説明

遠心力成形用セメントコンクリートを用いたセメントコンクリート管の製造方法とそのセメントコンクリート管

【課題】 膨張性が得られ、化学劣化抵抗性、ひび割れ抵抗性も向上することが可能となり、外圧強度を高める、セメントコンクリート管の製造方法とそのセメントコンクリート管を提供する。
【解決手段】 アルミナセメントとSiO2とAl2O3を含有する無機物質とからなる結合材と、骨材とを配合し、水/結合材比22〜60%で混練して遠心力成形用セメントコンクリートを調製し、ポルトランドセメント、細骨材、粗骨材、及び減水剤を含有してなるセメント組成物を用いて遠心力成形したベースセメントコンクリート管の内側に、該遠心力成形用セメントコンクリートを投入し、遠心力成形して、ベースセメントコンクリート管の内層を形成し、その後、40〜80℃の加熱養生で硬化してなるセメントコンクリート管の製造方法、内層の厚みが、3mm以上、全管厚の50%以下である該セメントコンクリート管の製造方法、並びに、そのセメントコンクリート管を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野において使用される遠心力成形用セメントコンクリートを用いたセメントコンクリート管の製造方法とそのセメントコンクリート管に関する。
【背景技術】
【0002】
化学薬品を、製造したり取り扱う化学工場や、様々な化学薬品や汚染物質等を取り扱う下水道施設や高度浄水処理場等においては、化学劣化に対する抵抗性の高いコンクリートを用いて製造された遠心力成形コンクリート管を使用することが求められている。
【0003】
また、化学的に厳しい環境に置かれている遠心力成形コンクリート管の補修や補強については、劣化部位を覆うように保護材を設置したり、さらに修復後に表面に保護材を設置したりしている。
【0004】
このような補修や補強に用いる保護材として、化学抵抗性の高い塗料やセメントを塗布したりして、表面を保護したり、定期的に補修を施す必要があった。
【0005】
化学劣化に対する抵抗性である、耐腐食性に優れるアルミナセメントが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
また、アルミナセメントやスラグを含むモルタルを30℃以上の温度で養生する高強度モルタル硬化体の製造方法等も知られている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、アルミナセメントは、ポルトランドセメントに比べて初期の強度発現が速やかであるが、水和物の転化により長期強度が低下するという課題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−261372号公報
【特許文献2】特開2006−062946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
セメントコンクリート管の化学劣化抵抗性が高くても、ひび割れが生じると塩分や硫酸塩等がセメントコンクリート中に入り込み、鉄筋を劣化させることがあり、ひび割れ抵抗性と高い外圧強度(曲げ強度)が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アルミナセメントとSiO2とAl2O3を含有する無機物質とからなる結合材と、骨材とを配合し、水/結合材比22〜60%で混練して遠心力成形用セメントコンクリートを調製し、ポルトランドセメント、細骨材、粗骨材、及び減水剤を含有してなるセメント組成物を用いて遠心力成形したベースセメントコンクリート管の内側に、該遠心力成形用セメントコンクリートを投入し、遠心力成形して、ベースセメントコンクリート管の内層を形成し、その後、40〜80℃の加熱養生で硬化してなるセメントコンクリート管の製造方法であり、SiO2とAl2O3を含有する無機物質100部中、SiO2が45〜98部で、Al2O3が0.5〜45部である該セメントコンクリート管の製造方法であり、内層の厚みが、3mm以上、全管厚の50%以下である該セメントコンクリート管の製造方法であり、該セメントコンクリート管の製造方法で製造されたセメントコンクリート管である。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法で遠心力成形コンクリート管を製造することによって、膨張性が得られ、従来からの化学劣化抵抗性に加え、ひび割れ抵抗性も向上することが可能になり、また、外圧強度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する部や%は、特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明で言うセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
【0013】
本発明で使用するアルミナセメントは、モノカルシウムアルミネートを主要鉱物として含有するクリンカー粉砕物から得られるものであり、例えば、市販品では、電気化学工業株式会社製商品名「デンカアルミナセメント1号」、「デンカアルミナセメント2号」、及び「デンカハイアルミナセメント」、ラファージュ社製商品名「セカール71」や「セカール80」などを用いることができる。
