説明

配線基板の製造方法及びこれにより製造される液体吐出ヘッド

【課題】 微細で、付着力が強く、放熱効果のある配線基板を提供する。
【解決手段】 電気配線を形成するための絶縁体からなる基板表面に光触媒粒子を含有する材料からなる光触媒含有層を形成する工程と、前記光触媒含有層上の非配線領域のすべてに樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層の形成された基板を少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液に浸漬した後、紫外線を照射し露出している前記光触媒含有層上に金属を析出する工程を含むことを特徴とする配線基板の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配線基板の製造方法及びこれにより製造される液体吐出ヘッドに関するものであり、特に、微細でかつ密着性に優れた配線基板の製造方法及びこれにより製造される液体吐出ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化や軽量化に伴い電子機器に用いられる各種電子部品は高密度に集約化される傾向にある。これに対応して、各種電子部品が実装される配線基板の電気配線パターンも高密度化され、電気配線パターンの幅や各パターンの間隔は、例えば10μm程度といった微細サイズが要求される。このように極めて微細化された電気配線とその電気配線の支持基板との接合面積は必然的に小さくなる傾向にあり、これに伴い電気配線と基板との付着力すなわち密着性が低下するといった問題が生じる。
【0003】
具体的には、通常の微細配線のプロセスとしては、フォトリソグラフィにより電気配線を形成する方法が存在しているが、この場合、電気配線と基板の接触部分は一面だけであり、電気配線が微細になればなる程、密着性は弱くなる傾向にある。特に、基板或いは基板近傍に振動発生部や稼動部を有している場合には、この振動部や稼動部により発生した振動により、基板から電気配線が剥がれてしまい、機能的問題を発生させてしまう。
【0004】
このため、特許文献1には、電気配線を形成する場合、その両側面となる領域に絶縁層を形成した後、電気配線を形成する方法が開示されている。この方法により形成された電気配線は、基板面と接触しているのみならず、電気配線の両側に形成されている絶縁体層と接触しているため、電気配線は三方向で接触している。従って、基板面のみの一方向と接触している場合と比べ、電気配線の付着力は強くなる。
【特許文献1】特許3486864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、酸化亜鉛層を形成し、硫酸銅水溶液中に浸漬することにより、酸化亜鉛層の露出した部分において、亜鉛と銅とが置換し、銅を析出することにより電気配線を形成する方法であるが、酸化亜鉛は、硫酸銅水溶液に浸漬した際、亜鉛との置換により銅の析出はするものの、このような置換メッキで得られる膜は粗くてピンホールが多く密着性が悪いので、基板と電気配線を構成する銅との付着力は低下する。
【0006】
また、特許文献1では、酸化亜鉛中にLi、Na、Ka等のアルカリ金属をドープした発明が開示されている。Si等の半導体材料にこれらの材料が混入すると、半導体素子は正常に動作しなくなり、歩留まりが低下することは以前より知られている。特許文献1に記載した発明では、形成された基板にはこれらアルカリ金属を含有しているため、基板上に半導体素子を形成したり、半導体素子を用いたりする場合に、このような基板を用いることは不向きである。
【0007】
更に、通常、酸化亜鉛は、透明性導電材料として使用される材料であり、絶縁性は低い。このため、酸化亜鉛膜上に電気配線を形成した場合、電気配線に流れるはずの電流が酸化亜鉛膜を介して隣接する電気配線に流れ込み、電気配線間の絶縁がとれなくなり、配線基板としての機能を有しなくなるといった問題点を有している。特に、この酸化亜鉛にアルカリ金属をドープした場合、更に抵抗値は下がる傾向にあり、更に問題は深刻である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、簡易で、放熱性が高く、基板との密着性の高い高密度な電気配線の形成方法及びこれにより製造される液体吐出ヘッドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、電気配線を形成するための絶縁体からなる基板表面に光触媒粒子を含有する材料からなる光触媒含有層を形成する工程と、前記光触媒含有層上の非配線領域のすべてに樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層の形成された基板を少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液に浸漬した後、紫外線を照射し露出している前記光触媒含有層上に金属を析出する工程と、を含むことを特徴とする配線基板の製造方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