説明

醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダー並びにこれらの製造方法及びこれらを含む飲食品

【課題】生ニンニクを自己醗酵させた摂取後の呼気にニンニク臭が発生しない、生理活性に優れる醗酵黒ニンニクの加工物、これらの製造方法及びこれらを含む飲食品を提供すること。
【解決手段】生ニンニクを自己醗酵させた醗酵黒ニンニクの抽出物である醗酵黒ニンニク抽出液。生ニンニクを自己醗酵させた醗酵黒ニンニクの乾燥・粉砕物である醗酵黒ニンニクパウダー。これらの醗酵黒ニンニクは、温度が55〜80℃、湿度が70〜95%の範囲内で熟成し自己醗酵させたものである醗酵黒ニンニク抽出液又は醗酵黒ニンニクパウダー。
生ニンニクを自己醗酵させる工程と、得られた醗酵黒ニンニクをペースト状にする工程と、ペースト状の醗酵黒ニンニクを抽出する工程と、抽出物を濃縮する工程と、からなる醗酵黒ニンニク抽出液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ニンニクを自己醗酵させた醗酵黒ニンニクの醗酵黒ニンニク抽出物、醗酵黒ニンニクパウダー、これらの製造方法及びこれらを含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ニンニクは、中央アジアが原産地で、学名をアリウム サチバム エル(Allium sativum L)という。食用(薬用)部分は鱗茎であり、有効成分としてアリシンが認められる。
アリシンは元来含まれているアリインが酵素のアリイナーゼの働きにより変化を受けて生じたもので、ニンニク特有の強烈な臭いを放つ物質である。古来、ニンニクはスタミナ増強に強い効果のある食品としてそのまま、あるいは他の食材の調味料として幅広く用いられている。近年、ニンニクの食効についても科学的な検討が加えられ、抗疲労や抗ストレス効果は勿論のこと、高い抗酸化作用に基づく生活習慣病の予防効果、免疫賦活、抗ウイルス、抗菌作用による感染症予防効果、肝臓保護効果、老化防止効果など多様な効果が認められている。特に、アメリカのデザイナーフーズプログラムにおいては、抗ガン効果が最も高い食品素材としてリストアップされるなど、有用食品の代表格といっても過言ではない。しかしこれほど有用なニンニクも先に述べた有効成分アリシンの強い臭いや、特に摂取後に吐息と共に戻ってくる強烈な不快臭のために食材として敬遠される傾向にあった。
【0003】
そのため、従来、このような臭いの問題点の解決を図るために種々の検討がなされている。例えば、、酵母発酵を利用して製造する食後無臭ニンニク(特許文献1参照)、生ニンニクを超高圧で処理し、アリイナーゼを不活性化する無臭ニンニクの製造方法(特許文献2参照)、蒸煮にんにくと練りゴマを混合し、該混合物に黄な粉及び蜂蜜を混合してなるペースト状無臭にんにく加工食品(特許文献3参照)、ニンニクの亜種を原料とするもの等多くの提案があり、これまでに市場には、無臭ニンニクと称する商品が数多く出回るようになり、一般食品や健康食品分野で幅広く採用されてきている。
【特許文献1】特開平10−80258号公報
【特許文献2】特開平7−87920号公報
【特許文献3】特開2002−119240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の多くの無臭ニンニクは、摂取後に呼気から臭ってくるニンニク臭の除去が不十分であったり、無臭化加工によりニンニクの有効性が損なわれてしまったりと、充分に満足できるものが少ないというのが実情であった。また、このような無臭ニンニクなるものを配合した食品についても、同様の問題が示唆されていた。更に、ニンニクの有効成分を効果が期待できる程度に摂取するには、現実的ではない量のニンニクを摂取する必要があり、ニンニクの有用な成分を効率的に得る手段が求められていた。また、飲食物や医薬などに配合し易い態様の醗酵黒ニンニクの加工物が望まれていた。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みなされたものであり、摂取後の呼気にニンニク臭が発生しない上、優れた生理活性を効率的に得ることができ、飲食物や医薬に配合し易い加工物である、生ニンニクを自己醗酵させた醗酵黒ニンニクの抽出物及び乾燥・粉砕物並びにこれらの製造方法及びこれらを含む飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、生ニンニクを自己醗酵させた醗酵黒ニンニクの抽出物である醗酵黒ニンニク抽出液を要旨とする。また、生ニンニクを自己醗酵させた醗酵黒ニンニクの乾燥・粉砕物である醗酵黒ニンニクパウダーを要旨とする。醗酵黒ニンニク抽出液又は醗酵黒ニンニクパウダーの原料となる醗酵黒ニンニクは、温度が55〜80℃、湿度が70〜95%の範囲内で熟成し自己醗酵させたものが好ましい。
