説明

酢酸n−プロピルおよび酢酸アリルの製造方法

【課題】プロピレン、酸素、酢酸を原料としてアリルアルコールを製造するプロセスにおいて、高品質の酢酸n−プロピルおよび酢酸アリルを併産する方法。
【解決手段】プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを製造し、次いで上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造するプロセスの中間体である酢酸アリルを原料として水添し、酢酸n−プロピルを製造する方法において、光照射処理および/またはオゾン処理の工程を有することを特徴とする酢酸n−プロピルの製造方法。プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを製造し、次いで上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造するプロセスの中間体である酢酸アリルに、光照射処理を行うことを特徴とする酢酸アリルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酢酸n−プロピルおよび酢酸アリルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飽和エステル類たる酢酸n−プロピル、酢酸イソブチル、酢酸n−ブチル等は溶剤や反応溶媒として多用され、工業的に重要な化合物となっている。これらの飽和エステル類は、一般に、相当するアルコールとカルボン酸との縮合によるエステル化反応により製造される。しかしながら、このようなエステル化反応では、副生物である水を系外に取り除かなければ、反応の平衡状態を生成物(エステル)側に傾けることができず、高い原料転化率や反応速度を得ることは工業的に困難である。水の蒸発潜熱は他の有機化合物の蒸発潜熱に比べて極端に大きい為、水の蒸留による分離には多大のエネルギーを消費する等の困難性もある。
【0003】
他方、エステルのアルコール部位にアリル基、メタクリル基、ビニル基等の不飽和基を含有する不飽和エステル類は、相当するオレフィンとカルボン酸との酸化的カルボキシル化反応等を介して、工業的に生産することができる。
特に、パラジウム触媒の存在下、相当するオレフィン、酸素およびカルボン酸を気相で反応させることによって不飽和基含有エステルを製造できることは周知であり、これに関しては多くの公知文献がある。例えば特許文献1には、プロピレン、酸素、酢酸をパラジウム触媒の存在下、気相で反応させることにより、極めて高収率、かつ高空時収率で酢酸アリルを工業的に生産できると記載されている。
【0004】
また、これらの方法により得られた酢酸アリルを、陽イオン交換樹脂を用いて加水分解し、アリルアルコールを製造する方法が特許文献2に記載されている。さらに、特許文献3には、このようにして得られたアリルアルコールを精製分離し、70質量%のアリルアルコールを製造する方法が記載されている。これらの文献によれば、酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造する方法は、その反応平衡定数が0.39と小さく、酢酸アリル加水分解反応後のアリルアルコール、酢酸アリル、酢酸、水を主成分とする反応混合液を精製分離するために、3本の蒸留塔と1本の抽出塔を使用することが記載されている。すなわち、最初の蒸留塔においては、アリルアルコール、酢酸アリル、酢酸、水の4成分のうち、酢酸、その他の高沸成分を塔底より分離除去し、続く抽出塔においては、第1の蒸留塔の塔頂から得られたアリルアルコール、酢酸アリル、水を主成分とする混合液から第3の蒸留塔の塔底より得られる水によって、酢酸アリルを抽出塔塔頂より抽出分離し、第2の蒸留塔では抽出塔の塔底液中に残存する酢酸アリルを蒸留分離し、その塔底液を第3の蒸留塔において蒸留分離し、塔頂より水との共沸組成である70質量%のアリルアルコールを得ることが記載されている。
【0005】
上記プロセスにおいて、抽出塔の塔頂液は酢酸アリルを主成分とする混合液であり、当該液は上記加水分解工程にリサイクルすることが該文献に記載されている。
酢酸アリルを含む不飽和基含有エステルの水素化反応には多数の公知文献がある。特許文献4には、ニッケル触媒を用いて酢酸アリルを水素化し、酢酸−n−プロピルを製造する方法が開示されている。また、特許文献5には、シリカ担持型パラジウム触媒、アルミナ担持型パラジウム触媒、スポンジニッケルなどを用いて酢酸n−プロピルを製造する方法が記載されている。該文献によると、酢酸アリルの転化率はほぼ100%を達成でき、また酢酸n−プロピルの選択率は99.0%以上を達成している。また、水素化反応に伴う多大な反応熱除去のために、生成した酢酸n−プロピルの一部を水素化反応器にリサイクルする反応方法についても記載があり、これを行わない場合には酢酸の選択率が上昇し、酢酸n−プロピルの選択率が低下することが述べられている。
【0006】
アリルアルコールはプロピレン、酸素、酢酸を原料として、パラジウム触媒等を用いて酢酸アリルを製造し、これを陽イオン交換樹脂等を用いて加水分解反応することで工業的に製造されている。この工業的製造プロセスにおいて、製品のアリルアルコールは70質量%アリルアルコール水溶液として得られる。酢酸n−プロピルはこのアリルアルコール製造プロセスの中間プロセス液である高濃度酢酸アリルを水添(水素化付加反応、水素化反応ともいう。)して得ることができる。
【特許文献1】特開平2−91045号公報
【特許文献2】特開平2−49743号公報
【特許文献3】特開昭62−149637号公報
【特許文献4】特開平9−194427号公報
【特許文献5】特開2000−064852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、当該酢酸アリル高濃度プロセス液は、多数の不純物を含有しているため、通常の蒸留・抽出などの分離精製法を行っても、最終的に製品として得られる酢酸n−プロピル中には、アルデヒド類や着色成分が含まれることとなり、製品品質上大きな問題となっていた。
本発明は、分離困難な不純物や着色成分を除去し、高純度で着色のない酢酸n−プロピルおよび酢酸アリルの製造方法を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題に対して本発明者らは鋭意検討した結果、不純物を含有する酢酸アリルプロセス液に光照射し、好ましくは吸着操作を併用することによって脱色が可能となり、また水添後の不純物を含有する酢酸n−プロピル液をオゾン処理することで、酢酸n−プロピルと蒸留分離の困難なアルデヒド類或いは不飽和基含有エステルを分解し、その後の蒸留操作により高純度の酢酸n−プロピルを得ることが可能となった。すなわち、本発明は以下の[1]〜[8]に関する。
【0009】
[1]プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを製造し、次いで上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造するプロセスの中間体である上記酢酸アリルを原料として水添し、酢酸n−プロピルを製造する方法において、
光照射処理および/またはオゾン処理の工程を有することを特徴とする酢酸n−プロピルの製造方法。
[2]上記酢酸アリルが下記(A)および(B)の条件を満たすものである[1]に記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
(A)HAZEN値が80以上。
(B)2−メチルクロトンアルデヒドおよび2−メチルブタナールの合計量が500質量ppm以上。
[3]上記光照射処理を上記水添工程の前に行う[1]または[2]に記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
[4]上記光照射処理の光照射波長が400〜450nmの領域を含むものである[1]〜[3]のいずれかに記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
[5]上記オゾン処理を上記水添工程の後に行う[1]または[2]に記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
【0010】
[6]プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを製造し、次いで上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造する以下のプロセスにおける抽出塔の塔頂液の一部を、原料の酢酸アリルとして用いることを特徴とする[1]または[2]に記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
