説明

酸化還元電位水製造装置

【課題】 水の酸化還元電位の絶対値を従来よりも高い値とすることが可能な酸化還元電位水製造装置の提供を目的とする。
【解決手段】本実施形態の酸化還元電位水製造装置100によれば、ガスが混合された水がミキサー10を通過する過程で、その水にかかる流体圧力の強弱が繰り返され、水に対するガスの溶存量が向上し、酸化還元電位(ORP)の絶対値を従来より高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元電位水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境、人体に優しい水として、酸化還元電位水が注目されている。ここで、酸化還元電位(以下、適宜、「ORP」という。「ORP」は、Oxidation Reduction Potentialの略である)とは、その物質が他の物質を酸化し易い状態にあるか、還元し易い状態にあるかを表す指標である。なお、水道水のORPは、通常、+200〜+800mVであり、人間の体液は、−500〜+250mVである(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ところで、従来は、水を電気分解して酸化還元電位水を製造していた。具体的には、水を電気分解すると陰極側の水のORPがマイナス側に大きくなると共にpHも上がりアルカリ性になる。そこで、この水に酸を加えて中和させ、中性でかつORPがマイナス側に大きくなった還元電位水を得ていた(例えば、特許文献1参照)。
【非特許文献1】日本インテックアクアケミカル株式会社、[online]、[平成16年8月19日検索]、インターネット[URL:http://www.nipponintek.co.jp/genehop.htm]
【特許文献1】特開2002−361250号公報(段落[0010]、[0016]、[0019])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記製法では、酸を加えるという工程(中和工程)が必要であるので、酸化還元電位水の量産が困難であると共に、専門の作業者が必要であった。これに対し、中和工程をなくすために、中性の水(例えば、水道水)に水素ガスとを混合する製法が検討されたが、この製法ではORPを−420mV程度とすることが限界であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、水の酸化還元電位の絶対値を従来よりも高い値とすることが可能な酸化還元電位水製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る酸化還元電位水製造装置は、水と共に、水素、酸素、オゾン、アンモニア又は二酸化炭素の何れかのガスを吸引し、そのガスと水とを混合して排出する気液混合ポンプと、気液混合ポンプから排出された水のガス溶存量を高めるためのミキサーとを備え、ミキサーは、気液混合ポンプの排出口に接続された管路と、管路の軸方向に沿って間隔をあけて設けられ、管路内を複数の領域に区画すると共に水の通過を許容し、管路内で流体圧力の強弱が繰り返されるようにするための複数のミキシング壁とを備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の酸化還元電位水製造装置において、ミキサーを通過した水を、気液混合ポンプの吸引口に環流させるための循環路を備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の酸化還元電位水製造装置において、気液混合ポンプの吸引口より上流又はミキサーと気液混合ポンプとの間に、水のクラスターサイズを小さくするためのクラスターサイズ変更手段を設けたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3に記載の酸化還元電位水製造装置において、クラスターサイズ変更手段は、水に磁場を付与する磁石であるところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置において、ミキシング壁は、水が通過可能な複数の貫通孔を有する板部材で構成されたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置において、ミキシング壁は、セラミックフィルタであるところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置において、各ミキシング壁は、複数のメッシュを重ね合わせてなるところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項7に記載の酸化還元電位水製造装置において、ミキシング壁を構成するメッシュの目開きは、1〜3μmであるところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置において、ミキシング壁は、水が通過可能な貫通孔を1つのみ有する板部材で構成されたところに特徴を有する。
