説明

酸化チタン複合体粒子、その分散液、およびそれらの製造方法

【課題】酸化チタン粒子の超音波や紫外線により励起される触媒活性を十分に発揮しながら、その血中滞留性および癌細胞への集積性を向上できる、酸化チタン複合体粒子およびその分散体の提供。
【解決手段】この酸化チタン複合体粒子は、酸化チタン粒子の表面に、リガンド分子であるドーパミンを介してノニオン性の水溶性高分子を結合したものである。この酸化チタン複合体粒子は、超音波や紫外線の照射により細胞毒となり、癌細胞等の殺対象となる細胞を効率良く殺傷することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、酸化チタン粒子の表面を水溶性高分子で修飾した酸化チタン複合体粒子、その分散液、およびそれらの製造方法に関するものである。この酸化チタン複合体粒子は、超音波や紫外線等の照射を受けて細胞毒となることができるため、癌細胞等の細胞を殺傷する殺細胞剤、あるいは患部に超音波を照射することにより行われる超音波癌治療を促進するための超音波癌治療促進剤として利用可能である。
【背景技術】
【0002】
背景技術
酸化チタンはpH6前後に等電点を有すると言われている。このため、酸化チタン粒子は中性付近の水系溶媒中では凝集を生じてしまい、これを均一に分散させることは極めて難しい。そのため、酸化チタン粒子を水系の分散媒に均一に分散させるため、今まで種々の試みがなされてきた。
【0003】
PEG(ポリエチレングリコール)を分散剤として添加して、分散媒中における酸化チタン粒子の分散性を向上させることが知られている(特許文献1(特開平2−307524号公報)および特許文献2(特開2002−60651号公報)参照)。
【0004】
一方、近年、ドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いる担体として、極めて高い分散性の金属微粒子や半導体微粒子が求められている。このような目的のために、微粒子にPEGを結合させる手法も知られている。例えば、金属微粒子あるいは半導体微粒子にチオール基を介してPEGを結合させることが知られている(特許文献3(特開2003−80903号公報)および特許文献4(特開2004−300253号公報)参照)。また、金属微粒子、金属酸化物微粒子、あるいは半導体微粒子にメルカプト基または3官能のシラノール基を介してPEGを結合させることも知られている(特許文献5(特開2001−200050号公報)。しかしながら、これらの技術は、酸化チタン粒子への応用には適さない。これは、チオール基やメルカプト基は酸化チタンに安定に結合することができず、また、3官能のシラノール基にあっては相互に三次元的に縮合重合して重合物で酸化チタン粒子の表面を覆い尽くしてしまい酸化チタンの触媒活性を低下させてしまうおそれがあるためである。
【0005】
また、酸化チタン微粒子に、ポリアクリル酸等の親水性高分子を、カルボキシル基を介してエステル結合させた、表面改質酸化チタン微粒子も知られている(特許文献6(WO2004/087577)参照)。この技術は、ポリアクリル酸等といったアニオン性ポリマーの使用を念頭としたものである。
【0006】
さらに、2〜3mm粒度の酸化チタンに35ないし42kHzの超音波照射を行い、ヒドロキシラジカルを発生させることにより有機物を分解させる技術も提案されている(例えば、特許文献7(特開2003−26406号公報)参照)。
【0007】
ところで、TiO2等の金属酸化物の表面にエンジオールリガンドを結合させて、ナノ粒子の光学特性を変える技術が知られているが(例えば、非特許文献1(T.Rajh, et al., J. Phys. Chem. B 2002, 106, 10543-10552)参照)、この技術はポリマーを金属酸化物に結合させる技術ではない。
【0008】
【特許文献1】特開平2−307524号公報
【特許文献2】特開2002−60651号公報
【特許文献3】特開2003−80903号公報
【特許文献4】特開2004−300253号公報
【特許文献5】特開2001−200050号公報
【特許文献6】WO2004/087577
【特許文献7】特開2003−26406号公報
【非特許文献1】T.Rajh, et al., J. Phys. Chem. B 2002, 106, 10543-10552
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
酸化チタン粒子の超音波や紫外線により励起される触媒活性を十分に発揮させながら、その血中滞留性および癌細胞への集積性を向上できる、酸化チタン複合体粒子およびその分散体の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、今般、酸化チタン粒子の表面にリガンド分子を含んでなり、さらに該リガンド分子を介して該酸化チタン粒子の表面にノニオン性の水溶性高分子が結合されてなり、該リガンド分子はドーパミンであることにより、酸化チタン粒子の超音波や紫外線により励起される触媒活性を十分に発揮させながら、その血中滞留性および癌細胞への集積性を向上できるとの知見を得た。
【0011】
したがって、本発明は、酸化チタン粒子の超音波や紫外線により励起される触媒活性を十分に発揮させながら、その血中滞留性および癌細胞への集積性を向上できる、酸化チタン複合体粒子およびその分散体の提供をその目的としている。すなわち、本発明の酸化チタン複合体粒子によれば、殺対象が癌細胞の場合にあっては、超音波や紫外線による癌の治療効果を著しく向上することができる。そのため、本発明の酸化チタン複合体粒子は、患部に超音波を照射することにより行われる超音波癌治療を促進するための超音波癌治療促進剤としても利用可能である。
