説明

酸素分圧制御装置

【課題】超低圧の酸素分圧の精製ガスを提供し得る酸素分圧制御装置、また、従来可能な低酸素分圧を得る上で製造コストを低廉化し得る酸素分圧制御装置を提供する。
【解決手段】酸素分圧を制御したガスを精製するガス精製部1と、処理装置Fにガス精製部1から精製ガスを供給して該ガス精製部に環流させるための循環路4と、該循環路中に設けられた循環用ポンプ5とを備え、ガス精製部1は、酸素ポンプ21と水素ポンプ31とを備え、循環路4が、ガス精製部1及び循環用ポンプ5を経る共通流路41と、該共通流路から、処理装置Fを経る流路を形成する作動流路42と、該共通流路から、処理装置Fを経ない循環のための流路を形成するバイパス流路43とを備えていることを特徴とする酸素分圧制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素分圧を極低い値に制御するための酸素分圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質を含む電気化学的な酸素ポンプを有する酸素分圧制御装置により、酸素分圧を制御した雰囲気ガスを用いて、単結晶試料等を作成する方法が知られている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
特許文献2に示された図4の酸素分圧制御装置は、バルブ102を通った不活性ガスの流量を設定値に制御するマスフローコントローラ(MFC)103と、このマスフローコントローラ103を通った不活性ガスを目的の酸素分圧に制御可能な電気化学的な酸素ポンプ104と、酸素ポンプ104で制御された不活性ガスの酸素分圧をモニタして試料育成装置などの次工程(装置)に供給する供給ガス用の酸素センサ105を有する。
【0004】
さらにこの装置は、所望の酸素分圧値を設定する酸素分圧設定部106と、酸素センサ105によるモニタ値を酸素分圧設定部106による設定値と比較して酸素ポンプ104から送り出される不活性ガスの酸素分圧を所定値に制御する酸素分圧制御部107と、酸素センサ105によるモニタ値を表示する酸素分圧表示部108を備える。
【0005】
酸素ポンプ104は、図5に示すように、酸素イオン伝導性を有する固体電解質筒状体104aの内外両面に電極104b、104cを形成している。固体電解質筒状体104aは、例えばジルコニア系の固体電解質で、図示しないヒーターで加熱される。固体電解質筒状体104aの一方の開口から他方の開口に向けて軸方向に不活性ガスを供給する。不活性ガスは、例えばアルゴンであり、通常は微量の酸素(10-1〜10-2Pa[10-6〜10-7atm]程度)を含んでいる。直流電源Eに対し、外面の電極104cを+極に接続し、内面の電極104bを−極に接続して、両電極間に電圧を印加すると、固体電解質筒状体104a内を流れる不活性ガス中の酸素分子(O2)が電気的に還元されてイオン(O2-)化され、固体電解質を通して再び酸素分子(O2)として固体電解質筒状体104aの外部に放出される。固体電解質筒状体104aの外部に放出された酸素分子は、空気等の補助ガスと共に排気される。固体電解質筒状体104aに供給されたAr+O2(10-1〜10-2Pa程度)の不活性ガスは、酸素分子が低減されて目的の酸素分圧に制御された処理済みガス(精製ガス)となり、次工程(装置)に給送される。
【0006】
なお、図5の酸素ポンプ104は、低酸素分圧状態の制御や微調整等のために、必要に応じて、固体電解質筒状体104aの内外両面の電極104b、104c間に上記と逆極性の直流電圧を印加してポンプ動作を行わせることも可能である。すなわち、外面の電極104cに−極を印加し、内面の電極104bに+極を印加すると、固体電解質筒状体104aの外面に沿って流れる空気などのガス中の酸素分子(O2)が固体電解質によって電気的に還元されてイオン(O2-)化され、固体電解質を通して再び酸素分子(O2)として固体電解質筒状体104aの内部に放出される。この場合、固体電解質筒状体104aの内部を流れる不活性ガスの酸素分圧が上昇して、外部に給送される。
【0007】
このような酸素ポンプにより酸素分圧を制御したガスを供給すれば、結晶育成、合金化、熱処理、半導体製造工程などが酸素分圧を制御した不活性ガスなどの雰囲気下で行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−326887号公報
