説明

酸化エチレン触媒用ムライト含有担体

本発明は、エチレンのエポキシ化触媒用の改良担体に関し、前記媒体は、安定性を強化する量のムライトと組み合わせたアルミナからなる。また、本発明は、改良担体を含む改良触媒、及び、本発明の触媒を用いたエチレンのエポキシ化のための改良された方法も意図する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀系酸化エチレン触媒に関し、特に、そのような触媒用の担体に関する。
【背景技術】
【0002】
当分野において周知のように、エチレンのエポキシ化用の高選択性触媒(HSC)とは、同じ目的で使用される高活性触媒(HAC)よりも高い選択値を有する触媒のことを言う。いずれのタイプの触媒も、耐熱性(又は耐火性、refractory)支持体(即ち、担体)上に、活性触媒成分としての銀を含んでいる。通常、1つ以上の促進剤が触媒に含まれており、選択性などの触媒の性質を改善或いは調整する。
【0003】
一般に、HSCは、促進剤としてレニウムを含ませることにより、高選択性(通常、87モル%以上)を実現している。通常、アルカリ金属(例えば、セシウム)、アルカリ土類金属、遷移金属(例えば、タングステン化合物)及び主族金属(例えば、硫黄及び/又はハロゲン化物化合物)から選択された1つ以上の追加的促進剤も含まれる。
【0004】
HACの選択値より改善されていても、HCSに通常付随するような選択値を有さないであろうエチレンエポキシ化用触媒もある。この種の触媒は、HCSの分類としても考えることができ、或いは、それらは別の分類、例えば、「中間選択性触媒」或いは「MSC」に属していると考えることができる。この種の触媒は、通常、少なくとも83モル%から87モル%までの選択性を示す。
【0005】
HSCやMSCとは対照的に、HACは、通常レニウムを含まないエチレンエポキシ化用触媒であり、このため、HSCやMSCのような選択値を備えていない。通常、HACは、唯一の促進剤としてセシウム(Cs)を含んでいる。
【0006】
触媒の使用において、触媒の使用にこれ以上実用性が無いという時点まで触媒が老化(即ち、劣化)することはよく知られている。明白な理由で、触媒の有用な耐用年数(即ち、「寿命」又は「使用可能期間」)を延ばすための継続的な努力がなされている。触媒の有用な耐用年数は、触媒の安定性により直接左右される。ここで用いる「有用な耐用年数」とは、選択性や活性などといった機能パラメータの1つ以上が、触媒の使用が非実用的となるようなレベルに低下するまでの、触媒を使用できる時間周期である。
【0007】
HSCの選択性が一般に工業に受け入れられる一方、その有用な耐用年数には改善の余地があることは当分野において周知である。例えば、通常HACが24から36カ月間耐久するのに対し、HSCは、通常許容できない選択性の損失に起因し、24カ月未満、多くは12カ月未満しか取り扱えない傾向がある。
【0008】
触媒の安定性は、主に担体の様々な特性に起因すると考えられてきた。担体の特性のうち多くの研究が行われているものとして、中でも、表面積、細孔率、細孔容積分布が挙げられる。
【0009】
エチレンのエポキシ化触媒の担体に最も広く用いられる製剤は、アルミナ、通常α−アルミナ、をベースとしたものである。触媒の安定性とその他の性質を改善するアルミナ組成物の効果を調査するため、多くの研究がなされてきた。エチレンのエポキシ化触媒性能を高めるためのアルミナ担体の生成と改良が、例えば、米国特許第4,226,782号、米国特許第4,242,235号、米国特許第5,266,548号、米国特許第5,380,697号、米国特許第5,597,773号、米国特許第5,831,037号、米国特許第6,831,037号、且つ、米国特許出願公開第2004/0110973 A1号及び米国特許出願公開第2005/0096219 A1号に記載されている。特に米国特許第5,395,812号は、とりわけ銀系のエチレンエポキシ化触媒の寿命を向上させるため、外部の表面と内部の細孔の表面を非晶質シリカ・アルミナ混合物で被覆することを開示している。
【0010】
しかし、当分野においては、エチレンのエポキシ化触媒の安定性を更に改善する必要性が残されている。容易で金銭的にも実現可能な手段により担体を改良することで、そのような触媒の安定性を改善する特段の必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、安定性を強化する量のムライトと組み合わせることにより、より安定したHSCの生成に有用なアルミナ担体を提供する。
【0012】
また、本発明は、担体上及び/又は内に沈着した触媒量の銀と促進量のレニウムに加え、上記の安定性強化担体からなり安定性を強化したエチレンのエポキシ化触媒も意図する。強化された安定性により、HSC(及びMSC)触媒の使用可能期間が長くなり、特に、ムライトを含まないような触媒に比べ、同等の時間の使用における選択性の劣化が顕著に少ない触媒となる。
【0013】
また、本発明は、酸素の存在下でエチレンから酸化エチレン(EO)へ蒸気相変換する方法も意図しており、この方法には、上述の安定性を強化したエチレンのエポキシ化触媒の存在下でエチレンと酸素からなる反応混合物を反応させることが含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、本明細書に記載の発明により安定性を強化したものではない同様の触媒と比べ、劣化に対しより有利に耐性を示し、長時間にわたり選択性をより高いレベルに保つ安定性を強化したエチレンのエポキシ化触媒を提供する。このように、本発明は、より長い触媒の寿命により、金銭的に著しく切約し、処理が大幅に効率化され、工程及び触媒の消耗がより少なくなるという結果がもたらされる点において極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、担体の好適な二峰性分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一態様において、本発明は、エチレンのエポキシ化触媒用の改良されたアルミナ担体を意図している。担体は、そこから生成された銀系触媒に強化した安定性を与えている点で改善されている。
【0017】
