説明

酸素を捕捉する組成物及びその製造方法

本発明は、水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体あるいはその置換誘導体を含むポリマー性組成物を提供する。前記組成物を用いる、酸素の捕捉及びパッケージ中への酸素の移入の防止の方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば食品及び飲料のパッケージ化において、前記食品または飲料のパッケージ化の後にパッケージ内に残留するかまたはパッケージに侵入する、望ましからぬ酸素を捕捉するための、水素化アントラキノン誘導体を含むポリマー性組成物を使用する酸素の捕捉方法に関する。前記水素化アントラキノン誘導体は、防がなければパッケージ材料を透過してパッケージの内側に侵入するであろう酸素を捕捉するために、前記パッケージ材料中に導入してもよい。
【背景技術】
【0002】
様々な食品、飲料、薬剤、及び別の物質が、貯蔵中に酸素にさらされた場合には著しく品質を損ないがちである。損害は、例えば、当該製品の化学的酸化及び/または微生物増殖によって起こりうる。パッケージ化の分野では、従来、真空パック及び/または不活性ガス置換包装により比較的に低酸素の環境を生成させることによってこうした損害に対処してきた。しかしながら、これらの方法は、一般的には様々な理由で適用不能である。例えば、食品及び飲料産業において通常用いられる高速の充填速度のために、しばしば食品及び飲料パッケージの効果的な脱気または完全な不活性ガス置換が妨げられ、脱気及び不活性ガス置換のいずれの場合でも、パッケージ内容物から脱離したか、漏れもしくは透過によって前記パッケージに侵入しえた酸素を除去する性能が残らない。その結果、低酸素環境を生み出す化学的な技術の確認及び開発には多大な興味が寄せられている。
【0003】
オーストラリア特許第672661号(その開示内容全体を参照のためにここに取り込むこととする)において、本出願人は不安定な水素または電子の供給源及び還元性有機化合物を含む新規な酸素捕捉性組成物を開示しており、これは必要に応じて例えば紫外(UV)線への暴露によって容易に活性化または「始動(trigger)」されうる(すなわちその酸素捕捉形態とされる)。前記酸素捕捉性組成物は、いったん活性化すると、酸素豊富な環境または液体から、実質的な暗所において、最高で数分間、あるいは数時間から100日超の範囲の期間に亘って酸素を捕捉することができる。
【0004】
オーストラリア特許第672661号に開示される例示酸素捕捉性組成物のほとんどは、還元性有機化合物としての置換アントラキノン類を主成分とする。こうした酸素捕捉性組成物中の還元性有機化合物としての使用に好適な置換アントラキノン類の更なる例は、国際特許出願PCT/AU02/00341(WO02/076916)(その全開示内容を参照のためにここに取り込むこととする)に開示される。
【特許文献1】オーストラリア特許第672661号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸素の捕捉に有用な代替化合物及び組成物には、一般的に需要があり、とりわけパッケージ材料を形成した後に、酸素の捕捉のための活性化を必ずしも必要としない化合物及び組成物が必要とされている。
【0006】
さらに、上述の従来の置換アントラキノン類は、特に還元状態において着色しがちである。こうしたアントラキノン類を含む組成物及びパッケージもまた着色しがちである。例えば、アントラキノンベースの組成物を使用して作られたフィルムは、酸素捕捉性能を活性化させるためにアントラキノンが還元されると濃黄色に変色しうる。アントラキノンベースの組成物の着色する性質は、多くのパッケージ形態において、とりわけ食品のパッケージ化において望ましくない。したがって、酸素の捕捉のためのあらゆる代替的化合物及び組成物が一般的に、従来の置換アントラキノン類よりも実質的に薄い色を有することが、必須ではないが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様において、本発明は、水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体あるいはその置換誘導体を含むポリマー性組成物を提供する。
【0008】
第二の態様において、本発明は、環境または液体中の酸素を捕捉する方法であって、
(i)第一の態様に従うポリマー性組成物を準備する工程;及び
(ii)環境または液体を前記組成物に暴露する工程;