【特許文献2】国際公開WO 2008/068844 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1,2に示された酸素ポンプによれば、例えば、温度600℃において約10-25Paまでの低い酸素分圧が得られる。
【0010】
低酸素分圧のガス(不活性ガス等)は、例えば、単結晶金属の形成等の分野で必要とされる。単結晶金属を得るためには、金属酸化物を融点以上の温度に加熱すると共に、周囲雰囲気をその金属酸化物の酸素の解離圧より低い酸素分圧とすることが必要である。金属酸化物における酸素の解離圧は、温度が上がるほど高くなるが、周囲雰囲気の酸素分圧も酸素、水素と水との平行に律束されて温度上昇と共に高くなる。したがって、両者の相互関係によって、単結晶形成の可否が決まる。
【0011】
図3のグラフは、温度による酸素分圧の変動と金属酸化物の解離圧との関係を示している。例えば、鉄の場合には、融点(1535℃)での酸素の解離圧は約10-4Paである。これに対し、炉内に送られる不活性ガスは、600℃において10-25Paの低酸素分圧とされていても、鉄の融点付近では約10-10Paとなる。後者の酸素分圧は、鉄の融点での酸素解離圧より低いので、鉄の酸化物から酸素を分離して純鉄の単結晶を形成することが可能となる。
【0012】
しかしながら、対象がチタンである場合、その融点(1668℃)での酸素解離圧は約10-15Paである。これに対し、600℃において10-25Paの酸素分圧のガスは、チタンの融点付近では約10-9Paとなる。この酸素分圧は、チタンの融点での酸素解離圧より高いので、チタンの酸化物から酸素を分離させることはできず、純チタンの単結晶を形成することはできない。
【0013】
また、特定の酸化物、例えばSr2MoO4という物質は、合成の際に10-16Pa(10-21atm)という極めて低い酸素分圧を保つ必要がある(B.Lindblom and R .Rosen, Acta.Chem.Scand.A40, 452(1986))。
【0014】
このように、特定の酸化物や単結晶の形成の他、超伝導材料の製造等には、反応炉内等を極めて低い酸素分圧とする必要があり、より広範囲の金属を対象としてこれらの処理を行なうには、より低い酸素分圧を実現する必要がある。
【0015】
これに関し、特許文献2の装置では、酸素ポンプを備えたガス精製部と、精製されたガスを利用する処理装置とを巡る循環路において、ガス精製部から処理装置への供給路に複数のタンクを並列接続すると共に、処理装置側へ通じるタンクを切換手段によって選択できるようにしている。これにより、1つのタンクから精製ガスを供給している間に他のタンクに精製ガスを溜めながら、循環させることができ、高品質の精製ガスを処理装置に安定的に供給することができる。但し、この装置は、低酸素分圧の精製ガス供給の安定性に優れてはいるものの、例えば600℃において10-25Pa未満という超低圧の酸素分圧を実現することはできなかった。
【0016】
また、10-25Pa未満という従来不可能な低圧でなくても、これに近い超低酸素分圧のガスを得るためには、極めて高性能で高価な酸素ポンプを必要とし、酸素分圧制御装置全体の製造コストを高騰させていた。
【0017】
そこで、本発明は、このような従来技術が達成し得なかった超低酸素分圧の精製ガスを製造し得る酸素分圧制御装置を提供することを目的とする。
【0018】
本発明はまた、従来可能な低酸素分圧を得る上で製造コストを低廉化し得る酸素分圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記目的を達成するため、酸素分圧を制御したガスを精製するガス精製部と、精製ガスを用いる処理装置に前記ガス精製部から精製ガスを供給して該ガス精製部に環流させるための循環路と、該循環路中に設けられた循環用ポンプとを備え、前記ガス精製部は、酸素ポンプと水素ポンプとを備え、前記循環路が、前記ガス精製部及び前記循環用ポンプを経る共通流路と、該共通流路から、接続されるべき処理装置を経る流路を形成する作動流路と、該共通流路から、前記処理装置を経ない流路を形成するバイパス流路とを備えていることを特徴とする酸素分圧制御装置を提供するものである。
【0020】
本発明に係る酸素分圧制御装置おいては、ガス精製部及び循環用ポンプを設けた循環路中に、精製ガスを用いる処理装置が接続可能とされ、ガス精製部は、酸素ポンプと水素ポンプとをガス循環方向に直列に備えているので、以下の反応を得ることができる。不活性ガス(例えばアルゴン)中に僅かに含まれる酸素、水素及び水は、通常状態で以下の反応の平衡状態にある。
