説明

酸化亜鉛単結晶基板の製造方法

【課題】 薄膜成長に適した平坦な表面を持つ酸化亜鉛単結晶基板を得る。
【解決手段】 研磨し洗浄した基板1をチェンバーに投入し、真空としたチェンバー内において、酸化亜鉛を溶解することができる成分であるフラックスをこのフラックスが溶融する温度及び圧力を制御しつつ堆積し、薄膜2を形成し、その後、上記フラックス成分を除いて、表面が平坦な酸化亜鉛単結晶基板1Aを得る。成膜工程では、堆積時の基板温度を酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上共晶温度+150℃以下の範囲に制御した条件で堆積するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エレクトロニクス分野におけるIII−V族窒化物半導体や酸化亜鉛などの薄膜成長用基板として用いる酸化亜鉛単結晶基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛単結晶は、窒化ガリウムをはじめとするIII−V族窒化物半導体薄膜などとの格子整合が非常に良く、酸化亜鉛の結晶構造もウルツ鉱型構造であるためヘテロエピタキシャル基板として有望であり、その利用が検討されている。例えば、酸化亜鉛基板上に窒化ガリウムの薄膜成長を行うことによって、従来使用されているサファイア基板やシリコンカーバイド基板よりも良質な窒化ガリウム薄膜の作成ができることが知られている(非特許文献1参照)。
また、酸化亜鉛薄膜においても、青色発光ダイオードやレーザーダイオードなどの発光素子の新しい材料として注目され、ヘテロエピタキシャルではあるが、青色発光が観察された事なども報告されている(非特許文献2参照)。
酸化亜鉛基板を用いた青色発光素子において、基板を酸化亜鉛基板を用いたホモエピタキシャルに変更する事によって、酸化亜鉛薄膜との格子整合も良くなり、薄膜の品質向上が期待され、一般的な材料である酸化亜鉛を用いる事によるコストダウンなども期待されることから、ホモエピタキシャルの検討も本格的になされはじめている(非特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−327493号公報
【特許文献2】特開平8−83802号公報
【特許文献3】特開平7−267800号公報
【特許文献4】特開2005−39131号公報
【非特許文献1】F.Hamdani,et al,J.Appl.Phys. 83(2) 15 January 1998 983−990
【非特許文献2】A.Tsukazaki,et al,Nature Materials,Vol.4,January 2005 42−46
【非特許文献3】Katsumi Maeda,et al,Semicond.Sci.Technol.20(2005)S49−S54
【非特許文献4】日本結晶成長学会誌,Vol.32,No.2 2005の第26頁〜第32頁
【非特許文献5】M.W.Cho,et al,Superlattices and Microstructures 38(2005)349−363
【非特許文献6】C.J.Pan,et al,Journal of Crystal Growth 282(2005)112−116
【非特許文献7】T.Ohnishi,et al,J.Appl.Phys.72,7(1998) 824
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
単結晶には粒界、転位、格子欠損などの様々な結晶欠陥が存在する。そして切断や研磨加工された単結晶の薄膜成長用基板には、上記結晶欠陥に加え、基板化のための加工に起因する表面付近の双晶や格子歪といった欠陥が新たに導入されることが知られている。これらの欠陥が、単結晶基板上に成膜された薄膜にも悪影響を与え、結晶性はもとより電気特性などを改善するために、チタン酸ストロンチウムやサファイアの単結晶基板表面を熱処理やエッチング処理することによって、ステップおよびテラス構造をとる平坦な表面にすることが有効であることが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。また、酸化亜鉛基板でも、単純に電気炉などによる熱処理を用いた方法(特許文献3参照)や、熱処理の際に研磨された基板を、不活性な鞘ウェハーに挟み込んだり(特許文献4参照)、酸化亜鉛のセラミックスで基板を囲んだりする方法(非特許文献4参照)が提案されている。
しかし、酸化亜鉛はサファイアやチタン酸ストロンチウムに比べて柔らかく、加工による残留歪みが残りやすいこともあって、見かけ上の原子レベルで平坦なステップ構造が得られても、その基板上に成膜した薄膜の特性が改善しないという問題がある(非特許文献5参照)。また、酸化亜鉛単結晶の結晶性が、サファイア単結晶やガリウム砒素単結晶と比べものにならないほど悪い事も知られており、そのためホモエピタキシャルした薄膜において望むような特性が得られないとも言われている(非特許文献6参照)。
