説明

遺伝子発現プロファイルおよび使用方法

本発明は、遺伝子発現プロファイル、遺伝子発現プロファイルを表す核酸配列を含んでなるマイクロアレイ、ならびに発現プロファイルおよびマイクロアレイの使用方法に関する。本発明は、癌を検出するための診断アッセイのための方法および組成物、ならびに癌を処置するための治療方法および組成物もまた提供する。本発明は、癌の治療薬の設計、同定および最適化方法もまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2003年12月12日出願の米国仮出願第60/529,432号(その内容はそっくりそのまま引用することにより本明細書に組み込まれる)の特典を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、遺伝子発現プロファイル、遺伝子発現プロファイルを表す核酸配列を含んでなるマイクロアレイ、ならびに遺伝子発現プロファイルおよびマイクロアレイの使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの疾患状態は、遺伝子DNAのコピー数の変化若しくは(例えば開始の制御、RNA前駆体の提供、RNAプロセシングなどによる)特定の遺伝子の転写のレベルの変化のいずれかによる多様な遺伝子の発現レベルの差違を特徴とする。例えば、遺伝物質の喪失および獲得は悪性の形質転換および進行において重要な役割を演じている。これらの獲得および喪失は、少なくとも2種類の遺伝子すなわち癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子により「駆動される」と考えられている。癌遺伝子は腫瘍形成の正の調節因子である一方、腫瘍抑制遺伝子は腫瘍形成の負の調節因子である(非特許文献1;非特許文献2)。従って、調節されない増殖の活性化の一機構は、癌遺伝子タンパク質をコードする遺伝子の数を増大させること、または(例えば細胞若しくは環境の変化に応答して)これらの癌遺伝子の発現のレベルを増大させることであり、また、別の機構は、腫瘍抑制因子をコードする遺伝物質を喪失すること、若しくは遺伝子の発現のレベルを低下させることである。このモデルは、神経膠腫進行に関連する遺伝物質の喪失および獲得により裏付けられる(非特許文献3)。かように、特定の遺伝子(例えば癌遺伝子若しくは腫瘍抑制因子)の発現(転写)レベルの変化は、多様な癌の存在および進行の指針としてはたらく。
【0004】
これらの多様な疾患(例えば癌)を処置するために治療薬として使用される化合物は、おそらく、これらの遺伝子発現の変化の若干若しくは全部を無効にする。これらの遺伝子の少なくともいくつかの発現の変化は、従って、こうした治療薬の有効性のモニター方法若しくは予測方法としてさえ使用しうる。これらの発現の変化の分析は、目的の標的組織(例えば腫瘍)若しくは何らかの代理細胞集団(例えば末梢血白血球)中で実施しうる。後者の場合には、遺伝子発現の変化の有効性(例えば腫瘍退縮若しくは非増殖)との相関は、発現の変化のパターンが有効性のマーカーとして使用されるためにはとりわけ強くなければならない。
【0005】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、核クロマチンに対するそれらの影響を介する遺伝子発現の調節において重要な酵素である。HDACは、ヒストンおよび他の転写調節因子のリシン残基からアセチル基を除去して、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)の効果を無効にする。調節されないHDAC活性は癌に結びつけられており、また、HDAC阻害活性剤はin vitroでヒト腫瘍細胞の増殖を阻害することが示されている(非特許文献4)。HDAC阻害活性剤は多くの腫瘍の細胞周期停止、分化および/又はアポトーシスを引き起こすことが示されている(非特許文献5)。数種のHDAC阻害活性剤はまた、ヒト異種移植モデルでも強力な抗腫瘍活性を示した(非特許文献6)。従って、データは、HDAC活性の小分子阻害活性剤が癌の処置における重要な治療機構であることができることを示唆する。さらに、HDAC活性の変化により変えられる遺伝子若しくは遺伝子産物を生体マーカーとして使用することができ、そして、例えば治療的化合物(1種若しくは複数)の有効性と相関する変化について、若しくはどの患者特定の治療薬から利益を得るとみられるかを予測するために追跡することができる。
【非特許文献1】Marshall、Cell 64:313−326、1991
【非特許文献2】Weinberg、Science 254:1138−1146、1991
【非特許文献3】Mikkelsonら、J.Cellular Biochem.46:3−8、1991
【非特許文献4】Donadelliら、Mol.Carcinog.38:59−69、2003
【非特許文献5】Yoshidaら、Curr.Med.Chem.10:2351−2358、2003
【非特許文献6】Artsら、Curr.Med.Chem.10:2343−2350、2003
【発明の開示】
【0006】
[発明の要約]
本発明は、遺伝子発現プロファイル、前記遺伝子発現プロファイルを表す核酸配列を含んでなるマイクロアレイ、ならびに前記遺伝子発現プロファイルおよびマイクロアレイの使用方法に向けられる。
【0007】
本発明の一態様において、遺伝子発現プロファイルは、薬物(drug)への曝露後に変えられた発現を示す1種以上の遺伝子(例えば配列番号1〜19)を含んでなる発現プロファイルである。例えば、発現プロファイルは、ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性剤(HDAC阻害活性剤)への曝露後に変えられた発現を示す1種以上の遺伝子を含んでなる。
【0008】
別の態様において、発現プロファイルは、薬物への曝露後に変えられた発現を示す1種以上のポリペプチド(例えば配列番号20〜37)を含んでなる発現プロファイルである。例えば、発現プロファイルは、HDAC阻害活性剤への曝露後に変えられた発現を示す1種以上のポリペプチドを含んでなる。
【0009】
本発明はまた、癌細胞の遺伝子発現プロファイルの発見にも向けられる。本発明の遺伝子発現プロファイルは、HDAC阻害活性剤での処置後の癌細胞のプロファイルを表す。実施例および表1に記述されるとおり、化合物で処置した癌細胞は、未処置の被験体中の同一の型の細胞に関してより高レベルで発現される(すなわちアップレギュレートされる)遺伝子およびより低レベルで発現される(すなわちダウンレギュレートされる)遺伝子を有する。表1に記述されるとおり、HDAC阻害活性剤での処置後に、数種の遺伝子が対応する未処置の癌細胞に関して癌細胞中でアップレギュレート若しくはダウンレギュレートされていることが示された。アップレギュレート若しくはダウンレギュレートされる遺伝子は、本明細書で「小分子の有効性に特徴的な遺伝子」と称される。
【0010】
HDAC阻害活性剤への曝露後に変えられた発現を示す1種以上の遺伝子を含んでなるマイクロアレイもまた本発明の範囲内にある。本発明の別の態様において、マイクロアレイは、表1に列挙される遺伝子(配列番号1〜19)よりなる群から選択される1種以上の遺伝子を含んでなるマイクロアレイでありうる。さらなる一態様において、マイクロアレイは、表1に列挙される遺伝子(配列番号1〜19)を含んでなる群から単離される1種以上の生体マーカーを含んでなるマイクロアレイでありうる。
【0011】
加えて、癌の予測、診断、予後および治療のための方法および試薬を提供することが本発明の別の局面である。
【0012】
本発明はまた、限定されるものでないが、組織若しくは細胞サンプルに対する薬物若しくは処置(treatment)(例えばHDAC阻害活性剤)の効果をスクリーニングすること、組織若しくは細胞サンプルに対する毒性効果をスクリーニングすること、組織若しくは細胞サンプル中の疾患状態を同定すること、患者診断を提供すること、処置に対する患者の応答を予測すること、対照サンプルと薬物処置したサンプルを識別すること、正常サンプルと腫瘍サンプルを識別すること、新規薬物を発見すること、および組織若しくは細胞サンプル中での遺伝子発現のレベルを測定することを挙げることができる、前記マイクロアレイの使用方法にも関する。
【0013】
本発明の別の態様は、1種以上の遺伝子(例えば配列番号1〜19)および/又は遺伝子産物(例えば配列番号20〜37)の発現のレベルを分析する段階を含んでなる、組織若しくは細胞サンプルに対する薬物(例えばHDAC阻害活性剤)の効果のスクリーニング方法であり、ここで、組織若しくは細胞サンプル中での遺伝子発現および/又は遺伝子産物のレベルを該薬物への曝露の前および後に分析し、そして、該遺伝子および/又は遺伝子産物の発現レベルの変動は、薬物の効果を示すか、若しくは患者診断を提供するか、若しくは該処置に対する患者の応答を予測する。
【0014】
本発明の別の局面は、1種以上の遺伝子および/又は遺伝子産物の発現のレベルを分析する段階を含んでなる、新規薬物の発見方法であり、ここで、細胞の遺伝子発現および/又は遺伝子産物のレベルを該薬物への曝露の前および後に分析し、そして該遺伝子および/又は遺伝子産物の発現レベルの変動は薬物の有効性を示す。
【0015】
本発明はさらに、癌を伴う被験体に試験化合物を投与すること、およびポリペプチド(例えば配列番号20〜37によりコードされるポリペプチド)の活性を測定することを含んでなる、癌の処置に有用な化合物の同定方法を提供し、ここでは、ポリペプチドの活性の変化が癌の処置に有用である試験化合物を示す。
【0016】
本発明は、従って、例えば、アゴニストおよびアンタゴニスト、部分アゴニスト、インバースアゴニスト、活性化物質、補助活性化物質ならびに阻害活性剤のような調節物質(regulator)若しくはモジュレーター(modulator)として作用しうる化合物を同定するのに使用しうる方法を提供する。従って、本発明は、癌と関連するポリヌクレオチド若しくはポリペプチドの発現を調節するための試薬および方法を提供する。ポリヌクレオチドの発現、安定性若しくは量、またはポリペプチドの活性をモジュレートする試薬は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、核酸アナログ(例えばペプチド核酸、ロック核酸(locked nucleic acid))若しくは小分子でありうる。
【0017】
本発明はまた、1種以上の遺伝子および/又は遺伝子産物の発現のレベルを分析する段階を含んでなる患者診断の提供方法も提供し、ここで、正常および患者サンプルの遺伝子発現および/又は遺伝子産物レベルを分析し、そして、患者サンプル中の遺伝子および/又は遺伝子産物の発現レベルの変動が疾患を診断する。患者サンプルは、限定されるものでないが血液、羊水、血漿、精液、骨髄および組織生検を挙げることができる。
【0018】
本発明は、なおさらに、癌を有することが疑われる被験体におけるポリペプチドの活性を測定することを含んでなる、被験体における癌の診断方法を提供し、ここで、癌を有することが疑われない被験体におけるポリペプチドの活性に対して該ポリペプチドの活性の差違が存在する場合には、該被験体は癌を有すると診断される。
【0019】
別の態様において、本発明は、あるタンパク質に対する抗体を使用して患者サンプル中のタンパク質と反応させる、患者サンプル中の癌の検出方法を提供する。
【0020】
本発明の別の局面は、1種以上の遺伝子および/又は遺伝子産物の発現のレベルを分析する段階を含んでなる、正常状態と疾患状態の識別方法であり、ここでは、正常および疾患組織の遺伝子発現および/又は遺伝子産物のレベルを分析し、そして、遺伝子および/又は遺伝子産物の発現レベルの変動が疾患状態を示す。
【0021】
別の態様において、本発明は、少なくとも1種の遺伝子の正常細胞に対しての差次的発現(differential expression)を検出することを含んでなる、細胞の表現型の決定方法に関し、ここで、該遺伝子は正常細胞に比較して差次的に発現される。
【0022】
なお別の態様において、本発明は、少なくとも1種のポリペプチドの正常細胞に対しての差次的発現を検出することを含んでなる、細胞の表現型の決定方法に関し、ここで、該タンパク質は正常細胞に比較して差次的に発現される。
【0023】
別の態様において、本発明は、少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約25若しくは少なくとも約40の連続するヌクレオチドを有するヌクレオチド配列を含んでなる核酸プローブを提供すること、患者から細胞のサンプルを得ること、場合によっては、その実質的に全部が非癌性である細胞の第二のサンプルを提供すること、核酸プローブをストリンジェントな(stringent)条件下で前記第一および第二の細胞サンプルのそれぞれのmRNAと接触させること、ならびに(a)第一の細胞サンプルのmRNAとのプローブのハイブリダイゼーションの量を(b)第二の細胞サンプル中のmRNAとのプローブのハイブリダイゼーションの量と比較することによる、患者からの細胞の表現型の決定方法に関し、ここでは、第二の細胞サンプルのmRNAとのハイブリダイゼーションの量に比較した第一の細胞サンプルのmRNAとのハイブリダイゼーションの量の差違が、該第一の細胞サンプル中の細胞の表現型を示す。
【0024】
別の態様において、本発明は、患者から単離された細胞のサンプル中の核酸のレベルを測定するためのプローブ/プライマーを含んでなる、癌性細胞若しくは組織の存在を同定するための試験キットを提供する。ある態様において、該キットはさらに、キットの使用説明書、細胞を懸濁若しくは固定するための溶液、検出可能なタグ若しくはラベル、核酸をハイブリダイゼーションに対し感受性にするための溶液、細胞を溶解するための溶液、または核酸の精製のための溶液を包含しうる。
【0025】
一態様において、本発明は、あるタンパク質に特異的な抗体を含んでなる、癌細胞若しくは組織の存在を同定するための試験キットを提供する。ある態様において、該キットはさらにキットの使用説明書を包含する。ある態様において、該キットはさらに、細胞を懸濁若しくは固定するための溶液、検出可能なタグ若しくはラベル、ポリペプチドを抗体の結合に対し感受性にするための溶液、細胞を溶解するための溶液、またはポリペプチドの精製のための溶液を包含しうる。
【0026】
別の態様において、本発明は、患者から単離された細胞のサンプル中の核酸のレベルを測定するためのプローブ/プライマーを含んでなる、癌性細胞若しくは組織中での化合物若しくは治療薬の有効性をモニターするための試験キットを提供する。ある態様において、該キットはさらに、該キットの使用説明書、細胞を懸濁若しくは固定するための溶液、検出可能なタグ若しくはラベル、核酸をハイブリダイゼーションに対し感受性にするための溶液、細胞を溶解するための溶液、または核酸の精製のための溶液を包含しうる。
【0027】
一態様において、本発明は、あるタンパク質に特異的な抗体を含んでなる、癌細胞若しくは組織中での化合物若しくは治療薬の有効性をモニターするための試験キットを提供する。ある態様において、該キットはさらにキットの使用説明書を包含する。ある態様において、該キットはさらに、細胞を溶解若しくは固定するための溶液、検出可能なタグ若しくはラベル、ポリペプチドを抗体の結合に対し感受性にするための溶液、細胞を溶解するための溶液、またはポリペプチドの精製のための溶液を包含しうる。
【0028】
本発明はまた、疾患若しくは薬物処置を表す遺伝子発現プロファイルから一組の生体マーカー遺伝子を選択する段階を含んでなる、生体マーカーの同定方法にも関する。
[発明の詳細な記述]
【0029】
本発明は、記述される特定の方法論、プロトコル、細胞系、動物種若しくは属、構築物(constructs)および試薬に制限されずそしてそうしたものは変動しうることが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は特定の態様を記述する目的上のみであり、そして付属として付けられる請求の範囲によってのみ制限されることができる本発明の範囲を制限することを意図していないこともまた理解されるべきである。
【0030】
本明細書および付属として付けられる請求の範囲で使用されるところの単数形「a(ある)」、「and(および)」および「the(該)」は、文脈が別の方法で明瞭に指図しない限り複数の言及を包含することに注意されなければならない。従って、例えば、「ある遺伝子(a gene)」への言及は1種以上の遺伝子への言及であり、そして当業者に既知のそれの等価物を包含する、などである。
【0031】
別の方法で定義されない限り、本明細書で使用される全部の技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者に共通に理解されると同一の意味するところを有する。本明細書に記述されるものに類似若しくは等価のいかなる方法、装置および物質も本発明の実務若しくは試験で使用し得るとは言え、好ましい方法、装置および物質を今や記述する。