【0012】
そして、本発明による酸化チタン複合体粒子は、
酸化チタン粒子と、リガンド分子と、ノニオン性の水溶性高分子とを含み、
前記酸化チタン粒子の表面に、前記リガンド分子を介してノニオン性の水溶性高分子が結合されてなる酸化チタン複合体粒子であって、前記リガンド分子はドーパミンであること
を特徴とするものである。
【0013】
また、本発明による分散液は、上記酸化チタン複合体粒子と、該粒子が分散される溶媒とを含んでなるものである。
【0014】
さらに、本発明の酸化チタン複合体粒子の製造方法は、
非プロトン系溶媒中に、酸化チタン粒子と、ドーパミンで修飾されたノニオン性の水溶性高分子とを分散させ、
得られた分散液を80〜220℃で加熱して、酸化チタン複合体粒子を得ること
を含んでなる。
【0015】
さらに、本発明による酸化チタン複合体粒子は、
該酸化チタン複合体粒子の分散液を乾燥した、酸化チタン複合体粒子の乾燥体
を含んでなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来なされていなかった、酸化チタン粒子の超音波や紫外線により励起される触媒活性を十分に発揮させながら、その血中滞留性および癌細胞への集積性を向上できる、酸化チタン複合体粒子およびその分散体の提供をできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
酸化チタン複合体粒子およびその分散体
本発明による酸化チタン複合体粒子は、酸化チタン粒子と、ノニオン性の水溶性高分子とを含む。図1に、酸化チタン複合体粒子の一例を示す。図1に示されるように、酸化チタン複合体粒子は、酸化チタン粒子1の表面にノニオン性の水溶性高分子2が結合されたものである。酸化チタン粒子1と水溶性高分子2との結合は、リガンド分子であるドーパミンを介して形成される。ドーパミンはジオール基およびアミノ基を有する。すなわち、これらの官能基は酸化チタンとの間で強固な結合を形成するため、酸化チタン粒子の高い触媒活性にかかわらず水溶性高分子の結合を保持することが可能である。なお、本発明における結合形態は、血中滞留性確保の観点から、体内への投与後24〜72時間後に分散性が確保されている程度の結合形態であればよい。もっとも、生理条件での分散安定性に優れ、かつ超音波や紫外線照射後もポリマーの遊離がなく正常細胞へのダメージが少ない点で、共有結合であるのが望ましい。
【0018】
リガンド分子であるドーパミンは、3官能シラノール基のような相互に三次元的に縮合重合して重合物で酸化チタン粒子の表面を覆い尽くしてしまう官能基とは異なり、官能基同士で重合することがないため、図1に示されるように酸化チタン粒子の表面に剥き出しの部分を多く確保することができると考えられる。その結果、表面が重合体で覆われることによって起こりうる失活を抑制しつつ、酸化チタン粒子の触媒活性を十分に発揮させることができる。
【0019】
そして、酸化チタン粒子の表面に結合した水溶性高分子はノニオン性であるため、電荷を帯びることなく、酸化チタン粒子の分散が困難とされる中性付近の水系溶媒中であっても、水和により酸化チタン複合体粒子を高度に分散させることができる。また、水溶性高分子は無電荷であるため、血中タンパク質が静電気的に吸着しにくくなるので、細網内皮系への取り込み、腎排泄、肝臓取り込み等を回避しやすくなり、目的部位(腫瘍)に到達できるに足る血中滞留性を確保することができる。しかも、無電荷の水溶性高分子を用いることで、癌細胞表面に高密度に到達しやすく、癌細胞への集積性にも優れる。したがって、本発明の酸化チタン複合体粒子は、高い分散性および高い血中滞留性を維持しながら生体内を運搬させて、癌細胞に効率良く集積させることができる。このため、本発明の酸化チタン複合体粒子は、点滴等を介した全身投与に適しており、表層から深部に至るまで、広範囲の癌治療に特に適する。
【0020】
本発明に用いる水溶性高分子は、ノニオン性を有する水溶性高分子であれば限定されないが、好ましくは水酸基および/またはポリオキシアルキレン基を有する高分子が挙げられる。そのような水溶性高分子の好ましい例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デキストランあるいはそれらを含有するコポリマーが挙げられ、より好ましくはポリエチレングリコール(PEG)およびデキストランであり、さらに好ましくはポリエチレングリコールである。水溶性高分子の好ましい重合度は、34〜500であり、より好ましくは34〜50である。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、ポリエチレングリコールとドーパミンの分子量比が15000:20〜400000:20であるのが好ましく、より好ましくは15000:20〜40000:20であり、ポリエチレングリコールの分子量は1500〜40000であるのが好ましく、より好ましくは1500〜4000である。ここで、ポリエチレングリコールの分子量とは数平均分子量であって、サイズ排除クロマトグラフィによって標準のポリエチレングリコールと比較して求めた値である。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、リガンド分子であるドーパミンと水溶性高分子とを結合するリンカーとして、ジオール基およびアミノ基から選択される少なくとも1種の官能基と化学結合を形成する官能基を有する、ポリオールおよびポリアミン以外の化合物をさらに含んでなるのが好ましい。