説明

遺伝的にコードされた光制御

本発明は、式(I)によるケージドリジン又はその塩に関する。本発明は、さらに、ケージドリジンを含むポリペプチド、及びそれを作製する方法に関する。本発明は、さらに、tRNAにケージドリジンを負荷することができるtRNA合成酵素に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用なケージング基、タンパク質に部位特異的に導入する方法におけるそれらの使用、及びその方法の使用を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
生物活性のある化合物は、その生物学的効力を遮断するために、分子内の重要な官能性を変化させる、光によって除去可能な保護基を用いて保護することができる。そのような基を保護する1つの方式は、ケージングとして公知である。例えば、系に照射することによる、脱ケージングは、保護(ケージング)基を除去し、分子の内因性の性質を回復させる。
【0003】
タンパク質機能の正確な光化学的制御は、ケージング基を部位特異的に導入することによって実現することができる((a) Deiters, A. Chembiochem 2010, 11, 47-53; (b) Lee, H. M.; Larson, D. R.; Lawrence, D. S. ACS Chem. Biol. 2009, 4, 409-427; (c) Deiters, A. Curr. Opin. Chem. Biol. 2009, 13, 678-686; (d) Young, D. D.; Deiters, A. Org. Biomol. Chem. 2007, 5, 999-1005、Mayer, G.; Heckel, A. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 4900-4921)。タンパク質をインビトロで光ケージングするために、インビトロにおける翻訳(Endo, M.; Nakayama, K.; Kaida, Y.; Majima, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5643-5645)及び化学的なライゲーション(Pellois, J. P.; Hahn, M. E.; Muir, T. W. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 7170-7171)を含めた化学的な方法及び酵素的な方法が使用されてきた。これらの方法は、拡張されて、透過処理(Hahn, M. E.; Muir, T. W. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5800-5803)又はマイクロインジェクション(Pellois, J. P.; Muir, T. W. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 5713-5717)によってケージドタンパク質を細胞に導入することが可能になっているが、細胞送達は難しいままである。
【0004】
最近、いくつかのアミノ酸のオルト−ニトロベンジル(ONB,ortho-nitrobenzyl)ケージドバージョンが、アンバー終止コドンに対応して、遺伝的にコードされている((a) Wu, N.; Deiters, A.; Cropp, T. A.; King, D.; Schultz, P. G. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 14306-14307; (b) Deiters, A.; Groff, D.; Ryu, Y. H.; Xie, J. M.; Schultz, P. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 2728-2731; (c) Lemke, E. A.; Summerer, D.; Geierstanger, B. H.; Brittain, S. M.; Schultz, P. G. Nat. Chem. Biol. 2007, 3, 769-772、Chen, P. R.; Groff, D.; Guo, J. T.; Ou, W. J.; Cellitti, S.; Geierstanger, B. H.; Schultz, P. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 4052-4055)。ONB基は、生理的条件下では安定であるが、250〜365nmのUV光で容易に除去される。
【0005】
ONBの適用では、効率的に光分解するために、核酸の光化学反応、ジスルフィドの破壊及び他の細胞の損傷を招くので細胞に対して毒性である250〜365nmのUV光範囲の下部を不都合に使用し、これは、単純なONB基を使用してリジンをケージングする場合に起こり得る(Chen, P. R.; Groff, D.; Guo, J. T.; Ou, W. J.; Cellitti, S.; Geierstanger, B. H.; Schultz, P. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 4052-4055)。
【0006】
リジン残基は、核局在化配列についての重要な決定因子であり(Stewart, M. Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 2007, 8, 195-208)、ユビキチン化、メチル化、及びアセチル化を含めた重要な翻訳後修飾の標的であり(Yang, X. J. Oncogene 2005, 24, 1653-1662)、多くの重要な酵素活性部位において重要な残基である。しかし、ONBケージングをリジン残基に適用することは、さらに、ONBケージドリジン残基の光分解生成物により、リジンのε−アミノ基の望ましくない縮合が導かれるので、不都合である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】(a) Deiters, A. Chembiochem 2010, 11, 47-53; (b) Lee, H. M.; Larson, D. R.; Lawrence, D. S. ACS Chem. Biol. 2009, 4, 409-427; (c) Deiters, A. Curr. Opin. Chem. Biol. 2009, 13, 678-686; (d) Young, D. D.; Deiters, A. Org. Biomol. Chem. 2007, 5, 999-1005
【非特許文献2】Mayer, G.; Heckel, A. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 4900-4921
【非特許文献3】Endo, M.; Nakayama, K.; Kaida, Y.; Majima, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5643-5645
【非特許文献4】Pellois, J. P.; Hahn, M. E.; Muir, T. W. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 7170-7171
【非特許文献5】Hahn, M. E.; Muir, T. W. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5800-5803
【非特許文献6】Pellois, J. P.; Muir, T. W. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 5713-5717
【非特許文献7】(a) Wu, N.; Deiters, A.; Cropp, T. A.; King, D.; Schultz, P. G. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 14306-14307; (b) Deiters, A.; Groff, D.; Ryu, Y. H.; Xie, J. M.; Schultz, P. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 2728-2731; (c) Lemke, E. A.; Summerer, D.; Geierstanger, B. H.; Brittain, S. M.; Schultz, P. G. Nat. Chem. Biol. 2007, 3, 769-772
【非特許文献8】Chen, P. R.; Groff, D.; Guo, J. T.; Ou, W. J.; Cellitti, S.; Geierstanger, B. H.; Schultz, P. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 4052-4055
【非特許文献9】Stewart, M. Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 2007, 8, 195-208
【非特許文献10】Yang, X. J. Oncogene 2005, 24, 1653-1662
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、当技術分野では、リジンに対する効率的なケージング分子を提供することに関する問題がある。別の問題は、リジンに対する効率的なケージング分子がタンパク質に部位特異的に取り込まれることを可能にする方法及び/又はシステムを提供することである。別の問題は、ケージドタンパク質の細胞送達に関する目下の問題を緩和しながら、前記タンパク質を産生する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、340nmを超えるUV光を照射することによって効率的に脱ケージングするために、電子供与性置換基によってケージング基を誘導する、ケージド(caged)リジン分子に関する。
【0010】
本発明は、さらに、表Iに従って、最大5つの位置にミューテーション(mutation)を有し、そのミューテーションが、M241残基、A267残基、Y271残基、L274残基及びC313残基に存在する直交性(orthogonal)ピロリジルtRNA合成酵素、及びそれから生じる直交性ピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対に関する。
【0011】
本発明の別の態様は、本発明によるケージドリジンアミノ酸を真核細胞内のタンパク質にインビトロで組み入れる方法であって、
i)当該タンパク質をコードするヌクレオチド配列における、所望の部位にアンバーコドンを導入する、又は特定のコドンを置き換えるステップと、
ii)本明細書に記載の発現系を細胞に導入するステップと
iii)培地中において、培地中に存在する本明細書に記載のケージドリジンと共に細胞を培養させるステップと
を含む、方法に関する。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、340nmを超えるUV光を照射することによって、タンパク質の少なくとも1つの性質を決定すること又は変化させることにおける、本発明によるケージドリジンアミノ酸の使用に関する。
【0013】
本発明は、340nmを超えるUV光を照射することで効率的に脱ケージングするために、電子供与性置換基によってケージング基を誘導する、ケージドリジン分子に関する。355nmを超えるUV光、好ましくは365nmのUV光を照射することでケージング基が効率的に脱ケージングされることが適切である。
【0014】
光分解の副生成物はリジンのε−アミノ基と縮合しないことが適切である。
【0015】
ケージドリジンは、式(I)
【0016】
【化1】

(I)
【0017】
による、又はその塩であることが適切である。
【0018】
別の態様では、本発明は、そのアミノ酸配列内に上記のケージドリジンが組み入れられたタンパク質に関する。組み入れは部位特異的であることが適切である。ケージドリジンの組み入れは、リジンアミノ酸の置き換えであることが適切である。前記置き換えられたリジンアミノ酸は天然に存在する配列内に存在していたことが適切である。
【0019】
タンパク質を標識用分子と連結させることが適切である。標識用分子は蛍光タンパク質であることが適切である。
【0020】
別の態様では、本発明は、表Iに従って、1〜5個の位置にミューテーション(複数可)を有するピロリジルtRNA合成酵素(直交性ピロリジルtRNA合成酵素)であって、ミューテーション(複数可)がM241、A267、Y271、L274及びC313から選択される1〜5個の残基に存在するピロリジルtRNA合成酵素(直交性ピロリジルtRNA合成酵素)に関する。直交性ピロリジルtRNA合成酵素は、M241F、A267S、Y271C及びL274Mである4つのミューテーションを含むことが適切である。
【0021】
別の態様では、本発明は、直交性ピロリジルtRNA合成酵素が上記の直交性ピロリジルtRNA合成酵素である、直交性ピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対に関する。直交性tRNAはPyltRNACUAであることが適切である。
【0022】
別の態様では、本発明は、
PyltRNACUAの発現がCMVエンハンサーの下流のU6プロモーターの制御下にある、プラスミドなどの核酸と、
CMVエンハンサーの制御下にある上記の直交性ピロリジルtRNA合成酵素を含む、プラスミドなどの核酸と
を含む、上記の直交性ピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対を発現させるための、真核細胞における発現系に関する。
【0023】
上記のケージドリジンアミノ酸を細胞内のタンパク質にインビトロで組み入れる方法であって、
当該タンパク質をコードするヌクレオチド配列における、所望の部位において、アンバーコドンなどの直交性コドンを導入する、又は、特定のコドンをアンバーコドンなどの直交性コドンに置き換えるステップと、
上記の発現系を細胞に導入し、その細胞を、培地中において、培地中に存在する上記のケージドリジンと共に培養させるステップと
を含む、方法。
【0024】
当該タンパク質をコードするヌクレオチド配列における、リジンのコドンをアンバーコドンに置き換えることが適切である。
【0025】
別の態様では、本発明は、340nmを超えるUV光を照射することによって、タンパク質の少なくとも1つの性質を決定することにおいて使用するための上記のケージドリジンアミノ酸に関する。
【0026】
別の態様では、本発明は、340nmを超えるUV光を照射することによって、タンパク質の少なくとも1つの性質を変化させることにおいて使用するための上記のケージドリジンアミノ酸に関する。
【0027】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの性質を変化させることにより、そこから生じる生物学的効果の動態を測定することが可能になる、上記のケージドリジンアミノ酸に関する。
【0028】
別の態様では、本発明は、タンパク質の少なくとも1つの性質が真核細胞内のタンパク質の局在化である、上記のケージドリジンアミノ酸に関する。
【0029】
当該タンパク質は真核細胞内にあることが適切である。
【0030】
当該タンパク質はヒト体内にあることが適切である。
【0031】
当該タンパク質はインビトロであることが適切である。
【0032】
ここで、本発明を、番号を付したパラグラフによって説明する:
【0033】
パラグラフ1.式(I)
【0034】
【化2】

(I)
【0035】
によるケージドリジン又はその塩。
【0036】
パラグラフ2.パラグラフ1に記載のケージドリジンを含むポリペプチド。
【0037】
パラグラフ3.ケージドリジンが、ポリペプチドにおける、野生型ポリペプチドにおけるリジン残基に対応する位置に存在する、パラグラフ2に記載のポリペプチド。
【0038】
パラグラフ4.ヌクレオチド三リン酸結合性タンパク質である、パラグラフ2又はパラグラフ3に記載のポリペプチド。
【0039】
パラグラフ5.キナーゼである、パラグラフ4に記載のポリペプチド。
【0040】
パラグラフ6.ケージドリジンがキナーゼの触媒部位に存在する、パラグラフ5に記載のポリペプチド。
【0041】
したがって、本発明は、光活性化可能なキナーゼを提供する。本発明は、キナーゼを光活性化する方法であって、前記キナーゼの触媒ドメイン内のケージドリジン残基を脱ケージングするステップを含む方法にも関する。
【0042】
ケージドリジンは、キナーゼの触媒部位の保存されたリジン残基、例えば、MEKのK97に対応する残基などに存在することが適切である。
【0043】
キナーゼは、MAPキナーゼカスケードのメンバーであることが適切である。キナーゼは、MEK(MAPKK)であることが適切である。
【0044】
パラグラフ7.リジンが脱ケージングされることにより、ポリペプチドのキナーゼ活性が可能になる、パラグラフ6に記載のポリペプチド。
【0045】
パラグラフ8.パラグラフ1に記載のケージドリジンを含むポリペプチドを作製する方法であって、前記ポリペプチドをコードするRNAの翻訳をアレンジする(arranging)ことを含み、前記RNAが直交性コドンを含み、前記翻訳が、前記直交性コドンを認識し、パラグラフ1に記載のケージドリジンを負荷されることができるtRNAの存在下、及び前記tRNAにパラグラフ1に記載のケージドリジンを負荷することができるtRNA合成酵素の存在下、及びパラグラフ1に記載のケージドリジンの存在下で行われる、方法。
【0046】
パラグラフ9.tRNA合成酵素が、表Iに従って、野生型配列と比較して、1〜5個の位置にミューテーションを有するピロリジルtRNA合成酵素を含み、そのミューテーション(複数可)が、M241、A267、Y271、L274及びC313から選択される1〜5個の残基に対応する位置に存在する、パラグラフ8に記載の方法。
【0047】
パラグラフ10.tRNA合成酵素が、M241F、A267S、Y271C及びL274Mである4つのミューテーションを含む、パラグラフ9に記載の方法。
【0048】
パラグラフ11.直交性コドンがアンバーコドン(TAG)である、パラグラフ8〜10のいずれかに記載の方法。
【0049】
パラグラフ12.直交性tRNAがPyltRNACUAである、パラグラフ11に記載の方法。
【0050】
パラグラフ13.パラグラフ1に記載のケージドリジンを含むポリペプチドを作製する方法であって、前記ポリペプチドをコードする核酸を修飾して、パラグラフ1に記載のケージドリジンを組み入れることが望まれる前記ポリペプチド内の位置(複数可)に対応する1又は2以上の位置にアンバーコドンをもたらすことを含む、方法。
【0051】
パラグラフ14.核酸を修飾することが、リジンのコドンをアンバーコドン(TAG)にミューテーションさせることを含む、パラグラフ13に記載の方法。
【0052】
パラグラフ15.パラグラフ8〜14のいずれかに記載の方法によって作製される、パラグラフ2に記載の同種組換えポリペプチド。
【0053】
パラグラフ16.表Iに従って、野生型配列と比較して、1〜5個の位置にミューテーションを有し、そのミューテーション(複数可)が、M241、A267、Y271、L274及びC313から選択される1〜5個の残基に対応する位置に存在する、ピロリジルtRNA合成酵素。
【0054】
パラグラフ17.M241F、A267S、Y271C及びL274Mである4つのミューテーションを含む、パラグラフ16に記載の直交性ピロリジルtRNA合成酵素。
【0055】
パラグラフ18.直交性ピロリジルtRNA合成酵素がパラグラフ16又は17に記載の直交性ピロリジルtRNA合成酵素であり、直交性tRNAがPyltRNACUAである、直交性ピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対。
【図面の簡単な説明】
【0056】
ここで、本発明を以下の図面との関連で説明する:
【図1】化合物4のH NMRスペクトルを示す図である。
【図2】化合物1のH NMRスペクトルを示す図である。
【図3】A.PCKRS/PyltRNACUA及び4位にアンバーコドンを有するミオグロビン(pMyo4TAGHis6)を発現している大腸菌細胞由来の細胞抽出物の、1mMの光ケージドリジン1の存在下又は非存在下での抗Hisタグ免疫ブロットを示す図である。B.MbPylRS/PyltRNACUA対を含有し、ε−Boc−リジン(BocK)(1mM)と一緒に培養させた細胞、又はPCKRS/PyltRNACUA対を含有し、1(5mM)と一緒に培養させた細胞のいずれか由来の、Ni−NTA精製したsfGFP−his6のクーマシー染色したゲルを示す図である。145位のアンバーコドンに応じて、sfGFPに非天然アミノ酸が導入された。PCKRS/PyltRNACUA対を使用して1を組み入れることによって得られたsfGFP−his6の収量は1mg/Lであり、これは、MbPylRS/PyltRNACUA対を用いて効率的に組み入れられることが公知のBocK(Nguyen, D. P.; Lusic, H.; Neumann, H.; Kapadnis, P. B.; Deiters, A.; Chin, J. W. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 8720-8721)を用いて得られた収量に匹敵する。C.PCKRS/PyltRNACUA(2mMの1と一緒に)によって産生されるミオグロビンのESI−MS分析により、質量が18634Daであることが明らかになった(ピークA;予測された質量18631.7Da)。遊離のリジンを有するミオグロビンに対応する第2のピークも検出される(ピークB;得られた質量18396Da、予測された質量18395.7Da)。遺伝子の発現実験及びタンパク質の発現実験により、タンパク質の発現はアミノ酸に依存的であることが示されたので、このピークは、光を排除することができない試料の調製中に、組み入れられた1が脱ケージングされたことに起因し得る。D.sfGFP(145−1)に由来するトリプシンペプチドのMS/MS断片化を示す図である(スペクトルの上にペプチド配列が示されている;MHペプチド質量2145.972Da)。このスペクトルにより、コドン145における1の組み入れが確認される。スペクトルの上に断片化部位を例示している。アスタリスク(*)が付いている断片は、試料を脱ケージングする355nmのMALDIレーザーを使用するので、ケージド基を含有しない。E.365nmの光を用いて0分間、1分間及び5分間、光分解した後の、PCKRS/PyltRNACUA(2mMの1と一緒に)によって産生されるミオグロビンのESI−MS分析を示す図である(A:ケージドタンパク質の質量18633.0±1.8Da、予測された質量18631.7Da;B:アンケージドタンパク質の質量18395.4±0.7Da、予測された質量18395.7)。
【図4】1.哺乳動物の細胞への光ケージドリジンの遺伝的な組み入れを示す図である。A.光ケージドリジン1である。B、C.PCKRS/PyltRNACUA対により、アンバーコドンに応じて1(1mM)をHEK293細胞に特異的に組み入れることが可能になる;B.1と一緒に、又は1なしでmCherry−TAG−egfp−ha及びPCKRS/PyltRNACUAを発現しているHEK293細胞の蛍光共焦点顕微鏡写真である;C.Bからの細胞の、抗HAを用いた免疫ブロット(IB)である。D.HEK293細胞において発現させた1を組み入れたmCherry−EGFP−HAを、その後のMS/MS分析のために抗HA免疫沈降によって精製した。精製されたタンパク質に由来するトリプシンペプチドのMS/MS断片化のスペクトルにより、1が予測された部位に組み入れられたことが確認される。アスタリスク(*)で印をつけた断片は、MS/MSの間のペプチド断片の脱ケージングの結果生じたものである。
