説明

酸化発色化合物、試薬組成物、および試験具

【課題】酸化発色化合物、試薬組成物、試験具の提供。
【解決手段】


ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖状のアルキル基であり、R、R、R、RおよびRが、それぞれ独立して、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有するアルキル基を含む置換基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体成分測定のための酸化発色化合物、試薬組成物および試験具に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、血液や尿をはじめとする体液中の生体成分の測定法の一種として、酵素を用いた比色分析法が広く用いられている。これらの方法は、測定キット、自動分析機、ドライケミストリー試験具等に組み込まれ、日常的な臨床検査に数多く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このような測定法の一種として、被測定物質に特異的な酸化酵素を作用させて発生する過酸化水素をさらにペルオキシダーゼの作用で活性酸素とし、これで発色試薬を酸化して生成する色素を比色定量する方法がある。
【0004】
ここで使用される酵素としては、例えばグルコースの測定ではグルコースオキシダーゼ、コレステロールの測定ではコレステロールオキシダーゼ、尿酸の測定にはウリカーゼ、ピルビン酸の測定にはピルベートオキシダーゼ等が用いられる。これらの酵素は検体中の基質のみを特異的に酸化するために、色々な成分を含む検体からそれぞれの測定対象物のみを限定して定量することができる。
【0005】
また、発色試薬としては、活性酸素で酸化されることによって、その吸収波長特性や吸収強度等が変化する色素もしくは色素の前駆体(色原体)が用いられる。すなわち、活性酸素の量に応じて変化する色を測定することによって、被測定物質の量を定量することができる。これらの色素や色原体には、1分子だけで機能するものや、異なる2分子がカップリングして機能するものがある。
【0006】
1分子で機能するものには、ロイコ型色素等が挙げられる。具体的な化合物としては、ベンチジン、o−トリジン、o−ジアニシジン、2,2’−アミノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリノン−6−スルホン酸(ABTS)、ビス−(4−ジエチルアミノ)−2−スルホフェニルメタン(BSPM)、ビス[3−ビス(4−クロロフェニル)メチル−4−ジメチルアミノフェニル]アミン(BCMA)、10−N−メチルカルバモイル−3,7−ジメチルアミノ−10H−フェノチアジン(MCDP)、3,3’,5,5’−テトラメチルベンチジン(TMBZ)、ビス[4−(N−アルキル−N−スルホプロピル)−2,6−ジメチルフェニル]メタン(Bis−MAPS)、N,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’’−トリアミノトリフェニルメタン(TMP)などが挙げられる。
【0007】
2分子で機能する代表的なものには、カプラーとトリンダー試薬を酸化的にカップリングさせたものが挙げられる(例えば、非特許文献1および2を参照)。
【0008】
カプラーとしては、4−アミノアンチピリン(4−AA)、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)、アミノジフェニルアミンまたはその誘導体などが用いられる。
【0009】
トリンダー試薬としては、フェノール誘導体、アニリン誘導体が用いられる。フェノール誘導体としては、フェノール、4−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、2,4−ジブロモフェノール、2,6,4−トリクロロフェノール、2,6,4−トリブロモフェノール、3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨードベンゾイル酸、などが挙げられる。アニリン誘導体としては、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOPS)、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−3−アセチルエチレンジアミン(EMAE)、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N−サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)、N−(2−カルボキシエチル)−N−エチル−3−メチルアニリン(CEMB)、N,N−ビス−(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン(TODB)、N−エチル−N−(2−サクシニルアミノエチル)−3−メチルアニリン(ESET)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HSDA)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピ)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシ−4−フルオロアニリン(FDAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)などが挙げられる。
【0010】
ここで、保存安定性に鑑みると、1分子で機能する色素より2分子で機能する色素の方が良い傾向にある。また、2分子で機能する色素のうち、カプラーとしては、前記のうち最も安定な4−アミノアンチピリン、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾンが多く用いられ、トリンダー試薬としては安定でかつ発色強度や波長の点でより有利なアニリン誘導体が多く用いられている。
【特許文献1】特開2004−223115号公報
【非特許文献1】Trinder,P.,Ann.Clin.Biochem., 6,24,1969
【非特許文献2】Barham,D.and Trinder,P.,Analyst(London),97,142,1972
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記の発色原理を用いた製品の価値を上げるためには、測定精度をさらに向上させる、あるいは経時的劣化を低減させる必要がある。またより微量な成分の検出には、現存のものよりさらに感度のよい検出系が必要となる。それらの目的において、より高性能の発色試薬の開発が望まれている。
【0012】
すなわち、本発明は、従来に比して、性能が向上した酸化発色化合物、試薬組成物、試験具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、高い性能を持つ新規カプラー化合物、およびそれを用いた試薬組成物、試験具を見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(11)で示される高い性能を持った酸化発色化合物またはこれらの塩、ならびにそれを用いた試薬組成物および試験具を提供する。
【0015】
(1)下記式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖状のアルキル基であり、
、R、R、RおよびRのうち少なくとも一以上が、それぞれ独立して、下記式(2)〜式(8)より選択される置換基であり、かつ、残りは水素原子である、
で示される酸化発色化合物またはこれらの塩。
【0018】
下記式(2):
【0019】
【化2】