記基板は電気配線及び放熱のための放熱領域を形成するものであって、前記樹脂層を形成する工程において、前記光触媒含有層上の非配線領域で、かつ、非放熱領域となる領域のすべてに樹脂層を形成することを特徴とする請求項1に記載の配線基板の製造方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記光触媒含有層に含まれる光触媒材料が、前記金属の還元電位よりも前記光触媒材料の伝導帯の下端が負であり、かつ、バンドギャップが3〔eV〕以上、6〔eV〕以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の配線基板の製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記光触媒含有層に含まれる光触媒材料が、水素発生電位より前記光触媒材料の伝導帯の下端が負であり、かつ、バンドギャップが3〔eV〕以上、6〔eV〕以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の配線基板の製造方法である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記光触媒材料が、紫外光を照射した際、水に対し不溶であることを特徴とする請求項3または4に記載の配線基板の製造方法である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記光触媒材料が、TiO、SrTiO、KTaO、KTaNbO、ZrO或いはこれらの複合化合物であることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の配線基板の製造方法である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記紫外光の波長が、210〔nm〕以上、420〔nm〕以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の配線基板の製造方法である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、前記樹脂層を形成する工程において、前記樹脂層は、フォトリソグラフィ法、または、インプリント法により作製することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の配線基板の製造方法である。
【0017】
請求項9に記載の発明は、前記少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液は、Cu、Ag、Au、Ptのうち少なくとも一つのイオンを含んでいることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の配線基板の製造方法である。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項1から9のいずれかに記載された製造方法により製造された配線基板を有する液体吐出ヘッドである。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、簡易で、放熱性が高く、基板との密着性の高い高密度な電気配線を形成することができる効果がある。また、本発明により、製造された回路基板を液体吐出ヘッドに用いることにより、液体吐出ヘッドを小型化することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る配線基板の製造方法である。第1の実施の形態では、フォトリソグラフィ法により配線基板を製造する方法である。
【0022】
図1(a)に示すように、絶縁体からなる基板101上に光触媒含有層102を形成する。
【0023】
基板101は、ガラス基板、シリコンウエハ、樹脂或いはセラミックス基板等からなるものである。また、光触媒含有層102は、紫外線の照射により光触媒活性を示す光触媒材料を含んでいるものであればよいが、本実施の形態においては、以下の条件を満たしている必要がある。これについて、図7に基づき説明する。
【0024】
具体的には、本実施の形態において用いられる、光触媒材料は、目的とする金属材料を直接還元することができることが必要である。
【0025】
即ち、Cuの還元電位は、+0.337〔V〕、Agの還元電位は、+0.799〔V〕、Ptの還元電位は、+1.188〔V〕、Auの還元電位は、+1.52〔V〕であり、光触媒材料の伝導帯の下端は、これよりも十分負にあることが必要である。特に、電気配線材料として銅を用いる場合では、過電圧分を考慮すると水素発生電位(SHE)よりも少なくとも負であることが必要となる。尚、水素発生電位は、標準水素電極電位(SHE)であり、電極電位の基準となるため、H/HO=0〔V〕である。
【0026】
