説明

重力場における有効なレーザ光破壊手術

手術用レーザビームの光路内のレーザ誘起気泡を減少させる実施例を含む、レーザ手術用途のための技術、装置およびレーザ手術システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権および関連出願
本出願は、2007年9月10日に出願された米国特許出願番号第60/971,180号、発明の名称、「EFFECTIVE LASER PHOTODISRUPTIVE SURGERY IN A GRAVITY FIELD」の優先権を主張し、この文献の全体は、本願に援用される。
【0002】
背景
本発明は、レーザ眼科手術を含むレーザ手術に関する。
【背景技術】
【0003】
光破壊は、特に眼科におけるレーザ手術で広く用いられている。従来型の眼科医療用の光破壊装置(ophthalmic photodisruptor)では、例えば、パルスNd:YAGレーザ等のパルスレーザからのシングルショットまたは一連の数個のレーザパルス(例えば、約3個のパルス)を含むバーストモードが用いられてきた。このような状況では、レーザパルスは、非常に遅い速度で配置され、光破壊処理によって生成される気体は、通常、更なるレーザパルスの配置を妨げることはない。より新しいレーザデバイスでは、所望の手術の効果を実現するために、1秒あたり数千から数百万のレーザパルスを含む遙かに高い繰返しレートを用いている。繰返しレートが高いレーザシステムからのレーザパルスは、標的組織およびレーザパルスの光路に沿う他の構造との相互作用から、キャビテーション気泡を生成する傾向がある。繰返し率が高いレーザシステムによって生成されたキャビテーション気泡は、レーザパルスの動作に干渉し、この結果、標的組織へのレーザパルスの供給に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
手術用レーザビームの光路内のレーザ誘起気泡を減少させる実施例を含む、レーザ手術用途のための技術、装置およびレーザ手術システムを提供する。
【0005】
一側面においては、レーザ手術システムは、光破壊を引き起こすレーザ光線を生成できるレーザ光源と、レーザ光源から患者の標的組織にレーザ光線を方向付け、集光する光学モジュールと、レーザ光源を制御して、レーザパルスのパターンを所望の順序で供給し、光学モジュールを制御して、レーザ光線の方向を調整するレーザ制御モジュールと、患者を保持する患者支持モジュールと、レーザビーム光路に対する患者支持モジュールの向きおよび位置を制御し、組織内のレーザ誘起気泡の経路が、レーザ光線のレーザビーム光路を遮らないように、患者支持モジュールを調整するように動作可能な位置制御モジュールとを備える。
【0006】
他の側面においては、患者の眼のレーザ手術を実行するための方法は、重力と反対の方向に移動するレーザ誘起気泡がレーザビーム光路を遮らないように、患者を、眼内の標的組織においてレーザ手術動作を実行するために眼に方向付けられるレーザビームのレーザビーム光路に対して、位置決めするステップと、レーザビームを眼に方向付けてレーザ手術動作を実行するステップとを有する。
【0007】
他の側面においては、患者にレーザ手術を実行するための方法は、重力と反対の方向に移動するレーザ誘起気泡がレーザビーム光路を遮らないように、患者を、患者の手術標的に方向付けられたレーザ手術動作を実行するレーザビームのレーザビーム光路に対して位置決めするステップを有する。また、この方法は、レーザビームを手術標的に方向付けてレーザ手術動作を実行するステップを有する。
【0008】
他の側面においては、レーザ手術システムは、光破壊を引き起こすレーザ光線を生成できるレーザ光源と、レーザ光源から患者の標的組織にレーザ光線を方向付け、集光する光学モジュールと、レーザ光源を制御して、レーザパルスのパターンを所望の順序で供給し、光学モジュールを制御して、レーザ光線の方向を調整するレーザ制御モジュールと、患者を保持する患者支持モジュールと、レーザ光源および光学モジュールを制御するために、患者の標的組織をイメージングし、画像をレーザ制御モジュールに供給するイメージングモジュールとを備える。レーザ制御モジュールは、標的組織上の所望の手術のパターン、標的組織およびその部分の重力に対する相対的位置、レーザビーム光路、並びに標的組織の前方または上方の媒質の位置および気泡フロー特性からの特定の情報を利用してレーザパルスの3次元的な連続的順序を決定するレーザパターン生成器を有し、レーザ制御モジュールは、レーザ光源および光学モジュールを制御して、レーザと、全ての手術標的との間の経路が、レーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように、レーザパルスの3次元的な順序を達成する。
【0009】
他の側面においては、患者の眼のレーザ手術を実行するための方法は、レーザ手術動作を実行するために眼に方向付けられるレーザビームのレーザビーム光路に対して眼を位置決めするステップと、眼の1つ以上の内部構造をイメージングするステップと、イメージングされた眼の1つ以上の内部構造に基づいて、レーザと全ての手術標的との間の経路が、レーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように保たれているのと略々同時に、生成された気泡が、バリア組織を通過しおよび/または流体または準流体空間に入り込むようにする3次元的な連続的順序でパルスを供給する手術用レーザパターンを生成するステップと、手術用レーザパターンを適用して、レーザビームを眼に方向付け、レーザ手術動作を実行するステップとを有する。
【0010】
他の側面においては、患者の眼のレーザ手術を実行するための方法において、眼の内部構造の位置をイメージングするステップと、重力に対する標的構造の位置に基づいて、手術標的領域がレーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように、眼にレーザビームを方向付け、レーザ手術動作を実行するステップとを有する。
【0011】
更に他の側面においては、レーザ手術システムは、光破壊を引き起こすレーザ光線を生成できるレーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光線を患者の標的組織に方向付けおよび集光する光学モジュールと、レーザ光源を制御して、レーザパルスのパターンを所望の順序で供給し、光学モジュールを制御して、レーザ光線の方向を調整するレーザ制御モジュールと、患者を保持する患者支持モジュールと、重力場に対するレーザビーム光路の向きおよび位置を制御し、組織内のレーザ誘起気泡の経路が、前記レーザビーム光線のレーザビーム光路を遮らないように、前記ビーム光路を調整する位置決め制御モジュールとを備える。
【0012】
様々なレーザ手術システムを含むこれらのおよびこの他の側面は、図面、詳細な説明および特許請求の範囲に更に詳細に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】眼の構造を示す図である。
【図2A】患者が背臥位のときの、レーザ手術におけるレーザ誘起キャビテーション気泡の存在および作用を示す図である。
【図2B】患者が背臥位のときの、レーザ手術におけるレーザ誘起キャビテーション気泡の存在および作用を示す図である。
【図2C】患者が背臥位のときの、レーザ眼科手術におけるレーザ誘起キャビテーション気泡の作用の更なる例を示す図である。
【図2D】患者が背臥位のときの、レーザ眼科手術におけるレーザ誘起キャビテーション気泡の作用の更なる例を示す図である。
【図2E】患者が背臥位のときの、レーザ眼科手術におけるレーザ誘起キャビテーション気泡の作用の更なる例を示す図である。
【図3A】患者が直立姿勢のときの、レーザ手術におけるレーザ誘起キャビテーション気泡の存在および作用を示す図である。
【図3B】患者が直立姿勢のときの、レーザ手術におけるレーザ誘起キャビテーション気泡の存在および作用を示す図である。
【図4】レーザ光路および重力場に対する患者の位置および向きを制御して、レーザ手術に対するレーザ誘起気泡の干渉を低減するために用いることができるレーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図5A】レーザ誘起気体を用いて、網膜裂孔を押圧して、網膜の封止を補助する具体例を示す図である。
【図5B】レーザ誘起気体を用いて、網膜裂孔を押圧して、網膜の封止を補助する具体例を示す図である。
【図5C】レーザ誘起気体を用いて、網膜裂孔を押圧して、網膜の封止を補助する具体例を示す図である。
【図5D】レーザ誘起気体を用いて、網膜裂孔を押圧して、網膜の封止を補助する具体例を示す図である。
【図6】レーザ制御のために標的のイメージングを行うイメージングモジュールが設けられた画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図7】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図8】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図9】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図10】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図11】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図12】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図13】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図14】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図15】レーザ手術システムおよびイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
【図16】画像誘導レーザ手術システムを用いてレーザ手術を実行する方法の具体例を示す図である。
【図17】光干渉断層法(OCT)イメージングモジュールからの眼の画像の具体例を示す図である。
【図18】A〜Dは、画像誘導レーザ手術システムを較正するための較正サンプルの2つの具体例を示す図である。
【図19】システムを較正するために、画像誘導レーザ手術システム内の患者インタフェースに較正サンプル材料を取り付ける具体例を示す図である。
【図20】手術用レーザビームによってガラス表面に作成された参照マークの具体例を示す図である。
【図21】画像誘導レーザ手術システムの較正処理および較正後の手術の具体例を示す図である。
【図22A】レーザ誘起光破壊副産物および標的組織の画像を捕捉し、レーザ整列を誘導する例示的な画像誘導レーザ手術システムの動作モードを示す図である。
【図22B】レーザ誘起光破壊副産物および標的組織の画像を捕捉し、レーザ整列を誘導する例示的な画像誘導レーザ手術システムの動作モードを示す図である。
【図23】画像誘導レーザ手術システムにおけるレーザ整列動作の具体例を示す図である。
【図24】画像誘導レーザ手術システムにおけるレーザ整列動作の具体例を示す図である。
【図25】光破壊副産物の画像を用いるレーザ整列に基づく例示的なレーザ手術システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、眼の幾つかの基本的な構造と共に眼の全体的な構造を示している。眼は、前眼部および後眼部を含む。前眼部は、硝子体の前にある眼の前方側の約3分の1の部分を占め、角膜、虹彩、瞳孔、毛様体および水晶体を含む。前眼部内のこれらの空間は、房水で満たされ、房水は、周囲の構造に栄養を補給する。後眼部は、水晶体の後ろにある眼の後方側の3分の2の部分を占め、前方の硝子体膜、硝子体、網膜、脈絡膜および視神経を含む。この図に示すように、レーザ眼科手術では、手術用レーザビームは、前眼部から後眼部への方向に沿って、角膜から眼に入射するように方向付けられる。手術用レーザビームは、手術下の特定の標的領域に集光され、標的領域は、角膜、水晶体、網膜等、眼の構造の何れであってもよい。
【0015】
供給された手術用レーザビームのレーザパルスによって生成されるキャビテーション気泡は、角膜の表面と標的との間の光路内に生じる場合がある。このような場合、キャビテーション気泡は、標的に供給するよう入射されたレーザパルスを散乱させ、拡散させまたは他の何らかの形式で移動および減衰させ、これによって、これらのレーザパルスによって実行されるべき所望の手術のためのレーザパルスの効力を劣化させる。レーザ誘起キャビテーション気泡(laser-induced cavitation bubble)による、レーザパルスの動作に対する望ましくない干渉は、標的または標的の周りの物質が、可動のキャビテーション気泡を生成する傾向がある流体、粘性物質または準固体物質(semi-solid material)である場合、特に、顕著になる。このような場合、生成された気泡は、周囲の物質より軽く、この結果、重力の作用の下で「浮く」ことがある。この他にも、主な手術標的が、重力によって気泡が組織内で動くことができない薄いまたはより固い物質である場合であっても、気泡がこのように動くことができる基質または物質内でレーザ処置を開始または終了する必要がある場合もある。
【0016】
多くのレーザ手術システムは、手術医および患者の快適性を考慮して、患者が、直立姿勢で座り眼が正面を向いた状態、または背臥位で眼が上を向いた状態になるよう設計されている。直立姿勢および背臥位は、様々な眼科手術において適切であるが、このような体位によって、眼または他の手術標的内に生成された気泡がパルスレーザビームの光路内に侵入し、この結果、気泡が更なるレーザパルスの配置を妨げることがある。多くの眼科レーザ手術システムにおいて使用されている背臥位は、上昇する気泡が、患者の眼に下向きに方向付けられるパルスレーザビームの光路に侵入する傾向があるので、特に問題に問題が生じやすい。
【0017】
図2Aおよび図2Bは、患者が背臥位で横たわり、上方を見上げている状態のレーザ手術を示している。重力場は、眼の前方から後方への下向きの方向に存在する。レーザビームは、手術される眼に入射するよう、略々下向きに方向付けられ、重力の方向に対して鋭角を形成することがある。眼内の光破壊の間に生成されるキャビテーション気泡は、重力の作用によって、配置されている更なるレーザパルスの光路内の上方に動き、この状況によって、更なる光破壊の効果が低下する。具体例として、図2Aおよび図2Bは、解剖学的に後方から前方の位置に、レーザパルスを眼に供給した際、更なるレーザパルスの配置の間に、重力の作用によるキャビテーション気泡の広がりによって、この望ましくない条件が生じることを示している。初めに生成された気泡は、レーザビームが集光された位置に位置し(図2A)、これらの気泡は、軽いため、眼の前方に向かって、上方に移動する(図2B)。
