説明

酸化方法

【課題】技術的に簡単で、経済的な方法で生成物が得られるように、酸化剤を用いて、出発材料、特に有機出発材料の酸化を容易にする方法を提供する。
【解決手段】シクロヘキサンを酸化剤で酸化して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む生成物混合物を得る方法であって、下端に底部領域、上端に頂部領域、及び底部領域と頂部領域との間に反応区域を有し、10〜100の理論段数の分離性能を有する精留塔において、塔の棚段での反応混合物の平均滞留時間を1〜120分間とし、及び精留塔の上部区域の理論段数5〜50により、酸化を行う工程、反応区域において、反応混合物を沸騰状態に維持する工程、及び酸化剤を少なくとも2つの副流で反応区域に導入する工程、を含む方法が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出発材料を酸化剤で酸化して生成物を得る方法であって、
下端に底部領域、上端に頂部領域、及び底部領域と頂部領域との間に反応区域を有する反応装置において、酸化を行う工程、
反応区域において、反応混合物を沸騰状態に維持する工程、及び
酸化剤を少なくとも2つの副流で反応区域に導入する工程を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出発材料、特に有機出発材料を、分子状酸素を含有するガスで酸化して生成物を得る方法は、多く知られている。
【0003】
例えば、飽和化合物を不飽和化合物に、例えばメチルシクロヘキサンをトルエンに、プロパンをプロペンに、アルコールをアルデヒド又はケトンに(例、イソプロパノールをアセトンに、s−ブタノールをメチルエチルケトンに、又はメタノールをホルムアルデヒドに)、炭化水素をヒドロペルオキシドに(例、クメンをクメンヒドロペルオキシドに、テトラリンをテトラリンヒドロペルオキシドに、又はシクロヘキサンをシクロヘキサンヒドロペルオキシドに)、オレフィンをエポキシドに(例、エテンをエチレンオキシドに)、又は炭化水素をアルコール、アルデヒド、ケトン又はカルボン酸(例、シクロヘキサンをシクロヘキサノール又はシクロヘキサノンに、トルエンをベンズアルデヒド又は安息香酸に、0−、m−又はp−キシレンを対応する芳香族ジカルボン酸又はその無水物に、ブタンを無水マレイン酸に、又はプロパンをアクロレイン又はアクリル酸に)転化することができる。
【0004】
このような酸化における問題の1つは、所望の価値ある生成物がそれ自身も同様に酸化されて、望まない副生物或いは最終的には二酸化炭素と水がもたらされることである。この不利のため、酸化反応の選択性が低下する。
【0005】
工業的に重要な酸化は、Weissermel/Arpe,Industrielle Organishe Chemie,第4版,VCH,Weinheim,1994,260頁以降に記載されており、その内容は、水相において、触媒としてマンガン又はコバルトの存在下、125〜165℃及び8〜15バール(絶対値)の圧力にてシクロヘキサンを酸化して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む混合物を得ることである。
【0006】
この酸化において、シクロヘキサン転化率は、工業的に現実味のある選択性を達成するために制限されている。Arpentier et al.,The Technology of Catalytic Oxidations,Editions Technip 2001,226頁以降によれば、1〜2%の範囲にあるシクロヘキサン転化率の選択性は約90%であるが、一方4〜5%の転化率でさえ、選択性は77〜85%に落ちてしまう。
【0007】
未転化のシクロヘキサンは、下流の蒸留塔で留去されて、酸化段階に再循環されなければならない。
【0008】
シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンはカプロラクタム及びアジピン酸を製造するための出発材料である。カプロラクタム及びアジピン酸も共に工業的に重要なポリアミドを製造するためのモノマーとして相当程度使用されている。
【0009】
DE19811517には、オゾンに対して不活性な反応器において、蒸留塔の塔頂を介してオゾンを計測導入し、同時に塔の底部に生成物として形成されるシクロヘキサノン連続的に除去しながら、シクロヘキサンをオゾンで非触媒的に選択酸化してシクロヘキサノンとするが記載されている。
【0010】
この方法の不利は、酸化剤と出発材料との不十分な接触、及び酸化剤の利用が不足していることである:即ち、工業的に意味のある圧力では、オゾンはガスであり、このため酸化されるべき炭化水素と充分に接触することなく再び反応器を離れる。
【0011】