【0020】
下記式(3):
【0021】
【化3】

【0022】
下記式(4):
【0023】
【化4】

【0024】
下記式(5):
【0025】
【化5】

【0026】
下記式(6):
【0027】
【化6】

【0028】
下記式(7):
【0029】
【化7】

【0030】
下記式(8):
【0031】
【化8】

【0032】
ただし、Rは、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基であり、
は、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基または水素原子であり、
この際、RおよびRは、同一であっても、または、異なるものであってもよい。
【0033】
(2)RおよびRが、メチル基である、(1)に記載の酸化発色化合物またはこれらの塩。
【0034】
(3)Rが、ヒドロキシル基を1〜5個有する炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基であり、Rが、水素原子である、または、
およびRが、それぞれ独立して、ヒドロキシル基を1〜5個有する炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基である、(1)または(2)に記載の酸化発色化合物またはこれらの塩。
【0035】
(4)Rが、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基または2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基であり、Rが、水素原子である、または、
およびRが、それぞれ独立して、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基または2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の酸化発色化合物またはこれらの塩。
【0036】
(5)Rが、式(2)〜式(8)からなる群から選択され、
、R、RおよびRが、水素原子である、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の酸化発色化合物またはこれらの塩。
【0037】
(6)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の酸化発色化合物またはこれらの塩と、
トリンダー試薬と、
測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、
ペルオキシダーゼと、
を含む試薬組成物。
【0038】
(7)前記トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンまたはN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンである、(6)に記載の試薬組成物。
【0039】
(8)前記測定対象物が、グルコースであり、
前記オキシダーゼが、グルコースオキシダーゼである、(6)または(7)に記載の試薬組成物。
【0040】
(9)(6)〜(8)のいずれか1つに記載の試薬組成物が、担体に保持されてなる試験具。
【0041】
(10)前記担体が、高分子膜である、(9)に記載の試験具。
【0042】
(11)前記高分子膜が、ポリスルフォンまたはポリエーテルスルフォンからなる、(10)に記載の試験具。
【発明の効果】
【0043】
本発明に係る発色試薬化合物またはこれらの塩(以下、単に「本発明に係る化合物」とも称する)は、その性能において、下記(ア)〜(ウ)の点で従来の試薬より優れている。また、本発明に係る化合物を用いた試薬組成物や、特に担体に保持した試験具として使用する場合、その効果が最も顕著である。
【0044】
(ア)溶解性が高い
本発明に係る化合物は水溶性が高いので、特に担体に保持して使用する場合には、血液などの検体にすばやく溶解して均一化し、迅速に呈色反応が起こる。本発明に係る化合物は、溶解性が高いので、従来の試薬より高濃度の試薬液が調製可能である。担体に担持して使用する場合、塗布液濃度を高くしてより多くの試薬を担体に保持させることが可能となる。
【0045】
(イ)感度が高い
呈色反応によって生成した色素化合物についても、検体への溶解性や親和性が高く、担体内での展開性が良くなるので、担体表面での発色が鮮やかで均一性の高いものとなる。それによって感度が高く安定した測定が可能となる。
【0046】
(ウ)経時安定性に優れる
本発明に係る化合物は、親水性が向上し、分子量が高くなっている為、4−アミノアンチピリンにおいて観察される保管中の昇華による試薬の損失を抑えることができる。また、本化合物は試薬濃度の変化における呈色強度への影響が少ない為に、化合物が経時的に劣化減少した場合でも、測定に十分な量が存在する限り、測定値への影響が少ない。さらに、本化合物の親水性官能基は担体への吸着性を高め、担体内での化合物の安定性を向上させる。以上の点から、経時劣化を低減させ有効期間を延ばすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の酸化発色化合物またはこれらの塩を好適ないくつかの実施形態について詳細に説明する。
【0048】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態は、下記式(1)で表される酸化発色化合物またはその塩に関する。
【0049】
下記式(1):
【0050】
【化9】

【0051】
ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖状のアルキル基であり、
、R、R、RおよびRのうち少なくとも一以上が、それぞれ独立して、下記式(2)〜式(8)より選択される置換基であり、かつ、残りは水素原子である、
で示される酸化発色化合物またはこれらの塩、
下記式(2):
【0052】
【化10】

【0053】
下記式(3):
【0054】
【化11】

【0055】
下記式(4):
【0056】
【化12】

【0057】
下記式(5):
【0058】
【化13】

【0059】
下記式(6):
【0060】
【化14】

【0061】
下記式(7):
【0062】
【化15】

【0063】
下記式(8):
【0064】
【化16】

【0065】
ただし、Rは、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基であり、
は、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基または水素原子であり、
この際、RおよびRは、同一であっても、または、異なるものであってもよい。
【0066】
ここで、式(1)中、RおよびRを表すアルキル基は、炭化水素より構成される炭素数1〜5の置換基であって、直鎖構造を有するものであっても、分岐鎖構造を含むものであってもよい。この際、RおよびRは、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、およびネオペンチル基などが挙げられる。これらのうち溶解性を考慮すると、メチル基、エチル基、プロピル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。すなわち、RおよびRが、メチル基であると特に好ましい。
【0067】
また、上記式(1)中、R、R、R、RおよびRのうち少なくとも一以上が、それぞれ独立して、式(2)〜式(8)より選択される置換基であり、かつ、残りは水素原子である。すなわち、R、R、R、RおよびRは、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。そして、「残りは水素原子」とは、例えば、一例を挙げると、RおよびRが、それぞれ、式(2)および式(8)の置換基であった場合、R、RおよびRがいずれも水素原子となる。
【0068】
式(2)〜式(8)中、Rは、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基であり、Rは、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基または水素原子であり、この際、RおよびRは、同一であっても、または、異なるものであってもよい
少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基(以下、単に「ヒドロキシル基を有するアルキル基」とも称する)は、その中にエーテル結合、スルフィド結合、アミノ結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合を含んでいても良い。また「ヒドロキシル基を有するアルキル基」中のヒドロキシル基のうち、一部はアルキル、アシル、アルキルオキシカルボニル等で置換されていてもよい。
【0069】
なお、「ヒドロキシル基を有するアルキル基は、その中にエーテル結合、スルフィド結合、アミノ結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合を含んでいても良い」とは、アルキレン中のいずれか隣接する炭素の間に上記結合が導入されていることを意味する。例えば、「ヒドロキシル基を有するアルキル基中にエーテル結合を含む」とは、アルキル基中に、「−CH−O−CH−」が存在することを意味する。
【0070】
前記「ヒドロキシル基を有するアルキル基」中のアルキル基の炭素数は、2〜20が好ましく、2〜6がより好ましく、3〜6が特に好ましい。「ヒドロキシル基を有するアルキル基」中のヒドロキシル基の数は、1〜19が好ましく、1〜5がより好ましく、2〜5が特に好ましい。炭素数に対するヒドロキシル基の比率は大きい方が親水性の向上に貢献する。
【0071】
なお、前記炭素数2〜20のアルキル基としては、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基などが挙げられる。
【0072】
すなわち、Rが、ヒドロキシル基を1〜5個有する炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基であり、Rが、水素原子である、または、
およびRが、それぞれ独立して、ヒドロキシル基を1〜5個有する炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基であると好ましい。
【0073】
より具体的には、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシ−n−プロピル基、3−ヒロドキシ−n−プロピル基、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基、3,4−ジヒドロキシ−n−ブチル基、2,4−ジヒドロキシ−n−ブチル基、2,3,4−トリヒドロキシ−n−ブチル基、1−メチル−2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)エチル基、{2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシ}エチル基、{3,3−ビス(ヒドロキシメチル)−3−ヒドロキシ}プロピル基、2,3,4,5−テトラヒドロキシ−n−ペンチル基、4,2−ジヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)−n−ブチル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基、(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピルオキシ)エチル基、2−(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピルオキシ)エチル基、2−(2,3,4−トリヒドロキシ−n−ブチルオキシ)エチル基、2−{ビス(ヒドロキシメチル)メチルオキシ}エチル基、2,3−ジヒドロキシ−4−メトキシ−n−ブチル基、2−メトキシ−3,4−ジヒドロキシ−n−ブチル基、2−{N,N−ビス(2−ビス(2−ヒドロキシメチル)エチル)アミノ}エチル、2−{N,N−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)アミノ}エチルなどが挙げられる。この内、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基、2,3,4−トリヒドロキシ−n−ブチル基、2,3,4,5−テトラヒドロキシ−n−ペンチル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基などが挙げられる。これら化合物は、親水性向上の観点からみて、好適に使用されうる。
【0074】
さらに、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基が、親水性向上および製造コスト削減の観点からみて、より好適に使用されうる。
【0075】
すなわち、Rが、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基または2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基であり、Rが、水素原子である、または、
およびRが、それぞれ独立して、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基または2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基であると好ましい。
【0076】
また、R、R、R、RおよびRのうち少なくとも一以上が、それぞれ独立して、式(2)〜式(8)より選択される置換基であると好ましいが、発色反応への干渉性といった観点から、また、Rが、式(2)〜式(8)からなる群から選択され、R、R、RおよびRが、水素原子であるとより好ましい。
【0077】
本発明に係る酸化発色化合物は、塩の形態であってもよい。すなわち、本発明に係る酸化発色化合物が、イオン性官能基を含む場合、これら官能基は遊離の状態であっても、塩を形成していても良い。塩を形成する相手は、無機化合物でも有機化合物でもよい。例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の無機塩基、フッ素、塩素、臭素等の無機酸、アンモニア、アルキルアミン類等の有機塩基、炭酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸、または、アミノ酸類等の両性化合物でもよい。塩を形成する相手として無機酸と塩を形成する一例を挙げると、4位のアミノ基と塩を形成し、「−NHCl」のようになる。
【0078】
次に本発明に係る化合物の製造方法について説明する。
【0079】
本発明に係る化合物の製造においては、4−アミノアンチピリンのベンゼン環に反応性置換基を導入した化合物と、反応性置換基を導入したヒドロキシル基含有化合物と、を結合する方法が用いられる。
【0080】
[4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物の製造]
4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物の製造方法は、特に制限されないが、下記化学式(9);
【0081】
【化17】

