説明

酸化物超電導導体及びそれを備えた酸化物超電導コイル

【課題】本発明は、冷媒による酸化物超電導層の冷却効果を高め、超電導特性の安定性を高めることができる酸化物超電導導体の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の酸化物超電導導体は、基材3と該基材の一面側に設けられる中間層5と酸化物超電導層6と安定化層7を備えて酸化物超電導積層体9が構成され、該酸化物超電導積層体の外周面を覆う被覆層10が形成されて被覆酸化物超電導導体が構成されるとともに、前記基材3の他面側に、前記基材3の長さ方向一端側から他端側にかけて延在する冷却溝3aが形成され、前記冷却溝の開口部を前記被覆層10が覆うことにより前記冷却溝3aに沿って主冷媒通路3cが形成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の基材上に中間層と酸化物超電導層と安定化層を備えた積層構造の酸化物超電導導体及びその酸化物超電導導体を備えた酸化物超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
RE−123系の酸化物超電導体(REBaCu7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度で超電導性を示し、電流損失が低いため、電力供給用の導体あるいはコイル用の導体として応用開発がなされている。このRE−123系の酸化物超電導体を線材に加工するための方法の一例として、強度が高く、耐熱性があり、線材に加工することが容易な金属を長尺のテープ状に加工し、このテープ状の金属基材上に酸化物超電導層を形成する技術が提供されている。
【0003】
また、酸化物超電導体の結晶は電気的異方性を有しているので、金属基材テープ上に酸化物超電導層を形成する場合、結晶の配向制御を行う必要があり、その方法の一例として、金属基材上に中間層を介し酸化物超電導層を積層する技術が実施されている。この中間層を利用する技術の一例として、イオンビームアシスト成膜法(IBAD法:Ion Beam Assisted Deposition)が知られており、このIBAD法により高い2軸配向性を示す中間層を基材上に成膜することができ、この中間層上に酸化物超電導層を形成することにより、超電導特性に優れた酸化物超電導導体を得ることができる。
【0004】
上述の積層構造の酸化物超電導導体を巻胴に巻き付けて超電導コイルを構成する場合、酸化物超電導導体の外周を覆うように絶縁層を形成し、この絶縁処理済みの酸化物超電導導体を巻胴に多層巻きして超電導コイルを得ることができる。また、巻胴に巻回した酸化物超電導導体とその周囲を囲むように樹脂製の接着剤などを含浸させて酸化物超電導導体を巻胴上に固定することがなされている。
【0005】
巻胴に巻回した酸化物超電導導体を含浸樹脂で固定した構造の酸化物超電導コイルは、それ自身を液体窒素などの冷媒に浸漬して全体を冷却するか、冷凍機などの冷却装置を用いて伝導冷却を行い、超電導が発現する温度以下に冷却し使用されている。
このように酸化物超電導導体を冷却する場合に好適な構造として、酸化物超電導導体に絶縁テープをスパイラル状に巻き付けた構造において、表面中央部に溝を設けた絶縁テープであって、溝の底部に貫通穴を所定の間隔で複数形成した絶縁テープを用意し、この絶縁テープを酸化物超電導導体の外周に巻き付けた構造が知られている。(特許文献1参照)
また、酸化物超電導導体の冷却構造の他の例として、ローターの回転軸の外面に凹部型の溝を形成し、該溝に冷媒循環パイプを敷設し、ローターの一部に固定した超電導コイルを冷媒循環パイプからの伝熱で冷却する構造の超電導モータが提案されている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−190822号公報
【特許文献2】特開2006−187051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載の絶縁テープを利用した酸化物超電導導体の冷却構造にあっては、酸化物超電導導体の周囲に存在する液体窒素などの冷媒を絶縁テープの貫通穴を介し超電導導体の表面側まで導くことができるので、酸化物超電導導体の冷却効率を高めることができる構造であると言える。しかし、特許文献1に記載の構造では、酸化物超電導導体に対し冷媒が直接触れる領域が貫通穴の部分に限られ、酸化物超電導導体を冷媒で直接冷却できる面積が小さいので、冷却効率の面においては不足な問題がある。
また、特許文献2に記載の構造は、冷媒循環パイプを収容したロータの溝からの伝熱により間接的に超電導コイルを冷却する構造であるので、上述のような酸化物超電導層を基材上に積層したタイプの酸化物超電導導体の冷却構造について、応用できるような技術的な開示や示唆は見られない。
【0008】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、基材上に中間層と酸化物超電導層を積層した構造の酸化物超電導導体において冷媒による酸化物超電導層の冷却効果を高め、超電導特性の安定性を高めることができる構造の酸化物超電導導体の提供を目的とする。
