説明

遮水シート

【課題】経済的で環境に優しく、且つ石油系由来ポリマーと比較してバイオマス由来ポリマーを25質量%以上含有する遮水シート。
【解決手段】基布に樹脂加工を施してなる遮水シートにおいて、バイオマス由来ポリマーを25〜60質量%含有し、引張強力が980〜2940N/3cm、JIS−L−1096に基づく最大荷重時の伸度が8〜45%であり、かつ、前記基布のカバーファクター(CF)が500〜2200であることを特徴とする遮水シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来ポリマーを全重量の25〜60質量%含有している遮水シートであって、廃棄物最終処分場(一般廃棄物処理場、産業廃棄物処理場など)、あるいはルーフィング材料などに使用される遮水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある化石燃料資源を原料としているが、近年、該化石燃料資源はその埋蔵残量が懸念されるだけでなく、焼却廃棄時に発生する二酸化炭素についても地球温暖化を誘引するものとして大きな社会問題化している。したがって、上記の課題をクリアする新たな資源の探索・開発が急務となっている。この中で、バイオマス由来物質が、廃棄後においても新たに余分な二酸化炭素を産出しない資源として注目を集めている。これは、バイオマス由来の物質から製造された資材等は、燃焼させても、その際に発生する二酸化炭素はもともと大気中にあったものであり、人類の産業活動のタイムスケールにおいて、大気中の二酸化炭素のマクロバランスとしては増加しないという考え方に基づくものである。これはカーボンニュートラルと称され、重要視される傾向にある。
【0003】
例えば、バイオマス由来物質から製造されたプラスチック製品では、石油系由来のプラスチック製品に比べて環境負荷が少なく、かつ炭酸ガスのバランスを崩すことが無いなどの特徴を有するため、地球温暖化防止、化石燃料資源の節約、自然環境の保全に資するとの認識が社会的に定着しつつある。さらに、バイオマス由来のプラスチック製品の普及促進を図るため、既存の石油系由来のプラスチック製品と識別するための制度として、民間の任意団体である日本バイオプラスチック協会が「バイオマスプラ識別表示制度」を提唱し、その中で、バイオマス由来ポリマー成分を25.0質量%以上含むことを認定基準としている。
【0004】
ここで、遮水シートに焦点をあてると、環境負荷の少ないポリマーとして、例えば、ポリ乳酸又は乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマーから製造された産業資材織物やポリ乳酸繊維を用いてなる遮水シートが開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、これらの開示技術は生分解性を主たる目的とし、石油系由来のモノマー成分も包含した技術的思想に根ざしたものであり、バイオマスを使用する目的での記載は無い。
【0005】
また、バイオマス由来ポリマーの使用形態として、ポリ乳酸系樹脂を芯に、芳香族ポリエステル系樹脂を鞘に配した複合糸について開示されている(例えば特許文献3,4および5)。しかしながら、具体的な用途について詳細が記載されておらず、また、各資材についての要求性能についても触れられておらず、具体的に環境に配慮したバイオマスを使用した遮水シートの作製技術は見出されていない。
【0006】
また一方、現段階ではバイオマス由来ポリマーは汎用樹脂と比較して生産量が少ないため、安価ではないという問題点を抱えている。
【0007】

【特許文献1】特開平6−065835号公報
【特許文献2】特開2001−303426号公報
【特許文献3】特開2004−353161号公報
【特許文献4】特開2005−187950号公報
【特許文献5】特開2005−232627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な現状に鑑みて行われたもので、バイオマス由来ポリマーを25〜60質量%含有することで二酸化炭素発生量を低減するなど環境に優しく、また良好な要求性能を保持しながら、石油系ポリマーと併用することで経済的に生産できる遮水シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、基布に樹脂加工されてなる遮水シートにおいて、バイオマス由来ポリマーを遮水シート全質量に対し25〜60質量%の範囲で含有することにより、環境に配慮し、かつ物性的に遜色のない遮水シートを得ることができるという知見を見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成を要旨とする。
(a).基布に樹脂加工を施してなる遮水シートであって、バイオマス由来ポリマーを25〜60質量%含有し、引張強力が980〜2940N/3cm、JIS−L−1096に基づく最大荷重時の伸度が8〜45%であり、かつ、前記基布のカバーファクター(CF:下記式(1))が500〜2200であることを特徴とする遮水シート。
(b).前記基布が、バイオマス由来ポリマーを芯部、石油系由来ポリマーを鞘部に配した芯鞘型複合繊維により構成されていることを特徴とする(a)記載の遮水シート。
(c).(b)記載のバイオマス由来ポリマーがポリ乳酸であり、石油系由来ポリマーがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする遮水シート。
【0011】

