説明

酸素富化空気の製造装置

【課題】 ゼオライトなどの窒素吸収用吸着剤を利用して空気から酸素富化空気を製造するにあたり、空気中の水分の影響を受けず、長期間にわたって安定して酸素富化空気を製造することのできる酸素富化空気の製造装置を提供する。
【解決手段】 本発明の酸素富化空気の製造装置1は、軸心3を中心として回転可能であり、複数の仕切板によって分割された円筒型容器2と、分割された各部分に配置された窒素吸収用吸着剤5と、分割された各部分に窒素吸収用吸着剤を挟んで相対して配置された一対の水分吸収用吸着剤6,7と、円筒型容器を挟んで円筒型容器の両側に配置された一対の接続管体8,9と、接続管体の内部を少なくとも2分する分離板10と、該分離板の先端に配置されたシール板11と、円筒型容器に対してそれぞれ反対側の方向から空気を供給するための空気供給手段と、この空気を排出するための空気排出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の窒素成分を除去することによって空気から酸素富化空気を製造する酸素富化空気製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鉱石から溶銑を製造する高炉へ吹き込まれる空気、或いは廃棄物の焼却炉や溶融炉などへ吹き込まれる空気は、燃焼効率を上げるために、酸素濃度を増加させた酸素富化空気が吹き込まれることが多い。従来の酸素富化空気の製造方法は、深冷分離法、PSA(Pressure Swing Adsorption)法などによって、ほぼ100%濃度の高純度の酸素を製造し、これを空気に混合して希釈し、所望する酸素濃度の酸素富化空気を製造していた。しかしながら、深冷分離法、PSA法を用いて純酸素を製造し、この純酸素を空気で希釈して酸素富化空気を製造する方法では、高純度の酸素を製造する際に大きな動力を必要とし、使用する酸素富化空気の酸素濃度は低濃度であるにも拘わらず、結果的に大きな動力が必要となっていた。
【0003】
この問題を解決するべく特許文献1には、円筒型容器に窒素吸収用吸着剤であるゼオライトを充填させ、温度の低下に伴って窒素の吸着量が増加するというゼオライトの窒素吸収能力を利用し、前記円筒型容器の中心を軸として回転させ、回転する円筒型容器に温度の異なる2つの空気をそれぞれ独立して供給し、温度の低い側の空気の窒素をゼオライトで吸収し、吸収した窒素を温度の高い側の空気に放出し、これを連続して行うことにより、温度の低い側の空気の酸素富化を行う技術が提案されている。
【0004】
特許文献1によれば、ゼオライトに温度の高い空気を流すことによって窒素がゼオライトに飽和しないので、長期にわたり連続的に運転することができ、酸素富化空気の製造にあたり、動力の大幅な低下が可能になるとしている。
【特許文献1】特開2001−70736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には以下の問題点がある。
【0006】
即ち、ゼオライトは窒素を吸収するための有力な吸着剤であるが、水分の吸着剤でもある。従って、ゼオライトが充填された円筒型容器に空気を流した場合、空気中の水分を吸収しながら窒素を吸収することになる。この吸収した水分をゼオライトから効率的に放出しない限り、吸収した水分によってゼオライトの吸収能は低下し、ゼオライトは、水分吸収用吸着剤としての機能のみならず、窒素吸収用吸着剤としての機能を消滅する。
【0007】
特許文献1では、ゼオライトが充填された円筒型容器に、温度の異なる2つの空気をそれぞれ独立して供給しているが、これら2つの空気は脱水分処理を行っておらず、温度こそ異なるものの基本的に水分濃度が同等であり、従って、ゼオライトから水分を除去する作用は働かず、ゼオライトは水分を吸収し続け、やがて水分吸収用吸着剤及び窒素吸収用吸着剤としての機能が停止する。つまり、特許文献1では、ゼオライトが水分を吸収することに起因して、長期間にわたって酸素富化空気を製造することができないという問題点がある。
【0008】
