説明

酸化物磁性体の製造方法

【課題】 湿式成形による磁場配向性を向上する手法を提供することを目的とする。
【解決手段】 酸化物磁性体粒子及び分散媒を含む成形用スラリを、磁場中で湿式成形して成形体を得る成形工程と、成形体を焼成する焼成工程と、を備え、成形用スラリが、以下の第1の分散剤及び第2の分散剤を含むことを特徴とする酸化物磁性体の製造方法。
第1の分散剤:一般式;Cn(OH)nn+2で表される多価アルコール(ただしnは4≦n≦20)、及び、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物若しくはその中和塩(ただし、前記有機化合物は炭素数3〜20)から選択される少なくとも1種
第2の分散剤:多糖類又はその誘導体若しくはこれらの塩の少なくとも1種

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性フェライト磁石等の酸化物磁性体の製造方法に関し、特に湿式成形時の磁場配向性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、酸化物永久磁石材料として六方晶系のSrフェライトやBaフェライトが用いられており、これらの異方性フェライト磁石では、磁石性能を向上させるために磁場中プレスによる異方性化が広く行われている。磁石性能に大きな影響を与える因子としては、残留磁束密度Brが挙げられる。残留磁束密度Brには、次の関係がある。なお、下記式における単位重量当たりの飽和磁化(σs)は、物質固有の値である。
Br=(定数)×(単位重量当たりの飽和磁化)×(焼結体密度)×(配向度)
したがって、異方性焼結フェライト磁石の製造においては、焼結密度と配向度とが非常に重要である。高い配向度を得るため、フェライト粒子が水中に分散されたスラリを成形する、いわゆる湿式成形が、従来から行われている。
【0003】
この湿式成形による磁場配向性を改善するために、スラリ中に分散剤を添加する手法が種々提案されている。例えば、特許文献1〜5である。
【0004】
【特許文献1】特開2000−100612号公報
【特許文献2】特開2001−181057号公報
【特許文献3】特開平11−340022号公報
【特許文献4】特開2002−293615号公報
【特許文献5】特開平11−214208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1〜5が提案する分散剤の添加により、酸化物磁性体の磁場配向性が向上してきたが、さらなる磁場配向性の向上が求められている。ところが、特許文献1〜5等に開示された分散剤の添加量を増やしても、逆に磁場配向性を劣化させてしまう。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、湿式成形による磁場配向性をさらに向上する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等の検討によれば、特定の第1の分散剤及び第2の分散剤をともに添加することにより、各々単独の添加では得ることができない高い磁場配向性を得ることが可能になった。特定の第1の分散剤とは、一般式Cn(OH)nn+2で表される多価アルコール(ただしnは4≦n≦20)、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物若しくはその中和塩(前記有機化合物は炭素数3〜20)である。また、特定の第2の分散剤とは、多糖類又はその誘導体若しくはこれらの塩である。以上の第1の分散剤及び第2の分散剤を複合でスラリ中に添加することにより、磁場配向性を向上できる本発明は、酸化物磁性体粒子及び分散媒を含む成形用スラリを、磁場中で湿式成形して成形体を得る成形工程と、成形体を焼成する焼成工程と、を備え、成形用スラリが、以下の第1の分散剤及び第2の分散剤を含むことを特徴とする酸化物磁性体の製造方法である。
第1の分散剤:一般式;Cn(OH)nn+2で表される多価アルコール(ただしnは4≦n≦20)、及び、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物若しくはその中和塩(ただし、前記有機化合物は炭素数3〜20)から選択される少なくとも1種
第2の分散剤:多糖類又はその誘導体若しくはこれらの塩の少なくとも1種
【0007】
本発明において、酸化物磁性粒子に対する第1の分散剤の添加量をA1(wt%)、第2の分散剤の添加量をA2(wt%)とすると、以下の関係を有することが好ましい。
0.4wt%≦A1≦1wt%
0wt%<A2≦0.7wt%
本発明において、第1の分散剤をソルビトールとし、第2の分散剤をでんぷん及び/又はセルロースとすることが好ましい。
