説明

配線基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び配線板の製造方法

【課題】配線板に形成された貫通孔内へ充填された充填材料の膨張・収縮による機械的外力によって生じる、充填材料上の金属配線の断線を抑制する配線基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び配線板の製造方法を得る。
【解決手段】導電性ペースト87の表面と電気接続用貫通口140の孔縁部との間に段差Hを設け、該段差Hの部分に金属配線90を配設することで、電気接続用貫通口140の孔縁部側では、金属膜142と金属配線90とが互いに重なり合った状態となる。このため、金属膜142と導電性ペースト87との境界部分において、仮に、金属配線90が断線したとしても、金属膜142と金属配線90の重なり部分及び電気接続用貫通口140表面の金属膜142を介して、電流の流れは確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液滴吐出ヘッドの一例としてのインクジェット記録ヘッドの複数のノズルから選択的にインク滴を吐出し、記録用紙等の記録媒体に画像(文字を含む)等を記録するインクジェット記録装置(画像形成装置)は知られている。このようなインクジェット記録装置のインクジェット記録ヘッドでは、小型化を実現させるため、圧電部材の上方に圧電部材を駆動させるためのICが配設される基板を設け、この基板にスルーホールを設け、該スルーホールを通じて、圧電部材とICとを電気的に接続させるようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1では、スルーホール内にペースト状の金属を充填して形成された貫通電極の表面には金属配線が接続されるようになっているが、この金属配線と貫通電極の接続部には、該接続部を覆う補強電極が設けられている。
【0004】
また、特許文献2では、スルーホールを含む基板の表面にメッキを成長させるためのシード層を成膜し、該シード層上にメッキによる埋め込み金属を成長させた後、基板上のシード層を除去すべく表面を研磨している。
【特許文献1】実開平5−79964号公報
【特許文献2】特開平11−163129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、配線板に形成された貫通孔内へ充填された充填材料の膨張・収縮による機械的外力によって生じる、充填材料上の金属配線の断線を抑制する配線基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び配線板の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、配線基板において、基板と、前記基板を貫通する貫通孔と、前記貫通孔の内壁に形成される金属膜と、前記貫通孔の孔縁部の位置よりも表面の高さを低くした状態で前記金属膜が形成された前記貫通孔内へ充填された充填部材と、前記基板の表面、前記貫通孔の内壁表面の前記金属膜及び前記充填部材の表面に亘って形成された金属配線と、を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、液滴吐出ヘッドにおいて、撓み変形可能な圧電体と、前記圧電体を挟む第1電極と第2電極とを有する圧電素子と、前記圧電素子の第1電極側に配置された振動板と、前記振動板と対面可能に設けられ、前記圧電素子の第2電極側に配置された配線板と、前記振動板を間において、前記圧電素子の反対側に設けられた圧力室と、前記圧力室の液滴を吐出する吐出口と、前記配線板の表面から前記第1電極の表面まで貫通する貫通孔と、前記貫通孔の内壁及び前記第1電極の表面に形成された金属膜と、前記貫通孔の孔縁部の位置よりも表面の高さを低くした状態で前記金属膜が形成された貫通孔内へ充填された充填部材と、前記配線板の表面、前記貫通孔の内壁表面の前記金属膜及び前記充填部材の表面に亘って形成され前記圧電素子に電気信号を供給する金属配線と、を有することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記充填部材が導電性材料であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、液滴吐出装置において、2又は3に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、配線板に設けられた金属配線を前記配線板に形成された貫通孔を介して配線板とは同一平面上にない電極と接続させる配線板の製造方法であって、前記配線板の表面、前記貫通孔の内壁及び前記電極の表面に金属膜を成膜する金属成膜工程と、前記金属膜が形成された貫通孔内へ充填材料を充填する充填工程と、前記配線板に成膜された前記金属膜を取り除く除去工程と、前記充填材料の表面の高さを前記貫通孔の孔縁部の位置よりも低くする段差形成工程と、前記配線板の表面、前記貫通孔の内壁表面の金属膜及び前記充填材料の表面に亘って金属配線を形成する配線工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1、2、5に記載の発明によれば、貫通孔の孔縁部と充填部材との間に段差を設けることで、配線板の表面及び充填部材の表面に亘って金属配線を形成する場合、金属膜と金属配線とを互いに重ねることができる。