【0018】
図2C、図2Dおよび図2Eは、レーザ眼科手術において、患者が背臥位にあるとき、レーザ誘起キャビテーション気泡の影響の更なる具体例を示している。これらの具体例では、手術される標的組織は、前方に流体、粘性物質または準固体物質と接する眼内の構造である。キャビテーション気泡は、標的の構造内で生成されたときは、相対的に不動であることもあるが、手術用レーザビームが標的組織に入射した前方領域内の前方の物質に気泡が接すると、可動になることもある。この状況では、幾つかの異なる作用が生じることがある。一具体例においては、レーザビームの方向は、重力場に平行ではない。この場合、可動になった気泡は、重力場の向きに浮き、境界組織構造を介して、レーザパルスの更なる配置を遮蔽することがある。標的になる構造の前面が眼内で一定の深さにある場合、レーザ走査の速度が気泡の移動より速いと仮定すれば、このような気泡は、通常、目標設定されている構造の境界の真上に浮くので、境界組織から移動し始めるキャビテーション気泡が、この深さに配置された後のパルスを遮蔽する可能性は低い。一方、標的が重力場に対して傾いているために、または前方の境界の形状が不規則であるために、標的の境界の深さが一定ではない場合、後方から前方の方向に配置される一連のパルスによって、キャビテーション気泡が、境界の最後部から放出される。そして、これらの気泡は、重力場の方向に浮き、方向が重力場に平行ではないレーザビームを遮蔽することがある。したがって、標的構造の内部(例えば、水晶体核)の周辺の細胞組織にアクセスするためにレーザビームを重力場に対して斜めに供給することが有利である場合もあるが、このような向きによって、(例えば、水晶体嚢胞を切開するために)構造の境界を横断する際に問題が生じることもある。図2Cでは、手術標的の境界は、手術用レーザビームの方向および局所重力場(local gravity field)の方向に対して垂直な一定の深さを有する。手術の間、手術用レーザビームは、重力の方向に対して斜めの角度で走査される。標的内に生成された気泡は、前部の物質に放出され、通常、生成された位置の直接前方に浮く。この条件下では、生成された気泡の大部分は、手術用レーザビームの光路の外側にあり、したがって、後のレーザパルスの供給に大きな影響はない。
【0019】
一方、標的になる構造の境界が非一様な深さで位置している場合、前方の物質に放出されるキャビテーション気泡が、手術用レーザビームの光路内に侵入し、この結果、手術標的に供給するべき後のレーザパルスを減衰し、散乱させまたは遮蔽することがある。図2Dは、このような具体例を示しており、ここでは、放出された気泡は、更なるレーザパルスによって処置する必要性が残っている手術標的の部分の前方に浮くことがあり、このために、レーザパルスの効果を劣化させる可能性がある。図2Eは、放出された気泡が更なるレーザパルスによって処置する必要がある手術標的の前方の部分に浮くことがあり、この結果、レーザパルスの効果が劣化する可能性がある他の具体例を示している。
【0020】
図3Aおよび図3Bは、直立姿勢で、水平方向を見る患者のためのレーザ手術の具体例を示している。例示した具体例では、手術用レーザビームは、眼内で、略々水平方向に左から右に方向付けられる。レーザパルスによって生成されたキャビテーション気泡は、上方に動く傾向があるが、この場合も、レーザビームの光路の上部の部分に定着し、レーザビームの光路内に入り込むことがある。この結果、気泡が光路内に存在し、したがって更なるレーザパルスによる光破壊の効果を低下させる。
【0021】
一具体例においては、本明細書に開示されている技術を用いて、レーザ誘起気泡(laser-induced bubble)が、レーザパルスの光路を実質的に遮らない経路に沿って移動するように、局所重力の方向に対して、背臥位ではない方向に患者の位置を向ける。この条件下では、レーザ誘起気泡は、レーザパルスの動作に大きく影響しない。このような技術によって、レーザ眼科手術中に、パルスレーザビームが、流体、準固体物質、若しくは固体の組織または物質内に方向付けられた際、先に配置されたレーザパルスによって生成された気泡の干渉を緩和できる。本明細書に開示する技術は、網膜裂孔の際のタンポナーデ物質として気泡を使用する手法を提供するために用いることができ、および眼の硝子体の手術において用いることができる。
【0022】
レーザ手術システムは、手術用レーザビームの光路内のレーザ誘起気泡の存在を低減する様々な構成で構成できる。一実施例においては、このようなレーザ手術システムは、例えば、短パルスレーザまたは他の光破壊の開始要因である、光破壊を引き起こす光を生成できるレーザ光源と、レーザ光源から患者の標的組織(例えば、眼)にレーザ光線を方向付け、集光する光学モジュールと、レーザ光源を制御して、パルスのパターンを所望の順序で供給し、光学モジュールを制御して、レーザ光線の方向を調整するレーザ制御モジュールと、患者を保持する患者支持モジュールと、患者支持モジュールの向きおよび位置を制御し、レーザビームの経路に対する、および重力場に対する体、頭部および眼の位置を設定する位置制御モジュールとを備える。位置制御モジュールは、所与のレーザ手術のために、レーザ誘起気泡の経路がレーザ光線の光路を実質的に遮らないように、患者支持モジュールを調整するように動作する。レーザ制御モジュールを用いて、光学モジュールを制御し、レーザビームが眼の解剖学的位置に垂直になるようにレーザビームを照準合わせし、移動させることができる。
【0023】
図4は、このようなレーザシステムの一具体例を示しており、ここでは、パルスレーザ410を用いて、パルスからなる手術用レーザビームを生成し、手術用レーザビームの光路内に光学モジュール420を配設して、レーザビームを標的組織401上に集光させ、走査させる。レーザ制御モジュール440は、レーザ410および光学モジュールの両方を制御するために設けられている。患者の標的組織401の画像を検出または回収するイメージングデバイス430を設けてもよく、レーザ制御モジュール440は、この標的組織401の画像を用いて、レーザパルスを標的組織401に供給する際に、レーザ410および光学モジュール420を制御することができる。レーザ制御モジュール440の動作を調整するために、システム制御器450を設けてもよい。
【0024】
患者の頭部の位置および向きを調整できる患者支持モジュール470によって、患者の頭部または全身を支えてもよい。位置制御モジュール460は、患者支持モジュール470の動作を制御する。患者支持モジュール470は、例えば、患者の頭部を、局所重力場および手術用レーザビームに対して所望の位置および向きに保持または支持するメカニズムを有する調整可能な頭部サポートまたは手術台であってもよい。このシステムでは、手術用レーザビームの光路が、レーザインタラクションによって生成されるキャビテーション気泡に遮られないように、局所重力場の方向に基づいて、患者の向きおよび手術用レーザビームの走査および集光を相対的に制御できる。標的組織は、患者の眼、膀胱、腹腔、頭蓋および心臓等、患者の体の一部であってもよい。
【0025】
実際の動作では、以下のステップを実行できる。患者または標的は、結果として生じるキャビテーション気泡が、重力の作用および周囲の媒質に対して密度が低いために、レーザ集光の光路から離れるように移動するように位置決めされる。一方法においては、標的401の位置および直前の最も影響がある部分(most dependant portion)へのパルスの供給を考慮に入れることによって、更なるレーザパルスがキャビテーション気泡または先に配置されたパルスを回避するように配置されるように、初期のレーザパルスを配置する。他の実施の形態においては、標的401の影響がある部分は、レーザビーム焦点の動きを最小化するために、レーザ施術の間に変更される。更に他の実施の形態では、図2に示すように、流体、準流体または粘性媒質の真下で組織401に切込みを切開する場合に有用な点として、標的組織401の標的表面は、レーザビームの平面および重力場に垂直に維持され、これによって、生成される全ての気泡は、組織の1つの部分が切開されたとき、組織の処置および/または切開された領域の真上に浮きあがるように放出され、横に広がってまだ完全に切開されていない所望の切込みの領域を遮蔽することはない。これらのおよびこの他の方法では、イメージングデバイス430を用いて、局所重力に対する標的401の位置を評価しおよび/または生成された気泡の位置を評価して、患者、標的器官もしくは組織の位置、またはレーザビームの光路の向きを変更する。この結果、結果として生じるキャビテーション気泡に重力が影響することがある状況で、気泡は、レーザビームの方向から離れるように選択的に方向付けられまたは維持されるので、更なるレーザパルスへの影響またはこれらの気泡を最小化して、繰返しレートが高いレーザパルスを標的に供給することができる。
【0026】
例えば、レーザ制御モジュールは、手術パターンの供給を調整するために、標的組織上の所望の手術のパターン、標的組織およびその部分の局所重力の方向に対する相対的位置、レーザビーム光路、および/または標的組織の前方または上方の媒質の位置および気泡フロー特性からの特定の情報を利用して、レーザパルスの特定の3次元的な連続的順序を決定するレーザパターン生成器を含むことができる。この3次元的な連続的順序は、レーザおよび光学モジュールを制御して、レーザと全ての手術標的領域との間の経路が、レーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように、レーザビームを方向付け、走査させるために使用される。
【0027】
他の具体例として、図4のシステムを用いて、患者支持モジュールおよび光学モジュールを制御および調整することによって、眼に向けられているレーザビームのレーザビーム光路に対して眼を位置決めし、所望のレーザ手術動作を実行することができる。イメージングデバイスは、眼の1つ以上の内部構造を画像化(imaging)するために使用される。次に、画像化された(imaged)眼の1つ以上の内部構造に基づいて、レーザと全ての手術標的との間の経路が、レーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように保たれているのと略々同時に、生成された気泡が、バリア組織を通過しおよび/または流体または準流体空間に入り込むようにする3次元的な連続的順序でパルスを供給する手術用レーザパターンを生成する。そして、レーザ制御モジュールによって、手術用レーザパターンを適用して、レーザ光源および光学モジュールを制御して、レーザビームを眼に方向付け、レーザ手術動作を実行する。
【0028】
更に、施術の手術的効果を追加するために、標的の一部に気泡を方向付けてもよい。例えば、硝子体ゲルの光破壊の間に生成されるキャビテーション気泡を、重力場の方向(空間的に眼の位置の上部またはその近傍)に配置された網膜内の特定の位置における網膜裂孔を覆うように方向付けるように、患者の頭部および眼を位置決めしてもよい。
【0029】
したがって、光破壊の副産物が局所重力による作用を受けることがある媒質内のレーザ光破壊の1つの方法は、以下のステップを含むことができる。(1)物質の内部または境界の構造の光破壊のために一連のレーザパルスによって処置される物質の標的ボリュームを選択する。(2)手術用レーザ光線が通過する解剖学的に前方の部分が、重力に関して相対的に影響を受ける部分になるように、処置される標的ボリュームを位置決めする。これは、標的が影響を受けるように、眼、頭部または体、若しくはまたはこれらの何らかの組合せを位置決めすることによって達成してもよい。(3)一連のレーザパルスを適用して、影響が最も小さいボリュームの部分から開始して、重力場の方向内のより影響が大きいボリュームに移動するようにパルスを方向付けることによってボリュームを縁取りまたは埋める。したがって、ビーム供給経路は、患者の直立姿勢または背臥位におけるレーザ方向とは異なり、患者の顔面を略々床面に向けながら、床面から90度の位置またはこれより小さい角度で上方に方向付けてもよい。幾つかの場合、この角度を90度より小さくして、ビーム光路の外にレーザパルスを方向付けることが適切である場合があり、患者の快適性または他の制約のために、この方が容易であることもある。この構成の下では、施術の間、患者支持モジュール470による標的401の調整の有無に関わらず、レーザ焦点を移動させ、レーザパルスが、生成されたキャビテーション気泡からの干渉なしで、標的ボリュームの全ての所望の位置に到達するように光学モジュール420を動作させてもよい。
【0030】
また、図4のレーザシステムを動作させて、レーザによって処置され、異なる気泡フロー特性によって物質を分離する物質の前部の後方の位置から光破壊の副産物が放出されると、光破壊の副産物が重力の作用を受ける媒質内で、レーザ光破壊を達成することもできる。このシステムを動作させて、以下のステップを実行することができる。(1)一連のレーザパルスによって処置され、標的ボリュームのバリアにおいて光破壊を引き起こす物質の標的ボリュームを選択する。(2)局所重力に略々垂直に進むように手術用レーザビームを方向付ける。(3)一連のレーザパルスを適用して、パルスを、バリアの下方から開始し、バリア組織表面を介して移動するように方向付けることによってバリア組織を切開する。レーザビームの位置決めは、1つ以上の光学的要素を位置決めすることによって達成できる。幾つかの場合、バリア表面に垂直な光ビーム供給経路を選択することが有利であることがあり、一方、標的内のある位置にパルスを供給することを補助するために、より小さい角度が望ましいこともある。組織の傾斜のため、またはバリアもしくは基底構造の形状のために、バリア組織の異なる部分の絶対的な高さが異なる場合(例えば、図2E)、レーザパルスは、レーザパルスが略々同時にバリア組織を横断するように、非対称のパターンで組織に適用でき、この結果、切開された1つの部分からの生成された気泡が他の部分に供給されているパルスを遮蔽する可能性を最小化することができる。レーザパルス配置のための特定パターンの生成は、レーザパルスの配置前または配置中に得られた、重力場の方向を参照するバリア標的の画像に基づいて行ってもよい。
【0031】
代替となる方法では、光破壊の間に生成された気体を手術の処理の一部として使用する。例えば、網膜剥離の治療の一部として、重力によって気体が移動し、網膜裂孔を覆うように、眼を位置決めする。これにより、硝子体が裂孔から切り離されまたは剥離され、硝子体の光破壊によって生成された気体が網膜裂孔の上に位置決めされ、体液の封止および再吸収が実現される。
