説明

遠心分離機

【課題】シール不良時における試料の冷却水による汚染を抑制した遠心分離機の提供。
【解決手段】内部で試料を分離するロータ120の下端に同軸一体回転に設けられ、軸方向に貫通すると共にロータ120内部と連通する貫通孔が形成されたロアシャフト122Aと、ロアシャフト122Aが回転可能に摺接すると共に貫通孔と連通する下部通路が形成された下部フェイスシールと、下部フェイスシールを内蔵する空間を画成する下部壁部等と、ロアシャフトを通じてロータ120に試料を連続的に供給すると共に連続的に排出する試料循環ラインと、下部壁部等を充たす冷却水を循環させる冷却水循環ラインと、を有し、試料循環ラインと冷却水循環ラインとは、下部フェイスシールにおける試料の圧力が密閉空間における冷却水の圧力より高圧になるように構成される遠心分離機を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心分離機に関し、特に試料を連続的に遠心分離する遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、通常の重力場では沈降しない、もしくは沈降しにくい粒子を分離しており、ウィルスや菌体などもその分離対象に含まれる。ウィルスや菌体は、薬品やワクチンなどの製造にとっては欠かせない原料であり、これらの製造過程において原料を分離精製する設備として連続遠心分離機が使用される。
【0003】
連続遠心分離機は、高速回転するロータの回転軸部に当接するフェイスシールを有しており、フェイスシールはスプリングにより定圧で回転軸先端に接触するように保持されている。フェイスシールは高速回転する回転軸との摩擦により発熱するので、これを冷却するため特許文献1に示されるようにフェイスシール周辺に冷却水を循環させ、フェイスシールを冷却している。
【0004】
特許文献1には、フェイスシール部分から冷却水ラインにオイルが混入することを避けるためにフェイスシールホルダを保持する異なる2種類の材質のOリングを使用し、Oリングの膨潤によるシール不良によって試料と冷却水のコンタミネーションを防止する連続遠心分離機が開示されている。
【特許文献1】特開2006−247610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フェイスシールは冷却水で冷却しているものの寿命品であって、使用時間が約40〜50時間で交換する必要がある。寿命を超えてフェイスシールを使用し続けた場合、回転軸先端とフェイスシールの当接面とがシール不良になり試料とフェイスシール冷却水とを十分に遮断できない可能性がある。この場合に試料にフェイスシール冷却水が混入してしまい試料が使用できなくなってしまう可能性がある。よって本発明はシール不良があった場合でも試料にフェイスシール冷却水が混入するコンタミネーションを防ぐことができる遠心分離機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、内部で試料を分離するロータと、該ロータの上端及び下端より延出され該ロータの回転軸と同軸一体回転し、軸方向に貫通すると共に該ロータ内部と連通する貫通孔が形成された回転軸部と、該回転軸部の下端が回転可能に摺接すると共に該貫通孔と連通する下部通路が形成された下部フェイスシールと、該下部フェイスシールを内蔵する密閉空間を画成する下部壁部と、該下部フェイスシールを該軸方向において該回転軸部側に向けて付勢する下部付勢部と、該回転軸部の上端が回転可能に摺接すると共に該貫通孔と連通する上部通路が形成された上部フェイスシールと、該上部フェイスシールを内蔵する密閉空間を画成する上部壁部と、該上部フェイスシールを該軸方向において該回転軸部側に向けて付勢する上部付勢部と、該下部通路と該上部通路とのいずれか一方から他方に該ロータに該試料を連続的に供給すると共に連続的に排出する試料循環ラインと、該下部壁部内と該上部壁部内とを充たす冷却水を循環させる冷却水循環ラインと、を有し、該試料循環ラインと該冷却水循環ラインとは、該上部フェイスシールにおける該試料の圧力が該上部壁部内とにおける該冷却水の圧力より高圧になると共に該下部フェイスシールにおける該試料の圧力が該下部壁部内における該冷却水の圧力より高圧になるように構成される遠心分離機を提供する。
【0007】
この様な構成によると、フェイスシールでシール不良が発生した際に、圧力差により試料が冷却水循環ラインに漏れるのみであり、冷却水が試料循環ラインに混入するコンタミネーションを防止することができる。