本発明は、基材上に中間層と酸化物超電導層と安定化層を備えた構造の酸化物超電導導体を用いて酸化物超電導コイルを構成した場合、冷媒による酸化物超電導層の冷却効果を高めることができ、超電導特性の安定性を高めることができる酸化物超電導コイルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の酸化物超電導導体は、上記課題を解決するために、基材と該基材の一面側に設けられる中間層と酸化物超電導層と安定化層を備えて酸化物超電導積層体が構成され、該酸化物超電導積層体の外周面を覆う被覆層が形成されて被覆酸化物超電導導体が構成されるとともに、前記基材の他面側に、前記基材の長さ方向一端側から他端側にかけて延在する冷却溝が形成され、前記冷却溝の開口部を前記被覆層が覆うことにより前記冷却溝に沿って主冷媒通路が形成されてなることを特徴とする。
酸化物超電導層を一面側に備えた基材の他面側に基材全長に至る冷却溝に沿って主冷媒通路を設けたので、この主冷媒通路に液体窒素などの冷媒を供給することで、基材をその全長にわたり冷媒で直接冷却できる。このため、酸化物超電導層を全長にわたり基材を介し冷却することができ、基材上の酸化物超電導層を全長にわたり均一に冷却できる。また、基材と中間層と酸化物超電導層と安定化層を備えた積層構造の酸化物超電導導体について、基材と酸化物超電導層は中間層を介し密着されているので、主冷媒通路に供給した冷媒で基材を直接冷却できることで、基材と中間層を介し酸化物超電導層も効率良く冷却することができる。更に、被覆層を備えた酸化物超電導導体であるならば、巻胴に巻回して超電導コイルを形成する場合にそのままの状態で巻胴に巻回することができ、超電導コイル用として有効に利用できる。
【0010】
本発明の酸化物超電導導体において、前記基材の他面側に該基材の幅方向に沿って延在し、前記冷却溝に連通する補助冷却溝が前記基材の長手方向に沿って間欠的に複数形成され、前記補助冷却溝の開口部を前記被覆層が覆うことにより前記補助冷却溝に沿って補助冷媒通路が形成されてなる構造を採用しても良い。
基材長手方向の冷却溝からなる主冷媒通路に加え、基材幅方向の補助冷却溝からなる補助冷媒通路を設けるならば、主冷媒通路を介して補助冷媒通路に供給される冷媒を用い、補助冷媒通路に沿って基材幅方向の隅々まで基材を直接冷却できる。このため、基材長さ方向全長に加え、基材幅方向のいずれの位置においても基材を直接冷却できる領域を拡大できる結果、基材を介して行う酸化物超電導層の冷却効率を向上できる。このため、酸化物超電導層の長さ方向と幅方向のいずれの位置において常電導状態への転位などに起因して発熱を生じようとしても、酸化物超電導層を直近から冷媒で直に低温に冷却でき、発熱を抑制できるので、超電導特性の安定性向上に寄与する。
【0011】
本発明の酸化物超電導導体において、前記安定化層の前記基板側と反対側の面に、前記安定化層の長さ方向に沿って延在する第2の冷却溝が形成され、該第2の冷却溝の開口部を前記被覆層が覆って前記安定化層の第2の冷却溝に沿う第2の冷媒通路が形成されてなる構造を採用しても良い。
安定化層に第2の冷却溝を形成し、被覆層で覆って第2の冷媒通路とすることにより、安定化層自体を冷媒によって直接冷却できる構造を提供できる。このため、冷媒による基材側からの直接冷却に加え、冷媒による安定化層側からの直接冷却も可能となり、酸化物超電導積層体の冷却効率が向上する。
【0012】
本発明の酸化物超電導コイルは、先のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体が巻胴に巻回され、前記冷却溝が前記酸化物超電導導体の巻回始端から巻回終端に至るように延在されてなる構造とすることができる。
酸化物超電導コイルを構成する酸化物超電導導体に形成した冷却溝を巻回始端から巻回終端に至るように形成するならば、巻胴に巻き付けた酸化物超電導導体の全長にわたり、冷媒で直接冷却できるので、巻胴に巻き付けて熱がこもりやすい構造となった場合であっても冷媒を用いた効率の良い冷却が可能となる。また、巻胴に巻き付けた外周側の酸化物超電導導体は勿論、内層側の酸化物超電導導体も冷媒により直接冷却できるので、多層巻きした構造の超電導コイルであっても、外層側と内層側のいずれの酸化物超電導導体も冷媒により強制冷却ができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材の一面側に中間層と酸化物超電導層と安定化層とを具備して構成される酸化物超電導積層体を被覆層で覆い、基材の他面側に設けた冷却溝の開口部を被覆層で覆って主冷媒通路を設けたので、主冷媒通路に液体窒素などの冷媒を供給することで基材を直接冷却することができ、基材に沿って形成されている酸化物超電導層を基材側から冷媒により効率良く冷却できる。その結果、酸化物超電導層を冷媒により常に効率良く冷却できるので酸化物超電導導体の超電導特性安定化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明に係る酸化物超電導導体の第1実施形態を示すもので、図1(A)は部分断面図、図1(B)は横断面図。
【図2】図2は本発明に係る酸化物超電導導体の第2実施形態を示す部分断面図。
