説明

酢酸の製造方法

【課題】 反応系の水濃度が低く水素分圧が低くても、反応速度を低下させることなく、副生成物の生成を低減できる酢酸の製造法を提供する。
【解決手段】 ロジウム触媒、ヨウ化物塩、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水の存在下、連続的にメタノールと一酸化炭素とを反応させ、反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下に保ちつつ、酢酸を11mol/L・hr以上の生成速度で製造する方法であって、反応器気相部の一酸化炭素分圧が1.05MPa以上の条件、又は反応液中の酢酸メチル濃度が2重量%以上の条件で反応を行い、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度の1/1500以下に維持することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジウム触媒の存在下でメタノールと一酸化炭素とを反応させて酢酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸の最も優れた工業的製造法として、水の存在下、ロジウム触媒とヨウ化メチルを用いて、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応させて酢酸を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、当初の方法では、反応液中の水分含量が高かったため、精製工程において水を除去するのに多大のエネルギーを必要としていた。反応液中の水分濃度を低くすると、ロジウム触媒が不活性化し酢酸の生産性が低下するという問題があった。
【0003】
そこで、ロジウム触媒を不活性化させることなく反応液中の水分濃度を低下する方法が検討され、ヨウ化物塩等の触媒安定化剤を反応系内に添加する方法が提案された(特許文献2、3参照)。この改良法によれば、ロジウム触媒が安定化するとともに、二酸化炭素やプロピオン酸等の副生物が減少するという利点がある。しかし、その一方で、アセトアルデヒドやアセトアルデヒドのアルドール縮合等による逐次反応生成物(クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド等)などのカルボニル基を有する還元性不純物の副生量が増大して酢酸の品質が悪化するという問題が生じた。また、酢酸とエチレンから酢酸ビニルを製造する際に用いるパラジウム触媒を劣化させるヨウ化ヘキシル等のヨウ化アルキルの副生量も増加する。前記ヨウ化ヘキシルはアセトアルデヒド由来の生成物である。
【0004】
特許第3244385号公報には、ロジウム触媒、ヨウ化物塩およびヨウ化メチルの存在下、連続的にメタノールと一酸化炭素を反応させて酢酸を製造する方法において、反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に保って反応を行うことを特徴とする高純度酢酸の製造方法が開示されている。そして、この文献には、反応器に循環するプロセス液からアセトアルデヒドを除去することにより、反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に保つ方法が具体的に記載されている。しかし、アルデヒドの生成抑制については詳細に記載されていない。
【0005】
一方、特表2003−508363号公報には、ロジウム触媒の存在下でメタノールと一酸化炭素とを反応させて酢酸を製造する方法において、低い水濃度下、水素分圧を0.1〜4psia(0.7〜27.6kPa)の範囲に設定することで、不純物を低減する技術が開示されている。しかし、水素分圧を極端に低くすると、一般に十分な酢酸製造の触媒活性が得られにくくなる。特公平8−5839号公報には、40psi(276kPa)以下の低水素分圧下では酢酸生成速度が低下することが示されている。また、水素分圧を極めて低い値にするには、水素混入量の極めて少ない高純度の一酸化炭素が必要となるため、一酸化炭素精製設備の増強、一酸化炭素製造コストの上昇などの問題が生じる。さらに、我々はこの方法においても反応系のアセトアルデヒド濃度、及び他の副生物の生成量を必ずしも十分に低減できないことを確認した。
【0006】
国際公開第2004/60846号パンフレットには、水分2重量%以下且つロジウム濃度1000ppm以上で酢酸生成速度(STY)15mol/L・hr以上をもたらす酢酸製造プロセスが開示されている。この文献によると、反応系の水分が5重量%以下では、水性ガスシフト反応(CO+H2O→CO2+H2)よりもメタン生成反応(CH3OH+H2→CH4+H2O)が優先するため、系内に水が生成、蓄積する。これを回避するため、上記プロセスでは、化学的水分調整法として、酢酸メチルを反応系に添加している。添加された酢酸メチルは系内の水と接触して加水分解され酢酸とメタノールを生成し、このメタノールは酢酸合成の原料として利用されている。しかし、系内のロジウム濃度を高めることは、酢酸の生成速度だけでなく副生アセトアルデヒドの生成速度も増加させてしまう欠点がある。酢酸及びアセトアルデヒドの増加はロジウム濃度の増加比率に比例して起こる。すなわち、酢酸とほぼ同じ比率でアセトアルデヒドの生成が増加する。そして、低水分下では、水性ガスシフト反応速度が遅くなり水素分圧が低下する。低水素分圧下では、アセトアルデヒドの水素添加反応(CH3CHO+H2→CH3CH2OH等)の速度が遅くなり反応液中のアセトアルデヒド濃度が高くなり、アセトアルデヒドの縮合反応速度が速くなる。その結果として、アセトアルデヒドの逐次反応によるクロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒドなどの還元性物質の生成量が増加し、製品酢酸の過マンガン酸カリウム試験値を悪化させることを検討の結果我々は確認した。逆に、ある程度高い水素分圧、例えば上記パンフレットの実施例に記載されているような水素分圧11〜14psi(75.8〜96.5kPa)に設定すると、メタン副生時に生成する水の除去を行わなければならず、水の除去のための余分なエネルギーや水の除去剤が必要となり、生産効率が悪い。また、この時、還元性物質であり過マンガン酸カリウム試験値を低下させるギ酸の副生量が増加するので好ましくない。
【0007】
Applied Homogeneous Catalysis with Organometallic Compounds (2nd Edition) (2002), Volume 1, 104-136 (Celanese)には、低水分酢酸合成技術に関し、ヨウ化リチウムの添加によりロジウム錯体の安定性が向上すること、低水分領域では酢酸メチル濃度増加によりカルボニル化反応速度が顕著に増加すること、及びヨウ化物塩によりカルボニル化反応速度が向上することが記載されている。しかし、アセトアルデヒド抑制に関しては記載がない。また、我々はロジウム錯体の安定性を向上させるために行うヨウ化リチウムの添加は、酢酸生成速度を増加させるものの、それ以上にアセトアルデヒド生成速度を増加させるという欠点があることを見出した。
