説明

酸性ガス吸収除去剤とその浄化性能再生方法さらに酸性ガス吸収処理装置または燃料電池システム

【課題】窒素酸化物・イオウ酸化物などの酸性ガスを吸収除去する長寿命の酸性ガス吸収除去剤を実現することを課題とする。
【解決手段】酸性ガス吸収除去剤は、硫酸カルシウム6と水酸化カルシウム7と活性炭8の主成分に、セルロースエーテル9を少量混合した混練成型硬化物10を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩11の水溶液に浸漬して得た組成物である。セルロースエーテル9が、セルロースの水酸基の水素原子の1部を、炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基と置換したエーテルであるため、除去性能や寿命、成型性と強度の4点を同時に満足することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物やイオウ酸化物などの酸性ガスを吸収除去する除去剤であり特に、ハニカムへの成型性が良好で強度も強く、除去性能に優れた長寿命の酸性ガス吸収除去剤と、その浄化性能再生方法さらには、酸性ガス吸収処理装置または燃料電池システムを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
窒素酸化物やイオウ酸化物などの酸性ガスを吸収除去する除去剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。従来のこの酸性ガス吸収除去剤の構成は図5に示す通りであり、101は硫酸カルシウム、102は水酸化カルシウム、103は活性炭、104は不定形炭素、105はナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩である。そして、その化合物中の硫酸根に対するナトリウムまたはカリウムの比がモル比で0.2〜2であり、かつ硫酸カルシウムの原料中に配合割合が15〜40重量%であるとしている。また、結合剤として用いる不定形炭素104は、セルロース誘導体としており例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロースを用いている。
【0003】
類似組成の酸性ガス吸収除去剤は、他にもあり結合剤として用いている不定形炭素は、非イオン性の水溶性セルロースエーテルとしている(例えば、特許文献2参照)。また、類似組成の酸性ガス吸収除去剤として、アルカリ金属またはアルカリ金属土類金属の水酸化物や炭酸塩などのアルカリと、硫酸カルシウムなどのセメント材と、粉末活性炭からなる混練成型硬化物が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、ポルトランドセメントなどのセメントの100重量部に、水溶性セルロースエーテル2〜5重量部を含有させたハニカム成型物が知られている(例えば、特許文献4参照)。セルロースエーテルは、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースが例示されている。また、セルロースエーテルは、いずれもセメント中で充分に溶解してその特性を発現できる水溶性とし、その粘度が8万cps以上、混合量がセメント100重量部に対して2〜5重量部とした。
【特許文献1】特許第2778031号公報
【特許文献2】特開2004−230322号公報
【特許文献3】特開昭52−123987号公報
【特許文献4】特開平6−166555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の酸性ガス吸収除去剤は、ハニカムへの成型性やその強度、酸性ガスの除去性能や寿命がいずれも良好であるが、その更なる特性向上が求められていた。これら特性を向上するには、結合剤の選定が重要であり、従来の酸性ガス吸収除去剤で使用される結合剤は、セルロース誘導体や非イオン性の水溶性セルロースエーテルなどの不定形炭素であった。これら汎用のセルロース系結合剤は、ハニカムへの成型性と強度、酸性ガスの除去性能や寿命の4点を同時に満足することができず、どちらかといえば酸性ガスの除去性能や寿命を優先して、成型性と強度が充分でない課題があった。
【0006】
これは、酸性ガスの除去性能や寿命を向上させるためには、セルロースエーテルの混合量を低下しなければならず、そうすると成型性と強度が低下するためである。このように、従来のセルロース誘導体や水溶性セルロースエーテルという汎用の結合剤は、硫酸カルシウムと水酸化カルシウムと活性炭を主成分とする混練成型硬化物においては、酸性ガスの除去性能および寿命と、成型性と強度が相反現象となっていた。この原因は、従来例に記載されているメチルセルロースやエチルセルロースなどの汎用セルロースエーテルは、酸性ガスの除去に関する効果を有していないことと、混練成型物を構成する硫酸カルシウムの硬化にともなう体積膨張を緩和できないことに起因する。
【0007】
セルロースエーテルは、セルロース[C672(OH)3]nの水酸基(−OH)の水素原子を、アルキル基などの相手基と反応させて置換した有機物であり、エーテル結合(R−O−R′、RはセルロースのC672基、R′は相手置換基)で構成される。これの骨格となっているセルロースは、植物性繊維の主成分であり木材や綿衣類などに多用されているが、水分保有性に優れる理由と、縦横周囲などの3方向の膨張率が異なる理由のため、乾燥にともなう水分の抜けで、強度低下やクラックが発生し易い。
【0008】
セルロースエーテルは、セルロースのこの性質を保有しているので、多量に使用すると乾燥にともなう水分の抜けで強度低下やクラックが発生し易いが、少量に使用する範囲においては成型性と強度が向上する利点がある。従って、従来例に記載されている汎用のセルロースエーテルをセメントの結合剤として用いる場合、この強度低下防止やクラック発生防止に工夫が必要となり、従来例の特許文献4は、セルロースエーテルの粘度の適量化と混合量の少量化という工夫を施していた。
【0009】
酸性ガス吸収除去剤は、セメントとして、硬化により体積膨張する硫酸カルシウムを多量使用しているので、強度低下防止やクラックの発生防止にさらなる工夫を要する。従来例に記載されている汎用のセルロースエーテルは、酸性ガス吸収除去剤の結合剤として混合する場合、成型性と強度を向上させる程度の少量レベルしか混合できない。しかしながら、その混合量は少量レベルにおいても適量があり、適量より多く混合させると、成型性と強度は向上するが酸性ガスの除去性能や寿命を低下させ、逆に適量より少なく混合させると、成型性と強度が低下し、酸性ガスの除去性能や寿命を向上させる。従って、従来例に記載されている汎用のセルロースエーテルを結合剤として使用する範囲においては、混合量の調整では限界があり、成型性と強度、酸性ガスの除去性能と寿命の4点を同時満足という課題を解決できなかった。そこで、従来は、酸性ガスの除去性能や寿命を向上させるためには、セルロースエーテルの混合量を低下しなければならず、そうすると成型性と強度が低下していた。
