説明

遠心ポンプ

【課題】軸シール機構が不要で漏れのない遠心ポンプを提供する。
【解決手段】液体の流入口11及び流出口を備えたポンプ室12を形成するケーシング10と、ポンプ室12の内部に配設されてピボット軸受20により回転可能に支持されている羽根車30と、羽根車30に内蔵させた永久磁石41を隔壁越しに回転駆動させる磁気カップリング装置40とを備え、ケーシング10に対して回転軸線方向に支持されている羽根車30を磁気カップリング装置40により駆動し、流入口11を介して回転軸線方向から導入した液体に圧力を与えて流出口から半径方向へ送出するように構成されたシールレス型の遠心ポンプ1において、磁気カップリング装置40が羽根車回転面から回転軸中心へ向けて流入口11側へ傾斜する線上に配置され、羽根車30の回転中心に回転軸線方向の貫通孔33が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気カップリングにより羽根車を駆動して液体に圧力を与える遠心ポンプに係り、特に、微粒子を含む薬液等の液体や固着しやすい薬液等の液体に好適な遠心ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なポンプは、ポンプ室内の流体が軸部から外部へ漏出することを防止するために、そして、外部から空気等を吸い込むことを防止するために、軸シール機構(軸封装置)を有している。軸シール機構としては、グランドパッキン、ラビリンス、メカニカルシール等が実用化されており、ポンプの運転環境やコスト等により選定されている。
また、上述したポンプの中には遠心ポンプがあり、ケーシング内で羽根車を回転させることにより、流体に対して遠心力で半径方向に圧力エネルギーまたは速度エネルギーを与えるように構成されている。
【0003】
上述した遠心ポンプには、永久磁石がポンプロータの強磁性範囲へ半径方向に作用することで、ポンプロータを安定化させて回転駆動するものがある。(たとえば、特許文献1参照)
また、羽根車の軸部に永久磁石を設け、ケーシング側に設けた回転磁界を発生する駆動装置により羽根車を回転させる人工心臓用遠心ポンプが知られている。この場合、羽根車はピボット軸受により支持されており、ピボット軸及びピボット受けの材質には、たとえばセラミックスと超高分子量ポリエチレンとの組合せのように、硬度の異なる材質を選択することが開示されている。(たとえば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2869886号公報
【特許文献2】特開2002−349482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、軸シール機構を備えた遠心ポンプは、軸シール部品からの漏れ発生、摩耗や摩擦の発生、及び耐熱温度や耐圧の制限といった問題を有している。このため、軸シール機構が不要で、しかも漏れのない遠心ポンプの開発が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軸シール機構が不要で漏れのない遠心ポンプを提供することにある。特に、本発明の目的は、微粒子を含む薬液等の液体や固着しやすい薬液等の液体に好適であり、しかも、容易に小型化できる構造の遠心ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る遠心ポンプは、液体の流入口及び流出口を備えたポンプ室を形成するケーシングと、前記ポンプ室の内部に配設されてピボット軸受により回転可能に支持されている羽根車と、前記羽根車に内蔵させた永久磁石を隔壁越しに回転駆動させる磁気カップリング装置とを備え、前記ケーシングに対して回転軸線方向に支持されている前記羽根車を前記磁気カップリング装置により駆動し、前記流入口を介して回転軸線方向から導入した液体に圧力を与えて前記流出口から半径方向へ送出するように構成されたシールレス型の遠心ポンプにおいて、前記ピボット軸受が、前記羽根車の回転軸中心に位置するピボット軸と、前記流入口の軸中心線上で前記ピボット軸を両側から支持する2点支持の軸受部とを備え、前記磁気カップリング装置が、羽根車回転面から回転軸中心へ向けて前記流入口側へ傾斜する線上に配置され、かつ、前記羽根車の回転中心に回転軸線方向の貫通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