【0021】
【数1】

【0022】
この反応について、平衡定数をkp、各気体成分H2O,H2,O2の分圧をp(H2O),p(H2),p(O2)とすると、次の式が成立する。
【0023】
【数2】

【0024】
本発明によれば、酸素ポンプによる低い酸素分圧の限界値またはその近傍に達した目的ガスから、水素ポンプにより水素が除去されるので、式1において右方への反応が増進する。その結果、酸素ポンプの作用後の平衡状態は、水素ポンプの作用によって変化する。この状態で、目的ガスは循環路を経て再び酸素ポンプの作用を受けるので、より低い酸素分圧への平衡移動が可能となる。その結果、酸素ポンプ単独の作用によって得られる酸素分圧よりも低い酸素分圧を実現することができる。
【0025】
これには、次の反応が関係していると考えられる。酸素ポンプによって可能な酸素分圧の下限値またはその近傍に達した目的ガスから、水素ポンプにより水素が除去されると、式1において右方への反応が増進する。すなわち、水分子の分解により、水素と酸素が生成される。これにつれて、目的ガス中の酸素分圧が上昇を示す。しかし、循環路を経て再び酸素ポンプに到達した目的ガスは、下限値よりも上昇した酸素分圧から再度下限値またはその近傍まで酸素分圧を低下させられる。そして、さらに水素ポンプを経ることにより水素が除去され、これに伴って式1に示す水分子の分解、及び酸素分圧の上昇が生じる。
【0026】
こうして、精製部を循環し水分子の分解を伴いながら酸素分圧の上昇と低下を繰り返した目的ガスは、水分子の濃度が低減されたものとなる。その結果、酸素、水素及び水の絶対量が小さくなり、これに伴って相互間の反応確率が小さくなることから、式1に示す平衡反応の自由度が低下し、これに伴って酸素分圧も低下する。その結果、通常の平衡反応下で酸素ポンプ単独によって得られる酸素分圧よりもさらに低い超低酸素分圧が達成される。
【0027】
またこの超低圧酸素分圧ガスは、精製温度からさらに温度が上昇しても、式1の右方向への反応による酸素の発生量は少なくなる。こうして、温度上昇時の酸素分圧の増加が抑制され、高い処理温度においても超低圧の酸素分圧が実現される。
【0028】
したがって、現在実用化している酸素ポンプを水素ポンプと組み合わせて上記のガス精製部を構成することにより、従来達成されなかった超低酸素分圧の精製ガスを製造し得る酸素分圧制御装置を提供することができる。
或いは、従来可能な低酸素分圧を得る場合であれば、酸素ポンプを水素ポンプと組み合わせて上記ガス精製部を構成することにより、極めて高性能な酸素ポンプを必要とすることなく、より入手しやすい酸素ポンプを使用して低酸素分圧の精製ガスを製造できるので、製造コストを低廉化した酸素分圧制御装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明は、従来技術が達成し得なかった超低圧の酸素分圧の精製ガスを提供し得る酸素分圧制御装置を提供することができる。或いはまた本発明は、従来可能な低酸素分圧を得る上で製造コストを低廉化し得る酸素分圧制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る酸素分圧制御装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る酸素分圧制御装置を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る酸素分圧制御装置の作用を説明するためのグラフである。
【図4】従来の酸素分圧制御装置の一例を示すブロック図である。
【図5】固体電解質を用いた酸素ポンプの原理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る酸素分圧制御装置を示すブロック図である。この装置は、酸素分圧を制御したガスを精製するガス精製部1と、精製ガスを用いる処理装置Fにガス精製部から精製ガスを供給して該ガス精製部に環流させるための循環路4と、該循環路中に設けられた循環用ポンプ5とを備えている。
【0032】
循環路4は、ガス精製部1及び循環用ポンプを経る共通流路41と、該共通流路から、処理装置Fを経る作動流路42と、共通流路41から、処理装置Fを経ない流路を形成するバイパス流路43とを備えている。共通流路41の始端410は、装置外のガス供給源に接続されるようになっており、該供給源から不活性ガス等の原料ガスが供給される。