【0010】
本発明は、前記する従来のセルロース系結合剤の相反問題を解決するために、セルロースエーテルのエーテル相手置換基を、酸性ガスの除去に関する効果と、セメントである硫酸カルシウムの硬化による体積膨張との関係で、詳細に検討してその組成を最適化することで、成型性と強度さらには酸性ガスの除去性能と寿命が一層優れる酸性ガス吸収除去剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、硫酸カルシウムと水酸化カルシウムと活性炭の主成分にセルロースエーテルを少量混合した混練成型硬化物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩の水溶液に浸漬して得た組成物である。そして、セルロースエーテルは、セルロースの水酸基の水素原子の1部を、炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基と置換したエーテルであるとした。
【0012】
本発明で使用するセルロースエーテルは、セルロースの水酸基の水素原子の1部を、炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基と置換したエーテルである。このセルロースエーテルは、セルロース[C672(OH)3]nの3個の水酸基(−OH)の内、一部が相手置換基と反応して得られるエーテル結合(R−O−R′、RはセルロースのC672基、R′は相手置換基)で構成され、残りがセルロースC672(OH)3で構成された有機高分子樹脂となっている。このため、次の4つの利点を有する。
【0013】
この組成物は、極性を持つ水酸基(−OH)が1部ながらも残存しているセルロースエーテルが含まれているため、極性を持つ窒素酸化物やイオウ酸化物などの酸性ガスと接触すると、酸性ガスを親和して取り込む作用がある。極性とは、分子内で正電荷と負電荷の偏りが有る性質のことであり、極性を持つ化合物同士は親和して相手を取り込む作用がある。この作用のため、この組成物は、酸性ガスを親和して取り込み、その除去性能と寿命を向上させる。
【0014】
しかも、このセルロースエーテルの相手置換基は、アルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基である。アルキル基は電子供与基、アルキル基のカルボキシル基は電子吸引基、アルキル基のヒドロキシル基は極性に関与する基である。このため、これらの数や組成配合を変化させ最適化すると、ベースとなっているセルロースC672基の電子分布が変化して、セルロースエーテルの極性をさらに強く調整して保水性が高まる。この高い保水性は、組成物を構成する水酸化カルシウムや水酸化カリウム等のアルカリと、酸性ガスとの親和力を高め、さらには1部ながらも残存している水酸基(−OH)の極性効果とあいまって、その除去性能と寿命を一層大きく向上させる。
【0015】
一方、このセルロースエーテルは、その相手置換基が炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基である。相手置換基が炭素数1〜3であり、セルロースC672基の炭素数6と比較して、相手置換基の炭素数が半分以下と小さいため、ベースとなっているセルロースC672基の性質が残存している。そのため、この組成のセルロースエーテルは、セルロースC672基の持つ強靭な結合力が維持されて優れた結合剤となり、この有機高分子樹脂が含まれている組成物は高い強度をもつ。また、この組成のセルロースエーテルは、分子量がセルロースより大きくなり、このことで、分子が動きにくくなっている。分子の動き難さのため、この組成のセルロースエーテルは、混練成型物を構成する硫酸カルシウムの硬化にともなう体積膨張を緩和できる効果が生じ、成型が良好にできる。硫酸カルシウムと併用すると成型が良好にできる理由は、硫酸カルシウムの微細結晶が、硬化して水に不溶性で化学的に安定な有機高分子樹脂となったセルロースエーテルの分子間隙間に、食い込んで一体化するためと思われる。
【0016】
加えて、この組成のセルロースエーテルは、熱水に不溶性であり、100℃近辺で乾燥させると硬化して、水に不溶性で化学的に安定な有機高分子樹脂となる。そのため、これが含まれている混練成型硬化物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩のアルカリ水溶液に浸漬しても分解しにくい。このため、こうして得た組成物は、一層高い強度を長期間維持できる。
【0017】
またさらに、長期間使用して窒素酸化物やイオウ酸化物などの酸性ガスを多量吸収して寿命となった寿命往生品を、熱水に浸漬して硝酸塩や硫酸塩を溶解させ、再び前述の水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液に浸漬して得た再生組成品も、この組成のセルロースエーテルの上記の4つの利点により、優れた酸性ガスの除去性能と寿命さらに強度の酸性ガス吸収除去剤となる。
【0018】
本発明は、この組成のセルロースエーテルの上記の4つの利点により、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点を同時に満足する酸性ガス吸収除去剤を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、高強度品を歩留り良く成型されしかも窒素酸化物やイオウ酸化物、などの酸性ガスを長期間高性能で吸収除去できる酸性ガス吸収除去剤を提供できる。また、その再生も簡単にできる。
【0020】
また、この酸性ガス吸収除去剤を、ニ酸化窒素もしくはニ酸化イオウを含有する気体が流れる気体流路に配置した処理装置とすると、−20〜120℃温度雰囲気で優れた酸性ガス吸収容量を有する酸性ガス吸収処理装置が実現できる。さらに、酸性ガス吸収除去剤を、イオン伝導性電解質膜の片面に形成した空気極に、空気を供給する空気流路に配置した燃料電池システムとすると、二酸化イオウガスを除去された空気が空気極に供給され、燃料電池システムの電解質および電極が二酸化イオウガスによって劣化することが抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、各請求項に記載した形態で実施することができる。
【0022】
第1の発明の酸性ガス吸収除去剤は、硫酸カルシウムと水酸化カルシウムと活性炭の主成分にセルロースエーテルを少量混合した混練成型硬化物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩の水溶液に浸漬して得た組成物であり、前記セルロースエーテルは、セルロースとのエーテル結合が部分的に構成されており、その相手置換基は炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基であるとした。
