遮水壁築造工法
【課題】特別な機器やボーリング機械を使用することなく、不必要に強度を高くしてしまうことなく、遮水壁を築造することが出来る遮水壁築造工法の提供。
【解決手段】下端部から下方へ地盤掘削用噴流(12J)を噴射しながら鋼材(10)に振動或いは打撃を付与しつつ鋼材(例えばH鋼10)を施工するべき地盤(G)中に押し込み、地盤掘削用噴流(12J)を停止し、鋼材(10)を地上側に引き上げつつ、鋼材(10)下端部に設けられた充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填する。
【解決手段】下端部から下方へ地盤掘削用噴流(12J)を噴射しながら鋼材(10)に振動或いは打撃を付与しつつ鋼材(例えばH鋼10)を施工するべき地盤(G)中に押し込み、地盤掘削用噴流(12J)を停止し、鋼材(10)を地上側に引き上げつつ、鋼材(10)下端部に設けられた充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に遮水壁を造成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に壁状固結体を造成するについては、従来から種々の技術が提案されている。
例えば、固化材及び/又は水の高圧ジェットにより、施工するべき地盤を溝状に切削し、原位置土と固化材とを混合、攪拌して地中壁を造成する技術や、多軸混練装置を用いて、複数の円柱状領域を切削しながら原位置土と固化材とを所定領域ずつ混合、攪拌することにより地中壁を造成する技術等が存在する。
【0003】
しかし、高圧ジェットを用いる従来技術では、施工地盤を掘削する機器と、高圧ジェットで固化材及び/又は水を施工地盤に対して噴射するための機器とが必要であり、その様な機器を施工現場に搬送して、設置するためのコストが嵩んでしまう、という問題が存在する。
一方、多軸混練装置を用いる従来技術においても同様な問題、すなわち、大規模な機械である多軸混練装置を施工現場まで搬送して、設置しなければならない。
さらに、上述した高圧ジェットを用いる従来技術や、多軸混練装置を用いる従来技術によって遮水壁を築造する場合において、従来技術を用いると、必要以上の強度を有する地中壁状体が造成されてしまい、その分だけコスト的に不都合である。
【0004】
その他の従来技術として、所定間隔を隔てて縦孔を掘削し、縦孔内に芯材を建て込み、芯材に沿って昇降可能な昇降体を設け、昇降体を縦孔底部から地上側に上昇させると同時に隣接する縦孔に向けて固化材を噴射する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)は、鋼材を建て込むために、縦孔を予め切削する労力及び機械が必要となり、また、固化材を噴射し且つ昇降可能な昇降体を準備しなければならず、上述したジェットを用いる従来技術と同様に、機器の搬送、設置のための労力及びコストが必要である。
また、芯材としてH鋼等の鋼材を縦孔内に埋め殺すことになるが、遮水壁築造に適用した場合には、遮水壁は土留壁に比較して要求される強度が低いので、前記従来技術(特許文献1)を適用して築造された遮水壁の強度が高過ぎて(オーバースペックになり)無駄になる、という問題が存在する。
【特許文献1】特開2004−211421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、特別な機器やボーリング機械を使用することなく、不必要に強度を高くしてしまうことなく、遮水壁を築造することが出来る遮水壁築造工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の遮水壁築造工法は、下端部(に設けられた高圧水用ノズル12)から下方へ地盤掘削用噴流(高圧水ジェット12J)を噴射しながら鋼材(例えばH鋼10)に(例えばバイブロハンマー11により)振動或いは打撃を付与しつつ地盤(G)中に押し込む圧入工程と、鋼材(10)を所定の深度(De)まで押し込んだならば、鋼材(10)下端部から下方へ噴射される地盤掘削用噴流(12J)を停止し、鋼材(10)を地上側(矢印U方向)に引き上げつつ、鋼材(10)下端部に設けられた充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填する引き上げ工程とを含み、所定長さ(施工するべき遮水壁Wの長さ)の遮水壁(W)が築造されるまで前記圧入工程と引き上げ工程とを繰り返すことを特徴としている(請求項1)。
ここで、例えばバイブロハンマー(11)等により鋼材(10)に振動或いは打撃を加えながら、当該鋼材(10)を施工地盤中に押し込むことを、本明細書では、「振動圧入」なる文言で表現する場合がある。
【0007】
本発明において、前記引き上げ工程では、充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填しつつ、鋼材(10)下端部に設けたノズル(12:地盤掘削流体用ノズル、或いは、高圧水用ノズル)から固化材を下方へ噴射することが可能である(請求項2)。
【0008】
また本発明において、前記引き上げ工程では鋼材(10)に(例えばバイブロハンマー11により)振動或いは打撃が付与されるのが好ましい(請求項3)。
【0009】
上述したように、本発明において、鋼材としては、例えばH鋼を用いることが好ましい。
そして、複数の鋼材(H鋼10A、10A1、10A2、10A3、10B)を接合して、前記圧入工程では同時に複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に施工地盤に押し込み、前記引き上げ工程では複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に地上側へ引き上げるのが好ましい(請求項4:図10〜図17)。
【0010】
本発明において、鋼材としてH鋼を用いた場合、H鋼のウェブ部分(10W、10WA、10WB)に貫通孔(10H)を形成することが好ましい(図8)。
【0011】
本発明において、充填材(14F)は下方に充填或いは注入されるのが好ましい(図1〜図7)。しかし、充填材(14F)を水平方向(横方向:図9の左右方向)に充填或いは注入することが出来る(図9)。
換言すれば、本発明において、充填材用ノズル(14)が水平方向に指向しており、前記引き上げ工程では充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を水平方向へ充填することも可能である(請求項5:図9)。
【0012】
なお、遮水壁の深度(De)は、例えば10m程度を想定している(図示の実施形態では、例えば14m)。
【発明の効果】
【0013】
上述する構成を具備する本発明によれば、前記圧入工程では、下端部(に設けられた高圧水用ノズル12)から下方へ地盤掘削用噴流(高圧水ジェット12J)を噴射しているので、鋼材(H鋼10)直下の土壌が切削され、当該鋼材(10)を容易に押し込むことが可能となる。
また、例えばバイブロハンマー(11)により鋼材(10)に振動或いは打撃を付与しつつ、施工地盤(G)中に押し込んでいるので、鋼材(10)は容易に施工地盤(G)中に押し込まれる。
そのため本発明によれば、鋼材(10)を施工地盤(G)中に押し込むこと(圧入工程)に費やされる労力やコストを低減して、施工期間を短縮化することが出来る。
【0014】
そして本発明では、バイブロハンマー(11)を支持する能力があり、構造部材(例えばH鋼)を引き上げる能力があれば、特別な機器やボーリング機械を使用することなく、実施できる。
そのため、バックホウ(13)やクレーン等の一般的な建設機械を用いて施工することが出来、特別な機器やボーリング機械を搬送し、設置する労力を節約することが出来る。
【0015】
また、本発明では、構造部材(10)の引き上げ工程では充填材(14F)を充填しており、固化材を噴射していないので、産業廃棄物であるスライムが発生しない。そのため、スライム処理のための設備や労力を省略することが出来る。
【0016】
さらに本発明によれば、鋼材(例えば、H鋼10)を埋め殺さず、再利用することが可能である。
【0017】
そして本発明において、複数の鋼材(H鋼10A、10A1、10A2、10A3、10B)を接合して、前記圧入工程では複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に施工地盤に押し込み、前記引き上げ工程では複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に地上側へ引き上げる様に構成すれば、1工程で施工される遮水壁の区画(Wn、Wn−1・・・)の長さが増加し、工数を減少することが出来るので、工期を短縮し、施工コストをさらに節約することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1〜図9は本発明の第1実施形態を示している。そして、図1は第1実施形態を用いて地盤Gに遮水壁Wが築造する概要を示している。
