説明

遠心分離機

【課題】ローター室内の結露水や試料等の液体が、回転軸付近から駆動装置内部に浸入することを防止し、ベアリングやモーターの劣化、腐食、絶縁不良等の不具合を防止し、長寿命で信頼性ある遠心分離機を提供する。
【解決手段】
ローターを収容するローター室を構成する容器と、容器の外部に設けられる駆動装置と、駆動装置から容器を貫通してローター室内に伸び、先端にローターが取り付けられる回転軸21を有する遠心分離機において、容器には回転軸21を貫通させる貫通部(5)が形成され、開放端を有する弾性部材4を回転軸21のローター室側に設け、弾性部材4の開放端4bが、ローターの停止時に貫通部(5)と接触し、ローターの回転時に遠心力によって貫通部から離れるように構成した。また、貫通部(5)にはローター室側に突出する円錐状の凸部5aが形成され、弾性部材4の開放端4bが凸部5aに接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、薬学、遺伝子工学等の分野で使用される遠心分離機に関し、回転軸周辺から結露水や試料漏れによる液体が駆動装置内に入らないように工夫した遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機のように密封されたローター室内でローターを高速回転させると、ローターの回転により大気が外周方向に吹き飛ばされて回転軸近傍が大気圧より低圧になる。この結果、ローターとローター室で囲まれた空間には特許文献1の図1のように旋回する風の流れが発生する。一方、冷凍機を搭載しローター室内を冷却できる遠心分離機では、結露による水がローター室表面(内面)に付着することがあり、また、ローターに入れられた試料容器の破損や、漏れ、または使用者が誤って試料の一部をローター室に零すことによりローター室表面(内面)に水や試料等の液体が付着する恐れがある。そのためローター室には特許文献1のように水抜き穴が設けられ、ローター室に存在する液体をローター室外へ排出可能としている。
【0003】
排出されずにローター室内に残留した液体は、前述した旋回する風(旋回流)によりローター室の中央付近に移動し、最終的には回転軸近傍に達する。回転軸まで達した結露水等の液体の一部は、回転軸とローター室を形成する容器に形成された貫通穴の隙間を通って駆動装置内部に浸入し、駆動装置内部のベアリングの劣化や腐食、あるいはモーターの絶縁不良を発生させるおそれがあった。これを防ぐために、特許文献2では、モーターカバーに鍔状の突起を設けることにより、ローター室内に残留した液体が前記した旋回流によりローター室中央に集まることを途中で阻止し、ローター室内の残留水が駆動装置内部に浸入することを防止している。
【0004】
また、別の方法として特許文献3では駆動装置の回転軸と固定部間に微小隙間を形成し、ラビリンス効果により液体の侵入を防止している。特許文献3では、ラビリンスシールに気体膨脹シールを用いることにより、回転軸の停止時には回転軸とケーシングが密着するように気体膨脹シールを変形させてシール性能をより確かなものとしている。
【0005】
【特許文献1】実公昭52−42445号公報
【特許文献2】実開平2−125752号公報
【特許文献3】特開2005−111440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された遠心分離機では、水抜き穴を設けてローター室内の液体をローター室外に排出するように構成したが、水抜き穴はローター室を形成する容器の一部分に設けられるため、容器内の残留液体の全てをこの水抜き穴を通って排出させることは難しい。水抜き穴を大きくすることや、複数配置することにより排出される残留液体の量を多くすることは可能であるが、ローター室に外気が入り込むことによりローター室内の温度上昇を引き起こすことや、結露水の増加を引き起こし、実用的とは言えない。
【0007】
特許文献2に記載された遠心分離機では、モーターカバーの鍔状の突起にローター室内の液体が保持され回転軸から駆動装置へ液体が浸入することを防止しているが、遠心分離機を長時間、繰り返し使用することによりローター室内の結露水等はその量を増し、やがてモーターカバーの鍔状の突起に保持出来る以上の量となり、鍔状の突起を乗り越えて回転軸から駆動装置内部へ侵入する恐れがある。
【0008】
特許文献3に記載されたラビリンスシール構造の例では、ラビリンスシールを構成する一つの部品が、外部より空気などの気体を注入することにより変形可能な気体膨脹シールであり、回転軸の停止中は回転軸とケーシングをこの気体膨脹シールで密着させることにより回転軸が停止中のシール性も確保するものである。しかし気体膨脹シールを機能させるためには回転軸の回転、停止毎に気体の供給を制御することが必要で、ポンプ、電磁弁、気体供給配管、およびこれらを制御する制御回路が最低必要となる。このため製造コストが増えるだけでなく、構成部品の増加による故障率の増大や、メンテナンス費用の増加を引き起こす。