【0008】
上記構成の遠心分離機において、該試料循環ラインは、該ロータから該試料が排出される経路に圧力調整手段を備えていることが好ましく、また該ロータから該試料が排出される経路に圧力検出手段を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の遠心分離機によれば、試料にフェイスシール冷却水が混入するコンタミネーションを防ぐことができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態による遠心分離機について図1乃至図5に基づき説明する。図1に示されるように遠心分離機1は、ワクチン製造工程などに使用されるいわゆる連続超遠心分離機であり、遠心分離部100と制御装置部200とを備えている。遠心分離部100と制御装置部200との間は配線・配管群50で接続されている。
【0011】
遠心分離部100は、遠心室となる円筒状のチャンバ101と、チャンバ101を支持するベース110と、チャンバ101の内部に出し入れ自由に収容されて高速回転するロータ120と、チャンバ101の上側に配置されてロータ120を吊り下げた状態でこれを回転駆動する駆動部130と、チャンバ101の下側に取り付けられ軸受部145及び下部メカニカルシールユニット部140等で構成される下部軸受部と、駆動部130の上方に取り付けられる上部メカニカルシールユニット部150と、駆動部130を上下および前後方向に移動させるためのリフト160と、ロータ120に試料を連続的に供給・排出する試料循環部170(図2)と、下部メカニカルシールユニット部140及び上部メカニカルシールユニット部150を冷却する冷却水部180(図5)とを主に備えている。
【0012】
チャンバ101は、図2に示されるように、その内部に駆動部130に吊り下げられたロータ120が収容され、ロータ120の周囲を覆うように円筒型のエバポレータ(蒸発配管)102が設置され、エバポレータ102の外側には円筒型のプロテクタ103が設置されている。
【0013】
エバポレータ102は、チャンバ101の内部を冷やすことができるように冷媒ガスを循環させる銅配管で構成されており、チャンバ101の内部を冷却可能である。
【0014】
ロータ120は高速で回転駆動されるため、大気との風損や摩擦熱による発熱を抑える目的で遠心分離中はチャンバ101の内部を減圧された状態に保たれる。チャンバ101の内部を減圧された状態にするために、チャンバ101内の空気を排出する図示せぬ排出口がチャンバ101の胴部に形成されている。
【0015】
プロテクタ103は、ロータ120が回転中に何らかの原因でロータ120が破壊されるようなことがあった場合であっても、その破片や試料が外部に飛び出すことなくチャンバ101内部に留めておくために設置され、防護壁の役割を果たしている。
【0016】
ベース110は、図1に示されるように複数のボルト110Aでチャンバ101を固定していると共に、複数のボルト110Bにより、床面に固定されている。図2に示されるように、ベース110のチャンバ101と当接する位置に上述の下部軸受部が設けられている。
【0017】
ロータ120は、円筒型のロータボディ121と、ロータボディ121の上下にねじ込み式で取り付けられる上部ロータカバ123及び下部ロータカバ122とで構成されている。上部ロータカバ123及び下部ロータカバ122のそれぞれの軸心位置には試料通過孔がそれぞれ形成されており、上部ロータカバ123及び下部ロータカバ122には、回転軸部であるアッパーシャフト123Aとロアシャフト122Aとが取り付けられている。アッパーシャフト123Aとロアシャフト122Aとのそれぞれの軸中心には、上部通路及び下部通路である試料通過孔がそれぞれ貫通しており、これらの試料通過孔は、上部ロータカバ123及び下部ロータカバ122のそれぞれに形成された試料通過孔に連通している。駆動部130に含まれる後述のモータ131の駆動によってアッパーシャフト123Aが高速回転されることにより、アッパーシャフト123Aに取り付けられるロータ120及びロータ120にナット122Bによって取り付けられるロアシャフト122Aが共に高速回転する。
【0018】
また、ロータ120の内部には、出し入れ可能なコア120Aが配置されており、遠心分離を行なう際は、ロアシャフト122Aから注入される試料が、試料通過孔を通過してロータ120の内部に導入され、ロータ120内に導入された試料は、コア120Aによって高遠心力場へ移動されて沈殿と上清とに分離され、上清は、アッパーシャフト123Aの試料通過孔から排出される。