次に、本実施の形態で用いる光触媒材料のバンドギャップは、3〔eV〕以上、6〔eV〕以下であることが必要とされる。光触媒含有層102上に電気配線が形成されるため、常温においては、導電性を有していないことが必要とされるからである。また、低エネルギーの電磁波等により容易に電子が励起されてしまう材料も同様に用いることができない。このため、光触媒材料のバンドギャップは、3〔eV〕以上有していることが必要となる。
【0027】
また、バンドギャップが広すぎると紫外光程度の波長では、励起することができないため紫外光により光触媒活性するためには、6〔eV〕以下であることが必要となる。
【0028】
更に、本実施の形態における光触媒材料は、水に対し難溶、望ましくは不溶であること、また、紫外光等の光を照射した場合においても、水に対し難溶、望ましくは不溶であることが必要となる。無電解メッキ液は通常水溶液であることから水を含んでおり、光触媒材料が、水に対し可溶性である場合、また、紫外光等の光照射を照射した際に、水に対し可溶性である場合、無電解メッキ液に浸漬させることにより光触媒材料が溶けてしまうからである。
【0029】
このため、光触媒材料であっても、ZnO、硫化物半導体、セレン化物半導体は、水溶液中で溶解してしまうか、光を照射することにより、水溶液中で光酸化により溶解してしまうので、本実施の形態においては用いることができない。
【0030】
以上より、本発明に使用することができる光触媒材料は、バンドギャップ3.0〔eV〕(410nm)であるTiO(酸化チタン)、バンドギャップ3.2〔eV〕(388nm)であるSrTiO(チタン酸ストロンチウム)、バンドギャップ3.4〔eV〕(365nm)であるKTaO(タンタル酸カリウム)、バンドギャップ3.2〔eV〕(388nm)であるKTaNbO(タンタル酸ニオブ酸カリウム)、バンドギャップ5.0〔eV〕(248nm)であるZrO(酸化ジルコニウム)或いはこれらの複合化合物が好ましいが、特に、光触媒として最も一般的であり、耐久性の高いTiOが好ましい。
【0031】
尚、光触媒含有層102は、光触媒材料のみから構成してもよいが、基板101との密着性を高めるため光触媒材料とバインダ材料とを混合した材料により形成してもよい。この場合、バインダを固化するため加熱処理を行う場合がある。
【0032】
また、光触媒含有層102には、光触媒粒子が含まれているため、光触媒含有層102の表面は、凹凸の状態となっている。この凹凸により光触媒含有層102の表面積が広くなり、後の工程で樹脂層や金属層を形成する際、密着力を強める効果がある。光触媒含有層102は、同時に放熱機能を有するため、厚さは、0.1〜100〔μm〕形成する必要がある。よって、光触媒材料を構成する光触媒粒子の大きさは、光触媒活性の効率と、光触媒含有層102の膜厚から、0.01〜1〔μm〕であることが好ましい。光触媒粒子は小さい方が、光触媒活性効率が高くなり、後の工程で形成される電気配線を考慮すると、1〔μm〕以下であることが必要となるからである。また、あまりに小さすぎると光触媒含有層102の表面に凹凸が全く形成されなくなってしまうからである。
【0033】
次に、図1(b)に示すように光触媒含有層102上にレジスト層113を形成する。具体的には、レジスト層113のレジストは永久型のレジストで、光硬化型のエポキシ系レジストである。これを基板101の光触媒含有層102上にスピンコーター等により塗布する。この後、プリベークを行った後、図1(c)に示すように非配線領域のみ樹脂層103が形成されるようなパターンが形成された露光用マスク108を用い、マスクアライナー等による紫外線照射装置により矢印の方向から紫外光を照射しレジスト層113を露光する。この紫外光は、レジストを露光するためのものである。露光した後、現像液に浸漬することにより、図1(d)に示すように、光触媒含有層102上の非配線領域においてのみ樹脂層103が形成される。
【0034】
このようにして、基板101には、配線領域には光触媒含有層102が露出し、非配線領域のみ樹脂層103が形成されたパターンが作製される。
【0035】
次に、図1(e)に示すように、このようにパターンが形成された基板101を無電解メッキ槽111内の少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液に浸漬した後、基板101の樹脂層103が形成された面に、矢印に示す方向から紫外光を照射する。この紫外光は、光触媒材料を光触媒活性させるためのものである。
【0036】
少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液には、金属イオンとして、Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)等の金属イオンと、犠牲剤として、ホルムアルデヒド、メタノール、エタノール、ギ酸や有機酸が含まれた溶液を用いる。犠牲剤は、紫外線の照射により光触媒含有層102により生じる電子とホールのうち、ホールと反応することにより、電子が金属イオンの還元のために用いられるような働きをするものである。尚、一般的に無電解メッキ液には、上記金属イオンと犠牲剤が含まれているので、本実施の形態では、少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液として、無電解メッキ液を用いている。
