説明

部分計測を合成する形状計測方法

【課題】被検面の形状を高精度に計測すること。
【解決手段】部分計測を複数回行い、それらを合成して全体の形状を得るスティッチ計測方法において、全体計測領域に対して、部分計測領域を複数配置するラティス構築ステップと、ラティスにおいて、全体計測領域の外部が存在する周辺部分計測領域に対しては、全体計測領域の内部の第1の領域と外部の第2の領域とに分割し、全体計測領域の外部が存在しない中央部分計測領域に対しては、周辺部分計測領域の分割パターンによって第1の領域と第2の領域とに分割するステップと、第1の領域上に第1の直交関数系を構築するステップと、全体計測領域における各部分計測領域に対して、第1の領域上に第1の直交関数系の各関数の線形結合を第1のシステムエラーとして定義するステップと、線形結合における係数を変数として含む整合性関数を構築するステップと、整合性関数を最適化することにより決定された変数からシステムエラーを算出するステップとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分計測を複数回行い、それらを合成して全体の形状を得る計測(スティッチ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スティッチ技術は、干渉計測において、天体反射鏡を試験するための大型参照光学素子を製造する費用を回避するために誕生した。誕生からしばらくは、部分計測領域が重なり領域をもたず、「大域的滑らかさ」を基準にして多項式フィッティングが行われていた。このため、部分計測データの高分解能な情報は失われていた。近年では、部分計測領域が重なり領域をもち、「自己整合性」を基準にして合成が行われている。その結果、部分計測データの高分解能な情報を保持することができる。
【0003】
各部分計測にはそれぞれ別々のセットエラー(位置・姿勢の誤差)が存在している。また、各部分計測にはすべてで同等のシステムエラー(計測装置特有の誤差)が存在している。スティッチには、このセットエラーとシステムエラーの補正も求められる。特許文献1には、セットエラーとシステムエラーを同時に算出する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6956657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、干渉計測における部分計測領域は円形であるため、システムエラーを定義するために円上で直交する関数系であるZernike多項式が用いられていた。この場合、ラティス(部分計測領域の配置)において、全体計測領域の外部ではデータが存在しないにも関わらず、非円形であるデータ存在領域のデータを用いて円形である部分計測領域上のシステムエラー補正が行われるため、精度が低下していた。また、同じ理由により、システムエラー定義に用いるZernike多項式の基底によって各基底の係数が異なっていた。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、被検面の形状を高精度に計測することを可能とする新たな技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、部分計測を複数回行い、それらを合成して全体の形状を得るスティッチ計測方法において、全体計測領域に対して、部分計測領域を複数配置するラティス構築ステップと、ラティスにおいて、全体計測領域の外部が存在する周辺部分計測領域に対しては、全体計測領域の内部の第1の領域と外部の第2の領域とに分割し、全体計測領域の外部が存在しない中央部分計測領域に対しては、周辺部分計測領域の分割パターンによって第1の領域と第2の領域とに分割するステップと、第1の領域上に第1の直交関数系を構築するステップと、全体計測領域における各部分計測領域に対して、第1の領域上に第1の直交関数系の各関数の線形結合を第1のシステムエラーとして定義するステップと、線形結合における係数を変数として含む整合性関数を構築するステップと、整合性関数を最適化することにより決定された変数からシステムエラーを算出するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、被検面の形状を高精度に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一側面としての計測方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】全体計測領域:長方形、部分計測領域:円形、第1の領域:半円、第2の領域:半円である場合のラティスを示す図である。
【図3】全体計測領域:長方形、部分計測領域:円形、第1の領域:縮小半円、第2の領域:拡大半円である場合のラティスを示す図である。
【図4】全体計測領域:円形、部分計測領域:円形、第1の領域:凸月、第2の領域:三日月、小円と大円の交点のy座標:正である場合のラティスを示す図である。
