説明

遺伝病素因状態の抑制療法のためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用

本発明は、例えば癌、炎症性又は代謝性疾患を含むがこれらに限定されない、疾患の発症の素因を個人に与える状態の医学的治療のための、ヒストンデアセチラーゼ活性を有する酵素の阻害剤として働く化合物の使用に関する。そのような状態は、この状態を有する個人に疾患表現型を発現する素因を与える決定的遺伝子の遺伝的に受け継がれた突然変異に関連している。そこで、本発明は、遺伝的素因疾患の発症又は進行を阻止する又は遅延させるための、抑制的治療アプローチ「抑制療法」のためのそのような化合物の使用に関する。さらに、本発明は、そのような遺伝的素因状態の抑制療法のために臨床的に使用される薬剤の製造を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば癌、炎症又は代謝性疾患を含むがこれらに限定されない、疾患の発症の素因を個人に与える状態の医学的治療のための、ヒストンデアセチラーゼ活性を有する酵素の阻害剤として作用する化合物の使用に関する。そのような状態は、この状態を有する個人に疾患表現型を発現する素因を与える決定的遺伝子の遺伝的に受け継がれた突然変異に関連している。そこで、本発明は、遺伝的素因疾患の発症又は進行を阻止する又は遅延させるための、抑制的治療アプローチ「抑制療法(Suppression Therapy)」のためのそのような化合物の使用に関する。さらに、本発明は、そのような遺伝的素因状態の抑制療法のために臨床的に使用される薬剤の製造を包含する。
【0002】
病因過程の分子生物学、例えば現代腫瘍生物学の理解における今日の進歩は、多くの疾患の発症、例えば発癌の遺伝的基礎及び基本的生化学経路についての洞察を提供した。これらの新たに特定された機構は、ここで「抑制療法」と称するアプローチを使用する、急性疾患状態の管理においてのみならず、前症候状態の医学的管理のためにも、治療的介入のための新しい機会を提供する。そのような状態は、個人に疾患表現型を発現する素因を与える遺伝子突然変異又は決定的遺伝子の多型の遺伝的存在によって定義される。抑制療法は、例えばそのような遺伝的に受け継がれた遺伝子突然変異によって引き起こされる機構の抑制による、そしてそれ故、疾患シグナル形質導入及び疾患表現型の発現の抑制による、そのような抑制特性を示す天然に生じる又は合成化合物及び薬剤の使用を通しての病因の阻止又は遅延を意図する、新しい概念である。
【0003】
本発明において、本発明者らは、個人に疾患を発症する素因を与える遺伝的突然変異に基づく、及び疾患の発症がそのような突然変異又は多型の存在に関連する、一連のヒトの状態の医学的抑制療法における、ヒストンデアセチラーゼ活性を有する酵素の阻害剤の使用を提案する。
【背景技術】
【0004】
(クロマチンの調節と疾患)
クロマチンの局所モデリングは、遺伝子の転写活性化において鍵となる工程である。転写タンパク質をDNA鋳型と接触させるためにはDNAのヌクレオソームパッケージングの動的変化が起こらねばならない。クロマチンリモデリングと遺伝子転写に影響を及ぼす最も重要な機序の1つは、ヒストン及び他の細胞タンパク質のアセチル化による翻訳後修飾とその後のクロマチン構造の変化である(Davie, 1998, Curr Opin Genet Dev 8,173-8 ; Kouzarides, 1999, Curr Opin Genet Dev 9,40-8 ; Strahl and Allis, 2000, Nature 403,41-4)。ヒストンの過剰アセチル化の場合は、DNAの静電引力及び疎水性アセチル基によって導入される立体障害がDNAとヒストンの相互作用の不安定化を導く。その結果として、ヒストンのアセチル化がヌクレオソームを分断し、DNAが転写機構に対してアクセス可能となる。アセチル基の除去は、ヒストンがDNA及び隣接ヌクレオソームにより密接に結合し、それ故、転写抑制されたクロマチン構造を維持することを可能にする。アセチル化は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を有する一連の酵素によって仲介される。逆に、アセチル基は特異的ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)酵素によって除去される。これらの機序の破壊は、転写的に誤誘導された調節を生じさせ、自己免疫、炎症、代謝、又は腫瘍形成性形質転換及び腫瘍進行を含む過剰増殖性疾患を含めた、様々なヒト疾患の原因となる恐れがある。
【0005】
加えて、転写因子などの他の分子は、それらのアセチル化状態に依存して活性及び安定性を変化させる。例えば急性前骨髄性白血病(APL)に関連する融合タンパク質、PML−RARは、p53の脱アセチル化及び分解を仲介することを通してp53を阻害し、それによってAPL芽細胞がp53依存性癌監視機構をすり抜けることを可能にする。造血前駆細胞におけるPML−RARの発現は、p53を介した転写活性化の抑制及び遺伝毒性ストレス(X線、酸化的ストレス)が引き金となるp53依存性アポトーシスからの保護を生じさせる。しかし、p53阻害の基礎となる機構として、PML−RARによるp53へのHDACの活発な動員に関与するHDAC阻害剤の存在下では、p53の機能が再装備される(Insinga et al., February 2004, EMBO Journal, 1-11)。それ故、ヒストンとは異なるタンパク質のアセチル化、例えばp53のアセチル化は、HDAC阻害剤の抗疾患作用において決定的な役割を果たす。
【0006】
(核内受容体及びヒストンデアセチラーゼ)
核内ホルモン受容体は、遺伝子発現の正の対照及び負の対照の両方を介して、発生及びホメオスタシスを制御するリガンド依存性転写因子である。これらの調節過程における欠陥は、多くの疾患の原因の根底をなし、癌の発生に重要な役割を果たす。T3R、RAR及びPPARを含む多くの核内受容体が、リガンドの不在下で、コリプレッサー、例えばN−CoR及びSMRTと相互作用し、それによって転写が阻害される。さらにN−CoRはまた、アンタゴニストが占有する(antagonist-occupied)プロゲステロン受容体及びエストロゲン受容体と相互作用することが報告されている。非常に興味深いことに、N−CoR及びSMRTは多タンパク質複合体に存在することが判明しており、それはまた、mSin3タンパク質及びヒストンデアセチラーゼ(Pazin and Kadonaga, 1997; Cell 89, 325-8)を含有する。従って、抑制から活性化への、リガンドに誘発される核内受容体のスイッチは、拮抗的な酵素活性を有するコリプレッサー及び活性化補助因子複合体の交換を反映している。
【0007】
(核内受容体による遺伝子抑制)
HDAC活性を含むそのようなコリプレッサー複合体は、核内受容体による抑制を仲介するだけでなく、Mad−1、BCL−6及びETOを含む付加的な転写因子とも相互作用する。これらのタンパク質の多くは、細胞増殖及び分化の疾患において鍵となる役割を果たす(Pazin and Kadonaga, 1997, Cell 89,325-8 ; Huynh and Bardwell, 1998, Oncogene 17,2473-84 ; Wang, J. et al., 1998, Proc Natl Acad Sci U S A 95,10860-5)。例えばT3Rは、もともとウイルス癌遺伝子v−erbAとのその相同性に基づいて特定されたが、これは、野生型受容体と異なり、リガンドとは結合せず、転写の構成的リプレッサーとして機能する。さらに、RARの突然変異は多くのヒト癌、特に急性前骨髄性白血病(APL)及び肝細胞癌に関連してきた。APL患者では、染色体転座から生じるRAR融合タンパク質は前骨髄性白血病タンパク質(PML)又は前骨髄性ジンクフィンガータンパク質(PLZF)のいずれかに関与する。どちらの融合タンパク質もコリプレッサー複合体の成分と相互作用しうるが、レチノイン酸の添加はPML−RARからコリプレッサー複合体を除去し、一方PLZF−RARは構成的に相互作用する。これらの所見は、なぜ、PML−RAR APL患者がレチノイン酸治療後に完全な寛解を達成するのに対して、PLZF−RAR APL患者は極めて不良にしか応答しないかということの説明を提供する(Grignani et al., 1998, Nature 391,815-8 ; Guidez et al., 1998, Blood 91,2634-42 ; He et al., 1998, Nat Genet 18,126-35 ;Lin et al., 1998, Nature 391,811-4)。
【0008】
最近、レチノイン酸による治療後に何度も再発を経験したPML−RAR患者がHDAC阻害剤、フェニルブチレートで治療され、白血病の完全な寛解が生じた(Warrell et al., 1998, J.Natl. Cancer Inst. 90,1621-1625)。
【0009】
(ヒストンデアセチラーゼのタンパク質ファミリー)
ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の集積は、細胞増殖と分化に重要な役割を果たす多くの遺伝子の動的調節において鍵となる要素であると考えられる。ヒストンH3及びH4のN末端の過剰アセチル化は遺伝子活性化と相関し、一方脱アセチル化は転写抑制を仲介することができる。その結果、多くの疾患が、転写因子に影響を及ぼす突然変異によって引き起こされる遺伝子発現の変化に結びつけられてきた。白血病融合タンパク質、例えばPML−RAR、PLZF−RAR、AML−ETO及びStat5−RARによる異常抑制は、これについての典型的な例である。これらすべての場合に、染色体転座は転写活性化因子を抑制因子に変換し、その抑制因子は、HDACの集積によって、例えば造血分化のために重要な標的遺伝子を構成的に抑制する。同様の事象はまた、他の多くの種類の疾患における病因の一因になりうると考えられる。同じことが自己免疫、炎症、代謝又は過剰増殖性疾患にも当てはまるという証拠が増えつつある。
【0010】
哺乳動物ヒストンデアセチラーゼは3つのサブクラスに分類することができる(Gray and Ekstroem, 2001)。酵母RPD3タンパク質のホモログであるHDAC1、2、3及び8はクラスIを構成する。HDAC4、5、6、7、9及び10は酵母Hda1タンパク質に関連し、クラスIIを形成する。最近になって、NAD依存性であるデアセチラーゼの3番目のクラスを形成する、酵母Sir2タンパク質のいくつかの哺乳動物ホモログが特定された。さらに、HDAC11は、クラスII HDACの構造特徴を有するクラスIヒストンデアセチラーゼとして分類された。これらのHDACはすべて、多数の多タンパク質複合体のサブユニットとして細胞内に存在すると思われる。特にクラスI及びII HDACは、転写因子へのHDACの集積のために必要な架橋因子として働く、転写コリプレッサーmSin3、N−CoR及びSMRTと相互作用することが示された。
【0011】
(HDAC阻害剤による治療)
HDAC阻害の原理に基づく癌患者の全身的臨床治療を開発するために、最近、追加的な臨床検討が開始された。現在までに、単独療法としての、密接に関連する酪酸誘導体ピバネックス(Pivanex)(Titan Pharmaceuticals)に関する第II相臨床試験が終了しており、III/IV期の非小細胞性肺癌における活性を明らかにした(Keer et al., 2002, ASCO, Abstract No. 1253)。さらに多くのHDAC阻害剤が特定されており、NVP−LAQ824(Novartis)及びSAHA(Aton Pharma Inc.)は、第II相臨床試験において試験されたヒドロキサム酸の構造的クラスの成員である(Marks et al., 2001, Nature Reviews Cancer 1,194-202)。もう1つのクラスは、環状テトラペプチド、例えばT細胞リンパ腫の治療のために第II相試験で成功裏に使用されたデプシペプチド(FR901228−藤沢)を含む(Piekarz et al., 2001, Blood 98,2865-8)。さらに、ベンズアミドのクラスに関連する化合物、MS−27−275(三井製薬)は、現在、血液悪性疾患を有する患者を治療する第I相試験において試験されている。
【0012】
(2−プロピル−ペンタン酸)
2−プロピル−ペンタン酸(2PPA)は、種々の分子作用機構に依存する多くの生物活性を有する:
−2PPAは抗てんかん薬である。
−2PPAは催奇形性である。妊娠中に抗てんかん薬として使用したとき、2PPAは生まれた小児の数パーセントにおいて出生時欠陥(神経管閉鎖欠陥及び他の奇形)を誘導しうる。マウスでは、2PPAは、適切に投与したときマウス胚の大部分において催奇形性である。
−2PPAは核内ホルモン受容体(PPARδ)を活性化する。いくつかの付加的な転写因子も抑制解除されるが、一部の因子は有意に抑制解除されない(糖質コルチコイド受容体、PPARα)。
−2PPAは時として、補酵素Aとの代謝不良エステルに依存すると考えられる、肝毒性を引き起こす。
−2PPAはHDACの阻害剤である。
【0013】
2PPA誘導体の使用により、種々の活性は種々の分子作用機構によって仲介されると判定された。催奇形性に選択的に作用する又は選択的に抗てんかん性に働く化合物を分離することができたので、催奇形性と抗てんかん活性は異なる作用機構に従う(Nau et al., 1991,Pharmacol : Toxicol. 69,310-321)。PPARδの活性化は催奇形性と厳密に相関することが認められ(Lampen et al., 1999, Toxicol. Appl. Pharmacol. 160,238-249)、PPARδの活性化と催奇形性の両方が2PPAの同じ分子活性を必要とすることを示唆した。また、F9細胞の分化は、Lampenら、1999によって示唆され、分化マーカーの分析によって実証されたように(Werling et al., 2001, Mol. Pharmacol. 59, 1269-1276)、PPARδ活性化及び催奇形性と厳密に相関した。PPARδの活性化は、2PPA及びその誘導体のHDAC阻害活性によって引き起こされることが示された(国際公開広報第WO02/07722 A2号;国際公開広報第WO03/024442 A2号)。さらに、確立されたHDAC阻害剤、TSAは、PPARδを活性化し、2PPAと同じタイプのF9細胞分化を誘導することが示された。これらの結果から、PPARδの活性化だけでなく、2PPA又は2PPA誘導体のF9細胞分化の誘導及び催奇形性も、HDAC阻害によって引き起こされると結論づけることができる。
【0014】
抗てんかん及び鎮静作用は異なる構造活性関係に従い、それ故、明らかにHDAC阻害とは異なる一次2PPA活性に依存する。肝毒性の機序はよく理解されておらず、それが2PPA−CoAエステルの形成に関連するかどうかは不明である。しかしながら、HDAC阻害は、CoAエステル形成を必要としないと思われる。
【0015】
(ヒストンデアセチラーゼの阻害剤としての2PPA)