【0015】
請求項10の発明は、請求項9に記載の酸化還元電位水製造装置において、貫通孔は、板部材の中心部に設けられ、その両開口縁は外側に向かって拡径したテーパ形状をなしたところに特徴を有する。
【0016】
請求項11の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置において、ミキシング壁は、外周面に少なくとも1つの溝を備えた板部材を管路の内部に嵌合してなり、管路の内周面と溝との間に、管路内のミキシング壁を挟んだ2つの領域を連通する流路が形成されたところに特徴を有する。
【0017】
請求項12の発明は、請求項11に記載の酸化還元電位水製造装置において、流路を複数設け、それらのうち少なくとも2つの流路を交差させたところに特徴を有する。
【0018】
請求項13の発明は、請求項1乃至12の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置において、気液混合ポンプの吸引口より上流側に、水から気体を脱気するための脱気手段を備えたところに特徴を有する。
【0019】
請求項14の発明は、請求項1乃至13の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置において、気液混合ポンプに吸引される水は、水道水であるところに特徴を有する。
【0020】
請求項15の発明は、請求項1乃至13の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置において、気液混合ポンプに吸引される水は、水を電気分解することで陰極側に生成する陰極水又は陽極側に生成する陽極水であるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0021】
[請求項1,3〜12の発明]
上記のように構成した請求項1に係る酸化還元電位水製造装置によれば、ガスが混合された水がミキサーを通過する過程で、その水にかかる流体圧力の強弱が繰り返され、水に対するガスの溶存量が向上し、酸化還元電位(ORP)の絶対値を従来より高くすることができる。特に、請求項3及び4の発明のように、クラスターサイズ変更手段を設ければ、酸化還元電位の絶対値を従来よりも高くした状態で安定化(従来よりも長時間維持)させることが可能である。
【0022】
ここで、ミキシング壁は、板材に複数の貫通孔を形成した構成でもよい(請求項5の発明)。また、ミキシング壁は、板材に1つの貫通孔を形成した構成でもよい(請求項9の発明)。このとき、貫通孔はミキシング壁の中心部に設け、その両開口縁を外側に向かって拡径したテーパ形状とすることが好ましい(請求項10の発明)。
【0023】
各ミキシング壁は、複数のメッシュを重ね合わせたものでもよい(請求項7の発明)。このとき、ミキシング壁を構成するメッシュの目開きは、1〜3μmであることが好ましい(請求項8の発明)。
【0024】
また、外周面に少なくとも1つの溝を備えた板部材を管路の内部に嵌合してミキシング壁を構成し、管路の内周面と溝との間に、管路内のミキシング壁を挟んだ2つの領域を連通する流路が形成されるようにしてもよい(請求項11の発明)。さらに、流路を複数設け、それらのうち少なくとも2つの流路を交差させてもよい(請求項12の発明)。
【0025】
さらに、ミキシング壁は、セラミックフィルタであってもよい(請求項6の発明)。
【0026】
[請求項2の発明]
請求項2の発明によれば、ミキサーを通過した水は、気液混合ポンプの吸引口に環流されて、再度、ミキサーに通されるので、水に対するガスの溶存量をさらに高めることができる。即ち、酸化還元電位水の酸化還元電位の絶対値をさらに高くすることが可能となる。
【0027】
[請求項3及び4の発明]
請求項3の発明によれば、少なくともミキサーよりも上流側に、水のクラスターサイズを小さくするためのクラスターサイズ変更手段を設けたので、ガスを水に溶け込ませ易くなる。ここで、クラスターサイズ変更手段は、水に磁場を付与する磁石であることが好ましい(請求項4の発明)。
【0028】
[請求項13の発明]
