説明

重合体、有機電界発光素子材料、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明

【課題】正孔注入輸送能が高い重合体と、該重合体を含む有機電界発光素子用組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする、重合体。


(上記式中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、R及びRは、各々独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。尚、式(1)中のフェナントレン環は、−OR及び−OR以外に置換基を有していてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合体に関し、特に、有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層として有用な重合体、該重合体を含有する有機電界発光素子材料、有機電界発光素子用組成物及び有機電界発光素子、並びに、この有機電界発光素子を備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子における有機層の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。真空蒸着法は積層化が容易であるため、陽極及び/又は陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。一方で、湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、様々な機能をもった複数の材料を混合した塗布液を用いることにより、容易に、様々な機能をもった複数の材料を含有する層を形成できる等の利点がある。
【0003】
しかしながら、湿式成膜法は積層化が困難であるため、真空蒸着法による素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。
そこで、素子の特性を向上させるために、電荷輸送能を有するポリマー材料の開発が行われている。例えば、特許文献1及び2には、重合体を含有し、湿式成膜法で形成される正孔注入輸送層を有する有機電界発光素子が開示されている。しかしながら、これらの素子は、駆動電圧が高く、発光効率が低いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−106874号公報
【特許文献2】特表2007−501884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、正孔注入輸送能が高い重合体と、該重合体を含む有機電界発光素子用組成物を提供することを課題とする。
本発明はまた、駆動電圧が低く、発光効率が高い有機電界発光素子、並びに高品質の有機EL表示装置及び有機EL照明を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の繰り返し単位を含む重合体を用いることで、上記課題を解決することを見出して、本発明に到達した。
即ち、本発明は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする、重合体、有機電界発光素子材料、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明に存する。
【0007】
【化1】

【0008】
(上記式(1)中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、R及びRは、各々独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
尚、式(1)中のフェナントレン環は、−OR及び−OR以外に置換基を有していてもよい。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の重合体は、正孔注入輸送能が高い。その為、本発明の重合体を用いて形成された素子は、駆動電圧が低く、発光効率が高い。
また、本発明の重合体は、電気化学的安定性に優れる為、該重合体を用いて形成された層を含む素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない
[重合体]
本発明は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む重合体である。
【0012】
【化2】

【0013】
(上記式中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、R及びRは、各々独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
尚、式(1)中のフェナントレン環は、−OR及び−OR以外に置換基を有していてもよい。)
(R及びRについて)
及びRは、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
【0014】
及びRは、重合体の有機溶剤に対する溶解性が向上し易い点で、アルキル基であることが好ましい。
及びRにおけるアルキル基の炭素数は、正孔輸送能がさらに優れる点で、通常1〜36、好ましくは1〜12である。
及びRにおけるアルキル基は置換基を有していてもよいが、無置換である方が、重合体の有機溶剤に対する溶解性が向上し易い点で好ましい。
また、R及びRにおけるアルキル基が置換基を有している場合、該置換基としては、後述の<置換基群Z>のものが挙げられ、特に芳香族炭化水素環基であることが好ましい。
【0015】
(Arについて)
Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基が挙げられる。
置換基を有していてもよいの芳香族複素環基としては、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
【0016】
中でも、有機溶剤に対する溶解性が良好で、また重合体の耐熱性が高い点から、Arは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基が好ましい。
さらに、Arにおける芳香族炭化水素基又は芳香族複素環が有していてもよい置換基としては、特に制限はないが、例えば、下記置換基群Zから選ばれる基が挙げられる。なお、Arは、置換基を1個有していてもよく、2個以上有していてもよい。2個以上有する場合、1種類を有していてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で有していてもよい。
【0017】
<置換基群Z>
例えばメチル基、エチル基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルキル基;
例えばビニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルケニル基;
例えばエチニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルキニル基;
【0018】
例えばメトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシ基;
例えばフェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24であるアリールオキシ基;
例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシカルボニル基;
例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるジアルキルアミノ基;
【0019】
例えばジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上であり、通常36以下、好ましくは24以下のジアリールアミノ基;
例えばフェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常7であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールアルキルアミノ基;
例えばアセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2であり、通常24以下、好ましくは12であるアシル基;
例えばフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
例えばトリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上であり、通常12以下、好ましくは6以下のハロアルキル基;
【0020】
例えばメチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下のアルキルチオ基;
例えばフェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールチオ基;
例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシリル基;
例えばトリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシロキシ基;
シアノ基;
例えばフェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族炭化水素環基;
例えばチエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族複素環基。
【0021】
これらの置換基の中でも、溶解性の点から、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。
また、上記各置換基がさらに置換基を有していてもよく、その例としては前記置換基群Zに例示した基が挙げられる。
Arの置換基の式量としては、さらに置換した置換基を含めて、500以下が好ましく、250以下がさらに好ましく、また通常65以上、好ましくは75以上であり、通常500以下、好ましくは300以下、より好ましくは200以下である。
【0022】
上記範囲内であると、重合体の電荷注入輸送能、及び有機溶剤に対する溶解性が良好である点で好ましい。
また、式(1)で表される繰り返し単位中のフェナントレン環は、−OR及び−OR以外に置換基を有していてもよいが、フェナントレン環は正孔輸送に関与する軌道が密度高く分布していることから、正孔輸送性をより向上させる点で、置換基を有していない方が好ましい。
【0023】
尚、フェナントレン環が−OR及び−OR以外に有していてもよい置換基としては
前記<置換基群Z>の項で記載のものが挙げられる。
(式(2)について)
前記式(1)で表される繰り返し単位は、隣接する繰り返し単中の2つの窒素原子が共役する位置にあり、酸化還元安定性に優れる点及び正孔輸送能に優れる点で更に下記式(2)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、Ara1、Ra1及びRa2は、各々、前記式(1)におけるAr、R及びRと同義である。)
[架橋性基について]
本発明の重合体は、前記式(1)又は(2)で表される繰り返し単位中、置換基として架橋性基を含むことが、湿式成膜法により積層体を形成し易い点で好ましい。
ここで、架橋性基とは、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により近傍に位置するほかの分子の同一又は異なる基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。
【0026】
中でも、架橋性基としては、架橋しやすいという点から、下記<架橋性基群T>が挙げられる。
<架橋性基群T>
【0027】
【化4】

