジの内周側に配置された保持ボールからなることにより、押圧プレートを押圧するバネからトルク伝達素子にいたる押圧力を伝達する経路を少ない構成部材でかつ直線的に構成できるため、押圧力を伝達する経路に起因する振動や騒音を防止し、作動トルクを正確に設定することができる。
【0023】
そして、本請求項2に係る発明の過負荷保護装置は、請求項1に係る過負荷保護装置が奏する効果に加えて、前記ハブフランジが、前記保持ボールを回転軸の半径方向に摺動可能に案内するように構成され、前記センタフランジが、その内周面を円周に沿って波型に形成され、過負荷時に前記保持ボールを前記ハブフランジと前記トリップリングとの空間に押圧挿入するように構成されていることにより、回転の伝達が遮断されハブフランジとセンタフランジが相対的に回転することで保持ボールが迅速かつ確実に押圧プレートのトリップリングとハブフランジの間に挿入されるため、迅速かつ確実に保持機構を作動させることができる。
【0024】
また、本請求項3に係る発明の過負荷保護装置は、請求項2に係る過負荷保護装置が奏する効果に加えて、前記トリップリングが、前記押圧プレートから離れる方向に押圧されるとともに前記ハブフランジとの空間に押圧挿入された前記保持ボールを内周方向に押圧するテーパ形状の接触面を有することにより、押圧プレートにトルク伝達素子との摩擦による変位や振動が発生しても、保持ボールが外周方向に外れることなく確実に保持されるため、保持機構の動作がより確実に維持できるとともに、保持ボールの振動等による騒音を防止できる。
【0025】
また、本請求項4に係る発明の過負荷保護装置は、請求項2または請求項3に係る過負荷保護装置が奏する効果に加えて、前記保持ボールが、前記ハブフランジと前記トリップリングとの空間の内周側に設けられた保持ボール押圧手段により外周側に押圧されることにより、押圧プレート及びトリップリンクの押圧力をわずかに解除するのみで、保持ボール押圧手段により保持ボールを外周方向に簡単に外すことができ、保持機構の解除の動作を確実に行うことができる。
【0026】
また、本請求項5に係る発明の過負荷保護装置は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに係る過負荷保護装置が奏する効果に加えて、前記ハブフランジが、前記保持ボールを移動範囲の外周側に保持する凹部を有し、前記トリップリングが、通常負荷時に前記保持ボールを前記ハブフランジ方向に押圧することにより前記保持ボールが保持されることにより、通常の回転伝達時における保持ボールの位置が固定され保持ボールの振動による騒音を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の過負荷保護装置は、回転軸方向に設けられた複数の貫通孔にトルク伝達素子を保持するセンタフランジと、該センタフランジと回転軸方向に対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子と係合する凹部を有するハブフランジと、該ハブフランジと回転軸方向反対側で前記センタフランジと対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子を前記ハブフランジ方向に押圧する押圧プレートと、過負荷時に前記押圧プレートが押圧力に抗して後退した状態を保持する保持機構を備えた過負荷保護装置において、前記保持機構が、前記押圧プレートの前記センタフランジ側に設けられたトリップリングと、前記センタフランジの内周側に配置された保持ボールからなり、回転の伝達が遮断された状態を保持することにより大きな振動や騒音を防止し、各構成部材の摩耗や破損を防止するとともに、押圧力を伝達する経路に起因する振動や騒音を防止し、作動トルクを正確に設定することができ、保持機構も確実に動作するという効果を発揮するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0028】
すなわち、本発明の過負荷保護装置は、回転を伝達する用途であれば、如何なる機器、いかなる使用条件で使用されても良く、特に高速回転での使用に好適である。
また、本発明の押圧プレートの押圧力は、皿バネにより発生させるものでも良く、コイルばねにより発生させるものでも良い。
本発明のトルク伝達素子の形状は、センタフランジの貫通孔内を進退可能なものであれば、ピン状のものでも良く、球体であっても良い。
また、本発明のトルク伝達素子の材質は、高トルクを伝達でき衝撃や摩耗に対する耐久性があれば、金属、セラミック、合成樹脂等如何なるものであっても良く、硬度、耐久性コストを考慮すると鋼球を用いるのが好適である。
【0029】
さらに、本発明のハブフランジに設けられる凹部の形状は、トルク伝達素子からトルクが伝達されるとともにトルク伝達素子が離脱する方向に分力を発生する形状であればいかなる形状であっても良く、例えば略半球状であっても良く、円錐状(断面V字状)であっても良い。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例である過負荷保護装置について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例である過負荷保護装置の軸方向断面図であり、図2は、図1のB−B上の軸直角方向の断面図であり、図3は、図1の回転伝達時の一部拡大した説明図であり、図4は、図1の過負荷時の一部拡大した説明図であり、図5は、本発明の他の実施例である過負荷保護装置のハブフランジの軸方向断面図であり、図6は、図5の過負荷保護装置のB−B上の軸直角方向の断面図である。