1)プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを生成し、
2)上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールと酢酸を生成し、
3)上記加水分解反応液中の酢酸を第一の蒸留塔で分離して、その塔底液の一部または全量を上記1)の工程へ再循環し、
4)第一の蒸留塔の塔頂液を水層と油層とに2相分離し、アリルアルコールを含む油層を抽出塔へ供給し、
5)第三の蒸留塔の塔底液を抽出水として上記油層中のアリルアルコールを抽出塔で抽出し、酢酸アリルを主成分とする塔頂液を上記2)の工程へ再循環させ、
6)抽出塔の塔底液に含有される低沸成分を第二の蒸留塔の塔頂より分離除去し、該塔底液に含有される水分を第三の蒸留塔の塔底より分離除去し、第三の蒸留塔の塔頂より水との共沸組成のアリルアルコールを得るプロセス。
[7]上記水添工程の前に、吸着による脱色工程を有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
[8]プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを製造し、次いで上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造するプロセスの中間体である酢酸アリルに、光照射処理を行うことを特徴とする酢酸アリルの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酢酸n−プロピルおよび酢酸アリルの製造方法によると、プロピレン、酸素、酢酸を原料としてアリルアルコールを製造するプロセスにおいて、高純度で着色のない酢酸n−プロピルおよび酢酸アリルを併産することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図1、図2を参照しながら詳細に説明する。
<プロピレン、酸素、酢酸を原料とする70質量%アリルアルコール製造プロセス>
(酢酸アリルの製造)
プロピレン、酸素、酢酸から酢酸アリルを製造する際の反応式を以下に示す。
CH=CH−CH+1/2O+CHCOOH → CH=CH−CH−OCOCH+H
酢酸アリルを製造する工程におけるプロピレン原料としての制限は特にない。プロパン、エタン等の低級飽和炭化水素が混入していても差し支えないが、高純度のプロピレンを用いるのが好ましい。
さらに、酸素にも特に制限はない。酸素は、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈されていてもよく、例えば空気であってもよい。ただし、反応ガスを循環させる場合には、高純度の酸素、特に99%以上の純度の酸素を用いるのが好ましい。
【0013】
触媒としては、プロピレンと酢酸と酸素とを反応させて酢酸アリルを得る能力があれば如何なるものでも構わない。好ましくは、下記(a)〜(c)成分を含有する担持型固体触媒である。
(a)パラジウム。
(b)銅、鉛、ルテニウムおよびレニウムから選ばれる少なくとも1種以上の元素を有する化合物。
(c)アルカリ金属酢酸塩およびアルカリ土類金属酢酸塩から選ばれる少なくとも一種以上の化合物。
【0014】
上記(a)成分としては、いずれの価数を持つパラジウムでも構わないが、好ましくは金属パラジウムである。ここで言う「金属パラジウム」とは、0価の価数を持つパラジウムである。金属パラジウムは、通常、2価および/または4価のパラジウムイオンを、還元剤であるヒドラジン、水素等を用いて還元することで得ることができる。この際、全てのパラジウムが金属状態でなくても構わない。
上記(a)成分の原料には特に制限はない。金属パラジウムを用いることはもちろんのこと、金属パラジウムに転化可能なパラジウム塩を用いることも可能である。金属パラジウムに転化可能なパラジウム塩の例としては、塩化パラジウム、塩化ナトリウムパラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウムなどがあるが、これらに限定されるものではない。
担体と上記(a)成分との比率としては、質量比にして、担体:(a)成分=1:0.1〜5.0の比率が好ましく、より好ましくは、担体:(a)成分=1:0.3〜1.0の比率である。
【0015】
上記(b)成分としては、銅、鉛、ルテニウムおよびレニウムから選ばれる少なくとも1種以上の元素を有する硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物などの可溶性塩を使用することができる。これらの中でも、入手しやすく、かつ水溶性に優れている塩化物が好ましい。また、上記元素の中で好ましい元素としては、「銅」が挙げられる。銅の塩化物の例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、酢酸銅、硝酸銅、アセチルアセト銅、硫酸銅等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記(a)成分および(b)成分の比率としては、モル比にして(a)成分:(b)成分=1:0.05〜10が好ましく、より好ましくは(a)成分:(b)成分=1:0.1〜5である。
【0016】
上記(c)成分としては、好ましくはアルカリ金属酢酸塩であり、より具体的にはリチウム、ナトリウム、およびカリウムの酢酸塩を挙げることができる。さらに好ましくは酢酸ナトリウムおよび酢酸カリウムであり、最も好ましくは酢酸カリウムである。
アルカリ金属酢酸塩の担持量については特に制限はないが、触媒に対して1〜30質量%の担持量であることが好ましい。また、希望する担持量とするために、アルカリ金属の酢酸塩を、例えば、水溶液または酢酸の溶液として供給ガスに添加する等の方法によって反応器中に加えてもよい。
【0017】
上記触媒成分を担持する担体は特に制限されず、一般に担体として用いられている多孔質物質であればよい。好ましくはシリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、珪藻土、モンモリロナイト、チタニア等が挙げられ、より好ましくはシリカである。また担体の形状には特に制限はない。具体的には、粉末状、球状、ペレット状等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記担体の粒子直径としては特に制限はないが、好ましくは1mm〜10mmであり、より好ましくは3mm〜8mmである。管状反応器に触媒を充填して反応を行う場合、粒子直径が1mmより小さいと、ガスを流通させるときに大きな圧力損失が生じ、有効にガス循環ができなくなる恐れがある。また粒子直径が10mmより大きいと、触媒内部まで反応ガスが拡散できなくなり、有効に触媒反応が進まなくなる恐れがある。
上記担体の細孔構造は、その細孔直径が1nm〜1000nmにあることが好ましく、2nm〜800nmの間がより好ましい。
【0018】
(a)成分、(b)成分、および(c)成分の担体への担持の方法としては特に制限はなく、如何なる方法で担持してもよい。
具体的には、例えばパラジウム塩などの(a)成分と、(b)成分との水溶液を担体に含浸させた後、アルカリ金属塩の水溶液で処理する方法が挙げられる。この際、触媒液が含浸された担体を乾燥することなくアルカリ処理するのが好ましい。アルカリ金属塩水溶液による処理時間は、担体に含浸させた触媒成分の塩が、水に不溶な化合物に完全に変換されるのに必要な時間であり、通常20時間で十分である。
【0019】
次に、触媒担体の表面層に沈殿された触媒成分の金属塩を還元剤で処理し、0価の金属とする。該還元は、例えばヒドラジンまたはホルマリンのような還元剤の添加により、液相において行われる。その後、触媒担体を塩素イオン等が検出されなくなるまで水洗し、乾燥後、アルカリ金属酢酸塩を担持させて、さらに乾燥する。以上のような方法で担持することが可能であるが、これに限定されるわけではない。
【0020】
触媒の存在下に、酢酸、プロピレンおよび酸素との反応を行う際の反応形式には特に制限はなく、従来公知の反応形式を選ぶことができる。一般には、用いる触媒に最適な方法があり、その形式で行うことが好ましい。本発明の担持型固体触媒を用いる場合は、当該触媒を反応器に充填した固定床流通反応を採用することが実用上有利である。
反応器の材質については特に制限はないが、好ましくは耐食性を有する材料で構成された反応器である。
