説明

酢酸ビニルを製造するための触媒、その製造法およびその使用

【課題】シェル触媒の製造方法であって、化学的還元剤を用いず、かつ簡単なやり方でのシェル厚さの調節を可能にする方法であり、さらに、Pd/Auに基づく活性かつ選択的な酢酸ビニルシェル触媒を、シェル厚さを簡単なやり方で制御すること可能にしながら、ごく少ない工程で迅速にかつ費用をかけずに製造する方法を提供する。
【解決手段】UV線を用いる光還元によって担体上の貴金属塩を金属に還元して、成形担体上の外部シェル中に固定することによって達成される。シェル厚さはUV線の浸透深さによって調節することができる。この方法で、触媒活性金属粒子の良好な均質性と、狭い粒度分布と、シェル中の金属の高度な分布とが達成される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明が属する技術分野]
本発明は担体上での金属塩のUV光還元による触媒の製造方法と、この方法で製造された触媒と、酢酸ビニルの製造のためのその使用とに関する。
【0002】
[従来の技術]
酢酸ビニルをエチレン、酢酸及び酸素から気相で製造することができることは公知である。合成に用いられる担持された触媒はPdとアルカリ金属、好ましくはKとを含む。用いられる他の添加剤はCd、Au又はBaである。これらの金属塩はスティーピング(steeping)、吹付け、蒸着、含浸、浸漬又は沈殿によって担体に施用する(be applied)ことができる。
【0003】
Pd/Au/K触媒の場合には、担体上にシェルの形状に2種類の貴金属を施用すること、即ち、貴金属が表面に接近した領域のみに分配され、担持された成形体のさらに内部に位置する領域は実際に貴金属を含まないことが有利であると判明している。これらの触媒的に活性なシェルの厚さは一般に約0.1〜2mmである。シェル触媒は、担体粒子が芯まで通して含浸された(“完全に含浸された”)触媒の場合よりも選択的にプロセスを実施することを可能にする、又は容量を増大させることを可能にする。この場合に、完全に含浸された触媒に比べて、反応条件が変化しないで維持されることができ、一定の反応器容量と時間に対してより多くの酢酸ビニルを製造することができる。これによって、反応器を出るガスの酢酸ビニル含量が大きくなるので、得られた粗酢酸ビニルの仕上げ処理が容易になり、仕上げ処理セクションにおけるエネルギー節約が生ずる。適当な仕上げ処理は、例えば、米国特許第5,066,365号、ドイツ特許第3422575号、ドイツ特許第3408239号、ドイツ特許第2945913号、ドイツ特許第2610624号及び米国特許第3,840,590号に述べられている。他方では、プラント生産能力が一定に維持されるならば、反応温度を下げることによって、反応を同じ総生産量でより選択的におこなうことができ、原料を節約することができる。このことは、副生成物として形成されるために放出されなければならない二酸化炭素量をも減じ、その結果、この放出に関連する連行エチレンの損失をも減ずることになる。さらに、この操作方法は触媒の作用寿命(operating life)を延長させる。
【0004】
多くの資料が酢酸ビニルを製造するための触媒と方法、及びこれらの触媒の製造方法を開示している。これらは、一般に担体に施用した貴金属化合物を化学的に還元させて、貴金属を触媒担体上に付着させた、完全含浸触媒又はシェル触媒である。光還元によっても触媒的に活性な金属を担体上に付着させることができることが意外にも発見された。
【0005】
担体の表面上の金属の付着はガス、液体又は吸着された表面層からおこなわれることができる。。このようなプロセスは多くの金属(Ni、Ag、Au、Pd、Pt、Os及びIrを包含する)に関して刊行物“Laser Processing and Chemistry”(Springer−Verlag,Berlin−Heidelberg−New York,1996)と、“Chemical Processing with Lasers”(Springer−Verlag,Berlin−Heidelberg−New York,1986)とにD.Baeuerleによって述べられている。
【0006】
本発明の方法に関しては、吸着された表面層からの触媒活性金属の付着が特に重要である。