を含み、前記環境または液体中の酸素の少なくとも一部が、水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体の酸化によって捕捉される方法を提供する。
【0009】
第三の態様において、本発明は、酸素(特に基底状態にある分子酸素)がパッケージを透過することを防止する方法であって、前記方法はパッケージ材料からなるパッケージを形成する工程を含み、前記パッケージ材料が第一の態様に従うポリマー性組成物を含む方法を提供する。
【0010】
水素化アントラキノン誘導体は、純粋固体形態である場合は、一般的には観察可能な限り酸素とは反応しない。本出願人は、驚くべきことに、水素化アントラキノン誘導体と、エチレンビニルアルコールコポリマー類(EVOH)並びにメタキシレンジアミン及びアジピン酸を含むポリマー類(例えばMXD-6ナイロン)を含む様々な市販のポリマー類との溶融圧縮によって形成されるポリマー性フィルムが、酸素を吸収することを発見した。前記フィルムは、酸素を捕捉するために、加工後の活性化を必要としない。
【0011】
実施例からわかるように、THAQを含むポリマー性フィルムの吸収スペクトルは、別の化学誘導体がフィルム中に存在することを示す。本出願人は、この化学誘導体が、THAQのエノール/エノレート互変異性体であると考える。理論による束縛なしに、幾つかの市販のポリマー中に残留量で存在する塩基の存在が水素化アントラキノン誘導体のエノール/エノレート互変異性体の生成に触媒作用を及ぼすことができ、酸素を吸収(すなわち捕捉)するのはまさにこの種であると考えられている。酸もまた、水素化アントラキノン類のエノール/エノレート形態への互変異性化に触媒作用を及ぼすことが既知である。エノール/エノレート互変異性体の生成の有効性が、ポリマー性組成物の生成に関与する該ポリマーの極性及び/または温度に関連している可能性もある。
【0012】
したがって、第一の態様において、本発明は水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体またはその置換誘導体を含むポリマー性組成物を提供する。
【0013】
水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体は、好ましくは、下式I、II、及びIII:
【化1】

[式中、各Rは、水素、正電荷を持つイオン、エステル結合、及びエーテル結合から個別に選択される]
の1つから選択され、前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体のA環及びC環上の結合は別個に飽和または不飽和であってよく、且つ前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体は任意に置換されている。
【0014】
更に好ましくは、水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体は、好ましくは下式IV、V、及びVI:
【化2】

[式中、各Rは、水素、正電荷を持つイオン、エステル結合、及びエーテル結合から個別に選択される]
の1つから選択され、前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体のC環上の結合は別個に飽和または不飽和であってよく、且つ前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体は任意に置換されている。
【0015】
好ましくは、前記の正電荷を持つイオンはNa+である。
【0016】
さらに好ましくは、水素化アントラキノン誘導体は、下式:
【化3】

1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン 1,2,3,4,4a,9a-ヘキサヒドロアントラキノン
により表される1つ以上の化合物及びその誘導体を含む

【0017】
特に好ましい水素化アントラキノン誘導体は、1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン(THAQ)及びその置換誘導体である。好ましい置換基は、アルキル(特にC1-6アルキル)、ハロ、カルボン酸、エステル、酸無水物、エポキシ、ヒドロキシ、及びアミン基である。置換誘導体の例は、2-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン(2-Me-THAQ)である。