また、酸化亜鉛基板を[0001]方向と垂直方向に切り出した基板には表面と裏面とで極性が存在し、それぞれは一般的に、プラスの極性を持つ+c面又はZn面、マイナスの極性を持つ−c面又はO面などと呼ばれている。−c面においては、上記のような熱処理を用いた方法で比較的簡便にステップ高さの揃った平坦な表面が得られるものの、+c面においてはバンチングの発生などを起こし易く、ステップ高さの揃ったステップ表面を得ることが容易ではない(非特許文献7参照)。
本発明の目的は、薄膜成長に適したステップ高さの揃った平坦な表面を持つ酸化亜鉛単結晶基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、酸化亜鉛単結晶の基板上に酸化亜鉛を溶解することができる成分であるフラックスを含む薄膜を酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上に制御した条件で堆積し(成膜工程)、又はこのような条件によることなく成膜した後に、酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上に制御した条件で熱処理し(成膜工程)、成膜後に又は成膜しながらフラックスを除去すること(除去工程)によって結晶欠陥の極めて少ない、平坦な表面を持つ酸化亜鉛単結晶基板が製造できるフラックス・メディエイデッド・エピタキシー(Flux−Mediated Epitaxy)法(以下「FME法」という。)を開発した。
FME法によれば、基板表面に、酸化亜鉛を溶解するような成分であるフラックスを薄膜状に堆積(デポジション)し、基板材料がフラックスによって溶解する条件に保持することにより、酸化亜鉛を一旦このフラックスに溶解した後、溶解度の制御により酸化亜鉛を再び結晶化させるプロセスを経て、このプロセスによって表面近傍における欠陥や格子歪の極めて少ない結晶基板を得ることを可能とするものである。
【0005】
本発明の成膜工程において、フラックスの溶融及び酸化亜鉛の溶解・再結晶化のプロセスでは、高温となったフラックスに酸化亜鉛を充分に溶かし込み、その溶液を過飽和状態にして結晶を晶出する。
結晶化の方法としては、下記の(1)、(2)、(3)の各方法などを用いる。
(1)蒸発法:堆積したフラックスを溶融する温度に保持したまま、ゆっくりとフラックス成分を蒸発させる方法
(2)徐冷法:堆積したフラックスを溶融する温度に一旦上昇させた後に、ゆっくりと冷却する方法
(3)供給法:堆積したフラックスを溶融する温度に上昇させた状態で、さらにフラックス上に酸化亜鉛を堆積することによって基板−フラックス界面で結晶化を促進させる方法
溶解方法は上記(1)〜(3)の方法に限られないが、上記蒸発法と供給法を組み合わせた方法はフラックス溶液の組成制御がし易く、さらにはフラックスの除去を同時に行える点などから有効である。
【0006】
本発明の成膜工程には、フラックスを酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上に制御した条件で堆積するものと、フラックスが溶融しない条件で上記フラックスを堆積するものの両方を含む。後者の成膜工程を備えている本発明にあっては、堆積後に、酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上に制御した条件で熱処理をする。
フラックスの除去工程に関して、前者の成膜工程を備えている本発明にあっては、フラックスの除去は条件によっては成膜工程でのフラックスの除去が可能である。
【0007】
本発明において、酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上に制御した条件で処理をする場合には酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上に制御し、酸化亜鉛単結晶の基板上にフラックスの堆積を開始する。
温度が共晶温度未満の場合には基板成分が溶解せず、また共晶温度+500℃を超えると酸素欠陥が発生しやすくなり良好な基板表面が得られない。
圧力は酸素分圧が130Pa以上であることが望ましい。酸素分圧が130Pa未満の場合には、酸素欠陥が発生しやすく、良好な基板表面が得られない。
また、フラックスの堆積量(供給量)は1x10−5(cm/cm)以上であることが望ましく、換言すれば、少なくとも1x10−5(cm/cm)であることが望ましい。堆積量が少量の場合には基板表面の改質が十分でなくなるおそれがある。
【0008】
フラックスとしては、酸化鉛、フッ化鉛、酸化ビスマス、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化ナトリウム、酸化ホウ素、フッ化アルミニウム、酸化バナジウム、酸化バリウム、酸化リチウムなどやそれらの混合物から選択されるが、溶解度、蒸気圧、基板材料である酸化亜鉛との反応性、環境の面から酸化ビスマスを含むものが望ましい。
