説明

酸素欠損部を含む高光活性チタニアの製造方法

【課題】高い光活性を示す酸素欠損チタニアの製造方法。アナターゼ型のチタニアでは紫外光において高い光活性を示し、ルチル型のチタニアにおいて紫外光で高い光活性を持つだけでなく可視光においても高い光活性を示す、チタンと酸素の比が1:1.2〜1:1.9であることを特徴とする親水性を持つ酸素欠損チタニア製造または粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】アニオン性チタン錯体のアルキルアンモニウム塩を含む液組成物である分子プレカーサ法にてチタニア製造または粉体の製造過程において、熱処理工程のみの極めて簡便な方法により、酸素欠損をもつチタニアが生成して、紫外光において高い光活性と親水性をもつアナターゼ型のチタニア、紫外光および可視光においても高い光活性と親水性を持つルチル型のチタニアの製造または粉末を製造出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光で高い活性を示すアナターゼ型のチタニア、および、紫外光のみならず可視光にも応答する高い光活性と親水性を持つルチル型のチタニアの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
アナターゼ型結晶構造チタニアは380nm以下の紫外光により光起電力を発生 (非特許文献1) することが知られており、様々な方法で光触媒機能が研究され、その高効率化の検討が行われている。
【0003】
この光触媒機能は紫外光がないと発現できないため、太陽光を利用した場合、光全体の3%程度しか紫外線が含まれていないため効率に限界がある。また、紫外線がほとんど無い室内などではその効果は期待できないため適用場所に制限がある。このため、高効率化のために可視光応答型のチタニアの研究が盛んに行われている。例えば遷移金属イオンを注入(非特許文献2〜4)する方法、酸化物イオンの一部を窒素(非特許文献5、6)や炭素(非特許文献7)で置換する方法、イオウを導入する検討も行われている(非特許文献8〜10)。
【0004】
また、分子プレカーサ法で異なるチタン錯体を含有するコーティング液を交互に用いてアナターゼのチタニア膜を積層して界面部に可視光応答層を作成する方法も報告(特許文献1)されている。
【0005】
これらの性能の評価方法として、色素退色実験に代表される標準化された方法(非特許文献11)で擬一次反応速度定数を算出して性能評価が行われている。
【0006】
非特許文献2〜10の方法で作成されるチタニアは、他元素のドーピングにより、不純物準位を形成することによってバンドギャップエネルギーを低下させて可視光化に成功しているものの、可視光での活性と引き替えに、本来の紫外光での活性が落ちてしまう欠点があるため高効率化には至っていない。
【0007】
特許文献1の方法は、紫外光での活性を落とさずに可視光に応答できる優れた特徴をもっているが、製造には積層化が必要なため工程が長くなる欠点と歩留まり問題を抱えている。
【0008】
このように高活性なチタニアを得るための研究・検討が盛んに行われているが、現状では簡便な方法で紫外光および可視光に応答する高い擬一次反応速度定数を持つチタニア製造方法は確立されていない。
【特許文献1】特開2007−70202号公報
【非特許文献1】K. Honda, A. Fujishima, Nature 238, 37 (1972).
【非特許文献2】M. Anpo, et. al., Res. Chem. Intermed. 27, 459 (2001).
【非特許文献3】M. Anpo, Bull. Chem. Soc. Jpn 77, 1427 (2004).
【非特許文献4】J. W Yoon, T. Sasaki, N. Koshizaki, J. Sol-Gel Sci. Tech. 22, 115 (2001).
【非特許文献5】S. Sato, Chem. Phys. Left. 123, 126 (1986).
【非特許文献6】R. Asahi, T. Morikawa, T. Ohwaki, K. Aoki, Y. Taga, Science 293, 269 (2001).
【非特許文献7】T. Umebayashi, T. Yamaki, H. Itoh, K. Asai, Appl. Phys. Left. 81, 454 (2002).