【0033】
ガス精製部1は、共通流路41の始端410のすぐ下流側から順に接続された制御弁11、レギュレータ(REG)12、マスフローコントローラ(MFC)13、酸素ポンプ21、酸素センサ22、水素ポンプ31、水素センサ32を備えている。
【0034】
制御弁11は、始端410からの原料ガス流と、共通流路41からの精製ガス流との切り換え及びガス流の遮断の制御をするようになっている。レギュレータ12は、酸素ポンプ、酸素センサ、水素ポンプ及び水素センサに接続された共通流路41の圧力を一定に保持し、マスフローコントローラ13は、制御弁11を通過した原料ガスの流量を設定値に制御する。
【0035】
酸素ポンプ21は、図5に示したのと同様に固体電解質、電圧印可機構等を備えた構成とされ、この実施形態では、酸化ジルコニウム製の筒体の内外面に白金の電極層を設け、直流電源の陰極を内側、陽極を外側に接続している。酸素センサ22は、酸素ポンプ21により制御された酸素分圧を検知して検知信号を発する。
【0036】
水素ポンプ31は、基本的な構成は酸素ポンプと同様であるが、固体電解質として水素伝導性のあるものを使用している。そのような固体電解質としては、例えば、アルミナ等を用いることができる。水素センサ32は、水素ポンプ31により制御された水素分圧を検知して検知信号を発する。
【0037】
レギュレータ12、マスフローコントローラ13、酸素ポンプ21、酸素センサ22は、各々酸素分圧制御部23に接続されている。酸素分圧制御部23は、酸素センサ22から送られた酸素分圧信号に基づいて、酸素ポンプ21の作動電流調節を行なうための制御信号を発信する。酸素分圧制御部23には、制御目標値等を設定するための酸素分圧設定部24、酸素センサ22により検知された酸素分圧を表示するための酸素分圧表示部25が接続されている。
【0038】
水素ポンプ31、水素センサ32は、各々水素分圧制御部33に接続されている。水素分圧制御部33は、水素センサ32から送られた水素分圧信号に基づいて、水素ポンプ31の作動電流を調節するための制御信号を発信する。水素分圧制御部33には、制御目標値等を設定するための水素分圧設定部34、水素センサ32により検知された水素分圧を表示するための水素分圧表示部35が接続されている。
【0039】
循環用ポンプ5は、水素分圧制御部33の下流に設けられ、循環路4全体のガス流の駆動源として作用する。この循環用ポンプ5は、例えばダイアフラムポンプ等とすることができる。循環用ポンプ5の下流には、制御弁61が設けられている。また、その下流側の作動流路42とバイパス流路43との合流点にも制御弁62が設けられている。これらの制御弁61,62により、共通流路41からのガス流を作動流路42とバイパス流路43とに切り換える操作が可能となっている。
【0040】
作動流路42の途中には処理装置Fが設けられる。処理装置Fは、目的とする処理に応じて種々のものが設けられ、例えば、結晶成長炉、焼結炉等とすることができる。
【0041】
この酸素分圧制御装置は、次のようにして使用される。目標とする酸素分圧及び水素分圧を各々、酸素分圧設定部24及び水素分圧設定部34に入力する。酸素ポンプ21及び水素ポンプ31は、所定温度に加熱し、所定の電圧を印加する。
【0042】
初期段階では、制御弁61,62により共通流路41からバイパス流路43に流れる循環経路とされる。この状態で、制御弁11を開き、循環用ポンプ5を作動させることにより、共通流路41の始端410から原料ガスを導入する。原料ガスは、短時間に目的とする酸素分圧に到達できるように、或る程度低い酸素分圧とされ、高純度ガス(酸素分圧が約10-2)程度の低酸素分圧とするのが望ましい。
【0043】
導入された原料ガスは、レギュレータ12、マスフローコントローラ13により圧力及び流量が制御され、酸素ポンプ21において酸素が除去されることにより酸素分圧が低下する。その酸素分圧は酸素センサ22により検知される。原料ガスはさらに水素ポンプ31において水素が除去され、水素分圧が水素センサ32により検知される。酸素センサ22及び水素センサ32により検知された酸素分圧及び水素分圧は、各々酸素分圧表示部25及び水素分圧表示部35に表示される。
【0044】