CF=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2 ・・・(1)
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm

【発明の効果】
【0012】
本発明の遮水シートは、バイオマス由来ポリマーを25〜60質量%含有しているため、従来のような全成分が石油系由来ポリマーからなる遮水シートに比べ、焼却廃棄にあたっても大気中の二酸化炭素を増加させる度合いが少なく、地球温暖化を軽減する効果を奏する。
【0013】
また、本発明の遮水シートは、脂肪族成分がリッチであるバイオマス由来ポリマーを構成成分として25〜60質量%含んでいながら、遮水シートとして求められる力学特性や施工性などにおいて優れた性能を保持している。
【0014】
本発明の遮水シートは、廃棄物最終処分場(一般廃棄物処理場、産業廃棄物処理場など)、あるいはルーフィング材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の遮水シートとしては、基布に樹脂加工を施してなる形態を有するものであり、基布と、該基布に施された樹脂加工部とから構成される。
【0016】
本発明の遮水シートとしては、バイオマス由来ポリマーを遮水シートの全質量に対し25〜60質量%含有することが必要であり、30〜55質量%含有することが好ましい。バイオマス由来ポリマーの含有率が25質量%未満の場合、例えばポリエチレンテレフタレートなどの従来の汎用ポリマーの含有割合が多くなるため、遮水シートの力学物性などにおいては好ましい傾向になる。しかしながら、本発明の趣旨である環境負荷の軽減、カーボンニュートラルの観点にはそぐわないものであり、またバイオプラスチックの認定には当てはまらないものとなる。一方、バイオマス由来ポリマーの含有率が60質量%を超える場合、例えば、バイオマス由来ポリマーが脂肪族ポリエステルであり、基布を構成する繊維に使用される場合、得られた遮水シートの力学強度や耐候性において求められる特性を保持できなくなる。
【0017】
本発明におけるバイオマス由来のポリマーとしては、溶融紡糸が可能であるものであればよく、特に限定されるものではない。具体的にはPLA(ポリ乳酸)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)やPBS(ポリブチレンサクシネート)などバイオマス由来のモノマーを科学的に重合してなるポリマー類やポリヒドロキシ酪酸などのPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)などの微生物生産系を挙げることができる。好ましくは耐熱性的に安定で、比較的量産化されてきているポリ乳酸がよい。ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸またはポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体などが挙げられる。
【0018】
また、ポリ乳酸を使用する場合、上記のようにD−乳酸とL−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。例えば、ポリ乳酸のホモポリマーであるポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られに難くなるという問題が生じたり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなるため好ましくない。そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸やD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが82/18以上のものが好ましく、中でも90/10以上、さらには95/5以上とすることが好ましい。
【0019】
また、使用されるポリ乳酸が、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)の場合は、融点が200〜230℃と高く、摩擦熱などの影響を受けにくいため、特に好ましい。また、使用されるポリ乳酸がポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグルコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられ、中でもヒドロキシカプロン酸またはグルコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。また、このようなポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合では、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。ポリ乳酸が80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい。
【0020】
また、ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTM D−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲にすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性がさらに向上する。
【0021】
また、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。さらに、本発明の目的を損なわない範囲であれば必要に応じて、ポリ乳酸中に熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0022】