【0018】
本出願人は、その発見に照らして、水素化アントラキノン誘導体のエノール/エノレート形態のポリマー性組成物への直接導入によっても、酸素を捕捉しうるポリマー性組成物が生成することを予測する。
【0019】
従って、好ましい実施態様においては、水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート誘導体は、水素化アントラキノン誘導体のエノール/エノレート互変異性体、あるいはその置換誘導体である。
【0020】
好ましくは、水素化アントラキノン誘導体のエノール/エノレート互変異性体は、下式VII及びVIII:
【化4】

[式中、各Rは、水素、正電荷を持つイオン、エステル結合、及びエーテル結合から個別に選択される]
のいずれかの化合物及びその置換誘導体から選択される。さらに好ましくは、R基のいずれもが水素またはエステル結合である。
【0021】
好ましくは、前記の正電荷を持つイオンはNa+である。
【0022】
好ましくは、該化合物は式VIIのものである。更に好ましくは、水素化アントラキノン誘導体のエノール/エノレート互変異性体は、式VIIの二ナトリウム塩である。
【0023】
好ましくは、第一の態様のポリマー性組成物は、更に酸または塩基を含む。酸または塩基の量は、該ポリマー性組成物の好ましくは0.05乃至1.0重量%の範囲、さらに好ましくは0.05乃至0.1重量%の範囲で存在して良い。
【0024】
当業者であれば、多数の酸が本発明によるいかなる特定のポリマー組成物中への導入に好適であることを承知であろう。好適な酸には、有機及び無機の酸、例えば塩酸、安息香酸、p-トルエンスルホン酸、及び酸性塩、例えば塩化ナトリウム、硫酸カリウム、及び塩化アンモニウムが含まれる。
【0025】
当業者であれば、多数の塩基が本発明によるいかなる特定のポリマー組成物中への導入に好適であることを承知であろう。好適な塩基には、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、並びに塩基性塩、例えばカルボン酸、炭酸、及び重炭酸の金属塩が含まれる。
【0026】
第一の態様のポリマー性組成物は、固体、準固体(例えばゲル)、または液体(例えばインクなどのポリマー液)形態であって良い。したがってこれらは、例えばボトル密閉用裏貼り、インク、被覆、接着剤(例えばポリウレタン類)、フィルム、シート、あるいは、単独でまたはラミネートもしくは共押出物としての、容器の、例えばトレイ、ボトル、またはブリスター包装中の層として応用される。フィルムまたは層に使用される場合には、これらはフィルムまたは層の構築に使用される典型的なポリマーまたはコポリマー、例えば食品または製薬関連で承認されているものと混合して良い。こうしたフィルムまたは層は、化学組成及び分子量分布によって、50乃至350℃の温度での押出により製造してよい。
【0027】
水素化アントラキノン誘導体は、ポリマー性組成物中にブレンドして良い。ポリマー性組成物は、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリビニルアルコールを含むあらゆる好適なポリマーまたはポリマーブレンドから形成して良い。好ましくは、前記ポリマーはEVOH、メタキシレンジアミンとアジピン酸単位とを含むポリマー(例えばMXD-6)、またはテレフタル酸とエチレングリコール単位とを含むポリマー(例えばPET)である。
【0028】
あるいはまた、もしくはさらに、水素化アントラキノン誘導体それ自体がホモポリマーまたはコポリマーとしての重合化形態であってもよい。オリゴマー形態もまた好適である。水素化アントラキノン誘導体ベースのモノマーは、例えば、エチレン性不飽和基を水素化アントラキノン誘導体のAまたはC環に共有結合させることによって製造することができる。水素化アントラキノン誘導体は、エノール互変異性体のヒドロキシ基に関与する反応を含む、別の重合性分子及び予め生成させたポリマーとの反応が可能な、例えばカルボン酸、エスエル、酸無水物、エポキシ、ヒドロキシ、及びアミン基などの基を更に含む。例えば、本発明者は、式VII3のエノール/エノレート互変異性体が、エステルまたはエーテル結合の形成を経て2つのアルコール置換基の間を架橋することにより、コポリマー中でモノマーとして有効に作用しうることを予期する。
【0029】
第一の態様のポリマー性組成物は、遷移金属触媒の存在とは別途に酸素を捕捉することができる。然るに、好ましい実施態様においては、ポリマー性組成物は遷移金属触媒を含まない。