すなわち、リガンド分子であるドーパミンに含まれるジオール基またはアミノ基にリンカーを結合させ、このリンカーに水溶性高分子を結合させることも可能である。このリンカーは、例えば生体分子同士を異なる官能基同士で結合する際に用いられるヘテロバイファンクショナルなクロスリンカーなどが考えられる。リンカーの具体例としては、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−[α−マレイミドアセトキシ]スクシンイミドエステル、N−[β−マレイミドプロピルオキシ]スクシンイミドエステル、N−β−マレイミドプロピオン酸、N−[β−マレイミドプロピオン酸]ヒドラジド・TFA、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド、N−ε−マレイミドカプロン酸、N−[ε−マレイミドカプロン酸]ヒドラジド、N−[ε−マレイミドカプロイルオキシ]スクシンイミドエステル、N−[γ−マレイミドブチリルオキシ]スクシンイミドエステル、N−κ−マレイミドウンデカン酸、N−[κ−マレイミドウンデカン酸]ヒドラジド、スクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチル]−シクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロエート]、スクシンイミジル6−[3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、4−[4−N−マレイミドフェニル]酪酸ヒドラジド・HCl、3−[2−ピリジルジチオ]プロピオニルヒドラジド、N−[p−マレイミドフェニル]イソシアネート、N−スクシンイミジル[4−アジドフェニル]−1,3‘−ジチオプロピオネート、N−スクシンイミジル S−アセチルチオアセテート、N−スクシンイミジルS−アセチルチオプロピオネート、スクシンイミジル 3−[ブロモアセトアミド]プロピオネート、N−スクシンイミジル ヨードアセテート、N−スクシンイミジル[4−イオドアセチル]アミノベンゾエート、スクシンイミジル4−[N−マレイミドメチル]−シクロヘキサン−1−カルボキシレート、スクシンイミジル4−[p−マレイミドフェニル]ブチレート、スクシンイミジル6−[(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノネート]、4−スクシンイミジルオキシカルボニル−メチル−α[2−ピリジルジチオ]トルエン、N−スクシンイミジル3−[2−ピリジルジチオ]プロピオネート、N−[ε−マレイミドカプロイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、N−[γ−マレイミドブチリルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、N−[κ−マレイミドウンデカノイルオキシ]−スルホスクシンイミドエステル、スルホスクシンイミジル−6−[α−メチル−α−(2−ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノネート、スルホスクシンイミジル6−[3’−(2−ピリジルチチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノネート、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホ−スクシンイミドエステル、スルホスクシンイミジル[4−ヨードアセチル]アミノベンゾエート、スルホスクシンイミジル4−[N−マレイミドメチル]−シクロヘキサン−1−カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4−[p−マレイミドフェニル]ブチレート,N−[ε−トリフルオロアセチルカプロイルオキシ]スクシンイミドエステル、クロロトリアジン、ジクロロトリアジン、トリクロロトリアジン等が挙げられる。また、リンカーはさらに他のリンカー同士が結合されるような複数種類のリンカーから構成されてもよい。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、水溶性高分子に結合させておく官能基として、リンカーと結合可能でかつジオール基以外の官能基を結合させておき、リンカーとの強固な結合を確保することもできる。そのような他の官能基の例としては、アミノ基、カルボキシル基、カルボハイドレイト基、スルフィド基、スクシンイミド基、マレイミド基、カルボジイミド基、およびヒドラジド基が挙げられる。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、リガンド分子であるドーパミンの酸化チタンとの結合に関与していない官能基の残基に水溶性高分子を結合することができる。その結合形態は特に限定されない。上記残基への結合の好ましい例としては、スクシンイミド基を含むポリエチレングリコールとリガンド分子であるドーパミンのアミノ基を用いた結合が挙げられるが、それ以外にもアミノ基、カルボキシル基、カルボハイドレイト基、スルフィド基、スクシンイミド基、マレイミド基、カルボジイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基およびヒドラジド基等の反応性官能基を用いた結合も挙げられる。