【0028】
(前記式中、R21〜R23は、各々独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、Ar21は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
尚、ベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよく、また置換基同士が互いに結合して環を形成してもよい。)
架橋性基としては、例えばエポキシ基、オキセタン基等の環状エーテル基、ビニルエーテル基等のカチオン重合によって架橋する基が好ましい。反応性が高く、溶剤に対する溶解性を容易に低下できるためである。中でも、カチオン重合の速度を制御しやすい点ではオキセタン基が特に好ましく、カチオン重合の際に素子の劣化を招く可能性のあるヒドロキシル基が生成しにくい点では、酸素原子を介してビニル基が結合するビニルエーテル基が特に好ましい。
【0029】
また、例えばシンナモイル基などのアリールビニルカルボニル基、ベンゾシクロブテン環由来の基等の環化付加反応する基は、電気化学的安定性をさらに向上させる点では好ましい。
架橋性基として、電気化学的安定性に優れる点から、下記式で表される基が特に好ましい。
【0030】
【化5】

【0031】
(上記式中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。)
尚、本発明の重合体が有する架橋性基の種類は、1種類であってもよく、2種類以上が任意の組み合わせ及び任意の比率で併用されていてもよい。
本発明の重合体が架橋性基を有する場合、式(1)又は(2)で表される繰り返し単位中にあってもよく、またその他の繰り返し単位にあってもよいが、いずれの場合であっても側鎖に含まれるのが好ましい。
【0032】
つまり、式(1)又は(2)で表される繰り返し単位中に架橋性基が含まれる場合、成膜した後の未反応架橋性基が少なく、得られる素子の駆動寿命に影響を及ぼし難いという点で、Ar(又はAr11)に置換基として架橋性基を含む基を有することが好ましい。
分子内において、架橋性基はAr(又はAr11)の芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基に直接結合していてもよいが、適切な2価の基を介して結合していてもよい。この2価の基としては、−O−基、−C(=O)−基又は置換基を有していてもよい−CH−基からなる群より選ばれる基を任意の組み合わせ、比率及び順番で1〜30個連結してなる2価の基が好ましい。
【0033】
(架橋性基の割合)
本発明の重合体が有する架橋性基の数は、分子量1000あたりの数で表すことができる。
本発明の重合体が有する架橋性基の数を、分子量1000あたりの数で表した場合、分子量1000あたり、通常3.0個以下、好ましくは2.0個以下、さらに好ましくは1.0以下、また通常0.01以上、好ましくは0.05以上である。
【0034】
上記範囲内であると、クラックによって平坦な膜が形成しにくくなることがなく、また架橋した後の膜中に残る未反応架橋性基が少なく、得られる素子の駆動寿命に影響を及ぼし難い。
更に、架橋した後の膜において、溶剤に対する溶解性の低下が十分で、湿式成膜による多層積層構造の形成がし易い点で好ましい。
【0035】
ここで、重合体の分子量1000あたりの架橋性基の数は、重合体からその末端基を除いて、合成時の仕込みモノマーのモル比と、構造式から算出する。
例えば、後述の合成例1で合成した目的ポリマー1の場合で説明する。
【0036】
【化6】

【0037】
目的ポリマー1において、末端基を除いた繰り返し単位の分子量は平均676.3であり、また架橋性基は、1繰り返し単位当たり平均0.406個である。これを単純比例により計算すると、分子量1000あたりの架橋性基の数は、0.60個と算出される。
(式(1)で表される繰り返し単位を含む割合)
本発明の重合体は、前記式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」と称する)を含んでいてもよい。
【0038】
本発明の重合体において、その他の繰り返し単位に対する前記式(1)で表される繰り返し単位を含む割合{前記式(1)で表される繰り返し単位/その他の繰り返し単位}は、仕込みモル比で、通常0.01倍モル以上、好ましくは10モル倍以上、さらに好ましくは40モル倍以上である。
上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる点で好ましい。
【0039】
また、電荷注入輸送能に特に優れる点から、本発明の重合体は、式(1)で表される繰り返し単位を含むアリールアミン重合体であることが好ましい。
尚、本発明の重合体は、前記式(1)で表される繰り返し単位を1種含んでいてもよく、異なる2種以上含んでいてもよい。
以下に、本発明の式(1)で表される繰り返し単位の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<式(1)で表される繰り返し単位の具体例>
【0040】
【化7】

【0041】
本発明の重合体において、式(1)で表される繰り返し単位以外の、その他の繰り返し単位中、好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<その他の繰り返し単位>
【0042】
【化8】

【0043】
以下に、本発明の重合体の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<重合体の具体例>
【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】
【化15】

