説明

酸化物接合用はんだ合金およびこれを用いた酸化物接合体

【課題】 本発明は、酸化物の接合に対して優れた接合強度および気密封止性を達成できる、低融点の酸化物接合用はんだ合金ならびにこれを用いた酸化物接合体を提供する。
【解決手段】 本発明は、質量%で、Mgを1.0%以下(0%は含まない)含み残部実質的にBiとSnからなる酸化物接合用はんだ合金であり、好ましい組成は、Mgが0.01〜0.6%、Biが35〜86%、残部実質的にSnである。本発明は、ガラス同士等といった酸化物の接合に用いることができ、安価な酸化物接合体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスやセラミックといった酸化物材料の接合に適用可能な低融点の酸化物接合用はんだ合金およびこれを用いた酸化物接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス等の接合技術においては、接着およびシーリング(封止)に使用される手段として、鉛を使用したはんだ、または鉛ガラスフリットが主流であったが、環境問題により鉛の使用ができなくなってきている。一方では、「JISハンドブック(3)非鉄」に掲載されている各種のロウ材およびブレイジングシート等においては、400℃以下で溶解して、密着性が良く、ガラスとロウ材の熱膨張係数の差によりガラスが収縮割れを起こさないで接着できる材料は、見あたらないのが現状である。
一方、はんだによるシーリングが必要な用途として、ペアガラス、真空容器またはガス封印容器等が存在し、これらの用途に適する無鉛合金はんだの開発が望まれていた。
【0003】
最近では、金属材料のシール材としてIn(インジウム)やIn合金が提案されている(特許文献1、2参照)。あるいは、Sn(スズ)を主成分としたものに多量のInに加えて、さらにはAl(アルミニウム)、Ag(銀)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)という多種の元素を添加するといった、やはりIn系のはんだ合金が提案されている(特許文献3参照)。また、Bi(ビスマス)、Zn、Sb(アンチモン)、Al、Inといった、Bi系のはんだが提案され、さらに低融点化を有するはんだ合金も提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2002−020143号公報
【特許文献2】特表2002−542138号公報
【特許文献3】特開2000−141078号公報
【特許文献4】特開2006−159278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜4に提案されるはんだ合金は、鉛を含まない低融点のはんだ合金として、ガラスやセラミック等の酸化物材料に対し、優れた接合強度および気密封止性を有する。しかしながら、これらの実施においては必須添加を要するInは資源が乏しく、特許文献1、2の手法は高価なために使用が限られている。また、比較的少量のIn添加であっても効果の得られるとされる特許文献3、4の手法も、蒸気圧の高いZnを用いており、真空容器を汚染する恐れがある。特許文献4については、さらに、有害性の高いSbを採用しており、使用には人体への影響を考慮する必要がある。
【0005】
そこで本発明は、以上のような欠点を解決し、できるだけ簡素な成分系で、低融点で優れた接合強度および気密封止性を達成できる、酸化物接合用はんだ合金およびこれを用いた酸化物接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、以下の組成バランスを有するはんだ合金であれば、ガラスをはじめとする酸化物材料に対して直接、接合強度の高いはんだ付けが可能であることを見いだした。
【0007】
すなわち、本発明は、質量%で、Mgを1.0%以下(0%は含まない)含み、残部実質的にBiおよびSnからなる酸化物接合用はんだ合金である。
本発明において、Mgは、好ましくは0.01〜0.6%、より好ましくは0.03〜0.5%である。
また、本発明の基本組成はSn−Bi系であり、Biは、質量%で好ましくは35〜86%、より好ましくは40〜60%であり、残部は実質的にSnとなる。
【0008】
本発明の酸化物接合用はんだ合金は、ガラス接合用として有用であり、酸化物同士といった従来接合の難しかった分野に適用することができる。
また、上記の本発明の酸化物接合用はんだ合金により、ガラス等の酸化物を強固に接合することができ、安価な酸化物接合体を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸化物接合用はんだ合金は、無鉛であり環境に優しく、低い融点を有することから、加熱や冷却に関して煩雑な製造工程を必要とせずに、優れた接合強度と気密封止性を得ることができる。また、ガラス等の酸化物の接合が可能であるため、例えば熱的なダメージの軽減が必要な精密電子部品や、ペアガラスやガラス容器等のシーリングに好適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、Sn−Bi系のはんだを基本組成とする。Sn−Bi合金は、共晶点で139℃という低融点を発現するため、熱的なダメージを避ける用途に好適である。
以下、本発明のはんだ合金の成分組成(質量%)を限定した理由について説明する。
Mgは、本発明の酸化物接合用はんだ合金にとっては、最も重要な元素であり、酸化物への接合を可能とする元素である。
