説明

酸化自己熱型改質装置及び固体酸化物形燃料電池システムの起動方法

【課題】効果的に短時間で酸化自己熱型改質装置を昇温起動し、改質器内部の改質触媒温度を改質原料が改質可能な温度まで昇温可能とする。
【解決手段】炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の改質原料と水蒸気との混合物の改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成する改質部と、少なくとも一部に酸化触媒が充填されており、前記改質原料又は前記改質ガスの一部を酸化して熱を発生させる酸化発熱部とを有する酸化自己熱型改質装置1の起動時において、前記酸化発熱部に酸化反応により発熱する物質と酸素を含む酸化性ガスとを導入して部分酸化反応を行わせて水素及び/又は一酸化炭素を含むガスを生成及び/又は残存させ、該部分酸化反応の酸化発熱により前記改質原料と水蒸気との混合物の改質反応が可能となる温度以上に前記改質部を昇温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の酸化自己熱型改質装置の起動方法、並びに該起動方法を利用した固体酸化物形燃料電池システムの起動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、改質器を具え、該改質器に改質原料と水蒸気との混合物を供給し改質反応させて水素を主成分とする改質ガスを生成させる改質装置においては、改質器に改質原料を供給する前に、改質原料を改質できる温度まで改質器内部を昇温起動しておく必要がある。
【0003】
例えば、水蒸気改質法を採用した改質器では加熱バーナー等を組み合わせ、改質原料を改質器外部で燃焼させて改質器を昇温するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。一方、酸化自己熱型改質装置では外熱バーナー等を持たないため、従来は電気ヒーター等で改質器を昇温したり、改質原料の燃焼ガスを改質器内部に供給し昇温起動したりしていた。しかしながら、電気ヒーター等を用いると昇温に時間を要し、改質器の容器外面が部分的に過熱される恐れがある。また、改質原料の燃焼ガスを改質器内部に送るためには特別な燃焼器が必要となり、コスト高となり、装置も複雑となる。更に、外部燃焼器から燃焼ガスを送るとガスを送る配管等がエネルギーロスの原因となりガスの温度が低下し、改質温度まで改質器を加熱するには長時間を要していた。
【0004】
また、改質器にメタノール等の改質燃料と空気等の酸化剤を供給して触媒による部分酸化反応を起こさせ、このときの反応熱により改質器を昇温させるとともに、部分酸化反応で生成したガスを更に燃焼器で燃焼させ改質器と同時に燃焼器の起動を行い、改質システムを短時間で昇温及び起動する方法も提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、起動時においては改質ガスを燃焼器に供給し、一方、定常運転時においては改質ガスを燃料電池スタックへ供給しており、高温に耐えるガス流路の切替バルブやそのための制御系などが必要となる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−86893号公報
【特許文献2】特開2001−229953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の第一の目的は、上記従来技術の問題を解決し、効果的に短時間で酸化自己熱型改質装置を昇温起動し、改質器内部の改質触媒温度を改質原料が改質可能な温度まで昇温可能とすることにある。また、本発明の第二の目的としては、酸化自己熱型改質装置の下流側に固体酸化物形燃料電池を組み合わせた燃料電池システムにおいて、固体酸化物形燃料電池の昇温起動時においてアノード電極側が還元状態を維持する必要のある温度域(通常400℃以上)において、アノード電極に還元性ガスを供給可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、改質部と酸化発熱部とを有する酸化自己熱型改質装置の起動時において、酸化発熱部に酸化反応により発熱する物質(酸化発熱物質ということがある)と酸素を含む酸化性ガスとを導入して部分酸化反応を行わせて水素及び/又は一酸化炭素を含むガスを生成及び/又は残存させ、該部分酸化反応で発生する熱により改質部を改質反応が可能となる温度以上に昇温することで、短時間で効果的に酸化自己熱型改質装置を昇温起動できる上、生成及び/又は残存させた水素及び/又は一酸化炭素を含むガスを固体酸化物形燃料電池のアノード電極側に供給することで、アノード電極側を還元雰囲気に維持することが可能となり、その結果として、固体酸化物形燃料電池システムの性能劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0008】