W.Kaeuter、D.Baeuerle、F.FimbergerのAppl.Phys.A31,13(1983)は、476〜647nmの波長を有するクリプトンイオンレーザーを用いた、気相(Ni(CO)4)からのNiのレーザー誘導付着を述べている。用いた基体(substrate)はガラス又はSiであった。付着の開始は吸着されたNi(CO)4層の光還元に寄与することが指摘される。この光還元は可視光線を用いる場合よりも紫外(UV)光を用いる場合の方が顕著に効果的である。
【0007】
Y.F.Lu、M.Takai、S.Nagatomo、K.Kato及びS.NambaのAppl.Phys.A54、51〜56(1992)は、マンガン−亜鉄酸亜鉛基体上の吸着された酢酸銀層からのAgの付着を述べている。514.5nmの波長を有するアルゴンイオンレーザーが照射に用いられた。
【0008】
R.C.Sausa、A.Gupta及びJ.R.WhiteのJ.Electrochem.Soc.134,2707〜2713(1987)は、同様にアルゴンイオンレーザーを用いた照射による、有機金属層から石英上へのPtの付着を述べている。この層は有機金属化合物(Bright Platinium−05X,Engelhard Corporation)と、さらにワニス様結合剤及び溶媒とを含有する溶液から溶媒の蒸発によって製造された。付着したPtは銅の無電解付着のための成核層(nucreating layer)として用いられた。
【0009】
H.Esrom、J.Demmy及びU.KogelschatzのChemtronics 4,202〜208(1989)は、銅の無電解付着のために酸化アルミニウム基体上にPd核を付着させるためのXe2*エキシマーランプ(波長172nm)(*は励起状態を表す、以下同様)の使用を報告している。用いられた吸着された層は酢酸パラジウムであった。
【0010】
Y.ZhangとM.StukeのChemtronics 4,212〜215(1989)も、酸化アルミニウムセラミック、石英基体及びシリコーンウェファ上の酢酸パラジウム層からのPdの付着を述べている。電子シンクロトロンからの波長40〜400nmを有するシンクロトロン放射線(synchrotron radiation)が照射のために用いられた。
【0011】
H.EsromとG.WahlのChemtronics 4,216〜223(1989)は、ArFエキシマーレーザー(波長193nm)とKrFエキシマーレーザー(波長248nm)からの光の照射による酢酸パラジウムの光還元を述べている。この方法は石英と酸化アルミニウムセラミック上の銅の無電解付着のためのPd核を付着させるために用いられた。
【0012】
A.G.Schrott、B.Braren及びR.SaraafのAppl.Phys.Lett.64,1582〜1584(1994)は、エキシマーレーザーを用いた、金属PdへのPdSO4の光還元を報告している。この場合にも、核が形成された基体(nucleated substrate)(SiO2)を銅の無電解付着のために用いることができた。
【0013】
P.B.Comita、E.Kay、R.Zhang及びW.JacobのAppl.Surf.Sci.79/80,196〜202(1994)は、プラズマ重合によって製造された薄いフルオロカーボン層中の金クラスターのレーザー誘導凝集を述べている。この層の製造中に、金はイオンスパッターリングによって埋封された。ポリマーマトリックスを破壊し、アルゴンイオンレーザーの照射によって気化して、凝集性(coherent)金構造を残した。
【0014】
これらの刊行物のいずれも触媒の製造方法を開示していない。
吸着された表面層からの貴金属の光誘導付着はUV光源と、可視光線を放射する光源の両方を用いておこなわれている。本発明の方法に用いられる物質の吸収係数は可視スペクトル領域におけるよりも紫外スペクトル領域において顕著に高いので、これに応じて、UV光源を用いる場合には、低い出力密度を用いることができる。この方法では顕著に高いスループットが得られるので、UV光源の使用が好ましい。最も短い波長を有する光源は一般に最高の効率を有するので、それらの使用が特に好ましい。
【0015】