さらに本発明を適用する酸化物磁性体としては、AをSr、Ba、Ca及びPbから選択される少なくとも1種の元素、Rを希土類元素(Yを含む)及びBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを必ず含むものとし、MeをCoであるかCo及びZnとし、A、R、Fe及びMeそれぞれの金属元素の総計の構成比率を、A1-xx(Fe12-yMeyz の式(1)で表したとき、 0.04≦x≦0.9、0.04≦y≦1.0、0.4≦x/y≦5.0、0.7≦z≦1.2の組成を有する異方性フェライト磁石であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、特定の第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加することにより、第1の分散剤又は第2の分散剤を各々を単独で添加した場合には得ることのできない高い磁場配向度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより具体的に説明する。
<分散剤>
はじめに、本発明が用いる分散剤について説明する。
本発明は、第1の分散剤として、一般式Cn(OH)nn+2で表される多価アルコール(ただしnは4≦n≦20)、及び、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物若しくはその中和塩(前記有機化合物は炭素数3〜20)、から選択される少なくとも1種を用いる。
一般式:Cn(OH)nn+2で示される多価アルコールは、炭素数を表すnの値は4〜20であり、好ましくは4〜12である。多価アルコールとしては、ソルビトール,マンニトール,キシリトール,1,6−ヘキサンジオール,1,2−ヘキサンジオール,アセチレングリコールなどを用いることができるが、この中では炭素数x=6であるソルビトール,マンニトールが特に好ましい。
【0010】
前述の一般式は、骨格がすべて鎖式であって、かつ不飽和結合を含んでいない場合の一般式である。多価アルコール中の水酸基数、水素数は、一般式で表される数よりも多少少なくても良い。すなわち、飽和結合に限らず、不飽和結合を含んでいても良い。基本骨格は鎖式であっても環式であっても良いが、鎖式であることが好ましい。また、水酸基数が炭素数nの50%以上であれば、本発明の効果が実現するが、水酸基数は多い方が好ましく、水酸基数と炭素数が同程度であることが最も好ましい。
【0011】
本発明は、第1の分散剤として、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物若しくはその中和塩を用いることができる。上記各有機化合物は、炭素数が3〜20、好ましくは4〜12であり、かつ、酸素原子と二重結合した炭素原子以外の炭素原子の50%以上に水酸基が結合しているものが好ましい。有機化合物の基本骨格は、鎖式であっても環式であってもよく、また、飽和であっても不飽和結合を含んでいてもよい。より具体的には、ヒドロキシカルボン酸又はその中和塩、特に、グルコン酸(C=6;OH=5;COOH=1)又はその中和塩、ラクトビオン酸(C=12;OH=8;COOH=1)、酒石酸(C=4;OH=2;COOH=2)又はこれらの中和塩が好ましい。そして、これらのうちでは、配向度向上効果が高く、しかも安価であることから、グルコン酸又はその中和塩が好ましい。
【0012】
本発明は、第2の分散剤として多糖類又はその誘導体若しくはこれらの塩を用いる。
多糖類としては、でんぷん及びセルロースを用いることができる。でんぷんは、α−グルコースが縮合重合したものであり、構造の違いによってアミロースとアミロペクチンに分類することができる。アミロースは、α-グルコースが1,4位のみでグリコシド結合したものであり、直鎖状構造をしている。これに対して、アミロペクチンはα-グルコースが1,4位と1,6位でグリコシド結合したもので、枝分かれ構造をしている。一方、セルロースは、β-グルコースが縮合重合したものである。
【0013】
多糖類としては、OH基の少なくとも一部が、カルボキシル基を有する有機化合物との間でエーテル結合を形成しているものが好ましい。このような化合物としては、糖類とグリコール酸とのエーテルが好ましく、具体的には、カルボキシメチルセルロース又はカルボキシメチルでんぷんが好まし い。これらの化合物において、カルボキシメチル基の置換度、すなわちエーテル化度は最大で3となるが、エーテル化度は0.4以上であることが好ましい。エーテル化度が小さすぎると、水に溶けにくくなる。なお、カルボキシメチルセルロースは、通常、ナトリウム塩の形で合成され、本発明ではこのナトリウム塩も分散剤として用いることができるが、磁気特性に与える悪影響が少ないことから、好ましくはアンモニウム塩を用いる。また、酸化でんぷんも分子内にカルボキシル基を有する糖類であり、本発明において好ましく用いられる分散剤である。
多糖類の誘導体は、以上の多糖類の還元誘導体、酸化誘導体、脱水誘導体などを包含し、さらに広範囲の誘導体、例えばアミノ糖やチオ糖などをも包含する。
【0014】