【0023】
本発明で使用するセルロースエーテルは、セルロースの水酸基の水素原子の1部を、炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基と置換したエーテルである。このセルロースエーテルは、セルロース[C672(OH)3]nの3個の水酸基(−OH)の内、一部が相手置換基と反応して得られるエーテル結合(R−O−R′、RはセルロースのC672基、R′は相手置換基)で構成され、残りがセルロースC672(OH)3で構成された有機高分子樹脂となっている。
【0024】
この組成物は、極性の水酸基(−OH)が1部ながらも残存しているセルロースエーテルが含まれているため、酸性ガスを親和して取り込み、その除去と寿命の特性を向上させる。しかも、このセルロースエーテルの相手置換基は、炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基である。この相手置換基は、セルロースエーテルの極性をさらに強く調整して保水性を高める。この高い保水性は、組成物を構成する水酸化カルシウムや水酸化カリウム等のアルカリと、酸性ガスとの親和力を高め、1部ながらも残存している水酸基(−OH)の極性効果とあいまって、酸性ガスをさらに親和して取り込み、その除去と寿命の特性を一層向上させる。
【0025】
一方、この組成のセルロースエーテルは、その相手置換基が炭素数1〜3のであり、セルロースC672基の炭素数6と比較して相手置換基の炭素数が半分以下と小さいため、強靭な結合力が維持されて優れた結合剤となり、組成物は高い強度をもつ。また、この組成のセルロースエーテルは、分子量がセルロースより幾分か大きくなり、このことで、分子が動きにくくなっている。このため、混練成型物を構成する硫酸カルシウムの硬化にともなう体積膨張を緩和できる効果が生じて、成型が良好となる。硫酸カルシウムと併用すると成型が良好となる理由は、硫酸カルシウムの微細結晶が、硬化して水に不溶性で化学的に安定な有機高分子樹脂となったセルロースエーテルの分子間隙間に、食い込んで一体化するためと思われる。
【0026】
加えて、この組成のセルロースエーテルは、熱水に不溶性であり、100℃近辺で乾燥させると硬化して、水に不溶性で化学的に安定な有機高分子樹脂となる。そのため、これが含まれている混練成型硬化物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩のアルカリ水溶液に浸漬しても分解しにくい。このため、こうして得た組成物は、一層高い強度を長期間維持できる。
【0027】
また、この組成のセルロースエーテルの上記の利点により、寿命往生品を、熱水に浸漬して硝酸塩や硫酸塩を溶解させ、再び前述の水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液に浸漬して得た再生組成品は、優れた酸性ガスの除去性能と寿命さらに強度の酸性ガス吸収除去剤となる。
【0028】
このようにして、この組成物は、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点を同時に満足することができる。
【0029】
第2の発明の酸性ガス吸収除去剤は、特に第1の発明で使用するセルロースエーテルを、セルロースとエーテル結合した相手置換基との置換度が0.5〜2.5であるものとした。
【0030】
セルロースとエーテル結合した相手置換基との置換度が0.5〜2.5であると、3個の水酸基(−OH)の内、3個からこの置換度を差引いた個数の2.5〜0.5が水酸基(−OH)を持つ。このため、この有機高分子樹脂が含まれている組成物は、酸性ガスをさらに一層親和して取り込み、その除去と寿命の特性をさらに一層向上させることができる。また同時に、成型性と強度も向上する。
【0031】
第3の発明の酸性ガス吸収除去剤は、特に第1の発明で使用するセルロースエーテルを、セルロースとエーテル結合した相手置換基が、メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基であるものとした。
【0032】
セルロースとエーテル結合した相手置換基が、メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基であると、ベースとなっているセルロースC672基の電子分布が変化して、セルロースエーテルの極性がさらに強くなる。このことは、水酸基(−OH)の極性効果とあいまって、この有機高分子樹脂が含まれている組成物は、酸性ガスをさらに一層親和して取り込み、その除去と寿命の特性をさらに一層向上させる。また同時に、成型性と強度も向上する。
【0033】
第4の発明の酸性ガス吸収除去剤は、特に第1の発明で使用するセルロースエーテルを、セルロースとエーテル結合した相手置換基の置換度が1.5〜2.5であり、メチル基を主成分として、ヒドロキシプロピル基が小量含まれているものとした。
【0034】
セルロースとエーテル結合した相手置換基との置換度が1.5〜2.5であると、3個の水酸基(−OH)の内、3個からこの置換度を差引いた個数の1.5〜0.5が水酸基(−OH)を持つ。さらに、相手置換基がメチル基を主成分としてヒドロキシプロピル基が小量含まれていると、ベースとなっているセルロースC672基の電子分布が変化して、セルロースエーテルの極性がさらに強くなる。このことは、水酸基(−OH)の極性効果とあいまって、この有機高分子樹脂が含まれている組成物は、酸性ガスをさらに一層親和して取り込み、その除去と寿命の特性をさらに一層向上させる。さらに成型性も一層向上する。
【0035】
また、このセルロースエーテルは、化学的に一層安定な有機高分子樹脂でありこれが含まれている混練成型硬化物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩のアルカリ水溶液に浸漬しても、さらに分解し難いので、こうして得た組成物は、さらに一層高い強度を維持できるとともに、製造作業性も良好となる。さらに加えて、寿命往生品を、熱水に浸漬して硝酸塩や硫酸塩を溶解させ、再び前述の水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液に浸漬して得た再生組成品は、一層優れた酸性ガスの除去性能と寿命さらに強度の酸性ガス吸収除去剤となる。このため、この作業を繰り返すことで、何回でも繰り返して使用でき、一層長寿命となる。
【0036】
第5の発明の酸性ガス吸収除去剤は、特に第1の発明で使用する混練成型硬化物が、硫酸カルシウムが2水塩として18〜24重量%、水酸化カルシウムが44〜54重量%、活性炭が22〜27重量%、セルロースエーテルが4.9〜6.1重量%混合した混合成型硬化物であるとした。