光還元に用いられるUV光源は先行技術である。これらはランプ、レーザー又は例えばシンクロトロン若しくはプラズマ放射装置(discharger)である。使用可能であるランプは特に、Hg蒸気ランプ(185nmと254nmの波長において強い放射線を有する)と、UV線(UV radiation)が例えばKr2*(波長146nm)、Xe2*(波長172nm)、KrCl*(波長222nm)又はXeCl*(波長308nm)のようなエキシマー又は励起錯体の崩壊から生ずる、狭いスペクトルのエキシマーランプである。高出力UVレーザーとして、パルスエキシマーレーザーが用いられる。この場合にも、光が例えばF2*(157nm)、ArF*(193nm)、 KrF*(248nm)、XeCl*(308nm)及びXeF*(351nm)のようなエキシマー又は励起錯体の崩壊から生ずる。周波数逓倍(frequency-multipled)Nd−YAGレーザー(波長1064nm/n;n=3、4、5、・・・)を用いることもできる。他のUV線(UV radiation)源は、X線領域に及ぶ広帯域放射線(broad-band radiation)を生ずるシンクロトロンと、低圧におけるプラズマ放射の光である。
【0016】
[発明が解決しようとする課題]
本発明の目的は、貴金属を含むシェル触媒の製造方法であって、化学的還元剤を用いず、かつ簡単なやり方でのシェル厚さの調節を可能にする方法を提供するである。さらに、本発明の目的はPd/Auに基づく活性かつ選択的な酢酸ビニルシェル触媒を、シェル厚さを簡単なやり方で制御すること可能にしながら、ごく少ない工程で迅速にかつ費用をかけずに製造することである。
【0017】
[課題を解決するための手段]
本発明によると、これらの目的は、UV線を用いる光還元によって担体上の貴金属塩を金属に還元して、成形担体(shaped support body)上の外部シェル中に固定することによって達成される。シェル厚さはUV線の浸透深さによって調節することができる。このやり方で、触媒活性金属粒子の良好な均質性と、狭い粒度分布と、シェル中の金属の高度な分布とが達成される。
【0018】
本発明は多孔質担体上に貴金属を含むシェル触媒の製造方法であって、担体に貴金属塩溶液を含浸させる工程と、続いて、該担体をUV線に暴露させる工程とを含み、その結果、表面に接近した領域における金属塩が金属に還元されるようにする方法を提供する。
【0019】
光還元は好ましくは単色の(monochromatic)UVエキシマー線(excimer radiation)を用いておこなわれる。この方法は好ましくは化学的還元剤の不存在下でおこなわれる。
照射されず、したがって還元されなかったペレット内部の金属塩は、担体の照射後に溶媒によって抽出される。シェル中に固定された貴金属のナノサイズの粒子は、それらの不溶性のために、洗い流されずに、適所に固定されて留まる。
【0020】
本発明はさらに、この方法によって製造されることができるシェル触媒を提供する。
この方法で製造されたシェル触媒は例えば水素化及び酸化のような、多くの不均一系触媒反応(heterogeneously catalyzed reaction)に用いられることができる。
【0021】
この方法によって製造されたPd/Auシェル触媒は酢酸ビニルの合成に用いるために適する。担持された貴金属触媒の慣用的な製造方法(金属塩の含浸とその化学的還元)に比べて、本発明による光還元は、化学的還元剤を省略することによって、例えば外来金属による担体の汚染、形成された塩の廃棄、多段階操作及びしばしば有害な溶液のエネルギー集約的で時間のかかる取り扱いのような、付随する不利益を避けることができる。
【0022】
シェルを製造するための慣用的な方法(塩基沈殿(base precipitation)によって固定した後に、化学的還元)に比べて、本発明の方法は、例えばUV線源の波長と出力、含浸溶液の濃度及び光還元の時間と温度のような、付着に重要な物理的パラメーターを介して容易に制御し、モニターすることができる。本発明の方法では、還元とシェル中の固定とが1工程で同時に生ずる。
【0023】
5〜5000μmのシェル厚さを有する触媒が好ましい。さらに、Pd及び/又はAuを含むような触媒が好ましい。
本発明による光還元は数分間しかかからないが、慣用的な塩基固定(base fixing)は約20時間を要する。
【0024】