【図5】全体計測領域:円形、部分計測領域:円形、第1の領域:凸月、第2の領域:三日月、小円と大円の交点のy座標:負である場合のラティスを示す図である。
【図6】第2のシステムエラーを定義する必要がない場合のラティスを示す図である。
【図7】第1の領域が合同でない場合のラティスを示す図である。
【図8】予め部分計測領域に対して特定領域を抽出する場合のラティスを示す図である。
【図9】半円多項式を示す図である。
【図10】半円多項式の定義域(半円)を示す図である。
【図11】拡張半円多項式の定義域(縮小半円)を示す図である。
【図12】拡張半円多項式の定義域(拡大半円)を示す図である。
【図13】三日月多項式の定義域(小円と大円の交点のy座標が正の三日月)を示す図である。
【図14】凸月多項式の定義域(小円と大円の交点のy座標が正の凸月)を示す図である。
【図15】三日月多項式の定義域(小円と大円の交点のy座標が負の三日月)を示す図である。
【図16】凸月多項式の定義域(小円と大円の交点のy座標が負の凸月)を示す図である。
【図17】半円多項式の基底グラフ表を示す図である。
【図18】拡張半円多項式の基底グラフ表(定義域:縮小半円)を示す図である。
【図19】拡張半円多項式の基底グラフ表(定義域:拡大半円)を示す図である。
【図20】拡張半円多項式・凸月多項式・三日月多項式の基底グラフ表(定義域:全円)を示す図である。
【図21】三日月多項式の基底グラフ表(小円と大円の交点のy座標:正)を示す図である。
【図22】凸月多項式の基底グラフ表(小円と大円の交点のy座標:正)を示す図である。
【図23】三日月多項式の基底グラフ表(小円と大円の交点のy座標:負)を示す図である。
【図24】凸月多項式の基底グラフ表(小円と大円の交点のy座標:負)を示す図である。
【図25】フィッティングの対象形状を示す図である。
【図26】Zernike多項式フィッティングの形状を示す図である。
【図27】半円多項式フィッティングの形状を示す図である。
【図28】Zernike多項式フィッティングの係数を示す図である。
【図29】半円多項式フィッティングの係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、部分計測を複数回行い、それらを合成して全体の形状を得るスティッチ計測方法に関するものである。本発明のフローチャートを図1に示す。このフローチャートの各ステップである<ラティス構築>、<領域分割>、<直交関数系構築>、<システムエラー定義>、<整合性関数構築>、<システムエラー算出>を順に説明する。
<ラティス構築>
まず、全体計測領域(被検面)に対して、部分計測領域(計測範囲)を複数配置するラティス構築を行う。なお、1つの計測範囲が少なくとも1つの他の計測範囲の一部と重なり領域を形成するように複数の計測範囲の各々を設定する。全体計測領域が長方形であり、部分計測領域が円形である場合の例が図2、図3である。また、全体計測領域が円形であり、部分計測領域も円形である場合の例が図4、図5である。各部分計測で姿勢が異なる場合、ラティスは3次元となるが、これらは簡単のため2次元としている。また、これらは後述する第2のシステムエラーを定義する必要がある場合の例でもあるが、第2のシステムエラーを定義する必要がない場合の例が図6である。さらに、これらは後述する第1の領域が合同である場合(第2の領域も合同)の例でもあるが、第1の領域が合同でない場合の例が図7である。その上、これらは予め部分計測領域に対して特定領域を抽出しない場合の例でもあるが、予め部分計測領域に対して特定領域を抽出する場合の例が図8である。
<領域分割>
次に、ラティスにおいて、全体計測領域の外部が存在する周辺部分計測領域に対しては、全体計測領域の内部の第1の領域と、外部の第2の領域とに分割する。また、全体計測領域の外部が存在しない中央部分計測領域に対しては、周辺部分計測領域の分割パターンによって第1の領域と第2の領域とに分割する。図2では第1の領域が半円、第2の領域も半円である。図3では第1の領域が縮小半円、第2の領域が拡大半円である。図4、図5では第1の領域が凸月、第2の領域が三日月である。図7では第1の領域の第1の種類が半円、第1の領域の第2の種類が縮小半円、第2の領域の第1の種類が半円、第2の領域の第2の種類が拡大半円である。
<直交関数系構築>
次に、第1の領域上に第1の直交関数系を構築する。第1の領域が合同である場合は1種類、合同でない場合はその種類だけ構築する。ラティスにおいて、第1の領域のみでは全体計測領域を被覆していない場合、第2の領域上に第2の直交関数系を構築する。第2の領域が合同である場合は1種類、合同でない場合はその種類だけ構築する。特定領域上で直交する関数系の構築方法としては、グラム・シュミットの直交化法がある。これは、基底系v={v}に対して、以下の式で定まるw={w}は直交基底系となるというものである。
【0011】
【数1】