【0032】
本明細書で挙げられる全部の刊行物および特許は、例えば現在記述される発明とともに使用されうる刊行物に記述される構築物および方法論を記述かつ開示する目的上、ここに引用することにより本明細書に組み込まれる。上でおよび本文を通じて論考される刊行物は、単に本出願の出願日以前のそれらの開示のため提供される。本明細書の何物も、本発明者が以前の発明に基づいてこうした開示を予期する権利を与えられないことの承認として解釈されるべきでない。
【0033】
定義
便宜性のため、本明細、実施例および付属として付けられる請求の範囲で使用されるある種の用語および句の意味するところを下に提供する。
【0034】
病的な細胞「の対応する正常細胞」若しくは「に対応する正常細胞」若しくは「の正常の対照物細胞」という句は、該病的な細胞の型と同一の型の正常細胞を指す。
【0035】
アレイ(例えばマイクロアレイ)上の「アドレス」は、ある要素、例えばオリゴヌクレオチドがアレイの固体表面に結合されている場所を指す。
【0036】
本明細書で使用されるところの「アゴニスト」という用語は、タンパク質の生物活性を模倣若しくはアップレギュレート(例えば増強若しくは補充)する活性剤(agent)を指すことを意味している。アゴニストは、野性型タンパク質、若しくは野性型タンパク質の少なくとも1種の生物活性を有するその誘導体でありうる。アゴニストはまた、遺伝子の発現をアップレギュレートする、若しくはタンパク質の少なくとも1種の生物活性を増大させる化合物でもありうる。アゴニストはまた、別の分子、例えば標的ペプチド若しくは核酸とのポリペプチドの相互作用を増大させる化合物でもあり得る。
【0037】
本明細書で使用されるところの「増幅」は、核酸配列の付加的なコピーの製造を指す。例えば、増幅は当該技術分野で公知であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を使用して実施しうる。(例えば、Dieffenbach,C.W.とG.S.Dveksler(1995)PCR Primer,A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、ニューヨーク州プレーンビューを参照されたい)
【0038】
本明細書で使用されるところの「アンタゴニスト」は、タンパク質の少なくとも1種の生物活性をダウンレギュレート(例えば抑制若しくは阻害)する活性剤を指すことを意味している。アンタゴニストは、タンパク質と別の分子、例えば標的ペプチド若しくは酵素基質との間の相互作用を阻害若しくは減少させる化合物でありうる。アンタゴニストはまた、遺伝子の発現をダウンレギュレートする、若しくは存在する発現されるタンパク質の量を減少させる化合物でもありうる。例えば、HDAC阻害活性剤はこうしたアンタゴニストの一例である。
【0039】
本明細書で使用されるところの「抗体」という用語は、例えばいずれかのアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgEなど)の全抗体を包含することを意図しており、そして脊椎動物(例えば哺乳動物)タンパク質ともまた特異的に反応するそのフラグメントを包含する。抗体は慣習的技術を使用して断片化することができ、そしてフラグメントは全抗体について上述されたと同一の様式で利用性についてスクリーニングしうる。従って、該用語は、ある種のタンパク質と選択的に反応することが可能である抗体分子のタンパク質分解性に切断した若しくは組換えで製造した部分のセグメントを包含する。こうしたタンパク質分解性および/又は組換えフラグメントの制限しない例は、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、ならびにペプチドリンカーにより結合されたV[L]および/又はV[H]ドメインを含有する一本鎖抗体(scFv)を包含する。scFvは共有若しくは非共有結合されて2個以上の結合部位を有する抗体を形成しうる。主題の発明は、抗体のポリクローナル、モノクローナル若しくは他の精製された調製物、および組換え抗体を包含する。
【0040】
「アレイ」若しくは「マトリックス」という用語は、デバイス上の接近可能な場所すなわち「アドレス」の配置を指す。該場所は、二次元アレイ、三次元アレイ若しくは他のマトリックス形式に配置し得る。場所の数は数個から少なくとも数十万までの範囲にわたりうる。最も重要には、各場所は完全に独立の反応部位を表す。「核酸アレイ」は、オリゴヌクレオチド若しくは遺伝子のより大きな部分のような核酸プローブを含有するアレイを指す。アレイ上の核酸は一本鎖でありうる。プローブがオリゴヌクレオチドであるアレイは、「オリゴヌクレオチドアレイ」若しくは「オリゴヌクレオチドチップ」と称される。本明細書で「バイオチップ」若しくは「生物学的チップ」ともまた称される「マイクロアレイ」は、少なくとも約100/cm若しくは少なくとも約1000/cmの別個の領域の密度を有する領域のアレイである。マイクロアレイ中の領域は、典型的な寸法、例えば約10〜250μmの間の範囲の直径を有し、そしてアレイ中でほぼ同一の距離だけ他領域から分離されている。
【0041】
本明細書で互換性に使用される「生物学的活性」、「生物活性」、「活性」若しくは「生物学的機能」は、ポリペプチド(その天然のコンホメーションにあろうと変性されたコンホメーションにあろうと)若しくはそのいずれかの下位配列により直接若しくは間接的に実施されるエフェクター(effector)若しくは抗原の機能を意味している。生物学的活性は、ポリペプチドへの結合、他のタンパク質若しくは分子への結合、DNA結合タンパク質としての活性、転写制御因子としての活性、損傷を受けたDNAを結合する能力などを包含する。生物活性は主題のポリペプチドに直接影響を及ぼすことにより調節し得る。あるいは、生物活性は、対応する遺伝子の発現を調節することによるようなポリペプチドのレベルを調節することにより変えることができる。
【0042】
本明細書で使用されるところの「生物学的サンプル」という用語は、生物体から若しくは生物体の成分(例えば細胞)から得られるサンプルを指す。サンプルはいかなる生物学的組織若しくは液体のものであってもよい。サンプルは、患者由来のサンプルである「臨床サンプル」でありうる。こうしたサンプルは、限定されるものでないが唾液、血液、血液細胞(例えば白血球)、組織若しくは細針生検サンプル、尿、腹水および胸水、若しくはそれらからの細胞を挙げることができる。生物学的サンプルは、組織学的目的上採取した凍結切片のような組織の切片もまた包含しうる。
【0043】
「生体マーカー」若しくは「マーカー」という用語は、広範な細胞内および細胞外事象ならびに生物体全体の生理学的変化を包含する。生体マーカーは、限定されるものでないが、シグナル伝達分子、転写因子、代謝物、遺伝子転写物の産生のレベル若しくは速度、ならびにタンパク質の翻訳後(post−translational)修飾を挙げることができる細胞機能の本質的にいかなる局面も表しうる。生体マーカーは、転写レベルの全ゲノム分析、またはタンパク質レベルおよび/又は修飾の全プロテオーム分析を包含しうる。
【0044】
生体マーカーという用語は、未処置の病的な細胞に比較して、疾患を有する被験体の化合物で処置した病的な細胞中でアップ若しくはダウンレギュレートされている遺伝子若しくは遺伝子産物もまた指すことができる。すなわち、該遺伝子若しくは遺伝子産物は、小分子の有効性を同定、予測若しくは検出するのに場合によっては他の遺伝子若しくは遺伝子産物とともにそれが使用されうる処置された細胞に対し十分に特異的である。従って、生体マーカーは、病的な細胞中での化合物の有効性に特徴的である遺伝子若しくは遺伝子産物、または該化合物による処置に対するその病的な細胞の応答である。
【0045】
ヌクレオチド配列は、2種の配列の塩基のそれぞれが適合する、すなわちワトソン−クリックの塩基対を形成することが可能である場合に、別のヌクレオチド配列に「相補的」である。「相補鎖」という用語は本明細書で「相補物」という用語と互換性に使用される。核酸鎖の相補物は、コーディング鎖の相補物であっても非コーディング鎖の相補物であってもよい。
【0046】
「遺伝子の検出活性剤」は、遺伝子若しくはそれに関係する他の生物学的分子、例えば遺伝子から転写されたRNA若しくは該遺伝子によりコードされるポリペプチドを特異的に検出するのに使用し得る活性剤を指す。例示的検出活性剤は、遺伝子に対応する核酸にハイブリダイズする核酸プローブ、および抗体である。
【0047】
例えば正常細胞と疾患細胞との間の「差次的(differential)遺伝子発現パターン」は、正常細胞と疾患細胞との間の遺伝子発現の差違を反映するパターンを指す。差次的遺伝子発現パターンは、1時点の細胞と別の時点の細胞との間、または化合物とともにインキュベートもしくはそれと接触させた細胞と該化合物とともにインキュベート若しくはそれと接触させなかった細胞との間でもまた得ることができる。
【0048】
「癌」という用語は、限定されるものでないが、乳房、気道、脳、生殖器、消化管、尿路、眼、肝、皮膚、頭頚部、甲状腺、副甲状腺の癌のような充実性腫瘍、およびそれらの遠隔転移を挙げることができる。該用語はリンパ腫、肉腫および白血病もまた包含する。
【0049】
乳癌の例は、限定されるものでないが、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、非浸潤性乳管癌および非浸潤性小葉癌を挙げることができる。
【0050】
気道の癌の例は、限定されるものでないが小細胞および非小細胞肺癌、ならびに気管支腺腫および胸膜肺芽腫を挙げることができる。
【0051】
脳の癌の例は、限定されるものでないが脳幹および視床下部の神経膠腫、小脳および大脳星状細胞腫、髄芽腫、上衣腫、ならびに神経外胚葉および小果体の腫瘍を挙げることができる。
【0052】
男性生殖器の腫瘍は、限定されるものでないが前立腺および精巣癌を挙げることができる。女性生殖器の腫瘍は、限定されるものでないが、子宮内膜、子宮頚部、卵巣、膣および外陰部の癌、ならびに子宮の肉腫を挙げることができる。
【0053】
消化管の腫瘍は、限定されるものでないが肛門、結腸、結腸直腸、食道、胆嚢、胃、膵、直腸、小腸および唾液腺の癌を挙げることができる。
【0054】
尿路の腫瘍は、限定されるものでないが膀胱、陰茎、腎、腎盂、尿管および尿道の癌を挙げることができる。
【0055】
眼の癌は、限定されるものでないが眼内黒色腫および網膜芽腫を挙げることができる。
【0056】
肝癌の例は、限定されるものでないが肝細胞癌(線維層板型の変種を伴う若しくは伴わない肝細胞癌)、胆管癌(肝内胆管癌)および混合型肝細胞胆管癌を挙げることができる。
【0057】
皮膚癌は、限定されるものでないが、扁平上皮細胞癌、カポジ肉腫、悪性黒色腫、メルケル細胞皮膚癌および黒色腫以外の皮膚癌を挙げることができる。
【0058】
頭頚部の癌は、限定されるものでないが、喉頭/下咽頭/鼻咽頭/口腔咽頭癌、ならびに口唇および口腔癌を挙げることができる。
【0059】
リンパ腫は、限定されるものでないがAIDS関連リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキン病、および中枢神経系のリンパ腫を挙げることができる。
【0060】
肉腫は、限定されるものでないが、軟組織の肉腫、骨肉腫、悪性線維性組織球腫、リンパ肉腫および横紋筋肉腫を挙げることができる。
【0061】
白血病は、限定されるものでないが急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病および毛様細胞白血病を挙げることができる。
【0062】
「癌の病的な細胞」は癌を有する被験体に存在する細胞を指す。すなわち、正常細胞の改変された形態でありかつ癌を有しない被験体に存在しない細胞、または癌を有する被験体で癌を有しない被験体に関して有意により多い若しくは少ない数で存在する細胞。
【0063】
「等価な」という用語は、機能的に等価なポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を包含することが理解される。等価なヌクレオチド配列は、対立遺伝子バリアントのような1個若しくはそれ以上のヌクレオチド置換、付加若しくは欠失により異なる配列を包含することができ;そして従って、遺伝暗号の縮重により表1中で言及される核酸のヌクレオチド配列と異なる配列を包含しうる。
【0064】
本明細書で細胞の「遺伝子発現プロファイル」および「フィンガープリント」と互換性に使用される「発現プロファイル」という用語は、細胞中の1種以上の遺伝子のmRNAレベルを表す一組の値を指す。発現プロファイルは、例えば、少なくとも約2種の遺伝子、少なくとも約5種の遺伝子、少なくとも約10種の遺伝子、または少なくとも約50、100、200種若しくはそれ以上の遺伝子の発現レベルを表す値を含みうる。発現プロファイルは、複数の細胞および条件で類似のレベルで発現される遺伝子の(例えばGAPDHのようなハウスキーピング遺伝子)mRNAレベルもまた含みうる。
【0065】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド若しくは前駆体の産生に必要な制御およびコーディング配列を含んでなる核酸配列を指す。ポリペプチドは完全長のコーディング配列若しくはコーディング配列のいずれかの部分によりコードされ得る。遺伝子は、植物、真菌、動物、細菌ゲノム若しくはエピソーム、真核生物、核若しくはプラスミドDNA、cDNA、ウイルスDNAまたは化学合成したDNAを包含する当該技術分野で既知のいかなる供給源からの全部若しくは一部にも由来しうる。遺伝子は、コーディング領域、あるいは発現産物の生物学的活性若しくは化学構造、発現の速度、または発現制御の様式に影響を及ぼし得る非翻訳領域いずれにも1個若しくはそれ以上の改変を含有しうる。こうした改変は、限定されるものでないが1個若しくはそれ以上のヌクレオチドの突然変異、挿入、欠失および置換を挙げることができる。遺伝子は中断されないコーディング配列を構成しうるか、または、それは適切なスプライス接合部により結合された1個若しくはそれ以上のイントロンを包含しうる。
【0066】
「ハイブリダイゼーション」は、核酸の鎖が塩基対形成により相補鎖と結合するいかなる過程も指す。例えば、2本の一本鎖核酸は、それらが二本鎖の二重鎖を形成する場合に「ハイブリダイズする」。二本鎖性の領域は、一本鎖核酸の一方若しくは双方の完全長、または一方の一本鎖核酸の全部および他方の一本鎖核酸の1下位配列を包含しうるか、あるいは二本鎖性の領域は各核酸の1下位配列を包含しうる。ハイブリダイゼーションはまた、ある種のミスマッチを含有する二重鎖の形成も包含するが、但し、該2本の鎖がなお二本鎖のらせんを形成していることを条件とする。「緊縮性の(stringent)ハイブリダイゼーション条件」は、本質的に特異的ハイブリダイゼーションをもたらすハイブリダイゼーション条件を指す。
【0067】
DNA若しくはRNAのような核酸に関して本明細書で使用されるところの「単離された」という用語は、巨大分子の天然の供給源に存在するそれぞれ他のDNA若しくはRNAから分離された分子を指す。本明細書で使用されるところの「単離された」という用語はまた、細胞物質、ウイルス物質組換えDNA技術により製造される場合は、培地、または化学合成される場合は化学物質前駆体若しくは他の化学物質を実質的に含まない核酸若しくはペプチドも指す。さらに、「単離された核酸」は、フラグメントとして天然に存在せずかつ天然の状態で見出されないであろう核酸フラグメントを包含しうる。「単離された」という用語はポリペプチドを指すのにもまた本明細書で使用し、精製されたおよび組換えの双方のポリペプチドを包含することを意味している。
【0068】
本明細書で使用されるところの「ラベル」および「検出可能なラベル」という用語は、限定されるものでないが放射活性同位元素、フルオロフォア、化学発光部分、酵素、酵素基質、酵素補助因子、酵素阻害活性剤、色素、金属イオン、リガンド(例えばビオチン若しくはハプテン)などを挙げることができる検出の可能な分子を指す。「蛍光活性剤」という用語は、検出可能な範囲の蛍光を表すことが可能である物質若しくはその一部分を指す。本発明で使用しうるラベルの特定の例は、フルオレセイン、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、テキサスレッド、ルミノール、NADPH、α−β−ガラクトシラーゼおよびワサビペルオキシダーゼを包含する。
【0069】
「発現のレベル」という句は、細胞中の遺伝子によりコードされるmRNA、ならびにプレmRNA新生転写物(1種若しくは複数)、転写プロセシング中間体、成熟mRNA(1種若しくは複数)および分解産物のレベルを指す。「発現のレベル」という句は、細胞中のタンパク質若しくはポリペプチドのレベルもまた指す。
