説明

酸化チタンナノホール構造体及びその作製方法

【課題】デバイスの作製へ広く応用できる酸化チタンナノホール構造体及びその作製方法を提供する。
【解決手段】基板101上にチタン膜を成膜し、当該チタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、基板の表面に対して垂直な方向に延在し且つ酸化チタン膜102の表面まで達する複数の孔103を設け、酸化チタン膜102の底面が基板101の表面に接するように設ける。また、基板上に形成された導電膜の表面に接するように酸化チタン膜102を設けることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンのナノホール構造体及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタン(TiOx)は、光触媒や色素増感型太陽電池をはじめとして様々な分野で用いられている。これらの分野において酸化チタンをより効果的に利用するためには、触媒活性点を多く設けることや多量の色素分子を吸着させること等が有効であり、そのためには酸化チタンの比表面積を大きくすることが望まれる。酸化チタンの比表面積を増大させるには、酸化チタン薄膜をナノホール構造(ナノチューブ構造)として多孔質化することが有効な手法と考えられている。
【0003】
これまで、酸化チタンのナノホール構造の形成方法がいくつか提案されている。例えば、ゾル・ゲル法を用いてナノチューブを形成する方法や、酸化チタン粉末を水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液中で加熱処理する方法が提案されている。しかし、これらの方法で得られた酸化チタンのナノチューブをデバイスとして用いる場合には、得られた酸化チタンのナノチューブをインク化して基板上に印刷して形成する工程や、AFMを用いて一本ずつ電極間に配置して形成する工程が必要となる。AFMを用いて一本ずつナノチューブを配置する場合には、生産性が非常に悪くなる問題がある。また、ナノチューブをインク化して基板上に印刷する場合には、ナノチューブが凝集することや繊維状となることにより比表面積の制御が困難となる。さらに、基板に対してナノチューブを垂直方向に形成することが困難であり(図9(A)、(B)参照)、基板上にナノチューブを形成した後に当該ナノチューブの孔に色素を吸着させる等の処理を行うことができず、ナノチューブの内壁を活用することができなかった。
【0004】
また、チタン基板に陽極酸化処理を行うことにより、該チタン基板の表面に酸化チタンのナノホール構造(ナノチューブ構造)を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、この場合にはチタン基板全体が電極となるため、ナノホール構造体を用いてデバイスを作製する上で自由度が非常に制限されることとなる。特に、酸化チタンのナノホール構造を光電変換素子等へ利用する場合には、チタン基板側からの光が該チタン基板により遮断されてしまうという問題がある。また、一般的にチタン基板は平坦性が悪く、チタン基板上に形成される酸化チタンのナノホール構造の表面の平坦性が低くなるため(図10(A)、(B)参照)、別途表面処理等が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−507752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、デバイスの作製へ広く応用できる酸化チタンナノホール構造体及びその作製方法を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の一態様は、基板と、基板の表面に接するように設けられた酸化チタン膜とを有し、酸化チタン膜は、基板の表面に対して垂直な方向に延在し且つ酸化チタン膜の表面まで達する複数の孔を有している。
【0008】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の一態様は、基板と、基板上に形成された導電膜と、導電膜表面に接するように設けられた酸化チタン膜とを有し、酸化チタン膜は、導電膜の表面に対して垂直な方向に延在し且つ酸化チタン膜の表面まで達する複数の孔を有している。
【0009】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の一態様において、酸化チタン膜の底面を閉管構造とすることができる。
【0010】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の一態様において、基板として絶縁表面を有する基板を用いることが好ましい。絶縁表面を有する基板としては、ガラス基板、プラスチック基板、又は、酸化シリコン若しくは酸化アルミニウムなど金属酸化物や、ポリイミドもしくは絶縁レジストなどの有機材料等の等の絶縁材料で表面が被覆された基板であることが好ましい。
【0011】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の一態様において、酸化チタン膜の底面側に位置する孔の内径が、表面側に位置する孔の内径より小さいことが好ましい。
