説明

配線回路基板および燃料電池

【課題】酸による腐食が防止された配線回路基板およびそれを備えた燃料電池を提供することである。
【解決手段】ベース絶縁層2の一面に、一対の矩形の集電部3a,3b、および集電部3a,3bから長尺状に延びる引き出し導体部4a,4bが形成される。引き出し導体部4aの先端部を除く部分および集電部3aを覆うように、ベース絶縁層2上に炭素含有層6が形成される。また、引き出し導体部4bの先端部を除く部分および集電部3bを覆うように、ベース絶縁層2上に炭素含有層7a,7bおよびソルダーレジスト層8が形成される。ソルダーレジスト層8は、折曲部B1上の引き出し導体部4bの部分を覆うように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線回路基板およびそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等のモバイル機器には、小型でかつ高容量の電池が求められる。そこで、リチウム二次電池等の従来の電池に比べて、高エネルギー密度を得ることが可能な燃料電池の開発が進められている。燃料電池としては、例えば直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cells)がある。
【0003】
直接メタノール型燃料電池では、メタノールが触媒によって分解され、水素イオンが生成される。その水素イオンと空気中の酸素とを反応させることにより電力を発生させる。この場合、化学エネルギーを極めて効率良く電気エネルギーに変換することができ、非常に高いエネルギー密度を得ることができる。
【0004】
このような直接メタノール型燃料電池の内部には、集電回路として例えばフレキシブル配線回路基板(以下、FPC基板と略記する)が設けられる(例えば特許文献1参照)。ここで、図6を用いて従来の燃料電池の構造を説明する。図6(a)は従来の燃料電池に用いられるFPC基板の平面図であり、図6(b)は従来の燃料電池の構造を示す断面図である。
【0005】
図6(a)に示すように、FPC基板51の一面には、一対の導体層52a,52bが形成される。また、導体層52a,52bから引き出し電極53a,53bがそれぞれ延出するように設けられる。
【0006】
図6(b)に示すように、燃料電池50は、FPC基板51、膜電極接合体54および筐体55から構成される。膜電極接合体54は、高分子電解質膜54a、燃料極54bおよび空気極54cからなる。燃料極54bは高分子電解質膜54aの一面に形成され、空気極54cは高分子電解質膜54aの他面に形成される。筐体55は、一対の半体55a,55bからなる。半体55aには燃料(メタノール)を流入させるための燃料通路56が設けられ、半体55bには空気を流入させるための空気通路57が設けられる。
【0007】
FPC基板51は、導体層52a,52bが形成された一面を内側にして折曲される。折曲されたFPC基板51の導体層52a,52bの間に、膜電極接合体54が挟まれる。FPC基板51の周縁部にはパッキング58a,58bが配設される。この状態で、折曲されたFPC基板51が、引き出し電極53a,53bの部分を除いて半体55a,55bからなる筐体55内に収容される。筐体55から突出する引き出し電極53a,53bには、電子部品等の種々の外部回路が電気的に接続される。
【0008】
この燃料電池50では、半体55aの燃料通路56を通して膜電極接合体54の燃料極54bにメタノールが供給される。また、半体55bの空気通路57を通して膜電極接合体54の空気極54cに空気が供給される。この場合、燃料極54bにおいて、触媒によりメタノールが水素イオンと二酸化炭素とに分解され、電子が生成される。
【0009】
メタノールから分解された水素イオンは、高分子電解質膜54aを透過して空気極54cに達し、空気極54cに供給された空気中の酸素と触媒上で反応する。それにより、空気極54cにおいて、水が生成されつつ電子が消費される。これにより、FPC基板51の導体層52a,52b間で電子が移動し、外部回路に電力が供給される。
【特許文献1】特開2004−200064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に、FPC基板51の導体層52a,52bとしては、銅が用いられる。そのため、燃料電池50に供給されるメタノール等の酸の影響により、導体層52a,52bが腐食することがある。
