説明

遠心鋳造用金型

【課題】 金型本体の内面に割れが発生しにくく、長寿命の金型本体を備えた遠心鋳造用金型を提供する。
【解決手段】 本発明の遠心鋳造用金型2は、質量%で、C:0.09〜0.12%、Si:0.20〜0.30%、Mn:0.30〜0.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Ni:0.40%以下、Cr:5.8〜8.5%、Mo:0.85〜0.95%、Nb:0.060〜0.085%、V:0.18〜0.22%、Al:0.015%以下、N:0.040〜0.065%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるクロムモリブデン鋼からなる金型本体3を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心鋳造設備の金型に関し、詳しくは、高温強度特性及びクリープ強度が高く、長寿命である金型本体を備えた遠心鋳造用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダクタイル鋳鉄管などの遠心鋳造管を製造する遠心鋳造設備は、その軸芯を回転軸として回転する金型と、この金型を搭載する鋳造台車と、溶湯を収容し、傾動することによって金型内に該溶湯を供給する鋳込み用取鍋と、鋳込み用取鍋から流出される溶湯を金型内に中継供給する注入用樋とを備えており、回転している金型内の奥まで挿入された注入用樋の先端から溶湯を注入しながら、金型を鋳造台車とともに鋳込み用取鍋の反対側に移動させることにより、注入した溶湯を順次凝固させて、溶湯から遠心鋳造管を直接製造している。製造された遠心鋳造管は、鋳込み用取鍋の反対側に向けて金型から引き抜かれた後、熱処理などが施され、製品となる。
【0003】
金型は、溶湯を直接受ける部位である円筒状の金型本体と、この金型本体の外周に設けられるスリーブとで構成され、金型本体とスリーブとの間隙が冷却水の流路となっている。金型本体は、一般的に、高温強度に優れるクロムモリブデン鋼(例えばJIS G 4105に示されるSCM420など)などが使用されている。
【0004】
溶湯と直接接触する側である、金型本体の内表面には、加熱と冷却とが繰り返し負荷されて周期的な熱応力が作用する。この周期的な熱応力によって金型本体の内表面には割れが発生する。この割れは、鋳造される遠心鋳造管の表面性状を悪化させるので、例えば金型を1日間鋳造に供したならば、金型を鋳造台車から取り外して、金型本体の内面研削を行う、或いは、金型本体の内面に溶接肉盛りした後に内面研削するなどして、金型本体の内面の割れを除去することが行われている。但し、溶接肉盛り補修の可能な範囲は金型本体の端部に限られ、一般的に、金型本体の中央部では内面研削が主体となる。この内面研削の回数が重なると金型本体の内径が拡大し、鋳造される遠心鋳造管が規格のサイズを維持できなくなり、金型本体は廃却処分となって、新品の金型本体が新に設置されることになる。金型本体にはその他に磨耗や変形なども発生するが、金型本体の使用回数つまり寿命は、主に金型本体の内表面に発生する割れに依存していた。
【0005】
金型本体内表面の割れを防止するために、特許文献1には、製造される遠心鋳造管の端部つまり遠心鋳造管の厚肉部に相当する位置の金型本体の肉厚を、遠心鋳造管の中央部に相当する位置の肉厚よりも薄くした金型本体が提案されている。特許文献1によれば、遠心鋳造管端部の厚肉部に相当する位置の厚みを薄くすることで金型本体の肉厚方向の温度分布が緩くなり、金型本体における割れの発生が防止されるとしている。しかしながら、入熱の多い箇所を相対的に薄肉化することにより、鋳造される遠心鋳造管は急冷されて、遠心鋳造管の表面に割れなどの欠陥が発生しやすくなるという問題点がある。また、相対的に薄肉化することにより金型本体の熱衝撃が大きくなり、却って金型本体に割れが発生しやすくなるという場合もある。
【特許文献1】特開2001−150114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来、金型本体内面の割れを防止することが切望されているにも拘わらず、有効な手段はなく、やむなく金型本体の内面を研削して発生した割れを除去しているのが現状であり、製造コストの上昇をもたらしていた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、高温強度特性及びクリープ強度が高く、割れが発生しにくく、長寿命の金型本体を備えた遠心鋳造用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するべく、鋭意研究・検討を実施した。その結果、金型本体を高温強度特性及びクリープ強度に優れた耐熱鋼によって構成することで、割れの発生を防止することができるとの知見を得た。また、オーステナイト系耐熱鋼とフェライト系耐熱鋼とを比較すると、フェライト系耐熱鋼はオーステナイト系耐熱鋼に比べて高温強度は低いものの、熱膨張率が小さいため、繰り返しの加熱・冷却における酸化スケールの剥離が少ないという利点があり、更に、熱疲労特性にも優れるという利点があり、金型本体として好適であることが分かった。また更に、金型本体は繰り返し使用のために、溶接補修が必須であり、溶接性に優れた材料とする必要があることも確認できた。