【0012】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の一態様において、酸化チタン膜が、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法などで形成されたチタンを主成分とする膜を陽極酸化することにより形成された膜であることが好ましい。
【0013】
本発明の光電変換素子の一態様は、上記酸化チタンナノホール構造体を有するものである。
【0014】
本発明のセンサ素子の一態様は、上記酸化チタンナノホール構造体を有するものである。センサ素子は、薄膜半導体式ガスセンサ、UVセンサ、pHセンサ、ケミカルセンサ、バイオセンサ等のセンサに適用することができる。
【0015】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一態様は、絶縁表面を有する基板上に、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法などを用いて、チタン膜を形成する第1の工程と、チタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、基板の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し且つ基板の表面に接する酸化チタン膜を形成する第2の工程とを有している。
【0016】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一態様は、絶縁表面を有する基板上に導電膜を形成した後、導電膜上にスパッタリング法、蒸着法又はMBE法などを用いて、チタン膜を形成する第1の工程と、チタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、導電膜の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し且つ導電膜の表面に接する酸化チタン膜を形成する第2の工程とを有している。
【0017】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一態様において、第1の工程において、チタン膜が形成される表面の表面粗さ(Rmax)を10nm以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一態様において、チタン膜を、応力が±1000MPa以内であり、且つ結晶構造が(002)面及び/又は(101)面を主成分とする膜で形成することが好ましい。
【0019】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一態様において、酸化チタン膜をチタン膜より厚く形成することが好ましい。
【0020】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一態様は、絶縁表面を有する基板上に、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法などを用いて、チタン膜を形成する第1の工程と、チタン膜上に選択的に保護膜を形成することにより、チタン膜の一部を露出させる第2の工程と、露出したチタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、基板の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し且つ基板の表面に接する酸化チタン膜を形成する第3の工程とを有している。
【0021】
本発明の酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一態様は、基板上に、選択的に導電膜を形成する第1の工程と、基板上及び導電膜上に、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法などを用いて、チタン膜を形成する第2の工程と、導電膜上に形成されたチタン膜を選択的に除去する第3の工程と、基板上に設けられたチタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、基板の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し且つ基板の表面に接する酸化チタン膜を形成する第4の工程とを有している。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、基板の表面に対して垂直な方向に延在する複数の孔を有する酸化チタンのナノホール構造を当該基板に接するように設けることにより、デバイスの作製へ広く応用できる酸化チタンナノホール構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る酸化チタンナノホール構造体を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る酸化チタンナノホール構造体の作製方法の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る酸化チタンナノホール構造体を色素増感型太陽電池へ応用する場合を示す図である。
【図7】本発明の実施例に係る酸化チタンナノホール構造体の(A)表面SEM像、(B)断面SEM像である。
【図8】チタン基板と酸化シリコン上に成膜したチタン膜の結晶構造について説明する図である。