【0032】
図5A〜図5Dは、レーザ誘起気体(laser-induced gas)を用いて、網膜裂孔を押圧し、網膜の封止を補助する具体例を示している。図5Aは、患者が直立姿勢にあり、網膜裂孔を有していることを示している。図5Bは、標的硝子体が影響を受ける位置になるように、顔面が下向きになるように、患者の向きが変えられていることを示している。図4Cでは、患者が図5Bの位置にあるとき、レーザビームが上向きに眼に入射するように方向付けられ、初期のレーザパルスが、最も影響が小さい(上部)位置から下向きに供給され、気泡が生成されている。レーザ誘起気泡は、網膜に向かって上方に動き、互いに合体して、数がより少ない、より大きい気泡を形成する。より数が少なくより大きいキャビテーション気泡の併合によって、硝子体−網膜接着(vitreo-retina adhesion)が切断された後の網膜のタンポナーデ物質となる単一の大きい気泡が形成される。
【0033】
以上では、眼の手術の具体例を説明した。また、このようなレーザ手術技術は、例えば、膀胱、腹腔、頭蓋および心臓等、体の他の部分に対するレーザ手術動作にも適用できる。
【0034】
上述した特徴は、様々なレーザ眼科手術システムにおいて実施することができる。図4は、一具体例を示している。他の具体例は、標的組織のイメージングに基づくレーザ手術システムを含む。以下では、このようなシステムの具体例について説明する。
【0035】
レーザ手術の1つの重要な側面は、レーザビームの精密な制御および照準、例えば、ビーム位置決めおよびビーム集光である。レーザ手術システムは、レーザパルスを組織内の特定の標的に目標設定するレーザ制御および照準ツールを含むように設計することができる。様々なナノ秒光破壊レーザ手術システム、例えば、Nd:YAGレーザシステムでは、目標設定精度の必要なレベルは、比較的低い。この理由の1つは、使用されるレーザエネルギが比較的高く、したがって、影響を受ける組織領域も比較的大きく、衝撃を受ける領域が数百ミクロンの寸法に亘ってカバーされることが多いためである。このようなシステムにおけるレーザパルス間の時間は、長い傾向があり、手動制御の目標設定が可能であり、一般的に用いられている。このような手動の目標設定メカニズムの一具体例は、標的組織を可視化する生体顕微鏡と、照準ビームとして使用される二次レーザ光源との組合せである。手術医は、通常、ジョイスティックコントローラを用いて、顕微鏡を介する画像と(オフセットの有無にかかわらず)同焦点であるレーザ集光レンズの集光を手動で移動させ、手術用ビームまたは照準ビームを意図された標的上に最良に集光する。
【0036】
繰返し率が低いレーザ手術システムと共に使用するように設計されたこのような技術は、1秒あたり数千ショットで動作し、1パルスあたりのエネルギが比較的低い、高繰返し率のレーザと共に使用することは困難である場合がある。繰返し率が高いレーザを用いる手術では、個々のレーザパルスの効果が小さいために、遙かに高い精度が必要となることがあり、および何千ものパルスを新たな治療領域に非常に速やかに供給する必要性のために、遙かに高い位置決め速度が必要となることがある。
【0037】
レーザ手術システムのための繰返し率が高いパルスレーザの具体例は、1秒あたり数千ショットまたはこれ以上のパルス繰返し率を有し、1パルスあたりのエネルギが比較的低いパルスレーザを含む。このようなレーザは、1パルスあたりのエネルギが比較的低く、組織の影響を局所化し、レーザ誘起光破壊によって引き起こされる、例えば、光破壊によって衝撃を受ける組織領域を数ミクロンまたは数十ミクロン程度にする。このように組織の影響を局所化することによって、レーザ手術の精度を改善でき、これは、レーザ眼科手術等のある手術において、望ましい場合がある。このような手術の一具体例においては、連続する、略々連続するまたは既知の間隔だけ分離された、数百、数千乃至数百万のパルスを用いて、ある所望の手術効果、例えば組織の切開、分離または断片化等を達成することができる。
【0038】
レーザパルス幅が短く、繰返し率が高い光破壊レーザ手術システムを用いる様々な手術は、標的組織上の標的部位に関する絶対的位置、および先行するパルスに関する相対的位置の両方において、手術下の標的組織における各パルスの位置決めに高い精度を要求することがある。例えば、幾つかの場合、レーザパルスは、数マイクロ秒程度であることもあるパルス間の時間内に、数ミクロンの精度で互いに隣り合うように供給する必要があることがある。この場合、2つの連続するパルス間の間隔は短く、パルス整列に関する精度要求は高いので、繰返し率が低いパルスレーザシステムで用いられる手動の目標設定は、不適切または不可能である。
【0039】
レーザパルスを組織に供給するための精密な高速位置決め要求を実現および制御する1つの技術は、透明材料、例えば、組織に接触する予め定義された接触面を有するガラスから形成された圧平プレート(applanation plate)を取り付け、圧平プレートの接触面が組織とのよく定義された光インタフェースを形成するようにすることである。このよく定義されたインタフェースは、組織へのレーザ光線の透過および集光を補助し、眼内の角膜の前面にある空気/組織インタフェースにおいて最も重大な、光学収差または変動(例えば、特定の眼の光学的特性または表面の乾燥によって生じる変化に起因する。)を制御または減少させることができる。様々な用途、並びに眼および他の組織内の標的について、使い捨てのものおよび再使用可能なものを含むコンタクトレンズを設計することができる。標的組織の表面上のコンタクトガラスまたは圧平プレートは、参照プレート(reference plate)として用いることができ、これに対して、レーザパルスは、レーザ供給システム内の集光要素の調整によって集光される。このようにコンタクトガラスまたは圧平プレートを使用することによって、組織表面の光学品質をより良好に制御することができ、この結果、レーザパルスの光学的歪みを小さく抑えながら、圧平プレートに対する標的組織内の所望の位置(相互作用点)にレーザパルスを速やかに正確に配置することができる。
【0040】
眼の上で圧平プレートを使用する一手法は、眼内の標的組織にレーザパルスを供給するための位置基準を提供する圧平プレートを用いることである。このような圧平プレートの位置基準としての使用は、標的内のレーザパルスを出射する前に十分な精度で特定されたレーザパルス集光の既知の所望の位置に基づくことができ、参照プレートと個々の内部の組織標的との相対的位置は、レーザ出射の間、一定のままである必要がある。更に、この方法は、異なる眼の間でまたは同じ眼内の異なる領域の間で、予測可能で再現可能な所望の位置へのレーザパルスの集光を必要とすることがある。実際のシステムでは、上述した条件が満たされない場合があるため、実際のシステムでは、位置基準として圧平プレートを用いて、レーザパルスを眼内で正確に局所化することが困難であることがある。
【0041】
例えば、手術標的が水晶体である場合、眼の表面にある参照プレートから標的への正確な距離は、角膜自体、前眼房、虹彩等の伸縮可能な構造(collapsible structures)の存在のために、変化する傾向がある。異なる個々の眼の間で、圧平された角膜と水晶体との間の距離の変化がかなり大きいだけではなく、同じ眼内においても、手術医が使用する特定の手術および圧平技術によって、変化があることもある。更に、手術の効果を達成するために必要な数千個のレーザパルスを出射している間に、圧平された表面に対して、目標設定された水晶体組織が移動することもあり、これによって、パルスの正確な供給が更に複雑になる。更に、眼内の構造は、キャビテーション気泡等の光破壊副産物の形成を原因として動くことがある。例えば、水晶体に供給されたレーザパルスによって、水晶体嚢胞が前方に膨らむことがあり、この場合、その後のレーザパルスの配置のために、この組織に目標設定する調整が必要である。更に、コンピュータモデルおよびシミュレーションを使用して、圧平プレートを取り除いた後に、標的組織の実際の位置を十分な精度で予測すること、および圧平なしで、レーザパルスの配置を調整して、所望の局所化を達成することは、困難である場合があり、この理由の一部は、圧平効果は、個々の角膜または眼、並びに手術医が使用する特定の手術および圧平技術に固有の因子に依存することがあるので、非常に変化しやすい性質を有するためである。
【0042】
ある手術的処置において、内部組織構造の局所化に対して不均衡に影響する圧平の物理的な効果に加えて、目標設定システムは、パルス継続時間が短いレーザを使用するときに生じる可能性がある光破壊の非線型特性を予測または考慮することが望ましいことがある。光破壊は、組織物質における非線形の光学プロセスであり、ビーム整列およびビーム目標設定を複雑にすることがある。例えば、光破壊の間にレーザパルスと相互作用する際の組織物質における非線形の光学的効果の1つとして、レーザパルスが受ける組織物質の屈折率が一定ではなくなり、光の強度によって変化するようになる。レーザパルスの光強度は、パルスレーザビームの伝播方向に沿う方向およびこの伝播方向を横切る方向に亘ってパルスレーザビーム内で空間的に変化するので、組織物質の屈折率も空間的に変化する。この非線形の屈折率の1つの結果は、組織内でパルスレーザビームの実際の集光を変化させ、および集光の位置をシフトさせる組織物質の自己収束(self-focusing)または自己発散(self-defocusing)である。したがって、標的組織内の各標的組織位置へのパルスレーザビームの正確な整列では、レーザビームに対する組織物質の非線形の光学的効果を考慮する必要がある場合がある。更に、異なる物理的特徴、例えば硬度等のためにまたは特定の領域に伝播するレーザパルス光の吸収または拡散等の光学的な要件のために、各パルス内のエネルギを調整して、標的内の異なる領域に同じ物理的な効果を提供する必要があることもある。このような場合、エネルギ値が異なるパルス間の非線形集光効果の差も、手術用パルスのレーザ整列およびレーザ目標設定に影響することがある。
【0043】
したがって、非表層の構造(non superficial structure)が標的になる手術では、圧平プレートが提供する位置基準に基づく表層の圧平プレート(superficial applanation plate)の使用は、内部の組織標的におけるレーザパルスの正確な局所化を達成するには、不十分であることがある。レーザ供給を誘導するための参照として圧平プレートを使用する場合、公称値からの偏りが、深さ精度誤差に直接影響するので、圧平プレートの厚さおよびプレート位置を高精度で測定する必要があることがある。高精密圧平レンズは、特に一回だけしか使用できない使い捨ての圧平プレートの場合、高価であることがある。
【0044】
本明細書に開示する技術、装置およびシステムを実施することによって、レーザパルスを出射する前に、標的内のレーザパルス焦点の所望の位置を十分な精度で知る必要なく、およびレーザ出射の間に、参照プレートと個々の内部の組織標的の相対的位置を一定のままにする必要なく、圧平プレートを介して、眼内の所望の局所に、高精度且つ高速に短いレーザパルスを供給する目標設定メカニズムを提供することができる。すなわち、この技術、装置およびシステムは、手術下の標的組織の物理的条件が変化する傾向があり、制御することが困難であり、圧平レンズの寸法がレンズ毎に異なる傾向がある様々な手術のために用いることができる。また、この技術、装置およびシステムは、構造の表面に対する手術標的の歪みまたは動きが存在し、または非線形の光学的効果が正確な目標設定を難しくする他の手術標的にも使用することができる。このような手術標的の具体例としては、眼以外に、心臓、皮膚の深部組織等が含まれる。
【0045】
この技術、装置およびシステムは、圧平された表面の内部構造に光破壊の正確な局所化を提供しながら、例えば、表面形状および水和(hydration)の制御、並びに光学的歪みの低減を含む圧平プレートによって提供される利益を維持するように実施することができる。これは、統合されたイメージングデバイスを使用して、供給システムの集光光学素子に対して、標的組織を局所化することによって達成できる。イメージングデバイスおよび方法の正確なタイプは、標的の特定の性質および精度の必要なレベルに応じて異なっていてもよい。
【0046】
圧平レンズは、眼の並進運動および回転運動を防止するように眼を固定する他のメカニズムによっても実現できる。このような固定デバイスの具体例は、吸気リング(suction ring)の使用を含む。また、このような固定メカニズムによっても、手術標的の望ましくない歪みまたは動きが生じることがある。本発明の技術、装置およびシステムを実施することによって、非表層の手術標的のために圧平プレートおよび/または固定手段を利用する高繰返し率レーザ手術システムに、手術標的のこのような歪みおよび動きを監視する術中イメージングを提供する目標設定メカニズムを提供することができる。
【0047】
以下、光イメージングモジュールを用いて、標的組織の画像を捕捉し、例えば、術前および術中に標的組織の位置決め情報を得るレーザ手術技術、装置およびシステムの特定の具体例を説明する。このようにして得られた位置決め情報を用いて、高繰返し率レーザシステムにおいて、標的組織における手術用レーザビームの位置決めおよび集光を制御し、手術用レーザパルスの配置を正確に制御することができる。一具体例では、術中に、光イメージングモジュールによって得られた画像を用いて、手術用レーザビームの位置および集光を動的に制御することができる。更に、エネルギが小さい短いレーザパルスは、光学的歪みに対して敏感である傾向があり、このようなレーザ手術システムは、標的組織に取り付けられた平坦なまたは曲面のインタフェースを有する圧平プレートによって、標的組織および手術用レーザシステムとの間に、制御された安定した光インタフェースを提供し、組織表面において、光学収差を緩和および制御することができる。
【0048】
