説明

部品締結構造

【課題】樹脂製部材のカラー部材に対する仮保持性を向上できるようにする。
【解決手段】樹脂製のベース部材20に形成された貫通孔22の内周部24に設けられ、軸線に対して傾斜された傾斜支持面26と、傾斜支持面26に面接触する傾斜被支持面40が外周部38に形成されたカラー部材34と、カラー部材34の孔部36及び被締結部品30の孔部32にボルト12が挿通されてナット18に螺合されることで、被締結部品30をベース部材20に取り付ける締結具と、を有する部品締結構造10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製部材に被締結部品を締結によって取り付けるための部品締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製部材に金属製部品をボルト締結する締結構造は、従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。このような締結構造では、樹脂製部材に締結による軸力が作用しないように、樹脂製部材の貫通孔に金属製のカラー部材を挿入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−304023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂製部材の貫通孔に金属製のカラー部材を挿入する際には、貫通孔の内径とカラー部材の外径との間に寸法管理が必要となり、貫通孔の内径がカラー部材の外径よりも小さい場合には、貫通孔に対するカラー部材の圧入工程が必要となって、樹脂性部材にカラー部材を仮保持させ難い。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、樹脂製部材のカラー部材に対する仮保持性を向上できる部品締結構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載の部品締結構造は、樹脂製のベース部材に形成された貫通孔の内周部に設けられ、軸線に対して傾斜された傾斜支持面と、前記傾斜支持面に面接触する傾斜被支持面が外周部に形成されたカラー部材と、前記カラー部材の孔部及び被締結部品の孔部にボルトが挿通されてナットに螺合されることで、前記被締結部品を前記ベース部材に取り付ける締結具と、を有することを特徴としている。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、樹脂製のベース部材に形成された貫通孔の内周部に設けられた傾斜支持面に、カラー部材の外周部に形成された傾斜被支持面が面接触することで、そのカラー部材がベース部材に仮保持される。したがって、貫通孔の内径とカラー部材の外径との間に寸法ばらつきがあっても、そのカラー部材をベース部材に容易に仮保持させることができる。つまり、本発明によれば、樹脂製のベース部材のカラー部材に対する仮保持性を向上させることができる。
【0008】
また、請求項2に記載の部品締結構造は、請求項1に記載の部品締結構造であって、前記傾斜被支持面又は前記傾斜支持面に凹部が形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、カラー部材の傾斜被支持面又はベース部材の傾斜支持面に凹部が形成されているので、ボルトの締結時において、傾斜支持面に対する傾斜被支持面の押圧力(ボルトの軸力)が過大になるのを防ぐことができる。
【0010】
また、請求項3に記載の部品締結構造は、請求項1又は請求項2に記載の部品締結構造であって、前記内周部に、前記ボルトの軸方向に突出する凸部が環状に形成されており、前記ボルトは、前記ナットに螺合されて、前記被締結部品を前記ベース部材に取り付けたとき、前記凸部に密着するフランジ部を有することを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、貫通孔の内周部に、ボルトの軸方向に突出する凸部が環状に形成され、ボルトが、その凸部に密着するフランジ部を有しているので、貫通孔におけるシール性を向上させることができる。
【0012】
また、請求項4に記載の部品締結構造は、請求項1又は請求項2に記載の部品締結構造であって、前記ボルトは、前記ナットに螺合されて、前記被締結部品を前記ベース部材に取り付けたとき、前記ベース部材に密着する環状突起部を有することを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、ボルトが、ベース部材に密着する環状突起部を有しているので、貫通孔におけるシール性を向上させることができる。また、ボルトが、その軸方向と直交する方向にずれ難くなる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、樹脂製部材のカラー部材に対する仮保持性を向上できる部品締結構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る部品締結構造を示す断面図である。
【図2】第1実施形態に係る部品締結構造を示す分解斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る部品締結構造を示す分解側面図である。
【図4】(A)カラー部材の下部側を示す斜視図である。(B)カラー部材の断面図である。
【図5】(A)カラー部材の外径がインナーパネルの貫通孔の内径と略同一のときのカラー部材の仮保持状態を示す断面図である。(B)カラー部材の外径がインナーパネルの貫通孔の内径より大きいときのカラー部材の仮保持状態を示す断面図である。
【図6】第2実施形態に係る部品締結構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各図において、矢印UPを上方向とし、それを基準に「上」「下」を付加して説明する場合があるが、「上」「下」を付加した説明によって、各部の方向が限定されるものではない。
【0017】