この担体(即ち、支持体)は、アルミナに含まれた安定性を強化する量のムライトにより、この強化された安定性を与えている。ここで使用される「ムライト」(「porcelainite」としても知られる)とは、固溶体としてSiO2相と化合されたAl2O3成分を有し、Al2O3成分が少なくとも約40モル%、通常80モル%までの濃度で存在するケイ酸アルミニウム鉱物のことを言う。更に一般的には、ムライトは、60±5モル%の濃度のAl2O3成分を含有し、よって、3Al2O3.2SiO2(即ち、Al6Si2O13)の式で概ね表わすことができる。
【0018】
ムライトの天然資源が乏しいことから、ムライトの商業的供給源の殆どは合成物質である。当分野においては、様々な合成方法が知られている。一実施形態において使用されるムライトは、微量(例えば、0.1モル%又は重量%未満)に存在し得る1つ以上の成分を別にすれば、上述のアルミナ及びシリカ成分以外の成分を含有していない。別の実施形態において使用されるムライトは、1つ以上の成分を追加で含むことができる。例えば、少量(通常、1.0モル%又は重量%以下)の酸化ナトリウム(Na2O)が含まれていてもよい。ジルコニア(Zr2O)や炭化ケイ素(SiC)などのその他の成分が、例えば、破壊靱性を増強するために含まれていてもよい。ムライトの性質を変えるため、その他数多くの金属酸化物が含まれていてもよい。
【0019】
安定性を強化する量のムライトとは、通常、担体の重量の少なくとも約0.5%から約20%までのムライトである。一実施形態において、ムライトは、担体に対し少なくとも約1重量%から約20重量%、15重量%、12重量%、10重量%、8重量%、6重量%、5重量%、4重量%、3重量%又は2重量%までの濃度で担体に存在する。別の実施形態において、ムライトは、担体に対し少なくとも約3重量%から約20重量%、15重量%、12重量%、10重量%、8重量%、6重量%、5重量%又は4重量%までの濃度で担体に存在する。更に別の実施形態において、ムライトは、担体に対し少なくとも約5重量%から約20重量%、15重量%、12重量%、10重量%、8重量%、7重量%又は6重量%までの濃度で担体に存在する。また更に別の実施形態において、ムライトは、少なくとも約7重量%から約20重量%、15重量%、12重量%、10重量%、9重量%又は8重量%までの濃度で担体に存在する。更に別の実施形態において、ムライトは、約0.5〜15重量%、0.5〜12重量%、0.5〜10重量%、0.5〜8重量%、0.5〜6重量%、0.5〜5重量%、0.5〜3重量%、0.5〜2重量%、10〜20重量%又は10〜15重量%の濃度範囲内で担体に存在してもよい。
【0020】
一実施形態において、アルミナ担体の外面は、ムライトで覆われている。外面は、ムライトも含む担体の表面下または内側の部分とともに覆われていてもよく、或いは、ムライトを含む表面下または内側の部分のいずれかが無くてもよい。
【0021】
別の実施形態においては、アルミナ担体の外面はムライトで覆われていないが、担体の表面下または内側の領域のいずれかがムライトを含んでいる。
【0022】
本発明の担体は、ムライトと、エチレン酸化触媒に用いる当分野で周知のいずれかの耐熱性アルミナ成分から構成されている。しかし、好適な担体のベースはα―アルミナとムライトである。通常、触媒は、結合剤により結びついたα―アルミナ及びムライト粒子からなる。本発明の担体に用いられるα―アルミナは、非常に高純度、即ち、約95%以上、更に好ましくは、98重量%以上のα―アルミナであることが好ましい。残りの成分は、別の相のアルミナ、シリカ、アルカリ金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム)、及び、その他微量の金属含有及び/又は金属非含有添加剤又は不純物であってもよい。適切なアルミナ成分は、日本の名古屋に 所在のNoritake社、及び、Akron, Ohioに所在のNorPro Company社で製造及び/又は市販されている。
【0023】
一般に、本発明の適切な触媒担体は、アルミナ、ムライト、水などの溶媒、一時的結合剤又は燃焼材料と、持続性結合剤及び/又は細孔率制御剤を混合し、そして、その混合物を当分野で周知の方法で燃焼(即ち、焼成)して生成することができる。
【0024】
一時的結合剤又は燃焼材料は、セルロース、例えばメチルセルロース、エチルセルロース及びカルボキシエチルセルロースなどの置換セルロース類、ステアリン酸類(例えばステアリン酸メチル又はエチルといった有機ステアリン酸エステルなど)、ワックス類、粒状ポリオレフィン類(特にポリエチレン及びポリプロピレン)、クルミ殻粉などの、使用の温度で分解可能なものを含む。結合剤は、担体材料に細孔率を与える要因である。燃焼材料は、主に混合物が成形又は押出過程により粒子に加工される未熟(即ち、未焼成段階)である間の多孔質構造の維持を保証するため、使用される。燃焼材料は、完成した担体を生成するための焼成の際、基本的に全て除去される。
【0025】
本発明の担体は、結晶性シリカ化合物の形成を実質的に防止するのに十分な量の結合材料を含んで製造されるのが好ましい。持続性結合剤類は、例えば、シリカやアルカリ金属化合物などの粘土状無機物を含む。アルミナ粒子に含まれてもよい便利な結合材料として、ベーマイト、アンモニア安定化シリカゾル及び可溶性ナトリウム塩の混合物がある。
【0026】
形成されたペーストは、所望の形状に押出又は成形され、通常約1200℃から約1600℃の温度で焼成して担体を形成する。粒子が押出で形成される場合、従来の押出助剤を含むことが望ましい場合がある。一般に、米国特許出願公開第2006/0252643 A1号に記載されるように、担体を水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ溶液、又は、HNO3などの酸に浸して処理をすると、担体の性能は高まる。処理後、担体を水などで洗浄して未反応の溶解物質及び処理溶液を除去し、任意で乾燥することが好ましい。
【0027】
本発明の担体は好ましくは多孔質であり、そのBET表面積は通常多くて20m/gである。BET表面積は、更に一般的には約0.1から約10m/gの範囲にあり、より一般的には1から5m/gの範囲にある。別の実施形態において、本発明の担体は、
約0.3m/gから約3m/g、好ましくは約0.6m/gから約2.5m/g、より好ましくは約0.7m/gから約2.0m/gのBET表面積を有することを特徴としている。本明細書に記載されるBET表面積は、いずれの適切な方法でも測定できるが、Brunauer, S., et al., J. Am. Chem. Soc., 60, 309-16 (1938)に記載の方法から得ることがより好ましい。完成した触媒の吸水値は、一般的には約0.2cc/gから約0.8cc/g、更に一般的には約0.25cc/gから約0.6cc/gの範囲にある。