【0008】
特開平6−40999号公報には、約10重量%までの水分、少なくとも2重量%の濃度の酢酸メチルを保持させて反応して得られる反応液を蒸留する酢酸の製造法が開示されている。この文献には、酢酸メチル濃度が増加すると、プロピオン酸の副生が減少し、酢酸メチル2重量%の時に反応液中のプロピオン酸濃度が500ppm未満になると記載されている。しかし、上述のように、低水分による低水素分圧下では、アセトアルデヒドの水素添加反応の速度が遅くなって、エタノールのカルボニル化によるプロピオン酸の生成量は減少するが、反応液中のアセトアルデヒド濃度が高くなり、アセトアルデヒドの縮合反応速度が速くなる。その結果、アセトアルデヒドの縮合反応物の増大により酢酸の品質が悪化する。省資源、省エネルギーの効率のよい酢酸製造プロセスにするためには、アセトアルデヒドとアセトアルデヒドの逐次反応生成物(縮合反応生成物、プロピオン酸、ヨウ化ヘキシル等)の両方の副生を効果的に抑制する必要がある。
【0009】
国際公開第2002/62740号パンフレットには、2本までの蒸留塔を用いる省エネルギープロセスにおいて、製品流が低レベルのプロピオン酸不純物を持ち、製品流中のアルデヒド不純物のレベルが、(i)反応器内の全圧が約15〜40atm(1.5〜4MPa)において水素分圧を約6psia(41.3kPa)より少なく維持する、或いは、(ii)反応液中ヨウ化メチル濃度を約5重量%より少なく維持する、或いは、(iii)アルデヒド不純物を除去することによって制御されるプロセスが開示されている。しかし、水素分圧を低下させることは、上述のように、アセトアルデヒドの縮合反応を含むアセトアルデヒドの逐次反応の生成物の副生が増大し、酢酸品質を悪化させる。ヨウ化メチル濃度の低下は、該パンフレットの実施例(表3)が示すように、アセトアルデヒドだけでなく酢酸の生成速度を低下させるという欠点がある。すなわち、酢酸の生成効率を低下させるものであり、工業的、経済的に好ましくない。
【0010】
【特許文献1】特公昭47−3334号公報
【特許文献2】特開昭60−54334号公報
【特許文献3】特開昭60−239434号公報
【特許文献4】特許第3244385号公報
【特許文献5】特表2003−508363号公報
【特許文献6】特公平8−5839号公報
【特許文献7】国際公開第2004/60846号パンフレット
【特許文献8】特開平6−40999号公報
【特許文献9】国際公開第2002/62740号パンフレット
【非特許文献1】Applied Homogeneous Catalysis with Organometallic Compounds (2nd Edition) (2002), Volume 1, 104-136 (Celanese)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、反応系の水濃度が低く水素分圧が低くても、反応速度を低下させることなく副生成物の生成量を低減でき、高品質の酢酸を効率よく製造する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、酢酸の生産性を高め、且つアセトアルデヒド及びアセトアルデヒドの逐次反応生成物の副生を抑制し、シンプルで効率のよい酢酸製造プロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ロジウム触媒の存在下でメタノールをカルボニル化して酢酸を製造する方法について種々検討した結果、以下のような知見を得た。すなわち、反応系の水濃度が低く、水素分圧が低くなると、活性なRh[I]錯体の濃度が低くなり、特に水素分圧4psi(27.6kPa)未満にすると顕著に酢酸生成速度が低下することが分かった。また、水素分圧を4psi(27.6kPa)未満にするには、水素混入量0.01mol%未満の純度の高い一酸化炭素(CO)原料が必要であるため、CO精製設備及びCO製造コストが高くなる。ロジウム濃度を高めることは、酢酸だけでなく副生アセトアルデヒドの生成速度も比例して増加させる。低水素分圧下でのさらに大きな問題は、アセトアルデヒドの逐次反応のうちアセトアルデヒドの縮合反応速度が増大して、クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒドなどの還元性物質の生成量が多くなり、過マンガン酸カリウム試験値を低下させ、酢酸の品質を悪化させることである。酢酸の品質を維持向上させるためには、アセトアルデヒド類の化学的処理及び/又は分離による除去が必要となる。メタンの生成速度が二酸化炭素の生成速度よりも速くなるようなある程度高い水素分圧を設定すると、メタン副生時に発生する水の除去を行わなければならず、余分なエネルギーや水の除去剤の添加が必要となり、生産効率が悪く、酢酸製造コストが増加する。また、この時、還元性物質であり、過マンガン酸カリウム試験値を低下させるギ酸の副生量も増加するので好ましくない。
【0013】
省資源・省エネルギーを達成する効率のよい酢酸製造プロセスにするためには、アセトアルデヒド及びアセトアルデヒドの逐次反応生成物(プロピオン酸;ヨウ化ヘキシル;クロトンアルデヒド等のアセトアルデヒドの縮合反応生成物;該縮合反応生成物の逐次反応生成物など)の副生を積極的に抑制する必要がある。アセトアルデヒドの逐次反応生成物の生成を積極的に抑制するには、アセトアルデヒドを化学的に処理して濃度を低下させる方法もあるが、アセトアルデヒドを系外に除去することが効果的である。しかし、より望ましいのは、反応においてアセトアルデヒドの生成を抑制することである。ヨウ化メチル濃度を低下させてアセトアルデヒドの生成を低減する方法は、アセトアルデヒドだけでなく酢酸の生成速度も低下させ、酢酸の生産効率を低下させることになるので、工業的、経済的に好ましくない。
【0014】
そこで、本発明者は、主反応生成物である酢酸、主な副反応生成物であるアセトアルデヒド、水素(及び二酸化炭素)、メタンの生成に関して反応速度を詳細に解析した。その結果、下記表1に示すように、反応に関わる因子[反応温度、反応器気相部のCO分圧及び水素分圧、反応液中のヨウ化メチル濃度、酢酸メチル濃度、水濃度、ロジウム濃度及びヨウ化リチウム濃度(ヨウ化物塩)]のうち、反応器気相部のCO分圧と反応液中の酢酸メチル濃度のみが、副反応を抑制しながら主反応を促進する効果があることを見出した。なお、表1において、+が多いほど生成に大きく寄与することを意味し、−が多いほど生成を抑制する働きが強いことを意味する。
【0015】
【表1】

【0016】
