説明

酸化イリジウムコーティングの製造方法。

【課題】酸化イリジウムコーティングの製造方法を開示する。
【解決手段】上記製造方法は、Xが1または2の整数であるコロイド状のIrOXで表面をぬらす工程a)と、該コーティングした表面を乾燥させる工程b)と、該表面を300〜1000℃の温度で焼成する工程c)と、を含む。工程a)から工程c)を必要な層の厚さが得られるまで繰り返す。IrOXのコーティングを製造するための最初の成分にコロイド状のIrOXを使用することで、焼成工程において有毒ガスの発生を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化イリジウム製コーティングの製造方法、コロイド状の酸化イリジウム、コロイド状の酸化イリジウムの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物でコーティングされたチタニウム電極は、いくつかの電気化学的工程において、アノード(anode)として使用される。例えば、塩素アルカリ電気分解、水溶液中での有害物質の酸化、水電気分解、電解金属析出などに使用される。後段の二工程で、金属酸化物でコーティングされたアノードは、酸素の発生に使用される。特に、酸化イリジウム製コーティングは、酸素発生の電極触媒作用に有用であることを見出した。IrOX-SnO2、IrRuOX、IrOX-Ta2O5、IrOX-Sb2O5-SnO2のようなイリジウム混合酸化物もまた、コーティングに使用できる。
【0003】
酸化物でコーティングしたチタニウム電極は、通常、金属塩を熱分解して製造する。この場合、適当な金属塩を水又はアルコールに溶かし、この溶液で電極をぬらす。次に、ぬらした電極を、通常、400〜700℃の温度で加熱する。この金属塩は、上記条件の下で分解し、対応する金属酸化物または混合酸化物となる。この方法で製造した電極は、しばしば、優れた機械的安定性、申し分のない寿命を有し、さらに酸素を発生させるのに低過剰の電圧で足りる。
【0004】
英国特許GB1399576号に、チタニウムのシートをIrCl3とTaCl5の水溶液に漬し、450〜600℃の温度で熱分解を行うことが、開示されている。この操作を12〜15回繰り返す。このようにして製造された電極は、酸素を発生させるのに低過剰の電圧で足り、2000時間以上の寿命がある。しかし、イリジウムの含有量が多いため(チタニウム1平方メートルあたり少なくとも7.5gのイリジウム)、この電極は高価である。
【0005】
米国特許3234110号に、チタニウムのシートにIrCl4のエタノール溶液を広げ、250〜300℃で加熱することが、開示されている。この操作を4回繰り返す。得られたTi/IrOX電極は、NaCl溶液の電気分解に使用できる。しかし、塩素が発生する間のコーティングの寿命については記載されていない。
【0006】
米国特許3926751号に、Ti/IrTaOX電極の製造方法が、開示されている。チタニウムシートをIrCl3とTaCl5の溶液に12〜15回浸漬し、浸漬ごとに450〜550℃の温度で加熱する。酸素が発生する間のこの電極の寿命は、10%硫酸にて約6000時間である。
【0007】
米国特許5294317号、5098546号、5156726号に、酸素を発生させるための電極の製造方法が、開示されている。H2IrCl6とタンタルエトキシドのブタノリック溶液(butanolic solution)に繰り返し浸漬し(一般的には10回)、次に500℃で焼成し、混合酸化物でコーティングしたチタニウム電極を製造する。この電極の寿命は2000時間以上であることが記載されている。
【0008】
金属塩の熱分解による上記電極のコーティングには、電極を焼成する工程で有毒ガス(特に塩素や塩酸)が放出されるという欠点がある。
【0009】
F.I.Mattos−Costa,P.de Lima−Neto,S.A.S.Machado and L.A.Avaca in Electrochim.Acta 1998,44,1515にTi/IrRuOX電極の製造方法が、開示されている。チタニウムシートをサンドブラストで磨き、10%シュウ酸でエッチングし、ルテニウムアセチルアセトネート/イリジウムアセチルアセトネートのアルコール溶液中に浸漬する。次に、上記ぬれた電極を400〜600℃で熱分解する。コーティングの厚さが少なくとも2umに達するまで、上記浸漬と熱分解の工程を数回繰り返す。この工程では、塩素を含有していない金属塩を反応物質として使用しているけれども、この工程には、使用する塩素を含有していない金属塩が、対応する塩化物と比較して高価である、という欠点がある。
【特許文献1】英国特許1399576号公報
【特許文献2】米国特許3234110号公報
【特許文献3】米国特許3926751号公報
【特許文献4】米国特許5294317号公報
【特許文献5】米国特許5098546号公報
【特許文献6】米国特許5156726号公報
【非特許文献1】F.I.Mattos−Costa,P.de Lima−Neto,S.A.S.Machado and L.A.Avaca in Electrochim.Acta 1998,44,1515
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記欠点を有さず、塩化物含有量の少ない化合物を使用した酸化イリジウム製コーティングの作製を可能とする製造方法を開発することを目的とする。さらに、本発明では、塩化物含有量が少ない酸化イリジウムでチタニウム電極をコーティングすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
