説明

酸素イオン伝導体およびこれを用いた電気化学装置

【課題】 密度が高く、酸素イオン伝導性および電子伝導性がともに高い酸素イオン伝導体およびこれを用いた電気化学装置を提供する。
【解決手段】 ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物と、酸化カルシウム,酸化ガドリニウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤として含む酸化ジルコニウムと、を含み、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいず
れか1種が前記ペロブスカイト型酸化物に固溶している酸素イオン伝導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン伝導性を有する酸素イオン伝導体およびこれを用いた電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンガス等を分解するための電気化学装置に用いられる酸素イオン伝導体は、一般的に、ペロブスカイト型構造を有する成分を主成分とする緻密質な膜からなり、酸素を含む気体から解離され、イオン化された酸素イオンを前記膜の表面側から裏面側に移動させて、イオンの状態で存在する、あるいは再結合させることにより、純度の高い酸素を製造することが求められる。特に、酸素イオン伝導性に加えて電子伝導性を有する酸素イオン伝導体は、その内部で酸素イオンの移動方向とは反対方向に電子が移動するため、表面と裏面とを電気的に接続して電子を裏面側から表面側に戻すための外部電極や外部回路等を設ける必要がないという利点を備えている。
【0003】
例えば、特許文献1では、酸素イオンと電子を輸送するための緻密層と、層状構造体を機械的に支持する多孔支持層とを備える層状構造体を備え、緻密層が、混合伝導体、イオン伝導体、及び金属を含む混合物で形成され、混合伝導体及びイオン伝導体が混合物中に緻密層を通して酸素イオン伝導を行える量で存在し、混合伝導体と金属が混合物中に緻密層を通して電子伝導を行える量で存在し、多孔支持層が酸化物分散強化金属、金属強化金属間合金、ホウ素ドープMoSi系金属間合金又はこれらの組合せで形成される、酸素イオン輸送複合体要素が提案されている。
【0004】
また、上記混合伝導体が、La0.2Sr0.8Fe0.6Ti0.4、又は、La0.2Sr0.8Fe0.8Cr0.2であって、イオン伝導体が、ガドリウムドープセリア、サマリウムドープセリア、イットリア安定化ジルコニア、セリア、ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニア、ランタン・ストロンチウム・ガリウム・マグネシウム酸化物、又は式MBiOx(Mはイットリア、モリブデン又はタングステンである)により表されるドープされたビスマス酸化物であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−527468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような酸素イオン伝導体において、LaとZrとを含有してなる場合に、これらの成分が反応してランタンジルコネートが生成されることにより、酸素イオン伝導体の酸素イオン伝導性および電子伝導性が低下し、性能が低下する場合がある。
【0007】
それゆえ、本発明はこのような課題に鑑み、ランタンジルコネートの生成を抑制することで、酸素イオン伝導性および電子伝導性がともに高い酸素イオン伝導体およびこれを用いた電気化学装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の酸素イオン伝導体は、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物と、酸化カルシウム,酸化ガドリニウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤として含む酸化ジルコニウムと、を含み、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの
少なくともいずれか1種が前記ペロブスカイト型酸化物に固溶していることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の電気化学装置は、上記酸素イオン伝導体が、互いに対向する第1の電極と、第2の電極との間に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酸素イオン伝導体によれば、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物と、酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤として含む酸化ジルコニウムと、を含み、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルト
の少なくともいずれか1種がペロブスカイト型酸化物に固溶していることから、酸素イオン伝導性および電子伝導性を低下させるランタンジルコネートの生成が抑制されるので、これらの特性をいずれも高くすることができる。
【0011】
また、本発明の電気化学装置によれば、本発明の酸素イオン伝導体が、互いに対向する第1の電極と、第2の電極との間に配置されていることから、酸素イオン伝導性および電子伝導性がともに高い酸素イオン伝導体を用いているので、効率よく純度の高い酸素を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の電気化学装置の基本構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の酸素イオン伝導体は、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(以下、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物をランタンクロマイトという。)と、酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤とする酸化ジルコニウム(以下、酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤とする酸化ジルコニウムを安定化ジルコニアという。なお、安定化ジルコニアには部分安定化ジルコニアも含むものとする。)と、を含み、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種がペロブスカイト型酸化物に
固溶していることが重要である。
【0014】
酸素イオン伝導体が、ランタンクロマイトと、安定化ジルコニアと、を含んでいると、密度を十分高くすることができるので、酸素イオン伝導性および電子伝導性をともに高くすることができる。
【0015】
そして、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種
がランタンクロマイトに固溶していることから、酸素イオン伝導性および電子伝導性を低下させるランタンジルコネートの生成を抑制できるので、これらの特性をいずれも高くすることができる。なお、ランタンジルコネートの生成が抑制される理由について、詳細は分からないが、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトがランタンクロマイト
のペロブスカイト型構造のBサイトに固溶することで、ランタンの拡散を抑制することができるものと考えられる。
【0016】
また、ランタンクロマイトは、ランタンクロマイトを構成するクロムイオン(Cr3+)の一部がマグネシウムイオン(Mg2+)に置換されたランタンマグネシウムクロマイトおよびカルシウムイオン(Ca2+)に置換されたランタンカルシウムクロマイトの少なくともいずれか1種であることが好適であり、このような場合には、正孔(ホール)が多く生じるので、電子はこれらの正孔を移動しやすくなり、高い電子伝導性を得ることができる。
【0017】
ランタンクロマイトは、組成式が、例えば、La(Cr1―(x+y)(Mはマグネシウムおよびカルシウムの少なくともいずれか1種であり、Nはチタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種である。また、xお
よびyは、いずれも0より大きく0.3以下であって、zは0.9以上1以下である。)である。
【0018】
ここで、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種
が固溶しているランタンクロマイトは、エネルギー分散形X線分光器を装着した透過型電子顕微鏡を用いて、その化学量論的組成および含有量を求めることができる。
【0019】
一方、安定化ジルコニアは、X線回折法を用いて同定することができる。また、安定化ジルコニアの含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法によってジルコニウムおよび安定化剤を構成するカルシウム、ガリウムおよび希土類元素のそれぞれの含有量を求め、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ガリウムおよび前記希土類元素の酸化物に換算することにより、それぞれの酸化物の含有量を算出し、その合計が安定化ジルコニアの含有量となる。
【0020】
また、本実施形態の酸素イオン伝導体においては、ランタンクロマイトは、含有量が45質量%以上70質量%以下であることが好適である。ランタンクロマイトの含有量が45質量%以上であることで、イオン導電率と電子伝導率との和である混合導電率を高くすることができ、一方、ランタンクロマイトの含有量が70質量%以下であることで、気孔を減らすことができるので、密度を高くすることができ、信頼性を高くすることができる。