さらに、この方法は、酸化されるべきシクロヘキサンの沸点未満か、或いは等しい温度で実施することを意図している。しかしながら、反応生成物は出発材料より約75℃高く沸騰し、このため反応混合物の沸騰温度がシクロヘキサンの沸点を超えることから、この方法は蒸留の無い純粋な液相反応である。このため、この反応は、すでに述べた、反応混合物の分離及びシクロヘキサンの再循環に関する不利がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】DE19811517
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Weissermel/Arpe,Industrielle Organishe Chemie,第4版,VCH,Weinheim,1994,260頁以降
【非特許文献2】Arpentier et al.,The Technology of Catalytic Oxidations,Editions Technip 2001,226頁以降
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、前記の不利を回避しながら、技術的に簡単で、経済的なやり方で生成物が得られるように、酸化剤を用いて、出発材料、特に有機出発材料の酸化を容易にする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明等は、上記目的が、シクロヘキサン(出発材料)を酸化剤で酸化して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む生成物混合物を得る方法であって、
下端に底部領域、上端に頂部領域、及び底部領域と頂部領域との間に反応区域を有し、10〜100の理論段数の分離性能を有する精留塔において、塔の棚段での反応混合物の平均滞留時間を1〜120分間とし、及び精留塔の上部区域の理論段数5〜50により、酸化を行う工程、
反応区域において、反応混合物を沸騰状態に維持する工程、及び
酸化剤を少なくとも2つの副流で反応区域に導入する工程、
を含み、
反応区域を離れた未転化のシクロヘキサンを反応区域に再循環させ、酸化剤として分子状酸素を含有するガスを用い、生成物を含有する反応混合物を反応区域の下方で回収し、反応混合物を精留塔の底部領域において連続的に回収し、未転化のシクロヘキサン及び水を頂部領域で連続的に除去し、シクロヘキサンと水を分離し、これにより得られたシクロヘキサンを精留塔の上部領域に還流することを特徴とする方法、により達成されることを見いだした。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、反応装置の有利な態様の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、本発明の方法は、出発材料の酸化に好適である。
【0018】
有用な出発材料は、無機化合物、有機化合物であるが、有機化合物が好ましい。
【0019】
有用な有機化合物は、不飽和、しかし好ましくは飽和炭化水素である。これらの炭化水素では、1個以上の炭素原子が、ヘテロ原子、例えば酸素、窒素、イオウ又はリンで置換されても良く、このようなヘテロ原子の自由原子価は水素又は置換基(特に炭化水素について以下に規定される置換基)で飽和されていても良い。炭素原子は、このようなヘテロ原子で置換されることがないことが好ましい。本発明の目的のために、このようなヘテロ原子を有する、及び有さない両方の炭化水素は、まとめて炭化水素と呼ばれる。
【0020】
有用な不飽和炭化水素としては、1個以上の3重結合、1個以上のオレフィン性2重結合又は芳香族環を有するもの、或いはこのような特徴の組合せを有するものを挙げることができ、例えばエテン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、1,3−ブタジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、フルオレン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、及びテトラリンを挙げることができる。有用な不飽和炭化水素は、直鎖又は環式である。
【0021】
有用な飽和炭化水素は、直鎖、好ましくは環式アルカンであり、特に炭素原子数2〜12個のものが好ましい。
【0022】
有利な直鎖のアルカンは、エタン、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン及びn−デカンである。
【0023】
有用な環式アルカンは、シクロヘキサン及びデカリンである。
【0024】
