説明

酸素濃縮方法

【課題】ガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置で、リークの影響を最小限に留めて実用的な酸素濃縮をすることが可能な酸素濃縮方法を提供する。
【解決手段】酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜で圧力駆動方式とした、ガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置を使用し、常圧を越え0.5MPa未満の圧力を有し、酸素濃度が25〜95%の酸素含有ガス(A)をガス供給側とし、ガス透過側を常圧とする酸素濃縮方法である。ガス供給側から分離膜を透過せずに排出されたガス(B)から、更に酸素を分離したガス(C)を酸素分離装置のガス供給側に供給してリサイクルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜で圧力駆動方式とした、ガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置を使用した酸素濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン伝導性酸化物を使った酸素分離技術は、高温下、酸化物イオンの形で酸化物中を移動する現象を利用したものであり、その方式は大別して2通りある。
一つは、電力駆動方式である。これは、代表的な技術として特許文献1で開示されているように、酸化物イオン伝導性酸化物を挟んで陽極と陰極を形成し電圧をかけることによって、陰極側から陽極側へと酸化物イオンの形で電流として移動する。この場合、酸化物イオンの透過のしやすさは、酸化物の物性値の一つである「酸化物イオン導電率」でほぼ決まる。
【0003】
この方式は、次に述べる圧力駆動方式のような酸素分圧の異なる環境を作る必要はなく、電力を使って低酸素分圧側から高酸素分圧側へ酸素を輸送することも可能なため、酸素ポンプといった言い方もされている。しかしながら、高温に必要なエネルギーの回収は困難であり、酸素の製造に必要な電力は原理的に水の電気分解と変わらないため、少量の比較的純度の高い酸素を必要とするところ以外では経済的に成立が困難な酸素製造方式である。
【0004】
別の方式は、圧力駆動方式である。これは、酸素分圧の異なる2種類のガスを隔離することにより、酸素分圧の高い側から低い側へ酸化物イオンの形で酸化物中を移動する現象に基づいている。酸化物イオンの移動に伴う電荷のバランスを保つため、酸化物イオン伝導性酸化物の中でも電子伝導性を併せ持つ混合伝導性酸化物と呼ばれる酸化物が用いられる。即ち、酸化物イオンの移動に伴う電荷のバランスを電子の移動で補償するため、外部回路なしで酸素の透過が持続する。
【0005】
この場合も、酸化物イオンの透過のしやすさは、材料である酸化物の酸化物イオン導電率が一つの指標となる。即ち、この値が高いほど酸化物イオンは透過しやすい。従って、従来、酸化物イオン導電率を上げるための材料設計と材料調製法が種々開発されてきた。
【0006】
一方、材料開発の面だけではなく、実際に分離するに当たって以下に述べる工夫によって酸化物イオンを透過しやすくできる。即ち、
(イ)酸素分離の駆動力となる酸素分圧比を大きくする
(ロ)分離温度を高温化する
(ハ)透過距離を小さくする(薄膜化する)
【0007】
酸素分圧比を大きくするには、例えば、酸素含有混合ガス(空気など)を高圧化する、分離側を減圧する、あるいはこれらの組み合わせで実現される。但し、分離側を減圧にする場合には、減圧に要するエネルギーの回収が困難であるため、例えば特許文献2で開示されているように、実用上は酸素含有混合ガス側を高圧化し、分離に寄与せず排出されるガス流体を使ってガスタービンを駆動することによってエネルギーの回収が図られる。
【0008】
分離温度の高温化は、酸化物イオン導電率自体が温度の関数であり高温ほど高くなる現象に基づくほか、これとは別に酸素分離速度が絶対温度に比例して上昇するため非常に有利となる。但し、高温領域では使用される金属材料が限定されるため、通常、700℃〜950℃といった温度域が選択される。
【0009】
透過距離を小さくする(薄膜化する)と、透過の律速が酸化物イオンの移動にある限り分離速度は膜厚に反比例するため、例えば、膜厚を半分にすることで分離速度を2倍にすることができる。但し、薄くすることによって酸素以外のガス分子が通り抜けられるような欠陥の発生頻度も上昇し、分離酸素の純度の低下を招くため、むやみに薄くできない。また、表面反応が酸素の透過を律速する場合には、薄くしても酸素の透過速度を増大させることができないため、表面反応を活性化する手段を講じる必要がある。
【0010】