また、フラックスに添加物を添加しても良く、例えば亜鉛、アルミニウム、銅、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、ホウ素などを含む成分を添加することが、フラックスの蒸気圧、粘度、反応性を調整するために有効となる。
【0009】
本発明では、酸化亜鉛の溶解−再結晶を行った後に基板表面のフラックスを除去する工程を含む。
フラックスの除去方法は、大気又は真空中においてフラックスが蒸発する温度に熱してフラックスを蒸発させる方法、水、有機溶剤、酸、塩基などの溶解液によってフラックスを溶解する方法などがあるが、酸化亜鉛が水や酸に溶解しやすいことから、減圧下で熱して除去する方法が有効である。
【0010】
基板の極性が+c面(Zn面)の場合は、フラックスを除去した状態でも被処理基板の表面は0.5u.c.に揃ったステップ及びテラス構造を有するが、−c面(O面)の場合は、場所によりステップ高及びテラス幅に差が出てしまうことがある。
高品質の薄膜をエピタキシャルさせるための基板では、ステップ高及びテラス幅が一定であることが望ましい。また、ステップ高さを厳密に0.5u.c.又は1.0u.c.に制御した表面を有する基板が必要な場合もある。そのため、ステップ高及びテラス幅が一定であることはもちろんのこと、ステップ高さを制御することも重要である。
基板極性が−c面の場合は、被処理基板をポストアニールすることにより、表面拡散及び蒸発を促し、表面積及び表面エネルギーを小さくしようとする性質を利用して、ステップ高やテラス幅を揃える。
基板の極性が−c面(O面)の場合、被処理基板に対するポストアニールの温度範囲は800℃以上1300℃以下が望ましい。これよりも加熱温度が低いと表面拡散が起こりにくく生産性が低下してしまい、加熱温度が高すぎると一定のステップ高さ及びテラス幅が再現良く得られないからである。
その際、基板表面が−c面の場合は、800℃以上1000℃以下でポストアニールすると0.5u.c.に揃った表面が得られ、1100℃以上1300℃以下でポストアニールをすると1.0u.c.に揃った表面が得られる。
基板表面が+c面の場合は、被処理基板を1100℃以上1300℃以下でポストアニールすることにより1.0u.c.に揃った表面に制御した表面が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フラックスを用いてその溶融並びに酸化亜鉛の溶解及び再結晶化を通じて、基板表面近傍における結晶性などの欠陥や歪が充分に改善された、ステップ高さの揃ったステップ及びテラス構造を有する原子レベルで平坦な酸化亜鉛単結晶基板の提供が可能である。
本発明によれば、基板表面に堆積された薄膜の高品質化が図れるから、薄膜の品質向上に伴って電子デバイスや光学デバイスなどの性能、品質、歩留まり、再現性の向上に寄与することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に示す本発明に係る酸化亜鉛単結晶基板の製造方法について説明する。
予め酸化亜鉛単結晶の基板1を平坦に研磨し、水系洗浄剤及び有機溶剤によって洗浄してその表面の粗さを小さくしておく。このときのoff角はステップ高さの再現性の面から0.5°以下に制御することが望ましい。
まず、基板1をチャンバー内に導入し、その内部圧力を1x10−5Paより低い圧力になるまで減圧する。
次に、チャンバー内を酸素雰囲気で130〜1300Paとした後、フラックスの溶融及び酸化亜鉛の溶解・再結晶化のプロセスに入る。
このプロセスでは、パルスドレーザーデポジション法(PLD法:Pulsed Laser Deposition法)を用いて、基板1に対してフラックスを溶融する温度で加熱しながら、予め所定の割合に混合、成形したフラックスと酸化亜鉛の混合ターゲット表面にパルスレーザーを照射して、基板上にターゲット成分を堆積させてフラックスと酸化亜鉛の混合薄膜2を作成し、成膜後は上記基板温度を保持したまま、ゆっくりとフラックス成分を蒸発させて、基板上のフラックス成分を除去し、最終的に酸化亜鉛単結晶基板1Aを作成する。
フラックスとしては酸化ビスマスを用いる。混合ターゲットにおける酸化亜鉛とフラックスの混合比は設備や溶解度の面からZn/(Bi+Zn)で、3〜30%の範囲が望ましいが、特に8〜15%の範囲が望ましい。
成膜中におけるフラックスが溶融する基板温度(堆積時の基板温度)は、フラックスなどとの反応性や設備の面から、酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上共晶温度+150℃の範囲が望ましい。
フラックスの堆積量は多くても構わないが1x10−5(cm/cm)以上が望ましい。堆積量がこれより少ない場合には表面の改質が十分でないことがある。
フラックスの除去時の温度及び圧力は堆積開始時と同様の温度、圧力条件が良い。この条件で行うことにより、成膜中にフラックスの除去を同時に行うことができるため効率的である。
【0013】
図2に示す本発明に係る酸化亜鉛単結晶基板の製造方法について説明する。