【図5】PCKRS/PyltRNACUA対により、アンバーコドンに応じて1(1mM)をHEK293細胞内のタンパク質に特異的に組み入れることが可能になることを示す図である。HEK293細胞に、1mMの1の存在下又は非存在下でmCherry−TAG−egfp−ha及びPCKRS/PyltRNACUAでトランスフェクトした。実験の抗HA免疫ブロット、抗DsRed免疫ブロット及び抗Flag免疫ブロットが示されている。抗HA免疫ブロットは、全長のmCherry−GFP−HAの発現レベルを示し、抗Ds−Red免疫ブロットは、短縮されたタンパク質の相対量を示し、抗flag免疫ブロットは、N末端のflagタグを保有するPCKRSの発現レベルを示す。PCKRSが存在しない、又は/及びPyltRNACUAが存在しない、又はhTyrtRNACUAに置き換わっている対照実験も示されている。
【図6】MbPylRS/PyltRNACUA対及びMmPylRS/PyltRNACUA対(MbPylRSはM.バーケリ(M. barkeri)由来であり、MmPylRSはM.マゼイ(M. mazei)由来である)により、ε−Boc−リジン(BocK)(2mM)を、アンバーコドンに応じて、HEK293細胞内のタンパク質に特異的に組み入れることが可能になることを示す図である。A.2mMのBocKの存在下又は非存在下でmCherry−TAG−egfp−ha及びMbPylRS/PyltRNACUAを発現しているHEK293細胞の蛍光共焦点顕微鏡写真である(緑色:EGFP蛍光、赤色:mCherry蛍光)。B.2mMのBocKの存在下又は非存在下でmCherry−TAG−egfp−ha及びMmPylRS/PyltRNACUAを発現しているHEK293細胞の蛍光共焦点顕微鏡写真である(緑色:EGFP蛍光、赤色:mCherry蛍光)。C.A.及びB.に示されている実験の抗HA免疫ブロット及び抗Flag免疫ブロットである。抗flag免疫ブロットは、N末端のflagタグを保有するMbPylRS及びMmPylRSの発現レベルを示す。PyltRNACUAが存在しない、又はhTyrtRNACUAに置き換わっている対照実験も示されている。Boc=tert−ブチルオキシカルボニル。
【図7】タンパク質の局在化の光による制御を示す図である。A.核質の二分核定位シグナル(NLS,Bipartite nuclear localization signal)である:太字のリジンをアラニンにミューテーションさせた(NLS−A)又はアンバー終止コドンに置き換えた(NLS−*)。B.PCKRS/PyltRNACUA対により、1(1mM)を、アンバーコドンに応じてnls−*−gfp−haに特異的に組み入れることが可能になる(レーン2及び3)。対照:WTNLS−GFP−HA(レーン1)の発現、NLS−A−GFP−HA(レーン5)、NLS−*−Y−GFP(hTyr−tRNACUAを用いてYを組み入れた)の発現(レーン4)、トランスフェクトしていない細胞(レーン6)。C.GFP融合物の細胞内への局在化を示す蛍光共焦点顕微鏡写真である;光分解:1秒、365nm、1.2mW/cm。D.NLS−*−1−GFP−HAの場合の、光分解する前、及び光分解の4分後の平均の核のGFP蛍光と細胞質のGFP蛍光のF(n/c)比である(データは、27個の細胞の平均±SDを表す、代表的な例については図10を参照されたい)。E.核内移入プロセスの動態分析:グラフは、時間に応じた、正規化されたF(n/c)を示す(4つの細胞の平均±SD)。20秒の半減時間を決定した。スケールバーは10μmである。
【図8】p53の局在化の光による制御を示す図である。A.p53の二分核定位シグナル(NLSP53)である:太字のリジンK305を、アラニンにミューテーションさせた(NLSP53−K305A)又はアンバー終止コドンに置き換えた(NLSp53−K305A*)。B.PCKRS/PyltRNACUA対により、1(1mM)を、アンバーコドンに応じて、HEK293細胞内のp53−K305*−EGFP−HAに特異的に組み入れることが可能になる(レーン2及び3)。対照:p53−EGFP−HA及びP53−K305A−EGFP−HAの発現(レーン1及び5)、p53−K305*−Y−EGFP−HA(hTyr−tRNACUAを用いてYを組み入れた)の発現(レーン4)、トランスフェクトしていない細胞(レーン6)。C.野生型p53、p53−K305AのEGFP融合物の細胞内への局在化を示す蛍光共焦点顕微鏡写真である。D.EGFP融合物の、光分解する前、及び光分解(5秒;365nm;1.2mW/cm)の50分後の細胞内への局在化を示す共焦点顕微鏡写真である。E.p53−K305*−1−EGFP−HAの場合の、光分解する前、及び光分解の30分後の平均の核のEGFP蛍光と細胞質のEGFP蛍光のF(n/c)比である(データは、7つの細胞の平均±SDを表す)。スケールバーは10μmである。
【図9】A.野生型p53、p53−K305A、p53−K305*−Y(hTyr−tRNACUAを用いてYを組み入れた)、p53−K305*−Boc(MbPylRS/PyltRNACUAを使用してBocKを組み入れた)及びp53−K305*−1(PCKRS/PyltRNACUAを使用して1を組み入れた)のEGFP融合物の細胞内への局在化を示す蛍光共焦点顕微鏡写真である。B.光分解する前、及び光分解(5秒;365nm;1.2mW/cm)の50分後のp53−K305*−BocKの局在化を示す写真である。C.光分解(5秒;365nm;1.2mW/cm)後のp53−K305*−1−EGFPの再局在化の例を示す写真である。各枠に光分解後の時間が分単位で示されている。16色のスケールを使用してEGFP蛍光を示している。D.p53の再局在化の動態解析を示す図である。2つの異なる例について、平均の核のGFP蛍光と細胞質のGFP蛍光のF(n/c)比が、時間に応じて示されている。スケールバーは10μmを示す。
【図10】NLS*1−GFP融合物(PCKRS/PyltRNACUAを使用して1を組み入れた)の、光分解する前、及び光分解(1〜2秒;365nm;1.2mW/cm)の4分後の細胞内への局在化を示す代表的な共焦点顕微鏡写真である。スケールバーは10μmを示す。
【図11】使用した主要なプラスミドのマップである。
【図12】本発明のケージドリジン及び適用を示す図である。
【図13】本発明において適用可能な代替のケージドリジンを示す図である。
【図14】MEK1活性部位の光ケージドリジンを遺伝的にコードすることによるMAPキナーゼシグナル伝達におけるサブネットワークの分離を示す図である。(a)MAPキナーゼシグナル伝達経路及びその光活性化可能なサブネットワークの概略である。(b)MEK1活性部位のほぼ普遍的に保存されたリジンをケージングすることにより、ATPの結合が立体的に遮断されることによって酵素が不活性化する。光を用いて脱ケージングすることにより、ケージング基が急速に除去され、キナーゼが活性化する(Pymolの構造及びMEK1の構造を使用して創出した図、PDB:1S9J)。(c)PCKRS/tRNACUA対によって遺伝的にコードし、アンバーコドンに応じて1をタンパク質に組み入れることを可能にすることができる、光ケージドリジン1の構造。
【図15】ケージドMEK1を光活性化した際のERK2の特異的なリン酸化及び活性化を示す図である。(a)PCKRS、ピロリジルtRNACUA、C−MEK1−ΔN−HA及びEGFP−ERK2(TEY、レーン7及び8;又はAAA、レーン9及び10のいずれか)をコードするプラスミドを同時トランスフェクトしたHEK293ET細胞を、2mMのアミノ酸1を補充した培地中(レーン8及び10)、又はアミノ酸1なしの培地中(レーン7及び9)で、24時間にわたって培養させた。対照として、細胞に、PCKRS、EGFP−ERK2(TEY又はAAA)及びピロリジルtRNACUA及びA−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン1及び2);又はPCKRS、EGFP−ERK2(TEY又はAAA)及びピロリジルtRNACUA及びD−MEK1−ΔN−HA(レーン3及び4)をコードするプラスミド;又はPCKRS、EGFP−ERK2(TEY又はAAA)及びチロシンtRNATyrCUA及びC−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン5及び6、アンバーサプレッサーであるチロシンtRNATyrCUAを使用することによって、アンバーコドンに応じてC−MEK1−ΔN−HA遺伝子にTyrを組み入れて、D*−MEK1−ΔN−HAと称される不活性なMEK1をもたらした)をトランスフェクトした。(b)PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びA−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン2)、又は、PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びD−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン3〜6)、又は、PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びC−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン7〜10)を同時トランスフェクトしたHEK293ET細胞を、2mMの1及び0.1%のFBSを補充した培地中で24時間にわたって培養させた。D−MEK1−ΔN−HA及びC−MEK1−ΔN−HAを発現している細胞を、365nmのLEDランプを用いて60秒間照明した。照明した1分後、10分後及び60分後に細胞を溶解した。(c)PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びA−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン2)、又は、PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びD−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン3、5、6、9、10、13、14、17、18)又は、PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びC−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン4、7、8、11、12、15、16、19、20)を同時トランスフェクトしたHEK293ET細胞を、2mMのアミノ酸1及び0.1%のFBSを補充した培地中で24時間にわたって培養させた。D−MEK1−ΔN−HA及びC−MEK1−ΔN−HAを発現している細胞を、365nmのLEDランプを用いて5秒間(レーン5〜8)、15秒間(レーン9〜12)、30秒間(レーン13〜16)及び60秒間(レーン17〜20)照明した。照明した1分後及び10分後に細胞を溶解した。(d)PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びC−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン1〜4)、又は、PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びD−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン5〜8)、又は、PCKRS、ピロリジルtRNACUA、EGFP−ERK2、及びA−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン9〜12)を同時トランスフェクトしたHEK293ET細胞を、2mMのアミノ酸1及び0.1%のFBSを補充した培地中で24時間にわたって培養させた。照明する前に、細胞を、0μM又は10μMのU0126と一緒に30分間インキュベートした。示されている場合、細胞を、365nmのLEDランプを用いて60秒間照明した。照明した10分後に細胞を溶解した。(a〜d)細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、その後、示された抗体を用いて免疫ブロット(IB,immunoblotting)を行った。
【図16】EGF刺激の際のEGFP−ERK2の核内移行を示す図である。(a)同時発現させたwt−MEK1を100ng/mlのEGFを加えることによって活性化した後の異なる時点におけるEGFP−ERK2の細胞内の蛍光を示すモンタージュである。スケールバーは、5μmを示す。(b)グラフは、活性化後の時間に応じた、正規化されたF(n/c)(7つの代表的な細胞の平均±SD)を示す。(c)グラフは、7回の独立した実験の、活性化後の時間に応じたF(n/c)を示す。(d)グラフは、7回の独立した実験の、活性化後の時間に応じた、正規化されたF(n/c)を示す。
【図17】ケージドMEK1を光活性化した際のEGFP−ERK2の核内移行を示す図である。(a)PCKRS、ピロリジンtRNACUA、及びC−MEK1−DD/EGFP−ERK2−TEYをコードするプラスミド(ケース1及び2)、又は、PCKRS、ピロリジンtRNACUA、及びD−MEK1−DD/EGFP−ERK2−TEYをコードするプラスミド(ケース3)、又は、PCKRS、ピロリジンtRNACUA、及びC−MEK1−DD/EGFP−ERK2−AAAをコードするプラスミド(ケース4)を同時トランスフェクトしたHEK293ET細胞を、2mMのアミノ酸1及び0.1%のFBSを補充した培地中で24時間にわたって培養させた。ケース2では、細胞を、10μMのU0126と一緒にプレインキュベートした。照明する前、及び照明(2秒、365nm、1mW/cm)の10分後の代表的な細胞のEGFP蛍光が各ケースに示されている。図は、点線に沿って、照明前(黒色)及び照明後(灰色)の蛍光強度を示す。スケールバーは、10μmを示す。(b)EGFP−ERK2の核内移行の定量的分析である。左側のグラフは、(a)に示されている場合の照明前(白棒)及び照明の10分後(黒棒)の平均の核のEGFP蛍光と細胞質のEGFP蛍光のF(n/c)比を示す。それぞれの場合について、10個の代表的な細胞の平均±標準偏差(SD,standard deviation)が示されている。右側のグラフは、(a)に示されている場合の、照明する前、及び照明した10分後のF(n/c)の差異を示す(ΔF(n/c)=照明後のF(n/c)−照明前のF(n/c))。それぞれの場合について、10個の代表的な細胞からのデータを箱ひげ図として示している(ひげの末端は、全データの最小値及び最大値を示す)。
【図18】ケージドMEK1を光活性化した際のEGFP−ERK2の核内移行の動態を示す図である。(a)同時発現させたC−MEK1−DDを光活性化(2秒、365nm、1mW/cm)した後の異なる時点におけるEGFP−ERK2の細胞内の蛍光を示すモンタージュである。スケールバーは、5μmを示す。(b)グラフは、光活性化した後の時間に応じた、正規化されたF(n/c)を示す(10個の代表的な細胞の平均±SD)。灰色の線は、細胞をEGFで刺激した場合に観察された、図16bに示されている正規化されたF(n/c)の比較として示されている。(c)グラフは、10回の実験の、活性化後の時間に応じたF(n/c)を示す。(d)グラフは、10回の独立した実験の、活性化後の時間に応じた正規化されたF(n/c)を示す。(e、f)EGFを用いて刺激した際のEGFP−ERK2の核内移行において観察された細胞間の変動性(データは図16b〜dに示されている、n=細胞7個)と、C−MEK1−DDを光活性化した際のEGFP−ERK2の核内移行において観察された細胞間の変動性(データはb〜dに示されている、n=細胞10個)の比較である。2つのグラフは、それぞれ、(e)活性化の際の移行プロセスの半減時間(t1/2)及び(f)観察されたF(n/c)の変化(ΔF(n/c)=最大(F(n/c))−最小(F(n/c)))を示す。データは、箱ひげ図として表されている(ひげの末端は、全データの最小値及び最大値を示す)。(g)同時発現させたC−MEK1−DDを光活性化(2秒、365nm、1mW/cm)した後の初期の異なる時点における代表的なEGFP−ERK2の細胞内の蛍光を示すモンタージュである(動画S1も参照されたい)。スケールバーは、10μmを示す。(h)光活性化した後の初期の移行の動態である。光活性化した後の時間に応じた、正規化されたF(n/c)(10個の代表的な細胞の平均±SD)が示されている。データはシグモイド関数に適合した。
【図19】ERK2の核細胞質間往復輸送(nucleocytoplasmic shuttling)を示す図である。(a)C−MEK1−DD及びEGFP−ERK2を同時発現しているHEK293ET細胞を照明し(2秒、365nm、1mW/cm)、次いで、照明の8分後に、光活性化されたC−MEK1−DDの活性を遮断するため、及び、EGFP−ERK2の核からの流出を明らかにするために、U0126(10μM)を加えた。下のモンタージュは、照明した後及びU0126を用いた照明後の遮断の異なる時間における、代表的なEGFP−ERK2の細胞内の蛍光を示す。上のモンタージュは、U0126の添加を伴わない場合の、光活性化した後の異なる時間における、EGFP−ERK2の細胞内の蛍光の参照として示されている。スケールバーは、5μmを示す。(b)グラフは、照明した後の時間に応じた、正規化されたF(n/c)を示す(10個の代表的な細胞の平均±SD)。矢印は、U0126を加えた時間を示す。比較として、阻害剤を添加しない場合の正規化されたF(n/c)が図18bに灰色の線としてプロットされて示されている。
【図20】(a)EGFP−ERK2(上)及びEGFP−ERK2Δ4(下)の、同時発現させたC−MEK1−DDを光活性化(2秒、365nm、1mW/cm)した後の異なる時点における細胞内の蛍光を示すモンタージュである。スケールバーは、5μmを示す。(b)C−MEK1−DDを光活性化した際のEGFP−ERK2Δ4の核内移行の動態(10個の代表的な細胞の平均±SD)を示すグラフである。灰色の線は、図18bに示されているEGFP−ERK2の核内移行の動態の比較として示されている。(c)(a)に示されている実験からのF(n/c)の最大値を示すプロットである(10個の代表的な細胞の平均±SD)。(d、e)C−MEK1−DD及びEGFP−ERK2、又はC−MEK1−DD及びEGFP−ERK2Δ4を同時発現しているHEK293ET細胞を、LEDランプを用いて1分間にわたって照明し、1分後、5分後、10分後、15分後、20分後及び30分後に溶解した。(d)細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、その後、示された抗体を用いて免疫ブロット(IB)を行った。(e)(d)において観察されたEGPF−ERK2ミューテーション体のリン酸化を、それらの発現レベルによって数量化し、正規化し、時間に応じてプロットした(代表的な3つの独立したデータセットからのデータ)。
【図21】(a)PCKRS、ピロリジンtRNACUA及びC−MEK1−ΔN−HA(レーン3及び4)をコードするプラスミドを同時トランスフェクトしたHEK293ET細胞を、1mMの1(レーン4)を補充した培地中、又は1なしの培地中(レーン3)で24時間にわたって培養させた。対照として、細胞に、PCKRS及びピロリジンtRNACUA及びA−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン1);又は、PCKRS及びピロリジンtRNACUA及びD−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン2);又は、PCKRS及びチロシンtRNATyrCUA及びC−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン5;アンバーサプレッサーであるチロシンtRNATyrCUAを使用することによって、アンバーコドンに応じて、C−MEK1−ΔN−HA遺伝子にTyrを組み入れ、D*−MEK1−ΔN−HAと称される不活性な機能しないMEK1をもたらした)を同時トランスフェクトした。細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、その後、示された抗体を用いて免疫ブロット(IB)を行った。(b)内在性のMEKを有する異なるMEK1−ΔN−HAミューテーション体の発現レベルを比較した免疫ブロットである。
【図22】細胞に、PCKRS、EGFP−ERK2及びピロリジンtRNACUA及びA−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン1及び2);又は、PCKRS、EGFP−ERK2及びピロリジンtRNACUA及びD−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン3及び4);又は、PCKRS、EGFP−ERK2及びピロリジンtRNACUAのみをコードするプラスミド(レーン5及び6);又は、PCKRS、EGFP−ERK2及びチロシンtRNATyrCUA及びC−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン7及び8;アンバーサプレッサーであるチロシンtRNATyrCUAを使用することによって、アンバーコドンに応じて、C−MEK1−ΔN−HA遺伝子にTyrを組み入れ、D*−MEK1−ΔN−HAと称される不活性な機能しないMEK1をもたらした);又は、PCKRS、EGFP−ERK2及びピロリジンtRNACUA及びC−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン9及び10)を同時トランスフェクトした。レーン11及び12は、偽の、トランスフェクトしていない細胞を示す。トランスフェクトした後、HEK293ET細胞を、2mMの1及び0.1%のFBSを補充した培地中で24時間にわたって培養させた。示されている場合、細胞を365nmのLEDランプを用いて60秒間照明し、照明の60分後に溶解した。細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、その後、示された抗体を用いて免疫ブロット(IB)を行った。