【0007】
本発明は、生ニンニクを自己醗酵させる工程と、得られた醗酵黒ニンニクをペースト状にする工程と、ペースト状の醗酵黒ニンニクを抽出する工程と、抽出物を濃縮する工程と、からなる醗酵黒ニンニク抽出液の製造方法を要旨とする。また、本発明は、生ニンニクを自己醗酵させる工程と、得られた醗酵黒ニンニクを乾燥する工程と、乾燥した醗酵黒ニンニクを粉砕する工程と、からなる醗酵黒ニンニクパウダーの製造方法を要旨とする。
【0008】
本発明は、上記の醗酵黒ニンニク抽出液又は醗酵黒ニンニクパウダーを含む飲食品、あるいは医薬を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の醗酵黒ニンニク抽出液又は醗酵黒ニンニクパウダーは、摂取後の呼気にニンニク臭の発生がなく、ニンニク臭を気にすることなく日常的に摂取できる。また、醗酵黒ニンニク抽出液は水溶性で、醗酵黒ニンニクパウダーはパウダー状なので、飲食物や医薬に配合し易く、ニンニクの生理活性のある有用な成分を効率的に摂取できる。
【0010】
本発明の醗酵黒ニンニク抽出液の製造方法又は醗酵黒ニンニクパウダーの製造方法は、生ニンニクに酵母等の添加物を介在させることなく、所定の温度と湿度の下で熟成させる醗酵黒ニンニクを抽出又は乾燥・粉砕するだけで得られるので、ニンニク臭のしない、ニンニクの有用な成分を簡便かつ経済的に得ることができる。
【0011】
本発明の飲食物又は医薬は、ニンニク臭を気にすることなく、ニンニクの有用な成分を日常的に効率的に摂取できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の醗酵黒ニンニク抽出液は、生ニンニクを自己醗酵させて醗酵黒ニンニクを得る第一工程と、ペースト状にする第二工程と、水及び親水性有機溶媒を用いて抽出する第三工程と、遠心分離して濃縮する第四工程により製造できる。使用する生ニンニクは、特に限定がなく、例えば、国内産、中国産など産地も限定されない。
【0013】
第一工程である自己醗酵は、温度が55〜80℃、好ましくは60〜75℃、より好ましくは65〜70℃の範囲内で、湿度が70〜95%、好ましくは75〜90%、より好ましくは80〜85%の範囲内で熟成させて行うことができる。生ニンニクは、温度が55℃より低く、湿度が70〜95%の範囲外になると、自己醗酵ではなく腐敗が進み、形が崩れて泥状になり、食用できない。また、温度が80℃より高く、湿度が70〜95%の範囲外となると、ニンニクは単なる乾燥物となり、淡褐色の硬い石状になってしまい、食品として不向きとなる。また、温度が55〜80℃、湿度が70〜95%の範囲外となると、ニンニク中に含まれる悪臭の原因物質の油溶性のアリルメチルスルフィドが水溶性のS‐アリルシステインに変化せず、摂取後のニンニクの臭いを除去できない。
【0014】
生ニンニクを醗酵・熟成させる期間は、温度と湿度が上記の雰囲気下で熟成中のニンニクの状態を観察して適宜設定できるが、通常8〜30日間とできる。
【0015】
このように、ニンニクの熟成の温度と湿度を管理することにより、自己醗酵を進行させられる結果、得られる醗酵黒ニンニクは摂取後の呼気にニンニク臭を発生させない上、抗酸化活性、ポリフェノール含量、等のニンニクの生理活性が高められる。
【0016】
第二工程であるペースト化は、醗酵黒ニンニクの皮を除去し、潰してペースト状にする。ペースト化は、乳鉢、ミンチ機、ミキサー等公知の手段を用いて行うことができる。
【0017】
第三工程である抽出は、ペーストに温度が40〜80℃、好ましくは40〜75℃、より好ましくは45〜70℃の水を加え、撹拌する。撹拌は、ブレンダー、ミキサー等の公知の手段を用いて行うことができる。撹拌抽出後、冷却水を用いて冷却し、親水性有機溶媒を添加し混合する。抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0018】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級脂肪族アルコール、1,3‐ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン又はこれらの混合物等が挙げられる。抽出溶媒量は、抽出原料の1〜10倍量、好ましくは3〜5倍量である。