【0028】
担体は、あらゆる適切な細孔直径の分布を有することができる。ここで使われる「細孔直径」とは、「細孔径」と同じ意味で使われる。細孔直径は、一般的には少なくとも約0.01ミクロン(0.01μm)、更に一般的には少なくとも約0.1μmである。異なる実施形態においては、細孔直径は、少なくとも約0.2μm、又は0.3μm、又は0.4μm、又は0.5μm、又は0.6μm、又は0.7μm、又は0.8μm、又は0.9μm、又は1.0μm、又は1.5μm、又は2.0μmであってもよい。通常、細孔直径は、約50μm、40μm、30μm、20μm又は10μm以下である。特定の実施形態においては、細孔直径は、約9μm、又は8μm、又は7μm、又は6μm、又は5μm、又は4μm、又は3μm又は2.5μm以下である。前述の最小及び最大模範値から得られる範囲は、いずれも本明細書においても適切である。異なる実施形態において、適切な細孔直径範囲は、細孔の各形態の範囲が異なり、異なる最大密度の細孔径がそれぞれの範囲にある限り、例えば、0.01〜50μm、1〜50μm、2〜50μm、5〜50μm、10〜50μm、20〜50μm、30〜50μm、0.01〜40μm、1〜40μm、2〜40μm、5〜40μm、10〜40μm、20〜40μm、30〜40μm、0.01〜30μm、0.05〜30μm、0.1〜30μm、0.5〜30μm、1〜30μm、2〜30μm、3〜30μm、4〜30μm、5〜30μm、10〜30μm、15〜30μm、20〜30μm、0.01〜10μm、0.05〜10μm、0.1〜10μm、 0.5〜10μm、1〜10μm、2〜10μm、3〜10μm、4〜10μm、5〜10μm、6〜10μm、7〜10μm、8〜10μm、9〜10μm、0.01〜8μm、0.05〜8μm、0.1〜8μm、0.5〜8μm、1〜8μm、1.5〜8μm、2〜8μm、2.5〜8μm、3〜8μm、4〜8μm、5〜8μm、6〜8μm、7〜8μm、0.01〜6μm、0.05〜6μm、0.1〜6μm、0.5〜6μm、1〜6μm、1.5〜6μm、2〜6μm、2.5〜6μm、3〜6μm、4〜6μm、5〜6μm、0.01〜5μm、0.05〜5μm、0.1〜5μm、0.5〜5μm、1〜5μm、1.5〜5μm、2〜5μm、2.5〜5μm、3〜5μm、3.5〜5μm、4〜5μm、0.01〜4μm、0.05〜4μm、0.1〜4μm、0.5〜4μm、1〜4μm、1.5〜4μm、2〜4μm、2.5〜4μm、3〜4μm、3.5〜4μm、0.01〜3μm、0.05〜3μm、0.1〜3μm、0.5〜3μm、1〜3μm、1.5〜3μm、2〜3μm、2.5〜3μm、0.01〜2μm、0.05〜2μm、0.1〜2μm、0.5〜2μm、1〜2μm及び1.5〜2μmのいずれであってもよい。
【0029】
特定の実施形態において、担体は、多峰性細孔径分布(即ち、異なる細孔径範囲において、異なる最大密度の細孔径がそれぞれの範囲にある)を有している。多峰性細孔径分布は少なくとも二峰性であり、三峰性、四峰性或いはより多峰性であってもよい。多峰性細孔径分布は、細孔径に少なくとも2つの分布(形態)が存在し、各細孔径分布が別の細孔径分布と重なる、或いは、重ならず、各細孔径分布が特有の細孔径(細孔直径)範囲とピーク密度(通常、ピーク細孔容積として表わされる)を有することを特徴とする。各細孔径分布は、単一の平均細孔径(平均細孔直径)値により特徴付けられる。よって、細孔径分布の平均細孔径値は、必然的に、示された平均細孔径値となる細孔径の範囲に相応することとなる。
【0030】
第1及び第2の細孔の形態の平均細孔径(平均細孔直径)は、異なっている。細孔の形態の少なくとも1つは、約0.01μm〜約5μmの範囲の平均細孔直径を有することが好ましい。平均細孔直径が異なる限り、第1及び第2の細孔の形態のいずれも、約0.01μm〜約5μmの範囲の平均細孔直径を有することがより好ましい。例えば、第1及び第2の細孔の形態の少なくとも1つが、約0.01μm、0.02μm、0.03μm、0.04μm、0.05μm、0.06μm、0.07μm、0.08μm、0.09μm、0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1.0μm、1.1μm、1.2μm、1.3μm、1.4μm、1.5μm、1.6μm、1.7μm、1.8μm、1.9μm、2.0μm、2.1μm、2.2μm、2.3μm、2.4μm、2.5μm、2.6μm、2.7μm、2.8μm、2.9μm、3.0μm、3.1μm、3.2μm、3.3μm、3.4μm、3.5μm、3.6μm、3.7μm、3.8μm、3.9μm、4.0μm、4.1μm、4.2μm、4.3μm、4.4μm、4.5μm、4.6μm、4.7μm、4.8μm、4.9μm、又は5.0μmの平均細孔径を有してもよい。各細孔の形態の平均細孔径が異なる限り、2つ以上の細孔の形態は、上記平均細孔径のいずれかから別々に選択されることもできる。上記の値のいずれか2つから得られる範囲は、いずれも本明細書の意図するところである。
【0031】
別の実施形態において、細孔の形態の少なくとも1つは、5μm以より大きく約30μmまでの平均細孔直径を有することで特徴付けられる。例えば、異なる実施形態において、細孔の形態の少なくとも1つが、5μmより大きく約25μmまで、又は、5μmより大きく約20μmまで、又は、5μmより大きく約15μmまで、又は、5μmより大きく約10μmまで、又は、約6μmから約30μmまで、又は、約7μmから約30μmまで、又は、約8μmから約30μmまで、又は、約10μmから約30μmまで、又は、約10μmから約25μmまで、又は、約10μmから約20μmまで、又は、約15μmから約30μmまでの平均細孔直径を有することができる。一実施形態において、細孔の形態の1つが約0.01μmから約5μmの範囲内(又は、この範囲内、又はそこから得られるサブ範囲内の上記の具体的模範値のいずれか)の平均細孔直径を有している一方で、細孔の他の形態が、5μmより大きく約30μmまでの、或いは、そこで与えられるサブ範囲のいずれかの平均細孔直径を有している。別の実施形態において、細孔の形態の少なくとも2つが5μmより大きく約30μmまでの平均細孔直径を有している。