本発明において、第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加することにより、配向性が向上する理由は明らかでないが、本発明の第1の分散剤と本発明の第2の分散剤とで、分散剤としての作用が異なるために、複合添加によって相乗効果が生じているものと解される。後述する実施例で明らかなように、第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加することにより、第1の分散剤及び第2の分散剤を単独で添加する場合よりも保磁力(HcJ)を向上することができる。
【0015】
<材料組成及び磁気特性>
次に、本発明が適用される酸化物磁性体としては、例えば六方晶のM型、W型のフェライト磁石、X型,Y型,Z型の六方晶フェライト、形状異方性を有する針状のγ−Fe23 、Co含有γ−Fe23 マグネタイト、CrO2等のいずれであってもよい。この場合、特に顕著な効果が得られるのは異方性フェライト磁石である。そこで以下の説明では異方性フェライト磁石について述べる。
【0016】
本発明が適用される異方性フェライト磁石は、主に六方晶のM型フェライトである。このようなフェライトとしては、特に、MO・nFe23(Mは好ましくはSr及びBaの1種以上、n=4.5〜6.5)であることが好ましい。このようなフェライトには、さらに、希土類元素、Ca、Pb、 Si、Al、Ga、Sn、Zn、In、Co、Ni、Ti、Cr、Mn、Cu、Ge、Nb、Zr等が含有されていてもよい。
【0017】
また、より好ましくはSr、Ba、Ca及びPbから選択される少なくとも1種の元素をAとし、希土類元素(Yを含む)及びBiから選択される少なくとも1種の元素をRとし、CoであるかCo及びZnをMeとしたとき、A,R,Fe及びMeのそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、A:1〜13原子%、R:0.05〜10原子%、Fe:80〜95原子%、Me:0.1〜5原子%である六方晶マグネトプランバイト型(M型)フェライトを主相に有するものが好ましい。この場合、Rとしては、La,Pr,Ndが好ましく、特にLaが好ましく、これにBiを併用してもよい。
特に、以下の組成式(1)で表される主成分を有することが磁気特性にとって好ましい。
AをSr、Ba、Ca及びPbから選択される少なくとも1種の元素、Rを希土類元素(Yを含む)及びBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを必ず含むものとし、MeをCoであるかCo及びZnとし、A、R、Fe及びMeそれぞれの金属元素の総計の構成比率を、
1-xx(Fe12-yMeyz の式(1)で表したとき、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.4≦x/y≦5.0、
0.7≦z≦1.2、
より好ましくは
0.04≦x≦0.5、
0.04≦y≦0.5、
であり、さらに好ましくは
0.1≦x≦0.4、
0.04≦y≦0.4、
である異方性フェライト磁石。
【0018】
なお、組成式(1)は、A、R、Fe及びMeそれぞれの金属元素の総計の構成比率を示したものであるが、酸素Oも考慮した場合には、A1-xx(Fe12-yMeyz 19で表すことができる。ここで、酸素Oの原子数は19となっているが、これは、Meがすべて2価、Fe、Rがすべて3価であって、かつx=y、z=1のときの、酸素Oの化学量論組成比を示したものである。x、y、zの値によって、酸素の原子数は異なってくる。また、例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、酸素Oの欠損(ベイカンシー)ができる可能性がある。さらに、FeはM型フェライト中においては通常3価で存在するが、これが2価などに変化する可能性もある。また、Meも価数が変化する可能性があり、さらにRにおいても3価以外の価数をとる可能性があり、これらにより金属元素に対する酸素Oの比率は変化する。したがって、以上では、また後述する実施例において、x、y、zの値によらず酸素Oの原子数を19と表示してあるが、実際の酸素の原子数は、これから多少偏倚した値を示すことがあり、そのような場合をも本願発明は包含する。
【0019】
上記異方性フェライト磁石の組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができるが、主成分及び副成分以外の成分の含有を排除するものではない。また、上記主相の存在は、X線回折や電子線回折などにより確認できる。
【0020】