酢酸アリルを製造する際の反応温度に特に制限はない。好ましくは100℃〜300℃であり、更に好ましくは120℃〜250℃である。
反応圧力としては特に制限はないが、設備の点から0.0MPaG〜3.0MPaGであることが実用上有利であり、より好ましくは0.1MPaG〜1.5MPaGである。
【0021】
反応原料ガスは、酢酸、プロピレンおよび酸素を含み、更に必要に応じて窒素、二酸化炭素、希ガスなどを希釈剤として使用することができる。反応原料ガス全量に対して、酢酸は4vol%〜20vol%、好ましくは6vol%〜10vol%の割合となる量で、プロピレンは5vol%〜50vol%、好ましくは10vol%〜40vol%の割合となる量で、酢酸アリル生成反応器に供給する。
酢酸、プロピレン、酸素の比率としては、モル比にして酢酸:プロピレン:酸素=1:0.25〜13:0.15〜4の比率が好ましく、より好ましくは、酢酸:プロピレン:酸素=1:1〜7:0.5〜2の比率である。
反応原料ガスについては、標準状態において、空間速度10hr−1〜15000hr−1、特に300hr−1〜8000hr−1で触媒に通すのが好ましい。
【0022】
酢酸アリルの製造プロセスとしては、図1に示すように、プロピレン1、酸素2、酢酸3を原料として供給し、上述の触媒が充填された反応器31において、上述の反応条件により酢酸アリルが製造される。反応器31を出た酢酸アリルを含有した反応器出口ガス4は、吸収塔32に送られる。また、酢酸、水を主成分とする第一の蒸留塔塔底液9の一部が、吸収液として吸収塔32に送られる。そして、吸収塔32にて、反応器出口ガス4に含まれる凝縮成分を上記吸収液に吸収させて酢酸アリル、酢酸、水を主成分とする吸収塔塔底液5が得られる。吸収塔塔底液5は中間タンク44で抽出塔塔頂液10、第四の蒸留塔塔底液22および第四の蒸留塔塔頂液23と合流して加水分解反応器供給液6となり、加水分解反応器33へと供給される。一方、上記反応器出口ガス4に含まれていたプロピレン、酸素、炭酸ガスを主成分とする非凝縮成分は、吸収塔32の塔頂から反応器31へと反応原料として再循環される。
【0023】
(酢酸アリルの加水分解工程によるアリルアルコールの製造)
上記の工程により得られた酢酸アリルを主成分とする反応混合液を加水分解して、アリルアルコールを得る工程について、以下に説明する。
酢酸アリルからアリルアルコールを加水分解して製造する際の反応式を以下に示す。
CH=CH−CH−OCOCH+HO → CH=CH−CHOH+CHCOOH
加水分解反応の圧力は何ら制限されるものではないが、例えば0.0MPaG〜1.0MPaGで行うことが可能である。更に、どのような反応温度で行っても良いが、十分な反応速度を得るためには、好ましくは20℃〜300℃、より好ましくは50℃〜250℃で行う。
加水分解反応の反応形式は特に限定されず、気相反応、液相反応、液固反応などあらゆる反応形式で行うことが可能である。好ましい反応形式としては、気相反応または液相反応である。
【0024】
加水分解反応における原料化合物である酢酸アリルおよび水と、加水分解反応の生成物であるアリルアルコールおよび酢酸との間には反応平衡があり、十分な酢酸アリル転化率を得る為には、水を添加して加水分解反応を行うことが好ましい。添加する水の量は特に制限されないが、好ましい原料中の水の濃度は1.0質量%〜60質量%、より好ましくは5質量%〜40質量%である。また、一般に知られている方法を用いて、反応の平衡が生成物側へ有利になるように、生成物を随時反応系外に除去しながら反応を行うことが好ましい。生成物を反応系外に除去する方法は特に限定されないが、例えば反応蒸留のようにアリルアルコールと共沸混合物を形成する成分を添加し、反応中に蒸留を行いながらアリルアルコールを反応系外に除去する方法を挙げることが出来る。
【0025】
加水分解反応では、原料化合物である酢酸アリルおよび水と、生成物である酢酸およびアリルアルコールのみで酢酸アリルの加水分解反応を行うことが可能であるが、十分な反応速度を得る為に、エステル加水分解触媒存在下で酢酸アリルの加水分解反応を行うことが好ましい。
本発明で用いることが可能なエステル加水分解触媒として、酸性物質、および塩基性物質を例示することが出来るが、これに限定されるものではない。
上記酸性物質としては特に限定されないが、好ましくは、有機酸、無機酸、固体酸、およびそれらの塩を例示することができる。具体的には有機酸として、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、シュウ酸、酪酸、テレフタル酸、およびフマル酸等、無機酸として、ヘテロポリ酸、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、臭化水素酸、およびフッ化水素酸等、固体酸として、シリカアルミナ、シリカチタニア、シリカマグネシア、酸性陽イオン交換樹脂等、また、それらの塩として、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、およびアルミニウム塩を挙げることができる。
上記塩基性物質としては特に限定されないが、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、およびアルカリ性陰イオン交換樹脂等を例示することが出来る。酸性物質の場合と同様に、これらの塩基性物質はそれぞれ単独で使用しても、少なくとも2種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
上記酢酸アリルの加水分解工程では、反応後に触媒とアリルアルコールおよび酢酸を分離することが必要となる。
加水分解触媒として硫酸のような均一系触媒を用いた場合、均一反応混合物からアリルアルコールおよび酢酸と硫酸を分離する必要があり、大きなエネルギーが必要である。
一方、酸性陽イオン交換樹脂に代表される固体触媒による不均一触媒反応では、濾過などの簡便な方法により、反応混合物から触媒とアリルアルコールおよび酢酸を分離することが可能であり、酢酸アリル加水分解触媒としてより好ましい。また、上記酸性陽イオン交換樹脂のような固体触媒は、酸性度が大きく、酢酸アリル加水分解速度が良好であるといった特徴に加えて、触媒寿命が長く、加水分解触媒として最も好ましい。
上記酸性陽イオン交換樹脂としては、例えばスチレンとジビニルベンゼンのスルフォン化した共重合体を挙げることができる。
【0027】
加水分解反応における反応器(図1の反応器33)は特に制限されるものではないが、固定床流通型反応器が好ましい。固定床流通型反応器であれば、酸性陽イオン交換樹脂は反応器に保持されたまま、反応器出口から酸性陽イオン交換樹脂を含まない反応混合物を容易に得ることができる。
【0028】
酸性陽イオン交換樹脂を加水分解触媒とした固定床流通型反応器によるアリルアルコールの製造方法は何ら制限されるものではない。酢酸アリルおよび水を含んだ反応原料液(図1の加水分解反応器供給液6)を固定床流通型反応器の上部から下降流で反応器内を通過させても、或いは上記反応原料液を固定床流通型反応器の下部から上昇流で該反応器内を通過させても構わない。一般には、上記反応原料液を反応器の上部から下降流で反応器内を通過させる方法が好ましい。この方法であれば、反応原料液が自重で反応器内を通過することができるので、反応器の下部から上昇流で反応器内を通過させる方法と比べ、ポンプなどの動力を必要としない。
しかし、上記反応原料液を下降流により反応器内に通過させる方法の場合、その条件によってはイオン交換樹脂の凝集、反応原料液の偏流などによる反応速度の低下、あるいは反応器内の圧力損失の増加などの現象が起る恐れがある。これらの現象を抑制、解消する簡便な方法としては、一時的に反応原料液を反応器の下部から上昇流により反応器内に通過させることが有効であり、好ましい。
また、2基以上の反応器を並列して使用することは、連続的に一定量のアリルアルコールを得ることができる点からより好ましい。
【0029】
次に加水分解反応工程から得られるアリルアルコール、酢酸、水、未反応の酢酸アリルを主成分とする混合液を精製分離し、70質量%アリルアルコール水溶液を得る工程について説明する。