(1)炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の改質原料と水蒸気との混合物の改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成する改質部と、少なくとも一部に酸化触媒が充填されており、前記改質原料又は前記改質ガスの一部を酸化して熱を発生させる酸化発熱部とを有する酸化自己熱型改質装置の起動方法であって、
前記酸化発熱部に酸化反応により発熱する物質と酸素を含む酸化性ガスとを導入して部分酸化反応を行わせて水素及び/又は一酸化炭素を含むガスを生成及び/又は残存させ、該部分酸化反応の酸化発熱により前記改質原料と水蒸気との混合物の改質反応が可能となる温度以上に前記酸化自己熱型改質装置を昇温する酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【0009】
(2)前記酸化反応により発熱する物質が、水素及び/又は一酸化炭素を含むガスである上記(1)の酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【0010】
(3)前記酸化反応により発熱する物質が、炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種である上記(1)の酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【0011】
(4)前記酸化性ガスが空気である上記(1)〜(3)のいずれかの酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【0012】
(5)前記改質原料が、軽油、ナフサ、灯油及びガソリンからなる群から選択される少なくとも一種である上記(1)〜(4)のいずれかの酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【0013】
(6)前記酸化反応により発熱する物質が、炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種を前記酸化自己熱型改質装置に導入する前に改質反応を行って生成させた改質ガスである上記(1)〜(5)のいずれかの酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【0014】
(7)炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の改質原料と水蒸気との混合物の改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成する改質部と、少なくとも一部に酸化触媒が充填されており、前記改質原料又は前記改質ガスの一部を酸化して熱を発生させる酸化発熱部とを有する酸化自己熱型改質装置と、固体酸化物形燃料電池とを備える固体酸化物形燃料電池システムの起動方法であって、前記酸化自己熱型改質装置を上記(1)〜(6)のいずれかの起動方法により起動する固体酸化物形燃料電池システムの起動方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化自己熱型改質装置の起動方法によれば、酸化自己熱型改質装置の酸化発熱部に酸化反応により発熱する物質と酸素を含む酸化性ガスとを導入して、その酸化発熱により改質原料と水蒸気との混合物の改質反応が可能となる温度以上に改質部を昇温することにより、外熱ヒーターなどを用いることなく、また酸化自己熱型改質装置内の触媒にダメージを与えることなく、短時間で酸化自己熱型改質装置を起動することが可能となる。
【0016】
また、酸化自己熱型改質装置と固体酸化物形燃料電池とを備える固体酸化物形燃料電池システムにおいて、本発明の酸化自己熱方改質装置の起動方法を行い、前記酸化自己熱型改質装置での反応ガス中に水素及び/又は一酸化炭素を含むガスが生成及び/又は残存する条件で部分酸化反応を行わせることにより、水素及び/又は一酸化炭素を含む還元性ガスを固体酸化物形燃料電池のアノード電極側に供給することが可能となり、また、固体酸化物形燃料電池の昇温起動時においてアノード電極側を還元雰囲気に維持することが可能となり、その結果として、固体酸化物形燃料電池システムの性能劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図1を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施に用いる酸化自己熱型改質装置を備えた固体酸化物形燃料電池システムの一例の概略図である。