【0021】
また、本実施形態の酸素イオン伝導体は、酸化マグネシウムを含むことが好適である。酸素イオン伝導体が酸化マグネシウムを含むときには、酸化マグネシウムは線膨張係数が大きいので、例えば、酸素イオン伝導体を金属部材に接合したり、電気化学装置を構成する互いに対向する第1の電極と、第2の電極との間に配置したりする場合には、金属部材,第1の電極および第2の電極の線膨張係数に近づけることができ、高温に曝されても、信頼性が容易に損なわれにくくなる。
【0022】
特に、酸化マグネシウムは、ランタンクロマイト100質量%に対する含有量が4質量%
以上6質量%以下であることが好適で、この範囲であると、金属部材,第1の電極および第2の電極の線膨張係数にさらに近づけることができ、信頼性が向上する。
【0023】
酸素イオン伝導体に含まれる酸化マグネシウムは、X線回折法を用いて同定することができるとともに、その含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法によってマグネシウムの含有量を求め、酸化マグネシウムに換算すればよい。但し、ランタンクロマイトが、その組成式にマグネシウムを含む場合には、まず、エネルギー分散形X線分光器を装着した透過型電子顕微鏡を用い、ランタンクロマイトの化学量論的組成を特定する。そして、マグネシウムの含有量から化学量論的組成が特定されたランタンクロマイトを構成するマグネシウムの含有量を除いた含有量を求め、酸化マグネシウムに換算すればよい。
【0024】
また、本実施形態の酸素イオン伝導体は、酸化ニッケルを含むことが好適である。酸素イオン伝導体が酸化ニッケルを含むときには、酸化ニッケルの還元による収縮に伴って、酸素イオン伝導体の還元膨張(酸素イオンが抜けることによって生じる格子膨張)も抑制されるので、耐久性を高くすることができる。
【0025】
酸素イオン伝導体に含まれる酸化ニッケルは、X線回折法を用いて同定することができ
るとともに、その含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法によって求めることができる。但し、ランタンクロマイトが、その組成式にニッケルを含む場合には、まず、エネルギー分散形X線分光器を装着した透過型電子顕微鏡を用い、ランタンクロマイトの化学量論的組成を特定する。そして、ニッケルの含有量から化学量論的組成が特定されたランタンクロマイトを構成するニッケルの含有量を除いた含有量を求め、酸化ニッケルに換算すればよい。
【0026】
特に、酸化ニッケルは、ランタンクロマイト100質量%に対する含有量が10質量%以下
であることが好適で、この範囲であると、ランタンクロマイトの結晶構造が変化しにくくなり、安定化する。
【0027】
上述の構成の酸素イオン伝導体では、互いに対向する第1の電極(負極)と、第2の電極(正極)との間に上述の酸素イオン伝導体を配置することで、ランタンクロマイトが、第1の電極(負極)側から第2の電極(正極)側に電子を移動させて、気体から解離された酸素をイオン化し、安定化ジルコニアが、イオン化された酸素イオンを第2の電極(正極)側に移動させて再結合させることにより、純度の高い酸素を得ることができる電気化学装置とすることができる。また、上述の構成の酸素イオン伝導体では、ランタンジルコネートの生成を抑制することができることから、酸素イオン伝導性および電子伝導性をともに高くすることができ、性能の向上した電気化学装置とすることができる。
【0028】
図1は、本実施形態の電気化学装置の基本構成の一例を示す斜視図である。
【0029】
図1に示す例の電気化学装置10は、酸素イオン伝導体1が、互いに対向する第1の電極2と、第2の電極3との間に配置されており、第1の電極2は、円筒状の支持体4の外周面に形成されている。なお、第1の電極2を支持体として、その外周に酸素イオン伝導体1と第2の電極3を順次配置した構成とすることもできる。さらに、電気化学装置10は、円筒型に限られたものではなく、例えば平板状のそれぞれを積層してなる平板型、楕円柱状型等、適宜その形状は変更することができ、支持体4を設けない構成とすることもできる。なお、以降の説明においては、円筒型を例にして説明する。
【0030】
支持体4は、外径,肉厚および長さは、例えば、8〜9mm,1〜2mm,800〜1200
mmである。また、支持体4は、酸化ニッケルと酸化イットリウムとからなり、酸化ニッケルおよび酸化イットリウムの各含有量は、それぞれ63質量%以上73質量%以下、27質量%以上37質量%以下である。
【0031】
第1の電極2および第2の電極3は、それぞれ燃料極,空気極と換言される。なお、第1の電極2を空気極、第2の電極3を燃料極とした構成としてもよい。
【0032】