【0019】
駆動部130は、リフト160と一体の後述するアッパープレート161に取付けられており、モータ131、軸受部132等で構成されている。モータ131は、アッパーシャフト123Aを回転軸としており、軸受部132は、モータ131の上下においてアッパーシャフト123Aを回転可能に支持している。アッパーシャフト123Aの下端部にナット123Bによって上部ロータカバ123が取り付けられるため、ロータ120は駆動部130から吊り下げられる。
【0020】
下部メカニカルシールユニット部140はベース110に装着されている軸受部145に取り付けられており、図3に示されるように基壁部141と、閉止壁部142と、シールホルダ143と、下部フェイスシール144とから主に構成されている。
【0021】
基壁部141は、貫通孔が形成されて略円筒状に構成され、貫通孔内にロアシャフト122Aが挿通可能にベース110に固定されている。貫通孔内においてロータ120側となる位置には、ロアシャフト122Aを回転可能に支持すると共に水密性を備えたシール部材141Aが設けられている。また基壁部141には、貫通孔内においてシール部材141Aの下方に開口する冷却水通路141aが形成されており、冷却水通路141aには後述の冷却水パイプ181の下部排出側181Bが接続されている。
【0022】
閉止壁部142は、一部が試料通過孔として用いられる貫通孔142aが形成され、基壁部141の貫通孔内において反ロータ120側に嵌入されて基壁部141に固定されている。基壁部141の閉止壁部142が嵌入された箇所にはシール部材が配されているため、嵌入された箇所において基壁部141と閉止壁部142との間には水密性が保たれている。貫通孔142aは孔の中心軸がロアシャフト122Aの回転軸と同軸に成るように構成されている。また貫通孔142aは、基壁部141と閉止壁部142とで画成される下部空間181a側の部分の孔径が大径に形成され、この大径の部分に連なる部分が小径に形成されており、小径に形成された部分が試料通過孔として機能している。
【0023】
閉止壁部142において貫通孔142aの下端側には後述の試料パイプ171の供給側コネクタ171Aが接続されている。閉止壁部142には冷却水が流通する冷却水通路142bが形成されており、冷却水通路142bは、一端側に後述の冷却水パイプ181の下部流入側181Aが接続され、他端側が貫通孔142aの大径の部分に開口している。
【0024】
シールホルダ143には貫通孔143aが形成されており、貫通孔143aの一方が貫通孔142aの小径部分と連通し他方が下部空間181a側に位置するように閉止壁部142の貫通孔142a内に挿入されて貫通孔142a内の小径の部分に嵌入している。貫通孔142aは、中心軸がロアシャフト122Aの回転軸と同軸になるように構成されている。シールホルダ143の閉止壁部142の貫通孔142a内の小径の部分に嵌入される部分には、シール材143Bが設けられており、シール材143Bを挟んで対峙する貫通孔142aの大径の部分と小径の部分との間の水密性を保っている。また貫通孔142a内の大径の部分には、シールホルダ143をロータ120側に向けて付勢するスプリング143Aが内蔵されている。尚、シールホルダ143と貫通孔142aの大径部分との間には隙間が形成されており、冷却水通路142bから供給される冷却水はシールホルダ143と貫通孔142aの大径部分との隙間から下部空間181a内に流入することができる。
【0025】
下部フェイスシール144は、フッ素樹脂等、低摩擦係数の素材から構成されており、貫通孔143aと同軸な貫通孔144aが形成されシールホルダ143のロータ120側に配置されている。下部フェイスシール144の反シールホルダ143となる位置には、ロアシャフト122Aの端部が位置しており、下部フェイスシール144はシールホルダ143を介してスプリング143Aによりロアシャフト122A側(ロータ120側)に付勢されるため、下部フェイスシール144はロアシャフト122Aと当接し、当接部分は水密性を備える。貫通孔144aは貫通孔143aと同軸であるため、貫通孔144aはロアシャフト122Aの回転軸と同軸となってロアシャフト122Aの試料通過孔と連通する。また下部フェイスシール144はシールホルダ143に装着されているのでロアシャフト122Aと同軸回転することはなく、下部フェイスシール144とロアシャフト122Aとの間には水密性を備えた状態で摩擦が発生している。