【0018】
図1に示す固体酸化物形燃料電池システムは、酸化自己熱型改質装置1と固体酸化物形燃料電池2とを備える。本発明の実施に用いる酸化自己熱型改質装置は、炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の改質原料と水蒸気との混合物の改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成する改質部と、少なくとも一部に酸化触媒が充填されており、前記改質原料又は前記改質ガスの一部を酸化して熱を発生させる酸化発熱部とを有する。ここで、改質部の少なくとも一部には、通常、改質触媒が充填され、該改質触媒に炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の改質原料と水蒸気との混合物を接触させることで、改質反応によって水素を主成分とする改質ガスが製造される。また、酸化発熱部の少なくとも一部には、酸化触媒が充填されており、上記改質原料又は上記改質ガスの一部が酸化されて熱が発生する。なお、本発明の実施に用いる酸化自己熱型改質装置は、改質部と酸化発熱部とを有する限り特に限定されるものではなく、公知の酸化自己熱型改質装置を採用することができる。
【0019】
また、本発明の実施に用いる固体酸化物形燃料電池システムの固体酸化物形燃料電池も特に限定されるものではなく、公知の構造を持った固体酸化物形燃料電池を採用することができる。なお、通常、固体酸化物形燃料電池2は、複数のセルを積層及び/又は連結して構成されるものが一般的である。
【0020】
通常、改質反応時は原料導入ライン3から炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の改質原料と水蒸気を供給し、また、酸化性ガス導入ライン4から酸化性ガス、特には空気を導入し、酸化自己熱型改質装置1にて部分酸化を含む改質反応を行い、生成した改質ガスをアノード燃料導入ライン5を介して固体酸化物形燃料電池2のアノード電極へ供給する。このとき、カソード空気導入ライン6から空気を固体酸化物形燃料電池2のカソード電極へ供給し、固体酸化物形燃料電池2で電気化学的に発電を行う。この発電には、通常固体酸化物形燃料電池2が700℃から1000℃に維持されている必要がある。なお、アノード電極へ供給されたものの発電に寄与しなかった水素や一酸化炭素や窒素及び発電反応で生成した水や二酸化炭素は、アノード排ガス出口7から排出され、一方、カソード排ガス出口8からは、発電に寄与しなかった空気中の窒素と残留酸素が排出される。
【0021】
ここで、本発明の起動方法にあっては、短時間で効果的に酸化自己熱型改質装置1を昇温起動し、改質器内部の改質触媒の温度が改質原料を改質可能な温度以上になるまで、酸化発熱物質導入ライン9から酸化反応により発熱する物質を導入すると共に、酸化性ガス導入ライン4から酸素を含む酸化性ガスを導入して、部分酸化反応を行う。なお、目標とする改質器内部の改質触媒の温度は、改質原料に依存し、例えば、改質原料として灯油を使用する場合は、500℃以上になるまで昇温することが好ましい。
【0022】
上記酸化反応により発熱する物質としては、水素及び/又は一酸化炭素を含むガスや、炭化水素及び/又は脂肪族アルコール等が好ましく、ここで、炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、LPガス、天然ガス、都市ガス等のガス、軽油、ガソリン、ナフサ、灯油等の液体燃料を用いることができ、脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール等を用いることができる。これらの中でも、本発明では、常温でガス状の物質、より具体的には、水素及び/又は一酸化炭素を含むガスや、炭素数の小さい炭化水素、即ち、メタン、エタン、プロパン、LPガス、天然ガス、都市ガス等が好ましい。また、酸化発熱物質導入ライン9の前段に改質装置を設けて、前記炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種を、一旦改質した後に導入することも可能であり、この場合は、常温で液体の物質も好適に使用できる。なお、常温でガス状の物質を改質した後に、酸化発熱物質導入ライン9から導入することも勿論可能である。
【0023】
また、酸化性ガス導入ライン4から導入する酸素を含む酸化性ガスとしては、純酸素ガスも使用可能であるが、コスト等の観点から空気が好適である。