該金属膜と充填部材との境界部分において、仮に、金属配線が断線したとしても、金属膜と金属配線の重なり部分及び貫通孔の内壁表面の金属膜を介して、電流の流れを確保することができ、信頼性が向上し、寿命が長くなる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、金属配線が断線したとしても、金属膜と金属配線の重なり部分及び貫通孔の内壁表面の金属膜以外に、充填部材を介して、電流の流れを確保することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、液滴吐出装置において、本発明を採用しない場合と比較して、信頼性が向上し、寿命が長くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良な実施の形態について、図面に示す実施例を基に詳細に説明する。
【0015】
まず、液滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置10を例に採って説明する。したがって、液体はインク110とし、液滴吐出ヘッドはインクジェット記録ヘッド32として説明をする。そして、記録媒体は記録用紙Pとして説明をする。
【0016】
インクジェット記録装置10は、図1で示すように、記録用紙Pを送り出す用紙供給部12と、記録用紙Pの姿勢を制御するレジ調整部14と、インク滴を吐出して記録用紙Pに画像形成する記録ヘッド部16及び記録ヘッド部16のメンテナンスを行うメンテナンス部18を備える記録部20と、記録部20で画像形成された記録用紙Pを排出する排出部22とから基本的に構成されている。
【0017】
用紙供給部12は、記録用紙Pが積層されてストックされているストッカー24と、ストッカー24から1枚ずつ取り出してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とから構成されている。レジ調整部14は、ループ形成部28と、記録用紙Pの姿勢を制御するガイド部材29とを有しており、記録用紙Pは、この部分を通過することによって、そのコシを利用してスキューが矯正されるとともに、搬送タイミングが制御されて記録部20に供給される。そして、排出部22は、記録部20で画像が形成された記録用紙Pを、排紙ベルト23を介してトレイ25に収納する。
【0018】
記録ヘッド部16とメンテナンス部18の間には、記録用紙Pが搬送される用紙搬送路27が構成されている(用紙搬送方向を矢印PFで示す)。用紙搬送路27は、スターホイール17と搬送ロール19とを有し、このスターホイール17と搬送ロール19とで記録用紙Pを挟持しつつ連続的に(停止することなく)搬送する。そして、この記録用紙Pに対して、記録ヘッド部16からインク滴が吐出され、記録用紙Pに画像が形成される。
【0019】
以上のように、記録用紙Pの搬送手段は、搬送装置26、スターホイール17と搬送ロール19から構成されている。
【0020】
メンテナンス部18は、インクジェット記録ユニット30に対して対向配置されるメンテナンス装置21を有しており、インクジェット記録ヘッド32に対するキャッピングや、ワイピング、更には、予備吐出や吸引等の処理を行う。
ここで、各インクジェット記録ヘッド32は制御装置(制御手段)21と接続されており、この制御装置21によって、画像データに基づいた駆動波形が出力され、インクジェット記録ヘッド32の駆動が制御される。
【0021】
図2で示すように、各インクジェット記録ユニット30は、矢印PFで示す用紙搬送方向と直交する方向に配置された支持部材34を備えており、この支持部材34に複数のインクジェット記録ヘッド32が取り付けられている。インクジェット記録ヘッド32には、マトリックス状に複数のノズル56が形成されており、記録用紙Pの幅方向には、インクジェット記録ユニット30全体として一定のピッチでノズル56が並設されている。そして、用紙搬送路27を連続的に搬送される記録用紙Pに対し、ノズル56からインク滴を吐出することで、記録用紙P上に画像が記録される。なお、インクジェット記録ユニット30は、例えば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