【0037】
照射する紫外光の波長は、光触媒含有層102を構成する光触媒材料のバンドギャップより、210〔nm〕〜420〔nm〕が適当である。
【0038】
紫外光を照射することにより、光触媒含有層102の露出している面では、光触媒材料が光触媒活性し、この領域に金属が付着し、金属析出層104が形成される。この金属析出層104が形成された後、無電解メッキ液に浸漬すると、金属析出層104の表面で無電解メッキ反応が起こり、金属膜105が積層される。また、先に説明したように、一般的に無電解メッキ液には、上記金属イオンと犠牲剤が含まれているので、直接無電解メッキ液に浸漬して、紫外線を照射しても良い。尚、紫外光の照射は、最初のみ行えばよい。即ち、光触媒含有層102自体は、無電解メッキ反応の触媒活性を有していないため無電解メッキ槽111内の無電解メッキ液に浸漬しただけでは、光触媒含有層102上に金属が堆積することはない。しかしながら、光触媒含有層102に紫外光を照射することにより、光触媒材料は、光触媒活性し、無電解メッキ液に含まれる金属の堆積が開始する。露出している光触媒含有層102の略全面に金属析出層104が形成された後は、この金属析出層104は触媒活性を有するため、紫外光の照射を停止しても、図1(f)に示すように樹脂層103の形成されていない金属析出層104上のみ金属は堆積し金属層105が形成される。
【0039】
図2は、上記工程により作製された配線基板である。
【0040】
基板101上の全面に光触媒含有層102が形成され、光触媒含有層102上の非配線領域には、樹脂層103が形成され、配線領域には、金属析出層104、金属層105からなる電気配線107が形成されている。
【0041】
図に示すように、金属析出層104、金属層105からなる電気配線107は、基板101に形成された光触媒含有層102と、樹脂層103とにより3方向において接触しており、電気配線107の付着力は強化されている。また、金属析出層104、金属層105からなる電気配線107に電流を流した場合に、生じた発熱は、電気配線から光触媒含有層102を介して矢印に示す方向に熱が流れ放熱される効果も有している。
【0042】
〔放熱層〕
更に放熱効果を高めた構成の配線基板を図3に示す。この配線基板は、電気配線107と、放熱層106とを同時に形成したものである。
【0043】
図3に、放熱層106の形成された基板101を示す。
【0044】
基板101上に光触媒含有層012を全面に形成した後、非配線領域で、かつ、非放熱領域である領域に、樹脂層103を形成する。即ち、後に、電気配線107と、放熱層106が形成される領域以外の領域に樹脂層103を形成する。この後、金属析出層104、金属層105を形成することにより、電気配線107と放熱層106とを同時に形成することができる。
【0045】
これにより、電気配線107に電流を流した際に発熱等が生じた場合であっても、矢印の方向に熱が流れ、光触媒含有層102を介し、放熱層106に熱を伝達し放熱することができる。
【0046】
特に、基板101が樹脂やガラスにより形成されている場合、光触媒含有層102を構成する材料の方が熱伝導率は一般的に高くなるため効果は大きい。
【0047】
図4には、立体的な基板101上に光触媒含有層102を形成し、樹脂層103を形成した後、金属析出層104、金属層105を形成することにより電気配線107と放熱層106を形成したものであり、同様に矢印の方向に熱が流れ放熱効果がある。
【0048】
〔液体吐出ヘッド〕
次に、本実施の形態による製造方法により製造された基板を用いて作製された液体吐出ヘッドについて、図5に基づき説明する。
【0049】
本実施の形態により製造された液体吐出ヘッドは、ノズル51、圧力室52、供給口53を有しており、振動板と兼用の共通電極56と個別電極57に挟まれた圧電素子58に電界を印加することにより、振動板が変形し圧力室52内のインクがノズル51より吐出する。個別電極57は、貫通電極62を介し、共通液室55を構成する壁面に構成された電気配線61と接続している。共通液室55の壁面60に形成された電気配線61は、壁面60を基板として先に示した本実施の形態に係る基板製造方法により製造されており、電気配線61が埋め込まれた構造となっているため、密着性が高く圧電素子58を駆動する際に発生する微小な振動や、液体吐出ヘッドの駆動によって、電気配線61が壁面より剥離することはない。
【0050】
〔第2の実施形態〕
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る配線基板の製造方法である。第2の実施の形態は、インプリント法を用い配線基板を製造する方法である。
【0051】
図6(a)に示すように、絶縁体からなる基板101上に光触媒含有層102を形成する。
【0052】
基板101は、ガラス基板、シリコンウエハ、樹脂或いはセラミックス基板等からなるものである。また、光触媒含有層102は、紫外線の照射により光触媒活性を示す光触媒材料を含んでいるものであればよいが、本実施の形態においては、以下の条件を満たしている必要がある。これについて、図7に基づき説明する。