【非特許文献8】T. Umebayashi, T. Yamaki, S. Tanaka, K. Asai, Chem. Left. 32, 4, 330 (2003).
【非特許文献9】T. Ohno, T. Mitsui, M. Matsumura, Chem. Left. 32, 4, 364 (2003).
【非特許文献10】H. Irie, Y. Watanabe, K. Hashimoto, Chem. Left. 32, 8, 772 (2003).
【非特許文献11】JIS R 1703−2:2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記問題点を一挙に解決されるために為されたもので、酸素欠損チタニアの薄膜と粉体が形成できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、下記の構成(1)〜(5)により解決される。
(1)アニオン性チタン錯体のアルキルアンモニウム塩を含む液組成物を基板に塗布または噴霧し、50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜60分の間保持し、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理の後に50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜50分の間保持して熱処理、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理することによりチタン−酸素結合の一部に酸素欠損部分を作り、チタンと酸素の比が1:2未満とすることを特徴とする一般的な溶液組成物を用いた化学的製膜法であるゾルゲル法で作成したチタニアと比較して高い光活性と親水性を示す酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
(2)前記チタンと酸素の比が1:1.2〜1:1.9であることを特徴とする前記(1)記載の酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
(3)チタニアの製作方法がアニオン性チタン錯体のアルキルアンモニウム塩を含む液組成物である分子プレカーサ法である前記(1)または(2)記載の酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
(4)結晶型がルチルの酸素欠損チタニアにおいて紫外光および可視光の両方で高い光活性と親水性を示すことを特徴とする前記(1)、(2)および(3)のいずれか1項記載の酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
(5)チタニアの結晶状態がルチル、アナターゼ、ブルカイトから選ばれる1つ以上の状態であることを特徴とする前記(1)、(2)、(3)および(4)のいずれか1項記載の酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、特開平11−49518号公報に代表されるチタン錯体化合物を含む分子プレカーサ法のチタニア薄膜形成用の溶液組成物を、粉体では脱溶媒して得られた溶質分を、薄膜ではガラスや金属やセラミックスなどの被塗布材に塗布して乾燥した後、50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜60分の間保持し、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理の後に50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜50分の間保持して熱処理、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理するだけの極めて簡便な方法で、一般的な溶液組成物を用いた化学的製膜法であるゾルゲル法で作成したチタニアと比較して高い光活性と親水性を示す酸素欠損チタニア製造または粉体を製造できる。また、ルチル型のチタニアにおいては紫外光のみならず可視光において高い光活性を示すことと、薄膜では紫外線の照射により水の接触角が10°以下になる超親水性を持つことを発見した。
【0012】