Sn−Biの2元系のはんだ合金は、上記の通り、低融点を発現できるものの、そのSnおよびBiの配合を変化させても酸化物と接合することは難しいものであった。
【0011】
これに対して、本発明者等の検討によれば、所定量のMgを添加することにより酸化物との濡れ性が劇的に向上し、ガラス等の酸化物との密着が可能となることが明らかとなった。これは、Mgは酸素親和性が高く、酸化物となる傾向が強いため、はんだ合金中のMgが接合対象となる酸化物と結合し、その結果、酸化物に対する濡れ性が向上するためと考えられる。
しかしながら、Mgが多すぎると、Mgが過度に酸化物を形成して、かえって接合性が低下したり、Mgが接合雰囲気中の酸素と激しく反応して被接合物(酸化物)・接合治具が焼けてしまうという問題が懸念されるため、本発明においては、質量%で1.0%以下と規定した。
また、Mgは、非常に酸化しやすい元素であり、質量%で0.01%未満であると、添加することが難しく、成分調整が困難となるため、0.01%以上が好ましい。より好ましくは0.01〜0.6%であり、さらに好ましくは0.03〜0.5%である。
【0012】
SnおよびBiは、上述した通り、本発明の酸化物接合用はんだ合金の低融点特性を発現するための基本成分である。液相線温度を200℃以下に抑えるためには、質量%でBiは、好ましくは35〜86%であり、残部は実質的にSnとする。
さらに、液相線温度を180℃以下に抑えるためには、質量%でBiは、より好ましくは40〜60%であり、残部は実質的にSnとする。
【0013】
本発明においては、Sn−Bi系の低融点組成を基本として、所定量のMgにより、酸化物との接合性を確保するものである。したがって、本発明の作用を害しない量の他の元素を含有させておくことが可能である。
例えば、組織の均一化、膨張収縮の調整、硬さ調整等に有効な元素としては、Cu、Ag、Niがある。
また、接合強度を改善したり、粘性の改善に作用するAl、Zn、Yがある。
また、はんだ溶融時の酸化物発生を抑制する元素として、Ti、Ge、Pがある。
いずれも、総量として1質量%以下であれば、本発明の効果を阻害しない。
また、不可避的不純物として、Fe、Co、Cr、VおよびMnは、はんだの濡れ性を阻害するため、これら元素の合計は、1質量%以下に規制することが好ましい。より好ましくは、合計で500質量ppm以下であることが望ましい。
また、GaおよびBは、ボイドの発生の原因となるため、これらの元素は、500質量ppm以下に規制することが好ましい。より好ましくは、100質量ppm以下であることが望ましい。
【0014】
本発明の酸化物接合用はんだ合金は、酸化物に対して優れた接合強度と気密封止性を達成できる。例えば、Al(アルミナ)などのセラミックや、ソーダライム系などのガラスに対しては勿論のこと、これらに限らない酸化物に対しても優れた接合能を発揮できるものである。
もちろん、Sn−Bi系の酸化物接合用はんだ合金であるため、上記のガラス等の酸化物同士の接合にのみ用いられるものではなく、酸化物−金属といった接合も可能である。例えば各種ステンレス鋼や銅、Fe−Ni系合金、Alといった金属に対しても接合能を有する。
また、本発明の酸化物接合用はんだ合金は、酸化物・窒化物表面に塗付することで、はんだ付けの下地処理の代替として用いることもできる。
【実施例1】
【0015】
表1の組成になるように秤量した各元素を、Ar雰囲気中で高周波溶解を行なった後、雰囲気中で鋳型に流し込み、酸化物接合用はんだ合金を作製した。そして、得られた酸化物接合用はんだ合金を、以下に記する試験方法で評価した。なお、本評価において、酸化物接合用はんだ合金は、はんだ付けしやすいように小片に切断加工をして使用した。
【0016】
試料No.2の酸化物接合用はんだ合金をソーダライムガラス基板に接合して、接合状況を確認した。このとき、接合断面は、イオンミリングによる表面研磨を実施した。接合状況の観察結果を図1に示す。
図1に示すように、本発明の酸化物接合用はんだ合金とソーダライムガラス基板とが接合していることを確認した。
また、試料No.12の酸化物接合用はんだ合金をAl基板およびMgO(マグネシア)基板に接合して、接合状況を確認した。このとき、Al基板およびMgO基板への接合方法としては、各酸化物基板を約195℃まで加熱し、超音波はんだこて(黒田テクノ(株)社製SUNBONDER USM−III)を用いて超音波を印加しながらはんだ付けを行なった。接合状況の観察結果を図2、図3に示す。
図2、3に示すように、本発明の酸化物接合用はんだ合金とAl基板およびMgO基板とが接合していることを確認した。
【0017】
「3点曲げ強度の測定方法」
接合強度を測定するため、2枚のガラス板を表1に示すはんだ合金で接合した試験片を準備し、これに3点曲げによる試験を行なった。試験片は、厚さ3mm×長さ50mm×幅25mmのソーダライムガラス基板を2枚用い、お互いがずれた位置で長さ6mmの接合代で接合した。そして、接合した試験片を3点曲げすることで、接合部が剥がれ、2枚のソーダライムガラス基板が分離し破壊したときの荷重を測定した。荷重評価試験機は、アイコーエンジニアリング(株)社製MODEL−1308を用いた。
【0018】
「ガラス中の残留応力の測定方法」