請求項13の発明によれば、気液混合ポンプの吸引口よりも上流側に、水から気体を脱気するための脱気手段を備えたので、水に対する各ガスの溶存量を高めることができる。即ち、酸化還元電位水の酸化還元電位の絶対値をさらに高めることが可能となる。
【0029】
[請求項14の発明]
請求項14の発明によれば、水道水を利用することで、比較的安価に酸化還元電位水を製造することができる。
【0030】
[請求項15の発明]
請求項15の発明によれば、水の電気分解によって陰極側に生成する陰極水又は陽極側に生成する陽極水を利用することで、より酸化還元電位の低い還元電位水や、より酸化還元電位の高い酸化電位水を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る第1実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1に示された本実施形態の酸化還元電位水製造装置100は、水が流される配管11に沿って上流側から順番にクラスターサイズ変更装置17、気液混合ポンプ12、ミキサー10、貯留槽19を備えている。気液混合ポンプ12には、気体の吸引口と液体の吸引口とが備えられ、気体の吸引口には、ガス供給装置13(具体的には、ガスボンベ)から延びたガス配管14が接続されている。ガス配管14の途中には開閉弁16が備えられ、開閉弁16の下流側に気液混合ポンプ12へのガスの供給量(流量)を調節するためのマスフローコントローラ28が備えられている。一方、液体の吸引口には、水道管15が接続されている。水道管15には開閉弁18が設けられ、開閉弁18の下流側に、水道水の流量を調節するための流量調節器29が備えられている。そして、気液混合ポンプ12は、所定流量(例えば、10〜20L/min)の水道水を吸引すると共に、ガス供給装置13から所定圧力(例えば、0.2〜0.4MPa)及び流量(例えば、0.2〜0.4L/min)のガス(具体的には、水素、酸素、オゾン、アンモニア及び二酸化炭素の何れか)を吸引し、これら水道水とガスとを攪拌混合した上で、この混合流体を所定圧力(例えば、0.4〜1.5MPa)でミキサー10に圧送している。気液混合ポンプ12から吐出された混合流体の圧力及び流量は、配管11の途中に設けた圧力計26及び流量計60により計測される。
【0032】
なお、本実施形態では、本発明に係るガス供給装置13としてガスボンベが備えられているが、このガスボンベに代えて、ガス供給装置は、例えば、化学反応により水から水素を発生して供給する装置等であってもよい。この場合、発生した水素を気液混合ポンプ12に圧送するためのポンプをガス配管14の途中に設けることが好ましい。
【0033】
クラスターサイズ変更装置17(本発明における「クラスターサイズ変更手段」に相当する)は、磁石(例えば、電磁石、永久磁石の何れでもよい)を備えて、気液混合ポンプ12より上流側の配管11を貫通する磁束を発生させている。そして、この磁束による磁場を水道水が通過することで、水道水のクラスターサイズ(水分子の集合体の大きさ)が小さくなる。
【0034】
貯水槽19は、例えば、密閉タンクで構成され、次述するミキサー10を通過することで製造された酸化電位水又は還元電位水(以下、これらを纏めて「酸化還元電位水」という)が一時的にここに貯留される。貯水槽19には、ガス溶存量計測器50、pH計測器51、酸化還元電位計測器52が備えられており、製造された酸化還元電位水の各計測値が計測されている。
【0035】
貯水槽19には、貯留した酸化還元電位水を外部に取り出すための供給配管22と、気液混合ポンプ12よりも上流側(詳細には、流量調節器29とクラスターサイズ変更装置17の間が望ましい)に環流させるための循環配管20とが別々に設けられている。そして、供給配管22に備えた開閉弁27を開くことで、貯水槽19から酸化還元電位水を取得することができる。供給配管22からはドレン管23が分岐しており、ドレン管23に設けられたドレン弁24を開放することで、貯水槽19に貯留された酸化還元電位水を貯水槽19から排出することができる。さらに、循環配管20の途中にも、開閉弁21が備えられている。
【0036】
なお、貯水槽19の天井部分に、酸化還元電位水から抜けたガスを気液混合ポンプ12のガス吸引口に戻すためのガス循環路を設けて、ガスの有効利用を図ってもよい。
【0037】
さて、ミキサー10は、図2に示すように、円筒ケース30(本発明の「管路」に相当する)の内部に、複数(例えば、11個)のミキシング壁40を収容してなる。まず、円筒ケース30について説明する。
【0038】
円筒ケース30は、ケース本体31と、ケース本体31の上流側端部に接合される流入管32及びケース本体31の下流側端部に接合される流出管33とから構成される。