これまで紫外線が無いところでは光触媒の機能は期待できなかったためその適用場所に制限があったが、このように大掛かりな設備を必要とせず熱処理方法のみの低コストで、紫外光のみならず可視光においても高い光活性と親水性を示すルチル型のチタニアの製造が可能となり用途の大幅な拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、高光活性のチタニアの薄膜や粉体の製造法について研究を進めてきたところ、アニオン性チタン錯体を含むチタン錯体化合物を含むような液組成物を基板に塗布または噴霧し、50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜60分の間保持し、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理の後に50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜50分の間保持して熱処理、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理することにより極めて簡便な方法で一般的な溶液組成物を用いた化学的製膜法であるゾルゲル法で作成したチタニアと比較して高い光活性と親水性を示すチタニアの薄膜または粉体を製造できることを発見した。また、ルチル型のチタニアにおいては紫外光のみならず可視光において高い光活性と親水性を示すことも発見した。
【0014】
この高光活性のチタニアが製造できるメカニズムは、分子プレカーサ法のチタニア作成溶液組成物を例えば石英ガラス基板上に塗布して、乾燥後、熱処理するときに、前記のような空気雰囲気中にて急速加熱処理、または、不活性ガス中にて熱処理の後に空気雰囲気中で熱処理、または、不活性ガス中で熱処理を行い、酸素不足になりやすい環境で熱処理を行う。この環境ではチタン錯体化合物を構成している配位子の有機成分の燃焼に酸素が使用され、チタンに十分な酸素が供給されずにチタニアが生成される。このためチタニア全体が、チタンと酸素の比が通常の1:2より小さい酸素欠損チタニアになる。チタニアのn型半導体は、アナターゼの酸素欠損構造による影響だと言われていることから、500℃の熱処理の場合、通常のアナターゼよりもさらに酸素欠損状態になっているため紫外光において高い活性を示すと考えられる。また、700℃の熱処理により作成した酸素欠損のルチル型のチタニアは、ルチルの単結晶(バンドギャップエネルギー:3.0eV)に近い性質のルチルの多結晶が生成(薄膜の光学的バンドギャップエネルギー:3.1eV)するため、紫外光のみならず可視光でも高い活性を示すと考えられる。何れのチタニアも熱処理工程のみの極めて簡単な方法で達成できる。
【0015】
本発明に用いられる溶液組成物は、特開平11−49518号公報に代表されるチタンアルコキシド、アミノポリカルボン酸、アミンを極性溶媒中で反応させた後、酸化剤を加えて酸化し、チタニア薄膜を形成せしめるに適したチタン錯体化合物を含む溶液や、アミノポリカルボン酸の代わりにポリカルボン酸を配位子としたチタン錯体化合物を含むチタン錯体化合物を含む溶液など、アニオン性のチタン錯体のアルキルアンモニウム塩を含む溶液組成物を利用する化学的製膜法である分子プレカーサ法であればよく、前記の溶液組成物に限定されない。
【0016】
薄膜を作成する場合、塗布する基板は、石英ガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラスなどのガラス類、ITOガラス、FTOガラスなどの導電性ガラス類、ステンレスや鉄などの金属類、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックス類など、当業者がチタニア作成用の溶液組成物を塗布でき、かつ、熱処理温度以上の融点を持っている基材であれば任意に選択できる。また、基材の形状、形態、表面状態は問わず、表面が平滑でも粗でも良い。より具体的には、窓ガラス、触媒材、触媒用担持材、吸着材、装飾品、日用品などここに例を挙げたが、これらに限定されない。
【0017】
これらの基板に前記のチタニア作成用の溶液組成物をディップ法、フローコート法、スプレーコート法、流し塗り、カーテンコート法、スピンコート法、エアレススプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、刷毛塗りなどのいずれかの方法によって材料表面に塗布する。塗布方法についてはここに例を挙げたが、これらに限定されない。必要があれば比較的低温で予備焼成を行うことも均質な膜を得る上で有効である。その後、50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜60分の間保持し、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理の後に50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜60分の間保持して熱処理、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理することにより極めて簡便な方法でチタン−酸素結合の一部に酸素欠損部分を作り、一般的な溶液組成物を用いた化学的製膜法であるゾルゲル法で作成したチタニアと比較して高い光活性と親水性を示す酸素欠損チタニア薄膜を製造できる。溶液組成物の濃度や塗布方法の選定、積層化により1nm〜100μmの任意の膜厚の薄膜を製造できる。
