説明

避雷装置、避雷機能を有する構造柱及び雷サージ電圧の低減方法

【課題】落雷による雷サージ電流のフラッシオーバーを確実に防ぎ、雷害を防止することが可能な避雷装置、避雷機能を有する構造柱及び雷サージ電圧の低減方法を提供する。
【解決手段】落雷7による雷サージ電流Iを接地側に流す避雷装置1を、鋼管3と、この鋼管3内に同軸配置された導体4と、鋼管3及び前記導体4の間に充填された、導電性を有する充填材10と、を有するように構成する。これにより、避雷装置1を流れる雷サージ電流Iが分流され、その低周波成分Iが導体4を流れ、且つその高周波成分Iが導体4の外側の鋼管3及び充填材10を流れるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷による雷サージ電流を接地側に流すことによって、雷害を防止する避雷装置、避雷機能を有する構造柱、及び雷サージ電圧の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷により高出力の雷サージ電流が建造物、信号機等の各種設備又は樹木等に流れると、これらは破壊されてしまう。近年では、電気的な衝撃に対して特に弱い電子機器も増加しており、雷害が非常に脅威になっている。このような雷害を防止するため、落雷による雷サージ電流を接地側に流す経路を予め確保する導体(避雷針導体とも呼ばれる)を備えた避雷針、引下げ導体等の避雷装置が用いられている。
【0003】
ところが、雷サージ電流には多種多様の周波数の交流電流が含まれており、落雷による雷サージ電流が避雷針導体を流れる際には、雷サージ電流の高周波成分による電圧は非常に大きくなる(即ち、雷サージ電流の高周波成分では、導体のインダクタンスLと電流の微分成分di/dtの積から求まる電圧降下分v=L×di/dtが非常に大きくなる)。このため、この電圧降下分であるvが導体周辺の絶縁耐力を上回ると絶縁破壊が生じ、導体周辺に火花放電発生し(一般に、フラッシオーバーと呼ばれる)、周囲に予想外の雷害を与えてしまう恐れがある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の避雷技術では、上述したフラッシオーバーを防止するように、避雷針導体の外周に絶縁体を設け、避雷針導体の周囲を完全な絶縁状態にすることによって、フラッシオーバーの発生を防止している。
【0005】
【特許文献1】特開2002−186160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された避雷技術では、避雷針導体の外周に設けた絶縁体にクラックが入る等して僅かに破損しただけでも絶縁破壊し、フラッシオーバーが発生してしまう。また、フラッシオーバーの発生の可能性は、避雷針導体の導体長が長いほど高くなりそのため避雷針導体は、より高い絶縁耐力を有することが要求されている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、落雷による雷サージ電流のフラッシオーバーを確実に防ぎ、雷害を防止することが可能な避雷装置、避雷機能を有する構造柱及び雷サージ電圧の低減方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明によれば、落雷による雷サージ電流を接地側に流す避雷装置であって、鋼管と、前記鋼管内に同軸配置された導体と、前記鋼管と前記導体の間に充填された、導電性を有する充填材と、を有し、前記落雷による雷サージ電流が分流され、その低周波成分が前記導体を流れ、且つその高周波成分が前記鋼管及び前記充填材を流れることを特徴とする、避雷装置が提供される。
【0009】
上記避雷装置において、前記充填材は、抵抗体、誘電体及び磁性体より成る群から選択した1以上の材料を含有するようにしてもよい。
【0010】
上記避雷装置において、前記鋼管と前記導体が、同軸系の特性インピーダンスにより終端された後に接地されていてもよい。
【0011】
上記避雷装置において、前記導体、前記鋼管及び前記充填材が既設の設備に付設されていてもよい。
【0012】
また、本発明によれば、落雷による雷サージ電流を接地側に流す避雷機能を有する構造柱であって、鋼管、前記鋼管内に同軸配置された導体、及び前記鋼管と前記導体の間に充填された、導電性を有する充填材を備え、前記落雷による雷サージ電流が分流され、その低周波成分が前記導体を流れ、且つその高周波成分が前記鋼管及び前記充填材を流れるように構成した、避雷機能を有する支持部と、前記支持部によって支持された、前記避雷機能とは別の機能を有する被支持部と、を有することを特徴とする、避雷機能を有する構造柱が提供される。