本発明の遮水シートにおいて使用されるバイオマス由来ポリマー以外のポリマーとしては、特に制限されるものではないが、基布として使用する場合には溶融紡糸が可能な石油系由来ポリマーであることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタテート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステル:ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11およびナイロン12に代表されるポリアミド:ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン:ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに代表されるポリ塩化ポリマー:ポリ4フッ化エチレンならびにその共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどに代表されるフッ素系繊維などが挙げられる。好ましくは低コストであるポリエステルやポリアミド系ポリマーがよい。またより好ましくは、バイオマス系ポリマーでは脂肪族ポリエステル系ポリマーが多いことから、相溶性の面からポリエステル系がよい。特に好ましくはコスト面や取扱い性からポリエチレンテレフタレートがよい。
【0023】
また、粘度、熱的特性、相溶性を鑑みてポリエステル系ポリマーには、他のモノマー成分を共重合させてもいてもよい。例えば、酸成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸:アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられ、アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールなどが挙げられる。また、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸:ε―カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどを共重合していてもよい。
【0024】
本発明における基布としては、特に制限されるものではなく、織物や編物で対応できる。強力が求められる分野であれば、原糸の強力が反映され易い織物が好ましく、グリッドのような目の粗いものが要求される場合は緯糸挿入ラッセル編などを利用すればよい。 織物についても特に制限するものではなく、用途に応じて種々の形態をとることができ、該織物の組織選択については原糸や使用される状況下によって適時選択することが可能である。
【0025】
しかしながら、本発明における基布としては、該織物のカバーファクター(CF)が500〜2200であることが必要であり、700〜1300であることが好ましい。式(1)にカバーファクター(CF)の計算式を示す。
CF=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2 ・・・(1)
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm
【0026】
上記のCFが500未満であれば、樹脂加工を構成する布地としては空隙率が大きすぎているため、表面が凹凸になり、凸部では樹脂加工された被覆層が薄くなるため、外界のエネルギーと環境の影響を受けやすく、クラックが発生しやすい。一方、CFが2200より大きくなると基布の原糸間に隙間がなく、基布へのアンカー効果が少なくなるため、基布と樹脂または樹脂同士の接着性が不良となる。好ましくは700〜1300である。
【0027】
本発明の遮水シートにおいて、バイオマス由来ポリマーは基布において使用されるが、その方法については特に制限されるものではない。具体的には石油系由来ポリマーからなる繊維とバイオマス由来ポリマーからなる繊維とを合撚して使用する方法、生地の経緯方向に別々に製織して使用する方法、所定の間隔おきに石油系由来ポリマーからなる繊維とバイオマス由来ポリマーを設定して使用する方法、バイオマス由来ポリマーからなる繊維に石油系由来ポリマーからなる繊維をカバーリングして使用する方法、また、石油系由来ポリマーとバイオマス由来ポリマーを使用した複合繊維を用いる方法およびこれらの組み合わせによる方法を挙げることができる。この中でも、石油系由来ポリマーからなる繊維とバイオマス由来ポリマーの機械的物性や熱的物性が異なる点から、複合繊維として用いる方法が好ましい。また、複合繊維としても、異形断面型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、芯鞘複合繊維などの形態から適宜選択することができるが、本発明の遮水シートの用途においては芯鞘複合繊維であることが好ましい。さらには、上記芯鞘複合繊維としては、その芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘複合繊維であることが、機械的物性や熱的物性に斑が生じにくいため、好ましい。このような構成とすることで鞘部に均一に汎用ポリマーを配する効果を奏することができる。偏心上に存在すると鞘部の汎用ポリマー層に薄い箇所が生じ、該汎用ポリマー層が薄い箇所において、樹脂加工時に収縮が発生すると偏心され目ずれやしわの原因となる。このような芯鞘構造の複合繊維は、公知の技術によって製造することができる。
【0028】
さらに、上記の芯鞘複合繊維としては、バイオマス由来ポリマーを芯部、バイオマス由来以外のポリマーを鞘部に配した構造を有するものであることが好ましい。さらには、芯部をバイオマス由来ポリマーであるポリ乳酸、鞘部を石油系由来ポリマーであるエチレンテレフタレートとすることがより好ましい。
【0029】