【0018】
粉体を作成する場合、チタニア作成の溶液組成物をホットプレート上での加熱濃縮や、エバポレータなど減圧濃縮、フリーズドライなどの凍結乾燥により脱溶媒して得られた溶質を、前記と同様に熱処理することにより製造できる。なお、脱溶媒の方法についてはここに例を挙げたが、これらに限定されない。
【0019】
熱処理条件は、空気雰囲気の場合、50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃より好ましくは400〜1000℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜60分より好ましくは30秒から50分間保持するか、前記温度に加熱されたマッフル炉中に投入しても良く、前記の昇温速度で同様の温度に加熱できる急速アニーラーや急速赤外線加熱炉を用いて急速加熱しても良い。熱勾配の大きい熱処理方法であれば特に限定されない。なお、前記熱処理時間はここに例を挙げたが、これらに限定されない。不活性ガス雰囲気の場合、不活性ガスはヘリウム、アルゴン、クリプタント、キセノン、窒素など例に挙げたが、これらに限定されない。また、これらの気体は、単独で用いても良く、2種以上組み合わせても良い。300〜1200℃より好ましくは400〜1000℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分より好ましくは、30秒から60分の熱処理の後に50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃より好ましくは400〜1000℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜60分より好ましくは30秒から50分の間保持して熱処理、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分より好ましくは、30秒から60分熱処理しても良い。
【0020】
こうして得られた酸素欠損チタニアは同じウェットプロセスのゾルゲル法で製造されたチタニア薄膜よりも大きな擬一次反応速度定数を持ち、高い光活性と親水性を示す。薄膜では酸素欠損により屈折率が下がるので、酸化チタン膜特有のぎらつきが少ない外観を示している。また、ルチル型の酸素欠損チタニアは可視光応答性以外にも、紫外線の照射により水の接触角がおよそ5°まで低下する超親水性を示した。このため、前記の熱処理工程のみの極めて簡単な方法で親水性の可視光応答高効率光触媒のチタニアを作成できる。
【0021】
本発明で製造した膜および粉体は、紫外線の少ない環境もしくは全く無い環境にも適用できる可視光応答光触媒の製品、親水性を利用した防曇ミラーや防曇ガラスなどの防曇製品、防汚ミラーや防汚ガラスなどの防汚製品などに適用できる。この場合の膜の種類、工法は問わない。適用例としていくつか例を挙げたがこれらに限定されない。
【0022】
本発明の、チタニア製造時にチタン−酸素結合の一部に酸素欠損部分を作り、チタンと酸素の比が1:2未満であることを特徴とする高い光活性と親水性を示す酸素欠損チタニア製造または粉体の製造方法を次の実施例でより具体的に明らかにする。本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0023】
以下に実施例を上げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。実施例1と比較例1はチタニア作成用の溶液組成物の合成に関するものである。
【実施例1】
【0024】
EDTA(エチレンジアミン-N,N,N′,N′-四酢酸)を配位子としたチタニア作成用溶液組成物は、特開平11−49518号公報を参考に合成した。
【0025】
100mLの三角フラスコにエタノール10gとメタノール10gを加え、そこにEDTA3.7g、ジブチルアミン3.6gを加え、2時間加熱還流した。その後、チタンテトライソプロポキシド3.6gを加えた後、4.5時間加熱還流して黄色透明溶液を得た。室温まで放冷してから30%過酸化水素水1.6gを加え、さらに30分間還流して褐色透明溶液を得た。チタンイオン濃度0.4mmol/gである。
【0026】
(比較例1)
一般的な溶液組成物を用いた化学的製膜法であるゾルゲル法を用いて実施例と同様の熱処理条件で作成したチタニアを比較対照として用いた。以下の方法で比較対照用のゾルゲル液を合成した。