また、円筒型容器に温度の異なる空気をそれぞれ分離して供給しなければ、酸素富化空気の製造効率が低下するし、円筒型容器から排出される酸素富化した空気を回収する際に、大気が混合した場合には所望する酸素濃度の酸素富化空気を得ることができない。特許文献1では、温度の異なる空気をどのように分離して円筒型容器に供給するのか、また、酸素富化空気を回収する際に大気を混合させないためにどのようにするのか、これらの対策が何ら記載されておらず、実機化は困難と言わざるを得ない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ゼオライトなどの窒素吸収用吸着剤を利用して空気から酸素富化空気を製造するにあたり、空気中の水分の影響を受けず、長期間にわたって安定して酸素富化空気を効率良く製造することのできる酸素富化空気の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための第1の発明に係る酸素富化空気の製造装置は、軸心を中心として回転可能であり、複数の仕切板によってその内部を半径方向に且つ全長にわたって分割された円筒型容器と、該円筒型容器の内部の分割された各部分に配置された窒素吸収用吸着剤と、前記円筒型容器の内部の分割された各部分に、前記窒素吸収用吸着剤を挟んで相対して配置された一対の水分吸収用吸着剤と、前記円筒型容器の端部全周と密接するフランジ部を有し、前記円筒型容器を挟んで該円筒型容器の両側に配置された一対の接続管体と、該接続管体の内部を少なくとも二分割する分離板と、該分離板の円筒型容器側の先端に配置され、少なくとも該分離板よりも断面積が大きい、前記仕切板に密接するシール板と、前記円筒型容器に対してそれぞれ反対側の方向から、前記接続管体の内部を通って水分吸収用吸着剤、窒素吸収用吸着剤、水分吸収用吸着剤の順に通過する空気を供給するための空気供給手段と、該空気供給手段によって供給され、前記円筒型容器を通過して前記接続管体の内部に流入した空気を排出するための空気排出手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0011】
第2の発明に係る酸素富化空気の製造装置は、第1の発明において、前記窒素吸収用吸着剤は、圧力の増加に伴って窒素の吸着量が増加する窒素吸収用吸着剤であって、前記接続管体を介して前記窒素吸収用吸着剤に対してそれぞれ反対側の方向から供給される空気は、それぞれ圧力が異なることを特徴とするものである。
【0012】
第3の発明に係る酸素富化空気の製造装置は、第1の発明において、前記窒素吸収用吸着剤は、温度の低下に伴って窒素の吸着量が増加する窒素吸収用吸着剤であって、前記接続管体を介して前記窒素吸収用吸着剤に対してそれぞれ反対側の方向から供給される空気は、それぞれ温度が異なることを特徴とするものである。
【0013】
第4の発明に係る酸素富化空気の製造装置は、第1の発明において、前記窒素吸収用吸着剤は、圧力の増加及び温度の低下に伴って窒素吸着量が増加する窒素吸収用吸着剤であって、前記接続管体を介して前記窒素吸収用吸着剤に対してそれぞれ反対側の方向から供給される空気は、他方に比べて相対的に圧力が高く且つ温度が低くなるように調整した、それぞれ圧力及び温度が異なることを特徴とするものである。
【0014】
第5の発明に係る酸素富化空気の製造装置は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記シール板は、前記仕切板で分割された円筒型容器の2つ以上の領域を遮蔽することを特徴とするものである。
【0015】
第6の発明に係る酸素富化空気の製造装置は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、更に、前記円筒型容器の端部と前記接続管体のフランジ部との間には、ラビリンス状のシール機構が設置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、窒素吸収用吸着剤を挟んでその両側に水分吸収用吸着剤を配置し、これらの吸着剤に対して各々反対側の方向から空気を供給し、水分吸収用吸着剤、窒素吸収用吸着剤、水分吸収用吸着剤の順に通過させるので、供給された空気は先ず脱水分処理が施され、水分が除去された後に窒素吸収用吸着剤に接触するので、窒素吸収用吸着剤は水分の影響を受けることなく、供給される空気から窒素を吸着し、吸収した窒素を反対側から供給される空気に放出する。つまり、窒素吸収用吸着剤は、水分の影響を受けることなく、長期間にわたって連続的に窒素の吸着及び放出を遂行する。