第1の電極を燃料極とする場合には、例えば、厚みが10μm以上50μm以下であって、酸化ニッケルと安定化ジルコニアとからなり、酸化ニッケルおよび安定化ジルコニアの各含有量は、それぞれ60質量%以上70質量%以下,30質量%以上40質量%以下とすることが
できる。なお、その他として、酸化ニッケルとセリア系酸化物(例えば、Gdが固溶したCeO)とから構成することもできる。
【0033】
なお、第1の電極の厚みが薄い場合には、支持体4と同様の組成からなる支持層5を設けて、支持層5に上記第1の電極を設けたものを、支持体4に貼り付けてもよい。この場合、支持層5としては、例えば、厚みが10μm以上100μm以下であって、酸化ニッケル
と酸化イットリウムとからなり、酸化ニッケルおよび酸化イットリウムの各含有量は、それぞれ63質量%以上73質量%以下、27質量%以上37質量%以下とすることができる。なお、図1においては、支持層5を設けた例を示している。
【0034】
また、第2の電極3は、例えば、厚みが10μm以上50μm以下であって、ランタンストロンチウムコバルト鉄や、ランタンストロンチウムマンガナイト等から構成できる。
【0035】
酸素イオン伝導体1の酸素イオン伝導性は600℃程度から高くなるため、600℃以上の温度域で、第1の電極(燃料極)2に水素を含むガスを、第2の電極(空気極)3に酸素を含むガスをそれぞれ供給する。第1の電極(燃料極)2に供給されたガスがメタン(CH)ガスである場合、メタン(CH)ガスは、第2の電極(空気極)3から酸素イオン伝導体1を通じて移動した酸素イオンと、以下の式(1)に示すように反応して、水素,一酸化炭素および電子を発生する。発生した電子は、第1の電極(燃料極)2から酸素イオン伝導体1を通じて第2の電極(空気極)1に移動し、以下の式(2)に示すように酸素分子をイオン化する。以下の式(1),(2)に示す反応を繰り返すことによって、水素および一酸化炭素が生成され、この生成された気体を、例えば、フィッシャー・トロプシュ法(FT法)を用いて合成することにより、石油の代替品となる合成油や合成燃料を作り出すことができる。
【0036】
第1の電極(燃料極)2: CH+O2- → 2H2+CO+2e- …(1)
第2の電極(空気極)3: 1/2O2+2e- → O2- …(2)
次に、本実施形態の酸素イオン伝導体および電気化学装置の製造方法について説明する。
【0037】
まず、酸化ニッケルを主成分とし、酸化イットリウムを副成分としてなる円筒状の脱脂体の外周面に、酸化ニッケルの粉末を主成分とし、安定化ジルコニア(例えばYが固溶したZrO(YSZ))の粉末を副成分とする混合粉末のペーストをスクリーン印刷法を用いて塗布する。なお、支持層5を設ける場合には、円筒状の脱脂体の外周面に、脱脂体を構成する成分と同じ成分からなるグリーンシートを巻き付けて、そのグリーンシート状にスクリーン印刷法等により、上記ペーストを塗布すればよい。
【0038】
次に、ペーストを塗布した円筒状の脱脂体を、例えば、温度および保持時間をそれぞれ1150℃以上1250℃,1時間以上3時間以下として熱処理する。そして、ランタンクロマイト,安定化ジルコニア(例えば上記YSZ)ならびにチタン,バナジウム,マンガン,鉄
およびコバルトの少なくともいずれか1種の各粉末を含むスラリーに、脱脂体を浸漬することによって皮膜を得て、例えば、温度および保持時間をそれぞれ1440℃以上1500℃以下,1時間以上3時間以下として大気雰囲気中にて焼成する。そして、この焼成により、円筒状の脱脂体,グリーンシート,塗布された混合粉末のペーストおよび皮膜は、それぞれ支持体4,支持層5,第1の電極2,酸素イオン伝導体1となる。
【0039】
ここで、安定化ジルコニアならびにチタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルト
の少なくともいずれか1種は、それぞれ30質量%以上40質量%以下,5質量%以上15質量%以下となるように、また、残部がランタンクロマイトとなるように各粉末を混合してスラリーを作製すればよい。
【0040】
また、上記スラリーに酸化マグネシウムの粉末を適宜添加して、ランタンクロマイト100質量%に対して4質量%以上6質量%以下で酸化マグネシウムを含む酸素イオン伝導体
1を得ることができる。
【0041】
また、上記スラリーに酸化ニッケルの粉末を適宜添加することで、ランタンクロマイト100質量%に対して10質量%以下で酸化ニッケルを含む酸素イオン伝導体1を得ることが
できる。
【0042】
そして、支持体4,第1の電極2および酸素イオン伝導体1を形成した後、ランタンストロンチウムコバルト鉄の粉末を含むスラリーに、酸素イオン伝導体1を浸漬することによって、酸素イオン伝導体1の外周面上に皮膜が得られ、この皮膜は、例えば、温度および保持時間をそれぞれ1100℃以上1200℃以下,1時間以上3時間以下として焼成することによって、第2の電極(空気極)3となり、図1に示す例の本実施形態の電気化学装置を得ることができる。
