説明

配向カーボンナノチューブ糸及びその製造方法

【課題】電気的、機械的にバランスのとれた機能性のあるカーボンナノチューブ配向糸を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる増粘剤を含む分散液を貧溶媒に吐出して紡糸し、延伸することを特徴とするカーボンナノチューブと増粘剤から構成される複合糸。及び前記延伸糸を増粘剤が溶解可能な溶媒により処理して前記増粘剤を除去することを特徴とするカーボンナノチューブから構成される糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向カーボンナノチューブ糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブを含む導電性繊維は、優れた導電性と機械強度を得ることが期待されるため、様々な製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、導電性ポリマーとカーボンナノチューブを含有する繊維を提案しているが、その導電率は不十分なものである。
【0004】
特許文献2は、配向カーボンナノチューブの乾式紡糸による糸の製法を開示しているが、多層カーボンナノチューブを使用しているため、キャパシタンスが小さい欠点があった。
【0005】
特許文献3は、硫酸、あるいは超酸でCNTを分散させ凝固剤中に注入して湿式紡糸して
カーボンナノチューブ繊維を製造しているが、カーボンナノチューブは強酸ないし超酸中での処理により構造が壊れ、導電性、強度等の性質が損なわれる欠点がある。
【0006】
特許文献4は、活性剤で分散したCNTをポリマー凝固剤中に注入して紡糸しており、ポ
リマーが糸中に残り、電気的性質が低下する不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−105510
【特許文献2】特表2008−523254
【特許文献3】特表2005−502792
【特許文献4】特表2004−532937
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電気的、機械的にバランスのとれた機能性のあるCNT配向糸を作製すること
を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、カーボンナノチューブと特定の増粘剤と水、N−メチルピロリドンなどの適当な溶媒を混合することにより、カーボンナノチューブが分散した粘性のある分散液を得ることができ、この分散液を凝固浴(例えばエタノール浴)中に吐出することにより湿式紡糸して紡糸原糸を得、これを延伸機により延伸することにより、カーボンナノチューブが配向したカーボンナノチューブ/増粘剤複合糸が得られることを見出した。さらに、得られた複合糸を水ないし含水溶媒などの適切な溶媒に浸漬させることにより増粘剤が溶出除去され、配向したカーボンナノチューブ糸が得られる。
【0010】
本発明は、以下のカーボンナノチューブ含有糸及びその製造方法を提供するものである。
項1. 配向したカーボンナノチューブから構成される糸。
項2. 配向したカーボンナノチューブ(CNT)と、カルボキシメチルセルロース及びポリ
ビニルピロリドンからなる群から選ばれる増粘剤から構成されるCNT複合糸。
項3. 前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする項1又は2に記載の糸。
項4. カーボンナノチューブのアスペクト比が10以上である、項1〜3のいずれかに記載の糸。
項5. カーボンナノチューブと増粘剤の比率が、カーボンナノチューブ100重量部あたり増粘剤は50〜3000重量部である、項2に記載のCNT複合糸。
項6. カーボンナノチューブ(CNT)と、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルピ
ロリドンからなる群から選ばれる増粘剤を含む分散液を貧溶媒に吐出して紡糸し、延伸することを特徴とするCNTと増粘剤から構成される複合糸の製造方法。
項7. カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる増粘剤を含む分散液を凝固浴中に吐出して紡糸し、延伸し、得られた延伸糸を前記増粘剤が溶解可能な溶媒により処理して前記増粘剤を除去することを特徴とする、カーボンナノチューブから構成される糸の製造方法。
項8. 前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする項6又は7に記載の糸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電性と強度がいずれも優れたカーボンナノチューブを含む糸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられるなど、各種のものが知られている。本発明には、このような所謂カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。一般的には、アスペクト比が大きい、すなわち、細くて長い単層ナノチューブがゲルを形成し易い。例えば、アスペクト比が10以上、好ましくは10以上のカーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブの長さは、通常1μm以上、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは500μm以上である。カーボンナノチューブの長さの上限は、特に限定されないが
、例えば30mm程度である。
【0013】
従って、本発明においては、SWNTからゲル状組成物を得るのが好ましい。実用に供されるカーボンナノチューブの好適な例として、一酸化炭素を原料として比較的量産が可能なHiPco(Unidym社製)が挙げられるが、勿論、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明で用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)とポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられ、カルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0015】
本発明において、カーボンナノチューブは増粘剤と共に溶媒に分散して分散液とする。溶媒としては、水、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど),アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなど)などが挙げられ、好ましくは水、NMPが挙げられる。
【0016】
分散液中のカーボンナノチューブの量は、溶媒100mlあたり200〜1500mg程度、好ましくは400〜1200mg程度である。分散液中の増粘剤の量は、
CMCの場合
溶媒100mlあたり100〜2000mg程度、好ましくは250〜1000mg程度である。
PVPの場合
溶媒100mlあたり1000〜20000mg程度、好ましくは4000〜10000mg程度である。
【0017】
また、カーボンナノチューブ100重量部に対し、増粘剤は:
CMCの場合
20〜500重量部程度、好ましくは50〜200重量部程度使用するのが好ましい。PVPの場合
400〜4000重量部程度、好ましくは700〜3000重量部程度使用するのが好ましい。
【0018】
増粘剤の量が少なすぎると分散液を凝固浴中に吐出したときに紡糸原糸の形状保持が難しくなり、増粘剤の量が多すぎると紡糸原糸の形状は保持できるが、凝固浴からの紡糸原糸の取り出しが難しくなる。分散液は、これらの成分を混合し、撹拌装置、ホモジナイザー、超音波装置などを適宜組み合わせて十分に混合して得ることができる。
【0019】
本発明の分散液は、紡糸工程によりシリンジ、紡糸口金などから凝固浴中に吐出ないし押出され、紡糸原糸を形成し、この紡糸原糸を延伸工程に供することにより、カーボンナノチューブと増粘剤から構成される複合糸とすることができる。吐出する際のシリンジ、紡糸口金などの口径は、10〜1000μm程度、好ましくは50〜500μm程度である。この口径を調節することにより紡糸原糸、更には延伸糸の径を調節することができる。
【0020】
凝固浴中の貧溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)などのケトン類、テ
トラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、DMF、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、酢酸エチルなどのエステル類、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられ、アルコール類、ケトン類が好ましく、特にエタノール、4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)が好ましい。また、貧溶媒に
は湿式紡糸が可能である限り、適量の水が含まれていてもよい。
【0021】
凝固浴中に分散液を吐出して得たCNTと増粘剤から構成される紡糸原糸を延伸して乾燥し、CNTと増粘剤から構成される延伸配向糸を形成することができる。延伸倍率としては、1.1〜3倍程度である。延伸糸の乾燥は、50〜150℃で、1〜24時間程度行うことにより実施される。
【0022】
延伸後の複合糸は、水あるいは含水溶媒などの適当な溶媒中に浸積等して処理し、増粘剤を溶出して除去し、カーボンナノチューブから構成される糸を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。
(実施例1)
単層カーボンナノチューブ(以下、SG-CNTと記述する)とカルボキシメチルセルロース(以下CMCと記述する)を下記表1の割合で加え秤量した後、ミリポア水6mlを加え、サンドバス中にて70℃に保ち攪拌工程を2時間実施した。
【0024】
【表1】