【0022】
図3で示すように、それぞれのインクジェット記録ユニット30のノズル56による印字領域幅は、このインクジェット記録装置10での画像記録が想定される記録用紙Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ユニット30を紙幅方向に移動させることなく、記録用紙Pの全幅にわたる画像記録が可能とされている。つまり、このインクジェット記録ユニット30は、シングルパス印字が可能なFull Width Array(FWA)となっている。
【0023】
ここで、印字領域幅とは、記録用紙Pの両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これは、記録用紙Pが搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されるおそれがあるためと、縁無し印字の要望が高いためである。
【0024】
以上のような構成のインクジェット記録装置10において、次にインクジェット記録ヘッド32について詳細に説明する。なお、図4はインクジェット記録ヘッド32の全体構成を示す概略平面図であり、図5は図4のX−X線断面図である。
【0025】
図4及び図5で示すように、このインクジェット記録ヘッド32には、天板部材40が配置されている。本実施形態では、天板部材40を構成するガラス製の天板(配線板)41は板状で、かつ配線を有しており、インクジェット記録ヘッド32全体の天板となっている。
【0026】
天板部材40には、耐インク性を有する材料で構成されたプール室部材39が貼着されており、天板41との間に、所定の形状及び容積を有するインクプール室38が形成されている。プール室部材39には、インクタンク(図示省略)と繋がるインク供給ポート36が所定箇所に穿設されており、インク供給ポート36から注入されたインク110は、インクプール室38に貯留される。
【0027】
また、天板部材40には、駆動IC(集積回路)60と、駆動IC60からの電気信号を供給するための金属配線(第1電気配線)90が設けられており、駆動IC60の下面には、図6で示すように、複数のバンプ62がマトリックス状に所定高さ突設され、天板41上で、かつプール室部材39よりも外側の金属配線90に駆動IC60がフリップチップ実装される(駆動IC60のバンプ62が金属配線90の端子(接続部)90Aと接続される)。なお、駆動IC60の周囲は樹脂材58で封止されている。また、金属配線90は、樹脂保護膜92で被覆保護され、インク110による浸食が防止されるようになっている。
【0028】
また、天板41には、後述する圧力室50と1対1で対応するインク供給用貫通口112が形成されており、その内部が第1インク供給路114Aとなっている。さらに、天板41には、圧力室50の周壁に対応する位置に、電気接続用貫通口42(後述する)が形成されている。
【0029】
一方、流路基板としてのシリコン基板72には、インクプール室38から供給されたインク110が充填される圧力室50が形成されている。このシリコン基板72の下部には、SUSで形成された連通路基板120が接着剤122を介して接合されている。
【0030】
この連通路基板120には、圧力室50と繋がる連通路124が形成されており、該連通路124は圧力室50よりも狭い空間となるようにしている。そして、連通路基板120の下面に、連通路124と繋がるノズル56が形成されたノズルプレート74が貼着されている。
【0031】
また、シリコン基板72の表面には後述する圧電素子45が形成されている(圧電素子基板70とする)。該圧電素子基板70は振動板48を有し、この振動板48が圧力室50の1つの面を構成している。この振動板48は、Chemical Vapor Deposition(CVD)法で形成されたSiOx膜であり、少なくとも上下方向に弾性を有し、圧電素子45に電圧が印加されると、上下方向に撓み変形する(変位する)構成になっている。なお、振動板48は、Cr等の金属材料であっても差し支えはない。この振動板48の振動によって、圧力室50の容積を増減させて圧力波を発生させることで、連通路124を経て、ノズル56からインク滴が吐出されるようになっている。
【0032】
圧電素子45は圧力室50毎に振動板48の上面に設けられており、圧電素子45を形成する過程では、シリコン基板72に形成された振動板48の上面にスパッタ法により、IrとTiとの積層膜(下部電極(第1電極)52)を形成し、該積層膜の上面に、スパッタ法によりPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)膜(圧電体46)を形成して、さらにこのPZT膜の上面にIr膜(上部電極(第2電極)54)を形成する。そして、上部電極54、圧電体46及び下部電極52をそれぞれパターニングして圧電素子45が形成される。