このような本発明の遠心ポンプによれば、ピボット軸受が、羽根車の回転軸中心に位置するピボット軸と、流入口の軸中心線上でピボット軸を両側から支持する2点支持の軸受部とを備え、磁気カップリング装置が、羽根車回転面から回転軸中心へ向けて流入口側へ傾斜する線上に配置され、かつ、羽根車の回転中心に回転軸線方向の貫通孔が形成されているので、羽根車の回転軸線方向においては、羽根車の両面に対称な2次流れが形成されるようになり、従って、軸スラスト力をバランスさせてピボット軸受の負荷を軽減することができる。
【0008】
上記の発明において、前記ピボット軸受は、少なくとも前記ビボット軸の一部が前記羽根車より前記流入口側へ突出していることが好ましく、これにより、流速の高い流入口側に設置されたピボット軸受は、流入口から導入される流体により効率よく冷却される。
【発明の効果】
【0009】
上述した本発明によれば、磁気カップリング装置を回転軸中心へ向けて流入口側へ傾斜する線上に配置し、2点支持のピボット軸受により羽根車を安定支持するとともに、羽根車の回転中心に回転軸線方向の貫通孔を形成したので、羽根車の両面には、回転軸線方向において両面に対称な2次流れが形成される。このため、羽根車及びピボット軸に作用する軸スラスト力は回転軸線方向においてバランスするので、安定した2点支持のピボット軸受に作用する負荷を軽減して、軸シール機構を用いることなく漏れのない小型の遠心ポンプを容易に提供することができる。
また、磁気カップリング装置により駆動されて軸シール機構のない遠心ポンプは、液体中の微粒子が破損しにくい構造及び液体が固着しにくい構造となるので、微粒子を含む薬液等の液体や固着しやすい薬液等の液体に好適なポンプとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る遠心ポンプの一実施形態を示す図で、(a)は縦断面図(回転軸線方向の断面図)、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】図1のピボット軸受を拡大して示す図である。
【図3】ピボット軸に作用するスラスト力及び羽根車の上下で対称な2次流れの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る遠心ポンプの一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す実施形態の遠心ポンプ1は、液体の流入口11及び流出口(不図示)を備えたポンプ室12を形成するケーシング10と、ポンプ室12の内部に配設されてピボット軸受20により回転可能に支持されている羽根車30と、羽根車30に内蔵させた永久磁石41をケーシング10の隔壁越しに回転駆動させる磁気カップリング装置40とを具備して構成される。
【0012】
ケーシング10は、羽根車30の回転軸中心と同軸の流入口11から液体を導入し、羽根車30の回転により昇圧するポンプ室12を形成している。ポンプ室12内で昇圧された液体は、ポンプ室12に設けられた流出口から羽根車30の半径方向へ送出される。すなわち、羽根車30は、ケーシング10のポンプ室12内において、流入口11の軸中心線と一致する回転軸となるピボット軸受20に支持されて回転する。図示の構成例では、羽根車30が水平面上で回転し、流入口11は、羽根車30の回転面(水平面)と直交する鉛直線上で、かつ、羽根車回転面の上方に配置されている。
【0013】
ピボット軸受20は、羽根車30の回転軸中心に位置するピボット軸21と、流入口11の軸中心線上でピボット軸21を両側から支持する2点支持の軸受部22,23とを備えている。これら一対の軸受部22,23は、いずれもケーシング10側に固定支持されている。
羽根車30側に支持部材24を介して固定支持されたピボット軸21には、たとえばアルミナセラミックスや浸炭窒化チタン合金等のように、低摩擦性能、水潤滑性能及び耐食性に優れた素材が採用されている。
一方、ケーシング10側に固定支持されている軸受部22,23には、たとえば超高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂材等のように、低摩擦性及び耐摩耗性に優れた素材が作用されている。
【0014】