【0051】
【化16】

【0052】
【化17】

【0053】
【化18】

【0054】
【化19】

【0055】
【化20】

【0056】
【化21】

【0057】
【化22】

【0058】
【化23】

【0059】
【化24】

【0060】
[本発明の重合体が効果を奏する理由]
本発明の重合体とすることで、正孔輸送能が高く、また得られる素子の駆動電圧が低く、また発光効率が高くなる理由について、下記の通り推測する。
フェナントレン環は14個のsp2炭素が同一平面状に存在するため、14電子のπ電子雲がフェナントレン環全体に広がっている。一方、例えば、9,10−ジヒドロフェナントレンなどは、9−位及び10−位がsp3炭素でありπ電子が存在しない為、電子雲は9−位及び10−位には広がりにくい。さらに、9,10−ジヒドロフェナントレンに関しては、フェナントレン環とは異なり2つのベンゼン環も完全な同一平面状にはなく、π電子雲の広がりが小さい。
【0061】
以上のように、フェナントレン環は、例えば、9,10−ジヒドロフェナントレンよりも電子雲が環全体に広がっており電荷輸送能が高い。
本発明の重合体は、14電子のπ電子雲をもつフェナントレン環を有し、さらに該フェナントレン環に直接2つのアミノ基が置換することで主鎖を形成する。隣接する繰り返し単位に含まれる2つのアミノ基の窒素原子には結合に関与しない非共役電子対が存在し、この窒素原子を含めて主鎖全体にHOMO(最高被占軌道)が非局在化することから、本発明の重合体は、非常に優れた正孔輸送能を有するものと推測される。
【0062】
また、本発明の重合体は、フェナントレン環に電子供与性基であるの2つのアルコキシ基(又はヒドロキシル基)を有するため、イオン化ポテンシャルが浅くなり易い。
その為、有機電界発光素子において、例えば、陽極の発光層側に隣接する層(正孔注入層)を形成するのに本発明の重合体を用いた場合、陽極からの正孔注入性に優れるものと推測される。
【0063】
更に、フェナントレン環が有する2つのアルコキシ基(又はヒドロキシル基)は、隣り合った炭素に置換し、かつ、酸素原子上に2対ずつの非共役電子対を有する。この点も、主として金属酸化物からなる陽極とのコンタクトの向上に寄与しているものと推測される。
[分子量範囲]
本発明の重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下であり、また通常1,000以上、好ましくは2,500以上、より好ましくは5,000以上、さらに好ましくは20,000以上である。
【0064】
上記範囲内であると、重合体の有機溶剤に対する溶解性、及び成膜性が良好である。また、ガラス転移温度、融点及び気化温度が良好であるため耐熱性が十分である点で好ましい。
また、数平均分子量(Mn)は、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは2,00,000以下であり、また通常15,000以上、好ましくは、20,000以上である。
【0065】
上記範囲内であると、重合体の有機溶剤に対する溶解性、及び成膜性が良好である。また、ガラス転移温度、融点及び気化温度が良好であるため耐熱性が十分である点で好ましい。
また、本発明の重合体の分散度(Mw/Mn:Mwは重量平均分子量を表し、Mnは数平均分子量を表す)は、通常2.4以下、好ましくは2.0以下である。また、分散度は小さければ小さいほどよいため、下限値については、理想的には1.0以上である。
【0066】
上記範囲内であると、精製が容易で、また、有機溶剤に対する溶解性及び電荷輸送能が良好であるため好ましい。
以下に、重量平均分子量及び数平均分子量の測定方法を示す。
重量平均分子量は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定によって決定される。
【0067】
ここで、SEC測定条件を示す。
カラムは、TSKgel(東ソー社製)GMHXL×2本又は同等以上の分離能を示すもの、即ち、
粒子径:9mm
カラムサイズ:7.8mm内径×30cm長さ×2本
保証理論段数:14000TP/30cm程度
のものを用い、カラム温度は40℃とする。
【0068】
移動層はテトラヒドロフラン、クロロホルムのうち充填材への吸着のないものを選択し、流量は1.0ml/分とする。インジェクション濃度は0.1重量%とし、インジェクション量は0.10mlとする。検出器としてはUV/Vis(SPD−20AV,島津
製作所製)を用いる。
SEC測定では高分子量成分ほど溶出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くな
るが、分子量既知のポリスチレン(標準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算することで分子量分布が決定され、これより数平均分子量が算出される。
【0069】
尚、測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、特に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよいが、上記の測定機器を用いることが好ましい。
[物性]
本発明の重合体のガラス転移温度は、通常70℃以上、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上、また通常400℃以下、好ましくは300℃以下、更に好ましくは250℃以下である。
【0070】
上記範囲内であると、耐熱性が良好であるため、素子とした場合の駆動寿命が長い点で好ましい。
また、本発明の重合体は、有機溶剤に対する溶解度が高い方が、膜を均一に成膜できる点で好ましい。
本発明の重合体のイオン化ポテンシャルは、通常4.50〜5.70eV、好ましくは4.90〜5.50eV、さらに好ましくは5.00〜5.40eVである。上記範囲内であると、正孔を生成しやすく、電極からの正孔注入性が優れるため、素子とした場合の駆動電圧が低い点で好ましい。
【0071】
[合成方法]
本発明の重合体は、目的とするポリマーの構造に応じて原料を選択し、公知の手法を用いて合成することができる。 例えば、下記式のように、9,10−フェナントレンキノンを出発原料とし、臭素化、還元、次いで、アルキル化することによって、重合に用いることのできるモノマーである2臭化物を得ることができる。また、アルキル化を経ずに重合に用いることもできる、
【0072】
【化25】

【0073】
臭素化は、Polymer International 2007年, 56巻, 12号, 1507-1513頁に記載のされて
いるような、濃硫酸存在下、N-ブロモスクシンイミドと反応させる条件で行った場合、
2,7−位置換体が得られ、J. Am. Chem. Soc. 2007年, 129巻,36号, 10994-10995頁に記載されているような、臭素と反応させる条件で行った場合、3,6−位置換体が得られる。還元は、Canadian Journal of Chemistry 2008年, 86巻, 1号, 50-64頁や、J. Am. Chem. Soc. 2007年, 129巻,36号, 10994-10995頁に記載さているように、反応溶液に亜ジチオン酸ナトリウム水溶液をを滴下することによって行うことができる。アルキル化は、塩基性物質存在下、アルキルブロマイドなどのアルキルハライドと反応させることによって行うことができる。また、アルキル化は1つずつ行い、RとRを互いに異なる基と
することもできる。
【0074】
本発明の重合体の重合の方法は特には制限されず、本発明の重合体が得られる限り任意である。例えば、上記のモノマーを用いてUllmann反応による重合方法、Buchwald−Hartwig反応による重合方法等などによって製造できる。
Ullmann反応による重合方法及びBuchwald−Hartwig反応による重合方法の場合、例えば、式(1a)で表されるモノマーと式(2a)で表される1級アミノアリール(r=0)又は2級ジアミノアリール(r=1〜3)とを反応させることにより、本発明の重合体が合成される。
【0075】
【化26】