【0026】
下部空間181aは上述のように基壁部141と閉止壁部142とで画成され、冷却水通路141a、142b以外については密閉された構成になっているため、下部空間181aは冷却水で充たされ、下部空間181a内に位置している下部フェイスシール144は冷却水により冷却される。
【0027】
上部メカニカルシールユニット部150は、図2に示されるように駆動部130上に載置されており、図4に示されるように下部メカニカルシールユニット部140と略同一形状かつ下部メカニカルシールユニット部140に対して試料及び冷却水の流れ方向が逆方向であり、基壁部151と、閉止壁部152と、シールホルダ153と、上部フェイスシール154とから主に構成されている。
【0028】
基壁部151は、貫通孔が形成されて略円筒状に構成され、貫通孔内にアッパーシャフト123Aが挿通可能に駆動部130上に固定されている。貫通孔内においてロータ120側となる位置には、アッパーシャフト123Aを回転可能に支持すると共に水密性を備えたシール部材151Aが設けられている。また基壁部151には、貫通孔内においてシール部材151Aの上方に開口する冷却水通路151aが形成されており、冷却水通路151aには後述の冷却水パイプ181の上部流入側181Cが接続されている。
【0029】
閉止壁部152は、一部が試料通過孔として用いられる貫通孔152aが形成され、基壁部151の貫通孔内において反ロータ120側に嵌入されて基壁部151に固定されている。基壁部151の閉止壁部152が嵌入された箇所にはシール部材が配されているため、嵌入された箇所において基壁部151と閉止壁部152との間には水密性が保たれている。貫通孔152aは孔の中心軸がアッパーシャフト123Aの回転軸と同軸に成るように構成されている。また貫通孔152aは、基壁部151と閉止壁部152とで画成される上部空間181b側の部分の孔径が大径に形成され、この大径の部分に連なる部分が小径に形成されており、小径に形成された部分が試料通過孔として機能している。
【0030】
閉止壁部152において貫通孔152aの上端側には後述の試料パイプ171の排出側コネクタ171Bが接続されている。閉止壁部152には冷却水が流通する冷却水通路152bが形成されており、冷却水通路152bは、一端側に冷却水パイプ181の上部排出側181Dが接続され、他端側が貫通孔152aの大径の部分に開口している。
【0031】
シールホルダ153には貫通孔153aが形成されており、貫通孔153aの一方が貫通孔152aの小径部分と連通し他方が上部空間181b側に位置するように閉止壁部152の貫通孔152a内に挿入されて貫通孔152a内の小径の部分に嵌入している。貫通孔152aは、中心軸がアッパーシャフト123Aの回転軸と同軸になるように構成されている。シールホルダ153の貫通孔152a内の小径の部分に嵌入される部分には、シール材153Bが設けられており、シール材153Bを挟んで対峙する貫通孔152aの大径の部分と小径の部分との間の水密性を保っている。また貫通孔152a内の大径の部分には、シールホルダ153をロータ120側に向けて付勢するスプリング153Aが内蔵されている。尚、シールホルダ153と貫通孔152aの大径部分との間には隙間が形成されており、冷却水通路152bから供給される冷却水はシールホルダ153と貫通孔152aの大径部分との隙間から上部空間181b内に流入することができる。
【0032】
上部フェイスシール154は、フッ素樹脂等、低摩擦係数の素材から構成されており、貫通孔153aと同軸な貫通孔154aが形成されシールホルダ153のロータ120側に配置されている。上部フェイスシール154の反シールホルダ153となる位置には、アッパーシャフト123Aの端部が位置しており、上部フェイスシール154はシールホルダ153を介してスプリング153Aによりアッパーシャフト123A側(ロータ120側)に付勢されるため、上部フェイスシール154はアッパーシャフト123Aと当接し水密性を備える。貫通孔154aは貫通孔153aと同軸であるため、貫通孔154aはアッパーシャフト123Aの回転軸と同軸となってアッパーシャフト123Aの試料通過孔と連通する。また上部フェイスシール154はシールホルダ153に装着されているのでアッパーシャフト123Aと同軸回転することはなく、上部フェイスシール154とアッパーシャフト123Aとの間には水密性を備えた状態で摩擦が発生している。