【図3】図3は本発明に係る酸化物超電導導体の第3実施形態を示す部分断面図。
【図4】図4は本発明に係る酸化物超電導導体を備えた超電導コイルの第1実施形態を示す部分断面図。
【図5】図5は本発明に係る酸化物超電導導体についてPLD法を用いて基材上に酸化物超電導層を形成する工程の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る酸化物超電導導体の第1実施形態について図面に基づいて説明するが、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。
本実施形態の超電導コイル用酸化物超電導導体1は、図1(A)に示す如く金属製のテープ状の基材3の上面側(一面側)に、中間層5と酸化物超電導層6と安定化層7、8がこの順で積層されてなる酸化物超電導積層体9を内部に備え、該酸化物超電導積層体9の周面を樹脂等の絶縁材料からなる被覆層10で覆ってなる構造とされている。
【0016】
前記酸化物超電導積層体9は、より詳細には、基材3の上面側に、拡散防止層とベッド層の少なくとも一方を備えた下地層14と、結晶を2軸配向制御した配向層15と、キャップ層16とを備えてなる中間層5が積層され、その上にRE123系の酸化物超電導層6とAgからなる安定化層7とCuからなる安定化層8を積層して構成されている。なお、下地層14は必須の構成要素ではなく、場合によっては略しても良い。
図1に示す酸化物超電導導体1は、Agの安定化層7の上に厚いCuの安定化層8を積層した例を示しており、酸化物超電導積層体9の全周に樹脂テープなどの絶縁材を巻き付けて絶縁性の被覆層10が形成され、被覆酸化物超電導導体とされている。
図1(A)に示す構造として被覆層10で絶縁処理した酸化物超電導導体1を巻胴などに巻き付けることで超電導コイルなどの用途に用いることができるが、超電導コイルについては後に詳述する。
【0017】
以下に酸化物超電導導体1の各要素について説明する。
前記基材3は、通常の超電導線材の基材として使用することができ、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であり、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、ステンレス鋼、ハステロイ等のニッケル合金等の各種高強度高耐熱性の金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの、等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。基材3の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、100〜500μmの範囲とすることができる。
【0018】
前記テープ状の基材3において中間層5と酸化物超電導層6を形成していない側の面(他面)には、基材3の長さ方向に延在するように横断面V字型の冷却溝3aが複数本(図1に示す形態では5本)所定の間隔で形成されている。図1に示す形態において冷却溝3aは基材3の厚さの半分程度を若干超える深さ(高さ)に形成され、冷却溝3aの開口部3b側を幅広に、奥側を幅狭になるように基材3の裏面に沿って形成されている。各冷却溝3aはそれぞれ基材3の全長に形成されているが、酸化物超電導導体1において冷却溝3aの開口部3bを覆うように被覆層10が形成されているので、冷却溝3aの内側に基材3の全長にわたり主冷媒通路3cが形成されている。
基材3の他面側に形成する冷却溝3aは横断面V字状に限るものではなく、横断面逆V字状、矩形状、半円状、半楕円状など、その断面形状は問わない。冷却溝3aの幅についても特に制限はないが、基材3の機械的強度を必要以上に低下させないような深さと幅に形成すればよい。また、基材3の他面に形成する冷却溝3aの数についても特に制限はない。
基材3に冷却溝3aを形成する方法は、超硬合金製の切削バイトなどの工具を用いて基材3を切削するスクラッチ加工などによる形成方法、裁断加工、レーザービームによる蝕刻加工、薬液を用いたエッチング加工等、いずれの加工方法を用いても良い。
【0019】
下地層14は、通常は拡散防止層とベッド層の複層構造とされるが、どちらか一方からなる層構造でも良く、更に、以下に説明する拡散防止層やベッド層の構成材料を組み合わせた3層以上の複層構造であっても良い。
拡散防止層は、基材3の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成され、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、組成式(α2x(β(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er、CeO、Dy3、Er、Eu、Ho、La等を例示することができる。このベッド層12は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
【0020】