なお、リガンド分子と水溶性高分子とは、リンカーによって間接的に結合されてもよい。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、リガンド分子であるドーパミンの酸化チタンとの結合に関与していない残基(ジオール基およびアミノ基)および/または水溶性高分子のリガンド分子との結合に関与していない残基に、生体由来高分子が結合されるのが好ましい。例えば、酸化チタン複合体粒子に抗体等の生体素子を付与すれば、癌細胞へのターゲッティング性能をさらに高めることも可能である。そのような生体由来高分子の結合形態は特に限定されない。上記残基への結合の好ましい例としては、スクシンイミド基を含むポリエチレングリコールとリガンド分子のアミノ基を用いた結合が挙げられるが、それ以外にもアミノ基、カルボキシル基、カルボハイドレイト基、スルフィド基、スクシンイミド基、マレイミド基、カルボジイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基およびヒドラジド基等の反応性官能基を用いた結合も挙げられる。なお、リガンド分子と水溶性高分子とは、リンカーによって間接的に結合されてもよい。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、酸化チタン粒子が、アナターゼ型酸化チタンまたはルチル型酸化チタンであるのが好ましい。紫外線や超音波の照射による触媒活性を利用する場合にはアナターゼ型酸化チタンが好ましく、高い屈折率等の性質を利用する場合にはルチル型酸化チタンが好ましい。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、本発明に用いる酸化チタン複合体粒子は20〜200nmの粒子径を有し、より好ましくは50〜200nmであり、さらに好ましくは50〜150nmである。この粒径範囲であると、癌腫瘍への到達を目的として患者の体内に投与されると、ドラッグデリバリーシステムのように、EPR効果により癌組織に効率的に到達して集積される。そして、上述の通り、400kHz〜20MHzの超音波や紫外線の照射によりラジカル種の特異的生成が起こる。したがって、超音波や紫外線の照射により高い効率で癌組織を殺傷することができる。
【0028】
本発明の別の好ましい態様によれば、酸化チタン複合体粒子が50nm未満(例えば数nm)の粒子径を有する場合、見かけ上のサイズを大きくしてEPR効果を得ることもできる。すなわち、50〜150nmの粒子径を有する二次粒子の形態を有するように半導体粒子同士を多官能リンカーで連結する等の方法にて結合されることで、EPR効果により高い癌治療効果を実現することができる。本発明のさらに別の好ましい態様によれば、EPR効果を利用するため、リポソームのような薬剤封入体の中に、酸化チタン複合体粒子を包摂させることもできる。
【0029】
本発明において半導体粒子の粒子径は、動的光散乱法により測定することができる。具体的には、粒径分布測定装置(ゼータサイザーナノZS、マルバーンインスツルメント社製)を用いて、キュミュラント解析で得られるZ−average sizeで示される値として得ることができる。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、酸化チタン複合体粒子が、−20〜+20mVのゼータ電位を有するのが好ましく、より好ましくは−10〜+10mVであり、さらに好ましくは−5〜+5mVであり、最も好ましくは−3〜+3mVである。この範囲内であると、酸化チタン複合体粒子が全体として電荷を殆ど帯びないことになるので、ノニオン性の水溶性高分子の使用による、血中滞留性および癌細胞への集積性の向上効果を最大限発揮させることができる。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、酸化チタン複合体粒子単位重量あたりの、水溶性高分子の結合量が、0.3〜1.0g/gであるのが好ましく、分散性の観点からより好ましくは0.3〜0.5g/gである。この範囲内であると、酸化チタン複合体粒子の触媒活性を十分に発揮させながら、血中滞留性および癌細胞への集積性を向上できる。
【0032】
本発明に使用可能な酸化チタン複合体粒子は、単一種類の酸化チタン複合体粒子のみならず、複数種類の半導体粒子の混合物あるいは複合物も包含する。具体例としては、酸化チタン複合体粒子と酸化鉄ナノ粒子との複合物、酸化チタン複合体粒子と白金との複合物、およびシリカ被覆された酸化チタン等が挙げられる。
【0033】
本発明の好ましい態様によれば、酸化チタン複合体粒子が、溶媒に分散されて分散液の形態とされてなるのが好ましい。これにより、酸化チタン複合体粒子を、点滴、注射、塗布等の種々の方法により、患者の体内に効率的に投与することができる。分散液の液性は限定されず、pH3〜10の広範囲にわたって高い分散性を実現可能である。なお、体内投与における安全性の観点から、分散液は、pH5〜9であるのが好ましく、より好ましくは5〜8、特に中性の液性を有するのが好ましい。また、本発明の好ましい態様によれば、溶媒は水系溶媒であるのが好ましく、さらに好ましくはpH緩衝液または生理食塩水である。水系溶媒の好ましい塩濃度は2M以下であり、体内投与における安全性の観点から200mM以下がより好ましい。酸化チタン複合体粒子は分散体に対して、0.001〜1質量%以下含有されることが好ましく、より好ましくは0.001〜0.1質量%である。この範囲内であれば、投与後、24〜72時間後に患部(腫瘍)に効果的に粒子を集積させることが可能となる。すなわち、患部(腫瘍)に粒子濃度が集積しやすくなるとともに、血中での粒子の分散性も確保されて凝集隗が形成しにくくなるため、投与後に血管の閉塞などの二次的弊害を招くおそれもない。