上記異方性フェライト磁石には、Si成分、さらにはCa成分を含有することができる。Si成分及びCa成分は、六方晶M型フェライトの焼結性の改善、磁気特性の制御、及び焼結体の結晶粒径の調整等を目的として添加される。Si成分としてはSiO2を、Ca成分としてはCaCO3を、それぞれを使用するのが好ましいが、この例に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない化合物を適宜使用することができる。添加する時期については、Si成分は少なくとも総添加量の40%以上を仮焼前に添加(前添加)するのが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは100%を前添加することである。また、Ca成分については、総添加量の50%以上を仮焼後であって成形の前に添加(後添加)するのが好ましく、より好ましくは80%以上、最も好ましくは100%を後添加する。添加量は、Si成分について好ましくは、SiO2換算で0.15〜1.35wt%で、かつCa成分のモル量とSi成分のモル量の比Ca/Siが0.35〜2.10、より好ましくはSiO2換算で0.30〜0.90wt%で、Ca/Siが0.70〜1.75、さらに好ましくは0.45〜0.90wt%で、Ca/Siが1.05〜1.75である。
【0021】
上記異方性フェライト磁石には、副成分としてAl23及び/又はCr23が含有されていてもよい。Al23及びCr23は、保磁力を向上させるが残留磁束密度を低下させる。したがって、Al23とCr23との合計含有量は、残留磁束密度の低下を抑えるために好ましくは3wt%以下とする。なお、Al23及び/又はCr23添加の効果を充分に発揮させるためには、Al23とCr23との合計含有量を0.1wt%以上とすることが好ましい。
【0022】
上記異方性フェライト磁石には、副成分としてB23が含まれていてもよい。B23を含むことにより仮焼温度及び焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。B23の含有量は、異方性フェライト磁石全体の0.5wt%以下であることが好ましい。B23含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0023】
上記異方性フェライト磁石には、Na、K、Rb等のアルカリ金属元素は含まれないことが好ましいが、不純物として含有されていてもよい。これらをNa2O、K2O、Rb2O等の酸化物に換算して含有量を求めたとき、これらの含有量の合計は、異方性フェライト磁石全体の3wt%以下であることが好ましい。これらの含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0024】
また、これらのほか、例えばGa、In、Li、Mg、Ti、Zr、Ge、Sn、V、Nb、Ta、Sb、As、W、Mo等が酸化物として含有されていてもよい。これらの含有量は、化学量論組成の酸化物に換算して、それぞれ酸化ガリウム5wt%以下、酸化インジウム3wt%以下、酸化リチウム1wt%以下、酸化マグネシウム3wt%以下、酸化チタン3wt%以下、酸化ジルコニウム3wt%以下、酸化ゲルマニウム3wt%以下、酸化スズ3wt%以下、酸化バナジウム3wt%以下、酸化ニオブ3wt%以下、酸化タンタル3wt%以下、酸化アンチモン3wt%以下、酸化砒素3wt%以下、酸化タングステン3wt%以下、酸化モリブデン3wt%以下であることが好ましい。
【0025】
以上の異方性フェライト磁石の平均結晶粒径は、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.5〜1.0μmである。結晶粒径は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0026】
<用途>
本発明により得られる異方性フェライト磁石は、以下に示す幅広い用途に使用される。例えば、フューエルポンプ用、パワーウィンド用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータとして使用することができる。また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/LD/MDスピンドル用、CD/LD/MDローディング用、CD/LD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータとして使用することができる。さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータとしても使用することができる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータとしても使用することが可能である。その他の用途としては、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネトラッチ、アイソレータ等に、好適に使用される。
【0027】
<製造方法>
次に、本発明の分散剤を用いた異方性フェライト磁石の好適な製造方法について説明する。本発明の異方性フェライト磁石の製造方法は、配合工程、仮焼工程、粉砕工程、粉砕工程、磁場中成形工程、及び焼成工程を含む。なお、粉砕工程は、粗粉砕工程と微粉砕工程に分かれる。