【0013】
上記避雷機能を有する構造柱において、前記充填材は、抵抗体、誘電体及び磁性体より成る群から選択した1以上の材料を含有するようにしてもよい。
【0014】
上記避雷機能を有する構造柱において、前記鋼管と前記導体が、同軸系の特性インピーダンスにより終端された後に接地されていてもよい。
【0015】
また、本発明によれば、落雷による雷サージ電流を接地側に流す際に雷サージ電圧を低減する方法であって、前記雷サージ電流の高周波成分に対するインピーダンスが第1の電流路よりも低い第2の電流路を設け、前記雷サージ電流の低周波成分が第1の電流路に流れ、且つ高周波成分が第2の電流路に流れるように、雷サージ電流を分流させることにより前記第1の電流路の雷サージ電圧を低減することを特徴とする、雷サージ電圧の低減方法が提供される。
【0016】
上記雷サージ電圧の低減方法において、前記第1の電流路は、導体で構成され、前記第2の電流路は、前記導体の外周を被覆するように同軸配置した鋼管と、前記鋼管及び前記導体の間に充填された、導電性を有する充填材とで構成されていてもよい。
【0017】
上記雷サージ電圧の低減方法において、前記充填材は、前記充填材は、抵抗体、誘電体及び磁性体より成る群から選択した1以上の材料を含有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、落雷による雷サージ電流を導体(即ち、避雷針導体)を通して接地側に流す際に、雷サージ電流を分流し、その低周波成分が第1の電流路としての導体を流れ、且つ高周波成分が導体の周囲に設けた第2の電流路を流れるようにしたことによって、従来公知の避雷装置のように雷サージ電流の全電流が導体を流れる場合よりも、導体の単位長さ当たりの電圧低下(即ち、雷サージ電圧)を低減することが可能になる。これにより、導体上部の電位上昇を抑制してフラッシオーバーの発生を防ぎ、例えば埋設設備等、周囲の設備への雷害を効果的に防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明をする。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る避雷装置1の鉛直方向の断面図である。図2は、図1のX−X矢視拡大断面図である。図1及び図2に示すように、避雷装置1は、地面2上に鉛直方向に立設された円環形状の鋼管3の内部に裸の導体4を同軸配置した構成を有する。鋼管3は、例えばステンレス鋼で構成されている。導体4は、例えば銅等で構成され、鋼管3内を軸方向に沿って上端側から下端側まで配設されている。導体4の上端は、落雷7を受けるように、鋼管3の上端の外側に若干突出して配置された突針8が接続されている。導体4は、鋼管3の軸方向に沿って所定間隔で複数設けた絶縁性の固定装置5によって鋼管3内の中央位置に固定されている。
【0021】
図2に示すように、鋼管3及び導体4の間には導電性を有する充填材10が充填されている。本実施の形態では、充填材10としては、抵抗体15、誘電体16及び磁性体17の各材料を、所定の割合で混入させたセメントが用いられている。抵抗体15としては、例えば金属微粉末(銀粉、銅粉等)又はグラファイト等が用いられる。誘電体16としては比較的誘電率の高い材料(例えば酸化アルミ、チタン酸バリウム等)が用いられる。さらに、磁性体17としては、例えばフェライト等が用いられる。なお、充填材10としてのセメントは、例えば発泡状に構成する等により軽量化されているのが好ましい。
【0022】
図3は、地面2付近における避雷装置1を拡大した斜視図である。図3に示すように、鋼管3の下端は地面2(ここでは、地面2を大地として扱うが、設置場所によってはコンクリート構造面としてもよい)の中に埋設され、接地系20に接続されて接地されている。接地系20は、地中にある鋼管3及び導体4の下端を、整合器21を介して深埋設電極接地極22に接続した構成を有する。この整合器21は、鋼管3及び導体4の下端を、両者(3、4)が形成する同軸系の特性インピーダンスにより終端するように構成されている。これにより、落雷7による雷サージ電流Iが、鋼管3及び導体4から深埋設電極接地極22にほとんど反射せずに流れるようになっている。なお、本実施の形態では、整合器21として、鋼管3と軸方向を平行に且つ同心に配置された円柱形状のコンクリート材が用いられている。