【0012】
また、以下のようにw={w}を正規化することにより、正規直交基底系u={u}を得ることもできる。
【0013】
【数2】

【0014】
<システムエラー定義>
次に、全体計測領域における各部分計測領域に対して、第1の領域上に第1の直交関数系の各関数の線形結合を第1のシステムエラーとして定義する。以下、第1の領域が合同である場合を考えるが、合同でない場合は第1の直交関数系、第2の直交関数系の種類だけ同様に行えばよい。第1の直交関数系をw={w}、線形結合における係数(第1のシステムエラー補正変数)をa={a}とすると、第1のシステムエラーeは以下の通りである。
【0015】
【数3】

【0016】
これを座標変換することによって、各部分計測領域上に第1のシステムエラーを定義する。ラティスにおいて、第1の領域のみでは全体計測領域を被覆していない場合、第2の領域上に第2の直交関数系の各関数の線形結合を第2のシステムエラーとして定義する。第2の直交関数系をw’={w’}、線形結合における係数(第2のシステムエラー補正変数)をa’={a’}とすると、第2のシステムエラーe’は以下の通りである。
【0017】
【数4】

【0018】
これを座標変換することによって、各部分計測領域上に第2のシステムエラーを定義する。
<整合性関数構築>
次に、線形結合における係数(システムエラー補正変数)を変数として含む整合性関数(ConsistencyFunction)を構築する。整合性関数は自己整合性の指標となる補正変数の関数であり、これを最適化(最大化または最小化)することによって補正変数が決定される。補正変数として、システムエラー補正変数の他にセットエラー補正変数などを含んでいてもよい。以下、第1の領域が合同である場合を考えるが、合同でない場合は第1のシステムエラー補正変数、第2のシステムエラー補正変数の種類だけ同様に行えばよい。システムエラー補正変数が第1のシステムエラー補正変数のみである場合、整合性関数cは以下の通りである。
【0019】
【数5】

【0020】
システムエラー補正変数が第2のシステムエラー補正変数を含む場合、整合性関数c’は以下の通りである。
【0021】
【数6】

【0022】
例えば、特許文献1では整合性関数として以下のようなものが用いられている。まず、計測領域の1点における各部分計測の補正計測値(計測値に補正変数を用いて補正を施したもの)の加重平均を算出する。次に、この加重平均を用いて補正計測値の加重分散を算出する。最後に、この加重分散のデータ点すべてにおける加重平均を算出し、これを整合性関数としている。
<システムエラー算出>
最後に、整合性関数を最適化することにより決定された変数からシステムエラーを算出する。以下、第1の領域が合同である場合を考えるが、合同でない場合は第1のシステムエラー補正変数、第2のシステムエラー補正変数の種類だけ同様に行えばよい。システムエラー補正変数が第1のシステムエラー補正変数のみである場合、決定された第1のシステムエラー補正変数をa={ai}とすると、最適化が最大化、最小化である場合でそれぞれ以下の通りである。
【0023】
【数7】

【0024】
システムエラー補正変数が第2のシステムエラー補正変数を含む場合、決定された第2のシステムエラー補正変数をa’={a’i}とすると、最適化が最大化、最小化である場合でそれぞれ以下の通りである。
【0025】
【数8】

