説明

配管超音波探傷試験装置のデータ採取システム

【課題】検査員が放射線に過度に被曝することなく簡便に配管溶接継手を超音波探傷試験することができる試験装置用のデータ採取システムを提供すること。
【解決手段】原子力発電所における管を、前記配管上に設置された超音波センサを用いて探傷試験するためのデータ採取システムにおいて、検査員が手で保持して前配管上を移動させるように構成された超音波センサ7と、前記配管上における前記超音波センサの移動に伴う位置を検出し、当該位置に応じた信号を形成する位置検出手段8bと、をそなえたことを特徴とする配管超音波探傷試験装置のデータ採取システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所における配管溶接継手等を超音波探傷試験する装置に係わり、とくにそのデータ採取システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所は、年に1回の供用期間中検査(In-Service Inspection、以下ISIと称す)が義務付けられており、重要な機器にあっては溶接部等の検査が要求されている。このISIの主目的は、重要な機器に欠陥等がなく健全であることを確認することである。
【0003】
ISIの対象となる機器については、作業員が直接接近できない箇所又は狭隘箇所についても検査するため、自動検査装置等の導入が進められている。しかも、原子力発電所の放射線管理区域内の作業には、多種の制約(線量当量率、作業時間等)があるため、検査作業の効率化(検査作業に伴う被曝の低減、管理区域内の作業時間の短縮)も図られている。
【0004】
このうち、配管の溶接継手については、健全性を確認する方法の一つとして、超音波探傷試験(以下、UTと称する。)が多く用いられている。配管を対象とする現在のUTは、検査員が超音波センサを操作して超音波探傷器のブラウン管に表示されるエコーを読み取る手動UTと、超音波センサの位置信号およびUT信号をコンピュータで演算処理して、UT結果を3次元マップ等でデータ処理を行う自動UTとの2種類が用いられている。
【0005】
このうち、手動UTについては、検査員がブラウン管を読んだ結果を紙に記録する方法であるため、自動UTのように全てのUTデータを記録・再現できないことが問題となっている。
【0006】
また、ISIの新しい規格である「維持規格」が適用されることにより、UTの性能が問題になるステンレス配管だけでなく炭素鋼配管についても、検出された欠陥のサイジングが要求されることになり、UTの精度向上、特に自動UTの適用範囲拡大が強く望まれている。
【0007】
従来、配管溶接継手のUTは、以下の2種類の方法によって行われている。
【0008】
<検査員が直接UTセンサを操作する手動UT>
配管溶接部の近傍に超音波探傷器を仮置きして検査員がUTセンサを直接操作し、超音波探傷器のブラウン管に表示されるUT結果を読み取り、その結果を紙に記録する。
【0009】
<配管用検査装置による自動UT>
図7に示すように、UTセンサが自動で動作する配管用検査装置を配管溶接部に設置し、オンラインでこの検査装置を遠隔操作する。UTセンサに得られたUT信号は、配管用検査装置で検出された位置信号と共に専用コンピュータで演算処理し、3次元マップ等の様式に自動でデータ処理を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来の検査方法では、以下の問題がある。
【0011】
<手動UT>
検査員が直接UTセンサを操作するため、有資格者である検査員の放射線被曝が増加する。UTを行える有資格者の人数は限られているため、被曝が数の限られた有資格者に集中することになり、好ましくない。
【0012】
また、ブラウン管に表示されたものを紙に記録する方式であるため、データの転記ミス、ブラウン管の読み間違えなど、検査の品質の問題がある。そして、検査結果が紙にしか残らないため、UTデータを再現することが不可能である。
【0013】
<自動UT>
UTセンサを遠隔自動で操作するためのモータ類を検査装置に搭載させるため、装置が大型化し、狭隘部へ検査装置を適用できない。
【0014】
また、上記のモータ類、検査装置を制御させるための専用制御装置などの付帯設備が必要であり、装置の価格が高コストである。
【0015】
しかも部品点数が多くなり、保守点検等のランニングコストが多く発生する。
【0016】
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、特定検査員が放射線に過度に被曝することなく、簡便に配管溶接継手を超音波探傷試験することができる試験装置用のデータ採取システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的達成のため、本発明では、