配向層15は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層されるキャップ層16の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。配向層15の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。
この配向層15をIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層16の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層16の上に成膜する酸化物超電導層6の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できる酸化物超電導層6を得るようにすることができる。
例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる配向層15は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔφ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0021】
キャップ層16は、上述のように面内結晶軸が配向した配向層15の表面に成膜されることによってエピタキシャル成長し、その後、横方向に粒成長して、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料、であれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、ZrO、Ho、Nd、LaMnO等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
例えばCeOによって構成される。キャップ層16は、上述のように自己配向していることにより、配向層15よりも更に高い面内配向度、例えばΔφ=4〜6゜程度を得ることができる。
例えば、CeO層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができる。CeO層の膜厚は、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましいが、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲とすることができる。
【0022】
酸化物超電導層6は希土類系の公知のもので良く、具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この酸化物超電導層6として、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)などを例示することができる。
酸化物超電導層6は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザー蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、PLD(パルスレーザー蒸着)法、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)又はCVD法を用いることができる。
【0023】
前記酸化物超電導層6の上に積層されている第1番目の安定化層7はAgなどの良電導性かつ酸化物超電導層6と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。Agの安定化層7を成膜するには、スパッタ法、真空蒸着法、レーザー蒸着法、電子ビーム蒸着法物理的蒸着法、化学気相成長法(CVD法)などの成膜法を採用し、その厚さを1〜30μm程度に形成できる。
第2番目の安定化層8は酸化物超電導層6の安定化のために設けられ、酸化物超電導層6が常電導状態に転移することを防止するために電流のバイパス路として設けられているので、CuやAlまたはそれらの合金などの良導電性の金属材料から形成される。なお、酸化物超電導導体1を限流器などの目的に適用する場合は安定化層8として高抵抗材料を用いることが好ましいので、NiCrなど、CuやAg、Alに対して高抵抗の金属材料から構成することができる。
安定化層8は安定化層7よりも厚く形成して電流のバイパス路として十分な容量を確保するため、100〜500μm程度の厚さに形成する。その場合、半田や導電性接着剤による貼り付け法あるいはめっき法などを用いて安定化層7の上に形成することができる。
【0024】
前記被覆層10は、ポリイミドなどの樹脂製の絶縁材料からなり、ポリイミドテープを酸化物超電導積層体9の外周にスパイラル状に巻き付けるなどの方法により形成されている。なお、被覆層10の外周に更にプリプレグテープなどの層間接着材を介在させた構造としても良く、プリプレグテープを巻き付けたものを後述する如くコイル加工して超電導コイルとしても良い。