【0011】
本発明の目的は、酸による腐食が防止された配線回路基板およびそれを備えた燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)第1の発明に係る配線回路基板は、燃料電池に用いられる配線回路基板であって、一面および他面を有するとともに、一面に互いに隣接する第1および第2の領域ならびに第1の領域に隣接する第3の領域を有する絶縁層と、絶縁層の第1の領域上に形成される第1の導体部と、絶縁層の第2の領域上に形成される第2の導体部と、第1の導体部に一体的に形成され、絶縁層の第1の領域から第3の領域に延びる第1の引き出し部と、第2の導体部に一体的に形成され、絶縁層の第2の領域から第1の領域を通って第3の領域に延びる第2の引き出し部と、少なくとも絶縁層の第1の領域上において、第1の導体部および第1の引き出し部を覆うように形成された第1の被覆層と、少なくとも絶縁層の第1および第2の領域上において、第2の導体部および第2の引き出し部を覆うように形成された第2の被覆層とを備え、絶縁層は、第1の領域と第2の領域との間の折曲部で第1の領域と第2の領域とが対向するように折曲可能であり、第2の被覆層は、絶縁層の折曲部上における第2の引き出し部の部分を覆う第1の被覆部と、絶縁層の折曲部を除く領域上に形成される第2の被覆部とを含み、第1の被覆層および第2の被覆層の第2の被覆部は炭素を含む樹脂組成物からなり、第2の被覆層の第1の被覆部は、第2の被覆層の第2の被覆部よりも柔軟性が高いものである。
【0013】
この配線回路基板においては、第1の導体部および第1の引き出し部が第1の被覆層によって被覆され、第2の導体部および第2の引き出し部が第2の被覆層によって被覆される。それにより、この配線回路基板を用いた燃料電池内において、燃料として供給されるメタノール等の酸が配線回路基板に接触する状態であっても、第1および第2の導体部ならびに第1および第2の引き出し部の腐食を防止することができる。
【0014】
また、第1の被覆層および第2の被覆層の第2の被覆部は、炭素を含むことによって導電性を有する。そのため、燃料電池内において、第1および第2の導体部における集電作用が阻害されない。
【0015】
また、燃料電池内では、第1の領域と第2の領域とが対向するように折曲部に沿って絶縁層が折曲される。この場合、折曲部上における第2の引き出し部の部分が、柔軟性の高い第1の被覆部によって覆われている。そのため、折曲部に沿って絶縁層が折曲されても、第1の被覆部に割れ目等が形成されることがない。したがって、折曲部上における第2の引き出し部の部分の腐食が確実に防止される。
【0016】
また、絶縁層の第3の領域は、燃料電池の外部に取り出される。その第3の領域上の第1の引き出し部の少なくとも一部および第2の引き出し部の少なくとも一部が燃料電池の外部に露出する。
【0017】
この場合、第1の引き出し部の少なくとも一部および第2の引き出し部の少なくとも一部が同じ面上で近接して露出しているため、第1および第2の引き出し部と外部回路の端子との位置合わせおよび接続を容易かつ正確に行うことができる。したがって、配線回路基板と外部回路との接続信頼性が向上される。
【0018】
(2)第2の被覆層の第1の被覆部は樹脂材料からなってもよい。この場合、第1の被覆部の柔軟性を十分に確保しつつ折曲部上における第2の引き出し部の保護を確実に行うことができる。
【0019】
(3)第2の被覆層の第1の被覆部の厚みは5μm以上20μm以下であり、第1の被覆層および第2の被覆層の第2の被覆部の厚みは5μm以上30μm以下であってもよい。
【0020】
この場合、第1の被覆部の柔軟性をより十分に確保しつつ折曲部上における第2の引き出し部の保護をより確実に行うことができる。
【0021】
また、第1の被覆層および第2の被覆層の第2の被覆部により、配線回路基板の厚みの増大を抑制しつつ絶縁層の折曲部を除く領域上において第1および第2の導体部ならびに第1および第2の引き出し部の腐食を確実に防止することができる。
【0022】
(4)第2の被覆層の第1の被覆部は炭素を含む樹脂組成物からなり、第2の被覆層の第1の被覆部の厚みは第2の被覆層の第2の被覆部の厚みよりも小さくてもよい。
【0023】
この場合、第1の被覆部の柔軟性を十分に確保しつつ折曲部上における第2の引き出し部の保護を確実に行うことができる。