具体例として、図6は、光イメージングおよび圧平に基づくレーザ手術システムを示している。このシステムは、レーザパルスからなる手術用レーザビーム1012を生成するパルスレーザ1010と、手術用レーザビーム1012を受光し、集光し、集光された手術用レーザビーム1022を、例えば眼である標的組織1001に方向付け、標的組織1001内に光破壊を引き起こす光学モジュール1020とを含む。標的組織1001に接触するように圧平プレートを設け、標的組織1001へのレーザパルスおよび標的組織1001からの光を透過させるインタフェースを形成してもよい。なお、ここでは、標的組織画像1050を搬送する光1050または標的組織1001からのイメージング情報を捕捉して、標的組織1001の画像を生成する光イメージングデバイス1030を設けている。イメージングデバイス1030からのイメージング信号1032は、システム制御モジュール1040に供給される。システム制御モジュール1040は、イメージングデバイス1030からの捕捉された画像を処理し、捕捉された画像からの情報に基づいて、光学モジュール1020を制御して、標的組織101における手術用レーザビーム1022の位置および集光を調整するように動作する。光学モジュール120は、1つ以上のレンズを含むことができ、更に、1つ以上の反射板を含んでいてもよい。光学モジュール1020は、システム制御モジュール1040からのビーム制御信号1044に応じて、集光およびビーム方向を調整する制御アクチュエータを含んでいてもよい。また、制御モジュール1040は、レーザ制御信号1042によって、パルスレーザ1010も制御できる。
【0049】
光イメージングデバイス1030は、標的組織1001を精査する(probe)ための、手術用レーザビーム1022とは別の光イメージングビームを生成してもよく、光イメージングデバイス1030は、この光イメージングビームの戻り光を捕捉して、標的組織1001の画像を得る。このような光イメージングデバイス1030の一具体例は、一方が圧平プレートを介して標的組織1001に方向付けられるプローブビームであり、他方が参照光路内の参照ビームである2つのイメージングビームを用いて、これらを互いに光学的に干渉させて、標的組織1001の画像を得る光干渉断層法(optical coherence tomography:OCT)イメージングモジュールである。他の実施例では、光イメージングデバイス1030は、専用の光イメージングビームを標的組織1001に供給することなく、標的組織1001から散乱または反射された光を用いて、画像を捕捉する。例えば、イメージングデバイス1030は、例えば、CCDまたはCMSセンサ等の感知素子のセンサアレイであってもよい。例えば、手術用レーザビーム1022によって生成された光破壊副産物の画像は、手術用レーザビーム1022の集光および位置決めを制御するために、光イメージングデバイス1030によって捕捉することができる。光イメージングデバイス1030が、光破壊副産物の画像を用いて、手術用レーザビーム整列を誘導するように設計されている場合、光イメージングデバイス1030は、光破壊副産物、例えば、レーザによって誘起された気泡または空洞等の画像を捕捉する。また、イメージングデバイス1030は、超音波画像(acoustic image)に基づいて画像を捕捉する超音波イメージングデバイスであってもよい。
【0050】
システム制御モジュール1040は、標的組織1001内の標的組織位置からの光破壊副産物の位置オフセット情報を含むイメージングデバイス1030からの画像データを処理する。画像から得られた情報に基づいて、ビーム制御信号1044が生成され、レーザビーム1022を調整する光学モジュール1020が制御される。システム制御モジュール1040は、レーザ整列のために様々なデータ処理を実行するデジタル処理ユニットに含ませることができる。
【0051】
上述した技術およびシステムを用いて、高繰返し率レーザパルスを、切断または体積分解の用途に必要とされる連続的なパルス配置に必要な精度で、表面下の標的に供給することができる。これは、標的の表面上の参照源の使用の有無にかかわらず行うことができ、および圧平の後のまたはレーザパルスの配置の間の標的の動きを考慮に入れることができる。
【0052】
このシステムの圧平プレートは、レーザパルスを組織に供給するための、正確且つ高速な位置決め要求を補助および制御するために設けられている。このような圧平プレートは、組織に接触する予め定義された接触面を有する透明材料、例えば、ガラスから作製することができ、圧平プレートの接触面は、よく定義された、組織との光インタフェースを形成する。このよく定義されたインタフェースは、組織へのレーザ光線の透過および集光を補助し、眼内の角膜の前面にある空気/組織インタフェースにおいて最も重大な、光学収差または変動(例えば、特定の眼の光学的特性または表面の乾燥によって生じる変化に起因する。)を制御または減少させることができる。様々な用途、並びに眼および他の組織内の標的のために多くのコンタクトレンズが設計されており、これらには、使い捨てのものと再使用可能なものとが含まれる。標的組織の表面上のコンタクトガラスまたは圧平プレートは、参照プレート(reference plate)として用いられ、これに対して、レーザパルスは、レーザ供給システム内の集光要素の調整によって集光される。このような手法は、組織表面の光学品質の制御を含む、コンタクトガラスまたは圧平プレートによって提供される上述したような更なる利点を生来的に有する。したがって、レーザパルスの光学的歪みを小さく抑えながら、圧平プレートに対する標的組織内の所望の位置(相互作用点)にレーザパルスを速やかに正確に配置することができる。
【0053】
図6の光イメージングデバイス1030は、圧平プレートを介して標的組織1001の画像を捕捉する。制御モジュール1040は、捕捉された画像を処理し、捕捉された画像から位置情報を抽出し、抽出された位置情報を位置参照またはガイドとして用いて、手術用レーザビーム1022の位置および集光を制御する。上述したように、圧平プレートの位置は、様々な要因のために変化する傾向があるので、この画像誘導レーザ手術は、位置参照としての圧平プレートに依存することなく行うことができる。すなわち、圧平プレートは、手術用レーザビームが標的組織に入り、および標的組織の画像を捕捉するための望ましい光インタフェースを提供するが、手術用レーザビームの位置および集光を整列および制御してレーザパルスを正確に供給するための位置参照として圧平プレートを使用することは、難しい場合がある。イメージングデバイス1030および制御モジュール1040に基づく手術用レーザビームの位置および集光の画像誘導制御によって、位置参照を提供するために圧平プレートを使用することなく、標的組織1001の画像、例えば、眼の内側の構造の画像を位置参照として使用することができる。
【0054】
ある手術的処置において、内部組織構造の局所化に不均衡に影響する圧平の物理的な効果に加えて、目標設定システムは、パルス継続時間が短いレーザを使用するときに生じる可能性がある光破壊の非線型特性を予測または考慮することが望ましいことがある。光破壊は、ビーム整列およびビーム目標設定を複雑にすることがある。例えば、光破壊の間にレーザパルスと相互作用する際の組織物質における非線形の光学的効果の1つとして、レーザパルスが受ける組織物質の屈折率が一定ではなくなり、光の強度によって変化するようになる。レーザパルスの光強度は、パルスレーザビームの伝播方向に沿う方向およびこの伝播方向を横切る方向に亘ってパルスレーザビーム内で空間的に変化するので、組織物質の屈折率も空間的に変化する。この非線形の屈折率の1つの結果は、組織内でパルスレーザビームの実際の集光を変化させ、および集光の位置をシフトさせる組織物質の自己収束(self-focusing)または自己発散(self-defocusing)である。したがって、標的組織内の各標的組織位置へのパルスレーザビームの正確な整列では、レーザビームに対する組織物質の非線形の光学的効果を考慮する必要がある場合がある。異なる物理的特徴、例えば硬度等のためにまたは特定の領域に伝播するレーザパルス光の吸収または拡散等の光学的な要件のために、各パルス内のエネルギを調整して、標的内の異なる領域に同じ物理的な効果を提供してもよい。このような場合、エネルギ値が異なるパルス間の非線形集光効果の差も、手術用パルスのレーザ整列およびレーザ目標設定に影響することがある。これに関して、イメージングデバイス1030によって標的組織から取得された直接画像を用いて、標的組織内の非線形の光学的効果の組み合わされた効果を反映する手術用レーザビーム1022の実際の位置を監視し、ビーム位置およびビーム集光の制御のための位置基準を提供することができる。
【0055】
ここに開示する技術、装置およびシステムを圧平プレートと組み合わせて使用することによって、表面形状および水和の制御を提供し、光学的歪みを低減し、圧平された表面を介して、内部構造に光破壊の精密な局所化を提供することができる。ここに開示するビーム位置および集光の画像誘導制御は、圧平プレート以外の眼を固定する手段を用いる手術システムおよび施術に適用でき、これらには、吸気リングの使用が含まれ、これによって、手術標的の歪みまたは動きが生じることがある。
【0056】
以下では、まず、イメージング機能を、システムのレーザ制御部分に様々な度合いで統合した、自動化された画像誘導レーザ手術のための技術、装置およびシステムの具体例を説明する。光学式または他の様式のイメージングモジュール、例えば、OCTイメージングモジュールを用いて、プローブ光または他の種類のビームを方向付け、標的組織、例えば、眼内の構造の画像を捕捉することができる。レーザパルス、例えば、フェムト秒レーザパルスまたはピコ秒レーザパルスからなる手術用レーザビームは、捕捉された画像の位置情報によって誘導でき、術中に、手術用レーザビームの集光および位置決めを制御することができる。手術用レーザビームおよびプローブ光ビームの両方は、捕捉された画像に基づいて手術用レーザビームを制御でき、手術を精密且つ正確に行うことが確実となるように、術中に、標的組織に順次的に方向付けてもよく、同時に方向付けてもよい。
【0057】
このような画像誘導レーザ手術では、ビーム制御は、手術用パルスの供給の直前または略々同時の圧平または標的組織の固定の後の標的組織の画像に基づいているので、術中の手術用レーザビームの正確で精密な集光と位置決めを提供することができる。なお、標的組織、例えば、眼について術前に測定された何らかのパラメータは、様々な要因、例えば、標的組織の準備(例えば、眼を圧平レンズに固定すること)手術的措置による標的組織の変質等のために、術中に変化することがある。したがって、このような要因および/または術前に測定された標的組織のパラメータは、術中には、標的組織の物理的状態を反映しなくなる。本発明の画像誘導レーザ手術は、術前および術中の手術用レーザビームの集光および位置決めについてのこのような変化に関する技術的問題を緩和できる。
【0058】
この画像誘導レーザ手術は、標的組織内の正確な手術のために効果的に用いることができる。例えば、眼内でレーザ手術を実行する場合、レーザ光線は、眼内に集光され、目標設定された組織の光学的な破壊が行われ、このような光学的相互作用は、眼の内部構造を変化させることがある。例えば、水晶体は、事前の測定と手術との間だけではなく、術中にも、遠近調節によって位置、形状、厚さおよび直径が変化する。機械的手段によって手術器具を眼に取り付けることによって、眼の形状がよく定義されていない状態に変化することもあり、この変化した状態が、例えば、患者の動き等の様々な要因のために、術中に更に変化することもある。取付手段は、吸気リングによって眼を固定すること、および平坦なまたは曲面のレンズによって眼を圧平することを含む。これらの変化は、数ミリメートルに達することもある。眼内で精密なレーザ顕微手術を実行する場合、例えば、角膜または角膜縁の前面等の眼の表面を機械的に参照および固定することは、うまく機能しない。
【0059】
この画像誘導レーザ手術では、準備後または略々同時のイメージングを用いて、術前および術間に変化が生じる環境内で、眼の内部の特徴と手術器具との間で3次元的な位置基準を確立することができる。眼の圧平および/または固定の前または実際の手術の最中にイメージングによって提供される位置基準情報は、眼における変化の効果を反映し、したがって、手術用レーザビームの集光および位置決めを正確に誘導することができる。本発明の画像誘導レーザ手術に基づくシステムは、構造を単純に構成でき、コスト効率にも優れている。例えば、手術用レーザビームの誘導に関連する光部品の一部は、標的組織をイメージングするためにプローブ光ビームを誘導する光部品と共有でき、デバイス構造並びにイメージング光ビームおよび手術用光ビームの光学的整列および較正が簡素化される。
【0060】
以下に説明する画像誘導レーザ手術システムは、イメージングデバイスの具体例としてOCTイメージングを使用し、また、術中に手術用レーザを制御するための画像を捕捉するために、他の非OCTイメージングデバイスを用いてもよい。以下の具体例に示すように、イメージングサブシステムおよび手術サブシステムの統合は、様々な度合いで実現できる。ハードウェアを統合しない最も簡単な形式では、イメージングサブシステムおよびレーザ手術サブシステムは、分離され、インタフェースを介して互いに通信を行うことができる。このような設計によって、2つのサブシステムの設計が柔軟になる。例えば、患者インタフェース等の幾つかのハードウェアコンポーネントによって、2つのサブシステムを統合することにより、手術領域をハードウェアコンポーネントにより良好に位置合わせでき、機能性が拡張され、より正確な較正が実現し、ワークフローを改善できる。2つのサブシステム間の統合の度合いを高めるにつれて、システムは、よりコスト効率が高まり、小型化され、システム較正が簡素化され、時間に伴ってより安定する。図7〜図15は、様々な度合いで統合された画像誘導レーザシステムの具体例を示している。
【0061】
本発明の画像誘導レーザ手術システムの1つの実施例は、例えば、手術下の標的組織に外科的な変化を引き起こす手術用レーザパルスからなる手術用レーザビームを生成する手術用レーザと、患者インタフェースを標的組織に接触するように係合させ、標的組織を所定の位置に保持する患者インタフェースマウントと、手術用レーザと患者インタフェースとの間に位置し、患者インタフェースを介して手術用レーザビームを標的組織に方向付けるように構成されたレーザビーム供給モジュールとを含む。このレーザビーム供給モジュールは、所定の手術パターンに沿って、標的組織内で手術用レーザビームを走査するように動作できる。このシステムは、更に、手術用レーザの動作を制御し、およびレーザビーム供給モジュールを制御して、所定の手術パターンを生成するレーザ制御モジュールと、患者インタフェースに対して位置決めされ、患者インタフェースおよび患者インタフェースに固定された標的組織に関して既知の空間的関係を有するOCTモジュールとを含む。OCTモジュールは、手術用レーザビームが標的組織に方向付けられ、手術が実行されている間、光プローブビームを標的組織に方向付け、標的組織から、光プローブビームの戻りプローブ光(returned probe light)を受光し、標的組織のOCT画像を捕捉するように構成されており、これにより、光プローブビームおよび手術用レーザビームは、標的組織内に同時に存在する。OCTモジュールは、レーザ制御モジュールと通信し、捕捉されたOCT画像の情報をレーザ制御モジュールに送信する。