【図9】従来の酸化チタンナノチューブ構造体の作製方法を示す図である。
【図10】従来の酸化チタンナノホール構造体の作製方法を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る酸化チタンナノホール構造体をセンサ素子へ応用する場合を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る酸化チタンナノホール構造体をセンサ素子へ応用する場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者は、チタンの膜特性や陽極酸化処理条件を制御することにより、陽極酸化処理により酸化チタン膜に形成される多数の孔が成長する方向や孔径を制御できることを見出した。これにより、絶縁表面を有する基板上に、当該基板の表面と垂直な方向に多数の孔を有する高アスペクト比の酸化チタン膜のナノホール構造(ナノチューブ構造)を直接形成することが可能となった。
【0025】
チタンの膜特性の制御は、基板上にチタン膜を成膜することにより制御することができ、例えば、チタン膜が形成される基板の種類や表面状態を変えることにより、チタン膜の結晶構造や平坦性を制御することができる。図8に、基板上に成膜したチタン膜の結晶構造と、チタン基板の結晶構造を測定した結果を示す。なお、図8(A)は、チタン基板の測定結果を示しており、図8(B)は、基板上に成膜したチタン膜の測定結果を示している。
【0026】
図8より、チタン基板では複数の結晶面のピークが平均的に観察されたが、チタン膜を基板(ここでは、Si基板上に形成された酸化シリコン膜)上に成膜した場合には、特定の結晶面についてのピークが観察され、特定の面((002)面と(101)面)を主成分とする膜が得られた。また、チタン基板の表面は金属光沢が弱く、表面粗さが1.1μmであったのに対して、チタン膜の表面は金属光沢が強く、表面粗さが8nmであった。このように、基板上にチタン膜を成膜することによりチタンの膜特性を制御できる。
【0027】
また、チタン膜の膜特性の制御に加えて、陽極酸化処理に用いる電解液や印加電圧を調整することにより、酸化チタン膜に形成される孔の成長方向や孔径をより効果的に制御できる。例えば、低電圧であれば孔径が小さくなり、高電圧であれば孔径は大きくなる。また、成膜するチタン膜の調整や、陽極酸化時間を調整することで、孔の深さを容易に調整できる。このように、基板に成膜されたチタン膜に陽極酸化処理を行うことによって、孔径や深さ、孔の方向が制御され均一性が高い酸化チタンのナノホール構造を形成することが可能となる。以下に、図面を参照して、酸化チタンナノホール構造体及びその製造方法について具体的に説明する。
【0028】
まず、図1を参照して酸化チタンナノホール構造体について説明する。なお、図1において、図1(A)は酸化チタンナノホール構造体の断面の模式図を示し、図1(B)は斜視図を示している。
【0029】
酸化チタンナノホール構造体100は、絶縁表面を有する基板101と、当該基板101上に形成された酸化チタン膜102とを有し、酸化チタン膜102は、基板101の表面に対して垂直方向に延在した複数の孔103を有している。また、酸化チタンナノホール構造体100において、複数の孔103は酸化チタン膜102の表面まで達するように設けられており、酸化チタン膜102の底面が基板101表面に接している(図1(A)、(B)参照)。なお、基板101の表面に対して垂直方向とは、基板101の表面に対して完全に垂直(90°)である必要はなく、延在する孔103の軸方向と基板101表面とのなす角度が85°以上95°以内であればよい。
【0030】
このように、基板101上に、当該基板101の表面と垂直な方向に多数の孔を有する酸化チタン膜のナノホール構造(ナノチューブ構造)を形成することにより、酸化チタン膜102の比表面積を増大すると共に、ナノホール構造体を用いてデバイスを形成する場合に、孔103の利用(例えば、孔103への色素の吸着等)を容易に行うことができる。また、基板101の表面に接して酸化チタンのナノホール構造を形成することにより、デバイスとして使用する際に、任意の電極の取出し(電極形成位置のコントロール)が可能となる。また、基板101を光透過性の材料で設けることにより、基板101側を透過して酸化チタン膜102へ光を照射することが可能となり、デバイスへの適用について応用性を広げることができる。これは、チタン基板に陽極酸化を行うことにより酸化チタンのナノホール構造を形成する場合と比較して大きな利点となる。
【0031】
基板101は、絶縁表面を有しているものであればよく、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。また、ガラス基板、プラスチック基板、シリコン基板等の表面を酸化シリコン膜や酸化アルミニウム膜など金属酸化物や、ポリイミドもしくは絶縁レジストなどの有機材料等の絶縁材料で被覆した基板を用いてもよい。
【0032】
また、図1では、絶縁表面を有する基板101上に酸化チタン膜のナノホール構造を形成する場合を示したが、導電膜上に酸化チタン膜のナノホール構造を設けた構成としてもよい。導電膜として透明導電膜を、基板として透明基板を用いることにより、該透明導電膜を電極として機能させると共に、透明導電膜を透過して酸化チタン膜102へ光を照射することが可能となる。