【0032】
担体の好適な二峰性分布を図1に示す。図1において実線は、細孔容積分布に対し細孔直径をプロットすることにより2つの形態の細孔直径の分布を示す。細孔の形態の1つは、約0.1から2.0μmの細孔径の範囲を有するものとして示され、細孔の別の形態は、約0.5又は1.0から5μmの細孔径の範囲を有するものとして示されている。この場合、細孔の形態が著しく重なって示されているが、他の事例において、細孔の形態の重なりはもっと少ないか、全く無くてもよい。図1において点線は、対数差分容積に対してプロットされた細孔直径を示す。
【0033】
第1の実施形態においては、総細孔容積の多くとも約50%を第1の細孔の形態で構成し、総細孔容積の少なくとも約50%を第2の細孔の形態で構成している。第2の実施形態においては、総細孔容積の多くとも約45%を第1又は第2の細孔の形態の一方で構成し、総細孔容積の少なくとも約55%を他方の細孔の形態で構成している。第3の実施形態においては、総細孔容積の多くとも約40%を第1又は第2の細孔の形態の一方で構成し、総細孔容積の少なくとも約60%を他方の細孔の形態で構成している。第4の実施形態においては、総細孔容積の多くとも約35%を第1又は第2の細孔の形態の一方で構成し、総細孔容積の少なくとも約65%を他方の細孔の形態で構成している。第5の実施形態においては、総細孔容積の多くとも約30%を第1又は第2の細孔の形態の一方で構成し、総細孔容積の少なくとも約70%を他方の細孔の形態で構成している。異なる二峰の細孔分布を反映した数多くの別の実施形態が、本発明の範囲内において可能である。いかなる理論によっても拘束されることを望まないが、記載された二峰性細孔径分布を有する触媒は、反応室が拡散チャネルにより分離される種の細孔構造を有すると思われる。本明細書に記載する細孔容積及び細孔径分布は、あらゆる適切な方法で測定することができるが、例えば、Drake and Ritter, Ind. Eng. Chem. Anal. Ed., 17, 787 (1945)に記載される従来の水銀ポロシメーター法により得ることがより好ましい。
【0034】
第1の細孔の形態の平均細孔直径と第2の細孔の形態の平均細孔直径が少なくとも約0.1μm異なること(即ち、「平均細孔直径の差」)が好ましい。異なる実施形態において、平均細孔径の差は、少なくとも、例えば、0.2μm、又は、0.3μm、又は、0.4μm、又は、0.5μm、又は、0.6μm、又は、0.7μm、又は、0.8μm、又は、0.9μm、又は、1.0μm、又は、1.2μm、又は、1.4μm、又は、1.5μm、1.6μm、又は、1.8μm、又は、2.0μm、又は、2.5μm、又は、3μm、又は、4μm、又は、5μm、又は、6μm、又は、7μm、又は、8μm、又は、9μm、又は、10μmから約15、20又は30μmまでとすることができる。
【0035】
好適な担体では、細孔容積の少なくとも40%(一般的には少なくとも60%、更に一般的には少なくとも80%)が、直径1から5マイクロメーターの間の細孔による。本発明で使用される中間細孔直径は、一般的には約1から5マイクロメーターの間であり、更に一般的には約1から4.5マイクロメーターの間であり、更により一般的には約1〜4マイクロメーターの間にある。直径5マイクロメーター及びそれ以上の細孔による細孔容積は、一般的には約0.20ml/g未満であり、更に一般的には約0.10ml/g未満であり、更により一般的には約0.05ml/g未満である。直径1マイクロメーター及びそれ以下の細孔による細孔容積は、一般的には約0.20ml/g未満であり、更に一般的には約0.16ml/g未満であり、更により一般的には約0.12ml/g未満である。幾つかの実施形態においては、水孔容積は、約0.10cc/gから約0.80cc/g、より一般的には約0.20cc/gから約0.60cc/gとすることができる。本明細書に記載する細孔容積と細孔径分布は、あらゆる適切な方法で測定することができるが、例えば、Drake and Ritter, “Ind. Eng. Chem. Anal. Ed., 17,” 787 (1945)に記載される従来の水銀ポロシメーター法により得ることがより好ましい。
【0036】
本発明の担体は、あらゆる適切な形状又は形態とすることができる。例えば、担体は、好ましくは固定床反応器での使用に適した寸法の粒子、塊、ペレット、輪、球体、三つ穴、ワゴン車輪状、十字分割された中空円筒などの形状とすることができる。担体粒子は、一般的に約3mmから約12mmの範囲、より一般的には約5mmから約10mmの範囲の相当直径を有し、通常は触媒が設置される管型反応器の内径に適合している。当分野で周知のように、「相当直径」という用語は、不規則な形状の物体と同一の体積を有する球体の直径を単位として物体の寸法を表わすことにより、不規則な形状の物体の寸法を表わすために使われる。
【0037】
一実施形態において、本発明の担体は、存在してもよい微量のその他の金属又は成分を除いては、基本的にアルミナ及びムライト成分のみを含み、他の金属又は化学物質を含んでいない。微量とは、微量な成分が触媒の機能又は能力に注目するほどに影響しない十分に少ない量のことである。
【0038】
別の実施形態において、本発明の担体は、1つ以上の促進成分を含んでいる。本明細書で使用される触媒の特定の成分の「促進量」という用語は、その成分を含まない触媒と比較した場合に、触媒の1つ以上の触媒特性を向上させるために有効に作用する成分の量を言う。触媒特性の例としては、とりわけ、運用性(暴走への耐性)、選択性、活性、変換率、安定性及び収率が挙げられる。1つ以上の個々の触媒特性は「促進量」により高められるが、他の触媒特性が高められる又は高められない場合があり、また更には低下する場合があることは、当業者であれば理解する。更に、異なる触媒特性が異なる処理条件により高められることも理解される。例えば、一組の処理条件で高められた選択性を有する触媒が、選択性よりも活性を向上させる異なる組の条件で処理されてもよい。
【0039】