原子力発電所における配管を、前記配管上に設置された超音波センサを用いて探傷試験するためのデータ採取システムにおいて、検査員が手で保持して前記配管上を移動させるように構成された超音波センサと、前記配管上における前記超音波センサの移動に伴う位置を検出し、当該位置に応じた信号を形成する位置検出手段と、をそなえたことを特徴とする配管超音波探傷試験装置のデータ採取システム、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上述のように、検査員が手で持った超音波センサを、配管上で移動させて探傷試験信号、および超音波センサの移動に伴う位置信号を取り出すようにしたため、原子力発電所のあらゆる箇所の配管につき超音波探傷試験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(配管用超音波探傷試験システムの基本構成)
配管用超音波探傷試験システムは、検査員が手に保持して超音波探触子を直接走査する試験装置部と、試験装置部で採取されたデータを解析するデータ採取記録装置と、によって構成される。
【0020】
試験装置部は、配管の周方向に取り付けられた配管ガイドと、超音波センサをガイドするセンサガイドとが設けられていて、センサの位置が検出でき、再探傷作業・欠陥評価作業等を効率的に行えるため、原子力発電所の配管溶接継手を簡便に超音波探傷試験できる。その結果、検査装置の削減による初期投資低減、ランニングコスト低減等のコスト低減を図ることができる。
【0021】
そして、配管の周方向に取り付けられた配管ガイドと、UTセンサをガイドするセンサガイドとにより、センサの位置が検出できる。この結果、コンピュータによるデータ解析が可能となり、データの転記ミス、ブラウン管の読み間違え等を防止でき、検査の品質向上を図ることができる。
【0022】
また、位置データおよび超音波センサの出力を基にして、専用コンピュータで信号処理してデータ解析できるため、UTの評価性向上、UT記録作成の省力化およびUT記録の保管性の向上を図ることができる。
【0023】
さらに、超音波センサ操作部をマウス型にすることにより、狭隘部の配管継手についても、専用コンピュータで信号処理し、データ解析ができる。
【0024】
そして、超音波センサ操作部をワイヤ操作型にすることにより、狭隘部および複雑形状部の配管継手についても、専用コンピュータで信号処理し、データ解析ができる。
【0025】
以下、図1ないし図6を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0026】
図1(a),(b)は、本発明の1実施例を示す平面図および配管の端面図である。図1(a),(b)に示された各装置につき、説明する。
【0027】
データ採取記録装置1
試験治具部で採取されたUTデータと位置信号を採取し、採取したデータの記録および解析を行うことができる。また、任意のフォーマットの記録用紙に出力することもできる。
【0028】
超音波探傷器2
UTセンサ7で得たUT信号を採取し、データ採取記録装置1にその信号をデジタル変換して送信する。
【0029】
配管ガイド3
試験装置部の本体であり、配管口径毎の半円状の二分割構造となっており、配の上流側と下流側との対で1セットとなる。配管ガイド3には、UTセンサ7が搭載されたセンサガイド5が組み付けられる。
【0030】
センサホルダ4
図2は、センサホルダ4の構造を示す横断面図である。センサホルダ4は、UTセンサ7を搭載・固定するものであり、センサガイド5の片端には、センサガイド5の配管軸方向の移動量を検出する回転距離計8bが内蔵されている。
【0031】
実際のUTでは、検査員が任意の操作パターンに合わせて、センサホルダ4を手で握ってセンサ7の移動を行う。
【0032】
センサガイド5
図3は、センサホルダ5の構造を示す説明図である。センサガイド5は、UTセンサ7を搭載するセンサホルダ4を両側から挟み込むような梯子型の構造となっている。センサガイド5の片端には、センサガイド5の配管Pにおける周方向移動量を検出する回転距離計8bが設置されている。
【0033】
コントロールケーブル6
データ転送用として、位置信号用ケーブル6a(2本)およびUTケーブル6b(1本)を準備する。
【0034】
UTセンサ7
検査部位に合った仕様(UT周波数、UT入射角)のUTセンサ7を準備する。
【0035】
(検査面への試験治具部の設置方法)
まず、下記ステップ(1)ないし(5)の準備作業を行う。
(1)UTケーブル6bと超音波探傷器2、位置信号ケーブル6aとデータ採取記録装置1をそれぞれ結線する。
(2)センサホルダ4に、探傷条件に合ったセンサ7を組み込む。
(3)センサガイド5に、センサホルダ4を組み付ける。
(4)検査する配管口径に合わせた配管ガイド3に、センサガイド5を挟み込むように組み付ける。
(5)検査する配管の任意の位置(配管軸方向の原点位置)に、半円状の配管ガイド3を設置し、もう一つの半円状の配管ガイド3を組み付け、配管に固定する。
【0036】
(UT操作方法)
図4は、UTセンサを用いて検査面を探傷スキャンする場合のスキャンパターンを示している。探傷作業は、下記ステップ(11)ないし(17)により行う。
(11)探傷作業に当っては、予め検査面(任意のUT必要範囲)に接触媒質を塗布する。
(12)そして、センサホルダ4を探傷開始地点(原点)まで移動し、データ採取記録装置1の側で原点を認識させる。
(13)次いで、配管軸方向に、センサホルダ4を任意の距離分移動させる。
(14)さらに、配管周方向に、センサガイド5を任意の距離分移動させる。
(15)上記(13)および(14)を必要な回数(配管全周分)繰り返す。