【0043】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
まず、酸素イオン伝導体を構成する成分が、焼結体としてそれぞれ表1に示す種類および含有量となるように、各成分の粉末を調合した。なお、焼結体における各成分は、エネルギー分散形X線分光器を装着した透過型電子顕微鏡を用いて、ランタンクロマイトの化学量論的組成および含有量を確認し、安定化ジルコニアの量は、ICP発光分光分析法をによりその量を確認した。
【0045】
そして、調合した粉末に、有機溶媒として、トルエンを加え、ミルを用いて粉砕・混合した後、結合剤としてパラフィンワックスを所定量添加し、乾式加圧成形法を用い、圧力を98MPaとして成形することにより、角柱状の成形体を得た。
【0046】
そして、電気炉に成形体を配置した後、大気雰囲気中、温度を1460℃、2時間保持することによって長さ,幅および厚さがそれぞれ36mm,4mm,3mmである角柱状の焼結体である試料No.1〜114を得た。
【0047】
なお、表1に示す安定化ジルコニアの成分を示す組成式は、最初の数字が安定化剤の含有量、次のアルファベットが安定化剤の金属成分であり、例えば、8YSZであれば、8モル%の酸化イットリウムを安定化剤として含む酸化ジルコニウムである。
【0048】
また、各試料の開気孔率および混合導電率は、それぞれアルキメデス法,4端子法を用いて測定した。
【0049】
各試料を構成する成分およびその含有量と、各試料の開気孔率および混合導電率を表1および表2に示した。
【0050】
さらに、X線回折法を用いて、ランタンジルコネートの生成を調べ、ランタンジルコネートが検出された試料には「1」を、検出されなかった試料には「0」を表1および表2に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1および表2に示す結果から分かるように、試料No.1〜55,57〜111は、ランタ
ンクロマイトと、酸化カルシウム,酸化ガドリニウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤として含む酸化ジルコニウムと、を含み、チタン,バナジウム,マンガン,
鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種がランタンクロマイトに固溶していることから、酸素イオン伝導性および電子伝導性を低下させるランタンジルコネートの生成が抑制されているので、混合導電率が高く、酸素イオン伝導性および電子伝導性がともに高いと
言える。
【0054】
特に、組成式がLa(Cr0.7Mg0.2Mn0.10.96として示されるランタンマグネシウムクロマイトと、酸化イットリウムを安定化剤として含む酸化ジルコニウムと、を含んでなる試料No.24〜27,30〜33を比べると、試料No.25〜27,30〜32は、ランタンマグネシウムクロマイトの含有量が45質量%70質量%以下であることから
、試料No.24,33よりも高い混合導電率を備えていると言える。
【実施例2】
【0055】
まず、酸素イオン伝導体を構成する成分がマンガンを固溶するランタンマグネシウムクロマイト,8モル%の酸化イットリウムを安定化剤として含む酸化ジルコニウムおよび酸化マグネシウムであり、各成分の含有量が、焼結体として54質量%,46質量%,表3に示す含有量になるように各成分の粉末を調合した。なお、焼結体におけるランタンマグネシウムクロマイと、8モル%の酸化イットリウムは実施例1で記載した方法にて確認し、酸化マグネシウムは、X線回折法にて同定した後、ICP発光分光分析法によりマグネシウムの含有量を求めて、酸化マグネシウムに換算して、ランタンマグネシウムクロマイトに対する含有量として表3に記載した。
【0056】
そして、実施例1で示した方法と同じ方法で長さ,幅および厚さがそれぞれ20mm,5mm,5mmである角柱状の焼結体である試料No.114〜118を得た。
【0057】
また、各試料の室温から1000℃における線膨張係数をJIS R 1618−2002に準拠して求め、その測定値を表3に示した。
【0058】
【表3】

【0059】
表3に示す結果から分かるように、試料No.115〜117は、線膨張係数が大きい酸化マグネシウムを含むことから、酸素イオン伝導体を電気化学装置10を構成する互いに対向する第1の電極2と、第2の電極3との間に配置する場合には、酸化マグネシウムを含まない試料No.114よりも第1の電極2および第2の電極3の線膨張係数10×10−6/℃(測定範囲:室温〜1000℃)に近づけることができ、高温に曝されても、信頼性が容易に損なわれにくくなると言える。
【0060】
なお、酸化マグネシウムの量を多く含む試料No.118は線膨張係数の値が大きく、第
1の電極(燃料極)や第2の電極(空気極)との線膨張係数との差が生じていた。
【実施例3】
【0061】