酸化物イオン透過性酸化物を使った酸素分離技術は、従来の酸素製造法である酸素PSA(Pressure Swing Adsorption)や深冷分離とは全く異なる原理で酸素を得る技術である。その最大の特徴は、原理的に酸素しか透過しないため高純度酸素の製造が可能、及び安価な酸素製造が可能性という点にあり、世界中で開発が進められている。
【0011】
一方で、酸化物イオン透過性酸化物を使った酸素分離装置では、酸素分離の駆動力となる酸素分圧比を大きくするため、例えば空気を2MPa程度まで昇圧させるなど、常圧である分離酸素側との間に大きな差圧が発生する。このため、極わずかなリークパスが存在しただけで分離酸素の純度は大きく低下する。従って、特に無欠陥薄膜の形成と分離膜を保持する部材との接合部における高温ガスシール性付与に関する開発に注力が注がれているのが現状である。例えば、特許文献3では、酸素以外のガスリーク量が少ない分離膜の開発がなされている。
【0012】
一方、特許文献4では、酸化物イオン透過性酸化物を分離膜として使用した酸素製造装置においてガスの漏洩がないシール方法の開発がなされている。しかしながら、現状では、無欠陥とした分離膜や漏洩がないガスシール等にして、全くリークのない酸素分離装置が開発されていないため、高純度酸素の分離という特徴が生かせず、実用化には至っていない。
【0013】
【特許文献1】特開平10−180031号公報
【特許文献2】特開平09−000858号公報
【特許文献3】特開2005−116478号公報
【特許文献4】特開2004−323334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、現状、酸化物イオン透過性酸化物を使った酸素分離装置では、酸素分離膜形成で不可避であるリークパスや高温ガスシール性の不完全性等によるリークは避けることはできない。
【0015】
本発明は、前述した現状の課題を鑑み、酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜で圧力駆動方式としたガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置を使用した上で、前記リークの影響を最小限に留めて実用的な酸素濃縮をすることが可能な酸素濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するための本発明の要旨は、次の通りである。
(1)酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜で圧力駆動方式とした、ガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置を使用し、常圧を越え0.5MPa未満の圧力有し、酸素濃度が25〜95%の酸素含有ガス(A)を前記ガス供給側とし、前記ガス透過側を常圧とすることを特徴とする酸素濃縮方法。
【0017】
(2)前記ガス供給側に供給する前記酸素含有ガス(A)が、前記酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜を使って得られたことを特徴とする(1)記載の酸素濃縮方法。
【0018】
(3)酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜で圧力駆動方式とした、ガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置を使用し、常圧を越え0.5MPa未満の圧力を有し、酸素濃度が25〜95%の酸素含有ガス(A)を前記ガス供給側とし、前記ガス透過側を常圧として酸素濃縮し、
前記ガス供給側から分離膜を透過せずに排出されたガス(B)から、更に酸素を分離したガス(C)を前記酸素分離装置のガス供給側に供給してリサイクルすることを特徴とする酸素濃縮方法。
【0019】
(4)前記リークが、1×10-6〜1×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1であることを特徴とする(1)又は(3)記載の酸素濃縮方法。
【0020】
(5)前記ガス供給側から前記分離膜を透過せずに排出されたガス(B)から、更に酸素を分離した前記ガス(C)とする手段が、吸着及び脱離により行われる分離方法であることを特徴とする(3)記載の酸素濃縮方法。
【0021】