【0076】
なお前記の重合方法において、通常、N−アリール結合を形成する反応は、例えば炭酸カリウム、tert−ブトキシナトリウム、トリエチルアミン等の塩基存在下で行う。また、例えば銅やパラジウム錯体等の遷移金属触媒存在下で行うこともできる。
<有機電界発光素子材料>
本発明の重合体は、有機電界発光素子材料として用いられることが好ましい。つまり、本発明の重合体からなる有機電界発光素子材料であることが好ましい。
【0077】
有機電界発光素子材料として用いられる場合は、有機電界発素子における正孔注入層及び/又は正孔輸送層を形成する材料、つまり電荷輸送材料として用いることが好ましい。また、有機電界発光素子を簡便に製造できることから、本発明の重合体は、湿式成膜法で形成される有機層に用いることが好ましい。
<有機電界発光素子用組成物>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の重合体を少なくとも1種含有する。なお、本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の重合体を1種類含有するものであってもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で含有するものであってもよい。
【0078】
本発明の有機電界発光素子用組成物が含有する本発明の重合体の含有量は、
通常0.01〜70重量%、好ましくは0.1〜60重量%、さらに好ましくは0.5〜50重量%である。
上記範囲内であると、形成した有機層に欠陥が生じ難く、また膜厚ムラが生じ難いため好ましい。
【0079】
(溶剤)
本発明の有機電界発光素子用組成物は、通常、溶剤を含有する。この溶剤は、本発明の重合体を溶解するものが好ましい。具体的には、本発明の重合体を、通常0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶剤が好適である。
【0080】
溶剤の例を挙げると、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の
芳香族系溶剤;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶剤;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等のエステル系溶剤;などの有機溶剤が挙げられる。なお、溶剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0081】
中でも、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒としては、20℃における表面張力が、通常40dyn/cm未満、好ましくは36dyn/cm以下、より好ましくは33dyn/cm以下である溶媒が好ましい。
本発明の有機電界発光素子用組成物を塗布後、重合体を架橋して層を形成する場合、下地との親和性が高いことが好ましい。膜質の均一性は有機電界発光素子の発光の均一性及び安定性に大きく影響するためである。したがって、湿式成膜法に用いる有機電界発光素子用組成物には、よりレベリング性が高く均一な塗膜を形成しうるように表面張力が低いことが求められる。そこで前記のような低い表面張力を有する溶剤を使用することにより、本発明の重合体を含有する均一な層を形成することができ、ひいては均一な架橋層を形成できるようにすることが好ましいのである。
【0082】
低表面張力の溶剤の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶剤、安息香酸エチル等のエステル系溶剤、アニソール等のエーテル系溶剤、トリフルオロメトキシアニソール、ペンタフルオロメトキシベンゼン、3−(トリフルオロメチル)アニソール、エチル(ペンタフルオロベンゾエート)等が挙げられる。
【0083】
また一方で、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒としては、25℃における蒸気圧が、通常10mmHg以下、好ましくは5mmHg以下であり、通常0.1mmHg以上であるものが好ましい。このような溶媒を使用することにより、有機電界発光素子を湿式成膜法により製造するプロセスに好適で、本発明の共役ポリマーの性質に適した有機電界発光素子用組成物を調製することができるからである。
【0084】
このような溶剤の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン等の芳香族系溶剤、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤が挙げられる。
ところで、水分は有機電界発光素子の性能劣化を引き起こす可能性があり、中でも特に連続駆動時の輝度低下を促進する可能性がある。そこで、湿式成膜中に残留する水分をできる限り低減するために、前記の溶剤の中でも、25℃における水の溶解度が1重量%以下であるものが好ましく、0.1重量%以下である溶剤がより好ましい。
【0085】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上である。これにより形成される層の平坦さ及び均一さを良好にすることができる。
さらに、本発明の有機電界発光素子用組成物は、形成しようとする有機層の種類等に応じて、本発明の重合体以外のポリマー、発光材料、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物、電子受容性化合物などを含有していてもよい。
【0086】
なお、本発明の有機電界発光素子用組成物は、その他の成分を、1種類だけ含有してい
てもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で含有していてもよい。
本発明の有機電界発光素子用組成物は、正孔注入層を形成するために用いる場合、低抵抗化する点で、さらに電子受容性化合物を含有することが好ましい。
本発明の有機電界発光素子用組成物は、正孔注入層を形成するために用いる場合、低抵抗化する点で、さらに電子受容性化合物を含有することが好ましい。
【0087】
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、本発明の重合体から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
この様な化合物として、周期表の第15〜17族に属する元素に、少なくとも一つの有機基が炭素原子で結合した構造を有するイオン化合物であることが好ましく、特に、下記式(I−1)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0088】
【化27】