【0019】
次いで、遠心分離により得られた抽出液の不溶物を除去し、減圧濃縮により乾燥残分60〜65%まで濃縮する第四工程により水溶性のある醗酵黒ニンニク抽出液が得られる。
【0020】
また、本発明の醗酵黒ニンニクパウダーは、生ニンニクを自己醗酵させて醗酵黒ニンニクを得る第一工程と、これを乾燥して粉砕する第二工程より製造できる。原料となる醗酵黒ニンニクは、既述の醗酵黒ニンニク抽出液の原料となる醗酵黒ニンニクと全く同様に製造できるので、重複する記載は割愛する。
【0021】
醗酵黒ニンニクの乾燥は、温度55〜80℃、好ましくは60〜75℃、より好ましくは70〜75℃の範囲内で熱風乾燥させて行うことができる。醗酵黒ニンニクを乾燥させる期間は、温度が上記の雰囲気下で醗酵黒ニンニクの状態を観察して適宜設定できるが、通常25〜35日間とできる。粉砕は吸湿に注意し、エアコンの条件下等で行う。また、粉砕はピンミル等の公知の手段を用いて行うことができる。粉砕後の醗酵黒ニンニクは50〜100メッシュ、好ましくは60メッシュのパンチングスクリーンにより篩過処理を行う。
【0022】
上記で得られた醗酵黒ニンニク抽出液又は醗酵黒ニンニクパウダーは、任意の飲食品に含ませることができ、また、医薬に含ませることもできる。醗酵黒ニンニク抽出液を配合し得る飲食品は特に限定されず、また、飲食品には健康食品も含まれる。飲食品の具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む)、アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓、そば、うどん、はるさめ、ギョウザの皮、シュウマイの皮、中華麺、即席麺等の麺類、飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類、かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品、加工乳、発酵乳等の乳製品、サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品、ソース、タレ等の調味料、スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物、パン等が挙げられる。
【0023】
任意の飲食物における醗酵黒ニンニク抽出液又は醗酵黒ニンニクパウダーの配合量は、飲食物の形態や嗜好に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は約0.01wt%〜20.0wt%、好ましくは5wt%程度である。また、医薬として用いる場合の配合率は、通常、0.01wt%〜20.0wt%、好ましくは5wt%程度であるが、使用者の性別、体重、年齢、症状等を考慮して適宜増減できる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
〔実施例1〕(醗酵黒ニンニク抽出液の製造)
中国産生ニンニク100kgを圧搾空気によりエアー洗浄した後、10枚のトレイに分配した。次いで、トレイを醗酵室に入れ、醗酵室の温度を65℃、湿度を85%に設定し、30日間放置し自己醗酵させた。得られた醗酵黒ニンニクの鱗茎は真っ黒に変化していた。
【0026】
得られた醗酵黒ニンニク50kgの皮をむき、ミンチ機によりペースト状にした。ペーストに温度50℃の水160Lを加え、ブレンダーにより30分間撹拌抽出した。これを冷却水により30℃まで冷却した後、食品添加物用エタノール36Lを添加し混合した。遠心脱水機により不溶物を除去して得られた抽出エキスを、減圧濃縮により乾燥残分60〜65%まで濃縮することにより、醗酵黒ニンニク抽出液を得た。
【0027】
〔実施例2〕(醗酵黒ニンニク抽出液のパネルテスト1)
実施例1で得られた醗酵黒ニンニク抽出液を5名のパネラーに試食させ、食べた後18時間後の呼気中のニンニク臭の有無、体調の変化の3項目についてパネルテストを行った。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、醗酵黒ニンニク抽出液はニンニク特有の臭いは有しているものの、生ニンニクのような刺激臭は消失しており、風味も甘さも増し、そのまま食べても胃を損なうことがなかった。また、特筆すべきは、醗酵黒ニンニク抽出液を摂取しても、呼気のニンニク臭さが全くなく、余人にニンニクを食べたことが全く気付かれないことであった。以上のような良好なパネルテストの結果により、醗酵黒ニンニク抽出液の有用性が充分に確認できた。
【0030】