【0024】
(5)第2の被覆層の第1の被覆部の厚みは5μm以上20μm以下であり、第1の被覆層および第2の被覆層の第2の被覆部の厚みは5μm以上30μm以下であってもよい。
【0025】
この場合、第1の被覆部の柔軟性をより十分に確保しつつ折曲部上における第2の引き出し部の保護をより確実に行うことができる。
【0026】
また、第1の被覆層および第2の被覆層の第2の被覆部により、配線回路基板の厚みの増大を抑制しつつ絶縁層の折曲部を除く領域上において第1および第2の導体部ならびに第1および第2の引き出し部の腐食を確実に防止することができる。
【0027】
(6)第2の発明に係る燃料電池は、上記第1の発明に係る配線回路基板と、電池要素と、配線回路基板および電池要素を収容する筐体とを備え、配線回路基板の絶縁層の第1および第2の領域が一面を内側にして折曲部に沿って折曲された状態で第1および第2の領域間に電池要素が配置され、第1の引き出し部の少なくとも一部および第2の引き出し部の少なくとも一部が筐体の外部に露出するように絶縁層の第3の領域が筐体から外部に引き出されたものである。
【0028】
この燃料電池においては、配線回路基板の絶縁層が、第1の領域と第2の領域とが対向するように第1の領域と第2の領域との間の折曲部で折曲される。折曲された絶縁層上の第1および第2の導体部の間に燃料極および空気極を含む電池要素が配置される。配線回路基板の絶縁層の第3の領域は、第1の引き出し部の少なくとも一部および第2の引き出し部の少なくとも一部が筐体の外部に露出するように、筐体から外部に取り出される。
【0029】
配線回路基板の第1の導体部および第1の引き出し部は、第1の被覆層によって被覆され、第2の導体部および第2の引き出し部は、第2の被覆層によって被覆される。それにより、燃料として供給されるメタノール等の酸が配線回路基板に接触する状態であっても、第1および第2の導体部ならびに第1および第2の引き出し部の腐食を防止することができる。
【0030】
また、第1の被覆層および第2の被覆層の第2の被覆部は、炭素を含むことによって導電性を有する。そのため、筐体内において、第1および第2の導体部における集電作用が阻害されない。
【0031】
また、絶縁層の折曲部上における第2の引き出し部の部分が、柔軟性の高い第1の被覆部によって覆われている。そのため、折曲部に沿って絶縁層が折曲されても、第1の被覆部に割れ目等が形成されることがない。したがって、折曲部上における第2の引き出し部の部分の腐食が確実に防止される。
【0032】
また、筐体の外部において、配線回路基板の第1の引き出し部の少なくとも一部および第2の引き出し部の少なくとも一部が同じ面上で露出する。それにより、第1および第2の引き出し部と外部回路の端子との位置合わせおよび接続を容易かつ正確に行うことができる。したがって、配線回路基板と外部回路との接続信頼性が向上される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、メタノール等の酸が配線回路基板に接触する状態であっても、第1および第2の導体部ならびに第1および第2の引き出し部の腐食を防止することができる。また、絶縁層が折曲されても、第1の被覆部に割れ目等が形成されないので、折曲部上における第2の引き出し部の部分の腐食も確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施の形態に係る配線回路基板および燃料電池について説明する。なお、本実施の形態では、配線回路基板の例として、屈曲性を有するフレキシブル配線回路基板について説明する。
【0035】
(1)フレキシブル配線回路基板の構成
図1(a)は本実施の形態に係るフレキシブル配線回路基板の平面図であり、図1(b)は図1(a)のフレキシブル配線回路基板のA−A線断面図であり、図1(c)は図1(a)のフレキシブル配線回路基板のB−B線断面図である。以下の説明においては、フレキシブル配線回路基板をFPC基板と略記する。
【0036】
図1(a)〜(c)に示すように、FPC基板1は、例えばポリイミドからなるベース絶縁層2を備える。ベース絶縁層2は、矩形の第1絶縁部2a、および第1絶縁部2aの一辺から外側に延びる第2絶縁部2bからなる。以下、第1絶縁部2aの上記一辺とそれに平行な他の一辺とを側辺と称し、第1絶縁部2aの側辺に垂直な他の一対の辺を端辺と称する。