(6)前記酸化物イオン伝導性酸化物が、立方晶ペロブスカイト型であることを特徴とする(1)又は(3)記載の酸素濃縮方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、分離前後の圧力差が小さくて済むため、酸素分離装置におけるガス供給側からガス透過側へのリークの影響を最小限にし、従来原理的には高純度酸素分離が可能と言われながらも実用化できなかった分離膜による高純度酸素の製造が本発明の酸素濃縮方法で実現される。更に、分離膜の形成歩留まり、及び高温ガスシール性が求められる接合部における形成歩留まりが大幅に改善されるため、安価な高純度酸素を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
ガス供給側から常圧に保たれたガス透過側に向かって酸化物イオンの形態で高選択的に分離膜内を透過させるためには、ガス供給側に供給する酸素含有ガス(A)の酸素分圧は0.1MPa以上にする必要がある。本発明の、常圧を越え0.5MPa未満の低い圧力を有する酸素含有ガス(A)から酸化物イオンを透過させようとすると、通常の空気(酸素濃度20.6%)を用いると、ガス供給側の酸素含有ガス(A)の酸素分圧は次のようになる。
即ち、0.206×0.5=0.103(MPa)となり、透過の駆動力は事実上ないに等しい。従って、実用的な透過の駆動力を得るには、酸素含有ガス(A)として、酸素濃度が25%以上必要である。一方、酸素濃度が95%を越えると、既に酸素濃度が高いので、酸素濃縮の効果が小さく、実用的ではない。従って、前記酸素含有ガス(A)としては所謂、酸素濃度25%以上の酸素富化空気、又は酸素濃度95%以下の低純度酸素が用いられる。
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に、酸化物イオン透過性酸化物からなる分離膜を使い、低純度の酸素ガスを原料にして、酸化物イオンの形態で高選択的に分離膜内を透過させることによって酸素を濃縮する方法の具体的を示す。なお、ここでは分離膜の形状として片側が閉じられた円筒管を例示しているが、これは平板等その他の形状でも構わない。
【0025】
酸素分離装置本体101の中に、複数本の酸素分離管104が空間102と空間103を隔離するように置かれる。酸素分離管104は、多孔質支持管の上に極薄膜が形成された構造をとっており、多孔質支持管部分で空間102と空間103の間に発生する圧力差を保持するための強度を持たせ、薄膜部分で実際の酸素分離を行うようになっている。多孔質支持管と薄膜のそれぞれの厚さは、次のような観点から適宜選択される。多孔質支持管は保持すべき圧力差を勘案して一定以上の厚さが必要となるが、一方、あまり厚くなると通気抵抗が発生し、酸素透過速度(酸化物イオンの透過を、O2ガスの透過として換算した速度)が低下する。一般的には、0.5mm以上10mm以下の範囲で選択される。薄膜は、酸素透過速度を増大させる上で薄いほど有利となるが、あまり薄くなると欠陥部を通して不純物ガスの進入が起き易くなり、多量の不純物ガスが進入するため、一般的には、1μm以上1mm以下の範囲で選択される。
【0026】
酸素分離管104は、空間102と空間103を隔離するように複数本が酸素分離装置本体101に置かれるため、分離管本体によるガスのリークに加え、分離管を保持する箇所(図示せず)との接合部におけるリーク発生の可能性がある。
【0027】
低純度酸素、例えば、93%の酸素を106から供給し、ガスタービン111の圧縮部112によって昇圧後(この際、断熱圧縮により若干昇温を伴う)、熱交換器109によって更に昇温、最終的に107から導入される燃料を燃焼器108で燃焼して所定温度(例えば900℃)まで昇温される。酸素分離装置101からの排ガスは熱交換器109によって一部を原料である低純度酸素ガスに熱を移動した後、燃焼器110によってガスタービン111内にある膨張タービン113を駆動するのに必要な温度まで昇温される。
【0028】
一方、酸素分離管104を通して濃縮された酸素が排出口105から回収される。
燃焼器108は、上述したように燃焼によって直接加熱する方式の方が望ましいが、電気的な加熱手段を用いることも可能である。また、直接加熱方式でも、火炎を発するバーナー方式のものや燃料の酸化を促進する触媒を使った触媒燃焼器などを使っても良い。
【0029】
ここで、酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜による酸素分離濃縮装置を使用して、従来の高圧酸素含有ガスから酸素濃縮と、本発明の低圧酸素含有ガスから酸素濃縮について得られる酸素濃縮ガスの酸素純度を比較する。前者の例として空気を、後者の例として93%低純度酸素ガスをそれぞれ酸素含有ガスとして用いた時を考える。前提条件として、分離膜の酸素透過性能(速度)を1.5×10-3Nm3・s-1・m-2(但し、酸素透過の駆動力:入側酸素分圧/出側酸素分圧=0.18MPa/0.1MPa)とし、分離管および接合部の全リーク速度(単位面積あたり)を8×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1とする。