また、ピボット軸受20は、凹型曲面を有する軸受部22,23が、略同形状の凸型曲面を有するピボット軸21を回転自在に支持する構造とされる。すなわち、図示の構成例では、羽根車30の回転軸線上において、ピボット軸21の下面を軸受部22が支持し、ピボット軸21の上面を軸受部23が支持することにより、安定した2点支持構造のピボット軸20となっている。この場合、一方の軸受部22は、ケーシング10に設けた軸受支持部13に固定支持され、他方の軸受部23は、支持部材23aを介して流入口11の内周面に固定支持されている。
軸受支持部13は、羽根車30の回転軸線上でケーシング10の内面を流入口11側へ突出させた部分であり、羽根車30の回転中心に形成された回転軸線方向の貫通孔33を略貫通するように設けられている。この場合の軸受支持部13は、回転軸線方向(流入口11)から羽根車32の半径方向へ向けて、滑らかな曲線を描きながら方向転換をしている。
【0015】
羽根車30は、羽根車本体31に複数の羽根部32を取り付けたものである。図示の構成例では、略中空円柱形状とした羽根車本体31の流入口側端面に、複数の羽根部32が半径方向へ放射状に取り付けられている。また、羽根車30の軸中心部に設けた貫通孔33には、ピボット軸21と羽根車30とを連結する支持部材24が放射状に複数設けられている。なお、図示の構成例では、略120度ピッチに3本の支持部材24が設けられ、各支持部材24の間に3箇所の貫通孔33が形成されているが、これに限定されることはない。
このように構成された羽根車30は、ケーシング10に対して、ピボット軸受20を介して回転軸線方向に支持され、かつ、後述する磁気カップリング装置40の駆動力により回転軸線を中心に回転可能に支持されている。
【0016】
磁気カップリング装置40は、羽根車30に内蔵された永久磁石41と、ケーシング10の外周部を回転する駆動側磁石42とを具備して構成される。なお、永久磁石41や駆動磁石42に好適な磁石としては、たとえば最も強力といわれるネオジム磁石が遠心ポンプ1の小型化に有効である。
図示の構成例では、複数の永久磁石41が羽根車本体31の内部に周方向へ等ピッチに埋設されている。
駆動磁石42は、図示しない駆動源に連結された回転軸43と一体に回転するロータ44に対し、複数が周方向へ等ピッチに固定設置されている。
【0017】
本実施形態における磁気カップリング装置40は、羽根車30の回転軸中心へ向けて、羽根車回転面から流入口11側へ傾斜する線上に配置されている。すなわち、磁気カップリング装置40は、羽根車30の回転面から傾斜配置された状態となり、永久磁石41及び駆動磁石42の磁力は、羽根車回転面から流入口11側へ傾斜する線上において互いに引き合う方向に作用する。
【0018】
このように構成された遠心ポンプ1は、磁気カップリング装置40を駆動させることにより、すなわち、ロータ44とともに駆動磁石42を回転させることにより、羽根車30は永久磁石41が駆動磁石42に引きつけられて連れ廻りする。このため、磁気カップリング40は、ケーシング10の隔壁越しに羽根車30を回転駆動させることができ、この結果、流入口11を介して回転軸線方向から導入した液体は、羽根車30により圧力を付与されて流出口から半径方向へ流出する。
【0019】
このように構成された遠心ポンプ1は、ピボット軸受20が、羽根車30の回転軸中心に位置するピボット軸21と、流入口11の軸中心線上でピボット軸21を両側から支持する2点支持の軸受部22,23とを備え、磁気カップリング装置40が、羽根車回転面から回転軸中心へ向けて流入口11側へ傾斜する線上に配置され、かつ、羽根車30の回転中心に回転軸線方向の貫通孔33が形成されているので、羽根車30の回転軸線方向においては、たとえば図3に示すように、羽根車30の両面に対称な2次流れ(図中の矢印W参照)が形成される。
この場合、羽根車30の両面は、回転軸線方向においてポンプ室12の内面と対向する上下の面であり、羽根車30のエアギャップ(隙間)を形成している面でもある。
【0020】
上述した貫通孔33を設けたことにより、羽根車30の上下両面には、エアギャップを通って回転軸線方向へ向かう上下対称の2次流れが形成されるようになり、従って、上下逆向きに作用する軸スラスト力Fsをバランスさせてピボット軸受20の負荷を軽減することができる。このとき、支持部材24が滑らかに方向転換する形状を有しているので、この支持部材24が上下対称となる2次流れの形成をより一層促進する。
【0021】
また、上述した遠心ポンプ1のピボット軸受20は、少なくともビボット軸21の一部を羽根車30より流入口11側へ突出する位置に配置することが望ましい。ポンプ室12内において羽根車30より流入口11側へ突出する位置は、流入口11よりポンプ室12内に導入した液体の主流が常に通過する流路となる領域であり、従って、液体の流速が高い領域でもある。