【0082】
で表される化合物(以下、「化合物(9)」とも称する)と、下記化学式(10);
【0083】
【化18】

【0084】
で表される化合物(以下、「化合物(10)」とも称する)とを、反応させる工程(工程(A))を有することが好ましい。なお、前記化学式(9)において、Rは前記化学式(1)の定義と同様であるので、ここでは説明を省略する。また、前記化学式(10)中、R13〜R17は、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲンカルボニル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、ハロゲン基、またはトシル基であり、この際、R13、R14、R15、R16およびR17の少なくとも一は、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲンカルボニル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、ハロゲン基、またはトシル基であり、残りは水素原子である。
【0085】
前記化合物(9)と化合物(10)とを反応させる前記工程(A)において、化合物(9)および(10)の混合比は、特に制限されない。好ましくは、化合物(9)および(10)をそれぞれ等モル混合するか、または化合物(9)を化合物(10)に対してやや多めに混合することが好ましい。後者の場合、化合物(9)は、化合物(10)1モルに対して、好ましくは0.8〜2モル、より好ましくは1〜1.2モル程度の割合で、混合することが好ましい。また、化合物(9)と化合物(10)との反応条件は、これらの反応が進行する条件であれば特に制限されないが、例えば、反応温度は、好ましくは20〜200℃、より好ましくは80〜150℃の温度であり、反応時間は、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは1〜1.5時間である。また、化合物(9)と化合物(10)との反応は、無溶媒下で行なってもよく、または溶媒中で行なってもよい。後者の場合に使用できる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒が挙げられる。これらのうち、THFが好ましい。化合物(9)と化合物(10)との反応後は、反応混合物を適当な溶媒中に加えることによって生成物を固化させることによって、原料化合物と分離回収することができる。なお、前記工程(A)で得られた反応生成物は、下記化学式(11)中のRが水素原子(H)である下記化学式(11)の構造を有する。
【0086】
次に、前記工程(A)で得られた反応生成物を、アルキル化することによって[工程(B)]、下記化学式(11):
【0087】
【化19】