上記特性のために、本発明によって製造されるシェル触媒は高い活性と選択性とを有する。シェル中に濃縮されうる活性金属としては、光還元可能な先駆体が存在する金属の全てが適する。このための前提条件は照射に用いられる波長における先駆体による充分なUV吸収である。照射に用いられる波長を適当に選択すると、例えば酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、硝酸塩、硫酸塩又は塩化物のような、多くの単純で、容易に入手可能な金属塩がUV吸収することが可能になる。含浸された担体をUV光による照射の前に増感剤によって処理することもできる。全ての貴金属とそれらの混合物は、それらの容易な光還元可能性のために、特に適する。Pd、Au、Pt、Ag、Rh、Ru、Os及びIrが好ましい。PdとAuが特に好ましい。
【0025】
用いられる担体は球状体、ペレット、リング、星状体又は他の成形体の形状の、例えばSiO2、Al23、TiO2、ZrO2又はこれらの酸化物の混合物のような不活性物質である。担体粒子の直径又は長さ及び厚さは一般に3〜9mmである。担体の表面は、BET法によって測定して、一般に10〜500m2/g、好ましくは20〜250m2/gである。細孔容量は一般に0.3〜1.2ml/gである。
【0026】
貴金属先駆体の還元と担体への固定とは、本発明によると、UV光によっておこなわれる。例えば、下記UV線源:UVエキシマーレーザー、周波数逓倍Nd:YAGレーザー、UVエキシマーランプ、Hg蒸気ランプ、シンクロトロン又は低圧プラズマ放射装置を用いることが可能である。単色性であり、高い出力ピークを有するUVエキシマー線(UV excimer radiation)を用いることが好ましい。適当な波長は40〜400nmの範囲内である。好ましい波長は140〜360nm、特に172nm(Xe2*ランプ)、193nm(ArF*レーザー)、222nm(KrCl*ランプ)、248nm(KrF*レーザー)及び308nm(XeCl*ランプ)である。好ましいUV出力密度は0.01〜100W/cm2であり、特に好ましいUV出力密度は0.1〜20W/cm2である。
【0027】
パルス化レーザーを用いる場合は、適当なパルス周波数は一般に0.1〜5000パルス/秒の範囲内である。照射時間は一般に0.01〜3600秒間である。好ましいパルス周波数は1〜1000パルス/秒であり、好ましい照射時間は0.01〜1000秒間、特に0.1〜300秒間である。
【0028】
パルス化されず、UVレーザーよりも顕著に大きい空間的及びスペクトル的照射窓(irradiation window)を有することができるUVランプを用いる場合には、適当な照射時間は1秒間〜10時間である。好ましい照射時間は0.1分間〜100分間である。
【0029】
UV線の限定された浸透深さの結果として、シェル厚さを設定して、容易に制御することができる。
複数種類の貴金属(例えば、PdとAu)を担体に固定すべきである場合には、本発明の方法によると、付着に重要な物理的パラメーターの適当な選択によって、これらを同時に光還元することができる。これは一般的に合金粒子を生じる。代替え手段として、個々の金属の各々に対して最適化された照射条件下で逐次光還元をおこなうことができ、構造化貴金属粒子を生成することができる。
【0030】
光還元を慣用的な化学的還元と組み合わせることもできる。例えば、光還元をシェル中の核の予備形成(preliminary creation)のみに用いて、次にこれを同じ又は他の金属塩による新たな含浸と、これらの化学的還元とによって強化することができる。同様に、2種類の金属のうちの1種類のみを光還元して、続いて、他の金属を施用して、慣用的な方法を用いて還元することもできる。例えば、担体に最初に酢酸パラジウムを含浸させて、次に、これをシェル中で光還元してPd金属を生成することができる。次に、担体にAu塩をさらに含浸させて、これを湿式化学的に、さもなければ例えばH2若しくはエチレンのようなガス状還元剤を用いて反応器中の現場で還元することもできる。このことは酢酸ビニル製造方法のための実際の活性金属(即ち、Pd)がシェル中に固定されることを保証するが、活性剤(即ち、Au)の分布はあまり決定的ではない(less critical)ので、これは慣用的な化学的方法を用いて固定することができる。
【0031】