好ましくは、本発明の方法における使用のための水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体は、実質的に無色であるかまたはアントラキノン類(特に2-エチルアントラキノン)に対して低減された着色を示す。好ましくは、水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体は、同等の条件下でのEVOH中の2-エチルアントラキノンの還元形態の半分以下である、可視スペクトル(400nm-700nm)における最大の吸収を有するように選択される。
【0030】
第二の態様において、本発明は、環境または液体中の酸素(特に基底状態の分子酸素)を捕捉する方法であって、
(i)第一の態様に従うポリマー性組成物を準備する工程;及び
(ii)環境または液体を前記組成物に暴露する工程;
を含み、前記環境または液体中の酸素の少なくとも一部が、水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体の酸化によって捕捉される方法を提供する。
【0031】
当業者であれば、第一の態様のポリマー性組成物が、パッケージ材料を通る酸素の透過に対する化学的バリアとして利用できることを承知であろう。然るに、パッケージ材料が有限の酸素透過率を有するならば、外界からこれを通過する酸素は、水素化アントラキノンまたはそのエノール/エノレート互変異性体によって捕捉可能である。
【0032】
したがって、第三の態様においては、本発明は、パッケージからの酸素(特に基底状態分子酸素)の透過を防止する方法であって、パッケージ材料を含むまたは前記材料からなるパッケージを形成する工程を含み、前記パッケージ材料が第一の態様に従うポリマー性組成物を含む方法を提供する。
【0033】
本発明の性質がより明確に理解されるように、その好ましい形態を、以下の非限定的な実施例を参考にここに説明する。
【実施例】
【0034】
(実施例1:EVOH中にTHAQを含む組成物による酸素捕捉)
1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン(THAQ)をおよそ2重量%の濃度で市販のEVOH(32モル%エチレン含量)に190℃でブレンドすることによって、組成物を調製した。その後、該組成物を加圧成型して約30μmの厚さを有するフィルムを形成した。その後このフィルムを迅速にホイル多層バッグ内に移し、その後このバッグを真空密封して本質的にヘッドスペースを全く含まない平坦なパッケージを形成した。このホイル裏打ちパウチは、外界からの該パウチ内部への酸素の侵入を本質的に完全に防ぐ。その後、空気を該ホイル裏打ちパウチに注入し、このパウチを一定温度で貯蔵した。パウチ内の酸素含量を、ガスクロマトグラフィーで測定した。上述の方式で準備し、40℃で貯蔵した3つのパウチ中の酸素濃度の変化を、表1に示す。これらフィルムは実質的に無色であり、酸素への暴露後もそのままであった。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例2:EVOH中に2-Me-THAQを含む組成物による酸素捕捉)
2-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン(2-Me-THAQ)をおよそ2重量%の濃度でEVOH(44モル%エチレン含量)に190℃でブレンドすることによって、組成物を調製した。その後、該組成物を190℃にて加圧成型して約50μmの厚さを有するフィルムを形成した。その後各フィルムを迅速にホイル多層バッグ内に移し、その後このバッグを真空密封して本質的にヘッドスペースを全く含まない平坦なパッケージを形成した。このホイル裏打ちパウチは、外界からの該パウチ内部への酸素の侵入を本質的に完全に防ぐ。その後、4%O2/96%N2ガス混合物を各ホイル裏打ちパウチに注入した。その後パウチを120℃のオーブン内においてレトルト処理の温度をシミュレートした。ヘッドスペースの酸素濃度を、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。上述の方式で準備したパウチ中の酸素濃度の変化を、表2に示す。これらフィルムは実質的に無色であり、酸素への暴露後もそのままであった。
【0037】
【表2】

【0038】
(実施例3:EVOH中に2-Me-THAQを含む組成物による酸素透過に対するバリアの強化)