【0009】
これらの条件を勘案した結果、Crを9質量%程度、Moを1質量%程度含有するフェライト系のクロムモリブデン鋼が金型本体の材料として最適であるとの知見が得られた。
【0010】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、本発明に係る遠心鋳造用金型は、遠心鋳造管を鋳造する遠心鋳造用の金型であって、質量%で、C:0.09〜0.12%、Si:0.20〜0.30%、Mn:0.30〜0.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Ni:0.40%以下、Cr:5.8〜8.5%、Mo:0.85〜0.95%、Nb:0.060〜0.085%、V:0.18〜0.22%、Al:0.015%以下、N:0.040〜0.065%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるクロムモリブデン鋼からなる金型本体を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金型によれば、高温強度及びクリープ強度が高く、更に、高温靭性及び耐熱疲労特性に優れたフェライト系のクロムモリブデン鋼からなる金型本体を具備しているので、周期的な熱応力が作用しても金型本体の内表面に割れが発生しにくく、その結果、割れの発生を抑制しつつ、長期間にわたって安定して使用することができる。また、溶接性にも優れているので、何ら問題を発生することなく肉盛り補修を実施することができる。これらにより、金型の費用を大幅に削減することができ、遠心鋳造管の製造コストの削減が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る金型を備えた遠心鋳造設備の概略図、図2は、本発明に係る金型の概略構造を示す斜視図、図3は、本発明に係る金型の一部分の断面図である。
【0013】
図1に示すように、ダクタイル鋳鉄管などの遠心鋳造管を製造する遠心鋳造設備は、略水平に設置され、その軸芯回りに回転する金型2と、回転する金型2を保持する鋳造台車1と、金型2を回転させる駆動装置として鋳造台車1に搭載された電動機8と、鋳造台車1をレール11の上で移動させる台車駆動装置16と、溶湯17を収容し、鋳込み用取鍋として使用される三角取鍋12と、三角取鍋12から注入される溶湯17を金型2の内部に中継供給するための注入用樋として使用されるシュート13及びトラフ14と、を備えており、電動機8により回転している金型2の内部の奥まで挿入されたトラフ14の先端から溶湯17を注入しながら、台車駆動装置16を用いて金型2を鋳造台車1とともに三角取鍋12の反対側へ移動させることによって、注入した溶湯17を順次凝固させ、溶湯17から遠心鋳造管18を直接製造している。
【0014】
図中、符号5は、回転する金型2を鋳造台車1に固定するために設置された一対の回転支持装置、6は、金型2を冷却する冷却水の給水及び排水のために設けられた一対の冷却水ジャケット、7はプーリー、9は、電動機8の動力を伝えるためのプーリー7にかかるベルト、10は車輪である。中子15は、製造される遠心鋳造管18の端面形状を形成するとともに、トラフ14から供給される溶湯17の漏洩を防止している。
【0015】
金型2は、図2及び図3に示すように、溶湯17を直接受ける部位である円筒状の金型本体3と、この金型本体3の外周に設けられるスリーブ4とで構成され、金型本体3とスリーブ4との間隙が冷却水の流路となっており、一方の冷却水ジャケット6から給水された冷却水はこの間隙を通って金型本体3を冷却し、他方の冷却水ジャケット6から排出されるようになっている。冷却水ジャケット6は、冷却水を給排水するための水箱19を備え、この水箱19は可塑性の水シール材20を介して金型2と密着されており、冷却水を漏洩させずに水箱19に接合して金型2が回転できるようになっている。図3中の符号21及び22は固定用金物であり、金型本体3を水箱19の所定の位置に設置するためのものである。
【0016】