【0017】
また、水分吸収用吸着剤は、一方の側から供給される空気に接触し、この空気に含まれる水分を吸着するが、反対側から供給される空気は、窒素吸収用吸着剤を挟んで相対して設けた他方の水分吸収用吸着剤によって既に水分が除去された乾燥状態であり、水分を吸着した水分吸収用吸着剤は、水分が除去された乾燥状態の空気と接触するので、吸着した水分を乾燥状態の空気に放出し、水分吸収用吸着剤中の水分吸着量は減少する。つまり、水分吸収用吸着剤は水分の吸着と放出とを繰り返し行うので、水分吸収用吸着剤も長期間にわたって連続的にその機能を遂行する。
【0018】
また更に、円筒型容器の内部を仕切板で分割し、この仕切板に密接するシール板を配置するので、互いに逆方向から供給される空気の混合が防止され、効率良く酸素富化空気を製造することができる。
【0019】
即ち、本発明によれば、空気中の水分の影響を受けず、長期間にわたって安定して、大きな動力を必要とせずに酸素富化空気を効率良く製造することができ、工業上有益な効果がもたらされるのみならず、CO2の発生量も削減され、自然環境上においても有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る酸素富化空気製造装置の概略斜視図、図2は、図1に示す酸素富化空気製造装置の部分断面概略図、図3は、図1に示す酸素富化空気製造装置の一部分を構成する円筒型容器の端部の概略図であり、(A)は概略斜視図、(B)は円筒型容器の軸心方向から見た概略図である。
【0021】
図1〜3に示すように、本発明に係る酸素富化空気製造装置1には、軸心3を中心として電動機(図示せず)により回転可能な円筒型容器2が配置され、この円筒型容器2の両方の端面(開口部)側には、この円筒型容器2を挟み、軸心3の方向に相対して、円筒型容器2の一方の端部全周と密接するフランジ部8aを有する第一の接続管体8と、円筒型容器2の他方の端部全周と密接するフランジ部9aを有する第二の接続管体9とが、配置されている。第一の接続管体8及び第二の接続管体9は回転せずに固定されている。そして、第一の接続管体8には、第一の空気供給管12と第二の空気排出管15とが接続され、一方、第二の接続管体9には、第一の空気排出管13と第二の空気供給管14とが接続されている。この場合、第一の空気供給管12の軸心延長方向の同一個所に第一の空気排出管13が配置され、また、第二の空気供給管14の軸心延長方向の同一箇所に第二の空気排出管15が配置されている。
【0022】
第一の接続管体8及び第二の接続管体9の内部には、それぞれの接続管体のほぼ中心線を通る位置に、水平方向の分離板10がそれぞれ設置されており、この分離板10によって第一の接続管体8及び第二の接続管体9の内部が2つの領域に分割されている。第一の接続管体8では、分離板10によって分割された一方の領域に第一の空気供給管12が連通し、分離板10によって分割された他方の領域に第二の空気排出管15が連通している。同様に、第二の接続管体9では、分離板10によって分割された一方の領域に第一の空気排出管13が連通し、分離板10によって分割された他方の領域に第二の空気供給管14が連通している。つまり、図2において、第一の空気供給管12に供給された空気は、第一の接続管体8、円筒型容器2、第二の接続管体9の順に通過し、第一の空気排出管13に排出するようになっている。一方、第二の空気供給管14に供給された空気は、第二の接続管体9、円筒型容器2、第一の接続管体8の順に通過し、第二の空気排出管15に排出するようになっている。
【0023】
本発明に係る酸素富化空気製造装置1においては、このように空気を逆向き方向に流すことを必須条件とする。但し、円筒型容器2は、軸心3を中心として連続的或いは断続的に回転しており、接続管体8,9及び分離板10との間に回転を許容するための間隙を確保する必要があり、従って、第一の空気供給管12から供給された空気の全てが第一の空気排出管13から排出するわけではなく、同様に、第二の空気供給管14から供給された空気の全てが第二の空気排出管15から排出するわけではなく、一部分の空気は相互に混合する。本発明においては一部分の空気の混合は問題としないものの、酸素富化空気を効率良く製造するためには、混合は少なければ少ないほど好ましく、両者の混合を極力少なくすることが重要となる。