なお、上記単位中のNm3は、標準状態(0℃、1atm=101.325kPa)におけるガス体積を示しており、以降も同様に表記する。
【0030】
空気を原料とした場合:21%酸素が燃焼器によって18%まで低下したとして、酸素分圧
0.18MPaになるためには全圧を1MPaまで昇圧する必要がある。差圧は0.9MPa(900kPa)。
リーク速度は、8×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1×900kPa=7.2×10-5Nm3・s-1・m-2となり、リーク量の内18%は酸素が含まれているので、分離酸素純度は次のようになる。
分離酸素純度=(1.5×10-3+7.2×10-5×0.18)/(1.5×10-3+7.2×10-5)=96.24%
【0031】
93%酸素を原料とした場合:93%酸素が燃焼器によって90%まで低下したとして、酸素分圧0.18MPaになるためには全圧を0.2MPaまで昇圧すれば良い。差圧は0.1MPa(100kPa)。
リーク速度は、8×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1×100kPa=8×10-6Nm3・s-1・m-2となり、リーク量の内90%は酸素が含まれているので、分離酸素純度は次のようになる。
分離酸素純度=(1.5×10-3+8×10-6×0.9)/(1.5×10-3+8×10-6)=99.95%
【0032】
このように、8×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1と極めて少ないリーク量を実現できたとしても、リークがある酸素分離装置ではガス供給側に空気を用い1MPaまで高圧にすると、得られる酸素の純度は96%程度に留まる。一方、93%の低純度酸素を用いた場合には、0.2MPaまで昇圧すれば良いことから高効率な酸素濃縮が可能となり、99.95%の高純度酸素が得られる。
【0033】
93%程度の低純度の酸素は圧力スイング吸着法などを使って安価に製造することが可能であるため、本発明による酸素濃縮方法は高純度酸素製造法としても用いることができる。更に、99.95%までの高純度が必要でない場合には、薄膜に求められる耐リーク特性が緩和されるため更なる薄膜化が可能となり、分離速度(酸素濃縮処理量)の大幅向上に繋がり、酸素濃縮コストの削減に寄与することができる。
【0034】
本発明におけるリークとは、酸素分離装置におけるガス供給側からガス透過側に起こる酸素ガス以外のガスの透過であり、酸素分離装置におけるトータルリークである。前記リークの原因としては、上述のように、例えば、酸素分離膜の欠陥等によるリーク、ガスシール性の不完全性によるリークが主であるが、その他の原因によるリークも含まれる。
【0035】
本発明の酸素濃縮方法では、酸素分離装置におけるトータルのガスリーク量として、次の範囲とする。即ち、1×10-6〜1×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1の範囲で好適に用いることができる。この範囲を超えてリーク量が大きくなると濃縮による酸素純度は99%のレベルを確保できなくなり、上述の圧力スイング吸着法を2段で稼動させた場合に対する経済的メリットが享受しがたくなる場合がある。また、従来の分離膜作製技術、接合技術を使えば、ガスリーク量を1×10-6Nm3・s-1・m-2・kPa-1以下に抑えることが可能である。
【0036】
一方、上述の範囲を超えてリーク量を小さくしようとすると、分離膜、接合の部分で未だ確立されていない高度な技術が必要となり、必然的に歩留まり低下を招き実質的に経済性が確保できなくなる場合がある。仮に技術的に可能になった場合においては、大きな差圧条件下で酸素分離する従来技術を使えば高純度酸素の分離が可能となるため、本発明の酸素濃縮方法のメリットが低下する場合がある。
【0037】
本発明の更に望ましい実施形態は、酸化物イオン透過性酸化物からなる分離膜を使って得られた低純度酸素を、本発明の酸素含有ガス(A)として、上述のリークがある酸素分離装置のガス供給側に供給するというものである。この時、前記分離膜で得られる低純度酸素をいったんガスホルダーに貯蔵後、酸素含有ガス(A)として酸素分離装置のガス供給側に供給してもいいが、図2に例示した装置とすることにより、熱ロスや圧縮に伴うエネルギーロスを最小限に抑えることができる。
【0038】