【0089】
式(I−1)中、R11は、A1と炭素原子で結合する有機基を表わし、R12は、任意の
置換基を表わす。R11及びR12は、互いに結合して環を形成していてもよい。
11としては、A1との結合部分に炭素原子を有する有機基であれば、本発明の趣旨に
反しない限り、その種類は特に制限されない。R11の分子量は、置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
【0090】
11の好ましい例としては、正電荷を非局在化させる点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。中でも、正電荷を非局在化させるとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
芳香族炭化水素基としては、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0091】
芳香族複素環基としては、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0092】
アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であって、その炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等が挙げられる。
【0093】
アルキニル基としては、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
12は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されない。R12の分子量は、置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
12の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シアノ基、水酸基、チオール基、シリル基等が挙げられる。
【0094】
中でも、R11と同様、電子受容性が大きい点から、A1との結合部分に炭素原子を有す
る有機基が好ましく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。特に、電子受容性が大きいとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、R11について先に説明したものと同様のものが挙げられる。
【0095】
アミノ基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基等が挙げられる。
アルキルアミノ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミノ基が挙げられる。具体例としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基等が挙げられる。
【0096】
アリールアミノ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を1つ以上有するアリールアミノ基が挙げられる。具体例としては、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、トリルアミノ基、ピリジルアミノ基、チエニルアミノ基等が挙げられる。
アシルアミノ基としては、炭素数が通常2以上、また、通常25以下、好ましくは15以下のアシル基を1つ以上有するアシルアミノ基が挙げられる。具体例としては、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0097】
アルコキシ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルコキシ基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシ基が挙げられる。具体例としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0098】
アシル基としては、炭素数が通常1以上、また、通常25以下、好ましくは15以下のアシル基が挙げられる。具体例としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基としては、炭素数が通常2以上、また、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基が挙げられる。具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0099】
アリールオキシカルボニル基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するものが挙げられる。具体例としては、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
アルキルカルボニルオキシ基としては、炭素数が通常2以上、また、通常10以下、好ましくは7以下のアルキルカルボニルオキシ基が挙げられる。具体例としては、アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基等が挙げられる。
【0100】
アルキルチオ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基が挙げられる。具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。
アリールチオ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基が挙げられる。具体例としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
【0101】
アルキルスルホニル基及びアリールスルホニル基の具体例としては、メシル基、トシル基等が挙げられる。
スルホニルオキシ基の具体例としては、メシルオキシ基、トシルオキシ基等が挙げられる。
シリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基など挙げられる。
【0102】
以上、R11及びR12として例示した基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に他の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、上記R11及びR12、としてそれぞれ例示した基の他、ハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基等が挙げられる。中でも、イオン化合物(電子受容性化合物)の耐熱性及び電子受容性の妨げにならない観点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。
【0103】
式(I−1)中、A1は、長周期型周期表の第17族に属する元素であることが好まし
く、電子受容性及び入手容易性の観点から、周期表の第5周期以前(第3〜第5周期)の元素が好ましい。即ち、A1としてはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子のうち何れかが好
ましい。
特に、電子受容性、化合物の安定性の面から、式(I−1)におけるA1が臭素原子又
はヨウ素原子であるイオン化合物、特に好ましくは、ヨウ素原子であるイオン化合物が最も好ましい。
【0104】
式(I−1)中、Z1n1-は、各々独立に、対アニオンを表わす。対アニオンの種類は特に制限されず、単原子イオンであっても錯イオンであってもよい。但し、対アニオンのサイズが大きいほど負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、単原子イオンよりも錯イオンの方が好ましい。
は、各々独立に、対アニオンZ1n1-のイオン価に相当する任意の正の整数である。nの値は特に制限されないが、何れも1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。
【0105】
1n1-の具体例としては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、イソシアン酸イオン、水硫化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキ
サフルオロリン酸イオン、ヘキサクロロアンチモン酸イオン;酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオン等のカルボン酸イオン;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;メトキシイオン、t−ブトキシイオン等のアルコキシイオンなどが挙げられ、テトラフルオロホウ素酸イオン及びヘキフルオロホウ素酸イオンが好ましい。
【0106】
また、対アニオンZ1n1-としては、化合物の安定性、溶剤への溶解性の点で、更に、サイズが大きいという点で、負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、式(I−2)で表わされる錯イオンが特に好ましい。
【0107】
【化28】

【0108】
式(I−2)中、E3は、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わ
す。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が好ましい。
式(I−2)中、Ar31〜Ar34は、各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。芳香族炭化水素基、芳香族複素環基の例示としては、R11について先に例示したものと同様の、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。中でも、化合物の安定性、耐熱性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環由来の1価の基が好ましい。
【0109】
Ar31〜Ar34として例示した芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能であるが、電子吸引性の基であることが好ましい。
Ar31〜Ar34が有してもよい置換基として好ましい電子吸引性の基を例示するならば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常1以上、通常12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アミノカルボニル基;アミノスルホニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、などが挙げられる。
【0110】
中でも、Ar31〜Ar34のうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、負電荷を効率よく非局在化する点、及び、適度な昇華性を有する点から、Ar31〜Ar34の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが最も好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ−2−ナ
フチル基、テトラフルオロ−4−ピリジル基等が挙げられる。
【0111】
本発明における電子受容性化合物の分子量は、通常100〜5000、好ましくは300〜3000、更に好ましくは400〜2000である。
上記範囲内であると、正電荷及び負電荷が十分に非局在化し、電子受容能が良好で、また電荷輸送の妨げになり難い点で好ましい。
以下に、本発明における電子受容性化合物の具体例を示すが、本発明はこられに限定されるものではない。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
【表5】

【0117】
尚、電子受容性化合物は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
<有機電界発光素子>
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極、陰極、及び該陽極と該陰極の間に有機
層を有し、該有機層が、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法で形成された層を含む有機電界発光素子である。
【0118】
本発明においては、上記の湿式成膜法で形成された有機層は、特に正孔注入層又は正孔輸送層であることが好ましい。
また、本発明においては、特に有機層の中でも正孔注入層、正孔輸送層、及び発光層を、湿式成膜により形成することが好ましい。
<有機電界発光素子の構成>
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成及びその形成方法等について、図1を参照して説明する。
【0119】
図1は本発明にかかる有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
[1]基板
基板は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0120】
[2]陽極
陽極は、後述する発光層側の層(正孔注入層又は発光層など)への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板上に塗布することにより陽極を形成することもできる。更に、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Applied
Physics Letters,1992年,Vol.60,pp.2711参照)。陽極は異なる物質で積層して形
成することも可能である。
【0121】
陽極の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。不透明でよい場合、陽極は基板と同一でもよい。また、更には上記の陽極の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0122】
なお、陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理することが好ましい。
[3]正孔注入層
陽極の上には、正孔注入層が形成される。
【0123】
正孔注入層は、陽極の陰極側に隣接する層へ正孔を輸送する層である。
なお、本発明の有機電界発光素子は、正孔注入層を省いた構成であってもよい。
正孔注入層は、正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。更には、正孔注入層中にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことが特に好ましい。
【0124】
正孔注入層は、必要に応じて、バインダー樹脂や塗布性改良剤を含んでもよい。なお、バインダー樹脂は、電荷のトラップとして作用し難いものが好ましい。
また、正孔注入層は、電子受容性化合物のみを湿式成膜法によって陽極上に成膜し、その上から直接、電荷輸送材料組成物を塗布、積層することも可能である。この場合、電荷輸送材料組成物の一部が電子受容性化合物と相互作用することによって、正孔注入性に優れた層が形成される。
【0125】
(正孔輸送性化合物)
上記の正孔輸送性化合物としては、4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。ただし、湿式成膜法に用いる場合には、湿式成膜法に用いる溶剤への溶解性が高い方が好ましい。
正孔輸送性化合物としては、成膜性に優れ、高い電荷注入輸送能を有する点から、本発明の重合体であることが好ましい。つまり、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて層を形成することが好ましい。
【0126】
本発明の重合体以外の化合物を正孔輸送性化合物として用いる場合、正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
芳香族アミン化合物の種類は特に制限されず、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよいが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、及び1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型炭化水素化合物)が好ましい。
【0127】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例としては、下記式(2)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物も挙げることができる。
【0128】
【化29】

