説明

部分圧下用ロールスタンドを用いたスラブの連続鋳造方法

【課題】鋳片の幅方向全体に亘って高品質なスラブを鋳造する。
【解決手段】スラブの連続鋳造において、第1区間で、ロールギャップ勾配Tを0.5以上1.2以下としたロールスタンドにより鋳片を支持し、第1区間より下流側の第2区間において、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を越えた幅方向範囲を部分圧下する。これにより、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を越えた範囲に発生したポロシティp,p,p,pを減少させる。ここで、第1区間とは、メニスカス距離M[m]が0.0011V×(D/2)[m] より大きく、0.0013V×(D/2)[m] より小さい領域である。また、第2区間とは、メニスカス距離M[m]が0.0016V×(D/2)[m]より小さい領域である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブの連続鋳造において、鋳片を部分圧下する連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造工程において、鋳片の中心付近において、最終凝固部が孤立すると、凝固収縮に対して溶鋼が供給されず、ポロシティが発生しやすい。ポロシティは、製品の欠陥をもたらすことから、従来から、鋳片の中心付近を部分圧下することにより、ポロシティを減少させている(例えば、特許文献1−3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−257715号公報
【特許文献2】特開平8−238550号公報
【特許文献3】特開2009−248115号公報
【0004】
ところで、鋳片を支持するロールとして、鋳片の幅方向に分割された複数のロール部を有する分割ロールが用いられるのが一般的である。このロール部は、その両端部が軸受箱により支持されている。そして、連続鋳造機用のロールスタンドには、複数の軸受箱が千鳥状に配置されたものがあり、ロール部及び軸受箱は、それぞれ一本のロールおきに、鋳片の幅方向について同じ位置に配置される。この場合、所定の幅方向位置において、軸受箱は配置されずにロール部だけが鋳造方向に沿って並設されている。また、別の幅方向位置において、ロール部と軸受箱とが、鋳造方向に沿って交互に配置されている。したがって、全ての幅方向位置において、鋳造方向に並設されたロールの全数に対する、その幅方向位置に軸受箱が存在するロール数の比率は同一ではなく、この比率は、上述した別の幅方向位置(ロール部と軸受箱とが鋳造方向に沿って交互に配置された位置)において大きくなる。
【0005】
ここで、鋳片は、ロール部に接触した状態で搬送されるが、ロール部間であって軸受箱が配置された幅方向位置では、鋳片がロール部と接触しないため、ロール部が配置された幅方向位置よりも抜熱量が少なく、凝固が遅れる。その結果、軸受箱が配置された幅方向位置では、最終凝固部が孤立しやすいため、センターポロシティが発生しやすく、鋳片の品質が低下する。
【0006】
しかしながら、上述した従来の方法では、軸受箱が配置された幅方向位置において抜熱量が少なく凝固が遅れることについて考慮しておらず、軸受箱が多く配置された幅方向位置において鋳片の品質が低下するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、鋳片の幅方向全体に亘って高品質なスラブを鋳造することができるスラブの連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の部分圧下用ロールスタンドを用いたスラブの連続鋳造方法は、鋳造方向に並設された複数のロールを備えたスラブ用連続鋳造機を用いて、C含有量が0.03[mass%]以上0.60[mass%]以下の鋼を鋳造するスラブの連続鋳造方法であり、前記ロールは、鋳片と接触するとともに両端部が軸受箱により支持された2〜4個のロール部を有し、鋳型の上端における内寸の短辺Dを280[mm]以上310[mm]以下とし、鋳造速度Vを0.7[m/min.]以上1.3[m/min.]以下とし、鋳型より下流側であって部分圧下を行う位置までの比水量W[l/kg‐steel]が下記(1)式を満たし、
0.4<W<1.5・・・(1)
メニスカス距離M[m]が下記(2)式を満たす第1区間において、ロールスタンドのロールギャップ勾配T[mm/m]が下記(3)式を満たすようにする。
0.0011V×(D/2)<M<0.0013V×(D/2)・・・(2)
0.5≦T≦1.2・・・(3)
また、メニスカス距離Mが下記(4)式を満たす第2区間に、大径凸部を有する部分圧下用ロールを備えた部分大圧下用ロールスタンドを設け、
<M<0.0016V×(D/2)・・・(4)
鋳型より下流側であってメニスカス距離が15mの位置までの範囲に配置されたロールスタンドにおいて、鋳片の幅方向について、鋳造方向に併設されたロールの全数に対する、所定の幅方向位置にロール部間に配置された軸受箱が存在するロールの比率が20%を越える範囲を、前記第2区間で前記部分圧下用ロールによって部分圧下する。
【0009】
本発明によると、鋳造経路の上流側において鋳型より下流側であってメニスカス距離が15mの位置までの第1領域では、凝固シェルの厚みが薄いため、鋳片の冷却に鋳片表面の抜熱が大きく影響することから、この領域で軸受箱率Rが20%を超えた範囲には、鋳片の厚み中心近傍にポロシティが発生しやすい。そこで、本発明では、上記第1領域で軸受箱率Rが20%を超える範囲を、上記第1領域より下流側の第2区間で部分圧下することによって、その範囲に発生したポロシティを減少させることができる。したがって、本発明によると、鋳造経路の上流側において軸受箱が多く配置された幅方向範囲があった場合でも、その範囲にポロシティが残存しないようにすることができる。これにより、鋳片の幅方向全体に亘って高品質なスラブを鋳造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、鋳造経路の上流側において軸受箱が多く配置された幅方向範囲があった場合でも、その範囲にポロシティが残存しないようにすることができる。これにより、鋳片の幅方向全体に亘って高品質なスラブを鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】連続鋳造機の構成を示す模式図である。