【0014】
アルミナセメントの粉末度は水和活性の面で、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で2,000〜8,000cm2/gが好ましい。2,000cm2/g未満ではSiO2とAl2O3を含有する無機物質との反応性が悪くなるおそれがあり、8,000cm2/gを超えると硬化が早くなり、作業性が確保しにくくなるおそれがある。
【0015】
本発明で使用するSiO2とAl2O3を含有する無機物質(以下、シリカ含有物質という)は、化学成分としてSiO2とAl2O3を主成分とするものである。
シリカ含有物質としては、流動接触分解用触媒のFCC、廃活性白土焼却の商品名「ハイクレー」、及び石炭灰(フライアッシュ)が挙げられる。
【0016】
シリカ含有物質中のSiO2とAl2O3成分の含有量は、SiO2が45〜98部で、Al2O3が0.5〜45部が好ましく、SiO2が50〜85部で、Al2O3が5〜35部がより好ましい。この範囲外では充分な膨張量と外圧強度が得られなくなるおそれがある。
【0017】
本発明で使用するシリカ含有物質の粉末度は、ブレーン値で、1,000〜7,000cm2/gが好ましく、2,000〜6,000cm2/gがより好ましい。1,000cm2/g未満では水和活性が不充分で強度や膨張が不足するおそれがあり、7,000cm2/gを超えると粉砕動力がかかりすぎて不経済になるおそれがある。
【0018】
本発明において、アルミナセメントとシリカ含有物質とからなる結合材100部中、シリカ含有物質は5〜50部が好ましく、10〜40部がより好ましい。5部未満では充分な膨張量が得られなくなるおそれがあり、外圧強度の増加が期待できないおそれがある。50部を超えると充分な膨張量と圧縮強度が得られなくなるおそれがあり、外圧強度の増加が期待できないおそれがある。
【0019】
本発明で使用する骨材は特に限定されるものではなく、砕砂、川砂、海砂、珪砂、石灰砂、砕石、川砂利、及び石灰石等、通常、セメントコンクリート製造に用いられる材料を使用することが可能である。
骨材の使用量は特に限定されるものではないが、結合材100部に対して、50〜300部が好ましい。50部未満では結合材量が多くなり不経済になるおそれがあり、300部を超えると流動性や膨張性が得られなくなり、外圧強度の増加が期待できないおそれがある。
【0020】
本発明で使用する水の量は、水/結合材比で22〜60%であり、30〜50%が好ましい。22%未満では所定の流動性を確保することが難しくなるおそれがあり、60%を超えると充分な膨張量や強度が得られなくなり、外圧強度の増加が期待できないおそれがある。
【0021】
本発明では、アルミナセメント、シリカ含有物質、及び骨材の材料の他に、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、流動化剤、凝結調整剤、並びに、ビニロン繊維、アクリル繊維、及び炭素繊維等の繊維状物質のうちの一種又は二種以上を本発明の目的を阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0022】
本発明における各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を混りするときに混合しても良いし、あらかじめその一部あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0023】
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば傾胴ミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウターミキサなどが挙げられる。
【0024】
本発明における混練方法は特に限定されるものではなく、例えば、10〜20分で混合した材料を、傾胴ミキサ、二軸強制ミキサ、及びオムニミキサなどを使用し、水投入から、60〜180秒程度で混練することが通常である。
【0025】
本発明では、遠心成形したベースセメントコンクリート管の内面に、本発明の遠心力成形用セメントコンクリートを投入し、遠心成形して、該ベースセメントコンクリート管の内面に、本発明の遠心力成形用セメントコンクリートの内層を形成するが、該遠心力成形用セメントコンクリートのみで遠心成形して、セメントコンクリート管を成形することも可能である。
【0026】
ベースセメントコンクリート管の製造方法は、通常の方法が可能であり特に限定されるものではない。
例えば、ポルトランドセメント、細骨材、粗骨材、及び減水剤を、水で混練りして、セメントコンクリートを調製し、それを遠心力成形することでベースセメントコンクリート管を成形することが可能である。
ポルトランドセメント、細骨材、粗骨材、及び減水剤も特に限定されるものではなく、通常使用されるものの使用が可能である。
遠心力成形の条件は特に限定されるものではなく、例えば、セメントコンクリートを低速G2.5で投入し、低速G2.5〜5で5〜10分、中速G10〜20で2〜8分、及び高速G30〜40で5〜15分の三段階の遠心力成形条件で遠心成形して、ベースセメントコンクリート管を成形することが可能である。
【0027】