【0039】
ケース本体31は、円筒形状をなし、両端部には、流入管32及び流出管33と接合するフランジ部37が形成されている。また、ケース本体31の内部空間は、径が一定な円柱形状をなしている。
【0040】
流入管32及び流出管33は、同一形状をなしている。即ち、流入管32及び排出管33の一端には、前記配管11に接続される配管接続部34が形成され、他端には、ケース本体31に接合するフランジ部35が形成されている。そして、その外径は、配管接続部34からフランジ部35に向かって段付き状に拡径している。なお、流入管32及び流出管33の内径は一定となっている。
【0041】
流入管32及び流出管33のうち、ケース本体31に接合される側の開口縁(フランジ部35の端面35T)からは、円筒ボス36が起立している。そして、流入管32及び流出管33がケース本体31の両端に接合されると、この円筒ボス36がケース本体31の内部空間に突入するようになっている。以上が円筒ケース30の説明である。
【0042】
さて、ミキシング壁40は、以下のようである。図3に示すように、ミキシング壁40は、円板部材41に複数の小孔42(本発明の「貫通孔」に相当する)を貫通形成した構成をなす。円板部材41は、例えば、金属(具体的には、ステンレスや真鍮)製であり、その外径は、ケース本体31の内径とほぼ同一となっている。また、小孔42は、ミキシング壁40の板厚方向(図2における上下方向)に延びその内径は、例えば、2μmとなっている。
【0043】
図2に示すように、ミキシング壁40は、円筒ケース30(詳細には、ケース本体31)の内部において、円筒ケース30の軸方向に重なるように配置されている。ミキシング壁40同士の間には、スペーサ(例えば、Oリング)45が挟まれている。このスペーサ45により隣接したミキシング壁40が所定間隔を空けて重ねられ、これらミキシング壁40によって、ケース本体31の内部空間が、複数の扁平円柱形状の空間部46(本発明における「領域」に相当する)に区画されている。換言すれば、ケース本体31の内部には、ケース本体31の軸方向に沿って、ミキシング壁40と空間部46とが交互に備えられている。ここで、ケース本体31の内部に収容された複数のミキシング壁40は、ケース本体31の内側に嵌合されかつ、ケース本体31に流入管32及び流出管33を組み付けると、ケース本体31の両端側から円筒ボス36,36に押圧されて、ケース本体31の内部に固定配置されている。
【0044】
以上が、本実施形態における酸化還元電位水製造装置100の構造の説明であって、以下に作用及び効果を説明する。本実施形態の酸化還元電位水製造装置100によって、酸化還元電位水を製造する場合には、以下のようである。まず、水道管15に備えられた開閉弁18を開放状態とし、気液混合ポンプ12によって水道水を吸引する。水道水は、所定流量(例えば、10〜20L/min)で吸引され、気液混合ポンプ12に達する前にクラスターサイズ変更装置17を通過する。クラスターサイズ変更装置17を通過することで水道水のクラスターサイズは縮小され、この状態で気液混合ポンプ12に流入する。
【0045】
気液混合ポンプ12は、水道水と共に、ガスボンベ13から所定流量(例えば、0.2〜0.4L/min)でガスを吸引し、このガスと、クラスターサイズが縮小された水道水とを攪拌混合して、その混合流体をミキサー10に圧送する。
【0046】
ガス及び水道水の混合流体は、ミキサー10の流入管32から円筒ケース30内に流入し、最上段のミキシング壁40に衝突する。ミキシング壁40に衝突した混合流体は、ミキシング壁40に形成された複数の小孔42に押し込められることで加圧されると共に複数の流路に細かく分かれる。
【0047】
ミキシング壁40の小孔42を通過した混合流体は、最上段の空間部46内に流入する。この空間部46において、小孔42を通過する際に複数の流路に分かれた混合流体が合流すると共に混合流体にかかる圧力が低下する。
【0048】
最上段の空間部46に流入した混合流体は、2段目のミキシング壁40に衝突して小孔42を通過する際に、再び強い圧力を受けると共に複数の流路に細かく分かれる。そして、2段目のミキシング壁40を通過すると、2段目の空間部46に流入し、ここでミキシング壁40を複数の流路(小孔42)に分かれて通過した混合流体が合流すると共に、混合流体にかかる圧力が低下する。以下、ミキシング壁40と空間部46とを交互に通過することで、混合流体が分流と合流とを繰り返すと共に、混合流体にかかる圧力の強弱が繰り返される。
【0049】