炭化水素は、無置換でも、置換されていても良い。置換基としては、例えば、脂肪族基、好ましくはC1〜C8−アルキル基(例、メチル、エチル、i−プロピル、n−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−へプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル)、OH、=O、C1〜C8−アルコキシ、COOH、C2〜C6−カルバルコキシ(carbalkoxy)、C1〜C10−アシルオキシ又はC1〜C8−アルキルアミノ、スルホン酸又はその塩(アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、又はエステル)、シアノ、又はハロゲン(例、フッ素、塩素又は臭素)を挙げることができる。
【0025】
有利な態様において、本発明の方法は、炭化水素又はアルデヒドのヒドロペルオキシドへの酸化に適用することができる。この酸化は、例えばオレフィンの間接エポキシ化(例、アセトアルデヒドを過酢酸に、イソブタンをイソブチルペルオキシドに、イソペンタンをイソペンチルペルオキシドに、エチルベンゼンをフェニルエチルペルオキシドに、クメンをクメンヒドロペルオキシドに、又はテトラリンをテトラリンヒドロペルオキシドに)に使用することができる。
【0026】
別の有利な態様において、本発明の方法は、炭化水素又はアルデヒドの酸又はその無水物或いはそのエステルへの酸化に、例えばp−キシレンをテレフタル酸に、m−キシレンをイソフタル酸に、o−キシレンをフタル酸又は無水フタル酸に、n−ブタンを酢酸に、トルエンをベンズアルデヒド又は安息香酸に、パラフィンを酸に、アセトアルデヒドを酢酸に、トリメチルベンゼンをヘミメリット酸に、n−ブチルアルデヒドをn−ブチル酸に、クロトンアルデヒドをクロトン酸に、ブタンを酢酸エチルに、ブテンを無水マレイン酸に、ブタンを無水マレイン酸に、ベンゼンを無水マレイン酸に、又はプロペンをアクリル酸に、適用することができる。
【0027】
別の有利な態様では、本発明の方法は、炭化水素又はアルデヒドのケトン、アルコール又はキノンへの酸化に、例えばフルオレンをフルオレノン、トリメチルフェノールをトリメチルキノンに、アセトアルデヒドを無水酢酸に、ナフタレンをナフトキノンに、アントラセンをアントラキノンに、p−ジイソプロピルベンゼンをヒドロキノンに、p−メチルイソプロピルベンゼンをクレゾールに、又はパラフィンをアルコールに、適用することができる。
【0028】
別の有利な態様では、本発明の方法は、アルコールのアルデヒド又はケトンへの酸化に、例えばイソプロパノールのアセトンに、s−ブタノールのメチルエチルケトンに、又はメタノールのホルムアルデヒドに、適用することができる。
【0029】
別の有利な態様では、本発明の方法は、C−C単結合のC−C複重結合への酸化に、例えばブテンをブタジエン、エチルベンゼンをスチレンに、メチルシクロヘキサンをトルエンに、又はプロパンをプロペンに、適用することができる。
【0030】
別の有利な態様では、本発明の方法は、炭化水素のニトリルへの酸化に、例えばトルエンをN2Oで酸化してベンゾニトリルに、適用することができる。
【0031】
さらに好ましい態様では、本発明の方法は、オゾンを用いてC−C単結合又はC−C複重結合の酸官能基への酸化に、例えば天然物の脂肪酸へのオゾン分解に適用することができる。
【0032】
別の有利な態様では、本発明の方法は、過酸化水素を用いてC−C複重結合の対応するジオールへの酸化に、例えばアリルアルコールをグリセロールに、適用することができる。炭化水素は、個々の化合物として、又はこれらの炭化水素の混合物として使用することができる。
【0033】
特に好ましい態様において、使用される出発材料はシクロヘキサンである。
【0034】
この場合の有利な生成物は、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、シクロヘキシルヒドロペルオキシド又はこれらの混合物、特にシクロヘキサノール、シクロヘキサノン又はこれらの混合物である。
【0035】
本発明によれば、出発材料は酸化剤を用いて酸化する。
【0036】
有利な態様では、使用される酸化剤は、分子状の酸素含有ガス、特に分子状の酸素である。
【0037】
使用される分子状の酸素は、三重項状態又は一重項状態の二酸素、又は三酸素、即ちオゾン、好ましくは分子状酸素、特に三重項状態の二酸素、又はこのような分子状態の酸素の混合物である。このような分子状酸素を含むガスは、別の成分を含まなくて良い。
【0038】
このような分子状酸素を含むガスは、別の異なる成分を含むことができる。
【0039】
有用な別の異なる成分としては、酸化ガス、例えば酸化窒素を挙げることができる。
【0040】