表1をより詳しく説明すると、反応温度の増加は、酢酸の生成速度を増加させるが、その増加割合よりも大きくアセトアルデヒドの生成速度を増加させる。水素分圧の増加は、酢酸の生成速度をやや増加させるが、その増加割合よりも大きくアセトアルデヒドの生成速度を増加させる。ヨウ化メチル濃度の増加は、酢酸の生成速度を増加させるが、その増加割合と同程度以上大きくアセトアルデヒドの生成速度を増加させる。水濃度の増加は、酢酸の生成速度をやや増加させるが、その増加割合と同程度アセトアルデヒドの生成速度を増加させる。ロジウム濃度の増加は、酢酸の生成速度を増加させるが、その増加割合と同程度アセトアルデヒドの生成速度を増加させる。ロジウム濃度の増加はこれら生成物の生成速度に著しく影響するため、注意を要する。ヨウ化リチウム濃度の増加は、酢酸の生成速度を増加させるが、その増加割合と同程度以上大きくアセトアルデヒドの生成速度を増加させる。ヨウ化リチウム濃度の増加はロジウム錯体触媒を安定化させ、且つ生成速度も増加させるが、副反応も増大させるので注意を要する。副反応を抑制しながら主反応を促進する効果のあるものは、CO分圧と酢酸メチル濃度だけである。そして、水素分圧によらず、CO分圧及び/又は酢酸メチル濃度を高めることによりアセトアルデヒドの副生を抑制しながら、酢酸の生成速度を向上できることが明らかとなった。CO分圧又は酢酸メチル濃度を高めるとアセトアルデヒドの生成速度が低下することはこれまで知られていない。
【0017】
これらの関係に基づいて、より好ましい反応条件を設定することにより、アセトアルデヒドの逐次反応生成物(アルデヒド類、アルコール類、ヨウ化アルキル類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類)や、さらにその逐次反応生成物(アルデヒド類、アルコール類、ヨウ化アルキル類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類)の生成を抑制しながら、酢酸の生産性の向上を達成でき、その結果、上記不純物の分離精製のための設備及びエネルギーが不要となり、低コストで高純度酢酸が製造できることになる。本発明は、これらの知見及び考察に基づいて完成されたものである。
【0018】
すなわち、本発明は、ロジウム触媒、ヨウ化物塩、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水の存在下、連続的にメタノールと一酸化炭素とを反応させ、反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下に保ちつつ、酢酸を11mol/L・hr以上の生成速度で製造する方法であって、反応器気相部の一酸化炭素分圧が1.05MPa以上の条件、又は反応液中の酢酸メチル濃度が2重量%以上の条件で反応を行い、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度の1/1500以下に維持することを特徴とする酢酸の製造方法を提供する。
【0019】
この製造方法において、反応器気相部の水素分圧は100kPa以下であるのが好ましく、70kPa以下であるのがより好ましい。また、反応器気相部の水素分圧が70kPa以下で且つ反応液中の酢酸メチル濃度が3.1重量%以上の条件で反応を行うのが好ましい。さらに、反応液中の水濃度はより好ましくは3重量%以下である。
【0020】
この製造方法の好ましい態様では、酢酸を15mol/L・hr以上の生成速度で製造する。また、他の好ましい態様では、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度の1/2500以下に維持しつつ酢酸を製造する。
【0021】
本発明では、精製工程として、反応液から酢酸を分離回収する工程、酢酸を回収した残りの成分を反応器にリサイクルする工程、及び反応器にリサイクルするプロセス液からカルボニル不純物を分離除去する工程を有していてもよい。
【0022】
好ましい態様では、精製工程として、反応液を、蒸留により、酢酸、水、酢酸メチル及びヨウ化メチルを含む揮発性成分と、ロジウム触媒及びヨウ化物塩を含む低揮発性成分とに分離する触媒分離工程(A)、前記揮発性成分を、蒸留により、酢酸を含む高沸点成分と、水、酢酸メチル及びヨウ化メチルを含む低沸点成分とに分離する低沸点成分分離工程(B)、前記低揮発性成分を反応器にリサイクルする触媒リサイクル工程(C)、工程(B)で得られた低沸点成分からカルボニル不純物を分離除去するカルボニル不純物除去工程(D)、工程(D)においてカルボニル不純物を除去した残成分を反応器にリサイクルする低沸点成分リサイクル工程(E)、工程(B)で得られた高沸点成分から蒸留により酢酸を分離する酢酸分離工程(F)、工程(F)で得られた酢酸を、銀又は水銀交換陽イオン交換樹脂で処理する陽イオン交換樹脂処理工程(G)を有する。前記工程(B)、工程(D)及び工程(F)を合計3本以下の蒸留塔を用いて行ってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、反応系の水濃度が低く水素分圧が低くても、反応速度を低下させことなく副生成物の生成を低減できる。したがって、高品質の酢酸を効率よく製造できる。さらに、酢酸の生産性が高く、且つアセトアルデヒド及びアセトアルデヒドの逐次反応生成物の生成が抑制され、シンプルな工程及び設備で効率よく酢酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明では、ロジウム触媒を用いてメタノールと一酸化炭素とを連続的に反応させて酢酸を製造する。ロジウム触媒は反応液中で通常ロジウム錯体として存在する。従って、ロジウム触媒としては、反応条件下で反応液に溶解するロジウム錯体又は該ロジウム錯体を生成可能なものであればどのようなものであってもよい。具体的には、ロジウム触媒として、RhI3、[Rh(CO)22-等のロジウムヨウ素錯体、ロジウムカルボニル錯体などが好ましく用いられる。ロジウム触媒の使用量は、反応液中の濃度で、例えば200〜3000ppm、好ましくは300〜1000ppm、さらに好ましくは400〜900ppm程度である。ロジウム触媒は、通常、反応で用いたロジウム触媒をリサイクルして用いる。
【0025】
本発明において、ヨウ化物塩は、特に低水分下でのロジウム触媒の安定化と酢酸生成反応促進等のために用いられる。このヨウ化物塩は、反応液中で、ヨウ化物イオンを生成するものであればいかなるものであってもよく、例えば、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等のアルカリ金属ヨウ化物塩;BeI2、MgI2、CaI2等のアルカリ土類金属ヨウ化物塩;BI3、AlI3等のアルミニウム族金属ヨウ化物塩などが例示される。また、ヨウ化物塩は、上記金属ヨウ化物塩以外に、有機物ヨウ化物塩でもよく、例えば、第四級ホスホニウムヨウ化物塩(例えば、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類のヨウ化メチル付加物又はヨウ化水素付加物等)、第四級アンモニウムヨウ化物塩(例えば、第三級アミン、ピリジン類、イミダゾール類、イミド類等の含窒素化合物のヨウ化メチル付加物又はヨウ化水素付加物等)などが挙げられる。これらの中でも、特にLiI等のアルカリ金属ヨウ化物塩が好ましい。ヨウ化物塩の使用量としては、反応液中のヨウ化物イオンとして、例えば0.07〜2.5mol/L、好ましくは0.25〜1.5mol/L程度であり、反応液中の濃度としては、3〜40重量%、好ましくは4.5〜30重量%程度である。ヨウ化物塩は、通常、反応で用いたヨウ化物塩をリサイクルして用いる。