(16)そして、上記(13)〜(16)の操作が終了した時点で、データ採取記録装置1にデータを保存し、データ解析・記録作成作業を行う。
(17)UTセンサ7を取り替える場合は、上記(12)の手順まで戻り、センサホルダ4からUTセンサ7を取り外し、新たなUTセンサ7を結線した後、センサホルダ4にそのセンサ7を固定する。その後、ステップ(13)〜(16)の手順にてUTを行う。
【0037】
UTセンサ操作部の他の構成
【実施例2】
【0038】
図5(a),(b)および図6(a),(b)は、UTセンサ操作部の構成例を示しており、図5はマウス型を、図6はワイヤ操作型の構成例を示したものである。
【0039】
[実施例2−1]
図5(a),(b)は、UTセンサ操作部をマウス型にした例を示す説明図である。UTセンサ7の位置は、位置検出用ボール10によって検出し(周方向座標、軸方向座標)、その信号はデータ採取記録装置1に取込まれる。
【0040】
そして、UTセンサ7の浮き上がりによる位置信号の誤検出を防止するため、位置検出用ボール10は磁石材料となっており、さらにボール状の2個の浮き上がり防止用磁石車輪11を配備する。
【0041】
このマウス型は、ガイド型より部品点数が少なく、小型化できるため、狭隘部や複雑形状部の配管継手のUTに適している。但し、浮き上がり防止に磁石材料を使用するため、ステンレス配管の表面には吸着できず、炭素鋼配管専用のものとなる。
【0042】
[実施例2−2]
図6(a),(b)は、UTセンサ操作部をワイヤ操作型に構成した例を示す説明図である。UTセンサの位置は、ワイヤ送り出し量およびワイヤ回転角にて検出し(周方向座標、軸方向座標)、その信号はデータ採取記録装置に取込まれる。
【0043】
そしてワイヤ操作型は、UT位置信号の原点となる位置に旋回ベースを固定し、その位置から距離を下記式にて算出する。
軸方向:L×sinθ 周方向:L×cosθ
ここで、L:ワイヤ送り出し量、θ:回転角度
【0044】
ワイヤ操作型は、原点位置となる旋回ベースの固定が必要となるため、狭隘部又は複雑形状部の配管継手のUTには適さないが、クリアランスが十分ある場合や板材、大口径配管等の広範囲の検査には有効である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施例を示す説明図であり、図1(a)は全体を示し、図1(b)は配管の断面を示している。
【図2】図1に示した実施例におけるセンサホルダが、配管上にセンサを保持する状態を示す拡大図。
【図3】図1に示した実施例のセンサガイドの構造を示す説明図。
【図4】図3に示したセンサガイドとUTセンサの動きとの関係を示す説明図。
【図5】本発明の第2の実施例におけるマウス型センサを示す平面図(図5(a))、および側面図(図5(b))。
【図6】本発明の第2の実施例におけるワイヤ操作型センサを示す平面図(図6(a))、および側面図(図6(b))。
【図7】従来の検査装置の概要を示す説明図。
【符号の説明】
【0046】
1 データ採取記録装置、2 超音波探傷器、3 配管ガイド、4 センサホルダ、
5 センサガイド、6a 位置信号ケーブル、6b UTケーブル、7 UTセンサ、
8a 移動用車輪、8b 回転距離計、9 UTセンサ固定用ネジ、
10 位置検出用ボール、11 浮き上がり防止用車輪、101 ガイドレール、
102 機構部、103 接触子モジュール、200 超音波探傷装置、
201 ケーブル、202 データ採取装置、P 配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所における配管を、前記配管上に設置された超音波センサを用いて探傷試験するためのデータ採取システムにおいて、
検査員が手で保持して前記配管上を移動させるように構成された超音波センサと、
前記配管上における前記超音波センサの移動に伴う位置を検出し、当該位置に応じた信号を形成する位置検出手段と、
をそなえたことを特徴とする配管超音波探傷試験装置のデータ採取システム。
【請求項2】
請求項1記載のデータ採取システムにおいて、
前記位置検出手段、および前記超音波センサの移動領域および移動方向をガイドするガイド機構をそなえたことを特徴とする配管超音波探傷試験装置のデータ採取システム。
【請求項3】
請求項1記載のデータ採取システムにおいて、
前記超音波センサは、パーソナルコンピュータ用マウス形状に構成されたことを特徴とする配管超音波探傷試験装置のデータ採取システム。
【請求項4】
請求項1記載のデータ採取システムにおいて、
前記超音波センサは、前記配管上の所定位置を中心にワイヤが回動されるワイヤ操作機構により支持されることを特徴とする配管超音波探傷試験装置のデータ採取システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−271004(P2009−271004A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123652(P2008−123652)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(390014568)東芝プラントシステム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】