【図2】実験で用いたサポートロール群の構成を示す図である。
【図3】炭素含有量比に対するポロシティ密度を示す図である。
【図4】ポロシティ密度に対する製品残存欠陥サイズを示す図である。
【図5】軸受箱率に対するポロシティ密度を示す図である。
【図6】(a)は、鋳造初期領域の終端部の鋳片を鋳造方向沿って切断した断面模式図であり、(b)は、(a)のVIB−VIB線に沿った断面図である。
【図7】ロールギャップ勾配の算出方法を説明する図である。
【図8】鋳片の内部の変化を示す模式図である。
【図9】(a)は鋳造初期領域に配置された基準側ロールの一部の構成を示す図であり、(b)は(a)における軸受箱率を示す図である。
【図10】部分圧下領域に配置されたロールスタンドの構成を示す図である。
【図11】部分圧下領域に配置されたロールスタンドの構成を示す図であり、図10のXI−XI線に沿った図である。
【図12】図10に示すロールスタンドの反基準側ロールの構成を示す図である。
【図13】実施例1〜19のロールスタンドの構成を示す図である。
【図14】実施例20のロールスタンドの構成を示す図である。
【図15】比較例1,2のロールスタンドの構成を示す図である。
【図16】比較例3のロールスタンドの構成を示す図である。
【図17】ポロシティ密度の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
〔連続鋳造機100〕
図1に示すように、連続鋳造機100は、スラブ用の連続鋳造機であって、タンディッシュ1と、タンディッシュ1の底部に連結して設けられた浸漬ノズル2と、浸漬ノズル2の下部が配置された鋳型3と、鋳型3の直下から鋳造経路Qに沿って設けられたサポートロール群4とを有する。本実施形態では、C含有量が0.03[mass%]以上0.60[mass%]以下のスラブを鋳造する。また、鋳造速度Vcを0.7[m/min.]以上1.3[m/min.]以下とする。
【0014】
鋳型3の上端において、内寸(開口)の短辺Dは280mm以上310mm以下である。上記短辺Dは、鋳片の厚みに対応する。本実施形態では、短辺Dと鋳片の厚みとが略同一であることから、以下において、鋳片の厚みをDと表すことがある。また、鋳型3の上端の内寸(開口)の長辺は、例えば、1200mm以上2400mm以下とする。
【0015】
図1に示すように、鋳造経路Qは、鋳型3内の溶鋼表面から下方に延びた垂直経路部と、垂直経路部に連接した曲げ経路部と、曲げ経路部に連接した円弧状の円弧経路部と、円弧経路部の下流に設けられた矯正経路部と、矯正経路部の下流において水平方向に延在した水平経路部とを有する。
【0016】
サポートロール群4は、鋳造方向に沿って並設された複数のロール対14を有する。ロール対14は、鋳片を挟んで互いに反対側に配置された基準側ロール15と反基準側ロール16とにより構成されている。ロール対14は、鋳造経路Qに沿って並設された複数のロールスタンドに設けられている。
【0017】
また、鋳造方向に隣り合う2つの基準側ロール15の間には、冷却スプレー5が設けられている。同様に、鋳造方向に隣り合う2つの反基準側ロール16の間にも、冷却スプレー5が設けられている。本実施形態では、鋳型3の直下から水平経路部までの全長に亘る領域で冷却スプレー5により冷却水を鋳片に直接噴霧しており、この領域を二次冷却帯と称する。
【0018】
基準側ロール15は、鋳造経路Qの一方側(鋳片の下側に対応した側)に配置され、反基準側ロール16は、鋳造経路Qの他方側(鋳片の上側に対応した側)に配置されている。また、基準側ロール15及び反基準側ロール16は、それぞれ、鋳片の幅方向に2〜4分割されたロール部を有する。ロール部は、それらの両端部が軸受箱により支持されている。したがって、本実施形態では、基準側ロール15及び反基準側ロール16の分割位置に軸受箱が配置されており、鋳造方向について少なくとも1つの軸受箱が配置された幅方向範囲を「軸受箱領域」と呼ぶ。
【0019】
このように、分割ロールを用いた場合、ロール部は鋳片と接触する部分を含むが、軸受箱領域は鋳片と接触しないため、軸受箱領域にはポロシティが発生しやすい。そこで、軸受箱領域に発生するポロシティによる製品への影響を調べる実験を行った。
【0020】
〔実験〕
<実験条件>
以下の条件により、連続鋳造を行った。
・鋳片 :厚み 280mm
最大幅 2100mm
・鋳造条件 :鋳造速度 1.2mm/min
非完全凝固部での比水量 0.54L/kg−steel
(鋳造量1kg−steel当りの冷却水量(L))
・溶鋼成分 :中炭素鋼(C含有量:0.12wt%)
・連続鋳造装置の二次冷却帯に設けられたサポートロール群の構成:
ロールピッチ 210mm〜380mm
軸受箱領域の鋳片の幅方向についての幅 210mm
図2は、本実験で用いたサポートロール群における鋳片の幅方向位置と軸受箱率との関係を示している。ここで、「軸受箱率」とは、鋳片の所定の幅方向位置において、鋳造方向に並設されたロールの全数に対する、その幅方向位置にロール部間に配置された軸受箱が存在するロールの比率である。なお、図2では、鋳片の幅方向位置を鋳片の幅一端からの距離で示している。
【0021】
表1には、実験条件として、鋳片の幅方向位置(鋳片の幅一端からの距離)とその幅方向位置における軸受箱率を示し、実験結果として、炭素含有量比C/Cを示している。炭素含有量比C/Cは、鋳片の最終凝固部、具体的には、鋳片の厚み方向の中心位置から採取した切粉の炭素含有量Cを、鋳片の厚みが1/4の厚み方向位置(鋳片表面から鋳片の厚みの1/4だけ内側に深い位置)から採取した切粉の炭素含有量Cで除した値である。鋳片の切粉は、ドリル(φ5mm)を用いて採取したものである。