【0033】
なお、酸化チタン膜102は、基板101上に形成されたチタン膜に陽極酸化処理を行うことにより形成することができる。この場合、基板101の表面に接する酸化チタン膜102の底面は閉管構造となる。また、陽極酸化処理の条件を調整することにより、酸化チタン膜102に設けられる孔103の孔径を制御することができる。例えば、基板101の表面に対して垂直方向に延在した孔103において、酸化チタン膜102の底面側(基板101側)に位置する孔103の内径を、表面側に位置する孔103の内径より小さくなるように形成することができる。これにより、単純なナノチューブより開方向で孔径が大きいため色素、ガスなどの物質の導入が容易となる。
【0034】
次に、図1で示した酸化チタンナノホール構造体100の作製方法について詳しく説明する。
【0035】
まず、基板101を準備した後(図2(A)参照)、該基板101上にチタン膜105を形成する(図2(B)参照)。チタン膜105は、スパッタリング法、蒸着法又はMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いて形成することができる。また、チタン膜105は、後に行う陽極酸化処理において、容易にチタン膜105を全て酸化して酸化チタン膜102とすることも、途中まで酸化し下部チタン膜を導電体として利用することも出来る。ここでチタン膜105については100%純金属チタンである必要はなく、金属チタンが主成分であれば良く、例えば、Ba、Sr、Li、Ta、Zn、Al等の異種元素が添加されていてもかまわない。これにより、陽極酸化後の酸化物中に添加元素が取り込まれ、材料特性を調整することが可能となる。
【0036】
次に、チタン膜105に陽極酸化処理を行う(図2(C)参照)。陽極酸化処理を行うことにより、基板101表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔103を有する酸化チタン膜102を形成することができる。また、陽極酸化処理の条件を制御して基板101に接するチタン膜105まで酸化することにより、酸化チタン膜102が基板101の表面に接する構成とすることができる。この場合、基板101の表面に接する酸化チタン膜102の底面は閉管構造となる。
【0037】
また、基板101として表面が平坦である基板を用いることが好ましい。酸化チタン膜102の表面の平坦性は、基板101に成膜されるチタン膜105の表面粗さに依存するためである。具体的には、基板101の表面粗さ(Rmax)を10nm以下とすることが好ましい。なお、チタン基板を用いる場合は、平坦化処理行わなければならず作製工程が煩雑となってしまうが、基板101としてガラス基板やシリコン基板を用いる場合には、成膜後の状態で基本的に平坦であり、平坦化処理が不要となる為、作製工程を単純化できる。
【0038】
また、酸化チタン膜102に形成される複数の孔103が成長する方向を制御する(孔103を基板101表面に対して垂直方向に成長させる)には、チタン膜105の結晶構造等の膜特性を制御することが好ましい。具体的には、チタン膜105を、応力が±1000MPa以内であり、且つ結晶構造が(002)面及び/又は(101)面を主成分とする膜で形成することが好ましい。
【0039】
陽極酸化処理は、電解液として、HF、LiF、NaF、KF、NHF、HClOx、HCl等のハロゲン化物を1種以上含み、溶媒として、水、若しくはエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類を一種以上含む溶液を用いて行うことができる。
【0040】
陽極酸化処理の条件を制御することにより、酸化チタン膜102に形成される孔の孔径や長さを制御することができる。例えば、酸化チタンナノホール構造体において、酸化チタンのナノホール構造体(ナノチューブ構造体)の外径と酸化チタン膜102の膜厚(ナノホール構造体の膜厚)の比(アスペクト比)が50以上となるように形成することが好ましい。この場合、ナノホール構造体の膜厚を0.5μm以上、ナノホール構造体の外径を15nm〜200nm、内径を14nm〜180nmに形成することが好ましい。
【0041】
また、チタン膜105の膜厚より、酸化チタン膜102の膜厚(酸化チタンのナノホール構造の膜厚)が大きくなるように陽極酸化処理を行うことが好ましい。この場合、ホール孔深さ(チューブ長)が深く(長く)なり、より高アスペクト比を有する酸化チタンナノホール構造体を形成することができる)。
【0042】
図2に示した作製方法において、チタン膜105の陽極酸化処理後に、得られた酸化チタン膜102に熱処理を行うことにより、該酸化チタン膜102の結晶構造をアナターゼ型としてもよい。酸化チタン膜102の結晶構造をアナターゼ型とすることにより、より光触媒機能を向上させることが出来る。
【0043】
以上の工程により、酸化チタンナノホール構造体を形成することができる。図2に示すように、基板101上に設けられたチタン膜105に陽極酸化処理を行うことにより、直接基板101上に酸化チタン膜102を形成することによって、基板101の微細加工ラインとの整合性を向上させることができる。また、基板101の表面に接して酸化チタンのナノホール構造を形成することにより、デバイスとして使用する際に、任意の電極の取出し(電極形成位置のコントロール)が可能となる。
【0044】