【0009】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、結露水等の液体が回転軸のシール部を介して駆動装置内に浸入しないようにした遠心分離機を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、回転軸の回転に影響を与えずに良好なシール特性を維持できる遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次の通りである。
【0012】
本発明の一つの特徴によれば、ローターを収容するローター室を構成する容器と、容器の外部に設けられる駆動装置と、駆動装置から容器を貫通してローター室内に伸び、先端にローターが取り付けられる回転軸を有する遠心分離機において、容器に回転軸を貫通させる貫通部を形成し、開放端を有する弾性部材を回転軸のローター室側に設けた。この際、弾性部材の開放端が、ローターの停止時に貫通部と接触し、ローターの回転時に遠心力によって貫通部から離れるように配置した。容器の貫通部には、ローター室側に突出する円錐状の凸部が形成され、回転軸の停止時には弾性部材の開放端は凸部において接触する。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、弾性部材は、上方が円筒形で下方が円錐状に広がる形状であり、円筒形の内周側が回転軸に当接し、円錐状に広がる部分は回転軸と離間するように構成した。また回転軸には凹凸部を形成し、弾性部材の内周面に凹凸部に対応する形状の凹凸部を形成しても良く、これら凹凸部が互いに嵌合するようにして弾性部材が回転軸に固定されると良い。例えば、回転軸の凹凸部は円周方向に連続して形成された円周溝であり、弾性部材の凹凸部は、内周面に連続して形勢された凸部である。回転軸及び/又は弾性部材の凹凸部は、軸方向の複数個所に設けても良い。
【0014】
本発明のさらに他の特徴によれば、弾性部材の外周には剛性部材を設け、ローターの回転時には弾性部材は剛性部材と当接するように構成した。弾性部材と剛性部材の組み合わせは軟質樹脂と硬質樹脂の2層成形で一体に製造されると良い。さらに、弾性部材及び凸部の表面に撥水性皮膜が設けた。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ローター室を構成する容器には回転軸を貫通させる貫通部が形成され、開放端を有する弾性部材を回転軸のローター室側に設け、弾性部材の開放端が、ローターの停止時に貫通部と接触し、ローターの回転時に遠心力によって貫通部から離れるように構成されるので、回転軸の停止時には駆動装置の確実な密封性を得ることができる。回転軸の回転時には円錐形状の弾性部材は遠心力により外周方向に開き、凸部と離間してラビリンス効果を得られる適度な隙間を維持して非接触で回転するので、摩擦による回転軸の回転速度低下や、発熱、磨耗粉の発生といった不具合を生ずることなく良好なシール効果を得ることができる。また、ベアリングやモーターの劣化、腐食、絶縁不良等の不具合を防止でき、長寿命で信頼性のある遠心分離機を実現できる。
【0016】
請求項2の発明によれば、貫通部にはローター室側に突出する円錐状の凸部が形成され、弾性部材の開放端は凸部に接触するので、凸部によって回転軸方向に液体が流れることを防止できると共に、接触時の弾性部材と凸部の良好な状態を持つことが可能となる。
【0017】
請求項3の発明によれば、弾性部材は、上方が円筒形で下方が円錐状に広がる形状であり、円筒形の内周側が回転軸に当接し、円錐状に広がる部分は回転軸と離間するので、弾性部材の回転時には遠心力により、円錐状に広がる部分のみが効果的に外周側に変形することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、回転軸には凹凸部が形成され、弾性部材の内周面には凹凸部に対応する形状の凹凸部が形成され、これら凹凸部が互いに嵌合するように固定されるので、弾性部材を回転軸に対して軸方向にずれることなく安定して固定することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、回転軸の凹凸部は円周方向に連続して形成された円周溝であり、弾性部材の凹凸部は、内周面に連続して形勢された凸部であるので、簡単な構成で確実に軸方向のずれを防止することができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、回転軸及び/又は弾性部材の凹凸部は、軸方向の複数個所に設けられるので、弾性部材が磨耗した際には凹凸部の取付位置を下方にずらす事によりシール性を回復することができる。