<配合工程>
配合工程は、原料粉末を所定の割合となるように秤量後、湿式アトライタ、ボールミル等で1〜20時間程度混合、粉砕処理する。出発原料としては、フェライト構成元素(Fe、元素A、元素R、元素Me等)の1種を含有する化合物、又はこれらの2種以上を含有する化合物を用いればよい。化合物としては酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等を用いる。出発原料の平均粒径は特に限定されないが、通常、0.1〜2.0μm程度とすることが好ましい。出発原料は、仮焼前の本工程ですべてを混合する必要はなく、各化合物の一部又は全部を後添加とする構成にしても良い。例えば、Co等の元素Me成分は、一部又は全部を後添加とする方が好ましい。
【0028】
本発明では、配合工程において、添加物としてのSi成分を所定量添加することが好ましい。なお、本願明細書において、仮焼工程の前に添加する行為を前添加といい、仮焼工程の後に添加する行為を後添加ということにする。Si成分は、例えばSiO2粉末として添加することができる。配合時におけるSi成分の添加(前添加)量は、六方晶M型フェライトの構成成分からなる主組成に対して、SiO2換算で総添加量の40%以上とする。Si成分の前添加の量は50%以上、さらには80%とするのが好ましく、全量を前添加とすることが最も好ましい。Si成分の前添加量をこの範囲とすることで、磁気特性向上が図られる。
この他、配合工程において、Ca成分を添加(前添加)してもよい。Ca成分はSi成分と同様、六方晶M型フェライトの焼結性の改善、磁気特性の制御、及び焼結体の結晶粒径の調整等を目的として添加される。Ca成分としては、例えばCaCO3、CaO等を使用することができる。Ca成分の添加量は、本工程ですべてを混合する必要はなく、一部、好ましくは全部を後述する後添加とすることが好ましい。
【0029】
<仮焼工程>
配合工程で得られた原料組成物を仮焼する。仮焼は、通常、空気中等の酸化性雰囲気中で行われる。仮焼条件は特に限定されないが、通常、安定温度は1000〜1350℃、安定時間は1秒間〜10時間とすればよい。仮焼体は、実質的にマグネトプランバイト(M)型のフェライト構造を有し、その一次粒子径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。
配合工程において、Si成分を所定量添加すると、Si成分を前添加しない場合と比較して仮焼温度を低温化することができる。仮焼温度の低下により、製造コストの削減を図ることができる。
【0030】
<粉砕工程>
仮焼体は、一般に顆粒状、塊状等になっており、そのままでは所望の形状に成形ができないため、粉砕する。また、所望の最終組成に調整するための原料粉末、及び添加物等を混合するために、粉砕工程が必要である。本工程で原料粉末等を添加することが後添加である。粉砕工程は、粗粉砕工程と微粉砕工程に分かれる。なお、仮焼体を所定の粒度に粉砕することにより、ボンディッド磁石用のフェライト磁石粉末とすることもできる。
粉砕工程では、Ca成分を添加することが好ましい。Ca成分の添加は、前述のように前添加することも可能であるが、本工程で添加することが磁気特性にとってより好ましい。また本発明では、Si成分を前添加しているが、前添加量がSi成分をSiO2換算した総添加量の100%未満である場合、残りのSi成分は本工程で添加することが好ましい。Si成分及びCa成分の総添加量は、Si成分について好ましくは、SiO2換算で0.15〜1.35wt%で、かつCa成分のモル量とSi成分のモル量の比Ca/Siが0.35〜2.10、より好ましくはSiO2換算で0.30〜0.90wt%で、Ca/Siが0.70〜1.75、さらに好ましくは0.45〜0.90wt%で、Ca/Siが1.05〜1.75である。
【0031】
<粗粉砕工程>
前述のように、仮焼体は一般に顆粒状、塊状等であるので、これを粗粉砕することが好ましい。粗粉砕工程では、振動ミル等を使用し、平均粒径が0.5〜10μmになるまで処理される。なお、ここで得られた粉末を粗粉砕粉と呼ぶことにする。
<微粉砕工程>
粗粉砕粉を湿式アトライタ、ボールミル、あるいはジェットミル等によって粉砕し、平均粒径0.08〜2μm、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.2〜0.8μm程度に粉砕する。微粉砕工程は、粗粉砕粉をなくすこと、後添加物を充分に混合すること、及び磁気特性向上のために焼結体の結晶粒子を微細化すること等を目的として行われる。得られた微粉砕粉の比表面積(BET法により求められる)としては、7〜12m2/g程度とすることが好ましい。粉砕時間は、粉砕方法にもよるが、例えば湿式アトライタでは30分間〜10時間、ボールミルによる湿式粉砕では10〜40時間程度、処理すればよい。
【0032】
本発明の分散剤は、微粉砕工程で添加することが好ましい。