2PPAは、てんかんの治療のために使用される薬剤として開発された。従って、2PPAは、薬剤が、その抗てんかん作用の使命を遂行するために、血液脳関門を通過して脳組織内のてんかん標的領域に達することができるように、全身的、経口的又は静脈内経路で使用される。さらに、2PPAは、単一薬剤として又は個々に著しく異なる作用機構に基づく極めて多様な他の抗腫瘍療法と組み合わせて、多くの異なるタイプのヒト癌の治療のために使用するとき、HDAC活性を有する特定のセットの酵素を阻害し、それによって分化及び/又はアポトーシスを誘導することにより、潜在的に特別な有益作用を有することが示された(国際公開広報第WO02/07722 A2号、欧州特許第EP1170008号、国際公開広報第WO03/024442 A2号、欧州特許第EP1293205 A1号)。悪性疾患、自己免疫疾患、又は他の炎症又は過剰増殖性疾患の治療又は予防のために、2PPAはまた、全身的、経口的又は静脈内経路でも投与しうる。さらに、2PPAはヒト皮膚に有効に浸透し、それ故皮膚に局所的に投与することができ、自己免疫、炎症又は過剰増殖性ヒト皮膚疾患、例えば乾癬及びヒト皮膚癌の局所治療又は予防のために使用したとき有益な作用を発揮することが示された(欧州特許出願第03014278.0号)。免疫調節化合物として働く、2PPA及び他のHDAC阻害剤のこの新しい潜在的可能性は、これらの化合物を、病的過剰活性免疫細胞に関連する疾患の治療のための抗炎症薬として使用する本発明を支持する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、遺伝的に受け継がれるヒト疾患の予防又は治療のための手段を提供することを目的とする。
【0017】
このために、今や、2PPAは、重要な遺伝子座、例えば癌抑制遺伝子(p53、pRB、PTEN、p21、p57、WT1、NF1、NF2、APC、TSC1、TSC2、BRCA1及びBRCA2を含むがこれらに限定されない)、免疫系、特に免疫応答を制御する遺伝子の遺伝的突然変異、活性化癌遺伝子突然変異、例えばチロシンキナーゼ受容体等の突然変異、そしてまた、転写因子複合体における突然変異、例えば、事実上個人に広範囲の腫瘍疾患を発症する素因を与えうるβ−カテニンの安定化突然変異(Polakis et al. ; Genes & Development, Aug 1; 14 (15): 1837-51,2000)に基づく、疾患発症に対する遺伝的素因の抑制療法のために使用されるとき、事実上予想外の有益作用を有することが認められた。そのようなβ−カテニンの突然変異は、しばしばヒト癌において、特に結腸直腸癌において上方調節される(upregulated)ことが認められている、HDACイソ酵素、すなわちHDAC−2の高発現を引き起こすと予想される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、それ故、個人に疾患発症の素因を与える遺伝状態の治療のための薬剤を製造するための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用に関する。本発明はさらに、治療又は予防が、遺伝病発症の素因を与える遺伝状態を有する個人に薬剤を投与することを含む、遺伝病の治療又は予防のための薬剤を製造するためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用に関する。本発明はさらに、個人に疾患を発症する素因を与える遺伝状態に関連する疾患に罹患している個人の治療のための薬剤を製造するための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、ヒストンデアセチラーゼ活性を有する少なくとも1つの酵素のヒストンデアセチラーゼ活性を阻害することができる化合物である。好ましいヒストンデアセチラーゼ阻害剤を以下で述べる。
【0020】
1つの実施形態では、上記遺伝状態は、少なくとも1個の決定的遺伝子の少なくとも1つの遺伝的に受け継がれた突然変異を含み、上記の少なくとも1つの突然変異は、この遺伝状態を有する個人に疾患表現型を発現する素因を与える。もう1つの実施形態では、上記遺伝状態は、少なくとも1個の決定的遺伝子の少なくとも1つの遺伝的に受け継がれた多型に基づき、上記多型は、この状態を有する個人に疾患表現型を発現する素因を与える。この実施形態では、遺伝状態は、多型を示す決定的遺伝子の特定対立遺伝子変異体の存在を含みうる。上記特定対立遺伝子変異体は、その特定対立遺伝子変異体を有する個人に疾患発症の素因を与えうる。
【0021】
遺伝状態の例は、遺伝性免疫又は代謝疾患、又は癌の発症を導く素因を含むが、これらに限定されず、その一部を以下の表1に示す:
【表1】


遺伝性素因疾患状態。[この表に関するさらなる詳細については:、Online Mendelian Inheritance in Man,OMIM(TM).McKusick−Nathans Institute for Genetic Medicine, Johns Hopkins University (Baltimore,MD)及びNational Center for Biotechnology Information,National Library of Medicine(Bethesda,MD),2000。World Wide Web URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/]参照。
【0022】
さらに、前臨床結果は、2PPAが、家族性大腸腺腫症(FAP)に罹患している患者において結腸直腸ポリープを治療するため及び抑制するための治療薬として有効に使用できることを示唆する。APC/β−カテニン経路における定義された突然変異は、そのような突然変異を保因する患者にFAPを発症する遺伝的素因を与える。それ故、本発明の特に好ましい実施形態では、遺伝状態はFAPである。本発明は、FAPの治療又は予防のための薬剤を製造するためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用に関する。本発明はさらに、結腸癌の治療又は予防のための薬剤を製造するためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用に関し、該薬剤をFAPに罹患している個人に投与するものである。本発明はさらに、結腸癌及びFAPに罹患している個人の治療のための薬剤を製造するためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用に関する。
【0023】
本発明のもう1つの実施形態では、遺伝状態は個人に、例えば喘息、アトピー性皮膚炎、乾癬、インスリン依存性糖尿病、インスリン非依存性糖尿病、グレーヴズ病、自己免疫性多腺性内分泌不全症候群、炎症性腸疾患、炎症性脱髄性多発ニューロパシー、ギヤン‐バレー症候群、多発性及び再発性炎症性線維性ポリープ、血管新生炎症性硝子体網膜症、慢性神経性皮膚・関節症候群、CINCA症候群、遺伝性炎症性血管炎、家族性再発性関節炎、常染色体優性家族性周期熱、家族性寒冷自己炎症性症候群、マックル‐ウェルズ症候群、多発性硬化症、遺伝性ミオパシー、遺伝性筋ジストロフィー、強直性脊椎炎、ベヒテレフ症候群、エリテマトーデス及び/又は骨髄炎を含むがこれらに限定されない炎症性疾患を発症する素因を与える。
【0024】
そのような疾患は、IL13、ALRH、BHR1、SCGB3A2、UGRP1、PLA2G7、PAFAH、PHF11、NYREN34、ATOD1、ATOD6、ATPD5、ATOD4、ATOD3、PSORS9、PSORS7、PSORS6、PSORS5、PSORS4、PSORS3、PSORS2、PSORS1、PSS1、IDDM1、TCF1、HNF1A、MODY3、インターフェロン産生制御因子(HNF1)、アルブミン近位因子(albumin proximal factor)、FOXP3、IPEX、AIID、XPID、PIDXフォークヘッドボックスP3(スクルフィン(scurfin))、HLA、プロペルジンB因子、グリオキサラーゼ1、キッド血液型、HLA−DQ(β)、GPD2、NEUROD1、NIDDM、CAPN10、カルパイン−10、VEGF、MAPK8IP1、IB1、TCF1、HNF1A、MODY3、インターフェロン産生制御因子、アルブミン近位因子、IPF1、IRS2、TCF2、HNF2、LF−B3、GCGR、HNF4A、TCF14、MODY1、NIDDM2、NIDDM3、Glut 2、Glut 4、GPD2、AIRE、APECED、IBD7、IBD9、IBD5、IBD3、IBD2、IBD4、IBD8、IBD6、CARD15、NOD2、ABCB1、DLG5、SLC22A4、SLC22A5、IBD1、CD、ACUG、NOD2、PMP22、GAS3、VRNI、D11S527、CIAS1、C1orf7、FCU、FCAS、AS、ANS、主要組織適合性遺伝子複合体クラスI B、HLA−B27、FCGR3A、FCGR2A、CD16、IGFR3、TNFSF6、APT1LG1、FAS、FASL、TNFRSF1A、TNFA、PSTPIP1、PTPRC、CD45、HLA−A3、HLA−B7、HLA−Dw2、CRYAB、免疫グロブリンKM1/3、SLEB1、SLE1、PDCD1、SLEB2、SLEB3、SLEH1、SLEB4、DNアーゼ1、SLEV1、SLEN1、SLEN2及びSLEN3から成る群より選択される遺伝子における突然変異又は素因多型に関連する。
【0025】
特に、本発明は、遺伝される遺伝子型に関連する状態及び素因疾患の治療を包含し、該疾患の発症は、例えば免疫系の細胞による炎症性サイトカインの調節不全発現を原因とする、免疫系細胞の誤誘導された調節に結びつく。
【0026】
サイトカインは、個々の細胞及び組織の機能的活性を調節する調節因子として働く可溶性タンパク質及びペプチドの多様な群である。それらは、異物又は変化した内因性物質に対する防御としての炎症反応を誘導するように設計されている。多くの点でサイトカインの生物活性は、生物学的現象、例えば炎症、急性期反応及び自己免疫を誘導するように全身レベルで作用することにより、特殊腺組織において産生される古典的ホルモンの生物活性に類似する。しかし、炎症応答の不適切な活性化は多くの一般的疾患の基礎となる原因であり、炎症反応は、それ故、薬剤開発のための重要な標的でもある。
【0027】
多くのサイトカインは、直接に又はある種の細胞型において細胞接着分子又は他のサイトカインの合成を誘導するそれらの能力を通して、炎症を促進し、局所又は全身炎症反応を調節する。早期反応の原因となる主要サイトカインは、IL1、IL6及びTNF−αである。他の全炎症性メディエイターは、LIF,IFN−γ、GM−CSF、IL11、IL12、IL18及び様々な他のケモカインを含む。
【0028】
しかし、サイトカインの役割は炎症過程だけに限定されず、自己免疫疾患の発症と伝播においても先導的役割を有する。古典的な例は、特異的CD4+T細胞が、おそらく未知の外因性又は内因性抗原に対する応答として、罹患した関節において免疫応答を誘導する、慢性関節リウマチである(Olsen et al., 2003, New England Journal of Medicine 350,2167-79)。その結果として、集積された単球、マクロファージ及び線維芽細胞は、滑膜腔内でサイトカイン、例えば腫瘍壊死因子−α(TNF−α)及びインターロイキン−1を産生する。これらのサイトカインは損傷カスケードの中枢であり、最終的にマトリックスメタロプロテイナーゼ及び破骨細胞の産生を誘発し、軟組織及び骨に不可逆的な損傷を生じさせる。
【0029】
活性化単球、マクロファージ及びTリンパ球によって放出される炎症性サイトカイン、TNF−αは、慢性関節リウマチの病因において重要な炎症反応を促進する。慢性関節リウマチを有する患者は、滑液中に高濃度のTNF−αを有する。TNF−αは、炎症パンヌス及び健常軟骨の関節に局在し、高い滑液TNF−α濃度は骨の侵食に結びつく。
【0030】
驚くべきことではないが、TNFアンタゴニストは慢性関節リウマチのために使用できる最も有効な治療の1つであると思われる。すべての患者が応答するわけではないが、応答は一般に迅速であり、しばしば数週間以内に起こる。TNF−αに対する薬剤は、慢性関節リウマチなどの慢性自己免疫疾患の治療においてのみならず、クローン病、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群、強皮症、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、抗療性ブドウ膜炎、ベーチェット病、成人発症スティル病及びヴェーゲナー肉芽腫症の治療においても有効である。
【0031】
もう1つの例は乾癬であり、この場合T細胞仲介性免疫応答はケラチノサイトに向けられる。これらのTリンパ球は、真皮又は表皮で開始抗原に遭遇し、1型サイトカイン(Th1)、特にインターフェロン−γ、インターロイキン2及びTNF−αを分泌する。これらの分泌は、ケラチノサイトの増殖と成熟低下及び関連する血管変化を生じさせる。他のサイトカイン、例えばインターロイキン8の分泌は、乾癬の全体像の一因となる(Lebwohl, 2004, The Lancet 361,1197-1204)。自己免疫疾患へのサイトカインの因果関係的関与についてのさらなる証拠は、様々な疾患の治療におけるサイトカインの使用後に為された観察から得られた(Krause et al., 2003, The American Journal of Medicine 115,390-397)。興味深いことに、それらは副作用、例えば、明らかな自己免疫疾患へと進行しうる、免疫及び自己免疫状態を誘発すること及び増悪に関連する。これらの自己免疫症状発現は、自己免疫への既存傾向を有する患者においてより一般的であると思われる。
【0032】
インターフェロン−γによる治療期間中に多発性硬化症の増悪が認められた。インターフェロン−γ療法に関連する自己免疫症状発現の頻度は低いと思われるが、骨髄増殖性疾患のためにインターフェロン−γ単独で並びにインターフェロン−γ併用で治療を受けた患者における全身性エリテマトーデスについての報告ががある。インターフェロン−γは、動物モデルにおいて全身性エリテマトーデスの病因に関与する。インターフェロン−γの投与は、狼瘡にかかりやすい(NZBXNZW)F1マウスにおいて糸球体腎炎への進行の速度を加速するが、これは抗インターフェロン−γ抗体での治療によって予防される。インターフェロン−γの高い血清レベルが全身性エリテマトーデスを有する患者において報告されている。インターフェロン−γは、ナチュラルキラー細胞によって産生され、II型インターフェロン受容体に結合する。ナチュラルキラー細胞を活性化する上ではインターフェロン−γほど有効ではなく、抗ウイルス及び抗腫瘍作用も劣る。しかし、インターフェロン−γは、マクロファージ活性化及び主要組織適合性クラスII分子の最も強力な誘導物質である。B細胞によって免疫グロブリン分泌を刺激し、T細胞のTヘルパー1型への分化を促進する。
【0033】
インターロイキン2は、抗腫瘍活性を有する活性化T細胞によって分泌される。転移性悪性黒色腫及び腎細胞癌の治療において有効である。T細胞増殖を誘導し、B−細胞増殖を増強し、ナチュラルキラー細胞及び単球の活性化を高める。インターロイキン2治療下で見られる最も一般的な自己免疫性副作用は免疫仲介性甲状腺疾患である。可逆性甲状腺機能不全は、インターロイキン単独又はリンホカイン活性化キラー細胞又はインターフェロン−γと組み合わせたインターロイキンで治療される癌患者においてしばしば起こる。転移性腎細胞癌を有する患者でのインターロイキン2に関する試験では、患者の18%(60/329)において抗甲状腺抗体が検出された。自己免疫性とみなしうる、他のはるかに一般性の低い現象がインターロイキン2治療に関連して記述されている。これらは、慢性関節リウマチ、乾癬性関節症、強直性脊椎炎及びライター症候群を含む。関節炎の発症は、炎症へと導く、関節に浸潤するT細胞による自己抗原認識の誘導によって説明されうる。インターロイキン2は、筋特異的及び腫瘍抗原に対する免疫寛容の損傷を増強し、腫瘍細胞と筋細胞の両方の破壊をもたらしうる。インターロイキン2とリンホカイン活性化キラー細胞で治療された転移性腎細胞癌を有する1名の患者は、全身性硬化症の急性増悪を発現した。全身性硬化症を有する患者では、インターロイキン2及び可溶性インターロイキン2受容体の血清レベルが高く、疾患の期間及び活性と相関する。これらの観察は、インターロイキン2治療と全身性硬化症の発現との結びつきを説明すると考えられる。
【0034】