これにより、混合流体中のガスが水道水に溶け込み、酸化還元電位が水道水に比較して低い還元電位水或いは高い酸化電位水が製造される。ミキサー10を通過して製造された酸化還元電位水は、貯水槽19に流入する。そして、貯水槽19に貯留された酸化還元電位水を使用する場合には、供給配管22に備えられた開閉弁27を開放する。
【0050】
ところで、本実施形態の酸化還元電位水製造装置100では、ミキサー10を通過することで製造された酸化還元電位水を環流させて、再度ミキサー10に通過させることができる。具体的には、水道管15に備えられた開閉弁18、供給配管22に備えられた開閉弁27、ドレン弁24を何れも閉状態とし、循環配管20に備えられた開閉弁21を開放する。すると、貯水槽19に貯留された酸化還元電位水が、循環配管20を通って気液混合ポンプ12の上流側に戻される(クラスターサイズ変更装置17の上流側に戻してもよい)。そして、酸化還元電位水は、気液混合ポンプ12に流入し、ここで、ガスと混合された後、再度ミキサー10を通過する。
【0051】
[実験1]
本実施形態の酸化還元電位水製造装置100の効果を調べるべく、以下の実験を行った。実験の手順は以下の通りである。なお、本実験で用いた水道水のpHは7.20、ORPは+250mVである。
(1)酸化還元電位水製造装置100によって、水道水に水素ガスを溶存させて、還元電位水を製造した。具体的には、30Lの水道水を5.8L/minの流量で酸化還元電位水製造装置100内を循環させた。
(2)ミキサー10を通過した還元電位水のORP、溶存水素量及びpHを予め設定した時間毎に計測して、還元電位水のミキサー10への通過回数とORP、溶存水素量及びpHとの関係をそれぞれグラフ化した。なお、本実験では、ORP等の計測を行ったときの時間Tを、以下の関係式に基づいてミキサー10への通過回数に換算した。
通過回数=T・5.8/30
【0052】
図4のグラフに示すように、還元電位水のORPは、ミキサー10を約2回通過(通水開始から10分経過)するまでの間に、−560mVまで一気に低下し、その後、通過回数の増加に伴って緩やかに低下して、ミキサー10を約12回通過(通水開始から60分経過)した時点で、−630mVまで低下した。これは、図5のグラフに示すように、ミキサー10への通過回数が増加するに従って、溶存水素量が増加したことが主因であると推測される。しかも、図6のグラフに示すように、還元電位水のpHは、ミキサー10への通過回数が増加しORP値が低下しても殆ど変化せず、ミキサー10を通過する前の水道水のpHとほぼ同じであった。
【0053】
実験の結果、本実施形態の酸化還元電位水製造装置100を用いて水と水素とを混合すると、ORPの値が従来よりも低い還元電位水を製造できることが分かった。しかも、水を電気分解して製造した場合に比較して、pH変化が抑えられることが分かった。
【0054】
なお、ミキサー10への通過回数を増やすことで、酸化還元電位水のORPを、より長時間に亘って維持できることも分かった。
【0055】
このように、本実施形態の酸化還元電位水製造装置100によれば、ガスが混合された水がミキサー10を通過する過程で、その水にかかる流体圧力の強弱が繰り返され、水に対するガスの溶存量が向上し、酸化還元電位(ORP)の絶対値を従来より高くすることができる。
【0056】
なお、本実施形態の酸化還元電位水製造装置100で製造された酸化還元電位水は、医療機器や工業用部品(例えば、半導体部品)の洗浄、医薬品・化粧品・食品の加工・製造、工業排水及び畜産排水の処理、プール・大衆浴場・養殖池・農業用水等の水質改善等に利用することができる。
【0057】
[第2実施形態]
図7は本発明の第2実施形態を示す。この第2実施形態は、酸化還元電位水製造装置の構成を上記第1実施形態とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記第1実施形態と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0058】
図7に示すように、本実施形態の酸化還元電位水製造装置200では、水道管15のうち、循環配管20との接続部分よりも上流側に、脱気装置25が備えられている。脱気装置25は、密閉空間内に水道水を導入し、その密閉空間内をポンプ等によって真空にすることで水道水から気体(空気)を抜く構成となっている。なお、脱気装置25は、上記した、真空脱気装置に限らず、例えば、超音波振動を利用したものでもよい。
【0059】
[実験2]
本発明の酸化還元電位水製造装置200の効果を調べるべく以下の実験を行った。本実験で用いた水道水のpHは7.20、ORPは+250mVである。本実験の手順は、前述した実験1と同じであるので、説明を省略する。