本発明は、第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加するが、その添加量は、第1の分散剤の添加量をA1、第2の分散剤の添加量をA2とすると、以下の範囲とすることが好ましい。なお、添加量は、スラリに含まれる酸化物磁性粒子に対するwt%である。また、第1の分散剤及び第2の分散剤を以下の範囲において、A1:A2=8〜9:2〜1の比率で複合添加されることが好ましい。
好ましい範囲
0.4wt%≦A1≦1wt%
0wt%<A2≦0.7wt%
さらに好ましい範囲
0.4wt%≦A1≦0.9wt%
0.2wt%≦A2≦0.5wt%
より好ましい範囲
0.6wt%≦A1≦0.9wt%
0.2wt%≦A2≦0.4wt%
【0033】
第1の分散剤及び第2の分散剤は、スラリに最終的に複合して添加されていればよい。つまり、両者の添加タイミングは問われない。微粉砕工程に先立って、第1の分散剤及び第2の分散剤の両者を同時に添加することができるし、一方を微粉砕工程に先立って添加し、他方を微粉砕工程が終了した後に添加することもできる。
【0034】
<磁場中成形工程>
次に、湿式にて磁場中成形工程を行う。
湿式成形を行う場合、微粉砕工程を湿式で行い、得られたスラリを所定の濃度に濃縮し、湿式成形用スラリとする。濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行えば良い。この場合、微粉砕粉が、湿式成形用スラリ中の30〜80wt%程度を占めることが好ましい。また、分散媒としては水が好ましい。次いで、湿式成形用スラリを用いて磁場中成形を行う。成形圧力は0.1〜0.5ton/cm2程度、印加磁場は5〜15kOe程度とすれば良い。なお、分散媒は水に限らず、非水系溶媒を使用しても良い。非水系の分散媒を使用する場合には、トルエンやキシレン等の有機溶媒を使用することができる。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加することが好ましい。
【0035】
<焼成工程>
得られた成形体を焼成し、焼結体とする。焼成は、通常、大気中等の酸化性雰囲気中で行われる。焼成条件は特に限定されないが、通常、例えば5℃/時間程度で昇温し、安定温度は1100〜1300℃、より好ましくは1150〜1250℃で、安定時間は0.5〜3時間程度とすれば良い。
湿式成形で成形体を得た場合、成形体を充分に乾燥させないまま急激に加熱すると、成形体にクラックが発生する可能性がある。その場合、室温から100℃程度まで、例えば10℃/時間程度のゆっくりとした昇温速度にすることで、成形体を充分に乾燥し、クラック発生を抑制することが好ましい。また、界面活性剤(分散剤)等を添加した場合、100〜500℃程度の範囲で、例えば2.5℃/時間程度の昇温速度とすることで脱脂処理を行い、分散剤を充分に除去することが好ましい。
【実施例】
【0036】
出発原料として酸化鉄(Fe23)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、及び水酸化ランタン(La(OH)3)を用意した。これらの主成分を構成する出発原料を、焼成後の主組成がSr0.88La0.12Co0.08Fe11.9219となるように秤量した後、主組成に対して0.6wt%となるように酸化ケイ素(SiO2)を添加した(前添加)。この混合原料を湿式アトライタで2時間混合、粉砕してスラリ状の原料組成物を得た。このスラリを乾燥後、大気中1100〜1150℃で2.5時間保持する仮焼を行った。
得られた仮焼体を小型ロッド振動ミルで10分間粗粉砕した。得られた粗粉砕粉に対して、上述の焼成後の主組成になるような酸化コバルト(Co34)を秤量して加えた(後添加)後、前述の焼成後の主組成に対して1.4wt%の炭酸カルシウム(CaCO3)(後添加)及び下記に従って分散剤を添加し、湿式ボールミルにて30時間微粉砕した。得られた微粉砕スラリの固形分濃度を70〜75%に調整し、湿式磁場成形機を使用して、12kOeの印加磁場中で直径30mm×厚み15mmの円柱状成形体を得た。成形体は大気中室温にて充分に乾燥し、ついで大気中1180〜1220℃で1時間保持する焼成を行った。得られた異方性フェライト磁石について、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを使用して、配向度(Br/4πImax)、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。
【0037】
分散剤は、以下の形態で添加した。
添加形態(A):第1の分散剤及び第2の分散剤を単独添加
第1の分散剤:ソルビトール(日研化成(株)ソルビトールFP,添加量:0〜1.2wt%)
第2の分散剤:アンモニウムカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業(株)製DN−10L,添加量:0〜1.0wt%)
【0038】