【0033】
上部空間181bは上述のように基壁部151と閉止壁部152とで画成され、冷却水通路151a、152b以外については密閉された構成になっているため、上部空間181bは冷却水で充たされ、上部空間181b内に位置している上部フェイスシール154は冷却水により冷却される。
【0034】
リフト160は、上下動可能なアーム160Aを備えており、アーム160Aはアッパープレート161を保持していると共にアッパープレート161を前後動可能な図示せぬ駆動装置(油圧シリンダ)を備えている。
【0035】
試料循環部170は、図2に示されるように、試料パイプ171と、試料タンク172と、試料供給ポンプ173と、圧力センサ174と、圧力調整バルブ175と、試料回収タンク176と、より主に構成されている。
【0036】
試料パイプ171は、試料タンク172と下部メカニカルシールユニット部140との間、及び上部メカニカルシールユニット部150と試料回収タンク176との間を接続しており、下部メカニカルシールユニット部140との間に供給側コネクタ171Aを有すると共に上部メカニカルシールユニット部150との間に排出側コネクタ171Bを有している。
【0037】
試料タンク172はロータ120で遠心分離する試料が蓄えられており、試料供給ポンプ173は、下部メカニカルシールユニット部140に試料を圧送している。圧力センサ174と圧力調整バルブ175とは、上部メカニカルシールユニット部150と試料回収タンク176との間の試料パイプ171に設けられており、上部メカニカルシールユニット部150を通過した試料の上清の圧力を検出すると共に流量を調整し主に上部メカニカルシールユニット部150での試料の圧力を一定の値に保っている。試料回収タンク176はロータ120で分離された試料(上清)を貯留している。
【0038】
試料が試料タンク172から試料供給ポンプ173により試料パイプ171内を圧送され、下部メカニカルシールユニット部140及び軸受部145を通過してロータ120内に流入して遠心分離された後に上部メカニカルシールユニット部150から試料パイプ171を通り試料回収タンク176までの間を試料循環ラインと定義する。この試料循環ラインにおいては、ロータ120が流路抵抗になるため、試料供給ポンプ173の吐出圧のみを変更したとしても、ロータ120より下流側の圧力、具体的には上部メカニカルシールユニット部150における圧力を好ましい値にすることは容易ではない。よって上部メカニカルシールユニット部150より下流側(上部メカニカルシールユニット部150と試料回収タンク176との間)に圧力調整バルブ175及び圧力を検出する圧力センサ174を設け、ロータ120より下流側の圧力値を好適な値に調整する。この時の圧力は、試料供給ポンプ173の吐出圧力と圧力調整バルブ175の開度との調整により、下部メカニカルシールユニット部140における下部フェイスシール144とロアシャフト122Aとの接続部分で約0.05〜0.1MPa、上部メカニカルシールユニット部150における上部フェイスシール154とアッパーシャフト123Aとの接続部分で0.002MPaより大きい値としている。
【0039】
冷却水部180は、冷却水パイプ181と、冷却水容器182と、冷却水循環ポンプ183と、熱交換器184とから主に構成されている。冷却水パイプ181は、冷却水容器182と冷却水循環ポンプ183と熱交換器184と上部メカニカルシールユニット部150と下部メカニカルシールユニット部140との間を繋いでおり、下部メカニカルシールユニット部140から排出された冷却水を再度冷却水容器182内に戻し、冷却水を循環させている。
【0040】
冷却水容器182は、冷却水を貯留していると共に、上部メカニカルシールユニット部150及び下部メカニカルシールユニット部140で熱交換を行った冷却水が吐出される箇所になっている。冷却水循環ポンプ183は、冷却水容器182に貯留された冷却水を熱交換器184に一定の流量(約400ml/min)で圧送しており、熱交換器184は、送られてきた冷却水を所定の温度に冷却している。下部メカニカルシールユニット部140と上部メカニカルシールユニット部150とにおいては、それぞれ下部空間181a、上部空間181b内において熱交換器184を通過した冷却水が下部フェイスシール144及び上部フェイスシール154に接し、これらを冷却している。冷却水が冷却水容器182から冷却水循環ポンプ183により冷却水パイプ181内を圧送され、熱交換器184を通過した後に上部メカニカルシールユニット部150及び下部メカニカルシールユニット部140を通り、再び冷却水容器182に戻るまでの間を冷却水循環ラインと定義する。この冷却水循環ラインにおいて、冷却水循環ポンプ183から上記流量で圧送される冷却水は、下部空間181a、上部空間181b内での圧力が、0.002MPaより小さい値を採っている。