【0024】
そこで、本発明に係る酸素富化空気製造装置1においては、円筒型容器2の内部を、図3に示すように、軸心3から半径方向に放射状に伸びる仕切板4によって複数に仕切るとともに、第一の接続管体8及び第二の接続管体9に設置された分離板10の円筒型容器側の先端部に、仕切板4に密接するようにして、少なくとも分離板10よりも断面積を大とするシール板11を配置している。つまり、仕切板4とシール板11とは、両者の間で、回転を許容するための間隙を保ちつつ、分離板10によって分離された雰囲気の混合を抑制するためのシール効果を担っている。尚、本発明においては、仕切板4によって仕切られた各領域を「ユニット」と称している。
【0025】
そして、仕切板4は、円筒型容器2の全長にわたって配置されている。つまり、各ユニットは、互いに行き交うことなく、円筒型容器2の一方の端部から他方の端部まで連通している。上記のように、仕切板4は、シール板11との間で、回転を許容するための間隙を確保しつつ、雰囲気の混合を抑制するためのシール効果を担っており、そのためには、仕切板4の先端とシール板11との間隙を狭くすることが好ましく、この間隙を狭くするためには、仕切板4の先端位置を精度良く調整する必要があり、従って、加工精度が高いことから仕切板4は金属製とすることが好ましい。同様に、シール板11も金属製とすることが好ましい。但し、これらをセラミック製や合成樹脂製などとしても構わない。この場合、仕切板4は、円筒型容器2の剛性を確保するための補強材としても機能している。
【0026】
シール板11の大きさは特に規定する必要はないが、円筒型容器2は回転しており、雰囲気の混合をより一層抑制するためには、シール板11は、軸心3を中心としたときのシール板11の片側で、前記ユニットを常時2つ以上遮蔽することのできる大きさとすることが好ましい。
【0027】
仕切板4によって仕切られた各ユニットには、円筒型容器2の軸心方向中央部に窒素吸収用吸着剤5が充填され、この窒素吸収用吸着剤5を挟んでその両側に、水分吸収用吸着剤6及び水分吸収用吸着剤7が充填されている。窒素吸収用吸着剤5、水分吸収用吸着剤6及び水分吸収用吸着剤7を各ユニットに充填するにあたり、これらの吸着剤を、金網、ネットなどで梱包して各ユニットに装入してもよく、また、これらの吸着剤を塗布したハニカムを各ユニットに装入してもよい。
【0028】
図4に、吸着剤を塗布したハニカム構造体を円筒型容器2の各ユニットに装入した例を示す。つまり、仕切板4で仕切られた各ユニットに、表面に窒素吸収用吸着剤5が塗布されたハニカム構造体18を配置する。図4は、円筒型容器2の軸心方向中央部の窒素吸収用吸着剤5が配置される部位を示しているが、その両側の、水分吸収用吸着剤6及び水分吸収用吸着剤7が配置される部位では、ハニカム構造体18の表面に、窒素吸収用吸着剤5に替えて水分吸収用吸着剤6,7を塗布する。窒素吸収用吸着剤5及び水分吸収用吸着剤6,7での圧力損失を低減するためには、これらの吸着剤を、円筒型容器2の内部に充填せずに、ハニカム構造体18に塗布することが好ましいが、窒素吸収用吸着剤5及び水分吸収用吸着剤6,7をハニカム構造体18の表面に厚く塗布することは難しく、必要量を塗布するためにはハニカム構造体18の形状が大きくなり、経済性を損なう場合もあるので、ハニカム構造体18を採用する場合には、その点を考慮する必要がある。尚、図4は、図1に示す酸素富化空気製造装置の一部分を構成する円筒型容器の内部構造の例を示す概略図であり、(A)が円筒型容器2の斜視図、(B)がハニカム構造体18の拡大図である。
【0029】
窒素吸収用吸着剤5としては、ゼオライトを用いることが好ましい。尚、ゼオライトとは、結晶性無機酸化物であり、具体的には、結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性アルミノホスフェート、結晶性メタロアルミノホスフェートなどで構成された結晶性マイクロポーラス物質である。水分吸収用吸着剤6及び水分吸収用吸着剤7としては、シリカゲルなどの慣用の水分吸収用吸着剤を使用することができる。
【0030】