およそ2重量%の2-Me-THAQを含むEVOHフィルム(44モル%エチレン含量)を、溶融混合により、またその後190℃での溶融加圧により調製した。フィルム厚さは、40−60μmの範囲内であったが、フィルム中に捕捉されていれば測定に差し障ったであろう気泡がないように、調製には注意を要した。酸素透過測定を、ルブレンを含む酸素感受性指示フィルムを2枚のEVOHベースの試験フィルムの間に挟み、これら3枚のフィルムを試験セル中に封入することを含む技術を利用して実施した。その後、試験セルを、照光制御温度/湿度キャビネット内においた。この実験における試験は、空気中、23℃及び57%RHにて行った。酸素感受性指示フィルムの色は、酸素及び光の存在下で減衰するが、この変化を試験フィルムを通る酸素の透過率の決定に利用する。貯蔵キャビネット内の光は、一連の実験の間に酸素感受性指示フィルム中のルブレンのみが光を受容するようにフィルターにかけた。実験の結果は、図1に示され、これは、2-Me-THAQのEVOHフィルム中への導入が前記フィルムを透過する酸素の量を実質的に減少させることを明示する。該フィルムは実質的に無色であり、酸素への暴露後もそのままであった。
【0039】
(実施例4:MXD6中にTHAQを含む組成物による酸素透過に対するバリアの強化)
およそ2重量%のTHAQを含むアモルファスMXD6フィルムを、溶融混合により、またその後250℃での溶融加圧により調製した。フィルム厚さは、50−70μmの範囲内であったが、フィルム中に捕捉されていれば測定に差し障ったであろう気泡がないように、調製には注意を要した。酸素透過測定を、ルブレンを含む酸素感受性指示フィルムを2枚のMXD6ベースの試験フィルムの間に挟み、これら3枚のフィルムを試験セル中に封入することを含む技術を利用して実施した。その後、試験セルを、照光制御温度/湿度キャビネット内においた。この実験における試験は、空気中、23℃及び57%RHにて行った。酸素感受性指示フィルムの色は、酸素及び光の存在下で減衰するが、この変化を試験フィルムを通る酸素の透過の測定に利用する。貯蔵キャビネット内の光は、一連の実験の間に酸素感受性指示フィルム中のルブレンのみが光を受容するようにフィルターにかけた。図2は、MXD6フィルムを通る酸素透過が、前記フィルムがTHAQを含む場合には実質的に低減されることを示す。該フィルムは実質的に無色であり、酸素への暴露後もそのままであった。
【0040】
(実施例5:溶液中のTHAQのエノール化)
イソプロパノール中に溶解させたTHAQの溶液の吸収スペクトル(「a」とラベル付け)及びDMSO中溶解させたTHAQの溶液の吸収スペクトル(「b」とラベル付け)を図3に示す。イソプロパノール中のTHAQとDMSO中のTHAQとの吸収スペクトルの違いは、DMSO中での別の化学種の生成を示し、この種は1H NMR分析でTHAQのエノール型と同定された。THAQのエノール化は、室温のイソプロパノール溶液中では起こらないことが判明した。
【0041】
(実施例6:MXD6中のTHAQのエノール化)
およそ2重量%のTHAQを市販のMXD6にブレンドすることにより組成物を調製し、次いで250℃での加圧成型により約50μmの厚さを有するフィルムを形成した。このフィルムの吸収スペクトルを図4に示す。イソプロパノール中のTHAQ(図3のスペクトル「a」参照)とMXD6中のTHAQとの吸収スペクトルの違いは、MXD6中での別の化学種の生成を示し、この新たな種は、図3のスペクトル「b」に示されるDMSO中のエノール互変異性体の吸収スペクトルとの非常に高度な類似性により、THAQのエノール型に該当する。
【0042】
(実施例7:EVOH中の2-Me-THAQのエノール化)
2-Me-THAQを約1重量%の濃度で市販のEVOH(44モル%エチレン含量)に190℃でブレンドすることによって、組成物を調製した。その後、該組成物を加圧成型して約75μmの厚さを有するフィルムを形成した。このフィルムの吸収スペクトルを図5に示す。イソプロパノール中のTHAQ(図3のスペクトル「a」参照)とEVOH中の2-Me-THAQとの吸収スペクトルの違いは、EVOH中での別の化学種の生成を示し、この新たな種は、図3のスペクトル「b」に示されるDMSO中のTHAQのエノール互変異性体の吸収スペクトルとの非常に高度な類似性により、2-Me-THAQのエノール型に該当する。
【0043】
(実施例8:PETG中の水素化アントラキノン誘導体のエノール化)