【0070】
本明細書で使用されるところの「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、および適切な場合はリボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチドを指す。該用語はまた、等価物として、ヌクレオチドアナログから作成されるRNA若しくはDNAいずれかのアナログ、ならびに、記述されている態様に適用可能なところの一本鎖(センス若しくはアンチセンス)および二本鎖ポリヌクレオチドを包含することも理解されるべきである。染色体、cDNA、mRNA、rRNAおよびESTは、核酸と称されうる分子の代表的な例である。
【0071】
「遺伝子に対応する核酸」という句は、該遺伝子を検出するために使用し得る核酸、例えば該遺伝子に特異的にハイブリダイズすることが可能である核酸を指す。
【0072】
「RNA由来の核酸サンプル」という句は、RNAから合成されうる1種以上の核酸分子(例えばRNA若しくはDNA)を指し、また、PCR(例えばRT−PCR)を使用する方法から製造されるDNAを包含する。
【0073】
本明細書で使用されるところの「オリゴヌクレオチド」という用語は、例えば約10から約1000までのヌクレオチドを含んでなる核酸分子を指す。本発明での使用のためのオリゴヌクレオチドは長さが約15から約150ヌクレオチドまで、若しくは約150から約1000まででありうる。オリゴヌクレオチドは天然に存在するオリゴヌクレオチド若しくは合成のオリゴヌクレオチドでありうる。オリゴヌクレオチドは、ホスホルアミダイト(phosphoramidite)法(BeaucageとCarruthers、Tetrahedron Lett.22:1859−62、1981)若しくはトリエステル法(Matteucciら、J.Am.Chem.Soc.103:3185、1981)、または当該技術分野で既知の他の化学的方法により製造しうる。
【0074】
本明細書で使用されるところの「患者」若しくは「被験体」という用語は哺乳動物(例えばヒトおよび動物)を包含する。
【0075】
「同一性パーセント」という用語は、2種のアミノ酸配列間若しくは2種のヌクレオチド配列間の配列の同一性を指す。例えば、2配列間の同一性は、比較の目的上整列しうる各配列中の特定の一位置を比較することにより決定しうる。比較された配列中の等価な一位置が同一の塩基若しくはアミノ酸により占有される場合には、該分子はその位置で同一である。等価な部位が同一若しくは類似のアミノ酸残基(例えば立体および/又は電子的性質が類似)により占有される場合には、該分子はその位置で相同(類似)と称することができる。相同性、類似性若しくは同一性のパーセントとしての表現は、比較された配列により共有される位置での同一若しくは類似のアミノ酸の数の関数を指す。例えばFASTA、BLAST若しくはENTREZを包含する多様なアライメントアルゴリズムおよび/又はプログラムを使用しうる。FASTAおよびBLASTはGCG配列解析パッケージ(ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)、ウィスコンシン州マディソン)の一部として入手可能であり、そして例えばデフォルトの設定で使用しうる。ENTREZは、国立保健研究所(National Institute of Health)の国立医学図書館(National Library of Medicine)の国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)、メリーランド州ベセスダにより入手可能である。一態様において、2配列の同一性パーセントは、1のギャップ加重(gap weight)(例えば、それが2配列間の単一のアミノ酸若しくはヌクレオチドのミスマッチであるかのように各アミノ酸ギャップを加重する)を用いるGCGプログラムにより決定しうる。アライメントのための他の技術はMethods in Enzymology(vol.266:Computer Methods for Macromolecular Sequence Analysis(1996)、Doolittle編、Academic Press,Inc.、Harcourt Brace & Co.の一部門、米国カリフォルニア州サンディエゴ)に記述されている。配列中のギャップを許容するアライメントプラグラムを利用して配列を整列しうる。例えば、Smith−Watermanは配列のアライメント中のギャップを許容する1つの型のアルゴリズムである(例えばMeth.Mol.Biol.70:173−187、1997を参照されたい)。また、NeedlemanとWunschのアライメント法を使用するGAPプログラムを利用して配列を整列しうる。代替の一検索戦略は、MASPARコンピュータ上で作動するMPSRCHソフトウェアを使用する。MPSRCFは、Smith−Watermanのアルゴリズムを使用して、超並列コンピュータ上で配列を評価する。このアプローチは、離れて関係するマッチを検出する能力を向上させ、そしてとりわけ小さなギャップおよびヌクレオチド配列の誤りに寛容である。核酸にコードされるアミノ酸配列を使用してタンパク質およびDNA双方のデータベースを検索しうる。個別の配列を含むデータベースはMethods in Enzymology、Doolittle編、上記に記述されている。データベースは、例えばGenbank、EMBLおよび日本DNAデータベース(DNA Databese of Japan)(DDBJ)を包含する。
【0076】
本明細書で使用されるところの、アレイに結合された核酸若しくは他の分子は「プローブ」若しくは「捕捉プローブ」と称される。アレイが1遺伝子に対応する数種のプローブを含有する場合、これらのプローブは「遺伝子プローブ組」と称される。遺伝子プローブ組は、例えば約2ないし約20種のプローブ、約2から約10種までのプローブ、若しくは約5種のプローブよりなることができる。
【0077】
細胞の生物学的状態の「プロファイル」は、薬物処置および細胞の生物学的状態の他の変動に応答して変化することが既知である細胞の多様な構成要素のレベルを指す。細胞の構成要素は、例えばRNAのレベル、タンパク質の豊富のレベル若しくはタンパク質の活性レベルを包含する。
【0078】
「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は、遺伝子産物を指す場合に本明細書で互換性に使用される。
【0079】
1細胞での発現プロファイルは、別の細胞での発現プロファイルに次の場合「類似」である。即ち該2プロファイルの遺伝子の発現のレベルが、類似性が共通の特徴、例えば同一の型の細胞を示す十分類似のものである場合に、別の細胞での発現プロファイルに「類似」である。
【0080】
本明細書で使用されるところの「小分子」は、約5kD未満若しくは約4kD未満の分子量をもつ組成物を指す。小分子は核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣物、炭水化物、脂質、または他の有機若しくは無機分子であり得る。多くの製薬企業は、本発明のアッセイのいずれかでスクリーニングして生物活性を調節する化合物を同定し得る、化学的および/または生物学的混合物、しばしば真菌、細菌若しくは藻類抽出物の完璧なライブラリーを有する。
【0081】
鋳型核酸の標的部位へのプローブの「特異的ハイブリダイゼーション」という用語は、ハイブリダイゼーションシグナルが明瞭に解釈され得るような、優先的に標的へのプローブのハイブリダイゼーションを指す。本明細書でさらに記述されるところの特異的ハイブリダイゼーションをもたらすこうした条件は、相同な領域の長さ、該領域のGC含量およびハイブリッドの融点(「Tm」)に依存して変動する。従って、ハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーション溶液および洗浄液の塩含量、酸性度および温度により変動しうる。
【0082】
ポリペプチドの「バリアント」は、1個若しくはそれ以上のアミノ酸残基が変えられているアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似の構造若しくは化学特性を有する「保存的」変化(例えばイソロイシンでのロイシンの置換)を有しうる。バリアントはまた「非保存的」変化(例えばトリプトファンでのグリシンの置換)も有しうる。類似の小さな変動はアミノ酸の欠失若しくは挿入または双方を包含しうる。生物学的若しくは免疫学的活性を消失させることなくどのアミノ酸残基を置換、挿入若しくは欠失しうるかの決定における手引きは、当該技術分野で公知のコンピュータプログラム、例えばLASERGENEソフトウェア(DNASTAR)を使用して同定しうる。
【0083】
ポリヌクレオチド配列の文脈で使用される場合の「バリアント」という用語は、特定の1遺伝子若しくはそのコーディング配列のポリヌクレオチド配列に関係づけられるポリヌクレオチド配列を包含しうる。この定義は、例えば「対立遺伝子」、「スプライス」、「種」若しくは「多形」バリアントもまた包含しうる。スプライスバリアントは参照分子に対する有意の同一性を有しうるが、しかし、一般に、mRNAプロセシングの間のエキソンの選択的スプライシングによりより多い若しくはより少ない数のポリヌクレオチドを有することができる。対応するポリペプチドは付加的な機能的ドメイン若しくはドメインの非存在を有しうる。種バリアントは種ごとに変動するポリヌクレオチド配列である。生じるポリペプチドは、一般に、相互に関して有意のアミノ酸同一性を有することができる。多形バリアントは、所定の種の個体間の特定の一遺伝子のポリヌクレオチド配列中の変異である。多形バリアントは、ポリヌクレオチド配列が1塩基だけ変動する「一塩基多形」(SNP)もまた包含しうる。SNPの存在は、例えばある一集団、ある疾患状態若しくはある疾患状態に対する傾向を示しうる。
【0084】
遺伝子の発現のレベルを決定するためのマイクロアレイ
一般に、マイクロアレイを用いて発現プロファイルを決定することは、以下の段階、すなわち(a)被験体からmRNAサンプルを得かつそれからラベル核酸(「標的核酸」若しくは「標的」)を製造する段階;(b)該標的核酸が例えばハイブリダイゼーションすなわち特異的結合によりアレイ上の対応するプローブに結合するのに十分な条件下で該標的核酸をアレイと接触させる段階;(c)アレイからの未結合標的の任意の除去の段階;(d)結合した標的を検出する段階、および(e)例えばコンピュータに基づく解析方法を使用して結果を解析する段階を必要とする。本明細書で使用されるところの「核酸プローブ」若しくは「プローブ」はアレイに結合された核酸である一方、「標的核酸」はアレイにハイブリダイズする核酸である。これらの段階のそれぞれを下により詳細に記述する。
【0085】
核酸試料は、試験されるべき個体から「侵襲的(invasive)」若しくは「非侵襲的」いずれのサンプリング手段を使用して得てもよい。サンプリング手段は、それが動物(ネズミ、ヒト、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ若しくはネコ動物を包含する)の皮膚若しくは器官内からの核酸の収集を必要とする場合に「侵襲的」であると言われる。侵襲的方法の例は、採血、精液収集、針生検、胸膜吸引、臍帯生検などを包含する。こうした方法の例は、Kimら(J.Virol.66:3879−3882、1992);Biswasら(Ann.NY Acad.Sci.590:582−583、1990);およびBiswasら(J.Clin.Microbiol.29:2228−2233、1991)により論考されている。
【0086】
対照的に、「非侵襲的」サンプリング手段は、核酸分子が動物の内若しくは外表面から回収されるものである。こうした「非侵襲的」サンプリング手段の例は、例えば、涙液、唾液、尿、糞便物質、汗(sweat)若しくは汗(perspiration)、毛髪などの「スワブ(swabbing)」収集を包含する。
【0087】
本発明の一態様において、試験されるべき被験体からの1個以上の細胞を得、そしてRNAを該細胞から単離する。一態様において、末梢血白血球(PBL)細胞のサンプルを被験体から得る。被験体から細胞サンプルを得、そしてその後該サンプルを所望の細胞型について濃縮(enrich)することもまた可能である。例えば、細胞は、所望の細胞型の細胞表面上の1エピトープに結合する抗体を用いる単離のような多様な技術を使用して他の細胞から単離しうる。所望の細胞が充実性組織中にある場合、特定の細胞を、例えば顕微解剖若しくはレーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション(LCM)により切開しうる(例えば、Bonnerら、Science 278:1481、1997;Emmert−Buckら、Science 274:998、1996;Fendら、Am.J.Path.154:61、1999;およびMurakamiら、Kidney Int.58:1346、2000を参照されたい)。
【0088】
RNAは、多様な方法、例えばチオシアン酸グアニジン溶解、次いでCsCl遠心分離により組織若しくは細胞サンプルから抽出しうる(Chirgwinら、Biochemistry 18:5294−5299、1979)。単一細胞からのRNAは、単一細胞からのcDNAライブラリーの調製方法で記述されたとおり得ることができる(例えばDulac、Curr.Top.Dev.Biol.36:245、1998;Jenaら、J.Immunol.Methods 190:199、1996を参照されたい)。
【0089】
RNAサンプルは特定の種についてさらに濃縮し得る。一態様において、例えば、ポリ(A)+RNAをRNAサンプルから単離しうる。とりわけ、ポリTオリゴヌクレオチドは、mRNAのアフィニティーリガンドとして供するために固体支持体上に固定しうる。この目的上のキットが商業的に入手可能である(例えばMessageMakerキット(Life Technologies、ニューヨーク州グランドアイランド))。
【0090】
一態様において、RNA集団を、表1に記述される遺伝子(例えば配列番号1〜19)のような目的の配列について濃縮しうる。濃縮は、例えばプライマー特異的cDNA合成、若しくはcDNA合成および鋳型に指示される(directed)in vitro転写に基づく複数回の直線状増幅により達成しうる(例えば、Wangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9717、1989;Dulacら、上記;Jenaら、上記を参照されたい)。
【0091】
特定の種若しくは配列が濃縮されたか若しくはされていないRNAの集団をさらに増幅(amplified)しうる。こうした増幅は、単一細胞若しくは数個の細胞からのRNAを使用する場合にとりわけ重要である。例えばPCR;リガーゼ連鎖反応(LCR)(例えばWuとWallace、Genomics 4:560、1989;Landegrenら、Science 241:1077、1988を参照されたい);自立配列複製(SSR)(例えばGuatelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874、1990を参照されたい);核酸に基づく配列増幅(NASBA)および転写増幅(例えばKwohら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173、1989を参照されたい)を包含する多様な増幅方法が本発明の方法での使用に適する。PCR技術の方法は当該技術分野で公知である(例えば、PCR Technology:Principles and Applications for DNA Amplification(H.A.Erlich編、Freeman Press、ニューヨーク州ニューヨーク、1992);PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Innisら編、Academic Press、カリフォルニア州サンディエゴ、1990);Mattilaら、Nucleic Acids Res.19:4967、1991;Eckertら、PCR Methods and Applications 1:17、1991;PCR(McPhersonら編、IRL Press、オックスフォード);および米国特許第4,683,202号明細書を参照されたい)。増幅方法は、例えば、Ohyamaら(BioTechniques 29:530、2000);Luoら、(Nat.Med.5:117、1999);Hegdeら(BioTechniques 29:548、2000);Kacharminaら(Meth.Enzymol.303:3、1999);Liveseyら、Curr.Biol.10:301、2000);Spirinら(Invest.Ophtalmol.Vis.Sci.40:3108、1999);およびSakaiら(Anal.Biochem.287:32、2000)により記述されている。RNA増幅およびcDNA合成は細胞でin situでもまた実施しうる(例えばEberwineら Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:3010、1992を参照されたい)。