第一の空気供給管12若しくは第一の空気排出管13または両者には、空気を供給するまたは吸引するための送風機(図示せず)が配置され、同様に、第二の空気供給管14若しくは第二の空気排出管15または両者には、空気を供給するまたは吸引するための送風機(図示せず)が配置されている。即ち、円筒型容器2に対してそれぞれ反対側の方向から空気を供給するための空気供給手段の一方側として、第一の空気供給管12と、この第一の空気供給管12に配置される供給用の送風機とが配置され、空気供給手段の他方側として、第二の空気供給管14と、この第二の空気供給管14に配置される供給用の送風機とが配置されている。また、この2つの空気供給手段により供給され、円筒型容器2を通過した空気を排出するための空気排出手段の一方側として、第一の空気排出管13と、この第一の空気排出管13に配置される吸引用の送風機とが配置され、空気排出手段の他方側として、第二の空気排出管15と、この第二の空気排出管15に配置される吸引用の送風機とが配置されている。但し、この場合に、前述したように、供給用の送風機と吸引用の送風機の双方を同一流路に配置する必要はなく、どちらかの片方のみとしてもよい。このようにして、空気供給手段及び空気排出手段が構成されている。これらの空気供給手段及び空気排出手段によって、円筒型容器2へ空気が供給され、且つ、円筒型容器2から排出される空気が所定の場所に導かれる。
【0031】
また更に、本発明に係る酸素富化空気製造装置1においては、円筒型容器2と第一の接続管体8との間隙、及び、円筒型容器2と第二の接続管体9との間隙からの大気の流入或いは大気への流出を抑制するために、円筒型容器2の端部とこれら接続管体のフランジ部8a,9aとの間に、シール機構を設置することが好ましい。好ましいシール機構の構成を図5に示す。
【0032】
図5において、円筒型容器2の端部2aには、端部2aの外周に沿って溝2cが設けられており、この溝2cの内部に、取付部材17によって第一の接続管体8のフランジ部8aに取り付けられたシール用ゴム材16が挿入されている。このシール用ゴム材16は、例えば、円筒型容器2の内部の圧力が大気圧よりも高い場合には、図5(A)に示すように、溝2cの内部で変形してフランジ部8aの側とは反対側に押し付けられ、一方、円筒型容器2の内部の圧力が大気圧よりも低い場合には、シール用ゴム材16は、図5(B)に示すように、溝2cの内部でフランジ部8aの側に押し付けられ、何れも、大気との遮断効果を発揮する。
【0033】
但し、円筒型容器2の内部の圧力が大気圧と同一の場合には、シール用ゴム材16は変形せず、シール機能を発揮しない。従って、使用する窒素吸収用吸着剤5としては、圧力の増加に伴って窒素の吸着量が増加する吸着剤を使用することが好ましい。つまり、大気圧よりも高くした状態で窒素を吸収させ、大気圧よりも低くした状態で窒素を放出させることによって、シール用ゴム材16によるシール効果が発揮される。尚、図5に示すシール機構は、所謂「ラビリンス(迷路)状のシール機構」と呼ばれているものである。また、図5は、円筒型容器2と第一の接続管体8とのシール機構を説明したが、円筒型容器2と第二の接続管体9との間隙も同様に実施すればよい。
【0034】
このようにして本発明に係る酸素富化空気製造装置1が構成されている。この酸素富化空気製造装置1を用い、以下のようにして空気から酸素富化空気を製造する。
【0035】
先ず、窒素吸収用吸着剤5として用いるゼオライトの窒素吸着能について説明する。図6は、ゼオライトの窒素吸着量と圧力との関係を定性的に示す図で、図7は、ゼオライトの窒素吸着量と圧力及び温度との関係を定性的に示す図である。
【0036】
図6に示すように、ゼオライトは圧力が高くなるほど窒素吸着量が増加する性質があり、圧力P1の雰囲気下で空気をゼオライトに接触させると、ゼオライトは吸着量がC1値となるまで窒素を吸着する。これにより、空気の窒素は減少し、窒素が減少した分に相当するだけ酸素富化が行われる。一方、圧力P2(P2<P1)ではゼオライトの窒素吸着量はC2値に低下するので、C1値まで吸着していたゼオライトは、圧力P2の空気に触れると吸着していた窒素を放出し、ゼオライトの吸着量はC1値からC2値まで低下する。窒素が放出された空気の窒素含有量は増加し、窒素富化が行われる。
【0037】