前記被覆層10を構成する樹脂として具体的には、ポリイミド樹脂の他に、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、シリコン樹脂、アルキッド樹脂、ビニル樹脂等を例示できる。被覆層10による被覆の厚さは特に限定されず、被覆対象部位等に応じて、適宜調節すれば良い。被覆層10は、その材質に応じて公知の方法で形成すれば良く、例えば、原料を塗布して、これを硬化させれば良い。また、テープ状に代わりシート状のものが入手できる場合には、これを使用して被覆しても良い。
【0025】
図1に示す構造の酸化物超電導導体1において、基材3の他面側に複数の冷却溝3aに沿って被覆層10に覆われた主冷媒通路3cが形成されているので、酸化物超電導導体1を液体窒素などの冷媒に浸漬して使用する場合、被覆層10が絶縁材料製のテープを巻回してなる構成の場合は被覆層10の隙間から主冷媒通路3cに冷媒を流入できるので、主冷媒通路3cに存在している冷媒が基材3をその他面側から直接冷却する。このため、酸化物超電導層6に通電している際、何らかの原因で酸化物超電導層6の一部が常電導状態に転移しようとして発熱を生じるおそれがあっても酸化物超電導層6に近接している基材3側から積極的に冷却できる結果、発熱を抑えることができ、超電導特性を安定化することができる。
また、被覆層10として、冷媒が通過できない構造を採用した場合、例えば、被覆層10を緻密な構造などとしたり、プリプレグテープなどの巻き付けにより層間接着した場合、酸化物超電導導体1の一端側に開口している主冷媒通路3cの一端部側から強制的に冷媒循環ポンプ等により液体窒素などの冷媒を流入させ、酸化物超電導導体1の反対側の端部から強制的に液体窒素などの冷媒を引き抜く構成を採用し、冷媒循環ポンプにより主冷媒通路3cを介して冷媒を循環させる強制循環型の冷却ができる構造とすることが好ましい。
【0026】
この強制循環型の冷却構造を採用すると、被覆層10が冷媒を通過させない緻密な構造であっても、酸化物超電導導体1の基材3の全長にわたり主冷媒通路3cに冷媒を循環させて強制冷却することができ、酸化物超電導導体1の全長にわたり酸化物超電導層6の冷却を確実に行うことができる。
図1に示す冷却溝3aからなる主冷媒通路3cを備えた酸化物超電導導体1の構造であるならば、被覆層10を介し冷媒を浸漬させる構造あるいは強制循環型の構造のいずれの構造を採用しても、基材3に形成した冷却溝3aに沿って存在する冷媒が酸化物超電導導体1の全長にわたり基材3を介して酸化物超電導層6を冷却するので、超電導特性の安定性に優れた酸化物超電導導体1を提供することができる。
また、基材3上に形成されている中間層5はいずれも成膜法で形成され、上述した如く薄いものであるため、基材3を冷媒で直接冷却できることは、酸化物超電導層6を冷媒で効率良く冷却できることを意味するので、図1に示す構造によれば、酸化物超電導層6の冷却効率も良好にすることができる。
【0027】
図2は本発明に係る酸化物超電導導体の第2実施形態の構造を示すもので、この第2実施形態の構造において、先の第1実施形態の構造と同一の構成要素については同一符号を付してそれら同一構成要素の説明を略する。
第2実施形態の酸化物超電導導体20において、図1(A)に示す酸化物超電導導体1と異なるのは、酸化物超電導積層体9を構成する基材30の他面側に、主冷媒通路3cに加え、補助冷媒通路3dを形成している点にある。その他、酸化物超電導積層体9における中間層5、酸化物超電導層6、安定化層7、8、被覆層10の構成については第1実施形態の構造と同等構造である。
【0028】
第2実施形態の基材30において、その長さ方向に沿って冷却溝3aが複数形成されている点については同等であるが、基材30においては、基材30の長さ方向に所定の間隔で横断面矩形状の複数の補助冷却溝3eが、個々に基材3の幅方向一端縁から他端縁に達するように形成されている。補助冷却溝3eは基材30の厚さの半分程度の深さを有し、主冷媒通路3cと同程度か若干幅広の大きさの横断面矩形状に形成されている。これら補助冷却溝3eは基材30の他面側において主冷却溝3aと複数箇所において90゜交差するように形成され、主冷却溝3aと補助冷却溝3eはそれらの交差部分において連通されている。各補助冷却溝3eの開口部は被覆層10により覆われているので被覆層10の内側に補助冷却溝3eと被覆層10により区画されて補助冷媒通路3dが形成されている。
【0029】
補助冷却溝3eを形成する場合の間隔や方向は特に制限するものではないが、図2に示す例では主冷媒通路3cと補助冷媒通路3dでもって平面視格子状になるように配置している。主冷媒通路3cと補助冷媒通路3dは酸化物超電導導体20に必要とされる冷却能力に合わせた間隔で基材3の強度を必要以上に低下させないように形成すればよい。勿論、補助冷媒通路3dは、主冷媒通路3cに直交している必要はなく、主冷媒通路3cに対し傾斜して延在する形状でも良く、補助冷媒通路3dは基材3の幅方向両端に達している必要はなく、幅方向両端の手前まで延在されている形状、途中で分岐されている形状、途中でカーブした形状などのいずれの形状であっても、幅方向に延在している形状であれば実現可能である。
【0030】