【0092】
一般に、標的分子は、標的分子のマイクロアレイへのハイブリダイゼーションの検出を可能にするようにラベルすることができる。すなわち、プローブはシグナル産生系のメンバーを含むことができ、そして従って直接に、またはシグナル産生系の1種以上の付加的なメンバーとの組合された作用によるかのいずれかで検出可能である。直接検出可能なラベルの例は、ヌクレオチド単量体単位のようなプローブの一部分に通常は共有結合により組み込まれた同位元素および蛍光部分(例えばプライマーのdNMP)、またはプローブ分子の機能的部分に結合し得る検出可能なラベルの光活性若しくは化学的に活性の誘導体を包含する。
【0093】
核酸は、RNAの濃縮および/又は増幅の間にラベルしても後にラベルしてもよい。例えば、逆転写は検出可能なラベルに結合したdNTP、例えば蛍光ラベルしたdNTPの存在下で実施しうる。別の態様において、cDNA若しくはRNAプローブは、検出可能なラベルの非存在下で合成することができ、そしてその後例えばビオチニル化dNTP若しくはrNTPを組み込むこと、または何らかの類似の手段(例えばビオチンのソラーレン誘導体をRNAに光架橋すること)、次いでラベルしたストレプトアビジン(例えばフィコエリトリン結合ストレプトアビジン)若しくは均等物の添加によりラベルしうる。
【0094】
興味深い蛍光部分若しくはラベルは、クマリンおよびその誘導体(例えば7−アミノ−4−メチルクマリン、アミノクマリン);Bodipy FLおよびカスケードブルーのようなボディピー(bodipy)色素;フルオレセインおよびその誘導体(例えばフルオレセインイソチオシアネート、オレゴングリーン);ローダミン色素(例えばテキサスレッド、テトラメチルローダミン);エオシンおよびエリスロシン;シアニン色素(例えばCy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7);FluorX、ランタニドイオンの大環状キレート(例えばquantum dyeTM);チアゾールオレンジ−エチジウムヘテロ二量体、TOTAB、ダンシルのような蛍光エネルギー移動色素などを包含する。本発明の装置若しくはアッセイで望ましく検出される要素に結合するための官能性を有するか、またはこうした官能性を組み込むように改変されうる個別の蛍光化合物もまた利用しうる(例えばKricka、1992、Nonisotopic DNA Probe Techniques、Academic Press カリフォルニア州サンディエゴを参照されたい)。
【0095】
化学発光ラベルはルシフェリンおよび2,3−ジヒドロフタラジンジオン、例えばルミノールを包含する。
【0096】
ラベルは、同一の系の1種以上の付加的なメンバーと協力して作用して検出可能なシグナルを提供するシグナル産生系のメンバーでもまたありうる。リガンド、例えばビオチン、フルオレセイン、ジゴキシゲニン、抗原、多価陽イオン、キレート基などのような特異的結合対のメンバーがこうしたラベルを具体的に説明する。メンバーは、シグナル産生系の付加的なメンバーに特異的に結合することができ、そして、該付加的なメンバーが直接若しくは間接的にのいずれかで検出可能なシグナルを提供しうる(例えば、蛍光部分、若しくは基質を発色生成物に転化することが可能な酵素部分に結合された抗体(例えばアルカリホスファターゼ結合抗体など))。
【0097】
興味深い付加的なラベルは、それが会合しているプローブが標的分子に特異的に結合する場合にのみシグナルを提供するものを包含する。こうしたラベルは、TyagiとKramer(Nature Biotech.14:303、1996)および欧州特許第EP 0 070 685 B1号明細書に記述されるところの「分子ビーコン」を包含する。興味深い他のラベルは米国特許第5,563,037号;第WO 97/17471号;および同第WO 97/17076号明細書に記述されるものを包含する。
【0098】
他の態様において、標的核酸はラベルされなくてもよい。この場合、ハイブリダイゼーションは例えばプラスモン共鳴(例えばThielら Anal.Chem.69:4948、1997を参照されたい)により測定しうる。
【0099】
一態様において、1ハイブリダイゼーション反応で複数(例えば2、3、4、5若しくはそれ以上)の組の標的核酸をラベルしかつ使用しうる(「多重」分析)。例えば、一組の核酸が1細胞からのRNAに対応することができ、そして別の組の核酸が別の細胞からのRNAに対応しうる。複数の組の核酸を異なるラベル、例えば発光スペクトルが識別され得るように異なる発光スペクトルを有する異なる蛍光ラベル(例えばフルオレセインおよびローダミン)でラベルしうる。該組をその後混合しそして同時に1マイクロアレイにハイブリダイズさせうる(例えばShenaら、Science 270:467−470、1995を参照されたい)。
【0100】
複数の標的核酸を1アレイにハイブリダイズさせる使用のための識別可能なラベルの例は当該技術分野で公知であり、そして:Cy3およびCy5のような2種以上の異なる発光波長の蛍光色素;フィコエリトリンおよびCy5のような蛍光タンパク質および色素の組合せ;32Pおよび33Pのような異なる放射エネルギーをもつ2種以上の同位元素;異なる散乱スペクトルをもつ金若しくは銀粒子;温度、pH、付加的な化学的活性剤での処理などのような多様な処理条件下でシグナルを生成する;または処理後多様な時点でシグナルを生成するラベルを包含する。シグナル生成のため1種以上の酵素を使用することは、酵素の異なる基質特異性に基づき、なおより多様な識別可能なラベルの使用を見込む(例えばアルカリホスファターゼ/ペルオキシダーゼ)。
【0101】
ラベルした核酸の質をアレイへのハイブリダイゼーション前に評価しうる。一態様において、Affymetrix(カリフォルニア州サンタクララ)からのGene Chip(R)Test3アレイをその目的上使用しうる。このアレイは、哺乳動物を包含する数種の生物体からの特徴付けられた遺伝子の1サブセットを表すプローブを含有する。従って、ラベルした核酸サンプルの質を、アレイへのサンプルの一画分のハイブリダイゼーションにより決定し得る。
【0102】
本発明の使用のためのマクロアレイは、小分子の有効性に特徴的な遺伝子の1種以上のプローブを包含する。一態様において、マイクロアレイは、癌でアップレギュレートされる遺伝子および癌でダウンレギュレートされる遺伝子よりなる群から選択される遺伝子の1種以上に対応するプローブを含んでなる。マイクロアレイは、例えば、小分子の有効性に特徴的な少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも100若しくはそれ以上に対応するプローブを含みうる。マイクロアレイは、表1に列挙した各遺伝子若しくは遺伝子産物に対応するプローブを含みうる。
【0103】
マイクロアレイ上には各遺伝子に対応する1種又は1種以上のプローブが存在しうる。例えば、1マイクロアレイは1遺伝子又は約5ないし10種に対応する2から20種までのプローブを含有しうる。プローブは小分子の有効性に特徴的な遺伝子の完全長のRNA配列若しくはその相補物に対応しうるか、または、プローブは、特異的ハイブリダイゼーションを可能にするのに十分な長さのものであるその一部分に対応しうる。こうしたプローブは約50ヌクレオチドから約100、200、500若しくは1000ヌクレオチドまで、または1000ヌクレオチド以上を含みうる。本明細書にさらに記述されるとおり、マイクロアレイは約10ないし50ヌクレオチド、約15ないし30ヌクレオチド若しくは約20〜25ヌクレオチドよりなるオリゴヌクレオチドプローブを含有しうる。プローブは一本鎖であることができ、そして所望のレベルの配列特異的ハイブリダイゼーションを提供するのに十分な、その標的に対する相補性を有することができる。
【0104】
典型的には、本発明で使用されるアレイは、1cmあたり100種より大の異なるプローブの部位密度を有することができる。アレイは、例えば500/cmより大、約1000/cmより大、若しくは約10,000/cmより大の部位密度を有しうる。アレイは、例えば単一支持体上に100種より多くの異なるプローブ、約1000種より多くの異なるプローブ、約10,000種より多くの異なるプローブ、若しくは単一支持体上に100,000種より多くの異なるプローブを有しうる。
【0105】
多数の異なるマイクロアレイ配置およびそれらの製造方法が当業者に既知であり、そして米国特許第5,242,974号;同第5,384,261号;同第5,405,783号;同第5,412,087号;同第5,424,186号;同第5,429,807号;同第5,436,327号;同第5,445,934号;同第5,556,752号;同第5,405,783号;同第5,412,087号;同第5,424,186号;同第5,429,807号;同第5,436,327号;同第5,472,672号;同第5,527,681号;同第5,529,756号;同第5,545,531号;同第5,554,501号;同第5,561,071号;同第5,571,639号;同第5,593,839号;同第5,624,711号;同第5,700,637号;同第5,744,305号;同第5,770,456号;同第5,770,722号;同第5,837,832号;同第5,856,101号;同第5,874,219号;同第5,885,837号;同第5,919,523号;同第6,022,963号;同第6,077,674号;および同第6,156,501号明細書;Shenaら、Tibtech 16:301、1998;Dugganら、Nat.Genet.21:10、1999;Bowtellら、Nat.Genet.21:25、1999;Lipshutzら、21 Nature Genet.20−24、1999;Blanchardら、11 Biosensors and Bioelectronics、687−90、1996;Maskosら、21 Nucleic Acids Res.4663−69、1993;Hughesら、Nat.Biotechol.19:342、2001;(それらの開示は引用することにより本明細書に組み込まれる)に開示されている。多様な応用におけるアレイの使用方法を記述する特許は:米国特許第5,143,854号;同第5,288,644号;同第5,324,633号;同第5,432,049号;同第5,470,710号;同第5,492,806号;同第5,503,980号;同第5,510,270号;同第5,525,464号;同第5,547,839号;同第5,580,732号;同第5,661,028号;同第5,848,659号;および同第5,874,219号明細書;(それらの開示は引用することにより本明細書に組み込まれる)を包含する。
【0106】
アレイは対照および参照核酸もまた包含しうる。対照核酸は、例えばbioB、bioCおよびbioDのような原核生物遺伝子、P1バクテリオファージからのcre、若しくはdap、lys、phe、thrおよびtrpのようなポリA制御配列を包含する。参照核酸は、1実験からの結果の別のものに対する正規化および定量的レベルでの複数の実験の比較を可能にする。例示的参照核酸は、既知の発現レベルのハウスキーピング遺伝子、例えばGAPDH、ヘキソキナーゼおよびアクチンを包含する。
【0107】
一態様において、オリゴヌクレオチドのアレイを固体支持体上で合成しうる。例示的固体支持体は、ガラス、プラスチック、ポリマー、金属、准金属(metalloids)、セラミック、有機物などを包含する。チップマスキング技術および光保護化学を使用して、核酸プローブの秩序正しいアレイを生成することが可能である。例えば「DNAチップ」若しくは非常に大きいスケールの固定されたポリマーアレイ(「VLSIPSTM」アレイ)として知られるこれらのアレイは、約1cmないし数cmの面積を有する支持体上に数百万の規定されたプローブ領域を包含して、それにより数種から数百万種までのプローブを組込みうる(例えば米国特許第5,631,734号明細書を参照されたい)。
【0108】
核酸プローブは、少なくとも、例えば約10、15、20、25、30、50、100ヌクレオチド若しくはそれ以上であることができ、また、完全長遺伝子を含みうる。例えば、プローブは表1に列挙される遺伝子に特異的にハイブリダイズするものでありうる。
【0109】
核酸プローブは、例えば、ゲノム、cDNA(例えばRT−PCR)、若しくはクローン化した配列からの遺伝子セグメントのPCR増幅により得ることができる。cDNAプローブは、当該技術分野で既知かつ本明細書にさらに記述される方法に従って、例えば配列特異的プライマーを使用するRNAの逆転写PCR(RT−PCR)により製造しうる。プローブが生成される遺伝子若しくはcDNAの配列は、例えばGenBank、他の公的データベース若しくは刊行物から得ることができる。
【0110】
オリゴヌクレオチドプローブは、当該技術分野で既知の標準的方法、例えば自動DNA合成機若しくはいずれかの他の化学的方法によってもまた合成しうる。一例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドはSteinら(Nucl.Acids Res.16:3209、1988)の方法により合成することができ、また、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは細孔性ガラスポリマー支持体により製造しうる(例えばSarinら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:7448−7451、1988を参照されたい)。別の態様において、オリゴヌクレオチドは2’−)−メチルリボヌクレオチド(Inoueら、Nucl.Acids Res.15:6131−6148、1987)若しくはキメラRNA−DNAアナログ(Inoueら、FEBS Lett.215:327−330、1987)でありうる。
【0111】
核酸プローブは天然の核酸であっても、(例えばヌクレオチドアナログから構成される)化学修飾した核酸であってもよいが;しかしながら、プローブは、結合の化学と適合性の活性化されたヒドロキシル基を有するべきである。保護基は光不安定性(photolabile)でありうるか、若しくは保護基はある化学条件(例えば酸)下で不安定でありうる。固体支持体の表面は光への曝露に際して酸を生成する組成物を含有しうる。従って、支持体の一領域の光への曝露は、曝露された領域中の保護基を除去する酸をその領域で生成させる。また、合成方法は3’−保護された5’−0−ホスホルアミダイト活性化デオキシヌクレオシドを使用しうる。この場合、オリゴヌクレオチドは5’から3’の方向に合成され、遊離の5’端をもたらす。
【0112】
本発明の一態様において、アレイのオリゴヌクレオチドは、数千種のオリゴヌクレオチドを生じることが可能である96ウェル自動化多重オリゴヌクレオチド合成機(A.M.O.S.)を使用して合成しうる(例えばLashkariら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7912、1995を参照されたい)。
【0113】
発現レベルを比較するため、ラベルした核酸を、標的核酸とアレイ上のプローブとの間の結合に十分な条件下でアレイと接触させうる。一態様において、ハイブリダイゼ―ション条件は、所望のレベルのハイブリダイゼーション特異性を提供するように選択しうる(すなわち、ラベル核酸とマイクロアレイ上のプローブとの間でハイブリダイゼーションが起こるのに十分な条件)。
【0114】
ハイブリダイゼーションは本質的に特異的なハイブリダイゼーションを許容する条件で実施しうる。核酸の長さおよびGC含量が、熱的融点、そして従って標的核酸へのプローブの特異的ハイブリダイゼーションを得るのに必要なハイブリダイゼーション条件を決定することができる。これらの因子は当業者に公知でありかつアッセイでもまた試験しうる。核酸ハイブリダイゼーションへの完璧な指針は、Tijssenら(Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology、Vol.24:Hybridization With Nucleic Acid Probes、P.Tijssen編 Elsevier、ニューヨーク(1993))に見出しうる。一般に、緊縮性の条件は、規定されるイオン強度およびpHでの特異的配列の熱的融点(Tm)より約5℃より低いように選択しうる。Tmは、標的配列の50%が完全にマッチしたプローブにハイブリダイズする(規定されたイオン強度およびpHの下での)温度である。高度に緊縮性の条件は、特定のプローブのTm点に等しいように選択しうる。ときに、完全にマッチした標的核酸からプローブの少なくとも半分が解離する温度を定義するために「解離温度」(Td)という用語を使用する。いかなる場合も、多様なTm若しくはTd推定技術が利用可能であり、そして全般としてTijssen、上記に記述されている。典型的には、二重鎖中のG−C塩基対はTmに約3℃寄与すると推定される一方、A−T塩基対は約80〜100℃の理論上の最大値まで約2℃寄与すると推定される。しかしながら、G−Cスタッキング相互作用、溶媒効果、所望のアッセイ温度などが考慮に入れられているTmおよびTdのより洗練されたモデルが利用可能である。