【0088】
で表される化合物(以下、「化合物(11)」とも称する)が得られる。
【0089】
前記工程(B)において、アルキル化は、ヨウ化メチル、ヨウ化エチルなどのハロゲン化アルキルをはじめとするアルキル化剤を用いて行なうことができる。ここで、アルキル化剤としては、上記ハロゲン化アルキルに限定されず、他の公知のアルキル化剤も同様にして使用できる。この反応は、適当な溶媒や塩基を用いてもよく、室温または加熱下で行なわれる。より具体的には、使用できる溶媒としては、前記工程(A)で列挙したのと同様の溶媒が使用でき、これらのうち、メタノール、THFが好ましい。また、塩基としては、トリエチルアミン(TEA)、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、4−(ジメチルアミノ)ピリジンなどが使用でき、これらのうち、TEAが好ましい。
【0090】
前記工程(B)において、アルキル化剤の使用量は、前記工程(A)で得られた反応生成物を十分アルキル化できる量であれば特に制限されないが、前記工程(A)で得られた反応生成物1モルに対して、好ましくは0.5〜5モル、より好ましくは1〜2モルである。反応条件もまた特に制限されないが、前記工程(A)で得られた反応生成物のアルキル化反応を、好ましくは40〜200℃、より好ましくは100〜140℃の温度で、好ましくは1〜24時間、より好ましくは10〜20時間、行なう。
【0091】
次に、前記工程(B)で得られた化合物(11)を出発物質として、ニトロソ化反応、当該ニトロソ化反応に引き続いて還元反応を行なう[工程(C)]。
【0092】
前記工程(C)において、ニトロソ化反応は、無溶媒下で行なわれてもよいが、溶媒中で行なわれることが好ましい。より具体的には、ニトロソ化反応は、水、有機酸、または両者の混合物を溶媒として用い、塩酸、硝酸(好ましくは塩酸)などで、好ましくはpH1〜5、より好ましくはpH1〜2の酸性にまで調整した後、亜硝酸ナトリウムを加えることによって行なわれる。ここで、有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、乳酸、コハク酸、クエン酸などが挙げられ、好ましくは酢酸である。また、亜硝酸ナトリウムの量は、特に制限されないが、通常、出発物質と等モルまたは過剰量で用いられ、好ましくは出発物の、1.0〜4.0当量、より好ましくは1.1〜1.5当量で用いられる。
【0093】
前記工程(C)において、ニトロソ化反応の反応条件は、ニトロソ化反応が十分進行できる条件であれば特に制限されない。具体的には、反応温度は、好ましくは−20℃〜40℃、より好ましくは0〜25℃であり、反応時間は、好ましくは5秒〜40分、より好ましくは10秒〜15分である。このニトロソ化反応により得られた生成物は析出するため、容易に反応系から分離回収することができる。
【0094】
次に、前記工程(C)では、ニトロソ化反応に引き続いて還元反応を行なう。ここで、還元反応は、無溶媒下で行なわれてもよいが、溶媒中で行なわれることが好ましい。還元反応で使用できる溶媒としては、ニトロソ化反応で得られたニトロソ化反応生成物が溶解できるものであれば特に制限されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、乳酸、コハク酸、クエン酸等の有機酸などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、還元剤としては、特に制限されないが、亜鉛等の金属や、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元性無機塩が用いられ、反応溶液は中性もしくは水酸化ナトリウムや塩酸の添加で塩基性または酸性に調整して用いられる。反応溶液のpHは、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜5に調節される。
【0095】
前記還元反応後、生成物は、適当な溶媒を加えて析出させて濾過、または適当な有機溶媒で抽出することによって回収される。ニトロソ化反応と還元反応は、ニトロソ化反応の生成物を取り出す事なく、ワンポットで連続して行なってもよい。回収された生成物は、再結晶やカラムクロマトグラフィー精製により、より純度の高いものが得られる場合がある。
【0096】
[4−アミノアンチピリンに反応性官能基を導入した化合物と、反応性置換基を導入したヒドロキシル基含有化合物の反応]
反応性置換基を導入したヒドロキシル基含有化合物としては、市販のものを用いてもよく、または合成したものを用いてもよい。
【0097】
ヒドロキシル基含有化合物に導入される反応性置換基の例としては、例えば、アミノ基、カルボン酸基、ハロゲン化カルボン酸基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、ハロゲン基、トシル基等が挙げられる。
【0098】
本反応において、それぞれ、反応性置換基の組み合わせが適宜選択される。アミノ基とカルボン酸基の場合は適当な脱水縮合剤を用いて、アミド結合を形成することができる。すなわち、式(3)や式(7)中の結合を形成することができる。
【0099】
ヒドロキシル基とカルボン酸基の場合は適当な脱水縮合剤を用いて、エステル結合を形成することができる。すなわち、式(6)中の結合を形成することができる。
【0100】
アミノ基とスルホン酸基の場合は適当な脱水縮合剤を用いてスルホン酸アミドと形成することができる。すなわち、式(8)中の結合を形成することができる。
【0101】
脱水縮合剤としてはカルボジイミド類等が用いられる他、ハロゲン化酸を作った後にアミンやヒドロキシル基と反応させて縮合させることも可能である。
【0102】
アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基と、ハロゲン基またはトシル基との反応では、それぞれ置換アミン、エーテル結合、チオエーテル結合を形成することができる。すなわち、式(2)、式(4)、式(5)中の結合を形成することができる。
【0103】
上記本発明に係る化合物の製造につき、より詳しく説明する。
【0104】
例えば、式(2)に示される置換基を持つ化合物の一例である、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)アミノ}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタンブロマイドを、ジイソプロピルエチルアミン存在下ジメチルホルムアミド中で80℃に加熱し、生成物を酸によって脱保護することによって得られる。
【0105】
式(3)に示される置換基を持つ化合物の一例である、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)カルボニルアミノ}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタンカルボン酸を、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド存在下、メタノール中室温で反応させ、生成物を酸によって脱保護することによって得られる。
【0106】
式(4)に示される置換基を持つ化合物の一例である、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)オキシ}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタンブロマイドを、水素化ナトリウム存在下テトラヒドロフラン中で加熱還流し、生成物を酸によって脱保護することによって得られる。
【0107】
式(5)に示される置換基を持つ化合物の一例である、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)チオ}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−メルカプトフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタンブロマイドを、ジイソプロピルエチルアミン存在下ジメチルホルムアミド中で80℃に加熱し、生成物を酸によって脱保護することによって得られる。
【0108】
式(6)に示される置換基を持つ化合物の一例である、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)オキシカルボニル}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド存在下、メタノール中室温で反応させ、生成物を酸によって脱保護することによって得られる。
【0109】
式(7)に示される置換基を持つ化合物の一例である、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)アミノカルボニル}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタンアミンを、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド存在下、テトラヒドロフラン中、室温で反応させ、生成物を酸によって脱保護することによって得られる。
【0110】
式(8)に示される置換基を持つ化合物の一例である、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)アミノスルホ}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−スルホニルフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタンアミンを、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド存在下、メタノール中室温で反応させ、生成物を酸によって脱保護することによって得られる。
【0111】
上記にて説明した本発明に係る製造方法においては、必要に応じて、4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入したものと、反応性置換基を導入したヒドロキシル基含有化合物と、を結合する反応工程(以下、単に「反応工程」とも称する)の前に、適当な保護基を導入し、後に脱保護する工程を入れてもよい。
【0112】
保護基としては、例えば、ヒドロキシル基に対しては、アセタール、ケタール類、アシル基、エーテル基などが挙げられる。アミノ基に関しては、カーバメート類、アミド類などが挙げられる。カルボン酸に対しては、メチルエステル、エチルエステルなどが挙げられる。
【0113】
本発明に係る化合物を、上記反応工程によって生じた混合物(反応化合物)から取り出し精製する過程においては、抽出、沈殿、再結晶、カラムクロマトグラフ、ゲル濾過などの方法を用いることができる。
【0114】
このように、本発明に係る化合物の製造方法は、特に制限されず、上述したような製造方法が同様にしてあるいは適宜修飾してあるいは適宜組み合わせて適用できる。
【0115】
上述の通り、本発明に係る化合物は水溶性が高い。よって、後述する試薬組成物や、該試薬組成物を担体に保持して試験具として使用する場合には、血液などの検体にすばやく溶解して均一化し、迅速に呈色反応が起こる点、非常に優れたものである。また、本発明に係る化合物が、呈色反応(比色分析法)に供された場合、それによって生じた色素化合物についても、検体への溶解性や親和性が高く、担体内での展開性が良くなるので、担体表面での発色が鮮やかで均一性の高いものとなり、感度が高く安定した測定が可能となる。さらには、本発明に係る化合物は、溶解性が高いので、従来の試薬より高濃度の試薬組成物液(試薬液)が調製可能である。すると、本発明に係る化合物を含む試薬組成物を担体に担持して、試験具として使用する場合、塗布液濃度を高くしてより多くの試薬を担体に保持させることが可能となる。加えて、本発明に係る化合物は親水性が向上し分子量が高くなっている為、保管中の昇華による試薬の損失を抑えることができる。また、本発明に係る化合物は、試薬濃度の変化における呈色強度への影響が少ない為に、化合物が経時的に劣化減少した場合でも測定値への影響が少ない。さらに、本発明に係る化合物の親水性官能基は、担体への吸着性を高め、試験具として使用した場合でも、担体内での化合物の安定性を向上させる。本発明に係る化合物を提供することにより、ひいては、経時劣化を低減させ有効期間が延びた試薬組成物や試験具を提供することが可能となる。
【0116】
<第2実施形態>
本実施形態では、本発明に係る化合物の特に好ましい用途・使用に関する実施形態を説明する。本発明の第2実施形態は、本発明に係る化合物と、トリンダー試薬と、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、ペルオキシダーゼと、を含む試薬組成物である。
【0117】
トリンダー試薬としては、特に制限はなく、従来公知の化合物がいずれも好ましく用いられうる。ただ、中でもN−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−3−アセチルエチレンジアミン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N−サクシニルエチレンジアミン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン、N−(2−カルボキシエチル)−N−エチル−3−メチルアニリン、N,N−ビス−(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン、N−エチル−N−(2−サクシニルアミノエチル)−3−メチルアニリン、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピ)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシ−4−フルオロアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンが好ましく、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンが、発色強度や波長といった観点で、特に好ましい。
【0118】
すなわち、前記トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンまたはN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンであると、発色強度や波長といった観点で好ましい。
【0119】
「測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼ」としては、例えば、測定対象物がグルコースである場合、該オキシダーゼはグルコースオキシダーゼであり、測定対象物がコレステロールである場合、該オキシダーゼはコレステロールオキシダーゼであり、測定対象物が、測定対象物が尿酸である場合、該オキシダーゼはウリカーゼであり、測定対象物がピルビン酸である場合、該オキシダーゼはピルベートオキシダーゼである。これらは測定対象物の基質のみを特異的に酸化するために、色々な成分を含む検体からそれぞれの測定対象物のみを限定して定量することができる。
【0120】
本発明に係る試薬組成物において、本発明に係る化合物とトリンダー試薬とのモル比は、1:1〜2:1であることが好ましく、1.3:1がより好ましい。本発明に係る化合物とトリンダー試薬とのモル比が1:1未満である場合、また、本発明に係る化合物とトリンダー試薬とのモル比が2:1を超える場合、発色不良を生じることがある。