【0022】
【表1】

【0023】
ところで、炭素含有量比C/Cとポロシティ密度とは、図3に示す関係を有することがわかっている。図3に示す直線は、炭素含有量比C/Cとポロシティ密度との相関関係を示し、以下の関係式で表される。
Y=0.15× X −0.15
ここで、XはC/Cの値であり、Yはポロシティ密度である。したがって、上記関係式をもとに、表1に示すC/Cからポロシティ密度を求めることができ、これを表1に示した。
【0024】
また、ポロシティ密度と製品残存欠陥サイズとは、図4に示す関係を有することがわかっている。ここでは、図4に示すポロシティ密度を、以下の方法により求めている。鋳片の最終凝固部を挟んで鋳片の厚み方向に±5mmの厚み10mm×鋳片の幅方向に幅50mm×長さ50mmの直方体状の試料を採取した。この試料に存在するポロシティの体積をアルキメデス法(比重測定法)により求め、ポロシティの体積を鋳片の幅方向に幅50mm×鋳造方向に長さ50mmの面積で除することにより、鋳片の単位面積当りの密度に換算した。また、製品残存欠陥サイズは、最終製品(鋳造された鋳片を圧延して得られる製品)に残存した欠陥のサイズである。図4には、圧延比1.63のときのポロシティ密度と製品残存欠陥サイズとの関係及び圧延比2.0のときのポロシティ密度と製品残存欠陥サイズとの関係を示している。ここで、圧延比とは、鋳造された鋳片の厚みを最終製品の厚みで除した値である。また、圧延比2.0が、限界圧延比である。
【0025】
図4から、ポロシティ密度が大きくなるにつれて、製品残存欠陥サイズも大きくなることが分かる。また、同じポロシティ密度で比べたら、圧延比が小さい方が、製品残存欠陥サイズが大きい。そして、ポロシティ密度が0.015mm/mm以下であるとき、圧延比が2.0以下であれば、欠陥が殆ど存在しない最終製品を得ることができる。よって、図4から、鋳片のポロシティ密度が0.015mm/mm以下であれば、実用上、品質に問題がない最終製品を製造することができることが分かる。
【0026】
<実験結果>
図5には、表1に示す軸受箱率とポロシティ密度との関係を示している。図5から、ポロシティ密度が0.015mm/mm以下となるためには、データのばらつきを考慮すると、軸受箱率が20%以下であることが必要であることが分かる。換言すると、軸受箱率を20%以下にすると、バラツキを考慮しても、ポロシティ密度を0.015mm/mm以下とすることができる。したがって、軸受箱率が20%以下であるとき、実用上、品質に問題がない最終製品を製造することができる。一方、軸受箱率が20%を越える場合は、ポロシティ密度が0.015mm/mmを超える場合があり、最終製品に欠陥が生じることがある。
【0027】
ところで、鋳片冷却時における鋳片の総熱抵抗Atotal(冷却水及びロールによる冷却によるもの)は、下記(A)式によって、表される。

ここで、dは凝固シェルの厚み
λは凝固シェルの熱伝達係数
hは鋳片表面の熱伝達係数 である。
【0028】
上記(A)式から、凝固シェルの厚みdが厚くなると、鋳片の抜熱に対して、鋳片表面の熱伝達抵抗(1/h)よりも、凝固シェルによる熱伝達抵抗(d/λ)が支配的になり、その後のhの変化(1/hの変化)が鋳片の総熱抵抗Atotal に及ぼす影響は小さい。したがって、凝固シェルの厚みdが厚くなると、鋳片表面の抜熱が鋳片の冷却に及ぼす影響は小さいことから、分割ロールのロール部と軸受箱領域とにおける抜熱量の相違が鋳片の冷却に及ぼす影響は小さいと考えられる。
【0029】
よって、鋳片の軸受箱領域での凝固遅れは、凝固シェルの厚みdが薄い鋳造初期領域(鋳型より下流側であってメニスカス距離が15mの位置までの領域(図1参照))で影響が大きいと考えられる。
【0030】
そして、図6は、凝固中の鋳片を示しているが、鋳造初期領域に配置されたサポートロール群において、軸受箱率が20%を越える範囲が存在する場合、図6に示すように、その範囲では、他の幅方向位置よりも凝固が遅れる(例えば、図6(a),(b)に示す未凝固部m,m,m,m)。
【0031】
その後、鋳造初期領域より下流側において、鋳片は冷却され凝固収縮することから、ロールスタンドのロールギャップ勾配T[mm/m]を0.5[mm/m]以上1.2[mm/m]以下として、鋳片を支持する((B)式(請求項1における(3)式))。
0.5≦T≦1.2・・・(B)
本実施形態では、鋳造初期領域より下流の領域であって、上記(B)式を満たすロールギャップ勾配Tで鋳片を支持する領域を、「第1区間」(図1参照)と呼ぶ。第1区間のロールギャップ勾配Tは、一定でもよく、変化してもよい。また、ロールギャップ勾配Tは、ロールスタンドのフレームの傾き等により調整することができる。
【0032】
ここで、「第1区間」とは、メニスカス距離Mが0.0011V(D/2)[m]より大きく0.0013Vc(D/2)[m]の位置より小さい領域であり、下記(C)式(請求項1における(2)式)を満たす領域である。
0.0011V×(D/2)<M<0.0013V×(D/2)・・・(C)
また、メニスカス距離とは、鋳型3内の溶鋼の湯面の位置であるメニスカス位置から鋳造経路Qに沿った距離である。
【0033】
上記(C)式では、メニスカス距離Mを、鋳造速度VとD/2(鋳片厚みDの1/2)との関数で表している。ここで、メニスカス距離Mを上記関数で表すことができる理由を説明する。図1に示す凝固シェルの厚みd[mm]は、下記(D)式で表される(出典:鉄鋼基礎共同研究会 連続鋳造における力学的挙動部会、「連続鋳造における力学的挙動」、昭和60年4月、p.27、3行目))。
=K(t)1/2・・・(D)
但し、Kは凝固定数
tは凝固時間[min.] である。