【0129】
(上記式(2)中、Arb1及びArb2は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Arb3
Arb5は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基
を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Zbは、下記の連結基群の中から選ばれる
連結基を表わす。また、Arb1〜Arb5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0130】
【化30】

【0131】
(上記各式中、Arb6〜Arb16は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環由来の1価又は2価の基を表わす。Rb1及びRb2は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
Arb1〜Arb16としては、任意の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環由来の1価又は2価の基が適用可能である。これらの基は各々同一であっても、互いに異なって いて
もよい。また、これらの基は、更に任意の置換基を有していてもよい。
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
【0132】
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用するのが好ましい。
【0133】
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物としては、前記<有機電界発光素子用組成物>の項に記載のものと同様である。また、好ましい具体例も同様である。
(カチオンラジカル化合物)
カチオンラジカル化合物としては、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物が好ましい。但し、カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
【0134】
カチオンラジカルとしては、正孔輸送性化合物として前述した化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましい。正孔輸送性化合物として好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが、非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、及び溶解性などの点から好適である。
ここで、カチオンラジカル化合物は、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。即ち、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるカチオンイオン化合物が生成する。
【0135】
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)することによっても生成する。
ここでいう酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、又は、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
【0136】
正孔注入層は、湿式成膜法でも、真空蒸着法などの乾式成膜法でも形成することができる。成膜性が優れる点で、湿式成膜法で形成されるのが好ましい。
正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
なお、正孔注入層における電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0137】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0138】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0139】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0140】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
【0141】
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
【0142】
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましい。
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
塗布後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。乾燥させる方法としては、通常、加熱工程が行なわれる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0143】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0144】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上が好ましい。また、加熱時間は、塗布膜の十分な架橋が起こらなければ限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回にわけて行ってもよい。
【0145】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層を形成する場合には、正孔注入層の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に正孔注入層を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層を形成することもできる。
【0146】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0147】
正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
[4]正孔輸送層
正孔輸送層は、正孔注入層がある場合には正孔注入層の上に、正孔注入層が無い場合には陽極の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0148】
正孔輸送層を形成する材料としては、正孔輸送能が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層に接するため、発光層からの発光を消光したり、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0149】
正孔輸送性化合物としては、上記の点から、特に、本発明の重合体であることが好ましい。本発明の重合体以外の化合物を正孔輸送性化合物として用いる場合、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料を用いることができる。従来用いられている材料としては、例えば、前述の正孔注入層に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビ
フェニルで代表わされる2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4’’−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2',7,7'−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9'−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209
頁、1997年)、4,4'−N,N'−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等が挙げられる。
【0150】
湿式成膜で正孔輸送層を形成する場合は、上記正孔注入層の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、塗布後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、塗布条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層の形成の場合と同様である。
【0151】
真空蒸着により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層の形成の場合と同様である。
正孔輸送層は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0152】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン基、エポキシ基などの環状エーテル基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル基、シンナモイル基等の不飽和二重結合を含む基;ベンゾシクロブテン環由来の基などが挙げられる。
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0153】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0154】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により塗布して架橋させる。
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤及び重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。
【0155】
また、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
【0156】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層)上に成膜後、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物にする。
塗布時の温度、湿度などの条件、並びに塗布後の加熱条件は、前記<7.有機電界発光素子>[成膜方法]の項に記載の方法と同様である。また、好ましい態様も同様である。
【0157】
正孔輸送層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
[5]発光層
発光層は、正孔輸送層が有る場合には正孔輸送層の上に、正孔輸送層が無くて正孔注入層が有る場合には正孔注入層の上に、正孔輸送層と正孔注入層が無い場合には陽極の上に形成される。
【0158】
発光層は前述の正孔注入層や正孔輸送層、及び後述する正孔阻止層や電子輸送層等とは独立した層であってもよいが、独立した発光層を形成せず、正孔輸送層や電子輸送層など他の有機層が発光層の役割を担ってもよい。
発光層は、電界を与えられた電極間において、陽極から直接に、又は正孔注入層や正孔輸送層等を通じて注入された正孔と、陰極から直接に、又は陰極バッファ層や電子輸送層や正孔阻止層等を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0159】
発光層は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の方法で形成することができるが、例えば、湿式成膜法又は真空蒸着法により陽極上に形成される。ただし、大面積の発光素子を製造する場合には、湿式成膜法の方が好ましい。湿式成膜法、及び真空蒸着法の方法は、正孔注入層と同様の方法を用いて行なうことができる。
発光層は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する材料(正孔輸送材料)、或いは、電子輸送の性質を有する材料(電子輸送材料)とを含有する。更に、発光層は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。これらの材料としては、後述のように湿式成膜法で発光層を形成する観点から、何れも低分子系の材料を使用することが好ましい。
【0160】
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることも、重要である。
以下、発光材料のうち蛍光色素の例を挙げるが、蛍光色素は以下の例示物に限定されるものではない。
【0161】
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、クリセン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光色素(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
【0162】
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0163】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0164】
高分子系の発光材料としては、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)-co-(4,4’−(N
−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)-co-(1,4−ベンゾ−2{2,1’−3}−トリアゾール)]などのポリフルオレン系材料、ポリ[2−メトキシ−5−(2−ヘチルヘキシル
オキシ)−1,4−フェニレンビニレン]などのポリフェニレンビニレン系材料が挙げられる。
【0165】
また、本発明の重合体を発光材料として用いることもできる。
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、あるいはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合
物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0166】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
発光層における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは0.05重量%以上、好ましくは35重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると電流効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0167】
低分子系の正孔輸送材料の例としては、前述の正孔輸送層の正孔輸送材料として例示した各種の化合物の他、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4” −トリ
ス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72-74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9, 9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209)
等が挙げられる。
【0168】
低分子系の電子輸送材料の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)、9,10-ジ-(2-ナフチル)アントラセン(ADN)等がある。
【0169】
これら正孔輸送材料や電子輸送材料は発光層においてホスト材料として使用されることが好ましい。ホスト材料の具体例としては、特開2007−067383号公報、特開2007−88433号公報、特開2007−110093号公報に記載のものが挙げられ、その好適例も同様である。
発光層の形成法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、上述したように、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点、更には、本発明の有機化合物による正孔輸送層の架橋の効果を享受できる点から、湿式成膜法が好ましい。湿式成膜法により発光層を形成する場合、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布溶液を調製し、それを上述の形成後の正孔輸送層の上に塗布・成膜し、乾燥して溶剤を除去することにより形成する。その形成方法としては、前記正孔輸送層の形成方法と同様である。
【0170】
発光層の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
[6]正孔阻止層
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0171】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役
割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0172】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0173】
[7]電子輸送層
電子輸送層は素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層と電子注入層との間に設けられる。
電子輸送層は、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極又は電子注入層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0174】
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−又は5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5,645,948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0175】
電子輸送層の膜厚は、通常下限は1nm、好ましくは5nm程度であり、上限は通常300nm、好ましくは100nm程度である。
電子輸送層は、前記と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により正孔阻止層上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
[8]電子注入層
電子注入層は、陰極から注入された電子を効率よく、電子輸送層又は発光層へ注入する役割を果たす。
【0176】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
更に、後述するバソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常、5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0177】
電子注入層は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層又はその上の正孔阻止層上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、正孔注入層及び発光層の場合と同様である。
一方、真空蒸着法の場合には、真空容器内に設置されたるつぼ又は金属ボートに蒸着源を入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、るつぼ又は金属ボートを加熱して蒸発させ、るつぼ又は金属ボートと向き合って置かれた基板上の発光層、正孔阻止層又は電子輸送層上に電子注入層を形成する。
【0178】
電子注入層としてのアルカリ金属の蒸着は、クロム酸アルカリ金属と還元剤をニクロムに充填したアルカリ金属ディスペンサーを用いて行う。このディスペンサーを真空容器内で加熱することにより、クロム酸アルカリ金属が還元されてアルカリ金属が蒸発される。有機電子輸送材料とアルカリ金属とを共蒸着する場合は、有機電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、各々のるつぼ及びディスペンサーを同時に加熱して蒸発させ、るつぼ及びディスペンサーと向き合って置かれた基板上に電子注入層を形成する。
【0179】
このとき、電子注入層の膜厚方向において均一に共蒸着されるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。
[9]陰極
陰極は、発光層側の層(電子注入層又は発光層など)に電子を注入する役割を果たす。陰極の材料としては、前記の陽極に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0180】
陰極の膜厚は通常、陽極と同様である。
低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
[10]その他
以上、図1に示す層構成の有機電界発光素子を例に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極と陰極との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0181】
なお、本発明においては、正孔輸送層に本発明の重合体を使用することにより、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を全て湿式成膜法により積層形成することができる。これに
より、大面積のディスプレイを製造することが可能となる。
なお、図1とは逆の構造、即ち、基板上に陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0182】
さらには、図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その際には段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV25等を電荷発生層(CGL)として用いると段間の障壁が少なくなり、電流効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0183】
<有機EL表示装置>
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0184】
<有機EL照明>
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0185】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
[合成例]
(モノマーの合成1)
【0186】
【化31】