【0060】
図8のグラフに示すように、還元電位水のORPは、通水開始直後に、約−620mVまで一気に低下し、ミキサー10を約1回通過(通水開始から5分経過)した時点で−642mV、約2回通過(通水開始から10分経過)した時点で−648mVであった。その後、ORP値は、ほぼ一定となり、約12回通過(通水開始から60分経過)した時点で、−650mVまで低下した。
【0061】
即ち、本実施形態の酸化還元電位水製造装置200によれば、脱気装置を備えていない前記第1実施形態の酸化還元電位水製造装置100よりも短時間でORPを低下させることができ、しかも、よりORP値をより低い値とすることができた(図8を参照)。これは、図9のグラフに示すように、水道水を脱気したことで、水素ガスが溶け込み易くなる(早く溶け込む)と共に、水道水に対する水素ガスの溶存可能量が高まったからであると考えられる。また、図10のグラフに示すように、還元電位水のpHは、ミキサー10への通過回数が増加しORP値が低下しても殆ど変化せず、ミキサー10を通過する前の水道水のpHとほぼ同じであった。
【0062】
実験の結果、本実施形態の酸化還元電位水製造装置200を用いて水と水素とを混合すると、還元電位水のORPがより短時間でより低い値となることが分かった。しかも、水を電気分解して製造した場合に比較して、pH変化が抑えられることが分かった。
【0063】
このように、本実施形態の酸化還元電位水製造装置200によれば、予め脱気した水道水とガスとをミキサー10に通すことで、水道水に対するガスの溶存可能量をより高めることができ、製造される酸化還元電位水のORPの絶対値をさらに高くすることができる。
【0064】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記第1及び第2実施形態では、水のクラスターサイズを小さくするためのクラスターサイズ変更装置17を備えていたがクラスターサイズ変更装置を備えていなくてもよい。
【0065】
(2)上記第1及び第2実施形態では、水のクラスターサイズを縮小させるために、水に磁場を付与していたが、水に高周波電流を印加することで、クラスターサイズを縮小させてもよい。
【0066】
(3)上記第1及び第2実施形態では、酸化還元電位水の原水として、水道水を使用していたが、水道水に限るものではない。例えば、井戸水、湧き水や清涼飲料水でもよい。また、軟水、純水、蒸留水を使用してもよいし、水を電気分解することで陰極側に生成された陰極水又は陽極側に生成された陽極水を使用してもよい。ここで、陰極水は、電気分解する前の水よりもORPが低くなっているので、この陰極水に水素ガスやアンモニアガスを溶存させることで、さらにORPの低い還元電位水を製造することができる。また、陽極水は、電気分解する前の水よりもORPが高くなっているので、この陽極水に酸素、オゾン、二酸化炭素を溶存させることで、さらにORPの高い酸化電位水を製造することができる。
【0067】
(4)上記第1及び第2実施形態では、ミキシング壁40を金属製の板材で構成していたが、この板材の表面に、酸化チタン等の光触媒材料やトルマリン、パラジウムをコーティングしてもよい。
【0068】
(5)上記第1及び第2実施形態では、ミキシング壁40は、円板部材41に複数の小孔42を貫通形成した構成であったが、セラミックフィルターや不織布等でもよい。
【0069】
また、ミキシング壁40は、図11の(A)に示すように、網状のメッシュ部材80で構成してもよい。具体的には、メッシュ部材80は、円形のリング部材81の内側に複数の線材82を網目状に編んだ網部83を備えた構成とすればよい。ここで、網部83を構成する線材82を、金属(具体的には、ステンレスや真鍮)製としかつ、網部83の目開き(平行に延びた線材82間の距離)を、1〜3μmとすることが好ましい。また、図11の(B)に示すように、上記構成のメッシュ部材80を複数重ね合わせて、1つのミキシング壁40とすることが好ましい。
【0070】
(6)ミキシング壁は、図12の(A)に示すように、円板部材141の周面に板厚方向に延びた複数の溝50を陥没形成した構成としてもよい。そして、図12の(B)に示すように、ケース本体31の内部に円板部材41を嵌合固定したときに、ケース本体31の内周面と溝50との間に水が通過する流路を構成し、この流路によってケース本体31内部の2つの空間部46,46がミキシング壁140を挟んで連通するようにしてもよい。
【0071】