【0024】
ここで、酸化発熱物質と酸化性ガスの導入量は適宜変更可能であるが、アノード燃料導入ライン5を介して固体酸化物形燃料電池2へ導入されるガス中、すなわち酸化自己熱型改質装置内部での部分酸化反応後のガス中に水素や一酸化炭素等の還元性ガスが存在する必要がある。なお、酸化反応により発熱する物質が水素及び/又は一酸化炭素を含む場合は、完全酸化させることなく酸化反応を部分的に行って水素及び/又は一酸化炭素を残存させ、一方、酸化反応により発熱する物質が水素及び/又は一酸化炭素を含まない場合は、部分酸化反応で水素及び/又は一酸化炭素を生成させる。
【0025】
部分酸化反応後のガス中の水素及び/又は一酸化炭素の総含有量は、部分酸化反応後のガスが還元性の状態となる量であれば特に限定されるものではないが、通常、0.5体積%以上が好ましい。部分酸化反応後のガス中の水素及び/又は一酸化炭素の総含有量が少なすぎると固体酸化物形燃料電池のアノード電極全体に還元性ガスが行き届かなくなり、部分的に電極が酸化する恐れがある。また、酸化自己熱型改質装置の起動時間短縮のためには、酸化触媒の反応性などを考慮した上で、極力短時間で多くの酸素を消費し、部分酸化の発熱量が多くなるように反応を進めることが好ましい。
【0026】
次に、本発明の実施に好適に利用できる3重円管構造を有する酸化自己熱型改質装置を、図を参照しながら詳細に説明する。図2は、本発明の実施に好適な酸化自己熱型改質装置の一例の概略図であり、図3は、図2のIII−III線に沿う断面図である。この酸化自己熱型改質装置は、全体として円筒形状を有しており、各要素は、環状に形成され且つ同心円状に配置されている。
【0027】
図示例の酸化自己熱型改質装置10は、改質層11と、酸化発熱層12とを備え、改質層11が酸化発熱層12よりも上流側に位置している。また、改質層11及び酸化発熱層12は、それぞれ円筒形状を有し、改質層11が半径方向内側に位置する内側改質層11Aと半径方向外側に位置する外側改質層11Bとの2層からなると共に、該内側改質層11Aと外側改質層11Bとの間に酸化発熱層12が配置されており、半径方向内側から内側改質層11A、酸化発熱層12、外側改質層11Bの順に配置された3重円管構造をなしている。
【0028】
ここで、改質層11の少なくとも一部には、通常、改質触媒が充填され、また、酸化発熱層12の少なくとも一部には、酸化触媒が充填される。改質触媒としては、従来改質用に用いられている触媒を用いることができ、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の担体に、Ru、Ni、W、Co、Rh、Ptを単独または複数で担持したものが用いられる。これらの中でも、特に改質原料として灯油を選択した場合は、Ruを担持した触媒が好ましい。Ruを担持した触媒は、一般に耐酸化性が低いものの、炭素数の多い液体燃料の改質特性に優れる。一方、酸化触媒としては、高温で劣化しにくいPt、Pd、Rh等を担持した触媒が好ましい。
【0029】
改質層11及び酸化発熱層12は、酸化自己熱型改質装置10の内筒13及び外筒14、並びに内筒13及び外筒14の間に位置する2枚の管状隔壁15(半径方向内側の隔壁15Aと半径方向外側の隔壁15B)とによって隔てられており、内筒13と半径方向内側の隔壁15Aとの間の空間が内側改質層11Aをなし、半径方向内側の隔壁15Aと半径方向外側の隔壁15Bとの間の空間が酸化発熱層12をなし、半径方向外側の隔壁15Bと外筒14との間の空間が外側改質層11Bをなしている。図3に詳しく示すように、内筒13、半径方向内側の隔壁15A、半径方向外側の隔壁15B、及び外筒14は、環状で且つ同心円状に配置された4重円管構造をなしており、その間にそれぞれ位置する内側改質層11A、酸化発熱層12、及び外側改質層11Bが3重円管構造をなしている。
【0030】
また、図2に示す酸化自己熱型改質装置10は、内側改質層11A及び外側改質層11Bの双方に原料を供給するための原料導入管16と、酸化発熱層12からの改質ガスを排出するための改質ガス排出管17とが、外筒14の下部に連結されている。原料導入管16が連結される位置より上部で且つ内側改質層11A、酸化発熱層12、外側改質層11Bの下部には、仕切り受け18A,18B,18Cがそれぞれ配設されており、該仕切り受け18A,18B,18Cは、これら各層に充填される触媒等の落下を防止しつつ、炭化水素又は脂肪族アルコールと水蒸気との混合物並びに改質ガスの通過を可能とする。また、原料導入管16が連結される位置より下部で且つ改質ガス排出管17が連結される位置より上部には、隔壁19が配設されており、該隔壁19には、酸化発熱層12に連通する開口20が設けられている。更に、図示例の酸化自己熱型改質装置10は、外筒14の上端部を貫通して酸化発熱層12まで至る酸化性ガス導入管21を備え、該酸化性ガス導入管21の先端には、酸化性ガス噴出し口が複数設けられた管状リング22が設置されている。