支持層を備える電気化学装置を以下の方法で作製した。
【0062】
まず、酸化ニッケルおよび酸化イットリウムがそれぞれ68質量%,32質量%である円筒状の脱脂体の外周面に、脱脂体を構成する成分と同じ成分からなるグリーンシートを巻き付けた。次に、このグリーンシート上に酸化ニッケルおよび安定化ジルコニアの各粉末がそれぞれ65質量%,35質量%である混合粉末のペーストを、スクリーン印刷法を用いて塗布し、温度および保持時間をそれぞれ1190℃,2時間として熱処理した。そして、マンガン,ランタンマグネシウムクロマイト,8モル%の酸化イットリウムを安定化剤として含む酸化ジルコニウムおよび酸化ニッケルの各粉末を含むスラリーに、脱脂体を浸漬することによって、皮膜を形成し、温度および保持時間をそれぞれ1460℃,2時間として大気雰囲気中にて焼成した。なお、酸化ニッケルは焼結体として表3に示す含有量となるように粉末を調合した。そして、この焼成により、円筒状の脱脂体,グリーンシート,塗布された混合粉末のペーストおよび皮膜をそれぞれ支持体4,支持層5,第1の電極(燃料極)2,酸素イオン伝導体1とした。
【0063】
ここで、酸素イオン伝導体1に含まれるマンガンを固溶するランタンマグネシウムクロマイト,酸化イットリウムを安定化剤として含む酸化ジルコニウムおよび酸化ニッケルの各含有量は、焼結体としてそれぞれ54質量%,46質量%,表3に示す含有量になるように各成分の粉末を調合した。なお、焼結体におけるランタンマグネシウムクロマイと、酸化イットリウムは実施例1で記載した方法にて確認し、酸化ニッケルは、X線回折法にて同定した後、ICP発光分光分析法によりニッケルの含有量を求めて、酸化ニッケルに換算した値を表3に記載した。
【0064】
そして、支持体4,支持層5,第1の電極2および酸素イオン伝導体1を形成した後、ランタンストロンチウムコバルト鉄の粉末を含むスラリーに、酸素イオン伝導体1を浸漬することによって、酸素イオン伝導体1の外周面上に皮膜を形成した。そして、温度および保持時間をそれぞれ1140℃,2時間として焼成することによって、第2の電極(空気極)3となり、図1に示す例の本実施形態の電気化学装置10である試料No.119〜122を各試料毎に10個作製した。
【0065】
そして、支持体4の内側にメタン(CH)ガスを、第2の電極3の外周側に空気をそれぞれ供給した状態で、850℃において100時間保持した後に、冷却し、光学顕微鏡を用い、倍率を50倍として酸素イオン伝導体1のメタン(CH)ガスが供給される側の端面におけるクラックを観察した。クラックが観察された試料の比率を表4に示した。
【0066】
【表4】

【0067】
表4に示す結果から分かるように、試料No.120〜122は酸化ニッケルを含んでいることから、酸化ニッケルの還元による収縮に伴って、酸素イオン伝導体の還元膨張が抑制されるので、クラックが生じにくくなっており、耐久性を高くすることができると言える。
【符号の説明】
【0068】
1:酸素イオン伝導体
2:第1の電極(燃料極)
3:第2の電極(空気極)
10:電気化学装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物と、酸化カルシウム,酸化ガドリニウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤として含む酸化ジルコニウムと、を含み、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種が前記
ペロブスカイト型酸化物に固溶していることを特徴とする酸素イオン伝導体。
【請求項2】
前記ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物の含有量が45質量%以上70質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸素イオン伝導体。
【請求項3】
酸化マグネシウムを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸素イオン伝導体。
【請求項4】
酸化ニッケルを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の酸素イオン伝導体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の酸素イオン伝導体が、互いに対向する第1の電極と、第2の電極との間に配置されていることを特徴とする電気化学装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−28831(P2013−28831A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164501(P2011−164501)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】