こうしてガスはバイパス流路43から再び共通流路41へと流れ、酸素ポンプ21及び水素ポンプ31による酸素除去及び水素除去が繰り返される。酸素分圧制御部23及び水素分圧制御部33は、検知された酸素分圧及び水素分圧と、酸素分圧設定部24及び水素分圧設定部34によって設定された目標値との比較に基づいて、各々の作動電流を調節し、繰り返される循環に基づいて、酸素分圧及び水素分圧を目標値に近づけて行く。ガスは、酸素ポンプ21の作用により酸素分圧の下限値またはその近傍に達した後、水素ポンプにより水素が除去される結果、酸素ポンプの作用後の平衡状態が変化し、その状態で、循環路を経て再び酸素ポンプの作用を受けるので、より低い酸素分圧への平衡移動が可能となる。その結果、酸素ポンプ単独の作用によって得られる酸素分圧よりも低い酸素分圧(目標値)に到達させることができる。
【0045】
例えば、酸素ポンプ21及び水素ポンプ31の作動温度を600℃とし、最終的な精製ガスの酸素分圧10-31Pa(10-36atm)の超低酸素分圧ガスを得る場合は、単独使用で10-25Pa以下であって10-31Paに達しない酸素分圧達成能力を有する酸素ポンプと、10-13Pa以下の水素分圧達成能力を有する水素ポンプとを組み合わせてガス精製部に用いるのが望ましい。これにより、酸素ポンプ単独では実現し得ない10-31Pa(または操作条件によってはそれ以下)の超低酸素分圧が、確実且つ安定的に得られる。
【0046】
また、上記最終酸素分圧またはそれ以下の酸素分圧を得るためには、単独使用で10-30Pa以下であって目標酸素分圧に達しない酸素分圧達成能力を有する酸素ポンプと、10-15Pa以下の水素分圧達成能力を有する水素ポンプとを組み合わせてガス精製部に用いることもできる。
【0047】
同様の観点から、得ようとする最終酸素分圧が上記より高い場合には、単独使用で10-15Pa〜10-25Paの酸素分圧達成能力を有する酸素ポンプと、10-5Pa〜10-13Paの水素分圧達成能力を有する水素ポンプとを組み合わせてガス精製部に用いることにより、その酸素ポンプ単独では実現し得ない低酸素分圧を、確実且つ安定的に得ることができる。
【0048】
この目標値に到達したところで、制御弁61,62を切り換えて、ガス流を共通流路41から作動流路42を流れる循環経路とする。これにより、所定酸素分圧のガスは、処理装置Fへと流れ、処理装置Fにおいて目的とする処理が行なわれる。
【0049】
例えば、処理装置Fを金属単結晶の形成炉とした場合は、本発明によって得られる超低酸素分圧の不活性ガス(例えばアルゴンガス)の下で、以下の金属単結晶の形成が可能となる。酸素ポンプ21の作動温度を600℃とした場合、従来技術によれば、酸素分圧10-25Pa(10-30atm)を得ることができる。しかしながら、金属の溶融温度に達すると、平衡状態が変化することにより、酸素分圧が上昇する。これについては、従来技術の説明の項で参照した図3のグラフが、温度による酸素分圧の変動と金属酸化物の解離圧との関係を示している。
【0050】
例えば、鉄の酸化物を対象とする場合、600℃で、従来技術で可能な酸素分圧10-25Paであった酸素分圧(点p1)は、曲線L1で示すように、鉄の溶融温度1535℃では、約10-10Paとなる。前述のように、この酸素分圧は、鉄の融点での酸素解離圧(約10-5Pa)より低いので、鉄の酸化物から酸素を分離して純鉄の単結晶を形成することができる。
【0051】
また、600℃において10-25Paの酸素分圧のガスは、ヴァナジウムの融点(1902℃)付近では約10-7Paとなる。この酸素分圧は、ヴァナジウムの融点での酸素解離圧とほぼ同等であるので、ヴァナジウムの酸化物から純ヴァナジウムの単結晶を形成することは、一応可能であるが、能力限界に近いため高い結晶品質を安定的に得るのに困難を伴う。
【0052】
これに対し、本発明により、600℃で、10-31Paの酸素分圧(点p2)を得れば、曲線L2で示すように、ヴァナジウムの融点付近でも約10-13Paの酸素分圧が維持される。この酸素分圧は、ヴァナジウムの融点での酸素解離圧より十分に低いので、純ヴァナジウムの単結晶を安定的に効率よく形成することが可能となる。
【0053】
さらに、本発明により、600℃で、10-35Paの酸素分圧(点p3)を得れば、曲線L3で示すように、チタンの融点(1668℃)付近でも約10-14Paの酸素分圧が維持される。この酸素分圧は、チタンの融点での酸素解離圧とほぼ同等であるので、チタン酸化物から純チタンの単結晶を形成することも可能となる。
【0054】