【0026】
この決定されたシステムエラー補正変数を用いて以下のようにシステムエラーを算出する。
【0027】
【数9】

【0028】
最適化は目的関数である整合性関数によって手法を選択することが好ましい。例えば、特許文献1では補正計測値が計測値に補正変数の線形結合を加えたものであるため、上記の整合性関数は補正変数の二次関数となる。また、補正変数の次元空間上の超楕円体の内部に補正変数が存在するという制約を付けている。この二次制約二次関数最適化はラグランジュの未定乗数法やペナルティ関数法によって簡単に解くことができる。
[実施例1]
ここでは、全体計測領域が長方形であり、部分計測領域が円形である場合の実施例を示す(図2参照)。なお、<整合性関数構築>、<システムエラー算出>ステップについては、本実施例に依存しないため省略する。
<ラティス構築>
図2のようなラティスを構築する。
<領域分割>
第1の領域が半円、第2の領域も半円である。
<直交関数系構築>
半円上で直交する多項式系である半円多項式(Semicircle Polynomial)を構築する。関数系vは以下の通りである。
【0029】
【数10】

【0030】
ここでv
【0031】
【数11】

【0032】
である。
【0033】
定義域Dは以下の通りである(図10参照)。
【0034】
【数12】

【0035】
内積は以下の通りである。
【0036】
【数13】

【0037】
ここで、内積の引数は多項式である。多項式×多項式は多項式なので、重積分の被積分関数は多項式である。よって、項別積分することによって以下の積分に帰着させることができる(内積帰着関数)。
【0038】
【数14】

【0039】
これを計算すると、以下のようになる。
【0040】
【数15】

【0041】
ここでBはベータ関数(Beta Function)であり、以下の通りである。
【0042】
【数16】

【0043】
以上より、D上で直交する関数系w={w}は以下のように求めることができる。
【0044】
【数17】

【0045】
ここでn−1、k−1は、
【0046】
【数18】

【0047】
である。
【0048】
なお、内積(ノルムの2乗も含む)は内積帰着関数を用いて以下のように求めることができる。
【0049】
【数19】

【0050】
以上のような計算は、手計算でも行うことはできるが、数式処理システム(ComputerAlgebra System)を用いると便利である。また、数式処理システムを用いる場合は、メモ化(Memoization)を行うとより効率的に計算を行うことができる。
【0051】
以上の計算を実行することにより得た半円多項式を図9に示す。また、基底を定義域上でグラフ化したものの表を図17に示す。これは、上から下へ順に0次、1次、・・・、9次と次数(n)が上がっていき、左から右へ順にn次0項、n次1項、・・・、n次n項と次数内項番(k)が上がっていく。
<システムエラー定義>
各部分計測領域に応じて半円多項式に座標変換を施し、各基底の線形結合を第1のシステムエラー、第2のシステムエラーとして定義する。第1のシステムエラー、第2のシステムエラーは、計測装置または計測対象を並進のみで移動する場合は4種類(集合として第1のシステムエラーと第2のシステムエラーは等しい)、回転を含めて移動する場合は1種類になる。
[実施例2]
ここでは、全体計測領域が長方形であり、部分計測領域が円形である場合の、実施例1とは異なる実施例を示す(図3参照)。なお、<整合性関数構築>、<システムエラー算出>ステップについては、本実施例に依存しないため省略する。
<ラティス構築>
図3のようなラティスを構築する。
<領域分割>
第1の領域が縮小半円、第2の領域が拡大半円である。
<直交関数系構築>
縮小半円、拡大半円を拡張距離d(d=0:半円、d<0:縮小半円、d>0:拡大半円)により表現した拡張半円上で直交する多項式系である拡張半円多項式(ExtendedSemicircle Polynomial)を構築する。
【0052】
関数系vの定義や直交関数系wの構築は実施例1と同様である。
【0053】
実施例1と異なるのは定義域であり、それゆえの内積であり、それゆえの内積帰着関数である。
【0054】
定義域Dは以下の通りである(縮小半円:図11、拡大半円:図12参照)。
【0055】
【数20】