【0053】
具体的には、本実施の形態においては、光触媒材料は、目的とする金属を直接還元することができることが必要である。
【0054】
即ち、Cuの還元電位は、+0.337〔V〕、Agの還元電位は、+0.799〔V〕、Ptの還元電位は、+1.188〔V〕、Auの還元電位は、+1.52〔V〕であり、光触媒材料の伝導帯の下端は、これよりも十分負にあることが必要である。特に、電気配線材料として銅を用いる場合では、過電圧分を考慮すると水素発生電位(SHE)よりも少なくとも負であることが必要となる。尚、水素発生電位は、標準水素電極電位(SHE)であり、電極電位の基準となるため、H/HO=0〔V〕である。
【0055】
次に、本実施の形態で用いる光触媒材料のバンドギャップは、3〔eV〕以上、6〔eV〕以下であることが必要とされる。光触媒含有層102上に電気配線が形成されるため、常温においては、導電性を有していないことが必要とされるからである。また、低エネルギーの電磁波等により容易に電子が励起されてしまう材料も同様である。このため、光触媒材料のバンドギャップは、3〔eV〕以上有していることが必要となる。
【0056】
また、バンドギャップが広すぎると紫外光程度の波長では、励起することができないため紫外光により光触媒活性するためには、6〔eV〕以下であることが必要となる。
【0057】
更に、本実施の形態における光触媒材料は、水に対し難溶、望ましくは不溶であること、また、紫外光等の光を照射した場合においても、水に対し難溶、望ましくは不溶であることが必要となる。無電解メッキ液は通常水溶液であることから水を含んでおり、光触媒材料が、水に対し可溶性である場合、また、紫外光等の光照射を照射した際に、水に対し可溶性である場合、無電解メッキ液に浸漬させることにより光触媒材料が溶けてしまうからである。
【0058】
このため、光触媒材料であっても、ZnO、硫化物半導体、セレン化物半導体は、水溶液中で溶解してしまうか、光を照射することにより、水溶液中で光酸化により溶解してしまうので、本実施の形態においては用いることができない。
【0059】
以上より、本発明に使用することができる光触媒材料は、バンドギャップ3.0〔eV〕(410nm)であるTiO(酸化チタン)、バンドギャップ3.2〔eV〕(388nm)であるSrTiO(チタン酸ストロンチウム)、バンドギャップ3.4〔eV〕(365nm)であるKTaO(タンタル酸カリウム)、バンドギャップ3.2〔eV〕(388nm)であるKTaNbO(タンタル酸ニオブ酸カリウム)、バンドギャップ5.0〔eV〕(248nm)であるZrO(酸化ジルコニウム)或いはこれらの複合化合物が好ましいが、特に、光触媒として最も一般的であり、耐久性の高いTiOが好ましい。
【0060】
尚、光触媒含有層102は、光触媒材料のみから構成してもよいが、基板101との密着性を高めるため光触媒材料とバインダ材料とを混合した材料により形成してもよい。この場合、バインダを固化するため加熱処理を行う場合がある。
【0061】
また、光触媒含有層102には、光触媒粒子が含まれているため、光触媒含有層102の表面は、凹凸の状態となっている。この凹凸により光触媒含有層102の表面積が広くなり、後の工程で樹脂層や金属層を形成する際、密着力を強める効果がある。光触媒含有層102は、同時に放熱機能を有するため、厚さは、0.1〜100〔μm〕形成する必要がある。よって、光触媒材料を構成する光触媒粒子の大きさは、光触媒活性の効率と、光触媒含有層102の膜厚から、0.01〜1〔μm〕であることが好ましい。光触媒粒子は小さい方が、光触媒活性効率が高くなり、後の工程で形成される電気配線を考慮すると、1〔μm〕以下であることが必要となるからである。また、あまりに小さすぎると光触媒含有層102の表面に凹凸が全く形成されなくなってしまうからである。
【0062】
次に、光触媒含有層102上に樹脂膜層114を形成する。具体的には、樹脂膜層114を形成する材料としては、熱可塑性樹脂材料、若しくは、光硬化性樹脂材料が用いる。図6(b)に示すように、基板101の光触媒含有層102上に樹脂材料を塗布することにより樹脂膜層114を形成する。この後、図6(c)に示すように、非配線領域のみ樹脂層103が形成されるように、電気配線が形成される領域が凸となっている金型109を押し当てる。これにより、図6(d)に示すように非配線領域に樹脂層103が形成される。
【0063】
具体的には、樹脂膜層114として、熱可塑性樹脂材料を用いた場合には、基板101全体を昇温し、樹脂膜層114を軟化させた後、金型109を押し当て、冷却することにより、樹脂膜層114を構成する熱可塑性材料が硬化させた後、金型109を取り外すことにより、非配線領域に樹脂層103が形成される。
【0064】
また、樹脂膜層114として、光硬化性樹脂材料を用いた場合には、樹脂膜層114の塗布された基板101に金型109を押し当てた後、所望の波長の光を照射することにより、樹脂膜層114を構成する光硬化性樹脂材料を硬化させた後、金型109を取り外すことにより、非配線領域に樹脂層103が形成される。