【0062】
更に、この特定のシステムのレーザ制御モジュールは、捕捉されたOCT画像の情報に応じて、レーザビーム供給モジュールを操作して、手術用レーザビームを集光および走査し、捕捉されたOCT画像内の位置決め情報に基づいて、標的組織における手術用レーザビームの集光および走査を調整する。
【0063】
幾つかの実施例では、標的と手術器具とを位置合わせするためには、標的組織の完全な画像を取得する必要はなく、標的組織の一部、例えば、生来的なまたは人工的な目印である手術領域からの幾つかの点を取得するだけで十分な場合もある。例えば、剛体は、3次元空間内で6の自由度を有し、剛体を定義するためには、独立した6個の点だけで十分である。手術領域の正確な寸法が未知である場合は、位置基準を提供するために更なる点が必要である。これに関して、幾つかの点を用いることによって、通常、個人差がある人間の眼の水晶体の前面および後面の位置および曲率、並びに厚さおよび直径を判定することができる。これらのデータに基づき、所定のパラメータを有する楕円体の2つの片半分から構成される体積体によって、水晶体を近似させ、実用的な目的のために可視化することができる。他の実施例では、捕捉された画像からの情報を他のソースからの情報、例えば、コントローラへの入力として用いられる水晶体の厚さの術前測定の測定値に結合してもよい。
【0064】
図7は、分離されたレーザ手術システム2100およびイメージングシステム2200を備える画像誘導レーザ手術システムの一具体例を示している。レーザ手術システム2100は、手術用レーザパルスからなる手術用レーザビーム2160を生成する手術用レーザを有するレーザエンジン2130を含む。レーザビーム供給モジュール2140は、患者インタフェース2150を介して、レーザエンジン2130から標的組織1001に手術用レーザビーム2160を方向付け、所定の手術パターンに沿って、標的組織1001内で手術用レーザビーム2160を走査するように動作できる。レーザ制御モジュール2120は、通信チャネル2121を介して、レーザエンジン2130内の手術用レーザの動作を制御し、およびコントロールは、通信チャネル2122を介して、レーザビーム供給モジュール2140を制御して、所定の手術パターンを生成する。更に、患者インタフェース2150を標的組織1001に接触するように係合させ、標的組織1001を所定の位置に保持する患者インタフェースマウントを設けている。患者インタフェース2150は、眼の前面の形状に従って係合し、所定の位置に眼を保持する、平坦なまたは曲面の表面を有するコンタクトレンズまたは圧平レンズを含むように実現することができる。
【0065】
図7のイメージングシステム2200は、手術システム2100の患者インタフェース2150に対して位置決めされたOCTモジュールであってもよく、これは、患者インタフェース2150および患者インタフェース2150に固定されている標的組織1001に対して既知の空間的関係を有するように位置決めされている。このOCTモジュール2200は、標的組織1001とインタラクトするOCTモジュール2200自体の患者インタフェース2240を有するように構成してもよい。イメージングシステム2200は、イメージング制御モジュール2220およびイメージングサブシステム2230を含む。サブシステム2230は、標的1001をイメージングするためのイメージングビーム2250を生成する光源と、光プローブビームまたはイメージングビーム2250を標的組織1001に方向付け、標的組織1001から、光イメージングビーム2250の戻りプローブ光2260を受光し、標的組織1001のOCT画像を捕捉するイメージングビーム供給モジュールとを含む。光イメージングビーム2250および手術用ビーム2160は、標的組織1001に同時に方向付けることができ、これによって、イメージングおよび手術を順次的または同時に行うことができる。
【0066】
図7に示すように、レーザ手術システム2100とイメージングシステム2200の両方に通信インタフェース2110、2210を設け、レーザ制御モジュール2120によるレーザ制御とイメージングシステム2200によるイメージングとの間で通信を可能にしており、これによって、OCTモジュール2200は、捕捉されたOCT画像の情報をレーザ制御モジュール2120に送信することができる。このシステムのレーザ制御モジュール2120は、捕捉されたOCT画像の情報に応じて、手術用レーザビーム2160を集光および走査させるようレーザビーム供給モジュール2140を動作させ、および捕捉されたOCT画像内の位置決め情報に基づいて、標的組織1001における手術用レーザビーム2160の集光および走査を動的に調整する。レーザ手術システム2100とイメージングシステム2200との間の統合は、主に、通信インタフェース2110、2210の間の通信を介してソフトウェアレベルで実現される。
【0067】
また、この具体例および他の具体例において、様々なサブシステムまたはデバイスを統合することもできる。例えば、ある診断器具、例えば、波面収差計(wavefront aberrometer)、角膜トポグラフィー測定デバイス(corneal topography measuring device)等をシステム内に含ませてもよく、またはこれらのデバイスからの術前情報を利用して、術中イメージング(intra-operative imaging)を補強してもよい。
【0068】
図8は、更なる統合特徴を有する画像誘導レーザ手術システムの具体例を示している。このイメージングおよび手術システムは、図7に示す2つの別々の患者インタフェースとは異なり、標的組織1001(例えば、眼)を固定する共通の患者インタフェース3300を共有する。手術用ビーム3210およびイメージングビーム3220は、患者インタフェース3300において結合され、共通の患者インタフェース3300によって、標的1001に方向付けられる。更に、イメージングサブシステム2230および手術部分(レーザエンジン2130およびビーム供給システム2140)の両方を制御するための共通の制御モジュール3100が設けられている。イメージング部分と手術部分の間の統合の度合いを高めることによって、2つのサブシステムの正確な較正、並びに患者および手術体積体(surgical volume)の位置の安定性が実現する。手術サブシステムおよびイメージングサブシステムの両方は、共通のハウジング3400に収容されている。2つのシステムが共通のハウジング内に統合されない場合、共通の患者インタフェース3300は、イメージングサブシステムおよび手術サブシステムの何れかの一部であってもよい。
【0069】
図9は、レーザ手術システムおよびイメージングシステムが、共通のビーム供給モジュール4100および共通の患者インタフェース4200の両方を共有する画像誘導レーザ手術システムの具体例を示している。この統合によって、システム構造およびシステム制御機能が更に簡素化される。
【0070】
一実施例においては、上述および他の具体例におけるイメージングシステムは、光コンピュータ断層撮影(optical computed tomography:OCT)システムであってもよく、レーザ手術システムは、フェムト秒レーザまたはピコ秒レーザを用いる眼科手術システムであってもよい。OCTでは、低コヒーレンスの広帯域光源、例えば、スーパールミネッセントダイオードからの光が、別々の参照ビームおよび信号ビームに分割される。信号ビームは、手術標的に供給されるイメージングビームであり、イメージングビームの戻り光は、回収され、参照ビームにコヒーレントに再結合され、干渉計が形成される。光学トレインの光軸または光の伝播方向に垂直に信号ビームを走査すると、x−y方向に空間分解能が提供され、一方、深さ分解能は、干渉計の参照アームの光路長と、戻り信号ビームの信号アームの光路長との間の差分の抽出に由来する。異なるOCT実施例のx−yスキャナは、本質的には同じであるが、光路長の比較およびz−スキャン情報の取得は、異なる手法で行われることがある。例えば、時間領域OCTとも呼ばれる一実施例においては、参照アームは、その光路長を継続的に変化させ、一方、フォトディテクタは、再結合されたビームの強度から干渉変調を検出する。異なる実施例では、参照アームは、実質的に固定されており、干渉を調べるために結合光のスペクトルが解析される。結合ビームのスペクトルをフーリエ変換することによって、サンプルの内部からの拡散に関する空間情報が得られる。この方法は、スペクトル領域またはフーリエOCT法として知られている。周波数掃引OCT(frequency swept OCT)(S. R. Chinn, et.al.Opt.Lett.22 (1997))として知られている異なる実施例では、スペクトル範囲に亘って周波数が高速に掃引される狭帯域光源が使用される。参照アームと信号アームとの間の干渉は、高速検出器および動的信号解析器によって検出される。これらの具体例では、この目的のために開発された外部共振器調整ダイオードレーザまたは周波数が調整された(Frequency tuned of)周波数領域モード同期(frequency domain mode-locked:FDML)レーザ(R. Huber et.al.Opt.Express, 13, 2005)(S. H. Yun, IEEE J. of Sel.Q. El.3(4) p. 1087-1096, 1997)を光源として使用することができる。OCTシステムの光源として使用されるフェムト秒レーザは、十分な帯域幅を有することができ、および信号対雑音比を向上させる更なる利点を提供する。
【0071】
本明細書に開示するシステムにおけるOCTイメージングデバイスは、様々なイメージング機能を実行するために使用することができる。例えば、OCTを用いて、システムの光学的構成または圧平プレートの存在から生じる複素共役を抑制し、標的組織内の選択された部分のOCT画像を捕捉して、標的組織内における手術用レーザビームの集光および走査を制御するための3次元的な位置決め情報を提供し、若しくは、標的組織の表面上または圧平プレート上の選択された部分のOCT画像を捕捉して、直立から仰向け等、標的の位置の変化によって生じる向きの変化を制御するための位置合わせを提供することができる。OCTは、標的の1つの向きにおけるマークまたはマーカの配置に基づく位置合わせ処理によって較正でき、OCTモジュールは、標的が他の向きにあるとき、これらのマークまたはマーカを検出できる。他の実施例では、OCTイメージングシステムを用いて、眼の内部構造に関する情報を光学的に収集するために偏光されたプローブ光ビームを生成する。レーザビームおよびプローブ光ビームは、異なる偏光方向に偏光してもよい。OCTは、上述した光断層法のために用いられるプローブ光を制御して、プローブ光が眼に向かって伝播する際、プローブ光を1つの偏光方向に偏光し、プローブ光が眼から戻る方向に伝播する際、プローブ光を他の異なる偏光方向に偏光する偏光制御メカニズムを含むことができる。偏光制御メカニズムは、例えば、波長板またはファラデー回転子を含んでいてもよい。
【0072】
図9のシステムは、スペクトルOCT構成として示されており、手術システムとイメージングシステムとの間で、ビーム供給モジュールの集光光学素子部分を共有するように構成できる。この光学素子のための主な要求は、動作波長、画質、解像度、歪み等に関連する。レーザ手術システムは、例えば、約2〜3マイクロメータ等、回析が制限された焦点サイズを達成するように設計された高開口数システムを含むフェムト秒レーザシステムであってもよい。様々な眼科手術用のフェムト秒レーザが、様々な波長、例えば、約1.05マイクロメータの波長で動作できる。イメージングデバイスの動作波長は、レーザ波長に近い波長に選択でき、これにより、光学素子は、両方の波長について、色収差を補償(chromatically compensated)できる。このようなシステムは、第3の光チャネル、例えば、標的組織の画像を捕捉するための更なるイメージングデバイスを提供する手術用顕微鏡等の視覚的観察チャネル(visual observation channel)を含むことができる。この第3の光チャネルのための光路が、手術用レーザビームおよびOCTイメージングデバイスの光と光学素子を共有する場合、共有された光学素子は、第3の光チャネルのための可視スペクトル帯域と、手術用レーザビームおよびOCTイメージングビームのためのスペクトル帯域とにおける色収差を補償するように構成できる。
【0073】
図10は、図8の設計の特定の具体例を示しており、ここでは、手術用レーザビームを走査するためのスキャナ5100および手術用レーザビームを調整(コリメートおよび集光)するためのビーム調整器5200は、OCTのためにイメージングビームを制御するためのOCTイメージングモジュール5300内の光学素子から独立している。手術システムおよびイメージングシステムは、対物レンズ5600モジュールおよび患者インタフェース3300を共有している。対物レンズ5600は、手術用レーザビームおよびイメージングビームの両方を患者インタフェース3300に方向付けおよび集光し、その集光は、制御モジュール3100によって制御されている。手術ビームおよびイメージングビームを方向付けるために、2つのビームスプリッタ5410、5420が設けられている。また、ビームスプリッタ5420は、戻りのイメージングビームをOCTイメージングモジュール5300に戻すように方向付けるためにも使用される。また、2つのビームスプリッタ5410、5420は、標的1001から視覚的観察光学ユニット5500に光を方向付け、標的1001のダイレクトビューまたは画像を提供する。ユニット5500は、手術医が標的1001を見るためのレンズイメージングシステムであってもよく、標的1001の画像または映像を捕捉するカメラであってもよい。例えば、ダイクロイックビームスプリッタおよび偏光ビームスプリッタ、光学格子、ホログラムビームスプリッタ(holographic beam splitter)、またはこれらデバイスの組合せ等の様々なビームスプリッタを用いることができる。
【0074】
幾つかの実施例では、光ビームの光路の複数の表面からのグレアを低減するために、手術用波長およびOCT波長の両方について、光部品を反射防止コーティングによって適切にコーティングしてもよい。このようなコーティングを行わず、反射がある場合、OCTイメージングユニット内の背景光を増加させることによって、システムのスループットが低下し、および信号対雑音比が低下する。OCTにおけるグレアを低減させる1つの手法は、標的組織の近くに配置されたファラデーアイソレータの波長板によって、サンプルからの戻り光の偏光方向を回転させ、OCT検出器の正面の偏光子が、サンプルから戻る光を優先的に検出し、光部品から散乱された光を抑制するように向けることである。