まず、第1実施形態について説明する。図1〜図3で示すように、車体部品の締結に用いられる部品締結構造10は、例えば車体に設けられたベース部材としての樹脂製のインナーパネル20に、被締結部品としての金属製のリインフォースメント(以下「板金」という)30を取り付ける場合などに適用される。
【0018】
インナーパネル20には、後述するボルト12の雄ネジ部16を挿通させる(後述するカラー部材34を装着する)ための貫通孔22が形成されている。そして、その貫通孔22周り、即ち内周縁部(内周部)24には、軸線に対して所定角度θ(図3参照)で傾斜した傾斜支持面としてのテーパー面26が環状に(内周縁部24に沿って)形成されている。
【0019】
つまり、このテーパー面26は、上方側の内径が下方側の内径よりも大径となるように形成されており、略上方を向くように(後述するカラー部材34に対向可能に)なっている。そして、この内周縁部24には、上方向(後述するボルト12の軸方向上側)へ向かって突出する凸部28が環状に(内周縁部24に沿って)、かつ一体に形成されている。
【0020】
板金30には、後述するボルト12の雄ネジ部16を挿通させるための貫通孔(孔部)32が形成されている。そして、その貫通孔32と同軸になるように、締結具としての金属製のナット(ウエルドナット)18が板金30の下面(インナーパネル20が重ねられる面とは反対側の面)に溶接によって固着されている。
【0021】
また、インナーパネル20の貫通孔22には、金属製のカラー部材34が装着されるようになっている。このカラー部材34は、ボルト12の雄ネジ部16の外径よりも大きい内径の貫通孔(孔部)36を有する円筒状(リング状)に形成されている。そして、このカラー部材34の高さ(厚さ)は、環状凸部28を含むインナーパネル20の厚さよりも若干低く(薄く)されている(図5(A)参照)。
【0022】
また、このカラー部材34の下端部における外周縁部(外周部)38には、軸線に対してテーパー面26と同等の角度θ(図4参照)で傾斜する傾斜被支持面としてのテーパー面40が環状に(外周縁部38に沿って)形成されている。そして、このテーパー面40には、図4で示すような切欠状の凹部42が周方向全体に亘って等間隔に(放射状に)複数個形成されている。
【0023】
これにより、カラー部材34の外周縁部38(テーパー面40)と、インナーパネル20の内周縁部24(テーパー面26)との接触面積が低減される構成である。また、このカラー部材34の上面には、図2で示すように、所定幅の溝部44が放射状に複数形成されており、後述するボルト12のフランジ部14の下面との接触面積が低減されるようになっている。
【0024】
締結具としての金属製のボルト12は、円形状のフランジ部(ワッシャー部)14を同軸的に有しており、このフランジ部14の外径は、カラー部材34の外径よりも大きく、即ちインナーパネル20の内周縁部24に形成された環状凸部28の外径よりも大きくされている。これにより、ボルト12の締結時に、フランジ部14の下面が、環状凸部28の上面を潰して、その上面に密着される構成である(図1参照)。
【0025】
以上のような構成の部品締結構造10において、次にその作用について説明する。板金30を樹脂製のインナーパネル20に締結によって取り付けるには、そのインナーパネル20の貫通孔22内に金属製のカラー部材34を装着する。
【0026】
すなわち、インナーパネル20の貫通孔22の内周縁部24に形成されたテーパー面26で、カラー部材34の外周縁部38に形成されたテーパー面40を支持する。ここで、カラー部材34の下端部における外径が、貫通孔22の下端部における内径と略同一のときには、図5(A)で示すように、カラー部材34は、その上端部が環状凸部28よりも若干低位となる所望の着座位置で、インナーパネル20に仮保持される。
【0027】
一方、カラー部材34の下端部における外径が、貫通孔22の下端部における内径よりも大きいときには、図5(B)で示すように、カラー部材34は、その上端部が環状凸部28よりも上方側へ飛び出した着座位置で、インナーパネル20に仮保持される。
【0028】
つまり、この場合には、手指により軽く(略一定の挿入荷重で)カラー部材34を貫通孔22内へ押し込む。すると、カラー部材34は、テーパー面26に対するテーパー面40の摩擦力で、そのテーパー面26に対する密着性が向上されるため、ボルト12による締結作業を行うまでの間に貫通孔22内から脱落することがない。
【0029】
このように、本実施形態に係る部品締結構造10では、インナーパネル20における貫通孔22の内径とカラー部材34の外径との間に寸法ばらつきがあっても、圧入工程(過大な押圧力)が不要であり、カラー部材34をインナーパネル20に容易に仮保持させることができる(インナーパネル20のカラー部材34に対する仮保持性を向上させることができる)。
【0030】
こうして、カラー部材34をインナーパネル20に仮保持させたら、板金30の上面をインナーパネル20の下面に重ね合わせ、ボルト12の雄ネジ部16をカラー部材34の貫通孔36及び板金30の貫通孔32に挿通し、板金30の下面に固着されているナット18に螺合する(締結する)。
【0031】
なお、図5(B)で示した状態のカラー部材34であっても、ボルト12をナット18に締結するときの軸力により、貫通孔22内に挿入され(押し込まれ)、図5(A)で示した状態のカラー部材34のように、その上端部が環状凸部28よりも若干低位となる所望の位置に着座される。
【0032】
また、ボルト12の締結時、そのテーパー面26にはテーパー面40が面接触(密着)しているため、カラー部材34のテーパー面40によって加えられた荷重は、そのテーパー面40に面接触しているテーパー面26で適切に受け止めることができる。
【0033】
したがって、インナーパネル20に対して、板金30の位置がボルト12の軸方向と直交する方向にずれる(ボルト12が、その軸方向と直交する方向にがたつく)ことがなく、板金30は、インナーパネル20に対して位置精度良く取り付けられる。