【0037】
ベース絶縁層2の第1絶縁部2aには、端辺に平行でかつ第1絶縁部2aをほぼ二等分するように折曲部B1が設けられる。後述のように、第1絶縁部2aは、折曲部B1に沿って折曲される。折曲部B1は、例えば線状の浅い溝であってもよく、または、線状の印等でもよい。あるいは、折曲部B1で第1絶縁部2aを折曲可能であれば、折曲部B1に特に何もなくてもよい。
【0038】
以下、折曲部B1を境界とする第1絶縁部2aの一方の領域を第1の領域a1と称し、他方の領域を第2の領域a2と称する。第2絶縁部2bは、第1絶縁部2aの第1の領域a1の側辺から外側に延びるように形成される。
【0039】
第1絶縁部2aの第1の領域a1には、複数(本例では6つ)の開口H1が形成される。また、第1絶縁部2aの第2の領域a2には、複数(本例では6つ)の開口H2が形成される。
【0040】
ベース絶縁層2の一面には、例えば銅からなる導体層3が形成される。導体層3は、一対の矩形の集電部3a,3b、および集電部3a,3bから長尺状に延びる引き出し導体部4a,4bからなる。
【0041】
集電部3a,3bの各々は、第1絶縁部2aの側辺に平行な一対の側辺および第1絶縁部2aの端辺に平行な一対の端辺を有する。集電部3aは、第1絶縁部2aの第1の領域a1に形成され、集電部3bは第1絶縁部2aの第2の領域a2に形成される。
【0042】
ベース絶縁層2の開口H1上における集電部3aの部分には、開口H1よりも径大の開口H11が形成される。ベース絶縁層2の開口H2上における集電部3bの部分には、開口H2よりも径大の開口H12が形成される。
【0043】
引き出し導体部4aは、集電部3aの側辺から第2絶縁部2b上に直線状に延びるように形成される。引き出し導体部4bは、集電部3bの側辺から第2絶縁部2b上に屈曲して延びるように形成される。
【0044】
引き出し導体部4aの先端部を除く部分および集電部3aを覆うように、ベース絶縁層2上に炭素含有層6が形成される。炭素含有層6は、ポリイミド等の樹脂材料に炭素(例えばカーボンブラック)を含有した樹脂組成物からなる。炭素含有層6は、集電部3aの開口H11内においてベース絶縁層2の上面に接する。
【0045】
また、引き出し導体部4bの先端部を除く部分および集電部3bを覆うように、ベース絶縁層2上に炭素含有層7a,7bおよびソルダーレジスト層8が形成される。ソルダーレジスト層8は、折曲部B1上の引き出し導体部4bの部分を覆うように形成される。炭素含有層7aは、ソルダーレジスト層8の一方側において引き出し導体部4bおよび集電部3bを覆うように形成される。炭素含有層7bは、ソルダーレジスト層8の他方側において引き出し導体部4bの先端部を除く部分を覆うように形成される。
【0046】
ソルダーレジスト層8は、例えばポリイミドからなる。炭素含有層7a,7bは、炭素含有層6と同様に、ポリイミド等の樹脂材料に炭素(例えばカーボンブラック)を含有した樹脂組成物からなる。炭素含有層7aは、集電部3bの開口H12内においてベース絶縁層2の上面に接する。
【0047】
なお、炭素含有層7a,7bとソルダーレジスト層8との境界部分において、引き出し導体部4bが露出しないように、炭素含有層7a,7bとソルダーレジスト層8とが互いに重なるように形成されることが好ましい。図1(b)においては、炭素含有層7a,7bの端部がソルダーレジスト層8上に形成されている。逆に、ソルダーレジスト層8の端部が炭素含有層7a,7b上に形成されてもよい。
【0048】
以下の説明において、露出した引き出し導体部4a,4bの先端部を引き出し電極5a,5bと称する。
【0049】
(2)FPC基板の製造方法
次に、図1に示したFPC基板1の製造方法を説明する。図2および図3は、FPC基板1の製造方法を説明するための工程断面図である。図2および図3には、図1のA−A線断面およびB−B線断面における製造工程がそれぞれ示される。
【0050】
まず、図2(a)に示すように、例えばポリイミドからなる絶縁膜20と例えば銅からなる導体膜21とを有する2層基材を用意する。絶縁膜20の厚みは例えば25μmであり、導体膜21の厚みは例えば18μmである。
【0051】
次に、図2(b)に示すように、導体膜21上に所定のパターンを有するエッチングレジスト22が形成される。エッチングレジスト22は、例えば、ドライフィルムレジスト等により導体膜21上にレジスト膜を形成し、そのレジスト膜を所定のパターンで露光し、その後、現像することにより形成される。