【0023】
以上のように構成された避雷装置1によって実施される、本発明の実施の形態に係る避雷方法について説明する。
【0024】
雷7が発生し、避雷装置1の上端の突針8に落雷すると、図1に示すように、多種多様の周波数成分を含む雷サージ電流Iが、避雷装置1の導体4を軸方向に沿って上端側から下端側に流れる。導体4の周囲には、導体4の外周を被覆するように同軸配置した鋼管3が配置されており、且つ導体4と鋼管3との間には導電性を有する充填材10が充填されているため、雷サージ電流Iは導体4を流れる際に減衰する。この現象を図4に示す回路図を用いて以下で説明する。
【0025】
図4は、導体4の上端側に接続された突針8に落雷した雷サージ電流Iを接地側に流す際の、鋼管3、導体4及び充填材10によって構成される本発明の実施の形態に係る避雷装置1の単位長さ当たりの等価回路を示した回路図である。図4において、Lは導体4のインダクタンス、Rは導体4の抵抗、Cは導体4と鋼管3の間のキャパシタンスである。Gは、抵抗体15、誘電体16及び磁性体17を含有する充填材10に起因するコンダクタンスである。
【0026】
雷サージ電流Iが導体4を流れる際に減衰するのは、図4に示すように、雷サージ電流Iの高周波成分Iが、導体4の外側の充填材10及び鋼管3を通って(即ち、図4に示す点A1から点B2の方に)流れるからである。従って、導体4に流れる減衰した雷サージ電流Iは、雷サージ電流Iの低周波成分Iである。このように、本発明の実施の形態に係る避雷装置1は、落雷7の雷サージ電流Iが低周波成分Iと、高周波成分Iとに分流され、低周波成分Iが第1の電流路としての導体4を流れ、高周波成分Iが第2の電流路としての鋼管3及び充填材10を流れるように構成されている。
【0027】
減衰した雷サージ電流I(即ち、雷サージ電流Iの低周波成分I)が導体4を流れる際に発生する雷サージ電圧Vは、V=L×dI/dtとなる。この雷サージ電圧Vは、従来公知の避雷装置のように、全ての雷サージ電流I(=I+I)が導体4に流れる場合に発生する雷サージ電圧VL+H=L×{d(I+I)/dt}よりも低減されている。
【0028】
一方、雷サージ電流Iの高周波成分Iが導体4の外側の鋼管3及び充填材10を流れる際には、主として充填材10が含有する抵抗体15、誘電体16及び磁性体17によって抵抗加熱、誘電加熱、及び誘導加熱が生じ、そのエネルギーの一部が消費される。
【0029】
導体4を流れる雷サージ電流Iの低周波成分Iと、充填材10及び鋼管3を流れる雷サージ電流Iの高周波成分Iは、軸方向に沿って下端側に流れて地面2よりも低い位置に到達すると、図3に示すように、接地系20に流れる。即ち、雷サージ電流Iは、整合器21を経由し、同軸系の特性インピーダンスにより終端された接地極22に流れる。
【0030】
以上の実施の形態によれば、避雷装置1を鋼管3の中心に導体4を配置した同軸ケーブルに構成し、さらに、鋼管3及び導体4の間に、導電性を有する充填材10を充填したことによって、雷サージ電流Iが導体4を流れる際に分流され、その低周波成分Iが主として第1の電流路としての導体4を流れ、且つその高周波成分Iが導体4の周囲に設けた第2の電流路を流れるようにすることができる。これにより、ほとんど全ての雷サージ電流Iが導体4を流れる従来公知の避雷技術の場合よりも、導体4を流れる電流量を低減し、導体4に生じる雷サージ電圧(L×di/dt)を低減させることができ、導体4を流れる雷サージ電流Iを安定化させ、落雷7による雷サージ電流Iが避雷装置1から飛出してしまうフラッシオーバーを確実に防ぎ、雷害を効果的に防止することが可能になる。
【0031】
また、接地系20に整合器22を設け、鋼管3と導体4の下端を、両者(3、4)が形成する同軸系の特性インピーダンスにより終端した後に接地するように構成したことによって、接地インピーダンスは大地の抵抗率に関わらず一定となる。また、雷サージ電流I(即ち、低周波成分I及び高周波成分I)は反射されずに接地側に流れるようにすることができる。これにより、雷サージ電流Iをより確実に接地側に流すことができるので、フラッシオーバーの発生をさらに抑制することが可能である。
【0032】