【図23】(a)PCKRS、ピロリジンtRNACUA及びC−MEK1−DD−HA(レーン3及び4)をコードするプラスミドを同時トランスフェクトしたHEK293ET細胞を、2mMの1を補充した培地中(レーン4)又は1なしの培地中(レーン3)で24時間にわたって培養させた。対照として、細胞に、PCKRS、ピロリジンtRNACUA及びA−MEK1−DD−HAをコードするプラスミド(レーン1);又は、PCKRS、ピロリジンtRNACUA及びD−MEK1−DD−HAをコードするプラスミド(レーン2);又は、PCKRS、チロシンtRNATyrCUA及びC−MEK1−DD−HAをコードするプラスミド(レーン5;アンバーサプレッサーであるチロシンtRNATyrCUAを使用することによって、アンバーコドンに応じて、C−MEK1−DD−HA遺伝子にTyrを組み入れ、D*−MEK1−DD−HAと称される不活性な機能しないMEK1をもたらした)を同時トランスフェクトした。(b)PCKRS、ピロリジンtRNACUA、EGFP−ERK2、及びA−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン1)、又は、PCKRS、ピロリジンtRNACUA、EGFP−ERK2、及びD−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン2〜3)又は、PCKRS、ピロリジンtRNACUA、EGFP−ERK2、及びC−MEK1−ΔN−HAをコードするプラスミド(レーン4〜5)、又は、PCKRS、ピロリジンtRNACUA、EGFP−ERK2、及びA−MEK1−DD−HAをコードするプラスミド(レーン6)、又は、PCKRS、ピロリジンtRNACUA、EGFP−ERK2、及びD−MEK1−DD−HAをコードするプラスミド(レーン7〜8)又はC−MEK1−DD−HAをコードするプラスミド(レーン9〜10)を同時トランスフェクトしたHEK293ET細胞を、2mMの1及び0.1%のFBSを補充した培地中で24時間にわたって培養させた。示されている場合、D−MEK1−ΔN又はDD)−HA及びC−MEK1−(ΔN又はDD)−HAを発現している細胞を、365nmのLEDランプを用いて60秒間照明した。照明した10分後に細胞を溶解した。(a〜b)細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、その後、示された抗体を用いて免疫ブロット(IB)を行った。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明は、340nmを超えるUV光を照射することで効率的に脱ケージングするために、電子供与性置換基によってケージング基を誘導する、ケージドリジン分子に関する。ケージング基への電子の供与の効果により、340nmを超える光を照射した場合にケージング基が効率的に脱ケージングされることが可能になる。UV照射は355nmを超えることが好ましく、360〜370nmであることが好ましく、約365nmであることがさらに好ましい。他のケージング分子に関する利点は、これらの高いUV波長で照射した場合のケージド分子の光分解の効率であることは当業者には明らかである。図3及び実施例3に示されているように、365nmのUV照射により、5分後に、本質的にケージドタンパク質の集団全体が脱ケージされる。
【0058】
ケージング基は、光分解の際に光分解の副生成物がリジンのe−アミノ基との縮合反応において反応しないように構築することがさらに好ましい。好ましい実施形態は、本発明によるケージドリジンが式(I)
【0059】
【化3】

(I)
【0060】
によるものである、又はその塩である場合である。
【0061】
本発明の別の態様は、タンパク質のアミノ酸配列に組み入れられた場合の上記のケージドリジンである。以下に考察するように、利点は、これにより、タンパク質の特定の性質の決定及び/又は変更が可能になることである。ケージドリジンがタンパク質の特定のポイントに存在することに起因してタンパク質の特定の性質の決定/変更が有利に可能になるので、組み入れは部位特異的であることが好ましい。
【0062】
部位特異的なケージドリジンアミノ酸の組み入れは、ポリペプチド配列内の任意のポイントにおけるものであってよい。これは、一般には、対象とするポリペプチドをコードする核酸のヌクレオチド配列の部位特異的ミューテーション、その後のその核酸の、ポリペプチドへの転写(必要であれば)及び翻訳によって実現される。組み入れは、現存するコドンを置き換えることによるものであってよい、又は、コドンを挿入することによるものであってよい。一般には、ケージドリジンを指定するために使用されるコドンは、アンバーコドンTAG(CUA)である。しかし、当然、組み入れのために使用されるtRNA合成酵素−tRNA対が、異なるコドン(又は四つ組コドン)を認識するtRNAを含む場合、アンバーコドンの代わりにそのtRNA合成酵素−tRNA対の対応する同族のコドンを使用する。アンバーコドンは、それによって遺伝的な組み入れを容易に実現することができる適切な直交性コドンの好ましい例であるが、そのような任意の他のコドン(複数可)の同族のtRNAに負荷する適切な系を使用することができるのであれば、これに限定するものでも、他のコドン(複数可)の使用を排除するものでもない。
【0063】
タンパク質のアミノ酸配列へのケージドリジンアミノ酸の部位特異的な組み入れは、タンパク質の野生型配列に存在するリジン残基の置き換えであることがさらに好ましい。前記タンパク質の利点は、一度照射及びその結果として生じる脱ケージングが起これば、そのリジン残基の内因性の性質、したがって、そのリジンによって媒介される(又はその影響を受ける)タンパク質の生物学的効果(複数可)を経験的に決定することが可能になることである。
【0064】
好ましい一実施形態では、上記の本発明によるタンパク質を、さらに標識用分子と連結させる。標識用分子は、タンパク質の一部の生物学的に関連性のある性質又は機能を決定するための実験的な状況の下で当業者が使用することができる任意の分子であってよい。そのような分子の一部の例は、放射性元素、蛍光マーカー又は発光マーカーである。タンパク質と標識用分子を連結する方法は、使用する標識用分子の種類に完全に左右され、その選択は、十分に当業者の専門知識の範囲内である。前記系の好ましい例では、標識用分子は、ケージドリジンが組み入れられたタンパク質のC末端と融合したGFPなどの蛍光タンパク質である。前記例は、タンパク質を連結する方法は、GFPタンパク質をコードするヌクレオチド配列を、ケージドアミノ酸を有するタンパク質をコードするプラスミドに組み入れることによって容易に実現されるので、好ましい。前記好ましい例では、細胞において発現させた、生じたタンパク質は、容易に可視化される。
【0065】
本発明の別の態様は、ケージドリジンアミノ酸を、真核細胞内にあることが適切である選択されたタンパク質に、遺伝的且つ部位特異的に組み入れる方法、例えばインビトロにおける方法などである。ケージドリジンアミノ酸を前記方法によって遺伝的に組み入れることの1つの利点は、この実施形態では、ケージドアミノ酸を含むタンパク質を直接標的細胞において合成することができるので、一度形成されたら、ケージドアミノ酸を含むタンパク質を細胞に送達する必要がなくなることである。この方法は、
i)タンパク質をコードするヌクレオチド配列における、所望の部位において、アンバーコドンなどの直交性コドンを導入する、又は特定のコドンをアンバーコドンなどの直交性コドンに置き換えるステップと、
ii)直交性ピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対の発現系を細胞に導入するステップと、
iii)本発明によるケージドリジンと共に培地中で細胞を培養させるステップと
を含む。
【0066】
ステップ(i)は、タンパク質の遺伝子配列における、所望の部位において、特定のコドンをアンバーコドンなどの直交性コドンに置き換えることを伴う。これは、ケージドリジンが導入される/それに置き換えられることが望まれる部位を、アンバーコドンなどの直交性コドンを含むように変化させた、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有するプラスミドなどの構築物を単に導入することによって実現することができる。これは、十分当業者の能力の範囲内であり、そのようなものの例が本明細書の以下に示されている。
【0067】
ステップ(ii)は、ケージドリジンアミノ酸を所望の位置に特異的に組み入れるための直交性の発現系を必要とする(例えば、アンバーコドン)。したがって、一緒に前記tRNAにケージドリジンを負荷することができる、直交性ピロリジルtRNA合成酵素などの特異的な直交性tRNA合成酵素と特異的な対応する直交性tRNAの対が必要である。
【0068】
したがって、本発明の別の態様は、本発明によるケージドリジンのためのピロリジルtRNA合成酵素などの直交性tRNA合成酵素を提供することである。前記直交性ピロリジルtRNA合成酵素は、表Iにおいて定義されている、最大5つの位置、M241残基、A267残基、Y271残基、L274残基及びC313残基において存在するミューテーション(複数可)を有する野生型ピロリジルtRNA合成酵素であることが適切である。好ましい実施形態では、直交性ピロリジルtRNA合成酵素は、表Iのクローン7である、すなわち、ミューテーションは、M241F、A267S、Y271C及びL274Mであり、これは、表Iにおいて定義されている通り、最も効率的な合成酵素クローンであることが見いだされているという利点を有する。
【0069】
上記方法のステップ(ii)を実行することを可能にするための発現系を構成するために、本発明による直交性ピロリジルtRNA合成酵素を直交性tRNAと結びつける必要がある。PyltRNACUAをコードする遺伝子であるPylTの使用は、真核生物のtRNAに見いだされるコンセンサス内部RNAポリメラーゼIIIプロモーター配列を欠いており、直交性ピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対において使用するための直交性tRNA系として当技術分野でよく知られている(Galli, G.; Hofstetter, H.; Birnstiel, M. L. Nature 1981, 294, 626-631)。PylTは、転写のために外部のプロモーターを必要とする。tRNA発現は、PylTの効率的な転写を可能にする、CMVエンハンサーの下流のU6プロモーター(Xia, X. G.; Zhou, H. X.; Ding, H. L.; Affar, E. B.; Shi, Y.; Xu, Z. S. Nucl. Acids Res. 2003, 31, e100)の制御下にあることが好ましい。
【0070】
したがって、上記方法のステップ(ii)において使用するために好ましい発現系は、
a.PyltRNACUA発現がCMVエンハンサーの下流のU6プロモーターの制御下にあるプラスミド、
b.CMVエンハンサーの制御下にある本明細書に記載の直交性ピロリジルtRNA合成酵素を含むプラスミド
を含む。
【0071】
本発明の別の態様では、本発明によるケージドリジンは、340nmを超えるUV光を照射することによって、タンパク質の少なくとも1つの性質を決定するため又は変化させるために使用することができる。照射は355nmを超えることが好ましく、360〜370nmであることがより好ましく、約365nmであることがさらにより好ましい。
【0072】
そのような使用の利点は、ケージドリジンを有するタンパク質が脱ケージングされる時間及び百分率の両方の意味で、ケージドから脱ケージドに切り換える方式が効率的に実現されること、及びそのようなシステムが非侵襲的であり、細胞に対して毒性でないことである。
【0073】
有利に、そのようなシステムは、真核生物内、それどころかヒト体内にあるタンパク質の少なくとも1つの性質を決定又は変更するために使用することができる。
【0074】
当該タンパク質の前記少なくとも1つの性質は、野生型タンパク質に存在し、ケージドアミノ酸が存在する場合には存在しない、当該タンパク質の生化学的性質であってよい。これは、当該タンパク質の唯一の生物学的機能であってよい、又は当該タンパク質のいくつかの性質のうちの1又は2以上であってよい。その性質が当該タンパク質の唯一の生物学的機能ではない例は、腫瘍抑制因子p53に存在するNLS配列である。その性質及びタンパク質に対するその効果は、タンパク質のサイズ、形状、及び同様に重要なことにポリペプチド鎖にケージドリジンが組み入れられる位置に応じて変動し得る。したがって、光分解によって脱ケージングした際の決定に使用される場合、本発明は、脱ケージングされるとタンパク質の生物学的効果に影響を及ぼすケージドリジン残基によって、どのように性質が妨害されるかを試験するためのオペレーターを可能にする。タンパク質の性質を変化させることにおけるその使用では、変化によって生じる生物学的効果は既知であり、したがって、研究することができる、又は、未知であってよく、その場合、本発明は、そのような性質を決定又は推測することに有意に適用することができる。既知の性質への本発明の適用の例は、今度はアンケージド配列が適切な細胞の区画内のタンパク質に局在化することを可能にし、それによって、動態研究又は他の観察を行うことを可能にするために、局在化配列に位置するケージドリジンを放出させるという要望である。
【0075】
ケージドリジンを、野生型タンパク質に存在するリジンに置き換えることが好ましい。これは、脱ケージングするとタンパク質がその野生型構造に戻るので、脱ケージングによって細胞内のタンパク質の内因性の機能を決定することが可能になるので、好ましい。
【0076】
変更のために使用する場合、変更によって生じる生物学的効果は既知である及び/又は所望のものであることを想定する。ケージドリジンのオルタネーター(alternator)(スイッチ[switch])としてのこのような使用は、脱ケージングによって生じるタンパク質の動態を試験するために作動させることができる。1つの例は、ケージドリジンが存在することによってタンパク質の折りたたみが妨害される場合である。そのような場合では、ケージドアミノ酸を脱ケージングすることにより、タンパク質の折りたたみが再び起こることが可能になり、さらに、それにしたがって、脱ケージングに起因するタンパク質の折りたたみの動態を測定することが可能になる。別の例は、ケージドリジンアミノ酸を局在化配列に組み入れることである。これにより、脱ケージングされるまでタンパク質の適切な局在化が攪乱され、タンパク質の局在化の動態を測定することが可能になる。したがって、所望のタンパク質の性質が脱ケージングによって変化する本発明の実施形態は、時には、「スイッチング(switching)」又は「オルタネーション(alternation)」(すなわち、脱ケージングされた状態である、タンパク質の代替の形態に移ること)と称される。
【0077】
さらに、340nmを超えるUV光を照射することによってタンパク質の少なくとも1つの性質を変化させること(オルタネーティングさせること)に関する本明細書の上記の使用は、治療目的で使用することができるものと企図する。脱ケージングによるオルタネーションにより、以前は局在化する/ある特定の機能を有する/完全に折りたたまれていることが望ましくなかったタンパク質を、今度は局在化する/ある特定の機能を有する/完全に折りたたまれている、したがって、特定の治療的機能を有するようにすることができる。起こり得るそのような状況のタンパク質の例は、膜タンパク質であり、特に公知の表面抗原分類タンパク質、又は、例えば、補体免疫系に属する抗体若しくはタンパク質の発現である。
【0078】
ケージドリジン種
式Iのケージドリジン以外の代替のケージドリジンを本発明において使用することができる。有用なケージドリジン化合物の例を図13に示している。
【0079】
可能性のある化合物は、(Mayer, G.; Heckel, A. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 4900-4921)に概説されている。
【0080】
図13に示されている化合物は、以下の引用に詳細に記載されている。これらの引用の、図13に示されている化合物を説明している節、具体的には、図13に示されている対応する化合物(複数可)の構造又は産生の詳細について特に参照により本明細書に組み込まれる:
化合物4:Momotake et al. Nat. Meth. 3、35-40(2006)
化合物5:Walbert et al. Helv. Chim. Acta 84、1601−1611(2001)
化合物6:Singh et al. Bioconjug. Chem. 13、1286-1291(2002)
化合物7:Furuta et al. Proc. Nat. Acad. Sci. 96、1193-1200(1999);Suzuki et al. Org. Lett. 5、4867-4870(2003);Hagen et al. ChemBioChem 4、434-442(2003)。
化合物8:Fedoryak et al. Org. Lett. 4、3419-3422(2002)。
化合物9:Park et al. JACS 119、2453-2463(1997);Zhang et al. JACS 121、5625-5632(1999);Conrad II et al. Org Lett 2、1545-1547(2000)。
化合物10:Atemnkeng et al. Org Lett 5、4469-4471(2003)。
化合物11:Klan et al. Photochem Photobiol Sci 1、920-923(2002);Klan et al. Org Lett 2、1569-1571(2000)
【0081】
ケージドリジンは、式Iに示されている通りであることが最も適切である。
【0082】
参照配列
メタノサルシナ・バーケリ(Methanosarcina barkeri)PylT遺伝子は、MbtRNACUA tRNAをコードする。
【0083】
メタノサルシナ・バーケリのPylS遺伝子は、MbPylRS tRNA合成酵素タンパク質をコードする。数値アドレスを用いて特定のアミノ酸残基を参照する場合、MbPyIRS(メタノサルシナ・バーケリ ピロリジル−tRNA合成酵素)アミノ酸配列を参照配列(すなわち、公的に入手可能な野生型メタノサルシナ・バーケリ PylS遺伝子、受託番号Q46E77にコードされる)として用いて番号付けする:
MDKKPLDVLI SATGLWMSRT GTLHKIKHYE VSRSKIYIEM ACGDHLVVNN SRSCRTARAF RHHKYRKTCK RCRVSDEDIN NFLTRSTEGK TSVKVKVVSA PKVKKAMPKS VSRAPKPLEN PVSAKASTDT SRSVPSPAKS TPNSPVPTSA PAPSLTRSQL DRVEALLSPE DKISLNIAKP FRELESELVT RRKNDFQRLY TNDREDYLGK LERDITKFFV DRDFLEIKSP ILIPAEYVER MGINNDTELS KQIFRVDKNL CLRPMLAPTL YNYLRKLDRI LPDPIKIFEV GPCYRKESDG KEHLEEFTMV NFCQMGSGCT RENLESLIKE FLDYLEIDFE IVGDSCMVYG DTLDIMHGDL ELSSAVVGPV PLDREWGIDK PWIGAGFGLE RLLKVMHGFK NIKRASRSES YYNGISTNL
【0084】
これは、所望の残基を位置づけるために当技術分野でよく理解されている通りに使用するべきである。これは常に厳密な計数行為というわけではない−前後関係に注意を払わなければならない。例えば、所望のタンパク質が、長さがわずかに異なる場合、その配列内の(例えば)Y271に対応する正しい残基の位置づけには、単に所望の配列の271番目の残基を取るのではなく、配列をアラインメントし、等価物又は対応する残基を選ぶことが必要になる場合がある。これは、十分当業者(skilled reader)の範囲内である。
【0085】
ミューテーションとは、当技術分野における通常の意味を有し、言及されている残基、モチーフ又はドメインの置換又は短縮又は欠失を指し得る。ミューテーションは、ポリペプチドレベルで、例えば、ミューテーションした配列を有するポリペプチドを合成することによって行うことができる、又は、ヌクレオチドレベルで、例えば、ミューテーションした配列をコードする核酸を作製することによって行うことができ、その核酸を、その後翻訳してミューテーションしたポリペプチドを産生することができる。所与のミューテーション部位に対する置き換えアミノ酸として特定されるアミノ酸がない場合、例えば、本明細書に記載の通り、本発明のtRNA合成酵素の進展及び適応に関連して、前記部位のランダム化を用いることが適切である。初期状態のミューテーションとして、アラニン(A)を用いることができる。特定の部位(複数可)において使用されるミューテーションは本明細書で示されている通りであることが適切である。
【0086】
断片は、長さが少なくとも10アミノ酸であることが適切である、少なくとも25アミノ酸であることが適切である、少なくとも50アミノ酸であることが適切である、少なくとも100アミノ酸であることが適切である、少なくとも200アミノ酸であることが適切である、少なくとも250アミノ酸であることが適切である、少なくとも300アミノ酸であることが適切である、少なくとも313アミノ酸であることが適切である、又は、所望のtRNA合成酵素ポリペプチドの大多数であることが適切である。
【0087】
本発明のポリヌクレオチドは、組換え型の複製可能なベクターに組み入れることができる。ベクターを使用して、適合性宿主細胞内の核酸を複製することができる。したがって、別の実施形態では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを複製可能なベクターに導入すること、ベクターを適合性宿主細胞に導入すること、及びベクターの複製をもたらす条件下で宿主細胞を培養させることによって本発明のポリヌクレオチドを作製する方法を提供する。ベクターは、宿主細胞から回収することができる。適切な宿主細胞としては、大腸菌などの細菌が挙げられる。
【0088】
ベクター内の本発明のポリヌクレオチドは、宿主細胞によるコード配列の発現をもたらすことができる制御配列に作動可能に連結していることが好ましい、すなわち、ベクターは、発現ベクターである。「作動可能に連結している」という用語は、記載されている構成成分が、それらが、それらの意図された様式で機能することを可能にする関係にあることを意味する。コード配列に「作動可能に連結している」調節配列は、制御配列と適合する条件下でコード配列の発現が実現されるようにライゲーションする。
【0089】
本発明のベクターは、本発明のタンパク質の発現をもたらすために、記載の通り、適切な宿主細胞に形質転換すること又はそれにトランスフェクトすることができる。このプロセスは、上記の発現ベクターを用いて形質転換した宿主細胞を、ベクターによってタンパク質をコードするコード配列の発現がもたらされる条件下で培養することを含んでよく、場合によって発現されるタンパク質を回収することを含んでもよい。
【0090】
ベクターは、例えば、複製開始点、場合によって前記ポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーター、及び場合によってプロモーターの調節因子を備えるプラスミド又はウイルスベクターであってよい。ベクターは、1又は2以上の選択マーカー遺伝子、例えば、細菌プラスミドの場合ではアンピシリン耐性遺伝子を含有してよい。ベクターは、例えば、宿主細胞をトランスフェクト又は形質転換するために用いることができる。
【0091】
本発明のタンパク質をコードする配列に作動可能に連結した制御配列は、プロモーター/エンハンサー及び他の発現調節シグナルを含む。これらの制御配列は、発現ベクターを使用するために設計する対象の宿主細胞と適合するように選択することができる。プロモーターという用語は当技術分野で周知であり、最小のプロモーターから上流エレメント及びエンハンサーを含むプロモーターまでのサイズ及び複雑さにわたる核酸領域を包含する。
【0092】
タンパク質の発現及び精製
本発明のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を使用して、本発明のタンパク質を発現させることができる。宿主細胞は、本発明のタンパク質の発現を可能にする適切な条件下で培養することができる。本発明のタンパク質の発現は、それらが連続的に産生されるように構成的であってよい、又は、発現を開始するために刺激を必要とする誘導性であってよい。誘導性の発現の場合では、タンパク質の産生は、必要な時に、例えば、培地に、誘導性物質、例えば、デキサメタゾン又はIPTGを加えることによって開始することができる。
【0093】
本発明のタンパク質は、宿主細胞から、酵素的溶解、化学的溶解及び/又は浸透性の溶解及び物理的な破壊を含めた当技術分野で公知のさまざまな技法によって抽出することができる。
【0094】
以下の非限定的な例は、本発明の例示である:
【0095】
全ての実施例において、式(I)によるケージドリジンは、それ自体で表示する、又は化合物1として表示する。
【0096】
我々は、タンパク質の局在化、翻訳後修飾及び酵素活性を制御するためのリジンの光ケージングについて教示している。タンパク質のリジン残基によって媒介されるこれらの重要な機能を光化学的に制御することは、生細胞においてこれまで実証されていない。本発明では、1を合成し、哺乳動物の細胞において、アンバーコドンに応じてこのアミノ酸の組み入れを遺伝的にコードするように、ピロリジル−tRNA合成酵素/tRNA対を進化させる。このアミノ酸の有用性を例証するために、ヒト細胞における核質の核局在化配列(NLS,nuclear localization sequence)及び腫瘍抑制因子p53をケージし、したがって、これらのタンパク質を細胞質ゾルに誤って局在化させる(mis-localizing)。核内移入の動態を直接数量化することを可能にする光のパルスを用いてタンパク質の核内移入を誘発する。
【実施例1】
【0097】
式Iによるケージドリジンの合成
ニトロベンジルケージドリジン1を、塩基性THF/HO溶液中、0℃でNα−Boc−リジンとクロロギ酸エステル3を反応させ、4を収率82%でもたらし、その後CHCl中TFAを用いて収率95%で脱保護することによって調製した(スキームS1)。クロロギ酸エステル3を、アルコール3(ref19に従って合成された)を、NaCOの存在下でTHF中トリホスゲンを用いたアシル化、その後の揮発性物質の蒸発、及びさらなる精製を伴わない直接的な反応によって生成した。NaCOを存在させることにより、2が脱水されて対応するスチレンになることを防いだ。
【0098】
【化4】

【0099】
合成プロトコール
(2S)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−6−{[1−(6−ニトロベンゾ[d][1,3]ジオキソール−5−イル)エトキシ]カルボニルアミノ}ヘキサン酸(4)
1(6−ニトロベンゾ[d][1,3]ジオキソール−5−イル)エタノール(2)(500mg、2.36mmol)を、NaCO(247mg、2.36mmol)を含有するTHF(5mL)に溶解させ、0℃まで冷却した。この溶液に、トリホスゲン(701mg、2.36mmol)を加え、反応物を室温で12時間撹拌し続けた。反応物を濾過し、その後、揮発性物質を加熱せずに蒸発させ、残渣を真空下で乾燥させて、NPOCクロロギ酸エステル3を定量的変換で得た(644mg、2.36mmol)。Nε−Boc−リジン(500mg、2.02mmol)のTHF/1MのNaOH(aq.)中溶液(1:4混合物、総量8mL)に、0℃で、NPOC−α−メチルクロロギ酸エステル3(496mg、1.82mmol)を加えた。反応物を室温で12時間撹拌した後、水層をEtO(5mL)で洗浄し、その後、氷冷の1MのHCI(20mL)を用いてpH1まで酸性化し、EtOAc(30mL)を用いて抽出した。有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、揮発性物質を蒸発させ、4を黄色の泡として収率82%でもたらした(720mg、1.49mmol)。H NMR(300MHz,CDCl)δ=1.18〜1.81(m,18H)、3.08(br s,2H)、4.23(br s,1H)、5.11〜5.38(m,1H)、6.07(s,2H)、6.20〜6.36(m,1H)、6.99(s,1H)、7.40(s,1H)。13C NMR(75MHz,CHCl)δ=22.3、22.6、28.5、29.4、32.3、40.8、53.3、69.1、80.4、103.3、105.4、105.8、136.7、141.5、147.2、152.6、155.7、156.1、176.4。HRMS:m/z計算値C212910[M+Na]:506.1745;実測値:506.1748。(H NMRスペクトルについては図1参照)
【0100】
(2S)−2−アミノ−6−{[1−(6−ニトロベンゾ[d][1,3]ジオキソール−5−イル)エトキシ]カルボニルアミノ}ヘキサン酸TFA塩(1)
化合物4(720mg、1.49mmol)をDCM:TFA(1:1混合物、総量14mL)に溶解させ、反応物を40分間攪拌した。その後、揮発性物質を蒸発させ、残渣をMeOH(5mL)に再溶解させ、EtO(250mL)中に沈殿させ、1を白色固体として収率95%でもたらした(679mg、1.42mmol)。H NMR(300MHz,DO)δ=1.08〜1.40(m,7H)、1.63〜1.88(m,2H)、2.80〜2.88(m,2H)、3.83〜3.97(m,1H)、5.91〜6.00(m,3H)、6.92(s,1H)、7.28(s,1H)。13C NMR(75MHz,DO)δ=21.1、21.7、28.5、29.5、39.9、52.7、68.8、103.6、104.4、105.7、136.1、140.6、146.9、152.7、156.9、171.9。HRMS:m/z計算値C1521[M+H]:384.1402;実測値:384.1403。(H NMRスペクトルについては図2参照)
【実施例2】
【0101】
式(I)によるケージドリジンのための直交性のピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対の合成
アンバーコドンに応じてケージドリジン1を組み入れるための直交性のMbPylRS/PyltRNACUA対(Neumann, H.; Peak-Chew, S. Y.; Chin, J. W. Nat. Chem. Biol. 2008, 4, 232-234)を進化させるために、ピロリジン環の結合ポケット内の5つの位置(M241、A267、Y271、L274、C313)を可能性のある全てのアミノ酸に対してランダム化した10種のMbPyIRSのミューテーション体のライブラリーを創出した。
【0102】
pBKAcKRS3amp(Neumann, H.; Hancock, S. M.; Buning, R.; Routh, A.; Chapman, L.; Somers, J.; Owen-Hughes, T.; van Noort, J.; Rhodes, D.; Chin, J. W. Molecular Cell 2009, 36, 153-163)を、MbPyIRSミューテーション体のライブラリーの生成における鋳型として使用した。インバースPCR(Rackham, O.; Chin, J. W. Nat. Chem. Biol. 2005, 1, 159-166)を3ラウンド実施して、このライブラリー内の20種の天然アミノ酸全てに対してM241、A267、Y271、L274及びC313のコドンをランダム化した。PCR反応の各ラウンドにおいて以下のプライマーを使用した:
・(ラウンド1)PylSM241f(5’-GCGCAGGTCTCAGAACGTNNKGGCATTAACAACGACACCGAACTGAGCAAAC-3’)及びPylSM241r(5’-GCGCAGAGTAGGTCTCAGTTCCACATATTCCGCCGGAATCAGAATC-3’);
・(ラウンド2)PylSAYLf(5’-GCGCAGGTCTCAATGCTGN NKCCGACCCTGNNKAACTATNNKCGTAAACTGGATCGTATTCTGCCGGGC-3’)及びPylSAYLr(5’-GCGCAGAGTAGGTCTCAGCATCGGACGCAGGCACAGGTTTTTATC-3’);
・(ラウンド3)PylSC313f(5’-GCGCAGGAAAGGTCTCAAACTTTN NKCAAATGGGCAGCGGCTGCACCCGTGAAAAC-3’)及びPylSC313r(5’-GCGCAGAGTAGGTCTCAAGTTAACCATGGTGAATTCTTCCAGGTGTTCTTTG-3’)。
【0103】
各ラウンドにおけるPCR産物を、まず、Dpnl及びBsalを用いて消化し、ライゲーションによって再環状化し、エレクトロコンピテントDH10Bを形質転換するために使用した。再単離したプラスミドは、ミューテーション誘発の次のラウンドの鋳型としての機能を果たした。ミューテーション誘発の第3ラウンドのライゲーション産物を用いてエレクトロコンピテントDH10Bを形質転換することにより、ライブラリーの理論的な多様性(2×10)を99%超網羅する10種の形質転換体が産生された。1に特異的なミューテーション体の選択を、アセチル−リジンに特異的な合成酵素の進化について記載されている通り行った(Neumann, H.; Peak-Chew, S. Y.; Chin, J. W. Nat. Chem. Biol. 2008, 4, 232-234)。
【0104】
以前に記載されている通り(Neumann, H.; Peak-Chew, S. Y.; Chin, J. W. Nat. Chem. Biol. 2008, 4, 232-234、Chin, J. W.; Martin, A. B.; King, D. S.; Wang, L.; Schultz, P. G. Proc. Natl. Acad. Sci. 2002, 99, 11020-11024)、大腸菌において、このライブラリーに対する陽性の選択及び陰性の選択を交互に3ラウンド実施した。選択で残存したクローンを、許容的な位置にアンバーコドンを有するクロラムフェニコール耐性遺伝子をコードするプラスミドを用いて形質転換した。最良のクローンでは、1(1mM)の存在下で、300μg/mlに至るまでのクロラムフェニコールを含有する培地において細胞が残存することが可能になったが、1の非存在下では、50μg/mlで残存しなかった。これは、選択された合成酵素が1に対して高い特異性を有し、共通の20アミノ酸のいずれも組み入れないことを実証している。最も活性な合成酵素は、野生型MbPylRSに対してミューテーションM241F、A267S、Y271C、及びL274Mを含有した。この合成酵素を光ケージドLysyl−tRNA合成酵素(PCKRS)と名付け、さらに特徴付けた(全ての単離されたMbPyIRS配列については表1を参照されたい)。
【実施例3】
【0105】
インビトロにおけるミオグロビンにおける365nmの光を照射した際のデケージングの実証
1.ミオグロビンの発現及び精製
非天然アミノ酸を組み入れたミオグロビンを発現させるために、我々は、大腸菌DH10B細胞を、pBKamp-PCKRS及びpMyo4TAGPylT-his6を用いて形質転換した。細胞を、37℃で1時間、1mlのLB培地中に回収した後、アンピシリン(100μg/mL)及びテトラサイクリン(25μg/mL)を含有するLB100mL中でインキュベートした(37℃、250r.p.m.で16時間)。この一晩培養物20mLを使用して、アンピシリン(50μg/mL)、テトラサイクリン(12μg/mL)及び2mMの1を補充したLB1Lに接種した。細胞を培養させ(37℃、250r.p.m.)、OD600〜0.6において、アラビノースを最終濃度0.2%まで加えることによってタンパク質の発現を誘導した。誘導の3時間後に細胞を回収した。タンパク質を4℃で超音波処理によって抽出した。抽出物を遠心分離によって澄ませ(20分、21,000g、4℃)、Ni2+−NTAビーズ(Qiagen社製)300μlを抽出物に加え、混合物を4℃で1時間、撹拌しながらインキュベートした。遠心分離によって(10分、1000g)ビーズを採取した。ビーズを2回、洗浄緩衝液50mLに再懸濁させ、1000gで遠心沈澱させた。その後、ビーズを洗浄緩衝液20mlに再懸濁させ、カラムに移した。タンパク質を、250mMのイミダゾールを補充した洗浄緩衝液1ml中に溶出させ、次いで、セファデックス(Sephadex)G25カラムを用いて20mMの炭酸水素アンモニウムに対して再緩衝した。
【0106】
145位のアンバーコドンに応じて非天然アミノ酸(BocK又は1)を組み入れるsfGFP−his6(psfGFP145TAGPylT-his6)を同じプロトコールに従って発現させ、精製した。
【0107】
2.タンパク質の質量分析
LCT飛行時間型質量分光計においてエレクトロスプレーイオン化(ESI,electrospray ionization、Micromass社)を用いてタンパク質の総質量を決定した。タンパク質を20mMの炭酸水素アンモニウムに再緩衝し、ギ酸(メタノール/H2O=1:1中1%)と1:1で混合した。試料を1分当たり10μlで注入し、ウマ心臓ミオグロビンを使用して陽イオンモードで較正を実施した。60のスキャンを平均し、MassLynxバージョン4.1(Micromass社製)を使用して、多重荷電したタンパク質の質量スペクトルについて、畳み込みを解くことによって分子質量を得た。野生型タンパク質の理論的質量を、Protparam(http://us.expasy.org/tools/protparam.html)を使用して算出し、タンパク質を含有する非天然アミノ酸についての理論的質量を手動で調整した。
【0108】
sfGFP(145−1)のMS/MS分析のために、ゲルバンドを洗浄し、アルキル化し、トリプシンを用いてゲル内消化した。消化物混合物1μlをCHCAマトリックス(60%のMeCN/0.1%のTFA中3mg/ml)1μlと予備混合し、1μlをステンレス鋼の標的に塗布した。Ultraflex III TOF/TOF質量分光計(Bruker Daltonics社、Bremen、Germany)を用いてスペクトルを取得した。さらにMS/MS断片化するために、1で修飾したペプチドと一致するm/z2145.972の断片を手動で選択した。一連の断片化イオンにより、ペプチドLEYN(1)NSHNVYITADKの同一性及び修飾部位が確認された。
【0109】
アンケージングプロセスを分析するために、高出力LED供給源モジュール(Black-led-365、Prizmatix社製)を365nmで用いて、精製したミオグロビンを365nmで光分解した。次いで、タンパク質の総質量を上記の通り決定した。
【0110】
PCKRS/PyltRNACUAの存在下でのmyo4TAGhis6(Neumann, H.; Peak-Chew, S. Y.; Chin, J. W. Nat. Chem. Biol. 2008, 4, 232-234、Chin, J. W.; Martin, A. B.; King, D. S.; Wang, L.; Schultz, P. G. Proc. Natl. Acad. Sci. 2002, 99, 11020-11024)の発現は効率的であり、1の添加に依存した。エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS,Electrospray ionization mass spectrometry)及びMS−MS配列決定により、単一の遺伝的にコードされた部位に1が組み入れられることが確認される(図3)。インビトロで365nmの光を照射すると、1を含有するミオグロビンが効率的に脱ケージングされることが確認された(図3E)。
【実施例4】
【0111】
直交性のPCKRS/PyltRNACUA対がヒト細胞において機能的であることの実証
PCKRS/PyltRNACUA対がヒト胎児由来腎臓(HEK293)細胞において機能的であることを実証するために、我々は、1の存在下、及び非存在下で、mCherry−TAG−egfp−ha(このレポーターは、N末端のmCherry遺伝子、アンバー終止コドンを含有するリンカー、C末端の高感度GFP遺伝子、及びHAタグコード配列を含有する)、PCKRS及びPyltRNACUAを含有する細胞の赤色の蛍光及び緑色の蛍光を検査した。
【0112】
プロトコール
1.培養、トランスフェクション及び免疫ブロット分析
接着性のヒト胎児由来腎臓(HEK,human embryonic kidney)−293細胞を、37℃、5%のCO雰囲気下、10%のFBS及び1×pen-strep溶液を補充したDMEM+GlutaMAX−1培地(Gibco社製)中で培養した。細胞を、Genejuice(Novagen社製)を製造者のプロトコールに従って用いて一過性にトランスフェクトした。二重のトランスフェクションを、両方のプラスミドを等量用いて実施した。トランスフェクトする前に、培地を、必要な場合、非天然アミノ酸を補充した新鮮な抗生物質を含まない培地に交換した(濃度については図の説明文を参照されたい)。トランスフェクトした24時間後に細胞を分析した。ウエスタンブロット分析のために、細胞を低温のPBSで洗浄し、次いで普遍的な溶解緩衝液(Roche社製)を用いて4℃で10分間溶解した。HAタグ(Sigma社製)、Flagタグ(Cell signaling社製)、Ds−Red(Clontech社製)又はp53(Abcam社製)に対する抗体を使用してウエスタンブロットを実施した。
【0113】
2.質量分析
100mmのペトリ皿中のHEK293細胞を、mCherry−TAG−egfp−ha及びPCKRS/PyltRNACUAでトランスフェクトし、2mMの1の存在下で24時間培養させた。細胞を溶解し、ProFound(商標)Mammalian HA Tag IP/Co-IP Kit(Pierce社製)を製造者のプロトコールに従って使用して、全長のmCherry−1−EGFP−HAをプルダウンした。タンパク質試料を、SDS−PAGEによって精製した。所望のタンパク質バンドをクーマシーブルー染色したゲルから切除し、洗浄し、アルキル化し、トリプシンを用いてゲル内消化した。ゲル内消化ペプチド混合物の一部を、ナノスケールの液体クロマトグラフィー(Dionex社製)によって、逆相C18カラム(150×0.075mm ID、流速0.2μl/分)で分離した。溶出液をLTQ-Orbitrap-XL(Thermo Scientific社製)質量分光計に直接導入した。社内のMASCOT MS/MSイオン検索(www.matrixscience.com)を使用して、タンパク質配列AQASPWH1QLAMVSK(mCherry−1−EGFP−HAの残基243〜257)に対してスペクトルを検索した。一連の断片化を手動で検査することによって同一性及び修飾部位を確認した。
【0114】
顕微鏡
mCherry−TAG−EGFP−HAを発現している細胞をイメージングするために、24ウェルプレートに細胞を播種し、トランスフェクトした。レーザー走査型共焦点顕微鏡検査を、Plan Fluor ELWD 20×/0.45対物レンズを備えたNikon Eclipse TE300倒立顕微鏡に搭載したBio-Rad Radiance 2100システムを使用して実施した。EGFPについては515〜530nmの蛍光発光を測定し(励起波長:488nm)、mCherryについては560nm超の蛍光発光を測定した(励起波長:543nm)。
【0115】
生細胞をイメージングするために、μ−Dish(Ibidi社製)に細胞を播種し、トランスフェクトした。室温で、Plan Apochromat 63×/1.4油浸対物レンズを備えたZeiss LSM 710レーザー走査顕微鏡を用いて生細胞をイメージングした。EXFO X-Cite120 XLシステムを用いて、UVフィルター(フィルターの設定−励起G365、ビームスプリッターFT395、発光BP445/50)を備えた120ワットのハロゲン化金属ランプを使用して、細胞を1〜5秒間照明し(力:1.2mW/cm)、室温でイメージングした(励起:488nm、放出:500〜560nm)。顕微鏡の設定:細胞画像については、スキャン解像度512×512、平均化8、スキャンズーム3×、スキャンスピード10;リアルタイムイメージングについては、スキャン解像度512×512、平均化1、スキャンズーム5×又は3×、スキャンスピード8。平均の核蛍光強度(Fn)及び細胞質の蛍光強度(Fc)を、ImageJソフトウェアを用いて数量化して、次式に従ってF(n/c)比を決定することを可能にした:F(n/c)=(Fn−Fb)/(Fc−Fb)、Fbは平均バックラウンド蛍光強度である。
【0116】
プラスミド
哺乳動物の細胞においてヒトTyr−tRNACUAを発現させるためのプラスミドpCR2.1/htRNATyrCUAは、Ashton Cropp(University of Maryland)からの好意の寄贈品であった。哺乳動物の細胞において発現させるためにコドン最適化したMbPyIRS遺伝子及びMmPyIRS遺伝子は、GeneArt社から購入した。
【0117】
1.pMbPylRS-mCherry-TAG-EGFP-HA及びpPCKRS-mCherry-TAG-EGFP-HAの構築
我々は、どちらもCMVプロモーターの制御下にあるMbPyIRS又はPCKRS(N末端のFlagタグを有する)を発現させることができる単一のプラスミドを、mCherry−TAG−EGFP(C末端のHAタグを有する)を用いて構築した。これを行うために、最初に、鋳型としてpEGFP-N1(Clonetch社製)、及びプライマーmGFPHindamf/AG27を用いてPCRによってEGFP−HA配列を生成することによって、及び、次いで、HindIII制限部位及びBamHI制限部位を用いてPCR産物をpmCherry-C1(Clontech社製)に導入することによって、プラスミドpmCherry-TAG-EGFP-HA(mCherry−TAG−GFP−HAの発現を可能にする)を造った。次いで、プライマー3367bkf/3367bkr用いてベクターの骨格を増幅することによって、及び、次いでPCR産物をSacllで消化し、再ライゲーションし、プラスミドpMCS-mCherry-TAG-EGFP-HAをもたらすことによって、pmCherry-TAG-EGFP-HAのCMVプロモーターの上流に多重クローニング部位(MCS,multiple cloning site)を導入した。次いで、上流のCMVプロモーター及びポリA部位を含有する下流の配列に隣接するFlag−MbPyIRSの配列を、プライマーKpnpvuKSf/AgesacKSrを用いて、及び鋳型として、Flag−MbPyIRS遺伝子(哺乳動物の細胞での発現のためにコドン最適化した)をpCDNA4/TO(Invitrogen社製)のBamHI部位及びHindIII部位に導入することによって最初に造ったプラスミドを使用して、PCRによって増幅した。次いで、生じた断片を、pMCS-mCherry-TAG-EGFP-HA内のPvul部位とSacll部位の間でライゲーションし、プラスミドpMbPylRS-mCherry-TAG-EGFP-HAをもたらした。Flag−MbPyIRSの代わりにFlag−PCKRSを含有するプラスミドpPCKRS-mCherry-TAG-EGFP-HAを、Flag−PCKRS遺伝子(哺乳動物の細胞での発現のためにコドン最適化した)をpMbPylRS-mCherry-TAG-EGFP-HAのAfIII部位及びEcoRI部位にクローニングすることによって生成した。PCKRS内のミューテーションをPCRによって導入した:2つの断片を、プライマーAG40/AG43及びAG42/AG41、及び鋳型としてMbPylRS遺伝子を使用して生成し、次いで、オーバーラップPCRによって、プライマーAG40/AG41を使用して組み立てた。
【0118】
2.p4CMVE-U6-PylTの構築