【0052】
次に、図2(c)に示すように、エッチングにより、エッチングレジスト22の下の領域を除く導体膜21の領域が除去される。次に、図2(d)に示すように、エッチングレジスト22を剥離液により除去する。これにより、絶縁膜20上に、集電部3a,3bおよび引き出し導体部4a,4bからなる導体層3が形成される。
【0053】
続いて、図3(e)に示すように、導体層3の一部(引き出し導体部4bの一部)を覆うように、絶縁膜20上の所定の領域にソルダーレジスト層8が形成される。具体的には、例えばポリイミドを塗布またはラミネートし、そのポリイミドを所定の形状で露光し、その後、現像することによりソルダーレジスト層8が形成される。ソルダーレジスト層8の厚みは例えば12μmである。
【0054】
次に、図3(f)に示すように、ソルダーレジスト層8の両側において、引き出し導体部4bの先端部を除く部分および集電部3bを覆うように炭素含有層7a,7bが形成される。また、引き出し導体部4aの先端部を除く部分および集電部3aを覆うように炭素含有層6が形成される。
【0055】
具体的には、ポリイミド等の樹脂にカーボンブラックを含有する樹脂組成物を塗布し、硬化させることにより炭素含有層6,7a,7bが形成される。ここで、炭素含有層6,7a,7bに含有される炭素とは、有機化合物である樹脂を構成する炭素以外の導電性を有する炭素を意味し、例えば、カーボンブラック等の炭素単体である。
【0056】
なお、この場合、炭素含有層7a,7bの端部がソルダーレジスト層8上に形成されることが好ましい。炭素含有層6,7a,7bの厚みは例えば20μmである。
【0057】
その後、図3(g)に示すように、絶縁膜20が所定の形状に切断されるとともに絶縁層20に開口H1,H2が形成される。これにより、ベース絶縁層2、導体層3、炭素含有層6,7a,7bおよびソルダーレジスト層8からなるFPC基板1が完成する。
【0058】
なお、ベース絶縁層2の厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましく、12.5μm以上25μm以下であることがより好ましい。導体層3の厚みは、3μm以上35μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。炭素含有層6,7a,7bの厚みは、5μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。ソルダーレジスト層8の厚みは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、5μm以上15μm以下であることがより好ましい。
【0059】
また、炭素含有層6,7a,7bは、炭素を10重量%以上70重量%以下で含むことが好ましく、20重量%以上50重量%以下で含むことがより好ましい。
【0060】
また、図2および図3では、サブトラクティブ法により導体層3を形成する場合を示したが、これに限定されず、セミアディティブ法等の他の製造方法を用いて導体層3を形成してもよい。
【0061】
また、図2および図3では、露光法を用いてソルダーレジスト層8を形成する例を示したが、これに限定されず、印刷技術を用いて所定の形状のソルダーレジスト層8を形成してもよい。その場合、ソルダーレジスト層8に熱硬化処理を行ってもよい。
【0062】
また、図2および図3では、ソルダーレジスト層8の形成後に炭素含有層6,7a,7bを形成するが、炭素含有層6,7a,7bの形成後にソルダーレジスト層8を形成してもよい。この場合、ソルダーレジスト層8の端部が炭素含有層7a,7b上に形成されることが好ましい。
【0063】
(3)FPC基板を用いた燃料電池
次に、上記のFPC基板1を用いた燃料電池について説明する。図4(a)は、上記のFPC基板1を用いた燃料電池の外観斜視図であり、図4(b)は、燃料電池内における作用を説明するための図である。
【0064】
図4(a)に示すように、燃料電池30は、半体31a,31bからなる直方体状の筐体31を有する。FPC基板1は、導体層3(図1)、炭素含有層6,7a,7bおよびソルダーレジスト層8が形成された一面を内側にして図1の折曲部B1に沿って折曲された状態で半体31a,31bにより狭持される。
【0065】