以下の章で述べる疾患についてのさらなる詳細に関しては、Online Mendelian Inheritance in Man,OMIM(TM).McKusick−Nathans Institute for Genetic Medicine, Johns Hopkins University (Baltimore,MD)及びNational Center for Biotechnology Information,National Library of Medicine(Bethesda,MD),2000[World Wide Web URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/]も参照のこと。
【0035】
喘 息
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 13q14.1、7p15−p14、6p21.2−p12、5q31−q34、5q31−q33、5q31
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1600807)
IL13、ALRH インターロイキン−13、BHR1 気管支過応答性−1(気管支喘息)、SCGB3A2(セクレトグロビン、ファミリー3A、成員2)、UGRP1(ウテログロビン関連タンパク質1)、PLA2G7(ホスホリパーゼA2、グループVII)、PAFAH(血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ)、PHF11、NYREN34 PHDフィンガータンパク質11
【0036】
気管支喘息は、小児及び若年成人を冒す最も一般的な慢性疾患である。主として多くの遺伝子間での相互作用及びこれらの遺伝子と環境との間の相互作用に帰せられる、不均質な表現型を有する複雑な遺伝疾患である。Longoら(1987, Am. J. Dis. Child. 141,331-334)は、喘息はメンデル優性として遺伝されうる(可変性の浸透度で)と主張した;Townley ら (1986, J. Allergy Clin. Immun. 77: 101-107)は、多因子遺伝を支持した。Longoら (1987, Am. J. Dis. Child. 141,331-334)は、喘息小児の健常な親において、カルバコールに対する気道応答性の試験が応答性のニ峰性分布を示すことを認めた:喘息児を有する夫婦の85%において、片親又は両親が常染色体の優性形質と一致する正常な気道応答性を有していた。
【0037】
臓器移植後のそのような疾患の新たな発生は、遺伝的素因が特定の臓器又は生理的システムに局限されうることを示唆する。喘息を有するドナーからの骨髄移植後の喘息の新たな発生(Agosti e tal., 1998, New Eng. J. Med. 319,1623-1628)又は喘息ドナーから肺移植されたレシピエントにおける新たな喘息(Corris et al., 1993, Lancet 341,1369-1371)は、一部の炎症性疾患の発現が、各々異なる遺伝制御下での、全身的(しばしば免疫性)影響と末端臓器特異性の両方の結果であることを示唆する。
【0038】
アトピー性皮膚炎
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 20p、17q25、13q12−q14、5q31−q33 、3q21
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1603165)
ATOD1(皮膚炎、アトピー性、1)、ATOD6(皮膚炎、アトピー性、6)、ATPD5(皮膚炎、アトピー性、5)、ATOD4(皮膚炎、アトピー性、4)、ATOD3(皮膚炎、アトピー性、3)
【0039】
多くの炎症性疾患、例えばアトピー性湿疹は遺伝的に複雑であり、それらの病因に関与すると思われるいくつかの遺伝子座に多数の対立遺伝子を有する。
【0040】
先進国では、アトピー性皮膚炎の有病率は約15%と言われており、20世紀の終わりには着実に増加している(Kay et al., 1994, J. Am. Acad. Derm. 30,35-39 ; Taylor et al., 1984, Lancet 2,1255-1259)。アトピー性皮膚炎についての感受性遺伝子座を特定するために、Leeら(2000, Nature Genet. 26,470-473)は、確立された診断判定基準に基づき少なくとも2名の罹患同胞を有する199家族を調査した。ゲノム連鎖試験は、マーカーD3S3606で3q21上に連鎖についての極めて重要な証拠を明らかにした。さらに、この遺伝子座は、父性刷り込みの仮定の下でアレルギー感作の連鎖に関する重要な証拠を提供し、この領域内のアトピー遺伝子の存在をさらに裏づける。
【0041】
湿疹としても知られる、アトピー性皮膚炎(ATOD)は、一般に乳児期及び幼児期に始まり、かゆい炎症性皮膚に代表される。西欧社会では小児の10〜20%が罹患し、強い家族集積性を示す。ATODの症例の80%が、総血清IgE濃度の上昇を有する。Cooksonら(2001, Nature Genet. 27, 372-373)は、活動性ATODを有する小児を通して募集した148の核家族を検討した。上記家族は、383名の小児と213名の同胞対を含んだ;254名の小児は医師が診断したATODを有し、153名は喘息、139名は両方を有していた。ATODを有する小児は6.9±4.4歳の年齢であり、124名が男児であった。疾患発症の年齢は、小児の90%において2歳未満であった。Cooksonら(2001, Nature Genet. 27,372-373)は、小児の51.5%が中等度疾患、28.6%が重度疾患を有すると認めた。血清IgE濃度は、ATODと喘息の両方を有する小児では、喘息だけ又はATODだけを有する小児よりもはるかに高かった。彼らは、385のマイクロサテライトマーカーを使用して、染色体1q21(ATOD2;605803)及び17q25(ATOD4;605805)上にATODへの連鎖、及び20p(ATOD3参照、605804)上に喘息への連鎖を特定した。ATODと喘息の両方を有する小児への染色体20pの連鎖は、喘息だけを有する小児の連鎖と大きく異ならず、ATODと喘息の組合せは疾患の遺伝的サブタイプに対応しうることを指示した。総血清IgE濃度は染色体16q−telに連鎖した。Cooksonら(2001, Nature Genet. 27,372-373)は、彼らの結果はいくつかの遺伝子がATODに影響を及ぼすことを指示したと結論している。
【0042】
乾 癬
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 19p13、17q25、1q21、1p、6p21.3、4q31−q34、4q、3q21
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?177900)
PSORS7(乾癬感受性7)、PSORS4(乾癬感受性4)、PSORS5(乾癬感受性5)、PSORS3(乾癬感受性3)、PSORS9(乾癬感受性9)、PSORS1(乾癬感受性1)、PSORS2、PSS1(乾癬感受性2)、PSORS6(乾癬感受性6)
【0043】
いくつかの乾癬感受性遺伝子座が特定されている:6p21.3上のPSORS1、17q上のPSORS2、4q上のPSORS3、1cen−q21上のPSORS4、3q21上のPSORS5、19p上のPSORS6、1p上のPSORS7、4q31上のPSORS9。6p及び17q上の遺伝子座は十分に確立されていると思われる。追加の推定上乾癬候補遺伝子座が16q及び20p上に報告された(Nair et al., 1997,Hum. Molec. Genet. 6,1349-1356)。
【0044】
乾癬は、人口の約2%が罹患する慢性炎症性皮膚病である。通常は頭皮、肘及び膝に認められる、赤い鱗屑性皮膚斑を特徴とし、重症関節炎に結びつくことがある。この病変は、ケラチノサイトの異常増殖と炎症細胞の真皮及び表皮への浸潤によって引き起こされる。乾癬発症の通常年齢は15歳から30歳の間であるが、いかなる年齢でも存在しうる。
【0045】
「皮膚等価モデル」における試験から、Saiagら(1985, Science 230,669-672)は、乾癬における腫瘍欠陥は皮膚線維芽細胞に存しうると結論した。乾癬線維芽細胞は正常なケラチノサイトの過増殖活性を誘導しうる。しかしながら、乾癬表皮の高い増殖率は、正常線維芽細胞によって抑制することができなかった。乾癬の多因子性病因は広く確立されている。環境因子、例えば連鎖球菌感染はこの疾患の発症に影響を及ぼすが、家族試験は強い遺伝要素を指示する。双生児試験は、二卵性双生児における一致が15〜20%であるのと比較して、一卵性双生児における一致が65〜70%であることを示す(Brandrup et al., 1982, Acta. Derm. 62,229-236 ; Farber et al., 1974, Arch. Derm. 109,207-211)。家族試験は、1親等近親者に対する危険度を8〜23%と推定する。
【0046】
糖尿病、インスリン依存性糖尿病(IDDM1)
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 Xp11.23−q13.3、12q24.2、6p21.3
(http://www.ncbi.nim.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1222100)
IDDM1 インスリン依存性糖尿病−1、TCF1、HNF1A、MODY3、FOXP3、IPEX、AIID、XPID、PIDXフォークヘッドボックスP3(スクルフィン)、HLA、プロペルジンB因子、グリオキサラーゼ1、キッド血液型、HLA−DQ(β)
【0047】
IDDMと呼ばれる種類の糖尿病は、インスリン療法不在下でのケトアシドーシスに対する感受性によって特徴づけられるグルコースホメオスタシスの障害である。コーカサス人母集団の約0.3%が罹患する遺伝的に不均質な自己免疫疾患である(Todd, 1990, Immun. Today 11,122-129)。IDDMの遺伝学的試験は、この多因子性表現型に対する高い感受性に関連する遺伝子座の特定を焦点としてきた。
【0048】
IDDMは一卵性双生児において30〜50%の一致を示し、この疾患が環境因子並びに遺伝子に依存することを示唆する。同胞への平均危険度は6%である(Todd et al., 1990, Immun. Today 11,122-129)。「感受性」仮説のほかに、劣性、優性及び多因子仮説が提起されてきた(Rotter et al., 1981, Am. J. Hum. Genet. 33,835-851)。IDDMにおける遺伝的及び環境的影響がCraighead(1978, New Eng. J. Med. 299,1439-1445)によって検討された。通常、遺伝病では、疾患の最も重篤な形態は最も明瞭な遺伝的根拠を示す。それ故、IDDMの遺伝学がNIDDM(インスリン非依存性糖尿病)ほど明らかでないことが認められるのは意外である。NIDDMにおける一致は一卵性双生児に関して100%であり、そのうちの初発症例は45歳以降に糖尿病を発症し、ほぼ半数が糖尿病の親を有していたが、早期発症の対の半数では不一致が認められ、そのほとんどが糖尿病の家族暦を有していなかった(Tattersall and Pyke, 1972, LancetII, 1120-1125)。
【0049】
Clerget−Darpouxら(1981, Ann. Hum. Genet. 45,199-206)は、30の複合家族(multiplex families)におけるデータが、連鎖しないがHLAシステムと相互作用する感受性遺伝子を有するモデルに良好に適合すると結論した。IDDMについての3つの異なる遺伝学的モデルの下で、Hodgeら(1981,Lancet II, 893-895)は、2つの異なるセットのマーカー遺伝子座:6番染色体上のHLA、プロペルジンB因子及びグリオキサラーゼ−1、及びキッド血液型(当時は2番染色体上にあると思われていたが、後日18番染色体上にあることが示された)、との連鎖の証拠を認めた。それ故、2つの異なる疾患感受性遺伝子座がIDDMに関与すると考えられ、これはグレーヴズ病に関しても主張された状況である。
【0050】
IDDMは、若年発症型糖尿病と呼ばれるが、症例の50%では20歳以降に発症する。Caillat−Zucmanら(1992, J. Clin. Invest. 90, 2242-2250)は、小児患者では広く実証されている、IDDMとある種のHLA対立遺伝子の結びつきが成人についても当てはまるかどうかを検討した。興味深いことに、彼らは全く異なるHLAクラスII遺伝子プロフィールを見出し、より高齢の患者では有意に高いパーセンテージの非DR3/非DR4遺伝子型とより低いパーセンテージのDR3/4遺伝子型を認めた。非DR3/非DR4患者は臨床的にIDDMとみなされたが、彼らは、診断時により低い頻度の膵島細胞抗体(ICA)及び有意に軽度のインスリン欠損を示した。これらのデータは、(1)これらの被験者がおそらく、年齢と共に発生率が上昇するIDDM患者の特定サブセットであることを示唆し、(2)IDDMの遺伝学的不均一性を確認する。
【0051】
Toddら(1987, Nature 329,599-604)は、IDDMに対する遺伝的素因の半数以上が6番染色体上のHLAクラスII遺伝子の領域に位置づけられると推定した。糖尿病患者からのDNA配列の分析は、HLA−DQ(β)の対立遺伝子が疾患感受性と抵抗性の両方を決定することを指示した。特にβ鎖の残基57の非aspは、IDDMに対する感受性及びインスリン産生膵島細胞に対する自己免疫応答を付与する。Morelら(1988, Proc. Nat. Acad. Sci. 85,8111-8115)は、DQ−β鎖の57位にaspを担持するHLAハプロタイプは非糖尿病患者において頻度が有意に高く、一方非asp57ハプロタイプは糖尿病患者において頻度が有意に高いことを認めた。糖尿病発端者の96%は、健常な無関係対照の19.5%に比して、ホモ接合非asp−非aspであった。これは、非asp57ホモ接合個人について107の相対的危険度を表わした。
【0052】
糖尿病、II型インスリン非依存性糖尿病、成人発症型糖尿病(NIDDM)
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 20q 12−q13.1、20q12−q13.1、17q25、17cen−q21.3、13q34、13q12.1、12q24.2、11p12−p11.2、6p12、2q37.3、2q32、2q24.1
(http://www. ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1125853)
【0053】
GPD2(グリセロール−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ2、ミトコンドリア)、NEUROD1、NIDDM(神経形成分化1)、CAPN10(カルパイン−10)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、MAPK8IP1(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ8相互作用性タンパク質1)、IB1、TCF1、HNF1A、MODY3、アルブミン近位因子、IPF1(インスリンプロモーター因子1)、IRS2(インスリン受容体基質2)、TCF2、HNF2、LF−B3、GCGR(グルカゴン受容体)、HNF4A、TCF14、MODY1、NIDDM2、NIDDM3(インスリン非依存性糖尿病2及び3)、Glut 2、Glut 4
【0054】