【0019】
図1において、地盤Gに築造された遮水壁Wは、複数の区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・が配列して構成されている。そして複数の区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・は、充填材(或いは固化材)14Fにより構成されている。
複数の区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・は、隣接する区画は充填材14Fが固化する際に、一体に接合されるが、図1において、遮水壁Wが複数の区画から構成されていることを明示するため、隣接する区画ではハッチングの向きを変えて示している。
なお、区画Wnについては、鋼材であるH鋼10を引き抜いて充填材を充填している状態が図示されている。
【0020】
H鋼10は、バイブロハンマー11を具備したバックホウ13により振動(及び/又は打撃)を付加されつつ地盤G中に押し込まれ(振動圧入され)、そして図1で示すように、バックホウ13によりH鋼10が地上側(図1の矢印U方向)に引き抜かれている。ここで「振動圧入」なる文言は、バイブロハンマー11等により振動及び/又は連続した打撃を付加しながら、H鋼10を施工地盤中に押し込む(矢印D方向へ押し込む)ことを意味している。
そして、H鋼10がバックホウ13により矢印U方向へ引き抜かれる際に、充填材(例えば、固化材)14FがH鋼10が振動圧入された領域へ充填され、これにより、遮水壁W(より詳細には、遮水壁Wにおける区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・の各々)が造成される。
【0021】
バイブロハンマー11を具備したバックホウ13は、図2で詳細に示されている。
図1及び図2において、H鋼10に接続されたラインL12は高圧水供給ラインであり、ラインL14は充填材供給ラインである。図3以下で後述するように、H鋼10を地盤Gに押し込む際にはラインL12を介して高圧水が供給され、H鋼10を地上側(図1の矢印U方向)へ引き上げる際にはラインL14を介して充填材が供給される。
なお、図1において、遮水壁Wの深度方向長さDeは14m程度、H鋼10の押し込み及び引き上げにより築造される区画Wnの水平方向(図1では左右方向)厚さLは0.4m程度に設定されている。
【0022】
バイブロハンマー11により施工地盤Gに振動圧入され(振動或いは打撃が付与されつつ押し込まれ)、バックホウ13により地上側へ引き抜かれるH鋼10は、図3、図4で示すように、その最深部(図2では下端部)に、土壌切削用の高圧水ジェット12Jを噴射する高圧水用ノズル12と、充填材14Fを注入する充填材用ノズル14とを有している。
図3、図4で示すように、高圧水用ノズル12は1個設けられ、充填材用ノズル14は4個設けられている。
なお、高圧水用ノズル12から高圧水ジェット12Jが噴射するのと同時に、充填材用ノズル14から充填材14Fを充填或いは注入することは、通常の施工では行なわれない。
第1実施形態の詳細については、図3〜図7を参照して説明する。
【0023】
第1実施形態に係る工法により遮水壁Wを築造するに際しては、先ず、図1に加えて図2で示すように、H鋼10の下端部に設けられている高圧水用ノズル12から土壌切削用の高圧水ジェット12Jを噴射しつつ、バイブロハンマー11(図1参照)でH鋼10に振動(或いは打撃)を付与して、遮水壁Wを施工するべき地盤Gに振動圧入する。
【0024】
H鋼10の下端部において、高圧水用ノズル12と、充填材用ノズル14とは、図3で示す様に配置されている。
高圧水用ノズル12はH鋼10の下端部に設けられており、図4で示す様に、H鋼10のウェブ10Wの概略中央に配置されている。そして充填材用ノズル14は、H鋼10のウェブ10Wを挟んで高圧水用ノズル12とは反対側に、ウェブ10Wの概略中央に設けられている。
図3において、高圧水ジェット12Jが鉛直方向下方へ噴射されるように、高圧水用ノズル12は、鉛直方向下方(矢印D方向)に向いている。そして充填材用ノズル14も、鉛直方向下方(矢印D方向)を向いている。
【0025】
図1及び図2で示すように、H鋼10にはバイブロハンマー11で振動(或いは打撃)が付与されるので、H鋼10を単に押し込む場合に比較して、遮水壁Wを施工するべき地盤へより速くH鋼10を打ち込むことが出来る。
さらに、図3で示すH鋼10を振動圧入する工程では、バイブロハンマー11で振動(或いは打撃)をH鋼10に付与することに加えて、H鋼10の下端部のノズル12から高圧水ジェット12Jを噴射して、H鋼10が押し込まれるべき土壌を切削している。H鋼10は自重が大きいため、高圧水ジェット12Jで切削された土壌中へ容易に押し込まれる。
【0026】
図1において符号Deで示す所定深度(10m程度、図示の実施形態では例えば14m)までH鋼10が押し込まれたならば、高圧水用ノズル12から高圧水ジェット12Jを噴射することを停止する。
そして、図1で示すように、或いは図5で示すように、H鋼10を図1の矢印U方向へ引き上げる。
H鋼10を引き上げるに際しては、バイブロハンマー11で振動を与えたまま、バックホウ13(或いは、クレーン等の建設機械)により、H鋼10を矢印U方向へ引き上げる。
【0027】
施工条件によっては、図5で示す引き上げ時に、H鋼10に振動を付与せずに、バックホウ13のみを用いて地上側(矢印U方向)へ引き抜いても良い。
例えば、図3で示すH鋼10の振動圧入工程の際に周辺地盤が十分に緩み、H鋼10を地上側に引き上げる作業を容易に行なうことが出来る場合が存在するからである。
【0028】
図1及び図5で示す様に、H鋼10を矢印U方向へ引き上げる際に、充填材用ノズル14から充填材14Fが、H鋼10が圧入されていた領域(下方の領域)に充填或いは注入される。
そして充填材14Fにより、遮水壁W(図1であれば区画Wn)を構成する。
【0029】
明確には図示されていないが、H鋼10を矢印U方向へ引き上げるに際しては、充填材用ノズル14から充填材14Fを充填しつつ、高圧水用ノズル12から固化材を下方へ噴射することが可能である。
その様に構成すれば、より広範囲に固化材を噴射して、遮水壁Wの強度や遮水性等を向上させることが可能である。
【0030】
バックホウ13によりH鋼10を地上側まで引き上げ、充填材14Fを充填した区画Wnは、充填材14Fが固化すると隣接する区画Wn−1と一体化する。
H鋼10を引き上げる際に、バイブロハンマー11により上下方向(矢印U方向及びその逆方向)に振動を付加することが可能である。係る振動を付加することにより、施工地盤Gにおける土圧によりH鋼10を引き上げることが困難になることを防止することが出来る。
【0031】
以下、図3で示すH鋼10の押し込み工程(振動圧入工程)と、図5で示すH鋼10の引き上げ工程とを、所定回数だけ繰り返すことにより、図1、図6、図7で示す様に、必要な長さの遮水壁Wが築造されるのである。
【0032】
図6及び図7は、先行して施工された遮水壁Wの区画Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・と、H鋼10を地上側に引き上げ工程を施工している区画Wnとを示している。
ここで、図6は比較的硬い地盤で施工している場合を示しており、図7は砂地盤等の比較的軟弱な地盤で施工している場合を示している。
【0033】
図6で示す比較的硬い地盤の場合には、充填材14Fが充填された領域(右上がりのハッチングで示す)は、その平面形状が、H鋼10と同様に、概略H字状となっている。そして、隣接する区画同士の接合個所が、符号PXで示されている。
区画Wn−1(図6で左から2番目の区画)と区画Wn(図6で左端の区画:H鋼10を地上側に引き上げ工程を施工している区画)との接合部分は、符号PXnで示されている。
【0034】
図4及び図6において、充填材用ノズル14から充填された充填材14Fは、H鋼10が圧入されていた領域に充填されるので、図6ではH鋼10直下の領域には充填材14Fが充填されている。
ここで、H鋼10が高圧水ジェット12Jを直下に噴射しつつ振動圧入されているので、H鋼10直下の領域のみならず、その周辺の領域も地盤が緩んでおり、充填材14Fが充填され易くなっている。そのため、H鋼10の投影図形のみならず、その周辺部分にも充填材14Fが充填される。図6では、図示の簡略化のため、H鋼10の4隅部周辺のみに充填材14Fが充填される様に図示されている。
充填材14Fは、振動圧入時にノズル12から噴射された水と、それによって切削された土壌と混合される。