【0031】
定常運転時においては、図2中の原料導入管16から原料ガス流路23に導入された水蒸気を含む改質原料は、仕切り受け18A,18Cを通過して、内側改質層11A及び外側改質層11Bをアップフローで均一に流れつつ改質され、水素を主成分とする改質ガスとなる。この時、改質に要する熱は、酸化発熱層12で起こる酸化発熱による顕熱が、隔壁15A,15Bを経て内側改質層11A及び外側改質層11Bへ伝達されることによって賄われる。
【0032】
酸化自己熱型改質装置10に導入された改質原料は、内側改質層11A及び外側改質層11Bで一部又は完全に改質され、水素を主成分とする改質ガスとなって、改質ガス流路24に入る。この時のC1転化率は、改質原料、運転条件によっても異なるが、通常90%以上である。
【0033】
更に、改質ガスは、リターンしてダウンフローで酸化発熱層12に入る。該酸化発熱層12には、酸化性ガスを供給するための手段として、酸化性ガス導入管21が連結されており、該酸化性ガス導入管21の先端には、酸化性ガス噴出し口を複数設けた管状リング22が設置されている。改質ガスの一部を酸化して熱を発生させるための酸化性ガスは、酸化性ガス導入管21を通って、管状リング22の複数の酸化性ガス噴出し口から噴出される。ここで、使用する酸化性ガスの種類としては、純酸素を使用することも可能であるが、一般的にはコストの観点から空気を使用することが好ましい。
【0034】
酸化発熱層12では、内側改質層11A及び外側改質層11Bでの吸熱を補うために、酸化発熱層12に導入された改質ガス中の水素、メタン等と酸化性ガスとの酸化反応(発熱反応)を行うことが必須であり、該酸化反応は、酸化触媒により促進される。
【0035】
上記酸化発熱層12には、第一に、酸化触媒と改質触媒との混合物を充填することが可能である。ここで、酸化発熱層12に使用される改質触媒は、酸化発熱層12に導かれた改質ガス中に残存するメタン及び/又はC2+成分(炭素数2以上の成分)の改質を更に進めるためのものであり、この改質のための吸熱は、混合された酸化触媒によって促進される酸化反応の発熱から直接賄われ、あたかも改質と酸化とが同時に進行する状態が作りだされる。
【0036】
また、上記酸化発熱層12には、第二に、酸化触媒と伝熱粒子との混合物を充填することが可能である。酸化発熱層12は、酸化性ガスの噴出し口の直下付近が一番高温になり易く、下流にいくに従い温度が低下する。そこで、酸化発熱層12に、一部伝熱粒子を使用することで、酸化発熱層12の上流側と下流側との温度差を低減することができる。ここで、伝熱粒子は、酸化反応によって発生した熱を酸化発熱層12全体に伝熱するものであり、これにより酸化発熱層12と隣り合う内側改質層11A及び外側改質層11Bの上流側において、管状の隔壁15A,15Bを通しての伝熱量が大きくなり、内側改質層11A及び外側改質層11Bの上流と下流との温度差を小さくすることが可能となる。
【0037】
更に、上記酸化発熱層12には、第三に、酸化触媒と改質触媒と伝熱粒子との混合物を充填することが可能である。この場合、酸化発熱層12は、上述した第一の場合、第二の場合の作用を同時に発揮する。
【0038】
上記酸化発熱層12に用いる改質触媒としては、上記改質層11に用いる改質触媒を使用することも可能であるが、酸化発熱層12が酸化雰囲気にあることから、Ni、Rhを単独または複数で担持した触媒が好適である。また、上記酸化発熱層12に用いる伝熱粒子の材質は、特に規定されないが、熱伝導度の高いものほど好ましく、ポーラス状の炭化珪素粒子が好適である。
【0039】
酸化性ガス噴出し用の管状リング22の設置位置は、酸化発熱層12内の比較的上部が好ましいが、特に限定されるものではなく、ガスの流れ及び伝熱の方向を考慮すると、内側改質層11A及び外側改質層11Bより高い位置が好ましい。また、酸化性ガス噴出し用の管状リング22の上下には、同一の混合物を充填することが可能であるが、異なったものを充填することも可能である。
【0040】
酸化発熱層12に酸化性ガス噴出し用の管状リング22から供給される酸化性ガスの量は、改質原料の種類によっても異なるが、酸素/炭素の比(O2/C)=0.1〜0.5程度が好適である。これにより、酸化発熱層12の最高温部が650〜850℃程度となる。従って、該酸化自己熱型改質装置には、特段高価な材質を使用する必要がない。
【0041】