【0121】
本発明に係る試薬組成物中の、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼの含有量は、カプラー15mmolに対して、433k〜2600kUであることが好ましく、866k〜2600kUであることがより好ましい。測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼの含有量が、カプラー15mmolに対して433kU未満である場合、発色不良を生じることがある。なお、本発明において、前記測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼの含有量は、4AA−TOOS法により測定したユニット数を採用するものとする。
【0122】
本発明に係る試薬組成物中のペルオキシダーゼの含有量は、カプラー15mmolに対して166.5k〜1666kUであることが好ましく、333k〜999kUであることがより好ましい。ペルオキシダーゼの含有量が、カプラー15mmolに対して166.5kU未満である場合、発色不良を生じることがある。なお、本発明において、前記ペルオキシダーゼの含有量は、ピロガロール法により測定したユニット数を採用するものとする。
【0123】
本発明に係る試薬組成物は、本発明に係る酸化発色化合物またはこれらの塩と、トリンダー試薬と、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、ペルオキシダーゼと、を含む。すなわち、「本発明に係る酸化発色化合物またはこれらの塩と、トリンダー試薬と、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、ペルオキシダーゼ」以外の成分を、試薬組成物としての機能を害さない程度含んでいてもよい。該成分としては、例えば、pH緩衝剤、浸透圧調整剤、界面活性剤、可溶化剤、安定化剤、保護剤等が挙げられる。
【0124】
なお、これら成分の含有量は、試薬組成物としての機能を害さなければ特に制限されないが、本発明に係る酸化発色化合物またはこれらの塩と、トリンダー試薬と、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、ペルオキシダーゼとの総質量に対して、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは13〜20質量%含まれてもよい。
【0125】
本発明に係る酸化発色化合物/塩は、血液や尿をはじめとする体液中の生体成分の測定法の一種である、酵素を用いた比色分析法に好適に使用されるカプラーとして用いられうる。すなわち、本発明に係る化合物は、前記トリンダー試薬と共に用いられ、測定対象物の酵素的酸化で生じる過酸化酸素を、さらにペルオキシダーゼ(POD)酸化して生成した活性酸素によって、本発明に係る化合物を含むカプラーと、トリンダー試薬と、が酸化縮合することによって呈色する。そのため本発明に係る化合物は、上記の通り、その化合物自体に特徴を有するものであるが、カプラーとして使用することが特に好ましい。
【0126】
上述の通り、本発明に係る化合物は水溶性が高いため、それを含む試薬組成物(以下、「本発明に係る試薬組成物」とも称する)や、該試薬組成物を担体に保持して試験具として使用する場合には、血液などの検体にすばやく溶解して均一化し、迅速に呈色反応が起こる点、非常に優れたものである。また、本発明に係る試薬組成物を用いた呈色反応(比色分析法)において、それによって生じた色素化合物についても、検体への溶解性や親和性が高く、担体内での展開性が良くなるので、担体表面での発色が鮮やかで均一性の高いものとなり、感度が高く安定した測定が可能となる。さらには、本発明に係る化合物は、溶解性が高いので、従来の試薬より高濃度の試薬組成物液(試薬液)が調製可能である。すると、該試薬組成物を担体に担持して、試験具として使用する場合、塗布液濃度を高くしてより多くの試薬を担体に保持させることが可能となる。加えて、本発明に係る化合物は親水性が向上し分子量が高くなっている為、保管中の昇華による試薬組成物の損失を抑えることができる。また、本発明に係る化合物は、試薬濃度の変化における呈色強度への影響が少ない為に、化合物が経時的に劣化減少した場合でも測定値への影響が少ない。さらに、本発明に係る試薬組成物に含まれる本発明に係る化合物の親水性官能基は、担体への吸着性を高め、試験具として使用した場合でも、担体内での化合物の安定性を向上させる。このように本発明に係る試薬組成物を提供することにより、ひいては、経時劣化を低減させ有効期間が延びた試験具を提供することが可能となる。
【0127】
<第3実施形態>
上記第2実施形態の通り、本発明に係る酸化発色化合物またはこれらの塩は、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、トリンダー試薬と、を組み合わせて、本発明に係る試薬組成物となる。
【0128】
本発明に係る試薬組成物を液体、粉末または錠剤に保持した状態で分析用組成物として用いてもよい。これら分析用組成物には、上記に加えて、pH緩衝剤、浸透圧調整剤、界面活性剤、可溶化剤、安定化剤、保護剤等の成分を含んでいてもよい。なお、この成分の許容される含有量に関しては、上記にて説明したため、これを割愛する。
【0129】
また、液体に保持して用いる場合には、検体と混合して反応させた後、色の変化を目視で判定する他、分光光度計で透過吸光度を測定してもよい。また、本発明に係る試薬組成物は、担体に保持した状態で試験具として用いてもよい。
【0130】
このように、本発明に係る試薬組成物は、種々の物に保持して用いることができるが、本発明に係る試薬組成物は、担体に保持した状態で試験具として用いることが好ましい。
【0131】
よって、第3実施形態は、本発明に係る試薬組成物が、担体に保持されてなる試験具である。
【0132】
かようなドライケミストリーで用いられる試験用具のように、担体に保持した状態で用いる場合には、これらの試薬組成物を含む層の他、これの機能を害さない範囲において、計量層、展開層、濾過層、保持層等を含んでいてもよい。このように担体に保持して用いる場合には、検体を付与した後、色の変化を目視で判定する他、分光光度計で反射吸光度を測定してもよい。測定値は予め作製した検量線を用いて測定対象物の量に換算することができる。
【0133】
担体の素材としては、紙、布帛、高分子膜等の多孔質物質を用いることができるが、特に、発色性能といった点で、高分子膜が好ましい。
【0134】
高分子膜とは、高分子よりなる水不溶性の多孔質体である。高分子としては、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、セルロース、セルロースアセテート、硝酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールが挙げられる。好ましくは、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォンが挙げられる。これらの高分子は一般的に知られている製膜方法を用いて膜を形成することができる。これらの高分子膜の中でもポリスルフォンまたはポリエーテルスルフォンが、発色性能といった点で、特に好ましい。
【0135】
本発明に係る試薬組成物を担体に保持する方法にも特に制限はないが、担体に適当な溶剤に溶解させた試薬組成物溶液を担体にコーティングする他、試薬組成物を含むマトリックス前駆体を成型して試験層を形成させる等の公知の方法が用いられうる。
【0136】
4−アミノアンチピリン等の既存のカプラーは、測定に用いる種々の試薬の中でも最も溶解性が低く、これが高い濃度の塗工液を作製するときの問題点となっていた。これに対して、本発明に係る化合物は溶解性が高く、濃度の高い塗工液を容易に作製できる。
【0137】
試薬組成物を担体に保持させた試験具では、検体付与後、検体の液体成分によってまず試薬組成物が溶解し、混合して反応が起こり、色素化合物が生成し、通常試験具の検体付与面の反対側にある読み取り面に移動し、その色調変化を測定する、というステップを経て定量が行なわれる。このため、試薬組成物の溶解性が高いことは、検体による均一な溶解、均一化、迅速な反応に有利であるだけではなく、生成する色素も溶解性に優れるために読み取り面への移動がスムースかつ均一性が高いというメリットもある。これらの特徴は、測定時間の短縮化、測定精度の向上、測定値ばらつきの低減に寄与する。したがって、本発明の酸化発色化合物またはこれらの塩は、高い溶解性を有するため、それを含む試薬組成物を担体に保持されてなる試験具において、測定時間の短縮化、測定精度の向上、測定値ばらつきの低減に寄与できることが期待される。
【0138】
従来公知のカプラーである4−アミノアンチピリンを含む試薬を担体に保持させた試験具を使用した場合、経時的に劣化減少し測定値が上昇するという問題が生じる。減少による測定値上昇の原因としては、酵素反応や呈色反応の阻害ではなく化合物の濃度が高いほど他の試薬類の溶解や移動、また生成色素の流動性に何らかの障害を与えるのではないかと考えられている。
【0139】
本発明に係る化合物は、4−アミノアンチピリンと比較して量が増減しても測定値への影響が少なく、4−アミノアンチピリンでみられた問題を改善できた。4−アミノアンチピリン等の既存のカプラーを含む試薬が、ある担体に保持されてなる試験具を使用した場合、濃度変化が測定値に影響するという問題点がある。バルク担体にコートする際、むらが生じた場合には、それを切り抜いて用いる各試験具間に感度差が生じる、あるいは保存中に劣化分解して量が変化した場合測定値に影響が出るということを示唆している。その原因は、酵素反応や呈色反応の阻害ではなく、化合物の濃度が高いほど他の試薬類の溶解や移動、また生成色素の流動性に何らかの障害を与えるのではないかと考えられている。
【0140】
これに対して、本発明に係る化合物は、4−アミノアンチピリンと比較して濃度の測定値への影響が少なく、これらの問題を改善できる。
【0141】
本発明に係る化合物を、トリンダー試薬と組み合わせて酸化発色させた場合には、4−アミノアンチピリン等の既存のカプラーを用いた場合と比較して吸光度が大きくなり、測定感度が向上する。例えば、本発明の4−アミノ−1−[4−{(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル)アミノカルボニル}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)アミノカルボニル}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン、4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)カルボニルアミノ}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン等は、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)やN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)と組み合わせて発色させた場合、その検量線の傾きは改善され、測定感度が向上されうる。
【0142】
上述の通り、本発明に係る化合物は水溶性が高いため、それを含む試薬組成物を担体に保持しなる試験具(以下、単に、「本発明に係る試験具」とも称する)を使用する場合、本発明に係る試薬組成物は、血液などの検体にすばやく溶解して均一化し、迅速に呈色反応が起こるため、本発明に係る試験具は、非常に優れたものとして使用されうる。
【0143】
また、本発明に係る試験具を用いた場合、本発明に係る試薬組成物の呈色反応において生じた色素化合物についても、検体への溶解性や親和性が高く、担体内での展開性が良くなるので、担体表面での発色が鮮やかで均一性の高いものとなる。すなわち、本発明に係る試験具を用いると、感度が高く安定した測定が可能となる。さらには、本発明に係る化合物は、溶解性が高いので、従来の試薬より高濃度の試薬組成物液(試薬液)が調製可能である。すると、該試薬組成物を担体に担持して、試験具として使用する場合、塗布液濃度を高くしてより多くの試薬を担体に保持させることが可能となる。
【0144】
加えて、本発明に係る化合物は親水性が向上し分子量が高くなっている為、保管中の昇華による試薬組成物の損失を抑えることができる。また、本発明に係る化合物は、試薬濃度の変化における呈色強度への影響が少ない為に、化合物が経時的に劣化減少した場合でも測定値への影響が少ない。さらに、本発明に係る試薬組成物に含まれる本発明に係る化合物の親水性官能基は、担体への吸着性を高める。すなわち、本発明に係る試験具は、担体内での化合物の安定性を向上されている。
【0145】
このように本発明に係る試験具は、従来に比べ、経時劣化を低減させ有効期間が有意に延びたものといえる。
【実施例】
【0146】
次に実施例によって本発明を説明する。
【0147】
<実施例1>
[4−アミノ−1−[4−{(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル)アミノカルボニル}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(略称CP8)の合成]
・1−(4−カルボキシフェニル)−3−メチル−5−ピラゾロン
フェニルヒドラジン−4−カルボン酸(関東化学製 41179−1A) 5.0gと3−オキソブタン酸エチル(東京化成工業製 A0649) 5.9gの混合物を120℃で1時間加熱攪拌した。放冷後析出した固体を濾集し、エタノールで洗浄後、乾燥し8.3gの目的物を得た。
【0148】
・1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンメチルエステル
前反応生成物 3.0g、ヨウ化メチル(関東化学製 I0060) 3.9g、メタノール 100mLを高圧反応容器に入れ、120℃で18時間加熱攪拌した。反応混合物を蒸発乾固した後、クロロホルムに溶解し、水洗後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層を蒸発乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフに供した。主画分を濃縮乾固し、目的物2.2gを得た。
【0149】
・4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンメチルエステル
前反応生成物 2.0gを0.4N塩酸25mLに溶解し、氷冷下40%亜硝酸ナトリウム(関東化学製 37402−00)水溶液1.2mLを2分間で加えた。引き続いて室温で10分間攪拌し、析出した固体を濾集、洗浄、乾燥した。固体を10mLのメタノールに溶解し、2mLの4N塩酸、亜鉛末(関東化学製 48005−00) 1.1gを加え、45℃で10分攪拌した。反応混合物をろ過後、濾液を濃縮乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフに供した。主画分を濃縮乾固し、目的物1.0gを得た。
【0150】
・4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
前反応生成物 0.37gをメタノール5mLに溶解し、4N水酸化ナトリウム水溶液0.25mLを加え、室温で30分反応を行なった。反応混合物を強酸性陽イオン交換樹脂(アルドリッチ製 216534−250G)で処理後、濃縮乾固し、目的物0.25gを得た。
【0151】
【表1】