上記(D)式の「凝固時間t」は、メニスカス距離M[m]及び鋳造速度V[m/min.]により t=M/V で表されることから、下記(E)式が成立する。
M=(1/K)×Vc×d・・・(E)
上記(E)式の「凝固シェルの厚みd」は、鋳片の基準側ロール15(又は反基準側ロール16)に対応する側の厚みであり、鋳片の厚みDの1/2(すなわち、D/2)に比例する。したがって、下記(F)式が成立する。
M=(1/K)×Vc×ds∝Vc×(D/2)・・・(F)
このように、メニスカス距離MはVc×(D/2)に比例することから、メニスカス距離Mは鋳造速度VcとD/2との関数で表すことができる。
【0034】
また、ロールギャップ勾配Tとは、鋳造方向についてのロール間距離(ロールピッチ)に対するロールギャップGの変化量であり、図7から下記(G)式で表される。

図7では、鋳型3直下からi番目に配置されたロール対と、i+1番目に配置されたロール対と、i+2番目に配置されたロール対を示している。「ロールギャップG」とは、一対のロール対14を構成する基準側ロール15と反基準側ロール16との最短の面間距離(ロール面間距離)であり、「G」は、鋳型3直下からi番目に配置されたロール対14のロールギャップを示し、「Gi+1」は、鋳型3直下からi+1番目に配置されたロール対14のロールギャップを示し、「Gi+2」は、鋳型3直下からi+2番目に配置されたロール対14のロールギャップを示している。また、「M」は、鋳型3直下からi番目に配置されたロール対14のメニスカス距離を示し、「Mi+1 」は、鋳型3直下からi+1番目に配置されたロール対14のメニスカス距離を示し、「Mi+2 」は、鋳型3直下からi+2番目に配置されたロール対14のメニスカス距離を示しており、「Mi+1 −M」はロールピッチを示す。
【0035】
このように、第1区間に配置するロールスタンドを適正なロールギャップ勾配に調整することにより、図8(a)に示すように、軸受箱率が20%以下の幅方向範囲においては、孤立溶鋼域(孤立した未凝固域)を発生させずに、中心偏析の発生及びポロシティの発生を抑制することができる。しかしながら、「鋳造初期領域」で軸受箱率が20%を超えた幅方向範囲(例えば、幅方向範囲w,w,w,w)では、孤立溶鋼域(図8(a)に示す孤立溶鋼域i,i,i,i)が発生し、偏析やポロシティが発生することを抑制することができない(例えば、図8(b)に示す偏析s,s,s,s、ポロシティp,p,p,p)。
【0036】
そこで、本発明者は、第1区間より下流の領域において、鋳造初期領域で軸受箱率が20%を超えた幅方向範囲を部分圧下することにより(図8(b)参照)、その範囲に発生したポロシティp,p,p,pを減少させることができるという知見を得た(図8(c)参照)。その結果、鋳造初期領域において軸受箱率が20%を越える幅方向範囲においてポロシティ密度が0.015mm/mmを超えることがあった場合でも、鋳片の全幅に亘って、製品の欠陥を防止できることがわかった。
【0037】
本実施形態では、「第1区間」より下流の領域であって、鋳片の中心部付近が高温状態である領域を「第2区間」(図1参照)と呼ぶと共に、第2区間において部分圧下を行う領域を「部分圧下領域」と呼ぶ。なお、鋳片の部分圧下は、第2区間であれば、どの範囲で行ってもよい。
【0038】
ここで、第2区間は、水平経路部に位置するとともに、メニスカス距離Mが0.0016V×(D/2)の位置より小さい領域であり、下記(H)式(請求項1における(4)式)を満たす領域である。
<M<0.0013V×(D/2)・・・(H)
第2区間は、凝固が鋳片の厚み中心まで進行した直後であり、生成直後のポロシティ近傍の鋼が高温で且つ強度が弱い。したがって、この区間でポロシティ発生部位を圧下すると、ポロシティ近傍の鋼が優先的に変形し、ポロシティを囲む凝固界面同士が圧着しやすい。なお、上記(H)式では、上記(C)式と同様に、メニスカス距離Mを鋳造速度VとD/2との関数で表すことができる。
【0039】
また、本実施形態では、二次冷却帯において、鋳型3より下流側であって部分圧下を行う位置までの領域の比水量Wを0.4[l/kg−steel]より大きく1.5[l/kg−steel]未満としている((I)式(請求項1における(1)式))。
0.4<W<1.5・・・(I)
ここで、上記比水量Wは、「鋳型3より下流側であって部分圧下を行う位置までの領域の全二次冷却水量[l/min.]/単位時間当たりに鋳造した鋳片の重量[kg/min.]」で表される。なお、比水量は、鋳片の基準側の水量と反基準側の水量の合計であるが、基準側の水量と反基準側の水量との比率は、1:0.7〜2.0である。
【0040】
次に、本実施形態の連続鋳造機100において、鋳造初期領域に設けられたロールスタンドの構成について説明する。本実施形態の鋳造初期領域における基準側には、図9(a)に示す基準側ロール群20が鋳造方向に複数並設されている。なお、図9(a)では、軸受箱を省略している。
【0041】
図9(a)に示すように、基準側ロール群20は、2分割されたロールから構成されるロール群30と、3分割されたロールから構成されるロール群40とを有し、ロール群30,40は、それぞれ、異なるロールスタンドに設けられている。ロール群30は6列のロール31,32,33,34,35,36から構成され、ロール群40は、6列のロール41,42,43,44,45,46から構成されている。
【0042】
ロール群30において、ロール31は、2つのロール部31A,31Bとを有し、2つのロール部31A,31Bの間には、軸受箱が配置された軸受箱領域31aが存在する。また、ロール32は、2つのロール部32A,32Bとを有し、2つのロール部32A,32Bの間には、軸受箱が配置された軸受箱領域32aが存在する。軸受箱領域31aと軸受箱領域32aとは、異なる幅方向範囲に配置され、鋳片の幅方向に重複しない。また、ロール33,35はロール31と同様な構成を有し、ロール34,36はロール32と同様な構成を有する。ロール群30では、軸受箱領域31a,33a,35aが同じ幅方向範囲に配置され、軸受箱領域32a,34a,36aが同じ幅方向範囲に配置され、これらの軸受箱領域が千鳥状に配置されている。