また、上記芯鞘複合繊維における芯鞘比率(質量比率)としては、芯部/鞘部=50/50〜90/10であることが好ましい。バイオマス由来ポリマーを使用した芯部の比率が50未満の場合、バイオマス由来ポリマーの使用量が少ないため、本発明の趣旨にそぐわなくなるため好ましくない。また、芯部の比率が90を超える場合、力学特性や耐候性などを保持するための鞘部の厚みが少なくなるため、得られる遮水シートの要求物性を維持できなくなる傾向となるため好ましくない。
【0030】
本発明における基布に樹脂加工を施すための被覆樹脂としては、耐薬品性、耐候性および機械的物性を考慮してポリエチレン系樹脂であることが好ましい。このポリエチレン系樹脂としては、高密度、中密度、低密度および超低密度のいずれでもよく、施工性などを考慮すると、柔軟性と機械的物性から低密度のものを使用することが好ましい。
【0031】
また、ゴム弾性を付与するために、不飽和炭化水素系ゴム材料を第3成分として添加してもよく、耐候性および機械的物性を考慮して樹脂中に紫外線吸収剤やカーボンブラックなどの顔料を添加してもよい。
【0032】
さらに、本発明の遮水シートにおいて、遮水性を考慮すると、被覆樹脂は合成繊維の少なくとも片面に被覆することが必要である。また、被覆する方法としては、通常の手法に則り、フィルムを張り合わせるラミネート、押し出してコーティングするカレンダーコーティング、または液状のものをナイフなどを用いて塗布するナイフコーティングなどを採用することができる。これらの中で、得られる遮水シートの品質および加工コストなどを考慮すると、カレンダーによる押し出しコーティングを採用することが望ましい。
【0033】
本発明の遮水シートとしては、引張強力が980〜2940N/3cmであることが必要であり、1200〜2500N/3cmであることが好ましい。引張強力が980N/3cm未満の場合、ルーフィングなどの遮水シートとして敷設するにあたって力学強度が不足すると共に、最終処分場などの土中に埋設して使用するにあたっても耐久性が不足することとなる。一方、引張強力が2940N/3cmを超える場合、施工時の寸法調整などの加工性に問題を生じると共に、強度アップに向けて、追加の加工を要することとなり不経済となる。
【0034】
本発明の遮水シートとしては、JIS−L−1096に基づく最大荷重時の伸度が8〜45%であることが必要であり、15〜35%であることが好ましい。当該伸度が8%未満の場合、施工時に力学的負荷に対し断裂等を起こすものであり、当該伸度が45%を超える場合、展張して敷設する際に伸びが発生して施工性が悪くなる。
【0035】
また、本発明の遮水シートとしては、WS型促進曝露装置によって63℃下で250時間照射後の引張強力保持率が60%以上であることが好ましい。これにより、遮水シートとして使用するにあたり、耐久性が保証されることとなる。
【0036】
さらに、本発明の遮水シートとしては、厚みが1〜5mmであることが好ましく、1.5〜5mmであることがより好ましい。当該厚みが、1mm未満の場合、クッション性がなく、用途に対する機械的物性が劣ると共に破損しやすくなるため好ましくない。
【0037】
本発明の遮水シートを構成するバイオマス由来のポリマー、石油系由来のポリマーには必要に応じて各種充填剤、増粘剤、結晶核剤として効果を示す公知の添加剤を添加することができる。具体的にはカーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカー等が挙げられる。該物質は、そのまま添加してもよいし、ナノコンポジットとして必要な処理の後添加することもできる。価格や良好な物性バランスを達成するためには、無機の充填剤の配合が好ましい。また、結晶核剤の配合が好ましい。
【0038】
また、本発明における複合繊維を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で可塑剤を併用することも可能である。可塑剤を使用することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、せん断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能であり、場合によっては結晶化速度の向上も期待でき、更にフィルムやシートを成形品として得る場合には伸び性等を付与できる。可塑剤としては、特に限定はないが、以下のものが例示できる。脂肪族ポリエステル系生分解性ポリエステルの可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などが好ましく、ポリエステルとの相溶性に優れる点から、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。エーテル系可塑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。また、エステル系可塑剤としては脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類を挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸として、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸などを挙げることができ、脂肪族アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の二価アルコール、また、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールを挙げることができる。
【0039】
さらに、本発明における複合繊維においては、必要に応じて、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤その他の副次的添加剤を配合することができる。