【0035】
ここで、接合部分PXnにおいて、隣接する区画(例えば、区画Wn−1と区画Wn)が確実に接合しないと、その部分から地下水流が遮水壁Wを透過してしまう。
隣接する区画を確実に接合するため、図3で示す振動圧入工程に際しては、新たに振動圧入するH鋼10(区画Wn)を、図6における接合部分PXnの分だけ、直前に充填材14Fを充填した区画Wn−1と重複する様に、H鋼10の振動圧入の位置を設定する。
すなわち、接合部分PXnの分だけH鋼10の振動圧入位置を区画Wn−1と重複させることにより、区画Wnと区画Wn−1とは、他の接合部分PXと同様に、確実に接合するのである。
【0036】
図7は、比較的軟弱な地盤で施工した場合を、平面的に示している。
比較的軟弱な地盤では、H鋼10の先端から高圧水ジェット12Jを下方に噴射しつつ、振動圧入を行なうことにより、H鋼10の直下の領域のみならず、その周辺領域も切削され、且つ、緩む。そのため、H鋼10を引き上げつつ充填材14Fを充填すると、図7でハッチングを付して示す様に、H鋼10直下のみならず、H鋼10の内側及び外側の領域までもが、充填材14Fが充填され、原位置土と混合される。
なお、図6では、左端の領域WnはH鋼10の引き上げる工程が示されているが、図7では、簡略化のため、左端の領域Wnも充填材14Fが充填された状態で示されている。
【0037】
図1では、右側の区画が先行して、遮水壁Wが築造されているが、図6、図7でも同様に、図中右側の区画が先行して遮水壁Wが築造されている。
もちろん、左側の区画から先行して、H鋼10の振動圧入工程、引き上げ工程を実行しても良い。
【0038】
図7で示す遮水壁Wの投影図形から明らかな様に、比較的硬い地盤に築造された場合においても、第1実施形態により築造される遮水壁Wは、長手方向に連続した充填材の部分が、遮水壁Wの厚さ方向(図6、図7では上下方向)について2本あるので、築造される遮水壁Wの遮水性が向上する。
一方、図8で示す様に比較的軟弱な地盤に築造された場合においては、長手方向に連続した充填材の部分は、遮水壁Wの厚さ方向(図6、図7では上下方向)寸法が大きいので、やはり確実な遮水性能を発揮することが出来る。
【0039】
図1〜図7で示す第1実施形態において、施工地盤G中に押し込まれ(振動圧入され)、引き抜かれるH鋼10に代えて、その他の鋼材を用いることが可能である。
換言すれば、第1実施形態におけるH鋼10とは、バイブロハンマー11の打撃に耐えて、変形しない程度の剛性がある鋼材であって、安価且つ容易に入手可能な構造部材の代表例として挙げられたものである。例えば、管状の鋼材をH鋼10に代えて用いることが可能である。この場合においても、隣接する区画同士が確実に重複する様に振動圧入位置を設定し、充填材14Fが充填された区画間に隙間が出来ないようにする必要がある。
【0040】
図1〜図7の第1実施形態において、遮水壁Wを築造するべき施工地盤が、例えば、極めて緩い砂地盤である場合には、バイブロハンマー11で振動或いは打撃を付与することなく、高圧水ジェット12JとH鋼10の自重のみにより、H鋼10を施工地盤である極めて緩い砂地盤中に押し込むことも可能である。
或いは、施工地盤が、例えば、一軸圧縮強度の低い粘性土であれば、高圧水ジェット12Jを噴射せずに、バイブロハンマー11で振動或いは打撃を付与しつつ、建設機械でH鋼10を押し込むことにより、振動圧入のみでH鋼10を施工地盤中に押し込むことが可能である。ここで、高圧水ジェット12Jを噴射しないとH鋼10が施工地盤に押し込めない様な粘性土であれば、止水性が十分にあると考えられるので、遮水壁を設ける必要性がない。
すなわち、高圧水ジェット12Jが必要であるか否か、バイブロハンマー11が必要であるか否かは、土質によって異なる。従って、施工地盤Gについて、予め土質調査を実行しておくのが好適である。
【0041】
遮水壁Wについては、遮水が出来るのであれば、いわゆる「防水シート」で構成することが可能であり、H鋼を埋め込んで土圧を支持する必要性はない。したがって、H鋼10を地中に埋め殺したのでは、いわゆるオーバースペックとなってしまう。
図1〜図7の第1実施形態によれば、遮水壁Wの区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・を施工する度毎に、H鋼10を地上側に引き抜いている。区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・を施工する度毎に、H鋼10を地中に埋め殺す必要がない。そのため、複数本のH鋼10を地中に埋め殺し、過剰な強度を遮水壁に持たせてしまい、コスト高になってしまう恐れがない。
【0042】
図1〜図7の第1実施形態において、H鋼10を振動圧入する際に、ノズル12から高圧水ジェット12Jを噴射することに代えて、固化材ジェットを噴射することも可能である。
【0043】
そして図1〜図7の第1実施形態によれば、遮水壁W築造が、H鋼10の振動圧入工程と、H鋼10の引き上げ工程とで構成されるので、施工及びその段取りが容易となり、その分だけ施工期間が短縮され、且つ、施工コストを削減することが出来る。
具体的には、バイブロハンマー11及び切削用高圧水ジェット12Jの利用により、H鋼10を施工地盤中に押し込む速度が増加する。
【0044】
また、図1〜図7の第1実施形態は、バックホウ13やクレーンのような一般的な建設機械により、施工地盤にH鋼10を圧入し、施工地盤からH鋼10を引き上げることが出来るので、ボーリング機器や特別な機器を用いて施工する場合に比較して、施工コストを低減することが出来る。
【0045】
さらに、H鋼10を引き上げるに際して充填材14Fを充填しており、固化材を噴射することは行なっていないので、スライムが発生する恐れがない。
従って、固化材ジェットを用いて地中壁を造成する工法の様に、発生したスライムを回収して、専用の処理施設で処理する必要がなく、その分だけ(スライム処理の費用の分だけ)、施工コストが節約出来る。
【0046】
図8は、図1〜図7の第1実施形態の第1変形例を示している。
図4で示す様に、高圧水用ノズル12と充填材用ノズル14は、H鋼10のウェブ10Wを隔てて配置されているので、ノズル12から噴射された水が、ウェブ10Wに妨げられて、ウェブ10Wのノズル14側に到達しない可能性がある。そして、ノズル14から充填された充填材14Fと、高圧水及び/又は高圧水ジェット12Jで切削された原位置土とが、ウェブ10Wを隔てて、均一に混合されない事態が生じる恐れが存在する。
【0047】
係る可能性を排除するため、図8の第1変形例では、H鋼10のウェブ10Wに複数の貫通孔10Hを形成し、ノズル12から噴射された水と、ノズル14から充填された充填材14Fとが、貫通孔10Hを経由して、ウェブ10Wの両側に自在に往来する様に構成されている。
水と充填材14Fとがウェブ10Wの両側に自在に往来出来るので、ウェブ10Wの両側において、充填材14F、水、原位置土は均一に混合され、築造される遮水壁Wの品質が低下してしまうことが防止される。
【0048】
図8の第1変形例におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図7の第1実施形態と同様である。
【0049】
図9は、図1〜図7の第1実施形態の第1変形例を示している。
図1〜図7の第1実施形態では、例えば図5で示す様に、充填材14Fは下方(図9では、紙面に垂直な方向であって、手前側)に向かって充填されているが、図9の第2変形例では、充填材14FJは水平方向(図9では左右方向)に噴射されている。
【0050】
図9において、充填材供給ラインL14は、H鋼10の下端面において、相互に反対方向に延在する2本のライン14A、14A(図9では上下何れかに延在している)に分岐している。そして、ライン14A、14Aの各々は、ウェブ10Wに対して高圧水用ノズル12側(図9では右側)に延在するライン14B1と、その反対側(図9では左側)に延在するライン14B2とに分岐している。
ウェブ10Wに対して高圧水用ノズル12側(図9では右側)に延在する2本のライン14B1、14B1と、その反対側に延在する2本のライン14B2、14B2の先端には、充填材噴射用ノズル14N(合計4個)が設けられている。そして、4個のノズル14Nから、充填材14FJが、水平方向(図9の左右方向)に噴出している。
【0051】
図9の第2変形例によれば、充填材14FJが、水平方向(図9の左右方向)に噴出しているので、図1〜図7の第1実施形態に比較して、充填材14FJがより広い範囲に亘って充填され、その結果、隣接する壁と確実に接合して、遮水壁全体、特に隣接する壁との接合部分において、遮水性が向上する。