【0043】
ロール群40において、ロール41は、3つのロール部41A,41B,41Cを有し、隣り合う2つのロール部間には軸受箱が配置された軸受箱領域41a,41bが存在する。また、ロール42は、3つのロール部42A,42B,42Cを有し、隣り合う2つのロール部間には軸受箱が配置された軸受箱領域42a,42bが存在する。軸受箱領域41a,41b,42a,42bは、それぞれ、異なる幅方向範囲に配置され、鋳片の幅方向に重複しない。また、ロール43,45はロール41と同様な構成を有し、ロール44,46はロール42と同様な構成を有する。ロール群40では、軸受箱領域41a,43a,45aが同じ幅方向範囲に配置され、軸受箱領域42a,44a,46aが同じ幅方向範囲に配置され、軸受箱領域41b,43b,45bが同じ幅方向範囲に配置され、軸受箱領域42b,44b,46bが同じ幅方向範囲に配置されている。
【0044】
また、ロール群30の軸受箱領域31a,33a,35aと、ロール群40の軸受箱領域41b,43b,45bとが同じ幅方向範囲に配置され、ロール群30の軸受箱領域32a,34a,36aと、ロール群40の軸受箱領域42a,44a,46aとが同じ幅方向範囲に配置されている。
【0045】
図9(b)に示すように、基準側ロール群20において幅方向範囲wでは、軸受箱率Rは(3/12)×100=25%である。また、基準側ロール群20において幅方向範囲wでは、軸受箱率Rは(6/12)×100=50%である。同様に、基準側ロール群20において幅方向範囲wでは、軸受箱率Rは(6/12)×100=50%である。また、基準側ロール群20において幅方向範囲wでは、軸受箱率Rは(3/12)×100=25%である。そして、上記幅方向範囲w,w,w,wを除く幅方向範囲では、軸受箱率Rは0%である。
【0046】
鋳造初期領域には、上述したように、複数の基準側ロール群20が鋳造方向に並設されている。したがって、鋳造初期領域の鋳造方向の全長において、複数の基準側ロール群20における所定の幅方向範囲における基準側ロール15の軸受箱率Rは、1つの基準側ロール群20の軸受箱率と同一である。
【0047】
よって、鋳造初期領域の基準側ロール群では、幅方向範囲w,w,w,wにおいて軸受箱率Rが20%を超え、その他の幅方向範囲では、軸受箱率Rが0%である。
【0048】
また、鋳造初期領域に配置された反基準側ロール群は、基準側ロール群と同様な構成を有する。したがって、本実施形態の鋳造初期領域では、所定の幅方向範囲における軸受箱率は、基準側ロールと反基準側ロールとで略同一である。そして、幅方向について、基準側ロールの軸受箱率Rが20%を越える幅方向範囲と、反基準側ロールの軸受箱率Rが20%を越える幅方向範囲とが略同一の範囲である。
【0049】
なお、本実施形態では、鋳造初期領域に設けられた基準側ロール群が複数の基準側ロール群20で構成されているため、複数の基準側ロール群20における軸受箱率Rを算出したが、鋳造初期領域の軸受箱率Rの算出には、鋳造初期領域に配置された全てのロールスタンドを対象とする。したがって、ロールスタンドの一部が鋳造初期領域に配置されている場合は、そのロールスタンドの他の一部が鋳造初期領域に配置されていなくても、そのロールスタンドに設けられた全てのロールを鋳造初期領域の軸受箱率Rの算出に考慮する。
【0050】
次に、本実施形態の連続鋳造機100において、第2区間に設けられたロールスタンドの構成について説明する。
【0051】
図1に示す第2区間のうち部分圧下領域には、図10〜12に示す部分圧下用ロールスタンド110が配置されている。図10,11に示すように、部分圧下用ロールスタンド110は、基準側フレーム11と、反基準側フレーム12と、6対のロール対14とを有する。基準側フレーム11と反基準側フレーム12とは、油圧シリンダ13を介して締結されている。
【0052】
6対のロール対14は、上流側から順に6列に配列された基準側ロール51,52,53,54,55,56(図1に示す基準側ロール15)及び反基準側ロール61,62,63,64,65,66(図1に示す反基準側ロール16)から構成されている。反基準側ロール61,62,63,64,65,66には、それぞれ、1列当たり2個の大径凸部71,72,73,74,75,76が設けられている。
【0053】
図12に示すように、反基準側ロール61は、鋳片の幅方向に2分割され、両端部が軸受箱81により支持された2個のロール部61A,61Bを有する。ロール部61Aには、幅方向範囲wに大径凸部71が設けられ、ロール部61Bには、幅方向範囲wに大径凸部71が設けられている。
【0054】
また、図11,12に示すように、反基準側ロール62は、鋳片の幅方向に3分割され、両端部が軸受箱81により支持された3個のロール部62A,62B,62Cを有する。ロール部62Bには、幅方向範囲w,wにそれぞれ大径凸部72が設けられている。
【0055】
そして、図12に示すように、反基準側ロール63,65は、反基準側ロール61と同様な構成を有し、反基準側ロール64,66は、反基準側ロール62と同様な構成を有する。
【0056】
このように、幅方向範囲w,wには、鋳造方向に3つの大径凸部71,73,75が配置され、幅方向範囲w,wには、鋳造方向に3つの大径凸部72,74,76が配置されている。よって、ロールスタンド110により、鋳片の幅方向範囲w,w,w,wは、それぞれ3回圧下される。
【0057】
また、図10,12に示すように、大径凸部71,72,73,74,75,76は、ロール部の外周面から外側に向かって突出し、図12に示すように、鋳造初期領域で軸受箱率が20%を超えた幅方向範囲w,w,w,wに設けられている(図9参照)。そして、本実施形態では、大径凸部の幅71,72,73,74,75,76が、鋳造初期領域で軸受箱が配置された幅方向範囲(軸受箱領域の幅)と略同一である。これにより、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超える幅方向範囲を圧下でき、鋳片から受けるロール反力を軽減できる。