【実施例】
【0040】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、これに限定されるものではない。なお、得られた遮水シートの評価は、以下の方法にて行った。
(1)厚さ:JIS−L−1096に準じて各遮水シートの厚さを測定した。
(2)繊度およびフィラメント数:JIS−L−1013に準じて測定した。
(3)強度(糸):JIS−L−1013に準じて測定した。
(4)切断伸度(糸):JIS−L−1013に準じて測定した。
(5)織物密度:JIS−L−1096に準じて測定した。
(6)引張強力:JIS−L−1096に準じて測定した。
(7)最大荷重時の伸度:JIS−L−1096に準じて引張強力を測定した際の最大荷重時の伸度を測定した。
【0041】
(8)WS型促進曝露装置によって63°C下で250時間照射後の引張強力保持率:WS型促進曝露装置(サンシャインウェザーメーターを用いた)に63°C×250時間の条件で照射させた後、(6)の方法で引張強力を測定し保有率を測定した。
(9)アルカリ処理後の引張強力保有率:水酸化カルシウム飽和水溶液(PH12)中に70°C×250時間浸漬後、(6)の方法にて引張強力を測定し保持率を測定した。
(10)施工性:20m×20mの敷地内(約5kg/個の岩石を敷きつめた敷地)に2m幅の試料となるシートを敷きつめ、パフにてシート間を接着し施工性を確認した。
(11)重機による試験:(8)にて設置したシート上に約30cmの覆土を行い、10tダンプトラック(6cmの土砂積載)および15t級ブルドーザにて5kg/hで10往復させた後、覆土を撤去し、外観変化を目視にて確認した。
【0042】
(実施例1)ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比98.5/1.5(ネイチャーワークス社製)のものを用い、芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸15モル%共重合したPETを用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配し、複合比(芯鞘質量比)を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた複合繊維は、繊度940dtex140フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強度は6.3cN/dtex、切断伸度26.0%であった。
この原糸を用いてレピア織機にて経糸密度19.0本/2.54cm、緯糸密度20.0本/2.54cmの織密度で平織組織にて製織した。(原糸比重は、芯鞘質量比が50/50なので(1.27+1.38)/2=1.325として計算を行った。)次いでこの基布を押し出しカレンダー加工にて、樹脂付着量が25g/mとなるようにLDPE(例えば住友化学株式会社製の商品名:スミカセン)を被覆加工し、表1に示す実施例1の遮水シートを製作した。
【0043】
(実施例2)実施例1と同様に溶融紡糸を行い、830dtex96フィラメントの丸断面形状で、引張強度7.0cN/dtex、切断伸度12.0%の複合繊維を得た。この原糸を用いて、実施例1と同様に製織・加工し、実施例2の遮水シートを得た。
(実施例3)実施例1と同様に溶融紡糸を行い、1670dtex140フィラメントの丸断面形状で、引張強度8.2cN/dtex、切断伸度10.0%の複合繊維を得た。ただし、芯鞘比が30/70なので比重は(1.27×0.3+1.38×0.7)=1.347として計算した。この原糸を用いてレピア織機にて経糸密度14.0本/2.54cm、緯糸密度14.0本/2.54cmの織密度で平織組織にて製織した。後の工程は実施例1と同様に行い実施例3の遮水シートを得た。
【0044】
(比較例1)実施例1と同様に溶融紡糸を行い、940dtex140フィラメントの丸断面形状で、引張強度4.0cN/dtex、切断伸度40.0%の複合繊維を得た。この原糸を用いて、実施例1と同様に製織・加工し、比較例1の遮水シートを得た。
(比較例2)実施例1で得られた複合繊維を用いて、経糸および緯糸の織密度を6本/2.54cmとした以外は実施例1と同様に製織・加工を施したが、品位良い遮水シートは得られなかった。
【0045】
(比較例3)芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸15モル%共重合したPETを減圧乾燥した後、溶融紡糸装置に供給して紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた繊維は、繊度1100dtex192フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強度は7.7cN/dtex、切断伸度19.0%であった。この原糸を用いて、経糸密度20.0本/2.54cm、緯糸密度20.0本/2.54cmとした以外は実施例1と同様に製織・加工し、比較例3の遮水シートを得た。
【0046】
各実施例及び比較例について物性測定結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から実施例1〜3は、全ての項目で満足するものであり、従来素材と同等な物性を有していた。しかし、バイオマス由来のポリマーを使用している比較例1については環境に優しい素材であったが、伸度が大きいため敷設時に伸びが生じて施工性が不良であり、重機による試験でも数ヶ所の破損箇所が確認され、遮水シートとして実用上に耐え得るものではなかった。また、比較例2では、基布のカバーファクターが低すぎるため、品位の良い遮水シートは得られず、後の評価に耐えるものではなかった。比較例3では、基布がポリエチレンテレフタレートのみからなるため、各物性の要求値は満たすものの、バイオマス由来ポリマーを使用していないため、本発明の趣旨にはそぐわないものであった。












【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布に樹脂加工を施してなる遮水シートであって、バイオマス由来ポリマーを25〜60質量%含有し、引張強力が980〜2940N/3cm、JIS−L−1096に基づく最大荷重時の伸度が8〜45%であり、かつ、前記基布のカバーファクター(CF:下記式(1))が500〜2200であることを特徴とする遮水シート。

CF=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2 ・・・(1)
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm

【請求項2】
前記基布が、バイオマス由来ポリマーを芯部、石油系由来ポリマーを鞘部に配した芯鞘型複合繊維により構成されていることを特徴とする請求項1記載の遮水シート。
【請求項3】
請求項2記載のバイオマス由来ポリマーがポリ乳酸であり、石油系由来ポリマーがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする遮水シート。




【公開番号】特開2009−84740(P2009−84740A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254597(P2007−254597)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】