【0056】
内積は以下の通りである。
【0057】
【数21】

【0058】
内積帰着関数は以下の通りである。
【0059】
【数22】

【0060】
これを計算すると、以下のようになる。
【0061】
【数23】

【0062】
ここでsは
【0063】
【数24】

【0064】
である。また、Bは不完全ベータ関数(IncompleteBeta Function)であり、以下の通りである。
【0065】
【数25】

【0066】
この内積帰着関数を用いて構築した拡張半円多項式の基底グラフ表を図18(縮小半円:d=−1/2)、図19(拡大半円:d=1/2)に示す。また、拡張半円多項式は、d=0のときは実施例1で示した半円多項式になり、d=1のときはZernike多項式とは異なる全円上直交多項式系になる(基底グラフ表:図20参照)。
<システムエラー定義>
縮小半円に対応する拡張距離dと拡大半円に対応する拡張距離dで拡張半円多項式をそれぞれ構築し、さらに各部分計測領域に応じて座標変換を施し、各基底の線形結合を第1のシステムエラー、第2のシステムエラーとして定義する。第1のシステムエラー、第2のシステムエラーは、計測装置または計測対象を並進のみで移動する場合は4種類、回転を含めて移動する場合は1種類になる。
[実施例3]
ここでは、全体計測領域が円形であり、部分計測領域も円形である場合の実施例を示す(図4参照)。なお、<整合性関数構築>、<システムエラー算出>ステップについては、本実施例に依存しないため省略する。
<ラティス構築>
図4のようなラティスを構築する。
<領域分割>
第1の領域が凸月、第2の領域が三日月である。
<直交関数系構築>
小円と大円の交点のy座標(y)が正(y>0)の場合の、三日月上で直交する多項式系である三日月多項式(CrescentPolynomial)と凸月上で直交する多項式系である凸月多項式(Gubbous Polynomial)を構築する。
【0067】
関数系vの定義や直交関数系wの構築は実施例1と同様である。
【0068】
実施例1と異なるのは定義域であり、それゆえの内積であり、それゆえの内積帰着関数である。
〔三日月多項式〕
定義域Dは以下の通りである(図13参照)。
【0069】
【数26】

【0070】
ここでdは大円のy切片のうち大きい方であり、rは大円の半径である。
【0071】
また、小円と大円の交点の座標を(±x,y)(x>0)とおくと
【0072】
【数27】

【0073】
である。
【0074】
内積は以下の通りである。
【0075】
【数28】

【0076】
内積帰着関数は以下の通りである。
【0077】
【数29】

【0078】
これを計算すると、以下のようになる。
【0079】
【数30】

【0080】
この内積帰着関数を用いて構築した三日月多項式の基底グラフ表を図21(d=1/2、r=2)に示す。
〔凸月多項式〕
定義域Dは以下の通りである(図14参照)。
【0081】
【数31】

【0082】
これを以下の3つの領域D、D、Dに分割する。
【0083】
【数32】

【0084】
内積は以下の通りである。
【0085】
【数33】

【0086】
内積帰着関数は以下の通りである。
【0087】
【数34】

【0088】
これを計算すると、以下のようになる。
【0089】
【数35】

【0090】
この内積帰着関数を用いて構築した凸月多項式の基底グラフ表を図22(d=1/2、r=2)に示す。また、凸月多項式はd=1のときZernike多項式とは異なる全円上直交多項式系になる(d=1の拡張半円多項式と同一、基底グラフ表:図20参照)。
<システムエラー定義>
大円切片dと大円半径rで凸月多項式、三日月多項式をそれぞれ構築し、さらに各部分計測領域に応じて座標変換を施し、各基底の線形結合を第1のシステムエラー、第2のシステムエラーとして定義する。第1のシステムエラー、第2のシステムエラーは、計測装置または計測対象を並進のみで移動する場合は8種類、回転を含めて移動する場合は1種類になる。
[実施例4]
ここでは、全体計測領域が円形であり、部分計測領域も円形である場合の、実施例3とは異なる実施例を示す(図5参照)。なお、記号d、r、x、yは実施例3と同様である。また、<整合性関数構築>、<システムエラー算出>ステップについては、本実施例に依存しないため省略する。
<ラティス構築>
図5のようなラティスを構築する。
<領域分割>
第1の領域が凸月、第2の領域が三日月である。
<直交関数系構築>
小円と大円の交点のy座標が負(y<0)の場合の、三日月上で直交する多項式系である三日月多項式と凸月上で直交する多項式系である凸月多項式を構築する。
【0091】
関数系vの定義や直交関数系wの構築は実施例1と同様である。
【0092】
実施例1と異なるのは定義域であり、それゆえの内積であり、それゆえの内積帰着関数である。
〔三日月多項式〕
定義域Dは以下の通りである(図15参照)。
【0093】
【数36】