【0026】
本発明において、ヨウ化メチルは触媒促進剤として使用される。ヨウ化メチルの反応液中の濃度は、例えば5〜20重量%、好ましくは11〜16重量%程度である。ヨウ化メチルは、通常、反応で用いたヨウ化メチルをリサイクルして用いる。
【0027】
本発明における反応液中の水分濃度は、通常15重量%以下(例えば0.1〜15重量%)、好ましくは10重量%以下(例えば0.3〜10重量%)、さらに好ましくは5重量%以下(例えば0.5〜5重量%)であり、特に3重量%以下(例えば0.7〜3重量%)であるのが好ましい。水分濃度が高すぎると、精製系で水を分離する際のエネルギー負荷が増大するとともに大きな精製設備が必要となる。なお、水分濃度が低いと、水性ガスシフト反応速度が遅くなり水素分圧が低下し、その結果、一般にアセトアルデヒドの縮合反応生成物の副生が増大して酢酸の製品を悪化させるが、本発明によれば、CO分圧を1.05MPa以上の条件または反応液中の酢酸メチル濃度を2重量%以下の条件で反応を行い、アセトアルデヒド生成速度を酢酸生成速度の1/1500以下に維持し、しかも反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下に保持するので、酢酸の生産性を下げることなく酢酸の品質を保持できる。
【0028】
本願発明において、反応液中の酢酸メチル濃度は2重量%以上であり、好ましくは3.1重量%以上、さらに好ましくは3.5重量%以上である。但し、反応器気相部のCO分圧が1.05MPa以上の条件で反応を行う場合はこの限りでなく、例えば1〜2重量%の範囲であってもよいが、好ましくは2重量%以上である。反応液中の酢酸メチル濃度の上限は、例えば30重量%、好ましくは15重量%、さらに好ましくは10重量%である。酢酸メチルは原料メタノールが酢酸と反応して生成する。反応液中の酢酸メチル濃度を高いレベルに保持することにより、酢酸の生成速度を高めつつ、アセトアルデヒド、水素、メタン等の副生物の副生を抑制できる。酢酸メチルとしては、通常、反応で使用した或いは反応で生成した酢酸メチルをリサイクルして用いる。
【0029】
反応液中の残りの主成分は、生成物であり且つ反応溶媒でもある酢酸である。本発明におけるカルボニル化の典型的な反応温度は約150〜250℃であり、好ましくは180〜220℃、さらに好ましくは182〜195℃である。
【0030】
本発明において、反応器気相部のCO分圧は1.05MPa以上であり、好ましくは1.10MPa以上、さらに好ましくは1.15MPa以上である。但し、反応液中の酢酸メチル濃度が2重量%以上の条件で反応を行う場合はこの限りでなく、例えば0.8〜1.05MPaの範囲であってもよいが、好ましくは1.05MPa以上である。CO分圧の上限は、例えば3MPa、好ましくは2.5MPaである。反応器気相部のCO分圧を高くすると、ロジウム触媒の安定性を向上できるとともに、酢酸の生成速度を高めつつ、アセトアルデヒド、水素、メタン等の副生を抑制できる。
【0031】
本発明において、反応器気相部の水素分圧は、通常200kPa以下であるが、好ましくは100kPa以下、さらに好ましくは70kPa以下である。水素分圧が高いと、メタン生成反応(CH3OH+H2→CH4+H2O)、アセトアルデヒド生成反応(CH3OH+CO+H2→CH3CHO+H2O)、プロピオン酸生成反応(CH3CHO+H2→CH3CH2OH、CH3CH2OH+HI→CH3CH2I+H2O、CH3CH2I+CO+H2O→CH3CH2COOH+HI)が促進されるので、水素分圧を低くすることによりこれらの反応を抑制できる。なお、水素は主として水性ガスシフト反応(CO+H2O→CO2+H2)により生成する。従って、水素分圧は反応液中の水分濃度を下げることにより低下させることができる。上述したように、水素分圧を低くすると、一般にアセトアルデヒドの縮合反応生成物の副生が増大して酢酸の製品を悪化させるが、本発明によれば、水素分圧を低くしても、CO分圧を1.05MPa以上の条件または反応液中の酢酸メチル濃度を2重量%以下の条件で反応を行い、アセトアルデヒド生成速度を酢酸生成速度の1/1500以下に維持し、しかも反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下に保持するので、酢酸の生産性を下げることなく酢酸の品質を保持できる。なお、水素分圧の下限は、例えば5kPa程度、通常10kPa程度である。水素は水性ガスシフト反応により生成するもののほか、原料一酸化炭素とともに系内に導入される場合がある。
【0032】
反応器の全圧は、前記CO分圧及び水素分圧と、他の副生ガス等(メタン、二酸化炭素、窒素)の分圧と、反応液成分の蒸気圧のため、通常1.5〜5MPaの範囲である。
【0033】
本発明では、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度の1/1500以下に維持しつつ、酢酸を11mol/L・hr(好ましくは15mol/L・hr)という高生産速度で製造する。一般に、酢酸を高生産速度で生産するには、反応温度を高くし、ロジウム触媒、ヨウ化物塩及びヨウ化メチルの濃度を高くする必要があるが、そうするとアセトアルデヒドもそれに伴って多く副生する。本発明では、上記のように、CO分圧を1.05MPa以上の条件または反応液中の酢酸メチル濃度を2重量%以下の条件で反応を行うため、アセトアルデヒド生成速度と酢酸生成速度の比を1/1500以下に低減できる。アセトアルデヒド生成速度と酢酸生成速度の比は、好ましくは1/1800以下、さらに好ましくは1/2000以下、特に好ましくは1/2500以下である。
【0034】
さらに、本発明では、反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下に保ちつつ反応を行う。反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下に保持することにより、アセトアルデヒドに由来する副生物、例えば、クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド等の還元性物質、ヨウ化ヘキシル等のヨウ化アルキル、プロピオン酸等のカルボン酸などの副生を顕著に抑制できる。本発明では、CO分圧を1.05MPa以上の条件または反応液中の酢酸メチル濃度を2重量%以下の条件で反応を行うため、アセトアルデヒドの生成速度を著しく低減できる。従って、反応液から酢酸を回収した後の残りの低沸点成分(水、酢酸メチル、ヨウ化メチル、アセトアルデヒドを含む)をそのまま反応器にリサイクルすることも可能であるが、反応液中のアセトアルデヒド濃度をできるだけ低く保つため、前記低沸点成分からアセトアルデヒドの少なくとも一部を分離除去した残りの成分を反応器にリサイクルするのが好ましい。反応液中のアセトアルデヒド濃度は、好ましくは450ppm以下、さらに好ましくは400ppm以下である。