【0027】
100mLの三角フラスコにエタノール25gを入れ、チタンイソプロポキシド4.3gを加えた。あらかじめサンプル瓶に入れ、混合しておいた60%硝酸1.1gと精製水0.8gを三角フラスコに滴下した後、1時間撹拌した。サンプル瓶に移し、冷蔵庫で4日間以上静置したものを使用した。チタンイオン濃度0.5mmol/gである。
【0028】
以下の実施例2〜3、比較例2〜3はチタニアの製造方法に関するものである。
【実施例2】
【0029】
マイクロピペットを用いて、実施例1で合成した溶液組成物50μLを2×2 cmのFTO導電ガラス上にスピンコート法(回転条件:1st 500rpm−5sec、2nd 2000rpm−30sec)を用いて塗布し、70℃の乾燥機中で10分間乾燥させた。管状炉を用いて、アルゴン雰囲気中で500℃の温度で30分間熱処理を行い約100nmの薄膜を形成した。この薄膜を空気雰囲気中で500℃に加熱してあるマッフル炉中に15分間熱処理してピンホールや剥離、亀裂などの欠陥はみられず均一な透明薄膜を得た。
【0030】
薄膜XRD測定から、この薄膜はアナターゼであることが分かった。また、XPS測定から、膜内部のチタンに対する酸素の割合は1.49、再表面層で1.64より酸素欠損型アナターゼであることが分かった。この膜の屈折率を調べたところ、2.0と通常のゾルゲル法で製膜したおよそ2.2に対して小さく、酸化チタン膜特有のぎらつきが少ない外観であった。
【0031】
(比較例2)
比較例1で合成したゾルゲル液を用いて、実施例2と同様の方法で製膜して透明薄膜を得た。
【0032】
薄膜XRD測定から、この薄膜はアナターゼであることが分かった。また、XPS測定から、膜内部のチタンに対する酸素の割合は1.67、再表面層で1.96の通常の組成に近いアナターゼであることが分かった。
【実施例3】
【0033】
マイクロピペットを用いて、実施例1で合成した溶液組成物 50μLを実施例2と同様の方法で2×2cmの石英ガラス上にスピンコート法(回転条件:第1回 500rpm−5 sec、第2回 2000rpm−30sec)を用いて塗布し、70℃の乾燥機中で10分間乾燥させた。管状炉を用いて、アルゴン雰囲気中で700℃の温度で30分間熱処理を行いピンホールや剥離、亀裂などの欠陥はみられない約100nmの均一な透明薄膜を得た。
【0034】
薄膜XRD測定から、この薄膜はルチルであることが分かった。XPS測定から、膜のチタンに対する酸素の割合は1.78より酸素欠損型ルチルであることが分かった。
【0035】
(比較例3)
比較例1で合成したゾルゲル液を用いて、実施例3と同様の方法で石英ガラス上に製膜して、アルゴン雰囲気中で700℃の温度で30分間熱処理して透明薄膜を得た。
【0036】
薄膜XRD測定から、ゾルゲル液で製膜したチタニア薄膜はこの熱処理条件ではアナターゼであることが分かった。XPS測定から、膜のチタンに対する酸素の割合は1.93より通常のアナターゼに近い比率であることが分かった。
【0037】
以下の実施例4は、作成したチタニアの性能評価を行った。
【実施例4】
【0038】
非特許文献11を参考にメチレンブルーの色素退色試験から擬一次反応速度定数(k)を算出して実施例2、3、比較例2、3で製膜した光触媒の性能評価を行った。それぞれの結果を表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
照射時の擬一次反応速度定数値から、暗所時の擬一次反応速度定数値を引いた値で光触媒の性能を比較すると、実施例2は紫外線照射時では比較例2の約2.4倍の性能を示した。しかし、可視光ではどちらも応答はなかった。
【0041】
実施例3は紫外線照射時では他のどれよりも値が大きく、実施例2や比較例3の約1.5倍の高い性能を示した。さらに、可視光にも大きく応答して光触媒としての高い性能を示した。
【0042】
これらの結果より、実施例の結果は一般的な溶液組成物を用いた化学的製膜法であるゾルゲル法で同一条件の熱処理で作成したチタニア(比較例1〜3)と比較すると高い光触媒の性能を持っていることが明らかとなった。
【実施例5】
【0043】
実施例3で製膜したルチルと比較例3で製膜したアナターゼの水の接触角を調べたところ、光照射前ではそれぞれ68°と70°であった。紫外線ランプ(365nmの波長で1.2mW/cmの強度)ではわずか1時間の照射により、5°(±1)、11°(±3)になった。また、400nm以下の紫外線をカットした太陽光ランプを(400nm以上波長で0.8mW/cmの強度)4日間照射すると、13°(±1)、65°(±1)になった。
【0044】
この結果から実施例3で製膜したルチルは、紫外線照射により超親水性を示すだけでなく、可視光に応答して高い親水性を示した。