【0037】
これら原材料を混合して全量合計を100重量%とした混合成型硬化物は、混練成型硬化物の組成を最適化しているので、セルロースエーテルの効果とあいまって酸性ガス寿命特性と強度の両方が一層優れる酸性ガス吸収除去剤が得られる。また同時に、成型性と強度も向上する。
【0038】
第6の発明の酸性ガス吸収除去剤は、特に第1の発明で使用する混練成型硬化物を、水酸化カリウムの水溶液に浸漬して得た組成物であるとした。混練成型硬化物と添着水溶液の組成を最適化しているので、セルロースエーテルの効果とあいまって酸性ガス寿命特性が一層優れる酸性ガス吸収除去剤が得られる。
【0039】
第7の発明の酸性ガス吸収除去剤は、第1〜6の発明の酸性ガス吸収除去剤を長時間使用し、酸性ガス除去性能が低下した該酸性ガス吸収除去剤について水洗浄し、十分に乾燥させた後、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩の水溶液に浸漬することにより、該酸性ガス吸収除去剤の活性を回復させるものである。これにより、長期にわたり使用し続け酸性ガス除去性能が低下した酸性ガス吸収除去剤の酸性ガス浄化性能を回復させることができ、繰り返し何度も使用可能であるため長期間高い酸性ガス除去性能を保つことができる。
【0040】
第8の発明の酸性ガス吸収処理装置は、第1〜6のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収除去剤を、二酸化窒素もしくは二酸化イオウを含有する気体が流れる気体流路に配置した処理装置であり、前記酸性ガス吸収除去剤は、−20〜120℃の雰囲気温度で接触させることにより気体中の前記酸性ガスを除去する処理装置とした。
【0041】
酸性ガス吸収除去剤は、温度−20〜120℃雰囲気という最適温度に保持されているため、優れた酸性ガス吸収容量を有する。この組成のセルロースエーテルは、ガラス転移点(この温度以下では、有機高分子の分子の動きが著しく低下する境界温度のこと)が−20℃である。酸性ガス吸収除去剤は、このガラス転移点−20℃以上の雰囲気温度で使用されるため、分子が自由に動くことができ、この組成のセルロースエーテルのもつ優れた利点が効果的に発揮される。しかもまた、酸性ガス吸収除去剤は、120℃を超えない温度雰囲気に配置しているので、その構成成分である硫酸カルシウムが脱水して体積膨張することや、この組成のセルロースエーテルが熱分解することが抑制され、寿命が低下することがない。その結果、酸性ガスの除去性能や寿命を満足することができる酸性ガス吸収処理装置が得られる。
【0042】
第9の発明は、特に第8の発明で使用する酸性ガス吸収処理装置を、自動車トンネル排ガスまたは自動車道路沿道大気を浄化する装置に適用した。自動車トンネル排ガスや自動車道路沿道大気は、自動車排気ガスに含まれる水分により、一般環境より相対湿度が高く、窒素酸化物や硫黄酸化物の浄化性能が向上する利点がある。このため、自動車トンネル排ガスまたは自動車道路沿道大気中に含まれる窒素酸化物や硫黄酸化物を長時間にわたり吸収除去することができる。
【0043】
第10の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収除去剤を、イオン伝導性電解質膜の片面に形成した空気極に空気を供給する空気流路に配置した燃料電池システムとした。
【0044】
酸性ガス吸収除去剤を空気流路中に配置することにより、二酸化イオウガスを除去された空気が空気極に供給され、燃料電池システムの電解質および電極が二酸化イオウガスによって劣化することが抑制される。また、アルカリ材が混合された酸性ガス吸収除去剤を空気と接触させることで、弱アルカリ性を帯びた空気が、イオン伝導性電解質膜に接触し、このことで電解質が弱アルカリ性して劣化が抑制される効果が生じる。
【0045】
第11の発明は、請求項10記載の燃料電池システムにおいて、フッ化炭素の主鎖に側鎖としてプロトン供与性のスルホン基が付いた高分子系の水素イオン伝導性電解質膜の片面に形成した空気極に空気を供給する空気流路に、水分を加湿する加湿手段を配置し、前記加湿手段の上流側に酸性ガス吸収除去剤を配置した構成とした。
【0046】
アルカリ材が混合された酸性ガス吸収除去剤を空気と接触させることで、弱アルカリ性を帯びた加湿空気が、水素イオンを伝導させるために酸性となった高分子系の水素イオン伝導性電解質膜に接触し、このことで電解質が中性化して劣化が一層抑制される効果が生じる。
【0047】
(実施の形態1)
図1は本発明の酸性ガス吸収除去剤の構成図である。この酸性ガス吸収除去剤は、硫酸カルシウム6と水酸化カルシウム7と活性炭8の主成分に、セルロースエーテル9を少量混合した混練成型硬化物10を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩11の水溶液に浸漬して得た組成物である。
【0048】
本発明で使用するセルロースエーテルは、セルロースの水酸基の水素原子の1部を、炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基と置換したエーテルである。このセルロースエーテルは、セルロース[C672(OH)3]nの3個の水酸基(−OH)の内、一部が相手置換基と反応して得られるエーテル結合(R−O−R′、RはセルロースのC672基、R′は相手置換基)で構成され、残りがセルロースC672(OH)3で構成された有機高分子樹脂となっている。
【0049】
この組成物は、極性の水酸基(−OH)を有するセルロースエーテルが含まれているため、酸性ガスを親和して取り込み、その除去と寿命の特性を向上させる。しかも、このセルロースエーテルの相手置換基は、極性をさらに強めることができるので保水性を高め、水酸基(−OH)の極性効果とあいまって、酸性ガスをさらに親和して取り込み、その除去と寿命の特性を一層向上させる。
【0050】
一方、この組成のセルロースエーテルは、その相手置換基が炭素数1〜3のであり、セルロースC672基の炭素数6と比較して相手置換基の炭素数が半分以下と小さいため、強靭な結合力が維持されて優れた結合剤となり、組成物は高い強度をもつ。また、この組成のセルロースエーテルは、分子量がセルロースより幾分か大きくなり、このことで、分子が動きにくくなっている。このため、混練成型物を構成する硫酸カルシウムの硬化にともなう体積膨張を緩和できる効果が生じて、成型が良好となる。加えて、セルロースエーテルは、化学的に安定な有機高分子樹脂でありこれが含まれている混練成型硬化物を、ナトリウムまたはリウムの水酸化物または炭酸塩のアルカリ水溶液に浸漬しても、分解しにくい。このため、こうして得た組成物は、一層高い強度を維持できる。また、この性質を有するので、寿命往生品を、熱水に浸漬して硝酸塩や硫酸塩を溶解させ、再び前述の水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液に浸漬して得た再生組成品は、優れた酸性ガスの除去性能と寿命さらに強度の酸性ガス吸収除去剤となる。