まず、第1の酸素分離装置本体201の中に、複数本の酸素分離管204が空間202と空間203を隔離するように置かれる。原料となる空気を211から供給し、ガスタービン216の圧縮部217によって昇圧後(この際、断熱圧縮により若干昇温を伴う)、熱交換器214によって更に昇温、最終的に212から導入される燃料を燃焼器213で燃焼して所定温度(例えば900℃)まで昇温される。第1の酸素分離装置201からの排ガスは熱交換器214によって一部を原料である空気に熱を移動した後、燃焼器215によってガスタービン216内にある膨張タービン218を駆動するのに必要な温度まで昇温される。
【0039】
一方、第2の酸素分離装置本体206の排ガスは圧力調整弁220により低圧(例えば、0.2MPa)に保持されるため、酸素分離管204を通して得られる低純度の酸素205は、冷却されることなく、これにほぼ等しい常圧以上の圧力を有したまま第2の酸素分離装置本体206に送られる。
【0040】
第2の酸素分離装置本体206では、複数本の酸素分離管209が空間207と空間208を隔離するように置かれ、濃縮された高純度酸素210が得られる。圧力調整弁220を出た常圧の排ガスは熱交換器214によって冷却された後、排出される。
ここで、本方法で得られる濃縮された酸素の酸素濃度を計算する。第1の酸素分離装置本体201における分離条件を入側酸素分圧(ガス供給側)/出側酸素分圧(ガス透過側)=0.36MPa/0.2MPaとすると、透過の駆動力は前述の例と同じになるので、分離膜の酸素透過性能(速度)は1.5×10-3Nm3・s-1・m-2。分離管および接合部の全リーク速度(単位面積あたり)についても前述と同様、8×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1とする。
【0041】
原料となる空気211が、燃焼器によって酸素濃度が18%まで低下したとして、酸素分圧0.36MPaになるためには全圧を2MPaまで昇圧する。差圧は1.8MPa(1800kPa)。
リーク速度は、8×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1×1800kPa=1.44×10-4Nm3・s-1・m-2となり、リーク量の内18%は酸素が含まれているので、分離酸素純度は次のようになる。
分離酸素純度=(1.5×10-3+1.44×10-4×0.18)/(1.5×10-3+1.44×10-4)=92.8%
【0042】
第2の酸素分離装置本体206の分離条件を入側酸素分圧(ガス供給側)/出側酸素分圧(ガス透過側)=0.18MPa/0.1MPaとすると、低純度酸素205の濃度は92.8%なので、酸素分圧0.18MPaになるためには全圧を0.194MPaまで昇圧する。差圧は、次のようになる。即ち、0.094MPa(94kPa)。
リーク速度は、8×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1×94kPa=7.52×10-6Nm3・s-1・m-2となり、リーク量の内92.8%は酸素が含まれているので、分離酸素純度は次のようになる。
分離酸素純度=(1.5×10-3+7.52×10-6×0.928)/(1.5×10-3+7.52×10-6)=99.96%
となり、高純度に濃縮された酸素を得ることが可能になる。
【0043】
本発明の別の望ましい実施形態は、酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜で圧力駆動方式とした、ガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置を使用し、常圧を越え0.5MPa未満の圧力を有し、酸素濃度が25〜95%の酸素含有ガス(A)をガス供給側とし、ガス透過側を常圧として酸素濃縮し、前記ガス供給側から分離膜を透過せずに排出されたガス(B)から、更に酸素を分離したガス(C)を前記酸素分離装置のガス供給側に供給してリサイクルする酸素濃縮方法である。
【0044】
前述した90%の低純度酸素の原料から酸素濃縮する場合、分離されずに排出されるガス流体にも大量の酸素が存在する。この残留酸素量は、原料である低純度酸素ガスの供給量と分離速度に応じて変化するが、例えば、原料に存在している酸素の50%を分離濃縮する場合(酸素回収率50%の場合)、約82%の酸素濃度を持ったガス流体が排出される。酸素回収率を更に高めようとすると、原料側の酸素分圧が低下することで、分離の駆動力が働きにくくなるため酸素分離速度が低下して効率が悪くなる。効率の低下を防ぐためには、酸素回収率を例えば50%未満に抑え、排出されるガス流体から別の手段で酸素を分離、これを元に戻すリサイクル型システムとすることが効率的である。
【0045】
酸素分離装置から分離膜を透過せずに排出されるガス(B)から酸素を分離回収する手段として、酸素ガスの吸着・脱離の現象を利用したものが好適に利用される。具体的には、一般に知られている圧力スイング方式のPSA、あるいは温度スイング方式のTSAを上げることができる。
