説明

酸化鉄層を含まない鉄線

【課題】 メッキやビニール被覆包装等の防錆処理を施すことなく、優れた耐食性を有する鉄線を安価に提供する。
【解決手段】 引張強度が280〜400Mpaの鉄線において、鉄線表面の酸化鉄層の厚さが0.5〜0μmであることを特徴とする鉄線であり、該鉄線は表面処理が施されていることが好ましく、表面処理は酸化防止剤の塗布が好ましい。更に前記鉄線の製造方法は、無酸化物雰囲気中で焼鈍することを特徴とするであり、前記無酸化物雰囲気は窒素ガス及び/又は水素ガス雰囲気下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄線に関し、更に詳しくは鉄線表面に酸化鉄層を含まない引張強度が280〜400Mpaの鉄線に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の線材を伸線・加工した鉄線は、建設、土木、自動車、家電などあらゆる産業において、また日常生活の中で広範囲に利用されている。これらの使用の上からは、該鉄線の引張強度は280〜400Mpaの範囲が望ましく、そのために素材である線材は伸線した後に、焼鈍(やきなまし)処理が行なわれる。しかし該処理は大気雰囲気下で行なわれるために、焼鈍時に鉄線表面が酸化され、1〜3μmの厚さの酸化層が形成されていた。
【0003】
該焼鈍処理が行なわれた鉄線(以下なまし鉄線ということがある。)は表面の酸化層のために酸化がされ易く、大気に暴露した場合、短時間で錆が発生する。この錆は二次加工において各種の支障を生じるために、製造後に亜鉛等の各種耐食性金属のメッキやビニール被覆包装等の防錆処理が施されていた。この耐食性金属のメッキを施すためには、なまし鉄線の酸洗処理が不可欠であるが、該処理は塩酸等の強酸を用いるために、公害等の環境問題を惹起する一因ともなっている。又メッキ処理が施された鉄線は、引張強度が高くなり、硬度が高く、脆くなるために、使用においては問題となっていた。
【0004】
一方、前記メッキ等の防錆処理が必要でない使用分野においては、前記なまし鉄線は防錆油の塗布等の比較的簡易な防錆処理が施されるが、簡易な防錆処理が行なわれた鉄線の表面の色調は、表面酸化層の酸化鉄により黒色を呈し、鉄筋の結束等に用いられる場合は、鉄筋と同一の色調であるために、結束の有無等の識別が困難であるという問題もあった。
【0005】
前記問題の解決として、亜鉛系リン酸塩皮膜を形成した線材に、仕上げの引き抜き加工を施して所期の線径の線材を得、該線材を無酸化性雰囲気中で焼きなまし熱処理を施す方法が提案されている(例えば特許文献1を参照。)が、該方法は炭酸ガス、一酸化炭素ガスを含む雰囲気下で焼鈍するために、酸化層を充分に除去した鉄線を得ることは困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開平6−271938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みなされたもので、酸化層を含まない、耐食性に優れた鉄線を、安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鉄線表面の酸化鉄層の厚さが0.5〜0μmであることを特徴とする引張強度が280〜400Mpaの鉄線である。
【0009】
又本発明は、前記鉄線に表面処理が施された鉄線であり、該表面処理は酸化防止剤の塗布が好ましく、該酸化防止剤はSiを含む酸化防止剤であることが好ましい。
【0010】
更に本発明は、無酸化物雰囲気中で焼鈍することを特徴とする前記鉄線の製造方法であり、前記無酸化物雰囲気は窒素ガス及び/又は水素ガス雰囲気下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鉄線は、実質的に酸化鉄層を含有しないために、鉄線表面に簡易な酸化防止処理を行うことで十分の防錆効果を発揮する。又表面の色調は、酸化鉄層を含まないために鉄本来の金属光沢を帯びた白色を呈し、鉄筋の結束等に用いられた場合も、容易に黒色の鉄筋と識別することができ、金属メッキ等に比較すると、酸洗処理が不要で公害問題等が発生ぜず、且つ安価に製造することができる。更に本発明の鉄線に金属メッキ等を施す場合も、酸洗処理は不要で公害問題等が発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、鉄線表面の酸化鉄層の厚さが0.5〜0μmであることを特徴とする引張強度が280〜400Mpaの鉄線である。以下本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の鉄線は、素材である線材に伸線処理を施して、所要の線径を有する線材とした後に、該線材に無酸化物雰囲気下で焼鈍処理が施されることにより得ることができる。
【0014】