〔実施例3〕(醗酵黒ニンニク抽出液のパネルテスト2)
醗酵黒ニンニク抽出液5gを清涼飲料水100gに溶解したものを5名のパネラーに試飲させてパネルテストを行った。
【0031】
【表2】

【0032】
醗酵黒ニンニク抽出液は、水溶性であるため清涼飲料水に容易に溶解させることができた。さらに表2より、醗酵黒ニンニク抽出液を清涼飲料水に添加する事により、醗酵黒ニンニク抽出液は摂取しやすくなり、また摂取後の呼気にニンニク臭がないため、抵抗なく摂取できることがパネラーの評価より明らかになった。
【0033】
〔実施例4〕(醗酵黒ニンニクパウダーの製造)
中国産生ニンニク100kgを圧搾空気によりエアー洗浄した後、10枚のトレイに分配した。次いで、トレイを醗酵室に入れ、醗酵室の温度を65℃、湿度を85%に設定し、30日間放置し自己醗酵させた。得られた醗酵黒ニンニクの鱗茎は真っ黒に変化していた。
得られた醗酵黒ニンニクを乾燥室に入れ、乾燥室の温度を75℃に設定し、30日間乾燥させた。乾燥後、粉砕し、60メッシュパスにより篩過処理を施し、醗酵黒ニンニクパウダーを得た。
【0034】
〔実施例5〕(醗酵黒ニンニクパウダーのパネルテスト)
実施例4で得られた醗酵黒ニンニクパウダーを5名のパネラーに試食させ、食べた後18時間後の吐息中のニンニク臭の有無、体調の変化の3項目についてパネルテストを行った。
【0035】
【表3】

【0036】
表3から明らかなように、醗酵黒ニンニクパウダーはニンニク特有の臭いは有しているものの、生ニンニクのような刺激臭は消失しており、風味も甘さも増し、そのまま食べても胃を損なうことがなかった。また、特筆すべきは、醗酵黒ニンニクパウダーを摂取しても、呼気のニンニク臭さが全くなく、余人にニンニクを食べたことが全く気付かれないことであった。以上のような良好なパネルテストの結果により、醗酵黒ニンニクパウダーの有用性が充分に確認できた。
【0037】
〔実施例6〕(醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダーの抗酸化活性の評価)
醗酵黒ニンニク抽出液、醗酵黒ニンニクパウダー、青森県天間林産生ニンニク、中国産生ニンニクのそれぞれについて、下記のようにDPPH分光測定法によりラジカル消去能を測定し、抗酸化活性を評価した。
【0038】
400μM DPPH 36 mL、200mM MES緩衝液36 mL、20%エタノール 36 mLの混液を作り、試験管に2.7 mLずつ分注した(40サンプル測定用)。さらに80%エタノールを(900−a)μL加えた。これに分析試料 aμLを30秒おきに加え、ボルテックスで混合した(a=0、90、180、360、540、720μLの順に加えていく)。分析試料添加20分後に520nmにおける吸光度を測定した。添加順に従い、順次測定していく。分析試料を添加しないもの(a=0)の吸光度を100%とし、吸光度50%に相当する分析試料添加量を求め、DPPH50%消失量(μL/3.6mL assay)とした。結果は表4に示した。なお、各分析試料は80%エタノールを用いて調製し、10mg/mL、50mg/mLに調整した。
【0039】
【表4】

【0040】
表4から明らかなように、醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダーの抗酸化活性は、生ニンニク(未処理ニンニク)に比べ顕著に高かった。抗酸化活性の向上は、ポリフェノールの増加に加えて、自己醗酵によってグルコースとアルギニンが反応し生産するメイラード反応物の影響によるものと示唆される。
【0041】
〔実施例7〕(醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダーのポリフェノール含量の評価)
醗酵黒ニンニク抽出液、醗酵黒ニンニクパウダー、青森県天間林産生ニンニク、中国産生ニンニクのそれぞれについて、下記のようにポリフェノール含量を評価した。
【0042】
ポリフェノール含量をFolin-Denis法により測定した。すなわち、試料を精秤し、ウォーターバス中で1時間熱水抽出した。冷却後、100mLにメスアップし、ろ紙ろ過した。
得られたろ液を適宜希釈し、5mL分取した。Folin試薬5mL及び10%炭酸ナトリウム水溶液5mLを添加し、室温にて1時間発色させた後、700nmにおける吸光度を測定した。なお、2.5、5.0、10.0、20.0μg/mLに調整したタンニン酸溶液を標準として用いた。ポリフェノール(タンニン酸として)含量は次式により算出した。結果は表5に示した。