【0021】
請求項7の発明によれば、弾性部材の外周には剛性部材を設け、ローターの回転時には弾性部材は剛性部材に当接するので、弾性部材の外周に剛性部材を設けることにより弾性部材の開きは剛性部材の内径に拘束され、結果として開き量を回転数に依存しない一定量とすることができ、信頼性の高いシール構造を得ることができる。
【0022】
請求項8の発明によれば、弾性部材と剛性部材の組み合わせは軟質樹脂と硬質樹脂の2層成形で一体に製造されるので、弾性部材と凸部の表面に撒水性皮膜を設けることにより結露水や水性の試料等がシール部から浸入することがより困難になり、シール構造の信頼性を向上できる。
【0023】
請求項9の発明によれば、弾性部材及び凸部の表面に撥水性皮膜が設けたので、弾性部材と凸部の表面に撒水性皮膜を設けることにより結露水や水性の試料等がシール部から浸入することがより困難になり、シール構造の信頼性を向上できる。
【0024】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0026】
図1は本発明に係る遠心分離機の全体構成を示す断面図である。図1において遠心分離機は、チャンバ31、ドア32、シールラバー33、軸カバー5で構成される容器によりローター室3を構成し、その内部にローター1が設けられる。ローター1は、試料容器11を収容するための複数の穴1aが形成され、ローター室3の外部(下部)に位置する駆動装置2から伸びる回転軸21の先端に取り付けられる。駆動装置2は、例えば電気モーターであり、ローター室3を構成する容器の一部分、即ち軸カバー5を貫通して、駆動装置2とローター1を結合し、回転トルクを伝達させる回転軸21がローター室3内に延びる。ローター1を高速回転させると、ローター室3内の気体は遠心力によってローター1の外形に沿うように外側に吹き飛ばされ、ローター室3の底部では逆に外周側から回転軸21に向かうような旋回する風の流れが発生する。
【0027】
チャンバ31の外周部分には冷却パイプ34が設けられ、ローター室3は断熱材35により覆われることにより、ローター室3の内部およびローター1を室温より低い所定の温度に維持される。このようにローター室3を冷却しながらローター1を回転させる遠心分離機では、遠心分離作業が終わってドア32を開けて外気をローター室3内に混入させると、チャンバ31の表面に結露が発生し、結露による発生した水がローター室3の底部に溜まる恐れがある。そのまま遠心分離作業を進めて、ローター1を高速で回転させるとその旋回する風圧により溜まった水が回転軸21近傍に移動する。
【0028】
図2は図1に示した遠心分離機を構成する回転軸のシール部分の拡大断面図である。図2においては、右半分は回転軸21の回転時の状態を示し、左半分は回転軸21の停止時の状態を示す。また、本明細書では、図2に示す方向を上下と定義して説明する。
【0029】
回転軸21は、ローター1を保持するために、小径部21a、テーパー部21bが形成され、テーパー部21bの下側の大径部21cにおいて弾性部材4や、軸カバー5が取り付けられる。軸カバー5は、外周部がシールラバー33と接続される略円板状の形状であり、中心部に回転軸21を貫通させるための貫通穴が形成され、その貫通穴付近には上方に突出し外周部に至るに従って高さが低くなる凸部5aが形成される。凸部5aは、回転軸中心に対して軸対称の形状、即ち円錐形である。凸部5aの下方には、回転軸21と微少な距離を隔てて配置され、軸方向にある程度の長さを有するような円筒部5bが形成される。円筒部5bの内周側と回転軸21の間は微少距離のラビリンス空間25となっている。軸カバー5の円筒部5bの外周側には、円筒形の取付リブ5cが形成され、取付リブ5cは駆動装置2のハウジング23の上部、回転軸周辺に設けられた肉厚部23aの外周に嵌合し、軸カバー5を駆動装置2へ固定するために用いられる。軸カバー5は、例えばプラスチックやABS樹脂等の高分子樹脂の一体成型により製造される。尚、軸カバー5は、アルミニウム合金等の金属製でも良く、ハウジング23と一体に成形されていても良い。
【0030】
弾性部材4は、回転軸21に内周側が接する円筒部分4aと、円筒部分4aから軸方向及び/又に半径方向に延びて内周側が回転軸21と接しない開放部分4bにより一体で構成される。図2では、開放部分4bの下側端部の内周側が、断面視で斜めにカットされた形状となっている。しかし、開放部分4bにおいては、内周側を斜めにしたり、丸くしたり、または、凸部5との接触状況を良好にするための形状に加工しても良い。
【0031】
駆動装置2の上部のハウジング23は、回転軸21を回転可能にするためのベアリング22を保持し、ハウジング23の上端側は軸方向(上下方向)に一定の厚さを有する肉厚部23aが形成され、肉厚部23aの内側は回転軸21と微少の隙間を隔てるラビリンス空間26が形成され、ベアリング22のグリスがローター室3内に飛散しないようにされる。