図2に示す構造の酸化物超電導導体20においても、先の第1実施形態の酸化物超電導導体1と同様、冷媒を主冷却溝3aに流入させて基材30を冷媒により直接冷却することができる。また、図2に示す構造によれば、主冷却溝3aに存在する冷媒を複数の補助冷媒通路3d側にも導くことができ、各補助冷媒通路3dは基材30の幅方向両端側まで延在されているので、基材30の幅方向両端側まで冷媒で直に冷却することができる。よって、冷媒が基材30に接触する面積を先の第1実施形態の構造よりも増大できるので、冷媒によって基材30を冷却する場合の冷却効率が高くなる。従って、冷媒により基材30を介して酸化物超電導層6を冷却する場合の冷却効率について、先の第1実施形態の構造よりも高くすることができる。
【0031】
図3は本発明に係る酸化物超電導導体の第3実施形態の構造を示すもので、この第3実施形態の構造において、先の第2実施形態の構造と同一の構成要素については同一符号を付してそれら同一構成要素の説明を略する。
第3実施形態の酸化物超電導導体25において、図2に示す酸化物超電導導体20と異なるのは、酸化物超電導積層体9を構成するCuの安定化層18の上面側に第2の冷却溝18aが安定化層18の長さ方向に延在するように複数設けられている点にある。その他、酸化物超電導積層体9における中間層5、酸化物超電導層6、安定化層7、8、被覆層10、基材30などの構造については第2実施形態の構造と同等である。
【0032】
本実施形態の構造において、安定化層18の上面側(安定化層18において酸化物超電導層6に近い側と反対側)には、被覆層10が設置され、安定化層18の上面に形成されている第2の冷却溝18aの開口部を被覆層10が覆っているので第2の冷却溝18aに沿って安定化層18の冷却溝18aと被覆層10との間に酸化物超電導積層体9の全長にわたる第2の冷媒通路18cが形成されている。
【0033】
図3に示す第3実施形態の酸化物超電導導体25においても、先の第2実施形態の酸化物超電導導体20と同様、冷媒を主冷却溝3aと補助冷却溝3dに流入させて基材30を冷媒により広範囲にわたり効率良く冷却することができる。
また、図3に示す構造によれば、主冷媒通路3cと補助冷媒通路3dに加え、安定化層18側の第2の冷媒通路18cにも冷媒を導入することができ、第2の冷媒通路18cは酸化物超電導導体25の全長にわたり形成されているので、酸化物超電導層6をその全長にわたり安定化層18側からも冷却できる。
本実施形態の構造によれば、基材30側と安定化層18側の両方から酸化物超電導層6を冷却できるので、冷却効率が一層向上し、酸化物超電導層6の安定性をより高めることができる。
なお、図3に示す如くAgの安定化層7の上にCuの安定化層18を設ける構造とは異なり、酸化物超電導積層体9の全周にめっきで安定化層を形成するか、あるいは、金属テープで全周を囲み、安定化層を設けた構造とする場合、全周に設けた安定化層の外面に更に冷却溝を形成して冷却溝の部分を冷媒の流路として構成してもよい。この構造の場合、基材30の外側に安定化層が配置されるので、基材30の外側の安定化層の外面に冷却溝を設けて冷媒の流路とすることができる。金属テープで酸化物超電導積層体9を囲む場合は、基材30と基材30上の安定化層の外面の両方に冷却溝を設けることができる。
また、上述の実施形態においては基材3の上に中間層5を介し酸化物超電導層6を積層した構造に適用したが、Ni−W合金の圧延材などのような配向性基材上に中間層と酸化物超電導層を積層する構造の酸化物超電導積層体に対し、先の実施形態の冷却溝を設けた構造を採用できる。Ni−W合金の圧延材などのような配向性基材において裏面側に冷却溝を設けることで上述の構造と同等の冷却効果を得ることができる。
【0034】
図4は上述の第1実施形態の酸化物超電導導体1を巻胴に巻回してなる酸化物超電導コイルの第1実施形態を示す。
本実施形態の酸化物超電導コイル33において、巻胴34が胴部35と鍔板36とからなり、胴部35の外周に先の第1実施形態の酸化物超電導導体1が多層巻きとなるように巻回されている。図4では図示の簡略化のために層構造として4層のみ示しているが実際のコイルにおいては、目的の巻き数となるように必要な積層数とされる。
また、巻胴34に巻回されている酸化物超電導導体1において、その巻回始端1Aと巻回終端1Bに冷媒循環用の接続管38、39が接続され、これら接続管38、39が冷媒供給装置40に接続されている。接続管38、39の先端部はそれぞれ酸化物超電導導体1の主冷媒通路3cに接続されていて、冷媒供給装置40からの冷媒を巻回始端1Aあるいは巻回終端1Bの主冷媒通路3cから酸化物超電導導体1の内部に導入し、巻回終端1Bあるいは巻回始端1Aから排出することで、酸化物超電導導体1の主冷媒通路3cに冷媒を強制循環させつつ酸化物超電導導体1を強制冷却できるように構成されている。
【0035】
図4に示す構成の酸化物超電導コイル33であるならば、巻胴34に巻き付けた酸化物超電導導体1において巻胴34の内層側と外層側のいずれの酸化物超電導導体1であっても支障なく冷却ができる。
例えば、図4に示す構成の酸化物超電導コイル33を単に冷媒に浸漬して冷却した場合は、多層巻きした酸化物超電導導体1において内層側の酸化物超電導導体1は外層側の酸化物超電導導体1よりも冷媒に遠く、熱がこもり易いので冷却効率の面からみると不利になり易い。しかし、図4に示す構造であるならば、内層側と外層側を問わずにその両方に主冷媒通路3cを介して冷媒を強制循環できるので、超電導コイル33の全体を効率良く均一に冷却できる効果がある。