図1において、加水分解反応器33から出たアリルアルコール、酢酸アリル、酢酸、水を主成分とする加水分解反応器反応液7は、第一の蒸留塔34において、酢酸、その他の高沸点成分と、低沸点成分であるアリルアルコール、酢酸アリルおよび水の混合物とに蒸留分離される。上記高沸点成分は、吸収塔32および酢酸水蒸発器45へ再循環される。該蒸留分離により、該低沸点成分の混合物は、第一の蒸留塔34の塔頂からデカンター43に送られ、ここで油層、水層の二層に分離される。酢酸アリル含有量の多い油層8は抽出塔35に導かれる。油層8は抽出塔35を通過して抽出塔塔底液11となり、次いで抽出塔塔底液11は第二の蒸留塔36に導かれて蒸留され、第二の蒸留塔36の塔底から第二の蒸留塔塔底液12(水およびアリルアルコール混合液)が抜出される。抽出塔35の塔頂より得られる酢酸アリルを主体とし、アリルアルコール濃度の低減された抽出塔塔頂液10は、その一部が加水分解反応器33に循環され、他は抽出塔塔頂液の一部15(高濃度酢酸アリルプロセス液)として、後述の酢酸n−プロピル製造プロセス(図2)へ送られる。第二の蒸留塔36の塔底より抜出された第二の蒸留塔塔底液12は、第三の蒸留塔37に導かれて蒸留され、第三の蒸留塔37の塔頂より水、アリルアルコールの共沸物として濃縮された70質量%アリルアルコール製品14を回収し、第三の蒸留塔37の塔底から抜出される第三の蒸留塔塔底液13(水)は、抽出塔35の抽出水として循環使用される。
【0030】
<高濃度酢酸アリルプロセス液を原料とする高純度酢酸アリルおよび酢酸n−プロピル製造プロセス>
図2を参照して、酢酸アリルプロセス液を原料とする高純度の酢酸アリルおよび酢酸n−プロピルの製造プロセスについて説明する。
抽出塔塔頂液の一部15(高濃度酢酸アリルプロセス液)を第四の蒸留塔38に供給し、蒸留操作により、高沸点成分、低沸点成分を除去し、高純度酢酸アリル混合液(第四の蒸留塔留出液16)を得る(高濃度酢酸アリルプロセス液の精製工程)。
第四の蒸留塔留出液16を光照射設備39に供給し、光照射設備39で十分な滞留時間による光照射処理を行って、蒸留操作で除去できない不純物を脱色し、高純度で着色のない酢酸アリル(水素化反応器供給液17)を得る(高純度酢酸アリル混合液の脱色工程)。なお、水素化反応器供給液17はそのまま、高純度の酢酸アリル製品としてもよい。
水素化反応器供給液17を水素化反応器循環液18と混合した後、水素化反応器40へと供給し、供給ガス26に含まれている水素ガスによる水素化反応により酢酸n−プロピルを生成する(高純度酢酸アリル混合液の水素化工程(水添工程)による酢酸n−プロピルの生成)。
水素化反応器40で得られた酢酸n−プロピルを含む水素化反応液19をオゾン処理設備41へと供給し、オゾン処理を行って不純物を除去する(酢酸n−プロピル含有液のオゾン処理工程)。
オゾン処理されて得られたオゾン処理液20を第五の蒸留塔42へと供給し、オゾン処理液20に含有される高沸点成分、低沸点成分を分離除去して、酢酸n−プロピル製品21を得る(酢酸n−プロピルの精製工程)。
【0031】
以下、上述した各工程についてさらに詳しく説明する。
(高濃度酢酸アリルプロセス液の精製工程)
図1において、抽出塔35の塔頂から得られる酢酸アリルを主成分とする抽出塔塔頂液10(高濃度酢酸アリルプロセス液)には、多数の不純物が存在する。主な不純物としては、C3ガス(炭素数3の炭化水素を意味する。)、プロパナール、アクロレイン、酢酸イソプロピル、ジアリルエーテル、イソプロパノール、酢酸イソプロペニル、酢酸−1−プロペニル、n−プロピオン酸プロピル、プロピオン酸アリル、2−メチルクロトンアルデヒド、アリルアルコール、アクリル酸アリル、酢酸、水等が挙げられる。これらの不純物は抽出塔塔頂液10に合計で通常5〜15質量%含まれている。
更に、抽出塔塔頂液10は黄色の着色を示しており、HAZEN値は通常80以上である。ここで、HAZEN値とは、JIS K−0071の手法により求められる液の色相の値である。
【0032】
高濃度酢酸アリルプロセス液を精製して不純物を除去するには、図2に示すように、まず、抽出塔塔頂液10から抽出塔塔頂液の一部15を第四の蒸留塔38に導き、アクリル酸アリル等の高沸成分を多く含有する第四の蒸留塔塔底液22と、アリルアルコール、水分等の低沸成分を多く含有する第四の蒸留塔塔頂液23をそれぞれ抜出する。第四の蒸留塔塔底液22および第四の蒸留塔塔頂液23は再度、上述した加水分解反応工程へとリサイクルされる。一方、第四の蒸留塔38の塔中段から抜出された酢酸アリルを主成分とする第四の蒸留塔留出液16(高純度酢酸アリル混合液)は、酢酸アリルの純度が95%以上となる。また、抽出塔塔頂液の一部15に含有される不純物の一種である2−メチルクロトンアルデヒドは、通常、0.5質量%〜3.0質量%であるが、これらは本蒸留操作によって0.1質量%〜1.0質量%程度へと低減される。
更に2−メチルクロトンアルデヒドを低減させることは、還流比を上げる、或いは蒸留塔の段数を上げることにより可能である。しかし、この場合には、蒸留操作におけるランニングコスト、或いは設備費が多大となり、経済的に不利である。したがって、適切な条件で第四の蒸留塔38を運転することが、全プロセスから鑑みて経済的に有利である。
なお、第四の蒸留塔留出液16は第四の蒸留塔38により上記2−メチルクロトンアルデヒド濃度が低減されると共に、着色成分も低減される為、HAZEN値としては通常30〜50程度となる。
【0033】
(高純度酢酸アリル混合液の脱色工程)
第四の蒸留塔中段から抜出された第四の蒸留塔留出液16(高純度酢酸アリル混合液)は、光照射設備39による脱色工程、或いは吸着剤による脱色工程(不図示)へと送られ、脱色されて高純度で着色のない酢酸アリル(水素化反応器供給液17)となる。
上記光照射処理に用いられる光源は、どのようなものであっても構わない。該光源としては、太陽光、蛍光灯、水銀灯、LED、UV等が挙げられる。また、光照射処理の照射時間、照射装置についての制限は特にない。しかしながら工業的な生産性を鑑みた場合、照射時間が短く、コンパクトな照射装置が有利である。
上記光照射処理の照射温度、照射時の圧力の制限も特になく、一般的には、常温、常圧で実施することがエネルギー的に有利である。照射波長についても特に制限はなく、第四の蒸留塔留出液16のHAZEN値を低減できる波長を含む光源であれば特に問題はない。しかしながら、照射時間を短くして、液滞留時間を短くする為には、出来るだけHAZEN値を有効に低減できる波長帯に強度を持つ光源であることが好ましい。第四の蒸留塔留出液16のHAZEN値を効果的に低減できる波長域としては、250〜600nm、好ましくは350〜500nm、更に好ましくは400〜450nmである。なお、光源から上記波長領域以外の光が放射されていても構わない。
【0034】
上記吸着剤としては、第四の蒸留塔留出液16を脱色できるものであれば特に制限されないが、例えば、活性アルミナ、シリカ、珪藻土などが挙げられる。中でも、活性アルミナが好ましい。
上記吸着剤の形状には特に制限はない。具体的には、粉末状、球状、ペレット状等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
更に、吸着の操作温度、圧力についての制限も特にないが、一般的には、常温、常圧で実施することがエネルギー的に有利である。
脱色工程を経た酢酸アリルを主成分とする水素化反応器供給液17は、HAZEN値が15以下、好ましくはHAZEN値が10以下、更に好ましくはHAZEN値が5以下に低減されている。
なお、水素化反応器供給液17は、このまま高純度で着色のない酢酸アリル製品とすることもできる。
【0035】
高純度酢酸アリル混合液の光照射処理、或いは吸着剤による脱色の理論的解釈は現在のところ必ずしも明確ではないが、本発明者らの知見によれば、当該プロセス液中に微量に含まれている2,3−ペンタンジオンを代表とするジケトン類、或いはアクロレイン、プロパナールを代表とするアルデヒド類(その重合物等を含む)を原因とした着色が、光照射による当該成分の化学変化、或いは吸着除去することで脱色されると推測される。
尚、光照射処理は、後述する水素化反応器40の上流であっても、またその下流であってもよく、更に第五の蒸留塔42の下流でも良いが、図2に示すように、水素化反応器40の上流が好ましい。
【0036】
(高純度酢酸アリル混合液の水素化工程(水添工程)による酢酸n−プロピルの生成)
光照射設備39などによる脱色工程を経た水素化反応器供給液17は、次に水素化反応器40へと送られ、該供給液に含まれる酢酸アリルへの水素化反応が行われる。以下、水素化反応器40による水素化工程(水添工程)について詳細に説明する。
酢酸アリルを水素化して酢酸n−プロピルを得る際の反応式を以下に示す。
CH=CH−CH−OCOCH+H → CH−CH−CH−OCOCH
水素化反応器40に供給される供給ガス26は、水素ガス以外にも、必要に応じて窒素または希ガスなどの不活性の希釈ガスを水素ガスに混合使用することもできる。
【0037】