【0065】
尚、この工程で用いられる金型109は、Ni等により作製されたものであり、樹脂膜層114が取り除かれるべき非配線領域に樹脂材料が残っている場合には、その部分にレーザー光を照射し樹脂材料を昇華させることや、酸素プラズマによるアッシング等により取り除いてもよい。
【0066】
インプリント法では、金型109を押し当てることにより樹脂層103を形成する方法であるため、設備等も簡単でありコストも低く、製造における時間も短時間で済むといった利点を有している。
【0067】
このようにして、基板101には、配線領域には光触媒含有層102が露出し、非配線領域のみ樹脂層103が形成されたパターンが作製される。
【0068】
次に、図6(e)に示すように、このようにパターンが形成された基板101を無電解メッキ槽111内の少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液に浸漬した後、基板101の樹脂層103が形成された面に、矢印に示す方向から紫外光を照射する。この紫外光は、光触媒材料を光触媒活性させるためのものである。
【0069】
少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液には、金属イオンとして、Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)等の金属イオンと、犠牲剤として、ホルムアルデヒド、メタノール、エタノール、ギ酸や有機酸が含まれた溶液を用いる。犠牲剤は、紫外線の照射により光触媒含有層102により生じる電子とホールのうち、ホールと反応することにより、電子が金属イオンの還元のために用いられるような働きをするものである。尚、本実施の形態では、少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液として、無電解メッキ液を用いている。
【0070】
照射する紫外光の波長は、光触媒含有層102を構成する光触媒材料のバンドギャップより、210〔nm〕〜420〔nm〕が適当である。
【0071】
紫外光を照射することにより、光触媒含有層102の露出している面では、光触媒材料が光触媒活性し、この領域に金属が付着し、金属析出層104が形成される。この金属析出層104が形成された後、無電解メッキ液に浸漬すると、金属析出層104の表面で無電解メッキ反応が起こり、金属膜105が積層される。また、先に説明したように、一般的に無電解メッキ液には、上記金属イオンと犠牲剤が含まれているので、直接無電解メッキ液に浸漬して、紫外線を照射しても良い。尚、紫外光の照射は、最初のみ行えばよい。即ち、光触媒含有層102自体は、無電解メッキ反応の触媒活性を有していないため無電解メッキ槽111内の無電解メッキ液に浸漬しただけでは、光触媒含有層102上に金属が堆積することはない。しかしながら、光触媒含有層102に紫外光を照射することにより、光触媒材料は、光触媒活性し、無電解メッキ液に含まれる金属の堆積が開始する。露出している光触媒含有層102の略全面に金属析出層104が形成された後は、この金属析出層104は触媒活性を有するため、紫外光の照射を停止しても、図6(f)に示すように樹脂層103の形成されていない金属析出層104上のみ金属は堆積し金属層105が形成される。
【0072】
以上の工程により、図2に示す配線基板を作製することができる。
【0073】
また、本実施の形態における別の形成方法を図8に基づき説明する。最初に図6において説明した工程と同様に、図8(a)に示すように、絶縁体からなる基板101上に光触媒含有層102を形成する。この後、図8(b)に示すように、基板101の光触媒含有層102上に、後の工程で形成される樹脂層103の領域が凹部となっている型119を密着させる。この型は密着性を高めるため柔軟性を持つことが望ましく、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの材質が適している。
【0074】
この後、型を密着させた状態で、基板101上の光触媒含有層102と型119との間の空間に樹脂材料を注入させた後、硬化させる。
【0075】
具体的に、この樹脂材料を注入する方法を図9に基づき説明する。図9(a)は、図8(b)の9A−9B線で垂直に切断した断面図である。図9(b)に示すように、減圧状態とし、基板101上の光触媒含有層102と型119との間に樹脂材料123を付着させる。この後、減圧状態より常圧(大気圧)に戻すことにより、図9(c)に示すように、基板101上の光触媒含有層102と型119との間の空間内部に樹脂材料123が入り込んでいく。更に、この状態を維持することにより図9(d)に示すように、基板101上の光触媒含有層102と型119との間に樹脂材料123が完全に入り込む。この後、樹脂材料123を硬化させることにより樹脂層103が形成される。この状態を図8(c)に示す。尚、樹脂材料の注入方法は、これ以外の方法によって行うことも可能である。
【0076】