また、図4に示す構造の巻胴34に対し、第2実施形態の酸化物超電導導体20あるいは第3実施形態の酸化物超電導導体25を適用して酸化物超電導コイルを構成することもできるのは勿論である。
【0036】
以上説明した酸化物超電導導体1、20、25において基材3の他面側に冷却溝3a、3dを形成するには、基材3の一面側に中間層5、酸化物超電導層6、安定化層7を形成した後、あるいは、安定化層8を形成した後、基材3の他面側に切削などの機械加工あるいはレーザービームによる溝加工などを行って冷却溝3a、3dを形成することが好ましい。この理由について以下に説明する。
【0037】
基材3の一面側に積層する下地層14、配向層15、キャップ層16、酸化物超電導層6は、いずれも上述した如くスパッタ法などの成膜法により形成されている。しかも、配向層15、キャップ層16、酸化物超電導層6はいずれについてもそれらの結晶配向性を厳密に整え、結晶欠陥のない高品質の膜として成膜する必要がある。
図5にこれらの層のうち、キャップ層16、あるいは、酸化物超電導層6の成膜に用いることができるパルスレーザー蒸着装置(PLD装置)の一例を示す。
【0038】
この例のPLD装置Aは、真空ポンプなどの減圧装置50に接続された減圧容器51を備え、その内部に設置されたターゲット52に減圧容器外部に設置されているレーザービームの照射装置53からパルスレーザービームを照射できるように構成されている。また、減圧容器51の内部に、供給リール55と巻取リール56とこれらの中間位置に転向搬送リール57、58とが設置され、供給リール55から転向搬送リール57、58を介して基材3を巻取リール56側に移動することができ、この移動中にターゲット52から発生させた粒子を基材3の表面側に堆積させて成膜できるように構成されている。
なお、転向搬送リール57、58は図5では略しているが図5の紙面厚さ方向に同じ構成のものが複数配列されていて(例えば5列等)、基材3は複数の転向搬送リール57、58間を複数回ターンしながら最終的に巻取リール56に至るように構成されている。更に、転向搬送リール57、58間を複数回ターンしている基材3を目的の成膜温度に加熱するためのヒータ59を内蔵したヒータ装置60が転向搬送リール57、58の間に設けられている。
【0039】
図5に示す構成のPLD装置Aは、基材3をキャップ層16あるいは酸化物超電導層6の成膜温度に好適な温度に加熱しながら成膜するが、キャップ層16あるいは酸化物超電導層6の成膜温度は膜種によっても異なるが、通常のもので500〜900℃の範囲であって極めて高温であるので、基材3は供給リール55から巻取リール56側に移動する間に常温〜900℃までの間の熱履歴を複数回受ける。勿論、1つのPLD装置でキャップ層16を形成し、他のPLD装置で酸化物超電導層6を形成する場合、基材3が受ける熱履歴は相当な数に達する。
ここで、基材3の他面側に冷却溝3aあるいは補助冷却溝3dを形成した基材3を用いてこれらの成膜を行うと、これらの溝形成によって部分的に肉薄構造となっている基材3に温度分布が生じて成膜に悪影響を及ぼすとともに、基材3が熱膨張や熱収縮により大きく変形するので、基材3上に積層した膜に大きな熱応力やストレスを加える結果、形成した膜に損傷を与えるおそれがある。また、この事情は、スパッタなどの成膜法により下地層14あるいは安定化層7を形成する場合も同様であるので、基材3の裏面側に冷却溝3aあるいは補助冷却溝3dを予め形成するのは、各層に影響を与えないように安定化層7を形成した後に行うことが好ましい。
【0040】
なお、安定化層8については、Cuのテープ導体を半田付け法やロール貼り合わせ法などによりAgの安定化層7の上に一体化して形成することができる他、めっきなどの方法により形成することができ、いずれにおいても各層を高温成膜する場合の温度より低温で形成できるので、基材3の裏面側に冷却溝3aあるいは補助冷却溝3dを形成するのは、安定化層7を形成後であって、安定化層8の形成前あるいは形成後のいずれかにおいて行えばよい。
【0041】
以上説明したように、基材3上への各層の成膜後に基材裏面側に冷却溝3aあるいは補助冷却溝3eを形成するならば、既に形成した下地層14、配向層15、キャップ層16、酸化物超電導層6、安定化層7のいずれについても上述の成膜時の問題や熱的負荷をかけることなく冷却溝3aあるいは補助冷却溝3dを形成できる。
よって、基材3の裏面側に冷却溝3aあるいは補助冷却溝3dを形成するのは、安定化層7を形成後であって、安定化層8の形成前あるいは形成後のいずれかにおいて行うという上述の製造手順によれば、積層構造の酸化物超電導導体1を構成するための各層に悪影響を及ぼすことなく冷却溝3aあるいは補助冷却溝3dを形成できる。
【実施例】
【0042】
「実施例1」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10mのテープ状の基材を用意し、このテープ状基材の表面にAlからなる厚さ100nmの拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、拡散防止層とベッド層を形成した。次に、イオンビームアシスト蒸着法によりベッド層上に厚さ10nmのMgOの配向層を形成した。この場合、アシストイオンビームの入射角度は、テープ状基材成膜面の法線に対し、45゜とした。