【0152】
・4−アミノ−1−[4−{(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル)アミノカルボニル}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CP8)
前反応生成物200mgとペンタ(O−メトキシメチル)グルカミン(自社合成品) 800mgをTHF 6mLに溶解し、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM、国産化学製 2522021) 265mgを加え、室温で1時間反応を行なった。反応混合物を濃縮乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフで主成分を単離した。乾固した主成分をメタノール5mLに溶解し、8N塩酸1.2mLを加えて室温で1時間反応させ脱保護を行なった。反応混合物は濃縮乾固し、デシケーターで乾燥を行い、目的物186mgを得た。
【0153】
【表2】

【0154】
<実施例2>
[4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)アミノカルボニル}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(略称CP9)の合成]
実施例1で合成した4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン300mgと2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタンアミン(アルドリッチ製 483117−5G) 400mgをメタノール10mLに溶解し、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM、国産化学製 2522021) 600mgを加え、室温で1時間反応を行い、次いで80℃で30分間反応を行なった。反応混合物を濃縮乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフで主成分を単離した。乾固した主成分をメタノール3mLに溶解し、4N塩酸2mLを加えて室温で30分間反応させ脱保護を行なった。反応混合物は濃縮乾固し、デシケーターで乾燥を行い、目的物316mgを得た。
【0155】
【表3】