1つ以上の遺伝子座がインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)の原因に関与することの証拠が存在する。2qに連鎖するNIDDMの1つの形態はカルパイン−10(CAPN10)をコードする遺伝子内の突然変異によって引き起こされると考えられ、染色体12q上のもう1つの形態、NIDDM2はフィンランド人母集団において見出され、そしてもう1つの遺伝子座は20番染色体上、NIDDM3に特定された。突然変異は、後期発症のNIDDMを有するフランス人家族の肝細胞核因子−4α(HNF4A)において認められた。染色体2q32上のNEUROD1遺伝子における突然変異は、2つの家族においてII型糖尿病を引き起こすことが認められた。GLUT4グルコース輸送体の突然変異は1名の患者においてNIDDMに結びつき、またGLUT2グルコース輸送体の突然変異は別の1名の患者でNIDDMに結びついた。島−脳−1(islet-brain-1)(IB1)タンパク質をコードする、MAPK8IP1遺伝子における突然変異は、4連続世代の個人においてII型糖尿病を有する家族で認められた。フランス白人家族において、Vionnetら(2000, Am. J. Hum. Genet. 67,1470-1480)は、3q27−qter上にII型糖尿病についての感受性遺伝子座の証拠を認めた。彼らは、白人においてElbeinら(1999, Diabetes 48,1175-1182)によって及びピマ・インディアンにおいてHansonら(1998, Am. J. Hum. Genet. 63,1130-1138)によって報告された1q21−q24上の糖尿病感受性遺伝子座を確認した。ミトコンドリアグリセロホスフェートデヒドロゲナーゼをコードする染色体2q24.1上のGPD2遺伝子における突然変異が、II型糖尿病を有する患者及びそのグルコース不耐性異母(異父)姉妹において認められた。Triggs-Raineら(2002, Proc. Nat. Acad. Sci. 99, 4614-4619)は、オジ・クリーにおいて、HNF1−αにおけるgly319からserへの変化がII型糖尿病についての感受性対立遺伝子として挙動すると述べた。HNF1B遺伝子内の突然変異が、典型的な後期発症II型糖尿病を有する2名の日本人患者で認められた。IRS1遺伝子内の突然変異がII型糖尿病患者で認められている。Reynisdottirら(2003, Am. J. Hum. Genet. 73,323-335)は、II型糖尿病についての感受性遺伝子座を染色体5q34−q35.2に位置づけた。
【0055】
多発性硬化症
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 1q31−q32
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=126200)
PTPRC/CD45、HLA−A3、HLA−B7、HLA−Dw2
【0056】
CD45としても知られるPTPRC遺伝子内の点突然変異は、多発性硬化症の発現に関連する。HLA−DRB1*1501−DQB1*0602ハプロタイプとの結びつきは、高危険度(北ヨーロッパ人)母集団において繰り返し示されてきた。HLA−A3、HLA−B7及びHLA−Dw2との結びつきも明らかにされている。Dw2との関連は特に強いと思われ、おそらく免疫応答機構を指示する。
【0057】
Steinman(1996, Cell 85,299-302)は、ミエリンへの免疫攻撃を原因とする、神経系に関わる最も一般的な自己免疫疾患である多発性硬化症の病因における分子機構について知られていることを総説した。米国では約250,000人がMSに罹患していると推定された。一卵性双生児の間での一致率は30%であり、二卵性双生児又は1親等近親者における割合より10倍高い。
【0058】
ミエリン鞘のタンパク質が、逆相HPLCを用いてvan Noortら(1995, Nature 375, 798-801)によって分離され、MS脳のミエリン中の特定分画はT細胞の増殖を刺激するが、健常脳から採取したミエリン中の分画はT細胞増殖を刺激しないことが発見された。彼らは、α−クリスタリンB(CRYAB)はMS病巣からのグリア細胞において発現されるが、健常個人からの白質又はMS脳からの非罹患白質では発現されないことを示した。この低分子量熱ショックタンパク質は、急性及び慢性MSを有する患者からの斑の乏突起膠細胞並びに星状細胞において見出された。進行性乏突起膠細胞喪失はMSの病因の一部である。乏突起膠細胞は、フリーラジカル、プロテアーゼ、炎症性サイトカイン及びグルタミン酸興奮毒性を含む、細胞死の様々なメディエイターの攻撃を受けやすい。MSにおけるプロ炎症性サイトカインの放出は、一部には、小グリア細胞の活性化によって仲介される。
【0059】
自己免疫性多腺性内分泌不全症候群、I型
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 21q22.3
(http://www.ncbi.nim.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1240300)
AIRE、APECED
【0060】
自己免疫性多腺性内分泌不全症候群I型は、自己免疫調節因子遺伝子(AIRE)における突然変異によって引き起こされ、3つの主要臨床症状のうちの2つの存在によって特徴づけられる:アジソン病及び/又は上皮小体機能低下症及び/又は慢性粘膜皮膚カンジダ症。
【0061】
Fozら(1970, Lancet II, 269 only)は、特発性アジソン病を有する2名の女性同胞を含む、実のいとこの両親の子である同胞群の簡単な覚書を作成した。1名は原発性上皮小体機能低下症を有し、1名は口腔カンジダ症を有していた。Ahonen(1985, Clin. Genet. 27,535-542)は、42家族の58名の患者の遺伝学的分析を提供し、常染色体劣性遺伝の確証を与えた。Cetaniら(2001, J. Clin. Endocr. Metab. 86,4747-4752)は、自己免疫性多腺性内分泌不全症候群を有するイタリア人家族を特定し、優性機序を示唆する遺伝のパターンを特定した。
【0062】
BlizzardとKyle(1963, J. Clin. Invest. 42,1653-1660)は、自己免疫の概念に関する最初の実質的な証拠を提供した。彼らは、アジソン病を有する71名の患者のうち36名において抗副腎抗体を、22名において抗甲状腺抗体を認めた。Hungら(1963, New Eng. J. Med. 269, 658-663)は、アジソン病を有する2名の同胞において循環副腎抗体を認めた。罹患同胞のうちの1名は、上皮小体機能低下症、悪性貧血及び表在性カンジダ症も有していた。
フィンランド及びエストニアで実施された試験において、Krohnら(1992, Lancet 339,770-773)は、I型自己免疫性多腺性内分泌不全症候群の一部としてアジソン病を有する患者からの血清試料をスクリーニングした。3名の患者において、副腎タンパク質に対する沈降抗体を明らかにした。彼らはこれらのタンパク質をクローニングし、その内の1つが、1つの形態の先天性副腎形成不全において欠損している又は欠陥があるステロイドホルモン、17−α−ヒドロキシラーゼであることを認めた。特発性アジソン病を有する患者も、同様にこのタンパク質に対する抗体を示した。
【0063】
クローン病−炎症性腸疾患(IBD)
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 19p13、16q12、16p、14q11−q12、12p13.2−q24.1、6p、5q31、3p26、1p36
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1266600)
【0064】
IBD7(炎症性腸疾患−7)、IBD9(炎症性腸疾患−9)、IBD5(炎症性腸疾患−5)、IBD3(炎症性腸疾患−3)、IBD2(炎症性腸疾患−2)、IBD4(炎症性腸疾患−4)、IBD8(炎症性腸疾患−8)、IBD6(炎症性腸疾患−6)、CARD15(カスパーゼ集積ドメインファミリー、成員15)、NOD2、IBD1、CD(セリアック病;HLA−DQ2/8)、ACUG、PSORAS1、ABCB1、DLG5、SLC22A4、SLC22A5。
【0065】
CARD15遺伝子内の突然変異が、16番染色体に連鎖する家族においてクローン病に対する感受性に結びつくことの証拠が存在する。ABCB1遺伝子の対立遺伝子はクローン病に対する感受性に結びつく。IBDについての他の遺伝子座は、12p13.2−q24.1上のIBD2、6p上のIBD3、14q11−q12上のIBD4、5q31上のIBD5、19p13上のIBD6、1p36上のIBD7、及びCARD15に連鎖しない16p上のIBD8を含む。10q23上に位置づけられるDLG5遺伝子内の多型は、IBDを発症する危険度に結びつく;遺伝学的相互作用試験は、DLG5遺伝子の113A変異体と危険度に関連するCARD15対立遺伝子の間の相互作用を示唆した。SLC22A4におけるミスセンス置換及びSLC22A5プロモーターにおけるGからCへのトランスバージョンによって定義されるハプロタイプは、クローン病に対する感受性に関連する。
【0066】
炎症性腸疾患は、慢性再発性腸炎症によって特徴づけられる。IBDは、クローン病と潰瘍性大腸炎表現型に細分される。クローン病と潰瘍性大腸炎は、米国において合わせて100,000人当り200〜300人の発生率を有する。クローン病は胃腸管のいずれの部分も含みうるが、最も頻繁には終末回腸及び結腸に関わる。腸炎症は経壁性で、不連続である;肉芽腫を含むことがあり、若しくは腸又は肛門周囲フィステルに結びつくことがある。これに対し、潰瘍性大腸炎では、炎症は持続的であり、直腸及び結腸粘膜層に限定される;フィステル及び肉芽腫は認められない。直腸及び結腸に限局される症例の約10%では、クローン病又は潰瘍性大腸炎の決定的な分類を行うことができず、「鑑別困難大腸炎」と称される。どちらの疾患も、皮膚、眼又は関節の腸外炎症を含む。
【0067】
クローン病及び潰瘍性大腸炎は一般に自己免疫疾患として分類される。炎症性腸疾患の発生率は、他の自己免疫疾患、特に強直性脊椎炎、乾癬、硬化性胆管炎及び多発性硬化症を有する個人において上昇する。炎症性腸疾患、特にクローン病が遺伝性であることの、双生児試験、家族危険度データ及び分離解析からの強力な証拠が存在する(Yang and Rotter, 1994, Baltimore: Williams and Wilkins, 32-64; Duerr, 1996, Inflam. Bowel Dis. 2,48-60)。クローン病及び潰瘍性大腸炎は、遺伝がいかなる単純なメンデルモデルにも従わないため、複雑な遺伝形質とみなされている。IBDは、染色体16p12−q13(IBD1)、12p13(IBD2)及び6p(IBD3)に連鎖した。
【0068】
炎症性脱髄性多発ニューロパシー−ギヤン‐バレー症候群
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
炎症性脱髄性多発ニューロパシーの一部の症例は、17番染色体上のPMP22遺伝子(末梢ミエリンタンパク質22、別名:増殖停止特異的3;GAS3)内の突然変異によって引き起こされうるという証拠が存在する。
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cqi?id=601097)
【0069】
急性(ギヤン‐バレー症候群)又は慢性形態を呈する推定上の自己免疫疾患である炎症性脱髄性多発ニューロパシーも、家族性と報告されている(Wilmsechurst et al., 1999, Europ. J. Neurol. 6,499-503)。1親等近親者における発生はまれである;(Saunders and Rake, 1965, Lancet 2,1106-1107 ; MacGregor, 1965, Lancet 2,1296 ; Davidson et al., 1992, J. Neurol. Neurosurg. Psychiat. 55,508-509)は、ある父親と息子におけるこの疾患を報告した。父親の疾病は58歳のときであった。彼は2ヶ月の入院後に完全に回復し、この入院期間中、血漿分離交換法で治療された。息子は43歳で入院した;彼も血漿分離交換法で治療され、3ヶ月で完全に回復した。Davidsonら(1992, J. Neurol. Neurosurg. Psychiat. 55,508-509)は、父親と息子における著しく類似したHLAタイピング結果に関して注釈した。ギヤン‐バレー症候群は、Campylobacter jejuni感染の既往歴に関連づけられてきた。Maら(1998, Ann. Neurol. 44,815-818)は、Campylobacter jejuniによる感染既往歴を有していた43名の日本人ギヤン‐バレー患者において、85名の地域対照(community controls)よりも高い頻度で、まれなTNFA多型(−308G−A)を認めた。
【0070】
ギヤン‐バレー症候群とCampylobacter jejuni感染既往歴の結びつきにもかかわらず、感染個人のごく少数しかこの疾患を発現せず、感受性を与える上での遺伝的因子の役割を示唆する。PandeyとVedeler(2003, Neurogenetics 4, 147-149)は、PCR−RFLPにより、ノルウェーにおいて83名の患者と196名の健常対照を免疫グロブリンKM遺伝子(κ免疫グロブリン鎖の定常領域の遺伝的マーカー)に関して遺伝子型分類した。KM3ホモ接合体の頻度は、対照と比較して患者において有意に高かった。逆に、KM1/KM3ヘテロ接合体の頻度は、対照と比較して患者では有意に低かった。この結果は、KM遺伝子がギヤン‐バレー症候群の病因に関連しうることを示唆した。
【0071】
多発性及び再発性炎症性線維性ポリープ
Anthonyら(1984, Gut 25,854-862)は、連続する3世代の各々における女性が多発性炎症性線維性ポリープを有していた、イングランド、デボン出身の1家族を報告した。祖母は11年間にわたって9個のポリープを切除された;母親は18年間に7個、そして娘は6年間に6個を切除されていた。特徴として、炎症性線維性ポリープは、多様な数の好酸球を伴うゆるく組織された血管及び線維組織から成る、胃内の孤立性腫瘍である。再発又は家族性発症はそれまで認められていなかった。従来の組織学、電子顕微鏡検査及び免疫組織学はAnthonyら(1984, Gut 25,854-862)に、病変が組織球の自己限定性増殖であることを示唆した。開始事象又は刺激は不明のままである。患者又は患者の親類のいずれもが、アレルギー、食事偏向又は胃腸感染を有していないことがわかっていた。祖母のポリープは回腸及び胃幽門洞から切除された;他の2名の患者では、ポリープは、重積症を生じていた回腸から切除された。
【0072】
血管新生炎症性硝子体網膜症
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 11q13
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1193235)
VRNI、D11S527
【0073】