【0033】
この圧電素子45の表面は、低透水性絶縁膜(SiOx膜)80で被覆保護されている。低透水性絶縁膜(SiOx膜)80は、水分透過性が低くなる条件で着膜するため、水分が圧電素子45の内部に侵入して信頼性不良となること(PZT膜内の酸素を還元することにより生ずる圧電特性の劣化)を抑制する。
【0034】
また、低透水性絶縁膜(SiOx膜)80上には、隔壁樹脂層82が積層されており、圧電素子基板70と天板部材40との間の空間を区画している。隔壁樹脂層82には、天板41のインク供給用貫通口112とシリコン基板72の圧力室50を繋げるインク供給用貫通口44が形成されており、その内部が第2インク供給路114Bとなっている。
【0035】
この第2インク供給路114Bは、第1インク供給路114Aの断面積よりも小さい断面積を有しており、インク供給路114全体での流路抵抗が所定の値になるように調整されている。つまり、第1インク供給路114Aの断面積は、第2インク供給路114Bの断面積よりも充分に大きくされており、第2インク供給路114Bでの流路抵抗と比べて実質的に無視できる程度とされている。したがって、インクプール室38から圧力室50へのインク供給路114の流路抵抗は、第2インク供給路114Bで規定される。
【0036】
そして、少なくともインク110が接する壁面である、インク供給用貫通口112、44、圧力室50、連通路124の内壁面には、内面処理膜(SiCN膜)96が、プラズマCVD法により、それらの接合部分(境界部分)を含むように一体的に成膜され(コーティングされ)、耐インク性を向上させている。
【0037】
また、天板部材40と圧電素子45(厳密には、圧電素子45上の低透水性絶縁膜(SiOx膜)80)との間には、圧力室50の上部に空間126(空気層)が設けられており、圧電素子45の駆動や振動板48の振動に影響を与えないようにしている。
【0038】
ところで、図5及び図7に示すように(図7は図5のA部の拡大図である)、圧電素子45を構成する上部電極54及び圧電体46には、圧力室50の周壁(シリコン基板72)の上部に貫通孔54A、46Aがそれぞれ形成されており、該貫通孔54A、46Aの表面は、低透水性絶縁膜(SiOx膜)80で被覆されている。
【0039】
これにより、貫通孔54A、46Aの内側には、低透水性絶縁膜80によって、貫通孔54A、46Aよりもさらに小径の電気接続用貫通口80Aが形成される。そして、隔壁樹脂層82には、電気接続用貫通口80Aと電気接続用貫通口42と繋がり電気接続用貫通口80Aよりも大径、かつ電気接続用貫通口42よりも小径の電気接続用貫通口138が形成されている。
【0040】
そして、この電気接続用貫通口42、138、80A(以下、「電気接続用貫通口140」という)及び下部電極52の表面には、厚さ3μmの金属膜(Al膜)142が成膜されている。この金属膜142が成膜された電気接続用貫通口140内に、ペースト状の導電性充填材料(以下「導電性ペースト」という)87が充填される。
【0041】
この導電性ペースト87の表面の高さを、電気接続用貫通口140の孔縁部の位置よりも低く、導電性ペースト87の表面と電気接続用貫通口140の孔縁部との間に、5〜10μmの段差Hを設けている。そして、天板41の表面、電気接続用貫通口140の内壁表面の金属膜142(段差Hの部分)及び導電性ペースト87の表面に亘って、金属配線90が配設されている。
【0042】
これにより、金属膜142及び導電性ペースト87を介して、下部電極52と金属配線90とが電気的に接続される。そして、金属配線90が、駆動IC60と接続され、また、フレキシブルプリント基板(FPC)100(図4参照)とも接続される。そして、ここでは、各圧電素子45の上部電極54が接地電位となる。
【0043】
次に、インクジェット記録ヘッド32を備えたインクジェット記録装置10において、次に、その作用を説明する。
【0044】
まず、インクジェット記録装置10に印刷を指令する電気信号が送られると、ストッカー24から記録用紙Pが1枚ピックアップされ、搬送装置26により搬送される。
【0045】
一方、インクジェット記録ユニット30では、すでにインクタンクからインク供給ポートを介してインクジェット記録ヘッド32のインクプール室38にインク110が注入(充填)され、インクプール室38に充填されたインク110は、インク供給路114を経て圧力室50へ供給(充填)されている。そして、このとき、ノズル56の先端(吐出口)では、インク110の表面が圧力室50側に僅かに凹んだメニスカスが形成されている。
【0046】
そして、記録用紙Pを搬送しながら、複数のノズル56から選択的にインク滴を吐出することにより、記録用紙Pに、画像データに基づく画像の一部を記録する。すなわち、駆動IC60により、所定のタイミングで、所定の圧電素子45に電圧を印加し、振動板48を上下方向に撓み変形させて(面外振動させて)、圧力室50内のインク110を加圧し、所定のノズル56からインク滴として吐出させる。