図示する製造方法は、フラックスの成膜を室温で行い、成膜後に加熱する点で図1に示す製造方法と相違している。
図2に示す製造方法では、基板1をチャンバー内に導入した後、成膜時の基板温度を室温(約20℃)とし、堆積量を1x10−5(cm/cm)以上となるようにしてフラックスの堆積を行う。薄膜2を有する基板1をチャンバーから取り出し、真空電気炉などの気密容器を用いて、酸素ガスを導入して酸素分圧を130〜1300Paに保った酸素雰囲気中において、酸化亜鉛と酸化ビスマスの共晶温度以上共晶温度+150℃の範囲の温度条件にて熱処理をして、基板上のフラックス成分を除去し、最終的に酸化亜鉛単結晶基板1Bを作成する。
【0014】
図3に示す本発明に係る酸化亜鉛単結晶基板の製造方法について説明する。
図示する製造方法は、図1に示す製造方法で製造された被処理基板である酸化亜鉛単結晶基板1Aを大気中で熱処理(ポストアニール)を行ってステップ高を0.5u.c.又は1.0u.c.に厳密に制御したステップ及びテラスを有する酸化亜鉛単結晶基板1Cを得る。
熱処理温度は800℃〜1300℃の範囲、保持時間は1〜3時間程度であることが望ましいが、ステップ高さを1.0u.c.の高さに統一したい場合には1100℃〜1300℃の範囲に設定し、−c面基板を0.5u.c.に統一したい場合は800℃〜1100℃の範囲に設定し熱処理を行う。保持時間は2時間で十分である。+c面基板を0.5u.c.に統一したい場合は、前述のFME法による処理を行って、フラックスを除去するだけで十分である。
図示する実施の形態において、酸化亜鉛単結晶基板1Aに代えて、図2に示す酸化亜鉛単結晶基板1Bを用いても良い。また成膜時における堆積は図示するようにフラックス成分のみで良いが、フラックス成分と共に酸化亜鉛を含む成分を堆積しても良い。
【実施例】
【0015】
実施例1〜13及び比較例1〜7における被処理基板の評価を表1に示す。
(実施例1)
酸化亜鉛単結晶を+c面±0.5°の面方位で切り出した後、CMP(Chemical−Mechanical Polishing)で仕上げた基板を水系洗浄した後、有機溶剤でさらに洗浄してから、真空チャンバーに投入し、パルスドレーザーデポジション法(PLD法)にてフラックスを堆積した(成膜工程)。
成膜工程において、基板投入後に真空引きを行って、チャンバー内を一旦1x10−6Pa程度にした後、酸素ガスを導入し800Paの酸素分圧に保った酸素雰囲気中で堆積を行った。
ターゲットには、成形・焼結したフラックスと酸化亜鉛の混合ターゲットを用いた。フラックスとしては酸化ビスマスを用いた。酸化亜鉛とフラックスの混合比はZn/(Bi+Zn)で11%となるようにした。
この混合ターゲットのアブレーションにはKrFエキシマレーザー(λ=248nm)を用いた。基板温度は800℃とした。
フラックスの堆積量は1x10−5(cm/cm)となるようにした。
フラックスを堆積した後は、堆積時と同じ温度、雰囲気、圧力条件にて1時間維持してフラックスをゆっくり除いてから、酸化亜鉛単結晶の基板を徐冷した後、チャンバーより取り出した。
取り出した被処理基板(酸化亜鉛単結晶基板)の表面を顕微鏡観察及び原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。
その結果、被処理基板の表面フラックスは、充分蒸発されていることが確認された。
またAFM測定により、本処理を未実施の基板においてはごく微小なスクラッチ傷などが多数観察されたが、上記被処理基板の表面で酸化亜鉛の溶解−再結晶が活発に起こり、表面が改質されている事が観察され、表1に示すように0.5u.c.に統一されたステップ高に揃った、ステップ及びテラス構造を有することが確認された。
さらに、上記被処理基板を塩酸0.7%、60℃、5分の条件で浸漬し、表面のエッチング試験を行ったところ、本処理を未実施の基板においては100μm程度の六角形をしたエッチピットが多数観察されたが、処理後の基板においては見られなかった。このことからも表面近傍の結晶性が向上していることが確認できた。
【0016】
(比較例1)
実施例1において、基板上にフラックスの成膜を行わず、ポストアニールとして大気中にて温度1200℃、2時間の熱処理を行った。
ポストアニール後のAFM測定の結果から、表1に示すように大部分でステップバンチングが発生した表面が得られた。
【0017】
(実施例2)
実施例1において、成膜温度(堆積時温度)を900℃として成膜を行った。被処理基板を測定したところ、表1に示すように実施例1と同様の結果が得られた。
【0018】
(比較例2)
実施例1において、成膜温度を1000℃として成膜を行った。処理後の基板の外観が明らかに褐色に変色していた。また、被処理基板をAFM測定したところ、大部分でステップバンチングが発生した表面が得られた。
【0019】
(実施例3)
実施例1において、堆積成分(ターゲット)として酸化亜鉛を混合しない酸化ビスマスを用い、基板温度(堆積時温度)は750℃として成膜を行った。被処理基板を測定したところ、表1に示すように実施例1と同様の結果が得られた。