図1の実施形態に係る酸素分圧制御装置は、酸素ポンプと水素ポンプとがガスの循環路に対して直列に接続されている。したがって、循環するガスは、必ず両ポンプを通って酸素分圧及び水素分圧の調整を受けることになるので、正確なガス圧制御が可能である。この場合、酸素ポンプと水素ポンプとは、いずれを上流側にして配置することもできる。但し、分圧低減能力の高いポンプを上流側に配置するのが望ましい。これにより、ガスがガス精製部を最初に通過する際に、分圧を大きく下げて次のポンプに流すことができ、分圧低減効率が良好となる。
【0055】
図2は、本発明の他の実施形態に係る酸素分圧制御装置を示すブロック図である。図1の直列配置と異なり、図2実施形態においては、酸素ポンプと水素ポンプとがガスの循環路に対して並列に接続されている。
【0056】
すなわち、原料ガスの供給を受ける始端410から制御弁11を経た共通流路41は、2つの分岐路41a,41bに分かれ、分岐路41aには、上流側からレギュレータ12a、マスフローコントローラ13a、酸素ポンプ21、酸素センサ22が順に接続されている。また、分岐路41bには、上流側からレギュレータ12b、マスフローコントローラ13b、水素ポンプ31、水素センサ32が順に接続されている。
【0057】
分岐路41a,41bは、上記要素を経た後、共通流路41へと合流し、循環用ポンプ5に接続されている。これら各要素の構成及びこれら以外の要素の構成は図1の実施形態と同じである。
【0058】
図2の実施形態においては、酸素ポンプ21及び水素ポンプ31を経る際のガス圧低下が分岐路中で独立して生じ、その後に共通流路で合流する。したがって、酸素ポンプ及び水素ポンプ31を経る毎に加算的にガス圧低下を伴う直列接続の場合に比べて、循環毎のガス圧低下が小さい。したがって、より多量のガスを循環させるのが容易であり、これにより製造効率を上げることができる。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、酸素分圧が目標値よりも低くなった場合には、固体電解質に印加する電圧の極性を逆にして酸素ポンプ内に酸素を取り込むことにより、目標値の酸素分圧を得ることができる。また、初期段階では酸素ポンプのみを稼働させ、目標とする酸素分圧に接近した段階で水素ポンプを作動させてもよい。さらに、従来技術の説明で述べた複数のタンクを並設した循環路を形成し、目的ガスを処理装置に供給をするタンクと貯留するタンクを選択的に切り換える制御をすれば、より安定した供給を可能とすることができる。
【符号の説明】
【0060】
1: ガス精製部
4: 循環路
5: 循環用ポンプ
11: 制御弁
21: 酸素ポンプ
31: 水素ポンプ
41: 共通流路
42: 作動流路
43: バイパス流路
F: 処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素分圧を制御したガスを精製するガス精製部と、精製ガスを用いる処理装置に前記ガス精製部から精製ガスを供給して該ガス精製部に環流させるための循環路と、該循環路中に設けられた循環用ポンプとを備え、前記ガス精製部は、酸素ポンプと水素ポンプとを備え、前記循環路が、前記ガス精製部及び前記循環用ポンプを経る共通流路と、該共通流路から、接続されるべき処理装置を経る流路を形成する作動流路と、前記共通流路から、前記処理装置を経ない循環のための流路を形成するバイパス流路とを備えていることを特徴とする酸素分圧制御装置。
【請求項2】
前記酸素ポンプと水素ポンプ31とがガス循環方向に直列に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の酸素分圧制御装置。
【請求項3】
前記酸素ポンプと水素ポンプ31とがガス循環方向に並列に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の酸素分圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−178627(P2011−178627A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45582(P2010−45582)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000110859)キヤノンマシナリー株式会社 (179)
【Fターム(参考)】