【0035】
反応液は精製工程に供され、酢酸が分離回収される。この際、原料コストを低減するため、通常、ロジウム触媒、ヨウ化物塩、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水は反応器にリサイクルされる。副生したアセトアルデヒド等のカルボニル不純物(特にアセトアルデヒド)は、該カルボニル不純物の逐次反応による種々の副生物の生成を抑制するため、反応器に循環するプロセス液から除去するのが好ましい。また、酢酸は、ヨウ化ヘキシル等のヨウ化アルキルを確実に除去するため、活性部位の少なくとも1%が銀系又は水銀系に交換されている陽イオン交換樹脂と接触させるのが好ましい。このような処理を施した酢酸は、金属触媒を被毒しないので、例えば金属触媒を用いて製造される酢酸ビニル等の酢酸誘導体の原料として好適である。
【0036】
精製工程は、例えば、反応液を、蒸留により、酢酸、水、酢酸メチル及びヨウ化メチルを含む揮発性成分と、ロジウム触媒及びヨウ化物塩を含む低揮発性成分とに分離する触媒分離工程(A)、前記揮発性成分を、蒸留により、酢酸を含む高沸点成分と、水、酢酸メチル及びヨウ化メチルを含む低沸点成分とに分離する低沸点成分分離工程(B)、前記低揮発性成分を反応器にリサイクルする触媒リサイクル工程(C)、工程(B)で得られた低沸点成分からカルボニル不純物を分離除去するカルボニル不純物除去工程(D)、工程(D)においてカルボニル不純物を除去した残成分を反応器にリサイクルする低沸点成分リサイクル工程(E)、工程(B)で得られた高沸点成分から蒸留により酢酸を分離する酢酸分離工程(F)、及び工程(F)で得られた酢酸を、銀又は水銀交換陽イオン交換樹脂で処理する陽イオン交換樹脂処理工程(G)で構成できる。
【0037】
図1は本発明の製造方法の一例を示す製造フロー図である。この例では、カルボニル化反応器3に、一酸化炭素1、新鮮なメタノール2、及び必要に応じて水が連続的に供給され、反応器3中の液体内容物は自動的に一定レベルに維持される。一酸化炭素1は、反応器3中に備えられている撹拌機のすぐ下に導入するのが好ましい。ガス状パージ流4を反応器から排出して、ガス状副生成物の蓄積を防止し、一定総反応器圧における設定一酸化炭素分圧を維持する。反応器温度は自動的に制御される。液体生成物(反応液)5は反応器3から一定の液レベルを維持するために十分な速度で取り出されて、蒸発器(フラッシャー)6の頂部と底部との中間部に導入され、蒸発に付される[工程(A)]。蒸発器6では、触媒溶液が底部流7(主として、ロジウム触媒とヨウ化物塩とを、少量の酢酸メチル、ヨウ化メチル及び水とともに含む酢酸)として取り出され、反応器3に戻される[工程(C)]。蒸発器6のオーバーヘッド8は、主として生成物である酢酸を、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水とともに含む。このオーバーヘッド8は低沸成分−酢酸分離蒸留塔(低沸成分−酢酸スプリッターカラム)9の底部、底部近く、又は側部に導入され、蒸留に付される[工程(B)]。低沸成分−酢酸分離蒸留塔9の留出液(オーバーヘッド)10(主としてヨウ化メチルと酢酸メチルのほかに若干の水と酢酸とを含む)は、カルボニル不純物除去工程11[工程(D)]を経た後、ライン(反応器リサイクルライン)12を介して反応器3に戻される[工程(E)]。低沸成分−酢酸分離蒸留塔9の底部近くの側部(又は底部)から取り出される高沸点成分13は、酢酸蒸留塔14の側部から導入されて蒸留に付され、底部又は底部近くの側部から粗酢酸15が取り出される[工程(F)]。酢酸蒸留塔14の頂部からは水その他の低沸点成分16が、底部からは酢酸より高沸点の成分17が排出される。低沸点成分16は反応器3にリサイクルされる。なお、酢酸蒸留塔14の前に水を留去するための蒸留塔を設け、その底部流を酢酸蒸留塔14に供給することもできる。粗酢酸15は、さらに銀又は水銀交換陽イオン交換樹脂を充填した処理槽18に供される[工程(G)]。ここで酢酸中に微量含まれているヨウ化ヘキシル等のヨウ化アルキルが効率よく分離除去され、高品質の酢酸(製品)19が得られる。
【0038】
前記カルボニル不純物除去工程11では、低沸成分−酢酸分離蒸留塔9の留出液(又はオーバーヘッド)10からアセトアルデヒドを含むカルボニル不純物(アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、ブチルアルデヒド等)20が除去される。カルボニル不純物の除去は、例えば、特許第3244385号明細書に記載の方法により行うことができる。例えば、低沸成分−酢酸分離蒸留塔9の留出液10、該留出液10が分液するときはその上層及び/又は下層、或いはこれらのカルボニル不純物濃縮液(以下、これらを単に「プロセス液」と称する場合がある)を、蒸留、抽出或いはこれらの組み合わせ、抽出蒸留等に付すことにより、カルボニル不純物を除去することができる。カルボニル不純物を除去した残りの成分(全部又は一部)は、ヨウ化メチル、酢酸メチル等の有用成分を含んでいるため、ライン12を介して反応器3に戻される。
【0039】
アセトアルデヒドを含むカルボニル不純物を分離する具体的方法としては、アセトアルデヒドを含むプロセス液を一本の蒸留塔で蒸留分離する方法、アセトアルデヒドとヨウ化メチルからなる沸点の低い成分をまず蒸留で他の成分と分離した後、さらにヨウ化メチルとアセトアルデヒドを蒸留分離する方法、アセトアルデヒドが水とよく混じり、ヨウ化メチルが水と混じり難いという性質を利用し、ヨウ化メチルとアセトアルデヒドの分離に水抽出を用いる方法等が挙げられる。
【0040】
カルボニル不純物除去工程11で除去すべきアルデヒドの量は、定常連続反応中の反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下(好ましくは450ppm以下、さらに好ましくは400ppm以下)に保持できる量である。
【0041】