常染色体優性血管新生炎症性硝子体網膜症は、色素性網膜炎、ブドウ膜炎及び増殖性糖尿病性網膜症といくつかの臨床特徴を共有する結合疾患である。特徴は、著明な眼炎症;血管脱落(vascular dropout);色素過剰の大きな斑点;及び末梢及び後網膜の新生血管形成;硝子体出血;及び網膜剥離を含む。Sheffieldら(1992, Am. J. Hum. Genet. 51 (suppl.), A35)は、11q13に位置づけられるマーカーへの密接な連鎖を確認した。1つの大きな家系図において、最も近いマーカー、D11S527との連鎖分析は、組換え型なしで6.29の最大ロッド値を明らかにした。Stoneら(1992, Hum.Molec. Genet. 1,685-689)は、この家系図において34名の罹患成員を認めたこと、疾患表現型とD11S527の間での組換え型は認めなかったこと、及び多点解析はこのマーカーを中心として11.9の最大ロッド値を生じたことを報告した。もう1つの遺伝性網膜ジストロフィーであるベスト病(VMD2)も11q13に位置づけられる。しかし、Sheffieldら(1992, Am. J. Hum. Genet. 51 (suppl.), A35)は、2つの疾患が少なくとも10cM離れていると思われると述べた。さらに、Sheffieldは、VRNIが家族性滲出性硝子体網膜症(EVR1)に対する対立形質である可能性は低いとみなした。第一に、これら2つの疾患は臨床的に異なる。例えば硝子体細胞は、VRNIにおいては存在するが、EVR1では存在しない。電気眼球図記録法で、VRNIは明白なb波異常を有するが、EVR1ではb波は正常である。第二に、EVR1はマーカーD11S527から約7cMに位置するが、VRNIとD11S527の間での組換えは認められていない。共通機能を有し、それらの近位性が共通祖先によるものである11qの近位に遺伝子のクラスター形成が存在すると考えられる。
【0074】
慢性神経性皮膚・関節症候群(CINCA症候群)
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 1q44
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1607115)
CIAS1、C1orf7、FCU、FCAS
【0075】
CINCA症候群は、クリオピリン遺伝子(CIAS1)における突然変異によって引き起こされうる。慢性乳児神経性皮膚・関節(CINCA)症候群は、皮膚症状、中枢神経関与及び関節症によって特徴づけられる、早期発症の重篤な慢性炎症性疾患である(Feldmann, 2002, Am. J. Hum. Genet. 71,198-203)。Feldmannら(2002, Am. J. Hum. Genet. 71,198-203)は、CINCA症候群を有する7家族の各々の罹患成員においてCIAS1遺伝子のエクソン3内のヘテロ接合ミスセンス突然変異を特定した。
【0076】
Leoneら(2003, Europ. J. Pediat. 162, 669-673)によって検討されたCINCA症候群を有する3名の患者のうちで、1名だけがCIAS1遺伝子のエクソン3内の突然変異を有していた。Aksentijevichら(2002, Arthritis Rheum. 46,3340-3348)は、CINCA症候群を有する13名の患者のうち6名においてCIAS1遺伝子のエクソン3内のヘテロ接合ミスセンス突然変異を特定した。他の7名の患者ではCIAS1遺伝子内の突然変異は認められず、遺伝的不均一性を示唆した。Aksentijevichら(2002, Arthritis Rheum. 46,3340-3348)は、CIAS1内の突然変異を有する又は有していない患者の臨床特徴に識別可能な相違を認めなかった。
【0077】
遺伝性炎症性血管炎
この状態は、Reedら(1972, Brit. J. Derm. 87,299-307)により、1家族の3世代において記述された。病変は2種類であった:1)腕、脚及び臀部に多数の小から中サイズの結節及び2)骨隆起上に、リウマチ結節に類似した多数のより大きく堅い結節。病変は出産時から又は生後早期から存在した。日光への暴露は病変を悪化させたが、クロロキンは病変を完全に抑制した。組織学検査は、脂肪の深部に及ぶ、壊死を伴わないリンパ球性血管炎を示した。エリテマトーデス(LE)との関係が主張された。「慢性関節リウマチ」及び円板状LEが上記家族において存在した。男性から男性への伝播は認めなかった。
【0078】
家族性再発性関節炎
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 15q24−q26.1、15q24−q25.1
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=604416)
PSTIP1
【0079】
この疾患は、PSTPIP1遺伝子内の突然変異によって引き起こされる。Yeonら(2000, Am. J. Hum. Genet. 66,1443-1448)は、染色体15q上にPAPAS遺伝子を位置づけるために連鎖地図作製を使用した(最大2点ロッド値5.83、D15S206での組換え分画=0)。完全浸透度の仮定の下で、組換え事象のハプロタイプ分析は、D15S1023とD15S979の間で10cMの疾患間隔を定義した。彼らは、この遺伝子が、それぞれ15q26.1及び15q24に位置づけられるIL16遺伝子及びCRABP1遺伝子(誤ってCRABP2遺伝子と称されている)と同じ領域内であることを示した。Lindorら(1997, Mayo Clin. Proc. 72,611-615)は、化膿性関節炎、壊疽性膿皮症及び重症膿腫性アクネ(acne)によって特徴付けられる常染色体優性疾患の伝播を有する多世代家族を記述した。10名の罹患家族成員は、小児期に始まる少関節型、非軸性、破壊性、コルチコステロイド応答性関節炎;壊疽性膿皮症;及び青年期とそれ以降の重症膿腫性アクネ(acne)の多様な発現を示した。他の一般的により関連性の低い特徴は、成人発症インスリン依存性糖尿病、タンパク尿、非経口的注射部位における膿瘍形成、及びスルホンアミド薬剤に帰せられる血球減少を含む。
【0080】
周期熱、家族性、常染色体優性
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
TNFRSF1A
【0081】
染色体優性家族性周期熱は、腫瘍壊死因子受容体−1遺伝子(TNFRSF1A)における突然変異によって引き起こされる。McDermottら(1999, Cell 97,1-20)は、連鎖試験によって候補遺伝子として特定されていた、TNFRSF1A遺伝子内の生殖細胞系突然変異を特定した。検討した家族は、Mulleyら(1998, Am. J. Hum. Genet. 62,884-889)及びMcDermottら(1998, Am. J. Hum. Genet. 62,1446-1451)によって報告された家族、Karenkoら(1992, J.Int. Med. 232,365-369)によって報告されたフィンランド人家族、及びアイルランド人/イギリス人/ドイツ人、アイルランド人及びフランス系カナダ人祖先の3つの小さな北米人家族を含んだ。Toroら(2000, Arch. Derm. 136,1487-1494)は、彼らが「腫瘍壊死因子受容体関連周期性症候群」(TRAPS)と称した、臨床的及び分子学的に診断されたFPFを有する25名の患者の皮膚特徴を記述した。21名の患者(84%)が皮膚症状発現を有していた。移動性の斑紋及び斑が最も一般的な所見であった。加えて、10名の患者(40%)は、紅斑性水腫状プラークを示した。病変は通常発熱エピソードの間に発生し、四肢で最も一般的に見られ、しばしば筋痛に結びつき、4〜21日間続いた。10名の患者から病変皮膚の生検を得た。組織学的所見は非特異的であり、浸潤性Tリンパ球及び単球から成り、ウイルス性発疹又は血清病様反応と区別することができなかった。
【0082】
家族性寒冷自己炎症性症候群;FCAS
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 1q44
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=120100)
CIAS1
【0083】
この表現型は、CIAS1遺伝子内の突然変異によって生じる。家族性寒冷自己炎症性症候群を有する3つの無関係な家族において、Hoffmanら(2001, Nature Genet. 29: 301-305)は、CIAS1遺伝子のエクソン3における3つのミスセンス突然変異を認めた。マックル‐ウェルズ症候群を有する1家族で、Hoffmanら(2001, Nature Genet. 29: 301-305)はCIAS1遺伝子内の突然変異を認め、これら2つの症候群が実際に対立形質であることを明らかにした。家族性寒冷蕁麻疹(FCU)は、KileとRusk(1940, J. A. M. A. 114: 1067-1068)によって最初に記述された。低温にさらされた後、患者は膨疹、疼痛及び関節の腫脹、悪寒及び発熱を発現する。
【0084】
マックル‐ウェルズ症候群
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 1q44
(http://www.ncbi.nim.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=191900)
CIAS1
【0085】
この疾患の表現型はCIAS1遺伝子内の突然変異によって生じる。マックル‐ウェルズ症候群を有する1家族において、Hoffmanら(2001, Nature Genet. 29,301-305)は、CIAS1遺伝子における突然変異を認めた。Hoffmanら(2001, Nature Genet. 29,301-305)はまた、家族性寒冷自己炎症性症候群を引き起こすCIAS1遺伝子内の突然変異も認め、これら2つの疾患が対立形質であることを明らかにした。
【0086】
MuckleとWells(1962, Quart. J. Med. 31,235-248)は、蕁麻疹、進行性感音難聴及びアミロイドーシスが優性遺伝症候群において結合している1家族を記述した。5世代が罹患していた。2名の患者における生検は、コルティ器官の不在、蝸牛神経の萎縮、及び腎臓のアミロイド浸潤を示した。アミロイドーシスは低温感受性による蕁麻疹合併症である。Black(1969, Ann. Intern. Med. 70,989-994)は、1家族の3世代における罹患個人を記述し、肢痛を特徴として強調した。Gerbigら(1998, Quart. J. Med. 91,489-492)は、MuckleとWells(1962, Quart. J. Med. 31,235-248)によるDerbyshire家族の9成員での蕁麻疹−難聴−アミロイドーシス症候群の記述以後、約100症例のこの症候群が報告されていると述べた。
【0087】
強直性脊椎炎、ベヒテレフ症候群
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 6p21.3、6p21.3
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1106300)
AS、ANS(強直性脊椎炎)、HLA−B(主要組織適合性遺伝子複合体クラスI、B)
【0088】
HLA−B27対立遺伝子が強直性脊椎炎に対する感受性に結びつくことの証拠が存在する。Kartenら(1962, Arthritis Rheum. 5,131-143)は家族集積性を明らかにした。慢性関節リウマチ及びリウマチ因子に関する試験陽性は、脊椎炎患者の血族において対照よりも頻度が高いということはなく、慢性関節リウマチと強直性脊椎炎が異なる実体であることを示唆した。De Blecourtら(1961, Ann. Rheum. Dis. 20,215-220)は、脊椎炎患者の血族では対照の血族における場合よりも22.6倍高い頻度で脊椎炎を認めた。彼らは、女性よりも男性においてより高い浸透度を有する常染色体優性遺伝を示唆した。O’Connellら(1959, Ann. Intern. Med. 50,1115-1121)は同じ結論に到達した。発端者が女性であるとき家族性発生率はより高かった。KornstadとKornstad(1960, Acta Rheum. Scand. 6, 59-64)は、女性だけが罹患した2家族を記述した。しかしながら、EmeryとLawrence(1967, J. Med. Genet. 4,239-244)は、多因子性遺伝を指示すると解釈したデータを提示した。連鎖データが、KornstadとKornstad(1960, Acta Rheum. Scand. 6,59-64)によって及びより早期にRieckerら(1950, Ann. Intern. Med. 33,1254-1273)によって公表された。Schlossteinら(1973, New Eng. J. Med. 288,704-706)は、強直性脊椎炎の40症例のうち35例(87.5%)において及び正常対照の8%においてのみ、HLA特異性w27を認めた。これらのHLA所見は、遺伝の完全な環(the genetics full-circle)という考えをもたらした。低い浸透度を有する常染色体優性遺伝は確立されていると思われた。
【0089】
エリテマト−デス、全身性、SLE
この状態の遺伝に関与する遺伝子地図座位:
遺伝子地図座位 1q41−q42、1q23、1q23、12q24、11q14、4p16−p15.2、2q37.3
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/getmap.cgi?1152700)
【0090】
FCGR3A、FCGR2A、CD16、IGFR3、TNFSF6、APT1LG1、FAS、FASL、SLEB1(全身性エリテマトーデス、1に対する感受性)、SLE1、PDCD1(プログラムされた細胞死1)、SLEB2(全身性エリテマトーデス、2に対する感受性)、SLEB3(全身性エリテマトーデス、3に対する感受性)、SLEH1(溶血正貧血を伴う全身性エリテマトーデス、1に対する感受性)、SLEB4(全身性エリテマトーデス、4に対する感受性)、SLEV1、SLEN1、SLEN2、SLEN3、DNアーゼ1
【0091】
多数の遺伝子がヒトSLEに対する感受性に影響を及ぼすことの証拠が存在する。それらは、1q23上の免疫グロブリンG Fc受容体II(FCGR2A)をコードする遺伝子を含む。1q41への連鎖はアフリカ系アメリカ人家族において(SLEB1)及び4pへの連鎖はヨーロッパ系アメリカ人家族において(SLEB3)特定された。もう1つの遺伝子座は染色体2qに位置づけられた(SLEB2);PDCD1遺伝子における一塩基多型がこの形態に対する感受性の根拠として特定された。白斑に関連するSLEへの感受性についての遺伝子座は17p13に位置づけられた(SLEV1)。初期又は顕著な臨床症状として溶血性貧血を伴うSLEに対する感受性は11q14への連鎖を示す(SLEH1)。腎炎に関連するSLEに対する感受性は、染色体10q22.3(SLEN1)、2q34−q35(SLEN2)及び11p15.6(SLEN3)に連鎖した。SLEの発現とDNアーゼ1の低活性の間には直接の結びつきがあると思われる。
【0092】
発症時は急性又は潜伏性の、結合組織の慢性、弛張性、再発性、炎症性及びしばしば有熱性の多発全身性疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)は、主として皮膚、関節、腎臓及び漿膜の関与によって特徴づけられる。エリテマトーデスは自己免疫系の調節機構の不全であると思われる。
【0093】
SLEの病因は多因子性であり、多遺伝子性である。アポトーシス遺伝子FAS及びFASLは、これらの遺伝子内の突然変異がこの疾患のいくつかのマウスモデルにおいて自己免疫を生じさせるので、ヒトSLEにおける候補寄与遺伝子である。ヒトでは、FAS突然変異は家族性自己免疫性リンパ球増殖症候群を生じさせる。Wuら(1996, J. Clin. invest. 98, 1107-1113)は、FASLの細胞外ドメインの潜在的突然変異に関するSSCP分析を用いて、SLEを有する75名の患者からのDNAを検討した。リンパ腫症を示した1名のSLE患者において、彼らは、予測上28アミノ酸のインフレーム欠失をもたらす、FASL遺伝子のエクソン4内の84bp欠失を認めた。