【0043】
続いてパルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成した。更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCu7−xの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成した。
次に、スパッタ法により酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの安定化層を形成し、酸素アニールを500℃で行った。以上の工程により、テープ状の長尺の基材上に拡散防止層とベッド層と配向層とキャップ層と酸化物超電導層と第1の安定化層を備えた構造の酸化物超電導導体を形成した。
次いで、第1の安定化層の上面に厚さ100μmのCuテープを半田付けして酸化物超電導積層体を形成した。この後、酸化物超電導積層体をリールから繰り出しながら超硬合金製の切削バイトにより基材裏面側に深さ60μm、幅60μmのV字状の冷却溝を基材裏面の長さ方向に沿って5本、等間隔で基材に平行に配列形成した。
この溝加工後の酸化物超電導積層体の全周に幅10mmのポリイミドテープをスパイラル状に重ね巻きして絶縁性の被覆層を有する酸化物超電導導体を形成した。
【0044】
この酸化物超電導積層体を直径10cmの巻胴に巻き付けてコイル状に加工して酸化物超電導コイルを得た。コイルは3段のパンケーキ構造とし、2段目のコイルに熱電対を取り付け、線材の温度を計測できるようにした。この酸化物超電導コイルを液体窒素に浸漬し、被覆層の内側に冷媒を含浸させて基材の主冷却溝に沿って液体窒素を流入させた状態の酸化物超電導コイルに通電試験を行った。また、基材に冷却溝を設けていない構造の酸化物超電導導体を用いて得た前記同等構造の酸化物超電導コイルを作成し、同様に液体窒素に浸漬して冷却した。
これらの対比から、基材に冷却溝を設けた超電導コイルと冷却溝を設けていない超電導コイルにおいて、基材に冷却溝を設けた酸化物超電導コイルの方の冷却速度が5%早くなり、また、冷却溝を設けた酸化物超電導コイルの方が到達温度も3K低くなった。この結果から基材に冷却溝を設けた場合の優れた冷却効果を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、例えば超電導コイル、超電導限流器用コイルなど、各種の超電導機器に用いられる酸化物超電導導体とそれを用いた超電導コイルに利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1、20、25…酸化物超電導導体、3、30…基材、3a…冷却溝、3b…開口部、3c…主冷媒通路、3d…補助冷却溝、3e…補助冷媒通路、5…中間層、6…酸化物超電導層、7…安定化層、8…安定化層、9…酸化物超電導積層体、10…被覆層、14…下地層、15…配向層、16…キャップ層、18…安定化層、18a…第2の冷却溝、18c…第2の冷媒通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材の一面側に設けられる中間層と酸化物超電導層と安定化層を備えて酸化物超電導積層体が構成され、該酸化物超電導積層体の外周面を覆う被覆層が形成されて被覆酸化物超電導導体が構成されるとともに、前記基材の他面側に、前記基材の長さ方向一端側から他端側にかけて延在する冷却溝が形成され、前記冷却溝の開口部を前記被覆層が覆うことにより前記冷却溝に沿って主冷媒通路が形成されてなることを特徴とする酸化物超電導導体。
【請求項2】
前記基材の他面側に該基材の幅方向に沿って延在し、前記冷却溝に連通する補助冷却溝が前記基材の長手方向に沿って間欠的に複数形成され、前記補助冷却溝の開口部を前記被覆層が覆うことにより前記補助冷却溝に沿って補助冷媒通路が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導導体。
【請求項3】
前記安定化層の前記基板側と反対側の面に、前記安定化層の長さ方向に沿って延在する第2の冷却溝が形成され、該第2の冷却溝の開口部を前記被覆層が覆って前記安定化層の第2の冷却溝に沿う第2の冷媒通路が形成されてなることを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体が巻胴に巻回され、前記冷却溝が前記酸化物超電導導体の巻回始端から巻回終端に至るように延在されてなることを特徴とする酸化物超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−212540(P2012−212540A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76965(P2011−76965)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】