なお、上記図2では、絶縁表面を有する基板101上に酸化チタンのナノホール構造を形成する場合を示したが、これに限られない。導電膜上に酸化チタンのナノホール構造を形成してもよい。この場合の作製方法について、図3を参照して説明する。
【0045】
まず、基板101を準備した後(図3(A)参照)、該基板101上に導電膜104を形成する(図3(B)参照)。導電膜104は、フッ素ドープ酸化スズ:FTO(Fluorine doped tin oxide)、酸化インジウムスズ:ITO(Indium Tin Oxide)などの金属酸化物透明導電膜や、Au,Ag,Cu,Pt,Alなどの金属で形成することができる。
【0046】
次に、導電膜104上にチタン膜105を形成する(図3(C)参照)。チタン膜105は、上述したようにスパッタリング法、蒸着法又はMBE法などを用いて形成することができる。
【0047】
次に、チタン膜105に陽極酸化処理を行う(図3(D)参照)。陽極酸化処理を行うことにより、導電膜104の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔103を有する酸化チタン膜102を形成することができる。また、導電膜104に接するチタン膜105まで酸化することにより、酸化チタン膜102が導電膜104の表面に接する構成とすることができる。なお、導電膜104は、基板101をガラスとして裏面からの光を利用する場合はFTO,ITO等の透明導電材料が好ましく、抵抗値を下げる必要がある場合は、Au、Ag、Cu、Pt、Al等の低抵抗材料が導電膜104として好ましい。
【0048】
以上の工程により、導電膜上に酸化チタンのナノホール構造を形成することができる。上記作製方法を用いることにより、チタンと異なる導電膜上に酸化チタンのナノホール構造を形成することができる。また、導電膜104として、光透過性の導電材料を用いることによって、導電膜104を介して酸化チタン膜102へ光を照射することが可能となり、デバイスへの適用について応用性を広げることができる。
【0049】
また、本実施の形態で示す酸化チタンナノホール構造体において、基板101上又は導電膜104上の所望の領域に(必要な領域に限定して)、酸化チタン膜102を選択的に形成することができる。以下に、基板101上に酸化チタンのナノホール構造を選択的に形成する場合について、図4を参照して説明する。
【0050】
まず、基板101を準備した後(図4(A)参照)、該基板101上に、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法などを用いてチタン膜105を形成する(図4(B)参照)。次に、チタン膜105上に選択的に保護膜106を形成することにより、チタン膜105の一部を露出させる。例えば、チタン膜105上に樹脂等の絶縁膜を形成した後、フォトリソグラフィ工程を用いて当該絶縁層をエッチングすることにより、所望の領域に限りチタン膜105を露出させることができる(図4(C)参照)。
【0051】
次に、チタン膜105の露出した部分に陽極酸化処理を行うことにより、該露出した部分において、基板101表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し、且つ基板101に接する酸化チタン膜102を形成することができる(図4(D)参照)。次に、保護膜106及びチタン膜105を除去することにより、基板101の所望の領域に酸化チタンのナノホール構造を形成することができる(図4(E)参照)。
【0052】
なお、図4では、絶縁表面を有する基板101上の所望の領域に酸化チタンのナノホール構造を形成する場合を示したが、基板101を導電膜とすることにより、導電膜上の所望の領域に酸化チタンのナノホール構造を形成することもできる。
【0053】
続いて、基板101上に酸化チタンのナノホール構造を選択的に設ける作製方法について、上記図4に示した方法と異なる方法について図5を参照して説明する。
【0054】
まず、基板101上に導電膜107を選択的に形成する。例えば、基板101の全面に導電膜107を形成した後、フォトリソグラフィ工程を用いて該導電膜107をパターニングすることにより、基板101の所望の領域に導電膜107を残存することができる(図5(A)、(B)参照)。導電膜107は、導電膜104同様、FTO,ITOなどの酸化物透明導電膜や、Au、Ag、Cu、Pt、Alなどの金属を用いて形成することができる。
【0055】
次に、導電膜107上に、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法などを用いてチタン膜105を形成する(図5(C)参照)。チタン膜105は、基板101上及び導電膜107上に形成される。次に、基板101と接する領域を残存させるように、チタン膜105をパターニングする(図5(D)参照)。つまり、導電膜107上に形成されたチタン膜105を除去する。
【0056】
次に、残存したチタン膜105に陽極酸化処理を行うことにより、基板101表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し、且つ基板101に接する酸化チタン膜102を形成することができる(図5(E)参照)。図5(E)に示すように、導電膜107の間に酸化チタンのナノホール構造を設けることにより、電極間の酸化チタンの電気的・光学的特性変化を測定することで薄膜半導体ガスセンサ、UVセンサ等のセンサに応用できる。