【0058】
また、大径凸部71,72,73,74,75,76の高さ(図10に示すh,h,h,h,h,h及び図12に示すh)は、約4[mm]以上18[mm]以下とすることが好ましく、本実施形態では、下記の高さに設定されている。
大径凸部71の高さh、大径凸部72の高さh: 4[mm]
大径凸部73の高さh、大径凸部74の高さh: 8[mm]
大径凸部75の高さh、大径凸部76の高さh:12[mm]
【0059】
このように、幅方向範囲w,wに配置された大径凸部71,73,75の高さh,h,hは、鋳造方向に4mmずつ増加している。同様に、幅方向範囲w,wに配置された大径凸部72,74,76の高さh,h,hが鋳造方向に4mmずつ増加している。そして、鋳片の幅方向範囲w,w,w,wでは、総圧下量が12[mm/1ロールスタンド]である。なお、大径凸部の高さが18[mm]を超えると、圧下による反力が大きく、設備負荷が大きくなることから、大径凸部の高さを18[mm]以下とすることが好ましい。
【0060】
そして、本実施形態では、第2区間のうち部分圧下領域だけで部分圧下を行い、その他の領域では部分圧下を行わない。したがって、第2区間において、部分圧下領域に1つの部分圧下用ロールスタンド110が配置され、部分圧下領域を除く領域に大径凸部が設けられていないロールスタンドが配置されている。
【0061】
以上に述べたように、本実施形態の部分大圧下用ロールスタンド110を用いたスラブの連続鋳造方法によると、鋳造経路Qの上流側において、鋳造初期領域では、凝固シェルの厚みが薄いため、鋳片の冷却に、鋳片表面の抜熱が大きく影響することから、この領域で軸受箱率Rが20%を超えた範囲には、鋳片の厚み中心近傍にポロシティが発生しやすい。そこで、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超える範囲を、鋳造初期領域より下流側の第2区間の部分圧下領域で部分圧下することによって、その範囲に発生したポロシティを減少させることができる。したがって、本実施形態の方法によると、鋳造初期領域において軸受箱が多く配置された幅方向範囲があった場合でも、その範囲にポロシティが残存しないようにすることができ、鋳片の幅方向全体に亘って高品質なスラブを鋳造することができる。
【0062】
また、大径凸部の幅を鋳造初期領域で軸受箱が配置された幅方向範囲(軸受箱領域の幅)と同一にすることにより、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超える幅方向範囲だけを圧下でき、不要な部位を圧下しないようにできる。これにより、鋳片から受けるロール反力を軽減でき、設備負荷を低減できる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0064】
スラブの連続鋳造において、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超えた範囲を第2区間で部分圧下した場合と部分圧下しなかった場合とのポロシティ密度を調べた。表2には、各鋳造条件と、第1区間のロールギャップ勾配及び第2区間の部分圧下条件とを示し、表3には、表2に示すC含有量を示している。
【0065】
また、図13〜16には、ロールスタンドの構成(反基準側ロールの構成)を示している。図13(a)、図14(a)、図15(a)及び図16(a)には、鋳造初期領域に配置されたロールスタンドの構成を図示し、図13(b)、図14(b)、図15(b)及び図16(b)には、部分圧下領域に配置された部分圧下用ロールスタンドの構成を図示し、図13(c)には、鋳造初期領域及び部分圧下領域を除く領域に配置されたロールスタンドの構成を図示している。
【0066】
鋳造初期領域には、図13(a)、図14(a)、図15(a)及び図16(a)に示すロールスタンドが鋳造方向に複数並設され、鋳造初期領域では、基準側ロールと反基準側ロールとの構成が略同一である。したがって、鋳造初期領域での所定の幅方向範囲における軸受箱率Rは、図13(a)、図14(a)、図15(a)及び図16(a)に示すロールスタンドの所定の幅方向範囲における軸受箱率Rと同一である。また、実施例1〜20及び比較例1〜3では、鋳造初期領域及び部分圧下領域を除く領域に、図13(c)に示すロールスタンドが鋳造方向に複数並設されている。
【0067】
そして、実施例1〜20では、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超えた幅方向範囲を部分圧下した。一方、比較例1,2では、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超えた幅方向範囲を部分圧下せず、比較例3では、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超えた幅方向範囲の一部を部分圧下した。
【0068】
実施例1〜20及び比較例3では、部分圧下領域に、部分圧下用ロールスタンドを1つ配置し、反基準側ロールに大径凸部を設けた。そして、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超えた幅方向範囲に3つの大径凸部を配置し、この幅方向範囲を3回圧下した。同一の幅方向範囲に配置された3つの大径凸部は、上流側から順に、高さhが4mm、8mm、12mmであり、幅wが300mm、290mm、280mmである。ここで、最下流に配置された大径凸部の幅280mmは、軸受箱が配置された幅方向範囲(軸受箱領域の幅)と略同一である。
【0069】
次に、図13〜16に示すロールスタンドの構成を説明する。
【0070】