【0115】
一態様において、非特異的結合すなわちバックグラウンドシグナルは、ハイブリダイゼーションの間の洗活性剤(例えばC−TAB)若しくはブロッキング試薬(例えば精子DNA、cot−1 DNAなど)の使用により低下させうる。一態様において、ハイブリダイゼーションは約0.5mg/mlのDNA(例えばニシン精子DNA)の存在下で実施しうる。ハイブリダイゼーションにおけるブロッキング活性剤の使用は当業者に公知である(例えばTijssen、上記を参照されたい)。
【0116】
標的配列が同一のラベルを使用して検出される場合は、多様なアレイを各生理学的供給源に使用しうるか、若しくは同一のアレイを複数回スクリーニングしうる。上の方法は、異なる標的集団(例えば異なる生理学的供給源)に、異なる、かつ識別可能であるラベルを使用することにより、複数の分析を提供するように変えうる。この多重方法に従い、同一のアレイを異なる標的集団のそれぞれに同時に使用しうる。
【0117】
上述された方法は、アレイ表面上でのラベルした標的核酸のハイブリダイゼーションパターンの産生をもたらす。ラベル核酸の結果として生じるハイブリダイゼーションパターンは多様な方法で可視化若しくは検出することができ、特定の検出様式が標的核酸の特定のラベルに基づき選択される。代表的検出手段は、シンチレーション計数、オートラジオグラフィー、蛍光測定、比色測定、発光測定、光散乱などを包含する。
【0118】
こうした一検出方法は商業的に利用可能であるアレイスキャナー(Affymetrix、カリフォルニア州サンタクララ)、例えば417TMアレイヤー、418TMアレイスキャナー若しくはAgilent GeneArrayTMスキャナーを利用する。このスキャナーはインターフェースおよび使いやすいソフトウェアツールを伴うシステムコンピュータから制御する。出力は、多様なソフトウェアアプリケーションに直接インポートすることも、それらにより直接読み出すこともできる。スキャン装置は例えば米国特許第5,143,854号および同第5,424,186号明細書に記述されている。
【0119】
蛍光ラベルプローブについて、転写物アレイの各部位での蛍光発光を走査型共焦点レーザー顕微鏡検査により検出しうる。あるいは、2種のフルオロフォアに特異的な波長での同時の試料の発光を可能にするレーザーを使用することができ、そして2種のフルオロフォアからの発光を同時に分析しうる(例えばShalonら、Genome Res.6:639−645、1996を参照されたい)。例えば、コンピュータ制御されるX−Yステージおよび顕微鏡対物レンズを伴うレーザー蛍光スキャナーでアレイを走査しうる。蛍光レーザー走査装置はShalonら、上記に記述されている。
【0120】
データ収集操作後に、データは典型的にはデータ解析操作に報告されることができる。サンプル解析操作を助長するために、装置から読み取り機により得られたデータを、デジタルコンピュータを使用して解析しうる。典型的には、コンピュータは、装置からのデータの受領および記憶、ならびに収集されたデータの解析および報告、例えばバックグラウンドの減算、多色画像のデコンボリューション、アーチファクトのフラグ付け若しくは除去、制御が適正に実施されたことの確認、シグナルの正規化、ハイブリダイズされた標的の量を決定するための蛍光データの解釈、バックグラウンドおよび1塩基ミスマッチハイブリダイゼーションの正常化などのため適切にプログラムすることができる。
【0121】
一態様において、システムは、特定のパターン、例えば、差次的遺伝子発現に関するパターン、例えば癌細胞の発現プロファイルと被験体中の対照物の正常細胞の発現プロファイルとの間の差次的遺伝子発現に関するパターンについて検索することを可能にする、検索機能を含んでなる。例えば、システムは、2種以上のサンプル間の遺伝子発現のパターンについて検索することを可能にする。
【0122】
遺伝子発現プロファイルのデータ、例えば比較の型の解析を実施するために多様なアルゴリズムが利用可能である。ある態様において、共調(coregulated)される遺伝子を分類することが望ましい。これは多数のプロファイルの比較を許容する。こうした遺伝子群を同定するための一態様はクラスタリング(clustering)アルゴリズムを必要とする(クラスタリングアルゴリズムの総説については、例えば、Fukunaga、1990、Statistical Pattern Recognition、第2版、Academic Press、サンディエゴ;Everitt、1974、Cluster Analysis、ロンドン:Heinemann Educ.Books;Hartigan、1975、Clustering Algorithms、ニューヨーク:Wiley;SneathとSokal、1973、Numerical Taxonomy、Freeman;Anderberg、1973、Cluster Analysis for Applications、Academic Press:ニューヨークを参照されたい)。
【0123】
クラスタリングは、遺伝子の他の特徴、例えばそれらの発現レベル(例えば米国特許第6,203,987号明細書を参照されたい)に基づいてよいか、若しくは、時間曲線のクラスタリングを可能にする(例えば米国特許第6,263,287号明細書を参照されたい)。クラスタリングアルゴリズムの例は、K−meansクラスタリングおよび階層的クラスタリングを包含する。クラスタリングはまた、データのグラフ表示(例えば「ヒートマップ」)を使用する遺伝子発現データの視覚的検査によっても達成しうる。クラスタリングアルゴリズム、および遺伝子発現データをグラフ表示するための手段を含有するソフトウェアの一例は、Spotfire DecisionSite(Spotfire,Inc.、マサチューセッツ州サマービルおよびスウェーデン・イェーテボリ)である。
【0124】
小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現レベルの参照発現レベル、例えば癌の病的な細胞若しくは正常な対照物細胞中の発現レベルとの比較は、コンピュータシステムを使用して実施しうる。一態様において、発現レベルは2種の細胞から得ることができ、そしてこれら2組の発現レベルを比較のためコンピュータシステムに導入しうる。例えば、1組の発現レベルを、コンピュータシステム中に、若しくはその後コンピュータシステムに入力されるコンピュータに読み込み可能な形式で既に存在する値との比較のため、該コンピュータシステムに入力する。
【0125】
一態様において、コンピュータシステムは、小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現のレベルを表す値を含んでなるデータベースもまた含有しうる。該データベースは、多様な細胞中の小分子の有効性に特徴的な遺伝子の1種以上の発現プロファイルを含有しうる。
【0126】
別の態様において、本発明は、コンピュータに読み込み可能な形式の遺伝子発現プロファイルデータ、若しくは病的な細胞中の癌に特徴的な少なくとも1種の遺伝子の発現のレベルに対応する値を提供する。該値は、実験、例えばマイクロアレイ分析から得られるmRNA発現レベルでありうる。該値はまた、発現が多数の条件下で多数の細胞中で一定である参照遺伝子(例えばGAPDH)に関して正規化されたmRNAレベルでもありうる。他の態様において、コンピュータ中の値は、多様なサンプル中の正規化された若しくは正規化されないmRNAレベルの比率若しくはそれらの間の差違でありうる。
【0127】
一態様において、1例以上の被験体の癌細胞からの発現プロファイルにおいては、それらの細胞は薬物、例えばHDAC阻害活性剤でin vivo若しくはin vitroで処理される。in vitro若しくはin vivoで薬物で処理した被験体の細胞の発現データをコンピュータに入力し、そして、コンピュータに、入力されたデータをコンピュータ中のデータと比較し、かつ、コンピュータに入力された発現データが薬物に応答する被験体の細胞の発現データにより類似しているか若しくは薬物に応答しない被験体の細胞の発現データにより類似しているかを示す結果を提供するように命令する。従って、該結果は、該被験体が該薬物での処置に応答することがありそうであるか若しくはそれに応答することがありそうでないかどうかを示す。
【0128】
本発明はまた、以下の段階、すなわち(i)照会細胞中の小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現レベルに対応する複数の値を、参照の発現または1種以上の参照細胞の発現プロファイルデータおよび該型の細胞の説明を含んでなる記録を包含するデータベースと比較する段階;ならびに(ii)発現プロファイルの類似性に基づき照会細胞がどちらの細胞に最も類似しているかを示す段階を実行するためのプログラム命令を包含する、機械で読み込み可能なすなわちコンピュータに読み込み可能な媒体も提供する。参照細胞は癌の異なる段階の被験体からの細胞でありうる。参照細胞は、特定の薬物処置に応答するか若しくは応答しない被験体からでかつ場合によっては該薬物とin vitro若しくはin vivoでインキュベートした細胞でもまたありうる。
【0129】
参照細胞はまた、数種の異なる処置に応答する若しくは応答しない被験体からの細胞でもあることができ、そして、コンピュータシステムは該被験体に好ましい処置を示す。従って、本発明は、癌を有する患者のための治療の選択方法を提供し、該方法は:(i)患者の病的な細胞中の小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現のレベルを提供すること;(ii)それぞれ治療と関連した複数の参照プロファイルを提供することであって、ここで、被験体の発現プロファイルおよび各参照プロファイルは複数の値を有し、各値は癌に特徴的な遺伝子の発現のレベルを表す;ならびに(iii)被験体の発現プロファイルに最も類似の参照プロファイルを選択してそれにより前記患者のための治療を選択することを含んでなる。一態様において、段階(iii)はコンピュータにより実行しうる。最も類似の参照プロファイルは、対応する発現データと関連する加重値を使用して多数の比較値を加重することにより選択しうる。
【0130】
2種の生物学的サンプル中の1種のmRNAの相対的豊富さを変動として評価しかつその程度を決定しうる(すなわち豊富さは試験したmRNAの2供給源で異なる)か、若しくは変動されないと評価しうる(すなわち相対的豊富さが同一である)。多様な態様において、RNAの2供給源間の差違を変動として評価する。変動は、計算および発現の比較のためコンピュータにより使用されうる。
【0131】
マイクロアレイを使用する薬物設計
本発明はまた、癌、例えば本明細書に記述されるとおり同定されたもののための薬物の設計および最適化方法も提供する。一態様において、化合物は、癌の病的な細胞若しくは類似の細胞の試験化合物とのインキュベーション後に、小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現レベルを比較することによりスクリーニングしうる。別の態様において、遺伝子の発現レベルは、マイクロアレイを使用し、かつ、試験化合物に応答した細胞の遺伝子発現プロファイルを癌の病的な細胞に対応する正常細胞の遺伝子発現プロファイル(「参照プロファイル」)と比較して決定しうる。さらなる一態様において、発現プロファイルは癌の病的な細胞のものともまた比較しうる。該比較は、薬物で処置した細胞の遺伝子発現プロファイルデータを、適切なアルゴリズムを使用して、コンピュータに読み込み可能な形式で保存されている参照遺伝子発現プロファイルを含んでなるコンピュータシステムに導入することにより行いうる。試験化合物は、小分子の有効性に特徴的な遺伝子の発現のレベルを変えるものについてスクリーニングしうる。こうした化合物、すなわち、小分子の有効性に特徴的な本質的に全部の遺伝子の発現を正常化することが可能である化合物が候補の治療薬である。
【0132】
化合物の有効性をその後、付加的なin vitroおよびin vivoアッセイ、ならびに動物モデル(例えば異種移植モデル)で試験しうる。試験化合物を試験動物に投与することができ、そして、疾患の1個以上の症状を動物の状態の改善についてモニターしうる。小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現は、試験化合物の動物への投与の前および後にもまた測定しうる。これらの遺伝子の1種以上の発現の正常化は、該動物における癌を治療するための該化合物の有効性を示す。
【0133】
臨床の設定で、癌を表す組織のヒト由来サンプルを得ることは、禁止されない場合、困難でありうる。従って、治療的化合物の有効性を示す遺伝子発現の変化の同定は、より容易に到達可能な代理細胞集団、例えば末梢血白血球(PBL)で決定しうる。この方法はヒト若しくは動物いずれのモデル系でも実施しうる。一態様において、試験化合物を、その動物モデルで癌の処置において有効であることが観察された同一用量で試験動物(正常若しくは癌を含有するのいずれか)に投与しうる。血液を多様な時間点(例えば複数日投与の養生法(regimen)の第一、中間および最後の日の1、4、7および24時間後)に動物から採取しうる。ベヒクルを投与した動物を対照として使用しうる。RNAをPBLから単離することができ、そしてマイクロアレイへのハイブリダイゼーションのためのプローブを生成させるのに使用し得る。ハイブリダイゼーション結果をその後、上述されたところのコンピュータプログラムおよびデータベースを使用して解析しうる。生じる発現プロファイルは、処置した癌組織からの類似のプロファイルと類似性について直接比較しうるか、若しくは動物モデルでの(例えば用量および時間点に関しての)有効性と単純に相関させうる。
【0134】
別の態様において、ヒト血液を、動物モデルでの治療用量と一致する用量、若しくは動物モデルでの治療用量の既知の血漿濃度と一致する用量の治療的化合物でex vivoで処理しうる。血液は、即座に、若しくは採血後に遺伝子発現を再平衡させるための何らかのインキュベーション時間(例えば24時間)後に、治療的化合物で処理(例えば37℃で揺動)しうる。血液はまた、多様な時間点(例えば4および24時間)の間治療的化合物で処理することもでき、そしてその後、PBL RNAを単離しかつマイクロアレイへのハイブリダイゼーションのためのプローブを創製するのに使用しうる。化合物可溶化活性剤(例えばDMSO)を対照として使用しうる。生じる発現プロファイルを、処置した癌組織からの類似のプロファイルと類似性について直接比較しうるか、若しくは動物モデルでの(例えば用量および時間点に関しての)有効性と単純に相関させうる。
【0135】
候補の治療的化合物の毒性は、例えば毒性応答と関連することが既知の遺伝子の発現を該化合物が誘導するかどうかを決定することにより評価しうる。こうした毒性に関係する遺伝子の発現は多様な細胞型、例えば該遺伝子を発現することが既知であるもので測定しうる。事実、遺伝子発現の変化は、慣例の前臨床安全性試験よりもヒト毒性のより感受性のマーカーとしてはたらきうる。マイクロアレイを、毒性応答と関連することが既知の遺伝子の発現の変化を検出するのに使用しうる。遺伝子発現レベルの変化が、慣例の前臨床安全性試験により同定されなかった毒性事象を予測しうることを示す概念研究の証明を実施することが可能でありうる(例えば、Huangら、Toxicol.Sci.63:196−207、2001;Waringら、Toxicol.Appl.Pharamacol.175:28−42、2001を参照されたい)。
【0136】
薬物スクリーニングは、細胞のサンプルに試験化合物を添加すること、および効果をモニターすることにより実施しうる。試験化合物を受領しない平行サンプルもまた対照としてモニターしうる。処理したおよび未処理の細胞をその後、限定されるものでないが、顕微鏡分析、生存率試験、複製する能力、組織学的検査、該細胞と関連する特定のRNA若しくはポリペプチドのレベル、該細胞若しくは細胞ライセート(lysates)により発現される酵素活性のレベル、および他の細胞若しくは化合物と相互作用する該細胞の能力を挙げることができるいずれかの適する表現型の基準により比較する。処理細胞と未処理細胞との間の差違は、試験化合物に帰される効果を示す。