ポリフェノール(タンニン酸として)=A×V/5×B×10-6×100/S
A:タンニン酸濃度(μg/assay)
B:希釈率
S:試料採取量(g)
V:試料定容量(ml)
【0043】
【表5】

【0044】
表5から明らかなように、醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダーは生ニンニク(未処理ニンニク)に比べ、ポリフェノール含量が顕著に高かった。ポリフェノール含量の増加は、ニンニクが自己醗酵により加水分解され、配糖体から糖の部分がとれて、反応する活性基が増え、結果として測定する数値が増加したためであると示唆される。
【0045】
〔実施例8〕(醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダーのイオウの含有量)
醗酵黒ニンニク抽出液、醗酵黒ニンニクパウダー、青森県天間林産生ニンニク、中国産生ニンニクのそれぞれについて、下記のようにイオウ含量を評価した。
【0046】
硫酸バリウム重量法(AOAC法)によりイオウ含量を測定した。すなわち、磁製るつぼに試料を秤量し、95%硝酸マグネシウム5mL及び硝酸3mLを加え、予備灰化後、500℃にて2時間灰化した。放冷後、水を少量加え、塩酸:水=1:1を10mL加え、ホットプレート上で内容物を溶解させた。これをろ紙ろ過し、200mLのコニカルビーカーに受け、水を加えて約100mLとした。指示薬メチルオレンジを数滴落とし、50%水酸化ナトリウムで中性とした後、塩酸:水=1:1を1mL加えて微酸性とした。煮沸させ、10%塩化バリウム溶液10〜15mLを加え、室温で一夜放置した。これをろ紙ろ過し、塩化物イオンの反応がなくなるように約200mLの水で洗った。沈殿をろ紙ごとるつぼに移し、500℃にて3時間灰化後、750℃にて20分間恒量化後のるつぼの重量を測定した。イオウ含量は次式により算出した。結果は表6に示した。
イオウ(%)=(W1−W2)/W×0.1374×100
W1:灰化後の総重量(g)
W2:るつぼの重量(g)
W :試料量(g)
【0047】
【表6】

【0048】
表6から明らかなように、醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダーは生ニンニク(未処理ニンニク)に比べ、イオウ含量が高かった。ニンニクの有効成分のほとんどはイオウ化合物である。本発明によれば、生ニンニクの有効成分であるイオウ化合物に着目しても、その含量をロスすることなく加工でき、ニンニク本来の有用性は発揮できるものと示唆される。
【0049】
〔実施例9〕(醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダーのγ-グルタミル-S-アリルシステイン及びS-アリルシステイン含量)
醗酵黒ニンニク抽出液、醗酵黒ニンニクパウダー、青森県天間林産生ニンニク、中国産生ニンニクのそれぞれについて、高速液体クロマトグラフ―質量分析計(LC-MS/MS)により、γ-グルタミル-S-アリルシステイン含量及びS-アリルシステイン含量を評価した。
前処理は、試料約10gを精秤し、水:MeOH(=1:1)80mLに溶解・振とうし、遠心分離(8000rpm・5min)を行い、上澄みを250mLのメスフラスコに移した。この操作を全部で3回繰り返して250mLをメスアップ後、0.2μのフイルターでろ過した。結果は表7に示した。なお、LC-MS/MSの分析条件は、以下の通りである。
〈HPLC部〉 機種:alliance2695〔Waters〕
カラム:Mightysil RP-18 GP(φ2mm×50mm)
移動相:水-10mMギ酸アンモニウム-MeOH(85:10:5)
カラム温度:40℃
流速:0.2mL/min
注入量:5μL
〈MS部〉 機種:Quattro micro API〔MICROMASS〕
イオン法:ESI正イオンモード
【0050】
【表7】

【0051】
表7より明らかなように、醗酵黒ニンニク抽出液及び醗酵黒ニンニクパウダーは生ニンニク(未処理ニンニク)に比べ、γ-グルタミル-S-アリルシステイン含量が低く、ガン予防、コレステロール抑制、動脈硬化改善、心疾患予防、アルツハイマー防止などに効果があるとされているS-アリルシステイン含量が高かった。これは、自己醗酵において、酵素γ-グルタミルトランスフェラーゼの作用により、γ-グルタミル-S-アリルシステインがS-アリルシステインに変化するためであると推測される。
【0052】