水素化反応に用いる水素ガスは特に制限されない。通常は市販されているもので良く、一般的には高純度のものを用いることが好ましい。また、供給する水素ガスの量は、酢酸アリルから酢酸n−プロピルを製造するのに必要な水素ガスの理論量以上である事が好ましいが、理論量の1.1〜3.0倍モルの範囲であることが更に好ましく、理論量の1.1〜2.0倍モルの範囲であることが特に好ましい。理論量に等しい、またはこれ未満の水素ガスの供給量では、水素化分解反応等の副反応が生じた場合に、該副反応に消費される分の水素量が本来の反応に不足する。また、水素ガスの供給量が、極端に多すぎる場合には、経済的に不利となる。
【0038】
水素化反応の触媒(以下、水素化触媒と略する。)としては、周期律表(国際純正および応用化学連合無機化学命名法改訂版(1989年)による。以下同じ。)の8族元素、9族元素、10族元素の中から選ばれる元素、即ち、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウムおよび白金を含有する触媒が好ましい。好ましい元素としては、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケルが挙げられ、中でもパラジウム、ロジウム、ルテニウムが特に好ましい。
上記水素化触媒としては、元素(ないし化合物)単独でも、また必要に応じて担体に担持させてもよいが、担体に担持した方が、例えば後述の固定層反応装置を用いた場合の水素化反応において、水素化触媒と酢酸アリルとの接触の際に大きな金属表面積を得ることができる点から好ましい。
【0039】
上記担体としては、通常、触媒担持用の担体として用いられる物質(例えば、多孔質物質)を特に制限なく使用することが可能である。このような担体の好ましい具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、珪藻土、カーボン、またはこれらの混合物等を挙げることができる。
これらの担体はペレット状、球状に成形されたものであると取り扱いが簡便となり好ましい。
上記担体の比表面積は特に制限されないが、触媒金属の良好な分散を容易とする点からは、高い比表面積を有するものが好ましい。より具体的には、BET法による比表面積の値が10〜1000m/g、更には30〜800m/g特に、50〜500m/gのものが好ましい。また、担体の全細孔容積は、特に制限されないが、0.05〜6.5ml/g、更には0.1〜5.0ml/g(特に0.5〜3.0ml/g)であることが好ましい。
上記担体の形状は特に制限されず、公知の形状から適宜選択することが可能である。水素化反応器40の内圧の均一性の点からは、ペレット状、球状、中空円柱状、スポーク車輪、および平行なフローチャネルを有する蜂の巣状の形のモノリス触媒担体または開放性孔系を有する発泡セラミックが好ましく、造り方の簡便性を考慮すると、ペレット状、球状が特に好ましい。
上記担体は、担体に担持した触媒を触媒層にばら積みした場合、圧力低下が過大になり過ぎることなしに使用でき、かつ、ばら積みした場合、ばら積みの総容量に比べて非常に高い幾何学的表面積を有することが好ましい。このような点から、上記担体は0.5〜5.0mmの範囲の外寸であることが好ましく、1.0〜4.5mmの範囲の外寸であることが更に好ましい。
【0040】
本発明の酢酸アリルの水素化反応においては、反応温度は低い方が水素化分解反応の抑制が容易な為、好ましい。水素化反応は、発熱量が極めて大きい(例えば、酢酸アリル1kgの水素化に伴う発熱量は1607kJである。)為、酢酸アリルのみを反応させると、その水素化に伴う発熱のため、反応系内の温度が著しく上昇し、これが原因となって水素化分解反応が促進される可能性がある。この極端な温度上昇を抑制するには、酢酸アリルを水素化反応に不活性な溶媒で希釈して、水素化反応を行うことが好ましい。ここで、「水素化反応に不活性な溶媒」とは、本発明における酢酸アリルの水素化反応に実質的に影響を与えない溶媒をいう。
【0041】
上記不活性な溶媒で酢酸アリルを希釈する場合、酢酸アリルの濃度は1〜50質量%の範囲であることが好ましく、更に好ましくは3〜30質量%であり、最も好ましくは5質量%〜15質量%の範囲である。
酢酸アリルの濃度が1質量%未満では、発熱による極端な温度上昇は十分に抑制できるものの、酢酸アリルの濃度が低くなりすぎ、その結果、生産性が低くなる。他方、酢酸アリルの濃度が50質量%を超えると、発熱による極端な温度上昇を十分に抑制することが困難となる。更に断熱式の液相反応(特に、断熱式の気液2相流の液相反応。)を採用した場合は、反応器内の温度を制御できなくなる(例えば、反応器の温度を0℃〜200℃の好適な範囲に制御できなくなる。)可能性が増大する。
【0042】
上記「水素化反応に不活性な溶媒」は、特に制限されないが、水素化反応を受けにくいという点から、エチレン性炭素二重結合(C=C結合)を有さない有機溶媒が好ましい。図2に示すように、水素化反応器40で水素化反応により生成された酢酸n−プロピル含有液(水素化反応液19)の一部を該有機溶媒(水素化反応器循環液18)としてリサイクル使用してもよい。その場合、一部に未反応の為C=C結合を有するエステル、即ち酢酸アリルが残存する可能性が考えられるが、本発明の水素化反応の制御に実質的に支障を生じない限り特に問題はない。
【0043】
上記「水素化反応に不活性な溶媒」としては、具体的には、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸n−プロピル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソプロピル等の飽和エステル類、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル等のエーテル類;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等のアルコール類;N−メチル−2−ピロリドン、N、N−ジメチルアセトアミド等のアミド類を挙げることができる。これらの中でも、水素化反応を受けにくく、かつ酢酸アリルの水素化分解反応を起こしにくいという点からは、飽和エステル類、炭化水素類、ケトン類が好ましい。
【0044】
本発明の水素化反応は、気相反応、液相反応のいずれでも可能である。
まず、気相反応の場合について説明する。気相反応の場合の水素化反応器40の構造形式は、固定層型反応装置、移動層型反応装置、流動層型反応装置等の使用が可能であるが、固定層反応装置が最も一般的である。
気相反応の場合には、以下のことを考慮することが好ましい。一般に水素化に伴う反応熱は極めて大きい。また、気相反応の場合、水素化反応器40への反応物質の投入温度は、沸点以上に設定される。この場合、空時収率を高くしようとすると、水素化に伴う発熱量が増加し、水素化反応器40内の温度が好適な反応温度(例えば200℃)を超えて上昇し、副反応である水素化分解反応が加速してしまう恐れがある。この対策として、空時収率を低くして発熱量を抑制する、或いは冷却などによる温度制御が挙げられる。
この点、液相反応の場合には、水素化反応器40への反応物質の投入温度を沸点より低くすることができ、したがって好適な反応温度(例えば200℃以下)に保ち易いという利点がある。
次に液相反応の場合について説明する。液相反応の場合における反応装置の構造形式の具体例としては、固定層型、流動層型、攪拌層型等を挙げることができる。反応後の触媒と生成物の分離の容易性の点からは、これらの水素化反応器の中で固定層型反応装置が最も好ましい。
【0045】
本発明の水素化反応では、水素ガスを使用するため、固定層型反応装置を用いた液相反応での流体の流れ方は、原料を含む液体と、水素ガスを含む気体との気液2相流となる。該気液2相流は、原料の気体と液体の流れ方から、気液向流式、気液下向並流式、気液上向並流式の3つの方式に分けられる。本発明ではその何れも使用可能であるが、反応に必要な水素と触媒が効率的に接触できる点からは、気液下向並流式が最も好ましい。
上述したことを総合すると、水素化分解を抑制しつつ空時収率を高くする点から、水素化反応器40の最も好ましい反応形態は、気液2相流の液相反応であり、その流体の流れ方は気液下向並流式となる。
【0046】
上記気液2相流の液相反応を行う場合は、上記水素化分解反応を抑制する点から、上述の不活性溶媒で酢酸アリルを希釈した希釈液を反応液として使用して、断熱系の液相反応として水素化反応を行うことが好ましい。その理由は、反応液中の酢酸アリル濃度を低くすることにより、水素化反応器40を冷却するなどの措置が必須でなくなるからである。
本発明においては、酢酸アリルの水素化反応により生成した酢酸n−プロピルを不活性溶媒としてリサイクルしてもよい。