我々は、哺乳動物の細胞におけるPyltRNACUAの発現を可能にするプラスミドp4CMVE-U6-PylTを構築した。発現は、上流のCMVエンハンサーを有するU6プロモーターによって駆動される。最初に、pmCherry-C1(Clontech社製)のCMVプロモーター由来のCMVエンハンサー配列(CMVE,CMV enhancer sequence)(1〜484)を、プライマーAG16/AG17を用いてPCRによって増幅し、PCR産物を、BamHI及びBgIIIを用いて消化し、消化産物を、BgIII部位を用いてpSIREN-Shuttle(Clontech社製)にライゲーションしてpCMVE-U6をもたらした。次いで、5’−リーダー、5'-AGATCTTCTAGACTCGAA-3'、及び3’−トレーラー、5'-GACAAGTGCGGTTTTT-3'に隣接するPyltRNACUAのDNA配列からできた配列、5'-GGAAACCTGATCATGTAGATCGAATGGACTCTAAATCCGTTCAGCCGGG TTAGATTCCCGGGGTTTCCG-3'を、プライマーAG30/AG20及び鋳型としてPyltRNACUA配列を含有するプラスミドを使用してPCRによって生成した。次いで、PCR産物をBamHI及びMfeIを用いて消化し、BamHI部位及びEcoRI部位を用いてpCMVE-U6にライゲーションしてpCMVE-U6-PylTをもたらした。次いで、pCMVE-U6-PylT由来のCMV−U6−PylT配列をSpel及びEcoRIを用いて切断することによって、次いで、生じた断片をpCMVE-U6-PylTのNheI部位及びEcoRI部位にライゲーションすることによって2倍のCMVE−U6−PylTのクラスターを生成し、p2CMVE-U6-PylTをもたらした。4倍のCMVE−U6−PylTのクラスターを含有するプラスミドp4CMV-U6-CMVを、p2CMVE-U6-PylT内の2倍のCMVE−U6−PylTのクラスターをSpel及びEcoRIによって切断することによって、次いで、生じた断片をp2CMVE-U6-PylTのNheI部位及びEcoRI部位にライゲーションすることによって生成した。
【0119】
結果
予測通り、mCherry蛍光は1ありで、又は1なしで検出されたが、EGFP蛍光は、1(1mM)を加えた際にのみ観察された(図4)。これにより、哺乳動物の合成酵素は、ヒト細胞においてPyltRNACUAを目に見えるほどにアミノアシル化しないこと(Mukai, T.; Kobayashi, T.; Hino, N.; Yanagisawa, T.; Sakamoto, K.; Yokoyama, S. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2008, 371, 818-822)が確認され、またこれは、1を用いたPCKRS/PyltRNACUA対によるアンバーコドンの抑制と一致する。PyltRNACUA又はPCKRSを欠く対照実験により、アミノ酸の組み入れにはその両方が必要であることが実証されている(図5)。ウエスタンブロット分析(図4C)により、PCKRS/PyltRNACUA対を用いた1の組み入れの効率は、内在性のヒトチロシル−tRNA合成酵素によって効率的にアミノアシル化されるヒトチロシル−tRNACUA(hTyrtRNACUA)を用いたチロシンの組み入れの効率に匹敵することが示されている。MbPyIRS/PyltRNACUA対及びPylRS(Mukai, T.; Kobayashi, T.; Hino, N.; Yanagisawa, T.; Sakamoto, K.; Yokoyama, S. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2008, 371, 818-822、Nguyen, D. P.; Lusic, H.; Neumann, H.; Kapadnis, P. B.; Deiters, A.; Chin, J. W. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 8720-8721)の公知の基質であるε−Boc−保護されたリジンを用いて同様の結果が得られた(図6)。哺乳動物の細胞において1がmCherry−EGFP−HAに部位特異的に組み入れられることを、さらに、MS/MS配列決定によって確認した(図4D)。
【実施例5】
【0120】
核内移入プロセスの試験におけるケージドリジンによる光化学的な制御の有用性の実証
哺乳動物の細胞における機能的研究に対する1の適用性を実証するために、我々は、まず、核内移入プロセスを光化学的に制御することに対するその有用性を調査した。詳細には、核質の古典的な二分核定位シグナル(NLS)(Robbins, J.; Dilworth, S. M.; Laskey, R. A.; Dingwall, C. Cell 1991, 64, 615-623)によって駆動される核内移入の動態を、インポーチン−αの結合に関与するリジン残基の1つをケージングすることによって調査した(図7A)。N末端の野生型NLSを有するGFP−HA(nls−gfp−ha)の発現を可能にする構築物、標的のリジンをアラニンに置き換えたNLSミュータントを有するGFP−HA(nls−A−gfp−ha)の発現を可能にする構築物、及び標的リジンをアンバーコドンに置き換えたNLSミュータントを有するGFP−HA(nls−*−gfp−ha)の発現を可能にする構築物を生成した。
【0121】
プロトコールは、上記に従い、以下にも従った:
pPCKRS−NLS−GFP−HA、pPCKRS−NLS−GCC−GFP−HA、pPCKRS−NLS−TAG−GFP−HAの構築
プラスミドを、NLS−GFP−HA、NLS−GCC−GFP−HA又はNLS−TAG−GFP−HAについてのPCR断片を、pPCKRS-p53-EGFP-HAのNheI部位及びBsshI部位にライゲーションすることによって得た(実施例6を参照されたい)。鋳型としては、Murray Stewart(MRC Laboratory of Molecular Biology社、Cambridge UK)によって提供された、GFPと融合した核質NLSを含有するプラスミドを使用した。NLS−GFP−HAのPCR断片を、プライマーAG95/AG96を使用することによって得た。NLS−GCC−GFP−HAのPCR断片を、プライマーAG95/AG96を使用して、オーバーラップPCRによって2つの断片(プライマーAG95/AG98及びAG99/AG96を用いて生成した)を組み立てることによって得た。NLS−TAG−GFP−HAのPCR断片を、プライマーAG95/AG96を使用して、オーバーラップPCRによって2つの断片(プライマーAG95/AG97及びAG99/AG96を用いて生成した)を組み立てることによって得た。
【0122】
結果
nls−*−gfp−ha由来の全長のNLS−GFP−HAタンパク質の発現は、PCKRS/PyltRNACUA対及び1の添加に依存し、これは、アンバーコドンに応じて1が組み入れられることを実証している(図7B)。我々は、次に、蛍光イメージングによって、光ケージドリジン1が、アラニンミューテーションと同じくらい効率的にNLS機能を遮断し、GFP融合物の、細胞質への部分的な再局在化を導くことを確認した(図7C)。GFPは、受動的な拡散が原因で依然として核内に存在する。NLS−*−1−GFP−HAを光分解(1秒;365nm;1.2mW/cm)すると、脱ケージング及びその後のGFPの核内移入の結果として、細胞質のGFPの核内移入が観察された(図7C、D)。27個の代表的な細胞について数量化することにより、光分解した後に細胞質内のタンパク質に対する核内のタンパク質の比が3.75倍上昇したことが示されている(図7D)。光分解した後のリアルタイム蛍光顕微鏡検査により、細胞質ゾル内のGFPの移入について約20秒の半減時間を測定することが可能になった(図7E)。NLS−A−GFP−HAを発現している細胞に照射することにより、いかなるGFP再局在化も導かれなかった(図7C)。hTyrtRNACUAを有するnls−*−gfp−haにおけるアンバーコドンが抑制されている場合に同様の結果が得られた(示されていない)。これらの結果は、再局在化が急速であり、また、光分解した際に1が特異的に脱ケージングされることに起因することを実証している。
【実施例6】
【0123】
多数の経路によって調節されるより複雑な核内移入プロセスの試験におけるケージドリジンによる光化学的な制御の有用性の実証
次に、より複雑な系における光ケージング手法の有用性の調査を始めるため、及び多数の経路によって調節される系内の1つのリジンをケージングすることの効果を調査するために、我々は、光ケージドリジン1を使用して腫瘍抑制因子p53の核内移入を制御した。p53の核内移入は二分核定位シグナル(NLS)によって行われ、K305が核への局在化の重大な決定因子である((a) Liang, S. H.; Clarke, M. F. J. Biol. Chem. 1999, 274, 32699-32703; (b) O'keefe, K.; Li, H. P.; Zhang, Y. P. Mol. Cell. Biol. 2003, 23, 6396-6405)(図8A)。
【0124】
我々は、C末端のEGFP−HA TAGを有するp53(p53−egfp−ha)の発現を可能にする構築物、ミューテーションK305Aを有するp53ミュータント(p53−K305A−egfp−ha)の発現を可能にする構築物、又はアンバーコドンを有するp53ミュータント(p53−K305*−egfp−ha)の発現を可能にする構築物を生成した。上記と同じプロトコールを使用し、以下も使用した:
pPCKRS-p53-EGFP-HA、pPCKRS-p53-305GCC-EGFP-HA、pPCKRS-p53-305TAG-EGFP-HA及びpMbPyIRS-p53-305TAG-EGFP-HAの構築
p53-EGFP-HA、p53-305GCC-EGFP-HA又はp53-305TAG-EGFP-HAについてのPCR断片を、pPCKRS-mCherry-TAG-EGFP-HA又はpMbPylRS-mCherry-TAG-EGFP-HAのNheI部位及びMfeI部位にライゲーションすることによって、プラスミドを得た。p53−EGFP−HAのPCR断片を、プライマーAG52/AG55を使用してオーバーラップPCRによって2つの断片を組み合わせることによって得た:p53断片(プライマーAG52/AG53、及び鋳型としてp53 cDNAを使用して生成した)及びGFP−HA断片(プライマーAG54/AG55、及び鋳型としてpmCherry-TAG-EGFP-HAを使用して生成した)。p53−K305A−EGFP−HAのPCR断片を、プライマーAG52/AG55を使用して、オーバーラップPCRによって3つの断片:p53由来の2つの断片(プライマーAG52/AG58及びAG56/AG53、及び鋳型としてp53 cDNAを使用して生成した)及び上記のGFP−HA断片を組み合わせることによって得た。p53−305TAG−GFP−HAのPCR断片は、AG58の代わりにプライマーAG57を用いて同じ戦略によって得た。
【0125】
結果
p53−K305*−egfp−ha由来の全長のp53−EGFP−HAタンパク質の産生は、PCKRS/PyltRNACUA対及び1の添加に依存し、これは、p53の305位のアンバーコドンTAGに応じて1が組み入れられることを確認している。ウエスタンブロット(図8B)は、1を含有するp53のレベルが、内在性のp53レベルと同程度であったが、それよりもわずかに低かったことを実証している。
【0126】
蛍光イメージングによって、以前報告された通り((a) Liang, S. H.; Clarke, M. F. J. Biol. Chem. 1999, 274, 32699-32703; (b) O'keefe, K.; Li, H. P.; Zhang, Y. P. Mol. Cell. Biol. 2003, 23, 6396-6405)、p53−EGFP−HAが核に局在していること、及びp53−K305A−EGFP−HAが 主に細胞質ゾルに局在していることが確認された(図8C)。1(1mM)の存在下でp53−K305*−egfp−haがPCKRS/PyltRNACUA対と一緒に発現している場合、p53は主に細胞質ゾルに局在していることが観察された(図8D及び図9)。これは、p53NLSシグナルの機能が、単一のケージドリジンの導入によって有効に抑止されていることを実証している。光分解(5秒;365nm;1.2mW/cm)すると、脱ケージング及びその後のp53の核内移入の結果として、細胞質内のp53の進行性の核内移入が観察される(図8D、図9)。この系が非常に複雑であることと一致して、核質の場合よりも核内移入における細胞間の変動性が大きいことが観察される。対照実験では、我々は、p53の305位のアンバーコドンに応じてε−Boc−保護されたリジン又はチロシンを組み入れた。これらのp53変異体は、光分解した後、細胞質に局在し、核には局在化せず(図8D、図9)、これは、再局在化が1の特異的な脱ケージングに起因することを確認している。
【0127】
結論として、我々は、新しい光ケージドリジン1の合成及びヒト細胞内のタンパク質への部位特異的な遺伝的な組み入れを実証した。このアミノ酸を使用して核局在化シグナルをケージングし、ヒト細胞におけるタンパク質の局在化を、非光損傷性のUV照射の急速なパルスを使用して光化学的に制御することによって核内移入の動態を測定した。
【実施例7】
【0128】
生細胞におけるシグナル伝達ネットワークの時間的解析を可能にする、遺伝子工学で操作された光によって活性化されたキナーゼ
生細胞の内部で、高い時間分解能でユーザー定義のキナーゼを活性化することにより、シグナルトランスダクションについての理解が加速する。我々は、光によって活性化されたキナーゼを創出するための一般的な戦略を報告する。光活性化可能なMEK1により、MAPキナーゼシグナル伝達内のサブネットワークを特異的、急速、且つ受容体非依存的に活性化することが可能になる。微速度顕微鏡により、MEK1を光活性化した後に、単一の哺乳動物の細胞におけるERK2の移行を高い時間分解能で観察することが可能になった。光活性化されたサブネットワークは、EGF刺激した経路よりもはるかに少ない細胞間の変動性を示す。ERK2の核内レベルはEGFに曝露させると上昇するが、刺激前のレベルに戻る前に、光活性化されたサブネットワークにより、核内のERK2のレベルが持続する。MEK1の上流のMAPキナーゼ経路は、ERK2の移行前に遅延を導入するが、移行の動態は一度開始されたら制限されない。MEK1を光活性化した後の核内へのERK2の蓄積は、S字状(sigmoidal)の時間経過を示し、これは、核内移入に対する律速であるMEK1による非発展的な(離散的な)ERK2の二重リン酸化と一致した。
【0129】
緒言
生物体は、複雑なシグナル伝達ネットワークを時間的且つ空間的に調節することによって生存し、発達し、環境の変化に応答する。正常な生理状態及び疾患においてシグナル伝達ネットワークが情報を伝達する動的なプロセスを理解することは、重要な目的である。
【0130】
プロテインキナーゼは、ほぼ間違いなく、最も重要なクラスのシグナル伝達タンパク質である。酵素のこの大きなクラス(500を超えるメンバーを含有する(Manning, G., Whyte, D. B., Martinez, R., Hunter, T., and Sudarsanam, S. (2002). The protein kinase complement of the human genome. Science 298, 1912-1934))は、ガンマリン酸をATPから標的タンパク質の特定のチロシン残基、トレオニン残基又はセリン残基に転移させる。代謝プロセス、細胞周期の進行、細胞骨格の再配置、細胞小器官輸送、膜輸送、筋肉収縮、成長、アポトーシス及び分化、免疫並びに学習及び記憶を含めたほとんど全ての生物学的プロセスは、リン酸化によって制御される(Manning, G., Whyte, D. B., Martinez, R., Hunter, T., and Sudarsanam, S. (2002). The protein kinase complement of the human genome. Science 298, 1912-1934)。
【0131】
キナーゼに媒介されるネットワークの接続性についての理解が広がるにつれ(Breitkreutz, A., Choi, H., Sharom, J. R., Boucher, L., Neduva, V., Larsen, B., Lin, Z. Y., Breitkreutz, B. J., Stark, C., Liu, G., et al. A global protein kinase and phosphatase interaction network in yeast. Science 328, 1043-1046)、シグナルトランスダクション経路が、クロストークする可能性があり、フィードバックする可能性があり、フィードフォワードする可能性があり、全く異なる速度で作動する基本のステップを含有する可能性がある、複雑で動的な多段階プロセスであることがますます明らかになりつつある。シグナル伝達ネットワークが複雑であることにより、経路の細胞外の入力とその出力との間の事象に分子的な原因及び効果を割り当てることが難しくなっている。我々は、細胞内の単一のキナーゼの活性化を急速に且つ特異的に標的にする能力により、細胞のシグナル伝達ネットワークを、より単純なサブネットワークに分けることが可能になるはずであることを理解した(図14a)。これらのより単純なサブネットワークは、試験をより受けやすい可能性があり、ネットワーク全体の状況では解明されない事象の動態を直接観察することが可能になり得る。
【0132】
プロテインキナーゼの活性を制御するためのいくつかの方法が報告されており、それらとしては、二量体化の誘導(Spencer, D. M., Wandless, T. J., Schreiber, S. L., and Crabtree, G. R. (1993). Controlling signal transduction with synthetic ligands. Science 262, 1019-1024)、制御分解(Banaszynski, L. A., Chen, L. C., Maynard-Smith, L. A., Ooi, A. G., and Wandless, T. J. (2006). A rapid, reversible, and tunable method to regulate protein function in living cells using synthetic small molecules. Cell 126, 995-1004)、遺伝子工学で操作されたアロステリック活性化(Karginov, A. V., Ding, F., Kota, P., Dokholyan, N. V., and Hahn, K. M. (2010). Engineered allosteric activation of kinases in living cells. Nat Biotechnol 28, 743-747)、不活性化ミューテーションの化学的なレスキュー(Qiao, Y., Molina, H., Pandey, A., Zhang, J., and Cole, P. A. (2006). Chemical rescue of a mutant enzyme in living cells. Science 311, 1293-1297)及び感作されたキナーゼの選択的な阻害(Bishop, A. C., Ubersax, J. A., Petsch, D. T., Matheos, D. P., Gray, N. S., Blethrow, J., Shimizu, E., Tsien, J. Z., Schultz, P. G., Rose, M. D., et al. (2000). A chemical switch for inhibitor-sensitive alleles of any protein kinase. Nature 407, 395-401)が挙げられる。これらの方法は、キナーゼ機能に関する我々の知見に実質的に寄与してきたが(Burkard, M. E., Randall, C. L., Larochelle, S., Zhang, C., Shokat, K. M., Fisher, R. P., and Jallepalli, P. V. (2007). Chemical genetics reveals the requirement for Polo-like kinase 1 activity in positioning RhoA and triggering cytokinesis in human cells. Proc Natl Acad Sci 104, 4383-4388、Choi, D. S., Wei, W., Deitchman, J. K., Kharazia, V. N., Lesscher, H. M., McMahon, T., Wang, D., Qi, Z. H., Sieghart, W., Zhang, C., et al. (2008). Protein kinase Cdelta regulates ethanol intoxication and enhancement of GABA-stimulated tonic current. J Neurosci 28, 11890-11899、Justman, Q. A., Serber, Z., Ferrell, J. E., Jr., El-Samad, H., and Shokat, K. M. (2009). Tuning the activation threshold of a kinase network by nested feedback loops. Science 324, 509-512、Kim, J. S., Lilley, B. N., Zhang, C., Shokat, K. M., Sanes, J. R., and Zhen, M. (2008). A chemical-genetic strategy reveals distinct temporal requirements for SAD-1 kinase in neuronal polarization and synapse formation. Neural Dev 3, 23、Larochelle, S., Batliner, J., Gamble, M. J., Barboza, N. M., Kraybill, B. C., Blethrow, J. D., Shokat, K. M., and Fisher, R. P. (2006). Dichotomous but stringent substrate selection by the dual-function Cdk7 complex revealed by chemical genetics. Nat Struct Mol Biol 13, 55-62、Li, S., Makovets, S., Matsuguchi, T., Blethrow, J. D., Shokat, K. M., and Blackburn, E. H. (2009). Cdk1-dependent phosphorylation of Cdc13 coordinates telomere elongation during cell-cycle progression. Cell 136, 50-61、Ventura, J. J., Hubner, A., Zhang, C., Flavell, R. A., Shokat, K. M., and Davis, R. J. (2006). Chemical genetic analysis of the time course of signal transduction by JNK. Mol Cell 21, 701-710)、これらは、a)特異的なキナーゼに限られる場合があり、b)キナーゼを活性化するのではなく、不活性化し、c)キナーゼの触媒活性を、キナーゼが果たし得る他の役割−例えば、足場又はアンカーとして作用することなどと独立して調節することができない場合があり、d)キナーゼの触媒活性を活性化した後の数秒間のうちに起こる急速なプロセスを試験することができない。
【0133】