【0137】
試験化合物の所望の効果は、癌に関連するマーカー核酸配列により与えられたいずれかの表現型に対する影響を包含する。例は、mRNAの過多を制限するか、コードされるタンパク質の産生を制限するか、若しくは該タンパク質の機能的効果を制限する試験化合物を包含する。試験化合物の効果は、結果を処理細胞と未処理細胞との間で比較する場合に明らかとなろう。
【0138】
診断および予後アッセイ
本発明は、癌において差次的に調節されている核酸配列、およびこうした配列の同定方法を提供する。本発明は:被験体から得たRNAに対応する核酸サンプルを、既知の同一性の1種以上の核酸分子を含んでなる核酸サンプルにハイブリダイズさせること;および既知の同一性の1種以上の核酸分子への核酸サンプルのハイブリダイゼーションを測定することであって、ここで、癌を伴わない被験体から得た核酸サンプルに関しての既知の同一性の1種以上の核酸分子への該核酸サンプルのハイブリダイゼーションの差違が、癌を伴う被験体での該ヌクレオチド配列の差次的発現を示す、を含んでなる、癌を伴う被験体で差次的に調節されているヌクレオチド配列の同定方法を提供する。
【0139】
全般として、本発明は、被験体からメッセンジャーRNAを単離すること、mRNAサンプルからcRNAを生成すること、アレイ上の異なる場所と安定して会合した複数の核酸分子を含んでなるマイクロアレイに該cRNAをハイブリダイズさせること、および該アレイへのcRNAのハイブリダイゼーションのパターンを同定することを含んでなる、癌を伴う被験体で差次的に調節されている核酸配列の同定方法を提供する。本発明により、アレイ上の所定の場所にハイブリダイズする核酸分子は、ハイブリダイゼーションシグナルが、例えば、癌を有しない被験体から得た核酸サンプルとハイブリダイズさせた同一のアレイ上の同一の場所でのハイブリダイゼーションシグナルよりより高い若しくはより低い場合に、差次的に調節されていると言われる。
【0140】
発現パターンを使用して、患者での薬物処置の有効性を予測するのに使用し得る生体マーカーのパネルを生じさせうる。生体マーカーは、生物学的サンプルから単離したRNA、腫瘍生検の凍結サンプルから単離したRNAでのマイクロアレイ実験からの遺伝子発現レベル、若しくは血清中の質量分析由来のタンパク質量よりなりうる。
【0141】
データ解析の正確な機構はデータの正確な性質に依存するであろうとは言え、生体マーカーのパネルを開発するための典型的な手順は後に続くとおりである。データ(遺伝子発現レベル若しくは質量スペクトル)を各患者について処置前に収集する。試験が進行する際に、患者を薬物処置に対する彼らの応答に従って;有効若しくは無効のいずれかとして分類する。複数のレベルの有効性をデータモデルに適合させ得るが、しかし、二元比較が、とりわけ患者集団が数百例未満である場合には最適とみなされる。各分類の患者の十分な数を想定して、タンパク質および/又は遺伝子発現データを当該技術分野で既知の多数の技術により解析しうる。技術の多くは伝統的な統計学、同様に機械学習の分野由来である。これらの技術は2つの目的にかなう:
1.データの次元を低下させる−質量スペクトル若しくは遺伝子発現マイクロアレイの場合、データを数千の個別のデータ点から例えば約3ないし10まで低下させる。該低下は、1組として解釈される場合のデータ点の予測力に基づく。
2.学習−これら3ないし10のデータ点をその後、この場合は有効な薬物処置を無効な薬物処置と識別するタンパク質量若しくは遺伝子発現のパターンを認識するようその後「学習」する複数の機械学習アルゴリズムを学習させるのに使用する。全患者サンプルを、アルゴリズムを学習させるのに使用し得る。
【0142】
生じる学習させたアルゴリズムをその後、それらの予測力を測定するために試験する。典型的には、数百未満の学習例が利用可能である場合は、何らかの形態の交差確認を実行する。具体的に説明するために、10倍交差確認を考慮されたい。この場合、患者サンプルを10個のビン(bins)の1個に無作為に割り当てる。第1回の確認において、ビンの9個中のサンプルを学習させるのに使用し、そして第10のビン中の残存するサンプルを、アルゴリズムを検定するのに使用する。これを追加の9回反復し、毎回、異なる1ビン中のサンプルを検定するために除外する。全10回からの結果(正しい予測および誤り)を合わせ、そして予測力をその後評価する。多様なアルゴリズムならびに多様な一団をこうして本研究のため比較しうる。「最良の」アルゴリズム/パネルの組合せをその後選択することができる。この「賢い」アルゴリズムをその後、処置に応答することが最もありそうである患者を選択するために将来の試験で使用しうる。
【0143】
多くのアルゴリズムは患者について採取した付加的な情報の利益を享受する。例えば、性若しくは齢は予測力を向上させるのに使用し得る。また、正規化および平滑化のようなデータ変換を使用してノイズを低下させうる。このため、多数のアルゴリズムを、アウトカムを最適化するために多くの異なるパラメータを使用して学習させうる。データに予測パターンが存在する場合は、最適の若しくは最適に近い「賢い」アルゴリズムを開発し得ることがありそうである。より多くの患者サンプルが入手可能になる場合、アルゴリズムは新しいデータを利用するように再学習させ得る。
【0144】
質量分析法を使用する一例として、血漿を疎水性SELDI標的に適用し、水で徹底的に洗浄し、そしてSELDI−Tof質量分析計により分析しうる。これを100種以上の患者サンプルで反復しうる。各サンプルの約16,000のm/z値の強度から生じるタンパク質プロファイルを、薬物の有効性を予測する特定のm/z値の組を同定するために統計学的に解析することができる。イオン交換若しくはIMAC表面のような他のSELDI標的を使用する同一の実験もまた実施し得る。これらは血漿中に存在するタンパク質の多様なサブセットを捕捉することができる。さらに、SELDI標的上への適用前に血漿を変性かつ前分画しうる。
【0145】
本発明は、生体マーカー、すなわち癌の核酸および/又はポリペプチドマーカーを検出することによる、被験体が不要な(unwanted)細胞増殖を特徴とする疾患若しくは状態を発症する危険にさらされているかどうかの決定方法を提供する。
【0146】
臨床応用において、ヒト組織サンプルを本明細書に同定される生体マーカーの存在および/又は非存在についてスクリーニングしうる。こうしたサンプルは、針生検コア、外科的切除サンプル、リンパ節組織若しくは血清よりなり得る。例えば、これらの方法は、腫瘍細胞を全細胞集団の約80%まで濃縮するための低温(cryostat)切片作成により場合によっては分画される生検を得ることを包含する。ある態様において、これらのサンプルから抽出した核酸を、当該技術分野で公知の技術を使用して増幅しうる。検出される選択されたマーカーのレベルを、転移、非転移悪性、良性若しくは正常組織サンプルの統計学的に妥当な群と比較することができる。
【0147】
一態様において、診断方法は、ノーザンブロット分析、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、in situハイブリダイゼーション、免疫沈降法、ウエスタンブロットハイブリダイゼーション若しくは免疫組織化学によるような、被験体が生体マーカーの異常なmRNAおよび/又はタンパク質レベルを有するかどうかを決定することを含んでなる。該方法により、細胞を被験体から得ることができ、そして、生体マーカー、タンパク質のレベル若しくはmRNAレベルを測定し、そして健康な被験体におけるこれらのマーカーのレベルと比較する。生体マーカーポリペプチド若しくはmRNAレベルの異常なレベルは癌を示すことがありそうである。
【0148】
一態様において、該方法は、患者からの組織中の癌性細胞の存在を決定するために核酸プローブを使用することを含んでなる。とりわけ、該方法は:
1.例えば少なくとも10、15、25若しくは40ヌクレオチドで、配列の全部若しくはほぼ全部までが核酸配列のコーディング配列の一部分に相補的でありかつ腫瘍細胞中で差次的に発現されるヌクレオチド配列、を含んでなる核酸プローブを提供すること;
2.癌性細胞を潜在的に含んでなる患者から組織サンプルを得ること;
3.実質的にその全部が非癌性である細胞を含有する第二の組織サンプルを提供すること;
4.該核酸プローブを、緊縮性条件下で前記第一および第二の組織サンプルのそれぞれのRNAと(例えばノーザンブロット若しくはin situハイブリダイゼーションアッセイで)接触させること;ならびに
5.(a)第一の組織サンプルのRNAとのプローブのハイブリダイゼーションの量を、(b)第二の組織サンプルのRNAとのプローブのハイブリダイゼーションの量と比較すること;ここで、第二の組織サンプルのRNAとのハイブリダイゼーションの量と比較した第一の組織サンプルのRNAとのハイブリダイゼーションの量の統計学的に有意の差違が、第一の組織サンプル中の癌性細胞の存在を示す
を含んでなる。
【0149】
一局面において、該方法は所定のマーカー核酸配列由来のプローブとのin situハイブリダイゼーションを含んでなる。該方法は、癌性若しくは前癌性の細胞ならびに正常細胞を潜在的に含有する所定の型の組織のサンプルとラベルハイブリダイゼーションプローブを接触させること、および、該プローブが、同一の組織型の他の細胞をそれがラベルする程度と有意に異なる程度まで所定の組織型の若干の細胞をラベルするかどうかを決定することを含んでなる。
【0150】
試験細胞のmRNAを核酸プローブ、例えば少なくとも約10、15、25若しくは40ヌクレオチドで、配列の全部若しくはほぼ全部が核酸配列のコーディング配列の一部分に相補的でありかつ所定の組織型の正常細胞に比較して腫瘍細胞中で差次的に発現されている配列と接触させること;ならびにmRNAへの該プローブのハイブリダイゼーションの近似量を測定することによる、所定のヒト組織からの試験細胞の表現型、例えば該細胞が(a)正常または(b)癌性若しくは前癌性であるかどうかの決定方法もまた本発明内にあり、その組織型の正常細胞のmRNAでみられるものより多いか若しくはより少ないかのいずれかのハイブリダイゼーションの量は該試験細胞が癌性若しくは前癌性であることを示す。
【0151】
あるいは、上の診断アッセイを、マーカー核酸配列によりコードされるタンパク質産物を検出するための抗体を使用して実施しうる。従って、一態様において、該アッセイは、試験細胞のタンパク質を核酸の遺伝子産物に特異的な抗体と接触させることであって、ここで該マーカー核酸は試験細胞と同一の組織型の正常細胞中で所定の対照レベルで発現されるものである、ならびに、抗体および試験細胞のタンパク質による免疫複合体形成の近似量を測定することを包含することができ、ここで、同一の組織型の正常細胞に比較して試験細胞のタンパク質と形成される免疫複合体の量の統計学的に有意の差違が、該試験細胞が癌性若しくは前癌性であることの指標である。
【0152】
本発明で有用なポリペプチドに特異的に結合するポリクローナルおよび/又はモノクローナル抗体の製造方法は当業者に既知であり、かつ、例えばDymeckiら(J.Biol.Chem.267:4815、1992);BoersmaとVan Leeuwen、(J.Neurosci.Methods 51:317、1994);Greenら(Cell 28:477、1982);およびArnheiterら(Nature 294:278、1981)に見出しうる。
【0153】
別のこうした方法は:マーカー核酸配列の遺伝子産物に特異的な抗体を提供する段階であって、ここで該遺伝子産物は同一の組織型の非癌性組織中の該遺伝子産物のレベルより多い若しくはより少ないレベルで所定の組織型の癌性組織中に存在する;所定の組織型の組織の第一のサンプルを患者から得る段階であって、ここでこのサンプルは癌性細胞を潜在的に包含する;同一の組織型の組織の第二のサンプル(同一の患者からであってもまたは正常対照、例えば別の個体若しくは培養細胞からであってもよい)を提供する段階であって、ここでこの第二のサンプルは正常細胞を含有しかつ癌性細胞を本質的に含有しない;抗体と該サンプル中に存在するマーカー核酸配列産物との間の免疫複合体形成を可能にする条件下で第一および第二のサンプルのタンパク質(部分的に精製されていても、溶解されているがしかし未分画の細胞中でも、若しくはin situでもよい)と抗体を接触させる段階;ならびに(a)第一のサンプル中の免疫複合体形成の量を(b)第二のサンプル中の免疫複合体形成の量と比較する段階を包含し、第二のサンプル中の免疫複合体形成の量に比較してより少ない第一のサンプル中の免疫複合体形成の量の統計学的に有意の差違が、組織の第一のサンプル中の癌性細胞の存在を示す。
【0154】
主題の発明は、(a)被験体から細胞サンプルを得ること、(b)そのように得たサンプル中のマーカーポリペプチドの量を定量的に測定すること、および(c)それにより被験体から得た細胞サンプルが異常な量のマーカーポリペプチドを有するかどうかを決定するように、そのように測定したマーカーポリペプチドの量を既知の標準と比較することを含んでなる、被験体から得た細胞サンプルが異常な量のマーカーポリペプチドを有するかどうかの決定方法をさらに提供する。こうしたマーカーポリペプチドは、免疫組織化学的アッセイ、ドットブロットアッセイ、ELISAなどにより検出しうる。
【0155】
イムノアッセイを一般に使用して細胞サンプル中のタンパク質のレベルを定量し、また、多くの他のイムノアッセイ技術が当該技術分野で既知である。本発明は特定の1アッセイ手順に制限されず、そして従って、同種(homogeneous)および混成(heterogeneous)双方の手順を包含することを意図している。本発明により実施しうる例示的イムノアッセイは、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、ネフェロ阻害イムノアッセイ(NIA)、酵素結合免疫測定法(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)を包含する。指標部分すなわちラベル基は主題の抗体に結合されていてよく、そして、アッセイ機器および適合性のイムノアッセイ手順の利用可能性によりしばしば指図される方法の多様な用途の必要性と一致するように選択される。上で示された多様なイムノアッセイの実施において使用されるべき一般的な技術は当業者に既知である。
【0156】
別の態様において、患者の生物学的液体(例えば血液若しくは尿)中のコードされる産物のレベル、若しくは、あるいはポリペプチドのレベルを、その患者の細胞中のマーカー核酸配列の発現のレベルの一モニタリング方法として測定しうる。こうした方法は、患者から生物学的液体(fluid)のサンプルを得る段階、コードされたマーカーポリペプチドに特異的な抗体と該サンプル(若しくは該サンプルからのタンパク質)を接触させる段階、および該抗体による免疫複合体形成の量を測定する段階を包含することができ、免疫複合体形成の量がサンプル中のマーカーにコードされる産物のレベルを示す。この測定は、正常個体から採取した対照サンプル中または同一人から前に若しくは後に得た1種以上のサンプル中の同一の抗体による免疫複合体形成の量と比較する場合にとりわけ有益である。
【0157】
別の態様において、該方法を使用して細胞中に存在するマーカーポリペプチドの量を測定することができ、それを順に過剰増殖性障害の進行と相関させうる。マーカーポリペプチドのレベルを使用して、細胞のサンプルが、形質転換されているか若しくは形質転換されたようになる傾向がある細胞を含有するかどうかを予測的に評価しうる。さらに、主題の方法を使用して、形質転換されることが既知である細胞の表現型を評価することができ、表現型分類の結果は特定の治療養生法の計画において有用である。例えば、サンプル細胞中のマーカーポリペプチドの非常に高レベルは癌の強力な診断および予後マーカーである。マーカーポリペプチドレベルの観察結果は、例えばより積極的な治療の使用に関する決定で利用しうる。
【0158】
上で示されたとおり、本発明の一局面は、マーカーポリペプチドのレベルがサンプル細胞中で有意に低下されているかどうかを、患者から単離した細胞の情況で決定するための診断アッセイに関する。「有意に低下される」という用語は、細胞が類似の組織起源の正常細胞に関してマーカーポリペプチドの低下された細胞量を有する細胞表現型を指す。該アッセイは試験細胞中のマーカーポリペプチドのレベルを評価し、そして、測定されたレベルを、少なくとも1種の対照細胞、例えば正常細胞および/又は既知の表現型の形質転換細胞で検出されるマーカーポリペプチドと比較しうる。
【0159】