FPC基板1のベース絶縁層2の第2絶縁部2bは、半体31a,31bの間から外側に引き出される。それにより、第2絶縁部2b上の引き出し電極5a,5bが筐体31の外側に露出した状態になる。引き出し電極5a,5bには、種々の外部回路の端子が電気的に接続される。
【0066】
図4(b)に示すように、筐体31内において、折曲されたFPC基板1の集電部3aおよび集電部3bの間には、電極膜35が配置される。電極膜35は燃料極35a、空気極35bおよび電解質膜35cからなる。燃料極35aは電解質膜35cの一面に形成され、空気極35bは電解質膜35cの他面に形成される。電極膜35の燃料極35aはFPC基板1の集電部3bに対向し、空気極35bはFPC基板1の集電部3aに対向する。
【0067】
電極膜35の燃料極35aには、FPC基板1の開口H2,H12を通して燃料が供給される。なお、本実施の形態では、燃料としてメタノールを用いる。電極膜35の空気極35bには、FPC基板1の開口H1,F11を通して空気が供給される。
【0068】
この場合、燃料極35aにおいて、メタノールが水素イオンと二酸化炭素とに分解され、電子が生成される。生成された電子は、FPC基板1の集電部3bから引き出し電極5b(図4(a))に導かれる。メタノールから分解された水素イオンは、電解質膜35cを透過して空気極35bに達する。空気極35bにおいて、引き出し電極5a(図4(a))から集電部3aに導かれた電子を消費しつつ水素イオンと酸素とが反応し、水が生成される。このようにして、引き出し電極5a,5bに接続された外部回路に電力が供給される。
【0069】
(4)本実施の形態の効果
本実施の形態のFPC基板1では、導体層3の表面が炭素含有層6,7a,7bおよびソルダーレジスト層8により覆われている。そのため、燃料電池30内において、FPC基板1の表面にメタノール等の反応により生成される酸が接触する状態であっても、導体層3が腐食することを防止することができる。また、炭素含有層6,7a,7bが炭素を含むことにより、電極膜35と導体層3の集電部3a,3bとの間の導電性を確保することができる。さらに、Au(金)等の高価な材料を用いなくてもよいので、低コストで導体層3の腐食を防止することができる。また、炭素含有層6,7a,7bによって導体層3のイオンマイグレーションが防止される。
【0070】
また、ベース絶縁層2の折曲部B1上の領域には、樹脂材料からなるソルダーレジスト層8が形成されている。ソルダーレジスト層8は、炭素含有層6,7a,7bに比べて高い柔軟性を有する。それにより、FPC基板1が折曲部B1に沿って折曲されても、ソルダーレジスト層8に割れ目等が形成されることがない。したがって、折曲部B1上において、引き出し導体部4bに酸が接触することが確実に防止され、導体層3の腐食が確実に防止される。
【0071】
また、本実施の形態のFPC基板1では、引き出し電極5a,5bがベース絶縁層2の共通の第2絶縁部2bの同じ面上に並設される。それにより、FPC1基板1を用いた燃料電池30において、引き出し電極5a,5bと外部回路の端子との位置合わせおよび接続を容易かつ正確に行うことができる。したがって、外部回路と燃料電池30との接続信頼性が向上する。
【0072】
(5)他の実施の形態
本発明の他の実施の形態に係るFPC基板について、図1に示したFPC基板1と異なる点を説明する。図5は、他の実施の形態に係るFPC基板の断面図である。なお、図5(a)に示す断面は、図1におけるA−A断面に相当し、図5(b)に示す断面は、図1におけるB−B断面に相当する。
【0073】
図5に示すFPC基板1aにおいては、炭素含有層6,7a,7bおよびソルダーレジスト層8の代わりに、炭素含有層16a,16b,17a,17b,17cが形成される。
【0074】
炭素含有層16a,16bは、引き出し導体部4aの先端部を除く部分および集電部3aを覆うようにベース絶縁層2上に重ねて形成される。
【0075】
炭素含有層17aは、引き出し導体部4bの先端部を除く部分および集電部3bを覆うようにベース絶縁層2上に形成される。炭素含有層17b,17cは、折曲部4B上の引き出し導体部4bの部分の両側において、炭素含有層17aに重ねてそれぞれ形成される。この場合、折曲部B1上の引き出し導体部4bの部分には、炭素含有層17aのみが形成され、炭素含有層17b,17cは形成されない。
【0076】