なお、図1、図3及び図4は、図2のA−A切断線での断面図である。
【0031】
本発明の実施例である過負荷保護装置100は、図1に示すように、センタフランジ110には回転軸方向に設けられた複数の貫通孔111が設けられており、該貫通孔111内にトルク伝達素子である鋼球120が遊嵌されている。
そして、ハブ130にはセンタフランジ110と回転軸方向に対向してハブフランジ131が設けられ、該ハブフランジ131には鋼球120が収納される円錐状の凹部であるVポケット132が設けられている。
また、ハブ130の外周には軸受172を介してドリブンフランジ170が回転可能に設けられてセンタフランジ110とボルト173で締結されている。
【0032】
一方、ハブフランジ131と回転軸方向反対側でセンタフランジ110と対向して押圧プレート140が設けられており、押圧プレート140はバネ150によってセンタフランジ110方向に押圧されている。
なお、バネ150は抑え部材160に設けられた調整ネジ161よってその押圧が調整可能に構成されている。
また、押圧プレート140には鋼球120に直接接触する押圧輪141がベアリング142を介して回転可能に取り付けられており、過負荷時に押圧プレート140と鋼球120が相対回転した時の摩擦を軽減している。
【0033】
保持機構165は、図1、図2に示すように、センタフランジ110の内周側に配置された保持ボール145と、押圧プレート140に設けられセンタフランジ110方向にトリップリング押圧バネ147で付勢されるように設けられたトリップリング146と、ハブ130に設けられた保持ボール案内溝136と、保持ボール145を外周側に押圧する保持ボール押圧手段134と、ハブフランジ131に設けられた保持ボール145を移動範囲の外周側に保持する保持ボールVポケット135と、円周に沿って波型に形成されたセンタフランジ110の内周面112から構成されている。
【0034】
このように構成された過負荷保護装置100の動作を説明すると、通常の回転伝達時には、図1乃至図3に示すように、鋼球120が、押圧プレート140、ベアリング142及び押圧輪141を介してバネ150によりハブフランジ131方向に押圧されているため、ハブ130の回転がハブフランジ131のVポケット132から鋼球120に伝達され、さらに、鋼球120から貫通孔111を介してセンタフランジ110に伝達されて、ドリブンフランジ170へと回転が伝達される。
【0035】
このとき、保持ボール145はハブ130に設けられた保持ボール案内溝136の外周側にあり、トリップリング146に押圧されてハブフランジ131に設けられた保持ボールVポケット135に収容されており、押圧プレート140を押圧するバネ150から鋼球120にいたる押圧力を伝達する経路を少ない構成部材でかつ直線的に構成できるため、押圧力を伝達する経路に起因する振動や騒音を防止し、作動トルクを正確に設定することができる。
【0036】
過負荷時には、図4に示すように、Vポケット132から鋼球120に伝達される回転トルクの回転軸方向の分力がバネ150の押圧力より大きくなり、鋼球120が押圧プレート140をバネ150方向に押圧しながら移動してVポケット132より離脱し、ハブフランジ131からセンタフランジ110への回転の伝達が遮断されることにより、過大な負荷が伝達されることを防止している。
【0037】
この時、トリップリング146も押圧プレート140とともに移動し、保持ボール145を保持ボールVポケット135に押圧する押圧力が解除されるとともに、ハブフランジ131とセンタフランジ110が相対回転することにより、保持ボール145は、円周に沿って波型に形成されたセンタフランジ110の内周面112によって押圧されてハブ130に設けられた保持ボール案内溝136に沿って内周側に移動する。
【0038】
内周側に移動した保持ボール145が、トリップリング146がハブフランジ131側に移動することを阻止し押圧プレート140の移動を阻止することにより、鋼球120が再びVポケット132に収容されることがなくなり、回転の伝達の遮断状態を保持する。
【0039】
さらに、トリップリング146の保持ボール145との接触面148は、保持ボール145を内周方向に押圧するテーパ形状とされているため、遠心力や振動等で保持ボール145が外周方向に移動することはなく確実に保持されるため、保持機構の動作がより確実に維持できるとともに、保持ボールの振動等による騒音を防止できるなど、その効果は甚大である。
【0040】
回転の伝達の遮断状態から通常状態に復帰させる際は、まず、鋼球120とVポケット132の位相を合致させた状態で押圧プレート140をバネ150の押圧力に抗してセンタフランジ110から離れる方向にわずか移動させ、保持ボール145に対するトリップリング146の押圧力を解除して、ハブ130に設けられた保持ボール押圧手段134により保持ボール145をハブ130に設けられた保持ボール案内溝136に沿って外周側に移動させる。
【0041】
そして、押圧プレート140を開放すると、鋼球120は押圧プレート140に押圧され再びVポケット132に収容されて、回転伝達可能な状態に復帰する。