【0041】
制御装置部200には、図5に示されるように、上述の冷却水循環ポンプ183や熱交換器184が内蔵されていると共に、チャンバ101(図1)内部の遠心室全体を冷却するための図示せぬ冷凍機、チャンバ101内部の遠心室を減圧された状態にするための図示せぬ真空ポンプ、ロータ120を所定の場所に移動させるための図示せぬリフト駆動装置、ロータ120を駆動制御する図示せぬ電気制御部等が収容されており、上部に、操作・入力する箇所である操作パネル205が配置されている。
【0042】
上記構成の遠心分離機1で遠心分離を行なうときは、リフト160を操作してロータ120がチャンバ101の中に収容されるようにロータ120を移動させる。この状態のとき、駆動部130の下端面に取付けられているアッパープレート161とチャンバ101の上端面とが嵌合して密閉され、これによってチャンバ101内の遠心室の減圧が可能となる。
【0043】
次に操作パネル205を操作し、モータ131を駆動してロータ120を回転させ、遠心分離を行う。この時にチャンバ101を冷却すると共に、冷却水循環ポンプ183及び熱交換器184を駆動し、冷却水を循環させる。ロータ120の回転により、ロアシャフト122Aと下部フェイスシール144との間、及びアッパーシャフト123Aと上部フェイスシール154との間に摩擦に起因する発熱が生じるが、これは上部空間181b、下部空間181a内の冷却水により冷却される。
【0044】
上部フェイスシール154と下部フェイスシール144とは、それぞれ低摩擦の樹脂素材で製造されているが、ロアシャフト122A及びアッパーシャフト123Aの回転速度が高いため、摩耗してしまう。よって一定期間(例えば50時間)での上部フェイスシール154と下部フェイスシール144との交換が必要になる。
【0045】
この一定期間を越えて遠心分離機1を使用した場合、ロアシャフト122Aと下部フェイスシール144との間、及びアッパーシャフト123Aと上部フェイスシール154との間の密閉性が保たれなくなり、これにより試料と冷却水が混合し、コンタミネーションが発生するおそれがある。しかし、試料がロータ120に供給される側である下部メカニカルシールユニット部140においては、試料の圧力(約0.05〜0.1MPa)に対して下部空間181a内の冷却水の圧力(0.002MPa未満)が遙かに低圧であるため、試料循環ライン、具体的にはロータ120内に供給される試料中に冷却水が混入することは防止される。また上部メカニカルシールユニット部150においてはロータ120内で分離された試料(上清)と冷却水とのコンタミネーションが懸念されるが、試料(上清)の圧力(0.002MPa以上)に対して上部空間181b内の冷却水の圧力(0.002MPa未満)は低圧であるため、試料循環ライン、具体的には試料回収タンク176に貯留される試料(上清)中に冷却水が混入することは防止される。
【0046】
よって本実施の形態によると、上部フェイスシール154と下部フェイスシール144との耐用時間を越えて遠心分離機1を使用したとしても、分離する試料にコンタミネーションが発生することが無く、また分離された上清においてもコンタミネーションが発生することが無い。
【0047】
本発明による遠心分離機は、上述の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変形や改良が可能である。たとえば、実施の形態では試料を下部メカニカルシールユニット部140から上部メカニカルシールユニット部150に向けて圧送しているが、逆に上部メカニカルシールユニット部150から下部メカニカルシールユニット部140に向けて圧送しても良い。また冷却水についても同様に反対方向に循環させても良い。また冷却水については上部メカニカルシールユニット部150と下部メカニカルシールユニット部140とを直列に繋いでいるがこれに限らず並列に繋いでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態にかかる遠心分離機の斜視図。