前記素材である線材としては、軟鋼線材であればいずれの線材をも用いることができる。又線径としては、通常の線材として用いられる任意の線径を用いることができ、素材である線材に伸線処理を施すことにより、任意の線径を選択して用いることができる。
【0015】
前記伸線処理がされた線材は、その後に焼鈍処理がされるが、該焼鈍処理は無酸化物雰囲気下で施されることを特徴とする。従って大気下のほかに、炭酸ガス、酸素ガス、一酸化炭素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス等の酸化物を含むガス下での焼鈍は、焼鈍処理中に酸化物が鉄線表面に発生するために好ましくない。
【0016】
前記焼鈍処理は、無酸化物雰囲気下であればいずれのガスをも用いることができる。中でも窒素ガス雰囲気下、及び/又は水素ガス雰囲気下で処理されることが好ましい。具体的には伸線した線材を密閉可能な炉内に投入し、該炉を窒素ガス、及び/又は水素ガスで満たし、所定の温度及び時間、加熱することにより得ることができる。
【0017】
前記焼鈍処理に用いられる炉としては、連続炉、ポット炉、ベル型炉等の、いずれの形式をも用いることができる。中でも焼鈍パイプを用いた連続炉が、前記ガスの密閉封入の観点からは好ましい。
【0018】
前記焼鈍処理の条件は所要の引張強度によるが、前記引張強度が280〜400Mpaの範囲とするためには、前記炉内温度は600〜800℃であることが好ましく、700〜730℃がより好ましい。又焼鈍処理時間は線径により異なるが、線径が6.8mmの場合で15〜60秒の処理が好ましく、20〜40秒がより好ましい。
【0019】
前記焼鈍処理がされた鉄線は、鉄線表面の酸化鉄層の厚さが0.5〜0μmの範囲にあり、更には0.1〜0μmの範囲で、工業上は酸化層が実質的に存在せず、表面の色調は金属光沢を帯びた白色を呈する。
【0020】
前記酸化層が実質的に存在しない本発明の鉄線は、該表面が鉄金属そのものであるために、容易に表面が酸化され錆を生じる。そのため前記焼鈍処理がされた鉄線は、表面処理が施されることが好ましい。前記表面処理として、亜鉛等の各種耐食性金属のメッキ処理を挙げることができる。本発明の鉄線は表面に酸化層を含まないために、前記耐食性金属のメッキ処理を施す場合も、従来のなまし鉄線のような酸洗処理が不要で、且つ従来のなまし鉄線に比較してメッキ処理の効果が高まる。
【0021】
前記表面処理として、前記耐食性金属のメッキ処理によらず、酸化防止剤を塗布することのみであっても、本発明の鉄線は酸化層を含まないために、防錆として極めて有効である。前記酸化防止剤としては、Siを含む酸化防止剤が好ましく、市販のSiを含有するゲルタイプの酸化防止剤等が、表面の金属光沢を帯びた白色の色調を維持することができ、鉄筋の結束等に用いられる場合に好ましい。
【0022】
前記表面処理としての酸化防止剤の塗布は、従来のなまし鉄線のメッキ処理に比較して、酸洗処理が不要で公害等の発生がなく、又経済的にも極めて有利である。
【実施例】
【0023】
以下本発明の鉄線について、実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<無酸化層鉄線の製造>
素材である線材として、新日本製鉄製の線材(商品名:SWRM6、線径5.5mm)を使用した。該線材を伸線処理することにより、線径0.8mmの鉄線とした。
【0024】
前記伸線処理された線径0.8mmの鉄線を、無酸化物雰囲気下で焼鈍処理に供した。焼鈍処理は、連続熱処理炉(東南エンジニアリング社製、多本式加熱炉、連続焼鈍パイプ長8m×40本)を用いた。ガスとしては、水素ガス(Praxair社製、液体水素)と窒素ガス(Praxair社製、液体窒素)を用い、ガス分配機の設定を、水素ガスが50vol%、窒素ガスが50vol%となるように設定し、前記連続焼鈍パイプ内に充填した。炉内の処理条件は、炉内温度が710℃で、前記鉄線のパイプ内通過時間が24秒となるように設定した。前記前記連続焼鈍パイプを通過した焼鈍処理後の鉄線は、金属光沢を帯びた白色であった。以下焼鈍処理後の本鉄線を実施例1の鉄線という。
【0025】
(実施例2)
<表面処理>
実施例1の鉄線を大気中で自然冷却した後に、直ちに表面処理を行った。該表面処理は、市販の表面処理剤I(DAESUNG YONG TEC社製、商品名:PWSI-1)、及び表面処理剤II(BUM WOO CHEM社製、商品名:RUSTOP P-SV)を用いた。前記表面処理剤I、及び表面処理剤IIはいずれもSiを主成分とする酸化防止剤である。前記表面処理剤I、及び表面処理剤IIの各原液を、倍量の水に溶解し、該溶解液をスプレー式ノズルで、前記鉄線の表面にそれぞれ10回直接噴射した。以下前記表面処理剤Iを用いた鉄線を処理I鉄線、前記表面処理剤IIを用いた鉄線を処理II鉄線という。なお、処理I鉄線、及び処理II鉄線のいずれも、表面は実施例1の鉄線と同様の金属光沢を帯びた白色であった。
【0026】
(比較例1)
<従来焼鈍法鉄線の製造>