図9の第2変形例におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図7の第1実施形態と同様である。
【0052】
次に、図10〜図14を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図1〜図9で説明した第1実施形態では、施工地盤に振動圧入され、引き抜かれる鋼材として、1本のH鋼10を用いた。
これに対して、図10〜図14の第2実施形態では、2本のH鋼10A、10Bを繋げた状態で、施工地盤Gに圧入している。
【0053】
図11で示すように、一方のH鋼10Aのウェブ10WAの概略中央には、第1の高圧水噴射用ノズル12−1と、充填材用ノズル14とが配置されている。そして、他方のH鋼10Bのウェブ10WBの概略中央よりもやや側方(図11では左方)の位置に、第2の高圧水噴射用ノズル12−2が設けられている。
図10で示す振動圧入工程では、ノズル12−1から下方(矢印D方向)へ高圧水ジェット12J−1が噴射され、且つ、ノズル12−2から下方(矢印D方向)へ高圧水ジェット12J−2が噴射される。
ここで、2つのH鋼10A、10Bを接合する態様については、特に限定するものではない。明確には図示されていないが、例えば、溶接、金属ベルト、その他の図示しない手段を用いて、2つのH鋼10A、10Bが接合されている。
【0054】
所定深度(図1における深度De)までH鋼10A、10Bが振動圧入したならば、図12で示すように、高圧水ジェット12J−1、12J−2の噴射を停止する。そして、充填材用ノズル14から充填材14Fを、下方(矢印D方向)へ充填しつつ、バイブロハンマー11で振動を付加しながら、バックホウ13(図1参照)でH鋼10A、10Bを地上側(図13の矢印U方向)に引き上げる。
充填材14Fを噴射することにより、施工地盤が比較的硬い地盤であれば図13で示す様に遮水壁W(区間Wn−1、Wn)が築造され、施工地盤が比較的硬い地盤であれば図14で示す様に遮水壁W(区間Wn−1、Wn)が築造される。
【0055】
図13、図14で示すように、第2実施形態においても、充填材14Fにより築造された(遮水壁Wの)区画同士が連続しなければならないので、接合個所PXnで確実に重複させている。
【0056】
図10〜図14の第2実施形態によれば、2本のH鋼10A、10Bを同時に振動圧入して、地上側に引き上げられるので、第1実施形態に比較して、施工工数を1/2に減少することが出来る。
図10〜図14の第2実施形態におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図9の第1実施形態と同様である。
【0057】
図15〜図17は、本発明の第3実施形態を示している。
第3実施形態は、4本のH鋼10A1、10A2、10A3、10Bを接合して、4本のH鋼10A1、10A2、10A3、10Bを同時に振動圧入し、引き上げる様に構成されている。
図15で示すように、H鋼10A1〜10A3は、高圧水用ノズル12−1と充填材用ノズル14とを設けているが、H鋼10Bは高圧水用ノズル12−2のみを備えている。
なお、H鋼10A1〜10A3では、ウェブに接する様に高圧水用ノズル12−1と充填材用ノズル14とが配置されているのに対して、H鋼10Bでは高圧水用ノズル12−2はウェブから離隔した位置に設けられている。
なお、4本のH鋼10A1、10A2、10A3、10Bを接合する態様については、第2実施形態と同様に、特に限定するものではない。
【0058】
4本のH鋼10A1、10A2、10A3、10Bを同時に振動圧入し、引き上げることにより遮水壁W(区画Wn、Wn−1)を比較的硬い地盤に築造した状態が図16で示されており、比較的軟弱な地盤に築造した状態が図17で示されている。
第3実施形態においても、充填材14Fにより築造された(遮水壁Wの)区画同士が確実に連続する様に、接合個所PXnで重複させている。
【0059】
図15〜図17の第3実施形態では、4本のH鋼10A1〜10A3、10Bを同時に振動圧入して、地上側に引き上げられるので、施工工数をさらに減少することが出来る。
図15〜図17の第2実施形態におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図14の各実施形態と同様である。
【0060】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
例えば、図示の実施形態において、充填材における配合を変更することにより、遮水性を向上させることも可能である。
また、H鋼10(10A、10B)を所定の区画で埋め殺すのであれば、土留壁を築造することも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態の概要を示す正面図。
【図2】第1実施形態で用いられるバックホウを示す正面図。
【図3】第1実施形態におけるH鋼の振動圧入工程におけるH鋼の下端部近傍を示す部分斜視図。
【図4】H鋼の下端部におけるノズルの配置を示す図。
【図5】第1実施形態におけるH鋼の引き上げ時におけるH鋼の下端部近傍を示す部分斜視図。
【図6】比較的硬い施工地盤に第1実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図7】比較的軟弱な施工地盤に第1実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図8】第1実施形態の第1変形例の要部を示すH鋼の下端部の底面図。
【図9】第1実施形態の第2変形例での要部を示すH鋼の下端部の底面図。
【図10】第2実施形態におけるH鋼の振動圧入工程におけるH鋼の下端部近傍を示す部分斜視図。
【図11】第2実施形態におけるH鋼の下端部におけるノズルの配置を示す図。
【図12】第2実施形態におけるH鋼の引き上げ時におけるH鋼の下端部近傍を示す部分斜視図。
【図13】比較的硬い施工地盤に第2実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図14】比較的軟弱な施工地盤に第2実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図15】第3実施形態におけるH鋼の下端部におけるノズルの配置を示す図。
【図16】比較的硬い施工地盤に第3実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図17】比較的軟弱な施工地盤に第3実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【符号の説明】
【0062】
G・・・施工地盤
W・・・遮水壁
Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・遮水壁の区画
10、10A、10A1、10A2、10A3、10B・・・H鋼
11・・・バイブロハンマー
12・・・高圧水用ノズル
12J・・・高圧水ジェット
13・・・バックホウ
14・・・充填材用ノズル
14F・・・充填材
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に遮水壁を造成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に壁状固結体を造成するについては、従来から種々の技術が提案されている。
例えば、固化材及び/又は水の高圧ジェットにより、施工するべき地盤を溝状に切削し、原位置土と固化材とを混合、攪拌して地中壁を造成する技術や、多軸混練装置を用いて、複数の円柱状領域を切削しながら原位置土と固化材とを所定領域ずつ混合、攪拌することにより地中壁を造成する技術等が存在する。
【0003】
しかし、高圧ジェットを用いる従来技術では、施工地盤を掘削する機器と、高圧ジェットで固化材及び/又は水を施工地盤に対して噴射するための機器とが必要であり、その様な機器を施工現場に搬送して、設置するためのコストが嵩んでしまう、という問題が存在する。
一方、多軸混練装置を用いる従来技術においても同様な問題、すなわち、大規模な機械である多軸混練装置を施工現場まで搬送して、設置しなければならない。
さらに、上述した高圧ジェットを用いる従来技術や、多軸混練装置を用いる従来技術によって遮水壁を築造する場合において、従来技術を用いると、必要以上の強度を有する地中壁状体が造成されてしまい、その分だけコスト的に不都合である。
【0004】
その他の従来技術として、所定間隔を隔てて縦孔を掘削し、縦孔内に芯材を建て込み、芯材に沿って昇降可能な昇降体を設け、昇降体を縦孔底部から地上側に上昇させると同時に隣接する縦孔に向けて固化材を噴射する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)は、鋼材を建て込むために、縦孔を予め切削する労力及び機械が必要となり、また、固化材を噴射し且つ昇降可能な昇降体を準備しなければならず、上述したジェットを用いる従来技術と同様に、機器の搬送、設置のための労力及びコストが必要である。