【0094】
皮膚疾患
特定実施形態では、治療する又は予防する疾患は皮膚疾患である。上記で言及した遺伝状態は皮膚を冒すことがある。薬剤又は医薬組成物は局所的に投与しうる。特定実施形態では、薬剤又は医薬組成物を個人の皮膚に局所的に投与しうる。治療する又は予防する疾患が皮膚疾患であるとき、及び/又は遺伝状態が皮膚を冒すとき、以下の実施形態に従って薬剤を投与しうる。
【0095】
投与する薬剤は、
(i)HDAC阻害剤、2−PPA及び製薬上許容されるその塩、2−PPAの誘導体及び製薬上許容されるその塩から成る群より選択される、少なくとも約0.1%の活性物質;及び
(ii)皮膚科学的に許容される担体
を含有する、皮膚疾患の予防又は治療のための局所医薬組成物でありうる。
【0096】
本明細書では、「局所投与」という用語は、本発明の組成物を皮膚の表面に適用する又は塗布することを意味する。本明細書では、「皮膚科学的に許容される」という用語は、そのように表わされる組成物又はその成分が、不当な毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応等を伴わずにヒトの皮膚と接触して使用するのに適することを意味する。
【0097】
別段の指示がない限り、本明細書中で示すパーセンテージ値は重量%(w/w)である。局所使用のための組成物は、好ましくは約0.1%〜約25%、より好ましくは約0.1%〜約6%、さらに一層好ましくは約0.3%〜約5%、なお一層好ましくは約0.5%〜約4%、さらに一層好ましくは約1%〜約4%、最も好ましくは約2%〜約4%の活性物質を含有する。
【0098】
2−PPAは、病変約1cm2当り(qcm)0.5mg(ミリグラム)〜10mg(ミリグラム)の累積総1日用量で1日1回から3回、局所適用しうる。より好ましい実施形態では、2−PPAを病変約1cm2当り(qcm)1mg(ミリグラム)〜8mg(ミリグラム)の累積総1日用量で1日1回から3回局所適用で使用する。さらに一層好ましい実施形態では、2−PPAを病変約1cm2当り(qcm)2mg(ミリグラム)〜6mg(ミリグラム)の累積総1日用量で1日1回から3回局所適用で使用する。実際の1日用量は治療する病変の大きさに依存し、従って病変の大きさが大きいほど上昇し、約100cm2(qcm)までの病変サイズとそれに応じた1日用量の上昇を含む。
【0099】
局所使用のための組成物は、通常、上記活性物質並びに他の任意の活性物質が適切な濃度で皮膚に送達されることを可能にするために組成物がその中に組み込まれる、約1%〜約99.9%の皮膚科学的に許容される担体を含有する。好ましい実施形態では、局所使用のための組成物は、25℃及び大気圧の下で半固体である。この実施形態によれば、組成物の製品形態は、クリーム、軟膏、ゲル又はペーストでありうる。組成物の製品形態は液体分散、例えばローションでもよい。
【0100】
本発明のもう1つの態様では、上記組成物は、レチノイン酸又はその誘導体をさらに含む。組成物中のレチノイン酸又は誘導体の濃度は、好ましくは組成物の約0.01%〜約1%、より好ましくは約0.05%〜約0.5%である。レチノイドは、好ましくは9−シスレチノイン酸、トランス−レチノイン酸、全トランス−レチノイン酸及びタザロテンから成る群より選択される。
【0101】
本発明のさらにもう1つの態様では、上記組成物は化学療法剤、例えば5−フルオロウラシルをさらに含む。化学療法剤の濃度は、好ましくは組成物の約0.1%〜約10%、より好ましくは約1%〜約10%である。
【0102】
好ましい実施形態では、上記担体は溶液ではない。もう1つの好ましい実施形態では、担体はクリーム、ペースト、軟膏、ローション又はゲルである。
【0103】
本発明のもう1つの態様は、少なくとも約0.1%の2−PPA又はその誘導体を含有する薬剤をその必要のある個人の皮膚に局所適用する、皮膚疾患の予防又は治療のための薬剤を製造するための、HDAC阻害剤、例えば2−PPA、製薬上許容されるその塩、2−PPAの誘導体又は製薬上許容されるその塩の使用である。
【0104】
上記皮膚疾患は、好ましくは、タンパク質の過剰アセチル化の誘導が患者にとって有益な治療効果を有するヒト皮膚の疾患である。この皮膚疾患は、皮膚腫瘍、例えば基底細胞癌、扁平上皮癌、角化棘細胞腫、ボーエン病及び皮膚T細胞リンパ腫であり得る。皮膚疾患は、前新生物性皮膚疾患、例えば光線性角化症でありうる。他の実施形態では、2−PPA又はその誘導体は、皮膚及び/又は粘膜の炎症の治療のために使用しうる。皮膚及び/又は粘膜の炎症の非制限的な例は、乾癬、魚鱗癬及びアクネ(acne)である。
【0105】
本発明に従った2−PPA又はその誘導体の投与は、確立された抗癌療法と併用しうる。2−PPA又はその誘導体及び確立された癌療法を同時に又は順次に(異なる時点で)適用しうる。さらなる任意の活性物質を本発明に従った治療において使用しうる。2−PPA又はその誘導体及びさらなる活性物質を同時に又は順次に(異なる時点で)投与しうる。さらなる活性物質は、例えばNVP−LAQ824(Novartis)、トリコスタチンA、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(Aton)、CBHA(ATON)、ピロキサミド(Aton)、スクリプタイド(Johns Hopkins)、CI−994(Pfizer)、CG−1521(CircaGen)、クラミドシン(Janssen)、ビアリールヒドロキサメート、例えばA−161906(Abbott)、二環式アリール−N−ヒドロキシカルボキサミド(関西大学)、PXD−101(Prolifix)、スルホンアミドヒドロキサム酸(MethylGene)、TPX−HA類似体(CHAP)(Japan Energy)、オキサムフラチン、トラポキシン、デプデシン、アピジシン(Kyongji)、ベンズアミド、例えばMS−27−275(三井)、ピロキサミド及びその誘導体、短鎖脂肪酸、例えば酪酸及びその誘導体、例えばピバネックス(ピバロイルオキシメチルブチレート)、環状テトラペプチド、例えばトラポキシンA、デプシペプチド(FK−228;藤沢/NCI)及び関連ペプチド性化合物、タセジナリン(Pfizer)、MG2856(MethylGene)、及びHDACクラスIII阻害剤又はSIRT阻害剤(Kelly, O'Connor and Marks, 2002 ; Expert Opin. Investig. Drugs 11(12), 1695-1713参照)を含むが、これらに限定されない、2−PPAとは異なるヒストンデアセチラーゼの阻害剤を包含する。
2−PPA又はその誘導体の投与は、化学療法剤又は細胞傷害性薬剤(例えば5−FU)の投与/適用、分化誘導薬(例えばビタミンD、ビタミンD誘導体、レチノイド、受容体結合剤、例えばイミキモド)、放射線療法(例えばX線又はγ線)、免疫学的アプローチ(抗体療法、ワクチン接種)、免疫治療/細胞傷害併用アプローチ(例えば細胞傷害性成分と複合した抗体)、抗血管新生アプローチ等と組み合わせうる。
【0106】
さらなる実施形態では、2−PPA又はその誘導体は、2−PPA単独の局所適用により、皮膚腫瘍;基底細胞癌;扁平上皮癌;角化棘細胞腫;ボーエン病;皮膚T細胞リンパ腫;光線性角化症;乾癬;魚鱗癬;アクネ;他の炎症性皮膚疾患を含む、新生物性及び非新生物性皮膚疾患において経口適用されるレチノイドの活性を増強する。
【0107】
処 方
局所製剤は、上記活性物質並びに他の任意の活性物質が適切な濃度で皮膚に送達されることを可能にするために本発明の組成物がその中に組み込まれる、約1%〜約99.9%の皮膚科学的に許容される担体を含有しうる。
【0108】
上記担体は、1又はそれ以上の皮膚科学的に許容される固体、半固体又は液体充填剤、希釈剤、溶媒、増量剤等を含みうる。担体は固体、半固体又は液体でありうる。好ましい担体は実質的に半固体である。担体は、それ自体不活性でありうるか、又はそれ自体の皮膚科学的利点を有しうる。担体の濃度は、選択する担体及び活性物質と任意成分の意図する濃度によって異なりうる。
【0109】
適切な担体は、皮膚科学的に許容される従来の又は公知の担体を包含する。担体はまた、本明細書中で述べる必須成分と物理的及び化学的に適合性であるべきであり、本発明の組成物に関連する安定性、効果又は他の使用上の利益を不当に損なうべきではない。本発明の組成物の好ましい成分は、通常の使用状況下で組成物の効果を実質的に低下させる相互作用が存在しないように混合できるべきである。
【0110】
もう1つの実施形態では、治療する又は予防する疾患は皮膚疾患ではない。さらなる実施形態では、上記で言及した遺伝状態は皮膚に影響しない。さらなる実施形態では、薬剤又は医薬組成物を局所的に投与しない。特定実施形態では、薬剤又は医薬組成物を皮膚に局所投与しない。他の投与経路をここで述べる。例えばヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含有する薬剤は、全身的、経口的又は静脈内経路で投与しうる。
【0111】
HDAC酵素の阻害剤
本発明はまた、上記で列挙した状態の治療のためのさらなるヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用に関し、NVP−LAQ824、トリコスタチンA(TSA)、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、CBHA、スクリプタイド、CI−994、CG−1521、クラミドシン、ビアリールヒドロキサメート、例えばA−161906、二環式アリール−N−ヒドロキシカルボキサミド、PXD−101、スルホンアミドヒドロキサム酸、TPX−HA類似体(CHAP)、オキサムフラチン、トラポキシン、デプデシン、HDAC阻害活性を示す微生物代謝産物、アピジシ、例えばMS−27−27を含むがこれに限定されないベンズアミド、ピロキサミド及びその誘導体、例えば酪酸及びその誘導体を含むがこれらに限定されない短鎖脂肪酸、例えばピバネックス(ピバロイルオキシメチルブチレート)、例えばトラポキシンAを含むがこれに限定されない環状テトラペプチド、デプシペプチド(FK−228)及び関連ペプチド性化合物、タセジナリン、MG2856、及びHDACクラスIII阻害剤又はSIRT阻害剤、又はHDACイソ酵素阻害特異性を示す化合物、又は出願人が最近のドイツ特許出願(第102 33 412.9号)及び米国特許出願(第10/624,571号)において提供する化合物を含むが、これらに限定されない。これらの化合物の式は以下の通りである:
【表2】

【0112】
式I:
【化2】

[式中、R1及びR2は、独立して、場合により1又はいくつかのヘテロ原子を含み、置換されていてもよい、線状又は分枝、飽和又は不飽和、脂肪族C3-25炭化水素鎖であり、R3は、ヒドロキシル、ハロゲン、アルコキシ又は場合によりアルキル化されたアミノ基である]
の化合物を含むがこれらに限定されない、2PPAの誘導体も本発明に包含される。
【0113】
異なるR1及びR2残基はキラル化合物を生じる。通常、立体異性体の1つはその他よりも強い催奇形性作用を有し、催奇形性の強い異性体ほどより効率的にPPARδを活性化する。それ故、この異性体はHDACをより強力に阻害すると予想することができる(国際公開広報第WO02/07722 A2号)。本発明は、それぞれの化合物のラセミ混合物、特により活性な異性体を包含する。
【0114】
炭化水素鎖R1及びR2は、炭化水素鎖中の炭素原子を置換する1又はいくつかのヘテロ原子(例えばO、N、S)を含みうる。これは、ヘテロ原子が対応する炭素基と同じタイプの混成を有するとき、ヘテロ原子基によって炭素基の構造と非常に類似した構造がとられることがあるという事実による。
【0115】
1及びR2は置換されていてもよい。可能な置換基は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル及びアルコキシ基並びにアリール及びヘテロ環式基を含む。
【0116】
好ましくは、R1及びR2は、独立して、3〜10個、4〜10個又は5〜10個の炭素原子を含む。R1及びR2が、独立して、飽和されているか又は1つの二重結合又は1つの三重結合を含むことも好ましい。特に、側鎖の1つ(R1)は、好ましくは2及び3位にsp1混成炭素原子又は同様の構造を生じるヘテロ原子を含みうる。この側鎖は3個の炭素又はヘテロ原子を含むべきであるが、より長い鎖もHDAC阻害性分子を生じうる。また、R2内に芳香環又はヘテロ原子を含むことは、HDACタンパク質の触媒部位が見かけ上広範囲の結合分子に適応するので、HDAC阻害活性を有する化合物を生じると考えられる。催奇形性VPA誘導体がHDAC阻害剤であるという所見により、これまで適切な抗てんかん薬としては無視されてきた化合物もHDAC阻害剤とみなされる(国際公開広報第第WO02/07722 A2号)。特に、排他的ではないが、プロピニル残基をR1として及び7又はそれ以上の炭素の残基をR2として有する化合物が考慮される(Lampen et al., 1999)。
【0117】
好ましくは、「COR3」基はカルボキシル基である。潜在的HDAC阻害活性を有する化合物を生成するために、カルボキシル基の誘導体化も考慮しなければならない。そのような誘導体は、ハロゲン化物(例えば塩化物)、エステル又はアミドでありうる。R3がアルコキシであるとき、そのアルコキシ基は1〜25個、好ましくは1〜10個の炭素原子を含む。R3がモノ又はジアルキル化アミノ基であるとき、そのアルキル置換基は1〜25個、好ましくは1〜10個の炭素原子を含む。
【0118】
1つの実施形態では、R1及びR2は、独立して、場合により1つの二重又は三重結合を含む線状又は分枝C3-25炭化水素鎖である。この実施形態の好ましい例は、4−イン−2PPA又は製薬上許容されるその塩である。
【0119】
一般に、本発明は様々なヒト疾患を治療する新しい可能性を提供する。出願人は、式Iの化合物のHDAC阻害及び細胞分化誘導活性が単独で又は十分に確立され、医学的治療のために臨床的に使用される治療薬との組合せで成功裏に使用できることを発見した。組合せ治療は、単独で使用される対応治療薬よりも、患者においてより卓越した治療的成功を収めると考えられる。
【0120】
本発明の態様は、本発明において列挙するHDAC阻害剤と、例えば
−化学療法剤又は細胞傷害性薬剤(例えば5−FU)
−分化誘導薬(例えばビタミンD、ビタミンD誘導体、レチノイド、受容体結合剤、例えばイミキモド)
−放射線療法(例えばX線又はγ線)
−免疫学的アプローチ(抗体療法、ワクチン接種)
−免疫治療/細胞傷害併用アプローチ(例えば細胞傷害性成分と複合した抗体)
−抗血管新生アプローチ
−その他(代謝性薬剤、キナーゼ阻害剤、ホルモン療法、ホスファターゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤)
−抗炎症薬
などの、但しこれらに限定されない、現在臨床使用されている又は臨床開発中の治療成分との組合せを包含する。
【0121】
用 量
個々の患者についての詳細な用量レベルは、患者の年齢、体重、全般的健康状態、性別、食事、及び過去の投薬、及び個々の疾患の重症度、及び使用する特定化合物の活性、投与の時間、排出速度、治療期間、組み合わせて使用される他の薬剤、化合物及び/又は物質を含む様々な因子に依存して使用されうる。活性化合物及び活性化合物を含有する組成物の適切な用量は患者ごとに異なりうることは認識される。最適用量を決定することは、一般に、本発明の基礎となる状態の治療の危険又は有害副作用に対する治療的恩恵のレベルのバランスをとることを含む。
【0122】
インビボでの投与は、1回用量で、治療の期間全体を通じて継続的に又は間欠的に実施しうる。投与の最も有効な手段及び用量を決定する方法は当業者に周知であり、治療のために使用する製剤、治療の目的、治療する標的細胞、及び治療する被験者によって異なる。治療する医師によって選択される用量レベル及びパターンで、単回又は多回投与を実施することができる。