酸化発熱層12で部分的に酸化及び/又は改質が進行した改質ガスは、仕切り受け18Bを通過して、改質ガス流路25に導かれ、改質ガス排出管17から排出される。その後、排出された改質ガスは、そのまま固体酸化物形燃料電池2に供給することが可能である。
【0042】
このように定常運転時においては、改質ガス排出管17から排出される改質ガスは、主として水素を含み、還元性であるため、アノード電極側に直接供給しても、アノード電極側を還元雰囲気に維持することが可能であり、固体酸化物形燃料電池2の性能劣化を抑制することができる。しかしながら、改質層11の温度が、改質反応が可能となる温度未満である起動時においては、上述の定常運転時と同じ操作をした場合、改質ガス排出管17から排出されるガスは、水素及び一酸化炭素のいずれも含まないため、該ガスをアノード電極側に供給すると、アノード電極側を還元雰囲気に維持できず、固体酸化物形燃料電池2の性能が劣化してしまう。そこで、本発明の起動方法を適用して、この問題を解決する。
【0043】
即ち、本発明を実施する起動時においては、図2中の酸化発熱層12に酸化反応により発熱する物質と酸素を含む酸化性ガスとを導入し、部分酸化反応させて、水素及び/又は一酸化炭素を含むガスを生成及び/又は残存させる。ここで、酸化発熱層12における部分酸化反応で発生する酸化熱によって、改質層11が加熱され、改質原料と水蒸気との混合物の改質反応が可能となる温度以上に改質層11を昇温する。また、本発明の起動方法によれば、部分酸化反応により、水素及び/又は一酸化炭素を含むガスを生成及び/又は残存させるため、仕切り受け18Bを通過して改質ガス流路25に導かれ改質ガス排出管17から排出されるガスは、水素及び/又は一酸化炭素を含む。そのため、本発明の起動方法を適用すれば、起動時において、改質ガス排出管17から排出されるガスをアノード電極側に直接供給しても、アノード電極側を還元雰囲気に維持することが可能であり、固体酸化物形燃料電池2の性能劣化を抑制することができる。
【0044】
また、図2において、酸化反応により発熱する物質は、例えば、原料導入管16から導入することができ、該酸化反応により発熱する物質は、その後、原料ガス流路23を経て、仕切り受け18A,18Cを通過して、内側改質層11A及び外側改質層11Bをアップフローで流れた後、改質ガス流路24を経て酸化発熱層12に導入される。なお、酸化反応により発熱する物質の酸化発熱層12への導入方法は特に限定されず、改質層11を経由せずに、酸化発熱層12に直接導入してもよい。また、例えば、原料導入管16の前段に改質装置を設けて、炭化水素及び/又は脂肪族アルコールを一旦改質した後に、酸化反応により発熱する物質として原料導入管16に導入することも可能である。一方、酸素を含む酸化性ガスは、例えば、図2中の酸化性ガス導入管21を通して、酸化発熱層12に直接導入することができるが、酸化性ガスの導入方法は特に限定されない。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
図2に示す酸化自己熱型改質装置を用いて本発明の起動方法を実施した。具体的には、定常運転時は灯油を4.6mL/minと水蒸気を14.4g/minを原料導入管から供給し、また酸化性ガス導入管21からは空気5.4NL/min供給して、灯油を改質原料として酸化自己熱改質を行うように設計された図2の酸化自己熱型改質装置において、原料導入管16へ99.9%の水素を5L/minの流速で供給し、酸化性ガス導入管21へ空気を2.5L/minの流速で供給した。原料導入管16に導入された水素は、改質層11を経由して酸化発熱層12へ導かれる。また、この時酸化性ガス導入管21から導入された空気は、管状リング22から酸化発熱層12に供給される。ここで酸化発熱層12に充填された酸化触媒の作用により、水素の部分酸化反応(発熱反応)が起こった。この反応熱は管状隔壁15を介して改質層11に伝熱され、その結果、酸化自己熱型改質装置10内部全体が効果的に昇温された。なお、水素及び空気の供給開始から10分後における改質ガス排出管17から排出されるガスの組成は、水素が56.7体積%、窒素が14.9体積%、水が28.4%であった。
【0047】
水素及び空気の供給開始後20分で、改質層11は、室温から、改質原料の改質反応が十分に進む最低温度である500℃に到達した。この時点で水素の供給を停止し、改質原料となる灯油と水蒸気との混合物を原料導入管16に導入して改質反応をスタートさせた。その後、所定量まで灯油と水蒸気との混合物の量及び酸化性ガス導入管21より供給する空気量を増やして、定常の酸化自己熱型改質反応に移行できた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施に用いる酸化自己熱型改質装置を備えた固体酸化物形燃料電池システムの一例の概略図である。