【0045】
一方、比較例3製膜したアナターゼは、紫外線照射により高い親水性を示すものの、実施例3の膜ほどの超親水性は見られず、可視光には応答しなかった。これらの結果を表2に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
これらの実施例より、紫外光のみならず可視光においても高い光活性と親水性を示すルチル型の酸素欠損部分チタニアの製造できることが分かった。これまで紫外線が無いところでは光触媒の機能は期待できなかったが本発明により明所であればその効果を期待できるため、可視光応答光触媒の製品、親水性を利用した防曇ミラーや防曇ガラスなどの防曇製品、防汚ミラーや防汚ガラスなどの防汚製品などに適用できるため用途の大幅な拡大が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、紫外光で高い活性を示すアナターゼ型の酸素欠損チタニア、および、紫外光のみならず可視光にも応答する高い光活性と親水性を持つルチル型の酸素欠損チタニアの製造法に関する。
【0049】
本発明で製造した膜および粉体は、紫外線の少ない環境もしくは全く無い環境にも適用できる可視光応答光触媒の製品、親水性を利用した防曇ミラーや防曇ガラスなどの防曇製品、防汚ミラーや防汚ガラスなどの防汚製品などに適用できる。
【0050】
本発明は、アニオン性チタン錯体のアルキルアンモニウム塩を含む液組成物である分子プレカーサ法でのチタニア製造時において、熱処理方法によりチタン−酸素結合の一部に酸素欠損部分を作り、前記の性能を持つ高い光活性と親水性を示す酸素欠損チタニア製造または粉体の製造が可能である。
【0051】
この酸素欠損チタニアは熱処理のみの工程で製造できるため、大掛かりな設備を必要としない。これまで紫外線が無いところでは光触媒の機能は期待できなかったためその適用場所に制限があったが、本発明の適用により紫外光のみならず可視光においても高い光活性と親水性を示すルチル型のチタニアの製造が可能となり用途の大幅な拡大が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性チタン錯体のアルキルアンモニウム塩を含む液組成物を基板に塗布または噴霧し、50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜60分の間保持し、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理の後に50℃/秒〜150℃/秒で300〜1200℃の温度に達するまで空気雰囲気中にて急速加熱処理し上記温度に達した後10秒〜50分の間保持して熱処理、または、300〜1200℃の温度の不活性ガス中にて10秒〜120分熱処理することによりチタン−酸素結合の一部に酸素欠損部分を作り、チタンと酸素の比が1:2未満とすることを特徴とする、一般的な溶液組成物を用いた化学的製膜法であるゾルゲル法で作成したチタニアと比較して高い光活性と親水性を示す酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
【請求項2】
前記チタンと酸素の比が1:1.2〜1:1.9であることを特徴とする請求項1記載の酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
【請求項3】
チタニアの製作方法がアニオン性チタン錯体のアルキルアンモニウム塩を含む液組成物である分子プレカーサ法である請求項1または2記載の酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
【請求項4】
結晶型がルチルの酸素欠損チタニアにおいて紫外光および可視光の両方で高い光活性と親水性を示すことを特徴とする請求項1、2および3のいずれか1項に記載の酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。
【請求項5】
チタニアの結晶状態が三酸化二チタンなどに代表される低次酸化チタンの結晶構造では無く、ルチル、アナターゼ、ブルカイトから選ばれる1つ以上の状態であることを特徴とする請求項1、2、3および4のいずれか1項に記載の酸素欠損チタニア薄膜または粉体の製造方法。

【公開番号】特開2010−70400(P2010−70400A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237012(P2008−237012)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(505231752)株式会社TFTECH (10)
【Fターム(参考)】