厚さ5mm×長さ40mm×幅40mmのソーダライムガラス基板を、基板表面の有機物を除去するために、大気中で約380℃に加熱したホットプレート上に設置し、その一平面に大気中で厚さ0.4mmの酸化物接合用はんだ合金を塗付した。そして、偏光補償法(セナルモン法)によってガラス中の内部応力を測定した。測定要領は、酸化物接合用はんだ合金の接合面側の内部応力と、酸化物接合用はんだ合金を塗付していない面側の内部応力を求め、圧縮応力を正として差分を取り、酸化物接合用はんだ合金を塗付したことよるガラス中の内部応力の増加分とした。
【0019】
【表1】

【0020】
表1より、本発明を満たす試料No.1〜13の酸化物接合用はんだ合金を用いた試験片は、3点曲げ強度が1.0N/mm以上の十分な接合強度と、残留応力の絶対値が2.0N/mm以下の低い値が得られた。なお、Mgを添加しない、本発明を外れる試料No.14のはんだ合金は、それ自体をガラスに塗布することができず、接合自体が不可能であった。
【実施例2】
【0021】
表2の組成になるように秤量した各元素を、Ar雰囲気中で高周波溶解を行なった後、雰囲気中で鋳型に流し込み、酸化物接合用はんだ合金を作製した。そして、得られた酸化物接合用はんだ合金を、以下に記する試験方法で評価した。なお、本評価において、酸化物接合用はんだ合金は、はんだ付けしやすいように小片に切断加工をして使用した。
【0022】
「リーク試験」
厚さ3mm×長さ50mm×幅50mmのソーダライムガラス基板を、170℃に加熱した状態で、その一平面上の周囲に、約2mmの幅になるよう、酸化物接合用はんだ合金を塗付した。一方で、直径φ3mmの孔を中央部に持つ同寸法のソーダライムガラス基板の周囲に、約2mmの幅になるよう、酸化物接合用はんだ合金を塗付した。そして、ホットプレート上ではんだ同士が接するように上記2枚のソーダライムガラス基板を重ね、雰囲気を真空とした後に200℃までソーダライムガラス基板を加熱した。このとき、2枚のソーダライムガラス基板が0.1mm程度の隙間を有しておくように、2枚のソーダライムガラス基板の間には厚さ0.1mm(約1mm角)のステンレス箔をスペーサとして設置した。これにより、内部には0.1mmの高さ空間を持つ容器を形成した。
そして、得られた容器に対し、リークディテクタ((株)アルバック製HELIOT700)を用いて、容器空間を真空脱気しつつ、Heガスを接合各部へ吹き付けながら、そのリーク量を測定した。
また、実施例1と同様に3点曲げによる接合強度の測定も行なった。本実験で用いた酸化物接合用はんだ合金の成分と試験結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2より、本発明を満たす試料No.15、16の酸化物接合用はんだ合金を用いた容器は、リーク量が1.5×10−11Pam/s以下の低い値が得られ、高い気密性を保つことができた。
また、本発明を満たす試料No.15、16の酸化物接合用はんだ合金を用いた試験片においても、3点曲げ強度が1.0N/mm以上の十分な接合強度が得られ、ソーダライムガラス基板との接合が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明例2の酸化物接合用はんだ合金を用いて、ソーダライムガラス基板と接合した際の接合断面の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明例12の酸化物接合用はんだ合金を用いて、Al基板と接合した際の接合断面の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明例12の酸化物接合用はんだ合金を用いて、MgO基板と接合した際の接合断面の一例を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mgを1.0%以下(0%は含まない)含み、残部実質的にBiおよびSnからなることを特徴とする酸化物接合用はんだ合金。
【請求項2】
質量%で、Mg:0.01〜0.6%であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物接合用はんだ合金。
【請求項3】
質量%で、Bi:35〜86%であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物接合用はんだ合金。
【請求項4】
質量%で、Mg:0.03〜0.5%であることを特徴とする請求項1または3に記載の酸化物接合用はんだ合金。
【請求項5】
質量%で、Bi:40〜60%であることを特徴とする請求項1、2、4のいずれかに記載の酸化物接合用はんだ合金。
【請求項6】
ガラス接合用であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の酸化物接合用はんだ合金。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の酸化物接合用はんだ合金で接合されてなることを特徴とする酸化物接合体。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかに記載の酸化物接合用はんだ合金でガラスが接合されてなることを特徴とする酸化物接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−101415(P2009−101415A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243566(P2008−243566)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】