(実施例)
【実施例1】
【0123】
個人の素因状態において遺伝されることがしばしば認められる遺伝子座の突然変異又は多型を保有する細胞への2PPAによる阻害作用に関するデータ。
【0124】
2−プロピルペンタン酸による治療後の生細胞の喪失(MTT試験)。
【0125】
試験方法:
(細胞系及び細胞培養)
図1に、個人に疾患を発症する素因を与える状態を遺伝的に確立する決定的遺伝子の証明された突然変異を有する細胞系を列記する。細胞は、図1に示すそれぞれの培地で増殖させた。
【0126】
表1に列記する細胞系を通常増殖培地において1×104細胞/穴の密度で96穴プレートに接種した。2−プロピルペンタン酸を0.5−3mMの最終濃度で3つの試料に添加し、細胞を40〜70時間インキュベートした。対照細胞は2−プロピルペンタン酸の不在下で増殖させた。PBS中10mg/mlの3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)(Sigma, Deisenhofen, Germany)10μlを各々の穴に加え、細胞をさらに3時間インキュベートした。溶解緩衝液(50%ジメチルホルムアミド中20%SDS、pH4.7)90μlを添加して細胞を溶解した。ホルマザン生成物の可溶化後、マイクロプレートリーダー(Dynatech, Denkendorf,Germany)において590nmでの吸光度を測定し、2−プロピルペンタン酸を添加せずに増殖させた細胞と比較して生細胞の相対量を決定した。
【0127】
試験結果:
試験したすべての細胞系において、2−プロピルペンタン酸による処置は細胞生存能の20−80%の阻害を生じさせた。これらの結果は、2−プロピルペンタン酸が、キャリアに疾患表現型を発現する素因を与える決定的遺伝子の遺伝的に受け継がれた突然変異に連鎖する遺伝素因状態を示す、多様な細胞系の数及び/又は生存能を強力に低下させることを明らかにする。生存能の喪失は、細胞死の誘導及び/又は細胞周期停止に結びつく細胞分化の誘導後の細胞数の減少を指示しうる。この分化及び/又は細胞死の誘導は、2−プロピルペンタン酸及びその誘導体がそのような遺伝素因状態の治療のために使用できることを示唆する。
【実施例2】
【0128】
生殖細胞系APCmin突然変異を保有するマウスの2−プロピルペンタン酸による治療は結腸直腸腺腫の数の減少を導く。
【0129】
試験方法:
(動物実験)
10〜16週齢の性別がマッチするヘテロ接合C57BL/6J−APCminマウス(Jackson Laboratories, Bar Harbor, Maine)を未処置のまま放置するか若しくは2−PPA又はセレコキシブで処置した。対照動物にはPBSを注射(i.p.)した。2−PPAは、ナトリウム塩の等張水溶液として(2×400mg/kg/日)4週間注射し、一方セレコキシブは、1250ppm(0.12%)で4週間、動物に自由に摂取させた。剖検時に腸管全体を縦断切開し、10%リン酸緩衝ホルムアルデヒド中に24時間固定した。0.1%メチレンブルー中で1分間の染色を実施してポリープの対比を上昇させた後、マウスが受けた処置を知らない2名の独立した観察者により、解剖顕微鏡下でポリープの数と大きさを測定した。
【0130】
試験結果:
転写抑制機構の機能不全との遺伝子連鎖が固形腫瘍において確立できた:結腸腺腫症(APC)腫瘍サプレッサーの喪失及びWnt/β−カテニン経路を通してシグナル伝達の上昇はHDAC−2発現を誘導する。HDAC−2発現の上昇は、他方で、ヒト結腸癌外植片の大部分及びAPCminマウスの腸粘膜及びポリープにおいて認められる。HDAC−2は、結腸癌細胞のアポトーシスを防ぐために必要であり、それだけで十分である。2−PPAによるHDAC−2活性への干渉はAPCminマウスにおける腺腫形成を低下させ、HDAC−2が腫瘍治療における特に適切な潜在的標的であることを指し示す。
図2Aに示すように、4週間にわたる2−PPA並びにセレコキシブによるAPCminマウスの治療は、小腸内の腺腫の数を明らかに減少させる。
ヒトにおける一次腺腫負荷が主として結腸に位置する場合でも、セレコキシブは、家族性大腸腺腫症(FAP)に罹患している患者における結腸直腸ポリープの治療に効果を示した。これは、APCminマウスモデルを用いて得られた結果がヒトにおけるFAPの治療についての指標でもあることを裏付ける。あわせて考慮すると、これらの結果は、2−PPAが、FAP患者において結腸直腸ポリープの形成を抑制するための非常に有効な治療薬として使用しうることを明らかに示唆する。
COX−2阻害剤としてのセレコキシブは、腸出血などの重篤な副作用を有することが記述されている。図2Bに見られるように、セレコキシブで処置した本発明者らのAPCminマウスは、大きく膨張した胃、小腸及び結腸を示した。他方で、2−PPAで処置したマウスは胃腸管に異常を示さなかった。要約すると、2−PPAは、遺伝性慢性疾患FAPの治療及び抑制のための非常に強力な治療薬として使用しうる。
【実施例3】
【0131】
免疫学的関連タンパク質、例えば炎症性サイトカインの発現の調節。種々のHDAC阻害剤によるヒト不死化ケラチノサイト及び末梢血リンパ球の治療は炎症性サイトカインの減少を生じさせる(図3〜7)。
【0132】
試験方法:
(ヒト不死化ケラチノサイトからの全RNAの単離)
ヒト不死化ケラチノサイト(HaCaT細胞)を250万細胞/mlの密度で75cm2フラスコに接種した。細胞を未処置のままにするか又は200nM トリコスタチンA(TSA)又は5mM 2−プロピルペンタン酸(2PPA)と共に37℃で4時間プレインキュベートし、その後リポ多糖(LPS)(100ng/ml)で刺激した。37℃で24時間後、細胞を溶解し、キアゲンからのRNeasyミニキットを用いて全RNAを単離した。
【0133】
(末梢血単核細胞の単離及び処置)
単球及びマクロファージ除去末梢血単核細胞を、同意を得た成人からフィコール−ハイパックを用いた分離によって入手した。末梢血単核細胞(PBMC)分画を洗浄し、9cmペトリ皿に接種した。37℃で2時間インキュベートして単球、マクロファージ及びB細胞の大部分を除去した後、非接着細胞を収集し、175cm2フラスコ中で2日間培養した。細胞を採集し、300万細胞/mlに調整した。500μlのアリコートを24穴平底プレートの各々の穴に移した。末梢血リンパ球(PBL)を、指示されているように様々な濃度のHDAC阻害剤で処置した。37℃で2時間のインキュベーション後、細胞をホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)/イオノマイシン(Ion)で刺激するか又は10μg/ml 抗CD3mAb(OKT3)又は2.5μg/ml 抗CD28 mAbとのT細胞受容体(TCR/CD3)複合体によって活性化した。37℃で24時間後、上清を取り出し、サイトカインアッセイのために凍結した。細胞ペレットを溶解し、キアゲンからのRNeasyミニキットを用いて全RNAを単離した。
【0134】
(RT−PCR及び半定量的PCR)
全RNA1μgを、逆転写酵素及びオリゴ−dTプライマー(インビトロジェン)を用いて標準方法によってcDNAに転写した。半定量的PCRのために、cDNA 2μlを、特異的プライマーを用いたPCRによって増幅した。PCRのためのプライマーは、MWGによって合成し、以下の通りである:
GAPDH:5’−GGTGAAGGTCGGAGTCAACG−3’(配列番号1)及び
5’−CAAAGTTGTCATGGATGACC−3’(配列番号2);
IL−2:5’−ATGTACAGGATGCAACTCCT−3’(配列番号3)及び
5’−TCAAGTTAGTGTTGAGATGA−3’(配列番号4);
IL−4:5’−ATGGGTCTCACCTCCCAACT−3’(配列番号5)及び
5’−TCAGCTCGAACACTTTGAAT−3’(配列番号6);
IL−5:5’−ATGAGGATGCTTCTGCATTTGAG−3’(配列番号7)及び
5’−TCCACTCGGTGTTCATTACACC−3’(配列番号8);
5’−ATGAACTCCTTCTCCACAAGCGCC−3’(配列番号9)及び
5’−CTACATTTGCCGAAGAGCCCTCAG−3’(配列番号10);
IL−8:5’−ATGACTTCCAAGCTGGCCGTGGC−3’(配列番号11)及び
5’−TTATGAATTCTCAGCCCTCTTC−3’(配列番号12);
IL−10:5’−TTGCCTGGTCCTCCTGACTG−3’(配列番号13)及び
5’−GATGTCTGGGTCTTGGTTCT−3’(配列番号14);
IL−12:5’−ATGTGTCACCAGCAGTTGGTCATC−3’(配列番号15)及び
5’−CTATAGTAGCGGTCCTGGGC−3’(配列番号16);
TNF−α:5’−ATGAGCACTGAAAGCATGATCCGG−3’(配列番号17)及び
5’−TCACAGGGCAATGATCCCAAAG−3’(配列番号18);
IFN−γ:5’−ATGAAATATACAAGTTATATCTTGGCTTT−3’(配列番号19)及び
5’−TTACTGGGATGCTCTTCGAC−3’(配列番号20)。
【0135】
(IL−2及びTNF−αのELISA)
ELISAを実施するために、処置及び未処置PBLを収集し、Duo Set ELISA Development System(R & Dシステムズ)を製造者が説明するように使用してIL−2並びにTNF−αを測定した。
【0136】
(ウエスタンブロット法)
プロテアーゼ阻害剤を含む溶解緩衝液中で細胞を溶解することにより、全細胞抽出物を調製した。溶解産物をSDSゲル電気泳動によって分離し、PVDF膜に移した。抗アセチル化H3抗体(Upstate、No.06−942)、抗アセチル化H4抗体(clon T25;欧州特許出願第EP 02.021984.6号)及び抗β−アクチン抗体を使用したウエスタンブロット分析によってアセチル化ヒストンH3及びH4を検出した。β−アクチン抗体を等しい負荷についての対照として使用した。
【0137】
試験結果
TSA及び他のHDAC阻害剤による細胞の処置は、ヒストン過剰アセチル化及び転写の調節を導く。それ故、本発明者らは、半定量的RT−PCR分析によってサイトカインmRNAの発現レベルへの、及びELISAによってサイトカイン分泌への、TSA及び他のHDAC阻害剤の作用を検討した。
【0138】
ヒト不死化ケラチノサイト(HaCaT)をそれぞれTSA又は2PPAの不在下又は存在下で24時間培養した。HDAC阻害剤と共に4時間プレインキュベートした後、LPSを使用してサイトカイン産生を誘導した。サイトカインmRNA発現のレベルを半定量的RT−PCRによって示す(図3)。RT−PCR産物のアガロースゲル電気泳動は、未処置であるが刺激した対照と比較して、TSA又は2PPA処置細胞におけるTNF−α及びIL−6 mRNAレベルの有意の低下を示した(図3A)。これらの条件下で、内部対照としてのGAPDH mRNAは影響を受けないままであった。LPS刺激によるIFN−γの誘導は中等度にすぎず、IFN−γのmRNA転写産物はTSAへの暴露によって実質的に影響されなかったが、2PPAによって有意に低下した。
【0139】
末梢血リンパ球(PBL)を用いて同様の結果を得た(図3B)。単離PBLをTSA及び2PPAと共に2時間プレインキュベートした後、37℃で24時間、PMA/Ionで刺激した。図3Bは、IL−4及びIL−6 mRNA転写産物へのTSA及び2PPAの作用を示す。TSA並びに2PPAはPMA/Ionを介したIL−4の刺激を有意に低下させた。TSA処置後はIL−6 mRNAへの中等度の作用が認められただけであったが、2PPAはIL−6 mRNAを非刺激試料で認められたレベルまで低下させた。さらに、図4A及びBは、他のHDAC阻害剤、例えばスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、G2M−701、G2M−702及びG2M−707がサイトカイン発現を調節できることを示す。
【0140】
図4に示すように、様々なHDAC阻害剤がIL−4及びIL−6 mRNA転写産物の発現を低下させたが、GAPDH mRNA発現は変化させなかった。これらの条件下でIL−8 mRNAは安定なままであり、PMA/Ionによる細胞活性化がこの遺伝子の発現を調節しないことを明らかにした。
比較すると、IL−2及びIFN−γ転写レベルへのHDAC阻害剤の作用は、図5に示すようにCD3及びCD28抗体を用いてT細胞受容体複合体によってT細胞を活性化したときさらに一層顕著であった。PBLをHDAC阻害剤TSA、SAHA、2PPA、G2M−701又は抗炎症性ステロイド、デキサメタゾン(Dex)と共にプレインキュベートし、2PPA及びG2M−701は2つの異なる濃度で使用した。CD3及びCD28抗体を用いてT細胞受容体複合体(TCR/CD3)によって細胞を24時間活性化した。図5A及びBに示すように、いくつかのサイトカインのmRNA転写産物は、わずかな差で、使用したすべてのHDAC阻害剤によって有意に低下した。図5Cは、等負荷についての対照としてのアセチル化ヒストンH3及びアセチル化ヒストンH4並びにβ−アクチンに対する抗体を使用したウエスタンブロット分析を示し、HDAC阻害剤によるヒストン過剰アセチル化の誘導の成功を明らかにしている。
【0141】
図6に示すように、PBL培養物からの上清中の分泌IL−2及びTNFタンパク質レベルをELISAによって分析することにより、半定量的PCRからの実験と一致する同様の結果を得ることができた。用量−反応分析を実施するために、PBLを漸増濃度の2PPA、G2M−701、G2M−702及びG2M−707で2時間処理し、その後CD3及びCD28 mAbによって37℃で24時間活性化した。上清を収集し、IL−2並びにTNF−α分泌をELISAによって定量した。2PPA、G2M−701、G2M−702及びG2M−707によるPBLの処理は、IL−2及びTNF−α分泌の用量依存的阻害をもたらした。0.5mM及び1mMの阻害剤2PPAは中等度の作用を有していただけであったが、5mMはIL−2の分泌を有意に低下させた。これは、図7に示す他の実験においてさらに一層顕著であり、1mMの2PPAが既にIL−2並びにTNF−α分泌の有意の低下を示した。IL−2及びTNF−α発現の阻害は、その他のHDAC阻害剤に関してより一層有効であり、6μMのG2M−701、3μMのG2M−702及び1μMのG2M−707で最大であった(図6)。合わせて考慮すると、これらの結果は、HDAC阻害剤、例えば2PPA、G2M−701、G2M−702及びG2M−707がヒトTリンパ球及びヒトケラチノサイトにおいてPMA/Ion(図3、4及び7)及びTCR/CD3(図5、6及び7)を介したサイトカイン発現の誘導を阻害することを明らかにした。
【0142】
それ故、HDAC阻害剤は、細胞活性化に応答したサイトカイン発現を調節する潜在的可能性を有する。HDAC阻害剤は、いくつかのサイトカイン転写産物の発現をブロックし、免疫学的に重要な炎症性サイトカイン産生を排除する。HDAC阻害剤によるサイトカイン分泌の劇的な下方調節は、治療薬としてのそれらの潜在的使用を支持する。
【実施例4】
【0143】
(患者においてHDAC阻害剤を使用した臨床治療データ)
ヒストンデアセチラーゼクラスI酵素の選択的阻害剤として働く2PPAは、患者の細胞系並びに末梢血細胞におけるヒストン過剰アセチル化を誘導する。臨床第I/II相試験の範囲内で静脈内経路の2PPAで治療された、進行した悪性疾患を示す2名の患者(患者No.1及び患者No.2)から血液試料を採取した(図8、9及び10)。
【0144】
試験方法
(ウエスタンブロット法)