主題の発明の別の局面は、正常若しくは異常なマーカーポリペプチドレベルを伴う細胞の数により決定されるところのマーカーポリペプチドのレベルを定量する能力である。特定のマーカーポリペプチド表現型を伴う細胞の数をその後、患者の予後と相関させうる。本発明の一態様において、病変のマーカーポリペプチド表現型は、異常に高い/低いレベルのマーカーポリペプチドを有することが見出される生検中の細胞の比率として決定される。こうした発現は、免疫組織化学的アッセイ、ドットブロットアッセイ、ELISAなどにより検出しうる。
【0160】
組織サンプルを使用する場合、免疫組織化学的染色を使用して、マーカーポリペプチドの表現型を有する細胞の数を決定しうる。こうした染色のため、組織のマルチブロックを生検若しくは他の組織サンプルから採取することができ、そして、プロテアーゼK若しくはペプシンのような活性剤を使用するタンパク質分解性加水分解にかけうる。ある態様において、サンプル細胞から核画分を単離しかつ該核画分中のマーカーポリペプチドのレベルを検出することが望ましいことがある。
【0161】
組織サンプルは、ホルマリン、グルタルアルデヒド、メタノールなどのような試薬での処理により固定する。サンプルをその後、該マーカーポリペプチドに対する結合特異性をもつ抗体(例えばモノクローナル抗体)とともにインキュベートする。この抗体は結合のその後の検出のためラベルに結合しうる。サンプルを免疫複合体の形成に十分な時間インキュベートする。抗体の結合をその後、この抗体に結合したラベルによって検出する。抗体がラベルされていない場合、例えば抗マーカーポリペプチド抗体のアイソタイプに特異的である第二のラベル抗体を使用しうる。使用しうるラベルの例は、放射核種、蛍光活性剤、化学発光活性剤、酵素などを包含する。
【0162】
酵素を使用する場合、着色した若しくは蛍光の産物を提供するために酵素の基質をサンプルに添加しうる。複合物での使用に適する酵素の例は、ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水素酵素などを包含する。商業的に入手可能でない場合、こうした抗体−酵素複合物は当業者に既知の技術により容易に製造される。
【0163】
一態様において、アッセイはドットブロットアッセイとして実施する。ドットブロットアッセイは、予め決められた数の細胞から製造した細胞を含まない抽出物中のマーカーポリペプチドの量を相関させることにより単一細胞と関連させたマーカーポリペプチドの平均量の決定をそれが可能にするために、組織サンプルを使用する特定の応用を見出す。
【0164】
同一の型の腫瘍細胞(例えば肺および/又は結腸腫瘍細胞)が個々の癌遺伝子の均一に増大した発現若しくは個々の腫瘍抑制遺伝子の均一に減少した発現を示さないことがあることが、癌の文献で十分に確立されている。所定の型の癌の細胞間でさえ所定のマーカー遺伝子の変動するレベルの発現もまた存在することがあり、単一の試験よりむしろ一連の試験への依存に対する必要性をさらに強調する。従って、一局面において、本発明は、診断試験の信頼性および/又は正確性を向上させるための本発明の多数のプローブを利用する一連の試験を提供する。
【0165】
一態様において、本発明はまた、組織された配置のDNAチップ上に核酸プローブが固定されている方法も提供する。オリゴヌクレオチドはリソグラフィーを包含する多様な方法により固体支持体に結合しうる。例えば、チップは250,000種までのオリゴヌクレオチドを保持しうる。これらの核酸プローブは、例えば、長さが少なくとも約12、15、25若しくは40ヌクレオチドで全部若しくはほぼ全部までの配列がマーカー核酸配列のコーディング配列の一部分に相補的でありかつ腫瘍細胞中で差次的に発現されているヌクレオチド配列の含んでなる。本発明は、多様な癌の利用可能な試験を上回る大きな利点を提供する。それは単一チップ上に核酸マーカーのアレイを提供することにより試験の信頼性を増大させるからである。
【0166】
該方法は、腫瘍細胞を濃縮するための低温切片作成により場合によっては分画される生検を得ることを包含する。DNA若しくはRNAをその後抽出し、増幅し、そしてDNAチップを用いて分析してマーカー核酸配列の非存在の存在を決定する。
【0167】
一態様において、核酸プローブを二次元マトリックス若しくはアレイで支持体上にスポットする。核酸のサンプルはラベルしてもよく、そしてその後プローブにハイブリダイズさせうる。サンプルの未結合部分を一旦洗い流したら、プローブ核酸に結合したラベルサンプル核酸を含んでなる二本鎖核酸を検出しうる。
【0168】
プローブ核酸はガラス、ニトロセルロースなどを包含する支持体上にスポットしうる。プローブは共有結合若しくは疎水性相互作用のような非特異的相互作用のいずれによっても支持体に結合し得る。サンプル核酸は放射活性ラベル、フルオロフォア、発色団などを使用してラベルし得る。
【0169】
なお別の態様において、本発明は、本発明のマーカーポリペプチドに対し生成される抗体のパネルを使用することを企図している。抗体のこうしたパネルを癌の信頼できる診断プローブとして使用しうる。本発明のアッセイは、細胞、例えば肺細胞を含有する生検サンプルを、コードされる産物の1種以上に対する抗体のパネルと接触させて、マーカーポリペプチドの存在若しくは非存在を決定することを含んでなる。
【0170】
主題の発明の診断方法はまた、処置に対する追跡観察としても使用することができ、例えば、マーカーポリペプチドのレベルの定量は、現在の若しくは以前に使用された癌治療の有効性ならびに患者の予後に対するこれらの治療の効果を示しうる。
【0171】
加えて、マーカー核酸若しくはマーカーポリペプチドは、初期検出、追跡観察スクリーニング、再発の検出、および化学療法若しくは外科的処置の処置後モニタリングのための診断的パネルの一部として利用しうる。
【0172】
従って、本発明は、例えば細胞の腫瘍原性形質転換から生じる増殖性障害の診断および表現型分類において補助するために、細胞からのマーカーポリペプチドの獲得および/又は喪失を検出するための利用可能な診断アッセイおよび試薬を作成する。
【0173】
上述された診断アッセイは同様に予後アッセイとしても使用されるように適合させうる。こうした応用は、腫瘍の進行の特徴的な段階で起こる事象に対する本発明のアッセイの感度を利用する。例えば、所定の一マーカー遺伝子が、非常に早期の段階、おそらく細胞が悪性に発達するように不可逆的に拘束される(committed)前にアップ若しくはダウンレギュレートされうる一方、別のマーカー遺伝子ははるかにより後の段階でのみ特徴的にアップ若しくはダウンレギュレートされうる。こうした方法は、腫瘍の進行の異なる段階で癌性若しくは前癌性の細胞中で異なる特徴的なレベルで発現されている所定のマーカー核酸由来の核酸プローブと試験細胞のmRNAを接触させる段階、および該細胞のmRNAへのプローブのハイブリダイゼーションの近似量を測定する段階(こうした量は該細胞中での該遺伝子の発現のレベルの指標、および従って該細胞の腫瘍の進行の段階の指標である)を必要とし得るか;あるいは、該アッセイは、試験細胞のタンパク質と接触させた所定のマーカー核酸の遺伝子産物に特異的な抗体を用いて実施しうる。一連のこうした試験は、腫瘍の存在および場所を明らかにするであろうのみならず、しかしまた臨床医が該腫瘍に最も適切な処置の様式を選択しかつその処置の成功の見込みを予測することも可能にするであろう。
【0174】
本発明の方法はまた腫瘍の臨床経過を追跡するのにも使用しうる。例えば、本発明のアッセイを患者からの組織サンプルに適用することができ;癌についての該患者の処置後に別の組織サンプルを採取しかつ試験を反復する。成功裏の処置は、癌性若しくは前癌性の細胞に特徴的な差次的発現を示す全部の細胞の除去、またはそれらの細胞中でのおそらく正常レベルに近づくか若しくは凌ぎさえする該遺伝子の発現の実質的な増大のいずれかをもたらすことができる。
【0175】
なお別の態様において、本発明は、ポリペプチドの異常な活性と関連する癌を発症する素因のような疾患を発症するリスクに被験体がさらされているかどうかの決定方法を提供し、ここで、ポリペプチドの異常な活性は、(a)マーカーポリペプチドをコードする遺伝子の完全性に影響を及ぼす変化、若しくは(b)コーディング核酸の誤発現の少なくとも1つを特徴とする遺伝子障害の存在若しくは非存在を検出することを特徴とする。具体的に説明するため、こうした遺伝子障害は、(i)核酸配列からの1個若しくはそれ以上のヌクレオチドの欠失、(ii)核酸配列への1個若しくはそれ以上のヌクレオチドの付加、(iii)核酸配列の1個若しくはそれ以上のヌクレオチドの置換、(iv)核酸配列の全体的な染色体再配列、(v)核酸配列のメッセンジャーRNA転写物のレベルの全体的変化、(vi)ゲノムDNAのメチル化パターンのような核酸配列の異常な修飾、(vii)遺伝子のメッセンジャーRNA転写物の野性型以外のスプライシングパターンの存在、(viii)マーカーポリペプチドの野性型以外のレベル、(ix)遺伝子の対立遺伝子喪失、および/または(x)マーカーポリペプチドの不適切な翻訳後修飾の少なくとも1つの存在を確認することにより検出しうる。
【0176】
本発明は、コードする核酸配列中の損傷を検出するためのアッセイ技術を提供する。これらの方法は、限定されるものでないが、配列分析を必要とする方法、サザンブロットハイブリダイゼーション、制限酵素部位マッピング、および分析されるべき核酸とプローブとの間のヌクレオチド対形成の非存在の検出を必要とする方法を挙げることができる。
【0177】
特定の疾患若しくは障害、例えば遺伝子疾患若しくは障害は、変異したタンパク質を必ずしもコードしないある遺伝子の多形領域の特定の対立遺伝子バリアントと関連する。従って、被験体中のある遺伝子のある多形領域の特定の対立遺伝子バリアントの存在は、該被験体を特定の疾患若しくは障害の発生に対し感受性にしうる。遺伝子中の多形領域は、個体の集団で遺伝子のヌクレオチド配列を決定することにより同定しうる。多形領域が同定される場合には、個体、例えば癌のような特定の疾患を発症した個体の特定の集団を研究することにより、特定の疾患との関連を決定しうる。多形領域は、遺伝子のいかなる領域、例えばエキソン、エキソンのコーディング若しくは非コーディング領域、イントロン、およびプロモーター領域にも位置しうる。
【0178】
例示的一態様において、遺伝子若しくはその天然に存在する変異体のセンス若しくはアンチセンス配列、あるいは主題の遺伝子若しくはそれらの天然に存在する変異体と天然に関連する5’若しくは3’隣接配列またはイントロン配列にハイブリダイズすることが可能であるヌクレオチド配列の一領域を包含する核酸プローブを含んでなる核酸組成物が提供される。細胞の該核酸をハイブリダイゼーションのため接近可能にし、プローブをサンプルの核酸と接触させ、そしてサンプル核酸へのプローブのハイブリダイゼーションを検出する。こうした技術を使用して、欠失、置換などを包含するゲノム若しくはmRNAいずれかのレベルでの損傷若しくは対立遺伝子バリアントを検出、ならびにmRNA転写物レベルを測定しうる。
【0179】
検出方法の一例は、突然変異若しくは多形部位にオーバーラップしかつ該突然変異若しくは多形領域周辺の約5、10、20、25若しくは30ヌクレオチドを有するプローブを使用する対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーションである。本発明の一態様において、対立遺伝子バリアントに特異的にハイブリダイズすることが可能な数種のプローブを固相支持体、例えば「チップ」に結合する。「DNAプローブアレイ」ともまた命名されるオリゴヌクレオチドを含んでなるこれらのチップを使用する突然変異検出分析は例えばCroninら(Human Mutation 7:244、1996)により記述されている。一態様において、チップは遺伝子の少なくとも1個の多形領域の全部の対立遺伝子バリアントを含みうる。固相支持体をその後、試験核酸と接触させ、そして特異的プローブへのハイブリダイゼーションを検出する。従って、1種以上の遺伝子の多数の対立遺伝子バリアントの同一性を1回の単純なハイブリダイゼーション実験で同定しうる。
【0180】
ある態様において、損傷の検出は、アンカーPCR若しくはRACE PCRのようなポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(例えば米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号明細書を参照されたい)、または、あるいはリガーゼ連鎖反応(LCR)(例えばLandegranら、Science 241:1077−1080、1988;Nakazawら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:360−364、1994を参照されたい)においてプローブ/プライマーを利用することを含んでなり、それらの後者は遺伝子中の点突然変異を検出するのにとりわけ有用であり得る(例えばAbravayaら、Nuc.Acid Res.23:675−682、1995を参照されたい)。具体的に説明する一態様において、該方法は、(i)患者から細胞のサンプルを収集する段階、(ii)サンプルの細胞から核酸(例えばゲノム、mRNA若しくは双方)を単離する段階、(iii)核酸のハイブリダイゼーションおよび増幅が(存在する場合)起こるような条件下で核酸配列に特異的にハイブリダイズする1種以上のプライマーと核酸サンプルを接触させる段階、ならびに(iv)増幅産物の存在若しくは非存在を検出する段階、または増幅産物の大きさを検出しかつ対照サンプルと長さを比較する段階を包含する。PCRおよび/又はLCRは、本明細書に記述される突然変異を検出するのに使用される技術のいずれかとともに予備的増幅段階として使用することが望ましいことができることが予期される。
【0181】
本発明は、従って、活性剤が該mRNAの産生を阻害する若しくは高めることが可能であるかどうかを決定するために、培養細胞中でマーカー核酸mRNAが検出可能である細胞若しくは組織を該活性剤に曝露すること;および曝露された細胞若しくは組織中のmRNAのレベルを測定すること(ここで、該活性剤への細胞株の曝露後のmRNAのレベルの減少はマーカー核酸mRNA産生の阻害を示し、また、mRNAレベルの増大はマーカーmRNA産生の増強を示す)を含んでなる、in vitroで核酸マーカーの発現を阻害する若しくは高める活性剤のスクリーニング方法もまた包含する。
【0182】
あるいは、該スクリーニング方法は、マーカータンパク質の産生を阻害する若しくは高めることが疑われる活性剤に対し培養細胞中でマーカータンパク質が検出可能である細胞若しくは組織のin vitroスクリーニングを包含することができ;かつ、細胞若しくは組織中のマーカータンパク質のレベルを測定することであって、ここで、細胞若しくは組織の活性剤への曝露後のマーカータンパク質のレベルの低下がマーカータンパク質産生の阻害を示し、また、マーカータンパク質のレベルに対する増大はマーカータンパク質産生の増強を示す。
【0183】
本発明はまた、マーカーmRNA若しくはタンパク質が検出可能である腫瘍細胞を有する被験体を、マーカーmRNA若しくはタンパク質の産生を阻害する若しくは高めると疑われる活性剤に曝露すること;および曝露された哺乳動物の腫瘍細胞中のマーカーmRNA若しくはタンパク質のレベルを測定することを含んでなる、マーカー核酸の発現を阻害する若しくは高める活性剤のin vivoスクリーニング方法も包含する。被験体の活性剤への曝露後のマーカーmRNA若しくはタンパク質のレベルの低下はマーカー核酸発現の阻害を示し、また、マーカーmRNA若しくはタンパク質のレベルの増大はマーカー核酸発現の増強を示す。
【0184】
従って、本発明は、マーカー核酸を発現する細胞を試験化合物とともにインキュベートすること、およびmRNA若しくはタンパク質のレベルを測定することを含んでなる方法を提供する。本発明はさらに、細胞集団中のマーカー核酸の発現のレベルの定量的測定方法、およびある活性剤がある細胞集団でのマーカー核酸の発現のレベルを増大若しくは減少させることが可能であるかどうかの決定方法を提供する。ある活性剤がある細胞集団でのマーカー核酸の発現のレベルを増大若しくは減少させることが可能であるかどうかの決定方法は、(a)対照および活性剤で処理した細胞集団から細胞抽出物を調製する段階、(b)細胞抽出物からマーカーポリペプチドを単離する段階、ならびに(c)マーカーポリペプチドと前記ポリペプチドに特異的な抗体との間で形成される免疫複合体の量を(例えば同時に)定量する段階を含んでなる。本発明のマーカーポリペプチドはその生物活性についてアッセイすることによってもまた定量しうる。マーカー核酸の発現の増大を誘導する活性剤は、対照細胞で形成される免疫複合体の量に比較して処理細胞で形成される免疫複合体の量を増大させるそれらの能力により同定しうる。類似の一様式において、マーカー核酸の発現を減少させる活性剤は、対照細胞に比較して処理細胞の抽出物で形成される免疫複合体の量を減少させるそれらの能力により同定しうる。
予測アッセイ