【0051】
このようにして、この組成物は、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点を同時に満足することができる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
以下、実施例を基に詳細に説明する。混練成型硬化物は、硫酸カルシウムが2水塩として21重量%、水酸化カルシウムが49重量%、活性炭が25重量%、セルロースエーテルが5重量%混合した混合成型硬化物であり、この混練成型硬化物を、水酸化カリウムの水溶液に浸漬して得た組成物である。これを用いて、効果を判定した結果を(表1)、(表2)、(表3)、(表4)に示す。
【0053】
(表1)は、セルロースとエーテル結合した相手置換基の主成分がメチル基のセルロースエーテルを使用した酸性ガス吸収除去剤であり、置換度を変更して比較している。(表2)は、セルロースとエーテル結合した相手置換基の主成分がエチル基のセルロースエーテルを使用した酸性ガス吸収除去剤であり、置換度を変更して比較している。(表3)は、セルロースとエーテル結合した相手置換基の置換度を2として、置換基を種々変更したセルロースエーテルを使用した酸性ガス吸収除去剤の比較である。(表4)は、従来例に記載されているメチルセルロースやエチルセルロースの汎用セルロースエーテルを使用した酸性ガス吸収除去剤である。
【0054】
効果の判定は、(表4)に記載した従来例を基準しておこなった。検討品が、従来例と同等の効果が得られた場合は、やや良好として△を記載している。従来例と比較して効果が向上している場合は、良好として○を記載している。従来例と比較して優れた効果が得られた場合は、優れるとして◎〜○を記載している。従来例と比較して極めて優れた効果が得られた場合は極めて優れるとして◎を記載している。
【0055】
置換度は、セルロース[C672(OH)3]nの3個の水酸基(−OH)の内、相手置換基と反応して得られるエーテル結合(R−O−R′、RはセルロースのC672基、R′は相手置換基)の数であり、3から置換度を差し引いた数はセルロースC672(OH)3で構成される数である。本発明品は、置換度が0.5〜2.5のセルロースエーテルを使用した酸性ガス吸収除去剤である。炭素数1〜3のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基を使用している。炭素数1〜3のヒドロキシル基は、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基を使用している。炭素数1〜3のカルボキシル基は、カルボキシルメチル基、カルボキシルエチル基を使用している。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
置換度が0.5〜2.5のセルロースエーテルを使用した本発明品は、置換度が0または3.0のセルロースエーテルを使用した比較品や、従来例に記載されているメチルセルロースやエチルセルロースの汎用セルロースエーテルを使用した従来品と比較して、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点が優れていることがわかる。
【0061】
混練成型硬化物の組成について検討をおこなった。その結果、混練成型硬化物は、硫酸カルシウムが2水塩として12〜30重量%、水酸化カルシウムが残部、活性炭が15〜35重量%、セルロースエーテルが1〜8重量%混合した混合成型硬化物であり、且つこの混練成型硬化物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩の水溶液に浸漬して得た組成物であると、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点において、汎用セルロースエーテルを使用した従来品と比較して良好な効果が得られた。これらの検討結果は、(表1)〜(表4)の結果と類似の挙動であった。
【0062】
また、この混練成型硬化物は、窒素ガス中や真空中などの低酸素雰囲気(酸素濃度が3%以下)において350℃で数10分程度の短時間保持しても、セルロースエーテルはこの構造を有することで分解しにくくなっていた。これらの検討結果は、(表1)〜(表4)の結果と類似の挙動であり、良好な酸性ガス除去性能や寿命、成型性と強度の4点を同時に満足することができた。
【0063】
(実施例2)
第2実施例は、セルロースとエーテル結合する相手置換基の置換度について詳細に検討した。その検討結果を、前述の(表1)〜(表3)に示す。
【0064】
置換度が0.5〜2.5のセルロースエーテルを使用した本発明品は、置換度が0または3.0のセルロースエーテルを使用した比較品と比較して、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点が優れていることがわかる。この結果より、セルロースとエーテル結合する相手置換基との置換度は、0.5〜2.5であるとした。
【0065】
(実施例3)
第3実施例は、セルロースとエーテル結合する相手置換基の種類について詳細に検討した。その検討結果を、前述の(表3)に示す。
【0066】
(表3)は、セルロースとエーテル結合した相手置換基の置換度を2として、置換基を種々変更した酸性ガス吸収除去剤の比較した結果である。相手置換基がメチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基とした場合、他の置換基と比べて除去性能、寿命、成型性、強度の4点が優れていることがわかる。この理由は、セルロースとエーテル結合した相手置換基が、メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基であると、ベースとなっているセルロースC672基の電子分布が変化して、セルロースエーテルの極性がさらに強くなるためと思われる。この結果より、セルロースとエーテル結合する相手置換基は、メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基であるとした。
【0067】
(実施例4)
第4実施例は、セルロースとエーテル結合する相手置換基の置換度とその種類についてさらに詳細に検討した。その検討結果を、前述の(表1)に示す。セルロースとエーテル結合した相手置換基の置換度が1.5〜2.5であり、メチル基を主成分としてヒドロキシプロピル基が小量含まれている本発明品は、他の置換度の物と比較して、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点が優れていることがわかる。
【0068】