【0057】
本実施の形態で示した、酸化チタンナノホール構造体は、センサ、光電変換素子、光触媒等の様々なデバイスへ応用することができる。以下に、酸化チタンナノホール構造体を色素増感型太陽電池へ応用する場合(図6参照)、センサへ応用する場合(図11、図12参照)について説明する。
【0058】
図6は、光透過性の基板201上に形成された透明電極204に接して酸化チタン膜202(酸化チタンのナノホール構造)が設けられ、当該酸化チタンのナノホール構造に色素203が吸着された色素増感型太陽電池200を示している。なお、色素増感型太陽電池200において、光透過性の基板207上に形成された対向電極206と色素203が吸着された酸化チタン膜202との間には、ヨウ素化合物溶液等の電解質205が充填されている。このように、酸化チタンナノホール構造に色素を吸着して色素増感型太陽電池を形成することにより、従来酸化チタンナノ粒子用いた場合の粒子間の直列抵抗の増加や、不要部分へのリーク電流を抑制できる。
【0059】
なお、図6に示す構造は、上記図3に示した作製プロセスを適用することにより形成することができる。つまり、本実施の形態で示す作製工程を適用することにより、陽極酸化処理を用いて、透明電極204上に酸化チタンのナノホール構造を直接形成することができる。また、本実施の形態で示した作製方法により得られた酸化チタンのナノホール構造は、透明電極204の表面に対して垂直方向に延在した複数の孔を有しているため、色素203の吸着を容易に行うことが可能となる。
【0060】
図11は、絶縁基板211上に形成された櫛歯電極213aと櫛歯電極213b間に酸化チタン膜212(酸化チタンのナノホール構造)が設けられ、当該酸化チタンのナノホール構造を介して櫛歯電極213aと櫛歯電極213bとが電気的に接続されたセンサ素子210を示している。櫛歯電極213aと櫛歯電極213b間に設けられた酸化チタン膜212の気体や紫外線等の外界変化による電気的・光学的変化を測定することでガスセンサやUVセンサ等の各種センサとして用いることができる。この様に酸化チタンのナノホール構造をセンサ素子として用いる場合、本実施の形態で示す酸化チタンナノホール構造は、孔径、長さ等の形状を容易に制御可能なため、測定物質に対する感度・選択性を向上させる事ができる。
【0061】
なお、図11に示す構造は、上記図5に示した作製プロセスを適用することにより形成することができる。つまり、本実施の形態で示す作製工程を適用することにより、局所的陽極酸化処理を用いて、櫛歯電極間に酸化チタンのナノホール構造を容易に直接形成することが可能となる。
【0062】
図12は、流路を構成する基板221表面に酸化チタン膜222(酸化チタンのナノホール構造)を設けることにより、酸化チタンのナノホール構造をマイクロ流路220に適用した場合を示している。流路中液体による、酸化チタン膜222の電気的・光学的変化を測定することでpHセンサ、ケミカルセンサ、バイオセンサ等に利用できる。また、本実施の形態で示す酸化チタンナノホール構造は、比表面積を増加させることができるためマイクロリアクターとしての効率を向上させることもできる。
【0063】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、適宜変更して実施することができる。例えば、上記実施の形態における材質、パターン構成、サイズ、処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
まず、シリコン基板を準備した後、当該シリコン基板を熱酸化して酸化シリコンを形成し、この酸化シリコン表面上にスパッタ法を用いて膜厚が1μmのチタン膜を成膜した。
【0066】
次に、酸化シリコン表面上に形成されたチタン膜に陽極酸化処理を行い、酸化チタンのナノホール構造を形成した。陽極酸化処理は、NHFとエチレングリコールを含む溶液(容積比(NHF:エチレングリコール=10:485))を用い、印加電圧40V、10分の条件で行った。
【0067】
陽極酸化処理により基板上に形成された酸化のチタンナノホール構造について、SEMにより観察した結果を図7に示す。なお、図7(A)は、酸化チタンナノホール構造の上面SEM像を示し、図7(B)は、酸化チタンナノホール構造の断面SEM像を示している。
【0068】
図7より、基板に接して膜厚が2.89μmの酸化チタンのナノホール構造が形成された。また、酸化チタンのナノホール構造は、基板の表面に対して垂直方向に延在した複数の孔を有していることが確認できた。
【符号の説明】
【0069】
100 酸化チタンナノホール構造体
101 基板
102 酸化チタン膜
103 孔
104 導電膜
105 チタン膜
106 保護膜
107 導電膜
200 色素増感型太陽電池
201 基板
202 酸化チタン膜
203 色素
204 透明電極
205 電解質
206 対向電極
207 基板
210 センサ素子
211 基板
212 酸化チタン膜
213a 櫛歯電極
213b 櫛歯電極
220 マイクロ流路
221 基板
222 酸化チタン膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の表面に接するように設けられた酸化チタン膜とを有し、前記酸化チタン膜は、前記基板の表面に対して垂直な方向に延在し且つ前記酸化チタン膜の表面まで達する複数の孔を有している酸化チタンナノホール構造体。