【0047】
こうして、記録用紙Pに、画像データに基づく画像が完全に記録されたら、排紙ベルト23により記録用紙Pをトレイ25に排出する。これにより、記録用紙Pへの印刷処理(画像記録)が完了する。
【0048】
本実施形態では、図7に示すように、天板41の表面から下部電極52の表面に至るまで、天板41には電気接続用貫通口42を形成し、隔壁樹脂層82には電気接続用貫通口138を形成して、上部電極54及び圧電体46に形成された貫通孔54A、46A表面の低透水性絶縁膜80で電気接続用貫通口138を形成している。この電気接続用貫通口42、138、80Aで構成された電気接続用貫通口140内に、導電性ペースト87を充填し、該導電性ペースト87を介して、金属配線90と下部電極52を電気的に接続させる。
【0049】
例えば、天板41の表面と面一の高さまで導電性ペースト87を充填した場合のインクジェット記録ヘッドにおいて、該インクジェット記録ヘッドの加熱及び冷却に伴い、図8(A)、(B)に示すように、電気接続用貫通口140内の導電性ペースト87が膨張及び収縮を繰り返す。このため、天板41と導電性ペースト87の境界部において、図8(C)に示すように、金属配線90が破断するおそれが生じる。
【0050】
図9では、このインクジェット記録ヘッドにおいて、−20℃〜60℃の温度サイクル試験を行う前後で電流−電圧特性を測定し、抵抗値を求めた結果が示されている。5サイクル後は平均抵抗値が0.02Ωであり、断線は認められなかったが、40サイクル後に平均抵抗値が5.14Ωとなり、約30%の断線が発生していることが確認された。
【0051】
このため、本実施形態では、図7に示すように、電気接続用貫通口140及び下部電極52の表面に金属膜142を成膜させた後、この導電性ペースト87の表面の高さを、電気接続用貫通口140の孔縁部の位置よりも低くして、導電性ペースト87の表面と電気接続用貫通口140の孔縁部との間に段差Hを設ける。そして、表面に金属膜142が成膜された電気接続用貫通口140内に導電性ペースト87を充填した後、天板41の表面、電気接続用貫通口140の内壁表面の金属膜142(段差Hの部分)及び導電性ペースト87の表面に亘って、金属配線90を配設している。
【0052】
このように、導電性ペースト87の表面の高さを、電気接続用貫通口140の孔縁部の位置よりも低くして、導電性ペースト87の表面と電気接続用貫通口140の孔縁部との間で段差Hを設け、該段差Hの部分に金属配線90を配設することで、電気接続用貫通口140の孔縁部側では、金属膜142と金属配線90とが互いに重なり合った状態となる。
【0053】
電気接続用貫通口140の孔縁部側の金属膜142は、導電性ペースト87の伸縮による機械的外力をうけないため、図10に示すように、金属膜142と導電性ペースト87との境界部分において、仮に、金属配線90が断線(仮想線で示す)したとしても、金属膜142と金属配線90の重なり部分及び電気接続用貫通口140表面の金属膜142或いは導電性ペースト87を介して、電流の流れ(矢印で示す)は確保される(−20℃〜60℃の温度サイクル試験では、160サイクル後も断線が認められなかった)。
【0054】
本実施形態では、この段差Hを5〜10μmとしている。段差Hが大きくなると、金属膜142と金属配線90の重なり部分(オーバーラップ量)が増えて金属膜142と金属配線90の接続強度は増すが、段差Hが大きくなる程、配線パターニング時に塗布するレジストが孔縁部で薄くなったり消失したりするため、続くエッチング工程で配線材料がエッチング除去されてしまい、電気接続用貫通口140の孔縁部において、断線の危険が高まる。このため、段差Hは、望ましくは3〜5μm、さらに望ましくは1〜3μmである。
【0055】
なお、ここでは、電気接続用貫通口140内に導電性ペースト87を充填したが、図11に示すように、絶縁性ペースト146を充填しても良い。この場合、仮に、金属配線90が断線されたとしても、金属膜142と金属配線90の重なり部分及び電気接続用貫通口140表面の金属膜142を介して、電流の流れ(矢印で示す)は確保されることとなる。
【0056】
ところで、本実施形態では、電気接続用貫通口140の導電性ペースト87を介して、金属配線90と下部電極52を電気的に接続しているが、その製造方法について説明する。
【0057】
図12(A)に示すように、まずブラスト加工により電気接続用貫通口42が形成された天板41と、エッチングにより電気接続用貫通口138、80Aが形成された隔壁樹脂層82とを接合させる。そして、図12(B)に示すように、スパッタ法により、天板41、電気接続用貫通口140(電気接続用貫通口42、138、80A)及び下部電極52の表面に、厚さ3μmのAl膜(金属膜)142を成膜させる。