つまり、ゼオライトに圧力の異なる空気を接触させることで、圧力差により定まる窒素吸着量の差に応じて、相対的に圧力の高い空気の酸素富化が行われ、一方、相対的に圧力の低い空気の窒素富化が行われる。ゼオライトに圧力の異なる空気を交互に接触させることで、ゼオライトは窒素の吸着と放出とを繰り返し行い、窒素吸着量が飽和状態のままで留まることはなく、半永久的に酸素富化が行われる。
【0038】
また、図7に示すように、ゼオライトは温度によっても窒素吸着量が異なり、圧力が一定であっても、温度の低下に伴って窒素吸着量が増加する。つまり、圧力をP3の一定値として、温度T2よりも低温の温度T1の空気をゼオライトに接触させると、ゼオライトは吸着量がC3値となるまで窒素を吸収する。これにより、空気の窒素は減少し、窒素が減少した分に相当するだけ酸素富化が行われる。一方、温度T2ではゼオライトの窒素吸着量はC4値に低下するので、ゼオライトは、温度T2の空気に触れると吸着していた窒素を放出し、ゼオライトの吸着量はC3値からC4値まで低下する。窒素が放出された空気の窒素含有量は増加し、窒素富化が行われる。
【0039】
つまり、ゼオライトに温度の異なる空気を接触させることで、温度差により定まる窒素吸着量の差に応じて、相対的に温度の低い空気の酸素富化が行われ、一方、相対的に温度の高い空気の窒素富化が行われる。ゼオライトに温度の異なる空気を交互に接触させることで、ゼオライトは窒素の吸着と放出とを繰り返し行い、窒素吸着量が飽和状態のままで留まることはなく、半永久的に酸素富化が行われる。
【0040】
この場合、酸素富化する側の空気の圧力を高め且つ温度を低くすることで、図7からも伺い知れるように、ゼオライトの窒素吸着量の差はより大きくなり、酸素富化を効率的に行うことが可能となる。
【0041】
次に、このようなゼオライトの窒素吸着能を利用して、空気から酸素富化空気を製造する方法を説明する。
【0042】
即ち、図2において、円筒型容器2を、軸心3を中心として連続的或いは断続的に回転させながら、第一の空気供給管12から供給する空気の圧力を、第二の空気供給管14から供給する空気の圧力よりも高くするか、または、第一の空気供給管12から供給する空気の温度を、第二の空気供給管14から供給する空気の温度よりも低くするか、或いは、第一の空気供給管12から供給する空気を、第二の空気供給管14から供給する空気に比べて圧力を高く温度を低くして、第一の空気供給管12及び第二の空気供給管14から空気を供給する。供給する空気の圧力調整は、例えば、空気を送風するための送風機の吐出圧力の調整などによって行い、供給する空気の温度調整は、供給配管にヒーターなどを設置することによって行うことができる。この場合、前述したように、シール用ゴム材16によるシール効果を発揮させるために、第一の空気供給管12から供給する空気と第二の空気供給管14から供給する空気とで少なくとも圧力を変えることが好ましい。
【0043】
第一の空気供給管12から供給された空気は、円筒型容器2に充填された水分吸収用吸着剤6と接触して水分が除去され(「脱水分処理」という)、脱水分処理された空気は、次いで窒素吸収用吸着剤5と接触する。ここで、第一の空気供給管12から供給された空気は、第二の空気供給管14から供給された空気に比較して圧力が高い、または温度が低い、或いは圧力が高く温度が低いので、ゼオライトなどからなる窒素吸収用吸着剤5によって窒素が吸着され、窒素が減少して、酸素富化が行われる(「脱窒素処理」という)。脱窒素処理は「酸素富化処理」ともいう。
【0044】
一方、第二の空気供給管14から供給された空気は、円筒型容器2に充填された水分吸収用吸着剤7と接触して脱水分処理が施され、脱水分処理された空気は、次いで窒素吸収用吸着剤5と接触する。第二の空気供給管14から供給された空気は、第一の空気供給管12から供給された空気に比較して圧力が低い、または温度が高い、或いは圧力が低く温度が高いので、この空気と接触することによってゼオライトなどからなる窒素吸収用吸着剤5の窒素吸着量が低下し、窒素吸着量の差分の窒素が第二の空気供給管14から供給された空気に放出される。これにより、第二の空気供給管14から供給された空気の窒素濃度が増加する(「窒素富化処理」という)。このようにすることで、窒素吸収用吸着剤5は窒素吸着量が飽和状態のままで留まることはなく、連続して窒素の吸着・放出を遂行する。