実施例1に対し焼鈍を大気雰囲気下で行った以外は、実施例と同様にして比較例1の鉄線を得た。以下本鉄線を比較例1の鉄線という。なお比較例1の鉄線は黒色であった。
【0027】
(比較例2)
<表面処理>
比較例1により得た鉄線に付いて、塩酸18%の水溶液に浸漬して、線材表面を酸洗した後に、通常の浸漬法(いわゆるドブ漬け法)により、表面に亜鉛メッキ処理を行った。以下本鉄線を亜鉛メッキ処理鉄線という。
【0028】
(調査1)
前記実施例1の鉄線、処理I鉄線、及び比較例1の鉄線について、C断面の表面を光学顕微鏡、SEM像及び組成像を用いて観察した。その結果、光学顕微鏡、SEM像及び組成像のいずれの観察においても、実施例1の鉄線、及び処理I鉄線については表面のスケールは全く認められなかった。一方、比較例1の鉄線については、光学顕微鏡、SEM像及び組成像のいずれの観察においても、1μm程度のスケールが認められた。
【0029】
(調査2)
前記実施例1の鉄線、処理I鉄線、及び比較例1の鉄線について、線表面をSEM像及び組成像を用いて観察した。その結果、SEM像及び組成像のいずれの観察においても、実施例1の鉄線は地鉄と表層で濃淡の差が無くスケールは認められなかった。処理I鉄線についてはスケールは認められなかったが、表面の濃淡がまだらとなっており、地鉄とは異なる成分の存在が認められた。一方、比較例1の鉄線については、SEM像及び組成像のいずれの観察においても、1〜3μmの酸化スケールが認められた。
【0030】
(調査3)
前記実施例1の鉄線、処理I鉄線、比較例1の鉄線、及び亜鉛メッキ鉄線の引張強度を、JISZ2241金属材料引張試験方法により測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、本発明の鉄線は、従来のなまし鉄線である比較例1の鉄線と、引張強度には大きな差は見られなかった。一方亜鉛メッキ鉄線は、本発明の鉄線に比較して引張強度が高く、使用において問題となる硬度で、脆い傾向にあった。
【0033】
(調査4)
前記実施例1の鉄線、処理I鉄線、処理II鉄線、及び比較例1の鉄線について、一定時間経過後の表面の酸化程度を観察した。各鉄線の表面をJISZ2371塩水噴霧試験方法による処理を施した後に大気中に放置し、1時間後、48時間後、96時間後の錆の発生程度を観察した。錆が全く観察されないものを0と評価し、表面の6割程度が錆で覆われたものを3と評価した。評価結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2の結果から、実施例1の鉄線は、24時間後には表面の一部に錆の発生が認められ、96時間後には6〜7割が錆で覆われた。又、比較例1の鉄線は48時間後に錆の発生が認められ、96時間後には表面の4割程度が錆で覆われた。一方、処理I鉄線、及び処理II鉄線は48時間後まではいずれも錆の発生が認められなかったが、96時間後に処理II鉄線は錆の発生が認められた。一方処理I鉄線は96時間後においても錆の発生が全く認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のなまし鉄線は、実質的に酸化鉄層を含有しないために、簡易な表面処理で十分の防錆効果を発揮する。又該表面処理が酸化防止剤による場合は、表面の色調は酸化鉄層を含まないために白色の金属色を呈し、鉄筋の結束等に用いられた場合も、容易に黒色の鉄筋等と識別することができ、土木・建築分野等での利用価値が高い。更に金属メッキを施す場合も酸洗処理が不要であり、公害問題等の発生が生じず、防錆効果も従来のなまし鉄線のメッキに比較して高く、且つ安価に製造することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が280〜400Mpaの鉄線において、該鉄線表面の酸化鉄層の厚さが0.5〜0μmであることを特徴とする鉄線。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄線に表面処理が施された鉄線。
【請求項3】
前記表面処理が、酸化防止剤の塗布である請求項2に記載の鉄線。
【請求項4】
前記酸化防止剤が、Siを含む酸化防止剤である請求項3に記載の鉄線。
【請求項5】
鉄線の製造方法において、素材の線材を伸線した後の焼鈍が、無酸化物雰囲気下で処理されることを特徴とする請求項1に記載の鉄線の製造方法。
【請求項6】
前記無酸化物雰囲気が窒素ガス及び/又は水素ガス雰囲気である請求項5に記載の鉄線の製造方法。




【公開番号】特開2007−56317(P2007−56317A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243535(P2005−243535)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(505214700)RIMA株式会社 (3)
【Fターム(参考)】