【0058】
次に、スクリーン印刷法等により、図12(C)に示すように、電気接続用貫通口140内に導電性ペースト87を充填し、所定の温度でベーク(加熱)して硬化させる。このとき、導電性ペースト87の表面と天板41上の金属膜142の表面とが同じ高さとなるようにする。
【0059】
次に、図12(D)に示すように、天板41上の金属膜142及び導電性ペースト87を研磨して、表面を平坦化させる。そして、図12(E)に示すように、導電性ペースト87をガラスに対して選択的にエッチングできる薬液に浸漬することで凹みを設ける。たとえば樹脂系の材料であればアセトンやモノエタノールアミンなどの溶剤を用いる。またエッチング以外に酸素プラズマ処理であってもよい。これにより、導電性ペースト87の表面と電気接続用貫通口140の孔縁部との間に段差Hが設けられる。
【0060】
次に、図12(F)に示すように、スパッタ法により、天板41、電気接続用貫通口140の内壁表面の金属膜142及び導電性ペースト87の表面にAl膜を成膜し、通常のホトリソグラフィー法とウェットエッチングにて金属配線90を形成する。
【0061】
なお、本発明に係る液滴吐出ヘッドとして、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッド32を挙げ、液滴吐出装置としても、インクジェット記録ヘッド32を備えたインクジェット記録装置10を挙げたが、本発明に係る液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置は、記録用紙P上への画像(文字を含む)の記録に限定されるものではない。
【0062】
また、上記実施例のインクジェット記録装置10では、紙幅対応のいわゆるFull Width Array(FWA)の例で説明したが、これに限定されず、主走査機構と副走査機構を有するPartial Width Array(PWA)であってもよい。
【0063】
また、上記実施例のインクジェット記録装置10では、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各色のインクジェット記録ユニット30から画像データに基づいて選択的にインク滴が吐出されてフルカラーの画像が記録用紙Pに記録されるようになっているが、本発明におけるインクジェット記録は、記録用紙P上への文字や画像の記録に限定されるものではない。
【0064】
すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また、吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成するなど、工業的に用いられる液滴噴射装置全般に対して、本発明に係るインクジェット記録ヘッド32を適用することができる。
【0065】
さらに、本実施形態では、圧電素子基板70に連通路基板120を取り付け、インク滴を吐出するインクジェット記録ヘッド32に適用させたが、圧電素子基板70が適用可能であれば良いため、これに限るものではない。
【0066】
例えば、インクジェットとは逆に圧力を電気信号に変換する装置(圧力センサーアレイ)に適用させても良い。一例を挙げると、図13に示すように、圧電素子基板70に押圧プレート150を取り付けた配線基板151を用いて、指紋センサー等への応用が考えられる。
【0067】
例えば、押圧プレート150には、圧電素子45の上部に設けられた空間120と対面するように、マトリックス配列された空間152が形成されたプレート154を備え、該プレート154の一端面を可撓性の樹脂フィルム156で覆う。この樹脂フィルム156の外面側(空間152の反対側)には、突起部158を設ける。
【0068】
この突起部158を押圧すると、樹脂フィルム156が変形し、空間152内の体積が変化する。これにより、圧電素子45には外力が加わり、電気信号が発生する。この電気信号をIC160で検知し、突起部158を押圧したときの圧力分布を外部に出力させる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置を示す概略正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッドの配列を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッドの印字領域の幅と記録媒体の幅との関係を示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッドの概略平面図である。
【図5】図4のX−X線断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッドの駆動ICのバンプを示す概略平面図である。