【0022】
このため、ポンプ室12に導入する液体の流速が高い領域に配置されたピボット軸受20は、遠心ポンプ1で昇圧する液体との接触による冷却効果が促進されるため、ピボット軸受20の摺動面に発生する摩擦熱が効率よく吸収されて温度上昇を抑制できる。すなわち、流速の高い流入口11側に設置されたピボット軸受20は、流入口11から導入される流体の流れによって効率よく冷却されるようになるので、ピボット軸受20の温度上昇を抑制して、ピボット軸受20及び遠心ポンプ1の耐久性を向上させることができる。
なお、ビボット軸受20の位置については、冷却効果のみを考えるとピボット軸受20の全体を液体流速の高い領域に、すなわち羽根車30より高い(流入口11に近い)領域に配置すればよいが、たとえば羽根車30の安定した回転支持の条件等を考慮して、現実的な最適位置を選択すればよい。
【0023】
このように、上述した実施形態の遠心ポンプ1によれば、磁気カップリング装置40を回転軸中心へ向けて流入口側へ傾斜する線上に配置し、2点支持のピボット軸受20により羽根車30を安定支持するとともに、羽根車30の回転中心に回転軸線方向の貫通孔33を形成したので、羽根車30及びピボット軸20に作用する軸スラスト力は回転軸線方向においてバランスするので、すなわち、上下方向のスラスト力が互いに相殺されてほとんど作用しない状態となる。この結果、安定した2点支持のピボット軸受20に作用する負荷を軽減し、軸シール機構を用いることなく漏れのない小型の遠心ポンプ1を容易に提供することができる。
また、磁気カップリング装置40により駆動される軸シール機構のない遠心ポンプ1とすれば、液体中の微粒子を破損させる原因や液体を固着させる原因となる軸シール機構がないため、微粒子を含む薬液等の液体(混合流体)や固着しやすい薬液等の液体等を昇圧させる好適なポンプとなる。
【0024】
また、羽根車30の羽根部32は、ピボット軸受20へのラジアル負荷を軽減させるため、ダブルボリュート形状が望ましい。これは、シングルボリュートの羽根部32とした場合、設計点付近ではラジアル荷重が低くなるものの、設計点を外れて遠心ポンプ1を運転すると、ラジアル荷重が大きくなるためである。
また、ポンプ室12のボリュート形状は、ピボット軸受20へのラジアル負荷を軽減させるため、クローズドインペラを採用することが望ましい。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 遠心ポンプ
10 ケーシング
11 流入口
12 ポンプ室
20 ピボット軸受
21 ピボット軸
22,23 軸受部
30 羽根車
33 貫通孔
40 磁気カップリング装置
41 永久磁石
42 駆動磁石


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の流入口及び流出口を備えたポンプ室を形成するケーシングと、前記ポンプ室の内部に配設されてピボット軸受により回転可能に支持されている羽根車と、前記羽根車に内蔵させた永久磁石を隔壁越しに回転駆動させる磁気カップリング装置とを備え、前記ケーシングに対して回転軸線方向に支持されている前記羽根車を前記磁気カップリング装置により駆動し、前記流入口を介して回転軸線方向から導入した液体に圧力を与えて前記流出口から半径方向へ送出するように構成されたシールレス型の遠心ポンプにおいて、
前記ピボット軸受が、前記羽根車の回転軸中心に位置するピボット軸と、前記流入口の軸中心線上で前記ピボット軸を両側から支持する2点支持の軸受部とを備え、
前記磁気カップリング装置が、羽根車回転面から回転軸中心へ向けて前記流入口側へ傾斜する線上に配置され、かつ、
前記羽根車の回転中心に回転軸線方向の貫通孔が形成されていることを特徴とする遠心ポンプ。
【請求項2】
前記ピボット軸受は、少なくとも前記ビボット軸の一部が前記羽根車より前記流入口側へ突出していることを特徴とする請求項1に記載の遠心ポンプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−157897(P2011−157897A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21223(P2010−21223)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】