【0034】
本発明の酸化チタン複合体粒子は、点滴、注射、塗布等の種々の方法により、患者の体内に投与することができる。特に静脈または皮下による投与経路で用いられることが、粒子の大きさによるEPR効果と、血中の滞留性を利用して、所謂DDS的な治療により、患者の負担を軽減する観点から好ましい。そして、体内に投与された酸化チタン複合体粒子は、ドラッグデリバリーシステムのように、癌組織に到達して集積される。
【0035】
本発明の酸化チタン複合体粒子は、超音波あるいは紫外線の照射を受け、該照射により細胞毒となることができる。この酸化チタン複合体粒子は、体内に投与され、超音波照射を受け、該照射により細胞毒となることで、細胞を殺傷することができるが、体内に限らず、試験管内においても殺対象である細胞を殺傷することができる。本発明において、殺対象は特に限定されないが、癌細胞であるのが好ましい。すなわち、本発明による酸化チタン複合体粒子によれば、超音波や紫外線の照射により活性化して癌細胞を殺傷することができる。また、酸化チタン複合体粒子は、フラーレンや色素等の光増感剤ではないため、患者に投与後の治療段階において光過敏症の問題を生じることがなく、安全性が極めて高い。
【0036】
本発明の好ましい態様によれば、酸化チタン複合体粒子が集積された癌組織に超音波処理が行われる。使用する超音波の周波数は、400kHz〜20MHzが好ましく、より好ましくは600kHz〜10MHz、さらに好ましくは1MHz〜10MHzである。超音波の照射時間は治療対象である癌組織の位置および大きさを考慮して適宜決定されるべきであり、特に限定されない。こうして、患者の癌組織を超音波により高い効率で殺傷して、高い癌治療効果を実現することができる。超音波は生体内の深部に外部より到達させることが可能で、本発明の酸化チタン複合体粒子と併せて用いることにより、非侵襲の状態で生体内深部に存在するような患部やターゲット部位の治療が実現できる。さらに、患部やターゲット部位に本発明の酸化チタン複合体粒子が集積することにより、周辺の正常細胞に悪影響を及ぼさない程度の微弱な超音波で本発明の酸化チタン複合体粒子を集積させた局所のみに作用させることができる。
【0037】
ところで、これらの半導体粒子が超音波の照射により活性化して細胞を殺傷する効果は、超音波照射によりラジカル種を生成させることにより得ることができる。すなわち、これらの半導体粒子が与える生物的殺傷効果はラジカル種の質的・量的な増加にあると考えられる。その理由は以下の通り推察されるが、以下の理由はあくまで仮説であって、本発明は何ら下記説明に限定されるものではない。すなわち、超音波照射のみでは系中には過酸化水素とヒドロキシルラジカルが発生するが、本発明者らの知見によれば、酸化チタンなどの半導体粒子の存在下では、過酸化水素およびヒドロキシルラジカルの生成が促進される。また、これら半導体粒子の存在下、特に酸化チタンの存在下では、スーパーオキサイドアニオンと一重項酸素の生成が促進されるように見受けられる。これらラジカル種の特異的生成は、ナノメートルオーダーの微粒子を用いた場合、超音波照射時の周波数が400kHz〜20MHzの範囲、好ましくは600kHz〜10MHzの範囲、より好ましくは1MHz〜10MHzの範囲で顕著に観察される現象であると考えられる。
【0038】
製造方法
本発明の製造方法によれば、本発明の酸化チタン複合体粒子は、リガンド分子であるドーパミンで修飾されたノニオン性の水溶性高分子を酸化チタン粒子に結合させることにより、製造することができる。この方法による酸化チタン複合体粒子の製造は、例えば、非プロトン系溶媒中に、酸化チタン粒子と、リガンド分子であるドーパミンで修飾されたノニオン性水溶性高分子とを分散させ、得られた分散液を80〜220℃で、例えば1〜16時間、加熱することにより行うことができる。
【0039】
上述の態様において、溶媒として、非プロトン系溶媒が用いられている。これは、プロトン系溶媒を使用した場合には、例えば脱水によるエステル結合の形成等の結合反応時に反応を阻害し、高い分散性の実現が困難になるおそれがあるためである。なお、好ましい非プロトン系溶媒の例としては、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、およびジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0040】
本発明の好ましい態様によれば、リガンド分子であるドーパミンが結合された酸化チタン粒子の分散液を得た後、該分散液にジオール基およびアミノ基から選択される少なくとも1種の官能基と化学結合を形成する官能基を有するノニオン性の水溶性高分子を添加して反応させ、酸化チタン複合体粒子を得ることも可能である。あるいは、リガンド分子であるドーパミンと酸化チタン粒子およびジオール基およびアミノ基から選択される少なくとも1種の官能基と化学結合を形成する官能基を有するノニオン性の水溶性高分子を同時に添加して分散させ、得られた分散液を反応することにより酸化チタン複合体粒子を得てもよい。
【0041】