【0075】
レーザ手術システムでは、手術用レーザおよびOCTシステムのそれぞれが、標的組織内の同じ手術領域をカバーするようにビームスキャナを有することができる。したがって、手術用レーザビームのためのビーム走査およびイメージングビームのためのビーム走査は、共通の走査デバイスを共有するように統合できる。
【0076】
図11は、このようなシステムの具体例を詳細に示している。この実施例では、x−yスキャナ6410およびzスキャナ6420は、両方のサブシステムによって共有されている。手術動作およびイメージング動作の両方のシステム動作を制御するために、共通のコントローラ6100が設けられている。OCTサブシステムは、イメージング光を生成するOCT光源6200を含み、イメージング光は、ビームスプリッタ6210によって、イメージングビームおよび参照ビームに分離される。イメージングビームは、ビームスプリッタ6310において手術用ビームに結合され、標的1001に到達する共通の光路に沿って伝播する。スキャナ6410、6420およびビーム調整ユニット6430は、ビームスプリッタ6310からのダウンストリーム側に配設されている。ビームスプリッタ6440は、イメージングビームおよび手術用ビームを対物レンズ5600および患者インタフェース3300に方向付けるために使用される。
【0077】
OCTサブシステムでは、参照ビームが、ビームスプリッタ6210を介して、光遅延デバイス6220に供給され、反射ミラー6230によって反射される。標的1001から戻るイメージングビームは、ビームスプリッタ6310に戻るように方向付けられ、ビームスプリッタ6310は、戻りのイメージングビームの少なくとも一部をビームスプリッタ6210に反射し、ここで、反射した参照ビームおよび戻りのイメージングビームが重なり、互いに干渉する。分光検出器6240は、干渉を検出し、標的1001のOCT画像を生成するために使用される。OCT画像情報は、手術用レーザエンジン2130、スキャナ6410、6420および対物レンズ5600を制御して手術用レーザビームを制御するために、制御システム6100に送信される。一実施例では、光遅延デバイス620は、標的組織1001内の様々な深さを検出するように、光遅延を変化させることができる。
【0078】
OCTシステムが時間領域システムである場合、2つのサブシステムは、2つの異なるzスキャナを使用する。これは、2つのスキャナの動作が異なるためである。この具体例では、手術システムのzスキャナは、手術用ビーム光路内のビームの光路長を変化させることなく、ビーム調整ユニットにおいて、手術用ビームの拡がり角を変更することによって動作する。一方、時間領域OCTは、可変遅延によって、または参照ビーム反射ミラーの位置を移動させることによって、ビーム光路を物理的に変更することにより、z−方向の走査を行う。較正の後に、2つのzスキャナは、レーザ制御モジュールによって同期させることができる。2つの動きの間の関係は、制御モジュールが処理できる一次式または多項式に従属するように簡素化でき、またはこれに代えて、較正点によってルックアップテーブルを定義して、適切なスケーリングを提供してもよい。スペクトル/フーリエ領域および周波数掃引光源OCTデバイスは、zスキャナを有しておらず、参照アームの長さは固定である。コストを削減できることに加えて、2つのシステムの相互の較正は、比較的簡単である。集光光学素子および2つのシステムのスキャナは、共有されているので、集光光学素子の画像歪みまたは2つのシステムのスキャナの差分から生じる差分を補償する必要はない。
【0079】
手術システムの実用的な実施例では、集光対物レンズ5600は、ベースに摺動可能または移動可能に取り付けられ、対物レンズの重量は、患者の眼に加わる力を制限するようにバランスがとられる。患者インタフェース3300は、患者インタフェースマウントに取り付けられた圧平レンズを含んでいてもよい。患者インタフェースマウントは、集光対物レンズを保持する取付ユニットに取り付けられている。この取付ユニットは、患者に避けられない動きがあった場合に、患者インタフェースとシステムとの間の安定した接続を確実にし、および眼への負担がより軽くなるように患者インタフェースを眼に連結するように設計されている。集光対物レンズについては、様々な実施例を用いることができる。可調整集光対物レンズを設けることによって、OCTサブシステムのための光干渉計の一部として、光プローブ光の光路長を変更することができる。対物レンズ5600および患者インタフェース3300の動きによって、OCTの参照ビームとイメージング信号ビームとの間の光路長の差分が制御不能に変化し、これによって、OCTによって検出されるOCT深さ情報が劣化することがある。これは時間領域OCTシステムのみではなく、スペクトル/フーリエ領域および周波数掃引OCTシステムにおいても生じることがある。
【0080】
図12および図13は、可調整集光対物レンズに関連する技術的課題を解決する例示的な画像誘導レーザ手術システムを示している。
【0081】
図12のシステムは、可動集光対物レンズ7100に連結された位置感知デバイス7110を備え、位置感知デバイス7110は、摺動可能マウント上の対物レンズ7100の位置を測定し、測定した位置をOCTシステムの制御モジュール7200に伝える。制御システム6100は、対物レンズ7100の位置を制御し、移動させて、OCT動作のためにイメージング信号ビームが伝播する光路長を調整する。位置エンコーダ7110は、対物レンズ7100に連結され、圧平プレートおよび標的組織に対する、またはOCTデバイスに対する対物レンズ7100の位置の変化を測定するように構成されている。そして、レンズ7100の測定位置は、OCT制御モジュール7200に供給される。OCTシステムの制御モジュール7200は、OCTデータの処理において3次元画像を構築する際、患者インタフェース3300に対する集光対物レンズ7100の動きによって生じた、OCT内の干渉計の参照アームと信号アームとの間の差分を補償するアルゴリズムを適用する。OCT制御モジュール7200によって算出されたレンズ7100の位置の変化の適切な量は、制御モジュール6100に伝えられ、制御モジュールは、レンズ7100を制御して、その位置を変更する。
【0082】
図13は、OCTシステムの干渉計の参照アーム内の反射ミラー6230またはOCTシステムの光路長遅延アセンブリ内の少なくとも1つの部分が、可動集光対物レンズ7100に固定的に取り付けられており、対物レンズ7100が移動すると、信号アームおよび参照アームの光路長が同じ量だけ変化する他の例示的なシステムを示している。この場合、スライド上で対物レンズ7100が動いた場合、OCTシステムの光路長差分が自動的に補償され、更に演算によって補償を行う必要はない。
【0083】
画像誘導レーザ手術システムの上述の具体例では、レーザ手術システムおよびOCTシステムは、異なる光源を使用している。レーザ手術システムとOCTシステムとを更に完全に統合した具体例では、手術用レーザビームのための光源としての手術用フェムト秒レーザが、OCTシステムのための光源としても使用される。
【0084】
図14は、光モジュール9100内のフェムト秒パルスレーザが、手術のための手術用レーザビームおよびOCTイメージングのためのプローブ光ビームの両方を生成するために使用される具体例を示している。ビームスプリッタ9300は、レーザビームを、手術用レーザビームおよびOCTのための信号ビームの両方としての第1のビームと、OCTのための参照ビームとしての第2のビームとに分割する。第1のビームは、第1のビームの伝播方向に垂直なx方向およびy方向にビームを走査するx−yスキャナ6410と、ビームの拡がり角を変更して、標的組織1001における第1のビームの集光を調整する第2のスキャナ(zスキャナ)6420とを介して方向付けられる。この第1のビームは、標的組織1001において手術を実行し、この第1のビームの一部は、患者インタフェースに後方散乱し、対物レンズによって、OCTシステムの光干渉計の信号アームのための信号ビームとして回収される。この戻り光は、参照アーム内の反射ミラー6230によって反射され、時間領域OCTのための可調整光遅延要素6220によって遅延された第2のビームに結合され、標的組織1001の異なる深さをイメージングする際に、信号ビームと参照ビームとの間の光路差が制御される。制御システム9200は、システム動作を制御する。
【0085】
角膜に対する実際の手術例によって、良好な手術結果を得るためには、数百フェムト秒のパルス幅で十分である場合があり、一方、十分な深さ分解能のOCTのためには、より短いパルス、例えば、数十フェムト秒以下のパルスによって生成されるより広いスペクトル帯域幅が必要であることがわかった。この文脈においては、OCTデバイスの設計が手術用フェムト秒レーザからのパルスの継続時間を決定する。
【0086】
図15は、単一のパルスレーザ9100を用いて、手術用ビームおよびイメージングビームを生成する他の画像誘導システムを示している。フェムト秒パルスレーザの出力光路内には、例えば、白色光生成またはスペクトル広帯域化等の光学非線形プロセスを用いて、通常、手術で用いられる数百フェムト秒の比較的長いパルスのレーザ光源からのパルスのスペクトル帯域幅を広げる非線形スペクトル広帯域化媒体9400が配設されている。媒体9400は、例えば、光ファイバ材料であってもよい。2つのシステムの光強度要求は、異なり、ビーム強度を調整するメカニズムは、2つのシステムにおけるこのような要求を満たすように実現できる。例えば、ビームステアリングミラー、ビームシャッタまたは減衰器を2つのシステムの光路に配設して、OCT画像を取得する際、または手術を実行する際、患者および敏感な器具を過度の光強度から保護するために、ビームの存在および強度を適切に制御することができる。
【0087】
実際の動作では、図7〜図15の上述の具体例を用いて、画像誘導レーザ手術を実行することができる。図16は、画像誘導レーザ手術システムを用いてレーザ手術を実行する方法の一具体例を示している。この方法では、システム内の患者インタフェースを用いて、手術下の標的組織に係合させ、標的組織を所定の位置に保持し、システム内のレーザからのレーザパルスからなる手術用レーザビームおよびシステム内のOCTモジュールからの光プローブビームを、患者インタフェースを介して標的組織に同時に方向付ける。そして、手術用レーザビームを制御して標的組織においてレーザ手術を実行し、OCTモジュールを動作させて、標的組織から戻る光プローブビームの光から標的組織内のOCT画像を取得する。取得されたOCT画像内の位置情報は、術前または術中に、標的組織における手術用レーザビームの集光および走査を調整するために、手術用レーザビームの集光および走査に適用される。
【0088】
図17は、眼のOCT画像の具体例を示している。患者インタフェース内の圧平レンズの接触面は、圧平の際に眼に加わる圧力に起因する角膜における歪みまたは折り曲がりを最小化する曲率を有するように構成できる。患者インタフェースにおいて、眼の圧平が成功すると、OCT画像を取得することができる。図17に示すように、水晶体と角膜の曲率、および水晶体および角膜との間の距離は、OCT画像において特定可能である。上皮−角膜界面等の、より微細な特徴も検出可能である。これらの特定可能な特徴は、眼に対するレーザ座標の内部参照として使用してもよい。角膜および水晶体の座標は、例えば、エッジまたはブロブ検出等の実績のあるコンピュータビジョンアルゴリズムを用いてデジタル化できる。一旦、水晶体の座標が確立されると、これらを用いて、手術のために、手術用レーザビームの集光および位置決めを制御することができる。
【0089】
これに代えて、較正サンプル材料を用いて、既知の位置座標の位置に参照マークの3次元アレイを形成してもよい。較正サンプル材料のOCT画像を取得して、参照マークの既知の位置座標と、取得されたOCT画像内の参照マークのOCT画像との間でマッピング関係を確立することができる。このマッピング関係は、デジタル較正データとして保存され、術中に取得された標的組織のOCT画像に基づいて、標的組織の術中に、手術用レーザビームの集光および走査を制御する際に適用される。なお、OCTイメージングシステムは、例示的なものであり、この較正は、他のイメージング技術を介して取得された画像にも適用できる。
【0090】
ここに開示する画像誘導レーザ手術システムでは、手術用レーザは、高開口数集光の下で、眼の内部(すなわち、角膜および水晶体の内部)に強光子場/多光子イオン化を引き起こすために十分な比較的高いピークパワーを生成できる。これらの条件下では、手術用レーザからの1つのパルスは、焦点体積(focal volume)内にプラズマを生成する。プラズマの冷却の結果、よく定義されたダメージゾーンまたは「気泡」が生じ、これは、参照点として用いることができる。以下では、手術用レーザによって生成されたダメージゾーンを用いて、OCTベースのイメージングシステムに対して手術用レーザを較正する較正処理について説明する。
【0091】
OCTは、手術用レーザに対して較正され、標的組織において、OCTによって取得された標的組織のOCT画像内の画像に関連する位置に対して、手術用レーザを所定の位置で制御できるように、相対的な位置関係が確立された後、手術が実行できるようになる。この較正を実行するための1つの手法では、レーザによってダメージを与えることができ、およびOCTによってイメージングできる予め較正された標的または「ファントム(phantom)」を使用する。ファントムは、材料が手術用レーザによって生成された光ダメージを永久的に記録できるように、例えば、ガラスまたは硬化プラスチック(例えば、PMMA)等の様々な材料から形成することができる。また、ファントムは、手術標的と同様の光学的特性または他の特性(例えば、含水率)を有するように選択できる。
【0092】
ファントムは、例えば、少なくとも10mmの直径(または供給システムの走査の直径)と、眼の上皮から水晶体への距離に亘る、または手術システムの走査深度と同じ長さである少なくとも10mmの高さとを有する筒状材料であってもよい。ファントムの上面は、患者インタフェースに隙間なく一致するような曲面であってもよく、またはファントム材料は、完全な圧平を許容するように圧縮可能であってもよい。ファントムは、レーザ位置(xおよびy)および集光(z)の両方、並びにOCT画像を、ファントムに対して参照できるように3次元グリッドを有していてもよい。
【0093】