セルロースとエーテル結合した相手置換基との置換度が1.5〜2.5であると、3個の水酸基(−OH)の内、3個からこの置換度を差し引いた個数の1.5〜0.5が水酸基(−OH)を持つ。さらに、相手置換基がメチル基を主成分としてヒドロキシプロピル基が小量含まれていると、ベースとなっているセルロースC672基の電子分布が変化して、セルロースエーテルの極性がさらに強くなる。このことは、水酸基(−OH)の極性効果とあいまって、この有機高分子樹脂が含まれている組成物の除去と寿命の特性および成型性と強度を、さらに一層向上させていると思われる。この結果より、セルロースとエーテル結合する相手置換基の置換度は1.5〜2.5であり、相手置換基はメチル基を主成分としてヒドロキシプロピル基が小量含まれているとした。
【0069】
また、このセルロースエーテルは、化学的に一層安定な有機高分子樹脂でありこれが含まれている混練成型硬化物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩のアルカリ水溶液に浸漬しても、さらに分解し難いので、こうして得た組成物は、さらに一層高い強度を維持できるとともに、製造作業性も良好となる。さらに加えて、寿命往生品を、熱水に浸漬して硝酸塩や硫酸塩を溶解させ、再び前述の水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液に浸漬して得た再生組成品は、一層優れた酸性ガスの除去性能と寿命さらに強度の酸性ガス吸収除去剤となる。このため、この作業を繰り返すことで、何回でも繰り返して使用でき、一層長寿命となった。
【0070】
(実施例5)
第5実施例は、混練成型硬化物の組成についてさらに詳細に検討した。その結果、硫酸カルシウムが2水塩として18〜24重量%、水酸化カルシウムが44〜54重量%、活性炭が22〜27重量%、セルロースエーテルが4.9〜6.1重量%として混合し、全量合計を100重量%とした混合成型硬化物とすると、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点が極めて優れている酸性ガス吸収除去剤が得られた。
【0071】
(実施例6)
第6実施例は、混練成型物を熱処理した後に、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物もしくは炭酸塩の水溶液に浸漬される方法について検討した。
【0072】
酸性ガス吸収除去剤で使用する混練成型硬化物は、実施例5の通りである。即ち、活性炭と水酸化カルシウムと硫酸カルシウムとセルロースエーテルの組成物(実施例5の配合比、実施例4のセルロースエーテル組成)を、水とともに混合して混練してハニカム状に押出成型し物である。組成物(I)は乾燥品である。組成物(II)は、乾燥後にこのハニカム成型品を酸素濃度3%以下の低酸素ガス雰囲気中300℃で焼成して硬化させたものである。また、使用するセルロースエーテルは、セルロースとエーテル結合した相手置換基の置換度が1.5〜2.5であり、メチル基を主成分として、ヒドロキシプロピル基が小量含まれているものである。
【0073】
この混練成型硬化物に、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物もしくは炭酸塩の水溶液を浸漬した酸性ガス吸収除去剤の二酸化窒素ガス吸収容量を(表5)に示す。
【0074】
【表5】

【0075】
熱処理した混練成型物に、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物もしくは炭酸塩の水溶液を浸漬した酸性ガス吸収除去剤は、セルロースエーテルの効果とあいまって、二酸化窒素ガス吸収容量が大きいことがわかる。また、酸性ガス吸収除去剤は、特に混練成型硬化物を、水酸化カリウムの水溶液に浸漬して得た組成物であると、混練成型硬化物と添着水溶液の組成が最適化されているので、酸性ガス寿命特性が一層優れる酸性ガス吸収除去剤が得られる。
【0076】
なお、従来例に記載されているメチルセルロースやエチルセルロースの汎用セルロースエーテルを使用した酸性ガス吸収除去剤の場合、二酸化窒素ガス吸収容量は、水酸化カリウムの水溶液に浸漬して得た組成物であっても、30mgであった。本発明品、従来例と比較しても酸性ガス寿命特性が極めて優れることがわかる。
【0077】
また、実施例1のように、硫酸カルシウムが2水塩として12〜30重量%、水酸化カルシウムが残部、活性炭が15〜35重量%、セルロースエーテルが1〜8重量%混合した混合成型硬化物であり、(表1)〜(表3)記載の本発明のセルロースエーテル組成であっても、酸性ガス寿命特性が一層優れる酸性ガス吸収除去剤が得られた。
【0078】
(実施例7)
第7実施例の酸性ガス吸収除去剤は、第1〜6実施例に記載の酸性ガス吸収除去剤を長時間使用し、酸性ガス除去性能が低下した該酸性ガス吸収除去剤について水洗浄し、十分に乾燥させた後、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩の水溶液に浸漬することにより、該酸性ガス吸収除去剤の活性を回復させるものである。これにより、長期にわたり使用し続け酸性ガス除去性能が低下した酸性ガス吸収除去剤の酸性ガス浄化性能を回復させることができ、繰り返し何度も使用可能であるため長期間高い酸性ガス除去性能を保つことができる。
【0079】
(実施例8)
第8実施例は、実施例1〜6のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収除去剤を、二酸化窒素もしくは二酸化イオウを含有する気体が流れる気体流路に配置した処理装置である。この酸性ガス吸収除去剤は、−20〜120℃の雰囲気温度で接触させることにより気体中の酸性ガスを除去する酸性ガス吸収処理装置とした。
【0080】
実施例8の構成図とその効果特性図を図2に示す。図2(a)は、酸性ガス吸収処理装置の構成図であり、図2(b)は雰囲気温度とこれら酸性ガス吸収容量の関係図である。酸性ガス吸収除去剤12を、二酸化窒素もしくは二酸化イオウを含有した気体が流れる気体流路13に配置して接触させることにより、気体中のこれら酸性ガスを除去する酸性ガス吸収処理装置14としている。
【0081】
使用した酸性ガス吸収除去剤は、実施例6の材料と製法を使用した。即ち、活性炭と水酸化カルシウムと硫酸カルシウムとセルロースエーテルの組成物(実施例5の配合比、実施例4のセルロースエーテル組成)を、水とともに混合して混練してハニカム状に押出成型し、乾燥後にこのハニカム成型品を減酸素ガス雰囲気中300℃で焼成して硬化させたものを、水酸化カリウム水溶液に浸漬することに得ている。
【0082】