【0046】
図3にこの具体的な例を示す。酸素分離装置本体301では、複数本の酸素分離管304が空間302と空間303を隔離するように置かれる。空間302は、圧縮機307と圧力調整弁313の調整によってある一定圧力まで昇圧され、分離によって濃縮された高純度酸素305が得られる。分離に寄与しないガス流体は熱交換器308によって冷却された後、PSA装置311によって酸素が吸着される。この時、外部から空間302に見合った圧力を有する空気312が補充される。吸着が進行している間、吸着されない酸素以外のガスは排出弁314を使って外部に排出される。吸着が完了した段階で圧力調整弁313を開け、93%程度の低純度酸素を圧縮機307へ送る。圧縮機307によって昇圧後(この際、断熱圧縮により若干昇温を伴う)、熱交換器308によって更に昇温、最終的に309から導入される燃料を燃焼器310で燃焼して所定温度(例えば900℃)まで昇温される。
【0047】
図3下の図は、一連の高純度酸素製造のプロセスを概念的に示したもので、以下、順番に説明する。プロセスAは、圧力調整弁313を閉じたまま圧縮機307を稼動させることで、空間302の昇圧とPSA装置311内で吸着が進む過程である。プロセスBは、圧力調整弁313を閉じたまま圧縮機307を休止させることで、酸素分離装置における分離に伴い空間302の圧力が若干低下するが、PSA装置311内では吸着が更に進む過程である。プロセスCは、圧力調整弁313を開けることで、吸着した酸素が圧縮機307へ送られるとともに、空間302の圧力が低下する過程である。なお、この時、空間302と空間303の酸素分圧関係が逆転するが、逆止弁315により空間303から空間302へ酸素が逆流するのを防いでいる。
【0048】
酸素分離に用いられる酸化物イオン透過性酸化物としては、酸化ビスマス系、セリア系、ジルコニア系、ペロブスカイト型酸化物、パイロクロア型酸化物など、850℃で10-2Scm-1以上の酸化物イオン導電率を有する酸化物が好適に用いられる。中でも、酸化物イオン導電率が高い、実質的に立方晶ペロブスカイト酸化物が最も好適に用いられる。ここで、実質的にとは、近似的には立方晶となるペロブスカイト酸化物でも、実際には結晶構造が若干歪んだ構造となっていることから、厳密に立方晶ペロブスカイト酸化物に限定するものではないことを示している。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
図1で例示した酸素分離装置の内、ガスタービンを除くシステムを使って、原料に空気を用いた場合と低純度酸素を用いた場合を比較した。試験に供した分離管(10本)の総膜面積は0.2m2、10本の分離管の平均リーク速度は5×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1であった。これを酸素分離装置内に固定したところ、接合部において若干のリークが発生し、常温においてトータルのリーク速度は、次のようになる。
即ち、1.6×10-8Nm3・s-1・kPa-1(分離膜面積当たりでは、8×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1)であることがわかった。
【0050】
1MPaに加圧した空気から分離された酸素の濃度をガスクロマトグラフで評価した所、96.2%であることが分かった。一方、93%低純度酸素(残り窒素の混合ガス)を用いて0.2MPaの圧力から分離した酸素濃度は、99.9%以上であることを確認した。
高純度酸素の分離が可能であることが固体電解質酸化物の大きなメリットと一般に言われる中、実際には高純度を実現するには極めて高度な低リーク対策を打つ必要があるが、本発明により、容易に酸素の濃縮が行われ高純度酸素製造が実現できることが確認できた。
【0051】
(実施例2)
リーク速度の大きな分離管を使い、実施例1と同様の試験を行った。使用した酸素分離管の総面積は0.2m2、平均リーク速度は1.9×10-6Nm3・s-1・m-2・kPa-1であった。これを酸素分離装置内に固定したところ、最終的に接合部リークを含めたトータルのリーク速度は4×10-7Nm3・s-1・kPa-1(分離膜面積当たりでは、2×10-6Nm3・s-1・m-2・kPa-1)となった。
【0052】
酸素分離試験の結果、0.2MPaの93%低純度酸素(残り窒素の混合ガス)から分離した酸素濃度は98.8%であることを確認した。99%を下回る純度に留まった。