a)Xが1または2の整数であるコロイド状のIrOXを被コーティング材の表面にコーティングする工程と、
b)該コーティングした表面を乾燥させる工程と、
c)該表面を300〜1000℃の温度で焼成する工程と
を含み、必要な層の厚さが得られるまで工程a)から工程c)を繰り返す酸化イリジウム製コーティングの製造方法を提供する。
【0012】
驚いたことに、IrOXのコーティングを製造するための最初の成分としてコロイド状のIrOXを使用すると、焼成工程において、有毒ガスの生成を回避できることを見出した。酸化イリジウムのコロイドの作製に使用する反応物質は、高価ではないイリジウムの塩素化合物である。
【0013】
本発明によれば、本発明に係る工程は、コロイド状の酸化イリジウムを使用する。通常、酸化イリジウムは式IrOXで表され、xは1または2の整数である。粒径が10nm以下、特に3nm以下である均一なコーティングを得ることができる。
【0014】
本発明で使用するコロイド状の酸化イリジウムは、従来技術で作製することができる。好ましい実施態様として、コロイド状の酸化イリジウムは、イリジウム塩の、水溶液、アルコール溶液及び/または水溶性アルコール溶液と混ぜて作製するのが好ましく、必要に応じて攪拌してもよく、ブレンステッド塩基を混ぜてもよい。好ましいブレンステッド塩基は、アルカリ金属の水酸化物であり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。このようにして、コロイド状の酸化イリジウム溶液を作製することができる。イリジウム塩の溶液はpH11以上に調整するのが好ましく、より好ましくはpH12以上である。
【0015】
コロイド状の酸化イリジウムを作製するために、イリジウム塩水溶液を使用するのが好ましい。上記水に溶解したイリジウム塩は、ハロゲン化物、硝酸塩(nitrate)、硫酸塩、酢酸塩、アセチルアセトネート(acetylacetonate)、上記塩の水和物(hydrate)または他の金属塩を有する混合塩から選択し、好ましい他の金属塩を有する混合塩は、アルカリ金属‐イリジウム塩である。具体的には、IrCl3・H2O、IrCl4・H2O、H2IrCl6・H2O、Na2IrCl6・H2O、K2IrCl6・H2Oが好ましい。
【0016】
本発明に係る製造方法は、焼成温度で安定している限り、あらゆる表面をコーティングするのに使用することができる。本発明に係る製造方法は、金属及び金属酸化物の表面をコーティングするのに適しており、特に、Ti、TiO2、ZnO、SnO2、ガラスの表面をコーティングするのに適している。
【0017】
本発明に係る製造方法を使用するのに特に適した分野は、チタン電極のコーティングである。上記電極は、酸素や塩素の発生または飲料水の有機性残留物(organic residues)の酸化に使用される。
【0018】
上記製造方法で使用するコロイド状の酸化イリジウムは、新規である。本発明ではさらに、粒径10nm以下、特に3nm以下のコロイド状の酸化イリジウムを提供する。
【0019】
イリジウム塩の、水溶液、アルコール溶液または水溶性アルコール溶液を、攪拌しながらpH11以上、好ましくはpH12以上に調整し、次に、生成した混合物を0〜100℃の温度で3〜72時間攪拌して、コロイド状の酸化イリジウムを作製した。
【発明の効果】
【0020】
生成した酸化イリジウムは、さらなる操作をすることなく、コーティングの作製に使用できる。もし必要なら、透析により、精製及び必要に応じて不要な可溶性成分の除去を行うことができる。
【0021】
本発明において、塩基加水分解反応により塩化イリジウムを酸化イリジウムのコロイドに変えることを可能とする方法を見出した。驚いたことに、上記コロイドを、追加の安定剤(stabilizer)を使用することなく濃縮したヒドロゾルとして作製できる。必要であれば、溶液中の塩素濃度は、透析によって大幅に減らすことができる。チタニウム基質を作製したコロイド溶液でぬらし、このぬれた電極を焼成することで、IrOXの連続膜が形成する。焼成工程において、有毒ガスが、もし放出されるとしてもごくわずかである。なぜなら、ブレンステッド塩基としてアルカリ金属の水酸化物を使用する場合、どんな塩化物も、アルカリ金属塩化物である塩の形態で結合するからである。
【実施例1】
【0022】
実施例。酸化イリジウムによるチタニウム電極のコーティング。
【0023】
チタニウム基質の前処理。
チタニウムシートをサンドブラストで磨いてから、脱イオン水(deionize water)中に移し、10分間超音波洗浄した。次に、このチタニウムシートを加熱(70〜90℃)した10%シュウ酸中に5分間置き、脱イオン水でこのシュウ酸を洗い流した。それから、さらに10分間チタニウムシートを超音波洗浄した。
【0024】
コロイド状の酸化イリジウムの作製。
353mgのIrCl3・H2O(Ir:54.4%)を10mlの脱イオン水に攪拌しながら溶かし、0.7mlの飽和水酸化カリウム溶液を添加した。上記混合液を室温で24時間攪拌した。この溶液は青紫色となった。次にこの混合液を24〜48時間脱イオン水を用いて透析した。
【0025】
チタニウム基質のコーティング。