本発明の好ましい態様によれば、リガンド分子であるドーパミンが結合された酸化チタン粒子の分散液を得た後、該分散液にノニオン性の水溶性高分子を添加する前に、リガンド分子であるドーパミンと水溶性高分子とを結合するためのリンカーを添加して反応させ、リンカーをリガンド分子であるドーパミンに結合させることも可能である。このリンカーはジオール基およびアミノ基から選択される少なくとも1種の官能基と化学結合を形成する官能基を有する、ポリオールおよびポリアミン以外の化合物であり、その具体例は前述した通りである。
【0042】
本発明の好ましい態様によれば、上記各好適態様において、酸化チタン複合体粒子と未結合親水性高分子とを分離し酸化チタン複合体粒子を精製するのが好ましい。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、酸化チタン複合体粒子の分散液を乾燥状態にした、酸化チタン複合体粒子の乾燥体を得るために、真空乾燥および凍結乾燥等の一般的な乾燥方法を用いることが可能である。このようにして得られた酸化チタン複合体粒子の乾燥体は適当な溶媒を添加することで、溶媒に分散されて分散液の形態とされてなるのが好ましい。
【実施例】
【0044】
例1:酸化チタンゾルの作製
チタンテトライソプロポキシド3.6gとイソプロパノール3.6gを混合し、氷冷下で60mlの超純水に滴下して加水分解を行った。滴下後に室温で30分間撹拌した。攪拌後、12N硝酸1mlを滴下して80℃で8時間攪拌を行い、ペプチゼーションした。ペプチゼーション終了後0.45μmのフィルターで濾過し、さらにバッファー交換用自然落下型カラムPD−10(GEヘルスケアバイオサイエンス製)を用いて溶液交換して固形成分1%の酸性酸化チタンゾルを調製した。この酸性酸化チタンゾルを100ml容のバイアル瓶に入れ、超音波発生器MIDSONIC200(カイジョー製)を用いて200kHzで30分間超音波処理を行った。超音波処理を行った後の平均分散粒経を動的光散乱法により測定した。この測定は、超音波処理を行った後の酸性酸化チタンゾルを12Nの硝酸で1000倍に希釈した後、分散液0.1mlを石英測定セルに仕込み、ゼータサイザーナノZS(マルバーンインスツルメント社製)を用いて、溶媒の各種パラメーターを水と同値に設定し、25℃にて行った。その結果、分散粒径は38.4nmであった。蒸発皿を用いて、50℃下で酸性酸化チタンゾル溶液の濃縮を行い、最終的に固形成分20%の酸性酸化チタンゾルを調製した。
【0045】
例2:酸化チタン粒子へのドーパミン結合ポリエチレングリコールの導入
ポリオキシエチレン−モノアリル−モノメチルエーテルと無水マレイン酸の共重合体(平均分子量15000;AM1510K−日本油脂製)0.5gに超純水4.5mlを添加しポリエチレングリコール溶液とした。次に、超純水を用いて1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC;同仁化学製)を濃度400mMになるよう調製し、EDC溶液とした。ポリエチレングリコール溶液1mlに超純水0.25mlと0.75N水酸化ナトリウム水溶液0.1ml、およびEDC溶液0.5mlを混合調製した。調製した溶液にドーパミン塩酸塩(分子量Mn=153.178:和光純薬工業製)を濃度15mMになるよう混合して2mlの溶液を得た。この溶液を40℃にて2時間振とう撹拌して反応させた。反応後、得られた溶液を透析膜であるスペクトラ/ポア CE 透析用チューブ(分画分子量=3500、Spectrum Laboratories,Inc.)に移して超純水4lに対して室温にて24時間で透析を行った。透析後にすべてナスフラスコに移し替えて一晩凍結乾燥し、得られた粉末に4mlのジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業)を添加して混合し、ドーパミン結合ポリエチレングリコール溶液とした。
【0046】
次にDMFを用いてドーパミン結合ポリエチレングリコール溶液が終濃度20(vol/vol)%、実施例1で得られた酸性酸化チタンゾルが終濃度で固形成分0.25%となるよう調製し、5mlの反応溶液とした。この反応溶液を水熱反応容器のHU−50(三愛科学製)に溶液を移し替え、150℃で6時間加熱反応を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、エバポレータでDMFを除去した後に、蒸留水1.25mlを添加して酸化チタン複合体粒子の分散液とした。この分散液を蒸留水で0.05(wt/vol)%水溶液に希釈して24時間静置後、動的光散乱法による分散粒径およびゼータ電位の確認を、ゼータサイザーナノZSを用いて、ゼータ電位測定セルに酸化チタン複合体粒子の分散液0.75mlを仕込み、溶媒の各種パラメーターを水と同値に設定し、25℃にて測定した。キュミュラント解析の結果、分散粒径は57.3nm、ゼータ電位は3.41mVであった。
【0047】
例3:酸化チタン粒子へのドーパミン結合ポリエチレングリコールの導入
ポリオキシエチレン−モノアリル−モノメチルエーテルと無水マレイン酸の共重合体(平均分子量30000;AM2090P−日本油脂製)0.5gに超純水4.5mlを添加しポリエチレングリコール溶液とした。次に、超純水を用いて1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC;同仁化学製)を濃度400mMになるよう調製し、EDC溶液とした。ポリエチレングリコール溶液1mlに超純水0.25mlと0.75N水酸化ナトリウム水溶液0.1ml、およびEDC溶液0.5mlを混合調製した。調製した溶液にドーパミン塩酸塩(分子量Mn=153.178:和光純薬工業製)を濃度15mMになるよう混合して2mlの溶液を得た。この溶液を40℃にて2時間振とう撹拌して反応させた。反応後、得られた溶液を透析膜であるスペクトラ/ポア CE 透析用チューブ(分画分子量=3500、Spectrum Laboratories,Inc.)に移して超純水4lに対して室温にて24時間で透析を行った。透析後にすべてナスフラスコに移し替えて一晩凍結乾燥し、得られた粉末に4mlのジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業)を添加して混合し、ドーパミン結合ポリエチレングリコール溶液とした。