【0156】
<実施例3>
[4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)カルボニルアミノ}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(略称CP10)の合成]
・1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−5−ピラゾロン
4−ニトロフェニルヒドラジン(東京化成工業製 N0230) 5.0gと3−オキソブタン酸エチル(東京化成工業製 A0649) 4.7gをエタノール50mLに溶解させ、1.5時間加熱還流した。反応混合物を蒸発乾固し、残渣をエーテルに懸濁し固体を濾集、乾燥し6.0gの目的物を得た。
【0157】
・1−(4−ニトロフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
前反応生成物 5.0g、ヨウ化メチル(関東化学製 I0060) 8.1g、メタノール100mLを高圧反応容器に入れ、120℃で18時間加熱攪拌した。反応混合物を蒸発乾固した後、メタノール/クロロホルム(1:9)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフによって精製し、目的物2.7gを得た。
・4−アミノ−1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
前反応生成物 1.7gを0.1N塩酸250mLに溶解し、40%亜硝酸ナトリウム(関東化学製 37402−00)水溶液1.5mLを加え、室温で1.5時間攪拌し、析出した固体を濾集、洗浄、乾燥した。固体を140mLのメタノールに溶解し、5mLの4N塩酸、亜鉛末(関東化学製 48005−00) 1.0gを加え、氷温で5分攪拌し、次いで室温で10分攪拌した。反応混合物をろ過後、濾液を濃縮乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフに供した。主画分を濃縮乾固し、目的物1.1gを得た。
【0158】
【表4】