生細胞の内部のタンパク質機能を急速に活性化させるための潜在的に魅力的な戦略は、タンパク質内の重要なアミノ酸をアミノ酸の光ケージドバージョンに置き換え、不活性なタンパク質をもたらすことを含む。タンパク質を照明すると、光ケージが除去され、タンパク質のネイティブな機能が回復する(Deiters, A. Principles and applications of the photochemical control of cellular processes. Chembiochem 11, 47-53、Deiters, A. (2009). Light activation as a method of regulating and studying gene expression. Curr Opin Chem Biol 13, 678-686、Lawrence, D. S. (2005). The preparation and in vivo applications of caged peptides and proteins. Curr Opin Chem Biol 9, 570-575、Lee, H. M., Larson, D. R., and Lawrence, D. S. (2009). Illuminating the chemistry of life: design, synthesis, and applications of "caged" and related photoresponsive compounds. ACS Chem Biol 4, 409-427)。化学的な方法及び酵素的な方法としては、ネイティブな化学的なライゲーション及びインビトロにおける翻訳を使用して光ケージング基をタンパク質にインビトロで導入することが挙げられる(Endo, M., Nakayama, K., Kaida, Y., and Majima, T. (2004). Design and synthesis of photochemically controllable caspase-3. Angew Chem Int Ed 43, 5643-5645、Ghosh, M., Song, X., Mouneimne, G., Sidani, M., Lawrence, D. S., and Condeelis, J. S. (2004). Cofilin promotes actin polymerization and defines the direction of cell motility. Science 304, 743-746、Pellois, J. P., Hahn, M. E., and Muir, T. W. (2004). Simultaneous triggering of protein activity, and fluorescence. J Am Chem Soc 126, 7170-7171)。これらの手法は、ケージドタンパク質を、透過処理によって(Hahn, M. E., and Muir, T. W. (2004). Photocontrol of Smad2, a multiphosphorylated cell-signaling protein, through caging of activating phosphoserines. Angew Chem Int Ed 43, 5800-5803)、又はマイクロインジェクションによって(Pellois, J. P., and Muir, T. W. (2005). A Ligation and photorelease strategy for the temporal and spatial control of protein function in living cells. Angew Chem Int Ed 44, 5713-5717.)真核細胞に導入するために拡張されているが、これらの方法は、難しいままである。ある場合では、出芽酵母(S.cerevisiae)におけるセリンのリン酸化部位を、酵母においてアンバーコドンに応じて光ケージドセリンを組み入れる進化させたロイシル−tRNA合成酵素/tRNACUA対(Lemke, E. A., Summerer, D., Geierstanger, B. H., Brittain, S. M., and Schultz, P. G. (2007). Control of protein phosphorylation with a genetically encoded photocaged amino acid. Nat Chem Biol 3, 769-772)を用いてPho4に組み込んだ光ケージドセリンを使用して遮蔽したが、キナーゼの活性ではなく基質の利用可能性を調節するこの手法は、哺乳動物の細胞において実証されていない。さらに、この手法は、チロシンのリン酸化、又は、チロシンのリン酸化、トレオニンのリン酸化及びセリンのリン酸化の組み合わせを含めた多重リン酸化によって調節される大多数のプロセスを試験するために使用することができない。
【0134】
我々は、最近、哺乳動物の細胞においてアンバー終止コドンに応じて光ケージドアミノ酸1のタンパク質への組み入れを導く(図14c)(Gautier, A., Nguyen, D. P., Lusic, H., An, W., Deiters, A., and Chin, J. W. (2010). Genetically encoded photocontrol of protein localization in mammalian cells. J Am Chem Soc 132, 4086-4088)、M.バーケリのピロリジル−tRNA合成酵素/tRNACUAの進化させた変異体である光ケージドリジル−tRNA合成酵素/RNACUA(PCKRS/tRNACUA)対を報告した。我々は、このアミノ酸をタンパク質の核局在化配列内に組み入れ、それらの核内移入機能を遮断し、タンパク質を細胞質ゾルに誤って局在化させた。光のパルスを1秒用いて脱ケージングすると、タンパク質上1がリジンに変換された−その核局在化配列が回復した−そして、核への局在化の動態をリアルタイムで追跡することができた(Gautier, A., Nguyen, D. P., Lusic, H., An, W., Deiters, A., and Chin, J. W. (2010). Genetically encoded photocontrol of protein localization in mammalian cells. J Am Chem Soc 132, 4086-4088)。
【0135】
多くのプロテインキナーゼは、それらの調節ドメインを欠失させることによって、又は、それらのリン酸化(活性化)部位を負に荷電したアミノ酸にミューテーションさせることによって(Cowley, S., Paterson, H., Kemp, P., and Marshall, C. J. (1994). Activation of MAP kinase kinase is necessary and sufficient for PC12 differentiation and for transformation of NIH 3T3 cells. Cell 77, 841-852、Huang, S., Jiang, Y., Li, Z., Nishida, E., Mathias, P., Lin, S., Ulevitch, R. J., Nemerow, G. R., and Han, J. (1997). Apoptosis signaling pathway in T cells is composed of ICE/Ced-3 family proteases and MAP kinase kinase 6b. Immunity 6, 739-749、Mansour, S. J., Matten, W. T., Hermann, A. S., Candia, J. M., Rong, S., Fukasawa, K., Vande Woude, G. F., and Ahn, N. G. (1994). Transformation of mammalian cells by constitutively active MAP kinase kinase. Science 265, 966-970、Minden, A., Lin, A., McMahon, M., Lange-Carter, C., Derijard, B., Davis, R. J., Johnson, G. L., and Karin, M. (1994). Differential activation of ERK and JNK mitogen-activated protein kinases by Raf-1 and MEKK. Science 266, 1719-1723、Raingeaud, J., Gupta, S., Rogers, J. S., Dickens, M., Han, J., Ulevitch, R. J., and Davis, R. J. (1995). Pro-inflammatory cytokines and environmental stress cause p38 mitogen-activated protein kinase activation by dual phosphorylation on tyrosine and threonine. J Biol Chem 270, 7420-7426)構成的に活性化することができるので、キナーゼに活性化ミューテーションを、及び酵素の活性部位に光ケージングに重要な残基を同時に導入することにより、光活性化できる状態になっているキナーゼを創出する可能性があり得ると我々は理解した。
【0136】
プロテインキナーゼは、それらのATP結合ポケットにほぼ普遍的に保存された、ATPをつなぎ留め、方向づけるリジン残基を含有する(Manning, G., Whyte, D. B., Martinez, R., Hunter, T., and Sudarsanam, S. (2002). The protein kinase complement of the human genome. Science 298, 1912-1934)。いくつかのキナーゼの活性部位における保存されたリジンの代わりに1をモデリングすることにより、かさのあるケージング基はATPの結合を妨げるが、キナーゼの構造をかき乱すことなく活性部位内に収容され得ることが明らかになった(図14b)。
【0137】
ここで、我々は、光を用いて活性化することができるキナーゼを創出するための一般的な戦略を報告し、細胞の増殖、生存、分化、アポトーシス、運動性及び代謝において重要な保存されたMAPキナーゼ経路に新しい洞察をもたらすために我々の手法を適用する。1〜2秒の光のパルスを用いて光活性化可能なMEK1キナーゼのバージョンを創出し、それによってMEK1によりトレオニン残基及びチロシン残基の両方のERK1/2がリン酸化されるサブネットワークの特異的、急速且つ受容体非依存的な活性化が可能になり、それが、核内へのERK1/2の蓄積並びにPC12細胞における神経の分化に重要な転写因子のリン酸化及び活性化並びに細胞周期への再進入並びに線維芽細胞におけるDNA合成の開始につながる(Dikic, I., Schlessinger, J., and Lax, I. (1994). PC12 cells overexpressing the insulin receptor undergo insulin-dependent neuronal differentiation. Curr Biol 4, 702-708、Lenormand, P., Sardet, C., Pages, G., L'Allemain, G., Brunet, A., and Pouyssegur, J. (1993). Growth factors induce nuclear translocation of MAP kinases (p42mapk and p44mapk) but not of their activator MAP kinase kinase (p45mapkk) in fibroblasts. J Cell Biol 122, 1079-1088、Traverse, S., Seedorf, K., Paterson, H., Marshall, C. J., Cohen, P., and Ullrich, A. (1994). EGF triggers neuronal differentiation of PC12 cells that overexpress the EGF receptor. Curr Biol 4, 694-701)。
【0138】
タイムラプス(time-lapse)顕微鏡により、単一の細胞において、MEK1を光活性化した後のERK2の核内への蓄積を高い時間分解能で追跡することが可能になった。これらの実験により、光活性化されたサブネットワークがEGF刺激した経路よりもはるかに少ない細胞間の変動性を示すことが明らかになった。EGF刺激により厳密な適応がもたらされ(Cohen-Saidon, C., Cohen, A. A., Sigal, A., Liron, Y., and Alon, U. (2009). Dynamics and variability of ERK2 response to EGF in individual living cells. Mol Cell 36, 885-*893)(ERK2の核内レベルがEGFに曝露させると上昇するが、その後刺激前のレベルに戻る現象)、光活性化されたMEK1のプールは、長期間核内に高レベルのERK2を維持する定常の刺激として作用する。我々の結果は、MEK1の上流のMAPキナーゼ経路は、ERK2の移行前に遅延を導入するが、移行の動態は一度開始されたら制限されないことを示している。MEK1を光活性化した後の核内へのERK2の蓄積は、時間とともにS字状であり、これは非発展的な(離散的な)(Burack, W. R., and Sturgill, T. W. (1997). The activating dual phosphorylation of MAPK by MEK is nonprocessive. Biochemistry 36, 5929-5933、Salazar, C., and Hofer, T. (2009). Multisite protein phosphorylation--from molecular mechanisms to kinetic models. FEBS J 276, 3177-3198)、核内移入に対する律速であるMEK1によるERK2の二重リン酸化と一致した。
【0139】
結果
MEK−1の光活性化によるMAPキナーゼサブネットワークの制御
照明すると活性化することができるMEK1ミュータントを創出するために、我々は、まず、構成的に活性な、残基30〜49が欠失しているMEK1ミュータントであるA−MEK1−ΔN(Aは活性であることを示す)を構築した(Mansour, S. J., Matten, W. T., Hermann, A. S., Candia, J. M., Rong, S., Fukasawa, K., Vande Woude, G. F., and Ahn, N. G. (1994). Transformation of mammalian cells by constitutively active MAP kinase kinase. Science 265, 966-970)。A−MEK1−ΔNにおける、ATPの結合及び触媒作用にとって重大なほぼ普遍的に保存されたリジンであるリジンK97を、K97のコドンをmek1−ΔN−97TAGを創出するアンバー終止コドンに置き換えること、及び進化させたPCKRS/tRNACUA対を用いて、このコドンに応じて1を指向的に組み入れることによって、光ケージドリジン1に置き換えた(Gautier, A., Nguyen, D. P., Lusic, H., An, W., Deiters, A., and Chin, J. W. (2010). Genetically encoded photocontrol of protein localization in mammalian cells. J Am Chem Soc 132, 4086-4088)。これにより、C−MEK1−ΔNが産生され、ここでCは、触媒の残基K97が、アミノ酸1を遺伝的に組み入れることによってケージングされることを示す。
【0140】
免疫ブロッティングにより、mek1−ΔN−97TAGでトランスフェクトされ、1(2mM)の存在下で培養させるとPCKRS/tRNACUA対を発現するヒト胎児由来腎臓(HEK)293T細胞におけるC−MEK1−ΔNタンパク質のレベルが、1の代わりに、ヒトチロシンアンバーサプレッサーtRNATYRCUAを用いてチロシンを組み入れた場合に得られたC−MEK1−ΔNタンパク質のレベルに匹敵したことが示された(図15a)。同様に、C−MEK1−ΔNのレベルは、A−MEK1−ΔN及びキナーゼの触媒活性を無効にする公知のミューテーション、K97Mを含有するD−MEK1−ΔNミュータント(Dは機能しないことを示す)のレベルに匹敵した(図15a及び図21)。総合すると、これらの知見は、光ケージドキナーゼを野生型キナーゼに匹敵するレベルで産生することができること、及びトランスフェクトされた細胞におけるこれらのタンパク質のレベルが、マイクロモル濃度で細胞に存在する内在性のMEK1のレベルに匹敵すること(図21b)を実証している。
【0141】
MEK1は、下流の細胞外シグナルに調節されるプロテインキナーゼであるERK1及びERK2に高度に特異的であり、他の公知の基質を有さない(Shaul, Y. D., and Seger, R. (2007). The MEK/ERK cascade: from signaling specificity to diverse functions. Biochim Biophys Acta 1773, 1213-1226)。MEK1は、ERK1/2における2つの調節残基、どちらも保存されたThr−Glu−Tyr(TEY)モチーフの一部であるトレオニン及びチロシンをリン酸化する(Payne, D. M., Rossomando, A. J., Martino, P., Erickson, A. K., Her, J. H., Shabanowitz, J., Hunt, D. F., Weber, M. J., and Sturgill, T. W. (1991). Identification of the regulatory phosphorylation sites in pp42/mitogen-activated protein kinase (MAP kinase). EMBO J 10, 885-892)。光ケージドリジン1を導入することによってキナーゼ活性が妨げられることを検証するために、静止HEK293ET細胞において、C−MEK1−ΔNを高感度緑色蛍光タンパク質と融合したERK2(EGFP−ERK2)と同時発現させた。免疫ブロッティングにより、内在性のERK1/2及びEGFP−ERK2のどちらにおいてもTEYモチーフがリン酸化されないことが明らかになり(図15a)、これは、ケージドリジン1により、C−MEK1−ΔNの触媒活性がD−MEK1−ΔNにおけるK97Mミューテーションと同じくらい効率的に遮断されることを示している。
【0142】
C−MEK1−ΔNを活性化するために、我々は、培養プレートの下に置いた365nmの発光ダイオード(LED,light-emitting diode)ランプを使用してタンパク質を産生している細胞を1分間照明した。この方法により、ウエスタンブロット分析するために十分な数の細胞を、試料を加熱することを回避する単色の光で照明することが可能になった。免疫ブロッティングにより、細胞を照明した1分後にEGFP−ERK2及び内在性のERK2がリン酸化され、照明の10分後あたりでリン酸化が最大になることが明らかになった(図15b及び図22)。リン酸化された内在性のERK1/2よりも多くのリン酸化されたEGFP−ERK2が観察された。これは、EGFP−ERK2及びC−MEK1−ΔNは、あるサブセットの細胞のみが、トランスフェクションによってそれを含有するが、内在性のERK1/2は本質的に全ての細胞が含有するという事実と一致する。これらの知見は、リン酸化が、全ての細胞に影響を及ぼし、ERKのリン酸化につながる内在性のMAPキナーゼ経路を活性化する照明誘導性の細胞のストレス応答ではなく、アンケージド同時発現C−MEK1−ΔNに直接起因することを示唆している。C−MEK1−ΔNを不活性なキナーゼであるD−MEK1−ΔNに置き換える対照実験(図15b及び図22)又はタンパク質なしの対照実験(図22)では、照明した後に、EGFP−ERK2又は内在性のERK1/2の検出可能なリン酸化は導かれなかった。これらの対照実験は、さらに、照明によって内在性のMAPキナーゼ経路は活性化されず、ERKのリン酸化が導かれることを実証している。トランスフェクトされた細胞におけるEGFP−ERK2のレベルは、内在性のERKのレベルよりも低い、又はそれと等しい。
【0143】
C−MEK1−ΔNとEGFP−ERK2を同時発現している細胞を、時間を増やしながら照明することにより、EGFP−ERK2のリン酸化が増え(図15c)、これは、単に照明する時間を調整することによって、活性なキナーゼの細胞における濃度を高い精度で制御することが可能であることを実証している。
【0144】
C−MEK1−ΔNを光活性化することによってERK1/2基質のリン酸化が導かれることを実証するために、我々は、ERK1/2の2つの下流の基質であるp90リボソームのS6キナーゼp90RSK及び転写因子Elk−1のリン酸化の状態を探索した。C−MEK1−ΔNとEGFP−ERK2を同時発現している静止細胞を照明することにより、C−MEK1−ΔNの代わりにD−MEK1−ΔNを使用した場合、又はMEK1阻害剤U0126を加えた場合には観察されなかった、内在性のリン酸化されたp90RSK及びElk−1が増加した(図15d)。これらのデータは、C−MEK1−ΔNを光活性化することにより、細胞において、ERK1/2がリン酸化され、その後、p90RSK及びElk−1がリン酸化されるMAPキナーゼ経路のサブネットワークを特異的に活性化することが可能になることを実証している。
【0145】
EGF刺激すると、長い遅滞期の後、高い細胞間の変動性を伴ってERKの移行が導かれる