また、芯材としてH鋼等の鋼材を縦孔内に埋め殺すことになるが、遮水壁築造に適用した場合には、遮水壁は土留壁に比較して要求される強度が低いので、前記従来技術(特許文献1)を適用して築造された遮水壁の強度が高過ぎて(オーバースペックになり)無駄になる、という問題が存在する。
【特許文献1】特開2004−211421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、特別な機器やボーリング機械を使用することなく、不必要に強度を高くしてしまうことなく、遮水壁を築造することが出来る遮水壁築造工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の遮水壁築造工法は、下端部(に設けられた高圧水用ノズル12)から下方へ地盤掘削用噴流(高圧水ジェット12J)を噴射しながら鋼材(例えばH鋼10)に(例えばバイブロハンマー11により)振動或いは打撃を付与しつつ地盤(G)中に押し込む圧入工程と、鋼材(10)を所定の深度(De)まで押し込んだならば、鋼材(10)下端部から下方へ噴射される地盤掘削用噴流(12J)を停止し、鋼材(10)を地上側(矢印U方向)に引き上げつつ、鋼材(10)下端部に設けられた充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填する引き上げ工程とを含み、所定長さ(施工するべき遮水壁Wの長さ)の遮水壁(W)が築造されるまで前記圧入工程と引き上げ工程とを繰り返すことを特徴としている(請求項1)。
ここで、例えばバイブロハンマー(11)等により鋼材(10)に振動或いは打撃を加えながら、当該鋼材(10)を施工地盤中に押し込むことを、本明細書では、「振動圧入」なる文言で表現する場合がある。
【0007】
本発明において、前記引き上げ工程では、充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填しつつ、鋼材(10)下端部に設けたノズル(12:地盤掘削流体用ノズル、或いは、高圧水用ノズル)から固化材を下方へ噴射することが可能である(請求項2)。
【0008】
また本発明において、前記引き上げ工程では鋼材(10)に(例えばバイブロハンマー11により)振動或いは打撃が付与されるのが好ましい(請求項3)。
【0009】
上述したように、本発明において、鋼材としては、例えばH鋼を用いることが好ましい。
そして、複数の鋼材(H鋼10A、10A1、10A2、10A3、10B)を接合して、前記圧入工程では同時に複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に施工地盤に押し込み、前記引き上げ工程では複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に地上側へ引き上げるのが好ましい(請求項4:図10〜図17)。
【0010】
本発明において、鋼材としてH鋼を用いた場合、H鋼のウェブ部分(10W、10WA、10WB)に貫通孔(10H)を形成することが好ましい(図8)。
【0011】
本発明において、充填材(14F)は下方に充填或いは注入されるのが好ましい(図1〜図7)。しかし、充填材(14F)を水平方向(横方向:図9の左右方向)に充填或いは注入することが出来る(図9)。
換言すれば、本発明において、充填材用ノズル(14)が水平方向に指向しており、前記引き上げ工程では充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を水平方向へ充填することも可能である(請求項5:図9)。
【0012】
なお、遮水壁の深度(De)は、例えば10m程度を想定している(図示の実施形態では、例えば14m)。
【発明の効果】
【0013】
上述する構成を具備する本発明によれば、前記圧入工程では、下端部(に設けられた高圧水用ノズル12)から下方へ地盤掘削用噴流(高圧水ジェット12J)を噴射しているので、鋼材(H鋼10)直下の土壌が切削され、当該鋼材(10)を容易に押し込むことが可能となる。
また、例えばバイブロハンマー(11)により鋼材(10)に振動或いは打撃を付与しつつ、施工地盤(G)中に押し込んでいるので、鋼材(10)は容易に施工地盤(G)中に押し込まれる。
そのため本発明によれば、鋼材(10)を施工地盤(G)中に押し込むこと(圧入工程)に費やされる労力やコストを低減して、施工期間を短縮化することが出来る。
【0014】
そして本発明では、バイブロハンマー(11)を支持する能力があり、構造部材(例えばH鋼)を引き上げる能力があれば、特別な機器やボーリング機械を使用することなく、実施できる。
そのため、バックホウ(13)やクレーン等の一般的な建設機械を用いて施工することが出来、特別な機器やボーリング機械を搬送し、設置する労力を節約することが出来る。
【0015】
また、本発明では、構造部材(10)の引き上げ工程では充填材(14F)を充填しており、固化材を噴射していないので、産業廃棄物であるスライムが発生しない。そのため、スライム処理のための設備や労力を省略することが出来る。
【0016】
さらに本発明によれば、鋼材(例えば、H鋼10)を埋め殺さず、再利用することが可能である。
【0017】
そして本発明において、複数の鋼材(H鋼10A、10A1、10A2、10A3、10B)を接合して、前記圧入工程では複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に施工地盤に押し込み、前記引き上げ工程では複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に地上側へ引き上げる様に構成すれば、1工程で施工される遮水壁の区画(Wn、Wn−1・・・)の長さが増加し、工数を減少することが出来るので、工期を短縮し、施工コストをさらに節約することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1〜図9は本発明の第1実施形態を示している。そして、図1は第1実施形態を用いて地盤Gに遮水壁Wが築造する概要を示している。
【0019】
図1において、地盤Gに築造された遮水壁Wは、複数の区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・が配列して構成されている。そして複数の区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・は、充填材(或いは固化材)14Fにより構成されている。
複数の区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・は、隣接する区画は充填材14Fが固化する際に、一体に接合されるが、図1において、遮水壁Wが複数の区画から構成されていることを明示するため、隣接する区画ではハッチングの向きを変えて示している。
なお、区画Wnについては、鋼材であるH鋼10を引き抜いて充填材を充填している状態が図示されている。
【0020】
H鋼10は、バイブロハンマー11を具備したバックホウ13により振動(及び/又は打撃)を付加されつつ地盤G中に押し込まれ(振動圧入され)、そして図1で示すように、バックホウ13によりH鋼10が地上側(図1の矢印U方向)に引き抜かれている。ここで「振動圧入」なる文言は、バイブロハンマー11等により振動及び/又は連続した打撃を付加しながら、H鋼10を施工地盤中に押し込む(矢印D方向へ押し込む)ことを意味している。
そして、H鋼10がバックホウ13により矢印U方向へ引き抜かれる際に、充填材(例えば、固化材)14FがH鋼10が振動圧入された領域へ充填され、これにより、遮水壁W(より詳細には、遮水壁Wにおける区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・の各々)が造成される。
【0021】
バイブロハンマー11を具備したバックホウ13は、図2で詳細に示されている。
図1及び図2において、H鋼10に接続されたラインL12は高圧水供給ラインであり、ラインL14は充填材供給ラインである。図3以下で後述するように、H鋼10を地盤Gに押し込む際にはラインL12を介して高圧水が供給され、H鋼10を地上側(図1の矢印U方向)へ引き上げる際にはラインL14を介して充填材が供給される。
なお、図1において、遮水壁Wの深度方向長さDeは14m程度、H鋼10の押し込み及び引き上げにより築造される区画Wnの水平方向(図1では左右方向)厚さLは0.4m程度に設定されている。
【0022】