【0094】
これを以下の3つの領域D、D、Dに分割する。
【0095】
【数37】

【0096】
内積は以下の通りである。
【0097】
【数38】

【0098】
内積帰着関数は以下の通りである。
【0099】
【数39】

【0100】
これを計算すると、以下のようになる。
【0101】
【数40】

【0102】
この内積帰着関数を用いて構築した三日月多項式の基底グラフ表を図23(d=−1/2、r=2)に示す。また、三日月多項式はd=−1のときZerike多項式とは異なる全円上直交多項式系になる(d=1の拡張半円多項式・d=1の凸月多項式と同一、基底グラフ表:図20参照)。
〔凸月多項式〕
定義域Dは以下の通りである(図16参照)。
【0103】
【数41】

【0104】
内積は以下の通りである。
【0105】
【数42】

【0106】
内積帰着関数は以下の通りである。
【0107】
【数43】

【0108】
これを計算すると、以下のようになる。
【0109】
【数44】

【0110】
この内積帰着関数を用いて構築した凸月多項式の基底グラフ表を図24(d=−1/2、r=2)に示す。
<システムエラー定義>
大円切片dと大円半径rで凸月多項式、三日月多項式をそれぞれ構築し、さらに各部分計測領域に応じて座標変換を施し、各基底の線形結合を第1のシステムエラー、第2のシステムエラーとして定義する。第1のシステムエラー、第2のシステムエラーは、計測装置または計測対象を並進のみで移動する場合は12種類、回転を含めて移動する場合は1種類になる。
[実施例5]
ここでは、実施例1で示した、全体計測領域が長方形であり、部分計測領域が円形である場合(図2参照)の特殊な場合である、全体計測領域が正方形であり、部分計測領域が円形である場合の実施例を示す(図6参照)。このラティスの場合、第1の領域のみで全体計測領域を被覆しているので、第2の領域に第2の直交関数系の各関数の線形結合を第2のシステムエラーとして定義する必要はない。
[実施例6]
ここでは、全体計測領域が長方形であり、部分計測領域が円形である場合の、実施例1、実施例2、実施例5とは異なる実施例を示す(図7参照)。このラティスの場合、第1の領域のみで全体計測領域を被覆しているので、第2の領域に第2の直交関数系の各関数の線形結合を第2のシステムエラーとして定義する必要がないことは実施例5と同様である。実施例5と異なるのは各部分計測領域上の第1の領域が合同でない点である。第1の領域が半円と縮小半円の2種類存在するため、第1の直交関数系も2種類構築する(拡張半円多項式においてd=0:半円、d<0:縮小半円)。
[実施例7]
ここでは、全体計測領域が円形であり、部分計測領域が長方形である場合の実施例を示す(図8参照)。このラティスの場合、予め部分計測領域に対して特定領域を抽出しない場合(部分計測領域:破線長方形)は第1の領域が拡大半円であり、予め部分計測領域に対して特定領域を抽出する場合(部分計測領域:実線長方形)は第1の領域が半円である。予め部分計測領域に対して特定領域を抽出すると以下のような効果がある。
・直交関数系の構築を簡単にできる(拡張半円多項式の構築よりも半円多項式の構築の方が簡単)。
・構築した直交関数系が簡潔になる(拡張半円多項式よりも半円多項式の方が簡潔)。
[実施例8]
ここでは、第1のシステムエラーと第2のシステムエラーが算出された後、これらを部分計測領域上の直交関数系の各関数の線形結合で合成する実施例を示す。実施例1から実施例4において第1のシステムエラー、第2のシステムエラーが1種類の場合を考える。この場合、部分計測領域は円形であり、システムエラーは円上に存在する。算出された第1のシステムエラーと第2のシステムエラーを合成したものがシステムエラーであるが、これを円上の直交関数系であるZernike多項式やd=1の拡張半円多項式でフィッティングすることにより表現すると以下のような効果がある。
・システムエラーの成分(各基底の係数)がわかる。
・第1の領域と第2の領域の境界上に生じる第1のシステムエラーと第2のシステムエラーの段差を低減できる。
[実施例9]
ここでは、実施例1で示した、全体計測領域が長方形であり、部分計測領域が円形である場合(図2参照)の、システムエラー定義にZernike多項式を用いた場合と半円多項式を用いた場合の比較の実施例を示す。内容としては、周辺部分計測データを模擬し、円形である部分計測領域のうち、半円(図10のD)にのみデータが存在するものとする。このデータを用いて、Zernike多項式と半円多項式のそれぞれでフィッティングを行う。設定項目としては、対象とする形状、形状データを作成する際のサンプリング間隔、フィッティングを行う際の多項式の次数がある。評価項目としては、フィッティングにより得られた多項式の定義域上の形状、フィッティングにより得られた多項式の各基底の係数がある。これらは以下の通りである。