別の異なる成分の場合、不活性ガス、酸化反応に実質的に参加しないもの、本発明では、窒素(例、空気の形で)、或いは希ガス(例、アルゴン)又はこれらの混合物、を使用することが好ましい。
【0041】
別の好ましい態様では、使用される酸化剤は、1種以上の酸化窒素を含むガス、特に1種以上の酸化窒素である。
【0042】
有用な酸化窒素としては、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素及びこれらの混合物又はオリゴマーを挙げることができる。一種以上の酸化窒素を含むガスは、別の成分を含まなくても良い。
【0043】
一種以上の酸化窒素を含むガスは、さらに異なる成分を含んでも良い。
【0044】
有用なさらなる異なる成分としては酸化ガス、例えば酸素を挙げることができる。
【0045】
さらなる異なる成分の場合、不活性ガス、即ち酸化反応に実質的に参加しないもの、本発明の方法では、窒素(例、空気の形で)、或いは希ガス(例、アルゴン)又はこれらの混合物、を使用することが有利である。
【0046】
別の好ましい態様において、使用される酸化剤は、反応条件下に液体である化合物、例えばペルオキシド(例、過酸化水素等の無機過酸化物、又はシクロヘキサンヒドロペルオキシド、イソブチルヒドロペルオキシド、イソペンチルヒドロペルオキシド、フェニルエチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、テトラリンヒドロペルオキシド、又は過酢酸等の過酸などの有機過酸化物)であり得る。
【0047】
使用される出発材料と分子状酸素含有ガスの分子状酸素との間の混合比は、化学的観点(例えば、アルカンのアルコール又はケトンへの転化)、及びまた工学的観点(即ち所望の転化率)から、出発材料の生成物への所望の転化程度に依存している。またその混合比は、2、3の簡単な予備実験により容易に最適化することができる。
【0048】
酸化剤及び出発材料は、反応器に別々に添加することができる。
【0049】
酸化剤及び出発材料は、反応器に添加する前に、一部混合し、反応装置に添加することができる。
【0050】
酸化剤及び出発材料は、反応装置に添加する前に完全に混合し、反応装置に添加することができる。
【0051】
本発明によれば、酸化は反応装置で行われるが、その反応装置は、
下端に底部領域、
上端に頂部領域、及び
底部領域と頂部領域との間に反応区域を有する。
【0052】
好ましい反応装置は、精留塔であり、これは例えば、Kirk−Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,第3版,第7巻,John Wiley & Sons,New York,1979,870−881頁に記載されており、例えば段塔(例、篩い段塔、又は泡鐘段塔)、又は構造充填物又は不規則充填物を有する塔を挙げることができる。
【0053】
好ましい態様において、有用なトレイ(棚段)は、塔における反応混合物の長い滞留時間を容易にするもの、例えばバルブトレイ、好ましくは泡鐘トレイ又はトンネル鐘トレイである。
【0054】
別の好ましい態様において、構造充填物、例えば網目金属充填物又は板状金属充填物(規則構造を有することが有利であり)、又は不規則充填物が考慮されている。
【0055】
別の好ましい態様において、ホールドアップ充填物が考えられる。ホールドアップ充填物は、反応区域の滞留時間を圧力降下で調節することを可能にし、そして高い負荷の状態でさえ、良好な分離性能を保証している。
【0056】
特に好ましい態様では、多数のプレートを有するインターナル(internal)、例えば網目金属充填物又は板状金属充填物(規則構造を有することが有利である)を、酸化剤の反応装置への最低の供給地点の下方で使用することができる。
【0057】
精留塔は、10〜100、好ましくは20〜40の理論段数の分離性能を有することが、有利なはずである。
【0058】
有利には、2種の反応剤の出発材料と酸化剤の高沸点反応剤は、低沸点反応剤の上で、大部分又は完全に反応装置に供給することができ、特に高沸点反応剤は、精留塔の上部区域に供給し、低沸点反応剤は、精留塔の下部区域に供給することができる。
【0059】
高沸点反応剤は低沸点反応剤を含んでも良い。
【0060】
低沸点反応剤は高沸点反応剤を含んでも良い。
【0061】
特に好ましい態様において、精留塔は反応区域と底部の間の蒸留区域を有する。
【0062】
0〜50、好ましくは5〜30の理論段数を、精留塔の下部区域、即ち蒸留区域に設置することが特に有利であることが分かっている。
【0063】
0〜50、好ましくは5〜30の理論段数を、精留塔の上部区域、即ち反応区域に設置することが特に有利であることが分かっている。反応区域は、塔の精留区域内に位置していても良い。
【0064】
反応区域は塔の精留区域の外側に位置していても良い。