【0034】
また、カラー部材34のテーパー面40には、その外周縁部38(周方向)全体に亘って等間隔に複数の凹部42が形成されている。したがって、図5(B)で示す状態のカラー部材34であっても、ボルト12の締結時の軸力(テーパー面26に対するテーパー面40の押圧力)が過大になるのを防止しつつ締結することができる。
【0035】
すなわち、複数の凹部42を形成することにより、テーパー面26に面接触するテーパー面40の面積が低減されるため、ナット18に対するボルト12の締結(螺合)時に、カラー部材34が貫通孔22内に押し込まれる際の押圧力によって塑性変形するテーパー面26の面積を低減させることができる。
【0036】
したがって、カラー部材34を貫通孔22内に押し込むためのボルト12による軸力が過大になることを防止することができ、ボルト12とカラー部材34と板金30との間で必要とされる適切な軸力が得られないといった不具合や、その軸力が得られる前にボルト12が破断するといった不具合の発生を防止することができる。
【0037】
なお、複数の凹部42を形成することにより、カラー部材34を押し込むときの軸力を低減させることができるが、テーパー面26からの反力(荷重)を受けるテーパー面40の面積が低減される。そのため、凹部42の数量(テーパー面40に対する面積率)は、ボルト12による軸力と、テーパー面26とテーパー面40との接触面積のバランスを考慮して決められる。
【0038】
また、ボルト12の締結後では、フランジ部14が環状凸部28を下方へ向けて押圧することにより(塑性変形させるように潰すことにより)、その環状凸部28に密着している。したがって、インナーパネル20の貫通孔22におけるシール性を向上させることができ、カラー部材34及び板金30の表面処理や塗装等の防錆処理を簡素化することができる。
【0039】
次に、第2実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同等の部位には、同じ符号を付して詳細な説明(作用も含む)は省略する。図6で示すように、この第2実施形態では、貫通孔22の内周縁部24に環状凸部28が形成されておらず、ボルト12のフランジ部14に環状突起部15が形成されている点のみが、上記第1実施形態と異なっている。
【0040】
すなわち、図6で示すように、ボルト12のフランジ部14の外周縁部の下面には、下方に向かって鋭角に突出する突起部15が環状に(外周縁部に沿って)、かつ一体に形成されている。そして、この環状突起部15は、ボルト12の締結後、内周縁部24の径方向外側近傍のインナーパネル20に食い込む(密着する)構成になっている。
【0041】
したがって、インナーパネル20の貫通孔22におけるシール性を、上記第1実施形態と同様に向上させることができる。また、この場合、インナーパネル20に対する板金30のボルト12の軸方向と直交する方向への位置ずれを、その環状突起部15によって抑制又は防止することができる。
【0042】
以上、本実施形態に係る部品締結構造10について、図面を基に説明したが、本実施形態に係る部品締結構造10は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。例えば凹部42は、カラー部材34のテーパー面40ではなく、内周縁部24のテーパー面26に形成するようにしてもよく、この場合も上記と同等の効果が得られる。
【0043】
また、カラー部材34をインナーパネル20の貫通孔22にインサート成形によって取り付ける構造とした場合には、インナーパネル20を成形する金型の構造が複雑化し、コストが増加するが、本実施形態に係る部品締結構造10によれば、金型の構造が複雑化することがなく、低コスト化が図れる。
【符号の説明】
【0044】
10 部品締結構造
12 ボルト(締結具)
14 フランジ部
15 環状突起部
18 ナット(締結具)
20 インナーパネル(ベース部材)
22 貫通孔
24 内周縁部(内周部)
26 テーパー面(傾斜支持面)
28 凸部
30 板金(被締結部品)
32 貫通孔(孔部)
34 カラー部材
36 貫通孔(孔部)
38 外周縁部(外周部)
40 テーパー面(傾斜被支持面)
42 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のベース部材に形成された貫通孔の内周部に設けられ、軸線に対して傾斜された傾斜支持面と、
前記傾斜支持面に面接触する傾斜被支持面が外周部に形成されたカラー部材と、
前記カラー部材の孔部及び被締結部品の孔部にボルトが挿通されてナットに螺合されることで、前記被締結部品を前記ベース部材に取り付ける締結具と、
を有することを特徴とする部品締結構造。
【請求項2】
前記傾斜被支持面又は前記傾斜支持面に凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の部品締結構造。
【請求項3】
前記内周部に、前記ボルトの軸方向に突出する凸部が環状に形成されており、
前記ボルトは、
前記ナットに螺合されて、前記被締結部品を前記ベース部材に取り付けたとき、前記凸部に密着するフランジ部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の部品締結構造。
【請求項4】
前記ボルトは、
前記ナットに螺合されて、前記被締結部品を前記ベース部材に取り付けたとき、前記ベース部材に密着する環状突起部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の部品締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−251583(P2012−251583A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123471(P2011−123471)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】