本発明の第2の実施形態として、図5に示すように、導体4、鋼管3及び充填材10が、例えば信号機40等の既設の設備に付設されていてもよい。図5は、本発明の第2の実施形態に係る避雷装置1の鉛直方向の一部断面図である。図5に示すように、本発明の第1の実施形態の場合と概ね同様に構成された避雷装置1が、鉛直方向に対して若干傾斜した状態で、複数の固定具45によって信号機40の支柱41に付設されている。この第2の実施形態では、鋼管3及び導体4の下端が、同軸系の特性インピーダンスで終端された後にメッシュ接地極52に接続された構成を有する。なお、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、深埋設電極接地極22を用いてもよい。
【0033】
本発明の第2の実施形態によれば、避雷装置1を、例えば信号機40等の既設の設備に付設するようにしたため、避雷装置1を単独で立設する場合よりも、必要な強度、支持構造に関する設計制約等が低減され、容易に小型化及び単純化することが可能になり、避雷装置1の設備費及び設備空間を軽減することができる。また、本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果も有する。
【0034】
本発明の第3の実施形態として、図6に示すように、本発明を避雷機能を有する構造柱に適用してもよい。図6は、本発明の実施の形態に係る構造柱60の鉛直方向の断面図である。図7は、図6のY−Y矢視拡大断面図である。
【0035】
図6に示すように、構造柱60は、本発明の第1の実施形態における避雷装置1と同様に構成された支持部61と、この支持部61によって支持された被支持部62としての信号装置とを備えた構成になっている。本発明の第3の実施形態では、図6及び図7に示すように、被支持部62は、支持部61の導体4と鋼管3の間に軸方向(即ち、鉛直方向)に沿って配置された中空の配管65の上端及び下端を直角に曲げて鋼管3の外に突出させた構成を有する。このように突出した配管65の上端には、例えば赤色、黄色及び緑色の三色のランプを備えた発光装置66が設けられている。配管65の下端は、発光装置66を制御する制御装置(図示せず)及び発光装置66に電源を供給する電源装置(図示せず)に接続されている。配管65内には、これらの制御装置及び電源装置(図示せず)と発光装置66とを接続する電線及び信号線等の電線群67が配設されている。なお、配管65は、導体4と鋼管3との間に充填された充填材10で固定されている。
【0036】
本発明の第3の実施形態によれば、構造柱60を、避雷機能を有する支持部61と、この支持部61によって支持された、避雷機能とは別の機能(即ち、信号機能)を有する被支持部62とで構成したことによって、同一の設置空間内に、落雷7による雷害を防ぐ避雷機能と、避雷機能以外の種々の機能を並設することができ、設置空間を節約することが可能になる。また、本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果も有する。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0038】
上述した実施形態においては、充填材10として、抵抗体15、誘電体16及び磁性体17の全てを所定の割合で混入させたセメントが用いられている場合について説明したが、充填材10は、導電性を有する任意の材料を用いてよい。また、充填材10には、抵抗体15、誘電体16及び磁性体17より成る群から選択した1以上の材料が含有されるようにしてもよい。さらに、これら抵抗体15、誘電体16及び磁性体17以外の材料が含まれていてもよい。
【0039】
上述した実施形態においては、抵抗体15が金属微粉末(銀粉、銅粉等)又はグラファイトである場合について説明したが、抵抗体15としてこれら以外の材料を用いてもよい。
【0040】
上述した実施形態においては、誘電体16が酸化アルミ、チタン酸バリウムである場合について説明したが、誘電体16としてこれら以外の材料を用いてもよい。
【0041】
上述した実施形態においては、磁性体17がフェライトである場合について説明したが、磁性体17としてこれら以外の材料を用いてもよい。
【0042】
上述した実施形態においては、整合器22として、鋼管3と軸方向を平行に且つ同心に配置された円柱形状のコンクリート材が用いられている場合について説明したが、整合器22は、インピーダンスの整合をとるための任意の材料及び形状であってもよい。