例えば、上述のムライト含有担体は、促進量のアルカリ金属又は2つ以上のアルカリ金属の混合物を含んでもよい。適切なアルカリ金属促進剤は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム又はその組み合わせを含む。多くの場合、セシウムが好ましく、セシウムと他のアルカリ金属の組み合わせもまた好ましい。アルカリ金属の量は、アルカリ金属の単位で表わされる触媒の全重量に対し、一般的には約10ppmから約3000ppm、更に一般的には約15ppmから約2000ppm、更に一般的には約20ppmから約1500ppm、更により一般的には約50ppmから約1000ppmの範囲にあるものとする。
【0040】
本発明の担体は、促進量のIIA族アルカリ土類金属又は2つ以上のIIA族アルカリ土類金属の混合物を含んでもよい。適切なアルカリ土類金属促進剤として、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム、又はその組み合わせが挙げられる。アルカリ土類金属促進剤の量としては、上述のアルカリ金属促進剤と同様の量が使用される。
【0041】
本発明の担体は、促進量の主族元素又は2つ以上の主族元素の混合物を含んでもよい。適切な主族元素とは、元素周期表のIIIA族(ホウ素族)からVIIA族(ハロゲン族)までの全ての元素を含む。例えば、触媒は、促進量の1つ以上の硫黄化合物、1つ以上のリン化合物、1つ以上のホウ素化合物、1つ以上のハロゲン含有化合物、或いはその組み合わせを含むことができる。触媒は、ハロゲンの他に、主族元素もその元素形態に含むことができる。
【0042】
本発明の担体は、促進量の遷移金属又は2つ以上の遷移金属の混合物を含んでもよい。適切な遷移金属として、例えば、元素周期表のIIIB族(スカンジウム族)、IVB族(チタン族)、VB(バナジウム族)、VIB族(クロム族)、VIIB族(マンガン族)、VIIIB族(鉄、コバルト、ニッケル族)、IB族(銅族)及びIIB族(亜鉛族)の元素、且つ、その組み合わせを挙げることができる。更に通常、遷移金属は前周期遷移金属、即ち、例えば、ハフニウム、イットリウム、モリブデン、タングステン、レニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、ニオブなどのIIIB、IVB、VB又はVIB族、又はその組み合わせからなる。
【0043】
本発明の担体は、促進量の希土類金属又は2つ以上の希土類金属の混合物を含んでもよい。希土類金属は、原子番号57〜103の元素全てを含む。これら元素の例のいくつかとして、ランタン(La)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)が挙げられる。
【0044】
遷移金属又は希土類金属促進剤は、金属の単位で表わされる全触媒のグラム当たり約0.1ミクロモルからグラム当たり約10ミクロモルの量で一般的に存在しており、より一般的にはグラム当たり約0.2ミクロモルからグラム当たり約5ミクロモル、更により一般的にはグラム当たり約0.5ミクロモルからグラム当たり約4ミクロモルである。
【0045】
アルカリ金属は別として、これら促進剤は全て、例えば、ゼロ価金属或いは高価金属イオンを含むあらゆる適切な形態とすることができる。
【0046】
記載の促進剤のうち、レニウム(Re)が、エチレンのエポキシ化高選択性触媒用の特に有効な促進剤として好ましい。触媒中のレニウム成分は、あらゆる適切な形態とすることができるが、1つ以上のレニウム含有化合物(例えば、酸化レニウム)又は錯体がより一般的である。レニウムは、例えば、約0.001重量%から約1重量%の量で存在することができる。より一般的には、レニウムは、レニウム金属として表わされ、支持体を含む触媒の全重量に対して、例えば、約0.005重量%から約0.5重量%、更により一般的には約0.01重量%から約0.05重量%の量で存在している。
【0047】
別の態様において、本発明は、上述の担体から生成されるエチレンのエポキシ化触媒を意図している。触媒を生成するため、上記の特性を有する担体は、その上に触媒作用に効果的な量の銀を備えている。触媒は、担体上及び/又は内に銀前駆体化合物を沈着させるのに十分な適切な溶剤に溶解した銀のイオン、化合物、錯体及び/又は塩に担体を含浸することで生成される。例えば、過剰溶液含浸法、初期湿潤含浸法、吹き付け塗装など当分野で周知の従来の方法のいずれかにより、あらゆる所望の促進剤とともにレニウム及び銀に担体を含浸させ、組み合わせることができる。通常、担体材料は、十分な量の溶液が担体に吸収されるまで、銀含有溶液に接触して置かれる。担体の含浸に使用される銀含有溶液の量は、担体の細孔容積を満たすために必要な量未満であることが好ましい。銀含有溶液は、真空の適用により、担体内へ浸透させることができる。中間での乾燥が有る又は無い1回の含浸又は一連の含浸は、溶液中の銀化合物濃度に部分的に応じて使用されてもよい。含浸工程は、例えば、本明細書の一部として援用する米国特許第4,761,394号、米国特許第4,766,105号、米国特許第4,908,343号、米国特許第5,057,481号、米国特許第5,187,140号、米国特許第5,102,848号、米国特許第5,011,807号、米国特許第5,099,041号及び米国特許第5,407,888号に記載されている。様々な促進剤の前蒸着、共蒸着及び後蒸着には周知の工程が使用できる。
【0048】
含浸に有用な銀化合物には、例えば、シュウ酸銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀、カルボン酸銀、クエン酸銀、フタル酸銀、乳酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀及び高脂肪酸塩と、その組み合わせが含まれる。担体の含浸に使用される銀溶液は、あらゆる適切な溶媒を含むことができる。溶媒は、例えば、水ベース、有機ベース、又は、その組み合わせとすることができる。溶媒は、高極性、中程度の極又は非極性、又は、略または完全な非極性を含む、あらゆる適切なレベルの極性を有することができる。通常、溶媒は、溶液成分を可溶化するために十分な溶媒和力を有している。水ベース溶媒の幾つかの例として、水、及び水・アルコール混合物が挙げられる。有機系溶媒の幾つかの例として、アルコール(アルカノール類)、グリコール(アルキルグリコール類)、ケトン類、アルデヒド類、アミン類、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、グリム類(例えば、グリム、ジグリム、テトラグリム)など、及びその組み合わせが挙げられるが、これに限定されない。分子あたり1から約8つの炭素原子を有する有機系溶剤が好ましい。