炭素含有層16a,16b,17a,17b,17cは、炭素含有層6,7a,7bと同様に、ポリイミド等の樹脂材料に炭素(例えばカーボンブラック)を含有した樹脂組成物からなる。炭素含有層16a,16bは、集電部3aの開口H11内においてベース絶縁層2の上面に接する。炭素含有層17a,17bは、集電部3bの開口H12内においてベース絶縁層2の上面に接する。
【0077】
炭素含有層16a,17aの厚みは5μm以上20μm以下であることが好ましく、5μm以上12μm以下であることがより好ましい。炭素含有層16b,17b,17cの厚みは5μm以上20μm以下であることが好ましく、5μm以上12μm以下であることがより好ましい。
【0078】
本実施の形態のFPC基板1aでは、導体層3の表面が炭素含有層16a,16b,17a,17b,17cにより覆われている。そのため、FPC基板1aを燃料電池30に用いた場合において、FPC基板1aの表面にメタノール等の酸が接触する状態であっても、導体層3が腐食することを防止することができる。また、炭素含有層16a,16b,17a,17b,17cが炭素を含むことにより、電極膜35と導体層3の集電部3a,3bとの間の導電性を確保することができる。さらに、Au(金)等の高価な材料を用いなくてもよいので、低コストで導体層3の腐食を防止することができる。また、炭素含有層16a,16b,17a,17b,17cによって導体層3のイオンマイグレーションが防止される。
【0079】
また、折曲部B1上の引き出し導体部4bの部分においては、炭素含有層17aのみが形成される。この場合、2層の炭素含有層が重ねて形成される場合に比べて、折曲部B1上における炭素含有層17aの柔軟性が確保される。それにより、FPC基板1aが折曲部B1に沿って折曲されても、炭素含有層17aに割れ目等が形成されることが防止される。したがって、導体層3に酸が接触することが確実に防止され、導体層3の腐食が確実に防止される。
【0080】
(6)さらに他の実施の形態
また、ベース絶縁層2およびソルダーレジスト層8の材料は、ポリイミドに限らず、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルスルフォン等の他の絶縁材料を用いてもよい。
【0081】
また、導体層3の材料は、銅に限らず、銅合金、アルミニウム等の他の金属材料を用いてもよい。また、炭素含有層6,7a,7b,16a,16b,17a,17b,17cに用いる樹脂材料は、ポリイミドに限らず、エポキシ樹脂等の他の樹脂材料を用いてもよい。また、炭素はカーボンブラックに限定されず、黒鉛等の種々の炭素材料を用いることができる。
【0082】
(7)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0083】
上記実施の形態では、ベース絶縁層2が絶縁層の例であり、第1の領域a1が第1の領域の例であり、第2の領域a2が第2の領域の例であり、第2絶縁部2bが第3の領域の例であり、集電部3aが第1の導体部の例であり、集電部3bが第2の導体部の例であり、引き出し導体部4aが第1の引き出し部の例であり、引き出し導体部4bが第2の引き出し部の例であり、炭素含有層6,16a,16bが第1の被覆層の例であり、炭素含有層7a,7b,17a,17b,17cおよびソルダーレジスト層8が第2の被覆層の例であり、ソルダーレジスト層8または炭素含有層17aが第1の被覆部の例であり、炭素含有層7a,7b,17a,17b,17cが第2の被覆部の例である。また、燃料極35a、空気極35bおよび電解質膜35cが電池要素の例である。
【0084】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、燃料電池に用いる種々の配線回路基板に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本実施の形態に係るフレキシブル配線回路基板の構成を示す図である。
【図2】フレキシブル配線回路基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図3】フレキシブル配線回路基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図4】図1のフレキシブル配線回路基板を用いた燃料電池の構成を示す図である。