【0043】
上述した実施形態においては、接地系20の接地極が深埋設電極接地極22又はメッシュ接地極52である場合について説明したが、その他の接地極が用いられてもよい。
【0044】
上述した実施形態においては、被支持部62が信号機の機能を備えている場合について説明したが、被支持部62が、例えば通信機能、照明機能等、避雷機能以外の機能を備えるようにしてもよい。
【実施例】
【0045】
一般に、雷サージ電流の主要な周波数成分は10KHz〜1MHzとみなされており、図1に示す本発明の実施の形態に係る避雷装置1に、一般的な伝送式を適用した試算を行うことによって正弦波定常電流法による解析からその有効性を検証する。
【0046】
既述したように、本発明による避雷装置1は、図4に示す有損失線路の等価回路とみなせるので、以下では、公知の一般式を適用して試算を行う。なお、図4に示す有損失線路の等価回路において、抵抗R及びコンダクタンスGを0に設定した場合には、無損失線路の等価回路に該当する。
【0047】
一般的に、図8に示すように、内部導体71の外径がa、外部導体72の内径がbである同軸ケーブル75は、これら内部導体71及び外部導体72が空気絶縁されている状態において、周波数f(Hz)の電流を流した場合には、この同軸ケーブル75の単位長さ当たりのインダクタンスL(μH/m)、キャパシタンスC(pF/m)及び抵抗R(Ω/m)、並びにインピーダンスZ(Ω)は、各々下記式(1)〜(4)で得られることは公知である。
L=0.2×ln(b/a)・・・・・・・・・・・・(1)
C=55.6/{ln(b/a)}・・・・・・・・・・(2)
R={4.15×10−8×(a+b)×√f}/(a×b)・・・・(3)
=60×ln(b/a)・・・・・・・・・・・・・(4)
【0048】
また、図8に示す同軸ケーブル75の内部導体71及び外部導体72の間に空気の代わりにポリエチレンを充填し、同軸ケーブル75に周波数f=3×10(Hz)の電流を流した場合には、同軸ケーブル75のコンダクタンスG(S/m)が下記式(5)で得られることが分かっている。
G=(7.35×10−10)/{ln(b/a)}・・・・・・・(5)
【0049】
しかしながら、本発明の場合、避雷装置1の導体4及び鋼管3の間の充填材10は、導電性が支配的であるため、避雷装置1のコンダクタンスGは、充填材10の導電率σ(S/m)に対して下記式(6)で求めるのが適切である。
G=(σ×2π)/{ln(b/a)}・・・・・・・(6)
【0050】
表1には、(抵抗体15、誘電体16及び磁性体17を含有する)充填材10として種々の導電率σ(S/m)の物質を用いた場合について、上式(6)から計算される避雷装置1のコンダクタンスG(S/m)の各値が示されている。なお、表1においては、内部導体71の外径をa=10(mm)、外部導体72の内径をb=1000(mm)としている。
【0051】
【表1】

【0052】
さて、図4に示す等価回路において、下記式(7)で示すγは一般に伝播係数と呼ばれている。
γ=√{(R+jωL)×(G+jωC)}・・・・・・・(7)
なお、ω(rad/s)は等価回路を流れる電流の角周波数であり、ω=2πfである。ここで、
γ=α+jβ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
とα、βを設定すると、電流が図4に示す等価回路をl(m)流れた際の外部導体72に対する内部導体71の電圧成分の減衰率D(dB)は、下記式(9)で得られることが知られている。
D=20×log10αl
=(αl)×20×log10
=8.686×(αl)・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
【0053】
従って、上式(1)〜(3)、(6)から各々得られるL、C、R及びGの値を上式(7)に代入し、伝播係数γの値を計算してから、上式(8)を用いてαの値を算出すると、上式(9)から避雷装置1の導体4を流れる雷サージ電流の電圧成分の減衰率D(dB)を求めることができる。なお、上式(9)では、電圧成分を対象にしたものであるが、電流の減衰率に対しても同様である。
【0054】