また、溝50(流路)は、図12の(A)に示すように、ミキシング壁140の板厚方向に平行に延びていてもよいし、図13の(A)に示すように、ミキシング壁140の板厚方向に対して斜めに延びていてもよい。さらに図13の(B)に示すように、少なくとも2つの溝50,50(流路)同士が途中で交差するようにしてもよい。
【0072】
(7)上記第1及び第2実施形態では、配管11の途中にミキサー10を1つだけ備えていたが、複数のミキサー10を直列に接続してもよい。
【0073】
(8)上記第1及び第2実施形態において、ガスは、市販のガスボンベから供給していたがガス発生装置から供給してもよい。具体的には、水素ガスは、水、都市ガス、プロパン、アルコール、メタン等を原料として水素ガスを生成する水素発生装置(より具体的には、電気分解装置、水蒸気改質装置等)から供給してもよい。
【0074】
(9)上記第1及び第2実施形態において、貯水槽19は密閉されていたが、開放していてもよい。これにより、貯水槽19内に水素ガスが滞留することが防がれる。
【0075】
(10)上記第1及び第2実施形態では、貯水槽19にガス溶存量計測器50、pH計測器51、酸化還元電位計測器52が備えられていたが、これら計測器50〜52の計測値に基づいて、水及び/又はガスの流量を自動制御する制御装置を備えていてもよい。また、pHの計測値に応じて、製造された酸化還元電位水に酸又はアルカリ(例えば、石灰)を添加して、酸化還元電位水のpHを予め設定した値に調節するようにしてもよい。
【0076】
(11)上記第1及び第2実施形態のミキサー10は、ミキシング壁40を11個備えていたが、複数個であれば、11個に限るものではない。
【0077】
(12)上記第1及び第2実施形態では、ミキシング壁40に形成される小孔42の数を複数としていたが、1つであってもよい。この場合、小孔42を、図14の(A)に示すように、ミキシング壁40の中心部分に配置し、同図の(B)に示すように、小孔42の上流側の開口縁42Jを上流側に向かって拡径したテーパ形状とし、下流側の開口縁42Kの開口縁を下流側に向かって拡径したテーパ形状とすることが好ましい。ここで、小孔42の開口縁42J,42Kのテーパ角度Pは45°であることが好ましい。
【0078】
(13)上記第1及び第2実施形態では、ミキサー10の下流に貯留槽19を設けていたが、貯留槽は設けなくてもよい。この場合、ガス溶存量計測器50、pH計測器51、酸化還元電位計測器52は、ミキサー10の下流側の配管に設ければよい。
【0079】
(14)上記第1及び第2実施形態では、酸化還元電位水を環流させるための循環配管20が備えられていたが、循環配管を設けずに、気液混合流体がミキサー10を1回だけ通過するような構成としてもよい。
【0080】
(15)上記第1及び第2実施形態では、水素ガスを使用して還元電位水を製造していたが、アンモニアガス又は、水素ガスとアンモニアガスとの混合ガスを使用してもよい。また、水に酸素、オゾン、二酸化炭素のうちの何れか1つのガス又は複数のガスを溶存させれば、従来よりも酸化還元電位の高い酸化電位水を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1実施形態に係る酸化還元電位水製造装置のブロック図
【図2】ミキサーの部分断面図
【図3】ミキシング壁の平面図
【図4】ミキサーへの通過回数とORPとの関係を示すグラフ
【図5】ミキサーへの通過回数と溶存水素量との関係を示すグラフ
【図6】ミキサーへの通過回数とpHとの関係を示すグラフ
【図7】第2実施形態に係る酸化還元電位水製造装置のブロック図
【図8】ミキサーへの通過回数とORPとの関係を示すグラフ
【図9】ミキサーへの通過回数と溶存水素量との関係を示すグラフ
【図10】ミキサーへの通過回数とpHとの関係を示すグラフ
【図11】(A)他の実施形態(5)に係るミキシング壁の平面図(B)ミキシング壁の側面図
【図12】(A)他の実施形態(6)に係るミキシング壁の斜視図(B)ミキシング壁の平面図
【図13】他の実施形態(6)に係るミキシング壁の斜視図
【図14】(A)他の実施形態(12)に係るミキシング壁の平面図(B)ミキシング壁の側断面図
【符号の説明】
【0082】
10 ミキサー
12 気液混合ポンプ
17 クラスターサイズ変更装置(クラスターサイズ変更手段)
20 循環配管(循環路)
25 脱気装置(脱気手段)
30 円筒ケース(管路)
40,140 ミキシング壁
42 小孔(貫通孔)
46 空間部
50 溝
80 メッシュ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と共に、水素、酸素、オゾン、アンモニア又は二酸化炭素の何れかのガスを吸引し、そのガスと前記水とを混合して排出する気液混合ポンプと、前記気液混合ポンプから排出された水のガス溶存量を高めるためのミキサーとを備え、