この方法では、樹脂層114が取り除かれるべき非配線領域に樹脂材料が残存しないため、レーザー光の照射や酸素プラズマによるアッシング等の残膜除去が不要となる。
【0077】
この後、図8(d)に示すように、型119を取り外すことにより、基板101の光触媒含有層102上に、樹脂層103が形成される。この後、図6において説明した工程と同様に、無電解メッキ槽111内の少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液に浸漬した後、矢印の方向から紫外光を照射し、金属析出層104を形成する。この後、図8(f)に示すように、金属析出層104上に金属が堆積し金属層105が形成され、図2に示す配線基板を作製することができる。
【0078】
以上、本発明に係る配線基板の製造方法並びにこれにより製造される液体吐出ヘッドについて詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る配線基板の製造方法の説明図
【図2】本発明により製造される配線基板の断面図
【図3】本発明により製造される別の態様の配線基板の断面図
【図4】本発明により製造される別の態様の配線基板の断面図
【図5】本発明に係る液体吐出ヘッドの断面図
【図6】第2の実施の形態に係る配線基板の製造方法の説明図
【図7】光触媒材料のバンド構造と水の酸化・還元電位の説明図
【図8】第2の実施の形態に係る別の配線基板の製造方法の説明図
【図9】第2の実施の形態に係る別の配線基板の製造方法の部分的な説明図
【符号の説明】
【0080】
101…基板、102…光触媒含有層、103…樹脂層、104…金属析出層、105…金属層、106…放熱層、107…電気配線、111…無電解メッキ槽、108…露光マスク、113…レジスト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気配線を形成するための絶縁体からなる基板表面に光触媒粒子を含有する材料からなる光触媒含有層を形成する工程と、
前記光触媒含有層上の非配線領域のすべてに樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層の形成された基板を少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液に浸漬した後、紫外線を照射し露出している前記光触媒含有層上に金属を析出する工程と、
を含むことを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板は電気配線及び放熱のための放熱領域を形成するものであって、
前記樹脂層を形成する工程において、前記光触媒含有層上の非配線領域で、かつ、非放熱領域となる領域のすべてに樹脂層を形成することを特徴とする請求項1に記載の配線基板の製造方法。
【請求項3】
前記光触媒含有層に含まれる光触媒材料が、
前記金属の還元電位よりも前記光触媒材料の伝導帯の下端が負であり、かつ、
バンドギャップが3〔eV〕以上、6〔eV〕以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の配線基板の製造方法。
【請求項4】
前記光触媒含有層に含まれる光触媒材料が、
水素発生電位より前記光触媒材料の伝導帯の下端が負であり、かつ、
バンドギャップが3〔eV〕以上、6〔eV〕以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の配線基板の製造方法。
【請求項5】
前記光触媒材料が、紫外光を照射した際、水に対し不溶であることを特徴とする請求項3または4に記載の配線基板の製造方法。
【請求項6】
前記光触媒材料が、TiO、SrTiO、KTaO、KTaNbO、ZrO或いはこれらの複合化合物であることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項7】
前記紫外光の波長が、210〔nm〕以上、420〔nm〕以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂層を形成する工程において、
前記樹脂層は、フォトリソグラフィ法、または、インプリント法により作製することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも金属イオン及び犠牲剤を含む溶液は、Cu、Ag、Au、Ptのうち少なくとも一つのイオンを含んでいることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載された製造方法により製造された配線基板を有する液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−266124(P2007−266124A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86463(P2006−86463)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】