THAQ、2-Me-THAQ、及び2-Me-1,2,3,4,4a,9a-ヘキサヒドロアントラキノン(2-Me-THAQ)をおよそ1重量%の濃度で市販のPETGに190℃でブレンドすることによって、組成物を調製した。その後、該組成物を加圧成型して約110μmの厚さを有するフィルムを形成した。これらのフィルムの吸収スペクトルを図6に示す。イソプロパノール中のTHAQ(図3のスペクトル「a」参照)とPETG中のこれら水素化アントラキノン誘導体との吸収スペクトルの違いは、PETG中での別の化学種の生成を示し、この新たな種は、図3のスペクトル「b」に示されるDMSO中のTHAQのエノール互変異性体の吸収スペクトルとの非常に高度な類似性により、水素化アントラキノン誘導体のエノール型に該当する。
【0044】
本明細書全般に亘り、「含む」なる語、または例えば「含有する」等の変形は、記載の構成成分、整数、または工程、あるいは構成成分、整数、または工程の群の包含を意味し、いかなる他の構成成分、整数、または工程、あるいは構成成分、整数、または工程の群の排除を意味しないことが理解される。
【0045】
本明細書中に挙げた全ての文献は、ここに参照のために取り込むこととする。本明細書中に含まれる文献、作用、物質、装置、物品などのあらゆる検討内容は、本発明の内容を規定する目的のみに供される。これら事項の全てもしくはいずれも、本願の各請求項の優先日前にオーストラリアまたは他の場所に存在していた、従来技術ベースの一部を成すものでも本発明の関連分野における一般的な知識でもないことが認められるべきである。
【0046】
当業者には、広範に記載された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施態様に示される本発明には、多数の変形及び/または修正を行って良いことが理解されるであろう。本発明の実施態様は、したがって、あらゆる点において例示的であり、限定できではないと見なされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、2−Me−THAQを導入したEVOHフィルム及び2−Me−THAQを導入していないEVOHフィルムの経時的な酸素透過のグラフを示す。
【図2】図2は、THAQを導入したMXD6フィルム及びTHAQを導入していないMXD6フィルムの経時的な酸素透過のグラフを示す。
【図3】図3は、(a)イソプロパノール及び(b)DMSO中でのTHAQのUV可視吸収スペクトルを示す。
【図4】図4は、MXD6フィルム中のTHAQのUV可視吸収スペクトルを示す。
【図5】図5は、EVOHフィルム中の2−Me−THAQのUV可視吸収スペクトルを示す。
【図6】図6は、PETG中での(a)THAQ、(b)2−Me−THAQ、及び(c)2−Me−HHAQのUV可視吸収スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体あるいはその置換誘導体を含むポリマー性組成物。
【請求項2】
前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体が、好ましくは下式I、II、及びIII:
【化1】

[式中、各Rは、水素、正電荷を持つイオン、エステル結合、及びエーテル結合から個別に選択される]
の1つから選択され、前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体のA環及びC環上の結合は別個に飽和または不飽和であってよく、且つ前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体が任意に置換されている、請求項1に記載のポリマー性組成物。
【請求項3】
前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体は、好ましくは下式IV、V、及びVI:
【化2】

[式中、各Rは、水素、正電荷を持つイオン、エステル結合、及びエーテル結合から個別に選択される]
の1つから選択され、前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体のC環上の結合は別個に飽和または不飽和であってよく、且つ前記水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体が任意に置換されている、請求項2に記載のポリマー性組成物。
【請求項4】
前記水素化アントラキノン誘導体が、下式:
【化3】

1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン 1,2,3,4,4a,9a-ヘキサヒドロアントラキノン