2PPAで治療された患者からの末梢血細胞を、2PPA治療の開始前、開始の6時間後、24時間後及び48時間後に採取した(治療スケジュール、図8参照)。プロテアーゼ阻害剤を含むRIPA緩衝液中で細胞を溶解することにより、全細胞抽出物を調製した。溶解産物をSDSゲル電気泳動によって分離し、PVDF膜に移した。抗アセチル化H3抗体(Upstate、No.06−942)、抗アセチル化H4抗体(clon T25;欧州特許出願第EP 02.021984.6号)及び抗HDAC−2抗体(SCBT、SC−7899)を使用したウエスタンブロット分析によってアセチル化ヒストンH3及びH4及びマーカー遺伝子HDAC−2を検出した。等負荷対照としてPVDF膜をクマシーで染色した(図9)。
【0145】
(ELISA)
2PPAで治療された患者からの末梢血細胞を、2PPA治療の開始前、開始の6時間後、24時間後及び48時間後に100万細胞/mlの密度で24穴平底プレートに接種した。細胞を刺激しないままにするか又はCD3及びCD28抗体で刺激した。37℃で24時間後、上清を収集し、IL−2及びTNF−αの分泌をELISA(R&Dシステムズ)によって定量した(図10A及びB)。
【0146】
(RT−PCR)
非刺激及びCD3/CD28刺激細胞からの全RNAを、RNeasyミニキット(キアゲン)を用いて単離した。全RNA1μgを、逆転写酵素及びオリゴ−dTプライマー(インビトロジェン)を用いて標準方法によってcDNAに転換した。半定量的PCRのために、cDNA 2μlを、上述した特異的プライマーを用いたPCRによって増幅した(図10C)。
【0147】
試験結果
末梢血細胞溶解産物に関するウエスタンブロット分析(図9)は、ヒストンH3及びH4の過剰アセチル化及び治療血漿濃度を上回る血清レベルでのマーカータンパク質HDAC−2の下方調節の検出を示す。ヒストン過剰アセチル化及びHDAC−2の下方調節の誘導は2PPA治療の効果を明らかに証明しており、2PPAが、末梢血細胞におけるヒストン過剰アセチル化及び標的遺伝子HDAC−2の調節を誘導する有効治療血清濃度を達成するために患者において使用できることを明らかに示す。加えて、本発明者らは、CD3/CD28刺激細胞におけるIL−2及びTNF−α mRNA転写産物の低下と一致して(図9C)、ELISAによって検定したように(図9A及びB)培養上清において2PPAが炎症性サイトカイン、例えばIL−2及びTNF−αの発現を調節することの証拠を示す。さらに、2PPA治療の24時間目から、IL−4及びIFN−γのサイトカインmRNA発現を有意に低下させた。
【0148】
合わせて考慮すると、これらのデータは、図8に示す治療スケジュールに従ってHDAC阻害剤2PPAで治療した患者において、2PPAが免疫学的関連遺伝子、例えばIL−2、TNF−α、IL−4及びIFN−γを有効に調節できることを示す。それ故、免疫調節化合物として働く、2PPA及び他のHDAC阻害剤のこの新しい潜在的可能性は、病的過剰活性免疫細胞に関連する疾患の治療のための抗炎症薬としてこれらの化合物を使用する本発明を支持するものである。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】2−プロピルペンタン酸による治療後の生細胞の喪失(MTT試験)。 図1は、個人に疾患を発症する素因を与える状態を遺伝的に確立する決定的遺伝子の証明された突然変異を有する細胞を示す。
【図2】生殖細胞系APCmin突然変異を保有するマウスの2−プロピルペンタン酸による治療は結腸直腸腺腫の数の減少を導く。 図2は、APCminマウスモデルからの結果を示す。APCminマウスの2PPA又はセレブレックス(Celebrex)による4週間の治療は結腸直腸腺腫の数の減少を導いた。セレブレックス処置マウスは、PBS又は2PPAで処置したマウスと比較して強度に膨張した胃、小腸及び結腸を示した。
【図3】ヒトケラチノサイト及び末梢血リンパ球におけるTSA及び2PPAによる炎症性サイトカインの調節。 図3は、LPS又はPMA/Ionによる刺激後のHDAC阻害剤による免疫学的関連遺伝子、例えば炎症性サイトカインのmRNA発現調節を示す(実施例3)。
【図4】種々のHDAC阻害剤による炎症性サイトカインの調節。 図4は、PMA/Ionによる刺激後のHDAC阻害剤による免疫学的関連遺伝子、例えば炎症性サイトカインのmRNA発現調節を示す(実施例3)。
【図5】末梢血リンパ球におけるHDAC阻害剤による炎症性サイトカインの調節。 図5は、CD3/CD28刺激後のHDAC阻害剤による免疫学的関連遺伝子、例えば炎症性サイトカインのmRNA発現調節を示す(実施例3)。
【図6】末梢血リンパ球におけるHDAC阻害剤によるIL−2及びTNF−α発現の調節。 図6は、CD3/CD28刺激後のHDAC阻害剤による免疫学的関連遺伝子、例えば炎症性サイトカインのタンパク質発現調節を示す(実施例3)。
【図7】PMA/ION及びCD3/CD28 mAbで刺激した末梢血リンパ球におけるHDAC阻害剤によるIL−2及びTNF−α発現の調節。 図7は、HDAC阻害剤による免疫学的関連遺伝子、例えば炎症性サイトカインのタンパク質発現調節を示す(実施例3)。
【図8】第I/II相試験からの患者の2PPA治療スケジュール。 図8は、癌患者においてHDAC阻害剤、2PPAを使用する臨床治療スケジュールを示す(実施例4)。
【図9】2PPAは、第I/II相試験からの患者の末梢血においてヒストン過剰アセチル化及びマーカー遺伝子の調節を誘導する。 図9は、図8に示す治療スケジュールに従ってHDAC阻害剤、2PPAで治療した患者の末梢血細胞におけるヒストンアセチル化及びHDAC−2タンパク質の下方調節の誘導の成功を示す(実施例4)。
【図10】第I/II相試験における患者からの2PPAによる炎症サイトカインの調節。 図10は、CD3/CD28刺激後に図8に示す治療スケジュールに従って患者においてHDAC阻害剤、2PPAを使用することによる、免疫学的関連遺伝子、例えば炎症性サイトカインのmRNA及びタンパク質発現調節の成功を示す(実施例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人に疾患発症の素因を与える遺伝状態の治療のための薬剤を製造するための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用。
【請求項2】
前記遺伝状態が、個人に疾患表現型を発現する素因を与える、少なくとも1個の決定的遺伝子の少なくとも1つの遺伝的に受け継がれた突然変異に基づく、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記遺伝状態が、その状態を有する個人に疾患表現型を発現する素因を与える少なくとも1個の決定的遺伝子の遺伝的に受け継がれた多型に基づく、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記遺伝状態が、ヒストン及び/又は他のタンパク質の過剰アセチル化の誘導が患者にとって有益な治療作用を有する素因疾患である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記遺伝状態が、リー‐フラウメニ症候群、家族性網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、神経線維腫症1型、神経線維腫症2型、家族性大腸腺腫症、結節硬化症1、結節硬化症2、DPC4(Deleted in Pancreatic Carcinoma 4)、DCC(Deleted in Colorectal Carcinoma)、ガードナー症候群、ターコット症候群、家族性乳癌、ポイツ‐ジェガーズ症候群、遺伝性非ポリポーシス結腸直腸癌1型(HNPCC1)、遺伝性非ポリポーシス結腸直腸癌2型(HNPCC2)、フォン・ヒッペル‐リンダウ症候群、家族性黒色腫、ゴーリン症候群、MYH関連ポリポーシス、母斑様基底細胞癌症候群(NBCCS)、多発性内分泌腺腫症1型、多発性内分泌腺腫症2型、ベックウィズ‐ヴィーデマン症候群、遺伝性乳頭状腎癌(HPRC)、コーデン症候群、遺伝性前立腺癌、毛細管拡張性運動失調、ブルーム症候群、色素性乾皮症、ファンコーニ貧血、PTEN過誤腫症候群及び若年性ポリポーシス症候群から成る群より選択される疾患素因状態である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記遺伝状態が、p53、pRB1、WT1、NF1、NF2、APC、TSC1、TSC2、DPC4、Smad4、DCC、BRCA1、BRCA2、STK11、MSH2、MLH1、VHL、CDKN2A、PTCH、MEN1、RET、MEN2、MYH、p57、KIP2、MET、β−カテニン、PTEN、HPC1、PRCA1、ATM、BLM、XPA−XPG、FANCA−FANCH、HPC1、PRCA1、HPCX、MXI1、KAI1及びPCAPから成る群より選択される遺伝子内の突然変異又は多型に基づく、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記遺伝状態が、喘息、アトピー性皮膚炎、乾癬、インスリン依存性糖尿病、インスリン非依存性糖尿病、成人発症型糖尿病、グレーヴズ病、自己免疫性多腺性内分泌不全症候群、クローン病、炎症性腸疾患、炎症性脱髄性多発ニューロパシー、ギヤン‐バレー症候群、多発性及び再発性炎症性線維性ポリープ、血管新生炎症性硝子体網膜症、慢性神経性皮膚・関節症候群、CINCA症候群、遺伝性炎症性血管炎、家族性再発性関節炎、常染色体優性家族性周期熱、家族性寒冷自己炎症性症候群、マックル‐ウェルズ症候群、多発性硬化症、遺伝性ミオパシー、遺伝性筋ジストロフィー、強直性脊椎炎、ベヒテレフ症候群、エリテマトーデス及び骨髄炎から成る群より選択される疾患素因状態である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記遺伝状態が、IL13、ALRH、BHR1、SCGB3A2、UGRP1、PLA2G7、PAFAH、PHF11、NYREN34、ATOD1、ATOD6、ATPD5、ATOD4、ATOD3、PSORS9、PSORS7、PSORS6、PSORS5、PSORS4、PSORS3、PSORS2、PSORS1、PSS1、IDDM1、TCF1、HNF1A、MODY3、インターフェロン産生制御因子(HNF1)、アルブミン近位因子(albumin proximal factor)、FOXP3、IPEX、AIID、XPID、PIDXフォークヘッドボックスP3(スクルフィン(scurfin))、HLA、プロペルジンB因子、グリオキサラーゼ1、キッド血液型、HLA−DQ(β)、GPD2、NEUROD1、NIDDM、CAPN10、カルパイン−10、VEGF、MAPK8IP1、IB1、TCF1、HNF1A、MODY3、インターフェロン産生制御因子、アルブミン近位因子、IPF1、IRS2、TCF2、HNF2、LF−B3、GCGR、HNF4A、TCF14、MODY1、NIDDM2、NIDDM3、Glut 2、Glut 4、GPD2、AIRE、APECED、IBD7、IBD9、IBD5、IBD3、IBD2、IBD4、IBD8、IBD6、CARD15、NOD2、ABCB1、DLG5、SLC22A4、SLC22A5、IBD1、CD、ACUG、NOD2、PMP22、GAS3、VRNI、D11S527、CIAS1、C1orf7、FCU、FCAS、AS、ANS、主要組織適合性遺伝子複合体クラスI B、HLA−B27、FCGR3A、FCGR2A、CD16、IGFR3、TNFSF6、APT1LG1、FAS、FASL、TNFRSF1A、TNFA、PSTPIP1、PTPRC、CD45、HLA−A3、HLA−B7、HLA−Dw2、CRYAB、免疫グロブリンKM1/3、SLEB1、SLE1、PDCD1、SLEB2、SLEB3、SLEH1、SLEB4、DNアーゼ1、SLEV1、SLEN1、SLEN2及びSLEN3から成る群より選択される少なくとも1つの遺伝子座における突然変異又は多型に基づく、請求項1から4及び7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記遺伝状態の治療が、遺伝的素因の抑制療法を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が2−プロピル−ペンタン酸又は製薬上許容されるその塩である、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸誘導体、ベンズアミド、ピロキサミド及びその誘導体、HDAC阻害活性を示す微生物代謝産物、脂肪酸及びその誘導体、環状テトラペプチド、ペプチド性化合物、HDACクラスIII阻害剤及びSIRT阻害剤から成る群より選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸誘導体、例えばNVP−LAQ824、トリコスタチンA(TSA)、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、CBHA、G2M−701、G2M−702、G2M−707、ピロキサミド、スクリプタイド、CI−994、CG−1521、クラミドシン、ビアリールヒドロキサメート、A−161906、二環式アリール−N−ヒドロキシカルボキサミド、PXD−101、スルホンアミドヒドロキサム酸、TPX−HA類似体(CHAP)、オキサムフラチン、トラポキシン、デプデシン、アピジシン、ベンズアミド、MS−27−27、酪酸及びその誘導体、ピバネックス(ピバロイルオキシメチルブチレート)、トラポキシンA、デプシペプチド(FK−228)及び関連ペプチド性化合物、タセジナリン及びMG2856、から成る群より選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、式I
【化1】

[式中、R1及びR2は、独立して、場合により1又はいくつかのヘテロ原子を含み、置換されていてもよい、線状又は分枝、飽和又は不飽和、脂肪族C3-25炭化水素鎖であり、R3は、ヒドロキシル、ハロゲン、アルコキシ又は場合によりアルキル化されたアミノ基である]の化合物又は製薬上許容されるそれらの塩である、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
式中、R1及びR2が、独立して、場合により1つの二重又は三重結合を含む線状又は分枝C3-25炭化水素鎖である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記薬剤を、静脈内、筋肉内、皮下、局所、経口、経鼻、腹腔内又は坐剤ベースの投与によって適用する、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
治療又は予防が、遺伝病発症の素因を与える遺伝状態を有する個人に薬剤を投与することを含む、遺伝病の治療又は予防のための薬剤を製造するためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用。
【請求項17】
前記遺伝状態が、請求項1から8のいずれか一項で定義される遺伝状態である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
請求項1から8のいずれか一項で定義される遺伝状態に関連する疾患の治療又は予防のための薬剤を製造するためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−529966(P2008−529966A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516039(P2006−516039)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006797
【国際公開番号】WO2005/000282
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505474016)トポターゲット ジャーマニー アーゲー (2)
【Fターム(参考)】