図18のA〜Dは、ファントムの2つの例示的な構成を示している。図18のAは、薄いディスクにセグメント化されたファントムを示している。図18のBは、ファントムに亘ってレーザ位置を判定するための参照(すなわち、x座標およびy座標)としての参照マークのグリッドを有するようにパターン化された単一のディスクを示している。z−座標(深さ)は、スタックから個々のディスクを取り出し、共焦点顕微鏡下でこれをイメージングすることによって判定できる。
【0094】
図18のCは、2つの片半分に分離することができるファントムを示している。図18のAのセグメント化されたファントムと同様に、このファントムは、x座標およびy座標においてレーザ位置を判定するために参照される参照マークのグリッドを含むように構造化されている。深さ情報は、ファントムを2つの片半分に分離し、ダメージゾーン間の距離を測定することによって抽出することができる。これらの情報を組み合わせて、画像誘導手術のためのパラメータを提供できる。
【0095】
図19は、画像誘導レーザ手術システムの手術システム部分を示している。このシステムは、例えば、検流計またはボイスコイル等のアクチュエータによって駆動されるステアリングミラーと、対物レンズと、使い捨ての患者インタフェースとを含む。手術用レーザビームは、ステアリングミラーから対物レンズを介して反射される。対物レンズは、患者インタフェースの直後にビームを集光する。x座標およびy座標における走査は、対物レンズに対してビームの角度を変更することによって実行される。z−平面での走査は、ステアリングミラーのアップストリーム側のレンズのシステムを用いて、入射ビームの拡がり角を変更することによって達成される。
【0096】
この具体例では、使い捨ての患者インタフェースの円錐部分は、空気によって区切られていても、中実であってもよく、患者に接触する部分は、曲面を有するコンタクトレンズを含む。曲面を有するコンタクトレンズは、溶融シリカまたは電離放射線による放射の際に色中心が形成されることを防ぐ他の材料から作製できる。曲率半径は、眼と互換性がある上限、例えば、約10mmに設定する。
【0097】
較正処理の第1のステップは、患者インタフェースをファントムに連結することである。ファントムの曲率は、患者インタフェースの曲率に一致する。連結の後、処理の次のステップは、ファントムの内部に光ダメージを作成して、参照マークを生成することを伴う。
【0098】
図20は、フェムト秒レーザによってガラス内に作成された実際のダメージゾーンの具体例を示している。ダメージゾーン間の間隔は、平均的に8μmである(パルスエネルギは、半値全幅で580fsの継続時間で2.2μJである)。図20に示す光ダメージから、フェムト秒レーザによって作成されたダメージゾーンは、よく定義されており、離散的であることがわかる。ここに示す具体例では、ダメージゾーンは、約2.5μmの直径を有する。図19に示すものと同様の光ダメージゾーンは、様々な深さでファントム内に作成され、参照マークの3次元アレイが形成される。これらのダメージゾーンは、適切なディスクを抽出し、共焦点顕微鏡下でこれをイメージングする(図18のA)ことによってまたはファントムを2つの片半分に分割して、マイクロメータを用いて深さを測定する(図18のC)ことによって、較正されたファントムに対して参照される。x座標およびy座標は、予め較正されたグリッドから確立することができる。
【0099】
手術用レーザによってファントムにダメージを作成をした後に、ファントムに対してOCTが実行される。OCTイメージングシステムは、OCT座標系とファントムとの間の関係を確立するファントムの3Dレンダリングを提供する。ダメージゾーンは、イメージングシステムによって検出可能である。OCTおよびレーザは、ファントムの内部基準を用いて、相互較正してもよい。OCTおよびレーザが互いに参照された後、ファントムを取り除くことができる。
【0100】
術前に、較正を検証してもよい。この検証ステップは、第2のファントムの内部の様々な位置に光ダメージを作成することを伴う。OCTによって、円形パターンを形成する複数のダメージゾーンをイメージングできるように、光ダメージは、十分に鮮明である必要がある。パターンが作成された後、第2のファントムは、OCTによってイメージングされる。術前にOCT画像をレーザ座標と比較することによって、システム較正の最終的なチェックが行われる。
【0101】
一旦、レーザに座標が提供されると、眼内でレーザ手術を実行できる。これは、レーザを用いた水晶体の光乳化(photo-emulsification)およびこの他の眼のレーザ治療を含む。手術は、いつでも停止することができ、前眼部(図16)を再イメージングして、手術の進行を監視することができ、更に、眼内レンズ(intraocular lens:IOL)を挿入した後に、(光によってまたは圧平なしで)IOLをイメージングすることによって、眼内のIOLの位置に関する情報が得られる。医師は、この情報を利用して、IOLの位置の精度を高めることができる。
【0102】
図21は、較正処理および較正後の手術の具体例を示している。この具体例に示す画像誘導レーザ手術システムを用いてレーザ手術を実行する方法は、手術下の標的組織に係合し、標的組織を所定の位置に保持するシステム内の患者インタフェースを用いて、手術を実行する前の較正処理の間、較正サンプル材料を保持するステップと、システム内のレーザからのレーザパルスからなる手術用レーザビームを、患者インタフェースを介して、較正サンプル材料に方向付け、選択された3次元参照位置において、参照マークを焼付けるステップと、システム内の光干渉断層法(OCT)モジュールからの光プローブビームを、患者インタフェースを介して較正サンプル材料に方向付け、焼付けられた参照マークのOCT画像を捕捉するステップと、OCTモジュールと焼付けられた参照マークの位置座標間の関係を確立するステップとを有する。関係を確立した後、システム内の患者インタフェースを手術下の標的組織に係合させ、標的組織を所定の位置に保持する。レーザパルスからなる手術用レーザビームおよび光プローブビームは、患者インタフェースを介して標的組織に方向付けられる。手術用レーザビームは、標的組織内でレーザ手術を実行するように制御される。OCTモジュールは、標的組織から戻る光プローブビームの光から標的組織内のOCT画像を取得し、取得されたOCT画像内の位置情報および確立された関係を手術用レーザビームの集光および走査に適用して、術中に、標的組織における手術用レーザビームの集光および走査を調整するように動作する。このような較正は、レーザ手術の直前に行うことができるが、これらの較正は、手術の前に様々な間隔をあけて行い、この間隔の間に、較正のドリフトまたは変化がないことを確かめる較正検証(calibration validation)を行ってもよい。
【0103】
以下の具体例は、手術用レーザビームの整列のためにレーザ誘起光破壊副産物の画像を用いる画像誘導レーザ手術技術およびシステムを説明する。
【0104】
図22Aおよび図22Bは、この技術の他の実施例を示しており、ここでは、標的組織内の実際の光破壊副産物を用いて、更なるレーザ配置を誘導している。例えば、フェムト秒レーザまたはピコ秒レーザであるパルスレーザ1710は、レーザパルスを含むレーザビーム1712を生成し、標的組織1001に光破壊を引き起こす。標的組織1001は、患者の体の一部1700であってもよく、例えば、一方の眼の水晶体の一部であってもよい。レーザビーム1712は、ある手術の効果を達成するために、レーザ1710のための光学モジュールによって、標的組織1001の標的組織位置に集光および方向付けされる。標的表面は、レーザ波長および標的組織からの画像波長を透過する圧平プレート1730によって光学的にレーザ光学モジュールに連結されている。圧平プレート1730は、圧平レンズであってもよい。イメージングデバイス1720は、圧平プレートが適用される前または後(若しくはその両方)に、標的組織1001から反射または散乱した光または音波を回収し、標的組織1001の画像を捕捉する。そして、レーザシステム制御モジュールが捕捉された画像データを処理し、所望の標的組織位置を判定する。レーザシステム制御モジュールは、標準の光学モデルに基づいて、光学要素またはレーザ要素を移動または調整して、光破壊副産物1702の中心が標的組織位置に重なることを確実にする。これは、手術の過程の間に光破壊副産物1702と標的組織1001の画像を継続的に監視し、各標的組織位置においてレーザビームが適切に配設されていることを確実にする動的な整列処理であってもよい。
【0105】
一具体例では、レーザシステムは、2つのモードで動作させることができる。まず、診断モードでは、レーザビーム1712は、整列レーザパルスを用いて、初期的に整列され、整列のための光破壊副産物1702を生成し、次に、手術モードでは、実際の手術を実行するための手術用レーザパルスが生成される。両方のモードにおいて、ビーム整列を制御するために光破壊副産物1702および標的組織1001の画像が監視される。図22Aは、レーザビーム1712内の整列レーザパルスを、手術用レーザパルスのエネルギレベルとは異なるエネルギレベルに設定できる診断モードを示している。例えば、イメージングデバイス1720によって光破壊副産物1702を捕捉するために組織内に顕著な光破壊を引き起こすために十分であれば、整列レーザパルスは、手術用レーザパルスよりエネルギが小さくてもよい。所望の手術の効果を提供するためには、この粗い目標設定の分解能が十分ではないことがある。捕捉された画像に基づいて、レーザビーム1712を適切に整列することができる。この初期の整列の後、レーザ1710を制御して、より高いエネルギレベルで手術用レーザパルスを生成して、手術を実行することができる。手術用レーザパルスは、整列レーザパルスとは異なるエネルギレベルを有するので、光破壊における組織物質の非線形効果によって、レーザビーム1712が診断モードの間のビーム位置とは異なる位置に集光されることがある。したがって、診断モードの間に行われた整列は、粗い整列であり、手術用レーザパルスが実際の手術を実行する手術モードの間に、各手術用レーザパルスをより精密に位置決めする更なる整列を実行してもよい。図22Aに示すように、イメージングデバイス1720は、手術モードの間に標的組織1001から画像を捕捉し、レーザ制御モジュールは、レーザビーム1712を調整して、レーザビーム1712の集光位置1714を標的組織1001内の所望の標的組織位置に配置する。この処理は、各標的組織位置毎に実行される。
【0106】
図23は、まず、標的組織において、概略的にレーザビームの照準を合わせ、次に、光破壊副産物の画像を捕捉し、これを用いて、レーザビームを整列するレーザ整列の1つの実施例を示している。標的組織としての体の一部の標的組織の画像およびその体の一部の参照用の画像は、標的組織においてパルスレーザビームの照準を合わせるために監視される。光破壊副産物および標的組織の画像は、パルスレーザビームを調整して、光破壊副産物の位置を標的組織に重ね合わせるために使用される。
【0107】
図24は、レーザ手術における標的組織内の光破壊副産物のイメージングに基づくレーザ整列方法の1つの実施例を示している。この方法では、パルスレーザビームは、標的組織内の標的組織位置に照準を合わされ、初期の整列レーザパルスのシーケンスが標的組織位置に供給される。標的組織位置および初期の整列レーザパルスによって生じた光破壊副産物の画像は、監視され、標的組織位置に対する光破壊副産物の位置が取得される。初期の整列レーザパルスとは異なる手術用パルスエネルギレベルを有する手術用レーザパルスによって生じた光破壊副産物の位置は、手術用レーザパルスのパルスレーザビームが標的組織位置に配置された際に判定される。パルスレーザビームは、手術用パルスエネルギレベルで手術用レーザパルスを供給するように制御される。パルスレーザビームの位置は、手術用パルスエネルギレベルにおいて、光破壊副産物の位置を、判定された位置に配置するように調整される。標的組織および光破壊副産物の画像を監視しながら、手術用パルスエネルギレベルのパルスレーザビームの位置は、標的組織内の新たな標的組織位置にパルスレーザビームを動かす際、光破壊副産物の位置を、各判定された位置に配置するように調整される。
【0108】
図25は、光破壊副産物の画像を用いるレーザ整列に基づく例示的なレーザ手術システムを示している。光学モジュール2010は、レーザビームを標的組織1700に集光し、方向付ける。光学モジュール2010は、1個以上のレンズを含んでいてもよく、更に1個以上の反射鏡を含んでいてもよい。光学モジュール2010内には、ビーム制御信号に応じて集光およびビーム方向を調整する制御アクチュエータが含まれている。システム制御モジュール2020は、レーザ制御信号を介してパルスレーザ1010を制御し、およびビーム制御信号を介して光学モジュール2010を制御する。システム制御モジュール2020は、標的組織1700内の標的組織位置からの光破壊副産物1702の位置オフセット情報を含む、イメージングデバイス2030からの画像データを処理する。画像から得られた情報に基づいて、レーザビームを調整する光学モジュール2010を制御するビーム制御信号が生成される。システム制御モジュール2020には、レーザ整列のための様々なデータ処理を実行するデジタル処理ユニットが含まれている。
【0109】
イメージングデバイス2030は、光干渉断層法(OCT)デバイスを含む様々な形式で実現することができる。また、超音波イメージングデバイスを用いてもよい。レーザ焦点の位置は、イメージングデバイスの分解能で、焦点が標的に概略的に配置されるように動かされる。標的へのレーザ焦点の参照における誤差および可能性がある非線形光学効果、例えば、自己収束によって、レーザ焦点の位置および後の光破壊イベントを正確に予測することが困難になる。物質内でのレーザの集光を予測するモデルシステムまたはソフトウェアプログラムの使用を含む様々な較正法を用いて、イメージングされた組織内でのレーザの粗い目標設定を行うことができる。標的のイメージングは、光破壊の前および後の両方で行うことができる。標的に対する光破壊副産物の位置を用いて、レーザの焦点を移動させ、標的においてまたは標的に対して、レーザ集光および光破壊プロセスをより良好に局所化させる。このように、実際の光破壊イベントは、後の手術用パルスの配置のために精密な目標設定を提供するために使用される。
【0110】