[実施例1〜19]
<鋳造初期領域>
図13(a)に示すように、ロールスタンド210において、軸受箱210aの幅方向範囲w21 の軸受箱率Rは50%であり、軸受箱210bの幅方向位置w22 の軸受箱率Rは50%であり、その他の幅方向範囲の軸受箱率は0%である。
<部分圧下領域>
図13(b)に示すように、2,4,6列目のロールの幅方向範囲w21,w22に、それぞれ、大径凸部252,254,256を設けた。
【0071】
[実施例20]
<鋳造初期領域>
図14(a)に示すように、ロールスタンド310において、軸受箱312aの幅方向範囲w31 の軸受箱率Rは25%であり、軸受箱311a,312bの幅方向範囲w32 の軸受箱率Rは50%であり、軸受箱311b,312cの幅方向範囲w33 の軸受箱率Rは50%であり、軸受箱312dの幅方向範囲w34 の軸受箱率Rは25%であり、その他の幅方向範囲の軸受箱率は0%である。
<部分圧下領域>
図14(b)に示すように、1,3,5列目のロールの幅方向範囲w31,w34 に、大径凸部351,353,355を設け、2,4,6列目の幅方向範囲w32,w33 に、大径凸部362,364,366を設けた。なお、大径凸部362,364,366の幅は、上述した300mm、290mm、280mmでなく、これらよりも大きい。
【0072】
[比較例1,2]
<鋳造初期領域>
図15(a)に示すように、ロールスタンド410において、軸受箱410aの幅方向範囲w41 の軸受箱率Rは50%であり、軸受箱410bの幅方向範囲w42 の軸受箱率Rは50%であり、その他の幅方向範囲の軸受箱率は0%である。
<部分圧下領域>
図15(b)に示すように、幅方向範囲w41,w42 に大径凸部を設けなかった。
【0073】
[比較例3]
<鋳造初期領域>
図16(a)に示すように、ロールスタンド510において、軸受箱510bの幅方向範囲x51 の軸受箱率Rは50%であり、軸受箱510aの幅方向範囲x52 の軸受箱率Rは50%であり、軸受箱510cの幅方向範囲x53 の軸受箱率Rは50%であり、その他の幅方向範囲の軸受箱率は0%である。
<部分圧下領域>
図16(b)に示すように、1,3,5列目のロールの幅方向範囲x51,x53 に大径凸部521,523,525を設け、幅方向範囲x52 に大径凸部を設けなかった
【0074】
次に、表2に示す第2区間の部分圧下条件を説明する。
<ロール位置>
大径凸部が設けられたロールのうち、最上流に配置されたロールのメニスカス距離と、最下流に配置されたロールのメニスカス距離とを示している。
<スタンド設置位置>
第2区間における部分圧下用ロールスタンドの設置位置を示している。部分圧下用ロールスタンドが、第2区間の最上流側に配置されている場合を「最前」と示し、第2区間の中央付近に配置されている場合を「中」と示し、第2区間の最下流側に配置されている場合を「最後」と示している。そして、第2区間の上流側で「最前」と「中」との間に配置されている場合を「前」と示し、第2区間の下流側で「中」と「最後」との間に配置されている場合を「後」と示している。
<圧下部位の軸受箱率R>
鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を超えた幅方向範囲(例えば、図13に示すx21,x22)の軸受箱率Rである。
<ロール1列当たりの大径凸部の数>
1列の反基準側ロールに設けた大径凸部の数である。
<大径凸部の高さの差>
鋳造方向に隣り合う2つの大径凸部の高さhの差である。
<大径凸部を設置したロール列数>
所定の幅方向範囲において、大径凸部を設置した反基準側ロールの合計である。
<部分圧下部位の総圧下量>
所定の幅方向範囲の総圧下量を示している。
【0075】
上述した条件で行った評価結果を表2に示す。評価結果として、ポロシティ密度を示している。ポロシティ密度は、以下の方法により測定した。
【0076】
<ポロシティ密度の測定方法>
図17に示すように、鋳造した鋳片から、鋳造初期領域で軸受箱率が20%を超えた幅方向位置の試料を採取した。試料は、最終凝固部(厚み方向の中心)を中心に、鋳片の厚み方向に±5mmの厚み10mm×所定の幅×鋳造方向に長さ100mmの直方体状の試料(図17に示す試料S)とした。そして、試料Sを幅20mmごとに分割し、厚み10mm×幅20mm×長さ100mmの試料s,s,s・・・とした。その後、試料s,s,s・・・に存在するポロシティの体積をアルキメデス法(比重測定法)により求め、ポロシティの体積を鋳片の幅20mm×長さ100mmの面積で除することにより、鋳片の単位面積当りの密度に換算した。表2には、複数の試料s,s,s・・・のうちポロシティ密度が最も大きい結果を示している。また、図17には、軸受箱が配置された幅方向範囲(280mm)の試料Sを採取したときを示している。
【0077】
そして、本実施形態の実験で説明したように、ポロシティ密度が0.015mm/mm以下であれば、実用上、品質に問題がない製品を製造することができることから(図7参照)、表2では、ポロシティ密度が0.015mm/mm以下である場合、最終製品に欠陥が残存しないと評価して、「○」を示した。一方、ポロシティ密度が0.015mm/mmを超える場合、最終製品に欠陥が残存することがあると評価して、「×」を示した。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
表1から、実施例1〜20では、第2区間で部分圧下を行ったため、鋳造初期領域で軸受箱率Rが20%を越えた幅方向範囲w21,w22, w31,w32 のポロシティ密度が0.015mm/mm以下であった。
【0081】
一方、比較例1,2では、第2区間で部分圧下を行わなかったため、幅方向範囲w41,w42 においてポロシティ密度が0.023mm/mmであった(0.015mm/mmを超えた)と考えられる。
【0082】