【0032】
弾性部材4は、弾性力を持つシリコンゴムやニトリルゴムで作成され、回転軸21に圧入して所定の位置、すなわち軸カバー5の貫通穴近傍に設けられる。回転軸21が回転していない状態では、弾性部材4の開放部分4bの先端(下端)が軸カバー5の凸部5aに接触するように弾性部材4の取付位置及び形状が決定される。一方、回転軸21が高速で回転すると弾性部材4の開放部分4bは遠心力により外周側に広がる。回転時に広がった状態を示すのが図2の右半分の図であり、ここでは弾性部材4の開放端部である下側が遠心力により広がり、軸カバー5の凸部5aと離間してラビリンス隙間が形成される。このように構成することにより、回転停止時には弾性部材4が軸カバー5と接触することにより物理的にシールし、回転時には弾性部材4と軸カバー5の微少な隙間によるラビリンス効果により有効にシールするようにした。本実施形態では硬度50度のニトリルゴムで外形約30mm、先端部の厚さ1mmの弾性部材4を製作したところ、回転軸の回転数5000回転/分では弾性部材4の先端が約1mm外側に開き、凸部5aと2mm離間して回転することができた。
【0033】
図3は、図1で示した第1の実施形態の第1の変形例である。図3において、回転軸21の太径部21cには、円周方向に連続する凹凸部、すなわち1本の円周溝24を形成した。これに対応させて弾性部材41の円筒部分41aの内周面にも凹凸部、すなわち1本の円周方向に連続する突出部41cを形成した。そして、突出部41cが円周溝24と嵌合する位置において弾性部材4を回転軸21に固定した。その他の部分の形状や、回転時・非回転時の現象は図2の例と同一である。このように固定することにより、長期の使用によっても弾性部材4が軸方向に移動することを防止でき、安定したシール性能を維持することができる。尚、回転軸21と弾性部材41に形成される凹凸部の形状は、凹部と溝の関係が図3で示した円周溝24と突出部41cの関係と逆であっても良く、あるいは、双方に対応する凹部と凸部を形成するようにしても良い。また、凹凸部の形状は、図3では断面視で半円形であるが、これに限らず断面視で三角形や四角形であっても良いし、弾性部材4が回転軸21の軸方向にずれないように保持できるならば任意の形状で良い。
【0034】
次に図4を用いて、本発明の第2の実施形態を説明する。本図においても、右半分は回転軸21の回転時の状態を示し、左半分は回転軸21の停止時の状態を示す。図4において弾性部材7の外周に剛性部材6を配置し、弾性部材7を剛性部材6に取り付けるように構成した。つまり、弾性部材7は、回転軸21に直接取り付けられるのではなく、剛性部材6を介して間接的に回転軸21に取り付けられる。例えば、剛性部材6をステンレス製の一体構造とし、弾性部材7をシリコンゴム等で作成し、弾性部材7の円筒部分を剛性部材6の内周部と外周部の間に形成された溝にはめ込んで組み立てた。弾性部分の開放部の大部分の外周部は剛性部材6によって覆われる。この一体化した組立体を回転軸21の太径部21cに圧入して所定の位置に設置した。剛性部材6の内周面の下端付近は、弾性部材7が遠心力により理想的に外側に開くように断面視で斜めに形成されたガイド面6aが形成され、回転軸21の回転数が1000回転/分以上となると、遠心力によって弾性部材7の下端付近は剛性部材6のガイド面6aに接触するまで変形し、これ以上の回転数では弾性部材7と凸部5aの間隔は回転数によらず一定することができた。
【0035】
また図4の形状で、弾性部材4をエラストマー等の軟質樹脂とし、剛性部材6をガラス繊維入りポリカーボネート樹脂とすることで2層成形による一体化部品として製造しても良い。この構造によれば、安価にシール構造を実現することが可能となる。
【0036】
図5は本発明の第2の実施形態の第1の変形例を示すシール部の拡大断面図である。図5においては、剛性部材61の断面形状を反転した略J字状とし、対応する軸カバー51の凸部51aが軸方向上方に鉛直に延びるようにし、剛性部材61の外周輪61bと凸部51aが平行に配置され、これだけで有効なラビリンス空間を形成するようにした。さらに、このラビリンス空間内に弾性部材71を設け、図5の左半分に示すように回転軸21の停止時には弾性部材71の下側内周と凸部51aの外周部が接触するようにし、回転軸21の回転時には遠心力により弾性部材71の下側が外側に開くように変形し、その下端部が剛性部材61の外周輪61bの内側に接触する。この接触により、弾性部材71が必要以上に外周側に変形することを阻止することができる。このように、弾性部材71と凸部5aは円錐形状である必要は必ずしも無く、円筒形状であっても目的の効果を得ることができる。
【0037】