カーボンナノチューブとCMCから構成される糸の製造は、以下のようにして行った。・プローブ式ホモジナイザー(NIHONSEIKI KAISHA 社製 US-50)を用いて、超音波照
射を10分間実施した。
・再び、サンドバス中にて70℃に保ち攪拌工程を2時間実施した。
・得られたSG-CNT/CMC水溶液をシリンジに採取し、エタノール液中に注入した。
・エタノール液中にて30分間放置した後、エタノール液中から取り出し、両端を治具で動かないように固定し、ドライヤーにて熱風をかけながら延伸を実施した。
・真空乾燥器中にて、80℃で1日真空乾燥を実施した。
引っ張り弾性率、破断強度についてはEXSTAR6000 TMA/SS6000(Seiko Instruments Inc社
製)を導電率については四端子法でGPIB POTENTIOSTAT/GALVANOSTAT HA-501G(HOKUTO DENKO社製)を用いて測定を実施した。
【0025】
【表2】

(実施例2)
・実施例1で得られたサンプルFについて、水溶液に1日浸漬し、ドライヤーにて熱風をかけた後、真空乾燥機中にて80℃で3日間真空乾燥を実施した・・・サンプルI
・実施例1で得られたサンプルFについて、50wt%エタノール水溶液に1日浸漬し、ドラ
イヤーにて熱風をかけた後、真空乾燥機中にて80℃で3日間真空乾燥を実施した・・・
サンプルJ
得られたサンプルについて、実施例1と同様にしてヤング率(MPa)、破断強度(MPa)、導電率(S・cm-1)を計算した。結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

(実施例3)
単層カーボンナノチューブ(以下、SG-CNTと記述する)とポリビニルピロリドン(以下PVPと記述する)を下記表4の割合で加え秤量した後、N-メチルピロリドン(以下NMPと記述する)9mlを加え、攪拌工程を2時間実施した。
【0027】
【表4】

カーボンナノチューブとから構成される糸の製造は、以下のようにして行った。
・プローブ式ホモジナイザー(NIHON SEIKI KAISHA 社製US-50)を用いて、超音波照射を10分間実施した。
・再び、攪拌工程を2時間実施した。
・得られたSG-CNT/PVP溶液をシリンジに採取し、4-メチル-2-ペンタノン(以後MIBKと記
述する)液中に注入した。
・MIBK液中にて30分間放置した後、MIBK液中から取り出し、両端を治具で動かないように固定し、ドライヤーにて熱風をかけながら延伸を実施した。
・真空乾燥器中にて、80℃で3日真空乾燥を実施した。
得られたサンプルについて、実施例1と同様にしてヤング率(MPa)、破断強度(MPa)、導電率(S・cm-1)を計算した。結果を表5に示す。
【0028】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向したカーボンナノチューブから構成される糸。
【請求項2】
配向したカーボンナノチューブ(CNT)と、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルピ
ロリドンからなる群から選ばれる増粘剤から構成されるCNT複合糸。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸。
【請求項4】
カーボンナノチューブのアスペクト比が10以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の糸。
【請求項5】
カーボンナノチューブと増粘剤の比率が、カーボンナノチューブ100重量部あたり増粘剤は50〜3000重量部である、請求項2に記載のCNT複合糸。
【請求項6】
カーボンナノチューブ(CNT)と、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドン
からなる群から選ばれる増粘剤を含む分散液を貧溶媒に吐出して紡糸し、延伸することを特徴とするCNTと増粘剤から構成される複合糸の製造方法。
【請求項7】
カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる増粘剤を含む分散液を凝固浴中に吐出して紡糸し、延伸し、得られた延伸糸を前記増粘剤が溶解可能な溶媒により処理して前記増粘剤を除去することを特徴とする、カーボンナノチューブから構成される糸の製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項6又は7に記載の糸の製造方法。

【公開番号】特開2010−168679(P2010−168679A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10802(P2009−10802)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発/高配向性CNTを用いたナノ構造制御による低電圧駆動高分子アクチュエータの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】