1.9×10-6Nm3・s-1・m-2・kPa-1程度のリークを示す酸素分離管は比較的容易に製造できること、また接合部におけるリーク速度も実施例1と比較して大きくこのレベルであれば高い確率で接合することができることを考慮すると、本発明による酸素の濃縮方法が十分有効であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明におけるガスタービンと組み合わせた酸素分離装置の具体例を示す図である。
【図2】本発明における酸化物イオン透過性酸化物からなる分離膜によって得られた低純度酸素を酸素含有ガス(A)としてガス供給側に供給した酸素濃縮方法の具体例を示す図である。
【図3】本発明における分離されずに排出されるガス(B)から酸素を分離したガス(C)を酸素分離装置のガス供給側に供給してリサイクルする方法の具体例と、これを稼動させるためのプロセスを示す図である。
【符号の説明】
【0054】
101 酸素分離装置本体
102 酸素分離管外面と酸素分離装置本体の間の空間
103 酸素分離管内面と酸素分離装置本体の間の空間
104 酸素分離管
105 濃縮された高純度酸素
106 低純度酸素
107 燃料
108 燃焼器
109 熱交換器
110 燃焼器
111 ガスタービン
112 圧縮部
113 膨張タービン
114 排出口
201 第1の酸素分離装置本体
202 酸素分離管外面と第1の酸素分離装置本体の間の空間
203 酸素分離管内面と第1の酸素分離装置本体の間の空間
204 酸素分離管
205 低純度酸素
206 第2の酸素分離装置本体
207 酸素分離管外面と第2の酸素分離装置本体の間の空間
208 酸素分離管内面と第2の酸素分離装置本体の間の空間
209 酸素分離管
210 濃縮された高純度酸素
211 原料空気
212 燃料
213 燃焼器
214 熱交換器
215 燃焼器
216 ガスタービン
217 圧縮部
218 膨張タービン
219 排出口
220 圧力調整弁
221 分離されずに排出されるガス(B)
301 酸素分離装置本体
302 酸素分離管外面と酸素分離装置本体の間の空間
303 酸素分離管内面と酸素分離装置本体の間の空間
304 酸素分離管
305 濃縮された高純度酸素
306 吸着・脱離現象によって分離された低純度酸素
307 圧縮機
308 熱交換器
309 燃料
310 燃焼器
311 PSA装置
312 空気
313 圧力調整弁
314 排出弁
315 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜で圧力駆動方式とした、ガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置を使用し、常圧を越え0.5MPa未満の圧力を有し、酸素濃度が25〜95%の酸素含有ガス(A)を前記ガス供給側とし、前記ガス透過側を常圧とすることを特徴とする酸素濃縮方法。
【請求項2】
前記ガス供給側に供給する前記酸素含有ガス(A)が、前記酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜を使って得られたことを特徴とする請求項1記載の酸素濃縮方法。
【請求項3】
酸化物イオン伝導性酸化物からなる分離膜で圧力駆動方式とした、ガス供給側からガス透過側にリークがある酸素分離装置を使用し、常圧を越え0.5MPa未満の圧力を有し、酸素濃度が25〜95%の酸素含有ガス(A)を前記ガス供給側とし、前記ガス透過側を常圧として酸素濃縮し、
前記ガス供給側から前記分離膜を透過せずに排出されたガス(B)から、更に酸素を分離したガス(C)を前記酸素分離装置のガス供給側に供給してリサイクルすることを特徴とする酸素濃縮方法。
【請求項4】
前記リークが、1×10-6〜1×10-8Nm3・s-1・m-2・kPa-1であることを特徴とする請求項1又は3記載の酸素濃縮方法。
【請求項5】
前記ガス供給側から前記分離膜を透過せずに排出されたガス(B)から、更に酸素を分離したガス(C)とする手段が、吸着及び脱離により行われる分離方法であることを特徴とする請求項3記載の酸素濃縮方法。
【請求項6】
前記酸化物イオン伝導性酸化物が、立方晶ペロブスカイト型であることを特徴とする請求項1又は3記載の酸素濃縮方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−95729(P2009−95729A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268303(P2007−268303)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素安全利用等基盤技術開発 水素インフラに関する研究開発 膜式分離酸素利用オートサーマル改質水素製造技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】