酸性ガス吸収除去剤は、温度−20〜120℃雰囲気で気体と接触させることにより、気体中の二酸化窒素ガスや二酸化イオウガスを効果的に吸収除去することがわかる。本発明組成のセルロースエーテルは、ガラス転移点(この温度以下では、有機高分子の分子の動きが著しく低下する境界温度のこと)が−20℃である。酸性ガス吸収除去剤は、このガラス転移点−20℃以上の雰囲気温度で使用されるため、分子が自由に動くことができ、この組成のセルロースエーテルのもつ優れた利点が効果的に発揮され、寿命が低下することがない。またさらに、120℃を超えない温度雰囲気に配置しているので、その構成成分である硫酸カルシウムが脱水して体積膨張することやセルロースエーテルが熱分解することが抑制され、結果として寿命が低下することがない。一方、−20℃未満だと温度が低いので酸性ガスが充分に吸収除去されないし、120℃を超えると温度が高いので酸性ガス吸収除去剤が熱劣化して酸性ガスが吸収除去されないので、酸性ガス吸収容量の低下が行った。なお、この結果は、実施例1〜実施例6で製造した他材料組成でも同様であった。
【0083】
またこれ以後、実施例8〜実施例11における酸性ガス吸収除去剤の効果検証結果は、活性炭と水酸化カルシウムと硫酸カルシウムとセルロースエーテルの組成物が、実施例5の配合比で実施例4のセルロースエーテル組成で効果確認実験をおこなった結果を記載している。これは、この結果が、実施例1〜実施例6に記載した他実施形態の材料組成で製造した酸性ガス吸収除去剤の場合と、類似の結果であったためであり、これら他実施形態の材料組成でも同様の結果が得られる。ちなみに、この他実施形態の酸性ガス吸収除去剤は、硫酸カルシウム2水塩が12〜30重量%、水酸化カルシウムが残部、活性炭が15〜35重量%、セルロースエーテルが1〜8重量%を混合した物であり、(表1)〜(表3)記載のセルロースエーテル組成とした混合成型硬化物物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物もしくは炭酸塩の水溶液を浸漬した酸性ガス吸収除去剤である。
【0084】
(実施例9)
第9実施低は、特に特に第8実施例で使用する酸性ガス吸収処理装置を、自動車トンネル排ガスまたは自動車道路沿道大気を浄化する装置に適用した。自動車トンネル排ガスや自動車道路沿道大気は、自動車排気ガスに含まれる水分により、一般環境より相対湿度が高く、窒素酸化物や硫黄酸化物の浄化性能が向上する利点がある。このため、自動車トンネル排ガスまたは自動車道路沿道大気中に含まれる窒素酸化物や硫黄酸化物を長時間にわたり吸収除去することができる。
【0085】
(実施例10)
第10実施例は、酸性ガス吸収除去剤を燃料電池システムに応用した際の効果を検討した。図3は、その構成図である。燃料電池システム15は、水素イオンを伝導するイオン伝導性電解質膜16の片面に形成した空気極に空気を供給する空気流路18の入口に、酸性ガス吸収除去剤12が配置されている。空気に混入している二酸化イオウガスは、酸性ガス吸収除去剤12により吸収除去されて綺麗な空気となって空気極17と接触し、空気出口から排出される。一方、水素イオン伝導性電解質膜の反対面には、燃料極19が形成されており、水素供給手段20から供給される水素による電池反応で、電圧が発生する様にしている。
【0086】
酸性ガス吸収除去剤は、実施例5で製造した材料を使用した。即ち、活性炭と水酸化カルシウムと硫酸カルシウムとセルロースエーテルの組成物(実施例5の配合比、実施例4のセルロースエーテル組成)を、水とともに混合して混練してハニカム状に押出成型し、乾燥後にこのハニカム成型品を減酸素ガス雰囲気中300℃で焼成して硬化させたものを、水酸化カリウム水溶液に浸漬することに得ている。
【0087】
二酸化イオウガス100ppmを混合した空気を流入した際の流入初期電圧値と3時間流入後電圧値を測定し、この値から3時間電圧値の初期電圧値に対する低下率を算出した。(表6)は、その検討結果である。
【0088】
本発明1は、フッ化炭素の主鎖に側鎖としてプロトン供与性のスルホン基が付いた高分子系の水素イオン伝導性電解質膜に、カーボンブラックに触媒の白金粒子を担持した構成の燃料極および空気極の電極を使用した80℃動作タイプである。
【0089】
本発明2は、安定化ジルコニアからなる金属酸化物系の酸素イオン伝導性電解質膜に、Sr置換したLaMnO3からなる金属酸化物系の燃料極および白金の空気極を使用した700℃動作タイプである。なお、この燃料電池システムは、水素でなく都市ガスを燃料とするタイプである。
【0090】
比較例として酸性ガス吸収除去剤を配置していないタイプ、参考例として酸性ガス吸収除去剤として活性炭を配置したタイプも同時に評価した。これら酸性ガス吸収除去剤は、二酸化イオウガス100ppmを3時間流入してもその除去率が100%を維持する様に、その使用量を適正化している。
【0091】
【表6】

【0092】
本発明は、燃料電池システムの電解質および電極の材質に関わらず、酸性ガス吸収除去剤を配置することで、電圧値の低下率が小さいことがわかる。この理由は2点有り、以下詳細に説明する。第1点は、酸性ガス吸収除去剤を空気流路中に配置することにより、イオウ酸化物が除去された空気が空気極に供給され、燃料電池システムの電解質および電極が二酸化イオウガスによって劣化することが抑制されるためである。第2点は、アルカリ材が混合された酸性ガス吸収除去剤を空気と接触させることで、弱アルカリ性を帯びた空気が、イオン伝導性電解質膜に接触し、このことで電解質が、弱アルカリ化して劣化が抑制されるためと推定される。この第2の理由は、酸性ガス吸収除去剤を配置して二酸化イオウガスを100%除去した本発明品と、活性炭を使用して二酸化イオウガスを100%除去した参考品との電圧値低下率を比較した場合、本発明品の酸性ガス吸収除去剤は参考例の活性炭と比較して、電圧値低下率が小さいことから明白である。
【0093】
なお、この結果は、実施例1〜実施例6に記載した他の例の材料組成で製造した材料でも同様であった。
【0094】
(実施例11)
第11実施例は、酸性ガス吸収除去剤を燃料電池システムに応用した際に、その効果がより発揮される燃料電池システムの構成を検討した。その構成図を、図4に示す。検討に用いた燃料電池システム15は、フッ化炭素の主鎖に側鎖としてプロトン供与性のスルホン基が付いた高分子系の水素イオン伝導性電解質膜21に、カーボンブラックに触媒の白金粒子を担持した構成の燃料極19および空気極17の電極を使用したタイプである。この燃料電池システムの空気極17に空気を供給する空気流路18に、水分を加湿する加湿手段22を配置し、この加湿手段22の上流側に酸性ガス吸収除去剤12を配置した。加湿手段22は、水分を透過させる高分子膜を空気流路の壁面に配置した構成の加湿器であり、壁面に配置した水分透過性高分子膜を介して水分が、空気が流れる空気流路に排出される。このことで、水分結露する程度まで空気極を加湿した。
【0095】
酸性ガス吸収除去剤12は、実施例6と同じ製法で得られる材料である。なお、二酸化イオウガス100ppmを3時間流入してもその除去率が100%を維持する様に、その使用量を適正化している。