【0065】
反応区域は精留塔の外側に位置していても良い。
【0066】
この場合、反応区域の圧力及び精留塔の圧力は同じでも異なっていても良い。
【0067】
図1は、反応装置の有利な態様の概略を示している。
【0068】
図1において:
1: 反応区域
2: 蒸留区域
3: 出発材料の供給
4: 触媒の供給
5: 酸化剤の添加、特にガス状酸化剤、例えば空気
6: エバポレータ
7: 生成物流
8: 熱交換機
9: 不活性物質の排出
10: 分離器
11: 水の排出
12: 出発材料の再循環
【0069】
本発明の方法は、直列に連結された複数の反応装置で行うことが好ましい。下流の反応装置をより低い圧力で操作する場合、上流の塔の蒸気流に含まれるエネルギー部分を下流の反応装置の1基の供給流に移すのが有利であろう。
【0070】
さらに、非凝縮蒸気流の部分は反応装置の下の領域に再循環するのが有利であろう。この循環ガス法は、底部流に存在するエネルギー部分の回収を可能にする。
【0071】
塔の棚段での反応混合物の平均滞留時間は、1〜120分間、好ましくは5〜30分間とすべきである。
【0072】
本発明の方法、特にシクロヘキサンを出発材料として使用した場合は、0.1〜3.5MPa、好ましくは0.5〜2.5MPaの範囲の圧力で行うことが好ましい。この圧力は反応装置の底部領域で測定される。
【0073】
その後、温度は反応区域の反応混合物の沸騰状態を維持する観点から、考慮される。特別の反応のこの目的にあった温度は、2、3の簡単な予備実験により容易に決定することができる。
【0074】
シクロヘキサンを出発材料として使用する場合、反応区域における有利な温度は、70〜220℃、好ましくは120〜190℃である。
【0075】
さらに好ましい態様では、反応装置は上部領域の上端部にガス回収用手段を有することができる。
【0076】
反応は、反応区域の下に存在する反応混合物が蒸発して、液体とガス反応混合物との混合物となるように行うことが有利であろう。
【0077】
有利な態様では、反応装置は、底部領域及び反応区域の領域において、液体反応混合物で満たされている。
【0078】
液体反応混合物に比較して低密度であることから、このようにして得られたガスの反応混合物は、その後、反応装置の頂部領域の方向に上昇する。気相と液相との間の相互作用のために、凝縮(濃縮)及び蒸発工程は、気相の組成の変化をもたらすであろう。
【0079】
本発明によれば、反応装置の頂部領域に到着したガス状反応混合物は、凝縮されて、その後反応区域に、有利には液相で送られる。
【0080】
本発明によれば、酸化剤は、少なくとも2個、好ましくは2〜100個、特に2〜50個、さらに2〜40個、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20の副流で、反応区域に導入される。
【0081】
酸化剤は、それ自体公知の方法、特にガスを液体に導入するための公知の方法で、反応装置に導入することができる。
【0082】
本発明の方法は、触媒無しに行っても良い。
【0083】
本発明の方法は、均一系又は不均一系の触媒の存在下に行っても良い。
【0084】
均一系触媒を使用した場合、これを、反応装置の頂部領域の反応混合物に添加し、底部領域の反応混合物と共に回収することが有利である。
【0085】
不均一系触媒を使用した場合、これを、公知の方法で反応装置の反応区域に固定することが有利である。
【0086】
一般に、それ自体公知の触媒は、特別な酸化反応、例えばシクロヘキサンのシクロヘキサノール、シクロヘキサノン又はその混合物への酸化の場合に使用することができ、コバルト又はマンガン塩である。
【0087】
触媒量は、特別の反応のためのこれらの触媒の公知の触媒速度及び本発明で選択された転化率に従って容易に決定することができ、そして触媒量の最適化は2、3の簡単な予備実験により行うことができる。
【0088】
生成物を含む反応混合物は、特に、生成物の沸点が反応条件下の出発材料の沸点より高い場合に、反応装置の底部領域で回収することが有利であろう。底部領域で回収された反応混合物は、生成物、或いは生成物と別の成分、例えば出発材料、副生物及び2次生成物を含む混合物から構成され得る。
【0089】
生成物を含む反応混合物は、特に生成物の沸点が反応条件下の出発材料の沸点より低い場合に、反応装置の頂部領域で回収することが有利であろう。頂部領域で回収された反応混合物は、生成物、或いは生成物と別の成分、例えば出発材料、副生物及び2次生成物を含む混合物から構成され得る。
【0090】
本発明の酸化反応において、回避できない或いは望まれない副生物として、或いは2次生成物として、水が発生する場合、これは、酸化中に、反応区域の上(有利には頭上)で反応装置から回収するのが有利である。