【0047】
本発明の水素化反応に使用する水素化反応器40は特に制限されない。固定層反応装置を用いる気液下向並流式の反応形態が用いられる場合には、冷却用ジャケット付き反応器や冷却用ジャケット付きの多管式反応装置、断熱式反応装置等を使用することが好ましい。水素化反応器40の建設コストや酢酸アリルの転化率等の点からは、断熱式反応装置が好ましい。
【0048】
水素化反応の反応温度は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されない。本発明における適切な反応温度は、原料の種類によって異なる場合もあるが、0℃〜200℃が好ましく、40℃〜150℃が特に好ましい。反応が0℃未満では十分な反応速度が得られにくくなる傾向があり、また200℃を超えると水素化分解が進行しやすくなる傾向がある。
【0049】
水素化反応の反応圧力は、気相反応の場合、常圧でも十分な活性が得られる。このため常圧で実施することが好ましい。しかしながら、酢酸アリルが200℃以下の温度で気化できる程度の加圧であれば、必要に応じて加圧条件で反応を加速することも可能である。
一方、気液2相流の液相反応の場合、溶存水素濃度を確保する点から加圧することが好ましい。気液2相流の液相反応で反応器内の水素濃度を十分に確保する点からは、原料の気体と液体の流れ方は、上述したように気液下向並流式が好ましい。
気液2相流の液相反応の場合、反応圧力は0.05MPaG〜10MPaGの範囲であることが好ましく、更に好ましくは0.3MPaG〜5MPaGの範囲である。反応圧力が0.05MPaG未満では、水素化反応が十分に促進されにくい傾向があり、他方、反応圧力が10MPaGを超えると、水素化分解反応が起こりやすくなる傾向がある。
水素化反応器40内の水素濃度を十分に確保する点からは、上述したように気液下向並流式の反応形態が最も好ましい。
水素化反応器40を出た水素化反応液19(酢酸n−プロピル含有液)は、次いでオゾン処理設備41へ供給されるが、上述したように、水素化反応液19の一部を水素化反応器循環液18として水素化反応器40へリサイクルしてもよい。
【0050】
(酢酸n−プロピル含有液のオゾン処理工程)
水素化反応液19は、水素化反応により生成した酢酸n−プロピルの他、C3ガス、n−プロピルエーテル、プロパナール、酢酸イソプロピル、2−メチルブタナール、酢酸アリル、酢酸−1−プロペニル、n−プロパナール、n−プロピオン酸プロピル、プロピオン酸アリル、酢酸、プロピオン酸、水などを不純物として含有する場合がある。これらの不純物の中で、酢酸アリルは上記水素化反応による酢酸アリル転化率が100%を下回った場合に、水素化反応液19中に検出される。また、酢酸−1−プロペニルは、酢酸アリルの水素化反応が不完全であり、酢酸アリルの異性化で反応が止まり、それ以上の水素化が進行しない場合に水素化反応液19中に検出される。更に、2−メチルブタナールは、水素化反応の原料である高純度酢酸アリル混合液に含有する2−メチルクロトンアルデヒドが水素化されたものである。これら3成分は、沸点が近く、比揮発度が小さいため、酢酸n−プロピルとの蒸留分離が困難である。
【0051】
そこで、水素化反応液19をオゾンと反応させて上記3成分を分解・酸化除去する方法(オゾン処理)について、以下詳細に説明する。
上記オゾン処理で使用できるオゾンには特に制限はない。オゾンの発生方法にも特に制限はなく、如何なる方法で得られたオゾンでもよい。好ましくは無声放電を利用したオゾン発生器(オゾナイザー)を用いる方法を挙げることができる。オゾン発生器に関して、詳しくは「化学大事典 第2巻 (化学大辞典編集委員会編集、共立出版社発行昭和44年3月15日 縮刷版第7刷発行) 第162頁〜第163頁」の「オゾン発生器」の項に記述がある。
本発明においては、酢酸アリルを水素化して得られた酢酸n−プロピルをオゾン処理する前に、上述の水素化工程において生成物である酢酸n−プロピル中に溶存した水素を、窒素やアルゴンなどの不活性ガスで一掃することが好ましい。溶存水素が存在した場合の安全性を確保するためである。
【0052】
本発明において用いるオゾンの量は、上記3成分を除去できる水準の量であれば特に制限はない。好ましくは該酢酸n−プロピル液中に含まれる上記3成分に対してモル比で上記3成分の合計:オゾン=1:0.1〜1:5の範囲である。上記3成分の合計:オゾンの比率がモル比で1:0.1より小さい場合、上記3成分の除去が進行しない恐れがあり好ましくない。また、1:5を超えてオゾンを使用した場合、酢酸n−プロピルやその他不純物の分解、酸化によって副生物が生成する、或いはオゾンの過剰使用による非経済性の点から好ましくない。より好ましくは上記3成分の合計:オゾン=1:0.5〜1:4であり、最も好ましくは上記3成分の合計:オゾン=1:1〜1:3である。
【0053】
オゾンの投入量の制御方法には特に制限はなく、公知のいかなる方法で行ってもよい。例えば、オゾン処理を行う反応器に上記3成分を含有した酢酸n−プロピルを導入する前に、該酢酸n−プロピル中に含まれる上記3成分の量を何らかの方法で測定し、この測定値を基に想定した上記3成分とオゾンの比率が維持できるように、オゾンの投入量をコントロールする方法などを挙げることができる。
オゾン処理の反応温度には特に制限はない。好ましくは10℃〜120℃である。10℃未満の温度では、実用的な反応速度が得ることが難しく好ましくない。また、120℃を超える温度では、反応の制御が困難になる恐れがあり好ましくない。より好ましくは15℃〜110℃であり、最も好ましくは20℃〜100℃である。
【0054】
また、オゾン処理反応器での滞留時間にも特に制限はない。酢酸n−プロピルに含まれる上記3成分の性状や、上述した上記3成分とオゾンとの比率、或いは反応温度等の条件によって最適値は異なる。一般には滞留時間として0.1分〜120分であることが好ましい。滞留時間が0.1分未満では、上記3成分の分解・酸化、または除去が充分に行うことができない恐れがあり好ましくない。また、120分を超える滞留時間では、生産性などの点から不利になり好ましくない。より好ましくは0.5分〜15分であり、最も好ましくは1分〜10分である。
【0055】
オゾン処理の反応器には、反応の制御をしやすくすること等を目的として不活性ガスを加えることもできる。特に系内における爆発領域の濃度範囲を避けることを目的として不活性ガスを加えることは効果的である。不活性ガスの具体例としては、窒素やアルゴンなどを挙げることができるが、入手のしやすさや経済性の点で窒素が最も好ましい。また、不活性ガスの添加量には特に制限はなく、例えば系内物質の爆発領域の濃度範囲を避ける等の目的に応じて最適値は変わってくる。
【0056】
本発明において、オゾン処理の実施の形態には特に制限はない。オゾンによる上記3成分の分解・酸化、または除去ができる反応形態であれば特に制限はない。具体的には、連続/回分式、液相/気相等の反応形態を挙げることができる。特に本発明においては、連続・液相が好ましい。
尚、オゾン処理工程は、本発明の高濃度酢酸アリルプロセス液を原料とする酢酸n−プロピル製造プロセス中の如何なる段階で行っても構わないが、水素化工程の上流で処理を行った場合には、含有する主原料である酢酸アリルをオゾン分解し、ひいては酢酸n−プロピルの収率を低下させることとなる為、水素化工程の下流であることが好ましい。
【0057】
(酢酸n−プロピルの精製工程)
次に、酢酸n−プロピル含有液から高純度の酢酸n−プロピル製品21を精製する工程について説明する。
オゾン処理設備41において上記3成分等が分解、酸化および/または除去されたオゾン処理液20を第五の蒸留塔42に導き、酢酸、プロピオン酸プロピル等の高沸成分を多く含有する第五の蒸留塔塔底液24と、C3ガス、プロパナール、水分等の低沸成分を多く含有する第五の蒸留塔塔頂液25をそれぞれ抜出し、第五の蒸留塔42の塔中段から高純度の酢酸n−プロピル製品21を抜出す。このようにして、高純度の酢酸n−プロピル製品21が得られる。
【0058】
以上、詳細に説明したように、本発明の酢酸アリルおよび酢酸n−プロピルの製造方法によると、プロピレン、酸素、酢酸を原料としてアリルアルコールを製造するプロセスにおいて、高純度で着色のない酢酸アリルおよび酢酸n−プロピルを併産することが可能である。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細な説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(酢酸アリル製造用触媒の製造)
テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(NaPdCl)16.587gと塩化銅2水和物(CuCl・2HO)2.1194gを含有する水溶液346mlに粒径5mmのシリカ球状担体(球体直径5mm、比表面積155m/g、上海海源化工科技有限公司製HSV−I)1Lを加え、溶液を完全に含浸させた。次に、これをメタ珪酸ナトリウム9水和物(NaSiO・9HO)39.112gを含有する水溶液730mlに添加し、室温で20時間、アルカリ処理した。その後、ヒドラジンヒドラートを加えて還元処理した。還元後、塩素イオンが認められなくなるまで水洗した。次に、110℃で4時間乾燥した。さらに、酢酸カリウム(KOAc)60gを含有する水溶液328ml中に投入し、全溶液を吸収させた後、再び110℃で20時間乾燥した。この方法を繰り返すことにより、数mの酢酸アリル製造用触媒(触媒A)を得た。
(アリルアルコール製造用触媒)
酢酸アリルの加水分解には強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、品名:AMBERLYST31WET)を使用した。
【0060】
(酢酸アリル、アリルアルコールの製造)
上記方法にて製造した酢酸アリル製造用触媒を充填した酢酸アリル製造用反応器(反応器31)に、酢酸、水を主成分とする凝縮性成分23,130kg/hr、プロピレン36,445kg/hr、酸素5,846kg/hr、その他不活性ガス29,440kg/hrを反応温度160℃、反応圧力0.75MPaGの条件で流通して反応を行った。この時、酢酸アリル製造用反応器の出口ガス(反応器出口ガス4)中に含まれる酢酸アリルの流量は13,431kg/hrであった。
【0061】
この酢酸アリル製造用反応器の出口ガスを気液分離塔(吸収塔32)へ供給し、酢酸、水を主成分とする第一の蒸留塔塔底液9を吸収液として用い、プロピレン、酸素、炭酸ガスを主成分とする非凝縮性成分を塔頂より分離し、その一部を圧縮機にて再度、酢酸アリル製造用反応器へ循環させた。一方、凝縮性成分である酢酸、水、酢酸アリルおよびその他を含む吸収塔塔底液5を気液分離塔の塔底より得た。
更に、アリルアルコール製造用触媒であるイオン交換樹脂を充填したアリルアルコール製造用反応器(加水分解反応器33)に、上記吸収塔塔底液5と、抽出塔塔頂液10との混合液(加水分解反応器供給液6)を反応温度85℃、反応圧力0.5MPaGの条件下で流通させて酢酸アリルの加水分解反応を行った。この時、アリルアルコール製造用反応器の出口液(加水分解反応器反応液7)中のアリルアルコールの流量は、8,392kg/hrであった。
【0062】
次に、アリルアルコール、酢酸アリル、酢酸、水を主な含有成分とするアリルアルコール製造用反応器の出口液から酢酸を分離することを目的として、第一の蒸留塔34にて蒸留操作を行った。塔底から得られた酢酸水溶液(第一の蒸留塔塔底液9)は、一部を上記酢酸アリル製造用反応器(反応器31)へと再循環し、残りを酢酸アリル製造用反応器出口ガスの気液分離塔(吸収塔32)の吸収液として再循環した。
第一の蒸留塔34の塔頂液をデカンテーションにより、酢酸アリルに富む油層8と水層27とに分離した。抽出塔35へと供給した油層8中の主要成分の流量は以下のとおりであった。
アリルアルコール 7,851kg/hr
酢酸アリル 11,841kg/hr
水 4,085kg/hr
【0063】
抽出塔35においては水を主成分とする第三の蒸留塔塔底液13を抽出水として用い、油層8中のアリルアルコールを抽出した。塔頂から得られた酢酸アリルを主成分とする油層は再度上記アリルアルコール製造用反応器へと循環使用した。
抽出塔35の抽出塔塔底液11は第二の蒸留塔36へと供給され、含有する低沸成分を塔頂より分離除去し、塔底からアリルアルコールと水を主成分とする液(第二の蒸留塔塔底液12)を得た。
第三の蒸留塔37では第二の蒸留塔塔底液12を蒸留し、塔頂から70質量%のアリルアルコール(アリルアルコール製品14)を得た。また第三の蒸留塔塔底液13は、一部を抽出塔35へ再循環し、抽出水として利用し、残りをアリルアルコール製造用反応器へと循環使用した。
【0064】
以下、実施例における分析は以下の方法に準じて行った。
各組成物の分析は、ガスクロマトグラフィー、カールフィッシャー水分計により求めた。また液の色相(HAZEN値)は、JIS K−0071の手法により求めた。
カールフィッシャー水分計
機器:MKC−210(京都電子工業株式会社製)
HAZEN値
測定法:ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム[KPtCl]1.25gと塩化コバルト[CoCl・6HO]1.00gをビーカーに取り、塩酸100mlで溶解して、1000mlのメスフラスコに移し、蒸留水で全量とする。これを標準比色原液HAZEN500とした。このHAZEN500の標準比色原液を10ml採取し、純水で40mlで希釈し、HAZEN100の標準比色液を調製した。同様の方法で、HAZEN90〜10の間の10刻み、および15、5の標準比色液を調製した。これら調製した標準比色液と測定サンプルの色相を目視にて比較し、最も色相の近い標準比色液のHAZEN値を測定サンプルのHAZEN値とした。
ガスクロマトグラフィー分析条件
機器:GC−17A(島津製作所製)
検出器:水素炎イオン化検出器
測定方法:内部標準法(内部標準物質:1,4−ジオキサン)
インジェクション温度:200℃
昇温条件:40℃で5分間保持し、その後5℃/分で昇温し、200℃で18分間保持する。
使用カラム:TC−WAX(GL Science Inc.製)、内径0.25mm、長さ30m。
【0065】
[実施例1]
前述の抽出塔塔頂液10を13L採取し、詳細に分析したところ、その組成は表1の通りであった。
【0066】
【表1】

【0067】
当該サンプル液をオルダーショウ蒸留装置(第四の蒸留塔38に相当。)を用い、蒸留操作によって高純度酢酸アリルを得た。蒸留操作は以下の条件により行った。
オルダーショウタイプ:シーブトレイ
オルダーショウ内径:34mm
トレイ開孔比:7%
段間隔:30mm
実段数:40段
液供給段:20段(塔頂からの段数。以下同じ。)
高純度酢酸アリル留出段:10段
液供給量:13L
高純度酢酸アリル留出量:5.2L
塔頂抜出し量:5.2L
塔底抜出し量:2.6L
還流比:8
塔頂凝縮器冷媒温度:10℃
塔頂圧力:101.3kPa(絶対圧)
1段温度:99℃〜100℃
20段温度:103℃〜104℃
40段温度:111℃〜114℃
以上の蒸留操作で、10段抜出しにより得られた高純度酢酸アリルを分析した結果、その組成は表2のとおりであった。
【0068】
【表2】

【0069】
次に、上記蒸留により得られた高純度酢酸アリル液を、蛍光灯照射による脱色装置(光照射設備39に相当。)へ供給した。脱色工程は垂直に設置したガラス管内を高純度酢酸アリル液をアップフローにて流通させ、両面から蛍光灯を照射する方法にて行った。
蛍光灯:東芝ライテック株式会社製(FHT−41085N−PN9)
蛍光灯出力:35ワット×2本
蛍光灯長さ:1200mm
ガラス管内径:20mm
高純度酢酸アリル液供給量:100mL/hr(総供給量5.0L)
蛍光灯照射領域の液滞留時間:3.8hrs
以上の操作により得られた液のHAZEN値は5以下であった。
【0070】
上記、脱色された高純度酢酸アリルをオートクレーブ(水素化反応器40に相当。)により水素化反応を行い、酢酸n−プロピルを得た。水素化反応は以下の条件により行った。
装置:10Lオートクレーブ
高純度酢酸アリル仕込み量:4.9L
触媒:N.E.Chemcat製 HD−403(Lot 266−05H040,Pd(0.3wt%)/Al、球状/2mm径)
触媒量:60g
反応温度:75℃
反応圧力(水素圧力):0.58〜0.68MPaG
反応圧力は初期に0.58MPaGとし、水素化反応の進行に連れて基質である酢酸アリル濃度が低下し反応速度が低下する為、水素ガスを注入することにより徐々に反応圧力を上昇させ、最終的に0.68MPaGとした。以上の操作により得られた酢酸n−プロピルを分析した結果、その組成は表3のとおりであった。
【0071】
【表3】

【0072】
上記水素化した液からオルダーショウ(第五の蒸留塔42に相当。)を用いた蒸留操作によって高純度酢酸n−プロピルを得た。蒸留操作は以下の条件により行った。
オルダーショウタイプ:シーブトレイ
オルダーショウ内径:34mm
トレイ開孔比:7%
段間隔:30mm
実段数:40段
液供給段:20段(塔頂からの段数。以下同じ。)
高純度酢酸n−プロピル留出段:10段
液供給量:4.3L