【0159】
・4−アミノ−1−[4−{(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)カルボニルアミノ}フェニル]−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CP10)
前反応生成物200mgと2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタンカルボン酸(自社合成品) 366mgをメタノール10mLに溶解し、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM、国産化学製 2522021) 506mgを加え、80℃で30分間反応を行なった。反応混合物を濃縮乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフで主成分を単離した。乾固した主成分をメタノール5mLに溶解し、4N塩酸0.5mLを加えて室温で30分間反応させ脱保護を行なった。反応混合物は濃縮乾固し、デシケーターで乾燥を行い、目的物125mgを得た。
【0160】
【表5】

【0161】
<実施例4>
下記組成の塗工液を用い、キスコート法により、自社製ポリエーテルスルフォン膜(膜厚130μm)に塗工し、37℃で18時間乾燥を行なった。膜を1cm角に切り取り、試験片を得た。
【0162】
【表6】

【0163】
血液を用いた評価は、試験片を反射分光光度計に固定した後、1μLの検体を試験膜上部より滴下し、連続的にあるいは所定時間における反射吸光度を測定した。検体としては、ヘマトクリット値、血糖値を所定値に調整したヒト血液を用いた。
【0164】
図1は、カプラーとして4−アミノアンチピリン(4AA)、4−アミノ−1−{4−(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル)アミノカルボニルフェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CP8)、および4−アミノ−1−{4−(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)アミノカルボニルフェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CP9)を使用して上記の方法で作製した試験片に、ヘマトクリット値40、血糖値400mg/dLの血液を検体として付与した時の反射吸光度値の時間変化を表したものである。
【0165】
吸光度値に関して、比較対象の4AAが最高値に達するまで15秒以上かかるのに対し、CP9では10秒、CP8では5秒しかかかっておらず、本発明に係る化合物を用いることによって測定時間が迅速化されることが示された。
【0166】
<実施例5>
実施例4で作製された試験片を用いて、ヘマトクリット値40、種々のグルコース濃度の血液で測定した値から検量線を作製し、定量感度を見た(図2)。反射吸光度値はそれぞれの試験片に対して最高となる時間の値を用いた。図2中、x軸に反射吸収度、y軸に血糖値をとっているため、傾きがなだらかなほど感度が高いことを意味する。
【0167】
図2から示されるように、本発明の4−アミノ−1−{4−(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル)アミノカルボニルフェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CP8)、および4−アミノ−1−{4−(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)アミノカルボニルフェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CP9)は、トリンダー試薬としてMAOSと組み合わせて発色させた場合、その検量線の傾きは4−アミノアンチピリン(4−AA)を用いた時より改善され、測定感度が有意に向上できることが示される。
【0168】
<実施例6>
実施例4で作製された試験片を、所定期間25℃で遮光密封保存した後、ヘマトクリット値40、血糖値100mg/dLの血液を検体として用いて反射吸光度値を測定し、保存期間と感度の関係をグラフにした(図3)。反射吸光度値はそれぞれの試験片に対して最高となる時間の値を用いた。
【0169】
比較対照の4−アミノアンチピリン(4−AA)が保存と共に感度が上昇するのに比較し、4−アミノ−1−{4−(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル)アミノカルボニルフェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CP8)、および4−アミノ−1−{4−(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)アミノカルボニルフェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CP9)共に経時的な感度の変動が小さく、本発明に係る化合物は経時安定性に優れることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】実施例4における、本発明に係る化合物および4−AAの反射吸光度値の時間変化を表した図である。
【図2】実施例5における、本発明に係る化合物および4−AAの測定感度を表した図である。
【図3】実施例6における、本発明に係る化合物および4−AAの経時安定性を表した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖状のアルキル基であり、
、R、R、RおよびRのうち少なくとも一以上が、それぞれ独立して、下記式(2)〜式(8)より選択される置換基であり、かつ、残りは水素原子である、
で示される酸化発色化合物またはこれらの塩。
下記式(2):
【化2】

下記式(3):
【化3】

下記式(4):
【化4】

下記式(5):
【化5】

下記式(6):
【化6】

下記式(7):
【化7】

下記式(8):
【化8】

ただし、Rは、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基であり、
は、少なくとも一以上のヒドロキシル基を有する直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基または水素原子であり、
この際、RおよびRは、同一であっても、または、異なるものであってもよい。
【請求項2】
およびRが、メチル基である、請求項1に記載の酸化発色化合物またはこれらの塩。
【請求項3】
が、ヒドロキシル基を1〜5個有する炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基であり、Rが、水素原子である、または、
およびRが、それぞれ独立して、ヒドロキシル基を1〜5個有する炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基である、請求項1または2に記載の酸化発色化合物またはこれらの塩。
【請求項4】
が、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基または2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基であり、Rが、水素原子である、または、
およびRが、それぞれ独立して、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、ビス(ヒドロキシメチル)メチル基または2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−n−ヘキシル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化発色化合物またはこれらの塩。
【請求項5】
が、前記式(2)〜式(8)からなる群から選択され、
、R、RおよびRが、水素原子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化発色化合物またはこれらの塩。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化発色化合物またはこれらの塩と、
トリンダー試薬と、
測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、
ペルオキシダーゼと、
を含む試薬組成物。
【請求項7】
前記トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンまたはN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンである、請求項6に記載の試薬組成物。
【請求項8】
前記測定対象物が、グルコースであり、
前記オキシダーゼが、グルコースオキシダーゼである、請求項6または7に記載の試薬組成物。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の試薬組成物が、担体に保持されてなる試験具。
【請求項10】
前記担体が、高分子膜である、請求項9に記載の試験具。
【請求項11】
前記高分子膜が、ポリスルフォンまたはポリエーテルスルフォンからなる、請求項10に記載の試験具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84374(P2009−84374A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254482(P2007−254482)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】