【0048】
次にDMFを用いてドーパミン結合ポリエチレングリコール溶液が終濃度20(vol/vol)%、実施例1で得られた酸性酸化チタンゾルが終濃度で固形成分0.25%となるよう調製し、5mlの反応溶液とした。この反応溶液を水熱反応容器のHU−50(三愛科学製)に溶液を移し替え、150℃で6時間加熱反応を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、エバポレータでDMFを除去した後に、蒸留水1.25mlを添加して酸化チタン複合体粒子の分散液とした。この分散液を蒸留水で0.05(wt/vol)%水溶液に希釈して24時間静置後、動的光散乱法による分散粒径およびゼータ電位の確認を、ゼータサイザーナノZSを用いて、ゼータ電位測定セルに酸化チタン複合体粒子の分散液0.75mlを仕込み、溶媒の各種パラメーターを水と同値に設定し、25℃にて測定した。キュミュラント解析の結果、分散粒径は60.3nm、ゼータ電位は3.05mVであった。
【0049】
例4:酸化チタン粒子へのドーパミン結合ポリエチレングリコールの導入
2,4−bis(O−methoxypolyethyleneglycol)−6−chloro−s−triazine(平均分子量10000;PEG2−生化学工業製)0.5gに超純水4.5mlを添加しポリエチレングリコール溶液とした。ポリエチレングリコール溶液4mlに50mMの2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸緩衝液(pH7.0)2mlとドーパミン塩酸塩(分子量Mn=153.178:和光純薬工業製)を濃度2.5mMになるよう混合して8mlの溶液を得た。この溶液を室温にて24時間振とう撹拌して反応させた。反応後、得られた溶液を透析膜であるスペクトラ/ポア CE 透析用チューブ(分画分子量=3500、Spectrum Laboratories,Inc.)に移して超純水4lに対して室温にて24時間で透析を行った。透析後にすべてナスフラスコに移し替えて一晩凍結乾燥し、得られた粉末に4mlのジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業)を添加して混合し、ドーパミン結合ポリエチレングリコール溶液とした。
【0050】
次にDMFを用いてドーパミン結合ポリエチレングリコール溶液が終濃度40(vol/vol)%、実施例1で得られた酸性酸化チタンゾルが終濃度で固形成分0.25%となるよう調製し、5mlの反応溶液とした。この反応溶液を水熱反応容器のHU−50(三愛科学製)に溶液を移し替え、150℃で6時間加熱反応を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、エバポレータでDMFを除去した後に、蒸留水1.25mlを添加して酸化チタン複合体粒子の分散液とした。この分散液を蒸留水で0.05(wt/vol)%水溶液に希釈して24時間静置後、動的光散乱法による分散粒径およびゼータ電位の確認を、ゼータサイザーナノZSを用いて、ゼータ電位測定セルに酸化チタン複合体粒子の分散液0.75mlを仕込み、溶媒の各種パラメーターを水と同値に設定し、25℃にて測定した。キュミュラント解析の結果、分散粒径は123nm、ゼータ電位は13.1mVであった。
【0051】
例5:酸化チタン複合体粒子の塩強度安定性の評価
0.01〜0.5Mの異なる塩化ナトリウムを含む水溶液に例2で得られた酸化チタン複合体粒子を含む分散液を終濃度0.05(wt/vol)%になるように添加し、1時間室温にて静置した。その後、ゼータサイザーナノZSにて実施例1と同様に平均分散粒径の測定を行った。その結果、系中の塩濃度が0.01から0.25Mの間はほとんど平均分散粒径の変化は認められず、安定した分散性を示すことが明らかになった。
【0052】
例6:酸化チタン複合体粒子のpH安定性の評価
下記の通り50mMの異なるpHを持つ緩衝液を作成し、終濃度0.05(wt/vol)%になるように、例2で得られた酸化チタン複合体粒子を含む分散液を添加し、1時間室温にて静置した。
・pH5:酢酸緩衝液
・pH6:2−モルフォリノエタンスルホン酸緩衝液
・pH7およびpH8:2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸緩衝液
・pH9:ホウ酸緩衝液
その後、ゼータサイザーナノZSにて例2と同様に平均分散粒径の測定を行った。その結果pHが5から9の間で粒径の変化はほとんど認められず、安定した分散性を示すことが明らかになった。
【0053】
例7:酸化チタン複合体粒子のリン酸緩衝生理食塩水中での分散安定性の評価
リン酸緩衝生理食塩水に対して、例2で得られた酸化チタン複合体粒子を含む分散液を終濃度0.05(wt/vol)%になるように添加し、1日、2日、3日、7日および14日間室温にて静置した。その後、ゼータサイザーナノZSにて例2と同様に平均分散粒径の測定を行った。結果を図2に示す。図2に示されるように、14日間静置後において、酸化チタン複合体粒子の粒径の変化はほとんど認められず、安定した分散性を示すことが明らかになった。