本発明では、成形したベースセメントコンクリート管の内面に、本発明の遠心力成形用セメントコンクリートを投入して、ベースセメントコンクリート管の内層を形成する。
本発明で、ベースセメントコンクリート管の内層を形成する方法は特に限定されるものではないが、例えば、成形されたベースセメントコンクリート管の内面に、本発明の遠心力成形用セメントコンクリートを低速G2.5で投入し、低速G2.5〜5で1〜5分、中速G10〜20で1〜3分、及び高速G30〜40で5〜15分の三段階の遠心力成形条件をとることが通常である。
【0028】
遠心力成形用セメントコンクリートで形成する内層厚は、3mm以上、管厚の50%以下が好ましく、5mm以上、管厚の30%以下がより好ましい。3mm未満では外圧強度が増加しないおそれがあり、管厚の50%を超えても外圧強度の増加が期待できない。
【0029】
本発明では、例えば、遠心力成形後、加温養生することによって、膨張性が得られ、外圧強度の増加が可能である。
加温養生の方法は特に限定されるものではなく、蒸気養生、オートクレーブ養生、いずれも可能である。
養生温度は、40〜80℃が好ましく、50〜65℃がより好ましい。養生温度が前記範囲外では膨張量が小さくなるおそれがあり、外圧強度の増加が期待できない。
【0030】
本発明では、遠心力成形後から加温養生するまでの前置時間は特に重要であり、8時間以内が好ましく、2〜4時間がより好ましい。前置時間がこの範囲外では膨張量が小さくなり、外圧強度が小さくなるおそれがある。ただし、凝結調整剤等を用いて硬化を遅らせた場合にはこの限りではない。
【0031】
加熱養生の昇温速度も特に重要であり、10℃/hr以上が好ましく、20℃/hrがより好ましい。昇温速度が遅いと膨張量が小さくなり、外圧強度が小さくなるおそれがあり、昇温速度が早すぎるとひび割れが発生するおそれがある。
【0032】
養生温度の保持時間は特に限定されるものではないが、通常3〜6時間程度が好ましい。3時間未満では膨張量が小さくなり、外圧強度が小さくなるおそれがあり、6時間を超えて養生してもさらなる外圧強度の増加は見込めない。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実験例に基づいて、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
実験例1
セメント450kg/m3、水170kg/m3、細骨材612kg/m3、粗骨材1,145kg/m3、及び減水剤2.7kg/m3で、スランプ8cm、s/a35%、及びW/C37.8%のコンクリート配合を用い、容量50リットルの遊星型強制練りミキサで3分間練混ぜ、30リットル分のコンクリートを調製した。
調製したコンクリートを、直径20cm×長さ30cm×厚さ4cmの遠心力成形用型枠に投入し、遠心力の低速G2.5で5分、中速G10で2分、高速G30で5分の三段階の遠心力成形条件で遠心力成形試験体の外層を形成した。
次に、アルミナセメント80部とシリカ含有物質イ20部からなる結合材、表1に示す水/結合材比と結合材/砂比の配合を用い、モルタルミキサで2分間練り混ぜ、遠心力成形試験体の内層用モルタルを調製した。
20℃環境下、遠心力の低速G2.5で、調製した内層用モルタルを、内層厚が5mmになるように投入し、低速G2.5で1分、高速G30で10分の遠心力成形条件で内層を形成した。その後、前置時間4時間で、昇温速度15℃/hrの速度で昇温し、65℃×5時間保持で以後自然降温の蒸気養生を行い遠心力成形試験体を成形した。材齢1日で脱型後、水中養生を行い材齢7日で外圧試験を行った。結果を表1に併記する。
なお、水/結合材比が小さく、練り混ぜが困難な場合には、型詰できる程度に減水剤を添加した。
また、比較として、セメント100部、砂200部、及び水50部を混合して、内層用のプレーンモルタルを調製し、同様に遠心力成形コンクリート管を成形した。
成形した遠心力成形試験体とプレーンモルタルで内層を形成して成形した遠心力成形コンクリート管の外圧強度を測定し、(遠心力成形試験体の外圧強度/プレーンモルタルで内層を形成して成形した遠心力成形コンクリート管の外圧強度)から外圧強度比を算出した。結果を表1に併記する。
【0035】
<使用材料>
アルミナセメント:AC、電気化学工業株式会社製商品名「デンカアルミナセメント1号」、密度3.00g/cm3、ブレーン値5,000cm2/g
シリカ含有物質イ:流動接触分解用触媒のFCC、市販品、SiO2 65.7%、Al2O3 27.5%、密度2.70g/cm3
細骨材 :新潟県姫川水系産天然砂、密度2.62g/cm3
粗骨材 :新潟県姫川水系産砕石、骨材寸法5〜13mm、密度2.64g/cm3
水 :水道水
減水剤 :ポリカルボン酸系高性能減水剤、市販品
セメント :普通ポルトランドセメント、電気化学工業株式会社製
砂 :標準砂
【0036】
<測定方法>
外圧強度 :曲げ強度、JIS A 5372 「プレキャスト鉄筋コンクリート製品」附属書3に準じ測定。直径20×長さ30cm×厚さ4.5cmの成形した遠心力成形試験体、又はプレーンモルタルで内層を形成して成形した遠心力成形コンクリート管を、材齢7日にマルイ製作所社製商品名「HI-TRITRON(3000KN)圧縮試験機」を使用し、上下から載荷して測定
【0037】
【表1】