照射されなかったので還元されなかった、ペレット内部の貴金属塩は溶媒によって抽出される。適当な溶媒は例えばクロロホルム、酢酸又はクエン酸若しくは蓚酸の水溶液である。
【0032】
本発明の方法は酢酸ビニルシェル触媒を製造するために特に適する。これらの触媒は3種類が存在し、これらは本質的にPd/Cd/K、Pd/Ba/K又はPd/Au/Kから構成される。完成された酢酸ビニル触媒は下記組成を有する:
Pd/K/Cd及びPd/K/Ba触媒のPd含量は一般に0.6〜3.5重量%、好ましくは0.8〜3.0重量%、特に1.0〜2.5重量%である。Pd/Au/K触媒のPd含量は一般に0.5〜2.0重量%、好ましくは0.6〜1.5重量%である。
【0033】
3種類全ての触媒のK含量は一般に0.5〜4.0重量%、好ましくは1.5〜3.0重量%である。
Pd/K/Cd触媒のCd含量は一般に0.1〜2.5重量%、好ましくは0.4〜2.0重量%である。
Pd/K/Ba触媒のBa含量は一般に0.1〜2.0重量%、好ましくは0.2〜1.0重量%である。
Pd/K/Au触媒のAu含量は一般に0.2〜1.0重量%、好ましくは0.3〜0.8重量%である。
【0034】
適当な塩は、溶解性であり、触媒毒として作用する成分(例えば、硫黄)を含まない、パラジウム、カドミウム、バリウム、金及びカリウムの全ての塩である。酢酸塩と塩化物が好ましい。しかし、塩化物の場合には、触媒の使用前に塩化物イオンが除去されることが保証されなければならない。これは、Pdと必要な場合のAuとが金属粒子への還元によって担体上に固定された後に、ドープされた担体を例えば水によって洗浄することによって達成される。
【0035】
含浸のための適当な溶媒は、選択された塩を溶解することができ、含浸後に乾燥によって再び容易に除去されることができる全ての化合物である。酢酸塩のために適当な溶媒は先ず第一に非置換カルボン酸、特に酢酸である。塩化物のためには、水が特に適する。塩が酢酸又は水中に充分に溶解しない場合には、他の溶媒を付加的に用いることが有利である。適当な付加的溶媒は、不活性であり、酢酸又は水と混和可能であるような溶媒である。酢酸への添加溶媒の例は、例えばアセトンとアセチルアセトンのようなケトン、また例えばテトラヒドロフラン若しくはジオキサンのようなエーテル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、さらに例えばベンゼンのような炭水化物である。
【0036】
一般に、担体粒子に施用しようとする元素(Pd/K/Au、Pd/K/Cd、Pd/K/Ba)の各々の少なくとも1種類の塩を施用する。1種類の元素の複数の塩を施用することもできるが、通常は、3種類の元素の各々の1種類の塩のみを施用する。塩の必要量を1工程で又は多数回の含浸(multiple impregnation)によって塗布することができる。例えばスティーピング、吹付け、蒸着、浸漬、含浸又は沈殿のような公知方法によって、塩を担体に施用することができる。
【0037】
本発明の方法では、貴金属塩(即ち、Pd塩とAu塩)のみが対応するナノサイズ貴金属粒子に還元され、“塩基(base)”成分K、Cd、Baは還元されない。後者は貴金属塩と共に、さもなくば予め若しくは後から担体に施用することができる。本発明の方法では、通常、最初にPd/Auのシェルを製造して、次に酢酸カリウム溶液を担体に含浸させ、ペレット断面にわたってKの均一な分布を生じる。
【0038】
酢酸ビニルは一般に、完成触媒上に酢酸、エチレン及び酸素又は酸素含有ガスを100〜220℃、好ましくは120〜200℃の温度及び1〜25bar、好ましくは1〜20barの圧力において通すことによって製造され、未反応成分は循環させることができる。酸素濃度は10容量%(酢酸なしのガス混合物に基づく)未満に維持することが有利である。例えば窒素又は二酸化炭素のような不活性ガスによる希釈も状況によっては有利であると考えられる。二酸化炭素は反応中に少量形成されるので、二酸化炭素が希釈のために特に適する。
【実施例】
【0039】
下記実施例は本発明を説明する。
実施例1:
(a)酢酸パラジウムによる多孔質SiO2ペレットの含浸