添加形態(B):第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加
第1の分散剤:ソルビトール(日研化成(株)ソルビトールFP,添加量:0.4wt%、0.9wt%)
第2の分散剤:アンモニウムカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業(株)製DN−10L,添加量:0〜1.0wt%)
【0039】
添加形態(C)第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加
第1の分散剤:ソルビトール(日研化成(株)ソルビトールFP,添加量:0.4wt%、0.9wt%)
第2の分散剤:酸化でんぷん(日澱化学(株)製アミコールDNK,添加量:0〜1.0wt%)
【0040】
添加形態(D)第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加
第1の分散剤:ソルビトール(日研化成(株)ソルビトールFP,添加量:0.4wt%、0.9wt%)
第2の分散剤:ポリカルボン酸アンモニウム(サンノプコ社(株)製SNディスパーサント5486,添加量:0〜1.0wt%)
【0041】
図1〜3に添加形態(A)による異方性フェライト磁石の磁気特性を、図4〜6に添加形態(B)による異方性フェライト磁石の磁気特性を、図7〜9に添加形態(C)による異方性フェライト磁石の磁気特性を、また図10〜12に添加形態(D)による異方性フェライト磁石の磁気特性を示す。
【0042】
図1及び図2に示すように、分散剤の添加により残留磁束密度(Br)及び配向度(Br/4πImax)が向上することがわかる。ただし、配向度は最高で97.0%程度に留まっている。
図4及び図5、又は図7及び図8に示すように、上述した第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加することにより、第1の分散剤又は第2の分散剤の単独添加では得ることのできない残留磁束密度(Br)及び配向度(Br/4πImax)を得ることができる。また、図6及び図9に示すように、上述した第1の分散剤及び第2の分散剤を複合添加することにより、保磁力(HcJ)も向上できることがわかった。
【0043】
図10及び図11に示すように、第2の分散剤としてポリカルボン酸アンモニウムを添加した場合は、配向度(Br/4πImax)はほとんど向上せず、そのため残留磁束密度(Br)も向上しない。第2の分散剤としてポリカルボン酸アンモニウムを添加して得られた異方性フェライト磁石の焼結密度及び飽和磁化を測定したところ、いずれも低下しており、これが残留磁束密度(Br)の低下の原因である。なお、焼結体密度及び飽和磁化は、焼成温度を高くすることによって向上できるが、粒成長により保磁力(HcJ)が低下してしまう。
【0044】
以上のように、本発明は、第1の分散剤として、一般式Cn(OH)nn+2で表される多価アルコール(ただしnは4≦n≦20)、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物若しくはその中和塩(前記有機化合物は炭素数3〜20)を用い、第2の分散剤として、多糖類又はその誘導体若しくはこれらの塩を用いることにより、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)をともに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1の分散剤(ソルビトール)又は第2の分散剤(アンモニウムカルボキシメチルセルロース)を単独添加した場合の、異方性フェライト磁石の配向度(Br/4πImax)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図2】第1の分散剤(ソルビトール)又は第2の分散剤(アンモニウムカルボキシメチルセルロース)を単独添加した場合の、異方性フェライト磁石の残留磁束密度(Br)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図3】第1の分散剤(ソルビトール)又は第2の分散剤(アンモニウムカルボキシメチルセルロース)を単独添加した場合の、異方性フェライト磁石の保磁力(HcJ)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図4】第1の分散剤(ソルビトール)又は第2の分散剤(アンモニウムカルボキシメチルセルロース)を複合添加した場合の、異方性フェライト磁石の配向度(Br/4πImax)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図5】第1の分散剤(ソルビトール)又は第2の分散剤(アンモニウムカルボキシメチルセルロース)を複合添加した場合の、異方性フェライト磁石の残留磁束密度(Br)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