図6は本発明の第2の実施形態の第2の変形例を示すシール部の拡大断面図である。図6において、図5と異なるのは剛性部材62の径を大きく形成していることである。そのため、剛性部材62の内周輪62aの厚みが大きく形成される。剛性部材62の外周輪62bに対応して形成される軸カバー52の凸部52aは、回転軸19の近傍から上方に延び、さらに外周部に延びて下方に折りまげられる、いわば断面視でC字状の形状となり、鍔状の形状とした。この結果、ローター室3内の残留液体はこの鍔状の凸部52aに阻止され回転軸21から駆動装置2へ浸入防止の効果をより確実にすることができた。
【0038】
弾性部材72は剛性部材62の内周輪62aと外周輪62bの間に形成された溝部62cに挿入され、図6の左半分に示すように回転軸21の停止時には弾性部材72の下側内周と凸部52aの外周部が接触するようにし、回転軸21の回転時には遠心力により弾性部材72の下側が外側に開くように変形し、その下端部が剛性部材62の外周輪62bの内側に接触する。この第2の変形例では、弾性部材72の直径が大きくなるので遠心力の作用が大きくなり、より低い回転数で弾性部材72が変形することができるという効果を有する。
【0039】
次に、図7を用いて本発明の第2の実施形態の第3の変形例を説明する。図7においては、基本的な構成は図4に示す構造と同じであるが、図4の構造に加えて、弾性部材4及び軸カバー5の表面に撥水性皮膜8、9を形成した。本実施形態では弾性部材4にニトリルゴムを用いて製造し、軸カバー5をABS樹脂を用いて製造し、撥水性皮膜として例えば四フッ化エチレン樹脂を含んでいるフッ素樹脂コーティング材を塗布乾燥し形成した。この結果、浸入防止の効果がより確実にすることができた。
【0040】
次に、図8を用いて第1の実施形態の第2の変形例を説明する。図8においては、図3で示した基本構造と同じであるが、その違いは、回転軸121に複数本の円周溝124a、124bが形成されていることである。一方、弾性部材141は、円筒部分141aが軸方向に延びた形をしているが、その内周面には円周方向に連続する突出部141cを1本だけ形成した。即ち、図8では、突出部141cは、円周溝124aに嵌合するように設置されており、円周溝124bには、弾性部材141の円筒部分141aの円筒面が対向する。このように構成すると、弾性部材141が磨耗し、シール性が悪くなった場合、突出部141の嵌まり込む溝を、124aから124bに下方にずらす事によりシール性を維持することができ、シール部材の長期間に及ぶ使用が可能となる。尚、弾性部材に設けられる突出部と、回転軸に設けられる溝の数は任意であり、〔弾性部材の凹凸部(突出部)の数〕<〔回転軸の凹凸部(円周溝)の数〕、の関係が維持できれば良い。また、耐摩耗性を考えると、弾性部材141の下端部内周側が軸方向となす角度θが、凸部5aの斜面部のなす角度θよりも小さくなるように構成すると好ましい。
【0041】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、回転軸に弾性を有する弾性部材を設け、ローター室の容器側には軸カバーの凸部を弾性部材と接するように設けることで、回転軸の停止時には駆動装置の確実な密封性を得ることができ、回転軸の回転時には弾性部材は遠心力により外周方向に開き、凸部と離間してラビリンス効果を得られる適度な隙間を維持して非接触で回転するため、摩擦による回転軸の回転速度低下や、発熱、磨耗粉の発生といった不具合も無くシール効果を得ることができる。
【0042】
以上、本発明を示す実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施形態で説明したシール構造を、回転軸の同心円状に複数設置することも可能であり、それにより液体の浸入防止の効果は飛躍的に増加し、試料に有機溶媒を用いる例のような過酷な条件下での遠心分離でも確実に駆動装置を液体の浸入から保護することができる。
【0043】
また、本実施形態ではローター室を構成する容器として、チャンバ31、ドア32、シールラバー33、軸カバー5で構成される構造で説明したが、容器の形状はこれに限られずに貫通穴を有するチャンバとドアだけで構成するようにしても良いし、その他の任意の形状であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る遠心分離機1の構成を示す部分断面図である。
【図2】図1の遠心分離機の回転軸21のシール部の拡大断面図である。