【請求項2】
基板と、前記基板上に形成された導電膜と、前記導電膜表面に接するように設けられた酸化チタン膜とを有し、前記酸化チタン膜は、前記導電膜の表面に対して垂直な方向に延在し且つ前記酸化チタン膜の表面まで達する複数の孔を有している酸化チタンナノホール構造体。
【請求項3】
前記基板が絶縁表面を有する基板である請求項1又は請求項2に記載の酸化チタンナノホール構造体。
【請求項4】
前記絶縁表面を有する基板が、ガラス基板、プラスチック基板又は絶縁材料で表面が被覆された基板である請求項3に記載の酸化チタンナノホール構造体。
【請求項5】
前記酸化チタン膜の底面が閉管構造である請求項1から請求項4のいずれかに記載の酸化チタンナノホール構造体。
【請求項6】
前記酸化チタン膜の底面側に位置する前記孔の内径が、表面側に位置する前記孔の内径より小さい請求項1から請求項5のいずれかに記載の酸化チタンナノホール構造体。
【請求項7】
前記酸化チタン膜は、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法で形成されたチタンを主成分とする膜を陽極酸化することにより形成された膜である請求項1から請求項6のいずれかに記載の酸化チタンナノホール構造体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載された酸化チタンナノホール構造体を有する光電変換素子。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載された酸化チタンナノホール構造体を有するセンサ素子であって、薄膜半導体式ガスセンサ、UVセンサ、pHセンサ、ケミカルセンサ及びバイオセンサからなる群より選ばれたセンサに適用されるセンサ素子。
【請求項10】
絶縁表面を有する基板上に、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法を用いて、チタン膜を形成する第1の工程と、
前記チタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、前記基板の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し且つ前記基板の表面に接する酸化チタン膜を形成する第2の工程と、を有する酸化チタンナノホール構造体の作製方法。
【請求項11】
絶縁表面を有する基板上に導電膜を形成した後、前記導電膜上にスパッタリング法、蒸着法又はMBE法を用いて、チタン膜を形成する第1の工程と、
前記チタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、前記導電膜の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し且つ前記導電膜の表面に接する酸化チタン膜を形成する第2の工程と、を有する酸化チタンナノホール構造体の作製方法。
【請求項12】
前記第1の工程において、前記チタン膜が形成される表面の表面粗さ(Rmax)を10nm以下とする請求項10又は請求項11に記載の酸化チタンナノホール構造体の作製方法。
【請求項13】
前記第1の工程において、前記チタン膜を、応力が±1000MPa以内であり、且つ結晶構造が(002)面及び/又は(101)面を主成分とする膜で形成する請求項10から請求項12のいずれかに記載の酸化チタンナノホール構造体の作製方法。
【請求項14】
前記酸化チタン膜を前記チタン膜より厚く形成する請求項10から請求項13のいずれかに記載の酸化チタンナノホール構造体の作製方法。
【請求項15】
絶縁表面を有する基板上に、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法を用いて、チタン膜を形成する第1の工程と、
前記チタン膜上に選択的に保護膜を形成することにより、前記チタン膜の一部を露出させる第2の工程と、
前記露出したチタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、前記基板の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し且つ前記基板の表面に接する酸化チタン膜を形成する第3の工程と、を有する酸化チタンナノホール構造体の作製方法。
【請求項16】
基板上に、選択的に導電膜を形成する第1の工程と、
前記基板上及び前記導電膜上に、スパッタリング法、蒸着法又はMBE法を用いて、チタン膜を形成する第2の工程と、
前記導電膜上に形成されたチタン膜を選択的に除去する第3の工程と、
前記基板上に設けられた前記チタン膜に陽極酸化処理を行うことにより、前記基板の表面に対して垂直な方向に延在した複数の孔を有し且つ前記基板の表面に接する酸化チタン膜を形成する第4の工程と、を有する酸化チタンナノホール構造体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−47014(P2011−47014A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197741(P2009−197741)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】