【0045】
その後、第二の空気供給管14から供給され、窒素富化処理された空気は、水分吸収用吸着剤6と接触する。水分吸収用吸着剤6は第一の空気供給管12から供給された空気と接触し、この空気に含まれる水分を吸着しているが、第二の空気供給管14から供給された空気は、水分吸収用吸着剤7によって既に水分が除去された乾燥状態の空気であるので、水分吸収用吸着剤6に吸着した水分は、第二の空気供給管14から供給された空気に放出され、この空気の水分濃度は上昇する(「水分富化処理」という)。つまり、水分吸収用吸着剤6は水分吸着量が飽和状態のままで留まることはなく、連続して水分の吸着・放出を遂行する。
【0046】
同様に、第一の空気供給管12から供給され、脱窒素処理つまり酸素富化処理された空気は、その後、水分吸収用吸着剤7と接触する。水分吸収用吸着剤7は、第二の空気供給管14から供給された空気と接触してこの空気に含まれる水分を吸着しているが、第一の空気供給管12から供給された空気は、水分吸収用吸着剤6によって既に水分が除去された乾燥状態の空気であるので、水分吸収用吸着剤7に吸着した水分は、第一の空気供給管12から供給された空気に放出される。つまり、水分吸収用吸着剤7も水分吸着量が飽和状態のままで留まることはなく、連続して水分の吸着・放出を遂行する。
【0047】
円筒型容器2の回転数は、各吸着剤の吸着量が飽和吸着量に達しないうちに180度回転(半回転)するように、各吸着剤の吸着能力に応じて設定すればよい。
【0048】
このように、本発明に係る酸素富化空気製造装置1によれば、窒素吸収用吸着剤5を挟んでその両側に水分吸収用吸着剤6及び水分吸収用吸着剤7を配置し、これらの吸着剤に対して各々反対側の方向から空気を供給するので、窒素吸収用吸着剤5は水分の影響を受けることなく、供給される空気から窒素を吸収するとともに吸収した窒素を反対側から供給される空気に放出し、また、水分吸収用吸着剤6及び水分吸収用吸着剤7は水分の吸着及び放出を交互に繰り返して行い、それにより窒素吸収用吸着剤5、水分吸収用吸着剤6及び水分吸収用吸着剤7の吸着量は飽和状態のままで留まることはなく、長期間にわたって連続的に酸素富化空気を製造することが可能となる。
【0049】
また、本発明に係る酸素富化空気製造装置1を用いて効率良く酸素富化処理を行うためには、第一の空気供給管12から供給された空気と、第二の空気供給管14から供給された空気との、円筒型容器2の端部での混合を少なくすること、及び、円筒型容器2と第一の接続管体8及び第二の接続管体9との間隙における酸素富化空気の流出を防止すること或いは大気の吸い込みを防止することが重要である。
【0050】
そこで、本発明の酸素富化空気製造装置1では、円筒型容器2の内部に仕切板4を配置し、この仕切板4の端部とシール板11とを密接させている。つまり、回転する円筒型容器2のシール面を、機械加工可能な単純な仕切板4で構成しているので、回転体である円筒型容器2と固定体であるシール板11との隙間を、精度良く製作可能であり、酸素富化空気製造装置1の性能低下をもたらす流通気体の混合を大幅に削減することができる。また、円筒型容器2と第一の接続管体8との間隙、及び、円筒型容器2と第二の接続管体9との間隙に、シール用ゴム材16を用いたシール機構を設置した場合には、酸素富化空気の流出及び大気の吸い込みが防止され、より一層効率良く酸素富化空気を製造することが可能となる。
【0051】
尚、上記説明では分離板10によって第一の接続管体8及び第二の接続管体9を二分割しているが、本発明においては、第一の接続管体8及び第二の接続管体9の内部を少なくとも二分割すればよく、何らかの目的に対応するべく分離板10の形状を変え、三分割以上としても構わない。また、分離板10も水平方向に設置する必要はなく、第一の接続管体8及び第二の接続管体9に設置される分離板10のそれぞれが水平方向に対して同一方向である限り、如何なる角度で傾斜させても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る酸素富化空気製造装置の概略斜視図である。
【図2】図1に示す酸素富化空気製造装置の部分断面概略図である。