【図2】本発明の実施に好適な酸化自己熱型改質装置の一例の概略図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 酸化自己熱型改質装置
2 固体酸化物形燃料電池
3 原料導入ライン
4 酸化性ガス導入ライン
5 アノード燃料導入ライン
6 カソード空気導入ライン
7 アノード排ガス出口
8 カソード排ガス出口
9 酸化発熱物質導入ライン
10 酸化自己熱型改質装置
11 改質層
11A 内側改質層
11B 外側改質層
12 酸化発熱層
13 内筒
14 外筒
15 管状隔壁
15A 半径方向内側の隔壁
15B 半径方向外側の隔壁
16 原料導入管
17 改質ガス排出管
18A,18B,18C 仕切り受け
19 隔壁
20 開口
21 酸化性ガス導入管
22 管状リング
23 原料ガス流路
24,25 改質ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の改質原料と水蒸気との混合物の改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成する改質部と、少なくとも一部に酸化触媒が充填されており、前記改質原料又は前記改質ガスの一部を酸化して熱を発生させる酸化発熱部とを有する酸化自己熱型改質装置の起動方法であって、
前記酸化発熱部に酸化反応により発熱する物質と酸素を含む酸化性ガスとを導入して部分酸化反応を行わせて水素及び/又は一酸化炭素を含むガスを生成及び/又は残存させ、該部分酸化反応の酸化発熱により前記改質原料と水蒸気との混合物の改質反応が可能となる温度以上に前記改質部を昇温することを特徴とする酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【請求項2】
前記酸化反応により発熱する物質が、水素及び/又は一酸化炭素を含むガスであることを特徴とする請求項1に記載の酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【請求項3】
前記酸化反応により発熱する物質が、炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【請求項4】
前記酸化性ガスが空気であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【請求項5】
前記改質原料が、軽油、ナフサ、灯油及びガソリンからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【請求項6】
前記酸化反応により発熱する物質が、炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種を前記酸化自己熱型改質装置に導入する前に改質反応を行って生成させた改質ガスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化自己熱型改質装置の起動方法。
【請求項7】
炭化水素及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の改質原料と水蒸気との混合物の改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成する改質部と、少なくとも一部に酸化触媒が充填されており、前記改質原料又は前記改質ガスの一部を酸化して熱を発生させる酸化発熱部とを有する酸化自己熱型改質装置と、固体酸化物形燃料電池とを備える固体酸化物形燃料電池システムの起動方法であって、
前記酸化自己熱型改質装置を請求項1〜6のいずれかに記載の起動方法により起動することを特徴とする固体酸化物形燃料電池システムの起動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−263185(P2009−263185A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117233(P2008−117233)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年4月2日付け平成19・04・02財資第9号平成19年度新燃料油研究開発調査(将来型燃料高度利用研究開発)委託契約に基づき財団法人石油産業活性化センターが国から委託を受けて実施した「将来型燃料高度利用研究開発事業」における「灯油改質型SOFC技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】