【図3】図1に示す第1の実施形態の変形例を示す回転軸21のシール部の拡大断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る遠心分離機を構成するシール部の拡大断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る第1の変形例を示すシール部の拡大断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る第2の変形例を示すシール部の拡大断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る第3の変形例を示すシール部の拡大断面図である。
【図8】図1に示す第1の実施形態の第2の変形例を示す回転軸121のシール部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ローター 1a (ローターの)穴 2 駆動装置
3 ローター室 4 弾性部材
4a (弾性部材の)円筒部分 4b (弾性部材の)開放部分
5 軸カバー 5a (軸カバーの)凸部
6 剛性部材 6a (剛性部材)ガイド面 7 弾性部材
8 撥水性皮膜 10 ローターカバー 11 試料容器
21、121 回転軸 21a (回転軸の)細径部
21b (回転軸の)テーパー部 21c (回転軸の)太径部
22 ベアリング 23 ハウジング
23a (ハウジングの)肉厚部23a
24、124a、124b 円周溝 25、26 ラビリンス空間
31 チャンバ 32 ドア 33 シールラバー
34 冷却パイプ 35 断熱材
41、141 弾性部材
41a (弾性部材の)円筒部分
41b (弾性部材の)開放部分
41c、141c (弾性部材の)突出部
51 軸カバー 51a (軸カバーの)凸部
61、62 剛性部材
61a、62a 内周輪 61b、62b 外周輪 62c 溝部
71、72 弾性部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローターを収容するローター室を構成する容器と、該容器の外部に設けられる駆動装置と、該駆動装置から前記容器を貫通して前記ローター室内に伸び、先端に前記ローターが取り付けられる回転軸を有する遠心分離機において、
前記容器には前記回転軸を貫通させる貫通部が形成され、
開放端を有する弾性部材を前記回転軸の前記ローター室側に設け、前記弾性部材の開放端が、前記ローターの停止時に前記貫通部と接触し、前記ローターの回転時に遠心力によって前記貫通部から離れるように構成されることを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記貫通部にはローター室側に突出する円錐状の凸部が形成され、前記弾性部材の開放端は前記凸部に接触することを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記弾性部材は、上方が円筒形で下方が円錐状に広がる形状であり、前記円筒形の内周側が前記回転軸に当接し、前記円錐状に広がる部分は前記回転軸と離間することを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記回転軸には凹凸部が形成され、前記弾性部材の内周面には前記凹凸部に対応する形状の凹凸部が形成され、これら凹凸部が互いに嵌合するように固定されることを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記回転軸の凹凸部は円周方向に連続して形成された円周溝であり、前記弾性部材の凹凸部は、内周面に連続して形勢された凸部であることを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記回転軸及び/又は前記弾性部材の凹凸部は、軸方向の複数個所に設けられることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記弾性部材の外周には剛性部材を設け、前記ローターの回転時には前記弾性部材は前記剛性部材に当接することを特徴とする請求項1記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記弾性部材と前記剛性部材の組み合わせは軟質樹脂と硬質樹脂の2層成形で一体に製造されることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記弾性部材及び前記凸部の表面に撥水性皮膜を設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の遠心分離機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−119913(P2010−119913A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293545(P2008−293545)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】