本発明においては、金型2を構成する金型本体3として、質量%で、C:0.09〜0.12%、Si:0.20〜0.30%、Mn:0.30〜0.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Ni:0.40%以下、Cr:5.8〜8.5%、Mo:0.85〜0.95%、Nb:0.060〜0.085%、V:0.18〜0.22%、Al:0.015%以下、N:0.040〜0.065%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるクロムモリブデン鋼からなる金型本体3を使用する。
【0017】
このクロムモリブデン鋼は、米国機械学会規格名でASME T91として知られており、600℃における105 hクリープ強度が100MPaを超えた、クリープ強度に優れた耐熱鋼である。また、組織的にフェライト系であることから、靭性及び耐熱疲労特性に優れている。また更に、炭素濃度が低く、溶接性にも優れた材料である。
【0018】
従って、金型本体3を上記組成のクロムモリブデン鋼とすることにより、金型本体3の内面に溶湯17が供給される毎に加熱と冷却とが繰り返し負荷されて周期的な熱応力が作用しても、金型本体3の内面には割れが発生しにくく、その結果、金型本体3を、割れの発生を抑制しつつ、長期間にわたって安定して使用することができる。
【0019】
また、長期間の使用によって金型本体3の内面に割れが発生した場合には、肉盛り溶接によって肉盛りし、その後、内面研削することで、初期状態と同等形状の金型本体3を再生することができる。溶接性に優れているので、溶接肉盛り補修において何ら問題を発生することがない。管端から離れた金型本体3の中央部などの、肉盛り補修が不可能な範囲は、肉盛り補修は実施せず、内面研削によって割れを除去し、再使用に供する。
【0020】
このように、本発明の遠心鋳造用金型2によれば、高温強度及びクリープ強度が高く、更に、高温靭性及び耐熱疲労特性に優れたフェライト系のクロムモリブデン鋼からなる金型本体3を具備しているので、周期的な熱応力が作用しても金型本体3の内面に割れが発生しにくく、その結果、割れの発生を抑制しつつ、長期間にわたって安定して使用することができる。また、溶接性にも優れているので、何ら問題を発生することなく肉盛り補修を実施することができる。これらにより、金型2の費用を大幅に削減することができ、遠心鋳造管18の製造コストの削減が達成される。
【0021】
尚、本発明は上記説明に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、金型2は、回転支持装置5を一体的に組み込んでいるが、回転支持装置5を鋳造台車1に配置し、そこに金型2を嵌め込むようにしてもよく、また、金型本体2の形状は図3に示す形状とする必要はなく、鋳造される遠心鋳造管の外殻に応じてその形状を決定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る金型を備えた遠心鋳造設備の概略図である。
【図2】本発明に係る金型の概略構造を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る金型の一部分の断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 鋳造台車
2 金型
3 金型本体
4 スリーブ
5 回転支持装置
6 冷却水ジャケット
7 プーリー
8 電動機
9 ベルト
10 車輪
11 レール
12 三角取鍋
13 シュート
14 トラフ
15 中子
16 台車駆動装置
17 溶湯
18 遠心鋳造管
19 水箱
20 水シール材
21 固定用金物
22 固定用金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心鋳造管を鋳造する遠心鋳造用の金型であって、質量%で、C:0.09〜0.12%、Si:0.20〜0.30%、Mn:0.30〜0.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Ni:0.40%以下、Cr:5.8〜8.5%、Mo:0.85〜0.95%、Nb:0.060〜0.085%、V:0.18〜0.22%、Al:0.015%以下、N:0.040〜0.065%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるクロムモリブデン鋼からなる金型本体を具備することを特徴とする遠心鋳造用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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