【図5】他の実施の形態に係るフレキシブル配線回路基板の構成を示す図である。
【図6】従来の配線回路基板を用いた燃料電池を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1,1a FPC基板
2 ベース絶縁層
2a 第1絶縁部
2b 第2絶縁部
3 導体層
3a,3b 集電部
4a,4b 引き出し導体部
5a,5b 引き出し電極
6,7a,7b,16a,16b,17a,17b,17c 炭素含有層
8 ソルダーレジスト層
30 燃料電池
31 筐体
35 電極膜
35a 燃料極
35b 空気極
35c 電解質膜
a1 第1の領域
a2 第2の領域
B1 折曲部
H1,H2,H11,H12 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられる配線回路基板であって、
一面および他面を有するとともに、前記一面に互いに隣接する第1および第2の領域ならびに前記第1の領域に隣接する第3の領域を有する絶縁層と、
前記絶縁層の前記第1の領域上に形成される第1の導体部と、
前記絶縁層の前記第2の領域上に形成される第2の導体部と、
前記第1の導体部に一体的に形成され、前記絶縁層の前記第1の領域から前記第3の領域に延びる第1の引き出し部と、
前記第2の導体部に一体的に形成され、前記絶縁層の前記第2の領域から前記第1の領域を通って前記第3の領域に延びる第2の引き出し部と、
少なくとも前記絶縁層の前記第1の領域上において、前記第1の導体部および前記第1の引き出し部を覆うように形成された第1の被覆層と、
少なくとも前記絶縁層の前記第1および第2の領域上において、前記第2の導体部および前記第2の引き出し部を覆うように形成された第2の被覆層とを備え、
前記絶縁層は、前記第1の領域と前記第2の領域との間の折曲部で前記第1の領域と前記第2の領域とが対向するように折曲可能であり、
前記第2の被覆層は、
前記絶縁層の前記折曲部上における前記第2の引き出し部の部分を覆う第1の被覆部と、
前記絶縁層の前記折曲部を除く領域上に形成される第2の被覆部とを含み、
前記第1の被覆層および前記第2の被覆層の前記第2の被覆部は炭素を含む樹脂組成物からなり、
前記第2の被覆層の前記第1の被覆部は、前記第2の被覆層の第2の被覆部よりも柔軟性が高いことを特徴とする配線回路基板。
【請求項2】
前記第2の被覆層の前記第1の被覆部は樹脂材料からなることを特徴とする請求項1記載の配線回路基板。
【請求項3】
前記第2の被覆層の前記第1の被覆部の厚みは5μm以上20μm以下であり、前記第1の被覆層および前記第2の被覆層の前記第2の被覆部の厚みは5μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項2記載の配線回路基板。
【請求項4】
前記第2の被覆層の前記第1の被覆部は炭素を含む樹脂組成物からなり、前記第2の被覆層の前記第1の被覆部の厚みは前記第2の被覆層の第2の被覆部の厚みよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の配線回路基板。
【請求項5】
前記第2の被覆層の前記第1の被覆部の厚みは5μm以上20μm以下であり、前記第1の被覆層および前記第2の被覆層の第2の被覆部の厚みは5μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項4記載の配線回路基板。
【請求項6】
請求項1記載の配線回路基板と、
電池要素と、
前記配線回路基板および前記電池要素を収容する筐体とを備え、
前記配線回路基板の前記絶縁層の前記第1および第2の領域が前記一面を内側にして前記折曲部に沿って折曲された状態で前記第1および第2の領域間に前記電池要素が配置され、
前記第1の引き出し部の少なくとも一部および前記第2の引き出し部の少なくとも一部が前記筐体の外部に露出するように前記絶縁層の前記第3の領域が前記筐体から外部に引き出されたことを特徴とする燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−50378(P2010−50378A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215210(P2008−215210)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】