【図7】図5のA部の拡大図である。
【図8】(A)〜(C)は、本発明の比較例とするインクジェット記録ヘッドの加熱及び冷却に伴って生じる配線板の導電性ペースト87及び金属配線90の状態を示す説明図である。
【図9】本発明の比較例とするインクジェット記録ヘッドにおける熱サイクル回数と配線板の抵抗値を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッドの配線板の作用を説明する断面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッドの配線板の変形例の作用を説明する断面図である。
【図12−1】(A)〜(C)は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッドの配線板を製造する工程を示す断面図である。
【図12−2】(D)〜(F)は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッドの配線板を製造する工程を示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る配線基板の変形例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 インクジェット記録装置(液滴吐出装置)
32 インクジェット記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)
40 天板部材
41 天板(配線板)
42 電気接続用貫通口(貫通孔)
44 インク供給用貫通口
45 圧電素子
46 圧電体(圧電素子)
48 振動板
50 圧力室
52 下部電極(第1電極、圧電素子)
54A 貫通孔
54 上部電極(第2電極、圧電素子)
56 ノズル(吐出口)
70 圧電素子基板
72 シリコン基板
80A 貫通孔(貫通孔)
87 導電性ペースト(充填部材)
90 金属配線
138 電気接続用貫通口(貫通孔)
140 電気接続用貫通口(貫通孔)
142 金属膜
146 絶縁性ペースト(充填部材)
151 配線基板
H 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板を貫通する貫通孔と、
前記貫通孔の内壁に形成される金属膜と、
前記貫通孔の孔縁部の位置よりも表面の高さを低くした状態で前記金属膜が形成された前記貫通孔内へ充填された充填部材と、
前記基板の表面、前記貫通孔の内壁表面の前記金属膜及び前記充填部材の表面に亘って形成された金属配線と、
を有することを特徴とする配線基板。
【請求項2】
撓み変形可能な圧電体と、前記圧電体を挟む第1電極と第2電極とを有する圧電素子と、
前記圧電素子の第1電極側に配置された振動板と、
前記振動板と対面可能に設けられ、前記圧電素子の第2電極側に配置された配線板と、
前記振動板を間において、前記圧電素子の反対側に設けられた圧力室と、
前記圧力室の液滴を吐出する吐出口と、
前記配線板の表面から前記第1電極の表面まで貫通する貫通孔と、
前記貫通孔の内壁及び前記第1電極の表面に形成された金属膜と、
前記貫通孔の孔縁部の位置よりも表面の高さを低くした状態で前記金属膜が形成された貫通孔内へ充填された充填部材と、
前記配線板の表面、前記貫通孔の内壁表面の前記金属膜及び前記充填部材の表面に亘って形成され前記圧電素子に電気信号を供給する金属配線と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記充填部材が導電性材料であることを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項5】
配線板に設けられた金属配線を前記配線板に形成された貫通孔を介して配線板とは同一平面上にない電極と接続させる配線板の製造方法であって、
前記配線板の表面、前記貫通孔の内壁及び前記電極の表面に金属膜を成膜する金属成膜工程と、
前記金属膜が形成された貫通孔内へ充填材料を充填する充填工程と、
前記配線板に成膜された前記金属膜を取り除く除去工程と、
前記充填材料の表面の高さを前記貫通孔の孔縁部の位置よりも低くする段差形成工程と、
前記配線板の表面、前記貫通孔の内壁表面の金属膜及び前記充填材料の表面に亘って金属配線を形成する配線工程と、
を有することを特徴とする配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−220523(P2009−220523A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69962(P2008−69962)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】