ここでの試算は、図1に示す避雷装置1の導体4の外径が10(mm)、鋼管3の内径が1000(mm)であると仮定する。従って、a=10、b=1000を上式(1)、(2)に適用することによって、避雷装置1のインダクタンスL及びキャパシタンスCは、L=1(μH/m)、C=12(pF/m)となる。また、表1を参照し、試算に最適であるコンダクタンスGの値をG=0.01、0.1、1.0、10.0(S/m)(即ち、導電率σ=0.00733、0.0733、0.733、7.33(S/m))に設定して試算を行う。図9は、これら4種類のコンダクタンスGの各値について、3種類の周波数f=10、10、10(Hz)の雷サージ電流が避雷装置1の導体4を流れる際の単位長さ当たりの減衰率D(dB)を各々試算した結果を示したものである。
【0055】
図9に示されるように、コンダクタンスG(即ち、導電率σ)の値が大きくなるほど導体4を流れる雷サージ電流の減衰率D(dB)が増大することが分かる。従って、本発明のように、避雷装置1を同軸ケーブルに構成した上で、充填材10が抵抗体15を有するようにして導電率σを高くすると、導体4を流れる雷サージ電流が相対的に減衰し、導体4の外側(即ち、充填材10及び鋼管3)により分流させる効果があることが分かる。
【0056】
また、図9に示すように、G=0.01(S/m)(即ち、導電率σ=0.00733(S/m))である場合に、減衰率Dは、周波数f=10(Hz)の雷サージ電流がD=0.2(dB)、周波数f=10(Hz)の雷サージ電流がD=0.5(dB)、周波数f=10(Hz)の雷サージ電流がD=1.5(dB)であることが分かる。これは、導体4を流れる雷サージ電流のうちで、より周波数の高い高周波成分がより減衰し、導体4の外側(即ち、充填材10及び鋼管3)により分流することを示している。
【0057】
図10は、上記4種類のコンダクタンスGの値に、G=0(σ=0)の値を加えた5種類のコンダクタンスGの各値について、3種類の周波数f=10、10、10(Hz)の雷サージ電流が導体4を流れる際の避雷装置4の特性インピーダンスZを上式(4)を用いて各々試算した結果を示したものである。これは、整合器の抵抗に対応したものである。
【0058】
図10は、本発明の整合インピーダンスに目安を与えるグラフである。無損失の場合(G=0(σ=0))には、図10に示すように、特性インピーダンスZは、288.7(Ω)となる。このように無損失である場合に、特性インピーダンスが周波数に依存せずに一定であることは周知であり、このことは、無損失である場合、整合抵抗を288.7(Ω)とすることが電圧−電流特性が乱れることなく、終端で消費されることを意味する。一方、有損失である場合には、図10に示されるコンダクタンスG(即ち、誘電率σ)の値によって、特性インピーダンスは異なり、また、周波数に依存する。これが整合インピーダンスである。図10に示すように、避雷装置1のインピーダンスZは、コンダクタンスG(即ち、導電率σ)の値が大きくなるほど避雷装置1のインピーダンスZの値が無損失である場合(G=0(σ=0))の288.7(Ω)より低くなっており、整合インピーダンスの目安が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、落雷による雷サージ電流を接地側に流し、雷害を防止する避雷装置、避雷機能を有する構造柱、及び雷サージ電圧の低減方法に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係る避雷装置1の鉛直方向の断面図である。
【図2】図1のX−X矢視拡大断面図である。
【図3】地面2付近における避雷装置1を拡大した斜視図である。
【図4】雷サージ電流Iが避雷装置1を流れる際の単位長さ当たりの回路図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る避雷装置1の鉛直方向の一部断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る構造柱60の鉛直方向の断面図である。
【図7】図6のY−Y矢視拡大断面図である。
【図8】同軸ケーブル75の模式的な斜視図である。
【図9】4種類のコンダクタンスGの各値について、3種類の周波数fの電流が導体4を流れる際の単位長さ当たりの減衰率D(dB)を各々試算した結果を示したものである。
【図10】4種類のコンダクタンスGの各値に、G=0(σ=0)の値を加えた5種類のコンダクタンスGの各値について、3種類の周波数f=10、10、10(Hz)の交流電流が導体4を流れる際の避雷装置4の特性インピーダンスZを上式(4)を用いて各々試算した結果を示したものである。