【図2】本発明の実施の形態にかかる遠心分離機の遠心分離部の断面図。
【図3】本発明の実施の形態にかかる遠心分離機の下部軸受部の斜視図。
【図4】本発明の実施の形態にかかる遠心分離機の上部軸受部の斜視図。
【図5】本発明の実施の形態にかかる遠心分離機の冷却水ラインに係る略図。
【符号の説明】
【0049】
1・・遠心分離機 50・・配線・配管群 100・・遠心分離部 101・・チャンバ
102・・エバポレータ 103・・プロテクタ 110・・ベース
110A・・ボルト 110B・・ボルト 120・・ロータ 120A・・コア
121・・ロータボディ 122・・下部ロータカバ 122A・・ロアシャフト
122B・・ナット 123・・上部ロータカバ 123A・・アッパーシャフト
123B・・ナット 130・・駆動部 131・・モータ 132・・軸受部
140・・下部メカニカルシールユニット部 141・・基壁部
141A・・シール部材 141a・・冷却水通路 142・・閉止壁部
142a・・貫通孔 142b・・冷却水通路 143・・シールホルダ
143A・・スプリング 143B・・シール材 143a・・貫通孔
144・・下部フェイスシール 144a・・貫通孔 145・・軸受部
150・・上部メカニカルシールユニット部 151・・基壁部
151A・・シール部材 151a・・冷却水通路 152・・閉止壁部
152a・・貫通孔 152b・・冷却水通路 153・・シールホルダ
153A・・スプリング 153B・・シール材 153a・・貫通孔
154・・上部フェイスシール 154a・・貫通孔 160・・リフト
160A・・アーム 161・・アッパープレート 170・・試料循環部
171・・試料パイプ 171A・・供給側コネクタ 171B・・排出側コネクタ
172・・試料タンク 173・・試料供給ポンプ 174・・圧力センサ
175・・圧力調整バルブ 176・・試料回収タンク 180・・冷却水部
181・・冷却水パイプ 181A・・下部流入側 181B・・下部排出側
181C・・上部流入側 181D・・上部排出側 181a・・下部空間
181b・・上部空間 182・・冷却水容器 183・・冷却水循環ポンプ
184・・熱交換器 200・・制御装置部 205・・操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で試料を分離するロータと、
該ロータの上端及び下端より延出され該ロータの回転軸と同軸一体回転し、軸方向に貫通すると共に該ロータ内部と連通する貫通孔が形成された回転軸部と、
該回転軸部の下端が回転可能に摺接すると共に該貫通孔と連通する下部通路が形成された下部フェイスシールと、
該下部フェイスシールを内蔵する密閉空間を画成する下部壁部と、
該下部フェイスシールを該軸方向において該回転軸部側に向けて付勢する下部付勢部と、
該回転軸部の上端が回転可能に摺接すると共に該貫通孔と連通する上部通路が形成された上部フェイスシールと、
該上部フェイスシールを内蔵する密閉空間を画成する上部壁部と、
該上部フェイスシールを該軸方向において該回転軸部側に向けて付勢する上部付勢部と、
該下部通路と該上部通路とのいずれか一方から他方に該ロータに該試料を連続的に供給すると共に連続的に排出する試料循環ラインと、
該下部壁部内と該上部壁部内とを充たす冷却水を循環させる冷却水循環ラインと、を有し、
該試料循環ラインと該冷却水循環ラインとは、該上部フェイスシールにおける該試料の圧力が該上部壁部内とにおける該冷却水の圧力より高圧になると共に該下部フェイスシールにおける該試料の圧力が該下部壁部内における該冷却水の圧力より高圧になるように構成されていることを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
該試料循環ラインは、該ロータから該試料が排出される経路に圧力調整手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
該試料循環ラインは、該ロータから該試料が排出される経路に圧力検出手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−75815(P2010−75815A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245586(P2008−245586)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】