バイブロハンマー11により施工地盤Gに振動圧入され(振動或いは打撃が付与されつつ押し込まれ)、バックホウ13により地上側へ引き抜かれるH鋼10は、図3、図4で示すように、その最深部(図2では下端部)に、土壌切削用の高圧水ジェット12Jを噴射する高圧水用ノズル12と、充填材14Fを注入する充填材用ノズル14とを有している。
図3、図4で示すように、高圧水用ノズル12は1個設けられ、充填材用ノズル14は4個設けられている。
なお、高圧水用ノズル12から高圧水ジェット12Jが噴射するのと同時に、充填材用ノズル14から充填材14Fを充填或いは注入することは、通常の施工では行なわれない。
第1実施形態の詳細については、図3〜図7を参照して説明する。
【0023】
第1実施形態に係る工法により遮水壁Wを築造するに際しては、先ず、図1に加えて図2で示すように、H鋼10の下端部に設けられている高圧水用ノズル12から土壌切削用の高圧水ジェット12Jを噴射しつつ、バイブロハンマー11(図1参照)でH鋼10に振動(或いは打撃)を付与して、遮水壁Wを施工するべき地盤Gに振動圧入する。
【0024】
H鋼10の下端部において、高圧水用ノズル12と、充填材用ノズル14とは、図3で示す様に配置されている。
高圧水用ノズル12はH鋼10の下端部に設けられており、図4で示す様に、H鋼10のウェブ10Wの概略中央に配置されている。そして充填材用ノズル14は、H鋼10のウェブ10Wを挟んで高圧水用ノズル12とは反対側に、ウェブ10Wの概略中央に設けられている。
図3において、高圧水ジェット12Jが鉛直方向下方へ噴射されるように、高圧水用ノズル12は、鉛直方向下方(矢印D方向)に向いている。そして充填材用ノズル14も、鉛直方向下方(矢印D方向)を向いている。
【0025】
図1及び図2で示すように、H鋼10にはバイブロハンマー11で振動(或いは打撃)が付与されるので、H鋼10を単に押し込む場合に比較して、遮水壁Wを施工するべき地盤へより速くH鋼10を打ち込むことが出来る。
さらに、図3で示すH鋼10を振動圧入する工程では、バイブロハンマー11で振動(或いは打撃)をH鋼10に付与することに加えて、H鋼10の下端部のノズル12から高圧水ジェット12Jを噴射して、H鋼10が押し込まれるべき土壌を切削している。H鋼10は自重が大きいため、高圧水ジェット12Jで切削された土壌中へ容易に押し込まれる。
【0026】
図1において符号Deで示す所定深度(10m程度、図示の実施形態では例えば14m)までH鋼10が押し込まれたならば、高圧水用ノズル12から高圧水ジェット12Jを噴射することを停止する。
そして、図1で示すように、或いは図5で示すように、H鋼10を図1の矢印U方向へ引き上げる。
H鋼10を引き上げるに際しては、バイブロハンマー11で振動を与えたまま、バックホウ13(或いは、クレーン等の建設機械)により、H鋼10を矢印U方向へ引き上げる。
【0027】
施工条件によっては、図5で示す引き上げ時に、H鋼10に振動を付与せずに、バックホウ13のみを用いて地上側(矢印U方向)へ引き抜いても良い。
例えば、図3で示すH鋼10の振動圧入工程の際に周辺地盤が十分に緩み、H鋼10を地上側に引き上げる作業を容易に行なうことが出来る場合が存在するからである。
【0028】
図1及び図5で示す様に、H鋼10を矢印U方向へ引き上げる際に、充填材用ノズル14から充填材14Fが、H鋼10が圧入されていた領域(下方の領域)に充填或いは注入される。
そして充填材14Fにより、遮水壁W(図1であれば区画Wn)を構成する。
【0029】
明確には図示されていないが、H鋼10を矢印U方向へ引き上げるに際しては、充填材用ノズル14から充填材14Fを充填しつつ、高圧水用ノズル12から固化材を下方へ噴射することが可能である。
その様に構成すれば、より広範囲に固化材を噴射して、遮水壁Wの強度や遮水性等を向上させることが可能である。
【0030】
バックホウ13によりH鋼10を地上側まで引き上げ、充填材14Fを充填した区画Wnは、充填材14Fが固化すると隣接する区画Wn−1と一体化する。
H鋼10を引き上げる際に、バイブロハンマー11により上下方向(矢印U方向及びその逆方向)に振動を付加することが可能である。係る振動を付加することにより、施工地盤Gにおける土圧によりH鋼10を引き上げることが困難になることを防止することが出来る。
【0031】
以下、図3で示すH鋼10の押し込み工程(振動圧入工程)と、図5で示すH鋼10の引き上げ工程とを、所定回数だけ繰り返すことにより、図1、図6、図7で示す様に、必要な長さの遮水壁Wが築造されるのである。
【0032】
図6及び図7は、先行して施工された遮水壁Wの区画Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・と、H鋼10を地上側に引き上げ工程を施工している区画Wnとを示している。
ここで、図6は比較的硬い地盤で施工している場合を示しており、図7は砂地盤等の比較的軟弱な地盤で施工している場合を示している。
【0033】
図6で示す比較的硬い地盤の場合には、充填材14Fが充填された領域(右上がりのハッチングで示す)は、その平面形状が、H鋼10と同様に、概略H字状となっている。そして、隣接する区画同士の接合個所が、符号PXで示されている。
区画Wn−1(図6で左から2番目の区画)と区画Wn(図6で左端の区画:H鋼10を地上側に引き上げ工程を施工している区画)との接合部分は、符号PXnで示されている。
【0034】
図4及び図6において、充填材用ノズル14から充填された充填材14Fは、H鋼10が圧入されていた領域に充填されるので、図6ではH鋼10直下の領域には充填材14Fが充填されている。
ここで、H鋼10が高圧水ジェット12Jを直下に噴射しつつ振動圧入されているので、H鋼10直下の領域のみならず、その周辺の領域も地盤が緩んでおり、充填材14Fが充填され易くなっている。そのため、H鋼10の投影図形のみならず、その周辺部分にも充填材14Fが充填される。図6では、図示の簡略化のため、H鋼10の4隅部周辺のみに充填材14Fが充填される様に図示されている。
充填材14Fは、振動圧入時にノズル12から噴射された水と、それによって切削された土壌と混合される。
【0035】
ここで、接合部分PXnにおいて、隣接する区画(例えば、区画Wn−1と区画Wn)が確実に接合しないと、その部分から地下水流が遮水壁Wを透過してしまう。
隣接する区画を確実に接合するため、図3で示す振動圧入工程に際しては、新たに振動圧入するH鋼10(区画Wn)を、図6における接合部分PXnの分だけ、直前に充填材14Fを充填した区画Wn−1と重複する様に、H鋼10の振動圧入の位置を設定する。
すなわち、接合部分PXnの分だけH鋼10の振動圧入位置を区画Wn−1と重複させることにより、区画Wnと区画Wn−1とは、他の接合部分PXと同様に、確実に接合するのである。
【0036】
図7は、比較的軟弱な地盤で施工した場合を、平面的に示している。
比較的軟弱な地盤では、H鋼10の先端から高圧水ジェット12Jを下方に噴射しつつ、振動圧入を行なうことにより、H鋼10の直下の領域のみならず、その周辺領域も切削され、且つ、緩む。そのため、H鋼10を引き上げつつ充填材14Fを充填すると、図7でハッチングを付して示す様に、H鋼10直下のみならず、H鋼10の内側及び外側の領域までもが、充填材14Fが充填され、原位置土と混合される。
なお、図6では、左端の領域WnはH鋼10の引き上げる工程が示されているが、図7では、簡略化のため、左端の領域Wnも充填材14Fが充填された状態で示されている。
【0037】
図1では、右側の区画が先行して、遮水壁Wが築造されているが、図6、図7でも同様に、図中右側の区画が先行して遮水壁Wが築造されている。
もちろん、左側の区画から先行して、H鋼10の振動圧入工程、引き上げ工程を実行しても良い。
【0038】
図7で示す遮水壁Wの投影図形から明らかな様に、比較的硬い地盤に築造された場合においても、第1実施形態により築造される遮水壁Wは、長手方向に連続した充填材の部分が、遮水壁Wの厚さ方向(図6、図7では上下方向)について2本あるので、築造される遮水壁Wの遮水性が向上する。
一方、図8で示す様に比較的軟弱な地盤に築造された場合においては、長手方向に連続した充填材の部分は、遮水壁Wの厚さ方向(図6、図7では上下方向)寸法が大きいので、やはり確実な遮水性能を発揮することが出来る。
【0039】
図1〜図7で示す第1実施形態において、施工地盤G中に押し込まれ(振動圧入され)、引き抜かれるH鋼10に代えて、その他の鋼材を用いることが可能である。
換言すれば、第1実施形態におけるH鋼10とは、バイブロハンマー11の打撃に耐えて、変形しない程度の剛性がある鋼材であって、安価且つ容易に入手可能な構造部材の代表例として挙げられたものである。例えば、管状の鋼材をH鋼10に代えて用いることが可能である。この場合においても、隣接する区画同士が確実に重複する様に振動圧入位置を設定し、充填材14Fが充填された区画間に隙間が出来ないようにする必要がある。