図2は本発明の製造方法の他の例を示す製造フロー図である。この例では、反応器3からの液体生成物(反応液)5は蒸留塔9’の側部に導入され、蒸留に付される[工程(A)及び工程(B)]。蒸留塔9’の留出液(オーバーヘッド)10’(主としてヨウ化メチルと酢酸メチルと水のほかに、若干の酢酸を含む)は、カルボニル不純物除去工程11[工程(D)]を経た後、ライン12を介して反応器3に戻される[工程(E)]。カルボニル不純物除去工程11は図1の場合と同様にして行われる。蒸留塔9’の底部からは、触媒溶液が底部流7(主として、ロジウム触媒とヨウ化物塩とを、少量の酢酸メチル、ヨウ化メチル及び水とともに含む酢酸)として取り出され、反応器3に戻される[工程(C)]。蒸留塔9’の側部から取り出される高沸点成分13’は、酢酸蒸留塔14の側部から導入されて蒸留に付され、底部近くの側部から粗酢酸15が取り出される[工程(F)]。酢酸蒸留塔14の頂部からは水その他の低沸点成分16が、底部からは酢酸より高沸点の成分17が排出される。低沸点成分16は反応器3にリサイクルされる。粗精製酢酸15は、さらに銀又は水銀交換陽イオン交換樹脂を充填した処理槽18に供され[工程(G)]、酢酸中に微量含まれているヨウ化ヘキシル等のヨウ化アルキルが効率よく分離除去され、高品質の酢酸19が得られる。
【0042】
前記銀又は水銀交換陽イオン交換樹脂を用いた陽イオン交換樹脂処理は、公知の方法、例えば、特公平5−21031号公報、特開平4−282339号公報、特開平5−301839号公報、特公平7−14488号公報又は特開平9−291059号公報に記載の方法により行うことができる。特に、特開平9−291059号公報に記載されているように、活性部位の少なくとも1%が銀形又は水銀形に交換されている陽イオン交換樹脂を用いるのが好ましく、粗精製酢酸15を該陽イオン交換樹脂に接触させる際には、段階的に温度を上昇させるのが好ましい。この方法において、粗精製酢酸15の流速は、毎時0.5〜40床容積が好ましく、処理温度は17〜120℃の範囲が好ましい。また、運転の初期において17〜35℃で前記陽イオン交換樹脂と接触させ、その後、温度を段階的に上昇させるとより良好な結果が得られる。こうして、酢酸中のヨウ化ヘキシル等のヨウ化アルキルの含有量を1重量ppb以下とすることができる。
【0043】
本発明の製造方法では、反応中で生成するアセトアルデヒドの生成量及びアセトアルデヒドの逐次反応生成物の生成量が極めて少ないため、前記工程(B)、工程(D)及び工程(F)を合計3本以下の蒸留塔を用いて行うことができる。例えば、工程(A)と工程(B)は図2に示されるように1本の蒸留塔により行うことができる。工程(D)ではアセトアルデヒドを回収するために蒸留塔を1本使用してもよい。本発明によれば、蒸留塔の数が合計で3本以下であっても、高品質の酢酸を製造可能である。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、酢酸の製造は図1の製造フローにより行った。圧力の単位において、Gはゲージ圧を、Aは絶対圧を示す。
【0045】
実施例1
反応器3に、反応原料(メタノール2及び一酸化炭素1)、及び精製系からリサイクルするロジウム触媒溶液7(ロジウム触媒、ヨウ化物塩、酢酸を含む)及び低沸点成分12(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水を含む)を連続的に供給し、反応圧力3.0MPaG、一酸化炭素(CO)分圧1.3MPaA、水素(H2)分圧0.03MPaA、反応温度188℃、反応液中の酢酸メチル(MA)濃度5.5重量%、ロジウム(Rh)濃度800重量ppm、ヨウ化リチウム(LiI)濃度9.6重量%の条件で反応を行った。反応液5を蒸発器6によりフラッシュさせ、触媒成分を含む高沸点成分(ロジウム触媒溶液7)をポンプで昇圧して反応器3にリサイクルした。フラッシュ成分8を低沸成分−酢酸分離蒸留塔9に供給して低沸点成分10と高沸点成分13とに分離し、高沸点成分13を蒸留塔14に供給し、底部近くの側流として粗酢酸(酢酸の純度99.5重量%以上)15を得た。低沸点成分10を、水を用いた抽出処理に付し、該低沸点成分10中のアセトアルデヒド(AD)の50モル%を系外に除去し、残りの低沸点成分をライン12を介して反応器3にリサイクルした。蒸留塔14の塔頂から得られる低沸点成分16も反応器3にリサイクルした。反応液中の水濃度は1.2重量%、ヨウ化メチル(MeI)濃度は14.3重量%、アセトアルデヒド濃度は400重量ppmであった。
酢酸の生成速度(酢酸STY)は19.4mol/L・hr、アセトアルデヒドの生成速度(AD−STY)は4.3mmol/L・hrであり、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度で除した値(AD/AC)は1/4500であった。粗酢酸15中のプロピオン酸(PA)濃度は75重量ppm、クロトンアルデヒド(CrD)濃度は0.2重量ppm、過マンガン酸カリウム試験値(カメレオン値)は190分であった。
粗酢酸15を活性部位に銀を担持させた巨大網状構造を持つ強酸性陽イオン交換樹脂(ロームアンドハース社製、商品名「アンバーリスト15」)を充填した充填槽18(33℃)に毎時7.2床容積の流速で供給し、イオン交換樹脂処理を施した。得られた製品酢酸19中にヨウ化ヘキシル(HexI)は検出されなかった。なお、ヨウ化ヘキシルの検出限界は0.2重量ppbである。
なお、低沸点成分10からアセトアルデヒドを除去することなくそのままそれをライン12を介して反応器3にリサイクルした以外は上記と同様の操作を行ったところ、反応液中のアセトアルデヒド濃度は1050重量ppm、粗酢酸中のプロピオン酸(PA)濃度は180重量ppm、クロトンアルデヒド(CrD)濃度は1.6重量ppm、過マンガン酸カリウム試験値(カメレオン値)は40分であった。
【0046】
実施例2
反応器3に、反応原料(メタノール2及び一酸化炭素1)、及び精製系からリサイクルするロジウム触媒溶液7(ロジウム触媒、ヨウ化物塩、酢酸を含む)及び低沸点成分12(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水を含む)を連続的に供給し、反応圧力2.7MPaG、一酸化炭素分圧1.2MPaA、水素分圧0.031MPaA、反応温度186℃、反応液中の酢酸メチル濃度5.5重量%、ロジウム濃度650重量ppm、ヨウ化リチウム濃度9.9重量%の条件で反応を行った。反応液5を蒸発器6によりフラッシュさせ、触媒成分を含む高沸点成分(ロジウム触媒溶液7)をポンプで昇圧して反応器3にリサイクルした。フラッシュ成分8を低沸成分−酢酸分離蒸留塔9に供給して低沸点成分10と高沸点成分13とに分離し、高沸点成分13を蒸留塔14に供給し、底部近くの側流として粗酢酸(酢酸の純度99.5重量%以上)15を得た。低沸点成分10を、水を用いた抽出処理に付し、該低沸点成分10中のアセトアルデヒドの30モル%を系外に除去し、残りの低沸点成分をライン12を介して反応器3にリサイクルした。蒸留塔14の塔頂から得られる低沸点成分16も反応器3にリサイクルした。反応液中の水濃度は1.8重量%、ヨウ化メチル濃度は12.1重量%、アセトアルデヒド濃度は400重量ppmであった。
酢酸の生成速度は11.6mol/L・hr、アセトアルデヒドの生成速度は3.2mmol/L・hrであり、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度で除した値は1/3600であった。粗酢酸15中のプロピオン酸濃度は75重量ppm、クロトンアルデヒド濃度は0.2重量ppm、ヨウ化ヘキシル(HexI)濃度は28重量ppb、過マンガン酸カリウム試験値は190分であった。