所定の抗癌活性剤からの臨床的利益を予測し得る検査室に基づくアッセイは、癌を伴う患者の臨床管理を大きく高めることができる。この効果を評価するために、抗癌活性剤と関連する生体マーカーを、処置の前、間および後の生物学的サンプル(例えば腫瘍サンプル、血漿)で分析しうる。
【0185】
処置をモニターするための別のアプローチは血清プロテオミクススペクトルの評価である。具体的には、血漿サンプルを質量分析(例えば表面増強レーザー脱離(surface−enhanced laser desorption)およびイオン化)にかけることができ、そしてプロテオミクススペクトルを各患者について生成させうる。処置の前および間の患者からの血漿の分析由来の一組のスペクトルを、処置サンプルと未処置サンプルを完全に識別するプロテオミクスパターンを同定し得る反復検索アルゴリズムにより解析しうる。生じるパターンをその後、処置後の臨床的利益を予測するのに使用しうる。
【0186】
生物学的サンプル(例えば腫瘍生検サンプル、血液サンプル)の包括的遺伝子発現プロファイリングおよび生物情報学に駆動されるパターン同定を利用して、臨床的利益および感受性、ならびに抗癌活性剤に対する耐性の発生を予測しうる。例えば、処置の前および間の患者からの全血由来の細胞から単離したRNAを使用して、AffymetrixのGeneChip技術およびアルゴリズムを利用して血液細胞の遺伝子発現プロファイルを生成させうる。これらの遺伝子発現プロファイルはその場合、特定の抗癌活性剤での処置からの臨床的利益を予測しうる。
【0187】
1D H−NMR(核磁気共鳴)による尿の生化学的組成の分析もまた予測アッセイとして利用しうる。パターン認識技術を使用して、抗癌活性剤での処置に対する代謝応答を評価しかつこの応答を臨床エンドポイントと相関させうる。尿中に排泄される生化学的すなわち内因性代謝物は、正常被験体についてプロトンNMRにより十分に特徴づけられている(Zuppiら、Clin Chim Acta 265:85−97、1997)。これらの代謝物(およそ30〜40種)はクエン酸回路および尿素回路のような主要代謝経路の副生成物を表す。薬物、疾患および遺伝子刺激が、該刺激に対する代謝応答の時系列および規模を示す基礎の尿プロファイルの代謝特異的変化を生じさせることが示されている。これらの分析は多変形(multi−variant)であり、そして従ってパターン認識技術を使用してデータ解釈を向上させる。尿代謝プロファイルは、臨床的利益を決定するために臨床エンドポイントと相関させうる。
【0188】
キット
本発明はさらに、小分子の有効性に特徴的な遺伝子の発現レベルを決定するためのキットを提供する。該キットは、癌を発症する傾向があるか若しくは癌を有する被験体を同定するため、ならびに癌の治療薬を同定かつ検証するために有用でありうる。一態様において、キットは、癌の病的な細胞の1種以上の遺伝子発現プロファイル、または、少なくとも、病的な細胞中の小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現のレベルを表す値が記憶されている、コンピュータに読み込み可能な媒体を含んでなる。該コンピュータに読み込み可能な媒体は、対照物の正常細胞、薬物で処理した病的な細胞の遺伝子発現プロファイル、および本明細書に記述されるいずれかの他の遺伝子発現プロファイルもまた含み得る。キットは、コンピュータシステムのメモリにロードされることが可能な発現プロファイル解析ソフトウェアを含み得る。
【0189】
キットは小分子の有効性に特徴的な遺伝子のプローブを含んでなるマイクロアレイを含み得る。キットは、小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現レベルを検出するための1種以上のプローブ若しくはプライマー、および/またはプローブが結合されかつサンプル中の小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子の発現を検出するのに使用し得る固体支持体を含み得る。キットはさらに、核酸対照、緩衝液および使用説明書を含みうる。
【0190】
他のキットは癌を処置するための組成物を提供する。例えば、キットは、(例えば癌を有する患者の処置での使用のための)小分子の有効性に特徴的な1種以上の遺伝子に対応する1種以上の核酸もまた含み得る。該核酸はプラスミド若しくはベクター(例えばウイルスベクター)に包含され得る。他のキットは、癌に特徴的な遺伝子によりコードされるポリペプチド若しくはポリペプチドに対する抗体を含んでなる。なお他のキットは、本明細書で小分子の有効性に特徴的な遺伝子のアゴニスト若しくはアンタゴニストと同定される化合物を含んでなる。該組成物は製薬学的に許容できる賦形活性剤を含んでなる製薬学的組成物でありうる。
【実施例】
【0191】
本明細書に記述される実施例および態様は具体的説明としてでありかつ制限としてでないこと、ならびに請求の範囲に示されるところの本発明の技術思想および範囲から離れることなく他の例を使用しうることが、当業者に明らかであろう。
【0192】
A.腫瘍移植および切除
11〜19週齢の間の範囲にわたりかつおよそ18〜25グラムの平均重量を伴う雌性ヌードマウスをこれらの試験で使用した。別個に、ヒト結腸(HCT−116)癌細胞株を組織培養物中でおよそ70%コンフルエンシーまで増殖させた。細胞を移植の日に収集し(5×10細胞/マウス)、そして収集の時点から移植の時点までハンクス平衡塩類溶液に懸濁し、移植の時点で各マウスは適切な細胞接種物の細胞懸濁液の0.2ml注入を受領した。細胞を各マウスの右脇腹に皮下注入し、そして腫瘍を増殖についてモニターした。ステージ評価(staging)(投薬(dosing))の時間は、腫瘍が75〜125mg(移植の第5日〜第9日から)の大きさに達した場合に決定した。HDAC阻害活性剤に使用したベヒクルは12.5%エタノール、12.5%Cremafor EL、水若しくは生理的食塩水であった。HCT−116異種移植片について、投薬は1日1回25mg/kgで静脈内、3日間であった。第3日に、投与3、6および24時間後にマウスを安楽死させ、そして2個の薬物処置したおよび2個のベヒクル処置した腫瘍を収集しかつ急速凍結した。表1は、ベヒクル処置したHCT−116細胞に関してHDAC阻害活性剤処置したHCT−116細胞で2倍以上若しくはそれに等しくアップおよびダウンレギュレートされた遺伝子を記述する。
【0193】
B.RNA抽出およびcRNA調製
全RNAを、RNeasyプロトコル(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を利用する改変した供給元のプロトコルに従って、TRIzol試薬(Life Technologies、メリーランド州ロックビル)を使用して腫瘍外植片若しくは細胞株から抽出した。Brinkmann Polytron PT10/35(Brinkmann、ニューヨーク州ウェストベリー)を用いる均質化およびクロロホルムでの層分離の後に、サンプルをRNeasyカラムに適用した。RNAサンプルを、RNアーゼフリーDNアーゼセット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を使用してDNアーゼIで処理した。
【0194】
溶出およびUV分光光度法での定量後に、各サンプルを、供給元のプロトコル(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)に従ったRT−PCRのため、Gibco Superscript II選択系を使用して二本鎖cDNAに逆転写した。
【0195】
サンプルを有機抽出しかつエタノール沈殿した。およそ1μgのcDNAをその後、RNA標識キット(Enzo Diagnostics、ニューヨーク)を使用してビオチニル化ヌクレオチドを取り込むin vitro転写反応で使用した。生じるcRNAにRNeasy浄化(clean−up)プロトコルを受けさせ、そしてその後UV分光光度法を使用して定量した。cRNA(15μg)をMgOAcおよびKOAcの存在下94℃で断片化した。断片化したRNA(10μg)をアレイあたり1cRNAサンプルで各アレイ上に負荷した。アレイを、Affymetrix GeneChipハイブリダイゼーションオーブン640中、60rpmで回転して45℃で16時間ハイブリダイズさせた。
【0196】
C.Microarray Suite 5.0解析
ハイブリダイゼーション後に、アレイをフィコエリトリン結合ストレプトアビジンで染色し、Agilent GeneArrayスキャナーに入れ、そしてその後488nmレーザーに曝露して、フィコエリトリンの励起を引き起こした。Microarray Suite 5.0ソフトウェアは、アレイにより発せられた光の強度を、遺伝子発現のレベルを示す数値にデジタル変換する。各アレイは単一の動物サンプルを表したため、処置した動物をベヒクル動物と比較し、そして遺伝子の相対的な変化の倍数(relative fold change)を得た。少なくとも2倍の変化だけ増大若しくは減少した遺伝子を有意とみなし、そしてさらなる分析に選択した(表1を参照されたい)。
【0197】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗癌活性剤を投与することにより癌について処置されている患者の応答のモニター方法であって、
(a)該抗癌活性剤での処置前に該患者から採取した第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを測定する段階;
(b)該抗癌活性剤での処置後に該患者から採取した少なくとも第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを測定する段階;および
(c)第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを、第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルと比較する段階
を含んでなり;かつ、
第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルに比較した第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルの変化が、該抗癌活性剤での処置の有効性を示す、
上記方法。
【請求項2】
該抗癌活性剤がヒストン脱アセチル化酵素の阻害活性剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1種以上の遺伝子が配列番号1〜19よりなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1種以上の遺伝子産物が配列番号20〜37よりなる群から選択されるポリペプチドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
抗癌活性剤に対する患者の応答の予測方法であって、
(a)該抗癌活性剤での処置前に該患者から採取した第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを測定する段階;
(b)該患者から採取した少なくとも第二の生物学的サンプルであって該抗癌剤に曝露されている該第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを測定する段階;および
(c)第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを、第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子若しくは遺伝子産物の発現のレベルと比較する段階
を含んでなり;
第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルに比較した第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルの変化が、該抗癌活性剤に対する患者の応答を予測する、
上記方法。
【請求項6】
抗癌活性剤がヒストン脱アセチル化酵素の阻害活性剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
1種以上の遺伝子が配列番号1〜19よりなる群から選択される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
1種以上の遺伝子産物が配列番号20〜37よりなる群から選択されるポリペプチドである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
癌の処置に有用な化合物の同定方法であって、
(a)該化合物での処置前の細胞若しくは組織サンプル中の1種以上の遺伝子および/又は遺伝子産物の発現のレベルを分析する段階;
(b)該化合物での処置後の細胞若しくは組織サンプル中の1種以上の遺伝子および/又は遺伝子産物の発現のレベルを分析する段階
を含んでなり;
該遺伝子および/又は遺伝子産物の発現レベルの変動が薬物の有効性を示す、
上記方法。
【請求項10】
化合物がヒストン脱アセチル化酵素の阻害活性剤である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1種以上の遺伝子が配列番号1〜19よりなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
1種以上の遺伝子産物が配列番号20〜37よりなる群から選択されるポリペプチドである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
癌の患者診断の提供方法であって、
(a)患者から採取した第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを測定する段階;
(b)正常患者サンプルから採取した少なくとも第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを測定する段階;および
(c)第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルを、第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルと比較する段階
を含んでなり;
第二の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルと比較した、第一の生物学的サンプル中の1種以上の遺伝子又は遺伝子産物の発現のレベルの変化が、該疾患の診断である、
上記方法。
【請求項14】
1種以上の遺伝子が配列番号1〜19よりなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
1種以上の遺伝子産物が配列番号20〜37よりなる群から選択されるポリペプチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
配列番号1〜19よりなる群から選択される2種以上の遺伝子に対応する2種以上のプローブを含んでなるアレイ。
【請求項17】
配列番号20〜37よりなる群から選択される2種以上のポリペプチドを含んでなるアレイ。
【請求項18】
配列番号1〜19から選択される核酸の発現レベルを測定するためのプライマー又はプローブを含んでなる試験キット。
【請求項19】
組織又は細胞サンプルを懸濁若しくは固定するための溶液、細胞を溶解するための溶液、ハイブリダイゼーション溶液、核酸の単離のための溶液、対照サンプルから選択される1種以上の成分、およびキットの使用説明書をさらに含んでなる、請求項18に記載の試験キット。
【請求項20】
配列番号20〜37から選択されるポリペプチドに特異的な抗体を含んでなる試験。
【請求項21】
抗体がラベルされている、請求項20に記載の試験キット。
【請求項22】
組織若しくは細胞サンプルを懸濁若しくは固定するための溶液、細胞を溶解するための溶液、基質、緩衝活性剤試薬、遮断活性剤試薬、ブロッティング試薬、対照サンプルから選択される1種以上の成分、およびキットの使用説明書をさらに含んでなる、請求項20又は21に記載の試験キット。

【公表番号】特表2007−513635(P2007−513635A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544107(P2006−544107)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/041883
【国際公開番号】WO2005/059108
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(503211596)バイエル・フアーマシユーチカルズ・コーポレーシヨン (46)
【Fターム(参考)】