・設定項目
対象形状
z=e−(x4+y4)(図25参照)
サンプリング間隔
Δx=0.1、Δy=0.1
多項式の次数
0次、1次、・・・、9次
・評価項目
形状
Zernike多項式:図26、半円多項式:図27
係数
Zernike多項式:図28、半円多項式:図29
形状については、図26より、Zernike多項式によるフィッティングは、定義域のうち、データが存在する領域ではうまくフィッティングできているが、データが存在しない領域ではうまくフィッティングできていないことがわかる。なお、形状の値域外の値をとる点はプロットされない。一方、図27より、半円多項式によるフィッティングは、定義域であるデータ存在領域でうまくフィッティングできていることがわかる。
【0111】
係数については、図28より、Zernike多項式によるフィッティングは、次数によって各基底の係数が異なることがわかる。一方、図29より、半円多項式によるフィッティングは、次数によらず各基底の係数が同じであることがわかる。
【符号の説明】
【0112】
D…直交関数系の定義域
L…ラティス
S…部分計測領域
…第1の領域
…第2の領域
11…第1の領域の第1の種類
12…第1の領域の第2の種類
21…第2の領域の第1の種類
22…第2の領域の第2の種類
T…全体計測領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分計測を複数回行い、それらを合成して全体の形状を得るスティッチ計測方法において、
全体計測領域に対して、部分計測領域を複数配置するラティス構築ステップと、
ラティスにおいて、全体計測領域の外部が存在する周辺部分計測領域に対しては、全体計測領域の内部の第1の領域と外部の第2の領域とに分割し、全体計測領域の外部が存在しない中央部分計測領域に対しては、周辺部分計測領域の分割パターンによって第1の領域と第2の領域とに分割するステップと、
第1の領域上に第1の直交関数系を構築するステップと、
全体計測領域における各部分計測領域に対して、第1の領域上に第1の直交関数系の各関数の線形結合を第1のシステムエラーとして定義するステップと、
線形結合における係数を変数として含む整合性関数を構築するステップと、
整合性関数を最適化することにより決定された変数からシステムエラーを算出するステップと
を有することを特徴とする計測方法。
【請求項2】
第2の領域上に第2の直交関数系を構築するステップと、
全体計測領域における各部分計測領域に対して、第2の領域上に第2の直交関数系の各関数の線形結合を第2のシステムエラーとして定義するステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
第1の領域上に第1の直交関数系を構築するステップまたは第2の領域上に第2の直交関数系を構築するステップにおいて、グラム・シュミットの直交化法を用いる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の計測方法。
【請求項4】
各部分計測領域上の第1の領域が合同であるラティスを構築する
ことを特徴とする請求項1に記載の計測方法。
【請求項5】
予め部分計測領域に対して特定領域を抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載の計測方法。
【請求項6】
第1のシステムエラーと第2のシステムエラーが算出された後、これらを部分計測領域上の直交関数系の各関数の線形結合で合成する
ことを特徴とする請求項2に記載の計測方法。
【請求項7】
部分計測領域上の直交関数系がZernike多項式である
ことを特徴とする請求項6に記載の計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図28】
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【図29】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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