【0096】
二酸化イオウガス100ppmを混合した空気を流入した際の、流入初期電圧値と3時間流入後電圧値を測定し、この値から3時間電圧値の初期電圧値に対する低下率を算出した。表7は、その検討結果である。比較例として加湿手段を配置していないタイプ、参考例として活性炭を使用したイオウ酸化物100%除去材と加湿手段を配置したタイプ、も同時に評価した。
【0097】
酸性ガス吸収除去剤は、実施例5で製造した材料を使用した。即ち、活性炭と水酸化カルシウムと硫酸カルシウムとセルロースエーテルの組成物(実施例5の配合比、実施例4のセルロースエーテル組成)を、水とともに混合して混練してハニカム状に押出成型し、乾燥後にこのハニカム成型品を減樽俎ガス雰囲気中300℃で焼成して硬化させたものを、水酸化カリウム水溶液に浸漬することに得ている。
【0098】
【表7】

【0099】
本発明は、加湿することで、電圧値の低下率が小さいことがわかる。この理由は2点有り、以下詳細に説明する。第1点は、酸性ガス吸収除去剤を空気流路中に配置することにより、硫黄酸化物が除去された空気が空気極に供給され、燃料電池システムの電解質および電極が二酸化硫黄ガスによって劣化することが抑制されるためである。第2点は、アルカリ材が混合された酸性ガス吸収除去剤を空気と接触させることで、弱アルカリ性を帯びた加湿空気が、水素イオンを伝導させるために弱酸性となった水素イオン伝導性電解質膜に接触し、このことで電解質が一層中性化して劣化が一層抑制されるためと推定される。この第2の理由は、硫黄酸化物除去材を配置してSO2ガスを100%除去した本発明品と、活性炭を使用してSO2ガスを100%除去した比較品と、の電圧値低下率を比較した場合、本発明品の酸性ガス吸収除去剤は参考例の活性炭と比較して、電圧値低下率が小さいことから明白である。
【0100】
なお、この結果は、実施例1〜実施例6に記載した他の例の材料組成で製造した材料でも同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、自動車道路トンネル排ガスまたは自動車道路沿道大気浄化さらには、燃料電池のための酸性ガス吸収除去を目的とするものであり、従来の酸性ガス吸収除去剤に比べ、酸性ガスの除去性能や寿命、成型性と強度の4点が優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施の形態1の酸性ガス吸収除去剤の断面図
【図2】(a)本発明の実施例8〜9における酸性ガス吸収処理装置の構成図、(b)本発明の実施例8〜9における酸性ガス吸収剤の効果特性図(雰囲気温度と酸性ガス吸収容量の関係図)
【図3】本発明の実施例10における燃料電池システムの構成図
【図4】本発明の実施例11における燃料電池システムの構成図
【図5】従来の酸性ガス吸収除去剤の断面図
【符号の説明】
【0103】
6 硫酸カルシウム
7 水酸化カルシウム
8 活性炭
9 セルロースエーテル
10 混練成型硬化物
11 ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩
12 酸性ガス吸収除去剤
13 気体流路
14 酸性ガス吸収処理装置
15 燃料電池システム
16 イオン伝導性電解質膜
17 空気極
18 空気流路
19 燃料極
20 水素供給手段
21 水素イオン伝導性電解質膜
22 加湿手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸カルシウムと水酸化カルシウムと活性炭の主成分にセルロースエーテルを少量混合した混練成型硬化物を、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩の水溶液に浸漬して得た組成物であり、前記セルロースエーテルは、セルロースの水酸基の水素原子の1部を、炭素数1〜3のアルキル基またはそのヒドロキシル基またはそのカルボキシル基と置換したエーテルである酸性ガス吸収除去剤。
【請求項2】
セルロースエーテルは、セルロースとエーテル結合した相手置換基の置換度が0.5〜2.5である請求項1記載の酸性ガス吸収除去剤。
【請求項3】
セルロースエーテルは、セルロースとエーテル結合した相手置換基が、メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基である請求項1記載の酸性ガス吸収除去剤。
【請求項4】
セルロースエーテルは、セルロースとエーテル結合した相手置換基の置換度が1.5〜2.5であり、メチル基を主成分として、ヒドロキシプロピル基が小量含まれている請求項1記載の酸性ガス吸収除去剤。
【請求項5】
硫酸カルシウムが2水塩として18〜24重量%、水酸化カルシウムが44〜54重量%、活性炭が22〜27重量%、セルロースエーテルが4.9〜6.1重量%混合した混練成型硬化物である請求項1記載の酸性ガス吸収除去剤。
【請求項6】
混練成型硬化物を、水酸化カリウムの水溶液に浸漬して得た組成物である請求項1記載の酸性ガス吸収除去剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収除去剤であって、長期間使用後、該吸収除去剤を水洗浄し、乾燥後、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物または炭酸塩の水溶液に浸漬することにより、該吸収除去剤の活性を回復させる浄化性能再生方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収除去剤を、二酸化窒素もしくは二酸化イオウを含有する気体が流れる気体流路に配置した処理装置であり、前記酸性ガス吸収除去剤は、−20〜120℃の雰囲気温度で接触させることにより気体中の前記酸性ガスを除去する酸性ガス吸収処理装置。
【請求項9】
自動車トンネル排ガスまたは自動車道路沿道大気を浄化する請求項8記載の酸性ガス吸収処理装置。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収除去剤を、イオン伝導性電解質膜の片面に形成した空気極に空気を供給する空気流路に配置した燃料電池システム。
【請求項11】
フッ化炭素の主鎖に側鎖としてスルホン基が付いた高分子系の水素イオン伝導性電解質膜の片面に形成した空気極に空気を供給する空気流路に、水分を加湿する加湿手段を配置し、前記加湿手段の上流側に酸性ガス吸収除去剤を配置した請求項10記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−154047(P2009−154047A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332088(P2007−332088)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】