また、比較例3では、第2区間で部分圧下を行った幅方向範囲x51,x53 では、ポロシティ密度は0.015mm/mm以下であったが、幅方向範囲位置x52では、第2区間で部分圧下を行わなかったため、ポロシティ密度が0.027mm/mmであった(0.015mm/mmを超えた)と考えられる。
【0083】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態及び実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0084】
例えば、本実施形態及び本実施例では、鋳造初期領域の基準側ロールの構成と反基準側ロールの構成とが略同一である場合について説明したが、基準側ロールの構成と反基準側ロールの構成とが異なってもよい。例えば、鋳造初期領域の基準側ロールの軸受箱率Rが20%を越える幅方向位置と、反基準側ロールの軸受箱率Rが20%を越える幅方向位置とが異なってもよい。この場合、鋳造初期領域で、基準側ロールの軸受箱率Rが20%を越えた領域と、反基準側ロールの軸受箱率Rが20%を越えた領域とを、第2区間で部分圧下する。
【0085】
また、本実施形態及び本実施例では、第2区間に、1つの部分圧下用ロールスタンドが配置される場合について説明したが、第2区間に2つ以上の部分圧下用ロールスタンドを配置してもよい。また、2つ以上の部分圧下ロールに亘って部分圧下を行ってもよい。
【0086】
さらに、本実施形態及び本実施例では、1列の反基準側ロールに、1つ又は2つの大径凸部が設けられている場合について説明したが、1列の反基準側ロールに3つ以上の大径凸部を設けてもよい。また、大径凸部の形状(幅、高さ)は、軸受箱の幅や鋳造初期領域の軸受箱率R等に応じて変更可能である。例えば、本実施形態において、幅方向範囲w,w(鋳造初期領域で軸受箱率Rが50%の幅方向位置)に配置される大径凸部の高さを、幅方向範囲w,w(鋳造初期領域で軸受箱率Rが25%の幅方向位置)に配置される大径凸部の高さよりも高くすることにより、幅方向範囲w,wと幅方向範囲w,wとの圧下量を変えてもよい。
【0087】
そして、本実施形態及び本実施例では、所定の幅方向位置について、大径凸部が1列おきにロールに設けられる場合について説明したが、大径凸部を連続して設けてもよく、2列以上おきにロールに設けてもよい。
【0088】
また、本実施形態及び本実施例では、部分圧下領域において、鋳片の所定の幅方向範囲が3回圧下される場合について説明したが、圧下回数は、1回、2回又は4回以上でもよい。
【0089】
さらに、本実施形態及び本実施例では、反基準側ロールに大径凸部を設ける場合について説明したが、基準側ロールに大径凸部を設けてもよく、基準側ロール及び反基準側ロールのいずれにも大径凸部を設けてもよい。
【0090】
そして、本実施形態及び本実施例では、1列の基準側ロールにおいて、1つの大径凸部により、1つ又は2つの軸受箱領域を圧下する場合について説明したが、1つの大径凸部により3つ以上の軸受箱領域を圧下してもよい。
【0091】
また、本実施形態及び本実施例では、連続鋳造機100が垂直曲げ型の連続鋳造機である場合について説明したが、連続鋳造機は垂直曲げ型のものに限られず、垂直経路部を有さない曲げ型の連続鋳造機でもあってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明を利用すれば、鋳片の幅方向全体に亘って高品質なスラブを鋳造することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 タンディッシュ
2 浸漬ノズル
3 鋳型
4 サポートロール群
5 冷却スプレー
11 基準側フレーム
12 反基準側フレーム
13 油圧シリンダ
14 ロール対
15,51,52,53,54,55,56 基準側ロール
16,61,62,63,64,65,66 反基準側ロール
31A,31B,32A,32B,32C,41A,41B,41C,42A,42B,42C,61A,61B,62A,62B,62C ロール部
71,72,73,74,75,76 大径凸部
81 軸受箱
100 連続鋳造機
110 部分圧下用ロールスタンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造方向に並設された複数のロールを備えたスラブ用連続鋳造機を用いて、C含有量が0.03[mass%]以上0.60[mass%]以下の鋼を鋳造するスラブの連続鋳造方法であり、
前記ロールは、鋳片と接触するとともに両端部が軸受箱により支持された2〜4個のロール部を有し、
鋳型の上端における内寸の短辺Dを280[mm]以上310[mm]以下とし、
鋳造速度Vを0.7[m/min.]以上1.3[m/min.]以下とし、
鋳型より下流側であって部分圧下を行う位置までの比水量W[l/kg‐steel]が下記(1)式を満たし、
0.4<W<1.5・・・(1)
メニスカス距離M[m]が下記(2)式を満たす第1区間において、ロールスタンドのロールギャップ勾配T[mm/m]が下記(3)式を満たすようにし、
0.0011V×(D/2)<M<0.0013V×(D/2)・・・(2)
0.5≦T≦1.2・・・(3)
メニスカス距離Mが下記(4)式を満たす第2区間に、大径凸部を有する部分圧下用ロールを備えた部分大圧下用ロールスタンドを設け、
<M<0.0016V×(D/2)・・・(4)
鋳型より下流側であってメニスカス距離が15mの位置までの範囲に配置されたロールスタンドにおいて、鋳片の幅方向について、鋳造方向に併設されたロールの全数に対する、所定の幅方向位置にロール部間に配置された軸受箱が存在するロールの比率が20%を越える範囲を、前記第2区間で前記部分圧下用ロールによって部分圧下することを特徴とする部分大圧下用ロールスタンドを用いたスラブの連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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