【0187】
室温で、化合物1(15.0g)に濃硫酸(120ml)をゆっくりと加え、攪拌しながらN−ブロモスクシンイミド(NBS)(28.2g)をゆっくりと加え、3時間反応
した。反応液を氷水に注ぎ、析出物を濾取、水で5回、その後、水−メタノール混合液で
洗浄した。N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて再結晶し、化合物2(7.
2g)を得た。
【0188】
【化32】

【0189】
窒素気流下、室温で、テトラヒドロフラン(THF、200ml)に溶解した化合物2(5.2g)をこの溶液に亜ジチオン酸ナトリウム(Na)(9.89g、100ml水)の溶液が滴下した。2時間反応後、酢酸エチルで抽出、硫酸マグネシウムで
乾燥後、濃縮した。白色固体(化合物3)を得た。この白色固体(化合物3)を、窒素気流下、室温で、DMFに溶解し、臭化テトラn−ブチルアンモニウム(TBAB、0.5g)、炭酸カリウム(4.0g)および1−ブロモヘキサン(6.0g)を加え、80℃で4時間反応した。放冷後、反応液をろ過し、ろ液に酢酸エチル(200ml)および水(120ml)を加え攪拌後、分液し、水層を酢酸エチル(100ml×2回)で抽出し、有機層を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=9:1)で精製することにより、化合物4(6.1g)を得た。
(目的ポリマー1の合成)
【0190】
【化33】

【0191】
アニリン(0.833g、8.9467mmol)、化合物5(0.444g、2.2773mmol)、化合物4(3.01g、5.612mmol)及びtert−ブトキシナトリウム(3.45g、35.91mmol)、トルエン(25ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、60℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.116g、0.112mmol)のトルエン8ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.181g、0.896mmol)を加え、60℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、2.0時間
、加熱還流反応した。1,4−ジブロモベンゼン(1.32g)を追添加した。2.5時間加熱還流し、反応液を放冷して、反応液をエタノール300ml中に滴下し、粗ポリマー1を晶出させた。
【0192】
得られた粗ポリマー1をトルエン65mlに溶解させ、ブロモベンゼン(0.35g)、tert−ブトキシナトリウム(3.45g)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、60℃まで加温した(溶液C)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.116g)のトルエン8ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.181g)を加え、60℃まで加温した(溶液D)。窒素気流中、溶液Cに溶液Dを添加し、2時間、加熱還流反応した。この反応液に、N,N−ジフェニルアミン(1.9g)のトルエン(5ml)溶液を添加し、さらに、4時間、加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール/水(300ml/20ml)溶液に滴下し、エンドキャップした粗ポリマー1を得た。
【0193】
このエンドキャップした粗ポリマー1をトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的ポリマー1を得た(1.3g)。
重量平均分子量(Mw)=51000
数平均分子量(Mn)=28900
分散度(Mw/Mn)=1.76
(目的ポリマー1のIP及びEAの測定)
1重量%トルエン溶液のスピンコーティング(スピナ回転数:1500rpm、スピナ回転時間:30秒、加熱条件:窒素中230℃で1時間)によって、(目的ポリマー1の合成)で得られたポリマー1の薄膜のイオン化ポテンシャル(IP)、エネルギーギャップ(Eg)を、光電子分光装置(PCR−101,Optel製)、分光光度計(F4500,日立製)により測定した。イオン化ポテンシャルとエネルギーギャップから電子親和力(EAを算出した。
【0194】
その結果、イオン化ポテンシャルは5.21eVであり、電子親和力は2.34eVであった。
<有機電界発光素子の作成>
(実施例1)
図1(正孔注入/正孔輸送/発光/正孔阻止/電子輸送)に示す有機電界発光素子を作製した。
【0195】
ガラス基板の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm成膜したもの(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0196】
まず、下の構造式(H1)に示す本発明の重合体( 重量平均分子量(Mw)=51000、数平均分子量(Mn)=28900、分散度(Mw/Mn)=1.76)、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートおよび安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用塗布液を調製した。この塗布液を下記条件で陽極2上にスピンコートにより成膜して、膜厚35nmの正孔注入層3を得た。
【0197】
【化34】