【0054】
例8:酸化チタン複合体粒子のタンパク質溶液中での分散安定性の評価
10%血清を含むRPMI1640培地(GIBCO製)に対して、例2で得られた酸化チタン複合体粒子を含む分散液を終濃度0.05(wt/vol)%になるように添加し、1日、2日、3日、7日および14日間室温にて静置した。その後、ゼータサイザーナノZSにて例2と同様に平均分散粒径の測定を行った。結果を図3に示す。図3に示されるように、14日間静置後において、酸化チタン複合体粒子の粒径の変化はほとんど認められず、安定した分散性を示すことが明らかになった。
【0055】
例9:酸化チタン複合体粒子の光触媒活性の評価
例2で得られた酸化チタン複合体粒子を固形成分が0.05(wt/vol)%になる様にリン酸緩衝生理食塩水で希釈した。メチレンブルー三水和物(和光純薬製)を5μMになる様に先に調製した酸化チタン複合体粒子を含むリン酸緩衝生理食塩水溶液に添加した。撹拌しながら、本溶液に波長365nmの紫外光を2.2J/cmおよび2.7J/cmになるように照射し、660nmにおける波長の吸収を紫外−可視光分光光度計により測定した。結果を表1に示す。表1に示されるように、紫外線を照射しないサンプルのメチレンブルー濃度に対する各紫外線照射したサンプルのチレンブルー濃度の割合を分解率をとして算出した場合、各紫外線照射したサンプルは分解率の増加が認められた。このことから、酸化チタン複合体粒子が光触媒活性を保持していることは明らかである。
【0056】
【表1】

【0057】
例10:酸化チタン複合体粒子の乾燥体
例2で得られた酸化チタン複合体粒子の分散液を固形成分が1(wt/vol)%になるように超純水で調製した。この溶液0.5mLを容器に移し、−80℃で4時間凍結した。その後、凍結乾燥機によって減圧下で凍結乾燥を4時間行った。その結果、酸化チタン複合体粒子の乾燥体を得ることができた。また、この酸化チタン複合体粒子の乾燥体に、超純水を0.5mL加えて28kHzの超音波処理を10分間したところ、再び酸化チタン複合体粒子の分散液となった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の酸化チタン複合体粒子の一例を示す図であり、1は酸化チタン粒子を、2はノニオン性の水溶性高分子を示す。
【図2】例7において測定された、例2で得られた酸化チタン複合体粒子のリン酸緩衝生理食塩水中での平均分散粒径と、経時変化との関係を示す図である。
【図3】例8において測定された、例2で得られた酸化チタン複合体粒子のタンパク質溶液中での平均粒径と、経時変化との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子と、リガンド分子と、ノニオン性の水溶性高分子とを含み、
前記酸化チタン粒子の表面に、前記リガンド分子を介してノニオン性の水溶性高分子が結合されてなる酸化チタン複合体粒子であって、前記リガンド分子はドーパミンである、酸化チタン複合体粒子。
【請求項2】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、およびデキストランからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の酸化チタン複合体粒子。
【請求項3】
−20〜+20mVのゼータ電位を有する、請求項1または2に記載の酸化チタン複合体粒子。
【請求項4】
20〜200nmの粒子径を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化チタン複合体粒子。
【請求項5】
超音波の照射を受け、該照射により細胞毒となる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化チタン複合体粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化チタン複合体粒子と、該粒子が分散される溶媒とを含んでなる、分散液。
【請求項7】
前記溶媒が、水系溶媒である、請求項6記載の分散液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酸化チタン複合体粒子の製造方法であって、
非プロトン系溶媒中に、酸化チタン粒子と、ドーパミンで修飾されたノニオン性の水溶性高分子とを分散させ、
得られた分散液を80〜220℃で加熱して、酸化チタン複合体粒子を得ること
を含んでなる、方法。
【請求項9】
前記非プロトン系溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、およびジメチルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求8に記載の方法。
【請求項10】
請求項6または7に記載の分散液を乾燥にして成る、酸化チタン複合体粒子の乾燥体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−73784(P2009−73784A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245703(P2007−245703)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】