【0038】
実験例2
表2に示す結合材、水/結合材比50%、結合材/砂比1/2の配合を用いて成形した内層用モルタルを用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0039】
<使用材料>
シリカ含有物質ロ:廃活性白土焼却、当栄ケミカル社製商品名「ハイクレー」、市販品、SiO2 79.8%、Al2O3 9.25%、密度1.97g/cm3
シリカ物質ハ:フライアッシュ、セメント混和用、市販品、SiO2 60.0%、Al2O3 27.0%、密度2.05g/cm3
【0040】
【表2】

【0041】
実験例3
アルミナセメント80部、シリカ含有物質イ20部からなる結合材、水/結合材比50%、結合材/砂比1/2の配合を用いて調製した内層用モルタルを用いて、表3に示す内層モルタルの厚みを調製したこと以外は実験例1と同様に行った。
なお、成形した遠心力成形試験体とプレーンモルタルで内層を形成して成形した遠心力成形コンクリート管の全厚みを4.5cm一定とした。結果を表3に併記する。
【0042】
【表3】

【0043】
実験例4
アルミナセメント80部、シリカ含有物質イ20部からなる結合材、水/結合材比50%、結合材/砂比1/2の配合を用いて調製した内層用モルタルを用いて、表4に示す前置き時間、昇温速度15℃/hr、養生温度65℃、及び保持時間5時間で蒸気養生したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0044】
【表4】

【0045】
実験例5
アルミナセメント80部、シリカ含有物質イ20部からなる結合材、水/結合材比50%、結合材/砂比1/2の配合を用いて調製した内層用モルタルを用いて、前置時間4時間、表5に示す昇温速度、養生温度65℃、及び保持時間5時間で蒸気養生したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0046】
【表5】

【0047】
実験例6
アルミナセメント80部、シリカ含有物質イ20部からなる結合材、水/結合材比50%、結合材/砂比1/2の配合を用いて調製した内層用モルタルを用いて、前置時間4時間、昇温速度15℃/hr、養生温度65℃、及び表6に示す保持時間で蒸気養生したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表6に併記する。
【0048】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントとSiO2とAl2O3を含有する無機物質とからなる結合材と、骨材とを配合し、水/結合材比22〜60%で混練して遠心力成形用セメントコンクリートを調製し、ポルトランドセメント、細骨材、粗骨材、及び減水剤を含有してなるセメント組成物を用いて遠心力成形したベースセメントコンクリート管の内側に、該遠心力成形用セメントコンクリートを投入し、遠心力成形して、ベースセメントコンクリート管の内層を形成し、その後、40〜80℃の加熱養生で硬化してなるセメントコンクリート管の製造方法。
【請求項2】
SiO2とAl2O3を含有する無機物質100部中、SiO2が45〜98部で、Al2O3が0.5〜45部である請求項1に記載のセメントコンクリート管の製造方法。
【請求項3】
内層の厚みが、3mm以上、全管厚の50%以下である請求項1又は請求項2に記載のセメントコンクリート管の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項に記載のセメントコンクリート管の製造方法で製造されたセメントコンクリート管。

【公開番号】特開2009−84118(P2009−84118A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257364(P2007−257364)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】