【0198】
<正孔注入層形成用塗布液>
溶媒 安息香酸エチル
塗布液濃度 H6:2.0重量%
A1:0.4重量%
<正孔注入層3の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 大気中
加熱条件 大気中 230℃ 1時間
引き続き、以下の式(H7)に示す重合体を含有する正孔輸送層形成用塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、加熱により重合させることにより膜厚15nmの正孔輸送層4を形成した。
【0199】
【化35】

【0200】
<正孔輸送層形成用塗布液>
溶媒 シクロヘキシルベンゼン
塗布液濃度 1.0重量%
<正孔輸送層4の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 120秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 230℃、1時間、窒素中

以下の構造式に示す、化合物(C2)、化合物(C3)、及び(D2)を含有する発光層形成用塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜を行い、加熱することで膜厚68nmの発光層5を形成した。
【0201】
【化36】

【0202】
<発光層形成用塗布液>
溶媒 シクロヘキシルベンゼン
塗布液濃度 (C2):3.75重量%
(C3):1.25重量%
(D2):0.50重量%
<発光層5の成膜条件>
スピナ回転数 1250rpm
スピナ回転時間 120秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 130℃、10分間

得られた発光層5の上に、真空蒸着法により正孔阻止層6として下記構造の化合物HB−1を膜厚10nmとなるように、次いで、電子輸送層7として下記構造の化合物ET−1を膜厚20nmとなるように、それぞれ順次積層した。
【0203】
【化37】

【0204】
その後、真空蒸着法により、電子注入層8としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nmとなるように、陰極9としてアルミニウムを膜厚80nmとなるように、それぞれ陽極2であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状に積層した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0205】
この素子からは、ELピーク波長521nmの緑色発光が得られることを確認した。
また、得られた素子の素子特性を表1に纏めた。
(比較例1)
実施例1において正孔注入層形成用組成物に重合体(H1)のかわりに比較ポリマー(H8)(重量平均分子量:70000,数平均分子量:40000)を用いた他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0206】
【化38】

【0207】
この素子からは、ELピーク波長521nmの緑色発光が得られることを確認した。
また、得られた素子の素子特性について表1に纏めた。
【0208】
【表6】

【0209】
表1に示すが如く、本発明の重合体を用いて作製した有機電界発光素子は駆動電圧が低くなることが分かる。
(実施例2)
層構成が陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極である有機電界発光素子を作製した。
【0210】
膜厚35nmの本発明の重合体を含む正孔注入層3までを、実施例1と同様にして形成した。
得られた正孔注入層3の上に、真空蒸着法により正孔輸送層4として下記構造の化合物HT−1を膜厚45nmとなるように、次いで、発光層6として下記構造の化合物ET−1を膜厚60nmとなるように、それぞれ順次積層した。
【0211】
【化39】

【0212】
その後、真空蒸着法により、電子注入層8としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nmとなるように、陰極9としてアルミニウムを膜厚80nmとなるように、それぞれ陽極2であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状に積層した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0213】
この素子からは、ELピーク波長532nmの緑色発光が得られることを確認した。
また、得られた素子の素子特性を表2に纏めた。
(比較例2)
実施例2において正孔注入層形成用組成物に重合体(H1)のかわりに比較ポリマー(H9)(重量平均分子量:41400,数平均分子量:22600)を用いた他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0214】
【化40】

【0215】
この素子からは、緑色発光が得られることを確認した。
また、得られる素子の素子特性を表2に纏めた。
【0216】
【表7】

【0217】
表2に示すが如く、本発明の重合体を用いて作製した有機電界発光素子は、電流効率が高く、また電力効率が高いことが分かる。
【符号の説明】
【0218】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする、重合体。
【化1】

(上記式中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、R及びRは、各々独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
尚、式(1)中のフェナントレン環は、−OR及び−OR以外に置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式(2)で表される繰り返し単位をであることを特徴とする、請求項1の重合体。
【化2】

(式中、Ara1、Ra1及びRa2は、各々、前記式(1)におけるAr、R及びRと同義である。)
【請求項3】
前記繰り返し単位中に、架橋性基を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の重合体。
【請求項4】
前記架橋性基が、下記架橋性基群Tの中から選ばれる基である請求項3に記載の重合体。
<架橋性基群T>
【化3】

(前記式中、R21〜R23は、各々独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Ar21は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。
尚、ベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよく、また置換基同士が互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項5】
重量平均分子量(Mw)が20,000以上であり、分散度(Mw/Mn;Mnは数平均分子量を表す。)が2.4以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体からなることを特徴とする、有機電界発光素子材料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体を含有することを特徴とする、有機電界発光素子用組成物。
【請求項8】
さらに電子受容性化合物を含有することを特徴とする、請求項7に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項9】
基板上に、陽極、陰極、及び該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、
該有機層が、請求項7又は8に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法で形成された層を含むことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項10】
前記湿式成膜法で形成された層が、正孔注入層及び/又は正孔輸送層であることを特徴とする、請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
前記正孔注入層及び正孔輸送層並びに発光層を有し、
前記正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の全てが湿式成膜法により形成された請求項10に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
請求項9〜11いずれか一項に記載の有機電界発光素子を有する有機EL表示装置。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を有する有機EL照明。


【図1】
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【公開番号】特開2012−153742(P2012−153742A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11219(P2011−11219)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】