50ml(約25g)のAerosil 200ペレット(5.5mmx6mm、Degussa)をフラスコに入れる。530mgの酢酸パラジウム(Aldrich)を30mlの氷酢酸中に溶解する(1重量%のPdに相当する)。この溶液をひだ付き濾紙に通して濾過する。透明なPd溶液をAerosilペレットに加え、氷酢酸を回転蒸発器上で絶えず回転しながら2時間の期間にわたって再び留去する(taken off)。続いて、残留する酢酸を0.2mbar/60℃におけるオイルポンプ真空下で留去する。
(b)光還元
ペレットの端面(end faces)を空気中で各場合に500レーザーパルスを用いてKrF*レーザー(波長248nm)によって照射した。標本表面に対するレーザーのエネルギー密度は350mJ/cm2であった。レーザーのパルス周波数は10パルス/秒であった。代表的なペレット数を切断した後に、シェル厚さを光学顕微鏡検査とXPSラインスキャンとによって測定した。シェル厚さは約0.5mmである。
(c)工業用触媒への転化
20mlの照射済みAerosilペレットをSoxhlet抽出器中で2リットルの酢酸と、40%+10%の酢酸カリウムとによって洗浄して、110℃において乾燥させる。これらのペレットは既に1%のPdを含有するので、この場合にはAuのみを施用する:米国特許第4,933,204号の方法によって製造された、125.4mgのAu(CH3COO)3(66mgのAuに相当する)を10mlのH2O中に溶解し、ペレットに加える。この溶液を回転蒸発器上で回転しながら、N2流下で蒸発させる。次に、ペレットを110℃において乾燥させる。0.8gの酢酸カリウムを15mlのH2O中に溶解し、上述したようにペレットに施用して、110℃において4時間乾燥させて、さらに減圧下で一晩乾燥させる。
(d)反応器試験
酢酸ビニルを生成するためのエチレンと酢酸との気相酸化に関する反応器試験:
管直径2cmを有する固定床管形反応器において触媒を試験する。反応器をオイルジャケット加熱によって外部から加熱する。15mlの触媒成形体を反応器に入れる。触媒床の上流と下流の反応器容積にガラス球を充填する。試験装置をプロセス制御系によって制御し、連続的に操作する。触媒を最初に活性化してから、一定反応条件下で試験する。
【0040】
活性化は複数の工程:N2下で加熱、エチレンの添加、圧力上昇、酢酸の添加、条件の維持、酸素の添加を含む。
試験中の反応条件は160〜170℃の反応温度、8〜9barの圧力である。供給材料は64.5容量%のエチレンと、16.1容量%のN2と、14.3容量%の酢酸と、5.1容量%のO2とから構成される。反応器アウトプット(output)の完全な分析はオンラインGC(2カラム配列)によって反応器出口において直接おこなう。
【0041】
試験結果は下記表に示す。成分の濃度比はGC%領域(percentage areas)で表す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2:
(a)酢酸パラジウムと酢酸金とによる多孔質SiO2ペレットの含浸
50ml(約25g)のAerosil 200ペレット(5.5mmx6mm、Degussa)をフラスコに入れる。530mgの酢酸パラジウム(Aldrich)(1重量%のPdに相当する)を30mlの氷酢酸中に溶解する。米国特許第4,933,204号の方法によって製造された、290mgの酢酸金(0.6重量%のAuに相当する)を10mlの氷酢酸中に溶解する。2種類の溶液を一緒にして、ひだ付き濾紙に通して濾過する。透明なPd/Au溶液をAerosilペレットに加え、氷酢酸を回転蒸発器上で絶えず回転しながら2時間の期間にわたって再び留去する。続いて、残留する酢酸を0.2mbar/60℃におけるオイルポンプ真空下で留去する。含浸済みペレットの最終重量は25.8gである。
(b)光還元
含浸済み錠剤の両端面を空気中で各場合に150レーザーパルスを用いてKrF*レーザー(波長248nm)によって照射した。標本表面に対するレーザー光のエネルギー密度(フラックス)は350mJ/cm2であった。レーザーのパルス周波数は10パルス/秒であった。
【0044】
代表的なペレット数を切断した後に、シェル厚さを光学顕微鏡検査とXPSラインスキャンとによって測定した。パルス数は、シェル厚さが約0.9mmになるように選択される。
【0045】