細胞全体内のサブネットワークを特異的に活性化することにより、経路全体を活性化した場合には観察することが難しいサブネットワークにおけるプロセスの動態を直接観察することが可能になり得る。活性化因子としてのその役割に加えて、MEK1は、ERK1/2に対する細胞質のアンカータンパク質としても作用する(Fukuda, M., Gotoh, Y., and Nishida, E. (1997). Interaction of MAP kinase with MAP kinase kinase: its possible role in the control of nucleocytoplasmic transport of MAP kinase. EMBO J 16, 1901-1908、Rubinfeld, H., Hanoch, T., and Seger, R. (1999). Identification of a cytoplasmic-retention sequence in ERK2. J Biol Chem 274, 30349-30352)。二重にリン酸化されると、ERK1/2は、MEK1及びそれの他の細胞質のアンカーから脱離し、核内に移行し(Khokhlatchev, A. V., Canagarajah, B., Wilsbacher, J., Robinson, M., Atkinson, M., Goldsmith, E., and Cobb, M. H. (1998). Phosphorylation of the MAP kinase ERK2 promotes its homodimerization and nuclear translocation. Cell 93, 605-615、Rubinfeld, H., Hanoch, T., and Seger, R. (1999). Identification of a cytoplasmic-retention sequence in ERK2. J Biol Chem 274, 30349-30352)、そこで、転写因子をリン酸化することによって遺伝子発現を調節する(Brunet, A., Roux, D., Lenormand, P., Dowd, S., Keyse, S., and Pouyssegur, J. (1999). Nuclear translocation of p42/p44 mitogen-activated protein kinase is required for growth factor-induced gene expression and cell cycle entry. EMBO J 18, 664-674、Chen, R. H., Sarnecki, C., and Blenis, J. (1992). Nuclear localization and regulation of erk- and rsk-encoded protein kinases. Mol Cell Biol 12, 915-927、Kim, K., Nose, K., and Shibanuma, M. (2000). Significance of nuclear relocalization of ERK1/2 in reactivation of c-fos transcription and DNA synthesis in senescent fibroblasts. J Biol Chem 275, 20685-20692、Lenormand, P., Sardet, C., Pages, G., L'Allemain, G., Brunet, A., and Pouyssegur, J. (1993). Growth factors induce nuclear translocation of MAP kinases (p42mapk and p44mapk) but not of their activator MAP kinase kinase (p45mapkk) in fibroblasts. J Cell Biol 122, 1079-1088)。核内のERK1/2が脱リン酸化されると核に戻る(Ando, R., Mizuno, H., and Miyawaki, A. (2004). Regulated fast nucleocytoplasmic shuttling observed by reversible protein highlighting. Science 306, 1370-1373、Costa, M., Marchi, M., Cardarelli, F., Roy, A., Beltram, F., Maffei, L., and Ratto, G. M. (2006). Dynamic regulation of ERK2 nuclear translocation and mobility in living cells. J Cell Sci 119, 4952-4963、Volmat, V., Camps, M., Arkinstall, S., Pouyssegur, J., and Lenormand, P. (2001). The nucleus, a site for signal termination by sequestration and inactivation of p42/p44 MAP kinases. J Cell Sci 114, 3433-3443)。インビトロで、MEK1に媒介されるERK1/2の2つのリン酸化部位のリン酸化は非発展的(離散的)であり、ERK1/2の離散的なリン酸化により、ジリン酸化された(di-phosphorylated)形態を形成する超高感度の、切り換え様の、S字状の動態が導かれることが公知である(Burack, W. R., and Sturgill, T. W. (1997). The activating dual phosphorylation of MAPK by MEK is nonprocessive. Biochemistry 36, 5929-5933、Ferrell, J. E., Jr., and Bhatt, R. R. (1997). Mechanistic studies of the dual phosphorylation of mitogen-activated protein kinase. J Biol Chem 272, 19008-19016、Markevich, N. I., Hoek, J. B., and Kholodenko, B. N. (2004). Signaling switches and bistability arising from multisite phosphorylation in protein kinase cascades. J Cell Biol 164, 353-359、Salazar, C., and Hofer, T. (2009). Multisite protein phosphorylation--from molecular mechanisms to kinetic models. FEBS J 276, 3177-3198)。しかし、足場及び他のタンパク質がキナーゼを組織化し、調節し得るインビボでは(Bashor, C. J., Helman, N. C., Yan, S., and Lim, W. A. (2008). Using engineered scaffold interactions to reshape MAP kinase pathway signaling dynamics. Science 319, 1539-1543、Malleshaiah, M. K., Shahrezaei, V., Swain, P. S., and Michnick, S. W. The scaffold protein Ste5 directly controls a switch-like mating decision in yeast. Nature 465, 101-105)、この基本のステップについてのS字状の動態が保存されているかどうか、及びこれらのリン酸化、又はMEKの上流のステップが、ERK1/2の移行を制御するかどうかは未知である(Lidke, D. S., Huang, F., Post, J. N., Rieger, B., Wilsbacher, J., Thomas, J. L., Pouyssegur, J., Jovin, T. M., and Lenormand, P. (2010). ERK nuclear translocation is dimerization-independent but controlled by the rate of phosphorylation. J Biol Chem 285, 3092-3102)。この経路が、ERK応答性の転写因子を制御する重要な調節ステップであるERK1/2の移行の動態をどのように制御するかの洞察をもたらす目的で、我々は、a)経路全体を、受容体を媒介して刺激した後のERK1/2の移行の動態と、b)光活性化したサブネットワークにおけるERKの移行の動態を比較することを試みた。
【0146】
野生型のMEK1及びEGFP−ERK2を発現している細胞を100ng/mlの上皮成長因子(EGF)で刺激した場合、全体のMAPキナーゼ経路が活性化され、EGFP−ERK2が核内に移行する。蛍光微速度顕微鏡画像による数量化により、EGFP−ERK2の核内への蓄積が、EGFP−ERK2が急速に核内に蓄積する前に3分の遅滞期を伴うS字状の動態を示すことが実証されている(図16a、b)。移入のt1/2及び細胞質のEGFP−ERK2に対する核内のEGFP−ERK2の最大の比に相当な細胞間の変動性が観察され、以前報告された通り(Cohen-Saidon, C., Cohen, A. A., Sigal, A., Liron, Y., and Alon, U. (2009). Dynamics and variability of ERK2 response to EGF in individual living cells. Mol Cell 36, 885-*893)、刺激後に観察された核内移入のタイミングの変動性は、核内のERK2の画分の変動性よりも少なかった(Cohen-Saidon, C., Cohen, A. A., Sigal, A., Liron, Y., and Alon, U. (2009). Dynamics and variability of ERK2 response to EGF in individual living cells. Mol Cell 36, 885-*893)(図16c、d)。EGFP−ERK2の核内への蓄積は、ピークになり、その後、刺激前のレベルにまで消失し、これは、厳密な適応として公知の細胞系における周知の効果である(Cohen-Saidon, C., Cohen, A. A., Sigal, A., Liron, Y., and Alon, U. (2009). Dynamics and variability of ERK2 response to EGF in individual living cells. Mol Cell 36, 885-*893)。この効果は、EGFシグナル伝達についての分子の詳細では理解されていないが、EGF刺激を一部の−今のところは未定義の−経路におけるポイント(複数可)において補償する細胞のプロセスを伴うに違いない。トランスフェクトされた細胞を用いた我々の実験により、内在性のMEK1を有する安定な細胞系、及び、蛍光でタグを付けた、内在性のプロモーターから内在性のレベルで産生されたMEK2を用いてEGF刺激した後の細胞間の変動性に関する以前の観察が再現される(Cohen-Saidon, C., Cohen, A. A., Sigal, A., Liron, Y., and Alon, U. (2009). Dynamics and variability of ERK2 response to EGF in individual living cells. Mol Cell 36, 885-*893)。これにより、内在性の状況を我々の実験が反映することがさらに確認される。
【0147】
C−MEK1を光活性化することにより、細胞間で高度に再現性のある急速なERKの移行が導かれる
MEK1を光によって活性化した際のERK2の核内移行の動態を特徴付けるために、我々は、新しい光活性化可能なMEK1が必要であった。C−MEK1−ΔNは、MEK1の細胞質への局在化に関与する核外移出配列(NES,nuclear export sequence、残基33〜44)も含有する、MEK1を構成的に活性するN末端配列(残基30〜49)が欠失しているので、ERK2を細胞質内に隔離するのに使用することができなかった(Fukuda, M., Gotoh, I., Gotoh, Y., and Nishida, E. (1996). Cytoplasmic localization of mitogen-activated protein kinase kinase directed by its NH2-terminal, leucine-rich short amino acid sequence, which acts as a nuclear export signal. J Biol Chem 271, 20024-20028)。リン酸化された状態を模倣する、通常Rafによってリン酸化されてMEK1を活性化するSer218及びSer222がAsp残基で置換されている構成的に活性なMEK1(A−MEK1−DD)の保存されたリジンK97を光ケージングすることによってN末端のNESを有する新しいケージドMEK1を創出した(Mansour, S. J., Matten, W. T., Hermann, A. S., Candia, J. M., Rong, S., Fukasawa, K., Vande Woude, G. F., and Ahn, N. G. (1994). Transformation of mammalian cells by constitutively active MAP kinase kinase. Science 265, 966-970)。免疫ブロッティング実験によって、新しい光活性化可能なケージドMEK1(C−MEK1−DD)が、C−MEK1−ΔNと同じくらい効率的に機能することが確認された(図23)。
【0148】
共焦点蛍光イメージングにより、C−MEK1−DDがEGFP−ERK2を細胞質内に保持することが示され、これは、そのアンカー機能が、その触媒活性が排除されている間維持されることを実証している(図17a)。UVフィルターを備えた顕微鏡のハロゲン化金属ランプで照明すると(2秒、365nm、1mW/cm)、細胞質内にC−MEK1−DD及びEGFP−ERK2を含有する休止状態にある細胞は、EGFP−ERK2を核内に急速に蓄積した(図17a、b)。10分以内に、細胞質のEGFP蛍光F(n/c)に対する核のEGFP蛍光F(n/c)の比に4倍の上昇が観察された(図17b)。照明する前に10μMのMEK1阻害剤U0126を加えることにより、核内への蓄積が有意に遮断された(図17a、b)。同様に、EGFP−ERK2を、野生型wt−MEK1と、又は触媒として機能しないミュータントD−MEK1−DDと同時発現している休止細胞を照明した場合、核内移行は観察されなかった(図17a、b)。これらの実験は、光によって活性化されたC−MEK1−DDがリン酸化されると、EGFP−ERK2が休止細胞に移行することを示している。さらに、C−MEK1−DDを、リン酸化部位(TEY)がAAAにミューテーションしたEGFP−ERK2ミュータント(EGFP−ERK2−AAA)と同時発現させた場合、照明した際にEGFP−ERK2−AAAの移行は観察されず(図17a、b)、これは、TEYモチーフの二重リン酸化によって駆動される核内移行と一致した。これらのデータは、MEK1に誘導されるTEYモチーフのリン酸化によるERK2の活性化が、ERK2の核内移行を誘発するために十分であることを示している。
【0149】
EGFP−ERK2の核内移行のリアルタイム測定により、C−MEK1−DDを光活性化した後のサブネットワークにおける移行プロセスが、経路全体のEGF刺激による活性化よりもはるかに速く開始されることが示されている(t1/2=1.5分対4.5分、図18b)。
【0150】
EGF刺激とは対照的に、C−MEK1−DDの光活性化により、EGFP−ERK2の核内への蓄積が長い期間にわたって持続される(図18a、b、図16b)。これは、光活性化されたC−MEK1−DDのプールが、定常の刺激として作用すること、及び、経路全体のEGF刺激とは異なり、サブネットワークの活性が厳密な適応を受けないことを示している。これらの知見は、分子標的がEGF応答において最適に調節されること、及び、これらの標的に対して作用する調節因子が、MAPKネットワークにおいてMEK1とERK2の間に位置することができないことを示唆している。
【0151】
移行の速度及び核内の蛍光の増加について、C−MEK1−DDを光活性化した場合、野生型MEK1をEGFで刺激した場合よりもはるかに少ない細胞間の変動性が観察され(図18c〜f)、これは、光活性化されたサブネットワークの細胞間の変動性に対する感受性が、外部の刺激によって活性化されたネットワーク全体の細胞間の変動性に対する感受性よりも低いことを示している。そのようなサブネットワークの頑強性は定量的測定に役立つはずである。
【0152】
ERK1/2を核内移入させるための定常の刺激は、核内でのERK1/2の脱リン酸化及びその移出によって打ち消される(Ando, R., Mizuno, H., and Miyawaki, A. (2004). Regulated fast nucleocytoplasmic shuttling observed by reversible protein highlighting. Science 306, 1370-1373、Costa, M., Marchi, M., Cardarelli, F., Roy, A., Beltram, F., Maffei, L., and Ratto, G. M. (2006). Dynamic regulation of ERK2 nuclear translocation and mobility in living cells. J Cell Sci 119, 4952-4963、Volmat, V., Camps, M., Arkinstall, S., Pouyssegur, J., and Lenormand, P. (2001). The nucleus, a site for signal termination by sequestration and inactivation of p42/p44 MAP kinases. J Cell Sci 114, 3433-3443)。この相殺プロセスを明らかにし、ERK2の核外移出を可視化するために、C−MEK1−DDを光活性化することによってEGFP−ERK2の核内移行を誘導し、次いで、MEK1阻害剤U0126を加えることによって、MEK1に誘導されるERK2の核内移行を遮断した。これにより、EGFPの核内の蛍光の急速な喪失が引き起こされ(t1/2が3分未満)(図19a、b、補足の動画S1)、これは、急速な脱リン酸化に誘導される、移入したERK2の核外移出と一致する(Ando, R., Mizuno, H., and Miyawaki, A. (2004). Regulated fast nucleocytoplasmic shuttling observed by reversible protein highlighting. Science 306, 1370-1373、Costa, M., Marchi, M., Cardarelli, F., Roy, A., Beltram, F., Maffei, L., and Ratto, G. M. (2006). Dynamic regulation of ERK2 nuclear translocation and mobility in living cells. J Cell Sci 119, 4952-4963)。これらのデータは、MEK1に対するU0126の作用が、MAPキナーゼ経路に対するその効果の要因になるのに十分であることを実証している。
【0153】
ERKの移行の動態は、MEK1に媒介されるリン酸化によって調節される
高い時間分解能を有する蛍光微速度顕微鏡検査により、EGFP−ERK2の移行のS字状曲線が示される。EGF刺激による移行についてのS字状曲線(図16b)及び光活性化による移行についてのS字状曲線(図18g、h及び補足の動画S2)は、一度移行が開始されたら、匹敵する傾斜を有する(50%の正味の移行が生じている時の傾斜によって判断する)が、EGF刺激した実験における最初の遅滞期は、光活性化された実験における最初の遅滞期よりもはるかに長い(図18g、h及び図16bを比較されたい)。これらの知見は、経路内のMEK1の上流のステップが、移行プロセスを活性化する前に遅延を導入するように機能するが、一度移行が始まれば、移行速度には有意な影響を及ぼさないことを示唆している。したがって、移行の速度は、経路内のMEK1とERK2の間で定められる。サブネットワークについてのS字状曲線(図18h)は、以前はインビトロでのみ観察され、細胞における移行の速度を決定するためにインビボで操作したMEK1による離散的なERK1/2の二重リン酸化と一致する(Ferrell, J. E., Jr., and Bhatt, R. R. (1997). Mechanistic studies of the dual phosphorylation of mitogen-activated protein kinase. J Biol Chem 272, 19008-19016、Salazar, C., and Hofer, T. (2009). Multisite protein phosphorylation--from molecular mechanisms to kinetic models. FEBS J 276, 3177-3198)。LEDランプを用いて1分間にわたってサブネットワークを活性化した後、我々は、リン酸化されたERK1/2の蓄積をウエスタンブロットによって追跡した。リン酸化されたERK1/2は急速に蓄積したが、この方法の時間分解能では、二重にリン酸化された種の形成における遅滞期を直接観察することはできなかった(図20d、e)。
【0154】
EGFP−ERK2の移行の正味の動態及びそれらとEGFP−ERK2のリン酸化の速度との関係をさらに特徴付けるために、我々は、欠失Δ174〜177を含有し、核内移入速度は変化するが移出速度は変化しないことが報告されているERK2−Δ4ミュータントの移行の速度を試験した(Lidke, D. S., Huang, F., Post, J. N., Rieger, B., Wilsbacher, J., Thomas, J. L., Pouyssegur, J., Jovin, T. M., and Lenormand, P. (2010). ERK nuclear translocation is dimerization-independent but controlled by the rate of phosphorylation. J Biol Chem 285, 3092-3102)。このミュータントをC−MEK1−DDと同時発現している細胞を光活性化した場合、核内移行が観察されたが、動態は遅く(t1/2=6分)(図20a、b)、核内への蓄積のレベルは低かった(図20c)。核内への蓄積が遅いことは、この時点で核内移入の速度が移出速度よりもほんのわずかだけ速いことを示唆している。光活性化後の遅延時間及び移入の正味の速度(50%の正味の移行が生じている時の傾斜によって判断する)はどちらも、野生型の場合から変化した。遅延時間及び移入の正味の速度が連動して変化したことは、野生型の場合のその核内移入において律速ステップになっているERK1/2の離散的な二重リン酸化と一致する。我々のデータは、最近提唱された通り、このミュータントの移行が遅いことは、リン酸化が遅いことに起因し得ることを示唆している(Lidke, D. S., Huang, F., Post, J. N., Rieger, B., Wilsbacher, J., Thomas, J. L., Pouyssegur, J., Jovin, T. M., and Lenormand, P. (2010). ERK nuclear translocation is dimerization-independent but controlled by the rate of phosphorylation. J Biol Chem 285, 3092-3102)。移入速度及び移出速度が、それぞれのリン酸化速度及び脱リン酸化速度によって駆動されると考えると、EGFP−ERK2−Δ4について観察される核内移入が遅いこと、及び核内への蓄積が減ることは、リン酸化されたEGFP−ERK2−Δ4の蓄積が遅いこと、及びそれが減ることを伴うはずである。EGFP−ERK2−Δ4及びC−MEK1−DDを同時発現している細胞について免疫ブロッティングし、LEDランプで1分間にわたって照明することにより、EGFP−ERK2−Δ4のリン酸化の見かけの速度がEGFP−ERK2より遅いこと、及びEGFP−ERK2−Δ4のリン酸化の程度がEGFP−ERK2よりも低いことが明らかになった(図20d〜e)。この実験により、EGFP−ERK2−Δ4の核内への蓄積が遅いこと、及びそれが減ることとリン酸化が遅いことが直接互いに関係づけられ、それにより、ERK1/2の核内移行がMEK1による二重のリン酸化の速度によって制御されることのさらなる証拠がもたらされる。