【0040】
図1〜図7の第1実施形態において、遮水壁Wを築造するべき施工地盤が、例えば、極めて緩い砂地盤である場合には、バイブロハンマー11で振動或いは打撃を付与することなく、高圧水ジェット12JとH鋼10の自重のみにより、H鋼10を施工地盤である極めて緩い砂地盤中に押し込むことも可能である。
或いは、施工地盤が、例えば、一軸圧縮強度の低い粘性土であれば、高圧水ジェット12Jを噴射せずに、バイブロハンマー11で振動或いは打撃を付与しつつ、建設機械でH鋼10を押し込むことにより、振動圧入のみでH鋼10を施工地盤中に押し込むことが可能である。ここで、高圧水ジェット12Jを噴射しないとH鋼10が施工地盤に押し込めない様な粘性土であれば、止水性が十分にあると考えられるので、遮水壁を設ける必要性がない。
すなわち、高圧水ジェット12Jが必要であるか否か、バイブロハンマー11が必要であるか否かは、土質によって異なる。従って、施工地盤Gについて、予め土質調査を実行しておくのが好適である。
【0041】
遮水壁Wについては、遮水が出来るのであれば、いわゆる「防水シート」で構成することが可能であり、H鋼を埋め込んで土圧を支持する必要性はない。したがって、H鋼10を地中に埋め殺したのでは、いわゆるオーバースペックとなってしまう。
図1〜図7の第1実施形態によれば、遮水壁Wの区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・を施工する度毎に、H鋼10を地上側に引き抜いている。区画Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・を施工する度毎に、H鋼10を地中に埋め殺す必要がない。そのため、複数本のH鋼10を地中に埋め殺し、過剰な強度を遮水壁に持たせてしまい、コスト高になってしまう恐れがない。
【0042】
図1〜図7の第1実施形態において、H鋼10を振動圧入する際に、ノズル12から高圧水ジェット12Jを噴射することに代えて、固化材ジェットを噴射することも可能である。
【0043】
そして図1〜図7の第1実施形態によれば、遮水壁W築造が、H鋼10の振動圧入工程と、H鋼10の引き上げ工程とで構成されるので、施工及びその段取りが容易となり、その分だけ施工期間が短縮され、且つ、施工コストを削減することが出来る。
具体的には、バイブロハンマー11及び切削用高圧水ジェット12Jの利用により、H鋼10を施工地盤中に押し込む速度が増加する。
【0044】
また、図1〜図7の第1実施形態は、バックホウ13やクレーンのような一般的な建設機械により、施工地盤にH鋼10を圧入し、施工地盤からH鋼10を引き上げることが出来るので、ボーリング機器や特別な機器を用いて施工する場合に比較して、施工コストを低減することが出来る。
【0045】
さらに、H鋼10を引き上げるに際して充填材14Fを充填しており、固化材を噴射することは行なっていないので、スライムが発生する恐れがない。
従って、固化材ジェットを用いて地中壁を造成する工法の様に、発生したスライムを回収して、専用の処理施設で処理する必要がなく、その分だけ(スライム処理の費用の分だけ)、施工コストが節約出来る。
【0046】
図8は、図1〜図7の第1実施形態の第1変形例を示している。
図4で示す様に、高圧水用ノズル12と充填材用ノズル14は、H鋼10のウェブ10Wを隔てて配置されているので、ノズル12から噴射された水が、ウェブ10Wに妨げられて、ウェブ10Wのノズル14側に到達しない可能性がある。そして、ノズル14から充填された充填材14Fと、高圧水及び/又は高圧水ジェット12Jで切削された原位置土とが、ウェブ10Wを隔てて、均一に混合されない事態が生じる恐れが存在する。
【0047】
係る可能性を排除するため、図8の第1変形例では、H鋼10のウェブ10Wに複数の貫通孔10Hを形成し、ノズル12から噴射された水と、ノズル14から充填された充填材14Fとが、貫通孔10Hを経由して、ウェブ10Wの両側に自在に往来する様に構成されている。
水と充填材14Fとがウェブ10Wの両側に自在に往来出来るので、ウェブ10Wの両側において、充填材14F、水、原位置土は均一に混合され、築造される遮水壁Wの品質が低下してしまうことが防止される。
【0048】
図8の第1変形例におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図7の第1実施形態と同様である。
【0049】
図9は、図1〜図7の第1実施形態の第1変形例を示している。
図1〜図7の第1実施形態では、例えば図5で示す様に、充填材14Fは下方(図9では、紙面に垂直な方向であって、手前側)に向かって充填されているが、図9の第2変形例では、充填材14FJは水平方向(図9では左右方向)に噴射されている。
【0050】
図9において、充填材供給ラインL14は、H鋼10の下端面において、相互に反対方向に延在する2本のライン14A、14A(図9では上下何れかに延在している)に分岐している。そして、ライン14A、14Aの各々は、ウェブ10Wに対して高圧水用ノズル12側(図9では右側)に延在するライン14B1と、その反対側(図9では左側)に延在するライン14B2とに分岐している。
ウェブ10Wに対して高圧水用ノズル12側(図9では右側)に延在する2本のライン14B1、14B1と、その反対側に延在する2本のライン14B2、14B2の先端には、充填材噴射用ノズル14N(合計4個)が設けられている。そして、4個のノズル14Nから、充填材14FJが、水平方向(図9の左右方向)に噴出している。
【0051】
図9の第2変形例によれば、充填材14FJが、水平方向(図9の左右方向)に噴出しているので、図1〜図7の第1実施形態に比較して、充填材14FJがより広い範囲に亘って充填され、その結果、隣接する壁と確実に接合して、遮水壁全体、特に隣接する壁との接合部分において、遮水性が向上する。
図9の第2変形例におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図7の第1実施形態と同様である。
【0052】
次に、図10〜図14を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図1〜図9で説明した第1実施形態では、施工地盤に振動圧入され、引き抜かれる鋼材として、1本のH鋼10を用いた。
これに対して、図10〜図14の第2実施形態では、2本のH鋼10A、10Bを繋げた状態で、施工地盤Gに圧入している。
【0053】
図11で示すように、一方のH鋼10Aのウェブ10WAの概略中央には、第1の高圧水噴射用ノズル12−1と、充填材用ノズル14とが配置されている。そして、他方のH鋼10Bのウェブ10WBの概略中央よりもやや側方(図11では左方)の位置に、第2の高圧水噴射用ノズル12−2が設けられている。
図10で示す振動圧入工程では、ノズル12−1から下方(矢印D方向)へ高圧水ジェット12J−1が噴射され、且つ、ノズル12−2から下方(矢印D方向)へ高圧水ジェット12J−2が噴射される。
ここで、2つのH鋼10A、10Bを接合する態様については、特に限定するものではない。明確には図示されていないが、例えば、溶接、金属ベルト、その他の図示しない手段を用いて、2つのH鋼10A、10Bが接合されている。
【0054】
所定深度(図1における深度De)までH鋼10A、10Bが振動圧入したならば、図12で示すように、高圧水ジェット12J−1、12J−2の噴射を停止する。そして、充填材用ノズル14から充填材14Fを、下方(矢印D方向)へ充填しつつ、バイブロハンマー11で振動を付加しながら、バックホウ13(図1参照)でH鋼10A、10Bを地上側(図13の矢印U方向)に引き上げる。
充填材14Fを噴射することにより、施工地盤が比較的硬い地盤であれば図13で示す様に遮水壁W(区間Wn−1、Wn)が築造され、施工地盤が比較的硬い地盤であれば図14で示す様に遮水壁W(区間Wn−1、Wn)が築造される。
【0055】
図13、図14で示すように、第2実施形態においても、充填材14Fにより築造された(遮水壁Wの)区画同士が連続しなければならないので、接合個所PXnで確実に重複させている。
【0056】
図10〜図14の第2実施形態によれば、2本のH鋼10A、10Bを同時に振動圧入して、地上側に引き上げられるので、第1実施形態に比較して、施工工数を1/2に減少することが出来る。
図10〜図14の第2実施形態におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図9の第1実施形態と同様である。
【0057】