【符号の説明】
【0061】
1 避雷装置
2 地面
3 鋼管
4 導体
5 固定装置
7 落雷
8 突針
10 充填材
15 導電体
16 誘電体
17 磁性体
20 接地系
21 整合器
22 深埋設電極接地極
40 信号機
41 支柱
45 固定具
52 メッシュ接地極
60 避雷機能を有する構造柱
61 支持部
62 被支持部
65 配管
66 発光装置
67 電線群
71 内部導体
72 外部導体
75 同軸ケーブル
A1、A2、B1、B2 等価回路の点
a 外径
b 内径
C キャパシタンス
G コンダクタンス
I 雷サージ電流(全体)
雷サージ電流の低周波電流成分
雷サージ電流の高周波電流成分
L インダクタンス
R 抵抗
X−X 断面線
Y−Y 断面線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落雷による雷サージ電流を接地側に流す避雷装置であって、
鋼管と、
前記鋼管内に同軸配置された導体と、
前記鋼管と前記導体の間に充填された、導電性を有する充填材と、を有し、
前記落雷による雷サージ電流が分流され、その低周波成分が前記導体を流れ、且つその高周波成分が前記鋼管及び前記充填材を流れることを特徴とする、避雷装置。
【請求項2】
前記充填材は、抵抗体、誘電体及び磁性体より成る群から選択した1以上の材料を含有することを特徴とする、請求項1に記載の避雷装置。
【請求項3】
前記鋼管と前記導体が、同軸系の特性インピーダンスにより終端された後に接地されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の避雷装置。
【請求項4】
前記導体、前記鋼管及び前記充填材が既設の設備に付設されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の避雷装置。
【請求項5】
落雷による雷サージ電流を接地側に流す避雷機能を有する構造柱であって、鋼管、前記鋼管内に同軸配置された導体、及び前記鋼管と前記導体の間に充填された、導電性を有する充填材を備え、前記落雷による雷サージ電流が分流され、その低周波成分が前記導体を流れ、且つその高周波成分が前記鋼管及び前記充填材を流れるように構成した、避雷機能を有する支持部と、前記支持部によって支持された、前記避雷機能とは別の機能を有する被支持部と、を有することを特徴とする、避雷機能を有する構造柱。
【請求項6】
前記充填材は、抵抗体、誘電体及び磁性体より成る群から選択した1以上の材料を含有することを特徴とする、請求項5に記載の避雷機能を有する構造柱。
【請求項7】
前記鋼管と前記導体が、同軸系の特性インピーダンスにより終端された後に接地されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の避雷機能を有する構造柱。
【請求項8】
落雷による雷サージ電流を接地側に流す際に雷サージ電圧を低減する方法であって、前記雷サージ電流の高周波成分に対するインピーダンスが第1の電流路よりも低い第2の電流路を設け、
前記雷サージ電流の低周波成分が第1の電流路に流れ、且つ高周波成分が第2の電流路に流れるように、雷サージ電流を分流させることにより前記第1の電流路の雷サージ電圧を低減することを特徴とする、雷サージ電圧の低減方法。
【請求項9】
前記第1の電流路は、導体で構成され、
前記第2の電流路は、前記導体の外周を被覆するように同軸配置した鋼管と、前記鋼管及び前記導体の間に充填された、導電性を有する充填材とで構成されていることを特徴とする、請求項8に記載の雷サージ電圧の低減方法。
【請求項10】
前記充填材は、抵抗体、誘電体及び磁性体より成る群から選択した1以上の材料を含有することを特徴とする、請求項8又は9に記載の雷サージ電圧の低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−59870(P2008−59870A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234625(P2006−234625)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(506294613)有限会社カエラ研究所 (3)
【Fターム(参考)】