前記ミキサーは、前記気液混合ポンプの排出口に接続された管路と、
前記管路の軸方向に沿って間隔をあけて設けられ、前記管路内を複数の領域に区画すると共に前記水の通過を許容し、前記管路内で流体圧力の強弱が繰り返されるようにするための複数のミキシング壁とを備えたことを特徴とする酸化還元電位水製造装置。
【請求項2】
前記ミキサーを通過した水を、前記気液混合ポンプの吸引口に環流させるための循環路を備えたことを特徴とする請求項1に記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項3】
前記気液混合ポンプの吸引口より上流又は前記ミキサーと前記気液混合ポンプとの間に、前記水のクラスターサイズを小さくするためのクラスターサイズ変更手段を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項4】
前記クラスターサイズ変更手段は、前記水に磁場を付与する磁石であることを特徴とする請求項3に記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項5】
前記ミキシング壁は、前記水が通過可能な複数の貫通孔を有する板部材で構成されたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項6】
前記ミキシング壁は、セラミックフィルタであることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項7】
前記各ミキシング壁は、複数のメッシュを重ね合わせてなることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項8】
前記ミキシング壁を構成するメッシュの目開きは、1〜3μmであることを特徴とする請求項7に記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項9】
前記ミキシング壁は、前記水が通過可能な貫通孔を1つのみ有する板部材で構成されたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項10】
前記貫通孔は、前記板部材の中心部に設けられ、その両開口縁は外側に向かって拡径したテーパ形状をなしたことを特徴とする請求項9に記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項11】
前記ミキシング壁は、外周面に少なくとも1つの溝を備えた板部材を前記管路の内部に嵌合してなり、前記管路の内周面と前記溝との間に、前記管路内の前記ミキシング壁を挟んだ2つの領域を連通する流路が形成されたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項12】
前記流路を複数設け、それらのうち少なくとも2つの流路を交差させたことを特徴とする請求項11に記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項13】
前記気液混合ポンプの吸引口より上流側に、水から気体を脱気するための脱気手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至12の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項14】
前記気液混合ポンプに吸引される水は、水道水であることを特徴とする請求項1乃至13の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置。
【請求項15】
前記気液混合ポンプに吸引される水は、水を電気分解することで陰極側に生成する陰極水又は陽極側に生成する陽極水であることを特徴とする請求項1乃至13の何れかに記載の酸化還元電位水製造装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−198557(P2006−198557A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14651(P2005−14651)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(593161478)佐藤工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】