により表される1つ以上の化合物及びその誘導体を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリマー性組成物。
【請求項5】
前記水素化アントラキノン誘導体が、1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン(THAQ)またはその置換誘導体である、請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記水素化アントラキノンの誘導体及び/またはそのエノール/エノレート誘導体が、水素化アントラキノン誘導体のエノール/エノレート互変異性体あるいはその置換誘導体である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリマー性組成物。
【請求項7】
前記水素化アントラキノン誘導体のエノール/エノレート互変異性体が、下式VII及びVIII:
【化4】

[式中、各Rは、水素、正電荷を持つイオン、エステル結合、及びエーテル結合から個別に選択される]
のいずれかの化合物及びその置換誘導体から選択される、請求項6に記載のポリマー性組成物。
【請求項8】
前記の水素化アントラキノン誘導体のエノール/エノレート互変異性体が、式VIIの化合物またはその置換誘導体である、請求項7に記載のポリマー性組成物。
【請求項9】
式VIIの前記化合物が、式VIIの二ナトリウム塩である、請求項8に記載のポリマー性組成物。
【請求項10】
酸または塩基をさらに含む、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のポリマー性組成物。
【請求項11】
存在する前記酸または塩基の量が、ポリマー性組成物の0.05乃至1.0重量%の範囲である、請求項10に記載のポリマー性組成物。
【請求項12】
存在する前記酸または塩基の量が、ポリマー性組成物の0.05乃至0.1重量%の範囲である、請求項11に記載のポリマー性組成物。
【請求項13】
前記酸が、塩酸、安息香酸、p-トルエンスルホン酸、塩化ナトリウム、硫酸カリウム、及び塩化アンモニウムからなる群より選択される、請求項10乃至12のいずれか一項に記載のポリマー性組成物。
【請求項14】
前記塩基が、水酸化ナトリウム並びに、カルボン酸、炭酸、及び重炭酸の金属塩から選択される、請求項10乃至12のいずれか一項に記載のポリマー性組成物。
【請求項15】
EVOH、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、及びこれらのブレンドを含む、請求項1乃至14のいずれか一項に記載のポリマー性組成物。
【請求項16】
EVOH、メタキシレンジアミンとアジピン酸単位とを含むポリマー、またはテレフタル酸とエチレングリコール単位とを含むポリマーを含む、請求項1乃至15のいずれか一項に記載のポリマー性組成物。
【請求項17】
前記ポリマー性組成物が、遷移金属触媒を含まない、請求項1乃至16のいずれか一項に記載のポリマー性組成物。
【請求項18】
請求項1乃至17のいずれか一項に記載のポリマー性組成物を含むパッケージ材料。
【請求項19】
環境または液体中の酸素を捕捉する方法であって、
(i)請求項1乃至17のいずれか一項に記載のポリマー性組成物を準備する工程;及び
(ii)環境または液体を前記組成物に暴露する工程;
を含み、前記環境または液体中の酸素の少なくとも一部が、水素化アントラキノン誘導体及び/またはそのエノール/エノレート互変異性体の酸化によって捕捉される方法。
【請求項20】
パッケージからの酸素の透過を防止する方法であって、パッケージ材料を含むまたは前記材料からなるパッケージを形成する工程を含み、前記パッケージ材料が請求項1乃至17のいずれか一項に記載のポリマー性組成物を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−505196(P2008−505196A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518408(P2007−518408)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000941
【国際公開番号】WO2006/000055
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】