このとき、保持ボール145も再びトリップリング146に押圧されてハブフランジ131に設けられた保持ボールVポケット135に収容され、簡単に保持機構の解除の動作を確実に行うことができる。
【0042】
以上の実施例では、ハブ130に設けられた保持ボール案内溝136はハブ130に軸方向の厚みを持つ部分を形成して保持ボール145を収容する形状としているが、保持ボール145の移動を回転半径方向のみに規制できるものであれば、図5、図6に示すように、ハブ130に厚みを持たせることなく、ハブフランジ131に細い保持ボール案内溝137を設けてもよい。
また、保持ボール押圧手段134は、バネ等の機械的手段であっても、流体圧や電磁力を用いたアクチュエータ手段であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例である過負荷保護装置の軸方向断面図。
【図2】図1のB−B上の軸直角方向の断面図。
【図3】図1の回転伝達時の一部拡大した説明図。
【図4】図1の過負荷時の一部拡大した説明図。
【図5】本発明の他の実施例である過負荷保護装置のハブフランジの軸方向断面図。
【図6】図5の過負荷保護装置のB−B上の軸直角方向の断面図。
【図7】従来の過負荷保護装置の軸方向断面図。
【図8】図7の従来の過負荷保護装置の過負荷時の軸方向断面図。
【図9】従来の他の過負荷保護装置の軸方向断面図。
【図10】図9の従来の他の過負荷保護装置の過負荷時の軸方向断面図。
【符号の説明】
【0044】
100,500,600 ・・・過負荷保護装置
110,510,610 ・・・センタフランジ
111,511,611 ・・・貫通孔
112 ・・・波型内周面
120,520,620 ・・・鋼球
130,530,630 ・・・ハブ
131,531,631 ・・・ハブフランジ
132,532,632 ・・・Vポケット
633 ・・・保持溝
134 ・・・保持ボール押圧手段
135 ・・・保持ボールVポケット
136 ・・・保持ボール案内溝
137 ・・・保持ボール案内溝
140,540,640 ・・・押圧プレート
141,541 ・・・押圧輪
142,542 ・・・ベアリング
643 ・・・押圧スリーブ
644 ・・・保持孔
145, 645 ・・・保持ボール
146 ・・・トリップリング
147 ・・・トリップリング押圧バネ
148 ・・・接触面
150,550,650 ・・・バネ
160,560,660 ・・・抑え部材
161,561 ・・・調整ネジ
165, 665 ・・・保持機構
170 ・・・ドリブンフランジ
172 ・・・軸受
173 ・・・ボルト



【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸方向に設けられた複数の貫通孔にトルク伝達素子を保持するセンタフランジと、該センタフランジと回転軸方向に対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子と係合する凹部を有するハブフランジと、該ハブフランジと回転軸方向反対側で前記センタフランジと対向して設けられるとともに前記トルク伝達素子を前記ハブフランジ方向に押圧する押圧プレートと、過負荷時に前記押圧プレートが押圧力に抗して後退した状態を保持する保持機構を備えた過負荷保護装置において、
前記保持機構が、前記押圧プレートの前記センタフランジ側に設けられたトリップリングと、前記センタフランジの内周側に配置された保持ボールからなることを特徴とする過負荷保護装置。
【請求項2】
前記ハブフランジが、前記保持ボールを回転軸の半径方向に摺動可能に案内するように構成され、
前記センタフランジが、その内周面を円周に沿って波型に形成され、過負荷時に前記保持ボールを前記ハブフランジと前記トリップリングとの空間に押圧挿入するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の過負荷保護装置。
【請求項3】
前記トリップリングが、前記押圧プレートから離れる方向に押圧されるとともに前記ハブフランジとの空間に押圧挿入された前記保持ボールを内周方向に押圧するテーパ形状の接触面を有することを特徴とする請求項2に記載の過負荷保護装置。
【請求項4】
前記保持ボールが、前記ハブフランジと前記トリップリングとの空間の内周側に設けられた保持ボール押圧手段により外周側に押圧されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の過負荷保護装置。
【請求項5】
前記ハブフランジが、前記保持ボールを移動範囲の外周側に保持する凹部を有し、
前記トリップリングが、通常負荷時に前記保持ボールを前記ハブフランジ方向に押圧することにより前記保持ボールが保持されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の過負荷保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−257404(P2009−257404A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105518(P2008−105518)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000150800)株式会社ツバキエマソン (102)
【出願人】(506179929)ツバキ山久チエイン株式会社 (16)
【Fターム(参考)】