照射によって誘導された黄色から黒色/褐色への色の変化を明確に見ることができた。実施例1(酢酸パラジウムのみを予備含浸)とは対照的に、Pd/Au予備含浸の場合には色の変化をより容易に得ることができた。
(c)工業用触媒への転化
照射済み錠剤をSoxhlet抽出器中で最初に2000mlの40%酢酸によって、次に1000mlの水によって洗浄し、大気圧下で110℃において一晩乾燥させ、次に減圧下でさらに1時間乾燥させる。2gの酢酸カリウムを30mlの水中に溶解し、全てを一度にペレットに加える。溶液とペレットとを絶えず撹拌しながら15分間混合し、再び大気圧下で110℃において乾燥させ、最終的に減圧下でさらに1時間乾燥させる。
(d)反応器試験
実施例1の(d)に示した条件と同じ条件下で、酢酸ビニルの製造をおこなった。試験結果は下記表に示す。成分の濃度比はGC%領域で表す。
【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン、酢酸及び酸素又は酸素含有ガスから、気相において酢酸ビニルを製造するための、多孔質担体上に貴金属を含むシェル触媒の使用であって、当該シェル触媒を、担体に貴金属の塩水溶液を含浸させる工程と、続いて、表面に近い領域における貴金属塩が金属に還元されるように該担体をUV線に暴露させる工程と、さらに続いて、溶媒を用いて高められた温度で抽出する工程とを含む製造方法によって得たことを特徴とする、前記シェル触媒の使用。
【請求項2】
貴金属がPd、Au、Pt、Ag、Rh、Ru、Os及びIrから成る群から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
貴金属がAuとPdであり、用いられるそれらの塩が酢酸塩である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
用いられる担体物質がSiO2、Al23、TiO2、ZrO2又はこれらの混合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
UV光還元を40〜400nmの波長を有する光の照射によっておこなう、請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
UV光還元を140〜360nmの波長を有する光の照射によっておこなう、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
Pd及び/又はAuの光還元が、ランプ又はパルス化レーザーからの0.01〜100W/cm2の出力密度を有するUV光の照射によっておこなわれ、パルス化レーザーが用いられる場合には、パルス周波数が1〜1000パルス/秒であり、照射時間が0.01〜1000秒間であり、ランプが用いられる場合には、照射時間が0.1〜100分間である、請求項1〜6いずれかに記載の使用。
【請求項8】
UV光の出力密度が0.1〜20W/cm2である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
照射の前に、含浸された触媒担体をUV増感剤によって処理する、請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
化学的還元剤を用いずにおこなわれる、請求項1〜9のいずれかに記載の使用。

【公開番号】特開2008−55422(P2008−55422A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241303(P2007−241303)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【分割の表示】特願平10−157104の分割
【原出願日】平成10年6月5日(1998.6.5)
【出願人】(500001585)セラニーズ・ケミカルス・ユーロープ・ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】Celanese Chemicals Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Lurgiallee 14,D−60439 Frankfurt am Main,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】