【図3】図1に示す酸素富化空気製造装置の一部分を構成する円筒型容器の端部の概略図である。
【図4】図1に示す酸素富化空気製造装置の一部分を構成する円筒型容器の内部構造の例を示す概略図である。
【図5】図1に示す酸素富化空気製造装置において、円筒型容器の端部と第一の接続管体のフランジ部とのシール機構を示す概略図である。
【図6】ゼオライトの窒素吸着量と圧力との関係を定性的に示す図である。
【図7】ゼオライトの窒素吸着量と圧力及び温度との関係を定性的に示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 酸素富化空気製造装置
2 円筒型容器
3 軸心
4 仕切板
5 窒素吸収用吸着剤
6 水分吸収用吸着剤
7 水分吸収用吸着剤
8 第一の接続管体
9 第二の接続管体
10 分離板
11 シール板
12 第一の空気供給管
13 第一の空気排出管
14 第二の空気供給管
15 第二の空気排出管
16 シール用ゴム材
17 取付部材
18 ハニカム構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心を中心として回転可能であり、複数の仕切板によってその内部を半径方向に且つ全長にわたって分割された円筒型容器と、
該円筒型容器の内部の分割された各部分に配置された窒素吸収用吸着剤と、
前記円筒型容器の内部の分割された各部分に、前記窒素吸収用吸着剤を挟んで相対して配置された一対の水分吸収用吸着剤と、
前記円筒型容器の端部全周と密接するフランジ部を有し、前記円筒型容器を挟んで該円筒型容器の両側に配置された一対の接続管体と、
該接続管体の内部を少なくとも二分割する分離板と、
該分離板の円筒型容器側の先端に配置され、少なくとも該分離板よりも断面積が大きい、前記仕切板に密接するシール板と、
前記円筒型容器に対してそれぞれ反対側の方向から、前記接続管体の内部を通って水分吸収用吸着剤、窒素吸収用吸着剤、水分吸収用吸着剤の順に通過する空気を供給するための空気供給手段と、
該空気供給手段によって供給され、前記円筒型容器を通過して前記接続管体の内部に流入した空気を排出するための空気排出手段と、
を備えることを特徴とする、酸素富化空気の製造装置。
【請求項2】
前記窒素吸収用吸着剤は、圧力の増加に伴って窒素の吸着量が増加する窒素吸収用吸着剤であって、前記接続管体を介して前記窒素吸収用吸着剤に対してそれぞれ反対側の方向から供給される空気は、それぞれ圧力が異なることを特徴とする、請求項1に記載の酸素富化空気の製造装置。
【請求項3】
前記窒素吸収用吸着剤は、温度の低下に伴って窒素の吸着量が増加する窒素吸収用吸着剤であって、前記接続管体を介して前記窒素吸収用吸着剤に対してそれぞれ反対側の方向から供給される空気は、それぞれ温度が異なることを特徴とする、請求項1に記載の酸素富化空気の製造装置。
【請求項4】
前記窒素吸収用吸着剤は、圧力の増加及び温度の低下に伴って窒素吸着量が増加する窒素吸収用吸着剤であって、前記接続管体を介して前記窒素吸収用吸着剤に対してそれぞれ反対側の方向から供給される空気は、他方に比べて相対的に圧力が高く且つ温度が低くなるように調整した、それぞれ圧力及び温度が異なることを特徴とする、請求項1に記載の酸素富化空気の製造装置。
【請求項5】
前記シール板は、前記仕切板で分割された円筒型容器の2つ以上の領域を遮蔽することを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の酸素富化空気の製造装置。
【請求項6】
更に、前記円筒型容器の端部と前記接続管体のフランジ部との間には、ラビリンス状のシール機構が設置されていることを特徴とする、請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の酸素富化空気の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−202039(P2009−202039A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43725(P2008−43725)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】