図15〜図17は、本発明の第3実施形態を示している。
第3実施形態は、4本のH鋼10A1、10A2、10A3、10Bを接合して、4本のH鋼10A1、10A2、10A3、10Bを同時に振動圧入し、引き上げる様に構成されている。
図15で示すように、H鋼10A1〜10A3は、高圧水用ノズル12−1と充填材用ノズル14とを設けているが、H鋼10Bは高圧水用ノズル12−2のみを備えている。
なお、H鋼10A1〜10A3では、ウェブに接する様に高圧水用ノズル12−1と充填材用ノズル14とが配置されているのに対して、H鋼10Bでは高圧水用ノズル12−2はウェブから離隔した位置に設けられている。
なお、4本のH鋼10A1、10A2、10A3、10Bを接合する態様については、第2実施形態と同様に、特に限定するものではない。
【0058】
4本のH鋼10A1、10A2、10A3、10Bを同時に振動圧入し、引き上げることにより遮水壁W(区画Wn、Wn−1)を比較的硬い地盤に築造した状態が図16で示されており、比較的軟弱な地盤に築造した状態が図17で示されている。
第3実施形態においても、充填材14Fにより築造された(遮水壁Wの)区画同士が確実に連続する様に、接合個所PXnで重複させている。
【0059】
図15〜図17の第3実施形態では、4本のH鋼10A1〜10A3、10Bを同時に振動圧入して、地上側に引き上げられるので、施工工数をさらに減少することが出来る。
図15〜図17の第2実施形態におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図14の各実施形態と同様である。
【0060】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
例えば、図示の実施形態において、充填材における配合を変更することにより、遮水性を向上させることも可能である。
また、H鋼10(10A、10B)を所定の区画で埋め殺すのであれば、土留壁を築造することも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態の概要を示す正面図。
【図2】第1実施形態で用いられるバックホウを示す正面図。
【図3】第1実施形態におけるH鋼の振動圧入工程におけるH鋼の下端部近傍を示す部分斜視図。
【図4】H鋼の下端部におけるノズルの配置を示す図。
【図5】第1実施形態におけるH鋼の引き上げ時におけるH鋼の下端部近傍を示す部分斜視図。
【図6】比較的硬い施工地盤に第1実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図7】比較的軟弱な施工地盤に第1実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図8】第1実施形態の第1変形例の要部を示すH鋼の下端部の底面図。
【図9】第1実施形態の第2変形例での要部を示すH鋼の下端部の底面図。
【図10】第2実施形態におけるH鋼の振動圧入工程におけるH鋼の下端部近傍を示す部分斜視図。
【図11】第2実施形態におけるH鋼の下端部におけるノズルの配置を示す図。
【図12】第2実施形態におけるH鋼の引き上げ時におけるH鋼の下端部近傍を示す部分斜視図。
【図13】比較的硬い施工地盤に第2実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図14】比較的軟弱な施工地盤に第2実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図15】第3実施形態におけるH鋼の下端部におけるノズルの配置を示す図。
【図16】比較的硬い施工地盤に第3実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【図17】比較的軟弱な施工地盤に第3実施形態により遮水壁を築造している状態を示す平面図。
【符号の説明】
【0062】
G・・・施工地盤
W・・・遮水壁
Wn、Wn−1、Wn−2、Wn−3・・・遮水壁の区画
10、10A、10A1、10A2、10A3、10B・・・H鋼
11・・・バイブロハンマー
12・・・高圧水用ノズル
12J・・・高圧水ジェット
13・・・バックホウ
14・・・充填材用ノズル
14F・・・充填材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端部から下方へ地盤掘削用噴流(12J)を噴射しながら鋼材(10)に振動或いは打撃を付与しつつ地盤(G)中に押し込む圧入工程と、鋼材(10)を所定の深度(De)まで押し込んだならば、鋼材(10)下端部から下方へ噴射される地盤掘削用噴流(12J)を停止し、鋼材(10)を地上側に引き上げつつ、鋼材(10)下端部に設けられた充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填する引き上げ工程とを含み、所定長さの遮水壁(W)が築造されるまで前記圧入工程と引き上げ工程とを繰り返すことを特徴とする遮水壁築造工法。
【請求項2】
前記引き上げ工程では、充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填しつつ、鋼材(10)下端部に設けたノズル(12)から固化材を下方へ噴射している請求項1の遮水壁築造工法。
【請求項3】
前記引き上げ工程では鋼材(10)に振動或いは打撃が付与される請求項1、2の何れかの遮水壁築造工法。
【請求項4】
複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を接合して、前記圧入工程では同時に複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に施工地盤に押し込み、前記引き上げ工程では複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に地上側へ引き上げる請求項1〜3の何れか1項の遮水壁築造工法。
【請求項5】
充填材用ノズル(14)が水平方向に指向しており、前記引き上げ工程では充填材用ノズル(14)から充填材(14FJ)を水平方向へ充填する請求項1〜4の何れか1項の遮水壁築造工法。
【請求項1】
下端部から下方へ地盤掘削用噴流(12J)を噴射しながら鋼材(10)に振動或いは打撃を付与しつつ地盤(G)中に押し込む圧入工程と、鋼材(10)を所定の深度(De)まで押し込んだならば、鋼材(10)下端部から下方へ噴射される地盤掘削用噴流(12J)を停止し、鋼材(10)を地上側に引き上げつつ、鋼材(10)下端部に設けられた充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填する引き上げ工程とを含み、所定長さの遮水壁(W)が築造されるまで前記圧入工程と引き上げ工程とを繰り返すことを特徴とする遮水壁築造工法。
【請求項2】
前記引き上げ工程では、充填材用ノズル(14)から充填材(14F)を充填しつつ、鋼材(10)下端部に設けたノズル(12)から固化材を下方へ噴射している請求項1の遮水壁築造工法。
【請求項3】
前記引き上げ工程では鋼材(10)に振動或いは打撃が付与される請求項1、2の何れかの遮水壁築造工法。
【請求項4】
複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を接合して、前記圧入工程では同時に複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に施工地盤に押し込み、前記引き上げ工程では複数の鋼材(10A、10A1、10A2、10A3、10B)を同時に地上側へ引き上げる請求項1〜3の何れか1項の遮水壁築造工法。
【請求項5】
充填材用ノズル(14)が水平方向に指向しており、前記引き上げ工程では充填材用ノズル(14)から充填材(14FJ)を水平方向へ充填する請求項1〜4の何れか1項の遮水壁築造工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−90556(P2010−90556A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259202(P2008−259202)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(390002233)ケミカルグラウト株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(390002233)ケミカルグラウト株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
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