【0020】
(実施例4)
実施例1においてフラックスの供給量を1.6x10−3(cm/cm)として処理を行った。実施例1と同様の結果が得られた。このことからフラックスの堆積量は多くなっても特性に影響がないと理解できる。
【0021】
(比較例3)
実施例1においてフラックスの堆積量を1x10−6(cm/cm)として処理を行った。
AFM測定の結果から、処理前より観察された、ごく微小なスクラッチ傷などがほとんど形を変えずに存在する事が確認された。
【0022】
(実施例5)
実施例1における成膜時の基板温度を室温(約20℃)とし、フラックスの堆積量は1x10−5(cm/cm)となるようにした。堆積後、基板をチャンバーより取り出し、真空電気炉を用いて、酸素分圧を800Paに保った酸素雰囲気において、800℃の温度条件にて熱処理を3時間行った。
被処理基板を測定したところ、表1に示すように実施例1と同様の結果が得られた。
【0023】
(実施例6)
実施例5における熱処理温度を1100℃として処理を行った。被処理基板を測定したところ、表1に示すように実施例1と同様の結果が得られた。
【0024】
(比較例4)
実施例5における熱処理温度を1200℃として処理を行った。処理後の基板の外観が明らかに褐色に変色していた。また、被処理基板をAFM測定したところ、大部分でステップバンチングが発生した表面が得られた。
【0025】
(実施例7)
実施例1と同様の条件で処理を行った被処理基板をポストアニールとして大気中にて温度1100℃、2時間の熱処理を行った。
熱処理後のAFM測定の結果から、表1に示すように1.0u.c.(0.52nm)のステップ高さを持つステップ及びテラス構造を有する表面が再現よく得られていることが確認された。
【0026】
(実施例8)
実施例7におけるポストアニール温度を1300℃とし、その他は実施例7と同様の条件で処理した。
被処理基板を測定したところ、表1に示すように実施例7と同様な結果が得られた。
【0027】
(実施例9)
実施例1における基板の極性が−c面のものを用いて処理を行った。このままでは表面にステップバンチングやピットが発生していることがあるため、被処理基板を大気中、800℃、2時間のポストアニールを施した。
ポストアニール後のAFM測定の結果から、表1に示すように0.5u.c.のステップ高さを持つステップおよびテラス構造を有する表面が再現よく得られていることが確認された。また、実施例1と同様のエッチング試験の結果から、実施例1と同様に表面近傍の結晶性および格子歪が緩和された表面を有することが確認された。
【0028】
(実施例10)
実施例9におけるポストアニール温度を1000℃として処理を行った。
被処理基板を測定したところ、表1に示すように実施例9と同様の結果が得られた。
【0029】
(実施例11)
実施例9におけるポストアニール温度を1100℃として処理を行った。
ポストアニール後のAFM測定の結果から、表1に示すように1.0u.c.のステップ高さを持つステップおよびテラス構造を有する表面が再現よく得られていることが確認された。また、実施例1と同様のエッチング試験の結果から、実施例1と同様に表面近傍の結晶性および格子歪が緩和された表面を有することが確認された。
【0030】
(実施例12)
実施例9におけるポストアニール温度を1300℃として処理を行った。
被処理基板を測定したところ、表1に示すように実施例11と同様の結果が得られた。
【0031】
(比較例5)
実施例9における熱処理温度を700℃で処理を行った。
処理後のAFM測定の結果から、処理前のAFM像との変化はほとんど見られず、バンチングやピットの発生が散見された。
【0032】
(比較例6)
実施例9における熱処理温度を1400℃で処理を行った。
処理後の基板の外観が明らかに褐色に変色していた。また、AFM測定の結果から、バンチングの発生が散見された。
【0033】
(実施例13)
実施例9における堆積成分(ターゲット)として、酸化亜鉛を混合しない、酸化ビスマスのみのターゲットとし、堆積時の温度を750℃として、ポストアニール温度を1200℃として処理を行った。
被処理基板を測定したところ、表1に示すように実施例11と同様の結果が得られた。
また、本処理前後においてラザフォード後方散乱分光法におけるチャネリング測定(以下「RBS」という。)を実施したところ、処理後でのアラインスペクトルとランダムスペクトルの比(以下「規格化収率」という。)が、処理前と比較して飛躍的に減少していることが確認された。
このことから、処理基板の表面近傍において格子歪が大きく緩和され、結晶性の改善がなされていることが理解できる。またこの結果から実施例1乃至実施例12の被処理基板表面近傍においても格子歪が緩和され、結晶性の改善がなされていることが類推される。
【0034】
(比較例7)
実施例13において、フラックスの成膜を行なわずポストアニールのみを実施した。