【0049】
多種多様な錯化/可溶化剤は、含浸媒体中で所望の濃度になるよう銀を可溶化するために用いることができる。有用な錯化/可溶化成分として、アミン類、アンモニア、乳酸及びその組み合わせが挙げられる。例えば、アミンは、1から5つの炭素原子を有するアルキレンジアミンであってもよい。好適な一実施形態においては、溶液は、シュウ酸銀及びエチレンジアミンの水溶液からなる。錯化/可溶化剤は、銀1モルにつき約0.1から約5.0モルのエチレンジアミンの量で含浸溶液中に存在してもよく、好ましくは約0.2から約4.0モル、更に好ましいのは銀1モルにつき約0.3から約3.0モルのエチレンジアミンである。
【0050】
溶液中の銀塩の濃度は、一般的には、約0.1重量%から、使用される可溶化剤中に溶解可能な特定の銀塩の最大限までの範囲内である。銀が約0.5%から約45重量%の銀塩濃度が更に一般的であり、約5から約35重量%が更により一般的である。
【0051】
酸化エチレン(EO)触媒は、触媒作用に効果的な量の金属銀を含んでおり、エチレンと酸素から酸化エチレンを合成する際に触媒作用を及ぼす。銀は、耐熱性支持体の細孔の表面及び/又は全体にあってもよい。触媒作用に効果的な量の銀は、支持体を含む触媒の総重量に対して、例えば、金属として表わされる銀が約45重量%までとすることができる。金属として表わされる銀含有量は、触媒の総重量に対して約1%〜約40%がより一般的である。別の実施形態においては、銀含有量は、例えば、約1から35%、5から35%、1から30%、5から30%、1から25%、5から25%、1から20%、5から20%、8から40%、8から35%、8から30%、10から40%、10から35%、10から25%、12から40%、12から35%、12から30%又は12から25%とすることができる。
【0052】
高選択性触媒とするため、銀含有触媒にレニウムも含ませることが好ましい。レニウムは、銀の沈着の前(即ち、担体への事前組み込み)、同時又は後に上述の促進量で組み合わされる。
【0053】
1つ以上の他の促進成分のいずれも、銀の沈着の前、同時又は後に担体と組み合わせることができる。好適な一実施形態における追加の促進剤には、Cs、Li、W及びSから選択された1つ以上の成分が含まれている。
【0054】
銀及びいずれかの促進剤の含浸の後、含浸された担体は溶液から取り除かれ、銀化合物を金属銀に還元し、銀含有支持体から揮発性分解生成物を除去するのに十分な時間で焼成される。一般に、焼成は、約0.5から約35バールの範囲の反応圧力で、約200℃から約600℃、より一般的には約200℃から約500℃、更に一般的には約250℃から約500℃、更に一般的には約200℃又は300℃から約450℃の範囲の温度に、好ましくは段階的に、含浸された担体を加熱することにより行われる。一般に、温度が高いほど、必要な焼成時間は短い。含浸された支持体を熱処理するための技術では、加熱時間が広範囲であることが表されている。例えば、300秒未満の加熱を示す米国特許第3,563,914号、及び、触媒中の銀塩を還元するため100℃から375℃の温度で2から8時間加熱することを開示する米国特許第3,702,259号を参照されたい。
【0055】
焼成の際、含浸された支持体は、通常、窒素などの不活性ガスからなるガス雰囲気に晒される。不活性ガスは、還元剤を含んでもよい。
【0056】
別の態様において、本発明は、上述の触媒を使用した、酸素の存在下でエチレンを酸化エチレンに変換することによる酸化エチレンの気相製造法を意図している。一般に、酸化エチレン生成工程は、触媒の存在下で、約180℃から約330℃、更に一般的には約200℃から約325℃、より一般的には約225℃から約270℃の範囲の温度で、質量速度と所望の生産性に応じておよそ大気圧から約30気圧までさまざまな値をとり得る圧力で、酸素含有ガスとエチレンを継続的に接触させて行う。およそ大気圧から約500psiの範囲の圧力が一般的に用いられる。しかし、本発明の範囲内では、それよりも高圧が用いられてもよい。大規模な反応器内での滞留時間は、通常、およそ約0.1から約5秒である。エチレンから酸化エチレンへ酸化する通常の工程は、本発明の触媒の存在下での、固定床管型反応器におけるエチレンと分子酸素の気相酸化を含む。従来市販の固定床酸化エチレン反応器は、通常、複数の平行な細長い管(適切な外殻構造内)の形状をなしている。一実施形態において、外径およそ0.7から2.7インチ、内径0.5から2.5インチ、長さ15〜45フィートの管に、触媒が充填されている。
【0057】
本発明の触媒を、エチレンと分子酸素から酸化エチレンへの酸化において、特に選択的な触媒として示してきた。本発明の触媒の存在下でのそのような酸化反応を行う条件は、先行技術に記載されたものを広く含む。これは、例えば、適切な温度、圧力、滞留時間、希釈剤(例えば、窒素、二酸化炭素、蒸気、アルゴン、メタン又は他の飽和炭化水素類)、触媒作用を制御する緩和剤(例えば、1, 2‐ジクロロエタン、塩化ビニール又は塩化エチル)の有無、酸化エチレンの収率を増大させるためのリサイクル操作の採用或いは異なる反応器における一連の変換の適用の所望性、並びに酸化エチレン生成工程に選択されうる他の特殊条件に適用される。反応体として使用する分子酸素は慣用の供給源から得ることができる。適する酸素供給源は、比較的純粋な酸素、或いは、多量の酸素とそれより少量の1種以上の窒素、アルゴン又は空気などの希釈剤とからなる濃厚酸素流とすることができる。
【0058】
酸化エチレンの生成において、通常、反応体供給混合物は、約0.5から約45%のエチレンと約3から約15%の酸素を含んでおり、残りは窒素、二酸化炭素、メタン、エタン、アルゴンなどの物質を含む比較的不活性な材料からなる。通常、エチレンの一部のみが触媒を通過するごとに反応する。所望の酸化エチレン生成物を分離し、不活性成分及び/又は副生成物の無制御な形成を防止するため適当なパージ流と二酸化酸素を除去した後、通常未反応の材料が酸化反応器に戻される。例示目的のみとして、以下に、現行で市販されている酸化エチレン反応器ユニットで頻繁に用いられる条件を示す。気体時空間速度(GHSV)1500〜10,000h−1、反応器入口圧力150〜400psig、冷却剤温度180〜315℃、酸素変換レベル10〜60%、及び、酸化エチレン生産率(作業速度)触媒1立方メートルにつき毎時100〜300kgの酸化エチレン。通常、反応器入口の供給組成は、エチレン1〜40%、酸素3〜12%、CO0.3〜40%、エタン0〜3%、及び有機塩素化合物減速材の全濃度0.3〜20ppmvであり、供給物の残りの部分は、アルゴン、メタン、窒素又はその混合物からなる。