なお、上記の醗酵黒ニンニク抽出液又は醗酵黒ニンニクパウダーの原料となる醗酵黒ニンニクとの比較のため、上記と同じ中国産生ニンニクを温度50℃、湿度60%に設定して上記と同じ熟成室に30日間放置した。その結果、生ニンニクは腐敗し、形が崩れ泥状になっていた。また、温度90℃、湿度50%に設定して熟成室に30日間放置した。その結果、生ニンニクは乾燥し、淡褐色の硬い石状になっていた。
【0053】
〔実施例10〕以下、醗酵黒ニンニク抽出液又は醗酵黒ニンニクパウダーを配合した飲食物及び医薬の具体例を示した。
【0054】
(配合例1)清涼飲料水
下記の原料を清涼飲料水の常法により処理し、醗酵黒ニンニク抽出液を含有する清涼飲料水を製造した。
醗酵黒ニンニク抽出液 50 mg
果糖ブドウ糖液糖 4000 mg
ハチミツ 2000 mg
保存料(安息香酸ナトリウム) 18 mg
ローヤルゼリー抽出物 14 mg
調味料(タウリン) 5 mg
リジン 50 mg
トレオニン 10 mg
ビタミンC 50 mg
ビタミンB 1.1 mg
ビタミンB 1.2 mg
ビタミンB 1.6 mg
ニコチン酸アミド 17 mg
マカ抽出液 30 mg
ウコン抽出液 10 mg
着色料(カラメル) 6 mg
酸味料 適量
香料 適量
【0055】
(配合例2)飴
下記の原料を飴の常法により処理し、醗酵黒ニンニク抽出液を含有する飴を製造した。
醗酵黒ニンニク抽出液 15 g
砂糖 200 g
水飴 30 g
水 60 g
【0056】
(配合例3)ドレッシング
下記の原料をドレッシングの常法により処理し、醗酵黒ニンニク抽出液を含有するドレッシングを製造した。
醗酵黒ニンニク抽出液 5 g
しょうゆ 30 g
酢 30 g
胡麻油 30 g
葱のみじん切り 5 g
生姜のみじん切り 5 g
【0057】
(配合例4)糖衣錠
醗酵黒ニンニクパウダー 20 mg
粉末黒酢 10 mg
黒酢もろみ末 10 mg
トレハロース 3 mg
グリセリン 8 mg
クエン酸 5 mg
クエン酸カルシウム 3 mg
セラック 微量
【0058】
(配合例5)パン
下記の原料をパンの常法により処理し、醗酵黒ニンニクパウダーを含有するパンを製造した。
醗酵黒ニンニクパウダー 25 g
強力小麦粉 345 g
ドライイースト 3.4 g
砂糖 23 g
食塩 7.5 g
スキムミルク 7.5 g
鶏卵 38 g
無塩バター 19 g
水 240 g
【0059】
(配合例6)うどん
下記の原料をうどんの常法により処理し、醗酵黒ニンニクパウダーを含有するうどんを製造した。
醗酵黒ニンニクパウダー 20 g
小麦粉 280 g
食塩 15 g
水 145 g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ニンニクを自己醗酵させた醗酵黒ニンニクの抽出物である醗酵黒ニンニク抽出液。
【請求項2】
醗酵黒ニンニクは、温度が55〜80℃、湿度が70〜95%の範囲内で熟成し自己醗酵させたものである請求項1記載の醗酵黒ニンニク抽出液。
【請求項3】
生ニンニクを自己醗酵させる工程と、得られた醗酵黒ニンニクをペースト状にする工程と、ペースト状の醗酵黒ニンニクを抽出する工程と、抽出物を濃縮する工程と、からなる醗酵黒ニンニク抽出液の製造方法。
【請求項4】
生ニンニクを自己醗酵させた醗酵黒ニンニクの乾燥・粉砕物である醗酵黒ニンニクパウダー。
【請求項5】
醗酵黒ニンニクは、温度が55〜80℃、湿度が70〜95%の範囲内で熟成し自己醗酵させたものである請求項4記載の醗酵黒ニンニクパウダー。
【請求項6】
生ニンニクを自己醗酵させる工程と、得られた醗酵黒ニンニクを乾燥する工程と、乾燥した醗酵黒ニンニクを粉砕する工程と、からなる醗酵黒ニンニクパウダーの製造方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の醗酵黒ニンニク抽出液を含む飲食品。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の醗酵黒ニンニク抽出液を含む医薬。
【請求項9】
請求項4又は請求項5に記載の醗酵黒ニンニクパウダーを含む飲食品。
【請求項10】
請求項4又は請求項5に記載の醗酵黒ニンニクパウダーを含む医薬。

【公開番号】特開2007−151436(P2007−151436A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349229(P2005−349229)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(504443352)有限会社ミールジャパン (6)
【Fターム(参考)】