【実施例】
【0091】
[比較例1]
8個のチャンバーに分割された泡鐘塔反応器において、反応器の上端で投入されたシクロヘキサン流を、反応器における液相の滞留時間が31分間となるように調節した。適当量の空気を反応器のチャンバーに均一に分布するように加えることにより、シクロヘキサン転化率を3.5%に設定した。反応器を、16バールの圧力で操作した。
【0092】
シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキサンヒドロペルオキシドの合計選択率は、83.9%であった。反応器の液相に基づく時空収率は45.7kg/(m3・h)であった。
【0093】
[実施例1]
液相容量に基づき2415kg/(m3・h)のシクロヘキサンを、反応区域(上部)に10トレイ有し、蒸留区域(下部)に10トレイ有する反応塔における反応区域上に供給した。塔を、11.9バールの圧力で操作した。シクロヘキサン1kg当たり0.15m3(STP)の空気を、塔の反応区域の10トレイに均一に分布するように導入した。原料のシクロヘキサン流に基づいて200Wh/kgのエバポレータエネルギーで、シクロヘキサン転化率が10.1%であった。
【0094】
シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキサンヒドロペルオキシドの合計選択率は、88.0%であった。反応器の液相に基づく時空収率は250kg/(m3・h)であった。
【0095】
[比較例2]
全ての空気を反応区域の最低トレイに1つの流れで導入した以外、実施例を繰り返した。
【0096】
シクロヘキサン転化率が9.8%であった。
【0097】
シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキサンヒドロペルオキシドの合計選択率は、84.1%であった。反応器の液相に基づく時空収率は232kg/(m3・h)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキサンを酸化剤で酸化して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む生成物混合物を得る方法であって、
下端に底部領域、上端に頂部領域、及び底部領域と頂部領域との間に反応区域を有し、10〜100の理論段数の分離性能を有する精留塔において、塔の棚段での反応混合物の平均滞留時間を1〜120分間とし、及び精留塔の上部区域の理論段数5〜50により、酸化を行う工程、
反応区域において、反応混合物を沸騰状態に維持する工程、及び
酸化剤を少なくとも2つの副流で反応区域に導入する工程、
を含み、
反応区域を離れた未転化のシクロヘキサンを反応区域に再循環させ、酸化剤として分子状酸素を含有するガスを用い、生成物を含有する反応混合物を反応区域の下方で回収し、反応混合物を精留塔の底部領域において連続的に回収し、未転化のシクロヘキサン及び水を頂部領域で連続的に除去し、シクロヘキサンと水を分離し、これにより得られたシクロヘキサンを精留塔の上部領域に還流することを特徴とする方法。
【請求項2】
酸化を触媒の存在下に行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化により水が副生し、この水が酸化中に、精留塔の反応区域又は頂部領域から回収される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
10〜300℃の範囲の温度で行われ、その温度が反応区域で測定されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
出発材料を、酸化剤を含む循環ガスで酸化する請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
精留塔において、酸化剤及びシクロヘキサンから選択された高沸点反応剤の供給部を、酸化剤及びシクロヘキサンから選択された低沸点反応剤の供給部よりも上方に設ける請求項1〜5のいずれか1項の記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−18629(P2010−18629A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236899(P2009−236899)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【分割の表示】特願2004−531837(P2004−531837)の分割
【原出願日】平成15年7月30日(2003.7.30)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】