【0059】
別の実施形態の酸化エチレン生成工程においては、供給物への酸素含有ガスを添加を含んでおり、工程の効率が増している。例えば、米国特許第5,112,795号は、以下の一般的組成の供給ガスに5ppmの酸化窒素を加えることを開示している。酸素8体積%、エチレン30体積%、塩化エチル約5ppmwと、残りは窒素である。
【0060】
出来上がった酸化エチレンは、当分野で周知の方法を用いて反応生成物から分離され、取り出される。酸化エチレン工程はガスのリサイクル工程を含んでもよく、酸化エチレン生成物とあらゆる副生成物を十分に又は部分的に除去した後、一部又はほぼ全ての反応器排出物が反応器入口に再び入る。リサイクルの状態では、反応器へ吸気されるガスの二酸化炭素濃度は、例えば、約0.3から約6体積%であってもよい。
【0061】
本発明を更に説明するため、以下に実施例を示している。本発明の範囲は、ここに記載される例によって限定されることは一切ない。

比較例1
ムライト非含有、及び、ムライト含有支持体上に生成されたHAC触媒
【0062】
銀濃度、即ち、[Ag]11.6%、及び、セシウム濃度、即ち、[Cs]472ppmのムライト非含有α―アルミナ支持体上に、HAC触媒を生成した。
【0063】
別のHAC触媒を、[Ag]11.7%及び[Cs]440ppmのムライト含有(およそ9重量%のムライト)α―アルミナ担体上に生成した。
【0064】
その後、触媒1kgにつき毎時737gの酸化エチレンの重量作業速度(WWR)で、2つのHAC触媒に、促進老化試験を行った。
【0065】
触媒の性能結果を以下の表1に示す。表に示されるように、2つのHAC触媒は、担体がムライトを含むか含まないかに関わらず、1000時間を超えた場合の選択性において、同様の変化(即ち、ΔDS1000h =0)を示した。
【表1】

実施例2
ムライト非含有、及び、ムライト含有支持体上に生成されたHSC触媒
【0066】
以下に記載のHSC触媒は、以下の促進剤を含むα―アルミナ担体をベースとしている。Cs (CsOHとして)、Li(LiNO3として)、Re(HReO4として)、W(メタタングステン酸アンモニウムとして)及びS(硫酸アンモニウムとして)。促進剤濃度は選択性が高いときに安定性が最大となるよう最適化され、米国特許4,766,105号の実施例3〜10から7〜20にも見られる範囲内とした。
【0067】
HSC触媒を、上述の促進剤組成を有し[Ag]11.7%のムライト非含有α―アルミナ担体上に生成した。この触媒を、ここではHSC-1と呼ぶ。
【0068】
別のHSC触媒を、上述の促進剤組成を有し[Ag]14.5%のムライト含有(およそ9重量%のムライト)α―アルミナ担体上に生成した。この触媒を、ここではHSC-2と呼ぶ。
【0069】
別のHSC触媒を、上述の促進剤組成を有し[Ag]16.5%のムライト含有(およそ9重量%のムライト)α―アルミナ担体上に生成した。この触媒を、ここではHSC-3と呼ぶ。
【0070】
その後、重量作業速度(WWR)540(触媒1kgごとの毎時の酸化エチレンのg数)で、3つのHSC触媒に、HSC促進老化試験を行った。HSC触媒の性能結果を以下の表2に示す。表に示されるように、ムライトを含まないHSC触媒(HSC-1)は、1000時間を超えたときの選択性(ΔDS1000h)に4.6の変化を示した。これに対し、驚くことに、ムライトを含む2つのHSC触媒(即ち、HSC-2及びHSC-3)は、それぞれ<0.3及び0.8という顕著に低いΔDS1000hをそれぞれ示していることが分かる。従って、上記に示すデータから、先行技術のHSC触媒と比べ、同じ処理時間にわたる選択性の保持が向上したことで、本発明のムライト含有HSC触媒の安定性が著しく向上し、これにより、長寿命となっていることは明らかである。
【表2】

【0071】
発明者は、ムライトを含有してもHAS触媒が有益な効果を示さないのに対し、同じ濃度でムライトが担体に含まれる場合にHSC触媒は選択性の保持において顕著な向上を示し、それ故に、触媒の使用可能期間を向上させるという、驚くべき、且つ、予想外の発見をした。
【0072】
本発明の好適な実施形態であると現在考えられるものを示し、説明してきたが、本願に記載の本発明の精神と範囲とから逸脱することなしに別の、及び、更なる実施形態が可能であり、本願が、ここに記載する請求項の目的範囲内であらゆる改良を含むことを当業者は理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンのエポキシ化触媒用の担体であって、前記担体は、安定性を強化する量のムライトと組み合わせたアルミナからなる。
【請求項2】
前記アルミナは、α−アルミナであることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項3】
前記安定性を強化する量のムライトは、約0.5〜20%のムライトであることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項4】
前記安定性を強化する量のムライトは、約1〜15%のムライトであることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項5】
前記安定性を強化する量のムライトは、約1〜12%のムライトであることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項6】
前記安定性を強化する量のムライトは、約3〜15%のムライトであることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項7】
前記安定性を強化する量のムライトは、約3〜12%のムライトであることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項8】
促進量のレニウムを更に含む請求項1記載の担体。
【請求項9】
促進量のアルカリ又はアルカリ土類金属を更に含む請求項1記載の担体。
【請求項10】
促進量のセシウムを更に含む請求項1記載の担体。
【請求項11】
(a)安定性を強化する量のムライトと組み合わせたアルミナからなる担体と、
(b)前記担体上及び/又は内に沈着した触媒量の銀と、