高純度酢酸n−プロピル留出量:3.3L
塔頂抜出し量:0.5L
塔底抜出し量:0.5L
還流比:40
塔頂凝縮器冷媒温度:10℃
塔頂圧力:101.3kPa(絶対圧)
1段温度:97℃〜99℃
20段温度:101℃
40段温度:108℃〜109℃
以上の操作で、10段抜出しにより得られた高純度酢酸n−プロピルを分析した結果、その組成は表4のとおりであった。
【0073】
【表4】

【0074】
[実施例2]
上記実施例1における水素化工程までと同様の操作を繰り返し、表3に記載の組成物を得て、当該液に対して以下の方法によりオゾン処理を行った。
オゾン発生器:富士電機製(POX−10/酸素)
オゾン処理方法:1Lのメスシリンダーに表3に記載の組成物を1.0L仕込み、オゾン発生器より発生するオゾン含有ガスをメスシリンダー下部より拡散させ2時間気液接触させた。尚、当該処理は常温・常圧下にて行った。
オゾン発生器導入酸素量:2.0L/min
オゾン発生量:2.0g/hr
以上の処理を5回繰り返し、合計4.5Lの表3に記載の組成物をオゾン処理に処した。得られた液の組成は表5の通りであった。
【0075】
【表5】

【0076】
上記オゾン処理した液からオルダーショウを用いた蒸留操作によって高純度酢酸n−プロピルを得た。蒸留操作は以下の条件により行った。
オルダーショウタイプ:シーブトレイ
オルダーショウ内径:34mm
トレイ開孔比:7%
段間隔:30mm
実段数:40段
液供給段:20段(塔頂からの段数。以下同じ。)
高純度酢酸n−プロピル留出段:10段
液供給量:4.3L
高純度酢酸n−プロピル留出量:3.3L
塔頂抜出し量:0.5L
塔底抜出し量:0.5L
還流比:40
塔頂凝縮器冷媒温度:10℃
塔頂圧力:101.3kPa(絶対圧)
1段温度:97℃〜99℃
20段温度:101℃
40段温度:108℃〜109℃
以上の操作で、10段抜出しにより得られた高純度酢酸アリルを分析した結果、その組成は表6のとおりであった。
【0077】
【表6】

【0078】
[比較例1]
上記実施例1、2に記載の方法にて高純度酢酸n−プロピルを得るに際し、蛍光灯照射およびオゾン処理を行わなかった場合の最終的な酢酸n−プロピルの分析結果は表7のとおりであった。
【0079】
【表7】

【0080】
[実施例3]
実施例1に記載の表2の組成物(第四の蒸留塔留出液16)約4mLに対して、下記の特定波長照射装置を用いて、波長305〜515nmの間で各波長30nm刻みの特定波長を4〜7mWで25.25時間、室温にて照射し、照射後の液の350〜500nmでの吸光度を下記の吸光度測定装置を用いて測定した。その結果を図3に示す。
特定波長照射装置:日本分光製多波長照射分光器CRM−FD(300−Wキセノンランプと集光用放物面鏡、回折格子分光器を内蔵し、比較的強い単色光を照射する装置。波長精度は約12nm。)。
吸光度測定装置:島津製作所製分光光度計MPS−2450(ダブルビーム型自記分光光度計。波長精度は約1nm。試料側と参照側のいずれにも測定用石英セル(光路長1cm)を入れない状態でベースライン補正を行った後、参照側には空の石英セルを入れて測定を行った。)。
【0081】
図3に示すように、395〜425nmの波長照射を行った試料については、補色として黄緑色或いは黄色が観察される波長範囲である400〜480nmの吸光度が、照射前の試料と比較して大きく低減されることがわかった。
以上より、400〜450nmの特定波長が、当該組成物の脱色に有利であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】アリルアルコール製造プロセス図である。
【図2】酢酸n−プロピル製造プロセス図である。
【図3】実施例3の試料の吸光度スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0083】
1 プロピレン
2 酸素
3 酢酸
4 反応器出口ガス
5 吸収塔塔底液
6 加水分解反応器供給液
7 加水分解反応器反応液
8 油層
9 第一の蒸留塔塔底液
10 抽出塔塔頂液
11 抽出塔塔底液
12 第二の蒸留塔塔底液
13 第三の蒸留塔塔底液
14 アリルアルコール製品
15 抽出塔塔頂液の一部
16 第四の蒸留塔留出液
17 水素化反応器供給液
18 水素化反応器循環液
19 水素化反応液
20 オゾン処理液
21 酢酸n−プロピル製品
22 第四の蒸留塔塔底液
23 第四の蒸留塔塔頂液
24 第五の蒸留塔塔底液
25 第五の蒸留塔塔頂液
26 供給ガス
27 水層
31 反応器
32 吸収塔
33 加水分解反応器
34 第一の蒸留塔
35 抽出塔
36 第二の蒸留塔
37 第三の蒸留塔
38 第四の蒸留塔
39 光照射設備
40 水素化反応器
41 オゾン処理設備
42 第五の蒸留塔
43 デカンター
44 中間タンク
45 酢酸水蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを製造し、次いで上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造するプロセスの中間体である上記酢酸アリルを原料として水添し、酢酸n−プロピルを製造する方法において、
光照射処理および/またはオゾン処理の工程を有することを特徴とする酢酸n−プロピルの製造方法。
【請求項2】
上記酢酸アリルが下記(A)および(B)の条件を満たすものである請求項1に記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
(A)HAZEN値が80以上。
(B)2−メチルクロトンアルデヒドおよび2−メチルブタナールの合計量が500質量ppm以上。
【請求項3】
上記光照射処理を上記水添工程の前に行う請求項1または2に記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
【請求項4】
上記光照射処理の光照射波長が400〜450nmの領域を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
【請求項5】
上記オゾン処理を上記水添工程の後に行う請求項1または2に記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
【請求項6】
プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを製造し、次いで上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造する以下のプロセスにおける抽出塔の塔頂液の一部を、原料の酢酸アリルとして用いることを特徴とする請求項1または2に記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
1)プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを生成し、
2)上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールと酢酸を生成し、
3)上記加水分解反応液中の酢酸を第一の蒸留塔で分離して、その塔底液の一部または全量を上記1)の工程へ再循環し、
4)第一の蒸留塔の塔頂液を水層と油層とに2相分離し、アリルアルコールを含む油層を抽出塔へ供給し、
5)第三の蒸留塔の塔底液を抽出水として上記油層中のアリルアルコールを抽出塔で抽出し、酢酸アリルを主成分とする塔頂液を上記2)の工程へ再循環させ、
6)抽出塔の塔底液に含有される低沸成分を第二の蒸留塔の塔頂より分離除去し、該塔底液に含有される水分を第三の蒸留塔の塔底より分離除去し、第三の蒸留塔の塔頂より水との共沸組成のアリルアルコールを得るプロセス。
【請求項7】
上記水添工程の前に、吸着による脱色工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酢酸n−プロピルの製造方法。
【請求項8】
プロピレン、酸素、酢酸を原料として酢酸アリルを製造し、次いで上記酢酸アリルを加水分解してアリルアルコールを製造するプロセスの中間体である酢酸アリルに、光照射処理を行うことを特徴とする酢酸アリルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−120526(P2009−120526A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295709(P2007−295709)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】