粗酢酸15を活性部位に銀を担持させた巨大網状構造を持つ強酸性陽イオン交換樹脂(ロームアンドハース社製、商品名「アンバーリスト15」)を充填した充填槽(33℃)に毎時7.2床容積の流速で供給し、イオン交換樹脂処理を施した。得られた製品酢酸中にヨウ化ヘキシルは検出されなかった。
なお、低沸点成分10からアセトアルデヒドを除去することなくそのままそれをライン12を介して反応器3にリサイクルした以外は上記と同様の操作を行ったところ、反応液中のアセトアルデヒド濃度は820重量ppm、粗酢酸中のプロピオン酸(PA)濃度は120重量ppm、クロトンアルデヒド(CrD)濃度は0.5重量ppm、過マンガン酸カリウム試験値(カメレオン値)は160分であった。
【0047】
実施例3
反応器3に、反応原料(メタノール2及び一酸化炭素1)、及び精製系からリサイクルするロジウム触媒溶液7(ロジウム触媒、ヨウ化物塩、酢酸を含む)及び低沸点成分12(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水を含む)を連続的に供給し、反応圧力3.5MPaG、一酸化炭素分圧1.8MPaA、水素分圧0.03MPaA、反応温度188℃、反応液中の酢酸メチル濃度5.3重量%、ロジウム濃度800重量ppm、ヨウ化リチウム濃度10.9重量%の条件で反応を行った。反応液5を蒸発器6によりフラッシュさせ、触媒成分を含む高沸点成分(ロジウム触媒溶液7)をポンプで昇圧して反応器3にリサイクルした。フラッシュ成分8を低沸成分−酢酸分離蒸留塔9に供給して低沸点成分10と高沸点成分13とに分離し、高沸点成分13を蒸留塔14に供給し、底部近くの側流として粗酢酸(酢酸の純度99.5重量%以上)15を得た。低沸点成分10を、水を用いた抽出処理に付し、該低沸点成分10中のアセトアルデヒドの25モル%を系外に除去し、残りの低沸点成分をライン12を介して反応器3にリサイクルした。蒸留塔14の塔頂から得られる低沸点成分16も反応器3にリサイクルした。反応液中の水濃度は1.7重量%、ヨウ化メチル濃度は14重量%、アセトアルデヒド濃度は400重量ppmであった。
酢酸の生成速度は23.5mol/L・hr、アセトアルデヒドの生成速度は2.3mmol/L・hrであり、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度で除した値は1/10000であった。粗酢酸15中のプロピオン酸濃度は65重量ppm、クロトンアルデヒド濃度は0.3重量ppm、過マンガン酸カリウム試験値は190分であった。
粗酢酸15を活性部位に銀を担持させた巨大網状構造を持つ強酸性陽イオン交換樹脂(ロームアンドハース社製、商品名「アンバーリスト15」)を充填した充填槽(33℃)に毎時7.2床容積の流速で供給し、イオン交換樹脂処理を施した。得られた製品酢酸中にヨウ化ヘキシルは検出されなかった。
なお、低沸点成分10からアセトアルデヒドを除去することなくそのままそれをライン12を介して反応器3にリサイクルした以外は上記と同様の操作を行ったところ、反応液中のアセトアルデヒド濃度は710重量ppm、粗酢酸中のプロピオン酸(PA)濃度は115重量ppm、クロトンアルデヒド(CrD)濃度は1.4重量ppm、過マンガン酸カリウム試験値(カメレオン値)は80分であった。
【0048】
比較例1
反応器3に、反応原料(メタノール2及び一酸化炭素1)、及び精製系からリサイクルするロジウム触媒溶液7(ロジウム触媒、ヨウ化物塩、酢酸を含む)及び低沸点成分12(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水を含む)を連続的に供給し、反応圧力2.8MPaG、一酸化炭素分圧0.97MPaA、水素分圧0.14MPaA、反応温度187℃、反応液中の酢酸メチル濃度1.6重量%、ロジウム濃度650重量ppm、ヨウ化リチウム濃度5.0重量%の条件で反応を行った。反応液5を蒸発器6によりフラッシュさせ、触媒成分を含む高沸点成分(ロジウム触媒溶液7)をポンプで昇圧して反応器3にリサイクルした。フラッシュ成分8を低沸成分−酢酸分離蒸留塔9に供給して低沸点成分10と高沸点成分13とに分離し、高沸点成分13を蒸留塔14に供給し、底部近くの側流として粗酢酸(酢酸の純度99.5重量%以上)15を得た。低沸点成分10を、水を用いた抽出処理に付し、該低沸点成分10中のアセトアルデヒドの66モル%を系外に除去し、残りの低沸点成分をライン12を介して反応器3にリサイクルした。蒸留塔14の塔頂から得られる低沸点成分16も反応器3にリサイクルした。反応液中の水濃度は8.0重量%、ヨウ化メチル濃度は13.0重量%、アセトアルデヒド濃度は300重量ppmであった。
酢酸の生成速度は11.7mol/L・hr、アセトアルデヒドの生成速度は10mmol/L・hrであり、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度で除した値は1/1200であった。粗酢酸15中のプロピオン酸濃度は350重量ppm、クロトンアルデヒド濃度は1.0重量ppm、ヨウ化ヘキシル濃度は30重量ppb、過マンガン酸カリウム試験値は140分であった。
なお、低沸点成分10からアセトアルデヒドを除去することなくそのままそれをライン12を介して反応器3にリサイクルした以外は上記と同様の操作を行ったところ、反応液中のアセトアルデヒド濃度は800重量ppm、粗酢酸中のプロピオン酸(PA)濃度は600重量ppm、クロトンアルデヒド(CrD)濃度は3.0重量ppm、ヨウ化ヘキシル濃度は100重量ppb、過マンガン酸カリウム試験値(カメレオン値)は30分であった。
【0049】
比較例2
反応器3に、反応原料(メタノール2及び一酸化炭素1)、及び精製系からリサイクルするロジウム触媒溶液7(ロジウム触媒、ヨウ化物塩、酢酸を含む)及び低沸点成分12(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水を含む)を連続的に供給し、反応圧力2.8MPaG、一酸化炭素分圧1.0MPaA、水素分圧0.175MPaA、反応温度188℃、反応液中の酢酸メチル濃度1.3重量%、ロジウム濃度660重量ppm、ヨウ化リチウム濃度22.9重量%の条件で反応を行った。反応液5を蒸発器6によりフラッシュさせ、触媒成分を含む高沸点成分(ロジウム触媒溶液7)をポンプで昇圧して反応器3にリサイクルした。フラッシュ成分8を低沸成分−酢酸分離蒸留塔9に供給して低沸点成分10と高沸点成分13とに分離し、高沸点成分13を蒸留塔14に供給し、底部近くの側流として粗酢酸(酢酸の純度99.5重量%以上)15を得た。低沸点成分10をそのまま(アセトアルデヒドを除去することなく)ライン12を介して反応器3にリサイクルした。蒸留塔14の塔頂から得られる低沸点成分16も反応器3にリサイクルした。反応液中の水濃度は4.0重量%、ヨウ化メチル濃度は14.5重量%、アセトアルデヒド濃度は980重量ppmであった。