【0155】
考察
結論として、我々は、生きている哺乳動物の細胞において、1〜2秒の光パルスによって活性化することができるキナーゼを創出するための戦略を実証した。我々は、光ケージドリジン1を遺伝的にコードすることによって、MEK1触媒活性を、そのアンカー機能を維持しながら不活性することができることを示した。我々は、活性化されたMEK1の量を、照明の持続時間によって制御することができること、及び我々の方法によってMAPキナーゼシグナル伝達内のサブネットワークを、細胞外の受容体を通じた経路の活性化とは独立してオンにすることができることを実証した。
【0156】
我々は、光活性化した際のサブネットワークの活性化の動態は、EGFに媒介される活性化の動態よりも少ない細胞間の変動性を示すことを実証した。この知見は、多様な細胞外の入力によって生じるシグナルを、追加的なノイズを導入することによってこれらのシグナルを歪めることなく再現性よく伝達することにおけるMEK1サブネットワークの進化的に保存された役割を反映し得る。そのようなモデルにより、ERK1/2が移入すると開始される転写性のプログラムが、細胞外の刺激のレベル及び強度に正確に応答することが可能になり得る。
【0157】
EGFによって活性化された経路とは異なり、サブネットワークは厳密な適応によって制御されない。これは、細胞間の変動がMEKの活性化の上流のプロセスに起因し得ること、及びMEKの下流の経路はEGF刺激によって引き出されるERK2の移行における適応応答を引き出すために十分でないことを示唆している。
【0158】
EGFによる活性化とサブネットワークによる活性化を比較することによって、MEK1に先立つステップにより、EGF刺激の後、ERK1/2の移行の開始に数分間の遅延が創出され、それによりMEK1の切り換え様の活性化が導かれるが、一度輸送が開始されれば、ERK1/2の輸送の動態が劇的に変化することはなく、これは、MEK1に先立つステップはERK1/2の移行に対する律速ではないことを示していると我々は結論づけた。最終的に、我々は、MEK1を光活性化した後のERK1/2の移行速度が遅滞期を示すこと、及び、ERK1/2のリン酸化に直接影響を及ぼすミューテーションが、MEK1が活性化された後のERK1/2の核内への蓄積の動態にも直接影響を及ぼすことを示した。これらの結果は、MEK1によるERK1/2の離散的な二重リン酸化が、このMAPキナーゼ経路におけるERKの輸送に対する律速であることを示唆している。
【0159】
本明細書において提示している方法体系を使用して、細胞における空間的なキナーゼの活性化及び時間的なキナーゼの活性化の効果に取り組むための非常に高い時間分解能及び空間分解能をもたらすことができる(Levskaya, A., Weiner, O. D., Lim, W. A., and Voigt, C. A. (2009). Spatiotemporal control of cell signalling using a light-switchable protein interaction. Nature 461, 997-1001)。標的のリジン残基の相当な保存に起因して、本明細書において報告される光による活性化の方法は、他のキナーゼの光活性化されたバージョンを創出するために一般に、且つ容易に適用可能であるべきである。さらに、リジンの光ケージングを経路内の各キナーゼに適用することにより、キナーゼネットワークの動態及び個々のキナーゼの基質への正確な定量的洞察が可能になる。特異的且つ急速に活性化された単一の細胞サブネットワークにおけるそのような定量的洞察により、細胞間の変動性及び頑強性及び適応につながる分子経路がさらに明らかになり、シグナルトランスダクションの定量的モデルにおける実験パラメータを速やかに制約することが可能になるはずである(Aldridge, B. B., Burke, J. M., Lauffenburger, D. A., and Sorger, P. K. (2006). Physicochemical modelling of cell signalling pathways. Nat Cell Biol 8, 1195-1203、Asthagiri, A. R., and Lauffenburger, D. A. (2001). A computational study of feedback effects on signal dynamics in a mitogen-activated protein kinase (MAPK) pathway model. Biotechnol Prog 17, 227-239、Barkai, N., and Leibler, S. (1997). Robustness in simple biochemical networks. Nature 387, 913-917、Fujioka, A., Terai, K., Itoh, R. E., Aoki, K., Nakamura, T., Kuroda, S., Nishida, E., and Matsuda, M. (2006). Dynamics of the Ras/ERK MAPK cascade as monitored by fluorescent probes. J Biol Chem 281, 8917-8926)。我々の手法をNTPの結合を利用する広範囲の他のタンパク質に拡張することも可能であろう。これにより、広範囲の生物学的プロセスの時間的な依存及び空間的な依存を操作及び調査することが可能となる。
【0160】
材料及び方法
試薬−光ケージドリジン1を以前に記載されている通り調製した(Gautier, A., Nguyen, D. P., Lusic, H., An, W., Deiters, A., and Chin, J. W. (2010). Genetically encoded photocontrol of protein localization in mammalian cells. J Am Chem Soc 132, 4086-4088)。TPA(12−O−テトラデカノイルホルボール−13−アセテート)は、Cell Signaling社から購入した。MEK阻害剤U0126は、Promega社から購入した。組換えヒト上皮成長因子(EGF,epidermal growth factor)は、Gibco社から購入した。ウエスタンブロットは、HAタグ(Sigma社製)、Flagタグ(Cell Signaling社製)、p44/42MAPK(ERK1/2)(Cell Signaling社製)、phospho−p44/42MAPK(ERK1/2)(T202/Y204)(Cell Signaling社製)、phospho−Elkl(S383)(Cell signaling社製)、phospho−p90RSK(S380)(Cell Signaling社製)に対する抗体を使用して実施した。
【0161】
DNA構築物−プラスミドp4CMVE-U6-PylT(哺乳動物の細胞においてピロリジルtRNACUAの発現を可能にする)及びpPCKRS-mCherry-TAG-EGFP-HAについては前述している(Gautier, A., Nguyen, D. P., Lusic, H., An, W., Deiters, A., and Chin, J. W. (2010). Genetically encoded photocontrol of protein localization in mammalian cells. J Am Chem Soc 132, 4086-4088)。哺乳動物の細胞においてヒトチロシンアンバーサプレッサーtRNATYRCUAを発現させるためのプラスミドpCR2.1/htRNATYRCUAは、T. Ashton Cropp(University of Maryland)からの好意の寄贈品であった。HAタグと融合したMEK1ミュータント(MEK1−HA)をコードする遺伝子は、以前報告されたpPCKRS-p53-EGFP-HAプラスミドのNheI部位及びBssHII部位にライゲーションし(Gautier, A., Nguyen, D. P., Lusic, H., An, W., Deiters, A., and Chin, J. W. (2010). Genetically encoded photocontrol of protein localization in mammalian cells. J Am Chem Soc 132, 4086-4088)、MEK1−HAと光ケージドリジル−tRNA合成酵素PCKRSの同時発現を可能にした。異なるMEK1ミュータントを発現させるためのプラスミドは、PCRミューテーション誘発によって得られ、DNA配列決定によって配列を検証した。A−MEK1−ΔNは、欠失Δ30〜49を含有し;C−MEK1−ΔNは、欠失Δ30〜49及びミューテーションK97TAGを含有し;D−MEK1−ΔNは、欠失Δ30〜49及びミューテーションK97Mを含有し;A−MEK1−DDは、ミューテーションS218D及びS222Dを含有し;C−MEK1−DDは、ミューテーションS218D、S222D及びK97TAGを含有し;D−MEK1−ΔNは、ミューテーションS218D、S222D及びK97Mを含有し;MEK1−K97M−HAは、ミューテーションK97Mを含有する。ERK2遺伝子は、pEGFP-C(Clontech社製)の高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子の下流のPstI部位及びKpnI部位にライゲーションした。ERK2ミュータントを発現させるためのプラスミドは、PCRミューテーション誘発によって得られ、DNA配列決定によって配列を検証した。ERK2−AAAは、ミューテーションT185A、E186A及びY187Aを含有する。ERK2−Δ4は、欠失Δ174〜177を含有する。
【0162】
細胞培養及びトランスフェクション−ヒト胎児由来腎臓293ET細胞を、トランスフェクトする前に、37℃、5%のCO雰囲気下、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1×pen-strep溶液を補充したDMEM+GlutaMAX-1培地(Gibco社製)中で24時間培養させた。細胞に、Genejuice(Novagen社製)を製造者のプロトコールに従って一過性にトランスフェクトした。分析前に、細胞の血清を欠乏させ(0.1%のFBSを伴うDMEM)、2mMの光ケージドリジン1と一緒に24時間培養させた。光活性化実験の前に培養培地を新鮮な、0.1%のFBSを補充した1を含まないDMEMと置き換えた。
【0163】
光活性化−24ウェルプレートにおいて培養させた細胞を、プレートの下に置いた高出力のLED供給源モジュールを用いて、365nmで照明し(黒色-led-365、Prizmatix)、次いで免疫ブロッティング分析のために回収した。
【0164】
免疫ブロッティング−細胞を、氷冷のリン酸緩衝食塩水(PBS,phosphate buffer saline)で洗浄し、次いで、プロテアーゼ阻害剤反応混液(Roche社製)、1mMのバナジン酸ナトリウム、5mMのフッ化ナトリウム及び10mMのEDTAを補充した氷冷の普遍的な溶解緩衝液(Roche社製)を用いて溶解した。試料を、SDS−PAGEによって分離し、ニトロセルロースメンブレンに転写した後、適切な抗体を用いて免疫ブロッティングによって分析した。
【0165】
生細胞のイメージング−μ−Dish(Ibidi社製)において培養させた生細胞を、室温でPlan Apochromat 63×/1.4油浸対物レンズを備えた倒立Zeiss LSM710レーザー走査顕微鏡を用いてイメージングした。光活性化を、EXFO X-Cite120 XL Systemを用いて、UVフィルターを伴う120Wのハロゲン化金属ランプを使用しておよそ2秒(力:1mW/cm)実施した(フィルターの設定−励起G365、ビームスプリッターFT395、発光BP445/50)。EGFPを、488nmのアルゴンレーザーを用いて励起させ、500〜560nmの発光を収集した。平均の核の蛍光強度(Fn)及び細胞質の蛍光強度(Fc)を、ImageJソフトウェアを使用して数量化して、F(n/c)比を次式によって決定することを可能にした:F(n/c)=(Fn−Fb)/(Fc−Fb)、Fbは平均バックラウンド蛍光強度である。
【0166】
[実施例7A]
光によって活性化されたキナーゼにより、生細胞におけるシグナル伝達ネットワークの時間的解析が可能になる
補足の動画の一覧
動画S1.ERK2の核細胞質間往復輸送を明らかにすること。
PCKRS、ピロリジンtRNACUA、EGFP−ERK2及びC−MEK1−DDをコードするプラスミドを同時トランスフェクトしたHEK293細胞を、2mMの1及び0.1%のFBSを補充した培地中で培養させた。細胞を、時間t=0分において365nmの光を用いて照明し(2秒、1mW/cm)、8分後にU0126(10μM)を加えた。右側に、代表的な細胞のEGFP蛍光が示されている。左側には、対照として、U0126で処置していない代表的な細胞のEGFP蛍光が示されている。グラフは、8分後にU0126を加えた(黒色)場合及びU0126を加えていない(灰色)場合の時間に対する正規化されたF(n/c)を示している(10の代表的な実験の平均)。
【0167】
動画S2.ケージドMEK1を光活性化した際の初期のEGFP−ERK2の核内移行の動態
PCKRS、ピロリジンtRNACUA、EGFP−ERK2及びC−MEK1−DDをコードするプラスミドを同時トランスフェクトしたHEK293細胞を、2mMの1及び0.1%のFBSを補充した培地中で培養させた。細胞を、時間t=0秒において365nmの光を用いて照明した(2秒、1mW/cm)。代表的な細胞のEGFP蛍光を追跡した。スケールバーは10μmを表す。右側のグラフは、時間に対する正規化されたF(n/c)を示す(10の代表的な実験の平均)。
【0168】
図21、図22及び図23を参照する。
【0169】
実施例7の参考文献
Aldridge, B. B., Burke, J. M., Lauffenburger, D. A., and Sorger, P. K. (2006). Physicochemical modelling of cell signalling pathways. Nat Cell Biol 8, 1195-1203
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【0170】
プライマーリスト
mGFPHindamf
5’-GCTCAAGCTTCACCATGGCACTAGCAATTAGCCATGGTGAGCAAG
GGCGAGGAGCTGTTCACCG-3’
AG27
5’-TCCGGTGGATCCTTATCATTAAGCGTAATCTGGAACATCGTATGGGTAC
ATCTTGTACAGCTCGTCCATGC-3’
3367bkf
5’-GAAGGTACCCGATCGCCGCGGACCGGTTTAATTAAGCGGCCGCTA
GTTATTAATAGTAATCAATTACGGGGTCATTAGTTCATAGCC-3’
3367bkr
5’-ATAGCGGCCGCTTAATTAAACCGGTCCGCGGCGATCGGGTACCAT
GCATGGCGGTAATACGGTTATCCACAGAATCAGGGGATAACGCAGGAAAGAAC-3’
KpnpvukSf
5’-GAAGGTACCCGATCGACTAGTTATTAATAGTAATCAATTACGGGGTCAT
TAG-3’
AgesacKSr
5’-GAAACCGGTCCGCGGAAGCCATAGAGCCCACCGCATCCCCAGC
ATG-3’
AG40
5’-TAAACTTAAGCTTGCCACCATGGACTACAAGGACGAC-3’
AG43
5’-GGCACAGGTTCTTGTCCACCCGGAAAATCTGCTTGGACAGCTCGGTG
TCGTTGTTGATGCCGAACCGCTCCACGTACTC-3’
AG42
5’-GGTGGACAAGAACCTGTGCCTGCGGCCTATGCTGAGCCCCACCCT
GTGCAACTACATGCGGAAACTGGACAGAATC-3’
AG41
5’-ATCTGCAGAATTCCACCACACTGGACTAGTGGATCCTTATC-3’
AG16
5’-ATGCTAGGATCCTTAATTAAACTAGTCTAGTTATTAATAGTAATCAATTACG
G-3’
AG17
5’-ATGCTAAGATCTGTCCCGTTGATTTTGGTGCC-3’
AG30
5’-ATGCTAGGATCCAGATCTTCTAGACTCGAAGGAAACCTG-3’
AG20
5’-ATGCTACAATTGCCGCGGGAATTCGCTAGCAAAAACCGCACTTGTC
CGGAAACC-3’
AG52
5’-CAGATCCGCTAGCACCGGTGCGATCGCACCATGGAGGAGCCGCA
GTCAGATCCTAG-3’
AG53
5’-GCTCGAGATCTGAGTCCGGATGGCGCGCCGTCTGAGTCAGGCCCTT
CTG-3’
AG54
5’-GGCGCGCCATCCGGACTCAGATCTCGAGCTCAAGC-3’
AG55
5’-TAAACAAGTTAACAACAACAATTGCATTC-3’
AG58
5’-GTTGTTGGGCAGTGCTCGGGCAGTGCTCCCTGGGGGCAGCTCGTG
GTG-3’
AG56
5’-CGAGCACTGCCCAACAACACCAG-3’
AG57
5’-GTTGTTGGGCAGTGCTCGCTAAGTGCTCCCTGGG-3’
AG95
5’-AGATCCGCTAGCACCGGTGCGATCGCACCATGGCTAGCATGACTG
GTGGACAG-3’
AG96
5’-CGGATGGCGCGCCTTATCATTAAGCGTAATCTGGAACATCGTATGGG
TACATCTCGAGGCAGCCGGATCCTTTG-3’
AG97
5’-TTGATCCAGTTTCTTTTTCTACGCCTGGCCC-3’
AG98
5’-TTGATCCAGTTTCTTTTTGGCCGCCTGGCCC-3’
AG99
5’-AAAAAGAAACTGGATCAAG-3’
【0171】
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【0172】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(I)
によるケージドリジン又はその塩。
【請求項2】
請求項1に記載のケージドリジンを含むポリペプチド。
【請求項3】
ケージドリジンが、ポリペプチドにおける、野生型ポリペプチドにおけるリジン残基に対応する位置に存在する、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
ヌクレオチド三リン酸結合性タンパク質である、請求項2又は3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
キナーゼである、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
ケージドリジンがキナーゼの触媒部位に存在する、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
リジンが脱ケージングされることにより、ポリペプチドのキナーゼ活性が可能になる、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
ポリペプチドをコードするRNAの翻訳をアレンジすることを含む、請求項1に記載のケージドリジンを含む前記ポリペプチドを作製する方法であって、前記RNAが直交性コドンを含み、前記翻訳が、前記直交性コドンを認識し、請求項1に記載のケージドリジンを負荷されることができるtRNAの存在下、及び前記tRNAに請求項1に記載のケージドリジンを負荷することができるtRNA合成酵素の存在下、かつ請求項1に記載のケージドリジンの存在下で行われる、方法。
【請求項9】
tRNA合成酵素が、表Iに従って、野生型配列と比較して、1〜5個の位置にミューテーションを有するピロリジルtRNA合成酵素を含み、前記ミューテーション(複数可)が、M241、A267、Y271、L274及びC313から選択される1〜5個の残基に対応する位置に存在する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
tRNA合成酵素が、M241F、A267S、Y271C及びL274Mである4つのミューテーションを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
直交性コドンがアンバーコドン(TAG)である、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
直交性tRNAがPyltRNACUAである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載のケージドリジンを含むポリペプチドを作製する方法であって、前記ポリペプチドをコードする核酸を修飾して、請求項1に記載のケージドリジンを組み入れることが望まれる前記ポリペプチド内の位置(複数可)に対応する1又は2以上の位置にアンバーコドンをもたらすことを含む、方法。
【請求項14】
核酸を修飾することが、リジンのコドンをアンバーコドン(TAG)にミューテーションさせることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項8〜14のいずれかに記載の方法によって作製される、請求項2に記載の同種組換えポリペプチド。
【請求項16】
表Iに従って、野生型配列と比較して、1〜5個の位置にミューテーションを有し、前記ミューテーション(複数可)がM241、A267、Y271、L274及びC313から選択される1〜5個の残基に対応する位置に存在する、ピロリジルtRNA合成酵素。
【請求項17】
M241F、A267S、Y271C及びL274Mである4つのミューテーションを含む、請求項16に記載の直交性ピロリジルtRNA合成酵素。
【請求項18】
直交性ピロリジルtRNA合成酵素が請求項16又は17に記載の直交性ピロリジルtRNA合成酵素であり、直交性tRNAがPyltRNACUAである、直交性ピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14a】
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【図14b−c】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2013−521269(P2013−521269A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555485(P2012−555485)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【国際出願番号】PCT/GB2011/000304
【国際公開番号】WO2011/107747
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(597166578)メディカル リサーチ カウンシル (60)
【出願人】(512228473)ノースカロライナ ステート ユニバーシティー (1)
【氏名又は名称原語表記】NORTH CAROLINA STATE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】