図6】第1の分散剤(ソルビトール)又は第2の分散剤(アンモニウムカルボキシメチルセルロース)を複合添加した場合の、異方性フェライト磁石の保磁力(HcJ)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図7】第1の分散剤(ソルビトール)及び第2の分散剤(酸化でんぷん)を複合添加した他の場合の、異方性フェライト磁石の配向度(Br/4πImax)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図8】第1の分散剤(ソルビトール)及び第2の分散剤(酸化でんぷん)を複合添加した他の場合の、異方性フェライト磁石の残留磁束密度(Br)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図9】第1の分散剤(ソルビトール)及び第2の分散剤(酸化でんぷん)を複合添加した他の場合の、異方性フェライト磁石の保磁力(HcJ)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図10】第1の分散剤(ソルビトール)及び第2の分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)を複合添加した他の場合の、異方性フェライト磁石の配向度(Br/4πImax)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図11】第1の分散剤(ソルビトール)及び第2の分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)を複合添加した他の場合の、異方性フェライト磁石の残留磁束密度(Br)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。
【図12】第1の分散剤(ソルビトール)及び第2の分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)を複合添加した他の場合の、異方性フェライト磁石の保磁力(HcJ)と分散剤の添加量の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物磁性体粒子及び分散媒を含む成形用スラリを、磁場中で湿式成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成する焼成工程と、を備え、
前記成形用スラリが、以下の第1の分散剤及び第2の分散剤を含むことを特徴とする酸化物磁性体の製造方法。
第1の分散剤:一般式;Cn(OH)nn+2で表される多価アルコール(ただしnは4≦n≦20)、及び、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物若しくはその中和塩(ただし、前記有機化合物は炭素数3〜20)から選択される少なくとも1種
第2の分散剤:多糖類又はその誘導体若しくはこれらの塩の少なくとも1種
【請求項2】
前記酸化物磁性体粒子に対する、前記第1の分散剤の添加量をA1(wt%)、前記第2の分散剤の添加量をA2(wt%)とすると、以下の関係を有することを特徴とする請求項1に記載の酸化物磁性体の製造方法。
0.4wt%≦A1≦1wt%
0wt%<A2≦0.7wt%
【請求項3】
前記第1の分散剤がソルビトール、前記第2の分散剤がでんぷん及び/又はセルロースであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物磁性体の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物磁性体は、
AをSr、Ba、Ca及びPbから選択される少なくとも1種の元素、
Rを希土類元素(Yを含む)及びBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを必ず含むものとし、
MeをCoであるかCo及びZnとし、
A、R、Fe及びMeそれぞれの金属元素の総計の構成比率を
1-xx(Fe12-yMeyz の式(1)で表したとき、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.4≦x/y≦5.0、
0.7≦z≦1.2、
の組成を有する異方性フェライト磁石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物磁性体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−265044(P2006−265044A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86099(P2005−86099)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】