(c)前記担体上及び/又は内に沈着した促進量のレニウムと、からなるエチレンのエポキシ化触媒。
【請求項12】
前記アルミナは、α−アルミナであることを特徴とする請求項11記載の触媒。
【請求項13】
前記安定性を強化する量のムライトは、約0.5〜20%のムライトであることを特徴とする請求項11記載の触媒。
【請求項14】
前記安定性を強化する量のムライトは、約1〜15%のムライトであることを特徴とする請求項11記載の触媒。
【請求項15】
前記安定性を強化する量のムライトは、約1〜12%のムライトであることを特徴とする請求項11記載の触媒。
【請求項16】
前記安定性を強化する量のムライトは、約3〜15%のムライトであることを特徴とする請求項11記載の触媒。
【請求項17】
前記安定性を強化する量のムライトは、約3〜12%のムライトであることを特徴とする請求項11記載の触媒。
【請求項18】
促進量のアルカリ又はアルカリ土類金属を更に含む請求項11記載の触媒。
【請求項19】
促進量のセシウムを更に含む請求項11記載の触媒。
【請求項20】
促進量のタングステンを更に含む請求項11記載の触媒。
【請求項21】
促進量の硫黄を更に含む請求項11記載の触媒。
【請求項22】
促進量のセシウム、リチウム、タングステン及び硫黄を更に含む請求項11記載の触媒。
【請求項23】
促進量のセシウム、リチウム及び硫黄を更に含む請求項11記載の触媒。
【請求項24】
酸素の存在下でエチレンから酸化エチレンへ蒸気相変換する方法であって、
(a)安定性を強化する量のムライトと組み合わせたアルミナからなる担体と、
(b)前記担体上及び/又は内に沈着した触媒量の銀と、
(c)前記担体上及び/又は内に沈着した促進量のレニウムと、からなる触媒の存在下でエチレンと酸素からなる反応混合物を反応させる方法。
【請求項25】
前記アルミナは、α−アルミナであることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記安定性を強化する量のムライトは、約0.5〜20%のムライトであることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記安定性を強化する量のムライトは、約1〜15%のムライトであることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項28】
前記安定性を強化する量のムライトは、約1〜12%のムライトであることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項29】
前記安定性を強化する量のムライトは、約3〜15%のムライトであることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項30】
前記安定性を強化する量のムライトは、約3〜12%のムライトであることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項31】
促進量のアルカリ又はアルカリ土類金属を更に含む請求項24記載の方法。
【請求項32】
促進量のセシウムを更に含む請求項24記載の方法。
【請求項33】
促進量のタングステンを更に含む請求項24記載の方法。
【請求項34】
促進量の硫黄を更に含む請求項24記載の方法。
【請求項35】
前記担体は、直径が少なくとも約0.01μmから約5μmまでの細孔を有することを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項36】
前記担体は、第1及び第2の細孔径分布からなる二峰性細孔径分布を有し、各細孔径分布の平均細孔径は異なることを特徴とする請求項1記載の担体。
【請求項37】
少なくとも1つの細孔径分布は、平均細孔径が0.01から5μmの範囲内にあることを特徴とする請求項36記載の担体。
【請求項38】
前記第1及び第2の細孔径分布は、平均細孔径がそれぞれ0.01から5μmの範囲内にあることを特徴とする請求項36記載の担体。
【請求項39】
前記担体は、直径が少なくとも約0.01μmから約5μmまでの細孔を有することを特徴とする請求項10記載の触媒。
【請求項40】
前記担体は、第1及び第2の細孔径分布からなる二峰性細孔径分布を有し、各細孔径分布の平均細孔径は異なることを特徴とする請求項10記載の触媒。
【請求項41】
少なくとも1つの細孔径分布は、平均細孔径が0.01から5μmの範囲内にあることを特徴とする請求項40記載の触媒。
【請求項42】
前記第1及び第2の細孔径分布は、平均細孔径がそれぞれ0.01から5μmの範囲内にあることを特徴とする請求項40記載の触媒。
【請求項43】
前記担体は、直径が少なくとも約0.01μmから約5μmまでの細孔を有することを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項44】
前記担体は、第1及び第2の細孔径分布からなる二峰性細孔径分布を有し、各細孔径分布の平均細孔径は異なることを特徴とする請求24記載の方法。
【請求項45】
少なくとも1つの細孔径分布は、平均細孔径が0.01から5μmの範囲内にあることを特徴とする請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記第1及び第2の細孔径分布は、平均細孔径がそれぞれ0.01から5μmの範囲内にあることを特徴とする請求項44記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−528611(P2011−528611A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518776(P2011−518776)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2009/048816
【国際公開番号】WO2010/008920
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(591105890)サイエンティフィック・デザイン・カンパニー・インコーポレーテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】SCIENTIFIC DESIGN COMPANY INCORPORATED
【Fターム(参考)】