診断モードの間の光破壊のための目標設定は、システムの手術モードにおける後の手術処理のために必要なエネルギレベルと比べて、より低い、より高い、または同じエネルギレベルで実行できる。光学パルスエネルギレベルは、光破壊イベントの正確な位置に影響を与えることがあるので、診断モードにおいて異なるエネルギで実行される光破壊イベントの局所化を、手術のエネルギにおいて予測される局所化と関連付ける較正を行ってもよい。一旦、この初期の局所化および整列を実行した後、この位置決めに対して複数のレーザパルス(または単一のパルス)のボリュームまたはパターンを供給することができる。更なるレーザパルスを供給する間に、更なるサンプリング画像を生成して、レーザの適切な局所化を確実にしてもよい(サンプリング画像は、より低い、より高いまたは同じエネルギパルスを用いて取得してもよい)。一具体例では、超音波デバイスを用いて、キャビテーション気泡または衝撃波、若しくは他の光破壊副産物を検出する。そして、この局所化は、超音波または他の様式によって取得された標的の画像に関連付けることができる。他の実施の形態においては、イメージングデバイスは、単なる生体顕微鏡であってもよく、光干渉断層法等、オペレータによる光破壊イベントの他の光学的可視化であってもよい。初期の観察では、レーザ焦点は、所望の標的位置に動かされ、この後、この最初の位置に対して、パルスのパターンまたはボリュームが供給される。
【0111】
特定の具体例として、精密な表面下光破壊のためのレーザシステムは、1秒あたり百〜十億パルスの繰返し率で光破壊を生成することができるレーザパルスを生成するための手段と、標的の画像およびその画像へのレーザ集光の較正を用いて、手術の効果を生成することなく、表面下の標的にレーザパルスを粗く集光する手段と、表面下を検出または可視化して、標的、標的の周りの隣接する空間または物質、および標的の近傍に粗く局所化された少なくとも1つの光破壊イベントの副産物の画像または可視情報を提供する手段と、光破壊の副産物の位置を表面下の標的の位置に少なくとも一回関連付け、レーザパルスの焦点を移動させ、光破壊の副産物を表面下の標的にまたは標的に対する相対的位置に位置決めする手段と、少なくとも1つの更なるレーザパルスの後続するトレインを、光破壊の副産物の表面化の標的の位置への上述した精密な関連付けによって示される位置に対するパターンで供給する手段と、後のパルスのトレインの配置の間、光破壊イベントの監視を継続し、イメージングされている同じまたは改訂された標的に対して、後続するレーザパルスの位置を微調整する手段とを含むことができる。
【0112】
上述した技術およびシステムを用いて、高繰返し率レーザパルスを、切断または体積分解の用途に必要とされる連続的なパルス配置に必要な精度で、表面下の標的に供給することができる。これは、標的の表面上の参照源の使用の有無にかかわらず行うことができ、および圧平の後のまたはレーザパルスの配置の間の標的の動きを考慮に入れることができる。
【0113】
本出願は、様々な詳細を含んでいるが、これらは、特許請求の範囲または特許請求可能な範囲を制限するものではなく、本発明の特定の実施の形態の特定の特徴の記述として解釈される。本出願において、別個の実施の形態の文脈で開示した幾つかの特徴を組み合わせて、単一の実施の形態として実施してもよい。逆に、単一の実施の形態の文脈で開示した様々な特徴は、複数の実施の形態として別個に実施してもよく、適切な如何なる部分的組合せとして実施してもよい。更に、以上では、幾つかの特徴を、ある組合せで機能するものと説明しているが、初期的には、そのように特許請求している場合であっても、特許請求された組合せからの1つ以上の特徴は、幾つかの場合、組合せから除外でき、特許請求された組合せは、部分的組合せまたは部分的な組合せの変形に変更してもよい。
【0114】
レーザ手術技術、装置およびシステムの幾つかの実施例を開示した。ここに説明したことから、開示した実施例の変形例、拡張例および他の実施例を想到できることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光破壊を引き起こすレーザ光線を生成できるレーザ光源と、
前記レーザ光源から患者の標的組織に前記レーザ光線を方向付け、集光する光学モジュールと、
前記レーザ光源を制御して、レーザパルスのパターンを所望の順序で供給し、前記光学モジュールを制御して、前記レーザ光線の方向を調整するレーザ制御モジュールと、
前記患者を保持する患者支持モジュールと、
レーザビーム光路に対する前記患者支持モジュールの向きおよび位置を制御し、組織内のレーザ誘起気泡の経路が、前記レーザ光線の前記レーザビーム光路を遮らないように、前記患者支持モジュールを調整するように動作可能な位置制御モジュールと、
を備えるレーザ手術システム。
【請求項2】
前記標的組織は眼である、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記患者支持モジュールは、レーザ眼科手術において、前記患者を顔面が下向きになるように保持し、
前記光学モジュールは、前記レーザ光線を、重力場の反対方向または重力の反対方向に鋭角を形成する方向の何れかに沿って、上向きに前記眼に入射するように方向付ける、
請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記患者支持モジュールは、レーザ眼科手術において、前記患者を、背臥位で顔面が上を向くように保持し、
前記光学モジュールは、前記レーザ光線を、下向きに前記眼に入射するように方向付け、前記レーザ光線を水平に走査し、前記レーザビーム光路が前記レーザ光線によって生成されるキャビテーション気泡に遮られないようにする、
請求項2記載のシステム。
【請求項5】
前記標的組織は、前記患者の膀胱、腹腔、頭蓋または心臓である、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
患者の眼のレーザ手術を実行するための方法であって、
重力方向に反対の方向に移動するレーザ誘起気泡がレーザビーム光路を遮らないように、前記患者を、前記眼内の標的組織においてレーザ手術動作を実行するために前記眼に方向付けられるレーザビームのレーザビーム光路に対して、位置決めするステップと、
前記レーザビームを前記眼に方向付けてレーザ手術動作を実行するステップと、
を有する方法。
【請求項7】
前記レーザビームが略々上向きに前記眼に入射するように方向付けられ、前記レーザ誘起気泡が、前記レーザビームと干渉することなく、前記眼の後方に向かって上向きに移動するように、前記患者を顔面が略々下向きになるように位置決めするステップを有する、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記レーザ手術は、眼の後部の網膜内の裂孔を治療するものであり、
前記方法は、
前記レーザビームを操作して、前記眼の後部にレーザ誘起気泡を生成し、前記網膜内の前記裂孔を押圧し、前記裂孔の治療を補助する、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記患者を背臥位で顔面が上向きになるように位置決めするステップと、
前記レーザ光線を、下向きに前記眼に入射するように方向付けるステップと、
前記レーザビーム光路が前記レーザビームによって生成されるキャビテーション気泡によって遮られないようにしながら、前記レーザビームを水平に走査して手術を実行するステップと、
を有する請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記レーザビームのレーザパルスを、前記眼内の前記標的組織に配置する特定の3次元的な連続的順序を決定するステップと、
前記標的組織上で前記レーザビームを走査するための所望の手術パターン、前記標的組織の重力に対する相対的位置、前記レーザビーム光路、および前記標的組織の上方にある前記眼の前部の気泡のフロー特性からの情報を用いて、前記レーザビームと前記標的組織の手術標的領域との間の経路が、レーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように、前記レーザビームの走査を制御するステップと、
を有する請求項6記載の方法。
【請求項11】
患者にレーザ手術を実行するための方法であって、
重力の方向と反対の方向に移動するレーザ誘起気泡がレーザビーム光路を遮らないように、前記患者を、前記患者の手術標的に方向付けられたレーザ手術動作を実行するレーザビームのレーザビーム光路に対して位置決めするステップと、
前記レーザビームを前記手術標的に方向付けてレーザ手術動作を実行するステップと、
を有する方法。
【請求項12】
前記手術組織は、前記患者の膀胱、腹腔、頭蓋または心臓である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記レーザビームによって切開される手術表面が重力に対して垂直になるように、前記患者を位置決めするステップと、
前記レーザビームを、前記手術表面内にあり、重力に垂直な走査方向に沿って走査して手術を実行するステップと、
を有する請求項11記載の方法。
【請求項14】
光破壊を引き起こすレーザ光線を生成できるレーザ光源と、
前記レーザ光源から患者の標的組織に前記レーザ光線を方向付け、集光する光学モジュールと、
前記レーザ光源を制御して、レーザパルスのパターンを所望の順序で供給し、前記光学モジュールを制御して、前記レーザ光線の方向を調整するレーザ制御モジュールと、
前記患者を保持する患者支持モジュールと、
前記レーザ光源および前記光学モジュールを制御するために、前記患者の標的組織をイメージングし、画像をレーザ制御モジュールに供給するイメージングモジュールと、
を備え、
前記レーザ制御モジュールは、
前記標的組織上の所望の手術のパターン、前記標的組織およびその部分の重力に対する相対的位置、レーザビーム光路、並びに前記標的組織の前方または上方の媒質の位置および気泡フロー特性からの特定の情報を利用してレーザパルスの3次元的な連続的順序を決定するレーザパターン生成器を有し、
前記レーザ制御モジュールは、
前記レーザ光源および前記光学モジュールを制御して、前記レーザと全ての手術標的との間の経路が、レーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように、前記レーザパルスの3次元的な順序を達成する、
レーザ手術システム。
【請求項15】
前記標的組織は眼である、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
前記標的組織は水晶体の前嚢である、請求項14記載のシステム。
【請求項17】
前記標的組織は、前記患者の膀胱、腹腔、頭蓋または心臓である、請求項14記載のシステム。
【請求項18】
患者の眼のレーザ手術を実行するための方法であって、
レーザ手術動作を実行するために眼に方向付けられるレーザビームのレーザビーム光路に対して眼を位置決めするステップと、
前記眼の1つ以上の内部構造をイメージングするステップと、
前記イメージングされた前記眼の1つ以上の内部構造に基づいて、前記レーザと全ての手術標的との間の経路が、レーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように保たれているのと略々同時に、生成された気泡が、バリア組織を通過しおよび/または流体または準流体空間に入り込むようにする3次元的な連続的順序でパルスを供給する手術用レーザパターンを生成するステップと、
前記手術用レーザパターンを適用して、前記レーザビームを眼に方向付け、レーザ手術動作を実行するステップと、
を有する方法。
【請求項19】
患者の眼のレーザ手術を実行するための方法であって、
眼の内部構造の位置をイメージングするステップと、
重力に対する標的構造の位置に基づいて、手術標的領域がレーザ誘起気泡によって実質的に遮られないように、前記眼にレーザビームを方向付け、レーザ手術動作を実行するステップと、
を有する方法。
【請求項20】
重力に対する前記レーザビームの方向は術中に変更される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
光破壊を引き起こすレーザ光を生成できるレーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光線を患者の標的組織に方向付け、集光する光学モジュールと、
前記レーザ光源を制御して、レーザパルスのパターンを所望の順序で供給し、前記光学モジュールを制御して、前記レーザ光線の方向を調整するレーザ制御モジュールと、
前記患者を保持する患者支持モジュールと、
重力場に対するレーザビーム光路の向きおよび位置を制御し、組織内のレーザ誘起気泡の経路が、前記レーザビーム光線のレーザビーム光路を遮らないように、前記ビーム光路を調整する位置制御モジュールと、
を備えるレーザ手術システム。
【請求項22】
前記標的組織は眼である、請求項21記載のシステム。
【請求項23】
前記患者支持モジュールは、レーザ眼科手術において、前記患者を顔面が下向きになるように保持し、
前記光学モジュールは、前記レーザ光線を、重力場の反対の方向または重力の反対の方向に鋭角を形成する方向の何れかに沿って、上向きに前記眼に入射するように方向付ける、
請求項22記載のシステム。
【請求項24】
前記患者支持モジュールは、レーザ眼科手術において、前記患者を、背臥位で上を向くように保持し、
前記光学モジュールは、前記レーザ光線を、下向きに前記眼に入射するように方向付け、前記レーザ光線を水平に走査し、前記レーザビーム光路が前記レーザ光線によって生成されるキャビテーション気泡に遮られないようにする、
請求項22記載のシステム。
【請求項25】
前記標的組織は、前記患者の膀胱、腹腔、頭蓋または心臓である、請求項21記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図2E】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図5D】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22A】
image rotate

【図22B】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公表番号】特表2010−538704(P2010−538704A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524252(P2010−524252)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/075911
【国際公開番号】WO2009/036104
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(510060361)アルコン レンゼックス, インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】