前記前処理したチタニウムシートを前記透析したコロイド状のIrOX溶液中に浸漬してから、80℃にて5分間乾燥した。次に、これを600℃にて5分間焼成した。このコーティング工程を5回繰り返した。焼成工程は1時間以上行った。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)Xが1または2の整数であるコロイド状のIrOXを被コーティング材の表面にコーティングする工程と、
b)該コーティングした表面を乾燥させる工程と、
c)該表面を300〜1000℃の温度で焼成する工程と
を含み、必要な層の厚さが得られるまで工程a)から工程c)を繰り返す酸化イリジウム製コーティングの製造方法。
【請求項2】
前記Xが1または2の整数であるコロイド状のIrOXを、イリジウム塩の、水溶液、アルコール溶液及び/または水溶性アルコール溶液と混ぜて作製することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記Xが1または2の整数であるコロイド状のIrOXを、イリジウム塩の、水溶液、アルコール溶液及び/または水溶性アルコール溶液と混ぜて作製する方法が、イリジウム塩の、水溶液、アルコール溶液及び/または水溶性アルコール溶液と混ぜる際、攪拌し、及び/またはブレンステッド塩基を混合することを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ブレンステッド塩基が、アルカリ金属の水酸化物を有することを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属の水酸化物が、NaOHまたはKOHであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記イリジウム塩の水溶液のpHが、12以上であることを特徴とする請求項2または3記載の方法。
【請求項7】
前記イリジウム塩の水溶液の前記pHが13以上であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記イリジウム塩が、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アセチルアセトネート、該塩の水和物及び他の金属塩を有する混合塩からなる群から選択された塩であることを特徴とする請求項2ないし7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記他の金属塩を有する混合塩が、アルカリ金属‐イリジウム塩であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記イリジウム塩が、IrCl3・H2O、IrCl4・H2O、H2IrCl6・H2O、Na2IrCl6・H2O、K2IrCl6・H2Oであることを特徴とする請求項2ないし9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングした表面が、金属、金属酸化物またはガラスの表面から選択されるのを特徴とする請求項1ないし10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属または金属酸化物が、Ti、TiO2、ZnOまたはSnO2から選択されるのを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングした表面が、Ti電極の表面であることを特徴とする請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
前記Ti電極が、酸素若しくは塩素の発生のための電極または飲料水の有機性残留物の酸化のための電極であることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記コロイド状のIrOXが、粒径10nm以下であることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記粒径が、3nm以下であることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記イリジウム塩の、水溶液、アルコール溶液または水溶性アルコール溶液を、必要に応じて攪拌しながらpH12以上、好ましくはpH13以上に調整し、次に、生成した混合物を0〜100℃の温度で3〜72時間攪拌して、コロイド状の酸化イリジウムを製造する方法。


【公表番号】特表2007−530793(P2007−530793A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505364(P2007−505364)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000399
【国際公開番号】WO2005/095671
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(591091515)シュトゥディエンゲゼルシャフト・コーレ・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (18)
【氏名又は名称原語表記】STUDIENGESELLSCHAFT KOHLE MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】