酢酸の生成速度は25.5mol/L・hr、アセトアルデヒドの生成速度は35mmol/L・hrであり、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度で除した値は1/600であった。粗酢酸15中のプロピオン酸濃度は1800重量ppm、クロトンアルデヒド濃度は4.9重量ppm、ヨウ化ヘキシル濃度は720重量ppbであった。
【0050】
以上の結果をまとめて表2に示す。表中、「CO2−STY」は二酸化炭素の生成速度(単位:mmol/L・hr)、「CH4−STY」はメタンの生成速度(単位:mmol/L・hr)を示す。表中の「AD濃度a」は低沸点成分10からアセトアルデヒドを除去することなくそのままそれを反応器3にリサイクルした場合の反応液中のアセトアルデヒド濃度を意味し、「AD濃度b」は低沸点成分10からアセトアルデヒドを所定量除去した残りを反応器3にリサイクルした場合の反応液中のアセトアルデヒド濃度を意味する。また、「粗酢酸a」は低沸点成分10からアセトアルデヒドを除去することなくそのままそれを反応器3にリサイクルした場合の粗酢酸を意味し、「粗酢酸b」は低沸点成分10からアセトアルデヒドを所定量除去した残りを反応器3にリサイクルした場合の粗酢酸を意味する。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の粗酢酸aの欄に示されるように、アセトアルデヒドを除去することなく低沸点成分を反応器にリサイクルした場合、実施例1〜3ではアセトアルデヒドの生成速度と酢酸の生成速度の比が1/1500以下と非常に小さいため、アセトアルデヒドの逐次反応生成物の副生が顕著に抑制され、粗酢酸a中のプロピオン酸濃度及びクロトンアルデヒド濃度が比較例1〜2と比較して約1/2〜1/10と著しく低減する。そして、表2の粗酢酸bの欄に示されるように、実施例1〜3ではさらに低沸点成分からアセトアルデヒドを25〜50モル%除去して残りを反応器にリサイクルし、反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下に保持するので、粗酢酸b中のプロピオン酸濃度及びクロトンアルデヒド濃度が極めて低くなり、これらに由来する副生物の生成も抑制されるので高いカメレオン値を示す。一方、比較例1では、アセトアルデヒドの生成速度と酢酸の生成速度の比が1/1200と大きいため、脱アセトアルデヒド率が66モル%と実施例より高いにもかかわらず、粗酢酸b中のプロピオン酸濃度及びクロトンアルデヒド濃度が高く、カメレオン値も低い値となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の製造方法の一例を示す製造フロー図である。
【図2】本発明の製造方法の他の例を示す製造フロー図である。
【符号の説明】
【0054】
1 一酸化炭素
2 メタノール
3 反応器
4 ガス状パージ流
5 液体生成物(反応液)
6 蒸発器
7 底部流
8 オーバーヘッド
9 低沸成分−酢酸分離蒸留塔
10 留出液(又はオーバーヘッド)
11 カルボニル不純物除去工程
12 ライン(リサイクルライン)
13 高沸点成分
14 酢酸蒸留塔
15 粗酢酸
16 低沸点成分
17 酢酸より高沸点の成分
18 陽イオン交換樹脂処理槽
19 酢酸(製品)
20 カルボニル不純物
9' 蒸留塔
10' 留出液
13' 高沸点成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム触媒、ヨウ化物塩、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水の存在下、連続的にメタノールと一酸化炭素とを反応させ、反応液中のアセトアルデヒド濃度を500ppm以下に保ちつつ、酢酸を11mol/L・hr以上の生成速度で製造する方法であって、反応器気相部の一酸化炭素分圧が1.05MPa以上の条件、又は反応液中の酢酸メチル濃度が2重量%以上の条件で反応を行い、アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度の1/1500以下に維持することを特徴とする酢酸の製造方法。
【請求項2】
反応器気相部の水素分圧が100kPa以下の条件で反応を行う請求項1記載の酢酸の製造方法。
【請求項3】
反応器気相部の水素分圧が70kPa以下の条件で反応を行う請求項1記載の酢酸の製造方法。
【請求項4】
反応器気相部の水素分圧が70kPa以下で且つ反応液中の酢酸メチル濃度が3.1重量%以上の条件で反応を行う請求項1記載の酢酸の製造方法。
【請求項5】
反応液中の水濃度が3重量%以下の条件で反応を行う請求項1〜4の何れかの項に記載の酢酸の製造方法。
【請求項6】
酢酸を15mol/L・hr以上の生成速度で製造する請求項1〜5の何れかの項に記載の酢酸の製造方法。
【請求項7】
アセトアルデヒドの生成速度を酢酸の生成速度の1/2500以下に維持する請求項1〜6の何れかの項に記載の酢酸の製造方法。
【請求項8】
精製工程として、反応液から酢酸を分離回収する工程、酢酸を回収した残りの成分を反応器にリサイクルする工程、及び反応器にリサイクルするプロセス液からカルボニル不純物を分離除去する工程を有する請求項1〜7の何れかの項に記載の酢酸の製造方法。
【請求項9】
精製工程として、反応液を、蒸留により、酢酸、水、酢酸メチル及びヨウ化メチルを含む揮発性成分と、ロジウム触媒及びヨウ化物塩を含む低揮発性成分とに分離する触媒分離工程(A)、前記揮発性成分を、蒸留により、酢酸を含む高沸点成分と、水、酢酸メチル及びヨウ化メチルを含む低沸点成分とに分離する低沸点成分分離工程(B)、前記低揮発性成分を反応器にリサイクルする触媒リサイクル工程(C)、工程(B)で得られた低沸点成分からカルボニル不純物を分離除去するカルボニル不純物除去工程(D)、工程(D)においてカルボニル不純物を除去した残成分を反応器にリサイクルする低沸点成分リサイクル工程(E)、工程(B)で得られた高沸点成分から蒸留により酢酸を分離する酢酸分離工程(F)、工程(F)で得られた酢酸を、銀又は水銀交換陽イオン交換樹脂で処理する陽イオン交換樹脂処理工程(G)を有する請求項1〜7の何れかの項に記載の酢酸の製造方法。
【請求項10】
工程(B)、工程(D)及び工程(F)を合計3本以下の蒸留塔を用いて行う請求項9記載の酢酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−182691(P2006−182691A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377223(P2004−377223)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】