その結果、ポストアニール後のAFM測定の結果から、表1に示すように大部分で1.0u.c.のステップ高さを持つステップおよびテラス構造を有する表面が得られた。さらにエッチング試験を行ったところ、実施例1乃至実施例13と同様エッチピットの発生は見られなかった。しかし、本処理前後でのRBS測定を行ったところ、処理後の規格化収率において僅かながら増加する傾向が見られた。このことから、ポストアニールのみでは表面近傍の結晶性および格子歪が十分に緩和されていないことが理解できる。
【0035】
【表1】

RT:室温(約20°C)
BZ:Zn/(Bi+Zn)=11%のターゲット使用
BI:酸化ビスマスのみのターゲット使用
III:フラックス堆積量1.6x10−3(cm/cm
V:フラックス堆積量1x10−5(cm/cm
VI:フラックス堆積量1x10−6(cm/cm
ステップ及びテラス構造:再現性が、
81%以上=○、21〜80%=△、20%以下=×
RBS:処理前後で規格化収率が、
減少=○、増加=× 未実施=−
エッチング:10x10mm範囲でエッチング数が3個以下=○
−:未実施
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の第1の形態における酸化亜鉛単結晶基板の製造工程を示す図である。
【図2】本発明の実施の第2の形態における酸化亜鉛単結晶基板の製造工程を示す図である。
【図3】本発明の実施の第3の形態における酸化亜鉛単結晶基板の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 基板
1A 酸化亜鉛単結晶基板(被処理基板)
1B 酸化亜鉛単結晶基板(被処理基板)
1C ポストアニールされた酸化亜鉛単結晶基板(被処理基板)
2 薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛単結晶の基板上に酸化亜鉛を溶解することができる成分であるフラックスを用いて薄膜を形成する成膜工程と、上記フラックスを除く除去工程とを備えていることを特徴とする酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
成膜工程では、堆積時の基板温度を酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上共晶温度+150℃以下の範囲に制御した条件で堆積するものであることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
フラックスの除去は、高温真空中で上記フラックスを蒸発させる方法であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
成膜工程では、フラックスが溶融しない条件で上記フラックスを基板上に堆積した後、酸化亜鉛とフラックスの共晶温度以上共晶温度+350℃以下の範囲に制御し、真空中の条件で熱処理することを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
フラックスは、酸化ビスマスを含む成分であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
フラックス成分と共に酸化亜鉛を含む成分を堆積することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
フラックスの堆積量は、少なくとも1x10−5(cm/cm)であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項8】
酸化亜鉛単結晶の基板における処理表面の極性が+c面であり、成膜及び除去工程を終えた被処理基板を1100℃以上1300℃以下の範囲で加熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項9】
酸化亜鉛単結晶の基板における処理表面の極性が−c面であり、成膜及び除去工程を終えた被処理基板を800℃以上1000℃以下の範囲で加熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。
【請求項10】
酸化亜鉛単結晶の基板における処理表面の極性が−c面であり、成膜及び除去工程を終えた被処理基板を1100℃以上1300℃以下の範囲で加熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の酸化亜鉛単結晶基板の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−249208(P2009−249208A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96734(P2008−96734)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(391049530)株式会社信光社 (14)
【Fターム(参考)】